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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】噴射ボタン及びエアゾール噴射器
(51)【国際特許分類】
   B65D 83/16 20060101AFI20221202BHJP
   B05B 9/04 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
B65D83/16 100
B05B9/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018165355
(22)【出願日】2018-09-04
(65)【公開番号】P2020037430
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】518315874
【氏名又は名称】百戸 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100180275
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 倫太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161861
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194836
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 優一
(72)【発明者】
【氏名】百戸 弘
【審査官】杉田 剛謙
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-106122(JP,A)
【文献】特開2000-238867(JP,A)
【文献】特開2016-179471(JP,A)
【文献】特開2007-145350(JP,A)
【文献】特開2018-149464(JP,A)
【文献】特開2002-308357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/16
B05B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐チッピング成分を含む溶液と噴射剤とが充填されたエアゾール容器の口部に装着されると共に、前記エアゾール容器から前記溶液を噴射させる噴射ボタンであって、
長さが5mm~10mmとされ、直径が2.mm又は3.0mmとされたノズル孔が内部に形成されると共に、該ノズル孔から前記溶液を外部へ噴射させるノズルを備えたことを特徴とする噴射ボタン。
【請求項2】
噴射ボタンと、前記噴射ボタンが装着されるエアゾール容器とを備えるエアゾール噴射器であって、
前記噴射ボタンに、請求項1に記載の噴射ボタンを適用したことを特徴とするエアゾール噴射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射ボタン及びエアゾール噴射器に関し、例えば、エアゾール製品に適用し得る。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の下部構造部、例えば、ロッカーパネル部(サイドシル部)等においては、自動車走行時にタイヤが撥ね上げる小石や砂利等の衝突により塗膜が剥がされるというチッピング現象が発生する。このため、走行中の石・砂跳ね等から車体を保護してこのチッピング現象を防止すべく、車体パネル(鈑金)の表面に、アンダーコートとして耐チッピング塗料を塗装して、車体保護用のコーティング膜を形成している。
【0003】
ところで、自動車事故などの原因により車体パネル(鈑金)に損傷が生じた場合には、まず、修理作業員により鈑金が元の形に修復される。そして、修復した鈑金(元の塗膜が完全に剥がされた状態)に、耐チッピング塗料(例えば、特許文献1)を含有したエアゾールスプレーを噴射してコーティング膜を形成する(その後、形成された膜上に車体の色が塗装される)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭59-033365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車を組み立てる塗装工程において、自動車下部の鈑金(ロッカーパネル部等)のコーティング膜が粗く形成されるようになってきている。例えば、ホンダの「フィット」のロッカーパネルは、コーティング膜が粗く形成されている(より具体的には、コーティング膜の山と谷の差(凹凸の差)が拡大している)。
【0006】
上記理由により、修理時においても、工場出荷時に合せてコーティング膜を粗く形成する必要がある。
【0007】
しかしながら、既存のエアゾールスプレー(修理時に用いるエアゾールスプレー)は、細かい粒子を霧状に噴射することを主目的としているため、仮に、既存のエアゾールスプレーを用いて、耐チッピング塗料のコーティング膜を形成したとしも、凹凸の差が十分に形成できない。すなわち、修理時のコーティング膜の状態は、工場出荷時(鈑金損傷前)の状態とは異なってしまう。
【0008】
自動車メーカーは、コーティング膜を粗く形成するために専用の設備を導入できるが、修理業者は、資金に限りがあるために、耐チッピング塗料を含有したエアゾールスプレー等の製品を使わざる得ない実情がある。
【0009】
そのため、簡易な手段により、対象物に耐チッピング塗料のコーティング膜を粗く形成できる噴射ボタン及びエアゾール噴射器が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明は、耐チッピング成分を含む溶液と噴射剤とが充填されたエアゾール容器の口部に装着されると共に、前記エアゾール容器から前記溶液を噴射させる噴射ボタンであって、長さが5mm~10mmとされ、直径が2.mm又は3.0mmとされたノズル孔が内部に形成されると共に、該ノズル孔から前記溶液を外部へ噴射させるノズルを備えたことを特徴とする。
【0011】
第2の本発明は、噴射ボタンと、前記噴射ボタンが装着されるエアゾール容器とを備えるエアゾール噴射器であって、第1の本発明の噴射ボタンを適用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡易な手段により、対象物に耐チッピング塗料のコーティング膜を粗く形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係るエアゾール噴射器において、噴射ボタンをエアゾール容器に装着する前の状態を示す図である。
図2】実施形態に係る噴射ボタンを下方から見た場合の図である。
図3】実施形態に係る噴射ボタンの断面を示す図である。
図4】実施形態に係るノズル孔の直径を変えてテストサンプル紙上の凹凸膜の状態を比較した結果表を示す図である。
図5】実施形態に係る凹凸膜が形成されたテストサンプル紙の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(A)主たる実施形態
以下では、本発明に係る噴射ボタン及びエアゾール噴射器の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
(A-1)実施形態の構成
[エアゾール噴霧器]
本実施形態に係るエアゾール噴射器1は、図1に示すように、エアゾール容器10と、エアゾール容器10に装着される噴射ボタン2とを有する。
【0016】
まず、エアゾール容器10の構成について説明する。
【0017】
エアゾール容器10は、例えば、スチール製、アルミニウム製等の金属容器、プラスチック製容器(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、塩化ビニル等)、及びガラス製容器が用いられる。
【0018】
エアゾール容器10の内部には、耐チッピング塗料を含む溶液と、噴射剤とが充填されている。
【0019】
耐チッピング塗料としては、例えば、ゴム質樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂)を用いた各種の耐チッピング用塗料が適している。
【0020】
エアゾール容器10の具体例として、商品名「ラバーチッピング」(イチネンケミカルズ製)、商品名「ロッカーガード」(スリーエム製)を挙げることができる。
【0021】
[噴射ボタン]
次に、噴射ボタン2の構成について、図1図3を挙げて説明する。
【0022】
噴射ボタン2は、エアゾール容器10内から溶液を噴射させるためのものであり、図1に示すように、エアゾール容器10の上部に取り付けられるボタン本体21を備えている。
【0023】
ボタン本体21の内周面には、図2及び図3に示すように、ボタン本体21の周方向に沿って形成された第1嵌合部23が設けられている。ここで、エアゾール容器10の上部の外周部には、凸状をした巻締部12が形成されている(図1参照)。この巻締部12が第1嵌合部23と嵌合し、ボタン本体21がエアゾール容器10に取り外し可能に取り付けられる。その際、噴射ボタン2(第2嵌合部24)がエアゾール容器10の口部11に装着される。
【0024】
ボタン本体21には、図1図3に示すように、押下部22が設けられ、この押下部22を指で押し下げることが可能となっている。噴射ボタン2がエアゾール容器10に装着された状態において押下部22を下方へ押すことにより、エアゾール容器10の口部11が下方に押され、その口部11の下方に設けられたバルブ(図示省略)が開放され、所定の圧力で加圧されている溶液が、口部11から噴射する構成となっている。
【0025】
この押下部22には、エアゾール容器10内の溶液を外部へ噴射させるノズル3が設けられている。このノズル3は、横方向に延びており、押下部22に着脱可能に取り付けられている。
【0026】
また、ノズル3の内部には、略円形状のノズル孔3Aが形成されている。このノズル孔3Aの長さは、例えば、5mm~10mmである。さらに、ノズル孔3Aの直径(内径)は、1.5mm~4.0mmとされ、望ましくは、2.0mm~3.0mmである。
【0027】
ノズル孔3Aの直径が1.5mm未満であると、ノズル3から噴射される溶液の粒子が細かくなり、凹凸の塗膜(耐チッピング塗料の塗膜)を形成(粗く形成)できなくなってしまう。一方、ノズル孔3Aの直径が3.0mmを超えた場合は、ノズルから噴射される溶液の粒子が粗くなりすぎて、液だれが起こりやすく、スプレー不良が生じる。なお、このノズル3は、押下部22と一体で成形されても良い。
【0028】
押下部22の内部には、上下左方向の通路25が形成され、この通路25とノズル孔3Aとが合流部26で連結されている。この通路25は、断面略円形状をしており、この通路25及び合流部26によって、エアゾール容器10の口部11とノズル孔3Aとを連通させる連通路が形成される。
【0029】
また、通路25の底部に、エアゾール容器10の口部11が当接される。エアゾール容器10の口部11が下方に押され、口部11から溶液(耐チッピング塗料含有)が噴射すると、溶液は、通路25へ流入する。通路25へ流入した溶液は、合流部26及びノズル孔3Aを通過して外部に噴射される。ノズル孔3Aを通過して外部へ噴射される溶液は、減圧による噴射剤の急激な膨張により、霧状になる。
【0030】
次に、本実施形態について作用を説明する。
【0031】
まず、ユーザは、ノズル3を対象物(ロッカーパネル等)へ向けて、エアゾール容器10を把持し、押下部22を指で押して、押下部22を押し下げる。
【0032】
通路25に差し込まれたエアゾール容器10の口部11が下方へ押し下げられ、口部11の下方にあるバルブ(図示省略)が開放される。エアゾール容器10内の溶液が口部11から噴出する。噴出した溶液は、通路25へ流入し、合流部26を介して、ノズル孔3Aを通じて、対象物へ噴射される。これにより、対象物に溶液が付着し、凹凸の塗膜が形成される。
【0033】
ここで、本実施形態の構成では、ノズル孔3Aの直径が2.0mm~3.0mmとされているため、噴射された溶液の粒子径が大きくなり、粗い凹凸膜を形成できる。
【0034】
次に、本発明の効果を確かめるために行った比較試験について説明する。
【0035】
この試験では、一定の温度条件のもと、無風状態の室内において、噴射ボタン2のノズル3に形成されたノズル孔3Aの直径(内径)をそれぞれ変え(ノズル孔3Aの長さは約8.45mmで固定)、その噴射ボタン2を装着したエアゾール容器10から、15~20cm程離れたテストサンプル紙に向けて溶液を噴射し、自然乾燥を行った。
【0036】
この試験では、テストサンプル紙に向けての溶液の噴射と自然乾燥の動作を1セットとして、合計5セット行った。また、噴射ボタン2が装着されるエアゾール容器としては、商品名「ラバーチッピング」(イチネンケミカルズ製)を使用した。
【0037】
図4は、実施形態に係るノズル孔の直径を変えてテストサンプル紙上の凹凸膜の状態を比較した結果表100を示す図である。
【0038】
図4に示すように、試験により形成された凹凸膜の状態は、ノズル孔直径(内径)F1ごとに、テストサンプル紙上の山の数(一定範囲)F2、山の数(断面)F3、高低差F4で示されている。
【0039】
山の数(一定範囲)F2は、テストサンプル紙上の一定範囲(この例では、2cm×2cmの範囲)内の山(塗膜の山)の数を示している。山は、試験者の目視により山と認識できれば、カウントした。
【0040】
山の数(断面)F3は、テストサンプル紙の断面(この例では、横2cmの断面)における山の数を示すものである。図5は、凹凸膜が形成されたテストサンプル紙の断面図であって、鉛直方向の山の状態(凹凸膜の状態)を示している。例えば、図5では、6個の山(M1~M6)が示されている。
【0041】
高低差F4は、山の頂点から底までの長さ(距離)を示している。高低差F4は、市販の電子ノギスを用いて算出した。なお、高低差F4は、図5に示すように、各山の状態によってバラつきが存在する。従来形成された凹凸膜との最大の違いは、この高低差である。従来は、最大でも1.0mm程しか高低差がなく、この高低差がないことにより、目視により凹凸膜が荒く形成されていると認識されなかった。なお、山の数(山の数(一定範囲)F2、山の数(断面)F3)が多く成る程、凹凸膜が荒く形成されていると認識されることは勿論である。
【0042】
図5の結果表100に示すように、各ノズル孔の直径の内、ノズル孔の直径3.0mmが、最も高低差の最大値(0.41mm)が大きかった。なお、ノズル孔の直径1.5mmでも、高低差の最大値は、0.14mmであるため、少なくとも、従来の噴射ボタンを備えたエアゾール缶を用いて、形成した凹凸膜よりも有利な効果は奏する。ただし、例えば、工場出荷時の自動車(ホンダのフィット等)の下部構造部に形成された耐チッピング塗料の凹凸膜と比較すると、粗く形成しているとは実感できない。
【0043】
粗く形成していると、人が実感できるは、ノズル孔の直径2.0mm以上(高低差の最大値が0.20mm以上)の場合である。
【0044】
なお、ノズル孔の直径について、3.0mmを超えて設定すると、噴射された溶液の液だれや、噴射された溶液の粒子が粗いことで生じる飛び散りがおきることが想定される。
【0045】
以上のように、本発明の構成によれば、噴射される溶液の液だれや、噴射された溶液の粒子が粗いことで生じる飛び散りが生じることなく、粗く凹凸面を形成されることが確認された。特に、ホンダのフィット等の自動車車体の下部構造部(ロッカーパネル部等)の修理を行う際に、本発明の構成の噴射ボタン(ノズル孔の直径2.0mm以上)を備えたスプレーを用いて、粗い凹凸膜を形成すれば、修理前の工場出荷時の状態に限りなく近づけることができる。
【0046】
なお、この比較試験では、噴射ボタンが装着されるエアゾール容器として、商品名「ラバーチッピング」(イチネンケミカルズ製)を用いた結果を示したが、同様のものとして、商品名「ロッカーガード」(スリーエム製)、商品名「チッピングコート」(石原薬品製)等についても、上記比較試験と同様の結果がでた。
【符号の説明】
【0047】
1…エアゾール噴射器、2…噴射ボタン、3…ノズル、3A…ノズル孔、10…エアゾール容器、11…口部、12…巻締部、21…ボタン本体、22…押下部、23…第1嵌合部、24…第2嵌合部、25…通路、26…合流部、100…結果表。
図1
図2
図3
図4
図5