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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】計測装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/026 20060101AFI20221202BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20221202BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
A61B5/026 120
A61B5/1455
A61B10/00 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018080634
(22)【出願日】2018-04-19
(65)【公開番号】P2018196722
(43)【公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2017101837
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(72)【発明者】
【氏名】塩野 照弘
(72)【発明者】
【氏名】安藤 貴真
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-261366(JP,A)
【文献】特開2010-233908(JP,A)
【文献】特開2017-009584(JP,A)
【文献】特開2015-134157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 - 5/03
A61B 5/1455
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の被検部に対して、少なくとも1つの第1のパルス光および前記少なくとも1つの第1のパルス光と光パワが異なる、少なくとも1つの第2のパルス光を出射する光源と、
前記被検部から戻った、少なくとも1つの第1の反射パルス光および少なくとも1つの第2の反射パルス光を検出する光検出器と、
前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、
信号処理回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記光源に、前記少なくとも1つの第1のパルス光、および前記少なくとも1つの第2のパルス光のそれぞれを、異なるタイミングで出射させ、
前記光検出器に、前記少なくとも1つの第1の反射パルス光に含まれる光の成分である第1成分を検出させ、検出された前記第1成分を示す第1の電気信号を出力させ、
前記光検出器に、前記少なくとも1つの第2の反射パルス光の光パワが減少を開始してから減少が終了するまでの期間である立ち下り期間における、前記少なくとも1つの第2の反射パルス光に含まれる光の成分である第2成分を検出させ、検出された前記第2成分を示す第2の電気信号を出力させ、
前記信号処理回路は、前記第1の電気信号と、前記第2の電気信号とを用いた演算によって、前記被検部の内部の血流情報を生成し、
前記第1の電気信号は、前記被検部における表面の血流情報を含み、
前記第2の電気信号は、前記被検部における前記表面および内部の血流情報を含む、
計測装置。
【請求項2】
前記光検出器は、2次元的に配列された複数の光検出セルを有するイメージセンサであり、
前記複数の光検出セルの各々は、
前記第1成分を第1の信号電荷として蓄積し、
前記第2成分を第2の信号電荷として蓄積し、
蓄積された前記第1の信号電荷の総量を示す電気信号を、前記第1の電気信号として出力し、
蓄積された前記第2の信号電荷の総量を示す電気信号を、前記第2の電気信号として出力する、
請求項に記載の計測装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記イメージセンサに、
第1の期間に前記複数の光検出セルの各々に蓄積された前記第1の信号電荷の前記総量の2次元分布を示す第1の画像信号と、
前記第1の期間と同一のまたは異なる第2の期間に前記複数の光検出セルの各々に蓄積された前記第2の信号電荷の前記総量の2次元分布を示す第2の画像信号と、
前記第1の期間よりも前の第3の期間に前記複数の光検出セルの各々に蓄積された前記第1の信号電荷の前記総量の前記2次元分布を示す第3の画像信号と、
前記第2の期間よりも前の第4の期間に前記複数の光検出セルの各々に蓄積された前記第2の信号電荷の前記総量の前記2次元分布を示す第4の画像信号と、
を出力させ、
前記信号処理回路は、
前記第1から第4の画像信号を前記イメージセンサから受け取り、
前記第1の画像信号と、前記第3の画像信号との差分を示す第1の差分画像を生成し、
前記第2の画像信号と、前記第4の画像信号との差分を示す第2の差分画像を生成する、
請求項に記載の計測装置。
【請求項4】
前記第1の差分画像は複数の第1の画素を含み、
前記複数の第1の画素のうち、第1の閾値を超える画素値を有する複数の第1の画素によって形成される領域を第1の領域とし、
前記第2の差分画像は複数の第2の画素を含み、
前記複数の第2の画素のうち、第2の閾値を超える画素値を有する複数の第2の画素によって形成される領域を第2の領域とし、
前記第1の領域のうち、前記第2の領域と重なる部分に含まれる複数の第1の画素の平均画素値をMとし、
前記第2の領域のうち、前記第1の領域と重なる部分に含まれる複数の第2の画素の平均画素値をMとするとき、
0.1≦M/M≦10を満たす、
請求項に記載の計測装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第1のパルス光のパルス幅は、前記光検出器が前記第1の信号電荷を蓄積する時間よりも短い、
請求項からのいずれかに記載の計測装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第1のパルス光のパルス幅は、前記光検出器が前記第1の信号電荷を蓄積する時間よりも長い、
請求項からのいずれかに記載の計測装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの第1のパルス光は複数の第1のパルス光を備え、
前記少なくとも1つの第2のパルス光は複数の第2のパルス光を備え、
前記制御回路は、
第1のフレーム期間において、前記光源に、前記複数の第1のパルス光を繰り返し出射させ、
前記複数の第1のパルス光の各々の出射に同期して、前記光検出器に、前記第1の信号電荷を蓄積させ、
前記第1のフレーム期間に続く第2のフレーム期間において、前記光源に、前記複数の第2のパルス光を繰り返し出射させ、
前記複数の第2のパルス光の各々の出射に同期して、前記光検出器に、前記第2の信号電荷を蓄積させる、
請求項からのいずれかに記載の計測装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの第1のパルス光は複数の第1のパルス光を備え、
前記少なくとも1つの第2のパルス光は複数の第2のパルス光を備え、
前記制御回路は、前記光源に、前記複数の第1のパルス光の各々および前記複数の第2のパルス光の各々を交互に出射させ、
前記複数の第1のパルス光の各々の中心から、その直後に出射される第2のパルス光の中心までの時間間隔は、前記複数の第2のパルス光の各々の中心から、その直後に出射される第1のパルス光の中心までの時間間隔よりも短い、
請求項1からのいずれかに記載の計測装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの第1のパルス光および前記少なくとも1つの第2のパルス光のうち、一方の波長は、650nm以上805nm未満であり、他方の波長は、805nmより長く950nm以下である、
請求項1からのいずれかに記載の計測装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つの第2のパルス光の光パワは、前記少なくとも1つの第1のパルス光の光パワよりも高い、
請求項1からのいずれかに記載の計測装置。
【請求項11】
生体の被検部に対して、少なくとも1つの第1のパルス光および前記少なくとも1つの第1のパルス光と光パワが異なる、少なくとも1つの第2のパルス光を出射する光源と、
前記被検部から戻った、少なくとも1つの第1の反射パルス光および少なくとも1つの第2の反射パルス光を検出する光検出器と、を含む計測装置を制御するコンピュータによって実行される制御方法であって、
前記光源に、前記少なくとも1つの第1のパルス光、および前記少なくとも1つの第2のパルス光のそれぞれを、異なるタイミングで出射させることと、
前記光検出器に、前記少なくとも1つの第1の反射パルス光に含まれる光の成分である第1成分を検出させ、検出された前記第1成分を示す第1の電気信号を出力させることと、
前記光検出器に、前記少なくとも1つの第2の反射パルス光の光パワが減少を開始してから減少が終了するまでの期間である立ち下り期間における、前記少なくとも1つの第2の反射パルス光に含まれる光の成分である第2成分を検出させ、検出された前記第2成分を示す第2の電気信号を出力させることと、
前記第1の電気信号と、前記第2の電気信号とを用いた演算によって、前記被検部の内部の血流情報を生成することと、を含
前記第1の電気信号は、前記被検部における表面の血流情報を含み、
前記第2の電気信号は、前記被検部における前記表面および内部の血流情報を含む、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の健康状態を判断するための基礎的なパラメータとして、心拍数、血流量、血圧および血中酸素飽和度などが、広く用いられている。
【0003】
生体情報を取得するためには、近赤外線、すなわち約700nmから約2500nmの波長範囲の電磁波がよく用いられる。その中でも、例えば約950nm以下の、波長の比較的短い近赤外線が特によく用いられる。そのような短波長の近赤外線は、筋肉、脂肪および骨などの生体組織を、比較的高い透過率で透過するという性質を有する。一方で、そのような近赤外線は、血液中の酸化ヘモグロビン(HbO)および還元ヘモグロビン(Hb)に吸収されやすいという性質も有する。これらの性質を用いた生体情報の計測方法として、近赤外分光法(Near Infrared Spectroscopy、以下、NIRSと表記する)が知られている。NIRSを用いることにより、例えば脳内における血流の変化量、または血液中の酸化ヘモグロビン濃度および還元ヘモグロビン濃度の変化量を計測することができる。血流の変化量、またはヘモグロビンの酸素状態などに基づき、脳の活動状態を推定することもできる。
【0004】
特許文献1および2は、そのようなNIRSを利用した装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-260123号公報
【文献】特開2003-337102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、被検部の内部における血流の情報を、より正確に取得することができる計測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る計測装置は、対象物の被検部に対して、少なくとも1つの第1のパルス光および前記少なくとも1つの第1のパルス光と光パワが異なる、少なくとも1つの第2のパルス光を出射する光源と、前記被検部から戻った、少なくとも1つの第1の反射パルス光および少なくとも1つの第2の反射パルス光を検出する光検出器と、前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、を備える。前記制御回路は、前記光源に、前記少なくとも1つの第1のパルス光、および前記少なくとも1つの第2のパルス光のそれぞれを、異なるタイミングで出射させる。前記制御回路は、前記光検出器に、前記少なくとも1つの第1の反射パルス光に含まれる光の成分である第1成分を検出させ、検出された前記第1成分を示す第1の電気信号を出力させ、前記光検出器に、前記少なくとも1つの第2の反射パルス光の光パワが減少を開始してから減少が終了するまでの期間である立ち下り期間における、前記少なくとも1つの第2の反射パルス光に含まれる光の成分である第2成分を検出させ、検出された前記第2成分を示す第2の電気信号を出力させる。
【0008】
本開示の他の一態様に係る計測装置は、対象物の被検部に対して、複数の第1のパルス光および複数の第2のパルス光を出射する光源と、前記被検部から戻った、複数の第1の反射パルス光および複数の第2の反射パルス光を検出する光検出器と、前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、を備える。前記複数の第2のパルス光の各々の光パワは、前記複数の第1のパルス光の各々の光パワよりも高い。前記制御回路は、前記光源に、前記複数の第1のパルス光の各々と、前記複数の第2のパルス光の各々とを交互に出射させ、前記光検出器に、前記複数の第1の反射パルス光に含まれる光の成分を検出させ、前記光検出器に、前記複数の第2の反射パルス光に含まれる光の成分を検出させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、被検部の内部における血流の情報を、より正確に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、本開示の実施の形態1における生体計測装置の構成と、生体計測の様子とを説明するための概略図である。
図1B図1Bは、本開示の実施の形態1における光検出器の内部の構成と、信号の流れとを模式的に示す図である。
図2A図2Aは、出射光である単一パルス光の時間分布を示す図である。
図2B図2Bは、定常状態における全光パワ(実線)、および脳血流が変化する領域を通過した光のパワ(破線)の時間分布を示す図である。
図2C図2Cは、定常状態における全光パワ(実線)、および脳血流が変化する領域を通過した光のパワ(破線)の、立下り期間における時間分布を示す図である。
図2D図2Dは、定常状態における全光パワ(実線)、および脳血流が変化する領域を通過した光のパワ(破線)、および変調度(一点鎖線)の時間分布を示す図である。
図3図3は、本開示の実施の形態1における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器が検出する光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
図4A図4Aは、被検部の表面および内部に存在する血流の変化を示す前面図である。
図4B図4Bは、被検部の表面および内部に存在する血流の変化を示す側面からの断面図である。
図5A図5Aは、第1のパルス光により検出された、被検部における表面の血流の変化を模式的に示す図である。
図5B図5Bは、第2のパルス光により検出された、被検部における表面および内部の血流の変化を模式的に示す図である。
図5C図5Cは、画像演算により導出された、被検部における内部の血流の変化を模式的に示す図である。
図5D図5Dは、さらなる画像演算により画像補正された、被検部における内部の血流の変化を模式的に示す図である。
図6図6は、本開示の実施の形態1の変形例1における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
図7図7は、本開示の実施の形態1の変形例2における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
図8図8は、本開示の実施の形態1の変形例3における、第1および第2のパルスの光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
図9A図9Aは、本開示の実施の形態2における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
図9B図9Bは、本開示の実施の形態2における、光検出器の内部の構成と、電気信号および制御信号の流れとを模式的に示す図である。
図10A図10Aは、本開示の実施の形態3における生体計測装置の構成と、生体計測の様子とを説明する概略図である。
図10B図10Bは、本開示の実施の形態3における光検出器の内部の構成と、電気信号および制御信号の流れとを模式的に示す図である。
図11図11は、本開示の実施の形態3における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
図12図12は、本開示の実施の形態3の変形例1における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
図13図13は、本開示の実施の形態3の変形例2における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
【0012】
特許文献1は、NIRSを利用した内視鏡装置を開示している。特許文献1に開示された内視鏡装置では、内臓脂肪に覆われた生体組織の中に埋もれた血管における血流情報を観察するために、照明光にパルス光が用いられる。その際、撮像タイミングをパルス光が入射するタイミングよりも遅らせることにより、時間的に早く戻ってくる強いノイズ光の撮像が回避される。これにより、生体組織の深い所から戻ってきた信号光のS/Nが改善される。
【0013】
特許文献2は、NIRSを用いた生体活動計測装置を開示している。この計測装置は、赤外光を生成する光源部と、生体の被検部からの赤外光を検出する光検出部と、制御装置とを備える。この計測装置は、非接触で脳機能を計測する。
【0014】
特許文献2に開示された装置によれば、NIRSを利用して脳活動を計測することができる。しかし、被検部で反射された光には、時間的に早く戻ってくる強いノイズ光が含まれるため、検出される信号のS/Nが低いという課題がある。
【0015】
この課題を解決するためには、特許文献2の装置に、特許文献1の技術を組み合わせることが考えられる。すなわち、光の検出のタイミングを、パルス光が入射するタイミングよりも遅らせることにより、時間的に早く戻ってくる強いノイズ光の影響を抑えることができると考えられる。
【0016】
しかし、本発明者らの検討によれば、そのような対応を行っても、S/N比を十分に高くすることは困難であることがわかった。脳内まで侵入した出射光は、脳内で散乱しながら伝搬する。その光を検出することにより、脳内における血流の情報を取得することができる。しかし、当該光は、脳内から装置へ戻る光路、すなわち復路において、生体の表面近傍の血流、すなわち頭皮血流が分布している領域を必ず通過する。したがって、当該光には、脳血流の情報だけでなく、頭皮血流の情報も大きく重畳される。その結果、戻ってきた当該光を検出するだけでは、正確な脳血流の情報は得られない。つまり、従来技術を組み合わせた方法では、検出信号のS/N比を十分に高くすることはできない。
【0017】
本発明者らは、以上の課題を見出し、新規な計測装置に想到した。
【0018】
本開示は、以下の項目に記載の計測装置を含む。
【0019】
[項目1]
本開示の項目1に係る計測装置は、対象物の被検部に対して、少なくとも1つの第1のパルス光および前記少なくとも1つの第1のパルス光と光パワが異なる、少なくとも1つの第2のパルス光を出射する光源と、前記被検部から戻った、少なくとも1つの第1の反射パルス光および少なくとも1つの第2の反射パルス光を検出する光検出器と、前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、を備える。前記制御回路は、前記光源に、前記少なくとも1つの第1のパルス光、および前記少なくとも1つの第2のパルス光のそれぞれを、異なるタイミングで出射させる。前記制御回路は、前記光検出器に、前記少なくとも1つの第1の反射パルス光に含まれる光の成分である第1成分を検出させ、検出された前記第1成分を示す第1の電気信号を出力させ、前記光検出器に、前記少なくとも1つの第2の反射パルス光の光パワが減少を開始してから減少が終了するまでの期間である立ち下り期間における、前記少なくとも1つの第2の反射パルス光に含まれる光の成分である第2成分を検出させ、検出された前記第2成分を示す第2の電気信号を出力させる。
【0020】
[項目2]
項目1に記載の計測装置において、
前記対象物は生体であってもよく、
項目1に記載の計測装置は、
前記第1の電気信号と、前記第2の電気信号とを用いた演算によって、前記被検部の血流情報を生成する信号処理回路をさらに備えていてもよい。
【0021】
[項目3]
項目2に記載の計測装置において、
前記第1の電気信号は、前記被検部における表面の血流情報を含み、
前記第2の電気信号は、前記被検部における前記表面および内部の血流情報を含み、
前記信号処理回路は、前記被検部の前記内部の血流情報を生成してもよい。
【0022】
[項目4]
項目2または3に記載の計測装置において、
前記光検出器は、2次元的に配列された複数の光検出セルを有するイメージセンサであり、
前記複数の光検出セルの各々は、
前記第1成分を第1の信号電荷として蓄積し、
前記第2成分を第2の信号電荷として蓄積し、
蓄積された前記第1の信号電荷の総量を示す電気信号を、前記第1の電気信号として出力し、
蓄積された前記第2の信号電荷の総量を示す電気信号を、前記第2の電気信号として出力してもよい。
【0023】
[項目5]
項目4に記載の計測装置において、
前記制御回路は、前記イメージセンサに、
第1の期間に前記複数の光検出セルの各々に蓄積された前記第1の信号電荷の前記総量の2次元分布を示す第1の画像信号と、
前記第1の期間と同一のまたは異なる第2の期間に前記複数の光検出セルの各々に蓄積された前記第2の信号電荷の前記総量の2次元分布を示す第2の画像信号と、
前記第1の期間よりも前の第3の期間に前記複数の光検出セルの各々に蓄積された前記第1の信号電荷の前記総量の前記2次元分布を示す第3の画像信号と、
前記第2の期間よりも前の第4の期間に前記複数の光検出セルの各々に蓄積された前記第2の信号電荷の前記総量の前記2次元分布を示す第4の画像信号と、
を出力させてもよく、
前記信号処理回路は、
前記第1から第4の画像信号を前記イメージセンサから受け取り、
前記第1の画像信号と、前記第3の画像信号との差分を示す第1の差分画像を生成し、
前記第2の画像信号と、前記第4の画像信号との差分を示す第2の差分画像を生成してもよい。
【0024】
[項目6]
項目5に記載の計測装置において、
前記第1の差分画像は複数の第1の画素を含み、
前記複数の第1の画素のうち、第1の閾値を超える画素値を有する複数の第1の画素によって形成される領域を第1の領域とし、
前記第2の差分画像は複数の第2の画素を含み、
前記複数の第2の画素のうち、第2の閾値を超える画素値を有する複数の第2の画素によって形成される領域を第2の領域とし、
前記第1の領域のうち、前記第2の領域と重なる部分に含まれる複数の第1の画素の平均画素値をMとし、
前記第2の領域のうち、前記第1の領域と重なる部分に含まれる複数の第2の画素の平均画素値をMとするとき、
0.1≦M/M≦10を満たしてもよい。
【0025】
[項目7]
項目4から6のいずれかに記載の計測装置において、
前記少なくとも1つの第1のパルス光のパルス幅は、前記光検出器が前記第1の信号電荷を蓄積する時間よりも短くてもよい。
【0026】
[項目8]
項目4から6のいずれかに記載の計測装置において、
前記少なくとも1つの第1のパルス光のパルス幅は、前記光検出器が前記第1の信号電荷を蓄積する時間よりも長くてもよい。
【0027】
[項目9]
項目4から8のいずれかに記載の計測装置において、
前記少なくとも1つの第1のパルス光は複数の第1のパルス光を備え、
前記少なくとも1つの第2のパルス光は複数の第2のパルス光を備え、
前記制御回路は、
第1のフレーム期間において、前記光源に、前記複数の第1のパルス光を繰り返し出射させ、
前記複数の第1のパルス光の各々の出射に同期して、前記光検出器に、前記第1の信号電荷を蓄積させ、
前記第1のフレーム期間に続く第2のフレーム期間において、前記光源に、前記複数の第2のパルス光を繰り返し出射させ、
前記複数の第2のパルス光の各々の出射に同期して、前記光検出器に、前記第2の信号電荷を蓄積させてもよい。
【0028】
[項目10]
項目1から8のいずれかに記載の計測装置において、
前記少なくとも1つの第1のパルス光は複数の第1のパルス光を備え、
前記少なくとも1つの第2のパルス光は複数の第2のパルス光を備え、
前記制御回路は、前記光源に、前記複数の第1のパルス光の各々および前記複数の第2のパルス光の各々を交互に出射させ、
前記複数の第1のパルス光の各々の中心から、その直後に出射される第2のパルス光の中心までの時間間隔は、前記複数の第2のパルス光の各々の中心から、その直後に出射される第1のパルス光の中心までの時間間隔よりも短くてもよい。
【0029】
[項目11]
項目1から10のいずれかに記載の計測装置において、
前記少なくとも1つの第1のパルス光および前記少なくとも1つの第2のパルス光のうち、一方の波長は、650nm以上805nm未満であり、他方の波長は、805nmより長く950nm以下であってもよい。
【0030】
[項目12]
項目1から11のいずれかに記載の計測装置において、
前記少なくとも1つの第2のパルス光の光パワは、前記少なくとも1つの第1のパルス光の光パワよりも高くてもよい。
【0031】
[項目13]
本開示の項目13に係る計測装置は、
対象物の被検部に対して、複数の第1のパルス光および複数の第2のパルス光を出射する光源と、
前記被検部から戻った、複数の第1の反射パルス光および複数の第2の反射パルス光を検出する光検出器と、
前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、
を備える。
【0032】
前記複数の第2のパルス光の各々の光パワは、前記複数の第1のパルス光の各々の光パワよりも高い。
【0033】
前記制御回路は、
前記光源に、前記複数の第1のパルス光の各々と、前記複数の第2のパルス光の各々とを交互に出射させ、
前記光検出器に、前記複数の第1の反射パルス光に含まれる光の成分を検出させ、
前記光検出器に、前記複数の第2の反射パルス光に含まれる光の成分を検出させる。
【0034】
本開示において、回路、ユニット、装置、部材又は部の全部又は一部、又はブロック図の機能ブロックの全部又は一部は、半導体装置、半導体集積回路(IC)、又はLSI(large scale integration)を含む一つ又は複数の電子回路によって実行されてもよい。LSI又はICは、一つのチップに集積されてもよいし、複数のチップを組み合わせて構成されてもよい。例えば、記憶素子以外の機能ブロックは、一つのチップに集積されてもよい。ここでは、LSIまたはICと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、若しくはULSI(ultra large scale integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、Field Programmable Gate Array(FPGA)、又はLSI内部の接合関係の再構成又はLSI内部の回路区画のセットアップができるreconfigurable logic deviceも同じ目的で使うことができる。
【0035】
さらに、回路、ユニット、装置、部材又は部の全部又は一部の機能又は操作は、ソフトウエア処理によって実行することが可能である。この場合、ソフトウエアは一つ又は複数のROM、光学ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録され、ソフトウエアが処理装置(processor)によって実行されたときに、そのソフトウエアで特定された機能が処理装置(processor)および周辺装置によって実行される。システム又は装置は、ソフトウエアが記録されている一つ又は複数の非一時的記録媒体、処理装置(processor)、及び必要とされるハードウエアデバイス、例えばインターフェース、を備えていても良い。
【0036】
以下、本開示の実施形態をより具体的に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複する説明を省略することがある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0037】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0038】
(実施の形態1)
まず、本開示の実施の形態1における生体計測装置を説明する。
【0039】
図1Aは、本開示の実施の形態1における生体計測装置の構成と、生体計測の様子とを説明するための概略図である。図1Bは、本開示の実施の形態1における光検出器の内部の構成と、信号の流れとを模式的に示す図である。
【0040】
実施の形態1の生体計測装置17は、光源1と、光検出器2と、光源1および光検出器2を制御する制御回路7とを備える。
【0041】
光源1および光検出器2は、並んで配置される。光源1は、被検者5の被検部6に向けて光を出射する。光検出器2は、光源1から出射され、被検部6で反射された光を検出する。制御回路7は、光源1による光の出射と、光検出器2による光の検出とを制御する。本実施形態における生体計測装置17は、光検出器2から出力される電気信号(以下、単に信号と称する。)を処理する信号処理回路30を含む。信号処理回路30は、光検出器2から出力された複数の信号を用いた演算を行うことにより、被検部6の内部の血流に関する情報を生成する。
【0042】
本実施形態における被検部6は、被検者5の額部である。額部に光を照射し、その散乱光を検出することにより、脳血流の情報を取得することができる。「散乱光」は、反射散乱光と透過散乱光とを含む。以下の説明では、反射散乱光を単に「反射光」と称することがある。
【0043】
被検部6である額の内部には、表面から順に、頭皮(厚さ:約3から6mm)、頭蓋骨(厚さ:約5から10mm)、脳脊髄液層(厚さ:約2mm)および脳組織が存在する。括弧内の厚さの範囲は個人差があることを表している。血管は、頭皮内および脳組織内に存在する。したがって、頭皮内の血流を頭皮血流と呼び、脳組織内の血流を脳血流と呼ぶ。脳機能計測においては、頭皮の表面近傍および内部の両方に血流分布が存在する被検部が計測対象である。
【0044】
生体は、散乱体である。被検部6に向けて出射された光8のうち、一部の光は、直接反射光10aとして、生体計測装置17に戻る。他の光は、被検部6の内部に入射し拡散されて、一部は吸収される。被検部6の内部に侵入した光は、表面から深さ3から6mm程度の表皮内に存在する表面近傍の血流、すなわち頭皮血流の情報を含んだ内部散乱光9a、または表面から深さ10から18mm程度の範囲に存在する血流、すなわち脳血流の情報を含んだ内部散乱光9bなどになる。内部散乱光9a、9bは、それぞれ、表面近傍からの反射散乱光10b、および内部からの反射散乱光11として生体計測装置17に戻る。上記の直接反射光10a、表面近傍からの反射散乱光10b、および内部からの反射散乱光11は、光検出器2によって検出される。
【0045】
光源1から出射されてから光検出器2に到達するまでの時間は、直接反射光10aが最も短く、次に表面近傍からの反射散乱光10bが短く、内部からの反射散乱光11が最も長い。このうち、高いS/N比で検出することが求められる成分は、脳血流の情報を有する内部からの反射散乱光11である。
【0046】
なお、脳血流以外の生体計測を行う場合には、反射散乱光だけでなく透過散乱光を用いる場合もある。脳血流以外の血液の情報を取得する場合には、額以外の部位(例えば腕または脚など)を被検部としてもよい。以下の説明では、特に断りがない限り、被検部6は、額であるとする。被検者5は、人間であるとするが、人間以外の皮膚を有し、毛の生えていない部分を有する動物であってもよい。本明細書における被検者の用語は、そのような動物を含む被検体一般を意味する。
【0047】
光源1は、例えば650nm以上950nm以下の光を出射する。この波長範囲は、赤色から近赤外線の波長範囲に含まれる。上記の波長範囲は、生体の窓と呼ばれ、体内での吸収率が低いことで知られている。本実施形態における光源1は、上記の波長範囲の光を出射するものとして説明するが、他の波長範囲の光を用いてもよい。本明細書では、可視光のみならず赤外線についても、「光」の用語を用いる。
【0048】
650nm未満の可視光領域では、血液中のヘモグロビン(HbOおよびHb)による吸収が大きく、950nmを超える波長域では、水による吸収が大きい。一方、650nm以上950nm以下の波長範囲内では、ヘモグロビンおよび水の吸収係数は比較的低く、ヘモグロビンおよび水の散乱係数は比較的大きい。したがって、650nm以上950nm以下の波長範囲内の光は、体内への侵入後、強い散乱を受けて体表面に戻ってくる。このため、効率的に体内の情報を取得することができる。そこで、本実施形態では、650nm以上950nm以下の波長範囲内の光が、主に用いられる。
【0049】
光源1は、例えば、パルス光を繰り返し出射するレーザダイオード(Laser Diode(LD))等のレーザ光源であり得る。本実施形態のように被検者5が人である場合、光8の眼の網膜への影響を考慮する。光源1としてレーザ光源を用いる場合、例えば、各国で策定されるレーザ安全基準のクラス1を満足するレーザ光源が選択される。クラス1が満足されている場合、被爆放出限界AELが1mWを下回るほどの低照度の光を、被検者5の被検部6に出射する。低照度の光のため、光検出器2の感度が足らない場合が多い。その場合は、パルス光を繰り返し出射する。なお、光源1自体は、クラス1を満たしていなくてもよい。例えば、拡散板またはNDフィルタなどの素子が、光源1および被検部6の間に配置されることにより、光は、拡散または減衰される。これにより、レーザ安全基準のクラス1が満たされてもよい。
【0050】
光源1の出射面に、レンズ等の光学素子を設けて、光8の発散度合いを調整してもよい。さらに、光検出器2の受光面側に、レンズ等の光学素子を設けて、受光する反射散乱光の取り込み率を調整してもよい。
【0051】
光源1は、レーザ光源に限らず、発光ダイオード(Light Emitted Diode(LED))などの他の種類の光源であってもよい。光源1には、例えば、半導体レーザ、固体レーザ、ファイバレーザ、スーパールミネッセントダイオード、およびLEDなどが、広く用いられ得る。
【0052】
光源1は、制御回路7からの指示に応じて、パルス光の出射の開始および停止、ならびに光パワの変更を行うことができる。これにより、概ね任意のパルス光を光源1から発生させることができる。
【0053】
本発明者らは、光検出器2によって検出される直接反射光10a、反射散乱光10b、11の光量を定量化するために、被検部6として、典型的な日本人の頭を模したファントムを想定してパルス光応答のシミュレーションを行った。具体的には、光源1から例えば15cm離れた被検部6にパルス光を出射した場合に、光検出器2によって検出される光パワの時間分布、すなわちパルス光応答を、モンテカルロ解析により計算した。
【0054】
図2Aは、出射光である単一パルス光の時間分布の例を示す図である。この例におけるパルス光の波長はλ=850nmであり、半値全幅は11nsである。この単一パルス光の形状は、立ち上がりおよび立ち下がり時間が1nsである典型的な台形である。時刻t=0で、当該単一パルス光の出射を開始し、t=12nsで完全に停止したとする。
【0055】
光8が被検部6表面に到達する時刻は、光速c=30万km/sであり、光源1から被検部6までの距離が15cmであることから、t=0.5nsになる。光8が、被検部6表面において直接反射され、直接反射光10aになり、光検出器2上に到着する時刻は、t=1nsになる。したがって、光検出器2上において光を検出する時刻Tは、T≧1nsになる。
【0056】
生体計測装置17は、脳血流に含まれる酸化ヘモグロビン濃度および還元ヘモグロビン濃度の変化に基づき、被検部6の内部からの反射散乱光11の光量の変化量を計測する。脳組織内には、脳血流の変化に応じて吸収係数および散乱係数が変化する吸収体が存在する。定常状態では、脳内を均一な脳組織としてモデル化し、モンテカルロ解析を実行することができる。本明細書において、血流の変化とは、血流の時間変化を意味する。
【0057】
図2Bは、定常状態における全光パワ(実線)、および脳血流が変化する領域を通過した光のパワ(破線)の時間分布を示す図である。図2Cは、定常状態における全光パワ(実線)、および脳血流が変化する領域を通過した光のパワ(破線)の時間分布を示す図である。図2Cは、定常状態における全光パワ(実線)、および脳血流が変化する領域を通過した光のパワ(破線)の、立下り期間における時間分布を示す図である。立下り期間とは、光パワが減少を開始してから減少が終了するまでの期間を意味する。図2Dは、定常状態における全光パワ(実線)、および脳血流が変化する領域を通過した光のパワ(破線)、および変調度(一点鎖線)の時間分布を示す図である。変調度とは、脳血流が変化する領域を通過した光の量を、定常状態における全光量で割った値を意味する。各図の縦軸は、図2Bおよび2Cにおいては、リニア表示で表され、図2Dにおいては、対数表示で表されている。
【0058】
光検出器2において検出される全光量に含まれる脳血流が変化する領域を通過した光の量は2×10-5程度しかない。すなわち、パルス光である光8を出射し、光検出器2によって全光量を検出し、その変化分を検出した場合、検出された光量に含まれる脳血流の変化を示す成分は微小であるため無視することができる。他方、直接反射光10aの光量は一定であり、反射率は例えば約4%である。そのため、表面近傍からの反射散乱光10bの光量変化、すなわち頭皮血流の変化を検出することができる。
【0059】
光検出器2上において、光パワが減り始める時刻をtbsとし、光パワが完全にノイズレベルまで低下する時刻をtbeとする。図2Dに示すように、tbs≦t≦tbeの光の立ち下がり期間13において、脳血流の変化を示す信号の割合が高くなることがわかる。光の立ち下がり期間13の後半になるほど光量は減り、その分ノイズが増える。しかし、変調度は大きくなる。tbs≦t≦tbeの立ち下がり期間13のうち、例えばt=13.5ns以降の光の量は、パルス光の全検出光量の約1/100である。立ち下がり期間13に到達する光を、光検出器2の電子シャッタの機能を用いて検出した場合、脳血流が変化する領域を通過した光の割合は、t=13.5ns以降の全検出光量の7%に増加する。これにより、脳血流の変化を示す信号を、十分に取得することが可能である。電子シャッタを使わなければ、脳血流の変化の割合は2×10-5程度である。
【0060】
したがって、光8を出射して、光検出器2により、被検部6からの光の立ち下がり期間13に含まれる光11の成分を受光し、その光量変化を検出すれば、脳血流の変化を示す信号を検出することができる。
【0061】
上述した頭皮血流および脳血流の変化の計測原理を用いて、本実施形態の生体計測装置17における、パルス光の出射および光検出を説明する。
【0062】
図3は、本開示の実施の形態1における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
【0063】
実施の形態1の生体計測装置17において、制御回路7は、光源1に、少なくとも1つの第1のパルス光、および少なくとも1つの第2のパルス光のそれぞれを、異なるタイミングで出射させる。制御回路7は、光検出器2に、被検部6から戻った、少なくとも1つの第1の反射パルス光に含まれる光の成分である第1成分を検出させ、検出された第1成分を示す第1の電気信号を出力させる。制御回路7は、光検出器に、被検部6から戻った、少なくとも1つの第2の反射パルス光の立ち下り期間に含まれる光の成分である第2成分を検出させ、検出された第2成分を示す第2の電気信号を出力させる。
【0064】
図3の上段に示すように、光源1は、第1のパルス光8a、第2のパルス光8bを順に出射する。第1のパルス光8aは、パルス幅Tおよび最大光パワ値Pを有し、第2のパルス光8bは、パルス幅Tおよび最大光パワ値Pを有する。本明細書において、パルス幅とは、パルス波形の半値全幅を意味する。第1のパルス光8aの中心から第2のパルス光8bの中心までの時間間隔は、dである。
【0065】
図3の中段に示すように、第1のパルス光8aに対応する、被検部6から戻った光19aは、Tとほぼ同じパルス幅Td1を有する。同様に、第2のパルス光8bに対応する、被検部6から戻った光19bは、Tとほぼ同じパルス幅Td2を有する。被検部から戻った光19a、19bは、図3の中段で示すように、内部散乱の影響で時間遅れが生じて、裾野において、少し広がった形状を有する。
【0066】
光検出器2は、第1のパルス光8aに対応する被検部6から戻った光19aの成分と、第2のパルス光8bに対応する被検部6から戻った光19bの、立ち下がり期間13に含まれる光の成分とを、それぞれ光検出器2における光電変換部3によって光電変換し、電荷蓄積部(以下、蓄積部と称する)によって第1の信号電荷18a、第2の信号電荷18bを蓄積する。
【0067】
本実施形態では、第1のパルス光8aのパルス幅Tは、第2のパルス光8bのパルス幅Tよりも短く(T<T)、例えば、T=1から3nsおよびT=11から22nsである。第1のパルス光8aの最大光パワ値Pは、第2のパルス光8bの最大光パワ値Pより低く(P<P)、例えば、P/P=0.01から0.1である。また、第1のパルス光8aと第2のパルス光8bの最大光パワが同じで、第1のパルス光8aのパルス幅が第2のパルス光8bのパルス幅より小さくてもよい。
【0068】
被検部6が人の額である場合、各パルス光が眼に入る恐れがある。このため、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bは、例えばクラス1を満足する程度の低パワで出射され得る。光検出器2の感度を満たすために、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bは、繰り返し出射され得る。例えば、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bの対は、55nsから110ns程度の時間周期Λで、1万回から100万回程度繰り返し出射され得る。これにより、1フレームが構成される。フレームを並べることにより、動画を構成することができる。なお、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bは、同一のフレーム期間内に含まれていればよく、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bの順序を入れ替えてもよい。
【0069】
また、第1のパルス光8aの中心から、その直後に出射される第2のパルス光8bの中心までの時間間隔dを、第2のパルス光8bの中心から、その直後に出射される第1のパルス光8aの中心までの時間間隔(Λ-d)よりも短くしてもよい。時間間隔dを適切に設定することにより、後述する電子シャッタを用いて、2つの蓄積部4a、4bに電荷を蓄積させる時間を、ほぼ均等にすることができる。その場合、制御しやすいという効果が得られる。
【0070】
クラス1の制限を課さず、高い光パワを用いて脳血流以外の生体情報を計測したり、アバランシェホトダイオードのような感度のよい光検出器を用いて生体情報を計測したりしてもよい。その場合には、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bの各々の出射を、必ずしも複数回繰り返す必要は無い。例えば、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bを、それぞれ1回ずつ被検部6を照射して生体情報を検出してもよい。
【0071】
本実施の形態の生体計測装置17において、光検出器2は、信号電荷を蓄積するか否かを切り替える電子シャッタと、複数の蓄積部4a、4bとを有する。電子シャッタは、光電変換部3によって生成された信号電荷の蓄積と排出とを制御する回路である。
【0072】
第1のパルス光8aを出射して、被検部6から戻った光19aを光電変換部3において光電変換する。その後、制御回路7からの制御信号16a、16b、16eにより、蓄積部4aを選択、すなわち、電子シャッタをopenにし、例えば11から22nsの時間TS1だけ第1の信号電荷18aを蓄積する。時間TS1経過後、制御回路7からの制御信号16a、16b、16eにより、ドレイン12を選択、すなわち、電子シャッタをcloseにして、光電変換部3からの電荷を放出する。
【0073】
同様に、第2のパルス光8bに対応する被検部6から戻った光19bの立ち下がり期間13に含まれる光である反射散乱光11の成分を、光電変換部3において光電変換する。その後、制御信号16a、16b、16eを用いて別の蓄積部4bを選択し、例えば11から22nsの時間TS2だけ第2の信号電荷18bを蓄積する。時間TS2経過後、制御回路7からの制御信号16a、16b、16eにより、ドレイン12を選択して、光電変換部3からの電荷を放出する。
【0074】
したがって、蓄積部4aには、第1のパルス光8aの繰り返しパルス列に対応する被検部6から戻った光19aの成分が、光電変換により、1フレーム分の第1の信号電荷18aとして蓄積される。1フレームの終了後に、第1の信号電荷18aは、第1の電気信号15aとして制御回路に出力される。第1の電気信号15aは、頭皮血流の情報を含む。
【0075】
蓄積部4bには、第2のパルス光8bの繰り返しパルス列に対応する被検部6から戻った光19bの立ち下がり期間13に含まれる光である反射散乱光11の成分が、光電変換により、1フレーム分の第2の信号電荷18bとして蓄積される。1フレームの終了後に、第2の信号電荷18bは、第2の電気信号15bとして制御回路に出力される。第2の電気信号15bは、脳血流の情報だけでなく、頭皮血流の情報も含む。
【0076】
第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bの出射後に、光出射が無い状態で、同じ時間および同じ回数だけ、電子シャッタをopenおよびcloseにして、環境ノイズを測定してもよい。環境ノイズの値を信号値からそれぞれ減算することにより、信号のS/N比を向上させることができる。TS1およびTS2は、同じであっても、異なっていてもよい。TS1=TS2であれば、TS1の間だけ電子シャッタをopenにして、環境ノイズを一回測定するだけでよい。これにより、TS2の間だけ電子シャッタをopenにした2回目の環境ノイズの測定を省略することができる。
【0077】
本実施形態では、第1のパルス光8aのパルス幅Tは、第1の信号電荷18aを蓄積する時間TS1よりも短い(T<Ts1)。この場合、第1のパルス光8aの出射タイミング、または、電子シャッタがopenまたはcloseになる時間に揺らぎ(ジッター)があってもよい。さらには、被検部6から生体計測装置17までの距離が多少変動してもよい。TをTS1より短くすることにより、上記変動分をほぼキャンセル、または低減することができ、蓄積電荷量を一定に維持することができる。すなわち、ジッターマージンを向上することができ、表面近傍における血流の検出において、被検部の動きによる影響を低減することができるという効果が得られる。
【0078】
図1Bに示した光検出器2の構成は、1画素に相当する。これにより、被検部6内の平均化した血流に関する生体情報を取得することができる。
【0079】
また、光検出器2として、画素ごとに、光電変換部3と、蓄積部と、蓄積部において信号電荷を蓄積するか否かを切り替える電子シャッタとを備えたイメージセンサを用いてもよい。この場合、光検出器2は、2次元的に配列された複数の光検出セルを有するイメージセンサである。各々の光検出セルは、第1のパルス光に含まれる光の成分を第1の信号電荷18aとして蓄積し、第2のパルス光の立下り期間に含まれる光の成分を第2の信号電荷18bとして蓄積する。さらに、各々の光検出セルは、蓄積された第1の信号電荷の総量を示す電気信号を、第1の電気信号15aとして出力し、蓄積された第2の信号電荷の総量を示す電気信号を、第2の電気信号15bとして出力する。これにより、被検部6の血流に関する生体情報を、複数のフレームを含む動画として取得することができる。
【0080】
次に、図4Aおよび4Bを参照して、第2の電気信号15bに、脳血流の情報および頭皮血流の情報が重畳されることを説明する。
【0081】
図4Aは、被検部の表面および内部に存在する血流の変化を示す前面図である。図4Bは、被検部の表面および内部に存在する血流の変化を示す、YZ平面における断面図である。図4Aおよび4Bには、額である被検部6の表面から、例えば深さ3から6mm程度の表皮内にある表面近傍の血流(すなわち頭皮血流)が変化している領域である頭皮血流領域14aと、表面から10から18mm程度の内部の血流(すなわち脳血流)が変化している領域である脳血流領域14bとが示されている。光8が、被検部6に入射し、内部散乱光9bとして、光検出器2において検出される光路に注目する。血流分布にもよるが、まず、内部散乱光9bは、頭皮血流領域14aを通過し、その後、散乱または吸収されて脳血流領域14bを通過し、さらに散乱または吸収を繰り返し、再び頭皮血流領域14aを通過して被検部6から出てくる。すなわち、第2のパルス光8bの繰り返しパルス列に対応する被検部6から戻った光19bの立ち下がり期間13に含まれる脳血流の情報には、頭皮血流の情報が重畳される。これにより、脳血流の情報のS/N比が劣化する。脳血流の情報は、往路において重畳される頭皮血流領域14aの影響を受ける。しかし、生体内の往復の光路における散乱または吸収により、その影響は小さくなる。したがって、脳血流の情報は、復路において重畳される頭皮血流領域14aの影響を大きく受ける。
【0082】
次に、被検部6における血流の変化を示す分布の取得方法を説明する。
【0083】
まず、制御回路7は、イメージセンサである光検出器2に、以下の第1から第4の画像信号を出力させる。第1の画像信号は、第1の期間に複数の光検出セルに蓄積された第1の信号電荷18aの総量の2次元分布を示す。第2の画像信号は、第1の期間と同一のまたは異なる第2の期間に複数の光検出セルに蓄積された第2の信号電荷18bの総量の2次元分布を示す。第3の画像信号は、第1の期間よりも前の第3の期間に複数の光検出セルに蓄積された第1の信号電荷18aの総量の2次元分布を示す。第4の画像信号は、第2の期間よりも前の第4の期間に複数の光検出セルに蓄積された前記第2の信号電荷の総量の2次元分布を示す。
【0084】
次に、信号処理回路30は、第1から第4の電気信号を、イメージセンサである光検出器2から受け取る。その後、信号処理回路30は、第1の画像信号が示す画像と、第3の画像信号が示す画像との差分を示す第1の差分画像を生成し、第2の画像信号が示す画像と、第4の画像信号が示す画像との差分を示す第2の差分画像を生成する。
【0085】
第1の差分画像は、被検部6における頭皮血流の変化を示す分布に相当し、第2の差分画像は、被検部6における頭皮血流および脳血流の変化を示す分布に相当する。本明細書では、第1および第2の差分画像は、差分の絶対値を示す画像とする。信号処理回路30が、第3および第4の画像信号を1回だけ受け取り、第1および第2の画像信号を1フレーム周期ごとに繰り返し受け取れば、被検部6における血流の変化を示す分布の動画が得られる。
【0086】
図3の例に示すように、第1および第2の期間は同じであり、第3および第4の期間は同じであってもよい。後述するように、第2の期間は、第1の期間に続くフレーム期間であり、第4の期間は第3の期間に続くフレーム期間であってもよい。
【0087】
次に、脳血流の情報のS/N比を改善する方法を説明する。
【0088】
図5Aは、第1のパルス光により検出された、被検部6における表面の血流の変化を模式的に示す図である。図5Bは、第2のパルス光により検出された、被検部6における表面および内部の血流の変化を模式的に示す図である。図5Cは、画像演算により導出された、被検部6における内部の血流の変化を模式的に示す図である。図5Dは、さらなる画像演算により画像補正された、被検部6における内部の血流の変化を模式的に示す図である。
【0089】
第1のパルス光8aのパルス列の照射により発生した第1の電気信号15aに基づいて、信号処理回路30は、図5Aに示すように、頭皮血流の変化を示す分布14cに相当する第1の差分画像を生成する。次に、第2のパルス光8bのパルス列の照射により、電子シャッタを用いて時間遅れで蓄積した電荷からの第2の電気信号15bに基づいて、信号処理回路30は、図5Bに示すような頭皮血流および脳血流の情報が重畳された、血流の変化を示す分布14cに相当する第2の差分画像を生成する。図5Bにおける分布14cには、頭皮血流の情報を含み、脳血流の情報を含まない領域Rと、頭皮血流および脳血流の両方の情報を含む領域Rと、脳血流の情報を含み、頭皮血流の情報を含まない領域Rとが、存在する。
【0090】
信号処理回路30は、第1の信号電荷18aの量を示す第1の電気信号15aと、第2の信号電荷18bの量を示す第2の電気信号15bとを用いた演算によって、被検部6の内部の血流情報を生成する。第1の信号電荷18aは、被検部6における表面の血流情報を含み、第2の信号電荷18bは、被検部6における表面および内部の血流情報を含む。
【0091】
信号処理回路30は、図5Aおよび5Bにおける2つの2次元画像に基づいて、減算または除算などを含む画像演算により、図5Cにおける、脳血流の変化を示す分布14dの2次元画像を生成する。例えば、図5Bにおける領域Rと、図5Aにおける領域Rに相当する領域とにおいて、2つの分布の強度が同じになるように補正する。その後、図5Bにおける、表面および内部の血流情報を示す分布から、図5Aにおける、表面の血流情報を示す分布を引けばよい。これにより、内部の血流情報を示す分布が得られる。
【0092】
図5Cにおける2次元画像は、脳血流の変化を示す分布14dを表す。脳血流の変化を示す分布14dは、内部の脳血流が散乱されて広がった状態にある。そこで、信号処理回路30は、拡散方程式またはモンテカルロ解析などにより、その散乱状態を推測して画像補正する。これにより、信号処理回路30は、図5Dにおける、脳血流の変化を示す分布14eの2次元画像を生成する。この2次元画像が、所望の脳血流の変化を示す分布である。
【0093】
上記の方法において、高いS/N比で演算するために、図5Aおよび5Bにおける2つの画像において、被検部6の表面の血流変化を示す領域における輝度を、例えば、同等にしてもよい。
【0094】
図5Aの画像において、第1の閾値を超える画素値を有する複数の画素によって形成される領域14cを第1の領域とする。同様に、図5Bの画像において、第2の閾値を超える画素値を有する複数の画素によって形成される領域14cを第2の領域とする。第1の閾値は、第2の閾値と等しくてもよく、異なっていてもよい。図5Aの画像における第1の領域のうち、第2の領域と重なる部分における平均画素値をMとする。同様に、図5Bの画像における第2の領域のうち、第1の領域と重なる部分における平均画素値をMとする。この場合、例えば、M=Mとしてもよい。画像補正により調整が可能であるため、Mと、Mとは、例えば、0.1≦M/M≦10を満たしてもよい。パルス幅T、T、最大光パワ値P、P、および第2の蓄積部4bにおける電子シャッタをopenにするタイミングのうち、少なくとも1つを調整することにより、上記の条件を達成することができる。
【0095】
図5Aの例における第1の領域のうち、図5Bの例における第2の領域と重なる部分は、頭皮血流の情報を含み、脳血流の情報を含まない。一方、図5Bの例における第2の領域のうち、図5Aの例における第1の領域と重なる部分は、頭皮血流の情報だけでなく、脳血流の情報の一部も含む。この場合でも、上述したように、MおよびMの比には、1桁程度の余裕がある。したがって、Mに脳血流の情報の一部が含まれていても問題ない。
【0096】
また、光源1は、2つの発光素子を含んでもよい。例えば、一方の発光素子が、第1のパルス光8aを出射し、その後、他方の発光素子が、第2のパルス光8bを出射してもよい。この構成では、各々の発光素子の最大光パワ値は、一定でよい。これにより、光源の出力制御が容易になる。
【0097】
次に、本開示の実施の形態1の変形例における生体計測装置を説明する。
【0098】
図6は、本開示の実施の形態1の変形例1における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
【0099】
この例では、光源1は、1フレーム期間の前半t<Tにおいて、上記で説明したように、光8として、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bを交互に出射する。光源1は、1フレーム期間の後半t>Tにおいて、第2のパルス光8bのみを繰り返し出射する。1フレーム期間の前半において、第1のパルス光8aによって得られる上記の平均画素値Mが、第2のパルス光8bによって得られる上記の平均画素値Mを超える(M>M)ときに、1フレーム期間の後半において、第2のパルス光8bによって得られる上記の平均画素値Mを増加させ、MおよびMが同等の平均画素値になるように調整してもよい。当該変形例1は、各パルス光の強度およびパルス幅の少なくとも1つの調整幅が小さく、1パルスあたりの第1のパルス光8aによる蓄積電荷量が、1パルスあたりの第2のパルス光8bによる蓄積電荷量よりも大きいときに有効である。
【0100】
また、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bの配列の前半および後半を入れ換えてもよい。すなわち、光源1は、1フレーム期間の前半において、第2のパルス光を繰り返し出射し、1フレーム期間の後半において、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bを交互に繰り返し出射してもよい。
【0101】
さらに、各パルス光の強度およびパルス幅の少なくとも1つの調整幅が大きく、1パルスあたりの第1のパルス光8aによる蓄積電荷量が、1パルスあたりの第2のパルス光8bによる蓄積電荷量よりも小さい場合が起こり得る。その場合は、1フレーム期間の前半において、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bを交互に繰り返し出射し、1フレーム期間の後半において第1のパルス光8aを繰り返し出射してもよい。
【0102】
図7は、本開示の実施の形態1の変形例2における、出射光である第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
【0103】
上記実施の形態1の変形例1と異なる点は、第1のパルス光8aのパルス幅Tが、電子シャッタがopenになる時間TS1より長い(T>TS1)ことである。この場合、第1のパルス光8aの出射タイミング、または、電子シャッタがopenおよびcloseになる時間に揺らぎ(ジッター)があってもよい。さらには、被検部6および生体計測装置17の間隔が多少変動してもよい。TをTS1より長くすることにより、上記変動分をほぼキャンセル、または低減することができ、蓄積電荷量を一定に維持することができる。すなわち、ジッターマージンを向上することができ、さらに、表面近傍の血流の検出において、被検部の動きによる影響を低減することができるという効果が得られる。
【0104】
この場合、電子シャッタopenの全時間幅TS1と同じ時間において電荷を蓄積してもよい。これにより、上記実施の形態1の変形例1よりも、第1のパルス光8aによって得られる上記の平均画素値Mを、増やすことができる。そのため、1フレーム期間の後半において、第2のパルス光8bのみを繰り返し出射して、第2のパルス光8bによって得られる上記の平均画素値Mを増加させることは効果的である。
【0105】
この例では、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bの配列の前半および後半を入れ換えてもよい。すなわち、光源1は、1フレーム期間の前半において、第2のパルス光8bを繰り返し出射し、1フレーム期間の後半において、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bを交互に繰り返し出射してもよい。
【0106】
図8は、本開示の実施の形態1の変形例3における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
【0107】
この例では、光源1は、1フレーム期間の前半t<Tにおいて、第1のパルス光8aを繰り返し出射し、後半t>Tにおいて、第2のパルス光8bを繰り返し出射する。第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bのそれぞれの繰り返し回数を制御して、1フレーム期間の、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bによって得られる上記の平均画素値M、Mが、M=M、または0.1≦M/M≦10になるように調整してもよい。これにより、1フレーム期間の蓄積部4a、4bの切り替えが、前半および後半において、それぞれ1回のみになり、制御が容易になる。
【0108】
また、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bの配列の前半および後半を入れ換えてもよい。すなわち、光源1は、1フレーム期間の前半において、第2のパルス光8bを繰り返し出射し、1フレーム期間の後半において、第1のパルス光8aを繰り返し出射してもよい。
【0109】
(実施の形態2)
次に、本開示の実施の形態2の生体計測装置を、図9Aおよび9Bを用いて、上記実施の形態1の生体計測装置と異なる点を中心に、説明する。
【0110】
図9Aは、本開示の実施の形態2における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。図9Bは、本開示の実施の形態2における、光検出器の内部の構成と、電気信号および制御信号の流れとを模式的に示す図である。
【0111】
実施の形態2の生体計測装置17において、制御回路7は、第1のフレーム期間において、光源1に、第1のパルス光を繰り返し出射させ、第1のパルス光の出射に同期して、光検出器2に、前記第1のパルス光の少なくとも一部に応じた第1の信号電荷を繰り返し蓄積させる。制御回路7は、第1のフレーム期間に続く第2のフレーム期間において、光源1に、第2のパルス光を繰り返し出射させ、第2のパルス光の出射に同期して、光検出器2に、被検部6から戻った第2の反射パルス光の立下り期間の少なくとも一部に応じた第2の信号電荷を繰り返し蓄積させる。
【0112】
実施の形態2の生体計測装置が、実施の形態1の生体計測装置と異なる点は、光検出器2において、蓄積部4aが1つだけであり、さらに、第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bは、それぞれ異なるフレーム期間に含まれることである。光源1は、第1のフレーム期間では第1のパルス光8aを繰り返し出射し、第1のフレーム期間に続く第2のフレーム期間では第2のパルス光8bを繰り返し出射する。
【0113】
実施の形態2において上述した被検部6における血流の変化を示す分布の取得方法を実行する場合、第1の期間は、上記の第1のフレーム期間に相当し、第2の期間は、上記の第2のフレーム期間に相当し、第4の期間は、第3の期間に続くフレーム期間に相当する。上述したように、第1から第4の電気信号から、被検部6における頭皮血流の変化を示す分布と、被検部6における頭皮血流および脳血流の変化を示す分布とを得ることができる。この動作を繰り返して、動画を取得してもよい。第1および第2のフレーム期間を入れ換えて、第1のフレーム期間では第2のパルス光8bを繰り返し出射し、第2のフレーム期間では第1のパルス光8aを繰り返し出射してもよい。
【0114】
光検出器2において、蓄積部が1つだけであり、蓄積部の切り替えが不要である。これにより、構成が簡単になり、制御が容易になるという効果が得られる。なお、光検出器2が、複数の蓄積部を有する場合、そのうちの1つを用いればよい。
【0115】
(実施の形態3)
次に、本開示の実施の形態3の生体計測装置を、図10A、10Bおよび11を用いて、上記実施の形態1の生体計測装置と異なる点を中心に、説明する。
【0116】
図10Aは、本開示の実施の形態3における生体計測装置の構成と、生体計測の様子とを説明するための概略図である。図10Bは、本開示の実施の形態3における光検出器の内部の構成と、電気信号および制御信号の流れとを模式的に示す図である。
【0117】
図11は、本開示の実施の形態3における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
【0118】
実施の形態3の生体計測装置において、実施の形態1の生体計測装置と異なる点は、光源1は、少なくとも2つの波長の光を出射する多波長光源であり、波長ごとに、第1のパルス光8a、8cと、第2のパルス光8b、8dとを順に出射することである。
【0119】
光源1は、複数の発光素子1a、1bをY方向に並べて構成されている。発光素子1a、1bは、例えば、レーザチップである。酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの吸収率は、例えば、λ=750nmおよびλ=850nmの波長において異なる。そのため、これらの2波長を用いてそれぞれ得られた2つの電気信号を演算することにより、被検部6おける、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの割合を測定することができる。
【0120】
被検部6が生体の頭部の額領域であるとき、前頭葉における脳血流の変化量、または酸化ヘモグロビン濃度および還元ヘモグロビン濃度の変化量などを測定することができ、感情などの情報のセンシングが可能である。例えば、集中状態では、脳血流量の増加、および酸化ヘモグロビン量の増加などが生じる。
【0121】
様々な波長の組み合わせが、可能である。波長が805nmにおいて、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの吸収量が、等しくなる。したがって、上記の生体の窓も考慮すると、例えば、650nm以上805nm未満の波長と、805nmより長く950nm以下の波長との組み合わせであってもよい。さらに、その2波長に加えて、805nmの波長の3波長を用いることもできる。3波長の光が用いられる場合、レーザチップが3つ必要になるが、3つ目の波長の情報も得られるため、その情報を利用することにより、演算が容易になり得る。
【0122】
本実施の形態の生体計測装置17における光検出器2は、信号電荷を蓄積するか否かを切り替える電子シャッタと、4つの蓄積部4a、4b、4c、4dとを有する。発光素子1aにより、波長λの第1のパルス光8aを出射して、被検部6から戻った光19aを光電変換部3において光電変換する。その後、制御回路7からの制御信号16a、16b、16c、16d、16eにより蓄積部4aを選択し、例えば11から22nsの時間TS1だけ第1の信号電荷18aを蓄積する。時間TS1経過後、制御回路7からの制御信号16a、16b、16c、16d、16eにより、ドレイン12を選択して、光電変換部3からの電荷を放出する。
【0123】
同様に、波長λの第2のパルス光8bに対応する被検部6から戻った光19bの立ち下がり期間13に含まれる光11の成分を、光電変換部3において光電変換する。その後、制御信号16a、16b、16c、16d、16eを用いて別の蓄積部4bを選択して、例えば11から22nsの時間TS2だけ第2の信号電荷18bを蓄積する。時間TS2経過後、制御回路7からの制御信号16a、16b、16c、16d、16eにより、ドレイン12を選択して、光電変換部3からの電荷を放出する。
【0124】
この後、発光素子1aを発光素子1bに変えて、同様に波長λの第1のパルス光8cおよび第2のパルス光8dを順に出射する。蓄積部4cは、第1のパルス光8cに対応し、蓄積部4dは、第2のパルス光8dに対応する。
【0125】
したがって、蓄積部4aには、波長λの第1のパルス光8aの繰り返しパルス列に対応する被検部6から戻った光19aの成分が、光電変換により、1フレーム分の第1の信号電荷18aとして蓄積される。1フレームの終了後に、第1の信号電荷18aは、第1の電気信号15aとして制御回路7に出力される。第1の電気信号15aは、波長λの頭皮血流の情報を含む。
【0126】
蓄積部4bには、波長λの第2のパルス光8bの繰り返しパルス列に対応する被検部6から戻った光19bの立ち下がり期間13に含まれる反射散乱光11の成分が、光電変換により、1フレーム分の第2の信号電荷18bとして蓄積される。1フレームの終了後に、第2の信号電荷18bは、第2の電気信号15bとして制御回路に出力される。第2の電気信号15bは、波長λの脳血流の情報だけでなく、波長λの頭皮血流の情報も含む。
【0127】
蓄積部4cには、波長λの第1のパルス光8cの繰り返しパルス列に対応する被検部6から戻った光19cの成分が、光電変換により、1フレーム分の第3の信号電荷18cとして蓄積される。1フレームの終了後に、第3の信号電荷18cは、第3の電気信号15cとして制御回路7に出力される。第3の電気信号15cは、波長λの頭皮血流の情報を含む。
【0128】
蓄積部4dには、波長λの第2のパルス光8dの繰り返しパルス列に対応する被検部6から戻った光19dの立ち下がり期間13に含まれる反射散乱光11の成分が、光電変換により、1フレーム分の第4の信号電荷18dとして蓄積される。1フレームの終了後に、第4の信号電荷18dは、第4の電気信号15dとして制御回路に出力される。第4の電気信号15dは、波長λの脳血流の情報だけでなく、波長λの頭皮血流の情報も含む。
【0129】
取得された4つの画像情報から、脳血流の変化を示す画像として、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの2つの2次元濃度分布の画像を生成することができる。
【0130】
次に、本開示の実施の形態3の変形例における生体計測装置を説明する。
【0131】
図12は、本開示の実施の形態3の変形例1における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
【0132】
この例では、2つの蓄積部が用いられる。第1のフレーム期間では、前半において第1の波長λを有する第1のパルス光8aおよび第2のパルス光8bを繰り返し出射し、後半において第1の波長λを有する第2のパルス光8bを繰り返し出射する。第2のフレーム期間では、前半において第2の波長λを有する第1のパルス光8cおよび第2のパルス光8dを繰り返し出射し、後半において第2の波長λを有する第2のパルス光8dを繰り返し出射する。
【0133】
図13は、本開示の実施の形態3の変形例2における、第1および第2のパルス光の時間分布(上段)と、第1および第2のパルス光を出射した場合の光検出器上の光パワの時間分布(中段)と、電子シャッタのタイミングおよび電荷蓄積(下段)とを模式的に示す図である。
【0134】
この例では、1つの蓄積部が用いられる。第1のフレーム期間では、第1の波長λを有する第1のパルス光8aを繰り返し出射し、第2のフレーム期間では、第2の波長λを有する第1のパルス光8cを繰り返し出射し、第3のフレーム期間では、第1の波長λを有する第2のパルス光8bを繰り返し出射し、第4のフレーム期間では、第2の波長λを有する第2のパルス光8dを繰り返し出射する。光検出器2において、蓄積部は、1つだけでよい。したがって、蓄積部の切り替えが不要であり、構成が簡単になる。
【0135】
以上、実施の形態1から3の生体計測装置を説明してきたが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。それぞれの実施の形態の生体計測装置の構成を組み合わせた生体計測装置も本開示に含まれ、同様の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本開示は、生体情報を非接触で計測する用途、例えば、生体または医療センシングなどに利用できる。
【符号の説明】
【0137】
1 光源
2 光検出器
3 光電変換部
4a、4b 蓄積部
5 被検者
6 被検部
7 制御回路
8 光
8a、8c 第1のパルス光
8b、8d 第2のパルス光
9a、9b 内部散乱光
10a 直接反射光
10b、11 反射散乱光
12 ドレイン
13 立ち下がり期間
14a 頭皮血流領域
14b 脳血流領域
14c 分布
15a 第1の電気信号
15b 第2の電気信号
15c 第3の電気信号
15d 第4の電気信号
16a、16b、16c、16d、16e 制御信号
17 生体計測装置
18a 第1の信号電荷
18b 第2の信号電荷
18c 第3の信号電荷
18d 第4の信号電荷
19a、19b、19c、19d 被検部から戻った光
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13