(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】尿路結石症の治療または予防のための赤米糠
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20221202BHJP
A61P 13/04 20060101ALI20221202BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20221202BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20221202BHJP
【FI】
A23L33/10
A61P13/04
A61K36/899
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2018027157
(22)【出願日】2018-02-19
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591096303
【氏名又は名称】株式会社ブルボン
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】一 柳 孝 司
(72)【発明者】
【氏名】榎 康 明
(72)【発明者】
【氏名】笹 川 克 己
(72)【発明者】
【氏名】吉 田 康
【審査官】山本 英一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0128469(US,A1)
【文献】特開昭61-109730(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0013529(KR,A)
【文献】国際公開第2015/025294(WO,A1)
【文献】特開平10-248522(JP,A)
【文献】東北農業研究センターたより,2002年,No. 7,p. 2
【文献】臨牀と研究,1998年,Vol. 75, No. 5,pp. 1052-1058
【文献】日本作物学会紀事,2004年,Vol. 73, No. 2,pp.137-147,doi:10.1626/jcs.73.137
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿路結石症の治療または予防のための、赤米糠を含む
、食品組成物または医薬組成物。
【請求項2】
尿路結石症の予防のための、請求項1に記載の
食品組成物または医薬組成物。
【請求項3】
結石核形成阻害および/または尿細管上皮結石核形成防止のための、請求項1または2に記載の
食品組成物または医薬組成物。
【請求項4】
尿細管上皮結石核形成防止のための、請求項1~3のいずれか一項に記載の
食品組成物または医薬組成物。
【請求項5】
赤米糠が赤米糠水抽出物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の
食品組成物または医薬組成物。
【請求項6】
赤米糠を有効成分として含む、尿路結石症の治療または予防のための食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿路結石症の治療または予防のための、赤米糠に関する。
【背景技術】
【0002】
尿路結石症を治療するための方法としては、これまでに大量の水分摂取による自然排石促進方法や体外衝撃波結石破砕術などが知られているが、痛みや血尿を伴うことがある。
【0003】
尿路結石症を予防するための方法としては、これまでに大量の水分摂取、食生活改善、クエン酸製剤の服用、サイアザイド系利尿薬の服用、およびカテキンまたはガロタンニンを有する食品の摂取などが知られている。大量の水分摂取や食生活改善は心理的負担が大きく、長期の継続が困難である。また、クエン酸製剤は尿をアルカリ化するが、過度なアルカリ化(pH7.5以上)はリン酸カルシウムや尿酸ナトリウムの析出を促進し、また尿路感染症に罹患するリスクが増大する懸念がある。また、サイアザイド系利尿薬は低カリウム血症などの電解質異常を引き起こす可能性があり、カテキンなどを多く含む食品(お茶など)は結石の構成成分であるシュウ酸も多く含まれていることが多い。
【0004】
これまでに、尿中のシュウ酸排泄量を調整することによる尿路結石を防止する方法として1-[2-(2,4-ジクロルフェノキシ)フェニル]-5-メチル-1,2,3-トリアゾール-4-カルボン酸を有効成分とする尿路結石防止剤(例えば、特許文献1参照)や、L型アルドン酸、その塩又はそのラクトン体を有効成分とする、尿路結石症予防治療薬(例えば、特許文献2参照)が開示されているが、より効果的で長期間の摂取が容易である尿路結石症の治療や予防(または再発予防)のための新たな手法が希求されている。
【0005】
また、これまでに、米糠フィチンが腸管内でのカルシウム吸収抑制物質であることは知られているが(例えば、非特許文献1参照)、赤米糠が尿路結石症の治療または予防に用いられることについては何ら知見がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-17861号
【文献】WO2007/088704号
【非特許文献】
【0007】
【文献】日泌尿会誌、77巻、1号、5~11頁、1986年
【発明の概要】
【0008】
長期間継続して摂取することが容易である尿路結石症の治療または予防のための赤米糠を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、対象に赤米糠を摂取させることにより、尿路結石症を治療または予防できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)尿路結石症の治療または予防のための、赤米糠。
(2)尿路結石症の予防のための、(1)に記載の赤米糠。
(3)結石核形成阻害および/または尿細管上皮結石核形成防止のための、(1)または(2)に記載の赤米糠。
(4)尿細管上皮結石核形成防止のための、(1)~(3)のいずれかに記載の赤米糠。
(5)赤米糠が赤米糠水抽出物である、(1)~(4)のいずれかに記載の赤米糠。
(6)赤米糠を有効成分として含む、尿路結石症の治療または予防のための食品組成物。
(7)尿路結石症の予防のための、(6)に記載の食品組成物。
(8)結石核形成阻害または尿細管上皮結石核形成防止のための、(6)または(7)に記載の食品組成物。
(9)尿細管上皮結石核形成防止のための、(6)~(8)のいずれかに記載の食品組成物。
(10)赤米糠が赤米糠水抽出物である、(6)~(9)のいずれかに記載の食品組成物。
【0011】
本発明によれば、尿路結石症の治療または予防のための赤米糠が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、試験例1で用いた抗酸化作用を有する各食品によるシュウ酸カルシウム結石の形成割合を表す。
【
図2】
図2は、試験例2で用いた赤米(夕やけもち)糠、黒米(朝紫)糠、および白米(コシヒカリ)糠によるシュウ酸カルシウム結石の形成割合を表す。
【
図3】
図3は、試験例3で用いた赤米糠水抽出物、赤米糠メタノール抽出物、赤米糠酢酸エチル抽出物、および赤米糠ヘキサン抽出物によるシュウ酸カルシウム結石の形成割合を表す。
【
図4】
図4は、試験例4で用いた赤米(紅染めもち)糠および赤米(ベニロマン)糠によるシュウ酸カルシウム結石の形成割合を表す。
【発明の具体的説明】
【0013】
本発明によれば、尿路結石症の治療または予防のための赤米糠が提供される。
【0014】
本発明において、赤米とは、玄米の外層部の種皮層に赤色系の色素が蓄積した米またはそれを有するイネのことであり、色素の種類としては、タンニン系の赤色系色素をもつものである(日本作物学会紀事 73(2):137-147(2004)参照)。赤米糠とは、赤米を搗精することによって除かれる、果皮、種皮、胚芽などの部分を指す。赤米糠は、精米機等を使用して搗精することで得ることができ、通常玄米の10%程度が糠となる。本発明の赤米糠は、尿路結石症の治療または予防のために用いることができる赤米糠であればどのような赤米糠でもよいが、赤米の「夕やけもち」、「紅染めもち」、または「ベニロマン」の糠であることが好ましい。
【0015】
尿の通り道である、腎臓、尿管、膀胱、尿道をまとめて尿路と呼ぶが、尿路結石症とは、この尿路に石ができて詰まり、様々な症状を引き起こす疾患である。典型的な尿路結石症の症状は疝痛と血尿であるが、結石があっても尿路の閉塞がないあるいは弱い場合、痛みや血尿を伴わないこともある。尿路結石の結石成分の約90%がカルシウム結石であり、代表的な結石はシュウ酸カルシウム結石とされている。シュウ酸カルシウム結石の形成機序は、食生活の乱れや代謝異常などにより尿の成分バランスが崩れ、カルシウムとシュウ酸が尿中で過飽和状態となり、溶けきれずに結晶化することに起因する。結晶は主に腎実質のネフロンの下流にあたる尿細管に生じ、結晶が尿細管上皮細胞表面に付着し結石核となり、結石核を中心に結晶が凝集、成長することで最終的に結石が形成される。本発明の赤米糠は、好ましくは結石核形成阻害および/または尿細管上皮結石核形成防止することにより、より好ましくは尿細管上皮結石核形成防止することにより、尿路結石症の治療または予防(好ましくは、予防)することができる。ここで、予防とは、尿路結石症の疾患の病態またはその生物学的徴候の見込みまたは重篤度を実質的に減少させる、またはそのような病態またはその生物学的徴候の発症を遅延させること等をいい、再発の予防を含む。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、尿路結石症の予防のための赤米糠が提供され、本発明のより好ましい態様によれば、結石核形成阻害および/または尿細管上皮結石核形成防止のための赤米糠が提供され、本発明のさらに好ましい態様によれば、尿細管上皮結石核形成防止のための赤米糠が提供される。ここで、シュウ酸カルシウム結石の形成機序は、尿細管腔で形成された結石核が腎尿細管上皮細胞表面に付着することから始まるが、好ましくは、赤米糠により結石の核形成の阻害および/または結石核の尿細管上皮への付着が防止されることにより、尿路結石症の治療または予防を行うことができる。
【0017】
本発明の赤米糠は、そのまま用いても良いが、赤米糠水抽出物を用いることがより好ましい。赤米糠水抽出物は、例えば、赤米糠を10倍容の水に浸し、よく攪拌した後、冷暗所で一晩放置して抽出することができる。赤米糠水抽出物を用いることにより、結石形成割合をより低下させることができる。ここで、結石形成割合は例えば下記の実施例の記載に基づいて求めることができる。
【0018】
本発明の別の態様によれば、赤米糠を有効成分として含む、尿路結石症の治療または予防のための食品組成物が提供される。食品組成物としては、特に限定されるものではないが、例えば、サプリメント、飲料、または菓子などが挙げられる。
【0019】
本発明の別の好ましい態様によれば、赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)を有効成分として含む、尿路結石症の予防のための食品組成物が挙げられる。
【0020】
本発明の別のより好ましい態様によれば、赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)を有効成分として含む、結石核形成阻害および/または尿細管上皮結石核形成防止のための食品組成物が挙げられる。
【0021】
本発明の別のより好ましい態様によれば、赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)を有効成分として含む、尿細管上皮結石核形成防止のための食品組成物が挙げられる。
【0022】
本発明の別のより好ましい態様によれば、赤米糠水抽出物を有効成分として含む、尿細管上皮結石核形成防止のための食品組成物が挙げられる。
【0023】
本発明の別の態様によれば、赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)を有効成分として含む、尿路結石症の治療または予防のための(好ましくは、結石核形成阻害および/または尿細管上皮結石核形成防止のための)医薬品(医薬組成物)が提供される。医薬品(医薬組成物)とは、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従って、経口製剤または非経口製剤として調製したものである。医薬品が経口製剤の場合には、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤などの固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液などの液状製剤の形態をとることができる。なお、患者への摂取(投与)の簡易性の点からは、医薬品では、経口製剤であることが好ましい。ここで、製剤化のために許容されうる添加剤には、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0024】
本発明の別の態様によれば、赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)を、対象(好ましくは、必要とする対象)に摂取させることを含んでなる、尿路結石症の治療または予防方法が提供される。本発明の好ましい態様によれば、赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)を、対象に摂取させることを含んでなる、尿路結石症の治療または予防方法(ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。ここで、「ヒトに対する医療行為」とは、医師等の処方を必要として、ヒトに対して医薬品を摂取させる(投与する)行為などを意味する。対象には、ヒト以外の動物(馬、牛などの家畜、犬、猫などの愛玩動物、動物園などで飼育されている鑑賞動物など)も包含される。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)を、対象に摂取させることを含んでなる、尿路結石症の予防方法が提供される。
【0026】
本発明のより好ましい態様によれば、赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)を、対象に摂取させることを含んでなる、結石核形成阻害方法または尿細管上皮結石核形成防止方法が提供される。
【0027】
本発明のより好ましい態様によれば、赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)を、対象に摂取させることを含んでなる、尿細管上皮結石核形成防止方法が提供される。
【0028】
本発明の別の態様によれば、尿路結石症の治療または予防のための(好ましくは、結石核形成阻害および/または尿細管上皮結石核形成防止のための)食品組成物または医薬組成物の製造のための赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)の使用が提供される。
【0029】
本発明の別の態様によれば、尿路結石症の治療または予防のための(好ましくは、結石核形成阻害および/または尿細管上皮結石核形成防止のための)、赤米糠(好ましくは、赤米糠水抽出物)の使用が提供される。
【実施例】
【0030】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下の試験例1~4に用いた動物はいずれも血中のカルシウム濃度が高くない試験動物である。
【0031】
試験例1:抗酸化作用を有する食品の尿路結石症予防効果に関する検討
(1)試験動物(Wistar-ST、雄性、10週齢)を下記表1に記載の群に割り当てた。本実施例において、標準飼料はAIN-93Mの飼料を表す。標準飼料(AIN-93M)の組成は下記表2に記載の通りであり、赤米糠は「夕やけもち」(赤米)の糠を用いた。
【表1】
※摂餌方法:調整粉末飼料 20g/day ペアフィーディング、食品成分投与量:ポリフェノール 50mg/day相当量
※グリコール酸が「+」と記載されている群は、尿路結石誘発物質であるグリコール酸100mg/dayを混餌した。コントロール群は標準飼料のみで飼育し、ネガティブコントロール群、ボイセンベリー群、赤米(夕やけもち)糠群、カカオ群、およびブルーベリー群は標準飼料に尿路結石誘発物質であるグリコール酸100mg/dayを混餌し飼育した。
※「ボイセンベリー果汁を15.8%で標準飼料に混餌」とは、標準飼料20gに3.16gのボイセンベリー果汁が含まれていることを意味し、赤米糠、カカオ、およびブルーベリー果汁についても同様のことを意味する。
【0032】
標準飼料(AIN-93M)の組成は以下の通りである。AIN-93Mは、米国国立栄養研究所(American Institute of Nutrition)から1993年に発表されたマウス・ラット用の栄養研究のための標準精製飼料を表す。
【表2】
【0033】
【0034】
(3)シュウ酸カルシウム結石の形成割合の測定
腎臓中のシュウ酸カルシウム結石の形成割合を測定するために、解剖後、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で腎臓を固定して作成した組織切片へPizzolato染色を行った。結石形成部分を偏光顕微鏡により同定し、画像解析ソフト(ImageJ)でシュウ酸カルシウム結石の沈着面積および組織切片中の腎臓の断面積を定量化し、シュウ酸カルシウム結石の形成割合を算出した。すなわち、組織切片中の腎臓の断面積に対する、結石が形成した面積(Pizzolato染色で染色された面積)の割合を算出した(シュウ酸カルシウムの沈着面積/組織切片中の腎臓の断面積×100(%))(例えば、「泌尿紀要 57:55-58、2011年」参照)。このシュウ酸カルシウム結石の形成割合の結果を
図1に表す。また、赤米糠群では試験を行った5個体中の2個体のみで結石の形成が見られたが、残りの3個体では結石の形成が見られなかった。一方で、ネガティブコントロール群、ボイセンベリー群、カカオ群、およびブルーベリー群では試験を行った全ての個体で結石の形成が見られた。
【0035】
上記の結果から、ポリフェノールを含む食品であれば尿路結石形成割合を低下できる訳ではなかった。すなわち、ポリフェノールを含む食品であるボイセンベリー、カカオおよび、ブルーベリーでは尿路結石形成割合はネガティブコントロールに比べ同程度か低下しなかったが、赤米糠を用いることによって尿路結石形成割合を顕著に低下できることが分かった。
【0036】
試験例2:異なる米糠の尿路結石症予防効果に関する検討
(1)試験動物(Wistar-ST、雄性、10週齢)を下記表3に記載の群に割り当てた。
【表3】
※摂餌方法:調整粉末飼料 20g/day ペアフィーディング
※グリコール酸が「+」と記載されている群は、尿路結石誘発物質であるグリコール酸100mg/dayを混餌した。コントロール群は標準飼料のみで飼育し、ネガティブコントロール群、赤米(夕やけもち)糠群、黒米(朝紫)糠群、および白米(コシヒカリ)糠群は標準飼料に尿路結石誘発物質であるグリコール酸100mg/dayを混餌し飼育した。
※「赤米糠を10%で標準飼料に混餌」とは、標準飼料20gに2gの赤米糠が含まれていることを意味し、黒米糠および白米糠についても同様のことを意味する。
【0037】
【0038】
(3)シュウ酸カルシウム結石の形成割合の測定
腎臓中のシュウ酸カルシウム結石の形成割合を測定するために、解剖後、4%PFAで腎臓を固定して作成した組織切片へPizzolato染色を行った。結石形成部分を偏光顕微鏡により同定し、画像解析ソフト(ImageJ)でシュウ酸カルシウム結石の沈着面積および組織切片中の腎臓の断面積を定量化し、シュウ酸カルシウム結石の形成割合を算出した。すなわち、組織切片中の腎臓の断面積に対する、結石が形成した面積(Pizzolato染色で染色された面積)の割合を算出した(シュウ酸カルシウムの沈着面積/組織切片中の腎臓の断面積×100(%))(例えば、「泌尿紀要 57:55-58、2011年」参照)。このシュウ酸カルシウム結石の形成割合の結果を
図2に表す。また、赤米糠群および白米糠群では試験を行った5個体中の3個体のみで結石の形成が見られたが、残りの2個体では結石の形成が見られなかった。一方で、黒米糠群では試験を行った全ての個体で結石の形成が見られた。
【0039】
上記の結果から、米糠であれば尿路結石形成割合を低下できる訳ではなかった。すなわち、黒米糠および白米糠では尿路結石形成割合はほとんど低下しなかったが、赤米糠を用いることによって尿路結石形成割合を顕著に低下できることが分かった。
【0040】
試験例3:赤米糠抽出物の尿路結石症予防効果に関する検討
(1)試験動物(Wistar-ST、雄性、10週齢)を下記表4に記載の群に割り当てた。
【表4】
※摂餌方法:調整粉末飼料 20g/day ペアフィーディング、赤米糠各種抽出物1%は赤米糠約10%に相当する。
※グリコール酸が「+」と記載されている群は、尿路結石誘発物質であるグリコール酸100mg/dayを混餌した。コントロール群は標準飼料のみで飼育し、ネガティブコントロール群、赤米糠水抽出物群、赤米糠メタノール抽出物群、赤米糠酢酸エチル抽出物群、および赤米糠ヘキサン抽出物群は標準飼料に尿路結石誘発物質であるグリコール酸100mg/dayを混餌し飼育した。
※「抽出物を1%で標準飼料に混餌」とは、赤米(夕やけもち)糠を10倍容の水、メタノール、酢酸エチル、またはヘキサンに浸し、よく攪拌した後、冷暗所で一晩放置した上清を抽出物とし、その抽出物を標準飼料20gに0.2g含まれるように加えることを意味する。
【0041】
【0042】
(3)シュウ酸カルシウム結石の形成割合の測定
腎臓中のシュウ酸カルシウム結石の形成割合を測定するために、解剖後、4%PFAで腎臓を固定して作成した組織切片へPizzolato染色を行った。結石形成部分を偏光顕微鏡により同定し、画像解析ソフト(ImageJ)でシュウ酸カルシウム結石の沈着面積および組織切片中の腎臓の断面積を定量化し、シュウ酸カルシウム結石の形成割合を算出した。すなわち、組織切片中の腎臓の断面積に対する、結石が形成した面積(Pizzolato染色で染色された面積)の割合を算出した(シュウ酸カルシウムの沈着面積/組織切片中の腎臓の断面積×100(%))(例えば、「泌尿紀要 57:55-58、2011年」参照)。このシュウ酸カルシウム結石の形成割合の結果を
図3に表す。また、赤米糠水抽出物群では、試験を行った5個体中の3個体のみで結石の形成が見られたが、残りの2個体では結石の形成が見られなかった。一方で、赤米糠メタノール抽出物群、赤米糠酢酸エチル抽出物群、および赤米糠ヘキサン抽出物群では試験を行った全ての個体で結石の形成が見られた。
【0043】
上記の結果から、赤米糠の各種抽出物のうち、赤米糠水抽出物のみが結石形成割合を低下できることが分かった。すなわち、赤米糠水抽出物中に尿路結石症の治療または予防できる成分が含まれることが分かった。
【0044】
試験例4:「夕やけもち」とは異なる赤米糠の尿路結石症予防効果に関する検討
(1)試験動物(Wistar-ST、雄性、10週齢)を下記表5に記載の群に割り当てた。
【表5】
※摂餌方法:調整粉末飼料 20g/day ペアフィーディング
※グリコール酸が「+」と記載されている群は、尿路結石誘発物質であるグリコール酸100mg/dayを混餌した。コントロール群は標準飼料のみで飼育し、ネガティブコントロール群、赤米(紅染めもち)糠群、および赤米(ベニロマン)糠群は標準飼料に尿路結石誘発物質であるグリコール酸100mg/dayを混餌し飼育した。
※「赤米糠を10%で標準飼料に混餌」とは、標準飼料20gに2gの赤米糠が含まれていることを意味する。
【0045】
【0046】
(3)シュウ酸カルシウム結石の形成割合の測定
腎臓中のシュウ酸カルシウム結石の形成割合を測定するために、解剖後、4%PFAで腎臓を固定して作成した組織切片へPizzolato染色を行った。結石形成部分を偏光顕微鏡により同定し、画像解析ソフト(ImageJ)でシュウ酸カルシウム結石の沈着面積および組織切片中の腎臓の断面積を定量化し、シュウ酸カルシウム結石の形成割合を算出した。すなわち、組織切片中の腎臓の断面積に対する、結石が形成した面積(Pizzolato染色で染色された面積)の割合を算出した(シュウ酸カルシウムの沈着面積/組織切片中の腎臓の断面積×100(%))(例えば、「泌尿紀要 57:55-58、2011年」参照)。このシュウ酸カルシウム結石の形成割合の結果を
図4に表す。
【0047】
(4)尿pHの測定
表5に記載の試験群の全てについて試験食摂餌前(上記(2)試験スケジュールの0日目)および試験食摂餌後(14日目)の尿を回収し、pHを測定した。このpHの測定はpHメーター(HORIBA社製)を用いて測定した。
【0048】
上記(3)の結果から、赤米(夕やけもち)糠のみならず、赤米(紅染めもち)糠および赤米(ベニロマン)糠においても尿路結石形成割合を顕著に低下できることが分かった。すなわち、赤米の糠であれば、その品種によらず、尿路結石形成割合を顕著に低下できることが分かった。
また、ポジティブコントロール群として、クエン酸ナトリウムを混餌(クエン酸ナトリウムを2.5%で標準飼料に混餌、n数が「5」)し、上記の4群と同様に飼育した結果、赤米(紅染めもち)糠群および赤米(ベニロマン)糠群におけるシュウ酸カルシウム結石の形成割合はポジティブコントロール群と同程度であることが分かった。
一方で、上記(4)の結果から、赤米(紅染めもち)糠群および赤米(ベニロマン)糠群では、試験食摂餌前および後のいずれも尿pHが7付近で変化しないことが分かった。それに対し、ポジティブコントロール群では、試験食摂餌後の尿pHが9程度まで上昇した。このことから、赤米糠は尿pHへの影響が見られず、尿pHの過度なアルカリ化によるリン酸カルシウムや尿酸ナトリウムの析出促進などの副作用なしにシュウ酸カルシウム結石の形成割合を顕著に低下できることが分かった。