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特許7186454手押し台車の逸走防止ブレーキ装置、および手押し台車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】手押し台車の逸走防止ブレーキ装置、および手押し台車
(51)【国際特許分類】
   B62B 5/04 20060101AFI20221202BHJP
   B62B 3/00 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
B62B5/04 A
B62B3/00 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020050769
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021146969
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】391030125
【氏名又は名称】保線機器整備株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121496
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 重雄
(72)【発明者】
【氏名】細川 誠二
(72)【発明者】
【氏名】竹村 敏男
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-011469(JP,A)
【文献】特開平10-288231(JP,A)
【文献】特開2003-191850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62B 1/00 - 5/08
B61D 15/00 - 15/12
B61H 1/00 - 15/00
F16D 49/00 - 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道のレール上を転がる前輪と後輪が左右両側に設けられた手押し台車の逸走防止ブレーキ装置であって、
非操作時はバネの弾性力を利用したバネ式ブレーキが機能して前記前輪または後輪の少なくとも一方にブレーキをかける一方、前記バネの弾性力に対抗して操作する操作時は前記バネ式ブレーキを解除するバネ式逸走防止ブレーキ機構部と、
左右両側の前記前輪または後輪の少なくとも一方の車軸に設けられた外周面に凹凸が設けられた凹凸ディスクと、前記手押し台車に支点を中心に上下方向に回動可能に設けられると共に、自重によって下がる先端部には下方に向かって突出して前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合する突起部が設けられた重力式ブレーキ片とを備え、非操作時は前記重力式ブレーキ片の突起部側が自重により下がって当該突起部が前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合することにより前記前輪または後輪の少なくとも一方にブレーキをかける一方、前記重力式ブレーキ片の突起部側が上昇するように操作した場合は前記重力式ブレーキ片の前記突起部側が上昇して前記突起部と前記凹凸ディスク外周面の凸部との係合が解除して前記前輪または後輪に対するブレーキを解除する重力式逸走防止ブレーキ機構部とを備え
前記重力式逸走防止ブレーキ機構部の前記凹凸ディスク外周面の凸部は一方が鋭角に傾斜した鋭角傾斜面を有する一方、他方は鈍角または直角に傾斜した鈍角・直角傾斜面を有し、前記凹凸ディスクが回転して前記重力式ブレーキ片の前記突起部が前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合した際、前記突起部が前記鋭角傾斜面に当接した場合には前記重力式ブレーキ片の前記突起部を上昇させて前記鋭角傾斜面側への方向の回転を許容する一方、前記鈍角・直角傾斜面に当接した場合には前記突起部が係合して前記鈍角・直角傾斜面側への方向に回転させないように構成されており、
前輪側の前記凹凸ディスクは、前記重力式ブレーキ片の前記突起部が前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合していても、前記鋭角傾斜面に当接している場合には前記重力式ブレーキ片の前記突起部を上昇させて前進可能な一方、前記鈍角・直角傾斜面に当接している場合には前記重力式ブレーキ片の前記突起部を上昇させて前記凹凸ディスク外周面の凸部との係合が解除しない限り後退不可に取付けられ、
後輪側の前記凹凸ディスクは、前記重力式ブレーキ片の前記突起部が前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合していても、前記鋭角傾斜面に当接している場合には前記重力式ブレーキ片の前記突起部を上昇させて後進可能な一方、前記鈍角・直角傾斜面に当接している場合には前記重力式ブレーキ片の前記突起部を上昇させて前記凹凸ディスク外周面の凸部との係合が解除しない限り前進不可に取付けられている ことを特徴とする手押し台車の逸走防止ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載 の手押し台車の逸走防止ブレーキ装置において、
前記バネ式逸走防止ブレーキ機構部のバネ式ブレーキは、非操作時には前記前輪または後輪を連結する少なくとも一方の車軸に設けられたバネブレーキ用ディスクをバネの弾性力によりブレーキパッドで挟んで前記前輪または後輪にブレーキをかけ、前記バネ式ブレーキを解除する場合は、操作棒を回転させることにより前記バネの弾性力に対抗して前記バネ式ブレーキを解除するように構成され、
前記重力式逸走防止ブレーキ機構部は、前記操作棒の下端部によって前記重力式ブレーキ片の前記突起部とは前記支点を介し反対側の操作棒当接部を上方から押して前記重力式ブレーキ片の前記突起部側を上昇させることにより、前記突起部と前記凹凸ディスクの凹凸との係合を解除して前記前輪または後輪に対するブレーキを解除するように構成されていることを特徴とする手押し台車の逸走防止ブレーキ装置。
【請求項3】
鉄道のレール上を転がる前輪と後輪が左右両側に設けられた手押し台車の逸走防止ブレーキ装置であって、
非操作時はバネの弾性力を利用したバネ式ブレーキが機能して前記前輪または後輪の少なくとも一方にブレーキをかける一方、前記バネの弾性力に対抗して操作する操作時は前記バネ式ブレーキを解除するバネ式逸走防止ブレーキ機構部と、
左右両側の前記前輪または後輪の少なくとも一方の車軸に設けられた外周面に凹凸が設けられた凹凸ディスクと、前記手押し台車に支点を中心に上下方向に回動可能に設けられると共に、自重によって下がる先端部には下方に向かって突出して前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合する突起部が設けられた重力式ブレーキ片とを備え、非操作時は前記重力式ブレーキ片の突起部側が自重により下がって当該突起部が前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合することにより前記前輪または後輪の少なくとも一方にブレーキをかける一方、前記重力式ブレーキ片の突起部側が上昇するように操作した場合は前記重力式ブレーキ片の前記突起部側が上昇して前記突起部と前記凹凸ディスク外周面の凸部との係合が解除して前記前輪または後輪に対するブレーキを解除する重力式逸走防止ブレーキ機構部とを備え、
前記バネ式逸走防止ブレーキ機構部のバネ式ブレーキは、非操作時には前記前輪または後輪を連結する少なくとも一方の車軸に設けられたバネブレーキ用ディスクをバネの弾性力によりブレーキパッドで挟んで前記前輪または後輪にブレーキをかけ、前記バネ式ブレーキを解除する場合は、操作棒を回転させることにより前記バネの弾性力に対抗して前記バネ式ブレーキを解除するように構成され、
前記重力式逸走防止ブレーキ機構部は、前記操作棒の下端部によって前記重力式ブレーキ片の前記突起部とは前記支点を介し反対側の操作棒当接部を上方から押して前記重力式ブレーキ片の前記突起部側を上昇させることにより、前記突起部と前記凹凸ディスクの凹凸との係合を解除して前記前輪または後輪に対するブレーキを解除するように構成されていることを特徴とする手押し台車の逸走防止ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項2または 請求項3に記載の手押し台車の逸走防止ブレーキ装置において、さらに、
前記手押し台車の左右両側の内、一方側の前端部と後端部とにそれぞれ設けられたブレーキ解除ベース部と、
前端部および後端部の前記ブレーキ解除ベース部それぞれに回動可能に支持され、前記操作棒が装着される操作棒装着部が設けられたバネ式ブレーキ解除リンク部と、
前端部の前記バネ式ブレーキ解除リンク部と後端部のバネ式ブレーキ解除リンク部とを連結するリンクロッド部とを備えたブレーキ解除制御部を有し、
前記操作棒は、
前記操作棒装着部に装着されて当該操作棒の回転を前記バネ式ブレーキ解除リンク部に伝達するのと同時に、前記重力式逸走防止ブレーキ機構部の前記操作棒当接部を上方から押して前記重力式ブレーキ片の前記突起部側を上昇させる重力式ブレーキ片押圧部が設けられていることを特徴とする手押し台車の逸走防止ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一の請求項に記載の手押し台車の逸走防止ブレーキ装置を備えたことを特徴とする手押し台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道のレール上を転がる前輪と後輪が左右両側に設けられた手押し台車の逸走防止ブレーキ装置、および当該逸走防止ブレーキ装置を備えた手押し台車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、保線作業用の手押し台車には、手押し台車から手を離すとバネなどの力で自動的にブレーキがかかって台車が停止状態となる、いわゆる逸走を防止する逸走防止ブレーキ装置が設けられているものが数種類提案されている(例えば、特許文献1~3参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3707784号公報
【文献】特許第3886203号公報
【文献】特開2018-2010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1~3のバネを利用した手押し台車の逸走防止ブレーキ装置は、バネの引張力等を利用しており、バネの張り不良や逸走防止ブレーキ装置周辺の故障等によって逸走するおそれがあるため、定期的にバネの張り具合を検査する等、ブレーキ力を確認する点検と調整が必要であり、負担が大きかった。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、バネの張り不良や逸走防止ブレーキ装置周辺の故障等している場合であっても、手押し台車の逸走を防止することができる手押し台車の逸走防止ブレーキ装置、および当該逸走防止ブレーキ装置を備えた手押し台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る手押し台車の逸走防止ブレーキ装置は、鉄道のレール上を転がる前輪と後輪が左右両側に設けられた手押し台車の逸走防止ブレーキ装置であって、非操作時はバネの弾性力を利用したバネ式ブレーキが機能して前記前輪または後輪の少なくとも一方にブレーキをかける一方、前記バネの弾性力に対抗して操作する操作時は前記バネ式ブレーキを解除するバネ式逸走防止ブレーキ機構部と、左右両側の前記前輪または後輪の少なくとも一方の車軸に設けられた外周面に凹凸が設けられた凹凸ディスクと、前記手押し台車に支点を中心に上下方向に回動可能に設けられると共に、自重によって下がる先端部には下方に向かって突出して前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合する突起部が設けられた重力式ブレーキ片とを備え、非操作時は前記重力式ブレーキ片の突起部側が自重により下がって当該突起部が前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合することにより前記前輪または後輪の少なくとも一方にブレーキをかける一方、前記重力式ブレーキ片の突起部側が上昇するように操作した場合は前記重力式ブレーキ片の前記突起部側が上昇して前記突起部と前記凹凸ディスク外周面の凸部との係合が解除して前記前輪または後輪に対するブレーキを解除する重力式逸走防止ブレーキ機構部とを備え、前記重力式逸走防止ブレーキ機構部の前記凹凸ディスク外周面の凸部は一方が鋭角に傾斜した鋭角傾斜面を有する一方、他方は鈍角または直角に傾斜した鈍角・直角傾斜面を有し、前記凹凸ディスクが回転して前記重力式ブレーキ片の前記突起部が前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合した際、前記突起部が前記鋭角傾斜面に当接した場合には前記重力式ブレーキ片の前記突起部を上昇させて前記鋭角傾斜面側への方向の回転を許容する一方、前記鈍角・直角傾斜面に当接した場合には前記突起部が係合して前記鈍角・直角傾斜面側への方向に回転させないように構成されており、前輪側の前記凹凸ディスクは、前記重力式ブレーキ片の前記突起部が前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合していても、前記鋭角傾斜面に当接している場合には前記重力式ブレーキ片の前記突起部を上昇させて前進可能な一方、前記鈍角・直角傾斜面に当接している場合には前記重力式ブレーキ片の前記突起部を上昇させて前記凹凸ディスク外周面の凸部との係合が解除しない限り後退不可に取付けられ、後輪側の前記凹凸ディスクは、前記重力式ブレーキ片の前記突起部が前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合していても、前記鋭角傾斜面に当接している場合には前記重力式ブレーキ片の前記突起部を上昇させて後進可能な一方、前記鈍角・直角傾斜面に当接している場合には前記重力式ブレーキ片の前記突起部を上昇させて前記凹凸ディスク外周面の凸部との係合が解除しない限り前進不可に取付けられていることを特徴とする。
また、本発明に係る手押し台車の逸走防止ブレーキ装置では、前記バネ式逸走防止ブレーキ機構部のバネ式ブレーキは、非操作時には前記前輪または後輪を連結する少なくとも一方の車軸に設けられたバネブレーキ用ディスクをバネの弾性力によりブレーキパッドで挟んで前記前輪または後輪にブレーキをかけ、前記バネ式ブレーキを解除する場合は、操作棒を回転させることにより前記バネの弾性力に対抗して前記バネ式ブレーキを解除するように構成され、前記重力式逸走防止ブレーキ機構部は、前記操作棒の下端部によって前記重力式ブレーキ片の前記突起部とは前記支点を介し反対側の操作棒当接部を上方から押して前記重力式ブレーキ片の前記突起部側を上昇させることにより、前記突起部と前記凹凸ディスクの凹凸との係合を解除して前記前輪または後輪に対するブレーキを解除するように構成されていることも特徴とする。
また、本発明に係る手押し台車の逸走防止ブレーキ装置では、鉄道のレール上を転がる前輪と後輪が左右両側に設けられた手押し台車の逸走防止ブレーキ装置であって、非操作時はバネの弾性力を利用したバネ式ブレーキが機能して前記前輪または後輪の少なくとも一方にブレーキをかける一方、前記バネの弾性力に対抗して操作する操作時は前記バネ式ブレーキを解除するバネ式逸走防止ブレーキ機構部と、左右両側の前記前輪または後輪の少なくとも一方の車軸に設けられた外周面に凹凸が設けられた凹凸ディスクと、前記手押し台車に支点を中心に上下方向に回動可能に設けられると共に、自重によって下がる先端部には下方に向かって突出して前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合する突起部が設けられた重力式ブレーキ片とを備え、非操作時は前記重力式ブレーキ片の突起部側が自重により下がって当該突起部が前記凹凸ディスク外周面の凸部に係合することにより前記前輪または後輪の少なくとも一方にブレーキをかける一方、前記重力式ブレーキ片の突起部側が上昇するように操作した場合は前記重力式ブレーキ片の前記突起部側が上昇して前記突起部と前記凹凸ディスク外周面の凸部との係合が解除して前記前輪または後輪に対するブレーキを解除する重力式逸走防止ブレーキ機構部とを備え、前記バネ式逸走防止ブレーキ機構部のバネ式ブレーキは、非操作時には前記前輪または後輪を連結する少なくとも一方の車軸に設けられたバネブレーキ用ディスクをバネの弾性力によりブレーキパッドで挟んで前記前輪または後輪にブレーキをかけ、前記バネ式ブレーキを解除する場合は、操作棒を回転させることにより前記バネの弾性力に対抗して前記バネ式ブレーキを解除するように構成され、前記重力式逸走防止ブレーキ機構部は、前記操作棒の下端部によって前記重力式ブレーキ片の前記突起部とは前記支点を介し反対側の操作棒当接部を上方から押して前記重力式ブレーキ片の前記突起部側を上昇させることにより、前記突起部と前記凹凸ディスクの凹凸との係合を解除して前記前輪または後輪に対するブレーキを解除するように構成されていることも特徴とする。
また、本発明に係る手押し台車の逸走防止ブレーキ装置では、さらに、前記手押し台車の左右両側の内、一方側の前端部と後端部とにそれぞれ設けられたブレーキ解除ベース部と、前端部および後端部の前記ブレーキ解除ベース部それぞれに回動可能に支持され、前記操作棒が装着される操作棒装着部が設けられたバネ式ブレーキ解除リンク部と、前端部の前記バネ式ブレーキ解除リンク部と後端部のバネ式ブレーキ解除リンク部とを連結するリンクロッド部とを備えたブレーキ解除制御部を有し、前記操作棒は、前記操作棒装着部に装着されて当該操作棒の回転を前記バネ式ブレーキ解除リンク部に伝達するのと同時に、前記重力式逸走防止ブレーキ機構部の前記操作棒当接部を上方から押して前記重力式ブレーキ片の前記突起部側を上昇させる重力式ブレーキ片押圧部が設けられていることも特徴とする。
また、本発明に係る手押し台車では、上述のいずれかの手押し台車の逸走防止ブレーキ装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る手押し台車の逸走防止ブレーキ装置および当該逸走防止ブレーキ装置を備えた手押し台車は、従来のバネ式逸走防止ブレーキ機構部と、非操作時は重力式ブレーキ片の突起部側が自重により下がって当該突起部が凹凸ディスク外周面の凸部に係合することによりブレーキをかける重力式逸走防止ブレーキ機構部とを備える。
そのため、従来のバネ式逸走防止ブレーキ機構部におけるバネの張り不良や逸走防止ブレーキ装置周辺の故障等によって逸走するような状態が発生した場合でも、重力式逸走防止ブレーキ機構部によって逸走を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る実施形態の手押し台車の平面図である。
図2図1におけるA部分の要部拡大平面図である。
図3図1おけるA部分の要部拡大左側面図である。
図4図1におけるB部分(バネ式逸走防止ブレーキ機構部および重力式逸走防止ブレーキ機構部によるブレーキ時)の要部拡大平面図である。
図5】本発明に係るバネ式逸走防止ブレーキ装置を構成する凹凸ディスクの正面図である。
図6】本発明に係るバネ式逸走防止ブレーキ装置を構成する重力式ブレーキ片の正面図である。
図7】(a)~(c)それぞれ本発明に係るバネ式逸走防止ブレーキ装置を構成する操作棒の平面図、正面図、右側面図である。
図8】(a),(b)それぞれ図1におけるB部分である後輪側の重力式逸走防止ブレーキ機構部の要部拡大正面図、A部分である前輪側の重力式逸走防止ブレーキ機構部の要部拡大説明図である。
図9図1におけるB部分である後輪側の重力式逸走防止ブレーキ機構部において操作棒を押下げることによって重力式ブレーキ片の突起部を上昇させて後輪側の重力式逸走防止ブレーキ機構部においてブレーキを解除した状態を示す要部拡大説明図である。
図10図1におけるB部分(バネ式逸走防止ブレーキ機構部および重力式逸走防止ブレーキ機構部のブレーキ解除時)の要部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態の手押し台車の逸走防止ブレーキ装置を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、下記に説明する実施形態は、あくまで本発明の一例であり、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で適宜変更可能である。
【0010】
<実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置の構成>
実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置は、鉄道のレール上を走行して保線作業車2を搬送する台車であって、図1図3等に示すようにレール上を走行する前輪11b1および後輪11b2が設けられ、保線作業車2が載せられる手押し台車1と、図4図9等に示すように手押し台車1に着脱可能に設けられ、手押し台車1から線路の路盤上へ保線作業車2を下す場合およびその逆に保線作業車2を手押し台車1に上げる場合に使用する歩み板12とを有して構成される。
【0011】
<実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置の構成>
実施形態の手押し台車の逸走防止ブレーキ装置は、鉄道のレール上を転がる前輪12a,12aと後輪12b,12bが左右両側に設けられた手押し台車1に設けた逸走防止ブレーキ装置であって、従来式のバネ式逸走防止ブレーキ機構部2と、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2のブレーキ解除を制御するブレーキ解除制御部3と、新たな重力式逸走防止ブレーキ機構部4と、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2および重力式逸走防止ブレーキ機構部4を解除する操作棒5等を備えて構成される。
【0012】
(手押し台車1)
手押し台車1は、図1に示すように鋼管等の横材11a,11b、11cと縦材11d,11e,11f等で長方形状および田の字形状に骨組みされた台車フレーム11の前方両側に前輪12a,12aを設ける一方、後方両側に後輪12b,12bを設けて構成された周知のものである。
【0013】
前方両側の前輪12a,12aは、縦材11d,11e,11fの前方に回転可能に支持された前側車軸12cによって連結されている一方、後方両側の後輪12a、12aは、縦材11d,11e,11fの後方に回転可能に支持された後側車軸12dによって連結されており、前側車軸12cには、図3に示すようにバネ式逸走防止ブレーキ機構部2のバネ式ブレーキ2aによって挟まれて前輪12a,12aに対しブレーキを掛けるブレーキ用ディスク12eが設けられている。
【0014】
(バネ式逸走防止ブレーキ機構部2)
バネ式逸走防止ブレーキ機構部2は、非操作時は引張バネ2bの弾性力を利用したバネ式ブレーキ2aを機能させてブレーキ用ディスク12eおよび前側車軸12cを介し前輪12a,12aにブレーキをかける一方、操作棒5をブレーキ解除制御部3の後述する操作棒装着部3c1,3d1に装着し、引張バネ2bの弾性力に対抗して作業員が操作棒5を回転させた時はバネ式ブレーキ2aを解除するもので、この実施形態の例では、図1に示すようにブレーキ用ディスク12eが設けられた前側車軸12c側の右側車輪12a近傍に設けている。
【0015】
バネ式ブレーキ2aは、図1および図2等に示すように台車フレーム11の前方フレーム材11a等に設けられており、何も操作しない通常時は引張バネ2bの弾性力によりブレーキ用ディスク12eを挟持して前輪12a,12aにブレーキをかける一方、引張バネ2bの弾性力に対抗して作業員が後述する図10に示すように操作棒5を回転させた時は開きブレーキ用ディスク12eを解放して前輪12a,12aを回転フリーにするキャリパー部2a1と、引張バネ2bに連結され、引張バネ2bの引張力をキャリパー部2a1に伝達してキャリパー部2a1を作動させるキャリパー作動リンク体2a2とを備える周知のものである。
【0016】
キャリパー作動リンク体2a2は、引張バネ2bが連結されていると共に、ブレーキ解除制御部3のリンクロッド部3eにも連結され、何も操作しない非操作時は引張バネ2bの引張力によってα方向に引っ張られるとことによりキャリパー部2a1がブレーキ用ディスク12eを挟持してブレーキをかける一方、リンクロッド部3eが図2上、X方向にスライドした場合にはβ方向に回動してキャリパー部2a1を開きブレーキ用ディスク12eを解除するように構成されている。
【0017】
引張バネ2bは、バネ式ブレーキ作動リンク部2a2を介しキャリパー部2a1を作動させるもので、先端部はリンク部2a2に連結される一方、基端部はブレーキ解除制御部3を構成するバネ式ブレーキ解除リンク部3cに連結され、リンク部2a2を常時α方向に回動するように付勢いするものである。
【0018】
(ブレーキ解除制御部3)
ブレーキ解除制御部3は、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2のブレーキ解除を制御する部分で、図1図4に示すように台車フレーム11の右側の縦材11dの前端部と後端部とにそれぞれ設けられたブレーキ解除ベース部3a,3bと、ブレーキ解除ベース部3a,3bそれぞれに回動可能に支持され、操作棒5の嵌合部5cが着脱可能に装着される操作棒装着部3c1,3d1が設けられたバネ式ブレーキ解除リンク部3c,3dと、バネ式ブレーキ解除リンク部3cとバネ式ブレーキ解除リンク部3dとを連結するリンクロッド部3e等を備え、前方のバネ式逸走防止ブレーキ機構部2側に設けられたバネ式ブレーキ解除リンク部3cにはバネ式ブレーキ解除リンク部3cだけでなく引張バネ2bが連結されている。
【0019】
操作棒装着部3c1,3d1は、操作棒5下部の嵌合部5cが装着され、かつ、操作棒5の回転をバネ式ブレーキ解除リンク部3c,3dに伝達できるよう嵌合部5cの後述する回転伝達部5c1,5c1が嵌合する回転伝達スリット部3c11,3d11が設けられている。
【0020】
そのため、ブレーキ解除制御部3は、操作棒装着部3c1,3d1のいずれかに操作棒5が挿入されず何も操作しない非操作時は引張バネ2bの引張力によってキャリパー作動リンク体2a2をα方向に引っ張りキャリパー部2a1によってブレーキをかける一方、操作棒装着部3c1,3d1のいずれかに挿入された操作棒5が作業員によって回動操作され、リンクロッド部3eが図2上、X方向にスライドした場合にはキャリパー作動リンク体2a2をβ方向に回動させてキャリパー部2a1を開き、バネ式ブレーキ2aを解除する。
【0021】
また、操作棒装着部3c1,3d1には、それぞれ、後述する図8(a)、(b)や図9に示すように操作棒5下部の嵌合部5cが装着され、その嵌合部5cを上方に押し返す圧縮バネ3c12,3d12が設けられており、操作棒5下部の嵌合部5cを操作棒装着部3c1,3d1に装着しただけでは嵌合部5cで重力式ブレーキ片4bの後述する操作棒当接部4b3を押下げることはできなく、圧縮バネ3c12,3d12に対抗して押下げることにより重力式ブレーキ片4bの後述する操作棒当接部4b3を押下げることが出来るように構成されている。
【0022】
(重力式逸走防止ブレーキ機構部4)
重力式逸走防止ブレーキ機構部4は、前輪12a,12aおよび後輪12b,12bの車軸12c,12dそれぞれに設けられた外周面に凹凸が設けられた凹凸ディスク4aと、手押し台車1に支点を中心に上下方向に回動可能に設けられると共に、自重によって下がる先端部には下方に向かって突出して凹凸ディスク4aの外周面4a12の凸部4a2に係合する突起部4b2が設けられた重力式ブレーキ片4bとを備えて構成される。
【0023】
(凹凸ディスク4a)
凹凸ディスク4aは、中心に車軸12c,12dが挿入される4a13が形成された円形のディスク本体4a1と、ディスク本体4a1の外周面に所定間隔で凹凸を形成するように設けられた複数(ここでは、例えば、6個である。)の凸部4a2とから構成されている。
【0024】
複数の凸部4a2は、それぞれ、ディスク本体4a1の外周面4a11との間のなす角度が90度より小さい鋭角傾斜面4a21と、90度より大きい鈍角傾斜面4a22とを有しており、複数の凸部4a2同士の間がそれぞれ凹部4a3となる。
【0025】
そのため、凹凸ディスク4aは、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2がその重力により下がってその先端部がディスク本体4a1の外周面4a11に当接している状態においてディスク本体4a1が回転し、突起部4b2が凸部4a2の鋭角傾斜面4a21に当接した場合は、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2を上昇させて鋭角傾斜面4a21側への回転、すなわち図5の場合であれば時計回りの回転を許容する一方、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2が凸部4a2の鈍角傾斜面4a22に当接した場合は、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2が上昇せずに鋭角傾斜面4a21側への回転、すなわち図5の場合であれば反時計回りへは回転できないように構成されている。
【0026】
そして、凹凸ディスク4aを後輪12b,12bの車軸12dに設ける場合は、操作棒5で重力式ブレーキ片4bの後述する操作棒当接部4b3を押下げなくても、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2側を跳ね上げて図8(a)に示すように時計回りに後輪12b,12bを回転させることができ、かつ、反時計回りには回転できないように取付ける一方、前輪12a,12aの車軸12cに取付ける場合は、図8(b)に示すように凹凸ディスク4aを裏返して回転できる方向が逆となるように取付け、操作棒5で重力式ブレーキ片4bの操作棒当接部4b3を押下げなくても重力式ブレーキ片4bの突起部4b2側を跳ね上げて反時計周りには回転でき、かつ、時計周りには回転できないように取付ける。
【0027】
つまり、本実施形態では、図8(a),(b)に示すように、凹凸ディスク4aを前輪12a側と後輪12b側とで裏返して設けると共に、重力式ブレーキ片4bを逆向きに設けることによって、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2との係合により回転可能な方向が反対になるので、重力式の逸走防止ブレーキを構成することができる。
【0028】
そのため、図8(a)、(b)に示すように凹凸ディスク4aを設けた場合、操作棒5で重力式ブレーキ片4bの突起部4b2を跳ね上げて係合を解除した場合は、手押し台車1を押す方向にのみ走行可能、すなわち後輪12b側で重力式逸走防止ブレーキ機構部4を解除した場合は前進のみ、前輪12a側で重力式逸走防止ブレーキ機構部4を解除した場合は後退のみ走行可能となる。
【0029】
ただし、図8(a)、(b)に示す場合とは逆に凹凸ディスク4aを設けた場合には、操作棒5で重力式ブレーキ片4bの突起部4b2を跳ね上げて係合を解除した場合、手押し台車1を引く方向にのみ走行可能、すなわち後輪12b側で重力式逸走防止ブレーキ機構部4を解除した場合は後退のみ、前輪12a側で重力式逸走防止ブレーキ機構部4を解除した場合は前進のみ走行可能となる。
【0030】
(重力式ブレーキ片4b)
重力式ブレーキ片4bは、台車フレーム11の縦材11dの前端部と後端部とにそれぞれ支点を中心に上下方向に回動可能に設けられるもので、図6に示すように支点となる支軸部4b1と、支軸部4b1を中心に回動して自重によって下がる先端部に設けられた下方に向かって突出して凹凸ディスク4aの外周面4a12の凸部4a2および凹部4a3に係合する突起部4b2と、操作棒5の重力式ブレーキ片押圧部5cが当接して重力式ブレーキ片4bの突起部4b2側を上昇させる操作棒当接部4b3とを有している。
【0031】
突起部4b2は、湾曲面4b21を備えている一方、その反対側に凹凸ディスク4aの凸部4a2の鈍角傾斜面4a22側の角部に係合する係合部4b22が設けられている。
【0032】
(操作棒5)
操作棒5は、ブレーキ解除制御部3に着脱可能に挿して回動することによりバネ式逸走防止ブレーキ機構部2のブレーキを解除すると共に、重力式逸走防止ブレーキ機構部4のブレーキも解除する部材で、図8(a)~(c)に示すように、円形かつ長尺の操作棒本体5aの上端部には作業員が掴むハンドル部5bが設けられている一方、下端部にはブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3c1,3d1に嵌合して操作棒5の回動を伝達する嵌合部5cが設けられている。
【0033】
そのため、嵌合部5cには、ブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3c1,3d1の回転伝達スリット部3c11,3d11に嵌り、操作棒本体5aの回転を操作棒装着部3c1,3d1に伝達するように回転伝達部5c1,5c1が設けられている。
【0034】
また、操作棒5の嵌合部5cより上方には、重力式逸走防止ブレーキ機構部4を構成する重力式ブレーキ片4bの操作棒当接部4b3を押圧して重力式ブレーキ片4bの突起部4b2側を上昇させる重力式ブレーキ片押圧部5cが設けられている。
【0035】
<本発明に係る実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置の動作>
次に以上のように構成された実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置の動作について説明する。
【0036】
(手押し台車1を停車させ操作棒5を操作しない非操作時(逸走防止時))
手押し台車1を停車させ停車地点で積み荷を降ろして保線作業等を行う場合は、操作棒5をブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3c1,3d1に装着しない。
【0037】
そのため、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2は、引張バネ2bの弾性力によりバネ式逸走防止ブレーキ機構部2のキャリパー部2a1がブレーキ用ディスク12eを挟持し前輪12a,12aにブレーキをかけたバネ式ブレーキ作動状態で手押し台車1の逸走を防止できる。
【0038】
また、重力式逸走防止ブレーキ機構部4では、図8(a),(b)に示すように凹凸ディスク4aは前輪12a側と後輪12b側とで裏返して設けており、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2との係合により回転可能な方向が反対で、重力式の逸走防止ブレーキが作動しているため、手押し台車1の逸走を防止できる。
【0039】
よって、本実施形態の手押し台車1では、操作棒5を操作しない非操作時は、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2および重力式逸走防止ブレーキ機構部4の双方によって二重にブレーキがかけられているため、手押し台車1の逸走を確実に防止することができる。
【0040】
(手押し台車1を走行させる場合)
手押し台車1を走行させる場合は、本実施形態の場合、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2および重力式逸走防止ブレーキ機構部4の双方を解除する必要がある。そのため、本実施形態の手押し台車1では、作業者は次のような手順で2つの逸走防止ブレーキを解除する。
【0041】
(重力式逸走防止ブレーキ機構部4の逸走防止ブレーキ解除)
まず、作業員は、操作棒5をブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3c1,3d1のいずれか一方に装着し、操作棒5下端部の重力式ブレーキ片押圧部5cで重力式ブレーキ片4bの操作棒当接部4b3側を押圧し、重力式ブレーキ片4bの先端部側である突起部4b2側を上昇させる。
【0042】
図9は、作業員が操作棒5を後輪12b側のブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3d1に装着し、圧縮バネ3d12の圧縮力に対抗して押下げた場合を示している。このようにすると、操作棒5下端部の重力式ブレーキ片押圧部5cで重力式ブレーキ片4bの操作棒当接部4b3側を押圧し、重力式ブレーキ片4bの先端部側である突起部4b2側を上昇させることができる。
【0043】
すると、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2と凹凸ディスク4aの外周面4a12の凸部4a2との係合が解除されるので、後輪12bは図9に示すように時計回りだけでなく反時計周りにも回転できなるようになる。
【0044】
一方、前輪12a側の重力式逸走防止ブレーキ機構部4は、図8(b)に示すように後輪12b側の重力式逸走防止ブレーキ機構部4とは反対に時計回りは回転できず、反時計回りへは重力式ブレーキ片4bの突起部4b2を押し上げて回転できるように構成されているため、重力式逸走防止ブレーキ機構部4による前進方向への逸走防止ブレーキのみ解除することができる。
【0045】
(バネ式逸走防止ブレーキ機構部2の逸走防止ブレーキ解除)
重力式逸走防止ブレーキ機構部4の逸走防止ブレーキ解除後は、続いてバネ式逸走防止ブレーキ機構部2の逸走防止ブレーキを解除するため、作業員は、操作棒5をブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3c1,3d1に装着して操作棒5下端部の重力式ブレーキ片押圧部5cで重力式ブレーキ片4bの操作棒当接部4b3側を押圧して重力式ブレーキ片4bの突起部4b2側を上昇させたまま操作棒5を捻って回転させる。
【0046】
すると、操作棒装着部3c1,3d1に挿入された操作棒5の捻り(回動)操作によってリンクロッド部3eが図2上、X方向にスライドするので、キャリパー作動リンク体2a2がβ方向に回動し、引張バネ2bの弾性力によりブレーキ用ディスク12eを挟持していたバネ式逸走防止ブレーキ機構部2のキャリパー部2a1が開く。
【0047】
すると、ブレーキ用ディスク12eが解放され、前輪12a,12aが回転フリーになるので、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2の逸走防止ブレーキも解除することができる。
【0048】
そのため、作業員は、この状態のまま、すなわち操作棒5をブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3c1,3d1に装着し重力式ブレーキ片押圧部5cで重力式ブレーキ片4bの操作棒当接部4b3を押圧したまま回動してバネ式逸走防止ブレーキ機構部2の逸走防止ブレーキも解除した状態で、手押し台車1を押して一方向に走行させることができる。
【0049】
つまり、図9に示すように操作棒5を後輪12b側のブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3d1に装着して操作した場合は、前輪12a側への前進のみ可能で後退はできない一方、操作棒5を後前12a側のブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3d1に装着して操作した場合は、後輪12b側への後進のみ可能で前進はできない。
【0050】
そして、手押し台車1を停止させて積み荷の揚げ下ろし等を行う場合は、作業員が操作棒5から手を離したりあるいは制御部3の操作棒装着部3c1,3d1から操作棒5を抜くことにより、制御棒5の回転が戻ると共に浮き上がるので、重力式ブレーキ片押圧部5cが重力式ブレーキ片4bの操作棒当接部4b3に当接しても浮き上がるので、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2および重力式逸走防止ブレーキ機構部4の双方が機能してバネ式および重力式双方の逸走防止ブレーキ状態となる。
【0051】
<本発明に係る実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置の主な効果>
以上説明したように本発明に係る実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置は、従来のバネ式逸走防止ブレーキ機構部2と、非操作時は重力式ブレーキ片4bの突起部4b2側が自重により下がって当該突起部4b2が凹凸ディスク4aの外周面4a12の凸部4a2に係合することによりブレーキをかける重力式逸走防止ブレーキ機構部4とを備える。
【0052】
そのため、実施形態の手押し台車1では、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2および重力式逸走防止ブレーキ機構部4の双方が逸走フレーキ装置として機能するため、従来のバネ式逸走防止ブレーキ機構部2における引張バネ2bの張り不良や逸走防止ブレーキ装置周辺の故障等によって逸走するような状態が発生した場合でも、重力式逸走防止ブレーキ機構部4によって逸走を防止することができ、手押し台車1を停止させての保線作業を確実に行うことができる。
【0053】
また、本発明に係る実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置は、重力式逸走防止ブレーキ機構部4の凹凸ディスク4aの凸部4a2は一方が鋭角に傾斜した鋭角傾斜面4a21を有し、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2が凹凸ディスク4aの凹部4a3に係合した際、鋭角傾斜面4a21により重力式ブレーキ片4bの突起部4b2を上昇させて鋭角傾斜面4a21側への一方向の回転を許容するように構成されており、前輪12a,12aの凹凸ディスク4aは、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2が凹凸ディスク4aの凹部4a3に係合していても前進する場合は、鋭角傾斜面4a21により重力式ブレーキ片4bの突起部4b2を上昇させて前進可能な一方、後退する場合は、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2が凹凸ディスク4aの凹部4a3に係合し重力式ブレーキ片4bの突起部4b2側が上昇して突起部4b2と凹凸ディスク4aの外周面4a12の凹凸との係合が解除しない限り後退不可に取付けられ、後輪12b,12bの凹凸ディスク4aは、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2が凹凸ディスク4aの凹部4a3に係合していても後退する場合は、鋭角傾斜面4a21により重力式ブレーキ片4bの突起部4b2を上昇させて後退可能な一方、前進する場合は、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2が凹凸ディスク4aの凹部4a3に係合し重力式ブレーキ片4bの突起部4b2側が上昇して突起部4b2と凹凸ディスク4aの外周面4a12の凹凸との係合が解除しない限り前進不可なように構成した。
【0054】
そのため、本発明に係る実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置では、前進する場合に重力式逸走防止ブレーキ機構部4の逸走防止ブレーキを解除する場合には手押し台車1の前方に設けたブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3c1に操作棒5を装着して操作する一方、後退する場合に重力式逸走防止ブレーキ機構部4の逸走防止ブレーキを解除する場合には手押し台車1の後方に設けたブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3d1に操作棒5を装着して操作することになるので、手押し台車1を前進および後退させる両場合とも重力式逸走防止ブレーキ機構部4の逸走防止ブレーキを機能させて手押し台車1を停止させることができ、手押し台車1を停止させての保線作業を確実に行うことができ、保線作業の作業性を向上させることができる。
【0055】
特に、本発明に係る実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置では、図8(a),(b)に示すように、重力式逸走防止ブレーキ機構部4を構成する凹凸ディスク4aを前輪12a側と後輪12b側とで裏返して設けると共に、重力式ブレーキ片4bを逆向きに設けることによって、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2との係合により回転可能な方向が反対になるように前輪12a側および後輪12b側に設けたため、前輪12a側と後輪12b側の双方から操作棒4を使用して重力式の逸走防止ブレーキを解除することが可能となり、この点でも保線作業の作業性を向上させることができる。
【0056】
また、本発明に係る実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置では、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2のバネ式ブレーキ2aは、何も操作していない非操作時には前輪12a,12aまたは後輪12b,12bを連結する少なくとも一方の車軸に設けられたバネブレーキ用ディスクを引張バネ2bの弾性力によりブレーキパッドで挟んで前輪12a,12aまたは後輪12b,12bにブレーキをかけ、バネ式ブレーキ2aを解除する場合は、操作棒5を回転させることにより引張バネ2bの弾性力に対抗してバネ式ブレーキ2aを解除するように構成され、重力式逸走防止ブレーキ機構部4は、操作棒5の下端部によって重力式ブレーキ片4bの突起部4b2とは支点を介し反対側の操作棒当接部を上方から押して重力式ブレーキ片4bの突起部4b2側を上昇させることにより、突起部4b2と凹凸ディスク4aの凹凸との係合を解除して前輪12a,12aまたは後輪12b,12bに対するブレーキを解除するように構成した。
【0057】
そのため、本発明に係る実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置では、バネ式逸走防止ブレーキ機構部2および重力式逸走防止ブレーキ機構部4の双方が作動状態の逸走フレーキを解除して手押し台車1を走行させる際、1本の操作棒5によってバネ式逸走防止ブレーキ機構部2および重力式逸走防止ブレーキ機構部4の双方の逸走フレーキを連続して解除することができるためバネ式逸走防止ブレーキ機構部2および重力式逸走防止ブレーキ機構部4の2重の逸走防止ブレーキでも逸走フレーキの解除作業が容易となり、保線作業の作業性を向上させることができる。
【0058】
また、本発明に係る実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置では、操作棒5は、手押し台車1に対し着脱可能に設けている。
【0059】
そのため、本発明に係る実施形態の手押し台車1の逸走防止ブレーキ装置では、1本の操作棒5を手押し台車1の前方に設けたブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3c1や手押し台車1の後方に設けたブレーキ解除制御部3の操作棒装着部3d1に1本の操作棒5を差し替えながら着脱し、1本の操作棒5によってバネ式逸走防止ブレーキ機構部2および重力式逸走防止ブレーキ機構部4の双方の逸走フレーキを解除することができるため、保線作業の作業性を向上させることができる。
【0060】
尚、上記実施形態の説明では、重力式逸走防止ブレーキ機構部4を構成する凹凸ディスク4aの凸部4a2は、鋭角傾斜面4a21と鈍角傾斜面4a22とで構成して重力式ブレーキ片4bの突起部4b2がその重力により下がって凹凸ディスク4aの凸部4a2に係合していても一方向には回転できるように構成し、かつ、前輪12a側と後輪12b側とに裏返して取付けるように説明したが、本発明ではこれに限らず、重力式逸走防止ブレーキ機構部4を構成する凹凸ディスク4aの凸部4a2を凹凸ディスク4aの外周面4a12からほぼ直角に延び、ほぼ正面視、長方形状または正方形状に形成して、重力式ブレーキ片4bの突起部4b2がその重力により下がって凹凸ディスク4aの凸部4a2に係合していた場合、時計回りの方向も反時計回りのいずれの方向にも回転不可に構成しても良い。ただし、この場合、凹凸ディスク4aは、前輪12a側または後輪12b側のいずれか一方側に設ければ十分であり、いずれか一方側に設けた場合には設けた側の操作棒装着部でのみ逸走防止ブレーキを解除できることになる。
【0061】
また、重力式逸走防止ブレーキ機構部4を構成する凹凸ディスク4aの凸部4a2の鈍角傾斜面4a22は、鈍角でなく、直角に構成しても勿論良い。
【符号の説明】
【0062】
1 手押し台車
11a,11b、11c 横材
11d,11e,11f 縦材
12a,12a 前輪
12b,12b 後輪
12c,12d 車軸
12e ブレーキ用ディスク
2 バネ式逸走防止ブレーキ機構部
2a バネ式ブレーキ
2a1 キャリパー部
2a2 キャリパー作動リンク体
2b 引張バネ
3 ブレーキ解除制御部
3a,3b ブレーキ解除ベース部
3c,3d バネ式ブレーキ解除リンク部
3c1,3d1 操作棒装着部
3c11,3d11 回転伝達スリット部
3c12,3d12 圧縮バネ
4 重力式逸走防止ブレーキ機構部
4a 凹凸ディスク
4a1 ディスク本体
4a2 凸部
4a21 鋭角傾斜面
4a22 鈍角傾斜面
4a3 凹部
4b 重力式ブレーキ片
4b1 支軸部
4b2 突起部
4b21 湾曲面
4b22 係合部
4b3 操作棒当接部
5 操作棒
5a 操作棒本体
5b ハンドル部
5c 嵌合部
R レール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10