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特許7186603セパレータ用コーティング液、セパレータの製造方法、及び該製造方法から得られたセパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】セパレータ用コーティング液、セパレータの製造方法、及び該製造方法から得られたセパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/423 20210101AFI20221202BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20221202BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20221202BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20221202BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20221202BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20221202BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20221202BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20221202BHJP
【FI】
H01M50/423
H01M50/403 D
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/489
H01M50/417
H01G11/84
H01G11/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018241757
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2020102427
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】赤松 哲也
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特許第7018945(JP,B2)
【文献】特開2012-209181(JP,A)
【文献】特開2013-200965(JP,A)
【文献】国際公開第2012/018132(WO,A1)
【文献】特開2001-023600(JP,A)
【文献】特開2005-067363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01G 11/84
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフェニレンジアミン、共重合ジアミン、及びパラテレフタル酸ジクロリドを共重合させたパラ系共重合芳香族ポリアミド、
粒子、並びに
有機溶剤
を含み、
前記共重合ジアミンが、全ジアミン成分に占める重量割合で25~75質量%の範囲にあり、かつ、3,3’オキシジフェニレンジアミン、3,4’オキシジフェニレンジアミン、又は4,4’オキシジフェニレンジアミンであり、
前記粒子が、固形分換算で25体積%以上含まれており、
前記パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量が、45,000~200,000であり、かつ、
前記パラ系共重合芳香族ポリアミドの濃度が、3.5質量%以上である、
セパレータ用コーティング液。
【請求項2】
粘度が、1~7,000mPa・sである、請求項1に記載のコーティング液。
【請求項3】
前記粒子の含有量が、25体積%~74体積%である、請求項1又は2に記載のコーティング液。
【請求項4】
前記粒子が、無機粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコーティング液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のコーティング液を、シャットダウン機能を有する基材に塗工して、該基材上に塗工層を形成し、
前記塗工層を備える基材を凝固浴中に浸漬し、該塗工層を凝固させて粒子含有樹脂層を調製してセパレータを形成する、
セパレータの製造方法。
【請求項6】
粒子含有樹脂層、及びシャットダウン機能を有する基材を備え、
前記粒子含有樹脂層が、パラフェニレンジアミン、共重合ジアミン、及びパラテレフタル酸ジクロリドを共重合させたパラ系共重合芳香族ポリアミド、並びに粒子を含み、
前記共重合ジアミンが、全ジアミン成分に占める重量割合で25~75質量%の範囲にあり、かつ、3,3’オキシジフェニレンジアミン、3,4’オキシジフェニレンジアミン、又は4,4’オキシジフェニレンジアミンであり、
前記粒子が、25体積%以上含まれており、
前記パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量が、45,000~200,000であり、かつ、
150℃の循環器乾燥機内に1時間保管し、加熱乾燥前後の寸法変化から算出したMD方向及びTD方向の熱収縮率から求めた熱収縮率の平均値が、10.0%以下である、
セパレータ。
【請求項7】
前記基材が、ポリオレフィン製の不織布又は多孔質フィルムである、請求項6に記載のセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セパレータ用コーティング液、セパレータの製造方法、及び該製造方法から得られたセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ化ビニリデン等の耐熱性を有する高分子ポリマーは、電池、コンデンサー、電気二重層キャパシタ等の各種電子部材等の材料として広く用いられている。また、例えば、電池の電極間の隔壁材料であるセパレータにおいては、その要求特性として、電解質を保持した状態での高いイオン伝導性、高い電極間遮蔽性、低い内部抵抗などが挙げられている。また、特に、電気容量の大きい二次電池においては、短絡時の発熱、発火を抑制することも求められている。
【0003】
このような発熱等の不具合を抑制するために、例えば、シャットダウン機能を有するポリエチレン多孔膜などが採用されている。係る多孔膜は、短絡時の発熱等で融解して孔を塞ぐため、リチウムイオン等のイオン物質を遮蔽することができる。しかしながら、このシャットダウン機能は、セパレータ材料であるポリエチレン多孔膜の熱融解によるものであるため、電池内で発生した熱によって多孔膜全体が収縮すると、リチウムイオンを十分に遮蔽できない場合がある。
【0004】
このような事態に対処するために、熱収縮性を呈するポリエチレン多孔膜等のセパレータ材料に対して耐熱性の樹脂層を適用する技術が用いられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、低分子量のポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)、粒子及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を含む溶液を、ポリエチレン多孔膜に塗工し、凝固及び乾燥させて得られるセパレータが開示されている。
【0006】
特許文献2には、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(MPIA)を含む層及びポリエチレン多孔膜を備える電池用セパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2012/018132号
【文献】特許第4588136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で使用されているPPTAは、熱安定性の高いポリマーではあるが、使用することが難しかった。具体的には、PPTAは、剛直なポリマー構造、及び高い水素結密度又は分子間力密度を有することから、NMP中の溶液の状態では、ポリマー分子が相互に引き付けられてドメインを形成して結晶化しやすく、短時間で結晶化に伴うゲル化が生じてしまうため、保存安定性が悪かった。そのため、PPTAを使用する場合には、ポリマー重合した後に速やかに塗工を完了する必要があった。さらに、PPTAとともに粒子を含む系の場合には、混練で生じるせん断によりポリマー配向が進み、結晶化及びゲル化が促進されるため、塗工することがより一層困難であった。その結果、PPTA及び粒子を含むコーティング液を使用した場合、塗工ムラ等に基づく欠陥が発生しやすく、生産性に劣り、十分な耐熱収縮性が得られない場合があった。
【0009】
特許文献2で使用されているMPIAも、熱安定性の高いポリマーである。また、このポリマーは、NMPへの溶解安定性に優れておりゲル化しにくいため、ポリエチレン多孔膜等のセパレータ材料へのコーティング液として使用することができる。しかしながら、係るコーティング液を塗工したセパレータ材料の耐熱性、特に、150℃程度の高温雰囲気下における耐熱収縮性については十分な結果が得られていなかった。
【0010】
この他、熱安定性の高いポリマーとして、パラ系共重合芳香族ポリアミドが知られている。しかしながら、この材料は、一般に、繊維材料として使用されるものであり、セパレータ材料用のコーティング液として使用されることはこれまでになかった。
【0011】
したがって、本開示の主題は、塗工性及び保存安定性に優れるセパレータ用コーティング液、該コーティング液からセパレータを製造する方法、並びに該方法から得られる耐熱収縮性に優れるセパレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
〈態様1〉
パラフェニレンジアミン、共重合ジアミン、及びパラテレフタル酸ジクロリドを共重合させたパラ系共重合芳香族ポリアミド、
粒子、並びに
有機溶剤
を含み、
前記共重合ジアミンが、全ジアミン成分に占める重量割合で25~75質量%の範囲にあり、かつ、3,3’オキシジフェニレンジアミン、3,4’オキシジフェニレンジアミン、又は4,4’オキシジフェニレンジアミンであり、
前記粒子が、固形分換算で25体積%以上含まれており、
前記パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量が、45,000~200,000であり、かつ、
前記パラ系共重合芳香族ポリアミドの濃度が、3.5質量%以上である、
セパレータ用コーティング液。
〈態様2〉
粘度が、1~7,000mPa・sである、態様1に記載のコーティング液。
〈態様3〉
前記粒子の含有量が、25体積%~74体積%である、態様1又は2に記載のコーティング液。
〈態様4〉
前記粒子が、無機粒子である、態様1~3のいずれかに記載のコーティング液。
〈態様5〉
態様1~4のいずれかに記載のコーティング液を、シャットダウン機能を有する基材に塗工して、該基材上に塗工層を形成し、
前記塗工層を備える基材を凝固浴中に浸漬し、該塗工層を凝固させて粒子含有樹脂層を調製してセパレータを形成する、
セパレータの製造方法。
〈態様6〉
粒子含有樹脂層、及びシャットダウン機能を有する基材を備え、
前記粒子含有樹脂層が、パラフェニレンジアミン、共重合ジアミン、及びパラテレフタル酸ジクロリドを共重合させたパラ系共重合芳香族ポリアミド、並びに粒子を含み、
前記共重合ジアミンが、全ジアミン成分に占める重量割合で25~75質量%の範囲にあり、かつ、3,3’オキシジフェニレンジアミン、3,4’オキシジフェニレンジアミン、又は4,4’オキシジフェニレンジアミンであり、
前記粒子が、25体積%以上含まれており、
前記パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量が、45,000~200,000であり、かつ、
150℃における熱収縮率が、10.0%以下である、
セパレータ。
〈態様7〉
前記基材が、ポリオレフィン製の不織布又は多孔質フィルムである、態様6に記載のセパレータ。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、塗工性及び保存安定性に優れるセパレータ用コーティング液、該コーティング液からセパレータを製造する方法、並びに該方法から得られる耐熱収縮性に優れるセパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0015】
本開示の一実施態様のセパレータ用コーティング液は、パラフェニレンジアミン、共重合ジアミン、及びパラテレフタル酸ジクロリドを共重合させたパラ系共重合芳香族ポリアミド、粒子、並びに有機溶剤を含み、共重合ジアミンが、全ジアミン成分に占める重量割合で25~75質量%の範囲にあり、かつ、3,3’オキシジフェニレンジアミン、3,4’オキシジフェニレンジアミン、又は4,4’オキシジフェニレンジアミンであり、粒子が、固形分換算で25体積%以上含まれており、パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量が、45,000~200,000であり、かつ、パラ系共重合芳香族ポリアミドの濃度が、3.5質量%以上である。
【0016】
本開示のコーティング液は、セパレータ材料に対する塗工性及び保存安定性に優れ、かつ、係るコーティング液から得られる粒子含有樹脂層を備えるセパレータは、粒子保持性及び高温雰囲気下における耐熱収縮性に優れる。原理によって限定されるものではないが、本開示のコーティング液の作用原理は、以下のとおりであると考える。
【0017】
本開示のコーティング液において使用するパラ系共重合芳香族ポリアミドが、分子内に屈曲構造を導入し得る特定の共重合ジアミン成分を特定量含んでいるため、有機溶剤への溶解性及び保存安定性に優れるとともに、粒子を25体積%以上含む粒子含有樹脂層が脆化せずに、粒子を保持し得るような十分な強度及び柔軟性が得られるものと考えている。粒子含有樹脂層が脆化せずに、十分な強度及び柔軟性を有する理由は明らかではないが、本発明者らは以下のように考察している。
【0018】
本開示のパラ共重合芳香族ポリアミドを解析した結果、構成するジアミン成分は、ほぼランダム共重合となっている可能性が高いことが分かった。そのため、ポリパラフェニレンテレフタルアミド構造部が相互作用により近接してドメインを形成する一方で、3,4’オキシジフェニレンジアミン等の共重合ジアミン成分を構成要素とする部分はソフトセグメントを形成し、このソフトセグメントが有機溶剤中で自由に拡散して網目構造を形成するため、粒子を内包しても柔軟性等の性能が維持できるものと考えている。その結果、本開示のパラ共重合芳香族ポリアミドは、有機溶剤、特に、親和性を有するNMPなどの極性溶媒中で安定的に存在することができるため、塗工性に優れていると考えている。
【0019】
コーティング液の塗工性又は塗工層の薄膜化を考慮した場合、一般に、コーティング液のポリマー濃度を薄くして低粘度化することが考えられる。しかしながら、本開示のコーティング液の場合、ポリマー濃度を薄くし過ぎると、高温環境下における耐熱収縮性が低下する傾向にあった。この理由については、本発明者らは以下のように考察している。
【0020】
まず、粒子含有樹脂層によるセパレータ材料であるポリエチレン多孔膜等の熱収縮の抑制は、ポリエチレン多孔膜上に形成された粒子含有樹脂層中の複数の粒子が、相互に近接しているため、ポリエチレン多孔膜が熱収縮しようとしても、その上に形成されている粒子含有樹脂層中の複数の粒子同士が衝突して収縮に伴う移動を阻害するため、ポリエチレン多孔膜の収縮を抑制するものと考えている。
【0021】
パラ共重合芳香族ポリアミドの塗工膜は、一般に、基材に塗工した後に、係る基材を、例えば、水及び極性溶媒を含む凝固浴中に浸漬させて、パラ共重合芳香族ポリアミドを凝固させることによって得られている。この工程を経たパラ共重合芳香族ポリアミド層は、表面付近でのバイノーダル分解、及び層内部でのスピノーダル分解を経由して凝固すると考えられている。したがって、層全体としては、大部分においてスピノーダル分解、即ち、層中に微小な凝固液に基づく分散部分(樹脂が形成されていない部分)が生じているものと考えられる。この分散部分の割合が大きい場合、内包される粒子はこの分散部分で移動しやすくなるため、ポリエチレン多孔膜の収縮を抑制しにくくなるものと考えられる。逆に、この分散部分の割合が小さければ、内包される粒子の移動が抑制されるため、ポリエチレン多孔膜の収縮を抑制しやすくなるものと考えられる。
【0022】
そして、コーティング液中のポリマー濃度が高まると、スピノーダル分解による凝固液の分散部分の割合が少なくなるため、ポリマーの緻密性が向上し、その結果、粒子含有樹脂層中の粒子の移動が抑制されるため、耐熱収縮性が向上するものと考えている。
【0023】
一方、ポリマー濃度が高まると、コーティング液の粘度が上昇するため、塗工性が低下する場合がある。本開示のコーティング液は、パラ共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量を特定の範囲にしているため、ポリマー濃度が高い状態であっても低粘度化して塗工性を向上させ得るとともに、粒子を保持し得る程度の樹脂強度も有する粒子含有樹脂層が形成されるものと考えている。また、ポリマーの分子量は、ポリマー間の水素結合又は分子間力にも影響を及ぼし得るため、特定範囲の分子量を有するパラ共重合芳香族ポリアミドの使用は、ポリマーの緻密性(パッキング性)、即ち、耐熱収縮性にも貢献しているものと考えている。
【0024】
《セパレータ用コーティング液》
〈ポリマー濃度〉
本開示のセパレータ用コーティング液(単に「コーティング液」という場合がある。)は、塗工性、得られる樹脂膜の緻密性(パッキング性)、耐熱収縮性等の観点から、パラ系共重合芳香族ポリアミドの濃度(単に「ポリマー濃度」という場合がある。)を、3.5質量%以上、3.7質量%以上、又は3.9質量%以上とすることができる。ポリマー濃度の上限値については特に制限はないが、例えば、10.0質量%以下、8.0質量%以下、又は6.0質量%以下とすることができる。
【0025】
〈粘度〉
本開示のコーティング液の粘度は、塗工装置の性能、塗工膜の厚さ等を考慮し適宜調整すればよく特に制限はないが、例えば、常温下において、1mPa・s以上、10mPa・s以上、50mPa・s以上、又は100mPa・s以上にすることができ、また、7,000mPa・s以下、5,000mPa・s以下、3,000mPa・s以下、2,000mPa・s以下、1,500mPa・s以下、又は1,000mPa・s以下にすることができる。ここで、本開示において常温とは、10~30℃の温度範囲を意図することができる。
【0026】
〈パラ系共重合芳香族ポリアミド〉
本開示のパラ系共重合芳香族ポリアミドは、有機溶剤への溶解性、コーティング液の保存安定性等の観点から、パラフェニレンジアミン、共重合ジアミン、及びパラテレフタル酸ジクロリドの共重合成分を含んでいる。この共重合ジアミンとしては、3,3’オキシジフェニレンジアミン、3,4’オキシジフェニレンジアミン又は4,4’オキシジフェニレンジアミンを挙げることができ、中でも、分子鎖の屈曲性の高い、3,4’オキシジフェニレンジアミン又は4,4’オキシジフェニレンジアミンが好ましく、3,4’オキシジフェニレンジアミンが特に好ましい。
【0027】
(共重合ジアミンの割合)
全ジアミン成分中に占める共重合ジアミンの割合としては、有機溶剤への溶解性、樹脂強度等の観点から、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上又は40質量%以上にすることができ、また、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下にすることができる。
【0028】
(分子量)
パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量(Mw)としては、45,000以上、48,000以上、55,000以上、又は60,000以上とすることができ、また、200,000以下、190,000以下、180,000以下、又は170,000以下とすることができる。このような範囲の重量平均分子量を有するパラ系共重合芳香族ポリアミドは、コーティング液を低粘度化しやすく塗工性を向上させ得るとともに、得られる樹脂自体の強度及び耐熱収縮性にも優れるため、粒子の保持性(耐脱落性)を向上させることができる。重量平均分子量は、例えば、後述するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0029】
パラ系共重合芳香族ポリアミドの数平均分子量(Mn)としては、コーティング液の塗工性、樹脂強度、耐熱収縮性等の観点から、20,000以上、25,000以上、28,000以上、又は30,000以上とすることができ、また、100,000以下、90,000以下、80,000以下、又は70,000以下とすることができる。数平均分子量も、例えば、後述するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0030】
パラ系共重合芳香族ポリアミドは、コーティング液の塗工性、樹脂強度、耐熱収縮性等の観点から、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)(単に「分子量分布」という場合がある。)を、5.0以下、4.5以下、又は4.0以下とすることができ、また、1.0以上、1.15以上、又は1.25以上とすることができる。
【0031】
(分子量の調製方法)
上述した重量平均分子量等を有するパラ系共重合芳香族ポリアミドは、係る芳香族ポリアミドを得るときの重合の制御によって調製してもよく、又は分子量の大きいパラ系共重合芳香族ポリアミドを低分子量化することで調製してもよい。前者の重合の制御による方法では、通常の分子量のパラ系共重合芳香族ポリアミドの製造プロセスを大きく変更することが必要になることに加え、分子量の細やかな制御が困難であることから、後者の低分子量化処理による方法が好ましい。
【0032】
低分子量化処理は、例えば、アルカリへの浸漬処理又は酸への浸漬処理によりパラ系共重合芳香族ポリアミドの分子鎖を切断することにより行う。酸への浸漬処理では、係る芳香族ポリアミドの分解反応が起こりにくく、厳しい反応温度や反応時間を設定する必要がある。このため、比較的穏やかな条件で低分子量化することのできるアルカリへの浸漬処理による方法が好ましい。この方法を用いることで、分子量の均一な分布を損なうことなく効果的に低分子量化することができる。
【0033】
また、アルカリへの浸漬処理であれば、浸漬条件を適宜設定することで、共通の高分子量のパラ系共重合芳香族ポリアミドから、様々な重量平均分子量等のパラ系共重合芳香族ポリアミドを得ることができる。
【0034】
アルカリへの浸漬処理により低分子量化する方法における各種の条件については、パラ系共重合芳香族ポリアミドの分解、プロセスコスト等を考慮し、適宜調整すればよく特に制限はない。例えば、浸漬処理の温度は、80~140℃とすることができ、アルカリの濃度は、アルカリとしてNaOHを用いる場合には、1~10質量%とすることができ、浸漬時間は、30分間~2時間とすることができる。
【0035】
〈粒子〉
粒子としては、パラ系共重合芳香族ポリアミドと混合した際に溶解せず、粒子形状を保持し得るものであれば特に限定はない。粒子は、単独で又は複数組み合わせて使用することができる。
【0036】
(配合量)
本開示のコーティング液は、粒子を固形分換算で25体積%以上含有するものである。さらにはこの粒子の含有量としては、耐熱収縮性、通気性等の観点から、30体積%以上、又は35体積%以上であることが好ましい。粒子の含有量の上限値については特に制限はないが、例えば、80体積%以下、特に、最密充填となる74体積%以下、70体積%以下、65体積%以下、60体積%以下、55体積%未満、又は50体積%以下とすることができる。
【0037】
コーティング液が、このような範囲で粒子を含むと、得られる粒子含有樹脂層は、多孔質化しやすくなるため、セパレータとして使用された場合に、必要なイオンの移動を阻害することなく、セパレータの耐熱収縮性等の性能を向上させることができる。
【0038】
さらに粒子の比重にもよるが、粒子の重量比率としては、固形分換算で、50質量%以上、54質量%以上、又は58質量%以上とすることができ、また、95質量%以下、88質量%以下、又は85質量%以下とすることができる。
【0039】
(粒子の材料)
本開示の粒子の材料としては、例えば、無機材料、溶解しにくい結晶性のポリマーのような有機材料などを挙げることができる。中でも、耐熱収縮性、化学的安定性等の観点から、無機材料であることが好ましい。
【0040】
このような無機材料としては、例えば、電気絶縁性の無機材料、具体的には、無機系の酸化物、窒化物、炭酸塩、水酸化物若しくは硫化物、半導体元素若しくは半導体化合物等の半導体材料、各種鉱物などを挙げることができる。
【0041】
より具体的には、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)などの酸化物;窒化ケイ素(シリコンナイトライド)、窒化アルミニウム(アルミニウムナイトライド)、窒化ホウ素(ボロンナイトライド)などの窒化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化物;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムなどの硫化物;シリコン、シリコンカーバイト(SiC)、ゲルマニウムなどの半導体材料;カーボンブラック、ダイヤモンド、グラフェン、フラーレン;マイカ、カオリン、タルク、クレー、ハイドロタルサイト、ゼオライト、珪藻土などの鉱物;ガラスなどを挙げることができる。中でも、酸化アルミニウム(アルミナ)などの酸化物が好ましい。
【0042】
(粒子径)
粒子の大きさは、耐熱収縮性等の要する性能に応じて適宜選定すればよく、特に制限されるものではない。例えば、粒子の平均粒子径としては、0.01μm以上、0.05μm以上、又は0.1μm以上とすることができ、また、50μm以下、10μm以下、5μm以下、又は2μm以下とすることができる。ここで、平均粒子径は、例えば、動的光散乱法を用いて求めることができる。
【0043】
本開示の粒子としては、平均粒子径の異なる複数種の粒子を使用することができる。平均粒子径の異なる二種以上の粒子を使用することによって、粒子がより高充填された粒子含有樹脂層を得ることができる。ここで、平均粒子径の異なる複数種の粒子が含まれていることは、例えば、粒度分布を測定することによって確認することができる。例えば、平均粒子径の異なる二種類の粒子がコーティング液中に含まれている場合には、粒度分布のグラフにおいて二峰性のピークが測定される。即ち、粒度分布のグラフにおけるピークの数から、平均粒子径の異なる粒子が、何種類含まれているかを確認することができる。
【0044】
(形状)
粒子の形状は、耐熱収縮性を呈し得る限り特に制限はない。例えば、球形状、ラグビーボールのような楕円形状、くびれのあるひょうたん形状、板形状、多角形状などを挙げることができる。なお、粒子の形状が、球形以外の場合は、粒子における最大長を示す方向の長さをその粒径とする。
【0045】
〈有機溶剤〉
有機溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で使用してもよく、或いは二種以上の混合溶媒として使用してもよい。中でも、汎用性、取り扱い性、溶解性等の観点から、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)であることが好ましい。また、有機溶剤は、脱水されていることが好ましい。
【0046】
〈任意成分〉
本開示のコーティング液は、本開示の効果に悪影響を及ぼさない範囲において、任意に、熱安定剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、分散剤、粘度調整剤などの各種の添加剤を配合することができる。
【0047】
《セパレータの製造方法》
本開示のセパレータは、例えば、以下のような方法によって製造することができる。
【0048】
有機溶剤中にパラ系共重合芳香族ポリアミドを溶解させた後に粒子を添加し、必要に応じて脱泡してコーティング液を調製する。係るコーティング液を、シャットダウン機能を有する基材に塗工して、該基材上に塗工層を形成する。次いで、この塗工層を備える基材を凝固浴中に浸漬し、該塗工層を凝固させて粒子含有樹脂層を調製して、セパレータを形成することができる。
【0049】
(塗工工程)
基材への塗工手段としては、特に制限はなく公知の塗工手段を採用することができる。例えば、グラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、ナイフコート、キャストコートなどの手段を採用することができる。
【0050】
(凝固工程)
塗工層を備える基材を浸漬する凝固浴としては、例えば、水、又は上述した有機溶剤と水との混合物などを使用することができる。混合物を使用する場合、有機溶剤の配合比率としては、特に制限はないが、例えば、1質量%以上、2質量%以上、又は3質量%以上とすることができ、また、10質量%以下、7質量%以下、又は5質量%以下とすることができる。
【0051】
凝固浴の温度としては、特に制限はないが、例えば、10℃以上、15℃以上、又は20℃以上とすることができ、また、40℃以下、35℃以下、又は30℃以下とすることができる。
【0052】
(任意の工程)
本開示のセパレータの製造方法において、任意に、例えば、水洗工程、乾燥工程などを採用することができる。
【0053】
水洗工程は、例えば、粒子含有樹脂層を備える基材を水浴中に浸漬することによって実施することができる。水洗工程を実施すると、粒子含有樹脂層内の有機溶剤又は凝固用などに用いられる塩成分(例えば、塩化カルシウム、塩化リチウム)を抽出除去することができる。
【0054】
乾燥工程における乾燥手段としては、粒子含有樹脂層、基材等に対して悪影響を及ぼさず、かつ、粒子含有樹脂層等を十分に乾燥し得る限り特に制限はなく、公知の乾燥手段を採用することができる。例えば、赤外線ヒーター等の加熱ヒーター、熱風などを採用することができる。
【0055】
乾燥工程を実施することによって、得られる粒子含有樹脂層における樹脂の緻密性(パッキング性)をより向上させることができる。
【0056】
加熱温度(設定温度)としては、特に制限はないが、例えば、50℃以上、55℃以上、又は60℃以上とすることができ、また、100℃以下、90℃以下、又は80℃以下とすることができる。
【0057】
乾燥時間としては、特に制限はないが、例えば、1分以上、10分以上、30分以上、1時間以上、又は5時間以上とすることができ、また、24時間以下、20時間以下、又は15時間以下とすることができる。
【0058】
《セパレータ》
上述したコーティング液を用いて製造される本開示のセパレータは、シャットダウン機能を有する基材の少なくとも片面に、特定量の粒子及び特定の樹脂を含む粒子含有樹脂層を備え、150℃における熱収縮率を10.0%以下にすることができる。また、係るセパレータは、特定の粒子含有樹脂層を備えるため、短絡時の発熱や発火を抑制することもできる。その結果、本開示のセパレータは、例えば、小型、軽量、高容量で長期保存にも耐える高性能な電池、コンデンサー、電気二重層キャパシタ用のセパレータ部材として使用することができる。特に、本開示のセパレータを、二次電池のセパレータとして使用することが好ましい。
【0059】
〈セパレータの厚さ〉
本開示のセパレータの厚さとしては、特に制限はないが、例えば、5μm以上、10μm以上、又は15μm以上とすることができる。セパレータの厚さの上限値については特に制限はないが、例えば、100μm以下、70μm以下、50μm以下、又は30μm以下とすることができる。
【0060】
〈セパレータの特性〉
(熱収縮率)
本開示のセパレータは、後述する150℃の熱収縮率試験において、10.0%以下、8.0%以下、又は6.0%以下の熱収縮率を達成することができる。係る熱収縮率の下限値について特に制限はないが、例えば、0.0%以上、0.0%超、0.5%以上、又は1.0%以上とすることができる。
【0061】
(Δ通気度)
本開示のセパレータは、通気性能を有している。係る通気性能は、例えば、後述する通気度試験から得られるΔ通気度によって評価することができる。ここで、「Δ通気度」とは、係る試験によって得られたセパレータの通気度から、セパレータに使用する基材単体の通気度を差し引いた値を意味している。
【0062】
本開示のセパレータのΔ通気度としては、例えば、150秒/100cc以下、120秒/100cc以下、又は100秒/100cc以下とすることができる。Δ通気度の下限値については特に制限はないが、例えば、25秒/100cc以上、30秒/100cc以上、又は35秒/100cc以上とすることができる。
【0063】
〈粒子含有樹脂層〉
本開示のセパレータにおける粒子含有樹脂層は、上述したコーティング液から得られるものであり、パラフェニレンジアミン、共重合ジアミン、及びパラテレフタル酸ジクロリドを共重合させたパラ系共重合芳香族ポリアミド、並びに粒子を含んでおり、共重合ジアミンが、全ジアミン成分に占める重量割合で25~75質量%の範囲にあり、かつ、3,3’オキシジフェニレンジアミン、3,4’オキシジフェニレンジアミン、又は4,4’オキシジフェニレンジアミンであり、また、粒子は、25体積%以上含まれており、パラ系共重合芳香族ポリアミドは、45,000~200,000の重量平均分子量を有している。ここで、粒子含有樹脂層中の粒子の体積含有比率(体積%)は、粒子含有樹脂層中に存在するパラ系共重合芳香族ポリアミドの体積と粒子の体積の合計量に対する粒子の体積の比率である。すなわち粒子含有樹脂層中の空隙等は除いた固体体積中の存在比率となる。
【0064】
本開示の粒子含有樹脂層は、所定量の粒子を含むとともに、上述の凝固工程等を経て形成されることから、層内に空隙を有する多孔構造となっている。したがって、リチウムイオンバッテリーなどの二次電池のセパレータに使用した場合には、リチウムイオンが粒子含有樹脂層の空隙を移動することができる。粒子含有樹脂層内の空隙は、主に粒子とポリマーとの間隙に発生するものである。
【0065】
〈粒子含有樹脂層の厚さ〉
粒子含有樹脂層の厚さとしては、特に制限はないが、耐熱収縮性等の観点から、例えば、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上とすることができ、また、50μm以下、30μm以下、20μm以下、又は15μm以下とすることができる。
【0066】
〈基材〉
本開示のセパレータで使用する基材としては、シャットダウン機能を有する基材であれば特に制限はなく、例えば、不織布又は多孔質フィルムなどを挙げることができる。これらの基材は、単独で使用してもよく、或いは二層以上組み合わせて使用してもよい。ここで、「シャットダウン機能」とは、例えば、非水電解質二次電池において、通常の使用温度を越えた場合に、基材を構成する材料の変形、軟化等により、微細孔を閉塞する機能を意味する。
【0067】
(基材の材料)
係る基材の材料としては、例えば、80~180℃で変形、軟化する熱可塑性樹脂、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリエステルなどを挙げることができる。これらの材料は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。中でも、ポリオレフィンが好ましい。
【0068】
(基材の厚さ)
基材の厚さとしては、特に制限はないが、シャットダウン機能等の観点から、例えば、5μm以上、7μm以上、又は9μm以上とすることができ、また、70μm以下、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下とすることができる。
【実施例
【0069】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
〈比較例1-1~1-2、及び実施例1-3〉
比較例1-1~1-2、及び実施例1-3では、コーティング液に配合するポリマーの相違に基づく、塗工性、耐熱収縮性について評価した。
【0071】
(ドープ液1の調製:ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA))
塩化カルシウムを約5質量%溶解させたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に、パラフェニレンジアミン1.00モルに対してテレフタル酸ジクロライドが0.95モルの割合となるように、これらの成分を添加し、室温下で縮合重合させて、PPTAのドープ液1を調製した。このドープ液1のPPTA濃度は2質量%であった。
【0072】
(ドープ液2の調製:ポリメタフェニレンイソフタルアミド(MPIA))
MPIAのコーネックス(商標)パウダー(帝人株式会社製)を、NMP中に溶解させて、MPIAのコーティング液2を調製した。
【0073】
(ドープ液3の調製:パラ系共重合芳香族ポリアミド)
パラ系共重合芳香族ポリアミドのテクノーラ(商標)パウダー(帝人株式会社製)を100g採取し、このパウダーを5質量%のNaOH溶液900g中に分散させ、130℃で1時間アルカリ処理を行った後、2規定の塩酸水溶液で中和し、水洗及び乾燥を実施して、アルカリ処理したパラ系共重合芳香族ポリアミドのパウダーを得た。このアルカリ処理により、パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量(Mw)を、580,000から140,000に調整した。
【0074】
次いで、このアルカリ処理して得られたパラ系共重合芳香族ポリアミドのパウダー40gを、室温下、NMP940g及び塩化カルシウム20gと混合し、一昼夜放置してパラ系共重合芳香族ポリアミドのドープ液3を調製した。
【0075】
(コーティング液の調製)
得られた3種のドープ液1~3に対し、平均粒子径0.3μmのアルミナ粒子のスミカコランダム(商標)(住友化学株式会社製)を、表1のポリマー濃度及び粒子濃度となるように添加し、薄膜旋回型高速ミキサー(フィルミクス(商標)、プライミクス株式会社製)を用いて混練し、コーティング液1~3を各々調製した。ここで、ドープ液1を用いて調製したコーティング液1は、短時間でゲル化したため、基材へのコーティング液として使用することはできなかった。
【0076】
(セパレータの作製)
ポリエチレン(PE)多孔膜(厚み10μm、ガーレー通気度170秒/100cc、上海エナジー製)を、ガラス板上に配置した。各コーティング液2及び3を、乾燥膜厚が4μm程度となるようにガラス棒を用いてポリエチレン多孔膜上に塗工して塗工層を形成した。次いで、塗工層を備えるポリエチレン多孔膜を、NMPを5質量%含む水溶液(凝固浴)に投入し、皺が発生しないように注意しながら塗工層を凝固させた。凝固終了後に水洗を行い、凝固させた樹脂を有するポリエチレン多孔膜を厚紙ろ紙に挟み、皺が発生しないよう注意しながら60℃で12時間乾燥を行い、樹脂中にアルミナ粒子を有する層(粒子含有樹脂層)を備えるセパレータを各々調製した。
【0077】
〈性能試験1〉
(分子量の測定)
各ポリマーの重量平均分子量を、以下の測定条件によるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。その結果を表1に示す。
【0078】
装置名 :高速液体クロマトグラフ LC-20Aシリーズ
カラムオーブン :CTO-20A
移動相 :NMP
オートサンプラ :SIL-20AHT
LCワークステーション:LC solution
流量 :0.3ml/分
示差屈折計検出器 :RID-10A
オーブン温度 :60℃
分子量標準試料 :ポリスチレン
【0079】
(通気度の測定)
基材及びセパレータの通気度の測定は、JIS P8117(ガーレー式透気度測定法)に準じて実施した。その結果を、表1に示す。ここで、「Δ通気度」とは、セパレータの通気度から基材の通気度を差し引いた値である。
【0080】
(熱収縮率の測定)
得られたセパレータのサンプルを150mm角に切り取り、それをノーメックス(商標)紙(タイプ410、厚み0.25mm、坪量248g/m、デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社製)に挟み、150℃の循環器乾燥機内に1時間保管し、加熱乾燥前後の寸法変化から150℃での熱収縮率を測定した。すなわち、加熱乾燥の前後で、150mm角のサンプルについて、MD方向及びTD方向に隣り合う頂点の間隔をそれぞれ測定し、その間隔の変化から、MD方向とTD方向の熱収縮率をそれぞれ算出した。各表中の熱収縮率の値は、算出したMD方向及びTD方向の熱収縮率から求めた平均値を示している。ここで、MD方向とは、基材の送り出し方向に対して平行方向を意味し、TD方向とは、基材の送り出し方向に対して垂直方向を意味している。また、参考のため、コーティングを施さないポリエチレン多孔膜(基材単体)においても同じように150℃の熱収縮率を測定したが、カーリングが発生したため正確な熱収縮率の測定は困難であった。
【0081】
【表1】
【0082】
〈結果〉
表1の結果から分かるように、PPTAを含むコーティング液(比較例1-1)は、ゲル化してしまったため基材に塗工することができなかった。また、MPIAを含むコーティング液(比較例1-2)は、ゲル化することはなかったが、得られたセパレータの150℃における熱収縮性は10%を超えていた。一方、パラ系共重合芳香族ポリアミドを含むコーティング液(実施例1-3)は、ゲル化することなく、塗工性に優れるとともに、得られたセパレータも150℃における耐熱収縮性に優れることが確認できた。
【0083】
〈比較例2-1~2-2、及び実施例2-3~2-4〉
比較例2-1~2-2、及び実施例2-3~2-4では、コーティング液のポリマー濃度の相違に基づく耐熱収縮性について評価した。
【0084】
(コーティング液及びセパレータの調製)
上記のコーティング液3のポリマー濃度を、2.5質量%(比較例2-1)、3.0質量%(比較例2-2)、4.0質量%(実施例2-3)及び5.0質量%(実施例2-4)とし、実施例1-3と同様にして、コーティング液及びセパレータを調製した。上記と同様にして、通気度等を測定し、その結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
〈結果〉
表2の結果から分かるように、コーティング液中のポリマー濃度が3.0質量%以下であると、得られるセパレータの150℃における熱収縮性は、12%を超えていた。一方、コーティング液中のポリマー濃度が3.0質量%よりも高い場合には、150℃における耐熱収縮性が大幅に向上することが確認できた。
【0087】
〈実施例3-1~3-10〉
実施例3-1~3-10では、パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量、及びコーティング液中の粒子濃度の相違に基づく耐熱収縮性について評価した。
【0088】
(コーティング液及びセパレータの調製)
上記のドープ液3を用いて調製したコーティング液の粒子濃度を、60質量%(34体積%)、70質量%(45体積%)、80質量%(59体積%)及び90質量%(76体積%)とし、実施例1-3と同様にして、実施例3-1~3-4のコーティング液及びセパレータを調製した。上記と同様にして通気度等を測定し、その結果を表3に示す。
【0089】
また、上記のドープ液3調製時のNaOH溶液の濃度を5質量%から3質量%に変更して、パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量を155,000に調整し、かつ、係るパラ系共重合芳香族ポリアミドを含むドープ液を用いて調製したコーティング液の粒子濃度を、50質量%(26体積%)、60質量%(34体積%)、70質量%(45体積%)、80質量%(59体積%)、90質量%(76体積%)及び95質量%(87体積%)とし、実施例1-3と同様にして、実施例3-5~3-10のコーティング液及びセパレータを調製した。上記と同様にして通気度等を測定し、その結果を表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
〈結果〉
表3の結果から分かるように、パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量に関わらず、粒子含有樹脂層の粒子濃度が約25体積%以上であれば、150℃における耐熱収縮性が向上することが確認できた。
【0092】
また、実施例3-1~3-10で採用したパラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量の相違では、熱収縮率は大きく変動しなかった。これは凝固、即ち、スピノーダル分解によって生じるボイドの大きさが、分子量の影響を受けないことを示していると考えられる。即ち、パラ系共重合芳香族ポリアミドの構造に由来する水素結合密度又は分子間力密度が同程度であれば、粒子含有樹脂層中の粒子間距離はほぼ同じであることを示していると考えられる。
【0093】
〈比較例4-1、及び実施例4-2~4-6〉
比較例4-1、及び実施例4-2~4-6では、パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量の相違に基づく、樹脂強度、粒子の耐脱落性、及び耐熱収縮性について評価した。
【0094】
(コーティング液及びセパレータの調製)
上記のドープ液3調製時のNaOH溶液の濃度及び処理時間を、表4に示される条件で実施して、パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量を調整し、かつ、係るパラ系共重合芳香族ポリアミドを含むドープ液を用いて、実施例1-3と同様にして、比較例4-1及び実施例4-2~4-6のコーティング液及びセパレータを調製した。上記と同様にして熱収縮率を測定し、その結果を表4に示す。ここで、実施例4-6のコーティング液に関しては、比較例4-1及び実施例4-4のコーティング液を、重量比で50:50の割合で混合したものを使用した。
【0095】
〈性能試験2〉
(樹脂強度の測定)
各重量平均分子量のパラ系共重合芳香族ポリアミドを含むドープ液をガラス板上にガラス棒を用いて塗工し、実施例1-3と同様の凝固浴に浸漬し、その後70℃で4時間乾燥してフィルムを調製した。次いで、このフィルムをイオン交換水中にて一昼夜浸漬し、NMP及び塩化カルシウムを抽出洗浄し、粒子を含まないパラ系共重合芳香族ポリアミドフィルムを得た。
【0096】
作製したフィルムサンプルを、幅10mm、長さ10~20cm程度にカットし、引張試験機(設備名:テンシロン RTC-1310A)に設置し引張試験を実施した。この時、チャック間距離を50mm、チャック圧を0.5MPa、引張時のひずみ速度を20mm/minとしたこと以外は、JIS K7161に準拠して、粒子を含まないパラ系共重合芳香族ポリアミドフィルムの引張強度を各々測定し、その結果を表4に示す。
【0097】
(耐脱落性の測定)
各セパレータの粒子含有樹脂層表面を指でこすり、粒子の脱落が全くないものを「A」、若干の脱落は確認できたが製品として許容レベルであるものを「B」、粒子が激しく脱落したものを「C」として評価し、その結果を表4に示す。
【0098】
【表4】
【0099】
〈結果〉
表4の結果から分かるように、パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量が45,000よりも低くなると、粒子含有樹脂層からの粒子の脱落が生じやすくなっていた。これは、粒子含有樹脂層を構成するパラ系共重合芳香族ポリアミド樹脂自体の引張強度が低下し、樹脂が粒子を十分に保持できなくなったために、粒子が脱落しやすくなったものと考えられる。
【0100】
また、比較例4-1のセパレータは、実施例4-2~4-6のセパレータに比べて150℃における熱収縮率も低下している。これは、粒子の脱落によってポリエチレン多孔膜の熱収縮を抑制しづらくなったことに加え、パラ系共重合芳香族ポリアミドの重量平均分子量の減少に伴い、ポリマー分子相互間の水素結合密度又は分子間力密度も低下し、パラ系共重合芳香族ポリアミド樹脂の緻密性(パッキング性)が低下したために、熱収縮率が低下したものと考えられる。