(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20221202BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20221202BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20221202BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20221202BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20221202BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20221202BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/457
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/46
H01M10/058
(21)【出願番号】P 2019557089
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2018040794
(87)【国際公開番号】W WO2019107068
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2017230504
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】杉森 仁徳
(72)【発明者】
【氏名】平野 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】森川 有紀
(72)【発明者】
【氏名】馬場 泰憲
(72)【発明者】
【氏名】柳田 勝功
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-072120(JP,A)
【文献】特開2013-105521(JP,A)
【文献】特表2015-505137(JP,A)
【文献】特開2014-180822(JP,A)
【文献】特開2013-114764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、を備え、
前記セパレータは、多孔性樹脂基材と、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層と、前記リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子を含む第2フィラー層とが積層された積層構造を有し、
前記第2フィラー層は、前記多孔性樹脂基材上に配置され、
前記第1フィラー層は、前記第1フィラー層の表面が前記負極の表面と対向するように前記多孔性樹脂基材上又は前記第2フィラー層上に配置され、
前記リン酸塩粒子のBET比表面積は、5m
2/g以上100m
2/g以下の範囲であ
り、前記リン酸塩粒子は、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム及びリン酸リチウムのうちの少なくともいずれか1種から選択される、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記セパレータは、前記負極側から前記第1フィラー層、前記多孔性樹脂基材、前記第2フィラー層の順で積層されている、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記セパレータは、前記負極側から第1フィラー層、第2フィラー層、前記多孔性樹脂基材の順で積層されている、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記リン酸塩粒子のBET比表面積は、20m
2/g以上100m
2/g以下の範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記リン酸塩粒子の平均粒径は、前記多孔性樹脂基材の平均孔径より小さく、且つ0.05μm~1μmの範囲である、請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記リン酸塩粒子の平均粒径は、前記無機粒子の平均粒径より小さく、且つ0.05μm~1μmの範囲である、請求項3に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極と、負極と、非水電解質とを備え、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高容量及び高出力を目的として、正極と、負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータとを備え、セパレータは、多孔性シートと、多孔性シート上に設けられた、無機粒子を含むフィラー層と、を含む非水電解質二次電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
ところで、非水電解質二次電池が、過充電、内部短絡、外部短絡、大電流に起因する過度の抵抗加熱、或いは外部からの加熱等の異常状態に晒されて、電池温度が上昇すると、電池が発熱して、電池の更なる温度上昇が引き起こされる場合がある。
【0006】
そこで、本開示の目的は、電池が異常状態に晒された際の電池の発熱を抑制することが可能な非水電解質二次電池を提供することにある。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、を備え、前記セパレータは、多孔性樹脂基材と、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層と、前記リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子を含む第2フィラー層とが積層された積層構造を有し、前記第2フィラー層は、前記多孔性樹脂基材上に配置され、前記第1フィラー層は、前記第1フィラー層の表面が前記負極の表面と対向するように前記多孔性樹脂基材上又は前記第2フィラー層上に配置され、前記リン酸塩粒子のBET比表面積は、5m2/g以上100m2/g以下の範囲であり、前記リン酸塩粒子は、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム及びリン酸リチウムのうちの少なくともいずれか1種から選択されることを特徴とする。
【0008】
本開示の一態様によれば、電池が異常状態に晒された際の電池の発熱を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【
図2】
図1に示す電極体の一例を示す一部拡大断面図である。
【
図3】
図1に示す電極体の他の一例を示す一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
前述したように、電池が異常状態に晒されて、電池温度が上昇すると、電池が発熱する場合がある。この電池の発熱には、負極表面に形成されたSEI被膜の分解反応により発生する熱、負極上での非水電解質の分解反応により発生する熱、正極から放出される酸素と負極との反応による熱等が寄与しているため、負極でのこれらの反応のうち少なくともいずれか1つを抑制することで、電池が異常状態に晒された際の電池の発熱を抑制し、電池温度の更なる上昇を抑制することが可能となる。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、電池が異常状態に晒され際に生じる負極での反応等を抑制することが可能なセパレータを見出し、以下に説明する態様の非水電解質二次電池を想到するに至った。
【0011】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、を備え、前記セパレータは、多孔性樹脂基材と、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層と、前記リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子を含む第2フィラー層とが積層された積層構造を有し、前記第2フィラー層は、前記多孔性樹脂基材上に配置され、前記第1フィラー層は、前記第1フィラー層の表面が前記負極の表面と対向するように前記多孔性樹脂基材上又は前記第2フィラー層上に配置され、前記リン酸塩粒子のBET比表面積は、5m2/g以上100m2/g以下の範囲である。本開示の一態様である非水電解質二次電池によれば、電池が異常状態に晒された際の電池の発熱を抑制することが可能となる。上記効果を奏するメカニズムは十分に明らかでないが、以下のことが考えられる。
【0012】
電池が異常状態に晒されて、電池温度が上昇し所定温度以上になると、負極表面に形成されたSEI被膜の分解による発熱反応により、第1フィラー層内の上記所定のBET比表面積を有するリン酸塩粒子が溶融して多孔性樹脂基材の空孔を埋めると共に、負極では、溶融したリン酸塩が重縮合して、リン酸塩重縮合物の被膜が形成される。ここで、電池温度の上昇により、多孔性樹脂基材が変形・収縮すると、正負の接触によるジュール熱による発熱が起こる。しかし、本開示の一態様によれば、多孔性樹脂基材は、リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子を含む第2フィラー層により補強されているため、多孔性樹脂基材の変形や収縮が抑えられる。したがって、正負極の接触を起こさずに負極にリン酸塩重縮合物の被膜を十分に形成することが可能となる。このように、負極に形成されたリン酸塩重縮合物の被膜によって、例えば、負極上での非水電解質の分解反応、正極から放出される酸素と負極との反応等が抑制されると考えられる。
【0013】
以下、実施形態の一例について詳細に説明する。実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率などは、現物と異なる場合がある。
【0014】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図1に示す非水電解質二次電池10は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19と、上記部材を収容する電池ケース15と、を備える。電池ケース15は、有底円筒形状のケース本体16と、ケース本体16の開口部を塞ぐ封口体17とにより構成される。なお、巻回型の電極体14の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、電池ケース15としては、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製ケース、樹脂シートをラミネートして形成された樹脂製ケース(ラミネート型電池)などが例示できる。
【0015】
ケース本体16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。ケース本体16は、例えば側面部の一部が内側に張出した、封口体17を支持する張り出し部22を有する。張り出し部22は、ケース本体16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0016】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。内部短絡等による発熱で内圧が上昇すると、例えば下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0017】
図1に示す非水電解質二次電池10では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通ってケース本体16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21はケース本体16の底部内面に溶接等で接続され、ケース本体16が負極端子となる。
【0018】
正極、負極、セパレータ、非水電解質について詳述する。
【0019】
[セパレータ]
図2は、
図1に示す電極体の一例を示す一部拡大断面図である。
図2に示す電極体14において、正極11と負極12との間に配置されたセパレータ13は、多孔性樹脂基材30と、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層32と、リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子を含む第2フィラー層34とが積層された積層構造を有し、第2フィラー層34は、多孔性樹脂基材30上に配置され、第1フィラー層32は、第1フィラー層32の表面が負極12の表面と対向するように多孔性樹脂基材30上(第2フィラー層34と反対側)に配置されている。すなわち、
図2に示すセパレータ13は、負極12側から第1フィラー層32、多孔性樹脂基材30、第2フィラー層34の順で積層された積層構造を有している。また、第1フィラー層32は負極12と接触している。なお、第1フィラー層32は負極12に接触していなくても良い。
【0020】
図2に示すセパレータ13では、多孔性樹脂基材30と正極11との間に第2フィラー層34が設けられ、第2フィラー層34が正極11と接触しているが、これらは接触していなくても良い。一例として、第2フィラー層34と正極11との間に、樹脂を主成分とする層(好ましくは、樹脂のみからなる層)が設けられていてもよい。また、
図2に示すセパレータ13では、多孔性樹脂基材30と第1フィラー層32が接触しているが、これらは接触していなくても良い。一例として、多孔性樹脂基材30と第1フィラー層32との間に、樹脂を主成分とする層(好ましくは、樹脂のみからなる層)が設けられていてもよい。
【0021】
図2に示すセパレータ13において、多孔性樹脂基材30は、リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子を含む第2フィラー層34により補強されているため、熱による変形や収縮が抑えられる。
【0022】
多孔性樹脂基材30は、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性樹脂シートであり、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。多孔性樹脂基材30を構成する樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとαオレフィンとの共重合体等のポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、セルロース等が挙げられる。多孔性樹脂基材30は、単層構造でもよいし、積層構造でもよい。
【0023】
多孔性樹脂基材30の厚みは、特に制限されるものではないが、例えば、3μm以上20μm以下の範囲であることが好ましい。
【0024】
多孔性樹脂基材30の空孔率は、電池の充放電時にけるイオン導電性を確保する点で、例えば、30%以上70%以下の範囲であることが好ましい。多孔性樹脂基材30の空孔率は、多孔性樹脂基材30の10箇所を、多孔性樹脂基材30の厚さ方向に向けて直径2cmの円形に打ち抜き、打ち抜いた多孔性樹脂基材30の中心部の厚さh及び質量wをそれぞれ測定する。さらに、上記厚さh及び質量wを用いて10枚分の多孔性樹脂基材30の体積V及び質量Wを求め、以下の式から空孔率εを算出する。
【0025】
空孔率ε(%)=((ρV-W)/(ρV))×100
ρ:多孔性シートの材料の密度
多孔性樹脂基材30の平均孔径は、正負極間の絶縁性や電池の充放電時におけるイオン導電性等を確保する点で、例えば、0.02μm~5μmの範囲であることが好ましく、0.05μm~1μmの範囲であることがより好ましい。多孔性樹脂基材30の平均孔径は、バブルポイント法により測定された値であり、例えば、西華産業社製のポロメーターにより測定することができる。
【0026】
第1フィラー層32に含まれるリン酸塩粒子は、BET比表面積が5m2/g以上100m2/g以下の範囲であるリン酸塩粒子であれば、特に制限されるものではないが、例えば、Li3PO4、LiPON、Li2HPO4、LiH2PO4、Na3PO4、Na2HPO4、NaH2PO4、Zr3(PO4)4、Zr(HPO4)2、HZr2(PO4)3、K3PO4、K2HPO4、KH2PO4、Ca3(PO4)2、CaHPO4、Mg3(PO4)2、MgHPO4等が挙げられる。これらの中では、副反応防止の点で、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸水素二リチウム(Li2HPO4)、リン酸二水素リチウム(LiH2PO4)のうちの少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。
【0027】
第1フィラー層32に含まれるリン酸塩粒子のBET比表面積は、5m2/g以上100m2/g以下の範囲であればよいが、20m2/g以上100m2/g以下の範囲であることが好ましい。一般的に、電池製造時にかかる温度や、通常使用時における電池内温度及び異常状態に晒された時における電池内温度等を考慮すれば、リン酸塩粒子は、140℃~190℃で溶融することが望ましい。そして、上記範囲のBET比表面積を有するリン酸塩粒子によれば、140℃~190℃で溶融することが可能であるため、電池が異常状態に晒された際の電池の発熱を効果的に抑制することが可能となる。一方、BET比表面積が、5m2/g未満のリン酸塩粒子の場合、上記範囲を満たす場合と比較して、140℃~190℃で溶融するリン酸塩量が減るため、電池が異常状態に晒された際の電池の発熱を十分に抑制することができない。また、BET比表面積が、100m2/g超のリン酸塩粒子の場合、上記範囲を満たす場合と比較して、第1フィラー層32の充填密度が低下するため、リン酸塩重縮合物による被膜量が減るため電池が異常状態に晒された際の電池の発熱を十分に抑制することができない。リン酸塩粒子のBET比表面積は、JIS R1626記載のBET法(窒素吸着法)に従って測定することができる。
【0028】
第1フィラー層32に含まれるリン酸塩粒子の平均粒径は、例えば、多孔性樹脂基材30の平均孔径より小さく、且つ0.05μm~1μm以下の範囲であることが好ましい。リン酸塩粒子の平均粒径が上記条件を満たすことで、多孔性樹脂基材30にも溶融したリン酸塩が浸潤して空孔を塞ぐことが可能となるため、多孔性樹脂基材30のシャットダウン機能が向上し、電池温度の上昇をより抑制することが可能となる。ここで、平均粒径とは、レーザ回折法によって測定される体積平均粒径であって、粒子径分布において体積積算値が50%となるメジアン径を意味する。平均粒径は、例えば、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製)を用いて測定できる。
【0029】
第1フィラー層32内のリン酸塩粒子の含有量は、負極12にリン酸塩重縮合物の被膜を形成するのに十分な量であることが好ましく、例えば、90質量%以上であることが好ましく、92質量%以上98質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0030】
第1フィラー層32の厚さは、特に制限されるものではないが、例えば、1μm以上10μm以下の範囲であることが好ましく、1μm以上5μm以下の範囲であることがより好ましく、2μm以上4μm以下の範囲であることがさらに好ましい。電池の発熱を抑制する観点からは、第1フィラー層32の厚さは、リン酸塩粒子の平均粒径の2倍以上40倍以下がであることが好ましく、3倍以上20倍以下がより好ましい。
【0031】
第1フィラー層32の空孔率は、電池の充放電時において、良好なイオン導電性を確保する点、物理的な強度を確保する点等から、例えば、30%以上70%以下であることが好まししい。第1フィラー層の空孔率(%)=100-[[W÷(d×ρ)]×100]W:第1フィラー層の目付け重量(g/cm2)d:第1フィラー層の厚み(cm)ρ:第1フィラー層の平均密度(g/cm3)
第1フィラー層32は、層の機械的強度や他の層との接着性を高めることができる等の点で、結着材を含むことが好適である。結着材としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)などの含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどのゴム類、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、セルロース、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリビニルアルコールなどの樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガムおよびこれらの塩などの水溶性高分子が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することも可能である。これらのバインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
第1フィラー層32は、ヘテロポリ酸を含むことが好ましい。ヘテロポリン酸を含むことで、電池の温度上昇により溶融したリン酸塩の重縮合が促進されるため、負極12にリン酸塩重縮合物の被膜が効率的に形成されて、電池の発熱がより抑制される。
【0033】
ヘテロポリ酸は、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングステントバナジン酸等が挙げられる。これらの中では、重合の安定性、ヘテロポリ酸自体の安定性等の点で、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸のいずれか一種以上であることが好ましい。
【0034】
第2フィラー層34に含まれる無機粒子は、第1フィラー層32に含まれるリン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子(すなわち、リン酸塩粒子より融点の高い無機粒子)であれば特に制限されるものではないが、例えば、正負極間のショート発生を抑制する点から、電気絶縁性の高い無機粒子であることが好ましい。無機粒子としては、例えば、金属酸化物、金属酸化物水和物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。金属酸化物または金属酸化物水和物としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)、ベーマイト(Al2O3H2OまたはAlOOH)、酸化マグネシウム(マグネシア、MgO)、酸化チタン(チタニア、TiO2)、酸化ジルコニウム(ジルコニア、ZrO2)、酸化ケイ素(シリカ、SiO2)または酸化イットリウム(イットリア、Y2O3)、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられる。金属窒化物としては、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)または窒化チタン(TiN)等が挙げられる。金属炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)または炭化ホウ素(B4C)等が挙げられる。金属硫化物としては、硫酸バリウム(BaSO4)等が挙げられる。金属水酸化物としては水酸化アルミニウム(Al(OH)3)等が挙げられる。また、ゼオライト(M2/nO・Al2O3・xSiO2・yH2O、Mは金属元素、x≧2、y≧0)等の多孔質アルミノケイ酸塩、タルク(Mg3Si4O10(OH)2)等の層状ケイ酸塩、チタン酸バリウム(BaTiO3)またはチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等の鉱物を用いてもよい。これらの中では、電気絶縁性、高融点等の観点から、アルミナ、ベーマイト、タルク、チタニア、シリカ、マグネシアのうち少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。なお、本発明においては、例えばベーマイトのようにアルミナに変性後溶融するような物質の融点は、変性後の物質の融点とする。
【0035】
第2フィラー層34に含まれる無機粒子の平均粒径は、例えば、0.2μm以上2μm以下であることが好ましい。無機粒子の平均粒径が上記範囲を満たさない場合、上記範囲を満たす場合と比較して、電池が異常状態に晒された際の電池の発熱を抑制する効果が低減する場合がある。
【0036】
第2フィラー層34内の無機粒子の含有量は、例えば、第2フィラー層34の耐熱性を確保する点等から、例えば、90質量%以上であることが好ましく、92質量%以上98質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0037】
第2フィラー層34の厚さは、特に制限されるものではないが、例えば、1μm以上5μm以下の範囲であることが好ましく、2μm以上4μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0038】
第2フィラー層34の空孔率は、電池の充放電時において、良好なイオン導電性を確保する点、物理的な強度を確保する点等から、例えば、30%以上70%以下であることが好まししい。第2フィラー層34の空孔率は、前述の第1フィラー層32の空孔率の計算式と同様である。
【0039】
第2フィラー層34は、層の機械的強度や他の層との接着性を高めることができる等の点で、結着材を含むことが好適である。結着材としては、例えば、第1フィラー層32で用いられる結着材と同様の結着材等が挙げられる。
【0040】
図2における多孔性樹脂基材30と第1フィラー層32の界面、及び、多孔性樹脂基材30と第2フィラー層34の界面は、混在していてもよい。ただし、多孔性樹脂基材30、第1フィラー層32、第2フィラー層34はそれぞれ、0.5μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上の厚みで、単独で存在することが好ましい。
【0041】
図3は、
図1に示す巻回型の電極体の他の一例を示す一部拡大断面図である。
図3に示す電極体14において、正極11と負極12との間に配置されたセパレータ13は、多孔性樹脂基材30と、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層32と、リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子を含む第2フィラー層34とが積層された積層構造を有し、第2フィラー層34は、多孔性樹脂基材30上に配置され、第1フィラー層32は、第1フィラー層32の表面が負極12の表面と対向するように第2フィラー層34上に配置されている。すなわち、
図3に示すセパレータ13は、負極12側から第1フィラー層32、第2フィラー層34、多孔性樹脂基材30の順で積層された積層構造を有している。また、第1フィラー層32は負極12と接触している。なお、第1フィラー層32は負極12と接触していなくても良い。
図3に示すセパレータ13では、多孔性樹脂基材30と正極11とが接触しているが、これらは接触していなくても良い。一例として、多孔性樹脂基材30と正極11との間に、樹脂を主成分とする層(好ましくは、樹脂のみからなる層)設けられていてもよい。
図3に示すセパレータ13では、第2フィラー層34と第1フィラー層32とが接触しているが、これらは接触していなくても良い。一例として、第2フィラー層34と第1フィラー層32との間に、樹脂を主成分とする層(好ましくは、樹脂のみからなる層)が設けられていてもよい。
【0042】
図3に示すセパレータ13は、
図2に示すセパレータ13と同様に、多孔性樹脂基材30が、リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子を含む第2フィラー層34により補強されているため、熱による変形や収縮が抑えられる。
【0043】
図3に示す多孔性樹脂基材30及び第2フィラー層34の構成は、
図2に示す多孔性樹脂基材30及び第2フィラー層34と同様であるので、その説明を省略する。
【0044】
図3に示す第1フィラー層32においては、第1フィラー層32に含まれるリン酸塩粒子の平均粒径が、例えば、第2フィラー層34中の無機粒子の平均孔径より小さく、且つ0.05μm~1μm以下の範囲であることが好ましい。リン酸塩粒子の平均粒径が上記条件を満たすことで、第2フィラー層34にも溶融したリン酸塩が浸潤して空孔を塞ぐことが可能となるため、第2フィラー層34にシャットダウン機能を発揮させ、電池温度の発熱をより抑制することが可能となる。
図3に示す第1フィラー層32におけるその他の構成は、
図2に示す第1フィラー層32と同様である。
【0045】
図3における第2フィラー層34と第1フィラー層32の界面、及び、多孔性樹脂基材30と第2フィラー層34の界面は、混在していてもよい。ただし、多孔性樹脂基材30、第1フィラー層32、第2フィラー層34はそれぞれ、0.5μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上の厚みで、単独で存在することが好ましい。
【0046】
セパレータ13の製造方法の一例を説明する。まず、リン酸塩粒子等を含む第1スラリー及び無機粒子等を含む第2スラリーを準備する。そして、第2スラリーを多孔性樹脂基材30上に塗布、乾燥して、第2フィラー層34を形成し、第2フィラー層34上或いは第2フィラー層と反対側の多孔性樹脂基材30上に第1スラリーを塗布、乾燥して、第1フィラー層32を形成することにより作製できる。なお、リン酸塩粒子等を含む第1スリラーは負極12に塗布してもよい。
【0047】
[正極]
正極11は、例えば、金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。
【0048】
正極合材層は、正極活物質を含む。また、正極合材層は、正極活物質の他に、導電材及び結着材を含むことが好適である。正極合材層の厚みは、例えば、10μm以上である。
【0049】
正極11は、例えば、正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極合材スラリーを調製し、この正極合材スラリーを正極集電体上に塗布、乾燥して正極合材層を形成し、この正極合材層を加圧成形することにより作製できる。
【0050】
正極活物質は、例えば、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物等が例示できる。リチウム遷移金属酸化物は、非水電解質二次電池の高容量化を図ることができる点で、例えば、ニッケル(Ni)を含有し、リチウム(Li)を除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が30モル%以上のNi含有リチウム遷移金属酸化物が好ましい。Ni含有リチウム遷移金属酸化物としては、例えば、組成式LiaNixM(1―x)O2(0.95≦a≦1.2、0.3≦x<1.0、MはLi、Ni以外の金属元素)で表される酸化物等が挙げられる。式中のMは、例えば、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、リン(P)、硫黄(S)から選択される少なくとも一種が含まれていてもよい。さらに、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、及びビスマス(Bi)から選択される少なくとも1種が含まれていてもよい。これらの中では、Co、Mn等が好ましい。
【0051】
導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等が例示できる。また、これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
[負極]
負極12は、例えば金属箔等からなる負極集電体と、当該集電体上に形成された負極合材層とで構成される。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質、及び結着材を含む。負極12は、例えば、負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを調整し、この負極合材スラリーを負極集電体上に塗布、乾燥して負極合材層を形成し、この負極合材層を加圧成形することにより作製できる。
【0054】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のリチウムと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む合金、複合酸化物などを用いることができる。負極活物質は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
結着材としては、正極の場合と同様にフッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることができる。水系溶媒を用いて合材スラリーを調製する場合は、CMC又はその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いることが好ましい。
【0056】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0057】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0058】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0059】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0060】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(C1F2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
<実施例1>
[セパレータの作製]
以下のようにして、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層/多孔性樹脂基材/無機粒子を含む第2フィラー層の積層構造を有するセパレータを作製した。
【0063】
リン酸リチウム粒子(Li3PO4、BET比表面積:54.07m2/g、体積平均粒径D50:0.93μm)と、結着材としてのポリN-ビニルアセトアミドとを、100:6.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて、固形分濃度15.0質量%の第1スラリーを調製した。また、無機粒子としてのベーマイト粒子(平均粒径D50:0.7μm)と結着材としてのポリN-ビニルアセトアミドとを、100:6.5の質量比で混合し、NMPを加えて、固形分濃度15.0質量%の第2スラリーを調製した。厚さ12μmのポリプロピレン製多孔性シート(多孔性樹脂基材)の一方の面に、第1スラリーを、ワイヤーバーで、乾燥後の塗布量が6.4g/m2となるように塗布した後、乾燥して、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層を形成した。また、ポリプロピレン製多孔性シートの他方の面に、第2スラリーを、ワイヤーバーで、乾燥後の塗布量が6.0g/m2となるように塗布した後、乾燥して、無機粒子を含む第2フィラー層を形成した。得られた第1フィラー層及び第2フィラー層の厚みは、4μmであった。
【0064】
[正極の作製]
正極活物質として、Li1.05Ni0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチウム複合酸化物粒子と、導電材としてのカーボンブラックと、結着材としてのポリフッ化ビニリデンとを、100:1:1の質量比でNMP溶液中において混合し、正極合材スラリーを調製した。次いで、上記正極合材スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、さらにアルミニウム製の集電タブを取り付けることにより、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極を作製した。尚、この正極における正極活物質の充填密度は3.60g/cm3であった。
【0065】
[負極の作製]
負極活物質としての人造黒鉛と、分散材としてのCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)と、結着材としてのSBR(スチレン-ブタジエンゴム)とを、92:8:1:1の質量比で水溶液中において混合し、負極合材スラリーを調製した。次に、この負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、さらにニッケル製の集電タブを取り付けた。これにより、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極を作製した。なお、この負極における負極活物質の充填密度は1.50g/cm3であった。
【0066】
[非水電解質の作製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.0モル/リットルの濃度になるように溶解した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を上記混合溶媒に対して1.0質量%溶解させた。これを非水電解質として用いた。
【0067】
[非水電解質二次電池の作製]
上記正極、上記負極、上記非水電解質、及びセパレータを用いて、以下の手順で非水電解質二次電池を作製した。(1)セパレータの第1フィラー層と負極とが対向し、セパレータの第2フィラー層と正極とが対向するように、負極、セパレータ、正極の順で重ねて、これらを巻回し、巻回構造の電極体を作製した。(2)電極体の上下にそれぞれ絶縁板を配置し、円筒形状の電池外装缶に巻回電極体を収容した。(3)負極の集電タブを電池外装缶の底部内面に溶接すると共に、正極の集電タブを封口体の底板に溶接した。(4)電池外装缶の開口部から非水電解質を注入し、その後、封口体によって電池外装缶を密閉した。
【0068】
<実施例2>
セパレータの作製において、実施例1で用いたリン酸リチウム粒子をリン酸水素二リチウム粒子(Li2HPO4、BET比表面積:7.10m2/g、体積平均粒径D50:0.33μm)に変更したこと以外は実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。第1フィラー層の厚みは、3μmであった。
【0069】
<実施例3>
セパレータの作製において、実施例1で用いたリン酸リチウム粒子をリン酸リチウム粒子(Li3PO4、BET比表面積:61.35m2/g、体積平均粒径D50:0.15μm)に変更したこと以外は実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。第1フィラー層の厚みは、10μmであった。
【0070】
<実施例4>
以下のようにして、多孔性樹脂基材/無機粒子を含む第2フィラー層/リン酸塩粒子を含む第1フィラー層の積層構造を有するセパレータを作製した。
【0071】
ポリプロピレン製多孔性シート(多孔性樹脂基材)の片面に、実施例1で用いた第2スラリーを塗布・乾燥して、無機粒子を含む第2フィラー層を形成した。次に、第2フィラー層上に、実施例1で用いた第1スラリーを塗布・乾燥して、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層を形成した。得られた第1フィラー層及び第2フィラー層の厚みは、4μmであった。
【0072】
作製したセパレータの第1フィラー層と負極とが対向し、セパレータの多孔性樹脂基材と正極とが対向するように、負極、セパレータ、正極の順で重ねたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0073】
<比較例1>
セパレータの作製において、実施例1で用いたリン酸リチウム粒子をリン酸リチウム粒子(Li3PO4、BET比表面積:3.65m2/g、体積平均粒径D50:1.60μm)に変更したこと以外は実施例1と同様にセパレータを作製した。当該セパレータを用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。第1フィラー層の厚みは、5μmであった。
【0074】
<比較例2>
以下のようにして、多孔性樹脂基材/リン酸塩粒子を含む第1フィラー層/無機粒子を含む第2フィラー層の積層構造を有するセパレータを作製した。
【0075】
ポリプロピレン製多孔性シート(多孔性樹脂基材)の片面に、実施例1で用いた第1スラリーを塗布・乾燥して、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層を形成した。次に、第1フィラー層上に、実施例1で用いた第2スラリーを塗布・乾燥して、無機粒子を含む第2フィラー層を形成した。得られた第1フィラー層及び第2フィラー層の厚みは、4μmであった。
【0076】
作製したセパレータの多孔性樹脂基材と負極とが対向し、セパレータの第2フィラー層と正極とが対向するように、負極、セパレータ、正極の順で重ねたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0077】
<比較例3>
比較例2で作製したセパレータの第2フィラー層と負極とが対向し、セパレータの多孔性樹脂基材と正極とが対向するように、負極、セパレータ、正極の順で重ねたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0078】
<比較例4>
以下のようにして、多孔性樹脂基材/リン酸塩粒子を含む第1フィラー層の積層構造を有するセパレータを作製した。
【0079】
ポリプロピレン製多孔性シート(多孔性樹脂基材)の片面に、実施例1で用いた第1スラリーを塗布・乾燥して、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層を形成した。得られた第1フィラー層の厚みは4μmであった。
【0080】
作製したセパレータの多孔性樹脂基材と負極とが対向し、セパレータの第1フィラー層と正極とが対向するように、負極、セパレータ、正極の順で重ねたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0081】
<比較例5>
比較例4で作製したセパレータの第1フィラー層と負極とが対向し、セパレータの多孔性樹脂基材と正極とが対向するように、負極、セパレータ、正極の順で重ねたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0082】
<比較例6>
以下のようにして、多孔性樹脂基材/無機粒子を含む第2フィラー層の積層構造を有するセパレータを作製した。
【0083】
ポリプロピレン製多孔性シート(多孔性樹脂基材)の片面に、実施例1で用いた第2スラリーを塗布・乾燥して、無機粒子を含む第2フィラー層を形成した。得られた第2フィラー層の厚みは4μmであった。
【0084】
作製したセパレータの多孔性樹脂基材と負極とが対向し、セパレータの第2フィラー層と正極とが対向するように、負極、セパレータ、正極の順で重ねたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0085】
<比較例7>
比較例6で作製したセパレータの第2フィラー層と負極とが対向し、セパレータの多孔性樹脂基材と正極とが対向するように、負極、セパレータ、正極の順で重ねたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0086】
<比較例8>
多孔性樹脂基材/リン酸塩粒子及び無機粒子を含むフィラー層の積層構造を有するセパレータを作製した。
【0087】
実施例1で用いたリン酸リチウム粒子及びベーマイト粒子とを、50:50の質量比で混合し、当該混合物と、結着材としてのポリN-ビニルアセトアミドとを、100:6.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて、固形分濃度15.0質量%のスラリーを調製した。ポリプロピレン製多孔性シート(多孔性樹脂基材)の片面に、上記スラリーを、ワイヤーバーで、乾燥後の塗布量が6.4g/m2となるように塗布・乾燥して、リン酸塩粒子及び無機粒子を含むフィラー層を形成した。得られたフィラー層の厚みは、4μmであった。
【0088】
作製したセパレータの多孔性樹脂基材と負極とが対向し、セパレータのフィラー層と正極とが対向するように、負極、セパレータ、正極の順で重ねたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0089】
<比較例9>
セパレータとしてポリプロピレン製多孔性シート(多孔性樹脂基材)を用いたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0090】
[サーマル試験]
電池が異常状態に晒される模擬試験として、以下のサーマル試験を行った。具体的には、各実施例及び比較例の非水電解質二次電池を、1.0Itの電流値で電池電圧が4.20Vとなるまで定電流充電を行なった後、4.20Vの電圧で電流値が1/5Itになるまで充電した。その後、電気炉内で25℃から0.2℃/minの昇温速度で昇温し、電池の発熱開始温度を測定した。電池の発熱開始温度とは、電池の発熱により電池の昇温速度が1℃/minになった時の温度である。発熱開始温度が高い電池ほど、異常状態に晒された際の電池の発熱を抑制していることを示している。
【0091】
表1に、各実施例及び各比較例の発熱開始温度の結果をまとめた。
【0092】
【0093】
実施例1~4はいずれも、比較例1~9と比較して、発熱開始温度が高い値を示し、異常状態に晒された際の電池の発熱が抑制された結果となった。すなわち、正極と負極との間に配置されたセパレータが、多孔性樹脂基材と、リン酸塩粒子を含む第1フィラー層と、前記リン酸塩粒子より耐熱性の高い無機粒子を含む第2フィラー層とが積層された積層構造を有し、前記第2フィラー層は前記多孔性樹脂基材上に形成されており、前記第1フィラー層は、前記第1フィラー層の表面が前記負極の表面と対向するように前記多孔性樹脂基材上又は前記第2フィラー層上に配置され、前記リン酸塩粒子のBET比表面積は、5m2/g以上100m2/g以下の範囲である、非水電解質二次電池により、異常状態に晒された際の電池の発熱を抑制することができると言える。
【符号の説明】
【0094】
10 非水電解質二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
15 電池ケース
16 ケース本体
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極リード
21 負極リード
22 張り出し部
23 フィルタ
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
30 多孔性樹脂基材
32 第1フィラー層
34 第2フィラー層