(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】記録装置、記録方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/349 20210101AFI20221202BHJP
【FI】
A61B5/349
(21)【出願番号】P 2019011333
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515087064
【氏名又は名称】土谷 健
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦原 貴司
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 晃司
(72)【発明者】
【氏名】土谷 健
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502556(JP,A)
【文献】特開2001-037730(JP,A)
【文献】特表2013-523345(JP,A)
【文献】特開2015-160138(JP,A)
【文献】Hiroshi Nakagawa et al.,"Rapid High Resolution Electroanatomical Mapping : Evaluation of a New System in a Canine Atrial Linear Lesion Model",Circulation: Arrhythmia and Electrophysiology,2012年03月05日,Vol 5, Issue 2,Pages 417-424
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極を有するセンサデバイスを介して生体信号を取得する取得部と、
前記生体信号を用いて、前記複数の電極の組み合わせで規定される主チャンネルの双極電位を記録する記録部と、
前記双極電位の経時変化に基づいて描かれた各波形の時間軸上の所定位置にマークを付与する付与部と、
前記各波形に付与された前記マークの位置を調整する調整部と、を備え、
前記調整部は、前記主チャンネルに含まれる電極を含む参照チャンネルの双極電位
のうち所定の参照範囲内の波形に付与されたマークに基づいて、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を調整する、
記録装置。
【請求項2】
前記参照チャンネルは少なくとも二つ以上有り、
前記調整部は、少なくとも二つ以上の前記参照チャンネル中の前記マークの時間的な平均位置に、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を移動させる、
請求項
1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記参照チャンネルは少なくとも二つ以上有り、
前記調整部は、前記参照範囲内に前記主チャンネルの前記マークが付与されていなかった場合、少なくとも二つ以上の前記参照チャンネル中の前記マークの時間的な平均位置に、前記主チャンネルの前記双極電位中にマークを補完する、
請求項
1または請求項
2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記調整部は、複数の前記主チャンネルの前記双極電位に対して、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を調整する処理を、前記位置の調整を順次繰り返し行う、
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項5】
複数の電極を有するセンサデバイスを介して生体信号を取得する取得部と、
前記生体信号を用いて、前記複数の電極のうち第1電極及び第2電極の組み合わせで規定される主チャンネルの双極電位を記録する記録部と、
前記双極電位の経時変化に基づいて描かれた各波形の時間軸上の所定位置にマークを付与する付与部と、
前記各波形に付与された前記マークの位置を調整する調整部と、を備え、
前記調整部は、前記第1電極及び前記第2電極のうちのいずれか一方と第3電極の組み合わせで規定される参照チャンネルの双極電位に基づいて、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を調整する、
記録装置。
【請求項6】
複数の電極を有するセンサデバイスを介して生体信号を取得するステップと、
前記生体信号を用いて、前記複数の電極の組み合わせで規定される主チャンネルの双極電位を記録するステップと、
前記双極電位の経時変化に基づいて描かれた各波形の時間軸上の所定位置にマークを付与するステップと、
前記各波形に付与された前記マークの位置を調整するステップと、を含み、
前記調整するステッ
プは、前記主チャンネルに含まれる電極を含む参照チャンネルの双極電位
のうち所定の参照範囲内の波形に付与されたマークに基づいて、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を調整する
ステップを含む、
コンピュータによって実行される記録方法。
【請求項7】
複数の電極を有するセンサデバイスを介して生体信号を取得するステップと、
前記生体信号を用いて、前記複数の電極のうち第1電極と第2電極の組み合わせで規定される主チャンネルの双極電位を記録するステップと、
前記双極電位の経時変化に基づいて描かれた各波形の時間軸上の所定位置にマークを付与するステップと、
前記各波形に付与された前記マークの位置を調整するステップと、を含み、
前記調整するステップは、前記第1電極及び前記第2電極のうちのいずれか一方と第3電極の組み合わせで規定される参照チャンネルの双極電位に基づいて、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を調整するステップを含む、コンピュータによって実行される記録方法。
【請求項8】
複数の電極を有するセンサデバイスを介して生体信号を取得する
ことと、
前記生体信号を用いて、前記複数の電極の組み合わせで規定される主チャンネルの双極電位を記録する
ことと、
前記双極電位の経時変化に基づいて描かれた各波形の時間軸上の所定位置にマークを付与する
ことと、
前記各波形に付与された前記マークの位置を調整する
ことと、
をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記調整する
ことは、前記主チャンネルに含まれる電極を含む参照チャンネルの双極電位
のうち所定の参照範囲内の波形に付与されたマークに基づいて、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を調整すること
を含む、
プログラム。
【請求項9】
複数の電極を有するセンサデバイスを介して生体信号を取得することと、
前記生体信号を用いて、前記複数の電極のうち第1電極と第2電極の組み合わせで規定される主チャンネルの双極電位を記録することと、
前記双極電位の経時変化に基づいて描かれた各波形の時間軸上の所定位置にマークを付与することと、
前記各波形に付与された前記マークの位置を調整することと、
をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記調整することは、前記第1電極及び前記第2電極のうちのいずれか一方と第3電極の組み合わせで規定される参照チャンネルの双極電位に基づいて、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を調整することを含む、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双極電位を記録する記録装置、記録方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1および非特許文献2には、心臓の中で電位を記録する方法の一つとして、心臓内に挿入するなどして心臓壁に接触した電極カテーテルによる単極電位記録法と双極電位記録法とが開示されている。単極電位記録法によれば、局所電位の極性や波形を反映しやすいメリットがあるが、電極から離れた比較的広い範囲の電位を記録してしまうことで、局所の興奮タイミングを誤認してしまうデメリットがある。一方、双極電位記録法は、2つの単極電位記録の差分である為、局所電位の極性や波形は反映されにくいデメリットがあるが、局所の興奮タイミングをより正確に記録できるメリットがある。
心臓における興奮伝播を捉え、不整脈の診断と治療に役立てるには、このような2種類の電位記録法のデメリットを相補できるような新たな心臓の興奮解析技術が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Stevenson WG, Soejima K: Recording techniques for clinical electrophysiology. J Cardiovasc Electrophysiol 2005;16:1017-1022.
【文献】Namba T, Todo T, Yao T, Ashihara T, Haraguchi R, Nakazawa K, Ikeda T, Ohe T: Identification of local myocardial repolarization time by bipolar electrode potential. J Electrocardiol 2007;40(Suppl.6):S97-S102.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実際、従来の双極電位記録法を用いて心臓の興奮状態を解析するとき、双極電極を構成する2つの単極電極のうちのいずれかの電極の心臓壁への接触不良やノイズに起因して電位波形を正確に記録できなくなることがあった。また、双極電極を構成する2つの単極電極の配列が興奮の伝わる方向と直交する場合には、その2つの単極電極で記録される波形が同じになる為、それらの差分となる双極電位の波形が消えてしまい、解析の精度が低下してしまうことがあった。
【0005】
そこで、本発明は、心臓壁に接触した多電極カテーテルを用いて双極電位記録法で記録されたマーク分布図のデメリットを解消し、心臓興奮の解析の精度を向上させることを可能とする記録装置、記録方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、
本発明の記録装置は、
複数の電極を有するセンサデバイスを介して生体信号を取得する取得部と、
前記生体信号を用いて、前記複数の電極の組み合わせで規定される主チャンネルの双極電位を記録する記録部と、
前記双極電位の経時変化に基づいて描かれた各波形の時間軸上の所定位置(すなわち興奮タイミング)にマークを付与する付与部と、
前記各波形に付与された前記マークの位置を調整する調整部と、を備え、
前記調整部は、前記主チャンネルに含まれる電極を含む参照チャンネルの双極電位に基づいて、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を調整する。
【0007】
上記構成によれば、参照チャンネルが主チャンネルに含まれる電極を含むものとして定義されており、参照チャンネルの双極電位と主チャンネルの双極電位とが一定の関連性を有している。このため、例えば、付与部によって各波形に付与されたマークの位置がノイズの影響を受けていたとしても、調整部が、参照チャンネルの双極電位を用いて、主チャンネルの双極電位中のマークの時間軸上の位置を調整することができる。このように、一度付与されたマークの位置を調整することで、双極電位のマーク分布図を用いた解析の精度を向上させることが可能となる。
【0008】
また、本発明の記録方法は、
複数の電極を有するセンサデバイスを介して生体信号を取得するステップと、
前記生体信号を用いて、前記複数の電極の組み合わせで規定される主チャンネルの双極電位を記録するステップと、
前記双極電位の経時変化に基づいて描かれた各波形の時間軸上の所定位置にマークを付与するステップと、
前記各波形に付与された前記マークの位置を調整するステップと、を含み、前記調整するステップにおいては、前記主チャンネルに含まれる電極を含む参照チャンネルの双極電位に基づいて、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を調整する。
【0009】
上記方法によれば、上記記録装置と同様に、双極電位のマーク分布図を用いた解析の精度を向上させることができる。
【0010】
また、本発明のプログラムは、
複数の電極を有するセンサデバイスを介して生体信号を取得するステップと、
前記生体信号を用いて、前記複数の電極の組み合わせで規定される主チャンネルの双極電位を記録するステップと、
前記双極電位の経時変化に基づいて描かれた各波形の時間軸上の所定位置にマークを付与するステップと、
前記各波形に付与された前記マークの位置を調整するステップとを含み、
前記調整するステップにおいては、前記主チャンネルに含まれる電極を含む参照チャンネルの双極電位に基づいて、前記主チャンネルの前記双極電位中に付与された前記マークの位置を調整すること、
をコンピュータに実行させる。
【0011】
上記プログラムによれば、上記記録装置と同様に、双極電位のマーク分布図を用いた解析の精度を心臓電気生理学的な観点からも向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、双極電位のマーク分布図を用いた解析の精度を向上させることが可能な記録装置、記録方法およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る記録装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】記録装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図6】各チャンネルの双極電位波形の一例を示す図である。
【
図7】
図6に示す双極電位波形のマーク位置を調整した後の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る記録装置100の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、記録装置100は、取得部102と、演算部103と、記録部104と、表示部105と、を備えている。取得部102、記録部104、および表示部105は、演算部103に通信可能に接続されている。記録装置100は、例えば、記録装置100における一機能を実行するための装置として使用し得る。上記の各機能部は、図示せぬCPUやメモリ等で構成されるハードウェアが協働することにより実現される。
【0015】
取得部102は、センサデバイスで検出された被検者の生体信号を取得する。センサデバイスは、例えば、複数の電極を有する多電極カテーテルXによって構成される。多電極カテーテルXは、被検者の心臓内に挿入されて、例えば、心房内の心内心電図を検出し得る。多電極カテーテルXは、挿入された心臓内において、例えば
図1に示すようなスパイラル状に形状を変化し得る。
【0016】
演算部103は、取得部102で取得された心内心電図に対して、後段で実行される種々の解析処理のための演算処理を行う。演算部103は、電位演算部31と、付与部32と、調整部33と、を備えている。
【0017】
電位演算部31は、取得部102で取得された各電極の電気信号に基づいて、所定の二つの電極の電位差を計算したり、その電位差によって描かれる波形を生成したりする。以下、二つの電極の電位差のことを双極電位と称し、双極電位によって描かれる電位差の波形のことを双極電位波形と称する。また、所定の二つの電極の組み合わせのことをチャンネルと称する。生成された各チャンネルの双極電位や双極電位波形を記録部104に記録される。
【0018】
付与部32は、電位演算部31で生成された各チャンネルの双極電位波形における時間軸上の所定の位置にマークを付与する。ここで、マークは、時間軸上における各双極電位波形の代表的な位置を示すアノテーション(目印)とも称されるものである。マークを付与する基準は、適宜設定可能である。例えば、マークの位置は、双極電位波形のPeak-Peakの中間に付与されるように設定されても良い。また、マークの位置は、この他に例えば、双極電位波形の立ち下がり、あるいは立ち上がり等に設定されるようにしてもよい。各マークの時間軸上の位置は、双極電位波形と関連付けられ、記録部104に記録される。
【0019】
調整部33は、双極電位波形に付与されたマークの位置を、他のチャンネルの双極電位波形に付与されたマークの位置に基づいて調整する。以下、調整される側のチャンネルのことを主チャンネルと称し、調整に用いられる側のチャンネルのことを参照チャンネルと称する。調整後の各マーク時間軸上の位置は、双極電位波形と関連付けられ、記録部104に記録される。
【0020】
記録部104には、上述したように、双極電位、双極電位波形、調整前の各マークの時間軸上の位置、調整後の各マークの時間軸上の位置、などのデータが記録される。
【0021】
表示部105には、例えば、付与部32で最初のマークが付与された状態における各チャンネルの双極電位波形が表示される。また、表示部105には、調整部33でマークの位置が調整された各主チャンネルの双極電位波形が表示される。また、表示部105には、調整される主チャンネルのマーク付き双極電位波形と、調整に用いられる参照チャンネルのマーク付き双極電位波形とが比較できるように並べて表示される(例えば
図3参照)。表示部105は、例えばタッチパネル式の液晶画面で構成され、上記各表示内容を切り替え可能に表示し得る。
【0022】
図2は、多電極カテーテルXの一例を示す図である。
図2に示すように、多電極カテーテルXは、先端部に複数(本例では電極1~電極20までの20個)の電極を有している。20個の電極(電極1~電極20)は、多電極カテーテルXの長さ方向に沿って所定の間隔で配置されている。多電極カテーテルXは、挿入された心臓内において、スパイラル状に形状を保ったまま、例えば心房内における所定領域の心臓壁に接触するように留置される。
【0023】
多電極カテーテルXの電極1~電極20において、所定の二つの電極の組み合わせによって規定されるチャンネルが設定されている。本例では、表1に示すように、1ch~32chまでの32個のチャンネルが設定されている。また、設定される1ch~32chの各チャンネルは、20個の電極(電極1~電極20)における隣同士の二つの電極の組み合わせ、または、相対的に他の電極より互いに近い位置に配置されている二つの電極の組み合わせによって構成されている。例えば、1chは電極1と電極2とによって構成され、2chは電極2と電極3とによって構成され、20chは電極1と電極13とによって構成され、32chは電極13と電極20とによって構成されている。
【0024】
【0025】
図3は、参照チャンネルの双極電位波形に付与されているマークに基づいて、主チャンネルの双極電位波形に付与されているマークの位置が調整される一例を示す図である。
図3に示すように、この例では、調整される主チャンネルの双極電位波形に対し、調整に用いられる側のチャンネルとして二つの参照チャンネル(参照チャンネルAと参照チャンネルB)が設けられている。参照チャンネルは、各主チャンネルに対して少なくとも二つ以上設けられる。
【0026】
主チャンネルの双極電位波形におけるマークの位置の調整は、その主チャンネルと関連性の高い参照チャンネルの双極電位波形に付与されているマークの位置に基づいて行われている。関連性の高い参照チャンネルとしては、例えば、多電極カテーテルXの各電極において、主チャンネルを構成する電極に対して近い距離に配置されている電極で構成されるチャンネルが参照チャンネルとして選択される。具体的には、主チャンネルと関連性の高い参照チャンネルは、例えば、主チャンネルを構成する二つの電極の一方の電極を含む電極の組み合わせからなるチャンネルである(表2で後述する)。
【0027】
時間軸上における各双極電位波形の位置を示すマークは、本例では双極電位波形のPeak-Peakの中間に付与されるように設定されている。
図3に示される主チャンネル41では、双極電位波形42のPeak-Peakの中間にマーク43が付与されている。また、参照チャンネルA45では、双極電位波形46のPeak-Peakの中間にマーク47が付与されている。参照チャンネルB48では、双極電位波形49のPeak-Peakの中間にマーク50が付与されている。
【0028】
ところで、
図3に示す主チャンネル41では、Peak-Peakを有する双極電位波形が二つ(双極電位波形42と双極電位波形44)検出されており、その一方(図において右側)の双極電位波形42にマーク43が付与されている。このようなマーク43の付与は、例えば、時間軸上の前側(図において左側)における双極電位波形が検出される処理において、いずれの波形も検出しない検出除外期間内に双極電位波形44が含まれているために双極電位波形44をマーク43の付与対象波形から除外した場合に行われ得る。なお、主チャンネル41のようにPeak-Peakを有する複数の双極電位波形が検出された場合、例えば、その内の時間軸上の後側(
図3において右側)の双極電位波形を正規の双極電位波形と推定してその双極電位波形にマークを付与するようにしてもよい。また、例えば、Peak-Peak値が大きい方の双極電位波形を正規の双極電位波形と推定してその双極電位波形にマークを付与するようにしてもよい。
【0029】
マークの位置を調整するために用いられる参照チャンネルにおける双極電位波形は、予め設定される所定の参照範囲51内において特定される。参照範囲51は、例えば、主チャンネル41においてマーク43が付与された双極電位波形42のマーク43の位置を基準とした時間軸上の前後(
図3において左右)方向における所定の期間として設定される。参照範囲51の期間は、
図3においては参照チャンネルA45の双極電位波形と参照チャンネルB48の双極電位波形とが参照範囲51内にそれぞれ一つずつ含まれるが、参照範囲51の期間は、電位波形に基づき興奮間隔を自動計測して、同一チャンネル内で隣り合う興奮に干渉しない様に変化し得る。
【0030】
図3の例において、主チャンネルにおける双極電位波形のマークの位置は、参照チャンネルにおける双極電位波形のマークの時間的な平均位置と同相の位置に移動されることによって調整される。例えば、主チャンネル41の双極電位波形42に付与されたマーク43の位置は、
図3に示すように、参照チャンネルA45の双極電位波形46のマーク47と参照チャンネルB48の双極電位波形49のマーク50との時間的な平均位置と同相の位置であるマーク52の位置に移動される。
参照範囲51の期間を、電位波形に基づく興奮間隔から適切に参照範囲を設定することで、各マークはお互いに作用しあって、縦一列に並ぶことなく、適切に調整されていく。
【0031】
図4は、電極の心臓壁への接触不良により双極電位を検出することができずに主チャンネルにマークが付与されなかった場合における主チャンネルのマークの調整例を示す図である。このような場合、参照チャンネルの双極電位波形に付与されたマークに基づいて、主チャンネルの双極電位波形にマークが補完される。
【0032】
図4に示すように、主チャンネルの双極電位波形のマークは、少なくとも二つ以上の参照チャンネルにおける双極電位波形のマークの時間的な平均位置と同相の位置に補完される。例えば、主チャンネル61には双極電位波形が存在していないが、参照チャンネルC64の双極電位波形65のマーク66と参照チャンネルD67の双極電位波形68のマーク69との時間的な平均位置と同相の位置に、マーク63として補完される。
【0033】
また、この場合における参照範囲51は、例えば、参照チャンネルC64の双極電位波形65に付与されたマーク66の位置を基準とした時間軸上の前後(
図4において左右)方向における所定の期間として設定される。また、参照範囲51は、電位波形に基づき興奮間隔を自動計測して、同一チャンネル内で隣接する興奮に干渉しない様に変化し設定される。
【0034】
上述した主チャンネルの双極電位波形におけるマークの位置の調整は、所定の二つの電極を組み合わせることによって生成される全ての主チャンネルに対して行われる。また、この主チャンネルに対して行われるマークの位置の調整は、その位置の調整を順次繰り返して行われる。
【0035】
表2は、主チャンネルと参照チャンネルとの関係を示す。表2に示すように、多電極カテーテルX(
図2参照)における主チャンネルは、1ch~32chまでの32個のチャンネルである。これらの主チャンネル(1ch~32ch)は、表1に示す1ch~32chを意味する。そして、主チャンネルに対する参照チャンネルは、上述したように主チャンネルと関連性が高い参照チャンネルが設定されている。参照チャンネルは、主チャンネルを構成する電極の一方の電極を含む所定の二つの電極の組み合わせとなるように設定されている。
【0036】
【0037】
例えば、主チャンネル1chには、2ch、20ch、および21chの三つの参照チャンネルが設定されている。主チャンネル1chは、電極1と電極2とで構成されている(表1参照)。このため、主チャンネル1chを構成する電極1を含む20ch(電極1、電極13)と、電極2を含む2ch(電極2、電極3)および21ch(電極2、電極14)とが参照チャンネルとして設定されている。
【0038】
また、例えば、主チャンネル2chには、1ch、3ch、21ch、および22chの四つの参照チャンネルが設定されている。主チャンネル2chは、電極2と電極3とで構成されている。このため、主チャンネル2chを構成する電極2を含む1ch(電極1、電極2)および21ch(電極2、電極14)と、電極3を含む3ch(電極3、電極4)および22ch(電極3、電極15)とが参照チャンネルとして設定されている。
【0039】
次に、記録装置100の動作である記録方法の一例について
図5に示すフローチャートを参照しつつ説明する。なお、この記録方法を実行するためのプログラムは、上記の記録装置100に記録され、各機能を実現するための演算処理を命令可能とするものである。
先ず、取得部102は、多電極カテーテルXの電極1~電極20を介して被検者の心房内の生体信号(電位)である心内心電図を取得する(ステップS1)。
【0040】
続いて、演算部103の電位演算部31は、取得部102で取得された電極1~電極20の電気信号に基づいて、1ch~32chの双極電位波形を生成する(ステップS2)。生成された1ch~32chの双極電位波形のデータは、記録部104に記録される(ステップS3)。
【0041】
付与部32は、電位演算部31で生成された1ch~32chの双極電位波形にマークを付与する(ステップS4)。例えば、付与部32は、双極電位波形のPeak-Peakの中間にマークを付与する。1ch~32chにおけるマークが付与された双極電位波形のデータは、記録部104に記録される(ステップS5)。
【0042】
調整部33は、設定した主チャンネル1ch~主チャンネル32chの双極電位波形に付与されたマークの位置を、予め定められている参照チャンネル(表2参照)の双極電位波形に付与されたマークの位置に基づいて調整する(ステップS6)。例えば、調整部33は、主チャンネルにおける双極電位波形のマークの位置を調整するために用いる参照チャンネルの双極電位波形を参照範囲51内において特定する。調整部33は、主チャンネルにおける双極電位波形のマークの位置を、参照チャンネルにおける上記特定された双極電位波形のマークの時間的な平均位置と同相の位置に移動させることによって調整する。マークの位置が調整された主チャンネル1ch~主チャンネル32chの双極電位波形のデータが、記録部104に記録される(ステップS7)。
【0043】
そして、マークの位置が調整された主チャンネル1ch~主チャンネル32chの双極電位波形が、表示部105に表示される(ステップS8)。
【0044】
図6は、上記ステップS4における画像であり、1ch~32chの双極電位波形に付与されたマークの位置が調整される前のものである。
図7は、ステップS6における画像であり、
図6の双極電位波形のマークの位置が調整された後のものである。
【0045】
例えば、
図6において、SEAT8-9(ch8(電極8、電極9))の双極電位波形における破線領域71には、位置が調整される前のマーク72が付与されている。同様に、破線領域73には、マーク74が付与されている。
図6に示されるように、ch8の双極電位波形は、他のchの双極電位波形(例えば、SEAT1-2~SEAT7-8の双極電位波形)と全く相違する形状となっている。これは、電極8または電極9が電気信号を正しく検出できていないことに起因するものと考えられる。
【0046】
一方、
図7に示すように、マークの位置が調整された後のch8(電極8、電極9)の双極電位波形では、上記
図6の破線領域71に付与されていたマーク72の位置が調整されて、
図7の破線領域81におけるマーク82の位置に移動されている。同様に、
図6の破線領域73に付与されていたマーク74の位置が、
図7の破線領域83におけるマーク84の位置に移動されている。上述したように、ch8を主チャンネルとする主チャンネルch8のマークの位置の調整は、主チャンネルch8と関連性の高い(電極同士の距離が近い)参照チャンネルch7、参照チャンネルch9、参照チャンネルch27、および参照チャンネルch28における双極電位波形のマークの位置に基づいて行われている。
【0047】
ところで、双極電位記録法は、単極電位記録法と比較して、狭い範囲の電位を測定して記録することができる。また、双極電位記録法は、電極から離れた領域の興奮(Far Field Potential)の影響を受けにくいというメリットがある。一方、双極電位記録法には、双極電極を構成する2つの単極電極のうちのいずれかの電極が、心臓壁の凸凹のため接触しない場合や、双極電極を構成する2つの単極電極のうちのいずれかの電極にノイズが混入した場合、さらには双極電極を構成する2つの単極電極の配列が興奮伝播方向と直交する場合等には、局所の興奮が双極電位波形にうまく反映されず、例えばその部分を補完することが必要になる。双極電位波形を補完する場合、従来は、例えば単一チャンネル内で補完の処理を行っていた。
【0048】
これに対して、本発明に係る記録装置100によれば、主チャンネルの双極電位波形のマークの位置を調整するために、他のチャンネルである参照チャンネルが複数用いられている。そして、調整するために用いられる参照チャンネルが主チャンネルに含まれる電極を含むものとして定義されており、参照チャンネルの双極電位波形と主チャンネルの双極電位波形とは、一定の関連性を有するような組み合わせになっている。このため、例えば、付与部32によって各双極電位波形に付与されたマークの位置がノイズの影響を受けていたとしても、調整部33が、参照チャンネルの双極電位波形を用いて、主チャンネルの双極電位波形中のマークの時間軸上の位置を調整することができる。このように、あるチャンネルの双極電位波形に一度付与されたマークの位置を関連性が高い他のチャンネルの双極電位波形に基づいて調整することで、双極電位のマーク分布図を用いた解析の精度を向上させることができる。
【0049】
また、記録装置100によれば、主チャンネルのマークの位置は、所定の参照範囲51内における参照チャンネルの双極電位波形に付与されたマークに基づいて調整される。このため、主チャンネルの双極電位波形に関連性の高い参照チャンネルの双極電位波形を適切に選択することができ、さらに双極電位のマーク分布図を用いた解析の精度を向上させることができる。
【0050】
また、記録装置100によれば、主チャンネルのマークの位置の調整は、参照チャンネルのマークの時間的な平均位置に主チャンネルのマークの位置を移動させることによって行われる。このため、関連性が高い双極電位波形に付与されたマークの平均位置に調整することができる。さらに双極電位のマーク分布図を用いた解析の精度を向上させることができる。
【0051】
また、記録装置100によれば、参照範囲51内に主チャンネルのマークが付与されていなかった場合、主チャンネルの双極電位波形には、参照チャンネルの双極電位波形に付与されたマークの時間的な平均位置と同相の位置にマークが補完される。このため、電極が心筋に当たっていない場合等、主チャンネルの波形(興奮)を十分に検出できない場合にも有効な処理を行うことができる。
【0052】
また、記録装置100によれば、マークの位置を調整する処理は、位置の調整を繰り返し行う。このため、関連性が高い双極電位波形に付与されたマークに基づいて調整が繰り返されるので、さらに双極電位のマーク分布図を用いた解析の精度を向上させることができる。
【0053】
なお、上記実施形態では、被検者の心臓内にセンサデバイスを挿入して心内心電図を検出する場合について説明したが、この形態に限定されない。例えば、センサデバイスを被検者の心臓の心外膜側に接触させたり、心臓以外でも筋肉や脳を検査したりする場合等に適用してもよい。
【0054】
また、本発明は、生体信号の主チャンネルのみにおける補完ではなく、主チャンネルと関連する参照チャンネルを利用した生体信号の時空間的な補完の技法が本質であることから、実施形態は上述のものに限定されず、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0055】
100:記録装置、102:取得部、103:演算部、104:記録部、105:表示部、31:電位演算部、32:付与部、33:調整部、51:参照範囲、X:多電極カテーテル