(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】免震用ダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/023 20060101AFI20221202BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20221202BHJP
F16F 9/34 20060101ALI20221202BHJP
F16F 9/508 20060101ALI20221202BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20221202BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20221202BHJP
F16F 9/54 20060101ALI20221202BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
F16F15/023 A
F16F15/04 D
F16F9/34
F16F9/508
F16F7/12
F16F7/08
F16F9/54
E04H9/02 331A
E04H9/02 351
(21)【出願番号】P 2018143202
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】392009283
【氏名又は名称】平和発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】露木 保男
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真成
(72)【発明者】
【氏名】荻野 伸行
(72)【発明者】
【氏名】北川 麻記
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 和希
(72)【発明者】
【氏名】▲けい▼ 超
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053128(JP,A)
【文献】特開2017-166173(JP,A)
【文献】特開平10-280727(JP,A)
【文献】特開平09-268802(JP,A)
【文献】特開2018-003853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/023
F16F 15/04
F16F 9/34
F16F 9/508
F16F 7/12
F16F 7/08
F16F 9/54
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ダンパと、
前記油圧ダンパを水平方向回転可能に構造物へ取り付ける構造物側取付装置と、
前記油圧ダンパを水平方向回転可能に地盤へ取り付ける地盤側取付装置とを備え、
前記構造物側取付装置と前記地盤側取付装置
とは、伸縮方向が一方向に拘束されて伸縮を妨げる抵抗力を発揮する抵抗部材と、前記抵抗部材の一端を前記油圧ダンパに連結するダンパ側ブラケットとを有し、
前記抵抗部材は、摩擦ダンパ或いは鋼材ダンパであって、前記油圧ダンパが発生する減衰力が所定荷重を超える場合にのみ伸縮
し、
前記構造物側取付装置は、前記抵抗部材と、前記抵抗部材の一端を前記油圧ダンパに連結する前記ダンパ側ブラケットと、前記抵抗部材の前記伸縮の可不可を切換える構造物側ロック装置を有し、
前記地盤側取付装置は、前記抵抗部材と、前記抵抗部材の一端を前記油圧ダンパに連結する前記ダンパ側ブラケットと、前記抵抗部材の前記伸縮の可不可を切換える地盤側ロック装置を有し、
前記構造物側取付装置における前記抵抗部材の前記所定荷重と、前記地盤側取付装置における前記抵抗部材の前記所定荷重の値とが異なっている
ことを特徴とする免震用ダンパ。
【請求項2】
油圧ダンパと、
前記油圧ダンパを水平方向回転可能に構造物へ取り付ける構造物側取付装置と、
前記油圧ダンパを水平方向回転可能に地盤へ取り付ける地盤側取付装置とを備え、
前記構造物側取付装置と前記地盤側取付装置の一方または両方は、伸縮方向が一方向に拘束されて伸縮を妨げる抵抗力を発揮する抵抗部材と、前記抵抗部材の一端を前記油圧ダンパに連結するダンパ側ブラケットとを有し、
前記油圧ダンパは、伸縮速度を第一速度より低い低速、第一速度より高く第二速度より低い中速、および第二速度より高い高速に区分して、前記伸縮速度の区分の切換わりで減衰係数が切換わり、前記伸縮速度が前記中速域にある場合に前記減衰係数が最大となる減衰力特性を有し、
前記抵抗部材は、摩擦ダンパ或いは鋼材ダンパであって、前記油圧ダンパが発生する減衰力が所定荷重を超える場合にのみ伸縮し、
前記所定荷重は、前記伸縮速度が前記第二速度となる場合に前記油圧ダンパが発揮する減衰力よりも高い荷重に設定される
ことを特徴とする免震用ダンパ。
【請求項3】
前記構造物側取付装置と前記地盤側取付装置の一方または両方は、前記抵抗部材を前記構造物或いは前記地盤に取り付ける固定側ブラケットと、前記ダンパ側ブラケットを前記構造物或いは前記地盤に連結するとともに前記抵抗部材の前記伸縮に伴う前記ダンパ側ブラケットの移動を案内するガイド部材とを有する
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の免震用ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、免震用ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
免震装置は、地盤と構造物との間に介装されるボールベアリング支承、滑り支承や積層ゴムといった免震支承装置を備え、構造物を地盤に対して変位可能に支持しており、地震動の構造物への伝達を絶縁するようになっている。また、免震装置は、上記のような免震支承装置の他に、地盤と構造物との間に介装される油圧ダンパを備えており、構造物の振動を油圧ダンパが発生する減衰力で減衰させて構造物の振動を抑制するようになっている。
【0003】
2016年に発生した熊本地震では、震源の近傍で長周期の強い地震動が観測されており、このような地震動が入力されると構造物が地盤に対して非常に大きく変位する。他方、油圧ダンパのストローク長には限りがあって、長周期地震動の入力で構造物が大きく変位すると免震用ダンパが最伸長或いは最収縮して免震支承装置による地震動の絶縁効果が減殺されて構造物に振動が伝達されてしまう。
【0004】
また、油圧ダンパの伸縮速度が高速域に達する大きな揺れに対して油圧ダンパの減衰力が過大となると油圧ダンパ自身が破損したりする可能性もある。
【0005】
このような問題に対して、油圧ダンパの強度を向上しつつストローク長を長くしようとしても、油圧ダンパの長尺化のために座屈、大型化、重量化といった問題があり、製造も非常に困難を伴うため、長周期地震動に対応可能なストローク長と強度を備える油圧ダンパは現実的でない。
【0006】
そこで、油圧ダンパのストローク長の確保と破損を防止するために、油圧ダンパと摩擦ダンパとを直列に接続した制振用ダンパや免震用ダンパが提案されている。具体的には、制振用ダンパは、油圧ダンパと摩擦ダンパを直列に接続して構成されており、構造物の梁間に介装されている(たとえば、特許文献1参照)。また、免震用ダンパは、油圧ダンパと摩擦ダンパを直列に接続しており、摩擦ダンパが地盤上を走行する台車と、構造物に取り付けた摩擦面と、摩擦面に当接する滑り面と、滑り面と台車との間に介装されて滑り面を摩擦面に向けて押圧する皿ばねとを備えて構成されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平09-268802号公報
【文献】特開2011-94708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開平09-268802号公報に開示された制振用ダンパは油圧ダンパと摩擦ダンパを単に直列に接続する構造で非常に長尺となっており、この構造を免震用ダンパとして採用して構造物と地盤との間に介装する場合、軸方向に大きな軸力が作用すると座屈してしまう恐れがある。また、地震動の入力によって油圧ダンパと摩擦ダンパとが水平方向に回転してしまい、地震動が終息した後に免震層にて変位が残留して油圧ダンパが元の取付姿勢に対して斜めになってしまう問題もある。
【0009】
また、特開2011-94708号公報に開示された免震用ダンパは、摩擦ダンパが構造物と地盤との両者に挟み込まれる構造を採用しているので、地震動の入力によって構造物と地盤との鉛直方向距離が大きく変動すると滑り面を摩擦面に押し付ける皿ばねの荷重が変動してしまう。したがって、この免震用ダンパにおける摩擦ダンパは、地震動の入力状況によって伸縮し始める荷重が変動してしまうので、免震用ダンパは、所期の減衰力を発揮できない恐れがある。さらに、摩擦ダンパの変位方向が拘束されていないので、水平方向に自由に移動してしまい地震動が終息した後に変位が残留して油圧ダンパが元の取付姿勢に対して斜めになってしまう問題もある。
【0010】
そこで、本発明は、長周期地震動にも対応できるストローク長を確保しつつ、座屈を防止でき、免震用ダンパおよび免震用ダンパの周辺部材の破損を防止しつつ安定した減衰力を発生できるとともに地震終息後の免震層における残留変位を抑制できる免震用ダンパの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、本発明の免震用ダンパは、油圧ダンパと、油圧ダンパを水平方向回転可能に構造物へ取り付ける構造物側取付装置と、油圧ダンパを水平方向回転可能に地盤へ取り付ける地盤側取付装置とを備え、構造物側取付装置と地盤側取付装置とは、伸縮方向が一方向に拘束されて伸縮を妨げる抵抗力を発揮する抵抗部材と、抵抗部材の一端を油圧ダンパに連結するダンパ側ブラケットとを有し、抵抗部材は、摩擦ダンパ或いは鋼材ダンパであって、油圧ダンパが発生する減衰力が所定荷重を超える場合にのみ伸縮し、構造物側取付装置は、抵抗部材と、抵抗部材の一端を油圧ダンパに連結するダンパ側ブラケットと、抵抗部材の伸縮の可不可を切換える構造物側ロック装置を有し、地盤側取付装置は、抵抗部材と、抵抗部材の一端を油圧ダンパに連結するダンパ側ブラケットと、抵抗部材の伸縮の可不可を切換える地盤側ロック装置を有し、構造物側取付装置における抵抗部材の前記所定荷重と、地盤側取付装置における抵抗部材の所定荷重の値とが異なっている。
【0012】
このように構成された免震用ダンパによれば、油圧ダンパと抵抗部材とが直列配置されるのでストローク長を確保でき、抵抗部材が構造物側取付装置と地盤側取付装置の一方または両方に組み込まれているので、油圧ダンパと抵抗部材の座屈を防止できる。また、抵抗部材は、構造物側取付装置或いは地盤側取付装置に組み込まれているので、構造物と地盤との鉛直方向の距離が変化しても一定の抵抗力を発揮できる。さらに、このように構成された免震用ダンパによれば、地震動に応じて減衰力の特性を変更でき、構造物の振動を効果的に抑制できる。
【0013】
また、免震用ダンパにおける構造物側取付装置と地盤側取付装置の一方または両方は、抵抗部材を構造物或いは地盤に取り付ける固定側ブラケットと、ダンパ側ブラケットを構造物或いは地盤に連結するとともに抵抗部材の伸縮に伴うダンパ側ブラケットの移動を案内するガイド部材とを有してもよい。このように構成された免震用ダンパによれば、ダンパ側ブラケットが構造物或いは地盤に対して抵抗部材の伸縮方向への移動が案内されるので、ダンパ側ブラケットから抵抗部材と油圧ダンパに曲げモーメントが入力されづらくなり、座屈を効果的に防止できるとともに、抵抗部材の伸縮方向の拘束をガイド部材で行えるので抵抗部材の設計自由度が向上する。
【0015】
また、他の発明の免振用ダンパは、油圧ダンパと、油圧ダンパを水平方向回転可能に構造物へ取り付ける構造物側取付装置と、油圧ダンパを水平方向回転可能に地盤へ取り付ける地盤側取付装置とを備え、構造物側取付装置と地盤側取付装置の一方または両方は、伸縮方向が一方向に拘束されて伸縮を妨げる抵抗力を発揮する抵抗部材と、抵抗部材の一端を前記油圧ダンパに連結するダンパ側ブラケットとを有し、油圧ダンパは、伸縮速度を第一速度より低い低速、第一速度より高く第二速度より低い中速、および第二速度より高い高速に区分して、伸縮速度の区分の切換わりで減衰係数が切換わり、伸縮速度が中速域にある場合に減衰係数が最大となる減衰力特性を有し、抵抗部材は、摩擦ダンパ或いは鋼材ダンパであって、油圧ダンパが発生する減衰力が所定荷重を超える場合にのみ伸縮し、所定荷重は、伸縮速度が第二速度となる場合に油圧ダンパが発揮する減衰力よりも高い荷重に設定される。このように構成された免震用ダンパによれば、比較的揺れの小さい中小規模の地震動に対しては免震効果を損なわず、かつ、大振幅の地震動に対しては高い減衰力を発して、効果的に振動を抑制できる。
【0016】
さらに、このように構成された免震用ダンパによれば、吸収する振動エネルギ量が多くなって構造物の制振効果を向上できる。
【発明の効果】
【0017】
よって、本発明の免震用ダンパによれば、長周期地震動にも対応できるストローク長を確保しつつ、座屈を防止でき、免震用ダンパおよび免震用ダンパの周辺部材の破損を防止しつつ安定した減衰力を発生できるとともに地震終息後の免震層における残留変位を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施の形態における免震用ダンパを免震支承装置とともに構造物と地盤との間に介装した状態における側面図である。
【
図2】一実施の形態における免震用ダンパの油圧ダンパの減衰力特性図である。
【
図3】一実施の形態における免震用ダンパの油圧ダンパの概略断面図である。
【
図4】一実施の形態における免震用ダンパの油圧ダンパの調圧弁の圧力流量特性図である。
【
図5】一実施の形態における免震用ダンパの油圧ダンパの調圧弁の一例における断面図である。
【
図6】一実施の形態における免震用ダンパの油圧ダンパの減衰部の圧力流量特性図である。
【
図7】一実施の形態における免震用ダンパの摩擦ダンパの減衰力特性図である。
【
図8】一実施の形態における免震用ダンパの油圧ダンパの変位に対する減衰力の特性を示した図である。
【
図9】一実施の形態における免震用ダンパの摩擦ダンパの変位に対する減衰力の特性を示した図である。
【
図10】一実施の形態における免震用ダンパの変位に対する減衰力の特性を示した図である。
【
図11】一実施の形態の第一変形例における免震用ダンパの側面図である。
【
図12】一実施の形態の第二変形例における免震用ダンパの側面図である。
【
図13】一実施の形態の第三変形例における免震用ダンパの側面図である。
【
図14】一実施の形態の第三変形例における免震用ダンパの地盤側取付装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図示した実施の形態に基づいて、この発明を説明する。一実施の形態における免震用ダンパD1は、
図1に示すように、油圧ダンパODと、油圧ダンパODを水平方向回転可能に構造物Sへ取り付ける構造物側取付装置SBと、油圧ダンパODを水平方向回転可能に地盤Gへ取り付ける地盤側取付装置GBとを備えており、積層ゴムで構成された免震支承装置Mとともに構造物Sと地盤Gとの間に介装されて使用され免震装置の一部として機能する。なお、免震支承装置Mは、図示したところでは、積層ゴムで構成されているが、構造物Sを滑り支承や転がり支承するものであってもよい。
【0020】
以下、免震用ダンパD1の各部について詳細に説明する。まず、油圧ダンパODは、構造物Sと地盤Gとが相対変位する際に伸縮して構造物Sの振動を抑制する減衰力を発揮する。そして、伸縮速度を第一速度Vaと第一速度Vaより高い第二速度Vbとで区分して、第一速度Vaより低い低速、第一速度Vaより高く第二速度Vbより低い中速、および第二速度Vbより高い高速とする。すると、油圧ダンパODの伸縮速度に対して発揮する減衰力の特性である減衰力特性は、本実施の形態では、
図2に示すように、伸縮速度の区分の切換わりで減衰係数が切換わり、伸縮速度が中速域にある場合に減衰係数が最大となるように設定されている。より詳細には、本実施の形態の油圧ダンパODの減衰力特性は、伸縮速度が低速域にある場合に減衰係数が低く、伸縮速度が中速域にある場合に減衰係数が高くなり、伸縮速度が高速域にある場合に減衰係数が再度低くなる特性に設定されている。よって、本実施の形態の油圧ダンパODの減衰力特性は、第一速度Vaと第二速度Vbでそれぞれ減衰力が切換わる切換わり点Paと切換わり点Pbを持ち、伸縮速度が低速から高速へ遷移すると減衰係数が低、高、低の順に変化する特性となっている。
【0021】
このように減衰力特性が設定された油圧ダンパODにあっては、伸縮速度が低い場合には、低い減衰力を発揮するので免震支承装置Mによる構造物Sへの振動絶縁性を阻害せず、伸縮速度が高速に達する大きな振動が構造物Sに作用する場面では高い減衰力を発揮するので、構造物Sの振動を高減衰力で抑制できる。よって、この油圧ダンパODを用いれば、比較的揺れの小さい中小規模の地震動に対しては免震効果を損なわず、かつ、大振幅の地震動に対しては高い減衰力を発して、効果的に振動を抑制できる。また、油圧ダンパODは、大振幅の地震動に対して高減衰力を発揮するので、構造物の過大な変位を防止できる。
【0022】
また、油圧ダンパODは、伸縮速度が中速域に到達すると、減衰係数を大きくして低減衰力から高減衰力へ変化する減衰力特性を示すので、低減衰力から高減衰力への切換わりにおいて構造物Sへ急激な加速度変動を作用させずに済み、構造物Sの保護と構造物S内の人や機器への過剰な負荷をかけずに済む。
【0023】
このような油圧ダンパODの減衰力特性を実現するための一例として、たとえば、油圧ダンパODの構造を以下のように構成すればよい。油圧ダンパODは、
図3に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されてシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン2と、シリンダ1内に移動自在に挿入されてピストン2に連結されるロッド3と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側通路4と圧側通路5と、リザーバRと、圧側室R2とリザーバRとを連通する排出通路6と、伸側通路4と圧側通路5と排出通路6のそれぞれに設けた減衰部V1,V2,V3とを備えて構成される。
【0024】
シリンダ1内は、ピストン2によって伸側室R1と圧側室R2とに仕切られている。また、シリンダ1の外周側には、シリンダ1を覆う外筒7が設けられており、シリンダ1と外筒7との間の環状隙間でリザーバRを形成している。外筒7の
図3中左端は、内周にロッド3が挿通されてロッド3の軸方向の移動を案内する環状のロッドガイド8によって閉塞されている。ロッド3は、シリンダ1内に挿入されていて、一端がピストン2に連結されるとともに他端がシリンダ1外に突出している。ロッド3は、
図1に示すように、構造物側取付装置SB或いは地盤側取付装置GBへの連結を可能とするアイ型ブラケット3aを備えている。
【0025】
また、シリンダ1の
図3中右端は、ボトム部材9にて閉塞され、外筒7の
図3中右端は蓋10によって閉塞されている。シリンダ1は、ボトム部材9とともに、外筒7の両端に固定される前述のロッドガイド8と蓋10で挟持されて外筒7内に収容固定されている。蓋10は、
図1に示すように、構造物側取付装置SB或いは地盤側取付装置GBへの連結を可能とするアイ型ブラケット10aを備えている。
【0026】
伸側室R1内と圧側室R2内には、この場合、作動油が充填されており、リザーバR内にも作動油が貯留されている。本例では、油圧ダンパODの作動媒体として作動油を使用しているが、作動油以外の液体を使用してもよく、水、水溶液等の使用も可能である。
【0027】
ピストン2には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側通路4と圧側通路5が設けられている。伸側通路4には、減衰部V1が設けられ、圧側通路5には、減衰部V2が設けられている。減衰部V1は、調圧弁PVと調圧弁PVに並列されるリリーフ弁RVとを備えており、伸側通路4を伸側室R1から圧側室R2へ通過する作動油の流れのみを許容しつつこの流れに対して抵抗を与え、伸側通路4を一方通行の通路に設定する。減衰部V2は、減衰部V1と同様に調圧弁PVと調圧弁PVに並列されるリリーフ弁RVとを備えており、圧側通路5を圧側室R2から伸側室R1へ通過する作動油の流れのみを許容しつつこの流れに抵抗を与え、圧側通路5を一方通行の通路に設定している。なお、伸側通路4および圧側通路5は、本例では、ともに、ピストン2に設けられているが、設置箇所はピストン2に限られず、たとえば、シリンダ1外で伸側室R1と圧側室R2を連通するように構成されてもよい。
【0028】
ボトム部材9には、圧側室R2とリザーバRとを連通する排出通路6と吸込通路11が設けられている。排出通路6には、減衰部V3が設けられている。減衰部V3は、減衰部V1,V2と同様に、調圧弁PVと調圧弁PVに並列されるリリーフ弁RVとを備えており、排出通路6を圧側室R2からリザーバRへ通過する作動油の流れのみを許容しつつこの流れに対して抵抗を与え、排出通路6を一方通行の通路に設定している。吸込通路11には、リザーバRから圧側室R2へ向かう作動油の流れのみを許容するチェック弁12が設けられており、吸込通路11は、このチェック弁12によってリザーバRから圧側室R2へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。なお、排出通路6と吸込通路11は、本例では、ともに、ボトム部材9に設けられているが、設置箇所はボトム部材9に限られない。
【0029】
上記のように構成された油圧ダンパODは、伸長する場合、ピストン2の
図3中左方への移動によって伸側室R1が圧縮されて圧側室R2が拡大されるので、作動油は伸側通路4を介して伸側室R1から圧側室R2へ移動する。また、油圧ダンパODの伸長時には、ロッド3がシリンダ1から退出するため、ロッド3のシリンダ1から退出した体積分の作動油が吸込通路11を介してリザーバRからシリンダ1内に供給される。そして、伸側室R1から圧側室R2へ向かう作動油の流れに対して減衰部V1が抵抗を与えるので、伸側室R1内の圧力が上昇して伸側室R1と圧側室R2の圧力に差が生じ、これにより、油圧ダンパODは、伸長を抑制する伸側減衰力を発揮する。
【0030】
また、油圧ダンパODは、収縮する場合、ピストン2の
図3中右方への移動によって圧側室R2が圧縮されて伸側室R1が拡大されるので、作動油は圧側通路5を介して圧側室R2から伸側室R1へ移動する。また、油圧ダンパODの収縮時には、ロッド3がシリンダ1内に侵入するため、ロッド3のシリンダ1内へ侵入した体積分の作動油が排出通路6を介してシリンダ1内からリザーバRに排出される。そして、圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油の流れに対して減衰部V2が、圧側室R2からリザーバRへ向かう作動油の流れに対して減衰部V3が、それぞれ抵抗を与える。これにより、圧側室R2内の圧力が上昇して圧側室R2と伸側室R1の圧力に差が生じて、油圧ダンパODは、収縮を抑制する圧側減衰力を発揮する。
【0031】
つづいて、減衰部V1,V2,V3について説明する。減衰部V1,V2,V3は、ともに同一の構成の調圧弁PVと、調圧弁PVに並列配置されるリリーフ弁RVとを備えている。調圧弁PVは、ばねで附勢されて常閉型に設定されており、上流の圧力に応じて開弁度合を変化させて、作動油の流れに抵抗を与えるようになっている。ここで、減衰部V1,V2,V3を通過する流量は、油圧ダンパODが伸縮する際の伸縮速度に比例する。よって、油圧ダンパODの伸縮速度が低速域にある場合には、減衰部V1,V2,V3を通過する流量は少なく、伸縮速度が高速域にある場合には前記流量は多く、伸縮速度が低速域と高速域の中間である中速域にある場合には、前記流量は中程度となる。そして、調圧弁PVの単体の圧力流量特性は、
図4に示すように、油圧ダンパODの伸縮速度が低速域にある場合には、伸縮速度の上昇に対して圧力の増加割合が小さい特性を示す。また、調圧弁PVの単体の圧力流量特性は、他方、伸縮速度が低速域と高速域の中間である中速域に達すると、伸縮速度の上昇に対して圧力が大きく増加する特性を示す。
【0032】
なお、調圧弁PVは、たとえば、特許第5508883号に開示されている構造を採用すれば実現できる。具体的には、調圧弁PVは、
図5に示すように、通路の途中に設けた弁座100と、通路中に移動自在に収容されて弁座100に離着座する弁体101と、弁体101を弁座100へ向けて附勢するばね102と、弁体101が弁座100からの後退量が所定量となると弁体101に衝合して弁体101の弁座100からのそれ以上の後退を規制するストッパ103とを備えればよい。このように構成された調圧弁PVは、伸縮速度が低速域では、上流の圧力によってばね102が押し縮められ弁体101が弁座100から離座して開弁し、伸縮速度の上昇に伴って弁体101の弁座100から後退量が増加する。このように、伸縮速度が低速域にある場合、伸縮速度の上昇によって開弁度合が大きくなるので、調圧弁PVの圧力流量特性は、
図4に示すように、傾きが小さい特性を示す。他方、伸縮速度が上昇して中速域に達すると、弁体101の後退量が増加し、伸縮速度が中速域に達すると弁体101がストッパ103に衝合して弁体101のそれ以上の弁座100からの後退が規制される。このように、伸縮速度が中速域にある場合、伸縮速度が上昇しても開弁度合が一定のままとなるので、調圧弁PVの圧力流量特性は、
図4に示すように、傾きが大きな特性を示す。よって、伸縮速度が低速域から中速域へ上昇すると、調圧弁PVは、傾きが大きくなって圧力上昇が大きくなる特性を示す。なお、伸縮速度が中速域にある場合における調圧弁PVの圧力流量特性は、流量の二乗に比例するオリフィス特性であっても流量に比例するポート特性であってもよい。
【0033】
また、ストッパ103によって弁体101の後退量を規制する以外にも、弁体101よりも下流にオリフィスを設ける構造も採用できる。このような調圧弁PVでは、弁座100と弁体101との間の流路面積が所定値以上となると、弁座100と弁体101とで作動油の流れに与える抵抗よりもオリフィスが作動油の流れに与える抵抗の方が大きくなるように設定すればよい。前記所定値は、オリフィスの流路面積により設定でき、このように構成される調圧弁PVは、伸縮速度が低速域では、上流の圧力によってばね102が押し縮められ弁体101が弁座100から離座して開弁し、伸縮速度の上昇に伴って弁体101の弁座100から後退量が増加する。このように、伸縮速度が低速域にある場合、伸縮速度の上昇によって開弁度合が大きくなるので、調圧弁PVの圧力流量特性は、
図4に示すように、伸縮速度の増加に対して圧力増加の小さい特性を示す。他方、伸縮速度が上昇して中速域に達すると、弁体101の後退量が増加し、流路面積が所定値以上となり、オリフィスの特性が表れるようになり、絞り部の流路面積は一定であるので、調圧弁PVは、伸縮速度の増加に対する圧力増加が大きくなる特性を示す。
【0034】
他方、リリーフ弁RVは、前後の差圧が所定の開弁圧に達すると開弁するが、伸縮速度が高速域に達するまでは開弁しないようにその開弁圧が設定されている。リリーフ弁RVの開弁後の圧力流量特性は、伸縮速度の上昇に対して圧力の増加割合が小さい特性となっている。よって、調圧弁PVとリリーフ弁RVを組み合わせた減衰部V1,V2,V3は、
図6に示す圧力流量特性を備える。具体的には、減衰部V1,V2,V3は、伸縮速度が低速域および中速域にある場合には、調圧弁PVの特性が示し、伸縮速度が高速域に達するとリリーフ弁RVが開弁するのでリリーフ弁RVの特性を示す。
【0035】
油圧ダンパODは、以上のように構成されるが、前述のように、油圧ダンパODが伸長すると、作動油は伸側通路4を介して伸側室R1から圧側室R2へ移動し、ロッド3のシリンダ1から退出した体積分の作動油が吸込通路11を介してリザーバRからシリンダ1内に供給される。そして、伸側室R1から圧側室R2へ向かう作動油の流れに対して減衰部V1が抵抗を与えるので、これにより、油圧ダンパODは、伸長を抑制する伸側減衰力を発揮する。ここで、減衰部V1の圧力流量特性は、
図6に示す通りである。油圧ダンパODが伸長する際に、減衰部V1を通過する流量は、伸長速度である伸縮速度に比例する。よって、油圧ダンパODが発揮する減衰力特性は、
図2に示すように、減衰部V1の圧力流量特性と同様の特性となる。それゆえ、油圧ダンパODは、伸縮速度が低速域では減衰係数が小さく伸縮速度の上昇に対して減衰力の増加割合が小さい低減衰力を発揮する。また、油圧ダンパODは、伸縮速度が低速域から中速域へ増加すると減衰係数が切換わって大きくなり、伸縮速度の上昇に対して減衰力の増加割合が大きな減衰力特性を発揮する。さらに、油圧ダンパODは、伸縮速度が中速域から高速域へ増加するとリリーフ弁RVが開弁するので減衰係数が切換わって小さくなり、伸縮速度の上昇に対して減衰力の増加割合が小さくなるが高減衰力を発揮する。なお、伸縮速度が中速域にある場合、油圧ダンパODは、伸縮速度の増加に応じて、前記低減衰力から前記高減衰力へと変化する減衰力を発揮する。
図2に示したところでは、低速域と中速域の境の第一速度Vaを60cm/sとし、中速域と高速域の境の第二速度Vbを90cm/sとしているが、これは一例であって、後述するように構造物の仕様等によって最適な値に設定すればよい。
【0036】
他方、油圧ダンパODが収縮すると、作動油は圧側通路5を介して圧側室R2から伸側室R1へ移動し、ロッド3のシリンダ1内へ侵入した体積分の作動油が排出通路6を介してシリンダ1内からリザーバRに排出される。そして、圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油の流れに対して減衰部V2が、圧側室R2からリザーバRへ向かう作動油の流れに対して減衰部V3が、それぞれ抵抗を与える。ここで、減衰部V2,V3の圧力流量特性も減衰部V1と同様に
図6に示す通りである。よって、油圧ダンパODは、
図2に示すように、伸縮速度が低速域では減衰係数が小さく伸縮速度の上昇に対して減衰力の増加割合が小さい低減衰力を発揮する。また、油圧ダンパODは、伸縮速度が低速域から中速域へ増加すると減衰係数が切換わって大きくなり、伸縮速度の上昇に対して減衰力の増加割合が大きな減衰力特性を発揮する。さらに、油圧ダンパODは、伸縮速度が中速域から高速域へ増加するとリリーフ弁RVが開弁するので減衰係数が切換わって小さくなり、伸縮速度の上昇に対して減衰力の増加割合が小さくなるが高減衰力を発揮する。なお、伸縮速度が中速域にある場合、油圧ダンパODは、伸縮速度の増加に応じて、前記低減衰力から前記高減衰力へと変化する減衰力を発揮する。
【0037】
なお、前述の油圧ダンパODの具体的な構成は、
図2に示す減衰力特性を実現するための構成の一例であって、減衰部V1,V2,V3の構成や回路構成を変更して油圧ダンパODを構成してもよい。
【0038】
つづいて、構造物側取付装置SBは、構造物Sに取り付けられて免震用ダンパD1の荷重を受け止める反力壁15と、反力壁15に取り付けられて反力壁15を介して油圧ダンパODを構造物Sに連結するブラケット16とを備えている。ブラケット16は、油圧ダンパODのアイ型ブラケット10a内に挿入される軸16aを備えており、油圧ダンパODは軸16aを中心として水平方向への回転が許容されている。よって、油圧ダンパODは、構造物側取付装置SBによって、構造物Sに対して水平方向への回転が許容された状態で構造物Sに連結される。
【0039】
地盤側取付装置GBは、地盤Gに取り付けられて免震用ダンパD1の荷重を受け止める固定側ブラケット17と、油圧ダンパODに連結されるダンパ側ブラケット18と、抵抗部材としての摩擦ダンパFDとを備えている。固定側ブラケット17は、地盤Gに固定されるベース17aと、ベース17aに取り付けられる反力壁17bとを備えている。また、ダンパ側ブラケット18は、油圧ダンパODのアイ型ブラケット3a内に挿入される軸18aを備えており、油圧ダンパODは軸18aを中心として水平方向への回転が許容されている。
【0040】
そして、ダンパ側ブラケット18は、固定側ブラケット17のベース17aにガイド部材としてのリニアガイド19によって取り付けられている。リニアガイド19は、ベース17aに
図1中左右方向に沿って取り付けられてガイドレール19aと、ガイドレール19aを走行するスライダ19bとを備えている。ダンパ側ブラケット18は、スライダ19bに取り付けられていて、ガイドレール19aに沿って往復可能となっている。よって、ダンパ側ブラケット18は、ガイド部材としてのリニアガイド19によって移動が案内されており、地盤Gに対して
図1中左右方向に移動できる。なお、ガイド部材は、ダンパ側ブラケット18の地盤Gに対する移動を案内できればよいので、リニアガイド19以外の装置、たとえば、ロッドとロッドの外周に摺接するスライダとでなるガイド装置等を利用してもよい。
【0041】
また、摩擦ダンパFDは、第一ロッド20と、第一ロッド20に対して相対移動可能な第二ロッド21と、第一ロッド20の基端であって第二ロッド21に対向する面に取り付けられる摩擦板22と、第二ロッド21の基端に取り付けられて摩擦板22に当接する摩擦板23とを備えている。
【0042】
また、摩擦ダンパFDの一端である第一ロッド20の先端は、ダンパ側ブラケット18に固定的に取り付けられており、摩擦ダンパFDの他端である第二ロッド21の先端は、固定側ブラケット17の反力壁17bに固定的に取り付けられている。そして、ダンパ側ブラケット18は、ガイド部材としてのリニアガイド19によって移動方向が
図1中左右方向に拘束されているので、摩擦ダンパFDの第一ロッド20は第二ロッド21に対して
図1中左右方向のみに移動が制限される。このようにして摩擦ダンパFDは、伸縮方向が一方向に拘束されており、
図1中左右方向へのみの伸縮が許容されている。なお、本実施の形態では、抵抗部材としての摩擦ダンパFDの伸縮方向は、免震ダンパD1を構造物Sと地盤Gとの間に取り付けた初期状態において、油圧ダンパODの伸縮方向と同一方向となるように設定されている。このようにすると、油圧ダンパODと摩擦ダンパFDの伸縮方向とが一致するので、免震
用ダンパD1のストローク長を効率的に長くできるので好ましい。
【0043】
また、ダンパ側ブラケット18は、固定側ブラケット17の反力壁17bに対して
図1中で左右方向へ遠近するのみであり、ダンパ側ブラケット18が固定側ブラケット17に対して相対移動しても摩擦ダンパFDの摩擦板22と摩擦板23との当接面に作用する押付荷重が変化しない。
【0044】
よって、摩擦ダンパFDは、第一ロッド20と第二ロッド21を
図1中左右方向へ遠近させる荷重が作用する場合、その荷重が摩擦板22,23間の静止摩擦力に等しい所定荷重以下であると第一ロッド20と第二ロッド21とが相対移動せず剛体棒として振る舞い、前記所定荷重を超える荷重が作用すると第一ロッド20と第二ロッド21とが遠近して伸縮しつつ、摩擦板22,23間に生じる摩擦力で前記伸縮を妨げる抵抗力を発揮する。そして、ダンパ側ブラケット18は、固定側ブラケット17の反力壁17bに対して
図1中で左右方向へ遠近するのみであるので、ダンパ側ブラケット18が固定側ブラケット17に対して相対移動しても摩擦ダンパFDの摩擦板22と摩擦板23との間で生じる摩擦力は一定となる。よって、摩擦ダンパFDの伸縮速度に対して発生する荷重の特性は、
図7に示すように、伸縮し始めると発生荷重(摩擦力)が一定となる特性となる。なお、図示はしないが、摩擦板22と第一ロッド20との間に摩擦板22を摩擦板23へ押圧するばね等の弾性体を設けてもよいし、摩擦板23と第二ロッド21との間に摩擦板23を摩擦板22へ押圧するばね等の弾性体を設けてもよい。
【0045】
なお、本実施の形態では、摩擦ダンパFDは、ガイド部材としてのリニアガイド19によってダンパ側ブラケット18が地盤Gに対して移動が案内されることで、伸縮方向が一方向に拘束されるが、摩擦ダンパFD自身が自身の伸縮方向を一方向に拘束するものであってもよい。具体的には、摩擦ダンパFDは、筒と、筒内に移動自在に挿入されるロッドと、ロッドに設けたピストンと、ピストンの外周に装着されて筒の内周に摺接する摩擦部材と、筒に設けられて筒に対するロッドの移動を案内する環状のロッドガイドと備え、ロッドガイド内にロッドが摺動自在に挿入されて、筒にピストンの外周に設けた摩擦部材が摺接することで、伸縮方向をロッドの軸方向のみに拘束されるものでもよい。摩擦ダンパFDは、自身によるか他の装置によるかは問わず、伸縮方向が一方向に拘束されていればよく、一端と他端とが軸周りに相対回転できるものでもよい。
【0046】
このように構成された免震用ダンパD1は、以下のように動作する。まず、油圧ダンパODが発生する減衰力が所定荷重以下である場合の動作について説明する。この場合、摩擦ダンパFDに作用する引張或いは圧縮方向の荷重は、油圧ダンパODが発生する減衰力に等しいので、摩擦ダンパFDは伸縮せずに剛体棒として振る舞う。このような状況では、免震用ダンパD1が発揮する力は、油圧ダンパODが発生する減衰力に等しくなる。対して、油圧ダンパODが発生する減衰力が所定荷重を超えるようになると、摩擦ダンパFDに作用する引張或いは圧縮方向の荷重も所定荷重を超えるので、摩擦ダンパFDが伸縮するようになり免震用ダンパD1が発生する力は摩擦ダンパFDが発揮する摩擦力に等しくなる。
【0047】
よって、油圧ダンパODのみが伸縮する場合には免震用ダンパD1は、油圧ダンパODによって減衰力を発生し、摩擦ダンパFDが伸縮するようになると免震用ダンパD1は、摩擦ダンパFDの摩擦力によって減衰力を発生する。
【0048】
油圧ダンパODを一定周期で変位させた場合における変位と減衰力の関係は、
図8に示すようになる。所定荷重を
図8中で油圧ダンパODが発生する所定荷重を油圧ダンパODの最大減衰力よりも少し小さく設定すれば、油圧ダンパODが伸縮して減衰力が
図8中で最大値近傍となると摩擦ダンパFDが伸縮し始める。摩擦ダンパFDが変位に対して発生する摩擦力は、
図9に示すように、変位によらず一定となる特性となる。よって、油圧ダンパODと摩擦ダンパFDが直列に接続された免震用ダンパD1は、変位に対して
図10に示すような減衰力を発揮し、
図10中破線で示した油圧ダンパODのみの場合に比較して、摩擦ダンパFDが伸縮する分だけ、ストローク長が延びて、
図10中の特性線で囲まれる面積がはるかに大きくなり、より多くの振動エネルギを吸収できるのが理解できる。
【0049】
よって、この免震用ダンパD1は、抵抗部材としての摩擦ダンパFDを油圧ダンパODに直列に接続しており、摩擦ダンパFDが伸縮すると減衰力が摩擦ダンパFDの摩擦力を超えることはないので、油圧ダンパODに過大な負荷がかからずに済み、油圧ダンパODの大型化や重量化を招かずにストローク長を確保でき、長周期の地震動にも対応して構造物Sの振動を抑制できる。また、免震用ダンパD1の最大減衰力は、摩擦ダンパFDの摩擦力に制限されるから、油圧ダンパODの破損、構造物側取付装置SBや地盤側取付装置GBの破損を防止でき、免震用ダンパD1自身の破損を防止できる。さらに、免震用ダンパD1の最大減衰力は、摩擦ダンパFDの摩擦力に制限されるから、構造物側取付装置SBの構造物S側の取付部位や地盤側取付装置GBの地盤G側の取付部位といった免震用ダンパD1の周辺部材の破損も防止できる。
【0050】
このように本発明の免震用ダンパD1は、油圧ダンパODと、油圧ダンパODを水平方向回転可能に構造物Sへ取り付ける構造物側取付装置SBと、油圧ダンパODを水平方向回転可能に地盤Gへ取り付ける地盤側取付装置GBとを備え、地盤側取付装置GBは、伸縮方向が一方向に拘束されて所定荷重を超える荷重が伸縮方向に作用すると伸縮するとともに伸縮を妨げる抵抗力を発揮する抵抗部材と、抵抗部材の一端を油圧ダンパODに連結するダンパ側ブラケット18とを有し、抵抗部材は、摩擦ダンパFDとされている。
【0051】
このように構成された免震用ダンパD1によれば、油圧ダンパODと抵抗部材(摩擦ダンパFD)とが直列配置されるのでストローク長を確保でき、抵抗部材(摩擦ダンパFD)が地盤側取付装置GBに組み込まれているので、油圧ダンパODと抵抗部材(摩擦ダンパFD)の座屈を防止できる。また、抵抗部材(摩擦ダンパFD)が地盤側取付装置GBに組み込まれているので、構造物Sと地盤Gとの鉛直方向の距離が変化しても一定の抵抗力(摩擦力)を発揮できる。
【0052】
さらに、抵抗部材(摩擦ダンパFD)の伸縮方向が一方向に拘束されているので、地震動が終息すると、伸縮方向以外の方向への残留変位がないので、油圧ダンパODの取付姿勢が元通りとなる。
【0053】
以上より、本発明の免震用ダンパD1によれば、長周期地震動にも対応できるストローク長を確保しつつ、座屈を防止でき、免震用ダンパD1および免震用ダンパD1の周辺部材の破損を防止しつつ安定した減衰力を発生できるとともに地震終息後の免震層の残留変位を抑制できる。なお、抵抗部材は、前述したところでは、摩擦ダンパFDとされているが、摩擦ダンパFDに限られず、鋼材ダンパとされてもよい。なお、抵抗部材が伸縮するとは、抵抗部材の一端と他端とが水平方向で相対移動することを示しており、たとえば、U字状の鋼材ダンパが荷重を受けても両端が水平方向で相対変位するように配置すれば抵抗部材の伸縮に該当することは当然である。つまり、抵抗部材としての摩擦ダンパ或いは鋼材ダンパの形状にはとらわれず、摩擦ダンパ或いは鋼材ダンパが免震用ダンパD1のストローク方向で変形或いは変位して抵抗力を発揮するような態様で使用されれば、抵抗部材の伸縮に当たる。
【0054】
また、本実施の形態の免震用ダンパD1では、地盤側取付装置GBは、抵抗部材を地盤Gに取り付ける固定側ブラケット17と、ダンパ側ブラケット18を地盤Gに連結するとともに抵抗部材の伸縮に伴うダンパ側ブラケット18の移動を案内するガイド部材(リニアガイド19)とを備えている。このように構成された本実施の形態の免震用ダンパD1によれば、ダンパ側ブラケット18が地盤Gに対して抵抗部材の伸縮方向への移動が案内されるので、ダンパ側ブラケット18から抵抗部材と油圧ダンパODに曲げモーメントが入力されづらくなるので、座屈を効果的に防止できる。また、抵抗部材の伸縮方向の拘束をガイド部材(リニアガイド19)で行えるので、抵抗部材の設計自由度が向上する。
【0055】
所定荷重は、抵抗部材が伸縮する荷重範囲と伸縮しない荷重範囲を確定する値であるが、この所定荷重を
図2中の切換り点Pbにおける油圧ダンパODの減衰力よりも高くする場合、油圧ダンパODが発生する減衰力も大きくなるので、免震用ダンパD1が減衰力を発生することで構造物Sに作用する加速度が大きくはなるが、油圧ダンパODの破損を防止しつつも免震用ダンパD1が吸収する振動エネルギ量が多くなり、効果的に構造物Sの振動を抑制できる。つまり、油圧ダンパODの伸縮速度が第二速度Vbとなる場合に油圧ダンパODが発揮する減衰力よりも高い荷重に所定荷重を設定すると、油圧ダンパODの破損を防止しつつ、免震用ダンパD1が吸収する振動エネルギ量が多くなって構造物Sの振動を効果的に抑制できる。
【0056】
これに対して、この所定荷重を
図2中の切換り点Paにおける油圧ダンパODの減衰力よりも高くするとともに切換り点Pbにおける油圧ダンパODの減衰力よりも低くすることもできる。このようにする場合、免震用ダンパD1が発生する減衰力は低くなるので、免震用ダンパD1が減衰力を発揮することによって構造物Sに作用する加速度が低くなるので、地震動発生時における構造物S内の居住性を良好にできる。つまり、油圧ダンパODの伸縮速度が第一速度Va以上で第二速度Vb以下となる場合に油圧ダンパODが発揮する減衰力の範囲に所定荷重を設定すると、地震動の発生時の構造物S内の居住性が良好に維持できる。
【0057】
前述したところから理解できるように、免震用ダンパD1が発生する減衰力は、抵抗部材(摩擦ダンパFD)が伸縮するようになると、抵抗部材(摩擦ダンパFD)が発生する抵抗力に等しくなる。つまり、免震用ダンパD1が発生する減衰力は、抵抗部材(摩擦ダンパFD)が伸縮するようになると抵抗部材(摩擦ダンパFD)が発生する抵抗力に等しくなって頭打ちとなる。したがって、免震用ダンパD1の減衰力特性を油圧ダンパODの減衰力特性と同様に伸縮速度に対して二つの切換り点を持ち、切換り点で減衰係数が変化するような特性としたい場合、油圧ダンパODの減衰部V1,V2,V3におけるリリーフ弁RVを省略してもよい。
【0058】
さらに、本実施の形態では、地盤側取付装置GBのみに抵抗部材を設けていたが、構造物側取付装置SBに抵抗部材を設けてもよい。この場合、
図11に示す一実施の形態の第一変形例の免震用ダンパD2のように、構造物側取付装置SBは、構造物Sに取り付けられて免震用ダンパD2の荷重を受け止める固定側ブラケット25と、油圧ダンパODに連結されるダンパ側ブラケット26と、抵抗部材としての摩擦ダンパFDとを備えていればよい。
【0059】
固定側ブラケット25は、構造物Sに固定されるベース25aと、ベース25aに取り付けられる反力壁25bとを備えている。また、ダンパ側ブラケット26は、油圧ダンパODのアイ型ブラケット10a内に挿入される軸26aを備えており、油圧ダンパODは軸26aを中心として水平方向への回転が許容されている。
【0060】
そして、ダンパ側ブラケット26は、固定側ブラケット25のベース25aにガイド部材としてのリニアガイド27によって取り付けられている。ダンパ側ブラケット26は、ガイド部材としてのリニアガイド27によって移動が案内されており、構造物Sに対して
図11中左右方向に移動できる。
【0061】
このようにすれば、抵抗部材としての摩擦ダンパFDが地盤側取付装置GBと構造物側取付装置SBの両方に設けられるので、免震用ダンパD2のストローク長を確保しやすくなり、抵抗部材の長さを短くできるので免震用ダンパD2の座屈防止効果が高くなる。
【0062】
このように、抵抗部材としての摩擦ダンパFDが地盤側取付装置GBと構造物側取付装置SBの両方に設ける場合、
図12に示す一実施の形態の第二変形例における免震用ダンパD3ように、地盤側取付装置GBの抵抗装置の伸縮の可不可を切換える地盤側ロック装置30と、構造物側取付装置SBの抵抗部材の伸縮の可不可を切換える構造物側ロック装置31とを設け、地盤側取付装置GBの抵抗部材が伸縮し始める所定荷重の値と構造物側取付装置SBの抵抗部材が伸縮し始める所定荷重の値を異なるようにしてもよい。
【0063】
地盤側ロック装置30は、ベース17aに設けられて、ダンパ側ブラケット18に設けた図示しない孔に出入り可能なピン30aと、ピン30aを孔に抜き差しする駆動源30bとを備えている。そして、地盤側ロック装置30は、ピン30aを孔に挿入してダンパ側ブラケット18の移動が不能とし、摩擦ダンパFDを伸縮不能なロック状態とする。反対に、地盤側ロック装置30は、ピン30aを孔から抜くとダンパ側ブラケット18の移動を可能とし、摩擦ダンパFDを伸縮可能なフリー状態とする。構造物側ロック装置31は、地盤側ロック装置30と同様に、ダンパ側ブラケット26に設けた図示しない孔内に出入り可能なピン31aと、ピン31aを孔に抜き差しする駆動源31bとを備えていればよい。なお、前述した地盤側ロック装置30と構造物側ロック装置31の具体構造は一例であって、地盤側ロック装置30と構造物側ロック装置31は、抵抗部材を伸縮可能な状態と伸縮不能な状態とに切換えできる装置であればよい。
【0064】
このように構成された第二変形例における免震用ダンパD3では、構造物側取付装置SBにおける抵抗部材と、地盤側取付装置GBにおける抵抗部材を、それぞれ独立してロック状態とフリー状態に切換可能であって、構造物側取付装置SBにおける抵抗部材と地盤側取付装置GBにおける抵抗部材の抵抗力が異なっている。構造物側取付装置SBにおける抵抗部材をロックして地盤側取付装置GBにおける抵抗部材をフリーとする場合と、構造物側取付装置SBにおける抵抗部材をフリーとして地盤側取付装置GBにおける抵抗部材をロックする場合とで、免震用ダンパD2の最大減衰力と変位に対する減衰力の特性を変更できる。よって、このように構成された免震用ダンパD3によれば、地震動に応じて減衰力の特性を変更でき、構造物Sの振動を効果的に抑制できる。なお、地盤側ロック装置30と構造物側ロック装置31の駆動源30bの制御にあたっては、地震動が大きければ減衰力を大きくする必要があるので、たとえば、地震計または変位計で地震動を検知し、検知した地震動の大きさに応じて地盤側ロック装置30と構造物側ロック装置31を制御すればよい。
【0065】
また、
図13に示した第三変形例の免震用ダンパD4のように、地盤側取付装置GB1を構成してもよい。地盤側取付装置GB1は、ダンパ側ブラケット32と、抵抗部材としての摩擦ダンパFD1とを備えている。摩擦ダンパFD1は、
図13および
図14に示すように、地盤Gに固定したプレート33と、プレート33上を
図13中左右方向のみにスライド可能なスライダ34と、プレート33のスライダ34に対向する対向面に設けた摩擦板35と、スライダ34に設けられて摩擦板35に当接する摩擦板36とを備えて構成されている。プレート33は、
図14に示すように、側方に溝33aが設けられている。そして、スライダ34は、チャンネル状とされており、両端が溝33aに嵌合して、プレート33に対して一方向への移動のみが許容される態様で取り付けられている
。なお、摩擦板35を直接にスライダ34に当接させて摩擦力を発生する場合には、摩擦板36を省略でき、逆に、摩擦板36を直接にプレート33に当接させて摩擦力を発生する場合には、摩擦板35を省略できる。また、図示はしないが、摩擦板35とプレート33との間に摩擦板35を摩擦板36へ押圧するばね等の弾性体を設けてもよいし、摩擦板36とスライダ34との間に摩擦板36を摩擦板35へ押圧するばね等の弾性体を設けてもよい。
【0066】
また、ダンパ側ブラケット32は、スライダ34に取り付けた反力部32aと、反力部32aの側部に設けられて油圧ダンパODのアイ型ブラケット3a内に挿入される軸32cを備えた連結部32bとを備えている。
【0067】
このように第三変形例の免震用ダンパD4では、抵抗部材としての摩擦ダンパFD1は、摩擦ダンパFD1が自身の伸縮方向を一方向に拘束するとともに、ダンパ側ブラケット32の移動についてもの摩擦ダンパFD1の伸縮方向と同方向のみを許容し他の方向への移動について不能となるように拘束されている。
【0068】
このように構成された免震用ダンパD4にあっても、油圧ダンパODと、油圧ダンパODを水平方向回転可能に構造物Sへ取り付ける構造物側取付装置SBと、油圧ダンパODを水平方向回転可能に地盤Gへ取り付ける地盤側取付装置GBとを備え、地盤側取付装置GB1は、伸縮方向が一方向に拘束されて所定荷重を超える荷重が伸縮方向に作用すると伸縮するとともに伸縮を妨げる抵抗力を発揮する抵抗部材と、抵抗部材の一端を油圧ダンパODに連結するダンパ側ブラケット32とを有し、抵抗部材は、摩擦ダンパFDとされている。
【0069】
このように構成された免震用ダンパD4によれば、油圧ダンパODと抵抗部材(摩擦ダンパFD1)とが直列配置されるのでストローク長を確保でき、抵抗部材(摩擦ダンパFD1)が地盤側取付装置GBに組み込まれているので、油圧ダンパODと抵抗部材(摩擦ダンパFD1)の座屈を防止できる。また、抵抗部材(摩擦ダンパFD1)が地盤側取付装置GB1に組み込まれているので、構造物Sと地盤Gとの鉛直方向の距離が変化しても一定の抵抗力(摩擦力)を発揮できる。
【0070】
さらに、抵抗部材(摩擦ダンパFD1)の伸縮方向が一方向に拘束されているので、地震動が終息すると、伸縮方向以外の方向への残留変位がなく免震層における残留変位が抑制されて、油圧ダンパODの取付姿勢が元通りとなる。
【0071】
以上より、本発明の免震用ダンパD4によれば、長周期地震動にも対応できるストローク長を確保しつつ、座屈を防止でき、安定した減衰力を発生できるとともに地震終息後の免震層の残留変位を抑制できる。なお、抵抗部材は、前述したところでは、摩擦ダンパFD1とされているが、摩擦ダンパFD1に限られず、プレート33と、スライダ34と、プレート33とスライダ34との間に介装される鋼材ダンパとで構成されてもよい。さらに、本実施の形態では、地盤側取付装置GB1のみに抵抗部材を設けていたが、構造物側取付装置SBに抵抗部材を設けてもよく、このようにすると、免震用ダンパD2,D3と同様に、免震用ダンパD4のストローク長を確保しやすくなり、抵抗部材の長さを短くできるので免震用ダンパD4の座屈防止効果が高くなる。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0073】
17,25・・・固定側ブラケット、18,26,32・・・ダンパ側ブラケット、19・・・リニアガイド(ガイド部材)、31・・・構造物側ロック装置、30・・・地盤側ロック装置、D1,D2,D3,D4・・・免震用ダンパ、G・・・地盤、GB1・・・地盤側取付装置、FD,FD1・・・摩擦ダンパ、OD・・・油圧ダンパ、S・・・構造物、SB・・・構造物側取付装置