(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】PM堆積量推定装置及びPM堆積量推定方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/023 20060101AFI20221202BHJP
F01N 3/18 20060101ALI20221202BHJP
F01N 11/00 20060101ALI20221202BHJP
B01D 46/42 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
F01N3/023 K
F01N3/023 Z
F01N3/18 C
F01N11/00
B01D46/42 A
(21)【出願番号】P 2018134134
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】萩野谷 哲史
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-155920(JP,A)
【文献】特開平11-197427(JP,A)
【文献】特開2015-214895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/023
F01N 3/18
F01N 11/00
B01D 46/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンから排出される排気ガスが通過する排気管内に設けられて排気ガスに含まれる粒子状物質を補足するフィルタと、
前記排気管に設けられて、前記フィルタを下流側へ移動可能に保持する移動機構と、
排気ガスにより前記フィルタが下流側へ押圧された際の押圧力を検出可能な
感圧センサと、
該
感圧センサの検出結果と排気ガスの流量とに基づいて、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定する
とともに、予め設定されたPM堆積量マップの欠損判定基準データに基づいて、前記フィルタが欠損しているか否かを判定する制御部と、
を備えたことを特徴とするPM堆積量推定装置。
【請求項2】
前記
感圧センサは、前記フィルタの下流側に固定配置され、前記フィルタの外周縁部に沿う環状に形成され
ていることを特徴とする請求項1に記載のPM堆積量推定装置。
【請求項3】
車両のエンジンから排出される排気ガスが通過する排気管内に設けられて排気ガスに含まれる粒子状物質を補足するフィルタと、
前記排気管に設けられ、前記フィルタを所定の初期位置から該初期位置よりも下流側の後退位置まで移動可能に保持するとともに、前記フィルタを前記初期位置側へ付勢する付勢手段を有する移動機構と、
前記フィルタの前記初期位置からの移動量を検出可能な検出手段と、
該検出手段の検出結果と排気ガスの流量とに基づいて、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定する
とともに、予め設定されたPM堆積量マップの欠損判定基準データに基づいて、前記フィルタが欠損しているか否かを判定する制御部と、
を備えたことを特徴とするPM堆積量推定装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記感圧センサ又は前記検出
手段の検出結果と排気ガスの流量とに基づいて
前記PM堆積量マップを参照して、粒子状物質の堆積量を推定することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のPM堆積量推定装置。
【請求項5】
車両の加速度を検出可能な加速度検出手段を備え、
前記制御部は、前記加速度検出手段が検出した加速度が所定条件を満たす場合に、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のPM堆積量推定装置。
【請求項6】
車両の傾斜角度を検出可能な傾斜角度検出手段を備え、
前記制御部は、前記傾斜角度検出
手段が検出した傾斜角度が所定条件を満たす場合に、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のPM堆積量推定装置。
【請求項7】
車両のエンジンから排出される排気ガスが通過する排気管内に設けられて排気ガスに含まれる粒子状物質を補足するフィルタに堆積した粒子状物質の堆積量を推定するPM堆積量推定方法であって、
前記排気管を流れる排気ガスによって前記フィルタが押圧される押圧力又は排気ガスによって前記フィルタが下流側へ移動した量を検出する工程と、
検出された押圧力又は検出された移動量と、排気ガスの流量とに基づいて、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定する工程と、
検出された押圧力又は検出された移動量と排気ガスの流量とから、予め設定されたPM堆積量マップの欠損判定基準データに基づいて、前記フィルタが欠損しているか否かを判定する工程と、
を含むことを特徴とするPM堆積量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PM堆積量推定装置及びPM堆積量推定方法に関し、特に、車両のエンジンから排出される排気ガスに含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)を補足するフィルタに堆積した粒子状物質の堆積量を推定するPM堆積量推定装置及びPM堆積量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のエンジンから排出される排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉して取り除くフィルタとして、GPF(Gasoline Particulate Filter)やDPF(Diesel Particulate Filter)等が使用されている。
【0003】
フィルタに捕捉された粒子状物質の量が多くなって詰まりが生じると、排気の圧力損失が増大してエンジンの出力低下や燃費悪化が生じることから、かかる事態を回避するためにフィルタの詰まりを診断する装置が開発されている。さらに、フィルタが脱落や溶損等により欠損すると、粒子状物質を適切に除去できなくなることから、近年では、フィルタが欠損していなか車両が自己診断することが求められている。
【0004】
フィルタの詰まりや欠損の診断手段として、一般に、排気管路においてフィルタの上流側と下流側との差圧を用いるものが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、内燃機関の排気管内に設けられたフィルタと、このフィルタの上流側と下流側との差圧を検出する差圧センサと、差圧センサが検出した差圧に基づいてフィルタの詰まりや欠損の有無を判定する判定装置とを備えた内燃機関の排気浄化装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の排気浄化装置では、排気流量が一定の場合、フィルタの詰まりが大きいと差圧が大きくなることから、差圧の大きさと排気流量とに基づいてフィルタの粒子状物質の詰まり判定することができる。また、フィルタの欠損時には正常時よりも差圧が小さくなることから、欠損の有無を判定することができる。
【0008】
しかしながら、フィルタの欠損診断を行う場合、使用初期段階では粒子状物質の詰まりが少なく正常時の差圧が小さくなることから、正常時との比較によってフィルタの欠損判断を正確に行うことが困難になるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、排気管に設けられるフィルタの粒子状物質の詰まりを診断できるとともに、フィルタの欠損診断精度を向上できるPM堆積量推定装置及びPM堆積量推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、車両のエンジンから排出される排気ガスが通過する排気管内に設けられて排気ガスに含まれる粒子状物質を補足するフィルタと、前記排気管に設けられて、前記フィルタを下流側へ移動可能に保持する移動機構と、排気ガスにより前記フィルタが下流側へ押圧された際の押圧力を検出可能な感圧センサと、該感圧センサの検出結果と排気ガスの流量とに基づいて、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定するとともに、予め設定されたPM堆積量マップの欠損判定基準データに基づいて、前記フィルタが欠損しているか否かを判定する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、移動機構により保持されたフィルタが、排気管内を通る排気ガスによって下流側へ押圧された際に、感圧センサによってこの押圧力を検知することで、粒子状物質の堆積量を推定することができる。具体的には、排気ガスの流量が等しい場合、粒子状物質の堆積量が多いと抵抗が大きくなって押圧力が大きくなり、堆積量が少ないと抵抗が小さいことから押圧力が小さくなる。また、フィルタが欠損している場合には押圧力がほぼかからなくなる。これにより、フィルタの使用初期段階であるか否かに関わらず、フィルタの欠損診断の精度を高めることができる。
【0012】
また、本発明の一実施形態は、前記PM堆積量推定装置において、前記感圧センサは、前記フィルタの下流側に固定配置され、前記フィルタの外周縁部に沿う環状に形成されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、環状に形成された感圧センサの内部を排気ガスが通過することができるとともに、環状にすることで感圧センサとフィルタとの接触面積を広く確保して接触圧の計測精度を高めることができる。
【0014】
また、本発明の一実施形態は、車両のエンジンから排出される排気ガスが通過する排気管内に設けられて排気ガスに含まれる粒子状物質を補足するフィルタと、前記排気管に設けられ、前記フィルタを所定の初期位置から該初期位置よりも下流側の後退位置まで移動可能に保持するとともに、前記フィルタを前記初期位置側へ付勢する付勢手段を有する移動機構と、前記フィルタの前記初期位置からの移動量を検出可能な検出手段と、該検出手段の検出結果と排気ガスの流量とに基づいて、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定するとともに、予め設定されたPM堆積量マップの欠損判定基準データに基づいて、前記フィルタが欠損しているか否かを判定する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、移動機構により保持されたフィルタが、排気管内を通る排気ガスによって押圧されて初期位置よりも下流側へ移動した際に、検出手段によってこの移動量を検出することで、粒子状物質の堆積量を推定することができる。具体的には、排気ガスの流量が等しい場合、堆積量が多いと抵抗が大きくなって移動量が大きくなり、堆積量が少ないと抵抗が小さいことから移動量が小さくなる。また、フィルタが欠損した場合には移動量が検出されなくなる。これにより、フィルタの使用初期段階であるか否かに関わらず、フィルタの欠損診断の精度を高めることができる。
【0016】
また、本発明の一実施形態は、前記PM堆積量推定装置において、前記制御部は、前記感圧センサ又は前記検出手段の検出結果と排気ガスの流量とに基づいて予め設定されたPM堆積量マップを参照して、粒子状物質の堆積量を推定することを特徴とする。
前記制御部は、前記検出センサの検出結果と排気ガスの流量とに基づいて予め設定されたPM堆積量マップを参照して、粒子状物質の堆積量を推定することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、PM堆積量マップを参照して適正かつ迅速に粒子状物質の堆積量を推定することができる。
【0018】
また、本発明の一実施形態は、前記PM堆積量推定装置において、車両の加速度を検出可能な加速度検出手段を備え、前記制御部は、前記加速度検出手段が検出した加速度が所定条件を満たす場合に、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の一実施形態は、前記PM堆積量推定装置において、車両の傾斜角度を検出可能な傾斜角度検出手段を備え、前記制御部は、前記傾斜角度検出手段が検出した傾斜角度が所定条件を満たす場合に、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、フィルタには排気ガスによる押圧力の他に車両の加速や傾斜によって加速力や重力が作用するが、加速度検出手段や傾斜角度検出手段により、このような外力が発生する状況を検出して所定条件の範囲に絞ることで、排気ガスによるフィルタの押圧力や移動量の算出を容易にし、粒子状物質の堆積量の推定を簡素化することができる。
【0021】
また、本発明の一実施形態は、車両のエンジンから排出される排気ガスが通過する排気管内に設けられて排気ガスに含まれる粒子状物質を補足するフィルタに堆積した粒子状物質の堆積量を推定するPM堆積量推定方法であって、前記排気管を流れる排気ガスによって前記フィルタが押圧される押圧力又は排気ガスによって前記フィルタが下流側へ移動した量を検出する工程と、検出された押圧力又は検出された移動量と、排気ガスの流量とに基づいて、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量を推定する工程と、予め設定されたPM堆積量マップの欠損判定基準データに基づいて、前記フィルタが欠損しているか否かを判定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、排気管内を通る排気ガスによってフィルタが下流側へ押圧された際の押圧力又はフィルタの下流側への移動量を検出し、検出した押圧力又は移動量と、排気ガスの流量と用いて、粒子状物質の堆積量を推定することができる。具体的には、排気ガスの流量が等しい場合、堆積量が多いと押圧力が大きく又は移動量が大きくなり、堆積量が少ないと押圧力が小さく又は移動量が小さくなる。また、フィルタが欠損した場合には押圧力がほぼかからなくなる又は移動量が検出されなくなる。これにより、フィルタの使用初期段階であるか否かに関わらず、フィルタの欠損診断の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るPM堆積量推定装置及びPM堆積量推定方法によれば、排気管に設けられるフィルタの粒子状物質の詰まりを診断できるとともに、フィルタの欠損診断の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施の形態であるPM堆積量推定装置の構成図。
【
図3】フィルタの欠損診断処理を示すフローチャート。
【
図4】本発明の第2の実施形態であるPM堆積量推定装置の構成図。
【
図5】
図3に示すPM堆積量推定装置においてフィルタが下流側に移動した状態を示す断面図。
【
図6】フィルタの欠損診断処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態であるPM堆積量推定装置の構成図である。本発明に係るPM堆積量推定装置10は自動車等の車両の内燃機関の排気機構に適用される。
【0026】
PM堆積量推定装置10は、図示していない内燃機関の排気ポートから排出された排気ガスの流路を形成する排気管11と、排気管11内に設けられるフィルタ12と、フィルタ12を移動可能に保持する移動機構20と、フィルタ12の下流側に配設される感圧センサ(押圧力検出手段)14と、排気流量検出手段15と、車両状態検出手段16と、制御部18とを備える。制御部18は、感圧センサ14及び車両状態検出手段16による検出結果に基づき、フィルタ12のPM堆積量の推定を行う。なお、
図1では排気管11内を断面状態で示している。また、各図面においてフィルタ12にはドットを付している。
【0027】
フィルタ12は排気管11内に設けられ、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉して排気ガスから除去するものであり、図示例では、排気管11の内部形状に適合させて略円筒状に形成されている。フィルタ12は、例えば、ハニカム担体等に目封じを施し、フィルタ機能を追加したものであり、フィルタ12に堆積した粒子状物質の燃焼を促進するための触媒コートを施したものとすることができ、本実施の形態では、ウォールフロー型のGPFを用いている。なお、フィルタ12はこれに限られず、例えば、DPFなど粒子状物質を捕捉可能な公知のフィルタを適宜用いることができる。
【0028】
排気管11は、フィルタ12の配設位置において内径が拡径しており、この配設位置において、移動機構20を構成する外管31と内管32とを備えた二重管構造を有している。内管32は、外管31の内部に同軸状に形成されており、壁面に後述する移動機構20の支持部23が挿通される貫通孔32aが形成されている。
【0029】
移動機構20は排気管11に設けられ、フィルタ12を排気管11の所定範囲内において管軸方向に移動可能に保持する。具体的には、移動機構20は、排気管11の内部に嵌装されて排気管11の管軸方向へ摺動可能な可動管21を備え、この可動管21にフィルタ12が保持されている。
【0030】
可動管21は、フィルタ12の外周を囲繞・保持する筒状の保持部22と、保持部22の外壁面に取り付けられて排気管11の外管31及び内管32の間に嵌装された状態で保持部を移動可能に支持する支持部23とを有する。フィルタ12の外周と保持部22の内周面との間には、マット材28が充填されて隙間を密閉している。本実施の形態では、
図1及び
図2に示すように、保持部22の外壁面の対向位置に2つの支持部23が設けられている。
【0031】
支持部23は、保持部22の外周面から突出して内管32の貫通孔32aを貫通する突出部23aと、突出部23aの先端に形成された係合部23bとを有する。突出部23aは貫通孔32a内を管軸方向に移動可能な大きさに形成されている。係合部23bは、貫通孔32aよりも大径の板状部であって、内管32と外管31との間に管軸方向に摺動可能に嵌装されている。
【0032】
感圧センサ14は、排気管11内に固定されて可動管21に取り付けられたフィルタ12の押圧力(すなわち、接触圧力)を検出する。
図2に示すように、感圧センサ14は、フィルタ12の外周縁部に沿う環状に形成されている。本実施の形態では、可動管21が最も上流側に位置した状態で、感圧センサ14が、可動管21の下流端に近接配置される。なお、
図1に示すように、感圧センサ14は、押圧力がほぼかからない状態で可動管21と接触配置されていてもよい。なお、図示していないが、感圧センサ14は、感圧センサ14よりも剛性が高く、且つ排気管11内部に固定された環状の枠部材に取り付けられた構造であってもよい。
【0033】
可動管21は、排気管11に固定された感圧センサ14により下流側への移動が規制され、その結果、移動することなく、ほぼ同一位置に留まった状態となっている。すなわち、排気ガスによってフィルタ12が下流側に押圧されると、可動管21が下流側へ移動しようとするが、感圧センサ14に当接して移動が阻止される。この際、感圧センサ14が受ける押圧力をフィルタ12による押圧力として検出する。
【0034】
排気流量検出手段15は、排気管11を通る排気ガスの流量を検出するものであり、例えば、エンジンの吸入空気の流量(吸入空気量)を検出するエアフローメータとすることができる。なお、排気流量検出手段15は、エアフローメータに限られず、例えば、エンジンの回転数や燃焼噴射量等から排気流量を算出する構成であってもよい。
【0035】
車両状態検出手段16は、自車両の加速度及び/又は自車両の傾斜角度(ピッチ角やロール角)を検出する。車両状態検出手段16としては、例えば、加速度センサや角度センサ等を単独又は組み合わせて用いることができる。本実施の形態では、車両状態検出手段16により車両の加速度及び傾斜角度の両方を検出している。
【0036】
制御部18は、例えばCPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス等を有して構成される。制御部18は、感圧センサ14、排気流量検出手段15及び車両状態検出手段16と接続されており、これらからの検出信号に基づいてPM堆積量の推定を行う。
【0037】
制御部18の記憶部には、車両状態検出手段16の検出結果に基づいて、自車両の傾斜角度が水平状態であるか否かを判定するための角度閾値θth、及び、自車両がほぼ一定速度で走行する定常走行状態であるか否かを判定するための加速度閾値αthのそれぞれが予め設定されている。
【0038】
さらに、記憶部には、フィルタ12における粒子状物質の堆積量(すなわち、PM堆積量)と、排気管11の排気流量と、排気ガスによってフィルタ12が感圧センサ14を押圧する押圧力との対応関係を示すマップ(以下、PM堆積量マップという)が予め設定されている。制御部18は、感圧センサ14及び排気流量検出手段15が検出した押圧力及び排気流量に基づいて、PM堆積量マップを参照することによりPM堆積量の推定を行う。また、PM堆積量マップには、フィルタ12が欠損しているか否かを判定するため欠損判定基準データが含まれている。欠損判定基準データは、感圧センサ14による検出押圧力に関するデータであり、排気量が所定量以上かつ検出押圧力が所定値以上の場合にフィルタ12が欠損していない通常状態と判定し、排気量が所定量以上かつ検出押圧力が所定値未満の場合に欠損していると判定することができる。
【0039】
次に、
図3のフローチャートを参照して、PM堆積量推定装置10の制御部18によるフィルタ12のPM堆積量推定処理及びPM堆積量推定結果を用いたフィルタ12の欠損診断処理について説明する。なお、以下の診断処理は、車両走行時に行われる。
【0040】
まず、制御部18は、車両状態検出手段16からの検出信号に基づき、検出した車両の傾斜角度θが所定の角度閾値θthの範囲内となる水平走行状態であるか否かを判定する(ステップS11)。
【0041】
車両が水平走行である場合(ステップS11:Yes)、制御部18は車両状態検出手段16が検出した車両の加速度αが所定の加速度閾値αthの範囲内となり、一定速度で走行している定常走行状態であるか否かを判定する(ステップS12)。
【0042】
車両が定常走行である場合(ステップS12:Yes)、排気流量検出手段15による検出結果に基づいて排気流量を算出し(ステップS13)、さらに、感圧センサ14の検出結果に基づいてフィルタ12による押圧力を算出する(ステップS14)。
【0043】
制御部18は、算出された排気流量及び押圧力から、記憶されているPM堆積量マップ情報を参照して、フィルタ12のPM堆積量を推定する(ステップS15)。
【0044】
さらに、制御部18は、PM堆積量マップ情報の欠損判定基準データに基づいて、フィルタ12が欠損しているか否かを判定する(ステップS16)。欠損している場合(ステップS16:Yes)には欠損状態であることを図示していない表示装置に表示する(ステップS17)。表示装置は、例えば、ディスプレイ表示や点灯表示等の視覚的な表示装置、及び/又は、音声表示や警告音表示等、聴覚的な表示装置とすることができる。また、表示装置は、ステップS15で推定したPM堆積量を表示する構成とすることができる。なお、欠損していない場合(ステップS16:No)に、表示装置に正常状態であることを表示させてもよい。
【0045】
また、ステップS11で車両が水平走行ではない、すなわち、傾斜している場合(ステップS11:No)、または、ステップS12で車両が定常走行ではない、すなわち、車両が加速又は減速状態である場合(ステップS12:No)の少なくともいずれかの場合には、制御部18は、欠損診断処理を終了する。
【0046】
なお、上述の例では、PM堆積量推定装置10によるフィルタ12の欠損診断処理について説明したが、ステップS15でPM堆積量の推定を行った後、PM堆積量が制御部18に記憶された所定値よりも多いと判定した場合に、フィルタ12に捕集されている粒子状物質を燃焼除去する再生処理を行う構成としてもよい。
【0047】
また、上述の診断処理は、制御部18により所定の周期で自動的に実行されることが好ましい。
【0048】
本実施の形態のPM堆積量推定装置10では、排気ガスの流量と、フィルタ12が感圧センサ14を押圧する押圧力の大きさによって、粒子状物質の堆積量を適切に推定することができる。すなわち、排気ガスの流量が一定であれば、フィルタ12の粒子状物質の堆積量が少ない場合、排気ガスに対する抵抗が小さくなって感圧センサ14が検出するフィルタ12の押圧力が小さくなり、粒子状物質の堆積量が多い場合には、排気ガスに対する抵抗が大きくなってフィルタ12の押圧力が大きくなる。このような排気流量と、フィルタ12による押圧力と、この際のPM堆積量との対応関係を予めマップ情報として記憶させ、PM堆積量の推定処理時にマップ情報を参照させることで、迅速かつ適切にPM堆積量の推定を行うことができる。
【0049】
また、フィルタ12が脱落等により欠損している場合には、フィルタ12が使用初期段階であるか否かに関わらず、押圧力がほぼ零となり、フィルタ12が欠損していない状態と比べて極めて小さくなることから、検出したフィルタ12の押圧力に基づいて容易に欠損の有無を判定することができる。特に、フィルタの上流と下流との差圧を用いてフィルタの欠損診断を行う従来のものでは、PM堆積量が少ないフィルタの使用初期段階において、差圧が小さく、欠損診断精度が低くなるが、本実施の形態のPM堆積量推定装置10では、フィルタ12による押圧力を検出し、この検出結果に基づいて欠損診断を行うので、使用初期段階であるか否かに関わらず欠損診断の精度を高く維持することができる。
【0050】
また、車両の加減速時や車両傾斜時には、フィルタ12に加速力が作用したり、フィルタ12の移動可能方向に重力が作用したりすることにより、感圧センサ14による検出押圧力が定常走行時や水平走行時と比較して変化する。本実施の形態では、車両状態検出手段16によって車両状態を検出し、車両が水平走行且つ定常走行の場合にPM堆積量の推定を行うことで、フィルタ12に作用する加速力等を考慮することなく、PM堆積量の算出を迅速かつ簡易に行うことができる。
【0051】
なお、本実施の形態では、感圧センサ14により押圧力を検出しているが、これに限られず、フィルタ12による押圧力を検出可能な公知の押圧力検出手段を排気管11の適宜の位置に配設する構成とすることができる。
【0052】
(第2の実施の形態)
次に、
図4-
図6を用いて本発明の第2の実施の形態のPM堆積量推定装置10を説明する。なお、各図において、第1の実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0053】
本実施の形態のPM堆積量推定装置10では、移動機構20により、フィルタ12が排気管11の所定範囲内を移動可能に構成されており、フィルタ12が上流側に位置する初期位置から下流側へ移動した際の移動量を移動量検出手段17により検出している。PM堆積量推定装置10は、検出した移動量と排気ガスの流量とに基づいてPM堆積量を推定する。
【0054】
PM堆積量推定装置10は、排気ガスの流路を形成する排気管11と、排気管11内に設けられるフィルタ12と、フィルタ12を移動可能に保持する移動機構20と、フィルタ12の移動量を検出する移動量検出センサ(移動量検出手段)17と、排気流量検出手段15と、車両状態検出手段16と、制御部18とを備える。制御部18は、移動量検出センサ17及び車両状態検出手段16による検出結果に基づき、フィルタ12のPM堆積量の推定を行う。なお、
図5では、排気流量検出手段15、車両状態検出手段16及び制御部18の記載を省略している。
【0055】
移動機構20は、フィルタ12を排気管11の所定範囲内において管軸方向に移動可能に保持する可動管21と、可動管21を所定の初期位置へ付勢する付勢手段と25とを備える。
【0056】
可動管21は、フィルタ12の外周を囲繞・保持する筒状の保持部22と、保持部22の外壁面に取り付けられて排気管11の外管31及び内管32の間に嵌装された状態で保持部を移動可能に支持する支持部23とを有する。支持部23は、保持部22の外周面から突出して内管32の貫通孔32aを貫通する突出部23aと、突出部23aの先端に形成された係合部23bとを有する。
【0057】
付勢手段25としては、例えば、バネを用いることができ、バネの一端が内管32に固定され、他端が可動管21の支持部23に当接し、可動管21を上流側へ付勢している可動管21は、車両が水平地面に停車した状態で、付勢手段25により
図4に示す初期位置に付勢されており、外力を受けること(すなわち、排気ガスによってフィルタ12が下流側に押圧されること)により、付勢力に抗して、
図5に示す排気管11の下流側へ移動した後退位置まで移動可能に構成されている。
【0058】
移動量検出センサ17は、可動管21の初期位置からの移動量を検出するものであり、本実施の形態では、付勢手段25に作用する押圧力から間接的に移動量を検出している。なお、移動量検出センサ17はこれに限らず、例えば、外管31に設けられて、可動管21の移動量を直接的に検出可能なセンサであってもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0059】
可動管21は、フィルタ12の外周を囲繞・保持する筒状の保持部22と、保持部22の外壁面に取り付けられて排気管11の外管31及び内管32の間に嵌装された状態で保持部を移動可能に支持する支持部23とを有する。フィルタ12の外周と保持部22の内周面との間には、マット材28が充填されて隙間を密閉している。本実施の形態では、
図1及び
図2に示すように、保持部22の外壁面の対向位置に2つの支持部23が設けられている。
【0060】
移動量検出手段17は、例えば、移動量を直接的に検出するセンサや、付勢手段に作用した荷重に基づいて移動量を算出するものであってもよい。
【0061】
制御部18の記憶部には、フィルタ12における粒子状物質の堆積量(すなわち、PM堆積量)と、排気管11の排気流量と、排気ガスによって可動管21とともにフィルタ12が初期位置から下流側へ移動した際の移動量との対応関係を示すマップ(PM堆積量マップ)が予め設定されている。制御部18は、移動量検出センサ17及び排気流量検出手段15が検出した移動量及び排気流量に基づいて、PM堆積量マップを参照することによりPM堆積量の推定を行う。また、PM堆積量マップには、フィルタ12が欠損しているか否かを判定するため欠損判定基準データが含まれている。欠損判定基準データは、移動量検出センサ17による検出移動量に関するデータであり、例えば、排気量が所定量以上であって移動が検出されない場合にフィルタ12が欠損していると判定することができる。また、記憶部には、自車両の傾斜角度が水平状態であるか否かを判定するための角度閾値θth、及び、自車両がほぼ一定速度で走行する定常走行状態であるか否かを判定するための加速度閾値αthのそれぞれが予め設定されている。
【0062】
次に、
図6のフローチャートを参照して、制御部18によるフィルタ12のPM堆積量推定処理及びPM堆積量推定結果を用いたフィルタ12の欠損診断処理について説明する。なお、以下の診断処理は、車両走行時に行われる。
【0063】
まず、制御部18は、車両状態検出手段16からの検出信号に基づき、検出した車両の傾斜角度θが所定の角度閾値θthの範囲内となる水平走行状態であるか否かを判定する(ステップS21)。
【0064】
車両が水平走行である場合(ステップS21:Yes)、制御部18は車両状態検出手段16が検出した車両の加速度αが所定の加速度閾値αthの範囲内となり、一定速度で走行している定常走行状態であるか否かを判定する(ステップS22)。
【0065】
車両が定常走行である場合(ステップS22:Yes)、排気流量検出手段15による検出結果に基づいて排気流量を算出し(ステップS23)、さらに、移動量検出センサ17の検出結果に基づいてフィルタ12の初期位置からの移動量を算出する(ステップS24)。
【0066】
制御部18は、算出された排気流量及び移動量から、記憶されているPM堆積量マップ情報を参照して、フィルタ12のPM堆積量を推定する(ステップS25)。
【0067】
さらに、制御部18は、PM堆積量マップ情報の欠損判定基準データに基づいて、フィルタ12が欠損いるか否かを判定する(ステップS26)。欠損している場合(ステップS26:Yes)には欠損状態であることを図示していない表示装置に表示する(ステップS27)。なお、欠損していない場合(ステップS26:No)に、表示装置に正常状態であることを表示させてもよい。
【0068】
また、ステップS21で車両が水平走行ではない、すなわち、傾斜している場合(ステップS21:No)、または、ステップS22で車両が定常走行ではない、すなわち、車両が加速又は減速状態である場合(ステップS22:No)の少なくともいずれかの場合には、制御部18は、欠損診断処理を終了する。
【0069】
なお、上述の例では、PM堆積量推定装置10によるフィルタ12の欠損診断処理について説明したが、ステップS25でPM堆積量の推定を行った後、PM堆積量が制御部18に記憶された所定値よりも多いと判定した場合に、フィルタ12に捕集されている粒子状物質を燃焼除去する再生処理を行う構成としてもよい。上述の診断処理は、制御部18により所定の周期で自動的に実行されることが好ましい。
【0070】
本実施の形態のPM堆積量推定装置10では、排気ガスの流量と、排気ガスによって押圧されたフィルタ12の移動量とによって、粒子状物質の堆積量を適切に推定することができる。すなわち、排気ガスの流量が一定であれば、フィルタ12の粒子状物質の堆積量が少ない場合、排気ガスに対する抵抗が小さくなってフィルタ12の移動量が少なくなり、粒子状物質の堆積量が多い場合には、排気ガスに対する抵抗が大きくなってフィルタ12の移動量が多くなる。このような排気流量と、フィルタ12の移動量と、この際のPM堆積量との対応関係を予めマップ情報として記憶させ、PM堆積量の推定処理時にマップ情報を参照させることで、迅速かつ適切にPM堆積量の推定を行うことができる。
【0071】
また、フィルタ12が脱落等により欠損している場合には、フィルタ12が使用初期段階であるか否かに関わらず、排気流量が多くても移動が検出されない状態となることから、検出したフィルタ12の移動量に基づいて容易かつ高精度で欠損の有無を判定することができる。
【0072】
なお、本発明は上述した実施の形態や変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0073】
例えば、上述の実施の形態では、自車両の加速度及び傾斜角度が所定条件の範囲内にある場合に、PM堆積量の推定処理を実行しているが、これに代えて、検出した加速度及び傾斜角度に基づいて、制御部18がフィルタ12による押圧力や移動量の補正を行い、補正処理後の値と排気流量とに基づいてPM堆積量の推定を行ってもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 PM堆積量推定装置
11 排気管
12 フィルタ
14 感圧センサ
15 排気流量検出手段
16 車両状態検出手段
17 移動量検出センサ
18 制御部
20 移動機構
21 可動管
25 付勢手段