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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】血管新生促進材
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/52 20060101AFI20221202BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20221202BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20221202BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20221202BHJP
   A61L 27/48 20060101ALI20221202BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
A61L27/52
A61L27/54
A61L27/44
A61L27/20
A61L27/48
A61L27/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018089002
(22)【出願日】2018-05-07
(65)【公開番号】P2019195347
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】大谷 亨
(72)【発明者】
【氏名】中島 忠章
(72)【発明者】
【氏名】上妻 雅
(72)【発明者】
【氏名】友岡 康弘
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-102002(JP,A)
【文献】特開平10-067687(JP,A)
【文献】大谷亨 他,血管新生に及ぼすbFGF含有ヒアルロン酸架橋ヒドロゲルへのPEGグラフト化の影響,日本バイオマテリアル学会シンポジウム2016予稿集,2016年11月21日,98
【文献】生物物理,1984年,Vol.24(1),pp.29-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
A61L 24/00
A61K 47/00
A61K 9/00
A61K 38/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロゲルおよび細胞増殖因子を含み、
上記ハイドロゲルが、ポリエチレングリコールで架橋されたヒアルロン酸、並びに、ポリエチレングリコールおよびポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)ブロック共重合体の少なくとも一方を含むことを特徴とする血管新生促進材。
【請求項2】
上記ポリエチレングリコールおよび上記ポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)ブロック共重合体の数平均分子量が、1000以上、20000以下である請求項1に記載の血管新生促進材。
【請求項3】
上記ポリエチレングリコールで架橋されたヒアルロン酸、上記ポリエチレングリコールおよび上記ポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)ブロック共重合体の合計に対する、上記ポリエチレングリコールおよび上記ポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)ブロック共重合体の割合が、1質量%以上、80質量%以下である請求項1または2に記載の血管新生促進材。
【請求項4】
上記ハイドロゲルに対する細胞増殖因子の量が、1μg/g以上、3000μg/g以下である請求項1~3のいずれかに記載の血管新生促進材。
【請求項5】
上記細胞増殖因子が塩基性繊維芽細胞増殖因子である請求項1~のいずれかに記載の血管新生促進材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた血管誘導効果を示す血管新生促進材に関するものであり、幹細胞などを含む足場材料と共に生体内に埋植することにより、移植した幹細胞などの分化や増殖を促進するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の進展に伴い、人々の興味は、より長く生きることから、高い生活の質(QOL:Quality of Life)へと移りつつある。そのような状況下で注目を集めているのが再生医療である。再生医療とは、生まれつき、或いは疾病、不慮の事故、加齢などに伴い、欠損、損傷、機能低下した組織や臓器を、患者の体外で培養した細胞や組織を用いて修復再生し、機能を補完する医療である。従来の対症療法に対し、欠損または損傷した臓器を再生医療により再建させることで、疾病や損傷への根治療法が可能となる。それにより、患者や高齢者、障害者のQOLが飛躍的に向上し、社会復帰と生活自立が可能となるため、医療分野にとどまらず、産業構造や社会構造の変化をもたらすことが期待されている。
【0003】
現在、再生医療の発展をもたらすと注目されているのが、京都大学の山中伸弥教授らにより開発されたiPS細胞(Induced Pluripotent Stem Cell)である。iPS細胞は、臓器や組織を構成する多くの細胞に分化できる能力である多能性を有した幹細胞と定義されている。人体を構成する多種多様な体細胞は、元を正すと1つの完全な分化能を持つ全能性幹細胞から分化したものである。そのため、全能性幹細胞も体細胞も核内に持つ遺伝子の塩基配列が全く同一であり、この分化能の違いが発現する遺伝子量によるものという仮定の下、作製されたのがiPS細胞である。iPS細胞は、皮膚細胞などの体細胞にc-Myc、Oct3/4、Klf4、Sox2の4つの遺伝子を導入することで作製される。
【0004】
多能性を持つとされているiPS細胞の発見は、再生医療の分野において革新的なものであったが、実際に臨床に応用されている報告例は未だほとんど無い。例えば、必要な細胞数が少なく、三次元構造が必要でなく、血管が存在しない、加齢黄斑変性症患者のための色素上皮細胞シートの作製が報告されている程度である。その理由は、iPS細胞が持つ危険性や倫理問題ももちろんだが、産業応用および臨床に向けての幹細胞への遺伝子導入法、培養法、精製法、移植法、細胞の標準化などの種々のステップが存在するためである。そのため、バイオマテリアルという側面から、この種々のステップを解決するための最適な材料や条件を提供することが求められている。
【0005】
再生医療への応用に向け、iPS細胞を用いた成功例が報告されたのは、2007年のJ.Hannaらの報告が初である。しかし、前述した通りiPS細胞を用いた再生医療の臨床への応用は現実的なものではない。即ち、体外で培養した細胞を体内に移植した後に組織が再構築された報告例がほとんどなく、特に血管内皮細胞との共移植なしで体循環系に繋げた例が無い。体循環系に繋げるとは、組織の生存や細胞の増殖に不可欠な酸素や栄養物を取り入れることを目的として、既存の血管から新しい毛細血管の発生、すなわち血管新生を果たすことを意味する。体内に移植した細胞や組織に血管新生を誘導する技術をいかに確立できるかが、今後の再生医療において一つの課題となっている。
【0006】
例えば特許文献1には、ポリテトラメチレングリコールジアクリレートまたはトリエチレングリコールジメタクリレートを光重合開始剤で硬化させたリザーバー間にbFGF/ヘパリン含有アガロースゲルを挟んだ、血管新生誘導因子を徐放するためのカプセルデバイスが開示されている。特許文献2には、特定のアミノ酸配列を有する遺伝子組み換えゼラチンを含む血管内皮細胞遊走用足場が開示されている。特許文献3には、ポリヒドロキシケイ酸エチルエステル化合物を含む、血管新生率増加が治癒過程に必要な疾患の治療などに用いられる生分解性材料が開示されている。また、本発明者らは、ポリエチレングリコール鎖がグラフトしたヒアルロン酸を架橋したハイドロゲルにbFGFを内包させたものをマウス皮下へ埋植することにより、bFGFが徐放され、血管新生が亢進されることを見出している(非特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-86313号公報
【文献】特開2013-74936号公報
【文献】特表2013-520463号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】T.Ooyaら,6th Asisan Biomaterials Congress.,2017
【文献】大谷亨ら,日本バイオマテリアル学会シンポジウム2016,博多
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、本発明者らは、bFGF(塩基性繊維芽細胞増殖因子)を含む特定のハイドロゲルにより生体内における血管新生を亢進できることを見出している。
しかし、iPS細胞による実際の治療が未だ実際には成功しておらず、生体内で組織や臓器を再生する技術は非常に重要であり、欠損組織の細胞へ栄養成分などを送達するための血管を延ばすことは細胞増殖にとり必要不可欠であって、より優れた血管新生技術が切望されている。
そこで本発明は、優れた血管誘導効果を示す血管新生促進材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、細胞増殖因子を含むハイドロゲルに遊離の特定高分子を含ませることにより、血管誘導効果が顕著に向上することを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0011】
[1] ハイドロゲルおよび細胞増殖因子を含み、
上記ハイドロゲルが、架橋生分解性ポリマー、並びに、遊離水溶性高分子および遊離両親媒性高分子の少なくとも一方を含むことを特徴とする血管新生促進材。
[2] 上記架橋生分解性ポリマーが架橋酸性多糖類である上記[1]に記載の血管新生促進材。
[3] 上記架橋酸性多糖類が架橋ヒアルロン酸、架橋アルギン酸または架橋コンドロイチン硫酸である上記[2]に記載の血管新生促進材。
[4] 上記遊離水溶性高分子が、ポリエチレングリコールまたはポリビニルアルコールである上記[1]~[3]のいずれかに記載の血管新生促進材。
[5] 上記遊離両親媒性高分子が、ポリエチレングリコール-ポリ(ε-カプロラクトン)ブロック共重合体である上記[1]~[4]のいずれかに記載の血管新生促進材。
[6] 上記細胞増殖因子が塩基性繊維芽細胞増殖因子である上記[1]~[5]のいずれかに記載の血管新生促進材。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る血管新生促進材を、足場材料および増殖させるべき細胞と共に生体内に移植することにより、血管を効率的に誘導することが可能となる。その結果、血液から細胞へ栄養成分などが送達され、細胞の分化や増殖が促進され、組織や臓器が再生する可能性がある。よって本発明は、再生医療を現実のものとする可能性があるものとして、産業上非常に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、様々なハイドロゲルの架橋密度の測定結果を表すグラフである。
図2図2は、本発明に係る血管新生促進材と、マウスの膣間質株細胞であるP3VS細胞およびミュラー管上皮のクローン性株細胞であるE1細胞を含むコラーゲンゲルとを埋植した部分の試料を、CD31抗体を使って染色した拡大写真である。
図3図3は、本発明に係る血管新生促進材と、上皮のクローン性株細胞であるE1細胞および上皮の組織化を誘導する、P3VS由来のクローン性株細胞であるM2細胞を含むコラーゲンゲルとを埋植した部分の試料を、子宮上皮マーカーであるHMGA2に対する抗体を使って免疫組織化学染色した拡大写真である。
図4図4は、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を含む様々なハイドロゲルからのbFGF放出試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る血管新生促進材は、ハイドロゲルおよび細胞増殖因子を含み、当該上記ハイドロゲルは、架橋生分解性ポリマー、並びに、遊離水溶性高分子および遊離両親媒性高分子の少なくとも一方を含む。ハイドロゲルとは、三次元網目構造を有する親水性高分子で構成されており、水に不溶ではあるが、水を含んで膨潤している材料である。
【0015】
架橋生分解性ポリマーは、生分解性のポリマーが架橋されることにより不溶化したものである。本発明の血管新生促進材は生体内に埋植するので、生分解性であることが好ましい。生分解性とは、生体内に存在する酵素や微生物などにより分解され得る性質をいう。
【0016】
生分解性ポリマーとしては、特に制限されないが、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、アミノ基、水酸基など、架橋のための反応性官能基を有する親水性高分子を挙げることができる。例えば、カルボキシ基および/またはスルホン酸基を有する酸性多糖類であるヒアルロン酸、アルギン酸、コンドロイチン硫酸など;側鎖カルボキシ基を有する酸性ペプチドであるポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸など;アミノ基を有する塩基性多糖類であるキトサンなど;水酸基を有する中性多糖類であるキチンなどを挙げることができる。後述するハイドロゲルの製造方法に基づいて、遊離の水溶性高分子および両親媒性高分子の量を過剰に低減しないため、カルボキシ基および/またはスルホン酸基を有する多糖類またはペプチドが好ましく、カルボキシ基および/またはスルホン酸基を有する多糖類がより好ましい。
【0017】
架橋生分解性ポリマーの主鎖である生分解性ポリマーの大きさは特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、多糖類の単糖単位の重合度としては、100以上、6000以下とすることができる。
【0018】
架橋生分解性ポリマーを架橋する分子としては、親水性であり且つ両末端に架橋のための反応性官能基を有するポリマーを用いることができる。架橋のための反応性官能基としては、アミノ基、水酸基、カルボキシ基を挙げることができる。当該分子の主鎖としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコールなどを挙げることができる。
【0019】
生分解性ポリマーの架橋程度は、特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば、0.01mol/m3以上、0.15mol/m3以下の架橋密度とすることが好ましい。
【0020】
本発明に係るハイドロゲルは、ハイドロゲルに加えて、遊離水溶性高分子および遊離両親媒性高分子の少なくとも一方(以下、遊離水溶性高分子および遊離両親媒性高分子の少なくとも一方を「遊離水溶性高分子/両親媒性高分子」と略記する場合がある)を含む。
【0021】
本発明に係るハイドロゲルにおいて水溶性高分子/両親媒性高分子が遊離して存在しているとは、水溶性高分子/両親媒性高分子が架橋生分解性ポリマーに共有結合しておらず、ハイドロゲル中に架橋生分解性ポリマーとは独立して存在していることを意味する。但し、ハイドロゲル内に遊離した水溶性高分子/両親媒性高分子が存在していれば、一部の水溶性高分子/両親媒性高分子が架橋生分解性ポリマーに共有結合していてもよいものとする。
【0022】
水溶性高分子としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコ-ル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリグリセロールなどの合成水溶性高分子;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの半合成水溶性高分子;グアーガム、カラギーナン、アルギン酸塩など植物由来水溶性高分子;キサンタンガムなど微生物由来水溶性高分子;コンドロイチン硫酸塩やヒアルロン酸塩など動物由来水溶性高分子を挙げることができ、合成水溶性高分子が好ましく、ポリエチレングリコールおよびポリビニルアルコールがより好ましい。
【0023】
両親媒性高分子は、親水性部分と疎水性部分の両方を有し、水と疎水性溶媒の両方に親和性を有する高分子であり、例えば、親水性部分と疎水性部分を有するAB型ジブロック共重合体を挙げることができる。親水性部分としては、上記の水溶性高分子を挙げることができる。また、疎水性部分としては、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などを挙げることができる。かかる疎水性部分により、ペプチドである細胞増殖因子をハイドロゲル中により安定的に保持できる可能性がある。
【0024】
遊離水溶性高分子/両親媒性高分子の分子量は、水溶性が維持されている範囲で適宜選択すればよいが、例えば、数平均分子量を1000以上、20000以下とすることができる。
【0025】
ハイドロゲルにおける遊離水溶性高分子/両親媒性高分子の量は、適宜調整すればよいが、例えば、架橋生分解性ポリマーと遊離水溶性高分子/両親媒性高分子との合計に対する遊離水溶性高分子/両親媒性高分子の割合としては、1質量%以上、80質量%以下とすることができる。
【0026】
細胞増殖因子とは、一般的に、特定の細胞の増殖や分化を促進する内因性のタンパク質をいい、本発明においては、生体内において所望の組織または臓器を構成する細胞への分化を促進したり、当該細胞の増殖を促進できるものを選択すればよい、本発明の血管新生促進材においては、細胞増殖因子は、ハイドロゲルに含まれる水に溶解している。その様な細胞増殖因子としては、例えば、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)などの繊維芽細胞増殖因子;VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、胎盤成長因子(PLGF-1)、PLGF-2などの血管内皮細胞成長因子(VEGF)ファミリー;アンギオポエチン;血小板由来成長因子(PDGF);トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)などを挙げることができ、繊維芽細胞増殖因子が好ましく、bGFGがより好ましい。
【0027】
細胞増殖因子の量は特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、ハイドロゲルに対して1μg/g以上、3000μg/g以下とすることができる。
【0028】
本発明に係るハイドロゲルは、当業者公知の方法により製造することができる。例えば、生分解性ポリマー、遊離水溶性高分子/両親媒性高分子および架橋剤を含む水溶液に縮合剤を添加し、生分解性ポリマーを架橋剤で架橋すればよい。この際、遊離水溶性高分子/両親媒性高分子の一部が生分解性ポリマーと反応し、生分解性ポリマーにグラフトしたり、生分解性ポリマーを架橋することにより、遊離水溶性高分子/両親媒性高分子の量が減ってしまうおそれがあり得る。この様な場合には、生分解性ポリマーと架橋剤が優先的に反応するよう、生分解性ポリマー、遊離水溶性高分子/両親媒性高分子および架橋剤の反応性官能基を選択したり、これら試薬の量を調整したり、縮合剤の種類を選択したり、すればよい。
【0029】
例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム=クロリド(DMT-MM)などのトリアジン系縮合剤は、溶媒である水やアルコール中でもカルボン酸とアミンとのアミド化反応を選択的に進行せしめることができる。よって、かかるトリアジン系縮合剤を用いて、生分解性ポリマーとしてカルボキシ基および/またはスルホン酸基を有する酸性多糖類を用い、両末端にアミノ基を有する架橋剤を用い、水酸基を有する遊離水溶性高分子/両親媒性高分子を用いれば、架橋剤による酸性多糖類の架橋反応を選択的に進めることができ、遊離水溶性高分子/両親媒性高分子の低減を抑制することができる。或いは、遊離水溶性高分子/両親媒性高分子の水酸基を保護してもよい。
【0030】
架橋反応後は、水洗や透析などにより、架橋剤などを十分に除去することが好ましい。この際、架橋生分解性ポリマーの三次元網目構造内に取り込まれ、また、架橋生分解性ポリマーへの親和性も高い遊離水溶性高分子/両親媒性高分子は除去され難く、逆に架橋剤などの低分子は除去され易い。
【0031】
得られたハイドロゲル内へ細胞増殖因子を取り込む方法も特に制限されず、常法を用いることができる。例えば、ハイドロゲルを凍結乾燥などで一旦乾燥させ、細胞増殖因子の水溶液を添加することで、ハイドロゲル内に細胞増殖因子を取り込ませることができる。細胞増殖因子の量は、細胞増殖因子水溶液の添加量や濃度などにより調整できる。
【0032】
本発明に係る血管新生促進材は、生体内において血管の新生を促進することができる。よって、本発明の血管新生促進材を、幹細胞や増殖能の高い細胞を含む足場材料と共に生体内へ埋植することにより、血管の新生を促進し、幹細胞の分化や細胞の増殖を進めることが可能になり得る。生体内で増殖させたい細胞は、その増殖や組織化を促す細胞と共に移植してもよい。
【0033】
但し、本発明者らの実験的知見によれば、本発明の血管新生促進材は、増殖能の高い細胞には毒性を示すことがある。この様な場合には、移植細胞を足場材料内に存在せしめたり、本発明の血管新生促進材と足場材料を互いに接触しない状態で埋植することが好ましい。即ち、細胞が足場材料内に存在し、本発明の血管新生促進材と細胞が直接接触しないのであれば、本発明の血管新生促進材と足場材料を互いに接触させた状態で生体内に移植してもよい。しかし、本発明の血管新生促進材と足場材料との距離としては、0.1mm以上、1cm以下が好ましい。当該距離が0.1mm以上であれば、増殖させたい細胞に対する血管新生促進材の悪影響を十分に抑制できる。一方、当該距離が1cm以下であれば、本発明の血管新生促進材により新生された血管を増殖させたい細胞までより確実に到達させることができる。上記距離としては、8mm以下がより好ましく、5mm以下がより更に好ましく、3mm以下または2mm以下がより更に好ましい。
【0034】
なお、本発明の血管新生促進材は、使用後、即ち所望の組織や臓器が生体内で再生された後、生体内酵素などで分解され、排出されると考えられる。或いは、本発明の血管新生促進材が生体内酵素などで分解されつつ、細胞増殖因子が経時的に放出され、細胞の分化や増殖が促進される可能性もある。
【実施例
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0036】
実施例1: ハイドロゲルの調製
(1)PEGグラフトヒアルロン酸の合成
各試薬の使用量を表1に示す。100mLナスフラスコ中、ヒアルロン酸(HA,JNC社製,Mn:230kDa)を純水に溶解させた。次いで、片末端がアミノ化されたPEGであるα-メチル-ω-アミノプロピルポリオキシメチレン(PEG-NH2,日油社製,Mn:5205)を加えた後、更に縮合剤(「DMT-MM」Wako社製)を加え、室温で24時間攪拌した。反応終了後、分画分子量12000~14000の透析膜を用いて3日間透析を行い、不純物を十分に除去した。その後、凍結乾燥した。PEGグラフトヒアルロン酸は白色の綿上の物質であった。
得られたPEGグラフトヒアルロン酸に関して、リファレンスとしてα-アルミナ(5.48mg)を用いて、昇温範囲-30~160℃、昇温速度2℃/minで示差走査熱量測定を行った。60℃付近のPEGの融解エンタルピーの大きさを面積から算出し、既報を参考に、PEGの融解エンタルピーΔH(mJ/mg):yとPEGのグラフト率(wt%):x間のy=1.6113xとの関係からグラフト率を算出した。また、先行研究より、使用した原料PEGとHAの質量に対する原料PEGの質量の割合:pと、PEGグラフトヒアルロン酸の質量に対するグラフトしたPEGの質量の割合:qの間にはq=0.678pの関係があることから、合成されたPEGグラフトヒアルロン酸におけるグラフトしたPEGの割合は、約5質量%および63質量%と算出された。なお、PEGグラフトヒアルロン酸の収率は、それぞれ95%および91%と高収率であった。
【0037】
【表1】
【0038】
(2)ハイドロゲルの調製
35mm dish上で、HAを純水(2.0mL)に加え、更にポリエチレングリコール(PEG,ナカライテスク社製,Mn:7400~10200)またはエチレングリコール-ε-カプロラクトンブロック共重合体(PEG-PCL,関西大学より入手,Mn:10300)を加え、均一な溶液になるまでスパチュラで攪拌した。その後、両末端がアミノ化されたPEGであるα-アミノプロピル-ω-アミノプロピルポリオキシメチレン(PEG-BA,日油社製,Mn:2121)を加え、完全に溶解するまで攪拌後、縮合剤(「DMT-MM」Wako社製)を加えた。全試薬が完全に溶解したことを確認した後、室温で24時間静置した。24時間経過後、エッペンチューブの先端を使い、それぞれのハイドロゲルを直径1cm、厚さ2mmに型抜きをした。その後、未反応物を取り除くため純水に2日間浸漬した。この間、純水を3回交換した。洗浄水は、架橋剤導入率の算出のため保管した。洗浄終了後、凍結乾燥して乾燥ハイドロゲルを回収した。得られた乾燥ハイドロゲルは白色の固体であった。また、上記(1)で得られたPEGグラフトヒアルロンを同様に架橋し、乾燥ハイドロゲルを得た。
各乾燥ハイドロゲルの調製に用いた試薬の量を表2に示す。なお、約5質量%および63質量%のPEGがグラフトしたPEGグラフトヒアルロン酸から得られたハイドロゲルを、それぞれ「PEG5-g-HA」および「PEG63-g-HA」という。また、HAに水溶性高分子または両親媒性高分子をグラフトさせず単に混合したまま架橋したハイドロゲルである「PEG/HA」および「PEG-PCL/HA」の前に付した数字は、PEG誘導体とHAの合計に対するPEG誘導体の質量パーセンテージである。
【0039】
【表2】
【0040】
なお、「PEG5-g-HA」および「PEG63-g-HA」においては、PEGは全てHAにアミド結合しており、遊離のPEGは透析により除去されてハイドロゲル中には実質的に存在していないと考えられる。また、「PEG/HA」および「PEG-PCL/HA」においては、縮合剤であるDMT-MMはアミンに対する反応性が高く、アルコールとアミンが共存している場合でも、生成するエステルはアミドの1%以下であることから(M.Kunishimaら,Tetrahedron,57,1551(2001))、ほぼ全てのPEGおよびPEG-PCLはHAに共有結合しておらず、ハイドロゲル中に遊離して存在していると考えられる。
【0041】
(3)含水率測定
作製した各乾燥ハイドロゲル(10mg)を水中に9日間浸漬させた後、膨潤したハイドロゲルの質量を測定した。膨潤ハイドロゲルの質量(Wwet)と乾燥ハイドロゲルの質量(Wdry)から、下記式に基づいて含水率を算出した。結果を表3に示す。
含水率(%)=[(Wwet-Wdry)/Wwet]×100
【0042】
【表3】
【0043】
各ハイドロゲルの含水率は90~94%となり、各ハイドロゲル間で最大4%の差がみられた。この差は、膨潤ハイドロゲルの質量を測定する際に水気を切る操作に基づく測定誤差によるものと考えられ、今回調製したハイドロゲルの含水率は、ほぼ同程度であると判断された。
なお、PEG-PCLを含むハイドロゲル以外のハイドロゲルは、水を含むことにより無色透明となったが、PGE-PCLを含む膨潤ハイドロゲルは白色であった。よって、PEG-PCLは、ゲル中で凝集体を形成していることが示唆された。
【0044】
(4)架橋剤の導入率測定
各ハイドロゲルの調製時に用いた洗浄水に含まれる架橋剤(PEG-BA)を2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)と反応させ、分光光度計を用いて345nmの吸光度を測定することで、洗浄水に含まれる架橋剤の量を求めた。当該量と、使用した原料架橋剤の量から、各ハイドロゲルの架橋剤反応率を算出した。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
架橋剤導入率は、89~96%とハイドロゲル間で最大7%の差が認められた。グラフト体ではHAのカルボン酸がグラフト化に使われており、PEG63-g-HAにおいては、架橋剤と反応できるカルボン酸は他のゲルに比べ約50%しか存在しない。しかし、グラフト率は91%であったことから、グラフト化による架橋剤導入率への影響は無いと判断された。
【0047】
(5)架橋密度測定
調製したハイドロゲルの架橋密度をオートグラフによる圧縮試験により算出した。具体的には、調製したハイドロゲルを円柱状に裁断し、膨潤前の厚みt0と体積V0を測定した。更にハイドロゲルを純水により膨潤平衡に達するまで膨潤させた後、厚みtsと体積Vsを測定した。表面の水分を軽くふき取り固定式厚板間にハイドロゲルを挿入後、圧縮速度1.0mm/minでオートグラフ試験を行い、ハイドロゲルの応力を測定した。架橋密度を、以下のゴム弾性の理論式を用いて算出した。
τ=RT×(νe/V0)×ν2 1/3×(α-1/α2
[式中、τは応力(N/m2)を示し、Rは気体定数(J/Kmol)を示し、Tは絶対温度(K)を示し、νe/V0は架橋密度(mol/m3)を示し、ν2はハイドロゲルの膨潤前後体積比(単位無し)を示し、αは伸長率(Δl/l0)を示し、lはハイドロゲルの厚みを表す。]
各ハイドロゲル間の結果を、データ分析・グラフ作成ソフト(「ORIGIN 8.03」ライトストーン社)を使ってone way ANOVA Fisher検定に付した。結果を図1に示す。図1中、「*」はp<0.05で有意差があることを示す。
HAの架橋密度に対し、63PEG/HAは約51%、63PEG-PCL/HAは約31%、PEG63-g-HAは約10%の架橋密度であり、有意に低いことが分かった。更に、63PEG/HAとPEG63-g-HA間にも有意差が確認できた。これは、ハイドロゲル中に存在するPEG誘導体が、立体的な阻害効果を示し架橋剤の導入率を低下させているとため考えられるが、架橋剤導入率は全てのハイドロゲルで同程度であることが上記の実験で証明されている。そのため、この結果は、2官能性である架橋剤の片方の官能基のみ反応し、HAにグラフトしたような構造をとる架橋剤が存在することを示唆する。これにより、架橋剤の導入率は他のハイドロゲルと変わらず、架橋密度の低いハイドロゲルが調製されたと考えられた。また、PEG63-g-HAが最も低い架橋密度を示したのは、グラフト化により架橋剤と反応できるカルボン酸量が他のハイドロゲルの半分ほどしかないことに起因し、架橋密度が低下したと考えられる。
【0048】
(6)表面性状観察
凍結乾燥後の各ハイドロゲルを約3mm角に切り取り、アルミ板の上にカーボンテープを用いて接着した。更に白金蒸着を行い、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。
HAハイドロゲルには数10~100μmの空孔が多数有する多孔質な構造が確認できた。遊離PEGを含むハイドロゲルについて、5PEG/HAには数10μmから大きいもので約200μmに相当する空孔が見て取れる多孔質な構造が確認できたが、63PEG/HAには100μm程度の空孔が少数しか確認できなかった。遊離PEG-PCLを含むハイドロゲルは、他のハイドロゲルと比較し、表面のラフネスが観察された。これはPEG-PCLの結晶構造が関係していると考えられる。空孔に関しては、5PEG-PCL/HA、63PEG-PCL/HAともに数10μmの空孔が小数しか確認できず、PEG-PCLの重量比が空孔の数や大きさに与える影響は少ないと判断できる。PEG-g-HAハイドロゲルについて、PEG5-g-HAには100μm程度の空孔が少数確認できたが、PEG63-g-HAはひび割れたような構造の中に1000μm程度の空孔が極少数確認できた。PEG63-g-HAは、最も架橋密度が低い値を示す脆いハイドロゲルであり、ハイドロゲル中の巨大な空孔は定性的に架橋密度の低さを支持していると考えられた。
【0049】
実施例2: 血管誘導率測定
マウス尾を0.1%酢酸による抽出に付し、3mg/mL Type I コラーゲン溶液を得た。当該コラーゲン溶液と、p53ノックアウトマウス由来の膣間質株細胞であるP3VS細胞(2.6×105cells/well)を含む10×Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture Ham’s F-12(「DMEM/F12」Sigma社製)と、262mM NaHCO3および0.05N NaOH含有の200mM HEPES bufferを8:1:1の割合で且つ総量が500μLとなるよう混合し、PET製カルチャーインサート(Falcon社製,孔径:0.4μ)上に流し込み、37℃で20分処置して固めることによって、コラーゲンゲルを得た。当該コラーゲンゲル上に、ミュラー管上皮のクローン性株細胞であるE1細胞(1.8×105cells/well)を播種し、24ウェルプレートに設置した。各ウェル中に10% Equa FETAL(Atlas Biological社)、10μg/mLインシュリン(Wako社)、10μg/mLトランスフェリン(BBI Solutions社)、および50μg/mLアスコルビン酸(Wako社)を添加したDMEM/F12培地を500μL入れ、37℃で1日培養した。上皮細胞の接着を確認した後、カルチャーインサート中から培地を吸引し、1週間毎日培地交換しながら共培養し、E1細胞とP3VS細胞を含むコラーゲンゲルを得た。
別途、HA、5PEG/HA、5PEG-PCL/HA、PEG5-g-HA、およびPEG63-g-HAの乾燥ハイドロゲルを2.5mm3に切断した。25μg/mLの濃度で塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を0.1%ウシ血清由来アルブミン含有リン酸緩衝生理食塩水に溶解させ、得られた溶液を各乾燥ハイドロゲルに0.1mLずつ滴下し、24時間静置することで、一定量のbFGFを含むハイドロゲルを調製した。
上記コラーゲンゲルを、各ハイドロゲルと共にC57BL/6Jマウス(三協ラボサービス)の皮下に移植し、飼料と水を自由摂取させつつ2週間飼育した。
次いで、移植した試料を取り出し、4%パラホルムアルデヒド水溶液中、4℃で一晩固定化し、組織脱水溶液(富士フィルム和光純薬工業社)を使って脱水した。試料をパラフィンに包埋し、6μm切片に切断した。切片をキシレンで脱パラフィン化し、再水和し、PBSですすぎ、0.5%シトラコン酸ナトリウム水溶液中、95℃で45分間処理して抗原を露出させた。非特異的結合を、5%ヤギ血清、1%ウシ血清アルブミン(BSA,Sigma製)、および0.3%TritonX-100を含有するPBS中、室温で30~60分間ブロックした。一次抗体として、内皮細胞マーカーであるウサギ抗マウスCD31抗体(1/200,Cell Signaling Technology製)を用いた。切片を一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。PBSで数回洗浄した後、切片をAlexa Fluor 488ヤギ抗ウサギ抗体(1/300,Jackson ImmunoResearch Laboratories製)と室温で2時間インキュベートし、血管内皮細胞を染色した。5PEG/HAハイドロゲルを用いた場合の試料の写真を図2に示す。
皮下移植したコラーゲンはホスト組織と癒着していた。図2中、点線はコラーゲンゲルと癒着ホスト組織との境界であり、左側がホスト組織、右側がコラーゲンゲルである。また、緑色蛍光は血管内皮細胞の細胞膜を、青色蛍光は細胞核を表している。移植したコラーゲンゲル中には血管内皮細胞を入れていないことから、ホスト組織側からコラーゲンゲル側に血管が新生していることが認められる。この様に、5PEG/HAハイドロゲルには明確な血管誘導能が認められ、5PEG-PCL/HAハイドロゲルにも同様の結果が確認された。同様の実験を3回繰り返したところ、5PEG/HAハイドロゲルと5PEG-PCL/HAハイドロゲルを用いた場合のみ3回ともコラーゲンゲルが維持されていたことから、5PEG/HAハイドロゲルと5PEG-PCL/HAハイドロゲルを用いた実験を6回繰り返した。
一方、HA、PEG5-g-HA、およびPEG63-g-HAのハイドロゲルを用いた場合には、コラーゲンゲルは退縮してしまっており、コラーゲンゲルは1回しか維持されなかったことから、誤差を算出できるほど実験を繰り返すことができなかった。その理由としては、コラーゲンゲルまで血管が新生されず、移植細胞が死滅してしまったことにより、炎症反応などが惹起されてコラーゲンゲルの分解が促進されてしまった可能性が考えられる。一方、5PEG/HAハイドロゲルと5PEG-PCL/HAハイドロゲルを用いた場合には、コラーゲンゲルまで血管が新生され、移植細胞が維持されたことから、コラーゲンゲルも維持されたと考えられる。
得られた画像を解析し、各画像中に占めるCD31抗体染色部分、即ち血管部分の割合を算出した。結果を表5に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
表5に示す結果の通り、本発明に係る5PEG/HAハイドロゲルと5PEG-PCL/HAハイドロゲルには、他のハイドロゲルに比べ、明らかに優れた血管新生作用が認められた。
【0052】
実施例3: 上皮誘導評価
上記実施例2と同様にして、ミュラー管上皮のクローン性株細胞であるE1細胞と上皮の組織化を誘導するP3VS由来のクローン性間質細胞であるM2細胞を含むコラーゲンゲルを作製し、コラーゲンゲルのみ、或いは上記実施例2で効果の認められた5PEG/HAハイドロゲルと5PEG-PCL/HAハイドロゲルと共にマウス皮下に移植し、2週間飼育した後に試料を得た。得られた試料中に上皮組織が存在しているか、また、生存した間質細胞(M2細胞)を含むコラーゲンゲルが残存しているかを観察した。試料を、上皮組織が存在しておらず且つ生存した間質細胞を含むコラーゲンゲルも存在していなかったものと、少なくともどちらかが存在していたものに分類した。結果を表6に示す。
【0053】
【表6】
【0054】
表6に示す結果の通り、5PEG/HAハイドロゲルと5PEG-PCL/HAハイドロゲルを共移植した場合には、マウスを2週間飼育した後、得られた試料には、上皮細胞より構成された組織と、生存間質細胞を含むコラーゲンゲルの少なくとも一方が含まれていた。かかる結果をχ2検定に付したところ、p<0.05で有意差が認められた。
また、子宮上皮に特異的に発現する転写因子であるHMGA2に対する抗体を用いて、子宮上皮の核を緑色蛍光に免疫組織化学染色した5PEG/HAハイドロゲル-コラーゲンゲル共移植試料の写真を図3に示す。図3の通り、5PEG/HAハイドロゲルとコラーゲンゲルとを共移植した場合には、コラーゲンゲルとホスト組織の境界付近に単層上皮層が形成され、子宮上皮マーカーであるHMGA2の発現も認められたことから、子宮様上皮組織が誘導されたことが示唆された。
これら結果は、本発明のハイドロゲルにより血管が新生され、コラーゲン中の上皮細胞などに酸素や栄養成分が供給されたことによると考えられる。
【0055】
実施例4: bFGF放出挙動評価
蛍光分子(FITC)で標識した塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を合成し、濃度1000μg/mLの12mM PBS溶液を調製した。乾燥した各ハイドロゲルに当該溶液を0.1mLずつ滴下し、42時間静置することで、1ゲル当たり100μgのFITC-bFGFを含むハイドロゲルを調製した。
上記ハイドロゲルをティーパックに包み、0.1質量%NaN3を含む12mM PBS(pH7.5)に入れ、37℃でインキュベートした。インキュベート開始から5,10,20,30,40,50,60,120,180,360,540,720,1440分後、およびそれ以降は24時間毎に溶液サンプルを取得し、蛍光測定することによりPBS中に放出されたFITC-bFGFの濃度を求めた。測定は各ハイドロゲルにつき6回行い、最大値と最小値を除いた4つのデータから平均値を求めた。結果を図4に示す。
得られた各2群間の結果をt-テストにより有意差検定したところ、PEG5-g-HAハイドロゲルとPEG63-g-HAハイドロゲルとの間で、インキュベート開始から5,10,440分後を除いてp<0.05で有意差が認められた他は、一切有意差は認められなかった。
5PEG/HAハイドロゲルと5PEG-PCL/HAハイドロゲルには血管誘導効果や組織形成促進効果が認められた一方で、HAハイドロゲル、PEG5-g-HAハイドロゲルおよびPEG63-g-HAハイドロゲルには効果が認められなかったという上記実施例2,3の結果を考慮すれば、ハイドロゲルの血管誘導効果や組織形成促進効果は、細胞増殖因子の徐放作用などとは関係が無いことが分かった。
図1
図2
図3
図4