(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/03 20060101AFI20221202BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20221202BHJP
C08L 77/02 20060101ALI20221202BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
C08L67/03
C08K7/14
C08L77/02
C08L77/06
(21)【出願番号】P 2019003523
(22)【出願日】2019-01-11
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】長畑 聡記
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-153(JP,A)
【文献】特開昭52-98765(JP,A)
【文献】特開平5-132614(JP,A)
【文献】特開2007-196516(JP,A)
【文献】特開2012-51953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリレート樹脂(A)および脂肪族ポリアミド樹脂(B)を含有する樹脂組成物であって
、
脂肪族ポリアミド樹脂(B)の融点が225℃未満、かつポリアリレート樹脂(A)、脂肪族ポリアミド樹脂(B)の質量比(A/B)が80/20~20/80であ
り、
ポリアリレート樹脂(A)および脂肪族ポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対し、さらにガラス繊維(C)を20~100質量部含有し、
脂肪族ポリアミド樹脂(B)がポリアミド612、ポリアミド610、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド11、およびポリアミド12から選ばれる1種以上であ
る樹脂組成物。
【請求項2】
ガラス繊維(C)を20~70質量部含有する請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
脂肪族ポリアミド樹脂(B)を構成する脂肪族ジアミン成分が、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミンから選ばれる1種以上である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
脂肪族ポリアミド樹脂(B)を構成する脂肪族ジカルボン酸成分が、セバシン酸、ドデカン二酸から選ばれる1種以上である請求項1~3いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項5】
脂肪族ポリアミド樹脂(B)がポリアミド612、ポリアミド610、ポリアミド1010、ポリアミド1012から選ばれる1種以上である請求項1~4いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5いずれか記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリレート樹脂と脂肪族ポリアミド樹脂よりなる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリレートと結晶性ポリアミドとからなる樹脂組成物は耐薬品性や成形性にすぐれ、金属代替材料として電気・電子分野を中心に使用されている。また、樹脂材料の機械特性を改良するため、ガラス繊維等の強化材を配合した材料が知られている(例えば、特許文献1参照)。ポリアリレートとポリアミドとガラス繊維とからなる樹脂組成物は、剛性、耐薬品性、耐熱性、耐水性及び成形性にすぐれ、時計ケースなどの機械部品、自動車部品、電機部品として使用されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された樹脂組成物であっても、吸湿による機械的強度の低下、寸法変化抑制に関し十分な性能を有したものとは言えず、近年の機械部品、自動車部品、電機部品の小型・高性能化に対応した高度な要求特性を満足させることは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記問題点を解決し、低吸水性であって、耐候性、耐薬品性に優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。また、樹脂組成物にガラス繊維を含有させた場合であっても、ウェルド強度の低下が少ない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ポリアリレート樹脂と特定融点を有する脂肪族ポリアミド樹脂からなる樹脂組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ポリアリレート樹脂(A)および脂肪族ポリアミド樹脂(B)を含有する樹脂組成物であって、脂肪族ポリアミド樹脂(B)の融点が225℃未満、かつポリアリレート樹脂(A)、脂肪族ポリアミド樹脂(B)の質量比(A/B)が80/20~20/80である樹脂組成物。
(2)ポリアリレート樹脂(A)および脂肪族ポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対し、さらにガラス繊維(C)を20~70質量部含有する(1)の樹脂組成物。
(3)脂肪族ポリアミド樹脂(B)を構成する脂肪族ジアミン成分が、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミンから選ばれる1種以上である(1)または(2)の樹脂組成物。
(4)脂肪族ポリアミド樹脂(B)を構成する脂肪族ジカルボン酸成分が、セバシン酸、ドデカン二酸から選ばれる1種以上である(1)~(3)の樹脂組成物。
(5)脂肪族ポリアミド樹脂(B)がポリアミド612、ポリアミド610、ポリアミド1010、ポリアミド1012から選ばれる1種以上である(1)~(4)の樹脂組成物。
(6)(1)~(5)の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低吸水性であって、耐候性、耐薬品性に優れた樹脂組成物を得ることができる。また、樹脂組成物にガラス繊維を含有させた場合であっても、ウェルド強度の低下が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、ポリアリレート樹脂(A)、融点が225℃未満である脂肪族ポリアミド樹脂(B)を含有する。
【0011】
本発明で用いるポリアリレート樹脂(A)は、芳香族ジカルボン酸成分と二価フェノール成分とから構成される。本発明においてポリアリレート樹脂(A)は非晶性ポリアリレート樹脂である。非晶性とは、DSC(示差走査熱量計)等を用いて測定した場合、結晶融解ピークが見られないことを意味する。本発明で用いるポリアリレート樹脂(A)には、いわゆる、メソゲン基を有する液晶性高分子は含まない。
【0012】
芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(4-カルボキシフェノキシ)エタン、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が挙げられる。中でも、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、成形加工性および機械的特性の点から、両者を混合して用いることがより好ましい。テレフタル酸とイソフタル酸の混合モル比は80/20~20/80(モル%)とすることが好ましく、70/30~25/75(モル%)とすることがより好ましく、60/40~30/70(モル%)とすることがさらに好ましい。
【0013】
二価フェノール成分としては、例えば、レゾルシノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2,-(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、3,3,5-トリメチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンが挙げられ、汎用性が高いことから、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0014】
ポリアリレート樹脂(A)のフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合液を溶媒として、濃度1g/dL、温度25℃の条件で測定されるインヘレント粘度は、0.45以上であることが好ましく、0.45~0.75であることがより好ましく、0.45~0.65であることがさらに好ましい。インヘレント粘度を0.45以上とすることにより、良好な機械的特性を有した樹脂組成物を得ることができる。
【0015】
ポリアリレート樹脂(A)のカルボキシル価は、12当量/トン以上であることが好ましく、15~200当量/トンであることがより好ましい。ポリアリレート樹脂(A)のカルボキシル価は、末端カルボン酸および副反応で生成したカルボン酸無水物結合に由来する。カルボキシル価を12当量/トン以上とすることにより、ポリアリレート樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)を混合した際の機械的特性の低下を抑制することができる。
【0016】
ポリアリレート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されず、溶液重合、溶融重合、界面重合等公知の重合方法によって製造することができる。これらの中でも、溶液重合法や界面重合法が、高分子量化が容易であることと熱による着色を避けられることから好ましい。
【0017】
界面重合法としては、重合触媒の共存下で、二価フェノール化合物を溶解したアルカリ水溶液と、芳香族ジカルボン酸ジハライドの有機溶剤溶液を混合し、2~80℃で攪拌する方法が挙げられる。溶液重合法としては、二価フェノール化合物と芳香族ジカルボン酸ジハライドを有機溶剤に溶解して攪拌し、2~80℃で反応させる方法が挙げられる。また、溶融重合法としては、二価フェノールを酢酸無水物等の有機カルボン酸無水物と100~200℃で反応させて二価フェノールのジエステル化物を得た後、芳香族ジカルボン酸とともに攪拌しながら減圧下で300~360℃まで昇温してエステル交換反応し、同時に副生する有機カルボン酸を留去させる方法が挙げられる。
【0018】
本発明で用いる脂肪族ポリアミド樹脂(B)は、融点が225℃未満である脂肪族ポリアミド樹脂である。脂肪族ポリアミド樹脂(B)を構成する脂肪族ジアミン成分としては、例えばテトラメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン等が挙げられる。脂肪族ポリアミド樹脂(B)を構成する脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えばアジピン酸、スべリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ジグリコール酸等が挙げられる。脂肪族ポリアミド樹脂(B)を構成するアミノカルボン酸またはラクタム成分としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、ε-カプロラクタム、ω-ウンデカノラクタム、ω-ラウロラクタム等が挙げられる。
【0019】
脂肪族ポリアミド樹脂(B)としては、例えばポリアミド612(融点215℃)、ポリアミド610(融点222℃)、ポリアミド1010(融点202℃)、ポリアミド1012(融点190℃)、ポリアミド11(融点187℃)、ポリアミド12(融点176℃)等が挙げられる。融点が225℃を超えるような脂肪族ポリアミド樹脂、例えば、ポリアミド6(融点225℃)、ポリアミド66(融点265℃)を用いた場合、樹脂組成物としての吸水性が劣り、すなわち吸湿しやすくなり、機械特性の低下や寸法変化が増す等の問題が顕著となる。
【0020】
脂肪族ポリアミド樹脂(B)は、融点が225℃未満であれば、芳香族、脂環式のモノマーが共重合されていてもよい。このようなモノマーの例として、ジアミン成分は、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、ジカルボン酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、上記任意のジアミン成分、ジカルボン酸成分を重合して、各種脂肪族ポリアミド樹脂を製造することができるが、得られる脂肪族ポリアミド樹脂の低吸水性、耐薬品性を向上させるためには、炭素数の長い長鎖脂肪族ポリアミド樹脂とすることが好ましく、炭素数が6~10の直鎖ジアミンと、炭素数10~12の脂肪族ジカルボン酸を組合わせて得られる脂肪族ポリアミド樹脂が特に好ましい。より具体的には、ヘキサメチレンジアミン(炭素数6であるジアミン)とセバシン酸(炭素数10であるジカルボン酸)からなるポリアミド610、ヘキサメチレンジアミン(炭素数6であるジアミン)とドデカン二酸(炭素数12であるカルボン酸)からなるポリアミド612、デカメチレンジアミン(炭素数10であるジアミン)とセバシン酸(炭素数10であるジカルボン酸)からなるポリアミド1010、デカメチレンジアミン(炭素数10であるジアミン)とドデカン二酸(炭素数12であるカルボン酸)からなるポリアミド1012は、工業的にも入手ができ、上記特性を有した脂肪族ポリアミド樹脂とすることができ、また樹脂組成物とした際、低吸水性、耐薬品性のみならず、ウェルド強度、耐候性の向上もバランスよく兼ね備えたものとすることができ、特に好ましい。これら脂肪族ポリアミド樹脂は、それぞれ単独で用いることもできるし、2種以上併用することもできる。
【0022】
ポリアリレート樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)の質量比(A/B)は、80/20~20/80とすることが必要であり、70/30~30/70とすることが好ましく、60/40~40/60とすることがより好ましい。ポリアリレート樹脂(A)の含有量が、80質量%を超える場合、樹脂組成物の耐候性や耐薬品性が劣ったものとなり、20質量%未満である場合、樹脂組成物の耐熱性が低下するばかりではなく、吸水率が高くなり、その結果機械的強度や寸法安定性が低下する。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分としてポリアリレート樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)以外の他樹脂を含有してもよい。他樹脂としては、例えば、特に限定されないがポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。他樹脂の含有量は、樹脂組成物が有する特性を損ねない範囲で用いることが可能である。
【0024】
本発明においては、樹脂組成物として、ポリアリレート樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)に加え、さらにガラス繊維(C)を含有させることで、耐熱性や機械的特性をさらに向上させることができる。
【0025】
本発明で用いられるガラス繊維(C)の形態は、特に制限はなく、例えばロービング、ミルドファイバーおよびチョップドストランド等いずれの形態のものも用いることができる。中でも機械的強度と取扱いのバランスに優れるチョップドストランドを好ましく用いることができる。ガラス繊維(C)としてチョップドストランドを用いる場合、溶融混練前の性状として、平均繊維長は1~5mmであることが好ましく、2~4mmであることがより好ましい。ガラス繊維の断面形状は、円形または扁平等任意で選択可能である。断面が円形形状である場合、ガラス繊維の平均繊維径は20~40μmであることが好ましく、20~30μmであることがより好ましい。扁平形状である場合、ガラス繊維の長径の平均繊維径は20~40μmであることが好ましく、20~30μmであることがより好ましい。ガラス繊維の断面における短径の平均繊維径は4~15μmであることが好ましく、7~10μmであることがより好ましい。前記ガラス繊維のアスペクト比(繊維長と繊維径の比率)は250~500であることが好ましく、280~480であることがより好ましく、300~450であることがさらに好ましい。一方、得られる樹脂組成物、あるいはその成形体のウェルド強度改善の観点から、ガラス繊維(C)としてミルドファイバーを用いることもできる。ミルドファイバーとはガラス繊維を長さ10~500μm程度に粉砕したものである。本発明において用いるミルドファイバーは平均繊維長30~300μmであることが好ましく、50~280μmであることがより好ましい。これらガラス繊維はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上併用することもできる。
【0026】
ガラス繊維(C)を含有させる場合、その含有量は、ポリアリレート樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対し、20~70質量部とすることが好ましく、25~65質量部とすることがより好ましく、30~60質量部とすることがさらに好ましい。ガラス繊維(C)の含有量が20質量部未満の場合、機械強度の向上効果が乏しくなる。一方、ガラス繊維(C)の含有量が70質量部を超える場合、溶融混練時の作業性が低下して樹脂組成物のペレットを得ることが困難となることがある。
【0027】
なお、一般的にガラス繊維を含有させた樹脂組成物を、射出成形法にて成形加工する場合、多点ゲートを有する金型を用いる際には、各ゲートより金型内に溶融樹脂が流入し、溶融樹脂内のガラス繊維が流れ方向にそろうのに対し、各々の溶融樹脂が合流する部分において溶融樹脂内のガラス繊維がぶつかり合い、流れに対し直交方向にガラス繊維の向きが変わってしまう。そのことによって得られた成形体の樹脂合流部近傍の特にせん断方向強度(以下、ウェルド強度という)が弱くなるという性質がある。成形体のせん断方向の強度を評価するには、通常板状成形体の曲げ強度を測定することで判断が可能である。本発明の樹脂組成物は、特にガラス繊維を含有させた場合であっても、前記ウェルド強度の低下が極めて少ない。
【0028】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、他の充填材、安定剤等の添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、樹脂組成物の溶融混錬時、任意に添加することができる。添加剤としては、例えばタルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、グラファイト等の充填材、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤が挙げられる。
【0029】
本発明の樹脂組成物を得るための製造方法としては、特に制限されないが、二軸混練機を用いた溶融混練が好適に用いられる。混練温度は、脂肪族ポリアミド樹脂(B)の融点(Tm)以上とすることが好ましく、(Tm+100℃)未満とすることが好ましい。混練温度がTm未満では混練機が過負荷となり、ベントアップ等の不具合が生じる場合がある。また混練温度が高すぎると、脂肪族ポリアミド樹脂(B)が熱により着色する場合がある。なお、ガラス繊維(C)を含有させる方法として、二軸混練機の主ホッパーよりポリアリレート樹脂(A)、脂肪族ポリアミド樹脂(B)およびガラス繊維(C)を一括混合し溶融混錬する方法を採用することができるが、混錬工程においてガラス繊維が折損し短くなることを抑制するため、サイドフィーダー等用い、二軸混練機の混錬工程途中よりガラス繊維(C)を供給する方法を好ましく用いることができる。特にガラス繊維(C)としてミルドファイバーを用いる場合は、平均繊維長が短く折損の可能性が低下するため、主ホッパーより一括供給する方法、サイドフィーダーより供給する方法いずれの方法も好ましく適用することができる。得られた樹脂組成物の採取方法は特に限定されるものではないが、その後の成形を考慮すると、二軸混練機にて溶融混錬後、ストランド状に引き出し、冷却固化後、ペレタイズし樹脂組成物ペレットを得ることが好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、成形用途において特に好ましく用いられ、通常の成形加工方法により成形体を得ることができる。成形加工方法としては、例えば射出成形、押出成形、吹き込み成形、焼結成形が挙げられ、中でも、機械的特性、成形加工性を十分に向上させることができる点から、射出成形法が好ましい。射出成形機としては、特に限定されるものではないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機またはプランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融された樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、樹脂組成物のTm以上、(Tm+100℃)未満とすることが好ましい。なお、本発明の樹脂組成物の成形加工時には、用いる樹脂組成物ペレットは十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となるほか、ポリアリレート樹脂(A)が加水分解により低分子量化して機械的特性が低下する場合がある。射出成形に用いる樹脂組成物ペレットの水分率は、樹脂組成物100質量%中、0.05質量%未満が好ましく、0.03質量%未満がより好ましい。射出成形時の金型温度は、ポリアリレート樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)未満に保持する必要があり、(Tg-30℃)未満であることが好ましく、(Tg-50℃)未満であることがより好ましい。金型温度がポリアリレート樹脂(A)のTgを超えると、成形品を金型から離型する際に樹脂組成物が十分に固化していないため変形する場合がある。なお、金型温度とは、金型分割表面の実温であり、この部位が上記温度範囲内になるよう、金型温度調節機を用いて調節する。必要に応じて、金型内に冷媒を循環してもよい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、物性測定は以下の方法によって行った。
【0032】
1.評価方法
以下各種評価を行った。なお、(1)は樹脂組成物ペレット、(2)~(5)、(7)については試験片1(幅10mm、厚さ4mm)、(6)については試験片2(縦50×横50mm、厚さ2mm)を用いて行った。試験片1および2は各実施例において得られた樹脂組成物ペレットを、射出成型機(東芝社製EC100)を用い、樹脂温度260℃、金型温度100℃にて成形を行い得た。
特に実施例において、ガラス繊維を含有させた樹脂組成物を得た場合には、(1)~(6)の評価に加え、(7)ウェルド曲げ破断伸度の評価も行った。
【0033】
(1)インヘレント粘度
ISO1628-1に従って測定した。すなわち、樹脂組成物を濃度1g/dlとなるように1,1,2,2-テトラクロロエタンに溶解した。ウベローデ型粘度計を用い、25℃の温度にて試料溶液および溶媒の落下時間を測定し、以下の式を用いてインヘレント粘度を求めた。なお、樹脂組成物については、150℃×24h真空乾燥処理後測定を行った。
インヘレント粘度(dl/g)=ln[(試料溶液の落下時間/溶媒のみの落下時間)/樹脂濃度(g/dl)]
【0034】
(2)引張強度
ISO 527-1に従って引張試験を行った。
【0035】
(3)荷重たわみ温度
ISO 75-1に従い、荷重1.8MPaにて測定した。荷重たわみ温度の数値が高いほど耐熱性が優れる。
【0036】
(4)吸水率
ISO 62に従い、(条件1)23℃、50%RH雰囲気下、平衡水分に達するまで約1ヶ月間放置、(条件2)23℃、水中にて24時間浸漬の各条件下吸水率を測定した。(条件1)では0.6%を超えるものは吸水率が高いと判断した。(条件2)では0.35%を超えるものは吸水率が高いと判断した。
【0037】
(5)長期耐候性
得られた試験片を用いて、回転式キセノン耐候性試験機(東洋精機製作所社製キセノンウェザオメーターCi4000)を用い暴露試験を行った。試験条件はブラックパネル温度83℃、湿度20%RH、降雨サイクル18分/100分、照射照度60W/m2、照射時間2000時間とした。暴露処理された試験片につき、(2)引張強度と同様の引張試験を実施し、次式に従い引張強度保持率の算出を行った。引張強度保持率は、その数値が高いほど長期耐候性が優れていると判断する。
引張強度保持率(%)=(暴露処理後の引張強度)/(暴露無しでの引張強度)×100
【0038】
(6)耐薬品性
得られた試験片を用い、住宅用アルカリ合成洗剤(花王社製マジックリン、界面活性剤;1% アルキルアミンオキシド)、油膜取り洗浄剤(イチネンケミカル社製クリンビュー)、ワックスリムーバー(ケルヒャー社製、pH=13~14)のそれぞれに対し、温度23℃下24時間浸漬試験を行った。試験後、試験片表面を目視観察し、下記基準で評価した。
○:変化なし
△:一部白化
×:全面白化
【0039】
(7)ウェルド曲げ破断伸度
ISO 178に従い、曲げ試験を実施した。なお、試験片として金型一端より樹脂を流入させたウェルドの無い試験片(i)と、金型両端より樹脂をさせウェルドを有する試験片(ii)の2種類を作製し、各々の曲げ破断伸度を測定した。
ウェルドの無い試験片(i)の曲げ破断伸度と、ウェルドを有する試験片(ii)の曲げ破断伸度は、差異が少ないほどウェルド特性が優れている。
【0040】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
(1)ポリアリレート樹脂
水冷用ジャケットと攪拌装置を備えた反応容器中に、水酸化ナトリウム3.1質量部をイオン交換水に溶解し、ついで2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)8.3質量部およびp-tertブチルフェノール(PTBP)0.29質量部を溶解した。別の容器でテレフタル酸ジクロリド(TPC)3.8質量部、イソフタル酸ジクロリド(IPC)3.8質量部をジクロロメタンに溶解した(BPA:TPC:IPC:PTBP:NaOH=100:51:51:5:213(モル比))。それぞれの液を20℃になるよう調節した後、反応槽で前記水溶液を攪拌したところへ、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドの50%水溶液を0.09質量部添加し、さらに前記ジクロロメタン溶液を全量投入し、6時間攪拌を続けた後、攪拌機を停止した。静置分離後に水相を抜き出し、残ったジクロロメタン相に酢酸0.25質量部を添加した。その後、イオン交換水を投入し、20分間攪拌してから再度静置して水相を抜き出した。この水洗操作を水相が中性になるまで繰り返した後、ジクロロメタン相をホモミキサーを装着した容器に入った50℃の温水中に投入して塩化メチレンを蒸発させ、粉末状ポリアリレートを得た。この粉末状ポリアリレートを脱水した後、真空乾燥機を使用して、減圧下120℃で24時間乾燥してポリアリレート樹脂(A-1)を得た。この樹脂のインヘレント粘度は0.53dL/g、カルボキシル価は15当量/トンであった。DSCを用いて測定しても、結晶融解ピークは見られなかった。
【0041】
(2)ポリアミド樹脂
(B-1)PA612(アルケマ社製RilsanDMVO F、融点215℃)
【0042】
(B-2)PA610(アルケマ社製RilsanSMVO F、融点222℃)
【0043】
(B-3)PA1010(アルケマ社製RilsanTMNO F、融点202℃)
【0044】
(B-4)PA1012(アルケマ社製Hiprolon400NN、融点190℃)
【0045】
(B-5)PA6(ユニチカ社製A1030BRL、融点225℃)
【0046】
(B-6)PA66(ユニチカ社製E2000、融点265℃)
【0047】
(B-7)半芳香族非晶性ポリアミド樹脂(アルケマ社製Rilsan Clear G170)
【0048】
(B-8)脂環族非晶性ポリアミド樹脂(アルケマ社製Rilsan Clear G850 Rnew)
【0049】
(3)ガラス繊維
(C-1)チョップドストランド(日本電気硝子社製T-289、平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
【0050】
(C-2)ミルドファイバー(日本電気硝子社製EPH80M-10A、平均繊維長80μm)
【0051】
実施例1
ポリアリレート樹脂(A-1)50質量部、ポリアミド樹脂(B-1)50質量部となるよう一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製TEM26-SS、スクリュー径26mm)基部より供給し、樹脂温度270℃、スクリュー回転250rpmで溶融混練を行った。混錬された樹脂組成物はダイスよりストランド状に引き取り、水槽中冷却固化し、ペレタイザーでカッティングを行うことで樹脂組成物ペレットを得た。
得られた樹脂組成物を用いて、各種評価を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
実施例2~8
表1に記載されたポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂の種類、含有量とし、実施例1と同様の操作を行って樹脂組成物を得て、各種評価を行った。その結果を表1に示す。
【0054】
実施例9
ポリアリレート樹脂(A-1)50質量部、ポリアミド樹脂(B-1)50質量部となるよう一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製TEM26-SS、スクリュー径26mm)基部より供給し、途中サイドフィーダーよりガラス繊維(C)43質量部を供給、樹脂温度270℃、スクリュー回転250rpmで溶融混練を行った。混錬された樹脂組成物はダイスよりストランド状に引き取り、水槽中冷却固化し、ペレタイザーでカッティングを行うことで樹脂組成物ペレットを得た。
得られた樹脂組成物を用いて、各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0055】
【0056】
実施例10~23
表2に記載されたポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ガラス繊維の種類、含有量とし、実施例9と同様の操作を行って樹脂組成物を得て、各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0057】
比較例1~7
表3に記載されたポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ガラス繊維の種類、含有量とし、実施例1または9と同様の操作を行って樹脂組成物を得て、各種評価を行った。その結果を表3に示す。
【0058】
【0059】
実施例1~8の樹脂組成物は、所定のポリアリレート樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂を用いたため、吸水率が低く、耐候性、耐薬品性に優れた。実施例9~23の樹脂組成物は、所定のポリアリレート樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂を用い、さらにガラス繊維を含有させたため、吸水率が低く、耐候性、耐薬品性に加えウェルド強度も優れた。
【0060】
比較例1では、脂肪族ポリアミド樹脂の含有量が下限値未満であったため、耐候性、耐薬品性が劣った。
【0061】
比較例2では、ポリアリレート樹脂の含有量が下限値未満であったため、耐熱性が劣り、吸水率が高かった。
【0062】
比較例3、4では、所定の脂肪族ポリアミド樹脂を用いなかったため、耐候性が劣った。また、吸水率も高かった。
【0063】
比較例5、6では、所定の脂肪族ポリアミド樹脂を用いなかったため、耐薬品性が劣った。
【0064】
比較例7では、所定の脂肪族ポリアミド樹脂を用いなかったため、耐候性が劣った。