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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】磁気センサ装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/16 20060101AFI20221202BHJP
【FI】
G01D5/16 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018095927
(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公開番号】P2019200170
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 直希
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-101954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/252
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状の磁場を生成する磁石のストローク方向に設定され、状態の切り替わり開始位置と終了位置により規定される切替範囲、及び前記ストローク方向と交差する方向に設定され、前記磁石の位置のばらつきの範囲であるばらつき範囲により規定される切替領域と、
前記切替領域内の前記磁石の前記磁場に対して前記開始位置から前記終了位置において磁気抵抗値の変化が大きくなるように第1の円形磁気抵抗素子を分割した複数の第1の分割素子を連続的に回転させて前記切替領域の周囲に再配置した磁気センサと、
を備えた磁気センサ装置。
【請求項2】
前記ストローク方向と平行なX軸の正の領域に前記切替範囲が設定されると共にY軸の正と負の領域に跨って前記ばらつき範囲が設定されるように、前記第1の円形磁気抵抗素子の中心を原点とする直交座標系を設けた場合、
前記切替領域は、前記直交座標系の第1象限及び第4象限に2つの頂点を有した矩形状となり、
前記磁気センサは、前記第1象限の移動前の前記第1の分割素子の中心点を通る接線と前記第1の分割素子の中心点を通ってその接線と直交する垂線と、を前記切替領域の前記第1象限の2つの頂点を通るように移動させると共に、前記第4象限の移動前の前記第1の分割素子の中心点を通る接線と、その接線と直交する垂線とを前記第4象限の2つの頂点を通るよう移動させ、それら移動した接線と移動した垂線の交点に、前記移動した接線が接線となるように前記第1の分割素子を再配置して構成される、
請求項1に記載の磁気センサ装置。
【請求項3】
前記磁気センサは、再配置された前記第1の分割素子の中心点を通る前記移動した垂線上に配置された第1の直線素子を有し、
前記第1の分割素子と前記第1の直線素子からなる複数の単位素子が前記交点に配置され、
複数の前記第1の分割素子が直列に電気的に接続されると共に、複数の前記第1の直線素子が直列に電気的に接続されてハーフブリッジ回路が形成された、
請求項2に記載の磁気センサ装置。
【請求項4】
前記磁気センサは、再配置された前記第1の分割素子の中心点を通る前記移動した垂線と平行に配置された第1の直線素子、前記第1の円形磁気抵抗素子と同心円であって異なる半径を有する第2の円形磁気抵抗素子を前記第1の円形磁気抵抗素子と同様に分割及び再配置して得られた第2の分割素子、及び前記第1の直線素子と平行となる第2の直線素子を有し、
前記第1の分割素子、前記第2の分割素子、前記第1の直線素子及び前記第2の直線素子からなる複数の単位素子が前記交点に配置された、
請求項2に記載の磁気センサ装置。
【請求項5】
複数の前記第1の分割素子が直列に電気的に接続されると共に、複数の前記第1の直線素子が直列に電気的に接続されて第1のハーフブリッジ回路が形成され、
複数の前記第2の分割素子が直列に電気的に接続されると共に、複数の前記第2の直線素子が直列に電気的に接続されて第2のハーフブリッジ回路が形成され、
前記第1のハーフブリッジ回路及び前記第2のハーフブリッジ回路によってフルブリッジ回路が形成された、
請求項4に記載の磁気センサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、ハウジングの所定位置に配置されて外部の圧力によって動作し、一端部に磁性体が形成されているボタンと、ハウジングに収納されて磁性体と向き合っており、磁性体との間隔に応じて誘導電圧を発生させる磁界センサ素子と、を備えた非接触スイッチが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この従来の非接触スイッチは、既存のスイッチが接触式構造を採用するのとは異なり、磁界センサ素子などを用いて非接触式構造を実現することにより、既存のスイッチに比べて耐久性を向上させると共に、スイッチの動作時に発生し得る騷音を除去することができる。この磁界センサ素子としては、磁気抵抗素子などが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-507871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような磁界センサ素子として、円形の磁気抵抗素子を有するMR(Magneto Resistive)センサが知られている。このMRセンサは、放射状の磁場を生成する磁石が中心に位置すると、磁場と磁気抵抗素子との角度が直角となるので、磁石が外にある場合に比べて磁気抵抗値が小さくなり、オンとオフなどの状態の切り替わりを検出することができる。しかしこのMRセンサは、磁石の位置のばらつきを考慮した場合、状態の切り替わりの精度を保つためには、円形の磁気抵抗素子のサイズを大きくする必要がある。
【0006】
従って本発明の目的は、外乱磁場に対する耐性を備えつつ小型化することができる磁気センサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、放射状の磁場を生成する磁石のストローク方向に設定され、状態の切り替わり開始位置と終了位置により規定される切替範囲、及びストローク方向と交差する方向に設定され、磁石の位置のばらつきの範囲であるばらつき範囲、により規定される切替領域と、切替領域内の磁石の磁場に対して開始位置から終了位置において磁気抵抗値の変化が大きくなるように第1の円形磁気抵抗素子を分割した複数の第1の分割素子を連続的に回転させて切替領域の周囲に再配置した磁気センサと、を備えた磁気センサ装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外乱磁場に対する耐性を備えつつ小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は、第1の実施の形態に係る磁気センサ装置の一例を示す概略図であり、図1(b)は、再配置前の磁気センサの一例を示す概略図であり、図1(c)は、磁気センサ装置の等価回路図の一例である。
図2図2(a)及び図2(b)は、第1の実施の形態に係る磁気センサ装置の円形磁気抵抗素子の再配置の一例を説明するための概略図である。
図3図3(a)は、第1の実施の形態に係る磁気センサ装置の円形磁気抵抗素子の再配置における接線と垂線の関係の一例を説明するための概略図であり、図3(b)は、分割素子の回転の一例を示す概略図である。
図4図4(a)は、第1の実施の形態に係る磁気センサ装置の再配置前の中心の一例を示すグラフであり、図4(b)は、再配置後の中心の一例を示すグラフである。
図5図5(a)は、第1の実施の形態に係る磁気センサ装置のストロークと出力電圧の関係を示すグラフであり、図5(b)は、変形例に係る単位素子の一例を示す概略図である。
図6図6(a)は、第2の実施の形態に係る磁気センサ装置の一例を示す概略図であり、図6(b)は、単位素子の一例を示す概略図である。
図7図7(a)は、第2の実施の形態に係る磁気センサ装置の再配置前の磁気センサの一例を示す概略図であり、図7(b)は、磁気センサ装置の等価回路図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態の要約)
実施の形態に係る磁気センサ装置は、放射状の磁場を生成する磁石のストローク方向に設定され、状態の切り替わり開始位置と終了位置により規定される切替範囲、及びストローク方向と交差する方向に設定され、磁石の位置のばらつきの範囲であるばらつき範囲、により規定される切替領域と、切替領域内の磁石の磁場に対して開始位置から終了位置において磁気抵抗値の変化が大きくなるように第1の円形磁気抵抗素子を分割した複数の第1の分割素子を連続的に回転させて切替領域の周囲に再配置した磁気センサと、を備えて概略構成されている。
【0011】
実施の形態の磁気センサ装置は、磁気抵抗値の変化量が大きいので、分割して再配置しても小型でありながら切り替わり精度が高い。また磁気センサ装置は、円形の磁気抵抗素子を分割して再配置しているので、外乱磁場に対する耐性が高い。従って磁気センサ装置は、分割しない場合と比べて、外乱磁場に対する耐性を備えつつ小型化することができる。
【0012】
[第1の実施の形態]
(磁気センサ装置1の概要)
図1(a)は、第1の実施の形態に係る磁気センサ装置の一例を示す概略図であり、図1(b)は、再配置前の磁気センサの一例を示す概略図であり、図1(c)は、磁気センサ装置の等価回路図の一例である。図2(a)及び図2(b)は、第1の実施の形態に係る磁気センサ装置の円形磁気抵抗素子の再配置の一例を説明するための概略図である。図3(a)は、第1の実施の形態に係る磁気センサ装置の円形磁気抵抗素子の再配置における接線と垂線の関係の一例を説明するための概略図であり、図3(b)は、分割素子の回転の一例を示す概略図である。
【0013】
なお以下に記載する実施の形態に係る各図において、図形間の比率は、実際の比率とは異なる場合がある。また図1(c)及び図7(b)では、主な信号や情報の流れを矢印で示している。
【0014】
磁気センサ装置1は、例えば、磁気センサ装置1に対する磁石5の接近と離脱を検出するものである。この磁気センサ装置1は、一例として、オンとオフを検出する非接触スイッチ、操作部の操作の有無を検出する操作装置などの2つの状態の検出するものに用いられる。本実施の形態の磁気センサ装置1は、一例として、磁石5の接近をオン、離脱をオフと判定する非接触スイッチに用いられるものとする。
【0015】
この磁気センサ装置1は、例えば、図1(a)~図1(c)に示すように、放射状の磁場50を生成する磁石5のストローク方向に設定され、状態の切り替わり開始位置31と終了位置32により規定される切替範囲L、及びストローク方向と交差する方向に設定され、磁石5の位置のばらつきの範囲であるばらつき範囲H、により規定される切替領域3と、切替領域3内の磁石5の磁場50に対して開始位置31から終了位置32において磁気抵抗値の変化が大きくなるように円形磁気抵抗素子80(第1の円形磁気抵抗素子)を分割した複数の分割素子21(第1の分割素子)を連続的に回転させて切替領域3の周囲に再配置した磁気センサ2と、を備えて概略構成されている。
【0016】
本実施の形態では、分割素子21は、磁石5の中心51が開始位置31に一致する場合、磁場50と平行となり、終了位置32に一致する場合、磁場50と垂直となるように再配置されているがこれに限定されず、開始位置31において垂直となり、終了位置32において平行となるように再配置されても良い。逆に再配置された場合、磁気センサ装置1は、例えば、磁気センサ2から出力される出力電圧Vが後述するしきい値Th以下となった場合、オンからオフに切り替わったと判定するように構成される。
【0017】
なお磁石5の中心51が開始位置31に一致するなどの記載は、例えば、中心51をXY座標系に投影した点が開始位置31に一致することなどを示している。つまり磁石5は、XY座標系が作る平面の上方に位置している。
【0018】
ストローク方向とは、例えば、図1(a)に矢印で示す方向である。切替範囲Lは、例えば、図1(a)に一点鎖線で示す開始位置31と終了位置32の間の範囲である。磁気センサ装置1は、磁石5の中心51が開始位置31から終了位置32の間にある状態でオフからオンなどの状態が切り替わるように構成されている。ばらつき範囲Hは、磁石5と磁気センサ2との相対的な位置ずれの範囲を示している。図1(a)に示すばらつき範囲Hは、磁気センサ2に対するストローク方向に交差する方向の磁石5の位置ずれの範囲を示している。切替領域3は、例えば、図1(a)において一点鎖線で囲まれた領域である。なお磁石5は、例えば、中心51がばらつき範囲Hに位置するものとする。
【0019】
円形磁気抵抗素子80は、例えば、図1(b)に示すように、円形に形成された磁気抵抗素子である。本実施の形態の磁気センサ2は、この円形磁気抵抗素子80を等分割した分割素子21が再配置されて構成されている。なお円形磁気抵抗素子80が使用される場合、一部を切り欠いて配線が接続される。
【0020】
また磁気センサ装置1は、例えば、図2(a)及び図2(b)に示すように、ストローク方向と平行なX軸の正の領域に切替範囲Lが設定されると共にY軸の正と負の領域に跨ってばらつき範囲Hが設定されるように、円形磁気抵抗素子80の中心を原点とする直交座標系を設けた場合、磁気センサ2は、移動前の分割素子21の中心点6(点A)の接線60と接線60と直交する垂線61とを切替領域3の第1象限の2つの頂点(点C及び点B)を通るように移動させると共に、第4象限の2つの頂点(点D及び点E)を通るよう移動させ、移動した接線60と垂線61の交点6aに、移動した接線60aが接線となるように分割素子21を再配置して構成されている。
【0021】
図2(a)及び図2(b)に示す切替範囲Lは、(0,0)~(c、0)である。またばらつき範囲Hは、(-a,0)~(+a,0)である。ただしc>0及びa>0である。
【0022】
また円形磁気抵抗素子80の半径をr、X軸と垂線61とのなす角度をθとすると、中心点6の座標は、極座標表示で(r・cosθ,r・sinθ)となる。点Bは、(c,a)である。点Cは、(0,a)である。点Dは、(c,-a)である。点Eは、(0,-a)である。
【0023】
磁気センサ2は、例えば、図1(a)、図2(a)及び図2(b)に示すように、分割素子21の中心点6を通る移動した垂線61a上に配置された直線素子22を有している。そして磁気センサ2は、分割素子21と直線素子22からなる複数の単位素子20が交点6aに配置され、複数の分割素子21が直列に電気的に接続されると共に、複数の直線素子22が直列に電気的に接続されてハーフブリッジ回路10が形成されている。
【0024】
この直線素子22は、例えば、図1(b)に示す放射状磁気抵抗素子81(第1の放射状磁気抵抗素子)と同様の役割を有する。
【0025】
この放射状磁気抵抗素子81は、円形磁気抵抗素子80と共にハーフブリッジ回路を形成し、磁石の接近と離脱を検出する。そのため、放射状磁気抵抗素子81は、円形磁気抵抗素子80の接線と直交する垂線に沿って配置されると共に、磁場が作用しない場合の抵抗値が円形磁気抵抗素子80と等しい。従って磁気センサ8は、放射状磁気抵抗素子81が円形磁気抵抗素子80の垂線となるように配置されているので、配置が90°異なり、取りうる磁気抵抗値の変化量が最大となる。
【0026】
磁気センサ装置1のハーフブリッジ回路10は、例えば、図1(c)に示すように、制御部15に中点電位として出力電圧Vを出力する。直列に接続された複数の分割素子21の一方のノード10aは、電源電圧VCCに電気的に接続される。直列に接続された複数の直線素子22の一方のノード10cは、GNDと電気的に接続される。ハーフブリッジ回路10は、直列に接続された複数の分割素子21と直列に接続された複数の直線素子22のノード10bにおける出力電圧Vを出力する。
【0027】
(磁気センサ2の構成)
磁気センサ2は、分割素子21及び直線素子22からなる複数の単位素子20を備えて概略構成されている。この分割素子21は、後述する交点6aが半径rを含まない形で表されるので、円弧である必要がなく、直線でも良い。
【0028】
分割素子21及び直線素子22は、例えば、Ni、Feなどの強磁性金属を主成分とする合金の薄膜として形成されている。分割素子21及び直線素子22は、磁場50の方向の変化によって抵抗値が変化しない銅などの金属材料により、同種で直列接続となるようにそれぞれの端部が接続されている。
【0029】
分割素子21及び直線素子22は、磁場50が作用しても変化しない抵抗成分と、磁場50の作用によって変化する磁気抵抗成分と、がそれぞれ等しく、また合計の抵抗値が等しい。
【0030】
(磁石5の構成)
磁石5は、例えば、図1(a)に示すように、放射状の磁場50を生成する、球体、円柱や四角柱などの形状を有している。本実施の形態の磁石5は、例えば、四角柱形状を有している。
【0031】
磁石5は、例えば、図1(a)に示すように、磁気センサ2側がN極、他方がS極となるように着磁されている。従って磁気センサ2が設置された面では、内から外に向かった磁場50が作用する。なお磁石5は、着磁が逆であっても良い。
【0032】
磁石5は、例えば、アルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石などの永久磁石を所望の形状に成形したもの、又はフェライト系、ネオジム系、サマコバ系、サマリウム鉄窒素系などの磁性体材料と合成樹脂材料とを混合して所望の形状に成形したものである。本実施の形態の磁石5は、一例として、永久磁石である。なお磁石5は、電磁石であっても良い。
【0033】
(制御部15の構成)
制御部15は、例えば、記憶されたプログラムに従って、取得したデータに演算、加工などを行うCPU(Central Processing Unit)、半導体メモリであるRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などから構成されるマイクロコンピュータである。このROMには、例えば、制御部15が動作するためのプログラムと、しきい値Thと、が格納されている。RAMは、例えば、一時的に演算結果などを格納する記憶領域として用いられる。
【0034】
制御部15は、例えば、ハーフブリッジ回路10から出力された出力電圧Vと、しきい値Thと、を比較して磁石5が接近したか否かを判定する。このしきい値Thは、例えば、磁石5の位置ずれがない場合の磁石5の中心51が開始位置31に位置する際の出力電圧V、及び磁石5の位置が最もばらついた場合の点C及び点Eに位置する際の出力電圧Vに基づいて設定されている。つまり、しきい値Thは、磁石5の位置ずれがない場合、開始位置31より切替領域3の内側で状態が切り替わり、磁石5の位置が最もずれた場合、終了位置32より切替領域3の内側で状態が切り替わるように定められる。
【0035】
ここで外乱磁場9が磁気センサ装置1に作用した場合、分割素子21及び直線素子22には、例えば、同じ方向の磁場が作用する。
【0036】
従って分割素子21及び直線素子22は、磁石5が磁気センサ2の外に位置する場合に近い磁気抵抗値となるので、オン判定し難い。つまり磁気センサ装置1は、外乱磁場9の作用によってオン判定する誤判定を抑制することができる。
【0037】
・円形磁気抵抗素子80の再配置について
図4(a)は、第1の実施の形態に係る磁気センサ装置の再配置前の中心の一例を示すグラフであり、図4(b)は、再配置後の中心の一例を示すグラフである。図5(a)は、第1の実施の形態に係る磁気センサ装置のストロークと出力電圧の関係を示すグラフであり、図5(b)は、変形例に係る単位素子の一例を示す概略図である。
【0038】
円形磁気抵抗素子80は、例えば、磁石5の中心51が図2(a)に示すX軸上に一致すると共に切替位置となる円形磁気抵抗素子80の中心(原点)と一致した場合、磁場50が垂直に作用するので、磁気抵抗値が最小となる。
【0039】
しかし磁石5の配置がX軸からずれ、磁石5の中心51が終了位置32となるY軸上に到達した場合、Y軸に沿う磁場50が円形磁気抵抗素子80と垂直となるものの、その他の磁場50と円形磁気抵抗素子80との角度が垂直からずれる。その結果、磁気抵抗値がオン判定されるほどに十分下がらない可能性がある。
【0040】
そこで磁石5が位置ずれしても切替領域3内で十分磁気抵抗値が下がるようにするためには、円形磁気抵抗素子80の直径を大きくする必要があり、装置が大型化する問題がある。
【0041】
本実施の形態の磁気センサ装置1は、円形磁気抵抗素子80を分割し、その分割した分割素子21をこれから示す式に従って再配置することにより、切替精度の向上と小型化を両立させることが可能となる。
【0042】
まず磁石5の理想的な配置位置は、例えば、中心51を投影した点がX軸上にあるものとする。この際、磁石5の中心51の位置がばらつく、ばらつき範囲Hを+a、-a、X軸上の切替範囲Lの開始位置31をc、終了位置32を原点とした場合、例えば、図2(a)~図3(a)に示すように、切替領域3が規定される。
【0043】
磁石5の中心51は、最も配置位置がばらついた場合、切替領域3のXY座標系の第1象限の点B及び点C、XY座標系の第4象限の点D及び点Eを通る。この点B~点Eは、切替領域3の4つの頂点である。
【0044】
磁気センサ装置1は、磁石5がX軸を基準に最もばらついた点B及び点C、又は点D及び点Eにおいて磁場50の作用による磁気抵抗値の変化量が最大となるように再配置されれば、切替精度が向上する。つまり磁気センサ装置1は、切替領域3における出力電圧Vの変化量が大きいので、切替精度が向上する。
【0045】
そこで、円形磁気抵抗素子80上の点(点A)を通る接線60が点Bを通り、垂線61が点Cを通るように、接線60及び垂線61を平行移動する。
接線60及び垂線61の式は、以下の式(1)及び式(2)となる。
Y=-(cosθ/sinθ)X+r/sinθ・・・(1)
Y=(sinθ/cosθ)X・・・(2)
接線60は、傾きが固定された状態で点B(c,a)を通るので、平行移動した後の接線60aの式は、以下の式(3)となる。
Y=-(cosθ/sinθ)X+a+c(cosθ/sinθ)・・・(3)
垂線61は、傾きが固定された状態で点C(0,a)を通るので、平行移動した後の垂線61aの式は、以下の式(4)となる。
Y=(sinθ/cosθ)X+a・・・(4)
【0046】
単位素子20は、この式(3)及び式(4)の接線60aと垂線61aの交点6aに再配置される。円形磁気抵抗素子80の半径をr、垂線61とX軸とのなす角度をθとすると交点6aの座標は、(c・cosθ,c・sinθ・cosθ+a)となる。
【0047】
なお単位素子20は、例えば、図3(b)に示すように、分割素子21が移動後の垂線61aと直交するように、分割素子21が回転して配置される。そして直線素子22は、分割素子21と直交するように、回転して配置される。
【0048】
ここで交点6a(c・cosθ,c・sinθ・cosθ+a)は、計算上は、切替領域3の周囲だけではなく、その内部にも存在する。具体的には、円形磁気抵抗素子80の第2象限及び第3象限の分割素子21は、その交点6aが切替領域3内となる。しかし、一例として、磁石5がX軸上を通る場合、対向する単位素子20に作用する磁場50の方向が等しくなって抵抗値の変化が打ち消しあうので、切替領域3内に配置されない。つまり再配置は、切替領域3が第1象限と第4象限に位置する場合、円形磁気抵抗素子80の第1象限及び第4象限の分割素子21に対してのみ行われる。
【0049】
図4(a)は、円形磁気抵抗素子80の半径rが1.4mm(直径が2.8mm)、切替範囲Lの開始位置31のX座標cが1.2(mm)、終了位置32のX座標が0(mm)、磁石5のばらつきaが0.7mmであり、36個に等分割された分割素子21の再配置の一例を示している。図4(a)及び図4(b)に示す四角のマークは、分割素子21の中心を示している。
【0050】
この円形磁気抵抗素子80の外形は、再配置前が2.8mm×2.8mm(X×Y)である。従ってその専有面積は、円形磁気抵抗素子80が内接する矩形の面積としては7.8mm(=2.8mm×2.8mm)、円の面積としては6.2mm(=1.4mm×1.4mm×π)となる。
【0051】
また再配置により形成された磁気センサ2の外形は、X軸方向の幅が交点6aの幅であるから1.2mmであり、Y軸方向の幅が交点6aの頂点間の距離である2.6mm(=1.3mm×2:θ=45°、315°)となる。従って磁気センサ2の専有面積は、磁気センサ2が内接する矩形の面積としては3.1mm(=1.2mm×2.6mm)、磁気センサ2の面積としては2.8mm(=1.2mm×0.7mm×2+0.6mm×0.6mm×π)となる。
【0052】
なお磁気センサ2の面積は、切替領域3の面積(1.2mm×1.4mm)と、切替領域3の外の面積と、を加算したものである。この切替領域3の外の面積は、頂点が1.3mm(-1.3mm)で切替領域3(0.7mm、-0.7mm)からの高さが0.6mm、幅が1.2mmであるので、近似的に半径が0.6mmの円として算出した。
【0053】
その結果、磁気センサ2は、再配置前の円形磁気抵抗素子80の専有面積と比べて、矩形でみると約40%、内部の面積でみると約45%の専有面積となり、約60%小型化されている。なお磁気センサ2の専有面積は、切替領域3の設定によって変化する。
【0054】
図5(a)は、磁石5の位置を変えて磁気センサ2に近づけたとして算出された出力電圧のグラフである。図5(a)は、横軸が磁石5のストローク(mm)であり、縦軸が測定された出力電圧(V)である。
【0055】
この図5(a)では、X軸に垂直な方向に磁石5の位置を、X軸を基準として±0.7mmずつずらしている。こうして測定された出力電圧は、開始位置31から終了位置32まで設定された切替領域3内において、しきい値Thを超えている。つまり磁気センサ装置1は、磁石5の位置がずれても切替領域3内でオンとオフが切り替わっている。
【0056】
また磁気センサ装置1は、位置ずれが生じても切替幅がおよそ0.5mmとなっている。これは、設定された開始位置31(1.2mm)、終了位置32(0mm)の間隔(1.2mm)よりも短くなっている。なお再配置前の磁気センサ8は、同じしきい値Thを用いて測定した結果、切替幅がおよそ0.89mmであった。従って磁気センサ装置1は、再配置前の磁気センサ8と比べて、0.39mm精度が向上している。
【0057】
また図5(a)の二重丸は、磁石5の磁場50よりも強い外乱磁場9を印加した場合の出力電圧を示している。外乱磁場9は、磁気センサ2に対して同じ方向から作用する。例えば、図1(a)に示すように、切替領域3の点Bの分割素子21に作用する外乱磁場9の方向と、点Eの直線素子22に作用する外乱磁場9の方向は、等しい。また点Bの直線素子22に作用する外乱磁場9の方向と、点Eの分割素子21に作用する外乱磁場9の方向とは、等しい。従って点Bの分割素子21と点Eの直線素子22との抵抗値が等しくなると共に点Bの直線素子22と点Eの分割素子21との抵抗値が等しくなる。これは、他の単位素子20においても同様である。従って磁気センサ装置1は、ハーフブリッジ回路10の中点電位(出力電圧V)が保たれて出力が反転しない。
【0058】
以上より、磁気センサ装置1は、外乱磁場9が作用してもオン判定し難いので、この構成を採用しない場合と比べて、車両などの外乱磁場9が発生し易い環境で好適に使用することができる。
【0059】
ここで図5(b)は、変形例に係る単位素子の一例を示す概略図である。変形例の単位素子20aは、例えば、図5(b)に示すように、分割素子21を境に2つの直線素子22a及び直線素子22bが分割素子21の中心点(交点6a)を通る垂線61a上に並んで配置されている。この場合、直線素子22a及び直線素子22bの磁気抵抗値を含む抵抗値は、分割素子21の磁気抵抗値を含む抵抗値と同じとされる。
【0060】
以下に本実施の形態の磁気センサ装置1の動作の一例を説明する。
【0061】
(動作)
磁気センサ装置1の制御部15は、電源が投入されると、出力電圧Vを監視する。制御部15は、出力電圧Vがしきい値Th以上となると、磁石5が切替領域3内に位置する、つまりオンであると判定する。
【0062】
制御部15は、判定した結果に基づいてオンと判定したことを示す検出情報Sを生成して接続された電子機器に出力する。
【0063】
(第1の実施の形態の効果)
本実施の形態に係る磁気センサ装置1は、外乱磁場9に対する耐性を備えつつ小型化することができる。具体的には、磁気センサ装置1は、切替領域3の開始位置31では磁場50と分割素子21とが平行となり、終了位置32では垂直となり、取りうる磁気抵抗値の変化量としては最大であるので、分割して再配置しても小型でありながら切り替わり精度が高い。また磁気センサ装置1は、円形磁気抵抗素子80を分割して再配置しているので、外乱磁場9に対する耐性が高い。従って磁気センサ装置は、分割しない場合と比べて、外乱磁場9に対する耐性を備えつつ小型化することができる。
【0064】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、磁気センサ装置1がフルブリッジ回路を有する点で他の実施の形態と異なっている。
【0065】
図6(a)は、第2の実施の形態に係る磁気センサ装置の一例を示す概略図であり、図6(b)は、単位素子の一例を示す概略図である。図7(a)は、第2の実施の形態に係る磁気センサ装置の再配置前の磁気センサの一例を示す概略図であり、図7(b)は、磁気センサ装置の等価回路図の一例である。なお以下に記載する実施の形態において、第1の実施の形態と同じ機能及び構成を有する部分は、第1の実施の形態と同じ符号を付し、その説明は省略するものとする。
【0066】
本実施の形態の磁気センサ装置1の磁気センサ2は、例えば、図6(a)~図7(b)に示すように、第1の分割素子(分割素子21a)の中心点(交点6a)を通る垂線61aと平行に配置された第1の直線素子(直線素子22c)、第1の円形磁気抵抗素子(円形磁気抵抗素子80a)と同心円であって異なる半径を有する第2の円形磁気抵抗素子(円形磁気抵抗素子80b)を第1の円形磁気抵抗素子と同様に分割して得られた第2の分割素子(分割素子21b)、及び第1の直線素子と平行となる第2の直線素子(直線素子22d)を備えている。
【0067】
また複数の第1の分割素子(分割素子21a)が直列に電気的に接続されると共に、複数の第1の直線素子(直線素子22c)が直列に電気的に接続されて第1のハーフブリッジ回路11aが形成されている。さらに複数の第2の分割素子(分割素子21b)が直列に電気的に接続されると共に、複数の第2の直線素子(直線素子22d)が直列に電気的に接続されて第2のハーフブリッジ回路11bが形成されている。そして第1のハーフブリッジ回路11a及び第2のハーフブリッジ回路11bによってフルブリッジ回路11が形成されている。
【0068】
この直線素子22c及び直線素子22dは、例えば、図7(a)に示す放射状磁気抵抗素子81a及び放射状磁気抵抗素子81bと同様の役割を有する。なお分割素子と直線素子の組み合わせは、分割素子21aと分割素子21b、直線素子22cと直線素子22dでハーフブリッジ回路を構成しなければ自由である。
【0069】
第1のハーフブリッジ回路11aは、直線素子22cの一方のノード12aが電源電圧VCCと電気的に接続され、分割素子21aの一方のノード12cがGNDと電気的に接続されている。そして第1のハーフブリッジ回路11aは、直線素子22cと分割素子21aのノード12bにおける中点電位VをオペアンプOPの非反転入力端子(+側)に出力する。
【0070】
第2のハーフブリッジ回路11bは、分割素子21bの一方のノード12aが電源電圧VCCと電気的に接続され、直線素子22dの一方のノード12cがGNDと電気的に接続されている。そして第2のハーフブリッジ回路11bは、分割素子21bと直線素子22dのノード12dにおける中点電位VをオペアンプOPの反転入力端子(-側)に出力する。
【0071】
オペアンプOPは、非反転入力端子に入力した中点電位Vと反転入力端子に入力した中点電位Vとを差動増幅した出力信号Sを制御部15に出力する。
【0072】
制御部15は、オペアンプOPから出力された出力信号Sとしきい値Thとを比較してオンとオフを判定する。制御部15は、例えば、オフからオンに切り替わったことを示す検出情報Sを生成して出力する。
【0073】
分割素子21a及び分割素子21bは、第1の実施の形態と同様の方法を用いて円形磁気抵抗素子80a及び円形磁気抵抗素子80bを再配置したものである。そして直線素子22c及び直線素子22dは、例えば、図6(b)に示すように、分割素子21a及び分割素子21bの中心点(交点6a)を通る垂線61a上に配置すると重なるので、垂線61aと平行に並べている。なお直線素子22c及び直線素子22dの配置は、これに限定されず、例えば、図5(b)の変形例のように、垂線61a上で、かつ分割素子21a及び分割素子21bを挟んで配置されても良い。
【0074】
フルブリッジ回路11は、磁石5が磁気センサ2の切替領域3の外に位置する場合、ほぼ同じ方向から磁場50が作用するので、中点電位V及び中点電位Vがほぼ等しくなり、出力信号Sがゼロに近い値となる。制御部15は、この出力信号Sとしきい値Thとを比較し、出力信号Sがしきい値Thより低い場合、オフであると判定する。
【0075】
またフルブリッジ回路11は、磁石5が磁気センサ2の切替領域3に位置する場合、分割素子21a及び分割素子21bと、直線素子22cと直線素子22dと、には異なる角度で磁場50が作用するので、中点電位V及び中点電位Vが異なる。従って制御部15は、出力信号Sがしきい値Th以上となる場合、オンであると判定する。
【0076】
この磁気センサ装置1は、第1の実施の形態と同様に、外乱磁場9が作用しても磁石5が切替領域3の外に位置する場合のように、同じ方向の磁場が作用するので、出力信号Sがゼロに近い値となり、オンと誤判定することが抑制される。
【0077】
(第2の実施の形態の効果)
本実施の形態の磁気センサ装置1は、円形磁気抵抗素子80a及び円形磁気抵抗素子80bが分割素子21a及び分割素子21bとして再配置されると共に、放射状磁気抵抗素子81a及び放射状磁気抵抗素子81bと同様の役割となる直線素子22c及び直線素子22cが配置されて構成される。従って磁気センサ装置1は、円形磁気抵抗素子80a、円形磁気抵抗素子80b、放射状磁気抵抗素子81a及び放射状磁気抵抗素子81bによって磁気センサ8aを構成する場合と比べて、小型化することができる。
【0078】
以上述べた少なくとも1つの実施の形態の磁気センサ装置1によれば、外乱磁場9に対する耐性を備えつつ小型化することが可能となる。
【0079】
以上、本発明のいくつかの実施の形態及び変形例を説明したが、これらの実施の形態及び変形例は、一例に過ぎず、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。これら新規な実施の形態及び変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。また、これら実施の形態及び変形例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない。さらに、これら実施の形態及び変形例は、発明の範囲及び要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1…磁気センサ装置、2…磁気センサ、3…切替領域、5…磁石、6…中心点、6a…交点、8,8a…磁気センサ、9…外乱磁場、10…ハーフブリッジ回路、10a~10c…ノード、11…フルブリッジ回路、11a…第1のハーフブリッジ回路、11b…第2のハーフブリッジ回路、12a~12d…ノード、15…制御部、20,20a…単位素子、21,21a,21b…分割素子、22,22a~22d…直線素子、31…開始位置、32…終了位置、50…磁場、51…中心、60,60a…接線、61,61a…垂線、80,80a,80b…円形磁気抵抗素子、81,81a,81b…放射状磁気抵抗素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7