(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】旋回軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/54 20060101AFI20221202BHJP
F16C 33/46 20060101ALI20221202BHJP
F16C 33/56 20060101ALI20221202BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
F16C19/54
F16C33/46
F16C33/56
F16C33/66 Z
(21)【出願番号】P 2018204662
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 都至
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-047798(JP,A)
【文献】特開2011-089589(JP,A)
【文献】特開2015-055274(JP,A)
【文献】特開2009-228752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪
、及び前記外輪に同軸に配置され且つ前記外輪に対して相対回転自在な内輪を有し
、前記外輪は
、前記外輪の内周部の内周面に形成された第1ラジアル軌道面及び前記内周面を挟む前記内周部の両端面にそれぞれ形成された一対の第1アキシアル軌道面を備えており
、前記内輪は
、前記外輪の前記内周部が相対回転可能に配設される凹部が前記内輪の外周部に形成され
、前記凹部の底面には前記外輪の前記第1ラジアル軌道面に対向する第2ラジアル軌道面が形成され且つ前記凹部の対向面には前記外輪の前記第1アキシアル軌道面にそれぞれ対向する第2アキシアル軌道面が形成されており
、前記第1ラジアル軌道面と前記第2ラジアル軌道面の間にはラジアル荷重を負荷する複数のラジアル転動体が転動可能に配設され
、前記第1アキシアル軌道面と前記第2アキシアル軌道面の間にはアキシアル荷重を負荷する複数のアキシアル転動体が転動可能にそれぞれ配設されていることから成る旋回軸受において
、
前記ラジアル転動体には
、前記ラジアル転動体を保持するリング状のラジアル用保持器が前記第1ラジアル軌道面と前記第2ラジアル軌道面に対して全周に第1隙間を存して位置決め支持されており
、前記アキシアル転動体には
、前記アキシアル転動体を保持するリング状のアキシアル用保持器が前記第1アキシアル軌道面と前記第2アキシアル軌道面に対して全周に第2隙間を存して位置決め支持されて
おり、
前記第1アキシアル軌道面が形成される位置には、前記外輪の内周側に向かって低くなるL状の段部が形成され、前記段部の底面が前記第1アキシアル軌道面であり、前記段部の側面が前記アキシアル転動体の一方の端面に接するガイド面であり、前記第2ラジアル軌道面が形成される位置にはU状の環状溝が形成され、前記環状溝の底面が前記第2ラジアル軌道面であり、前記環状溝の対向する側面が前記ラジアル転動体の両端面に接するガイド面であることを特徴とする旋回軸受。
【請求項2】
前記ラジアル用保持器は
、前記ラジアル転動体をそれぞれ回転自在に収容する矩形状の複数の第1ポケットを備えており
、前記各第1ポケットの内面には
、前記ラジアル転動体の両第1端面にそれぞれ当接する第1凸部がそれぞれ形成されており
、前記アキシアル用保持器は
、前記アキシアル転動体をそれぞれ回転自在に収容可能な矩形状の複数の第2ポケットをそれぞれ備えており
、それぞれの前記第2ポケットの内面には
、前記アキシアル転動体の両第2端面にそれぞれ当接する第2凸部が設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の旋回軸受。
【請求項3】
前記ラジアル用保持器に形成された前記第1ポケットは
、前記ラジアル転動体の前記両第1端面が対向し且つ互いに径方向に偏倚した一対の第1環状部と
、前記第1環状部間に延び且つ前記ラジアル転動体の第1転動面が対向する複数の第1柱部とから構成されており
、前記アキシアル用保持器に形成された前記第2ポケットは
、前記アキシアル転動体の前記両第2端面が対向する一対の第2環状部と
、前記第2環状部間に延び且つ前記アキシアル転動体の第2転動面が対向する複数の第2柱部とから構成されていることを特徴とする請求項
2に記載の旋回軸受。
【請求項4】
前記ラジアル用保持器は
、互いに径方向に偏倚した前記第1環状部にそれぞれ形成された前記第1凸部と
、前記ラジアル転動体の径より小さい間隔に配設された前記第1柱部にそれぞれ形成されたテーパ面との共働によって前記ラジアル転動体に載置状態で位置決め支持されており
、前記アキシアル用保持器は
、前記第2環状部にそれぞれ形成された前記第2凸部と
、前記第2柱部に形成された前記アキシアル転動体の前記第2転動面に沿って互いに逆方向に延びて突出する複数の係止突起部との共働によって前記アキシアル転動体に位置決め支持されていることを特徴とする請求項
3に記載の旋回軸受。
【請求項5】
前記ラジアル用保持器の前記第1柱部と前記アキシアル用保持器の前記第2柱部には
、前記第1柱部と前記第2柱部とをそれぞれ減肉する貫通孔又は凹部から成る肉抜き部がそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項
3又は
4に記載の旋回軸受。
【請求項6】
前記内輪は
、軸方向に垂直な面で二分割された一対の分割輪から構成され
、一方の前記分割輪には前記第2ラジアル軌道面と一方の前記第2アキシアル軌道面が形成され
、他方の前記分割輪には他方の前記第2アキシアル軌道面が形成されていることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の旋回軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,外輪,該外輪に対して相対回転する内輪及び両者間に配設された転動体であるころから成り,外輪と内輪との間にころを保持する保持器を備えている旋回軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,旋回軸受は,マシニングセンタ等の工作機械,複合荷重を受ける関節部,旋回部,揺動部等の旋回部を備えた産業用ロボット,測定・検査装置,医療機器,光学機器等の各種の装置に使用されており,用途に合わせて種々の形式のものや大きさのものが商品化されており,小形化,軽量化,高精度,低コスト,或いは低発熱性に特徴を有するものが要望されている。
【0003】
従来,旋回軸受として,ラジアル-アキシアルローラベアリングが知られている。該ローラベアリングは,ラジアル荷重を受ける複数のころが転走可能なラジアル軌道溝を有する内輪,内輪と同軸上に配設され且つアキシアル荷重を受ける複数のころが転走可能な一対のアキシアル軌道溝を有する外輪を有し,外輪と内輪との間にはラジアル荷重を吸収して転走するころと,横荷重即ちアキシアル荷重を吸収するため,保持器に配設された円筒状ころを有している。内輪は,軸方向に2分割され且つ外周面にラジアル軌道溝が形成されている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,複合転がり軸受として,ラジアル軸受用の転動体を保持するための円環状凹部を形成する必要が無く,転動体の摩擦抵抗を低減可能なものが知られている。該複合転がり軸受は,円形内周面が両端面部分間で同一内径である外輪,及び円形内周面と両端面部分とに対して所定の間隔に対峙する3つの受け面を備えた溝形断面部分が形成され且つ同一外径の円形外周面に形成されている内輪を有し,円形内周面及び両端面部分と3つの受け面との間に転動体がそれぞれ介在し,転動体にはリテーナが設けられている(例えば,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】US2003/0012469A1
【文献】特許第4476285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,従来の旋回軸受では,ラジアル荷重を受けるころ及びアキシアル荷重を受けるころをそれぞれ備えた旋回軸受において,高速回転で使用する場合に,旋回軸受が発熱し,回転数が規制されてしまうという問題があった。そこで,旋回軸受として,低発熱性であり,低トルク性を図ることが要望されている。
【0007】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,内輪と外輪との間にラジアル荷重を負荷するラジアル転動体とアキシアル荷重を負荷する一対のアキシアル転動体とを介在させて相対回転自在に構成する旋回軸受であって,ラジアル転動体にラジアル用保持器を支持し,アキシアル転動体にアキシアル用保持器をそれぞれ支持し,これらの保持器を外輪と内輪に対してそれらの全周にわたって隙間を設けて位置決め支持し,両保持器を内輪と外輪とに接触しないように転動体自体で支持し,保持器が外輪と内輪に接して摩擦で発熱するのを防止し,低発熱性を達成すると共に低トルク性を向上させて,各種の装置の高速回転部に組み込んで使用することを可能にした旋回軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は,外輪,及び前記外輪に同軸に配置され且つ前記外輪に対して相対回転自在な内輪を有し,前記外輪は,前記外輪の内周部の内周面に形成された第1ラジアル軌道面及び前記内周面を挟む前記内周部の両端面にそれぞれ形成された一対の第1アキシアル軌道面を備えており,前記内輪は,前記外輪の前記内周部が相対回転可能に配設される凹部が前記内輪の外周部に形成され,前記凹部の底面には前記外輪の前記第1ラジアル軌道面に対向する第2ラジアル軌道面が形成され且つ前記凹部の対向面には前記外輪の前記第1アキシアル軌道面にそれぞれ対向する第2アキシアル軌道面が形成されており,前記第1ラジアル軌道面と前記第2ラジアル軌道面の間にはラジアル荷重を負荷する複数のラジアル転動体が転動可能に配設され,前記第1アキシアル軌道面と前記第2アキシアル軌道面の間にはアキシアル荷重を負荷する複数のアキシアル転動体が転動可能にそれぞれ配設されていることから成る旋回軸受において,
前記ラジアル転動体には,前記ラジアル転動体を保持するリング状のラジアル用保持器が前記第1ラジアル軌道面と前記第2ラジアル軌道面に対して全周に第1隙間を存して位置決め支持されており,前記アキシアル転動体には,前記アキシアル転動体を保持するリング状のアキシアル用保持器が前記第1アキシアル軌道面と前記第2アキシアル軌道面に対して全周に第2隙間を存して位置決め支持されていることを特徴とする旋回軸受に関する。
【0009】
また,この旋回軸受は,前記第1アキシアル軌道面が形成される位置には,前記外輪の内周側に向かって低くなるL状の段部が形成され,前記段部の底面が前記第1アキシアル軌道面であり,前記段部の側面が前記アキシアル転動体の一方の端面に接するガイド面であり,前記第2ラジアル軌道面が形成される位置にはU状の環状溝が形成され,前記環状溝の底面が前記第2ラジアル軌道面であり,前記環状溝の対向する側面が前記ラジアル転動体の両端面に接するガイド面である。
【0010】
また,前記ラジアル用保持器は,前記ラジアル転動体をそれぞれ回転自在に収容する矩形状の複数の第1ポケットを備えており,前記各第1ポケットの内面には,前記ラジアル転動体の両第1端面にそれぞれ当接する第1凸部がそれぞれ形成されており,前記アキシアル用保持器は,前記アキシアル転動体をそれぞれ回転自在に収容可能な矩形状の複数の第2ポケットをそれぞれ備えており,それぞれの前記第2ポケットの内面には,前記アキシアル転動体の両第2端面にそれぞれ当接する第2凸部が設けられている。
【0011】
また,前記ラジアル用保持器に形成された前記第1ポケットは,前記ラジアル転動体の前記両第1端面が対向し且つ互いに径方向に偏倚した一対の第1環状部と,前記第1環状部間に延び且つ前記ラジアル転動体の第1転動面が対向する複数の第1柱部とから構成されており,前記アキシアル用保持器に形成された前記第2ポケットは,前記アキシアル転動体の前記両第2端面が対向する一対の第2環状部と,前記第2環状部間に延び且つ前記アキシアル転動体の第2転動面が対向する複数の第2柱部とから構成されている。
【0012】
また,前記ラジアル用保持器は,互いに径方向に偏倚した前記第1環状部にそれぞれ形成された前記第1凸部と,前記ラジアル転動体の径より小さい間隔に配設された前記第1柱部にそれぞれ形成されたテーパ面との共働によって前記ラジアル転動体に載置状態で位置決め支持されており,前記アキシアル用保持器は,前記第2環状部にそれぞれ形成された前記第2凸部と,前記第2柱部に形成された前記アキシアル転動体の前記第2転動面に沿って互いに逆方向に延びて突出する複数の係止突起部との共働によって前記アキシアル転動体に位置決め支持されている。
【0013】
また,この旋回軸受は,前記ラジアル用保持器の前記第1柱部と前記アキシアル用保持器の前記第2柱部には,前記第1柱部と前記第2柱部とをそれぞれ減肉する貫通孔又は凹部から成る肉抜き部がそれぞれ形成されている。
【0014】
また,前記内輪は,軸方向に垂直な面で二分割された一対の分割輪から構成され,一方の前記分割輪には前記第2ラジアル軌道面と一方の前記第2アキシアル軌道面が形成され,他方の前記分割輪には他方の前記第2アキシアル軌道面が形成されている。
【発明の効果】
【0015】
この発明による旋回軸受は,上記のように,互いに相対回転自在な外輪と内輪との間にラジアル荷重を受けるラジアルころ及びアキシアル荷重を受けるアキシアルころをそれぞれ備えた旋回軸受であって,ラジアルころを保持するラジアル用保持器とアキシアルころを保持するアキシアル用保持器とを外輪と内輪とに全周にわたって非接触状態に位置決め支持して低発熱性,低トルク性を達成し,各種の装置の高速回転部に組み込んで使用可能に構成したものである。具体的には,この旋回軸受は,内輪の外周部に形成された凹部に外輪の外周部が嵌入されており,外輪の内周面に第1ラジアル軌道面が形成され,内輪が軸方向に2分割された一方の分割輪の外周面に第1ラジアル軌道面に対向する第2ラジアル軌道面が形成されており,外輪の内周部の両端面の第1アキシアル軌道面が形成され,内輪の外周部の凹部の対向面に第1アキシアル軌道面に対向する第2アキシアル軌道面が形成されて,第1と第2ラジアル軌道面間を転動するラジアルころと第1と第2アキシアル軌道面間を転動するアキシアルころとを介して内輪と外輪とが互いに相対回転可能であり,ラジアルころがリング状のラジアル用保持器に形成された複数の第1ポケットに回転自在に保持され,アキシアルころがリング状のアキシアル用保持器に形成された複数の第2ポケットに回転自在に保持されている。特に,ラジアル用保持器は,第1ポケットを構成する径方向に偏倚した一対の第1環状部にそれぞれ形成された第1凸部と,第1ポケットを構成する第1環状部間に掛けられた第1柱部に形成されたテーパ面とが共働してラジアルころに載置状態に位置決め支持されている。また,アキシアル用保持器は,第2ポケットを構成する一対の第2環状部にそれぞれ形成された第2凸部と,第2ポケットを構成する第2環状部間に掛けられた第2柱部に形成され且つアキシアルころの転動面に沿って逆向きに延びて突出してアキシアルころを抱持する状態の係止突起部とが共働してアキシアルころに位置決め支持されている。本発明によれば,各ラジアル軌道面とアキシアル軌道面にそって転動体を案内するガイド面が形成されており,内輪と外輪とに形成された各軌道面で各ころをそれぞれ転動案内できるため,各保持器は,各ころを案内する必要はなく,各ころ間を一定距離に保持できればよいものであり,即ち,従来の旋回軸受のように,ころとの接触面積が大きな案内面を各保持器に形成する必要がない。その結果,ころと保持器との接触に凸部,係止突起部,又はテーパ面のような接触面積が小さな形状を採用できるため,保持器ところとの接触面積を可能な限り小さく構成でき,低発熱性,低トルク性が実現できる。加えて,内外輪と保持器が接触しないように形成しているため,発熱やトルク増加を一層抑制できる。この場合において,各保持器は,各ポケットのころの外周面に対向する柱部に貫通孔,凹部等の肉抜き部を設け,柱部を減肉することにより,柱部が撓みやすくなり,ポケットにころを挿入し易く構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明による旋回軸受の実施例を示す斜視図である。
【
図3】
図1の旋回軸受を示し,(a)は旋回軸受を示す背面図,及び(b)は(a)の線分A-Aの位置におけ旋回軸受の一部を示す断面図である。
【
図4】この旋回軸受におけるラジアル用保持器を示す側面図である。
【
図5】
図4の符号Jで示す領域のラジアル用保持器の一部を示す拡大側面図である。
【
図6】
図5のラジアル用保持器を示し,(a)は
図5の線分B-Bの位置における断面図であり,(b)は
図5の線分C―Cの位置における断面図であり,(c)は
図5の線分D-Dの位置における断面図である。
【
図7】
図3(b)における旋回軸受にラジアル用保持器を配設した状態を示し,(a)はラジアル用保持器を一端面側から見た状態を示す拡大端面図であり,(b)は(a)のラジアル用保持器を逆向きに装着した状態を示す拡大端面図である。
【
図8】この旋回軸受におけるアキシアル用保持器を示す平面図である。
【
図9】
図8のアキシアル用保持器の一部にアキシアルころを装填した状態を示し,(a)は
図8の符号Kで示す領域のアキシアル用保持器を示す拡大平面図であり,(b)は(a)の線分E-Eの位置における断面図である。
【
図10】
図9のアキシアル用保持器を示し,(a)は
図9(a)からアキシアルころを外した状態を示す拡大平面図であり,(b)は(a)の線分F-Fの位置における断面図である。
【
図11】
図8のアキシアル用保持器の裏面側を示す平面図である。
【
図12】
図11のアキシアル用保持器の一部にアキシアルころを装填した状態を示し,(a)は
図11の符号Lで示す領域のアキシアル用保持器を示す拡大平面図であり,(b)は(a)の線分G-Gの位置における断面図であり,(c)は(a)の線分H-Hの位置における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,図面を参照して,この発明による旋回軸受の実施例を説明する。この発明による旋回軸受は,例えば,マシニングセンタ等の工作機械,産業用ロボット等のロボット,光学機器,医療機器,工作機械等の各種の装置の旋回部,揺動部等に適用でき,特に,摩擦等で発熱することを低減した低発熱性であり且つ低トルク性を実現させたものである。
【0018】
この発明による旋回軸受は,主として,
図1~
図3に図示するように,周方向に複数の取付け用孔35が形成された外輪1,及び外輪1に同軸に配置され且つ外輪1に対して相対回転自在で周方向に複数の取付け用孔36が形成された内輪2を有している。外輪1及び内輪2は,例えば,SUJ2でそれぞれ作製されて,それぞれ熱処理されて所望の硬さに形成されている。外輪1は,外輪1の内周部5の内周面6に形成された第1ラジアル軌道面7及び内周面6を挟む内周部5の両端面8にそれぞれ形成された一対の第1アキシアル軌道面9を備えている。また,内輪2は,外輪1の内周部5が相対回転可能に配設される凹部10が内輪2の外周部11に形成されており,凹部10は径方向の断面が外周面に開口する樋形状即ちU状に形成されている。即ち,凹部10の底面12には,環状溝47が形成されており,環状溝47には外輪1の第1ラジアル軌道面7に対向する第2ラジアル軌道面13が底面に形成されている。更に,環状溝47は,第2ラジアル軌道面13の両側にガイド面44が形成されてU状になっている。内輪2に形成された凹部10の対向面14には,外輪1の第1アキシアル軌道面9にそれぞれ対向する第2アキシアル軌道面15が形成されている。第1ラジアル軌道面7と第2ラジアル軌道面13との間には,複数のラジアル転動体であるラジアルころ16が転動可能に配設されている。第2ラジアル軌道面13は,例えば,径方向の断面がU状に形成されており,ラジアル荷重を受けるラジアルころ16の第1転動面26と,ラジアルころ16の両第1端面28に接してラジアルころ16を案内するガイド面44に形成されている。複数のラジアルころ16は,それらの第1転動面26が第2ラジアル軌道面13上を転動する際に,第1端面28が環状溝47の両側のガイド面44で案内されて確実に第1転動面26が第2ラジアル軌道面13上を転動することができる。また,第1アキシアル軌道面9と第2アキシアル軌道面15との間には,複数のアキシアル転動体であるアキシアルころ17が転動可能にそれぞれ配設されている。外輪1に形成された第1アキシアル軌道面9は,アキシアル荷重を受けるアキシアルころ17が転動する第2転動面27と,アキシアルころ17の一方の第2端面が接してアキシアルころ17を案内するガイド面45を有している。即ち,外輪1の内周部5には,外輪1の内周側に向かって低くなるL状の段部が形成され,段部の底面が第1アキシアル軌道面9であり,段部の側面がアキシアルころ17の一方の端面31と接するガイド面45になっている。
【0019】
また,内輪2は,軸方向に垂直な面で二分割された一対の分割輪3,4から構成されており,一方の分割輪3には第2ラジアル軌道面13と一方の第2アキシアル軌道面15が形成されており,他方の分割輪4には他方の第2アキシアル軌道面15が形成されている。即ち,内輪2には,一対の分割輪3,4が整合して固定されることによって凹部10が形成されている。内輪2が二分割されることによって,分割輪3には,第2ラジアル軌道面13と一方の第2アキシアル軌道面15とが容易に加工形成され,また,分割輪4には,他方の第2アキシアル軌道面15が容易に加工形成される。この実施例では,内輪2は上記のように分割輪3,4で形成されているが,軸方向に垂直な面での分割は,少なくとも一方の分割輪に一方のアキシアル軌道面が形成され,他方の分割輪に他方のアキシアル軌道面が形成されれば,軸方向のいずれの領域で分割しても良いものである。
【0020】
この発明による旋回軸受は,特に,ラジアルころ16には,ラジアルころ16を保持するリング状のラジアル用保持器18が,第1ラジアル軌道面7と第2ラジアル軌道面13に対して全周に第1隙間20を存して位置決め支持されており,アキシアルころ17には,アキシアルころ17を保持するリング状のアキシアル用保持器19が,第1アキシアル軌道面9と第2アキシアル軌道面15に対して全周に第2隙間21を存して位置決め支持されていることを特徴としている。言い換えれば,ラジアル用保持器18は,ラジアルころ16自体に位置決め支持され,外輪1と内輪2に全周にわたって接触しないように構成されているので,発熱の原因とはならず,しかも,摩擦抵抗の原因とならず,低発熱性で低トルク性を実現している。また,アキシアルころ17は,アキシアルころ17自体に位置決め支持され,外輪1と内輪2に全周にわたって接触しないように構成されているので,発熱の原因とはならず,しかも,摩擦抵抗の原因とならず,低発熱性で低トルク性を実現している。ラジアル用保持器18は,ラジアル荷重を受けるラジアルころ16を一定の間隔に保持するように配置されており,また,アキシアル用保持器19は,アキシアル荷重を受けるアキシアルころ17間を一定の間隔に保つように配置されている。また,ラジアル用保持器18とアキシアル用保持器は,例えば,ポリアミド66にガラスファイバを充填した樹脂でリング状に形成されており,ポリアミド66にガラスファイバを充填することにより,成形加工後の寸法変形を低減することができる。また,ポリアミド66よりもガラスファイバの方が熱伝導率が高いため,ポリアミド66のみで形成するより放熱性が高く,旋回軸受の使用時の温度上昇を抑制することができる。
【0021】
また,この旋回軸受において,ラジアル用保持器18は,ラジアルころ16をそれぞれ回転自在に収容可能な矩形状の複数の第1ポケット22を備えており,
図5に示すように,各第1ポケット22の内面には,ラジアルころ16の第1転動面26にそれぞれ当接する第1凸部24がそれぞれ形成されている。また,アキシアル用保持器19は,
図9及び
図10に示すように,アキシアルころ17をそれぞれ回転自在に収容可能な矩形状の複数の第2ポケット23をそれぞれ備えており,それぞれの第2ポケット23の内面には,アキシアルころ17の第2転動面27にそれぞれ当接する第2凸部25が形成されている。また,ラジアル用保持器18に形成された第1ポケット22は,ラジアルころ16の第1端面28が対向する一対の第1環状部29と,第1環状部29間に延び且つラジアルころ16の第1転動面26が対向する複数の第1柱部30から構成されている。一対の第1環状部29は,互いに径方向に偏倚即ち径方向に離間している。また,アキシアル用保持器19に形成された第2ポケット23は,アキシアルころ17の第2端面31が対向する一対の第2環状部32と,第2環状部32間に延び且つアキシアルころ17の第2転動面27が対向する複数の第2柱部33とから構成されている。また,この旋回軸受は,ラジアル用保持器18の第1柱部30とアキシアル用保持器19の第2柱部33には,第1柱部30と第2柱部33とをそれぞれ減肉する貫通孔又は肉抜き凹部等の肉抜き部34がそれぞれ形成されており,ラジアル用保持器18とアキシアル用保持器19とが軽量化するように形成されている。
【0022】
次に,
図4~
図7を参照して,ラジアル用保持器18を,具体的に説明する。ラジアルころ16に支持されるラジアル用保持器18は,概して,軸方向に平らな環状に形成されている。ラジアル用保持器18は,一対の第1環状部29と,第1環状部29を互いに連結する複数の第1柱部30を備えている。各第1柱部30は,ラジアル用保持器18の周方向に隔置して両端が第1環状部29に一体構造に形成され,第1柱部30間がラジアルころ16を回転自在に収容できる第1ポケット22に形成されている。各第1ポケット22は,ラジアルころ16の形状に対応する矩形状に形成されている。第1ポケット22の内面の第1環状部29には,ラジアルころ16の両第1端面28に当接する第1凸部24がそれぞれ形成されている。各第1ポケット22の外周側,内周側の周方向寸法はラジアルころ16の径よりも大きく形成されており,
図6( a) に示すように,ラジアル用保持器18の外周側及び内周側の両方にラジアルころ16が突出するように形成されている。ラジアルころ16の第1転動面26に対向する各第1ポケット22の内面の各第1柱部30には,内周側に向かって柱部30を次第に細くするようにテーパ面46が形成されている。これらの対向するテーパ面46の寸法は,ラジアルころ16の径よりも小さく設定されている。
図6(a)に示すように,当接部よりも内周側にラジアルころ16の径の最大位置を配置することにより,ラジアルころ16がラジアル用保持器18に支持される,いわゆるころ持たせの状態になっている。言い換えると,テーパ面46の位置よりラジアルころ16の配列位置のP.C.D.(Pitch Circle Diameter) が内周側になっている。ラジアルころ16の両第1端面28に対向する第1ポケット22の内面の第1環状部29には,ラジアルころ16の両第1端面28に当接可能な第1凸部24が形成されている。第1凸部24以外の第1環状部29は,ラジアルころ16に接触しないように形成されている。これらの第1凸部24がラジアルころ16の第1端面28に当接することにより,ラジアル用保持器18の軸方向をラジアルころ16の位置に位置決めできるようになっている。即ち,ラジアル用保持器18は,第1環状部29にはそれぞれ形成された第1凸部24と,ラジアルころ16の径より小さい間隔に形成された第1柱部30にそれぞれ形成されたテーパ面46とによって,ラジアルころ16に載置状態になってラジアルころ16に位置決め支持されている。また,第1環状部29とラジアルころ16の間には,
図5に示すような,隙間Sが形成されており,これらの隙間Sにより潤滑剤が流れ易くなっている。
【0023】
また,ラジアル用保持器18の各第1柱部30は,
図5に示すように,一方の端面が第1環状部29に一体構造に形成され,他方の端面が他方の第1環状部29に一体構造に形成されている。
図6(c)に示すように,第1環状部29の一方の側面が接合する側の第1柱部30の端部には,傾斜面37が形成され,組み立て時等にラジアル用保持器18の第1柱部30が他にぶつかり破損しないように形成されている。また,
図3(b)の断面図に示すように,傾斜面37により,第1ラジアル軌道面7側に第1隙間20がookiku形成されるため,内輪2と外輪1とが相対的に回転する旋回時に,熱が逃げ易く形成されている。一対の第1環状部29は,
図6(b)に示すように,ラジアル用保持器18の径方向に互いにずらし,言い換えると,内周側と外周側とがそれぞれオフセットして形成されている。これにより,例えば,ラジアル用保持器18の軸方向に2分割の金型でラジアル用保持器18を射出成形する場合に,ラジアル用保持器18に金型がぶつからないように軸方向に離型することができるように形成されている。各第1柱部30には,
図6(c)に示すように,軸方向に貫通する,例えば,長穴状の貫通孔が形成されており,貫通孔の分だけ第1柱部30を減肉され,第1柱部30が撓み易くなっている。これにより,ラジアル用保持器18の外周側からラジアルころ16を第1ポケット22に挿入する際に,第1柱部30を弾性変形させて,第1ポケット22の開口を広げてラジアルころ16を挿入し易くなっている。なお,貫通孔の大きさを変えることで,第1柱部30の撓み量を調整できるようになっている。また,例えば,本実施例のように,第1環状部29より第1柱部30の方が厚く形成されると,厚みの違いによって成型時に,引き,そり等が生じるおそれがある。しかし,本実施例によれば,貫通孔の分だけ第1柱部30を薄く形成しているため,成形時の引き,そり等を抑制できる。また,ラジアル用保持器18の配置向きは,
図7(a)のように,外周側に位置する第1環状部29が平板状の分割輪4側になるよう配置することが好ましい。これにより,第1環状部29と内輪2との間の第1隙間20を大きく形成することができるため,第1隙間20に工具等を差し込んで,径方向にラジアル用保持器18を持ち上げて,内輪2からころを外すことができるようになっている。これに反し,
図7(b)のように,ラジアル用保持器18の内周側に位置する第1環状部29が分割輪4側になるよう配置すると,第1環状部29と内輪2との間の第1隙間20が小さく工具等を差し込めないため,ラジアル用保持器18を外すことが難しくなる。
【0024】
また,
図8~
図12を参照して,アキシアル用保持器19について,具体的に説明する。アキシアル用保持器19は,概して,径方向に平らな環状に形成されている。アキシアル持器19は,複数のアキシアルころ17が転動自在に収容される複数の第2ポケット23が形成されている。
図9(a)に示すように,各第2ポケット23は,アキシアルころ17の形状に対応する矩形状に形成され,一対の第2環状部32と,該第2環状部32を連結する複数の第2柱部33で形成されている。各第2柱部33は,アキシアル用保持器19の周方向に隔置して配置され,第2柱部33間がアキシアルころ17を回転自在に収容可能な第2ポケット23が形成されている。各第2ポケット23の内面の第2環状部32には,アキシアルころ17の両端面に当接する第2凸部25が形成されて,第2凸部25以外がアキシアルころ17に接触しないように形成されている。
図9(b)に示すように,アキシアル用保持器19の一面側でさる表面42には,第2柱部33を減肉する凹部の肉抜き部34が形成され,他面側である裏面43には,アキシアル用保持器19の径方向に離間して形成された一対の係止突起部40(総称39)と中央部に係止突起部41(総称39)が形成されている。第2柱部33を減肉する凹部の肉抜き部34により,第2柱部33が弾性変形し易くなり,撓み易くなっている。これにより,アキシアルころ17を第2ポケット23に挿入する際に第2柱部33を弾性変形させて,アキシアルころ17を容易に挿入することができる。
【0025】
この旋回軸受について,具体的には,アキシアル用保持器19は,第2環状部32にそれぞれ形成された第2凸部25と,第2柱部33にそれぞれ形成されたアキシアルころ17の第2転動面27に沿って互いに逆方向に延びて突出する複数の係止突起部39とによってアキシアルころ17に位置決め支持されている。一対の係止突起部39の間は凹状のグリース溜まり38に形成されている。各係止突起部39には,
図10(b)に示すように,第2ポケット23に向かって突出する一対の第1の係止突起部40が形成され,第2ポケット23の裏面43側の中央部には,突出する第2の係止突起部41が形成されている。即ち,アキシアル用保持器19の第2柱部33に形成された係止突起部40と係止突起部41とは,第2ポケット23に配設されるアキシアルころ17の第2転動面27に沿って互いに逆方向にそれぞれ延びて突出し,それによって,アキシアルころ17を抱持状態にし,アキシアル用保持器19がアキシアルころ17に位置決め支持されている。これにより,
図12に示すように,係止突起40と係止突起41との間に,アキシアルころ17を挿入することにより,第2ポケット23にアキシアルころ17を回転自在に保持可能になっている。言い換えると,アキシアル用保持器19の表面42,裏面43のそれぞれにアキシアルころ17の一部が突出しているため,アキシアル用保持器19は,アキシアルころ17に保持される,いわゆる,ころ持たせになっている。そのため,第1アキシアル軌道面9及び第2アキシアル軌道面15との間にアキシアルころ17を配置する際に,予めアキシアルころ17を保持させたアキシアル用保持器19を配置することにより,アキシアルころ17を第1と第2アキシアル軌道面9,15との間に配置できるようになっている。また,
図12に示すように,アキシアル用保持器19の表裏面42,43に,アキシアルころ17を突出させることにより,アキシアル用保持器19が内外輪1,2に接しないようにころ持たせになっている。上述したように,本実施例の旋回軸受によれば,ラジアル用保持器18とラジアルころ16,アキシアル用保持器19とアキシアルころ17との接触面積を可能な限り削減し,かつ,内外輪1,2にアキシアル用保持器19が接触しないように形成しているため,摩擦による発熱やトルク増加を低減できる。その結果,高速仕様に好適な旋回軸受を提供できる。なお,本実施例は,ラジアル用保持器18及びアキシアル用保持器19を一連のリングに形成しているが,円弧状に分割した部材を複数組み合わせて各保持器をリング状に形成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明による旋回軸受は,マシニングセンタ等の工作機械,複合荷重を受ける関節部,旋回部,揺動部等の旋回部を備えた産業用ロボット,測定・検査装置,医療機器,光学機器等の各種装置の旋回部に組み込んで使用して好ましいものである。
【符号の説明】
【0027】
1 外輪
2 内輪
3,4 分割輪
5 内周部
6 内周面
7 第1ラジアル軌道面
8 端面
9 第1アキシアル軌道面
10 凹部
11 外周部
12 底面
13 第2ラジアル軌道面
14 対向面
15 第2アキシアル軌道面
16 ラジアルころ(ラジアル転動体)
17 アキシアルころ(アキシアル転動体)
18 ラジアル用保持器
19 アキシアル用保持器
20 第1隙間
21 第2隙間
22 第1ポケット
23 第2ポケット
24 第1凸部
25 第2凸部
26 第1転動面
27 第2転動面
28 第1端面
29 第1環状部
30 第1柱部
31 第2端面
32 第2環状部
33 第2柱部
34 肉抜き部
39.40,41 係止突起部
44,45 ガイド面
46 テーパ面