(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】搬送ステージとそれを使用したインクジェット装置
(51)【国際特許分類】
B65H 5/04 20060101AFI20221202BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221202BHJP
B41J 11/06 20060101ALI20221202BHJP
B41J 13/10 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
B65H5/04
B41J2/01 305
B41J11/06
B41J13/10
(21)【出願番号】P 2019102326
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆史
(72)【発明者】
【氏名】木村 悌一
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-251822(JP,A)
【文献】特開2009-279470(JP,A)
【文献】特開2009-011892(JP,A)
【文献】特開2005-218948(JP,A)
【文献】特開2006-200929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/04
B41J 2/01
B41J 11/00-13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1分割基台と、第1走査方向沿いに前記第1分割基台の両側に空間を開けて配置されかつ前記第1分割基台と同一材料の第2分割基台とで構成されて前記第1走査方向沿いに延在する基台部と、
前記基台部上に前記第1走査方向に沿って延在するように配置され、前記第1分割基台及び前記第2分割基台と同一材料の複数のガイド部材を有するガイドと、
前記ガイドに沿って前記第1走査方向に移動する
矩形の平板状の搬送テーブルと、
前記ガイドと前記搬送テーブルとの間に配置されて前記搬送テーブルを前記ガイドに沿って移動自在に支持する軸受部と、
前記搬送テーブルに連結されて前記搬送テーブルを移動させる駆動部と、を備え、
前記ガイドの前記第1走査方向における前記第1分割基台の鉛直方向の上方の領域を第1領域とし、前記ガイドが前記両側の前記第2分割基台に支持されかつ前記ガイドの前記第1走査方向における前記第1領域以外の領域をそれぞれ第2領域と
し、前記搬送テーブル上の処理対象物に対して行う所定の処理の処理位置は、前記第1領域内に含まれ、前記搬送テーブルが、一方の前記第2領域から前記第1領域、前記第1領域の更に反対側の他方の前記第2領域に亘って走行し、かつ、前記搬送テーブルの前記第2領域内での前記第1走査方向の変形量が、前記搬送テーブルの前記第1領域内での前記第1走査方向の変形量より大きい、搬送ステージ。
【請求項2】
前記第1分割基台と、前記第2分割基台と、前記ガイド部材とが石材料で構成されている、
請求項1に記載の搬送ステージ。
【請求項3】
前記基台部は、さらに、前記第1走査方向における、前記第1分割基台と前記第2分割基台との間に配置され、前記ガイドより剛性の低い第3分割基台を有し、
前記ガイドの前記第1走査方向における前記第1分割基台の鉛直方向の上方の領域を前記第1領域とし、前記ガイドが前記両側の前記第2分割基台と前記第3分割基台とに支持されかつ前記ガイドの前記第1走査方向における前記第1領域以外の領域をそれぞれ前記第2領域とするとき、前記搬送テーブルが、一方の前記第2領域から前記第1領域、前記第1領域の更に反対側の他方の前記第2領域に亘って走行し、かつ、前記搬送テーブルの前記第2領域内での前記第1走査方向の変形量が、前記搬送テーブルの前記第1領域内での前記第1走査方向の変形量より大きい、
請求項1又は2に記載の搬送ステージ。
【請求項4】
前記第1分割基台と前記第2分割基台とは石材料で構成され、前記第3分割基台は鉄系材料で構成されている、
請求項3に記載の搬送ステージ。
【請求項5】
前記搬送テーブル上の
前記処理対象物に対して
前記所定の処理を行い、前記ガイドとの間に前記搬送テーブルが通過する空間を有するように配置される処理部を有し、
前記処理部で前記所定の処理の処理位置は、前記第1領域内に含まれる、
請求項1~4のいずれか1つに記載の搬送ステージ。
【請求項6】
前記搬送テーブルの前記第1走査方向及び前記鉛直方向と直交する方向を第2走査方向とするとき、前記ガイド部材は、前記第2走査方向の座標が互いに異なる位置に、間隔をあけて、少なくとも3つ以上配置されている、
請求項1~5のいずれか1つに記載の搬送ステージ。
【請求項7】
前記第1走査方向沿いの前記複数のガイド部材の端部同士が対向する継目は、前記第1領域内に位置する、
請求項1~6のいずれか1つに記載の搬送ステージ。
【請求項8】
前記第2領域における前記ガイドと前記第3分割基台との間に複数個配置されかつ高さを調整可能な高さ調整部をさらに備え、
前記第3分割基台を構成する少なくとも1つ以上の材料のうち、最も占有体積の大きい材料の熱膨張係数は、前記第1分割基台と前記第2分割基台とを構成する材料の熱膨張係数よりも大きく、前記第2領域における前記ガイドは、前記高さ調整部により、対向面が互いにスライドできる滑り拘束により、不連続に支持されている、
請求項3又は4に記載の搬送ステージ。
【請求項9】
請求項5に記載の搬送ステージと、
前記処理部は、前記ガイド部材を跨ぐように配置された支持部材に支持され、前記搬送テーブル上の印刷対象物に、インクを吐出する少なくとも一つ以上の印刷ヘッドとを有し、
前記印刷ヘッドは、前記第1領域内に配置される、
インクジェット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ステージとそれを使用したインクジェット装置に関する。特に、本発明は、大型搬送ステージとそれを使用したインクジェット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット装置を用いてデバイスを製造する方法が注目されている。インクジェット装置は、液滴吐出を行う複数のノズルを有し、ノズルと印刷対象物との位置関係を制御しながらノズルから液滴を吐出することで、印刷対象物に液滴を塗布するものである。
【0003】
この種のインクジェット装置の1つとして、ラインヘッドと呼ばれる、印刷対象物の幅方向に並設された複数のモジュールヘッド(言い換えれば、複数の吐出口を有する液滴吐出ヘッド)を備えているものがある。このラインヘッドを、主走査方向と同一水平面内で直交する方向である副走査方向に並べて配置することで、幅の大きい印刷対象物に対して、1度の搬送工程で、インクを一括で塗布することができる。
【0004】
更に、副走査方向にモジュールヘッドを並設されたラインヘッドを主走査方向にも複数個搭載することで、例えば色が異なるなどの複数種のインクを、1度の搬送工程の間に一括で印刷対象物に塗布することができる。
【0005】
この構成によれば、例えば、G4サイズ(680mm x 880mm)以上の大型の印刷対象物に対しても1度の搬送工程で複数種のインクを一括で塗布できるので、印刷対象物にインクを塗布するタクトの低減が可能になると共に、インク塗布後の乾燥条件等を均一にしやすいために、例えばインク膜厚を均一に制御できるなどの印刷プロセス上の利点がある。
【0006】
しかしながら、近年、生産性の向上のため、印刷対象物の更なる大型化が求められている。印刷対象物が大きくなると、その分、搬送距離が長くなり、必然的に、印刷対象物を搭載して主走査方向に走るガイドも長くする必要がある。このため、1つの部材では必要とされる精度での加工及び製作できないという問題が生じる。同様に、ガイドを支持する基台についても必要サイズが大きくなり、1つの部材では加工及び製作できないという問題が生じる。また、仮に1つの部材で加工及び製作が可能な場合であっても、サイズが大きくなると、調達コストが非常に高くなること、又は、各国の交通法によっては搬送出来ない等の問題が生じるため、それぞれの部材のサイズを小さくすることが求められる。
【0007】
すなわち、高い平面度が求められるガイド及び基台は、高精度な加工がしやすく熱変形も少ない石部材を用いることが望ましい。が、昨今、印刷対象物の更なる大型化が求められる一方で、資源枯渇の観点からも大型の石部材の調達は難易度が増している。よって、仮に調達及び加工が可能であったとしても、コスト及び調達納期の観点からは大きなデメリットとなる。また、装置重量も重くなるため、装置を設置する工場の補強等が必要になることも考えられ、更にコストがかさむという問題も生じる。
【0008】
そのため、ガイドレール及びそれを支持する架台は、それぞれ、複数の部材から成る構成として、位置決め基準面を設けて結合できる構成とする方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記方法によれば、搬送テーブルが振動することなく高い走行精度で走査することを求められる場合、ガイドレールを支持する複数の基台の高さ方向の平面度を確保することが困難となり、その影響によりガイドレールの高さ方向の平面度を確保することが困難であることから、走行精度が悪化する。また、その影響により、複数のガイドレールが連結される継目部において段差等が生じやすく、継目部を搬送テーブルが通過する際に振動が生じやすいという問題が生じる。
【0011】
そのため、例えばインクジェット装置のように、搬送テーブルが振動することなく高精度に走行することが求められる装置において、搬送テーブルの振動等に起因してインクジェットヘッドから吐出するインクの着弾する位置がばらつく等の問題が生じ、高分解能の印刷対象物を製作できない等の問題が生じる。
【0012】
すなわち、本発明の課題は、処理部で処理を実施する領域の基台のサイズを必要最小限に抑制しつつ、処理範囲における移動精度を担保する、搬送ステージと、それを使用したインクジェット装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの態様によれば、第1分割基台と、第1走査方向沿いに前記第1分割基台の両側に空間を開けて配置されかつ前記第1分割基台と同一材料の第2分割基台とで構成されて前記第1走査方向沿いに延在する基台部と、
前記基台部上に前記第1走査方向に沿って延在するように配置され、前記第1分割基台及び前記第2分割基台と同一材料の複数のガイド部材を有するガイドと、
前記ガイドに沿って前記第1走査方向に移動する矩形の平板状の搬送テーブルと、
前記ガイドと前記搬送テーブルとの間に配置されて前記搬送テーブルを前記ガイドに沿って移動自在に支持する軸受部と、
前記搬送テーブルに連結されて前記搬送テーブルを移動させる駆動部と、を備え、
前記ガイドの前記第1走査方向における前記第1分割基台の鉛直方向の上方の領域を第1領域とし、前記ガイドが前記両側の前記第2分割基台に支持されかつ前記ガイドの前記第1走査方向における前記第1領域以外の領域をそれぞれ第2領域とし、前記搬送テーブル上の処理対象物に対して行う所定の処理の処理位置は、前記第1領域内に含まれ、前記搬送テーブルが、一方の前記第2領域から前記第1領域、前記第1領域の更に反対側の他方の前記第2領域に亘って走行し、かつ、前記搬送テーブルの前記第2領域内での前記第1走査方向の変形量が、前記搬送テーブルの前記第1領域内での前記第1走査方向の変形量より大きい、搬送ステージを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の前記態様によれば、処理部で処理を実施する領域の基台のサイズを必要最小限に抑制しつつ、処理範囲における移動精度を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】実施の形態1において、インクジェット装置を上面から見た模式図
【
図1B】実施の形態1において、インクジェット装置を正面から見た模式図
【
図1C】実施の形態1において、インクジェット装置の断面の模式図
【
図2A】インクジェット装置の軸受部の配置を示す模式図
【
図2B】インクジェット装置の軸受部の配置を示す斜視図
【
図3】インクジェット装置の基台とガイドの位置関係を示す模式図
【
図4】実施の形態1において、インクジェット装置の搬送テーブルの変形形状を示す図
【
図6A】搬送テーブルの厚さが薄くて、幅方向(すなわち
図6Aの左右方向)の3ヶ所の軸受支持では支持していない部分で、搬送テーブルが垂れてしまう場合のインクジェット装置を正面から見た模式図
【
図6B】搬送テーブルの厚さを薄くした場合のインクジェット装置の搬送テーブルの変形状態を説明するための模式図
【
図7】搬送テーブルの厚さを薄くした場合の搬送テーブルの垂れを抑えるための軸受け部の配置を示す図
【
図9A】実施の形態2において、インクジェット装置を上面から見た模式図
【
図9B】実施の形態2において、インクジェット装置を正面から見た模式図
【
図9C】実施の形態2において、インクジェット装置の断面の模式図
【
図10A】実施の形態3において、インクジェット装置を上面から見た模式図
【
図10B】実施の形態3において、インクジェット装置を正面から見た模式図
【
図10C】実施の形態3において、インクジェット装置の断面の模式図
【
図11A】比較例として、準基準基台を設けないインクジェット装置を上面から見た模式図
【
図11B】比較例として、準基準基台を設けないインクジェット装置を正面から見た模式図
【
図11C】比較例として、準基準基台を設けないインクジェット装置の断面の模式図
【
図12A】比較例のインクジェット装置の補助基台が変形した状態を説明する模式図
【
図12B】比較例のインクジェット装置の補助基台が変形した場合の搬送テーブルの変形形状を示す図
【
図13A】実施の形態2において、補助基台の代わりにフレーム部を段構造にしたインクジェット装置を断面から見た模式図
【
図13B】実施の形態2において、フレーム部を設けずにインクジェット装置を直接床面に設置する場合の断面から見た模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1Aは、実施の形態1にかかるインクジェット装置10を印刷対象物6の主面方向から表した平面図である。
図1Aにより、インクジェット装置10の全体像について説明する。ここでは、処理対象物の一例として印刷対象物6であり、所定の処理の一例としては印刷であり、処理部の一例として印刷ヘッドとしている。
【0018】
図1Aに示すように、インクジェット装置10は、少なくとも、搬送ステージ20と、支持部材の一例としての門型形状のガントリー4と、印刷ヘッドの一例としてのラインヘッド5とを備えている。
【0019】
搬送ステージ20は、少なくとも、基台部1と、ガイド2と、搬送テーブル3と、軸受部12と、駆動部9とを備えている。
【0020】
基台部1は、主走査方向(例えば、第1走査方向の一例)41に長尺な長方形の平面形状の中央部に幅方向である副走査方向42に幅広の部分を設けた形状で構成している。
【0021】
ガントリー4は、主走査方向41から見た正面形状が門型形状であり、平面的に見て基台部1の幅方向である副走査方向42に跨るように基台部1の所定位置、例えば、主走査方向41の中間位置に固定されている。
【0022】
ガイド2は、基台部1の長手方向すなわち主走査方向41沿いに、基台部1の上面に固定されている。一例として、ガイド2は、主走査方向41に直交する方向沿いの断面が矩形の直方体形状の部材で構成されている。ガイド2は、基台部1上に主走査方向41に沿って延在するように配置された、複数の分割ガイド部材2a,2bを連結した少なくとも1個、好ましくは複数個のレール状のガイド部材2cで構成されている(
図3参照)。
【0023】
搬送テーブル3は矩形の平板状で、ガイド2でガイドされつつ基台部1の主走査方向41に搬送可能となっている。搬送テーブル3の上面には、基板などの印刷対象物6が保持可能となっている。
【0024】
ラインヘッド5は、基台部1に連結されているガントリー4に支持されている。ラインヘッド5は、搬送テーブル3がラインヘッド5の下を主走査方向41に通過するタイミングに合わせて、搬送テーブル3に向けてインクを吐出する。すなわち、ラインヘッド5の下を、搬送テーブル3が、主走査方向41沿いに
図1Aの左側から右側に移動すると同時に、ラインヘッド5からインクが吐出され、搬送テーブル3の上面にて保持される印刷対象物6の塗布領域に、インクが塗布される。
【0025】
なお、本構成においては、ラインヘッド5は、
図1Aに示すように、2種類のラインヘッド5がガントリー4の両面(すなわち、
図1Aではガントリー4の左右面)にそれぞれ配置される構成としたが、ラインヘッド5は、1個のみがガントリー4に配置されていても良いし、ガントリー4が2個配置され、それぞれのガントリー4の両面に合計4個のラインヘッド5が配置されていても良い。ラインヘッド5の個数及び配置などの構成については、印刷対象物6に対して、ラインヘッド5で行いたい処理によって決めれば良い。
【0026】
なお、以後の説明では、印刷対象物6を搬送する方向を主走査方向41とし、主走査方向41と同一水平面内で主走査方向41と直交する方向を副走査方向(例えば、第2走査方向の一例)(又は幅方向)42とし、印刷対象物6の主面方向、すなわち一般的には鉛直方向、を上下方向43(
図1Bを参照)とする。
【0027】
なお、搬送テーブル3を主走査方向41に駆動させるため、少なくとも一つ以上の駆動部9が、基台部1に主走査方向41沿いに配置され搬送テーブル3に連結されて、搬送テーブル3を主走査方向41に搬送駆動可能としている。駆動部9の一例として、
図1A及び
図1Bでは、幅方向の両端部近傍に主走査方向41沿いに2個の駆動部9が基台部1に配置されている。各駆動部9は、リニアモータであっても良いし、又は、回転モータに連結されたボールねじ等であっても良いが、本実施の形態1の構成では、長尺の構成としやすいリニアモータを用いている。
【0028】
図1Bは、インクジェット装置10を、
図1AのY-Y線から見た正面図である。
【0029】
図1Bに示すように、ガイド2は基台部1上に固定されている。基台部1は、床面21の不陸すなわち凹凸等の影響を直接受けないために、基台部1を保持するフレーム部7を介して設置されている。
【0030】
なお、フレーム部7と床面21との間、及び、フレーム部7と基台部1との間には、高さ方向の調整をそれぞれ独立して行うことができる複数の高さ調整部8に支持させるのが良い。そのように構成することで、インクジェット装置10の基台部1を設置する床面21に応じて、基台部1の上面の平面度を出すために、複数の高さ調整部8で基台部1の上面を高さ調整することが出来る。
【0031】
高さ調整部8は、例えば、いわゆるレベリングブロックであり、
図8に示すように、くさび機構18を用いた場合、取付台18e上の複数のブロック18a,18b間に対して、横方向に取り付けられたボルト18cの正逆回転によりくさび18dを横方向に押し引きすることで、ブロック18a,18bの高さが変動する機構で構成することができる。
【0032】
ガイド2と搬送テーブル3との間には、少なくとも一つ以上の軸受部12が連結されている。詳しくは、ガイド2の上面と搬送テーブル3の下面との間に軸受部12を配置して、搬送テーブル3は、軸受部12を介してガイド2上で摺動自在に支持されている。
【0033】
軸受部12は、搬送テーブル3の自重を支持するとともに、副走査方向42を軸とした回転方向(ピッチング方向)の回転を防止するために、ガイド2の上面と搬送テーブル3の下面との両方に支持される軸受部12Aと、搬送テーブル3の水平方向の蛇行を防止するために、ガイド2の側面で支持される軸受部12Bとの両方で構成することができる(
図5~
図7参照)。
【0034】
なお、軸受部12は、搬送テーブル3の自重を支持するため及びピッチング方向の回転を防止するために、ガイド2の上方だけに配置され摺動自在に支持されても良い。本構成では、搬送テーブル3の自重を支持するため及びピッチング方向の回転を防止するためにガイド2の上面を摺動自在に支持し、搬送テーブル3の水平方向の蛇行を防止するために、ガイド2の副走査方向42の両側面を摺動自在に支持する構成とするが、詳細については後述する。
【0035】
なお、軸受部12の形式は、ベアリングを用いた直線ガイドでも良いが、高精度で振動が少ない搬送を実現するために、軸受部12から空気などの気体をガイド2に向けて噴出することで、軸受部12とガイド2とが非接触で対向する静圧軸受を用いるのが望ましい。なお、軸受部12を静圧軸受とした場合、自成絞り又はオリフィス絞りのパッドを用いても良いし、搬送テーブル3の裏面に溝を切って表面絞りの形式としても良い。が、本構成では、より振動が生じにくくするため、多孔質絞りのパッドを用いている。
【0036】
なお、軸受部12を静圧軸受とした場合、軸受部12から噴出された空気によるガイド2からの浮上量により軸受剛性は変化するため、軸受剛性が最も強くなる浮上量となるように設計するのが望ましい。本構成では、一例として、狙いとする浮上量を、軸受部12の剛性が最も高くなる10μmとしている。
【0037】
図2Aは、搬送テーブル3を
図1BのZ-Z矢視から見た図である。
図2Bは、搬送テーブルを下側から見た場合の斜視図である。
図2A、
図2Bを用いて、本構成における搬送テーブル3と、軸受部12の配置構成を示す。なお、
図2Aにおいて、実際は断面図には出てこないが、説明を容易にするために、ガイド部材2cについても仮想的に破線で示している。
【0038】
本構成では、軸受部12は、搬送テーブル3の自重支持及びピッチング方向の回転を防止するために、ガイド部材2cの上面で摺動自在に支持する軸受部12Aを搬送テーブル3の裏面にガイド部材2cの上面と対向するように配置している。また、搬送テーブル3の水平方向の蛇行を防止するために、中央のガイド部材2cの両側面を支持する軸受部12Bを有している。
【0039】
なお、軸受部12Aの合計受圧面積は、軸受部12Aの負荷容量と搬送テーブル3の重量とによって決められる。
【0040】
本構成では、一例として、搬送テーブル3は、主走査方向41の寸法が3.2mで、副走査方向42の寸法が2.6mで、厚さを30mmとした。そして、搬送テーブル3の下面に受圧面を例えば120mm角とする平面が正方形の軸受部12Aを各ガイド部材2cの主走査方向41の複数点(例えば5点)で受ける構成としている。なお、本構成では、
図5~
図7に示すように、また副走査方向42においても、複数点(例えば3点)で受ける構成としている。すなわち、
図2Aに示すように、軸受部12Aは、一例として、主走査方向41に5列、副走査方向42に3列の計15個が搬送テーブル3の裏面に配置される構成としている。
【0041】
なお、一例として、軸受部12Aの配置に合わせ、ガイド部材2cの上面における副走査方向42の幅は150mmとして、副走査方向42に等間隔に3列並べる配置としている。
【0042】
なお、後述のように、本構成では、搬送テーブル3を予めピッチング方向に湾曲させておくことで、ローリング方向よりもピッチング方向に湾曲しやすくなり、ガイド部材2cの主走査方向41の撓み形状に対して追従しやすくなる。
【0043】
また、軸受部12Bについては、一例として、受圧面を90mm角とする平面が正方形の軸受部とし、搬送テーブル3の中心部のみにおいてガイド部材2cの両側面を支持する構成としている。なお、軸受部12Bの配置に合わせて、一例として、ガイド部材2cの高さは120mmとする。
【0044】
なお、本構成では、駆動部9を、搬送テーブル3の副走査方向42における両端付近に2列配置して、2軸駆動させている。また、図示は省略しているが、走行中及び停止中において、2軸を個別に微動させることで、ヨーイング方向の位置補正ができる制御構成としている。そのように構成することで、搬送テーブル3のヨーイング方向の回転を抑制するようにしている。その際に、ガイド部材2cに非接触で対向する静圧軸受の軸受部12Bが、駆動部9の駆動力によってガイド部材2cに接触することを防止するために、搬送テーブル3の中心部に回転軸受部13を設けた。
【0045】
回転軸受部13は、
図2Cに示すように、搬送テーブル3の中心部の下面に配置されてリング状の軸受け部材で構成された回転軸受本体部13bと、搬送テーブル3の中心部の下面に配置された回転軸受本体部13bと軸受部12Aとの間に配置され縦断面U字状の回転軸受支持部13aとで構成されている。回転軸受本体部13bに対して搬送テーブル3は、回転軸受支持部13aにより、回転軸受本体部13bの回転軸周りに自在に回転可能となっている。このような構成により、ヨーイング方向の位置補正のために、中央のガイド2に対して搬送テーブル3が回転しても、その回転を回転軸受部13により吸収することができて、軸受部12Bは影響を受けないようにすることができる。
【0046】
なお、このとき、中央のガイド2の歪みによって生じるヨーイングについて、その回転ズレについては前述のように左右2つの駆動部9と不図示の制御機構で補正することが出来る。
【0047】
なお、駆動部9はリニアスケール等の自己位置把握機能を有するのが良く、リニアスケールで把握した位置に従ってインクを吐出することにより、印刷対象物6に対して正確に液滴を塗布することが出来る。
【0048】
なお、リニアスケール等の自己位置把握機能が温度変化によって伸縮する恐れがある場合は、それぞれのリニアスケール値を正確に校正できるように各リニアスケール近傍にレーザ測長器を設置しておき、走査の度にレーザ測長の測定結果と照合し、測定結果に基づいて、自己位置補正を行うのが良い。
【0049】
なお、その場合、走査時にリアルタイムで補正するのでも良いが、熱変形が、時間的に緩やかにしか変化しない場合は、1回前の走査時の測定結果に基づいて次の走査時の補正を行うのでも良い。また、レーザビームの経路へ一定温度に温調された空気を流すことで、より正確に校正ができる。
【0050】
ここで、一例として、搬送テーブル3の構成を
図5に示す。
図5の搬送テーブル3は、主走査方向41に3列、副走査方向42に3列の計9個の軸受部12Aが搬送テーブル3の裏面に配置される構成としている。
【0051】
ところで、搬送テーブル3では、可動部重量の軽量化という理由で、搬送テーブル3の厚さを薄くしたい要望がある。
【0052】
この要望に応えるべく、前記した
図5の搬送テーブル3の厚さを単に薄くした薄型の搬送テーブル73では、
図6A及び
図6Bに示すように、搬送テーブル73が幅方向(すなわち副走査方向42)沿いに波打ってしまい、搬送テーブル73が下向きに垂れることになる。具体的には、
図6Aは、搬送テーブル73の厚さが薄いため、幅方向(すなわち、
図6Aの左右方向すなわち副走査方向42)の3ヶ所の軸受部12Aで支持していない部分で、搬送テーブル73が垂れてしまう場合のインクジェット装置を正面から見た模式図である。
図6Aにおいて、符号73は、厚さを薄くした薄型の搬送テーブルを示し、符号74は、厚さを薄くした薄型の搬送テーブル73の周辺部を楕円形の領域として点線で示している。
図6Bは、薄型の搬送テーブル73のインクジェット装置の搬送テーブル73の変形状態を説明するための模式図である。搬送テーブル73の幅方向の3ヶ所の軸受部12Aで支持していない部分では、搬送テーブル73が下向きに垂れてしまっている。
【0053】
このような不具合を防止するためには、軸受部12Aの配置を増やして配置間隔を小さくすればよい。
図7は、薄型の搬送テーブル73の垂れを抑えるための軸受部12Aの配置例を示す図である。
図7では、一例として、軸受部12Aは、主走査方向41に5列、副走査方向42に5列の計25個が搬送テーブル73の裏面に配置される構成としている。これにより、
図5の搬送テーブル3よりも、軸受部12Aと軸受部12Aとの間隔を小さくすることができて、搬送テーブル73が下向きに垂れることを防止することができる。
【0054】
次に、
図1C及び
図3を用いて、基台部1とガイド2との構成について説明する。
【0055】
図1Cは
図1AのX―X線の矢視から見た断面図である。
図1Cに示すように、基台部1は、ガイド2の主走査方向41における所定位置、例えば中央部に位置する。基台部1は、主基準基台1aと、1つ以上の準基準基台1cとで少なくとも構成される。
【0056】
一例として、
図1Cでは、主走査方向41において、中央部に主基準基台1aが配置され、両端近傍に準基準基台1cが配置されている。
【0057】
一例として、主基準基台1aは第1分割基台として機能し、準基準基台1cは第2分割基台として機能する。
【0058】
主基準基台1aは、ガイド2と同一材料で構成され、上面を高精度に加工をされている。準基準基台1cも、主基準基台1aと同一材料で構成され、主走査方向41において主基準基台1aとは離れて配置され、詳細は後述するが、主基準基台1aと準基準基台1cとの上面の高さには段差90を設けている。
【0059】
本構成においては、一例として、主基準基台1a及び準基準基台1cはそれぞれ石材料で構成する。石材料の例としては御影石である。
【0060】
なお、主基準基台1a及び準基準基台1cは、それぞれ、概略直方体から成る構成として、軽量化のために所望の空洞部を設ける。準基準基台1cは、一例として、副走査方向42に細長い概略直方体でガイド2を支持する上面の平面度は、主基準基台1aと同等の高精度とする。
【0061】
なお、一例として、平面度が要求されるガイド2についても、石材料を用いる構成とする。
【0062】
主基準基台1aの上面でガイド2を直接的に支持するとともに、準基準基台1cの上面でも、ガイド2を直接的に支持している。
【0063】
よって、ガイド2、例えば、複数の分割ガイド部材2a,2bのそれぞれは、主基準基台1aの上面と、準基準基台1cの上面とで支持されている。
【0064】
なお、準基準基台1cの上面で複数の分割ガイド部材2a又は2bを支持するとき、準基準基台1cの上面を高精度の平面にすることと、
図1Cと
図1Bとに示すように準基準基台1cの下に高さ調整部8を副走査方向42の方向に複数(例えば2ヶ所)配置し、複数の高さ調整部8の上面で準基準基台1cを支持することとにより、準基準基台1c上に並べられた複数の分割ガイド部材2a又は2bの高さを精度良く調整できるようにしている。
【0065】
主基準基台1aとガイド2とは、同じ石材料を用いているため、熱変形によってひずみが生じる恐れも少なく、また、平面が高精度に担保された主基準基台1aに、ガイド2を強固に締結させることでガイド2の平面度も高精度に保たれる。このため、主基準基台1aとガイド2とは、一例として、ねじを介して締結する。なお、主基準基台1aと同じく平面度が高精度に担保された準基準基台1cとガイド2とについても、ガイド2の副走査方向42への蛇行を防止し、かつ高さ方向(すなわち、鉛直方向)の精度を出しやすくするため、準基準基台1cとガイド2とは、一例として、ねじを介して締結する構成とする。
【0066】
図3は、基台1とガイド2とについて、印刷対象物6の主面方向から表した平面図、すなわち鉛直方向の下向きに見た図である。
【0067】
ガイド2は、主走査方向41沿いに準基準基台1cと主基準基台1aと準基準基台1cとを跨ぐように設置され、ガイド2の自重は、準基準基台1cと、主基準基台1aと、準基準基台1cとに支持されている。一例として、ガイド2は、主走査方向41沿いに準基準基台1cと主基準基台1aと準基準基台1cとを跨ぐように延在しかつ互いに平行な複数個のレール状のガイド部材2cで構成することができる。なお、この実施の形態1では、基台部1として、主基準基台1aと、主走査方向41に主基準基台1aと距離を離して配置した準基準基台1cとで、ガイド2を直接支持する構成としている。
【0068】
なお、以下の説明において、
図3に示すように、主基準基台1aの鉛直方向の上方の領域を第1領域Aとし、第1領域A以外の第1領域Aの主走査方向41の両側のそれぞれの領域を第2領域Bとする。
【0069】
なお、本構成では、ガイド2は、副走査方向42において間隔をあけて3列、互いに平行に並べるガイド部材2cで構成している。これらの3列のガイド部材2cの上面高さは、少なくとも第1領域A内においては極力同一とし、準基準基台1c上においては、副走査方向42に対して3列のガイド部材2cの上面高さを極力同一にするのが望ましい。
【0070】
さらに、本構成では、主基準基台1aの上面の高さと、主基準基台1aと距離を離して配置した準基準基台1cの上面の高さとに段差90を設けて、主基準基台1a上のガイド部材2cの上面に対して、準基準基台1c上のガイド部材2cの上面の高さを、高く、もしくは低くする。
【0071】
つまり、準基準基台1cの上面と、主基準基台1aの上面とを、副走査方向42の方向については、平行にして、主走査方向41に対しては段差90を設ける。
【0072】
基台1をこのように構成することで、主基準基台1aと準基準基台1cとに跨るように設置したガイド部材2cを、主走査方向41沿いに上向き凸又は下向き凸に湾曲させる。
前記した本発明の効果を奏するためには、主基準基台1aと準基準基台1cとの段差90の範囲は、少なくとも0.1mm以上でかつ、湾曲によってガイドに加わる最大応力が許容応力以内である必要があり、例えば最大でも3mm以下の寸法とする。
【0073】
すなわち、ガイド部材2cを、主基準基台1aと、主基準基台1aと離れた場所に設けた主基準基台1aと高さの異なる準基準基台1cとによって支持することで、ガイド部材2cを鉛直面に対して湾曲した形状、例えばなだらかな曲線を描く形状、で支持することが出来る。このような具体的な形状の一例としては、上向き凸又は下向き凸に湾曲した形状として例示することができる。
【0074】
以上のように、基台部1とガイド2とを構成することで、ガイド2の上面に沿って軸受部12を介して搬送される搬送テーブル3は、第1領域A内においては平面状になり、第1領域A以外の第2領域Bにおいては、搬送テーブル3を主走査方向41に沿って鉛直面に対して湾曲した形状30(
図1C参照)にすることができる。
【0075】
その湾曲形状を
図4に詳しく示す。
図4は、搬送テーブル3を第2領域Bに搬送したときの搬送テーブル3の湾曲形状を示す図である。
【0076】
図4の中の点線で示した31の形状は、比較のために示した、搬送テーブル3の湾曲していない状態の形状を示している。搬送テーブル3が第1領域A内に搬送されると、31の形状になる。これに対して、
図4の中の実線で示した131は、搬送テーブル3の湾曲した状態の形状を示している。50は搬送テーブル3の主走査方向41の主基準基台1a側の端部の副走査方向42沿いの直線状態を示す矢印である。51は矢印50と反対側すなわち準基準基台1c側の端部の副走査方向42沿いの直線状態を示す矢印である。52、53は搬送テーブル3の主走査方向41に沿った方向の湾曲形状を示す矢印である。本構成では、主基準基台1aの上面と、準基準基台1cの上面とが副走査方向42には平行であるので、
図4の矢印50と矢印51とは平行になり、主基準基台1aの上面と準基準基台1cの上面との鉛直方向43に段差90を設けてあるので、
図4の矢印52、53は、主走査方向41に沿った方向に下向き凸の湾曲形状となる。つまり、本構成にすることで、第2領域Bにおいて、符号30(
図1C参照)で示すように、搬送テーブル3を主走査方向41の1つの方向に対してだけ湾曲させることができる。
【0077】
これに対して、比較例として、準基準基台1cを設けず、ガイド2も湾曲させない場合について、
図11A~
図12Bに基づいて説明する。
図11Aは、比較例のインクジェット装置110を上面から見た模式図である。
図11Bは、
図11AのY-Y方向から見た矢視図で、
図11Cは
図11AのX-X方向の断面図である。
【0078】
比較例の基台部101は、床面21上に高さ調整部8を介してフレーム部7を配置し、フレーム部7上の中央部に高さ調整部8を介して主基準基台111aを配置し、主基準基台111aの主走査方向41の隣接部に補助基台111bを配置し、補助基台111bの上部に複数の高さ調整部8を配置して構成されている。
【0079】
ガイド2は、主基準基台111aの上面と補助基台111bの上面とに配置された複数の高さ調整部8によって支持され、複数の高さ調整部8を調整して、ガイド2の上面が平面になるように設置されている。
【0080】
主基準基台111aは石材料で構成し、補助基台111bは、熱変形が大きく加工精度が出しづらいが、軽量化が容易でかつ安価である鋼材で構成している。
【0081】
この比較例の場合に、熱によって補助基台111bが変形を起こした場合の問題点を
図12A、
図12Bで説明する。
【0082】
図12Aは補助基台111bが熱変形した場合のインクジェット装置110の正面図、
図12Bは
図12Aで搬送テーブル3を第2領域Bに搬送した時の変形状態の詳細を示す図である。60は搬送テーブル3の主走査方向41の主基準基台111a側の端部の副走査方向42沿いの変形状態を示す矢印である。61は矢印60と反対側すなわち補助基台111b側の端部の副走査方向42沿いの変形状態を示す矢印である。62、63は搬送テーブル3の主走査方向41に沿った方向の形状を示す矢印である。
【0083】
比較例では、ガイド2の主走査方向41の中央部以外は、熱変形の大きい補助基台111bで支持されている。このため、補助基台111bに熱変形が生じた場合に、ガイド2を構成する3本のガイド部材2cは、
図12Aのように補助基台111bの上部で高さが揃わず、3本のガイド部材2cで構成される上面の平面性が損なわれる。その結果、ガイド2の上面に沿って軸受部12を介して搬送される搬送テーブル3は、
図12Bのように、主基準基台111a側の端部では矢印60に示すように直線に近い形状となるが、反対側のガイド2の先端側は矢印61に示すように大きく湾曲する。その結果、搬送テーブル3全体は、副走査方向42方向に湾曲するために、主走査方向41の曲げ(ピッチング方向の曲げ)に対する断面2次モーメントが大きくなって、主走査方向41に曲がりにくくなり(ピッチング方向に曲がりにくくなり)、主走査方向41に沿った方向には、矢印62、63のように直線的になってしまう。そのため、搬送テーブル3が第1領域Aに進入しても、搬送テーブル3の全面が第1領域A内に全て入るまでは、主基準基台111aの上面に倣って平面にはならない。
【0084】
なお、比較例の補助基台111bの変形の例として熱変形で説明したが、実際には、熱変形に限らず、精度の出しにくい鋼材で製作した補助基台111bの上面に高さ調整部8を複数個並べて平面調整しようとすると、副走査方向42に対して3本のガイド部材2cの高さを高精度に合わせることは極めて困難で、その調整誤差によっても、3本のガイドの高さの差が発生して、同様の問題が生じる。
【0085】
この比較例に対して、本実施の形態1では、ガイド2の両端部を高精度に平面度を担保した剛性の高い準基準基台1cの上面で支持し、準基準基台1cと主基準基台1aとの段差90を設けることで、ガイド2を構成する3本のガイド部材2cは、主基準基台1a上で高さを揃えることが出来るとともに、ガイド2の両端部でも、3本のガイド部材2cの副走査方向42に対する高さを揃えることができる。このため、第2領域Bにおいて、ガイド部材2cを主走査方向41に沿ってのみ湾曲させることができる。その結果、ガイド2の上面に沿う形で搬送される搬送テーブル3は、第2領域Bにあるときに、主走査方向41に対してのみ予め湾曲させておくことができるので、比較例と比べて、搬送テーブル3を主走査方向41に対して(ピッチング方向に)曲がり易くできる。その結果、搬送テーブル3が第2領域Bから第1領域A内に進入してくるに従って、搬送テーブル3の進入完了部分を、第1領域A内のガイド2の平面に順次倣わせることが出来る。
【0086】
なお、本実施の形態1の一例として、主基準基台1aの主走査方向41の長さを4m、主基準基台1a~1cを含む基台部1の主走査方向41の長さを13m、準基準基台1cの主走査方向41の長さは0.3m、主基準基台1aと準基準基台1cとの段差90は、0.5mmとする。
【0087】
なお、各ガイド部材2cは、主走査方向41において一つの部材で構成されるのが望ましいが、例えば、印刷対象物のサイズがG8(すなわち、2200mm x 2400mm)以上のように印刷対象物のサイズが大きい場合、ガイド部材2cが長尺となるために材料調達及び加工が困難となる。このため、ガイド部材2cとしては、複数のレール状の分割ガイド部材2a,2bを主走査方向41沿いに連結して用いるのが良い。
【0088】
本構成では、一例として、ガイド部材2cの必要長さが12.5mであり、1つの部材で加工することが困難なため、3本のガイド部材2cは、それぞれ主走査方向41において2つの分割ガイド部材2a,2bで構成するようにしている。
【0089】
その際、分割ガイド部材2a,2bの継目14が生じるが、継目14は、第1領域A内にあるのが望ましい。そのように構成することで、継目14において段差が生じにくい構成とすることができる。すなわち、ガイド部材2a,2bは、同時加工等で概略同一高さに加工できるため、継目14で段差が生じやすいか否かは、ガイド部材2a,2bを受ける基台1の平面度により大きな影響を受ける。第1領域A内では、基台部1の平面度を高くできるので、継目14で段差が生じにくくなる。
【0090】
なお、複数の継目14の主走査方向41における位置座標は、主走査方向41において互いに異なる位置に配置するのが良い。そのように構成することで、複数の軸受部12が主走査方向41沿いに同時に継目14を通過することを避けて、搬送テーブル3の振動を抑制することができる。
【0091】
なお、継目14は、ガイド2の材料よりも縦弾性係数の小さい封入材の材料により主走査方向41の隙間が埋められており、封入材は、継目14におけるガイド部材2cの上面よりも低い位置に配置されることが望ましい。そのように構成することで、軸受部12から噴出された空気が、継目14における隙間より漏れて、搬送テーブル3の振動源になることを防止することが出来る。封入材の一例としてはワックスである。
【0092】
このように前記実施の形態1によれば、主基準基台1aと準基準基台1cとの上面の高さには段差90を設け、ガイド2の主走査方向41における第1分割基台1aの鉛直方向の上方の領域を第1領域Aとし、ガイド2が両側の第2分割基台1cに支持されかつガイド2の主走査方向41における第1領域A以外の領域をそれぞれ第2領域Bとするとき、搬送テーブル3が、一方の第2領域Bから第1領域A、第1領域Aの更に反対側の他方の第2領域Bに亘って走行し、かつ、搬送テーブル3の第2領域B内での主走査方向41の変形量が、搬送テーブル3の第1領域A内での主走査方向41の変形量より大きくなるように構成している。このような構成とすることで、搬送テーブル3は、第2領域Bにおいて主走査方向41に予め湾曲することで主走査方向41に曲がりやすくなり、搬送テーブル3が、ラインヘッド5を配置される下部の範囲、すなわち、第1領域Aに進入するに伴って、搬送テーブル3の上面が、高精度な平面である主基準基台1aで支持されたガイド2の高精度な上面に沿う形となる。このため、搬送テーブル3の上面は、高精度な平面度を保つことが出来る。
【0093】
(実施の形態2)
実施の形態2については、実施の形態1と異なる部分について説明する。
【0094】
図9Aは、実施の形態2のインクジェット装置10を上面から見た模式図である。
図9Bは、
図9AのY-Y方向から見た矢視図である。
図9Cは
図9AのX-X方向の断面図である。
【0095】
実施の形態2の実施の形態1との違いは、
図9Cに示すように、主走査方向41における基台部1を構成する主基準基台1aと準基準基台1cとの間に、補助基台1bが配置され、補助基台1bとガイド2との間に複数の高さ調整部8が配置されていることである。
【0096】
一例として、主基準基台1aは第1分割基台として機能し、準基準基台1cは第2分割基台として機能し、補助基台1bは第3分割基台として機能する。
【0097】
実施の形態2では、実施の形態1と同様に、主基準基台1aと準基準基台1cとは、ガイド2と同一材料で構成され、上面を高精度に加工をされている。補助基台1bは、主基準基台1aとは異なる材料で、ガイド2より剛性が低くなるように構成される。本構成においては、一例として、主基準基台1a及び準基準基台1c、ガイド2は、それぞれ石材料で構成し、補助基台1bは、一例として、石材料よりも熱膨張係数が大きいため、熱変形も生じやすく、かつ加工精度が出しづらいが、軽量化が容易でかつ安価である鉄系材料、すなわち鋼材のフレーム構造とする。
【0098】
実施の形態2では、実施の形態1と同様に、主基準基台1aの上面でガイド2を直接的に支持するとともに、準基準基台1cの上面でも、ガイド2を直接的に支持している。
【0099】
一方、補助基台1bは、補助基台1bの上面でガイド2を直接的に支持するのではなく、1個又は複数個の高さ調整部8を介して、主走査方向41において不連続にガイド2を支持する構成とする。よって、ガイド2の複数のガイド部材2cのそれぞれは、主基準基台1aの上面と、準基準基台1cの上面と、補助基台1bの上に設置された複数の高さ調整部8の上面とで支持されている。
【0100】
そして、主基準基台1aの上面の高さと準基準基台1cの上面の高さとを異ならせて構成し、さらに補助基台1b上の高さ調整部8の上面の高さを、主基準基台1aの上面の高さと準基準基台1cの上面の高さとの間を補間するように、すなわち、主基準基台1aの上面の高さと準基準基台1cの上面の高さとの間の高さとなるように、高さ調整することで、ガイド2を緩やかに湾曲させるように構成している。
【0101】
なお、補助基台1bは、材料が異なることから主基準基台1a及び準基準基台1cよりも熱膨張率が大きいため、高さ方向に延びてガイド2を押し上げることが考えられるが、補助基台1bをガイド2よりも剛性を低くすることで、ガイド2を押し上げる作用を小さく抑えることができ、ガイド2の温度変化による湾曲形状の変化を小さく出来る。
【0102】
なお、補助基台1bとガイド2とでは構成材料が異なり、補助基台1bは、ガイド2よりも熱膨張率が大きい。このため、補助基台1bとガイド2とを、ねじ等を用いて移動不可に固定して完全拘束すると、補助基台1bの熱膨張によりガイド2にひずみが生じる恐れがある。そこで、補助基台1bとガイド2とは、ねじ等を用いて相対移動不可に固定する完全拘束を行うのでなく、ガイド2の自重を補助基台1bで支持して相対移動可能とする滑り拘束とするのが良い。すなわち、補助基台1bとガイド2とは、ねじ等で締結して全方向を拘束するのでなく、例えば高さ調整部8を補助基台1bにねじで互いに直交する主走査方向41と副走査方向42と鉛直方向43との3方向の全方向を拘束して固定する一方、ガイド2は、高さ調整部8の上面上にねじ等を介さずに、ガイド2の自重を高さ調整部8の上面で単に支持するだけで、主走査方向41沿いには相対移動可能な状態で支持する。このように構成することにより、高さ調整部8とガイド2との接触面同士は、互いにスライドが可能な状態としている。
【0103】
そのように構成することで、周囲の温度変化によって補助基台1bが伸縮した場合においても、補助基台1bとガイド2とが相対移動可能ゆえに、ガイド2にひずみが生じることを防止し、補助基台1b側からガイド2にかかる負荷を軽減している。
【0104】
なお、補助基台1bの熱変形によってガイド2の上面の平面度が悪化することも考えられるが、そのような場合には、高さ調整部8にパッシブの受動型回転機構を持たせても良い。そのように構成することで、主に補助基台1bの熱変形によって補助基台1bとガイド2との対向面の角度が変わった場合でも、パッシブの回転機構により補助基台1bとガイド2との対向面の角度を変化させて追随させて、ガイド2にひずみが生じにくくすることができる。
【0105】
以上の通り、実施の形態2のように、主基準基台1aと準基準基台1cとの間に、補助基台1bを配置し、補助基台1bの上部に複数の高さ調整部8を配置する構成にすることによって、ガイド2の支持点の間隔を小さく出来て、実施の形態1のように主基準基台1aと準基準基台1cのみで支持する場合に比べて、ガイド部材2cの高さを低くすることが出来き、ガイド部材2cのサイズを小さくすることができる。
【0106】
よって、軽量化及びコストダウンを目的として、例えば主基準基台1aと準基準基台1cとは、高精度な加工が行いやすい石材料を用いる構成とし、補助基台1bには、軽量化及びコストダウンが行いやすい鉄系材料を用いる構成としつつ、第1領域A内においては、搬送テーブル3の上面の平面度を高精度に保つことができる。
【0107】
なお、本実施の形態2では、基台部1をフレーム部7の上に主基準基台1aと準基準基台1cと補助基台1bとを搭載する構成としたが、
図13Aのように、フレーム部7に補助基台1bに相当する上向きに突出した段7bを設けて、補助基台1bを無くしても良く、必要に応じて準基準基台1cの外側にも、高さ調整部8を配置しても良い。
【0108】
なお、
図13Bに示すように、フレーム部7を用いずに、高さ調整部8を介して基台部1を直接保持する構成としても良い。
【0109】
(実施の形態3)
実施の形態3について、実施の形態2と異なる部分について説明する。
【0110】
【0111】
実施の形態3の実施の形態2との違いは、
図10A、
図10B、
図10Cに示すように、ガントリー4とラインヘッド5との間にガイド44及び駆動部45を備えて、ガントリー4に対して、ラインヘッド5を副走査方向42に相対移動できるように構成されていることである。なお、ラインヘッド5は不図示のラインヘッド位置検出手段と制御手段によって、ガントリー4上を副走査方向42に、搬送テーブル3の動きと同期して精密に移動できるように構成されている。
【0112】
前記の構成にすることによって、ガイド2の真直性が完全な直線ではなく、印刷対象物6がガントリー4の下を通過する際に、印刷対象物6がガントリー4に対して副走査方向42に位置ズレを起こす場合であっても、そのズレに追従するようにラインヘッド5を移動させながら、ラインヘッド5からインクを吐出することによって、印刷対象物6に対して一直線状に印刷することが出来る。
【0113】
(実施の形態1~3)
以上の実施の形態1~3の構成によって、基台部1を構成する部材のうち、石材料等の高精度な加工を行いやすい材料を用いることが望ましい主基準基台1a及び準基準基台1cのサイズを最小限に抑制しつつ、インクジェット等でプロセス処理を行うために走行精度が必要な範囲においては、印刷対象物6を高精度で搬送することができる。そのため、重量、コスト、及び搬送等についての問題を解消することができる。
【0114】
なお、インクジェット装置10に限らず、大型の処理対象物に何らかのプロセス処理を行う装置において、本実施の形態1~3の搬送ステージを活用することで、インクジェット装置の場合と同様の効果が得られる。
【0115】
従って、前記実施の形態1~3によれば、例えばガイド2の主走査方向41の中央部に主基準基台1aを配置し、ガイド2の両端近傍に準基準基台1cを主基準基台1aと高さを変えて配置することで、第2領域B内におけるガイド2を主走査方向41に沿って湾曲させ、その上に軸受部12を介して搬送する搬送テーブル3を第2領域B内で予め主走査方向41に沿って湾曲させておくことによって、主走査方向41に湾曲して変形しやすくなるように構成している。
【0116】
言い換えれば、前記構成により、第2領域Bにおいて、搬送テーブル3を予めピッチング方向に湾曲させておくことで、搬送テーブル3のローリング方向の曲げ剛性よりもピッチング方向の曲げ剛性を小さくすることで、ガイド部材2cの主走査方向41の撓みに対して追従しやすくしている。
【0117】
よって、ラインヘッド5などの処理部で所定の処理を実施する第1領域Aの主基準基台1aのサイズを必要最小限に抑制しつつ、処理範囲における移動精度を担保することができる。
【0118】
すなわち、長尺で高精度な搬送を要求される搬送ステージ20において、石材料等の高精度な加工を必要とする材料で構成される主基準基台1a及び準基準基台1cを最小限のサイズに抑え、主基準基台1aと準基準基台1cとで段差90を設けて、ガイド2の中央部と両端部とを支持する構成にすることで、装置のコストダウン及び調達容易化及び軽量化を実現することができる。そのため、例えば、大型の印刷対象物に対して一度の搬送でラインヘッド5からインクを高精度に塗布するインクジェット装置10のコストダウンを図ることができ、それにより、印刷対象物6の生産効率を向上させることができる。
【0119】
なお、実施の形態1~3では、搬送テーブル3の上面で印刷対象物6を保持する構成としているが、搬送テーブル3と印刷対象物を保持するテーブルが別部材であっても、搬送テーブルと共に同様に変形できる構成であれば、印刷対象物を保持するテーブルが搬送テーブル3の上に配置される構成であっても構わない。
【0120】
なお、前記様々な実施の形態又は変形例のうちの任意の実施の形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施の形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施の形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施の形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の前記態様にかかる搬送ステージとそれを使用したインクジェット装置は、大型の印刷対象物にインク等を塗布する装置に有効であり、有機ELの発光体、ホール輸送層、又は電子輸送層の印刷、又は、カラーフィルターの印刷等で、大型の印刷対象物に効率良くインク等の材料を塗布する装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 基台部
1a 主基準基台
1b 補助基台
1c 準基準基台
2 ガイド
2a、2b レール状の分割ガイド部材
2c レール状のガイド部材
3 搬送テーブル
4 ガントリー
5 ラインヘッド
6 印刷対象物
7 フレーム部
7b 上向きに突出した段
8 高さ調整部
9 駆動部
10 インクジェット装置
12A ガイド2の上面で支持する軸受部
12B ガイド2の側面で支持する軸受部
13 回転軸受部
13a 回転軸受支持部
13b 回転軸受本体部
14 継目
18 くさび機構
20 搬送ステージ
21 床面
30 第2領域Bでの搬送テーブルの主走査方向に沿って鉛直面に対して湾曲した状態の形状
31 第1領域Aでの搬送テーブルの湾曲していない状態の形状
41 主走査方向
42 副走査方向
43 上下方向
44 ガイド
45 駆動部
50~53 搬送テーブルの変形形状を示す矢印
60~63 比較例の搬送テーブルの変形形状を示す矢印
73 厚さを薄くした搬送テーブル
74 厚さを薄くした搬送テーブル周辺部の範囲を示すための囲い
90 段差
101 比較例の基台部
110 比較例のインクジェット装置
111a 主基準基台
111b 補助基台
131 第1領域Aでの搬送テーブルの湾曲した状態の形状
A 第1領域
B 第2領域