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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】連続圧延機による板厚制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/00 20060101AFI20221202BHJP
【FI】
B21B37/00 221Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017086112
(22)【出願日】2017-04-25
(65)【公開番号】P2018183791
(43)【公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堂前 行宏
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-077126(JP,A)
【文献】特開平11-244920(JP,A)
【文献】特開2013-180323(JP,A)
【文献】特開2014-124666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧延機を有する連続圧延機において前記複数の圧延機の各々の出側板厚を制御する、連続圧延機による板厚制御方法であって、
前記複数の圧延機の各々ごとの圧延時負荷と負荷上限値との差である負荷余裕値が、前記複数の圧延機の間で等しくなるように、前記複数の圧延機の各々における前記圧延時負荷の変更量の目標値である目標負荷変更量を設定し、
前記複数の圧延機のうちの最下流の圧延機を除く他の圧延機の中からいずれかの前記圧延機を選択し、選択した圧延機の前記目標負荷変更量を実現するように、前記選択した圧延機または前記選択した圧延機の1つ上流の前記圧延機の前記出側板厚の目標値である目標板厚の変更量を算出し、
算出した前記目標板厚の変更量が前記目標板厚に対して予め設定された変更制限の範囲を超える場合に、前記目標板厚の変更量を前記変更制限の範囲内に収まるように補正し、
前記目標板厚の変更量に基づいて、対応する前記圧延機の前記目標板厚を設定し、
前記目標板厚の変更量を補正した場合に、前記選択した圧延機の前記目標負荷変更量のうちの前記目標板厚の変更量を補正したことによって生じる目標未到達分を算出し、
算出した前記目標未到達分を、前記複数の圧延機のうちのまだ選択していない前記圧延機の前記目標負荷変更量に対して分配して、分配した前記目標未到達分を付加するように当該目標負荷変更量を補正し、
前記他の圧延機のすべての前記目標板厚を設定するまで、前記圧延機の選択から前記目標負荷変更量を補正するまでの負荷制御工程を複数回繰り返し、
前記他の圧延機の各々において、設定された前記目標板厚が得られるように、当該圧延機のロール圧下位置を調整
前記変更制限の範囲は、1回の前記負荷制御工程における前記目標板厚の変更量に対する第1の変更制限の範囲と、所定回数の前記負荷制御工程又は所定期間における1台の圧延機の前記目標板厚の変更量の合計に対する第2の変更制限の範囲とを含み、
算出した前記目標板厚の変更量が前記第1の変更制限の範囲を超える場合に、前記目標板厚の変更量が前記第1の変更制限の範囲内に収まるように、前記目標板厚の変更量を補正し、
前記所定回数の前記負荷制御工程又は前記所定期間における対象の前記圧延機の前記目標板厚の変更量の合計が、前記第2の変更制限の範囲を超える場合に、前記合計が前記第2の変更制限の範囲内に収まるように、前記目標板厚の変更量を補正する、
板厚制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の圧延機を有する連続圧延機において、目標とする製品板厚の圧延材を得られるように、各圧延機による出側板厚を制御する板厚制御の技術である。
【背景技術】
【0002】
圧延工程において、板厚は製品の品質上で重要な管理項目の1つである。2機以上の圧延機群からなる連続圧延機においては、各圧延機の出側板厚に対して目標板厚が設定され、板厚制御が行われている。
【0003】
しかしながら、圧延状況や材料温度の変化などによって、圧延機中に特定の圧延機に負荷が集中する場合がある。特定の圧延機に負荷が集中すると、圧延機の負荷を軽減するための調整による効率の低下や、負荷が許容値を超えることによる圧延の中止などのトラブルが発生することがあった。
【0004】
そこで、特許文献1には、各圧延機の圧延時負荷と各圧延機に対して設定された負荷上限との差がすべて等しくなるように、各圧延機の出側板厚に対して目標板厚を設定して、過負荷を抑制する技術が開示されている。また、特許文献2には、各圧延機の圧延時負荷を監視し、圧延時負荷が負荷上限値を超える場合には、圧延時負荷が負荷上限値以下になるように、一つ上流側の圧延機の目標板厚を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-77126号公報
【文献】特許第3481780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、目標板厚の変更量が大きすぎると、板面品質へ望ましくない影響を及ぼすため、目標板厚の変更量に制限を加えることが望まれる。しかしながら、本発明者は、特許文献1の技術を適用して設定された目標板厚に対して、単に変更量を制限するだけでは、適切な目標板厚が設定できず、かえって圧延機の負荷を増大させることがあるとの課題を見出した。また、本発明者は、特許文献2の技術には、最上流の圧延機における圧延時負荷が負荷上限値を超えた場合に、過負荷を抑制できないという課題を見出した。
【0007】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、目的とする製品板厚を達成しながら、板面品質への望ましくない影響を抑制しつつ圧延機の過負荷を抑制して、圧延の操業安定化を達成する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一局面は、複数の圧延機を有する連続圧延機において前記複数の圧延機の各々の出側板厚を制御する、連続圧延機による板厚制御方法であって、前記複数の圧延機ごとの圧延時負荷と負荷上限値との差である負荷余裕値が、前記複数の圧延機の間で互いに近づくように、前記複数の圧延機の各々の前記出側板厚の目標値である目標板厚に対して予め設定された変更制限の範囲内で前記目標板厚を調整して、前記複数の圧延機のうちの最下流の圧延機を除く他の圧延機の前記目標板厚を設定し、前記他の圧延機の各々において、調整された前記目標板厚が得られるように、当該圧延機のロール圧下位置を調整する。
【0009】
本開示の一局面によれば、設定された変更制限の範囲内で、各圧延機の負荷余裕値が近づくように目標板厚が設定される。その際、最下流の圧延機における圧延時負荷は、上流の圧延機における目標板厚を変更することにより調整されるため、最下流の圧延機のロール圧下位置は変更されない。つまり、目標とする製品板厚が達成される。したがって、特定の圧延機における圧延時負荷が増大した場合でも、目的とする製品板厚を達成しながら、板面品質への望ましくない影響を抑制しつつ圧延機の過負荷を抑制して、圧延の操業安定化を実現することができる。
【0010】
詳しくは、前記負荷余裕値が前記複数の圧延機の間で等しくなるように、前記複数の圧延機の各々における前記圧延時負荷の変更量の目標値である目標負荷変更量を設定し、前記他の圧延機の中からいずれかの前記圧延機を選択し、選択した前記圧延機の前記目標負荷変更量を実現するように、選択した前記圧延機または選択した前記圧延機の1つ上流の前記圧延機の前記目標板厚の変更量を算出し、算出した前記目標板厚の変更量が前記変更制限の範囲を超える場合に、前記目標板厚の変更量を前記変更制限の範囲内に収まるように補正し、前記目標板厚の変更量に基づいて、対応する前記圧延機の前記目標板厚を設定し、前記目標板厚の変更量を補正した場合に、前記選択した圧延機の前記目標負荷変更量のうちの前記目標板厚の変更量を補正したことによって生じる目標未到達分を算出し、算出した前記目標未到達分を、前記複数の圧延機のうちのまだ選択していない前記圧延機の前記目標負荷変更量に対して分配して、分配した前記目標未到達分を付加するように当該目標負荷変更量を補正し、前記他の圧延機のすべての前記目標板厚を設定するまで、前記圧延機の選択から前記目標負荷変動量を補正するまでの工程を繰り返す、ようにしてもよい。
【0011】
これにより、選択した圧延機について、算出した目標板厚の変更量が変更制限の範囲を超えた場合には、目標板厚の変更量が変更制限の範囲内に制限されるため、板面品質への望ましくない影響を抑制することができる。また、算出された目標板厚の変更量が制限されたことによって生じる目標負荷変更量の目標未到達分が、まだ選択されていない圧延機の目標負荷変更量に対して分配されるため、目標板厚の変更量を制限しつつ、各圧延機の負荷余裕値を互いに近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】連続圧延機の概略構成を示す図である。
図2】本実施形態に係るモータ負荷制御を実施する処理手順を示すフローチャートである。
図3】従来例において目標板厚の変更量を制限した場合における、4つの圧延機のそれぞれのモータパワー及び目標板厚の変更量を示すタイムチャートである。
図4】本実施形態に係る4つの圧延機のそれぞれのモータパワー及び目標板厚の変更量を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。
<1.構成>
まず、本実施形態に係る連続圧延機100の構成について、図1を参照して説明する。連続圧延機100は、4つの圧延機80(#1)~80(#4)と、板厚制御装置10(#1)~10(#4)と、板厚計35と、モータ負荷制御装置60と、を備える。4つの圧延機80(#1)~80(#4)は、最上流の#1から最下流の#4へ、#1,#2,#3,#4の順に配置されている。以下では、圧延機80(#1)~80(#4)を総称して、圧延機80とする。同様に、他の符号についても、(#1)~(#4)を外した符号を総称とする。連続圧延機100は、圧延材5が各圧延機80で順次圧延されることで、圧延機80(#4)の出側にて目的とする製品板厚を得るようになっている。
【0014】
各圧延機80は、圧延ロール30と、圧下装置20と、モータ40と、荷重計50と、を備える。各圧延ロール30は、圧延材5を挟んで圧延する。各圧下装置20は、圧延ロール30に対して圧下力を付与する装置である。圧下装置20の圧下スクリュが調整されることで、圧延ロール30のロール圧下位置、すなわち出側板厚が設定される。各モータ40は、圧延ロール30を駆動する。各荷重計50は、圧延荷重を計測する。
【0015】
各板厚制御装置10は、各圧延機80で設定された目標板厚が得られるように、ゲージメータ式や実測値などにより得られた出側板厚に基づいて、圧下装置20の圧下スクリュを調整して、圧延ロール30のロール圧下位置を調整する。板厚計35は、圧延機80(#4)の出側板厚すなわち製品板厚を計測する。連続圧延機100では、板厚計35で計測された製品板厚の実測値を用いて、出側板厚のフィードバック制御が行われる。
【0016】
モータ負荷制御装置60は、CPU、ROM、RAM、半導体メモリなどを備えるマイクロコンピュータを含み、各モータ40の負荷制御を実施する制御装置である。モータ負荷制御装置60は、半導体メモリなどの非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより、目標負荷変更量演算部61、目標変更量演算部62、及び目標板厚設定部63の機能を実現する。また、モータ負荷制御装置60は、プログラムに対応する方法を実行する。
【0017】
モータ負荷制御装置60は、モータ40の負荷制御として、モータ40の圧延時負荷が負荷上限値を超えないように、4つの圧延機80の間で圧延時負荷を分散させて、圧延機80(#1)~80(#3)の出側板厚の目標値である目標板厚を設定する。その際、モータ負荷制御装置60は、各圧延機80において、目標板厚の初期値または前回の負荷制御時点での目標板厚からの変更量が、予め設定されている変更制限の範囲内となるように目標板厚を設定する。
【0018】
つまり、モータ負荷制御装置60は、圧延機80ごとの負荷余裕値が圧延機80(#1)~80(#4)の間で互いに近づき、且つ、目標板厚の変更量が変更制限の範囲内に収まるように、圧延機80(#1)~80(#3)の目標板厚を設定する。負荷余裕値は、圧延機80の圧延時負荷と負荷上限値との差である。なお、圧延機80(#4)の目標板厚は、目的とする製品板厚として決まっているため、圧延機80(#4)の目標板厚は変更しない。
【0019】
<2.処理>
次に、モータ40の負荷制御を実施する処理手順について、図2のフローチャートを参照して説明する。本処理手順は、モータ負荷制御装置60により、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0020】
まず、S10では、各圧延機80の圧延時の負荷値として、各圧延機80の負荷評価値Pwi(i=1~K)を算出する。本実施形態では、圧延機80は4つあるので、K=4とする。具体的には、各圧延機80のモータパワー実績値や、一定期間のモータパワー実績値の二乗平均値、あるいは、今回の制御周期での制御開始時点までのモータパワー実績値に基づいて、将来の負荷値を予測したモータパワー予測値Pwestiを、負荷評価値Pwiとする。モータパワー予測値Pwestiは、次の式(1)により算出される。ここで、pwikは、制御開始時点以前のサンプリング周期(例えば10秒)ごとのモータパワー実績値である。pwifは、制御開始時点以降のモータパワー実績値であり、制御開始時点のモータパワー実績値が継続されるものと仮定して、同一の値が採用される。また、mは負荷値の評価に用いるサンプリング点の数(例えば30点)であり、jは制御開始時点以降のサンプリング点の数である。
【0021】
【数1】
【0022】
続いて、S20では、圧延機80の各々の負荷上限値Pwmaxiを設定する。具体的には、圧延機80の各々におけるモータ40の仕様上の制限により定められている負荷制限値Pwmaxmiと、圧延機80の各々における圧延荷重制限から決定される負荷制限値Pwmaxpiのうちの小さい方を、負荷上限値Pwmaxiとして設定する。
【0023】
続いて、S30では、圧延機80ごとの負荷上限値Pwmaxiと負荷評価値Pwiとの差である負荷余裕値が、すべての圧延機80の間で等しくなるように、各圧延機80の目標負荷変更量ΔPwiを算出する。目標負荷変更量ΔPwiは、負荷評価値Pwiからの圧延時負荷の変更量の目標値である。具体的には、式(2)を用いて、目標負荷変更量ΔPwiを算出する。S10で算出した負荷評価値Pwiが、ここで算出した目標負荷変更量ΔPwiの分だけ変更されると、モータ40の各々の負荷が適当に調整され、すべての圧延機80の負荷余裕値が等しくなる。
【0024】
【数2】
【0025】
続いて、S40では、変数nに1を設定する。
続いて、S50では、圧延機80(#1)について、目標負荷変更量ΔPw1を実現するための目標板厚の変更量である目標板厚変更量Δh1を算出する。ここで、モータ40の負荷評価値Pwiは、i番目の圧延機80の入側板厚Hiとi番目の圧延機80の出側板厚hiとの差に比例し、出側板厚hiに反比例すると近似できる。よって、負荷評価値Pwiは、式(3)で表すことができる。
【0026】
【数3】
【0027】
さらに、式(3)に基づいて、圧延機80(#1)の目標板厚変更量Δh1は、式(4)により表される。そして、式(4)に基づいて、目標板厚変更量Δh1は、式(5)により算出される。
【0028】
【数4】
【0029】
【数5】
【0030】
S50で算出した目標板厚変更量Δh1が大きすぎると、板面品質に望ましくない影響を及ぼす可能性がある。望ましくない影響とは、色調の変化やピックアップインクルージョンなどの異常の発生などである。よって、S60では、S50で算出した目標板厚変更量Δh1が、変更制限の範囲Δh1ll~Δh1ul内か否か判定する。変更制限の範囲Δh1ll~Δh1ulは、圧延機80(#1)の目標板厚に対して、経験的に予め設定されている範囲であり、板面品質に望ましくない影響を与えない範囲である。S50において、目標板厚変更量Δh1が変更制限の範囲Δh1ll~Δh1ul内である場合には、目標板厚変更量Δh1を制限することなく、S120へ進む。
【0031】
一方、S60において、目標板厚変更量Δh1が変更制限の範囲Δh1ll~Δh1ul外の場合には、S70へ進み、目標板厚変更量Δh1を変更制限の範囲Δh1ll~Δh1ul内に収まるように制限する。具体的には、S70において、式(6)に示すように、目標板厚変更量Δh1が変更制限の範囲の上限値Δh1ulよりも大きい場合は、目標板厚変更量Δh1を上限値Δh1ulに補正する。また、目標板厚変更量Δh1が変更制限の範囲の下限値Δh1llよりも小さい場合は、目標板厚変更量Δh1を下限値Δh1llに補正する。
【0032】
【数6】
【0033】
続いて、S80では、n=K-1か否か判定する。S80において、n=K-1である場合は、S120へ進み、n=K-1でない場合は、S90へ進む。ここでは、n=1であるため、S90へ進む。
【0034】
S90では、S70で制限した目標板厚変更量Δh1に対応した負荷変化量ΔPwcal1を式(7)から算出する。
【0035】
【数7】
【0036】
続いて、S100では、S40で算出した目標負荷変更量ΔPw1のうち、目標板厚変更量Δh1を制限したことによって生じる目標未到達分ΔPwrem1を算出する。目標未到達分ΔPwrem1は、式(8)に示すように、S40で算出した目標負荷変更量ΔPw1と、S90で算出した負荷変化量ΔPwcal1の差となる。
【0037】
【数8】
【0038】
続いて、S110では、目標未到達分ΔPwrem1を、今回の制御周期で目標板厚変更量を算出する対象としてまだ選択していない、つまり、圧延機80(#1)よりも下流の圧延機80(#2)~(#4)の目標負荷変更量ΔPwi(i=2~4)に対して分配する。具体的には、式(9)で示すように、目標負荷変更量ΔPwi(i=2~4)を、S30で算出した目標負荷変化量ΔPwi(i=2~4)に目標未到達分ΔPwrem1を3等分した値を付加した値に補正する。
【0039】
【数9】
【0040】
続いて、S120において、目標板厚を設定する。具体的には、目標板厚の初期値に、S50で算出した目標板厚変更量Δh1、または、S70で補正した目標板厚変更量Δh1を付加した値を目標板厚とする。今回の制御周期以前に負荷制御を実施している場合には、初期値の代わりに前回の負荷制御で設定した目標板厚を用いてもよい。
【0041】
続いて、S130において、n=n+1とする。
続いて、S140において、n=Kか否か判定する。S140において、n=Kの場合は本処理を終了し、n=Kでない場合はS50へ戻る。ここでは、n=2であるためS50へ戻る。
【0042】
そして、S50に戻ると、圧延機80(#1)の目標板厚変更量Δh1と同様にして、式(10)により圧延機80(#2)の目標板厚変更量Δh2を算出する。ただし、式(10)では、圧延機80(#1)について算出した目標板厚更量Δh1を用いて、圧延機80(#2)の入側板厚H2をH2+Δh1に補正する。また、S110で目標負荷変更量ΔPw2を補正している場合、補正した目標負荷変更量ΔPw2を用いる。
【0043】
【数10】
【0044】
続いて、S60及びS70では、目標板厚変更量Δh1と同様に、目標板厚変更量Δh2が、変更制限の範囲Δh2ll~Δh2ul内か否か判定する。そして、目標板厚変更量Δh2が変更制限の範囲Δh2ll~Δh2ul外である場合には、式(11)に示すように、目標板厚変更量Δh2を変更制限の範囲Δh2ll~Δh2ul内に収まるように補正する。変更制限の範囲Δh2ll~Δh2ulは、圧延機80(#2)の目標板厚に対して予め設定されている範囲である。
【0045】
【数11】
【0046】
続いて、S80では、n=2であるためS90へ進む。
続いて、S90では、負荷変化量ΔPwcal1と同様に、S70で制限した目標板厚変更量Δh2に対応した負荷変化量ΔPwcal2を式(12)から算出する。ただし、式(12)では、圧延機80(#2)の入側板厚H2をH2+Δh1に補正する。
【0047】
【数12】
【0048】
続いて、S100では、目標未到達分ΔPwrem1と同様に、目標板厚変更量Δh2を制限したことによって生じる目標未到達分ΔPwrem2を式(13)から算出する。
【0049】
【数13】
【0050】
続いて、S110では、目標未到達分ΔPwrem1の分配と同様に、目標未到達分ΔPwrem2を、今回の制御周期で目標板厚変更量を算出する対象としてまだ選択していない、圧延機80(#3)~80(#4)の目標負荷変更量ΔPwi(i=3~4)に対して分配する。具体的には、式(14)に示すように、目標負荷変更量ΔPwi(i=3~4)を、現在の目標負荷変化量ΔPwi(i=3~4)に目標未到達分ΔPwrem2を2等分した値を付加した値に補正する。現在の目標負荷変化量ΔPwi(i=3~4)は、S30で算出された値、または、目標未到達分ΔPwrem1の分配分が補正された値である。
【0051】
【数14】
【0052】
続いて、S120で目標板厚を設定し、S130でn=n+1とする。
続いて、S140では、n=3であるためS50へ戻る。
そして、S50に戻ると、圧延機80(#2)の目標板厚変更量Δh2と同様にして、式(15)により圧延機80(#3)の目標板厚変更量Δh3を算出する。ただし、式(15)では、圧延機80(#2)について算出した目標板厚更量Δh2を用いて、圧延機80(#3)の入側板厚H3をH3+Δh2に補正する。
【0053】
【数15】
【0054】
続いて、S60及びS70では、目標板厚変更量Δh1と同様に、目標板厚変更量Δh3が、変更制限の範囲Δh3ll~Δh3ulの範囲内か否か判定する。そして、目標板厚変更量Δh3が変更制限の範囲Δh3ll~Δh3ul外である場合には、式(16)に示すように、目標板厚変更量Δh3を変更制限の範囲Δh3ll~Δh3ul内に収まるように補正する。変更制限の範囲Δh3ll~Δh3ulは、圧延機80(#3)の目標板厚に対して予め設定されている範囲である。
【0055】
【数16】
【0056】
続いて、S80では、n=3であるためS120へ進む。圧延機80(#4)の目標板厚は、目的とする製品板厚として決まっているため、目標板厚変更量を算出する対象とはならない。よって、S90~S110の処理を行う必要はない。目標負荷変更量ΔPw4は、圧延機80(#3)の目標板厚と製品板厚とに応じた値となる。
【0057】
続いて、S120で目標板厚を設定し、S130でn=n+1とする。
続いて、S140では、n=4であるため本処理を終了する。
各板厚制御装置10は、各圧延機80の出側板厚に基づいて、設定された圧延機80(#1)~80(#3)の目標板厚、及び、製品板厚として決められている圧延機80(#4)の目標板厚を実現するように、各圧延ロール30の圧下位置を調整する。各圧延機80の出側板厚は、ゲージメータ式や実測値などにより得られる。
【0058】
なお、圧延機80ごとに、1回の処理あたりの目標板厚変更量に対して変更制限の範囲を設定するだけでなく、所定回数または所定期間の処理における目標板厚変更量の合計に対して変更制限の範囲を設定してもよい。つまり、圧延機80ごとに、1回の負荷制御あたりの目標板厚変更量と、所定回数または所定期間の負荷制御における目標板厚変更量の合計の両方を制限するようにしてもよい。
【0059】
<3.効果>
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)圧延機80(#1)~80(#3)の目標板厚変更量Δh1~Δh3に対して設定された変更制限の範囲内で、圧延機80(#1)~80(#4)の負荷余裕値が互いに近づくように、圧延機80(#1)~80(#3)の目標板厚が調整される。これにより、目的とする製品板厚を達成しながら、板面品質への望ましくない影響を抑制しつつ、圧延機80の各々の負荷を適切に分配することができる。ひいては、過負荷によるトラブル発生などを未然に防ぎ、圧延の操業安定化を実現することができる。
【0060】
(2)算出した目標板厚変更量Δh1~Δh3が、変更制限の範囲を超えた場合に、目標板厚変更量Δh1~Δh3を変更制限の範囲内に制限することで、板面品質への望ましくない影響を抑制することができる。また、目標板厚変更量Δh1~Δh3を制限した場合ことによって生じる目標負荷変化量ΔPw1~ΔPw3の目標未到達分ΔPwrem1~ΔPwrem3を、下流の圧延機80に分配することで、目標板厚変更量を制限しつつ、圧延機80の各々の負荷余裕値を互いに近づけることができる。
【0061】
<4.シミュレーション>
次に、4つの圧延機80を備えた連続圧延機100を用いたアルミニウム合金の熱間仕上げ板圧延モデルにおいて、表1に示された条件下でシミュレーションした結果を図3及び図4に示す。図3は、特許文献1に記載のように、圧延機80の各々の負荷余裕値が等しくなるように、圧延機80(#1)~80(#3)の目標板厚を設定した後、目標板厚変更量を制限した場合のシミュレーション結果である。また、図4は、本実施形態に係るシミュレーション結果である。なお、これらのシミュレーションでは、最下流の圧延機80(#4)にてモータパワーが負荷上限値をオーバーしている場合を想定しており、シミュレーション開始から30秒後にモータ負荷制御を実施するものとした。
【0062】
図3に示すように、圧延機80(#1)~80(#3)については、出側板厚が変更された目標板厚に向かって制御されることで、圧延機80(#1)~80(#3)の負荷余裕値が互いに近づくように変化している。しかしながら、目標板厚変更量を制限したことに伴う目標未到達分ΔPwremiを分配していないため、圧延機80(#4)については、最初から負荷上限値を超えているにもかかわらず、更に負荷が増加する方向に変化していることがわかる。
【0063】
一方、図4に示すように、本実施形態に係る方法によれば、圧延機80(#1)~80(#3)については、出側板厚が変更された目標板厚に向かって制御され、圧延機80(#4)については、出側板厚が目的とする製品板厚に向かって制御される。その結果、圧延機80(#1)~80(#3)での目標板厚変更により、すべての圧延機80のモータパワーが負荷上限値を下回っていることがわかる。
【0064】
【表1】
【0065】
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0066】
(a)上記実施形態では、圧延機80(#1)から圧延機80(#3)まで、上流から順次、目標板厚を設定しているが、目標板厚は、必ずしも上流から順次設定する必要はない。圧延機80(#1)~80(#3)のうちの任意の圧延機80から順次選択して、目標板厚を設定すればよい。
【0067】
例えば、下流側から順次目標板厚を設定していってもよい。式(4)では、目標負荷変更量ΔPw1を実現するように、目標板厚変更量Δh1を算出した。これに対して、下流側から順次目標板厚を設定する場合は、式(17)及び式(18)を用いて、目標負荷変更量ΔPw4を実現するように、圧延機80(#4)の入側板厚の変更量ΔH4を算出する。
【0068】
【数17】
【0069】
【数18】
【0070】
ここで、圧延機80(#4)の入側板厚は、一つ上流の圧延機80(#3)の出側板厚であるため、入側板厚の変更量ΔH4は、圧延機80(#3)の目標板厚変更量Δh3となる。よって、目標板厚変更量Δh3が制限範囲を超える場合には、目標板厚変更量Δh3、すなわち入側板厚の変更量ΔH4を制限する。そして、制限した入側板厚の変更量ΔH4に対応した負荷変化量ΔPwcal4を算出するとともに目標未到達分ΔPwrem4を算出し、上流の圧延機80の目標負荷変更量ΔPw1~ΔPw3に対して目標未到達分ΔPwrem4を分配する。同様にして、順次上流の目標板厚変更量Δh2,Δh1を算出すればよい。また、上流から下流あるいは下流から上流へ順番に目標板厚変更量Δhiを算出してなくても、任意の順番で目標板厚変更量Δhiを算出してもよい。任意の順番で目標板厚変更量Δhiを算出する場合は、上述したように、目標負荷変更量ΔPwiを実現するように、入側板厚の変更量ΔHi及び目標板厚変更量Δhiのいずれかを算出すればよい。これにより、任意の順番で目標板厚変更量Δhiを算出することができる。
【0071】
(b)上記実施形態は、圧延機80(#1)~(#4)の負荷余裕値を互いに近づけつつ、圧延機80(#1)~80(#3)の目標板厚変更量Δh1~Δh3がそれぞれの変更制限の範囲に収まるように、圧延機80(#1)~(#3)の目標板厚を設定する方法の一例であり、目標板厚の設定方法は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、目標板厚変更量Δh1~Δh3の変更制限を考慮せず、圧延機80(#1)~80(#4)の負荷余裕値が等しくなるように、最下流以外の圧延機80(#1)~80(#3)の目標板厚変更量Δh1~Δh3を算出する。そして、目標板厚変更量Δh1~Δh3のいずれかが変更制限の範囲を超えていた場合に、すべての目標板厚変更量の比率Δh1:Δh2:Δh3を維持したまま、目標板厚変更量Δh1~Δh3がそれぞれ変更制限の範囲に収まるように、すべての目標板厚変更量Δh1~Δh3を全体的に小さくしてもよい。このようにしても、圧延機80(#1)~(#4)の負荷余裕値を互いに近づけつつ、圧延機80(#1)~80(#3)の目標板厚変更量Δh1~Δh3をそれぞれの変更制限の範囲に収めることができる。
【0072】
(c)上記実施形態では、目標板厚変更量Δhiが変更制限の範囲外の場合に、目標板厚変更量Δhiを変更制限の範囲の上限値または下限値に補正しているが、これに限定されるものではない。変更制限の範囲内の値であれば、上限値及び下限値以外の値に目標板厚変更量Δhiを補正してもよい。
【0073】
(d)上記実施形態では、連続圧延機100は4つの圧延機80を備えていたが、圧延機80の数は4つに限定されるものではない。連続圧延機100は、2つ以上の圧延機80を備えていれば、圧延機80をいくつ備えていてもよい。
【0074】
(e)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0075】
(f)上述した連続圧延機における板厚制御方法の他、連続圧延機、モータ負荷制御装置を構成要素とするシステムなど、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0076】
5…圧延材、10…板厚制御装置、20…圧下装置、30…圧延ロール、40…モータ、60…モータ負荷制御装置、80…圧延機、100…連続圧延機。
図1
図2
図3
図4