(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】血液面検出装置、体外循環装置、及び血液面検出方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20221202BHJP
G01F 23/292 20060101ALI20221202BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
A61M1/36 101
G01F23/292 Z
G01N21/27 A
G01N21/27 B
(21)【出願番号】P 2018153544
(22)【出願日】2018-08-17
【審査請求日】2021-05-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【氏名又は名称】新井 全
(72)【発明者】
【氏名】橋本 知明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 強
(72)【発明者】
【氏名】勝木 亮平
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0331282(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
G01F 23/292
G01N 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を体外循環させる体外循環装置に用いられる血液面検出装置であって、
前記血液を一時的に貯留する貯血槽に貯留された前記血液を撮像して第1画像情報を取得する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記第1画像情報に含まれる複数の画像領域の各々について前記血液の存在情報を取得する存在情報取得部と、
前記存在情報に基づいて前記血液の血液面の位置を検出する検出部と、を備え、
前記撮像部は、前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値以下となる第1帯域の波長の反射光を前記第1画像情報として取得し、
前記第1帯域は、780nm以上かつ810nm以下の範囲に含まれる帯域であり、
前記第1閾値は、前記第1帯域の範囲において前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化の最大値が最も大きい値であることを特徴とする血液面検出装置。
【請求項2】
前記撮像部は、前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上となる第2帯域の波長の反射光を第2画像情報として取得し、
前記第2帯域は、610nm以上かつ770nm以下の範囲に含まれる帯域であり、
前記第2閾値は、前記第2帯域の範囲において前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化の最大値が最も小さい値であり、
前記第1画像情報及び前記第2画像情報に基づいて前記撮像部が撮像した前記血液の酸素飽和度を算出する算出部を備えることを特徴とする請求項1に記載の血液面検出装置。
【請求項3】
前記
撮像部は、前記第1帯域の波長の前記反射光を通過させる第1バンドパスフィルタを介して前記第1画像情報を取得し、前記第2帯域の波長の前記反射光を通過させる第2バンドパスフィルタを介して前記第2画像情報を取得することを特徴とす
る請求項2に記載の血液面検出装置。
【請求項4】
前記
存在情報取得部は、前記第1画像情報に含まれる複数の画像領域の各々を明度情報に変換し、該明度情報を所定の閾値で二値化処理して前記存在情報を取得することを特徴とする請求項
1から請求項3のいずれか一項に記載の血液面検出装置。
【請求項5】
前記
検出部は、前記血液面に平行な第1方向および前記血液面に垂直な第2方向の少なくともいずれかに沿った前記存在情報の連続性に基づいて前記血液面の位置を検出することを特徴とする請求項
1から請求項4
のいずれか一項に記載の血液面検出装置。
【請求項6】
前記
検出部により検出された前記血液面の位置に関する情報を表示する表示部を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の血液面検出装置。
【請求項7】
前記
血液面の位置に関する情報を格納する記憶部を備え、
前記表示部は、前記記憶部に格納された前記血液面の位置に関する情報と前記検出部が検出した前記血液面の位置に関する情報との間の変化値が所定変化値よりも大きい場合には変化傾向を表示することを特徴とす
る請求項
6に記載の血液面検出装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の血液面検出装置と、
前記貯血槽と、
前記血液を循環させる循環回路と、
前記循環回路を流通する前記血液を送り出すポンプと、
前記血液面検出装置が検出する前記血液面の位置に基づいて前記ポンプを駆動するモータと、を備える体外循環装置。
【請求項9】
血液を体外循環させる体外循環装置に用いられる血液面検出装置の作動方法であって、
前記血液面検出装置が、前記血液を一時的に貯留する貯血槽に貯留された前記血液を撮像して第1画像情報を取得する撮像工程と、
前記血液面検出装置が、前記撮像工程により撮像された前記第1画像情報に含まれる複数の画像領域の各々について前記血液の存在情報を取得する存在情報取得工程と、
前記血液面検出装置が、前記存在情報に基づいて前記血液の血液面の位置を検出する検出工程と、を備え、
前記撮像工程は、前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値以下となる第1帯域の波長の反射光を前記第1画像情報として取得し、
前記第1帯域は、780nm以上かつ810nm以下の範囲に含まれる帯域であり、
前記第1閾値は、前記第1帯域の範囲において前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化の最大値が最も大きい値であることを特徴とす
る血液面検出
装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液面検出装置、体外循環装置、及び血液面検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば患者の心臓外科手術が行われる場合には、体外循環装置が使用される。体外循環装置では、ポンプが作動して患者よりチューブを介して脱血し、人工肺により血液中のガス交換や体温調整が行われた後に、患者にチューブを介して血液を再び戻す体外血液循環や補助循環等が行われる。このような体外血液循環等において、患者より脱血された血液や、手術中に出血した血液は、人工肺に導かれる前に貯血槽において一時的に貯留され管理される。これにより、術中の患者の血液が安全に管理される。
【0003】
貯血槽に貯留される血液の量は、患者の状態に影響を及ぼす。そのため、貯血槽に貯留される血液の量(血液面の位置)を安全かつ確実に管理することが求められる。液面の検知方法としては、2つの電極間に生ずる静電容量の変化に基づいて液面を検知する静電容量方式の検知方法や、超音波が発信されてから液体に反射して戻ってくるまでの時間に基づいて液面を検知する超音波方式の検知方法などが提案されている。
【0004】
しかし、静電容量方式および超音波方式の液面検知方法では、液面が所定の液面位置よりも低いか否かを検知することができる一方で、液面の連続的な変化を検知することができない場合がある。また、貯血槽などの液体を貯留する容器の形状や周囲環境により、液面が所定の液面位置よりも低いことを検知することができない場合がある。
【0005】
特許文献1には、試料液の画像を撮像する撮像手段を備えた液面検知装置が開示されている。特許文献1に記載された液面検知装置では、光源から発光された光が、試料液を含む容器を透過する。試料液を含む容器を透過した光は、撮像手段で電気信号に変換される。電気信号に変換された光の強度は、閾値によって2値化される。特許文献1に記載された液面検知装置は、2値化されたデータに基づいて液面の存在する位置を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、血液は、赤血球中のヘモグロビンに含まれる酸素と結合したヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)の割合(以下、酸素飽和度という。)により色が変化する。そのため、撮像手段が撮像して得られる画像や、その画像を2値化した結果が酸素飽和度により変化し、血液面の位置を確実に検出することができないおそれがある。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、貯血槽に貯留された血液の酸素飽和度が変化しても血液面の位置を確実に検出することが可能な血液面検出装置、体外循環装置、及び血液面検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明によれば、血液を体外循環させる体外循環装置に用いられる血液面検出装置であって、前記血液を一時的に貯留する貯血槽に貯留された前記血液を撮像して第1画像情報を取得する撮像部と、前記撮像部により撮像された前記第1画像情報に含まれる複数の画像領域の各々について前記血液の存在情報を取得する存在情報取得部と、前記存在情報に基づいて前記血液の血液面の位置を検出する検出部と、を備え、前記撮像部は、前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値以下となる第1帯域の波長の反射光を前記第1画像情報として取得し、前記第1帯域は、780nm以上かつ810nm以下の範囲に含まれる帯域であり、前記第1閾値は、前記第1帯域の範囲において前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化の最大値が最も大きい値であることを特徴とする血液面検出装置により解決される。
【0010】
本構成にかかる血液面検出装置によれば、撮像部が、血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値以下となる第1帯域の波長の反射光を第1画像情報として取得する。そのため、撮像部が取得する第1画像情報には、血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値よりも大きくなる帯域の波長の反射光が含まれない。よって、貯血槽に貯留された血液の酸素飽和度が変化しても撮像部が取得する第1画像情報の変化が抑制され、血液面の位置を確実に検出することが可能となる。
また、本構成の血液面検出装置によれば、撮像部が780nm以上かつ810nm以下の範囲に含まれる第1帯域の反射光を第1画像情報として取得すると、酸素飽和度による反射光の相対反射率の変化が第1閾値以下となる。相対反射率の変化が、貯血槽に貯留された血液の酸素飽和度が変化しても撮像部が取得する第1画像情報の変化が抑制され、血液面の位置を確実に検出することが可能となる。
【0011】
前記構成の血液面検出装置において、好ましくは、前記撮像部は、前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上となる第2帯域の波長の反射光を第2画像情報として取得し、前記第2帯域は、610nm以上かつ770nm以下の範囲に含まれる帯域であり、前記第2閾値は、前記第2帯域の範囲において前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化の最大値が最も小さい値であり、前記第1画像情報及び前記第2画像情報に基づいて前記撮像部が撮像した前記血液の酸素飽和度を算出する算出部を備えることを特徴とする。
本構成の血液面検出装置によれば、血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値以下の第1帯域と、血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値よりも大きい第2閾値以上の第2帯域の双方の波長の反射光を画像情報として取得することで、血液の酸素飽和度を算出することができる。
また、本構成の血液面検出装置によれば、撮像部が610nm以上かつ770nm以下の範囲に含まれる第2帯域の反射光を第2画像情報として取得すると、酸素飽和度による反射光の相対反射率の変化が第2閾値以上となる。貯血槽に貯留された血液の酸素飽和度が変化するとそれに応じて相対反射率と撮像部が取得する第2画像情報が変化するため、血液の酸素飽和度を算出することができる。
【0014】
前記構成の血液面検出装置において、好ましくは、前記撮像部は、前記第1帯域の波長の前記反射光を通過させる第1バンドパスフィルタを介して前記第1画像情報を取得し、前記第2帯域の波長の前記反射光を通過させる第2バンドパスフィルタを介して前記第2画像情報を取得することを特徴とする。
本構成の血液面検出装置によれば、撮像部は、第1バンドパスフィルタを介して第1画像情報を取得し、第2バンドパスフィルタを介して第2画像情報を取得することができる。
【0015】
前記構成の血液面検出装置において、好ましくは、前記存在情報取得部は、前記第1画像情報に含まれる複数の画像領域の各々を明度情報に変換し、該明度情報を所定の閾値で二値化処理して前記存在情報を取得することを特徴とする。
本構成の血液面検出装置によれば、第1画像情報の複数の画像領域の各々を明度情報に変換することで、各画像領域からの反射光を明度情報に変換することができる。さらに、明度情報を二値化処理することで、明度情報から血液の存在情報を取得することができる。
【0016】
前記構成の血液面検出装置において、好ましくは、前記検出部は、前記血液面に平行な第1方向および前記血液面に垂直な第2方向の少なくともいずれかに沿った前記存在情報の連続性に基づいて前記血液面の位置を検出することを特徴とする。
本構成にかかる血液面検出装置によれば、検出部は、貯血槽に貯留された血液の血液面に平行な第1方向および血液面に垂直な第2方向の少なくともいずれかに沿った存在情報の連続性に基づいて血液面の位置を検出する。検出部は、存在情報の連続性に基づいて血液面の位置を検出するため、貯血槽の内壁に付着した血液により発生する連続性の無いノイズを除去することができる。
【0017】
また、一般的に、貯血槽の内部には、貯血槽の内部に流入する血液の中の気泡や異物などを除去するフィルタ部材が設けられている。フィルタ部材の目は比較的細かいため、貯血槽の内部に流入する血液の量によっては、フィルタ部材を通過する血液の量が貯血槽に流入する血液の量よりも少なくなることがある。そうすると、フィルタ部材の内部の血液面が、貯血槽の内部の血液面(本来検知したい血液面)よりも高くなることがある。そのため、フィルタ部材に起因したノイズが発生することがある。これに対して、前記構成にかかる血液面検出装置よれば、フィルタ部材の内部において上昇する血液面のノイズ(フィルタ部材に起因したノイズ)を除去することができる。
【0018】
前記構成の血液面検出装置において、好ましくは、前記検出部により検出された前記血液面の位置に関する情報を表示する表示部を備える。
本構成の血液面検出装置によれば、医療従事者は、表示部を確認することにより貯血槽内の血液面の位置を容易に認識することができる。
【0019】
前記構成の血液面検出装置において、好ましくは、前記血液面の位置に関する情報を格納する記憶部を備え、前記表示部は、前記記憶部に格納された前記血液面の位置に関する情報と前記検出部が検出した前記血液面の位置に関する情報との間の変化値が所定変化値よりも大きい場合には変化傾向を表示することを特徴とする。
本構成の血液面検出装置によれば、貯血槽内の血液面の位置が例えば警告位置などの所定位置よりも低下する前あるいは所定位置に近づく前に、血液面の変化値が所定変化値よりも大きいことを医療従事者に知らせることができる。
【0020】
前記課題は、本発明によれば、上記のいずれかの血液面検出装置と、前記貯血槽と、前記血液を循環させる循環回路と、前記循環回路を流通する前記血液を送り出すポンプと、
前記血液面検出装置が検出する前記血液面の位置に基づいて前記ポンプを駆動するモータと、を備える体外循環装置により解決される。
本構成の体外循環装置によれば、貯血槽に貯留された血液の酸素飽和度が変化しても血液面の位置を確実に検出することが可能となる。
【0021】
前記課題は、本発明によれば、血液を体外循環させる体外循環装置に用いられる血液面検出装置の作動方法であって、前記血液面検出装置が、前記血液を一時的に貯留する貯血槽に貯留された前記血液を撮像して第1画像情報を取得する撮像工程と、前記血液面検出装置が、前記撮像工程により撮像された前記第1画像情報に含まれる複数の画像領域の各々について前記血液の存在情報を取得する存在情報取得工程と、前記血液面検出装置が、前記存在情報に基づいて前記血液面の位置を検出する検出工程と、を備え、前記撮像工程は、前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値以下となる第1帯域の波長を通過させる第1バンドパスフィルタを介して前記第1画像情報を取得し、前記第1帯域は、780nm以上かつ810nm以下の範囲に含まれる帯域であり、前記第1閾値は、前記第1帯域の範囲において前記血液の酸素飽和度による相対反射率の変化の最大値が最も大きい値であることを特徴とする血液面検出装置の作動方法により解決される。
本構成の血液面検出装置の作動方法によれば、貯血槽に貯留された血液の酸素飽和度が変化しても血液面の位置を確実に検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、貯血槽に貯留された血液の酸素飽和度が変化しても血液面の位置を確実に検出することが可能な血液面検出装置、体外循環装置、及び血液面検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る体外循環装置を表す系統図である。
【
図4】反射光の波長と相対反射率の関係を示すグラフである。
【
図5】血液面の位置を検出する処理を示すフローチャートである。
【
図6】酸素飽和度を算出する処理を示すフローチャートである。
【
図7】明度情報に変換された第1画像情報の一例を示す写真である。
【
図8】
図7に示す明度情報を二値化処理して得られた二値画像の一例を示す図である。
【
図9】
図8に示す二値画像の領域A11の部分拡大図であり、(a)は血液の存在情報の連続性を判断する処理を示し、(b)は血液の存在の有無を判断した結果を示し、(c)は第2方向の位置が高い画素を抽出した結果を示す。
【
図10】本実施形態の変化傾向報知制御を説明するフローチャートである。
【
図11】本実施形態の液面維持制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る体外循環装置2を表す系統図である。
図1に示す体外循環装置2は、「体外循環動作」を行うことができる。「体外循環動作」とは、例えば心臓外科手術によって一時的に心臓における血液循環が停止されるような場合に、血液の循環動作と、血液に対するガス交換動作(酸素付加および/または二酸化炭素除去)と、が体外循環装置2により行われることをいう。
【0026】
図1に示す体外循環装置2は、例えば患者の心臓外科手術を行う場合において、体外循環装置2は図示しない患者から脱血チューブ(脱血ラインともいう)11を介して脱血し、ポンプ4を作動させて貯血槽3に貯留されていた血液を人工肺6へ送り、人工肺6により血液中のガス交換を行って血液の酸素化を行った後に、酸素化が行われた血液を再び患者に戻す人工肺体外血液循環を行うことができる。体外循環装置2は、心臓と肺の代行を行う装置である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係る体外循環装置2は、貯血槽3と、ポンプ4と、モータ5と、人工肺6と、制御部7と、表示部8と、撮像部9と、循環回路10と、を備える。本実施形態では、制御部7及び撮像部9が、貯血槽3に貯留される血液21の血液面22の位置を検出する血液面検出装置となる。
【0028】
循環回路10は、図示しない患者から脱血するための器具(脱血カニューレ等)と、脱血チューブ11と、第1接続チューブ12と、第2接続チューブ13と、送血チューブ(送血ラインともいう)14と、図示しない患者に送血するための器具(送血カニューレ等)と、第3接続チューブ15と、を有し、血液を体外循環させる回路として設けられている。
【0029】
脱血カニューレの先端は、患者の上大静脈および下大静脈等に挿入され留置される。脱血カニューレは、脱血チューブ11を介して貯血槽3に接続されている。
図1に表した矢印A1のように、脱血チューブ11は、脱血カニューレを介して患者から脱血された血液を貯血槽3に導く管路である。第1接続チューブ12は、貯血槽3とポンプ4とに接続されている。すなわち、第1接続チューブ12の一方の端部は、貯血槽3に接続されている。第1接続チューブ12の他方の端部は、ポンプ4に接続されている。第1接続チューブ12は、貯血槽3に貯留された血液をポンプ4に導く管路である。
【0030】
第2接続チューブ13は、ポンプ4と人工肺6とに接続されている。すなわち、第2接続チューブ13の一方の端部は、ポンプ4に接続されている。第2接続チューブ13の他方の端部は、人工肺6に接続されている。第2接続チューブ13は、ポンプ4から送り出された血液を人工肺6に導く管路である。
【0031】
図1に表した矢印A2のように、送血チューブ14は、人工肺6に通された血液を送血カニューレに導く管路である。送血カニューレは、大動脈等より挿入され、送血チューブ14を介して人工肺6に接続されている。送血カニューレは、人工肺6に通された血液を患者に戻す。
図1に表した矢印A3のように、第3接続チューブ15は、手術中に出血した血液を貯血槽3に導く管路である。
【0032】
脱血チューブ11、第1接続チューブ12、第2接続チューブ13、送血チューブ14、および第3接続チューブ15としては、例えば塩化ビニル樹脂やシリコーンゴム等の透明性の高い、弾性変形可能な可撓性を有する合成樹脂製の管路が使用される。
【0033】
貯血槽3は、貯留空間(貯留室)を内部に有する容器であり、脱血カニューレおよび脱血チューブ11を介して患者から脱血された血液や、手術中に出血した血液であって第3接続チューブ15を通して導かれた血液21を一時的に貯留する。貯血槽3が血液21を一時的に貯留することにより、患者から脱血された血液が安全に管理される。
【0034】
貯血槽3の材料としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル-スチレン共重合体、アクリル-ブタジエン-スチレン共重合体等などが挙げられる。
【0035】
ポンプ4は、貯血槽3と人工肺6との間における循環回路10に設けられ、モータ5から伝達された駆動力により動作する。言い換えれば、モータ5は、ポンプ4を駆動するための駆動手段として設けられている。モータ5は、制御部7から送信された信号に基づいて回転し、ポンプ4を駆動する。ポンプ4は、モータ5から伝達された駆動力により動作し、循環回路10の内部の血液を送り出す。具体的には、ポンプ4は、貯血槽3に一時的に貯留された血液21を人工肺6に通した後に、送血チューブ14を介して患者に戻すことができる。ポンプ4としては、例えば遠心ポンプやローラーポンプなどが使用される。
【0036】
人工肺6は、
図1に表した例ではポンプ4よりも下流側の循環回路10に設けられ、血液に対するガス交換動作(酸素付加および/または二酸化炭素除去)を行う。なお、人工肺6の設置位置は、
図1に例示した位置には限定されない。人工肺6は、例えば膜型人工肺であるが、特に好ましくは中空糸膜型人工肺である。人工肺6には、図示しない酸素ガス供給部から酸素ガスが供給される。
【0037】
制御部7は、モータ5に対して制御信号を送信し、モータ5の動作を制御する。また、制御部7は、表示部8に情報信号を送信し、貯血槽3に貯留された血液21の液面(血液面)22に関する情報を表示部8に表示させる。なお、表示部8の設置位置は、特には限定されない。例えば、表示部8は、制御部7と一体的に設けられていてもよい。この場合、制御部7は、制御部7が有する表示部8に血液面22に関する情報を表示させる。また、制御部7は、撮像部9から送信された信号(血液21の存在情報)に基づいて血液面22の位置を検出する。この詳細については、
図3等を参照して後述する。さらに、制御部7は、記憶部71を有し、血液面22の位置に関する情報を記憶部71に格納することができる。
【0038】
表示部8は、制御部7から送信された情報信号に基づいて、貯血槽3に貯留された血液21の血液面22の位置に関する情報を表示する。表示部8としては、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(electro-luminescence)ディスプレイなどが使用される。
【0039】
撮像部9は、貯血槽3の外部に設けられ、貯血槽3に貯留された血液21の血液面22を撮像して画像情報を取得して制御部7へ送信する。
図2の概略構成図に示すように、撮像部9は、貯血槽3からの反射光が入射するレンズ9aと、第1バンドパスフィルタ9bと、第2バンドパスフィルタ9cと、撮像素子9dを備える。レンズ9aと、第1バンドパスフィルタ9bと、撮像素子9dは、光軸X上に配置されている。第1バンドパスフィルタ9bは、第2バンドパスフィルタ9cと交換可能となっている。第1バンドパスフィルタ9bを第2バンドパスフィルタ9cと交換すると、レンズ9aと、第2バンドパスフィルタ9cと、撮像素子9dが、光軸X上に配置される。
【0040】
発明者らは、血液21が貯留された貯血槽3からの反射光の相対反射率を計測してスペクトル解析を行い、
図4に示すグラフを得た。
図4は、反射光の波長と相対反射率の関係を示すグラフである。
図4において、実線は血液21の酸素飽和度が100%の場合の反射光の波長と相対反射率の関係を示し、破線は血液21の酸素飽和度が65%の場合の反射光の波長と相対反射率の関係を示し、一点鎖線は血液21の酸素飽和度が50%の場合の反射光の波長と相対反射率の関係を示す。酸素飽和度は、赤血球中のヘモグロビンに含まれる酸素と結合したヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)の割合をいう。
【0041】
図4に示すように、反射光の波長[nm]が780nm以上かつ810nm以下の範囲においては、波長が780nmである場合に酸素飽和度による相対反射率の変化の最大値(
図4では酸素飽和度100%と酸素飽和度50%との差異)が最も大きくなる。反射光の波長[nm]が780nm以上かつ810nm以下の範囲において、酸素飽和度100%の血液の相対反射率から酸素飽和度50%の血液の相対反射率を減算した値は、
図4に示す第1閾値Th1以下となる。
図4に示すように、第1閾値Th1は、約9%である。
【0042】
また、
図4に示すように、反射光の波長[nm]が610nm以上かつ770nm以下の範囲においては、波長が610nmである場合に酸素飽和度による相対反射率の変化の最大値(
図4では酸素飽和度100%と酸素飽和度50%との差異)が最も小さくなる。反射光の波長[nm]が610nm以上かつ770nm以下の範囲において、酸素飽和度100%の血液の相対反射率から酸素飽和度50%の血液の相対反射率を減算した値は、
図4に示す第2閾値Th2以上となる。
図4に示すように、第2閾値Th2は、約12%であり、第1閾値Th1よりも大きい。
【0043】
このように、発明者らは、反射光の波長[nm]が780nm以上かつ810nm以下の範囲において相対反射率の酸素飽和度による変化の最大値が第1閾値Th1以下となり、反射光の波長[nm]が610nm以上かつ770nm以下の範囲において相対反射率の酸素飽和度による変化の最大値が第1閾値Th1よりも大きい第2閾値Th2以上となるという新たな知見を得た。第1閾値Th1よりも第2閾値Th2が大きいため、相対反射率の酸素飽和度による変化の最大値は、780nm以上かつ810nm以下の範囲で小さくなり、610nm以上かつ770nm以下の範囲で大きくなる。すなわち、相対反射率は、780nm以上かつ810nm以下の範囲では酸素飽和度による影響を受けにくく、610nm以上かつ770nm以下の範囲では酸素飽和度による影響を受け易い。
【0044】
そこで、本実施形態では、貯血槽3に貯留された血液21の酸素飽和度が変化しても血液面22の位置を確実に検出するために、780nm以上かつ810nm以下の範囲に含まれる第1帯域B1の波長の反射光を撮像部9で撮像することとした。また、貯血槽3に貯留された血液21の酸素飽和度を算出するために、610nm以上かつ770nm以下の範囲に含まれる第2帯域B2の波長の反射光を撮像部9で撮像することとした。
【0045】
第1バンドパスフィルタ9bは、第1帯域B1の波長の反射光を通過させ、その他の帯域の波長の反射光を遮断するフィルタである。撮像部9は、第1バンドパスフィルタ9bを介して第1画像情報IM1を取得することにより、第1帯域B1の波長の反射光を撮像することができる。第1帯域B1は、例えば、800nmを中心とした790nm~810nmの範囲である。第1帯域B1としては、780nm以上かつ810nm以下の範囲に含まれる任意の範囲を採用することができる。
【0046】
第2バンドパスフィルタ9cは、第2帯域B2の波長の反射光を通過させ、その他の帯域の波長の反射光を遮断するフィルタである。撮像部9は、第2バンドパスフィルタ9cを介して第2画像情報IM2を取得することにより、第2帯域B2の波長の反射光を撮像することができる。第2帯域B2は、例えば、760nmを中心とした750nm~770nmの範囲である。第2帯域B2としては、610nm以上かつ770nm以下の範囲に含まれる任意の範囲を採用することができる。
【0047】
以下、制御部7が、血液面22の位置を検出し、血液21の酸素飽和度を算出する処理について、図面を参照して説明する。
図3は、
図1に示す制御部7の概略構成図である。
図5は、血液面22の位置を検出する処理を示すフローチャートである。
図6は、酸素飽和度を算出する処理を示すフローチャートである。
【0048】
以下では、血液面22の位置を検出する処理について説明する。
図5のステップS501で、作業者は、撮像部9の光軸X上に第1バンドパスフィルタ9bを装着する。第1バンドパスフィルタ9bは、780nm以上かつ810nm以下の範囲に含まれる第1帯域B1の波長の反射光を通過させるフィルタである。
【0049】
ステップS502で、制御部7は、撮像部9に制御信号を送信し、第1バンドパスフィルタ9bを介して第1画像情報IM1を取得する撮像処理を撮像部9に実行させる。撮像部9は、血液21の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値Th1以下となる第1帯域B1の波長の反射光を第1画像情報IM1として取得して制御部7へ送信する。
【0050】
撮像部9から送信された第1画像情報IM1は、制御部7の存在情報取得部7aに入力される。存在情報取得部7aは、撮像部9により撮像された第1画像情報IM1に含まれる複数画素の各々について血液21の存在の有無を示す存在情報を取得する処理部である。存在情報取得部7aは、明度変換部7a1と二値化処理部7a2を備える。第1画像情報IM1は、第1バンドパスフィルタ9bを介して撮像部9が取得した画像情報であるため、貯血槽3に貯留する血液21の酸素飽和度が変化しても第1画像情報IM1の変化は少ない。そのため、存在情報取得部7aは、血液21の酸素飽和度の変化によらずに略一定の存在情報を取得することができる。
【0051】
ステップS503で、制御部7の明度変換部7a1は、撮像部9から受信した第1画像情報IM1の明度変換処理を実行する。明度変換部7a1は、例えば、撮像素子9dが取得した第1画像情報IM1のRGB情報の各々を所定階調(例えば、256階調)の明度情報に変換する。
図7は、明度情報に変換された第1画像情報IM1の一例を示す写真である。
【0052】
明度変換部7a1は、撮像部9から受信する第1画像情報IM1の複数画素の輝度の各々を明度情報に変換するが、他の態様であってもよい。例えば、明度変換部7a1は、撮像部9から受信する第1画像情報IM1の全画素をそれぞれが複数画素からなる複数の画像領域に分割し、複数の画像領域の各々を明度情報に変換してもよい。
【0053】
ステップS504で、制御部7の二値化処理部7a2は、明度変換部7a1から入力される明度情報を所定の閾値で二値化する二値化処理を実行する。二値化処理は、明度情報に変換された第1画像情報IM1の各画素の明度情報が所定の閾値以上である場合にその画素を「黒」に変換し、各画素の明度情報が所定の閾値未満である場合にその画素を「白」に変換する処理である。
図8は、
図7に示す明度情報を二値化処理して得られた二値画像の一例を示す図である。
【0054】
ステップS505で、制御部7の血液面検出部7bは、二値化処理部7a2から入力される二値画像に基づいて貯血槽3に貯留される血液21の血液面22の位置を検出する血液面検出処理を実行する。血液面検出部7bは、貯血槽3に貯留された血液21の血液面22に平行な第1方向に沿った存在情報の連続性に基づいて血液面22の位置を検出する。制御部7は、血液面検出部7bが算出した血液面22の位置に関する情報を表示部8に表示させるよう制御する。
【0055】
血液面検出部7bが実行する血液面検出処理について、
図9を参照して説明する。
図9は、
図8に示す二値画像の領域A11の部分拡大図であり、(a)は血液の存在情報の連続性を判断する処理を示し、(b)は血液の存在の有無を判断した結果を示し、(c)は第2方向の位置が高い画素を抽出した結果を示す。
【0056】
血液面検出部7bは、
図9(a)に表した領域A12のように、血液面22に平行な第1方向に沿って取得された血液21の存在情報(白)が5つの連続性を有する場合には、その5つの画素のうちの中心の画素(ハッチングを施した「白」の画素)に血液21が存在すると判断する。一方、血液面検出部7bは、
図9(a)に表した領域A13のように、血液面22に平行な第1方向に沿って取得された血液21の存在情報(白)が5つの連続性を有していない場合には、その5つのピクセルのうちの中心のピクセルには血液21が存在しないと判断する。このように、血液面検出部7bは、血液面22に平行な第1方向に沿って取得された血液21の存在情報の連続性に基づいて血液21の存在の有無を判断する。
【0057】
以上のようにして、血液21が存在すると血液面検出部7bが判断した画素の一例は、
図9(b)に表したハッチング付きの「白」の画素の通りである。続いて、血液面検出部7bは、血液21が存在すると判断した画素のうちで第2方向(鉛直方向)の位置が高い画素を抽出する。第2方向(鉛直方向)の位置が高いと血液面検出部7bが判断した画素の一例は、
図9(c)に表したハッチング付きの「白」の画素の通りである。
【0058】
図9(c)に示すように、血液21が存在すると判断された画素のうちで第2方向の下から3段目に存在する「白」の画素は、6つである。また、血液21が存在すると判断された画素のうちで第2方向の下から2段目に存在する「白」の画素は、5つである。そこで、血液面検出部7bは、3段目の段数「3」と3段目の「白」ピクセル数「6」との積「3×6」と、2段目の段数「2」と2段目の「白」ピクセル数「5」との積「2×5」と、の和「3×6+2×5」を「白」ピクセルの全体の数「6+5=11」で除した値「(3×6+2×5)/11≒2.5」を血液面22の位置として検出する。血液面検出部7bは、
図9(a)~
図9(c)に例示した図では、貯血槽3に貯留された血液21の血液面22の位置が第2方向の下から約2.5段目に存在すると検出する。
【0059】
このようにして、本実施形態の血液面検出部7bは、血液面22に平行な第1方向に沿って取得された血液21の存在情報の連続性に基づいて血液21の存在の有無を判断するとともに、血液面22の位置を検出する。以上の説明では、血液面検出部7bは、
図8の領域A11について血液面22の位置を検出するものとしたが、領域A11に限らず
図8に示す二値画像の全領域においてステップS505の血液面検出処理を実行してもよい。
【0060】
なお、本実施形態では、血液面検出部7bが血液面22に平行な第1方向に沿って取得された血液21の存在情報の連続性の有無に基づいて血液面22の位置を判定する場合を例に挙げて説明したが、他の態様であってもよい。例えば、血液面検出部7bは、血液面22に垂直な第2方向に沿って取得された血液21の存在情報の連続性の有無に基づいて血液21の存在の有無を判断してもよい。
【0061】
また、血液面検出部7bは、第1方向に沿って取得された血液21の存在情報の連続性の有無と、第2方向に沿って取得された血液21の存在情報の連続性の有無の双方に基づいて血液21の存在の有無を判断してもよい。この場合、血液面検出部7bは、血液面22に平行な第1方向に沿って取得された血液21の存在情報(白)が5つの連続性を有し、かつ血液面22に垂直な第2方向に沿って取得された血液21の存在情報(白)が5つの連続性を有する場合に、これら5つの画素のうちの中心の画素に血液21が存在すると判断する。
【0062】
以下では、血液21の酸素飽和度を算出する処理について説明する。
図6のステップS601で、作業者は、撮像部9の光軸X上に第1バンドパスフィルタ9bを装着する。
ステップS602で、制御部7は、撮像部9に制御信号を送信し、第1バンドパスフィルタ9bを介して第1画像情報IM1を取得する撮像処理を撮像部9に実行させる。撮像部9は、第1バンドパスフィルタ9bを通過する780nm以上かつ810nm以下の範囲に含まれる第1帯域B1の波長の反射光を第1画像情報IM1として取得して制御部7へ送信する。
【0063】
ステップS603で、制御部7の明度変換部7c1は、撮像部9から受信した第1画像情報IM1の明度変換処理を実行する。明度変換部7c1は、例えば、撮像素子9dが取得した第1画像情報IM1の複数画素のRGB情報の各々を所定階調(例えば、256階調)の明度情報に変換する。
図6のステップS604で、作業者は、撮像部9の光軸X上に第2バンドパスフィルタ9cを装着する。第2バンドパスフィルタ9cは、610nm以上かつ770nm以下の範囲に含まれる第2帯域B2の波長の反射光を通過させるフィルタである。
【0064】
ステップS605で、制御部7は、撮像部9に制御信号を送信し、第2バンドパスフィルタ9cを介して第2画像情報IM2を取得する撮像処理を撮像部9に実行させる。撮像部9は、610nm以上かつ770nm以下の範囲に含まれ、第2バンドパスフィルタ9cを通過する第2帯域B2の波長の反射光を第2画像情報IM2として取得して制御部7へ送信する。
【0065】
ステップS606で、制御部7の明度変換部7c1は、撮像部9から受信した第2画像情報IM2の明度変換処理を実行する。明度変換部7c1は、例えば、撮像素子9dが取得した第2画像情報IM2の複数画素のRGB情報の各々を所定階調(例えば、256階調)の明度情報に変換する。
【0066】
撮像部9から送信された第1画像情報IM1及び第2画像情報IM2は、制御部7の算出部7cに入力される。算出部7cは、撮像部9により撮像された第1画像情報IM1及び第2画像情報IM2に基づいて撮像部9が撮像した血液21の酸素飽和度を算出する処理部である。算出部7cは、明度変換部7c1とNDSI値算出部7c2と、酸素飽和度算出部7c3を備える。
【0067】
ステップS607で、NDSI値算出部7c2は、第1画像情報IM1を明度変換した明度情報と、第2画像情報IM2を明度変換した明度情報とに基づいて、NDSI値を算出する。NDSI値算出部7c2は、予め保存された明度情報を相対反射率に変換する変換式を用い、第1画像情報IM1を明度変換した明度情報を相対反射率R1に変換し、第2画像情報IM2を明度変換した明度情報を相対反射率R2に変換する。
【0068】
NDSI値算出部7c2は、相対反射率R1と相対反射率R2からNDSI値を算出する。NDSI(Normalized Difference Spectral Index)は、正規化分光反射指数であり、NDSI値は以下の式(1)により算出される。
NDSI=(R2-R1)/(R2+R1) (1)
【0069】
相対反射率R1は、第1画像情報IM1を明度変換した明度情報から変換されたものであるため、酸素飽和度が変化しても値の変化は少ない。一方、相対反射率R2は、第2画像情報IM2を明度変換した明度情報から変換されたものであるため、酸素飽和度が変化すると値が大きく変化する。相対反射率R2が相対反射率R1よりも大きい場合(酸素飽和度が高い場合)、NDSI値は正の値となる。一方、相対反射率R2が相対反射率R1よりも小さい場合(酸素飽和度が低い場合)、NDSI値は負の値となる。NDSI値は、理論上-1から+1の間で変化する値であり、酸素飽和度が高い場合に大きい値となり、酸素飽和度が低い場合に小さい値となる。
【0070】
ステップS608で、酸素飽和度算出部7c3は、NDSI値算出部7c2から入力されるNDSI値に基づいて酸素飽和度を算出する。前述したように、NDSI値は酸素飽和度に応じて変化する値である。酸素飽和度算出部7c3は、予め保存されたNDSI値を酸素飽和度に変換する変換式を用い、NDSI値を酸素飽和度に変換する。制御部7は、酸素飽和度算出部7c3が算出した酸素飽和度を表示部8に表示させるよう制御する。
【0071】
以上で説明した処理において、第1バンドパスフィルタ9bの装着と、第2バンドパスフィルタ9cの装着は、作業者が行うものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、第1バンドパスフィルタ9b及び第2バンドパスフィルタ9cのいずれを光軸X上に配置するかを切り替える切替機構(図示略)を設け、制御部7からの指令により、第1バンドパスフィルタ9b及び第2バンドパスフィルタ9cのいずれかを光軸X上に配置するように自動的に切り替えてもよい。
【0072】
以下、本実施形態の変化傾向報知制御について説明する。
図10は、本実施形態の変化傾向報知制御を説明するフローチャートである。
ステップS1001で、制御部7は、貯血槽3に貯留された血液21の血液面22の位置を検知する(血液面検出処理)。また、制御部7は、タイマ機能やタイムスイッチ機能などを有し、ステップS1001において、例えば時刻などの時間情報を取得する。ステップS1001における血液面検出処理は、
図5のステップS505の処理と同様である。
【0073】
ステップS1002で、制御部7は、血液面22の位置に関する情報と、時間情報とを記憶部71に記憶(格納)する。
ステップS1003で、制御部7は、記憶部71に格納された血液面22の位置(過去の血液面22の位置)に関する情報と、ステップS1001において検出した血液面22の位置(現在の血液面22の位置)に関する情報との間の変化値(差分値)が所定値よりも大きいか否かを判断する。
【0074】
制御部7は、記憶部71に格納された血液面22の位置に関する情報と、ステップS1001において検出した血液面22の位置に関する情報との間の変化値が所定値よりも大きい場合にはステップS1004に処理を進め、変化値が所定値以下である場合はステップS1001を再び実行する。ステップS1004で、制御部7は、表示部8に情報信号を送信し、血液面22の位置の変化傾向を表示部8に表示させる。
【0075】
本実施形態の変化傾向報知制御によれば、貯血槽3内の血液面22の位置が例えば警告位置などの所定位置よりも低下する前あるいは所定位置に近づく前に、制御部7は、血液面22の変化値が所定値よりも大きいことを医療従事者に知らせることができる。これにより、本実施形態に係る体外循環装置2は、医療従事者の手技に対してサポートの充実化を図ることができる。なお、血液面22の位置の変化傾向の報知手段は、表示部8には限定されない。例えば、血液面22の位置の変化傾向の報知手段としては、音を発生する装置が用いられてもよい。あるいは、血液面22の位置の変化傾向の報知手段としては、光を放射する表示部8以外の装置が用いられてもよい。
【0076】
以下、本実施形態の液面維持制御について説明する。
図11は、本実施形態の液面維持制御を説明するフローチャートである。
ステップS1101で、制御部7は、検出した血液面22の位置が基準位置よりも高いか否かを判断する。「基準位置」とは、貯血槽3に貯留された血液21の血液面22の位置であって維持が望まれる任意の位置である。検出した血液面22の位置が基準位置よりも高い場合(ステップS1101でYES)、制御部7は、ステップS1105において、モータ5の回転数を上昇させる制御を実行し、ポンプ4の回転数を上昇させる。これにより、ポンプ4により送り出される血液の量が増加する。そのため、貯血槽3から患者に送られる血液の量が増加することで貯血槽3内の血液の量が低減する。ステップS1105に続くステップS1101において、制御部7は、検出した血液面22の位置が基準位置よりも高いか否かを再び判断する。
【0077】
一方で、検出した血液面22の位置が基準位置よりも高くない場合には(ステップS1101でNO)、ステップS1102において、制御部7は、検出した血液面22の位置が基準位置よりも低いか否かを判断する。検出した血液面22の位置が基準位置よりも低い場合には(ステップS1102でYES)、制御部7は、ステップS1106において、モータ5の回転数を低下させる制御を実行し、ポンプ4の回転数を低下させる。これにより、ポンプ4により送り出される血液の量が低減する。そのため、貯血槽3から患者に送られる血液の量が低減することで貯血槽3内の血液の量が増加する。ステップS1106に続くステップS1101において、制御部7は、検出した血液面22の位置が基準位置よりも高いか否かを再び判断する。
【0078】
一方で、判定した血液面22の位置が基準位置よりも低くない場合には(ステップS1102でNO)、ステップS1103において、制御部7は、検出した血液面22の位置が基準位置から急激に降下したか否かを判断する。例えば、ステップS1103において、制御部7は、検出した血液面22の位置の変化速度(変化率)が所定の変化速度(変化率)よりも高いか否かを判断する。
【0079】
検出した血液面22の位置が基準位置から急激に降下した場合には(ステップS1103でYES)、ステップS1107において、制御部7は、血液面22の位置の変化傾向を表示部8に表示する制御を実行する。あるいは、ステップS1107において、制御部7は、ポンプ4の動作を停止させる制御を実行する。あるいは、ステップS1107において、制御部7は、血液面22の位置の変化傾向を表示部8に表示する制御と、ポンプ4の動作を停止させる制御と、の両方を実行する。ステップS1107に続くステップS1101において、制御部7は、検出した血液面22の位置が基準位置よりも高いか否かを再び判断する。
【0080】
一方で、検出した血液面22の位置が基準位置から急激に降下していない場合には(ステップS1103でNO)、ステップS1104において、制御部7は、体外循環装置2を使用する医療従事者の手技が終了したか否かを判断する。体外循環装置2を使用する医療従事者の手技が終了した場合には(ステップS1104でYES)、制御部7は、液面維持制御を終了する。一方で、体外循環装置2を使用する医療従事者の手技が終了していない場合には(ステップS1104でNO)、ステップS1101において、制御部7は、検出した血液面22の位置が基準位置よりも高いか否かを再び判断する。
【0081】
本実施形態の液面維持制御によれば、検出した血液面22の位置が基準位置よりも高い場合には、制御部7はポンプ4の回転数を上昇させる制御を実行し、判定した血液面22の位置が基準位置よりも低い場合には、制御部7はポンプ4の回転数を低下させる制御を実行する。そのため、貯血槽3内の血液面22の位置が一定の位置(基準位置)に維持される。つまり、本実施形態に係る体外循環装置2は、貯血槽3内の血液面22の位置を一定の位置(基準位置)に制御することができる。これにより、本実施形態に係る体外循環装置2は、医療従事者の手技に対してサポートの充実化を図ることができる。
【0082】
以上説明した本実施形態の体外循環装置2が奏する作用及び効果について説明する。
本実施形態にかかる体外循環装置2によれば、撮像部9が、血液21の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値Th1以下となる第1帯域B1の波長の反射光を第1画像情報IM1として取得する。そのため、撮像部9が取得する第1画像情報IM1には、血液21の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値Th1よりも大きくなる帯域の波長の反射光が含まれない。よって、貯血槽3に貯留された血液の酸素飽和度が変化しても撮像部9が取得する第1画像情報IM1の変化が抑制され、血液面22の位置を確実に検出することが可能となる。
【0083】
また、本実施形態の体外循環装置2によれば、血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値Th1以下の第1帯域B1と、血液の酸素飽和度による相対反射率の変化が第1閾値Th1よりも大きい第2閾値Th2以上の第2帯域B2の双方の波長の反射光を画像情報として取得することで、血液の酸素飽和度を算出することができる。
【0084】
また、本実施形態の体外循環装置2によれば、撮像部9が780nm以上かつ810nm以下の範囲に含まれる第1帯域B1の反射光を第1画像情報IM1として取得すると、血液の酸素飽和度が50%以上かつ100%以下の場合には相対反射率の変化が第1閾値Th1以下となる。相対反射率の変化が、貯血槽3に貯留された血液の酸素飽和度が変化しても撮像部9が取得する第1画像情報IM1の変化が抑制され、血液面22の位置を確実に検出することが可能となる。
【0085】
また、本実施形態の体外循環装置2によれば、撮像部9が610nm以上かつ770nm以下の範囲に含まれる第2帯域B2の反射光を第2画像情報IM2として取得すると、血液21の酸素飽和度が50%以上かつ100%以下の場合には相対反射率の変化が第2閾値Th2以上となる。貯血槽3に貯留された血液の酸素飽和度が変化するとそれに応じて相対反射率と撮像部9が取得する第2画像情報IM2が変化するため、血液の酸素飽和度を算出することができる。
【0086】
本実施形態にかかる体外循環装置2によれば、血液面検出部7bは、貯血槽3に貯留された血液21の血液面22に平行な第1方向および血液面22に垂直な第2方向の少なくともいずれかに沿った存在情報の連続性に基づいて血液面22の位置を検出する。血液面検出部7bは、存在情報の連続性に基づいて血液面22の位置を検出するため、貯血槽3の内壁に付着した血液により発生する連続性の無いノイズを除去することができる。
【0087】
また、一般的に、貯血槽3の内部には、貯血槽3の内部に流入する血液21の中の気泡や異物などを除去するフィルタ部材が設けられている。フィルタ部材の目は比較的細かいため、貯血槽3の内部に流入する血液の量によっては、フィルタ部材を通過する血液の量が貯血槽3に流入する血液の量よりも少なくなることがある。そうすると、フィルタ部材の内部の血液面22が、貯血槽3の内部の血液面22(本来検知したい血液面)よりも高くなることがある。そのため、フィルタ部材に起因したノイズが発生することがある。これに対して、前記構成にかかる血液面検出装置よれば、フィルタ部材の内部において上昇する血液面22のノイズ(フィルタ部材に起因したノイズ)を除去することができる。
【0088】
以上の説明において、二値化処理は、明度情報に変換された第1画像情報IM1の各画素の明度情報が所定の閾値以上である場合にその画素を「黒」に変換し、各画素の明度情報が所定の閾値未満である場合にその画素を「白」に変換する処理としたが、他の態様であってもよい。例えば、明度情報に変換された第1画像情報IM1の各画素の明度情報が所定の閾値以上である場合にその画素を「白」に変換し、各画素の明度情報が所定の閾値未満である場合にその画素を「黒」に変換する処理としてもよい。
【0089】
以上の説明において、血液21の存在情報(白)が5つの連続性を有する場合にその5つの画素のうちの中心の画素(ハッチングを施した「白」の画素)に血液21が存在すると判断するものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、3つの連続性、7つの連続性等、任意の数の連続性で血液21の存在の有無を判断してもよい。
【0090】
以上の説明において、複数の画素のうちで血液21が存在すると血液面検出部7bが判断する画素の箇所を5つの連続性を有する画素の中心の1画素であるものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、複数の画素のうちで血液21が存在すると血液面検出部7bが判断する画素の箇所を5つの連続性を有する画素の中央の複数画素(例えば、3画素)としてもよい。
【0091】
以上の説明において、NDSI値算出部7c2は、第1画像情報IM1及び第2画像情報IM2を明度変換した明度情報を相対反射率R1及びR2に変換し、相対反射率R1及びR2からNDSI値を算出するものとしたが、他の態様であっても良い。例えば、第1画像情報IM1及び第2画像情報IM2を明度変換した明度情報からNDSI値を算出する変換式を予め記憶しておき、記憶した変換式を用いて明度情報からNDSI値を直接的に算出してもよい。
【0092】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0093】
2・・・体外循環装置、 3・・・貯血槽、 4・・・ポンプ、 5・・・モータ、 6・・・人工肺、 7・・・制御部、 7a・・・存在情報取得部、 7a1・・・明度変換部、 7a2・・・二値化処理部、 7b・・・血液面検出部、 7c・・・算出部、 7c1・・・明度変換部、 7c2・・・NDSI値算出部、 7c3・・・酸素飽和度算出部、 8・・・表示部、 9・・・撮像部、 9b・・・第1バンドパスフィルタ、 9c・・・第2バンドパスフィルタ、 10・・・循環回路、 21・・・血液、 22・・・血液面、 31、32・・・部分、 71・・・記憶部、 A11、A12、A13・・・領域、 B1・・・第1帯域、 B2・・・第2帯域、 IM1・・・第1画像情報、 IM2・・・第2画像情報、 X・・・光軸