(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】斜板式液圧回転機械
(51)【国際特許分類】
F04B 1/22 20060101AFI20221202BHJP
F03C 1/253 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
F04B1/22
F03C1/253
(21)【出願番号】P 2018243948
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基司
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智弘
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-032883(JP,A)
【文献】特表2002-500307(JP,A)
【文献】特開2004-003487(JP,A)
【文献】特表平08-500879(JP,A)
【文献】実開平03-013473(JP,U)
【文献】特開昭62-085183(JP,A)
【文献】特開平02-255264(JP,A)
【文献】特開平07-167041(JP,A)
【文献】特開2014-095384(JP,A)
【文献】実開昭56-086370(JP,U)
【文献】特開昭63-150475(JP,A)
【文献】特開2014-218912(JP,A)
【文献】特開2010-242649(JP,A)
【文献】特開平06-330849(JP,A)
【文献】特開昭58-202381(JP,A)
【文献】特開2012-184707(JP,A)
【文献】特開平07-063157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/22 -1/126
F03C 1/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、該ケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、該回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、該各ピストンの突出端部に装着されたシューと、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各シューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記各シューを前記斜板の摺動面に当接させるリテーナと、該リテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧するリテーナガイドとを備えて構成されている斜板式液圧回転機械であって、
前記リテーナと前記シューとの接触面の少なくとも一方に、摩擦を低減する加工
として、摩擦を低減する部材が
設置され
、
前記部材の表面は、前記シューから離れるに従って前記接触面に対する傾きが大きくなる凸面を有することを特徴とする斜板式液圧回転機械。
【請求項2】
ケーシングと、該ケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、該回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、該各ピストンの突出端部に装着されたシューと、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各シューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記各シューを前記斜板の摺動面に当接させるリテーナと、該リテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧するリテーナガイドとを備えて構成されている斜板式液圧回転機械であって、
前記リテーナと前記シューとの接触面の少なくとも一方に、摩擦を低減する加工
として、摩擦を低減するテクスチャが施され
、
前記テクスチャは、前記シュー周りの一方向の回転摩擦を他方向の回転摩擦より低減するようになっていることを特徴とする斜板式液圧回転機械。
【請求項3】
請求項
2に記載の斜板式液圧回転機械において、
前記テクスチャは、前記斜板を前記回転軸に対して垂直にして回転する際、前記シューの外周側が前記回転軸の回転方向と逆方向に回転し、前記シューの内周側が前記回転軸の回転方向と同じ方向に回転するように、前記シュー周りの回転摩擦を低減するようになっていることを特徴とする斜板式液圧回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーン、ホイールローダ等の建設機械において、油圧ポンプまたは油圧モータとして用いられる斜板式液圧回転機械に係り、特に油圧ポンプとして用いられる場合の信頼性向上・長寿命化に寄与する斜板式液圧回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の建設機械に搭載される油圧モータ、油圧ポンプとして広く使用される斜板式液圧回転機械は、ケーシングと、このケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、この回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、このシリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、これらの各ピストンの突出端部に装着される、鉄系材料にて製作されたピストンシュー(以下、単にシューということがある)と、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に前記各ピストンシューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各ピストンシューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記回転軸に挿通され前記各ピストンシューを挿通して前記斜板の摺動面に押圧する複数の挿通穴を有する、鉄系材料にて製作された環状平板のリテーナと、このリテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して前記回転軸に挿嵌され外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧する、鉄系材料にて製作された半球面状のリテーナガイドとを備えて構成されている。また、前記斜板式液圧回転機械は、シリンダブロックの複数のシリンダに対して交互に連通する高圧ポートと低圧ポートが形成された弁板がケーシングに固定され、該弁板が前記シリンダブロックと互いに摺動する面は前記高圧ポートおよび前記低圧ポートからの作動油の漏れを抑制するシールランド構造となっている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
この種の斜板式液圧回転機械においては、ピストンシューに形成された球面継手を介してピストンシューがピストンに揺動可能に装着されるもの(特許文献1参照)や、ピストンに形成された球面継手を介してピストンシューがピストンに揺動可能に装着されるもの(特許文献2参照)がある。
【0004】
前記斜板式液圧回転機械は、油圧シリンダなどに作動油を供給する油圧ポンプとして、あるいは供給された作動油により回転駆動される油圧モータとして使用可能であるが、前記斜板式液圧回転機械を油圧ポンプとして使用する場合、特許文献1、2等にあるように斜板は回転軸と傾斜した状態で配置され、回転軸の回転によるシリンダ内でのピストンの往復動に伴い、高圧の作動油を吐出する。ここで、建設機械においては一台の油圧ポンプに複数のアクチュエータや油圧モータを接続したシステムが一般的である。しかし、近年、高効率化や、各油圧モータやアクチュエータのきめ細かい制御を目的として、主要なアクチュエータ1台に対して1台の油圧ポンプを接続するシステムが提案されている。このようなシステムで使用される油圧ポンプは、アクチュエータを動作させる場合には斜板を傾け、逆にアクチュエータを停止する場合には斜板の角度を水平(回転軸に対して垂直)にすることで、シリンダ内のピストンの往復動に伴う高圧の作動油の吐出を停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-32883号公報
【文献】特開平11-82290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前述した従来技術の斜板式液圧回転機械においては、次のような課題がある。
【0007】
すなわち、斜板が傾いた状態で動作する場合、シューは斜板とリテーナに挟まれた状態で斜板上を摺動する。ピストンは、高圧の作動油を吐出する際に反力を受け、シューが斜板に過大な力で押し付けられる。このため、シューが焼き付くのを防止する目的で、シューの斜板との摺動面は静圧軸受構造とし、シューと斜板とが固体接触しないよう設計されるのが一般的であり、シューと斜板間の摩擦力は小さくなる。一方、シューはバネによって支持されたリテーナからも斜板に押し付けられることで、運転時の挙動の安定性を確保している。このバネ力は、作動油吐出時のピストンからの反力と比較すると非常に小さい力であるが、静圧軸受構造ではないため、リテーナとシューとが固体接触した状態で使用される。このため、シューは斜板との摩擦よりもリテーナとの摩擦が大きく、斜板によってシューが回転しようとする力をリテーナが抑える挙動となる。斜板が傾斜している場合、球面継手を介してシューと接続されているピストンは、球面継手でシューと摺動(味噌擂り運動ともいう)するため、この摩擦力によってピストンはシリンダ内部で自転しながら、シリンダブロックがケーシング内部で回転する。ピストンはシリンダ内部で自転することで常に異なる位置がシリンダ(の内周面)と接することになるので、焼き付きが生じにくい構造となっている。
【0008】
しかし、斜板が水平となる場合、ピストンとシューの間の球面継手において摺動(味噌擂り運動)はほとんど生じない。このため、シリンダ内でピストンは自転せず、よってピストン(の外周面)はシリンダ(の内周面)と同じ位置で接触し続けることになるので、焼き付きが発生するなど、信頼性が低下する懸念がある。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、信頼性の高い斜板式液圧回転機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明に係る斜板式液圧回転機械は、ケーシングと、該ケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、該回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、該各ピストンの突出端部に装着されたシューと、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各シューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記各シューを前記斜板の摺動面に当接させるリテーナと、該リテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧するリテーナガイドとを備えて構成されている斜板式液圧回転機械であって、前記リテーナと前記シューとの接触面の少なくとも一方に、摩擦を低減する加工として、摩擦を低減する部材が設置され、前記部材の表面は、前記シューから離れるに従って前記接触面に対する傾きが大きくなる凸面を有する。また、本発明に係る斜板式液圧回転機械は、ケーシングと、該ケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、該回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、該各ピストンの突出端部に装着されたシューと、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各シューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記各シューを前記斜板の摺動面に当接させるリテーナと、該リテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧するリテーナガイドとを備えて構成されている斜板式液圧回転機械であって、前記リテーナと前記シューとの接触面の少なくとも一方に、摩擦を低減する加工として、摩擦を低減するテクスチャが施され、前記テクスチャは、前記シュー周りの一方向の回転摩擦を他方向の回転摩擦より低減するようになっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以上の構成を備えることで、信頼性の高い斜板式液圧回転機械を提供することが可能である。
【0012】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の斜板式液圧回転機械の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す斜板式液圧回転機械におけるシューとリテーナの接触部の概略図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
【
図3】(a)~(c)はそれぞれ、第1の実施形態におけるシューとリテーナの接触部の断面図である。
【
図4】(a)~(c)はそれぞれ、第2の実施形態におけるシューとリテーナの接触部の断面図である。
【
図5】(a)~(c)はそれぞれ、第3の実施形態におけるシューとリテーナの接触部の断面図である。
【
図6】第4の実施形態におけるシューとリテーナの接触部の拡大斜視図である。
【
図7】本発明の斜板式液圧回転機械の他の実施形態におけるシューとリテーナの接触部の概略図であり、(a)はシューがピストンに装着された状態、(b)はシューがピストンから取り外された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る斜板式液圧回転機械の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
まず、各実施形態に共通する斜板式液圧回転機械の概略構成を、
図1、
図2に基づいて説明し、その後、各実施形態の特徴構成を各実施形態毎に具体的に説明する。
【0016】
図1は、本発明の斜板式液圧回転機械の一実施形態を示す断面図である。
【0017】
図1に示す斜板式液圧回転機械1は、フロントケーシング3aとリアケーシング3bとから構成される中空のケーシング2内に、回転軸としてのシャフト4(の両端)が軸受13に支持されることで回転自在に収納され、このシャフト4には、シリンダブロック5がこのシャフト4と一体に回転するようにスプライン15を介して連結されている。シリンダブロック5の周方向には、複数のシリンダ6が円周状に(詳しくは、周方向に離間して軸方向に伸長するように)形成されており、各シリンダ6内には、ピストン8が往復動可能に挿嵌されて配置されている。これらの各ピストン8のシリンダ6から突出した端部(突出端部)には、シュー9が球面継手構造によって揺動可能に連設されており、このシュー9の片面(ピストン8側とは反対側の面)は、フロントケーシング3aに傾転可能に保持された斜板10の表面に摺動されている。つまり、斜板10は、シリンダブロック5と対向してフロントケーシング3a内に設けられ、シリンダブロック5と対向する面(摺動面)に各シュー9の片面が摺動する。リテーナ11は、各シュー9と各ピストン8(の突出端部)との間に位置してシャフト4に挿通される環状平板からなり、その周方向には、各シュー9と各ピストン8を挿通する複数の挿通穴18が形成されている(
図2(a)参照)。このリテーナ11は、シャフト4が挿嵌されたリテーナガイド12(の外周面)によりシリンダブロック5から押圧バネ14を介して押圧されることで、シュー9(の片面)を斜板10(の摺動面)に押し当て、運転時にシュー9が暴れることを抑制している。
【0018】
一方、リアケーシング3bには、シリンダブロック5が摺動する弁板7が固定されており、この弁板7には、シリンダブロック5の複数のシリンダ6に対して交互に連通する図示しない高圧ポートと低圧ポートとが形成されている。
【0019】
したがって、本例の斜板式液圧回転機械1は、シャフト4を図示しない原動機にて回転駆動した場合には、シャフト4と一体にシリンダブロック5が回転し、これに伴って各シュー9が斜板10上を摺動しながら回転し、これにより各ピストン8がシリンダ6内を往復動する。ピストン8の伸長時には、弁板7の低圧ポートから供給された作動油がシリンダ6内に吸い込まれ、ピストン8の収縮時には、シリンダ6内に吸い込まれた作動油がピストン8にて圧縮されて、圧縮された作動油が弁板7の高圧ポートから吐出されることで、油圧ポンプとして機能する。
【0020】
また、この斜板式液圧回転機械1は、弁板7の高圧ポートから供給された作動油がシリンダ6内に流入し、これによりピストン8がシリンダ6内を往復動し、このピストン8の往復動に伴って各シュー9が斜板10上を摺接しながら回転し、これによりシリンダブロック5が回転し、このシリンダブロック5の回転と一体にシャフト4が回転することで、油圧モータとしても機能する。
【0021】
図2は、
図1に示す斜板式液圧回転機械1におけるシュー9とリテーナ11の接触部の概略図であり、
図2(a)は斜視図、
図2(b)は水平方向からシュー9とリテーナ11の接触部を見た側面図である。
【0022】
前述したように、環状平板からなるリテーナ11には、ピストン8およびシュー9(の球面継手構造)を挿通する挿通穴18が周方向に離間して複数空けられており、ここにピストン8を通してシュー9を押さえ、運転時にシュー9が暴れるのを抑制している。ピストン8の往復動によって生じる高圧の作動油の一部はシュー9に設けられた通油孔16を介して静圧ポケット17に流れ込むことで、シュー9は静圧軸受として機能し、回転中は斜板10と固体接触することなく滑らかに動作する。これに対して、押圧バネ14によってリテーナ11はシュー9(のピストン8側の面)に押し付けられており、また、リテーナ11とシュー9の摺動面は静圧軸受構造ではないため、シュー9とリテーナ11の摺動面は、シュー9と斜板10の摺動面と比較して摩擦が大きい傾向にある。このため、動作時に、シュー9はリテーナ11に対してほとんど回転しない状態で動作する。斜板10がシャフト4に対して傾いている場合、リテーナ11によって保持されているシュー9と球面継手構造にて接続されるピストン8は、シュー9と球面継手構造にて摺動(味噌擂り運動)するため、シリンダ6の内部で自転する。すなわち、ピストン8は、シリンダ6に対して作動油の漏れを抑制するシールの機能と、自転することによるベアリングの機能を有していることになる。
【0023】
前記斜板式液圧回転機械1がポンプとして作用する場合、吐出する作動油の量をゼロにするためには、斜板10の角度を水平(シャフト4に対して垂直)にすることになる。この時、ピストン8とシュー9の間の球面継手構造の摺動(味噌擂り運動)ができなくなり、前記したようなシリンダ6の内部におけるピストン8の自転が停止することになる。このような状態の場合、ピストン8(の外周面)はシリンダ6(の内周面)と常に同じ位置で接触することになり、焼き付きなどに対する信頼性が低下すると考えられる。
【0024】
[第1の実施形態]
図3(a)~(c)はそれぞれ、第1の実施形態におけるシュー9とリテーナ11の接触部の断面図である。
【0025】
本第1の実施形態では、前記した焼き付きなどに対する信頼性低下を回避するために、
図3(a)~(c)に示すように、例えば鋼材等の鉄系材料で作製されるシュー9もしくはリテーナ11の接触面の少なくともどちらか一方に、例えばDLC被膜をはじめとした、摺動面が低摩擦となる(換言すれば、摺動面の摩擦(摩擦力もしくは摩擦係数)を低減する)コーティング処理を施す。
図3(a)に示す例では、リテーナ11の(挿通穴18周りの環状の)接触面に、シュー9との摩擦を低減する低摩擦コーティング11cが施され、
図3(b)に示す例では、シュー9の(環状の)接触面に、リテーナ11との摩擦を低減する低摩擦コーティング9cが施され、
図3(c)に示す例では、リテーナ11およびシュー9の(環状の)接触面に、相互の摩擦を低減する低摩擦コーティング11c、9cが施されている。
【0026】
シュー9もしくはリテーナ11の接触面の摩擦が小さくなると、この位置で滑りが生じやすくなる。動作時にシュー9は斜板10と摺動しながら運転しているが、シュー9の内周側と外周側で速度が異なるため、シュー9の外周側の方が大きな摩擦力が生じ、よって、斜板10の角度を水平(シャフト4に対して垂直)にしているときでも、リテーナ11に対してシュー9が回転することになり、このシュー9の回転に伴ってピストン8もシリンダ6内部で回転し、焼き付きに対する信頼性が向上する。
【0027】
このように、本第1の実施形態では、リテーナ11とシュー9との接触面の少なくとも一方に、摩擦を低減する加工としてのコーティング処理が施されているので、信頼性の高い斜板式液圧回転機械1を提供することが可能である。
【0028】
[第2の実施形態]
図4(a)~(c)はそれぞれ、第2の実施形態におけるシュー9とリテーナ11の接触部の断面図である。
【0029】
本第2の実施形態では、前記した焼き付きなどに対する信頼性低下を回避するために、
図4(a)~(c)に示すように、例えば鋼材等の鉄系材料で作製されるシュー9もしくはリテーナ11の接触面の少なくともどちらか一方に、例えば前述した低摩擦コーティングを施した部材や、PEEKなどのエンジニアリングプラスティック、リン青銅などからなる、摺動面の摩擦(摩擦力もしくは摩擦係数)を低減する部材を設置する。つまり、本第2の実施形態は、前述した第1の実施形態におけるコーティングの代わりにシュー9もしくはリテーナ11(の接触面)の少なくとも一方に(シュー9もしくはリテーナ11とは別部材で構成される)低摩擦部材を設置した例である。
図4(a)に示す例では、リテーナ11の(挿通穴18周りの環状の)接触面に、シュー9との摩擦を低減する低摩擦部材19aが設置され、
図4(b)に示す例では、シュー9の(環状の)接触面に、リテーナ11との摩擦を低減する低摩擦部材19bが設置され、
図4(c)に示す例では、リテーナ11およびシュー9の(環状の)接触面に、相互の摩擦を低減する低摩擦部材19a、19bが設置されている。
【0030】
なお、低摩擦部材19a、19bは、リテーナ11もしくはシュー9(の接触面)に溶接、圧入等により固定して保持してもよいし、固定せずに保持してもよい。
【0031】
このように、本第2の実施形態では、リテーナ11とシュー9との接触面の少なくとも一方に、摩擦を低減する加工として低摩擦部材19a、19bが設置されているので、前述した第1の実施形態と同様に、信頼性の高い斜板式液圧回転機械1を提供することが可能である。特に、シュー9側とリテーナ11側にそれぞれ別の低摩擦部材19aおよび19bを設置した例(
図4(c)参照)では、シュー9、リテーナ11とそれぞれ別の材料を使用することができるため、より低摩擦化に効果がある。
【0032】
本第2の実施形態では、前述したように、低摩擦にするためにコーティングではなく別部材で構成される低摩擦部材19a、19bを設置することで、材質を従来の部品とは異なる材料を選択でき、耐久性を確保しやすくなる。また、別部材で構成される低摩擦部材19a、19bを設置することで、低摩擦部材19a、19bをこれを設置するリテーナ11やシュー9とは別に加工し、その後に設置することが可能であるため、例えば後述するように摺動面を凸面にするなど、形状の自由度を増加させることができる。
【0033】
[第3の実施形態]
図5(a)~(c)はそれぞれ、第3の実施形態におけるシュー9とリテーナ11の接触部の断面図である。
【0034】
本第3の実施形態は、前記した焼き付きなどに対する信頼性低下をより効果的に回避するために、
図5(a)~(c)に示すように、
図4(a)~(c)に基づき説明した第2の実施形態における低摩擦部材19a、19bの表面(被接触部材であるシュー9もしくはリテーナ11との接触面)を凸面にした例である。シュー9は、遠心力や摺動面の油膜によって斜板10に対して傾いた状態で動作する。低摩擦部材19a、19bの表面をシュー9(もしくは嵌挿穴18)(の中心軸線)から離れるに従って接触面に対する傾きが次第に大きくなる凸面(つまり、概略椀状の曲面)にすることで、片当たりを抑制し、シュー9および低摩擦部材19a、19bの信頼性を向上できる。
【0035】
このように、本第3の実施形態では、摩擦を低減する低摩擦部材19a、19bの表面が、シュー9から離れる(外側に行く)に従って接触面に対する傾きが大きくなる凸面を有するので、例えば前述した第2の実施形態と比べて、より信頼性の高い斜板式液圧回転機械1を提供することが可能である。
【0036】
[第4の実施形態]
図6は、第4の実施形態におけるシュー9とリテーナ11の接触部の拡大斜視図である。
【0037】
本第4の実施形態では、前記した焼き付きなどに対する信頼性低下を回避するために、リテーナ11側のシュー9と接する領域(挿通穴18周りの環状の接触面)に、摺動面の摩擦を低減するテクスチャ20を設ける。これによって、部品点数を増加させることなく、摺動面を低摩擦化することが可能である。
【0038】
特に、斜板10から見てシュー9が(シャフト4等とともに回転軸線L0周りで)図中矢印Xの向きに移動する場合、シュー9は内周側より外周側の方が速度が速いため、(シュー9の中心軸線L1周りで)図中矢印Yの向きに回転しやすい。この場合、
図6に示すヘリングボーン溝など、方向性を持った溝とすることでより効果を発揮する。詳細には、
図6に示すヘリングボーン溝などのV字溝を持つテクスチャ20では、作動油の流れがV字溝の先端で堰き止められて圧力が高くなりやすく、シュー9周りの一方向の回転摩擦力を他方向の回転摩擦力より低減できる。このテクスチャ20のV字溝の先端を、リテーナ11におけるシュー9の内周側では図中矢印Xと同じ向き、シュー9の外周側では図中矢印Xと逆向きに形成することで、シュー9の外周側が図中矢印X(シャフト4の回転方向)と逆方向に回転し、シュー9の内周側が図中矢印Xと同じ方向に回転しやすくなり、シュー9が(シュー9の中心軸線L1周りで)図中矢印Yの向きに回転しやすくなる。
【0039】
なお、
図6に示す例では、リテーナ11の(挿通穴18周りの環状の)接触面にテクスチャ20が形成されているが、シュー9の(環状の)接触面にテクスチャを形成してもよいし、リテーナ11およびシュー9の(環状の)接触面の両方にテクスチャを形成してもよいことは勿論である。
【0040】
このように、本第4の実施形態では、リテーナ11とシュー9との接触面の少なくとも一方に、摩擦を低減する加工としてのテクスチャ20、より詳細には、斜板10の傾きを水平(シャフト4に対して垂直)にして動作(回転)させる際の回転方向に応じた方向性を持つテクスチャ20が施されているので、前述した第1~第3の実施形態と同様に、あるいは前述した第1~第3の実施形態と比べてさらに、信頼性の高い斜板式液圧回転機械1を提供することが可能である。
【0041】
以上で説明したように、本実施形態の斜板式液圧回転機械1においては、
図3(a)~
図6に基づき説明した各構造を導入することで、高信頼性、かつ長寿命の斜板式液圧回転機械1の提供が可能となる。
【0042】
なお、上記した各実施形態では、シュー9側に球面継手構造が設けられているが、
図7(a)、(b)に示すように、ピストン8側に設けた球面継手構造を介して、ピストン8とシュー9とを接続してもよい。なお、
図7(b)では、リテーナ11側に低摩擦部材19aが設けられた例を示している(
図4(a)を併せて参照)。
【0043】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形形態が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 斜板式液圧回転機械
2 ケーシング
3a フロントケーシング
3b リアケーシング
4 シャフト(回転軸)
5 シリンダブロック
6 シリンダ
7 弁板
8 ピストン
9 シュー
9c 低摩擦コーティング(第1の実施形態)
10 斜板
11 リテーナ
11c 低摩擦コーティング(第1の実施形態)
12 リテーナガイド
13 軸受
14 押圧バネ
15 スプライン
16 通油孔
17 静圧ポケット
18 嵌挿穴
19a、19b 低摩擦部材(第2、第3の実施形態)
20 テクスチャ(第4の実施形態)