(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】ポリイミド系高分子ワニスの製造方法、ポリイミド系高分子フィルムの製造方法、及び、透明ポリイミド系高分子フィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20221202BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20221202BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20221202BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
C08G73/10
C08K3/36
C08L79/08 Z
C08J5/18 CFG
(21)【出願番号】P 2018542658
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2017035007
(87)【国際公開番号】W WO2018062296
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2016194170
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】李 宗銘
(72)【発明者】
【氏名】呂 奇明
(72)【発明者】
【氏名】▲ゴン▼ 宇睿
(72)【発明者】
【氏名】▲フゥァン▼ 莉▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】望月 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】池内 淳一
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-062097(JP,A)
【文献】特開平09-197615(JP,A)
【文献】特開平09-286858(JP,A)
【文献】特開平09-302091(JP,A)
【文献】特開2009-270023(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081644(WO,A1)
【文献】特開2014-114429(JP,A)
【文献】特開2005-325332(JP,A)
【文献】特開2016-054734(JP,A)
【文献】特開2015-017232(JP,A)
【文献】特開2006-232911(JP,A)
【文献】特開2002-088242(JP,A)
【文献】特開2003-246870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00 - 73/26
C08K 3/00 - 3/40
C08L 79/00 - 79/08
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系高分子の原料モノマーを溶媒中において重合してポリイミド系高分子前駆体を得る重合工程、及び、減圧環境下、第三級アミンを含む溶媒中において前記ポリイミド系高分子前駆体をイミド化してポリイミド系高分子の溶液を得るイミド化工程を含む、ポリイミド系高分子ワニスの製造方法。
【請求項2】
前記イミド化工程の温度が100℃以上250℃以下である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記第三級アミンが、120℃以上350℃以下の沸点を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリイミド系高分子がフッ素を20質量%以上含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記減圧環境の圧力は350mmHg以上730mmHg以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記減圧環境の圧力は500mmHg以上730mmHg以下である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記イミド化工程において前記溶媒を含む液相と接触する気相の酸素濃度が0.02%以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
100質量部の前記原料モノマーに対して、前記第三級アミンを0.05質量部以上0.7質量部以下添加する、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
得られた前記ポリイミド系高分子の溶液に、紫外線吸収剤を添加する工程をさらに備える、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
得られた前記ポリイミド系高分子の溶液に、シリカゾルを添加する工程をさらに備える、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項のポリイミド系高分子ワニスの製造方法を実施する工程と、
得られたポリイミド系高分子ワニス中のポリイミド系高分子を析出及び再溶解させることなく、前記ポリイミド系高分子ワニスを流延成形するフィルム化工程と、を備える、ポリイミド系高分子フィルムの製造方法。
【請求項12】
重量平均分子量が50,000以上、500,000以下であるポリイミド系高分子と、フィルムの全質量に対して0.01質量%以上0.25質量%以下の第三級アミンとを含む
光学フィルム。
【請求項13】
前記第三級アミンの沸点が120℃以上350℃以下である、請求項12記載の
光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド系高分子ワニスの製造方法、ポリイミド系高分子フィルムの製造方法、及び、透明ポリイミド系高分子フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒素気流下、ポリイミドの原料モノマーを溶媒中で重合及びイミド化してポリイミド溶液を得るポリイミド溶液の製造方法が知られている。このような反応系においては、ポリイミドの原料モノマーが溶媒中で混合されると、原料モノマーが重合してポリアミック酸が生成され、さらにこれを加熱することでポリアミック酸のイミド化が進行し、ポリイミドが生成される。その際に、イミド化を促進する触媒として第三級アミン化合物を添加することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、重合及びイミド化により得られた触媒含有ポリイミド溶液をそのままフィルムに流延成形すると、耐折性が良好なフィルムを得ることは困難であった。フィルム化工程前にアルコール沈殿法などによる精製を行うことも知られているが、精製工程はコストが嵩むため、精製工程を含むプロセスはコスト面で不利な傾向がある。
また、量産時においてポリイミド系高分子の透明性を高く維持することも求められる。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので有り、精製工程を経ずにフィルムに高い耐折性を与えることができる、ポリイミド系高分子ワニスの製造方法等を提供することを目的とする。
また、本発明の他の課題は、透明性の高いポリイミド系高分子の量産に適したポリイミド系高分子ワニスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るポリイミド系高分子ワニスの製造方法は、ポリイミド系高分子の原料モノマーを溶媒中において重合してポリイミド系高分子前駆体を得る重合工程、及び、減圧環境下、第三級アミンを含む溶媒中において、前記ポリイミド系高分子前駆体をイミド化してポリイミド系高分子の溶液を得るイミド化工程を含む。
【0007】
ここで、前記イミド化工程の温度が100℃以上250℃以下であることができる。
【0008】
また、前記第三級アミンが、120℃以上350℃以下の沸点を有することができる。
【0009】
また、前記ポリイミド系高分子がフッ素を20質量%以上含むことができる。
【0010】
また、前記減圧環境の圧力は350mmHg以上730mmHg以下であることができ、前記減圧環境の圧力は500mmHg以上730mmHg以下であることもできる。
【0011】
また、前記イミド化工程において溶媒と接触する気相の酸素濃度が0.02%以下であることができる。
【0012】
また、100質量部の前記原料モノマーに対して、前記第三級アミンを0.05質量部以上0.7質量部以下添加することができる。
【0013】
上記方法は、得られた前記ポリイミド系高分子の溶液に、紫外線吸収剤を添加する工程をさらに備えることができる。また、上記方法は、得られた前記ポリイミド系高分子の溶液に、シリカゾルを添加する工程をさらに備えることができる。
【0014】
本発明に係るポリイミド系高分子フィルムの製造方法は、上記のポリイミド系高分子ワニスの製造方法を実施する工程と、得られたポリイミド系高分子ワニス中のポリイミド系高分子を析出及び再溶解させることなく、前記ポリイミド系高分子ワニスを流延成形するフィルム化工程と、を備えることができる。
【0015】
本発明に係るフィルムは、重量平均分子量が50,000以上、500,000以下であるポリイミド系高分子と、フィルムの全質量に対して0.01質量%以上0.25質量%以下の第三級アミンとを含む。
前記第三級アミンの沸点は120℃以上350℃以下であることができる。
【0016】
本発明に掛かる別のポリイミド系高分子ワニスの製造方法は、
(1) 反応容器において、溶媒A中でモノマー原料を反応させてポリイミド系高分子の溶液を得る工程、
(3) 前記反応容器から前記溶液を取り出す工程、
(4) 溶媒Cで前記反応容器を洗浄し、洗浄後の前記溶媒Cを前記反応容器から取り出す工程、を備え、前記工程(1)、(3)、及び(4)を、同一の反応容器を用いてこの順に繰り返す。そして、前記工程(1)で得られるポリイミド系高分子は、透明であり、かつ重量平均分子量が250,000以上である。
【0017】
この発明によれば、洗浄工程を有することで、2回目以降の工程(1)において、それ以前の工程(1)で生成した高分子が反応容器に残存する量を低減することができる。したがって、2回目以降の工程(1)において合成されるポリイミド系高分子の透明性の低下を抑制できる。
【0018】
ここで、上記方法は、
(5) 前記工程(4)の後に、溶媒Dで前記反応容器を洗浄し、洗浄後の前記溶媒Dを前記反応容器から取り出す工程、をさらに備えることができ、
前記工程(1)、(3)、(4)及び(5)を、同一の反応容器を用いてこの順に繰り返すことができる。
【0019】
これによれば、より一層、反応容器に残存する高分子の量を低減できる。
【0020】
また、上記方法は、前記工程(1)と前記工程(3)との間に、
(2) 前記反応容器内に溶媒Bを追加して前記工程(1)で得られた前記溶液を希釈する工程をさらに備えることができ、
前記工程(1)~(4)、又は、前記工程(1)~(5)を同一の反応容器を用いて繰り返すことができる。
【0021】
これによれば、溶液の抜き出し前の反応容器内のポリイミド系高分子の濃度が低下するため、抜き出し後の反応容器における高分子の残存量をより一層少なくできる。
【0022】
また、前記溶媒Bは、前記工程(4)で前記反応容器から取り出された溶媒Cであることができる。
【0023】
これによれば、溶媒B中に回収された高分子が、次バッチで製造するワニス中のポリイミド系高分子の一部となるため、収率が向上する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、精製工程を経ずにポリイミド系高分子を直接フィルム化してもフィルムに高い耐折性を与えることができる、ポリイミドワニスの製造方法等が提供される。
また、本発明によれば、透明性の高いポリイミド系樹脂の量産に適したポリイミド系高分子ワニスの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係るポリイミド系高分子ワニスの製造方法について説明する。この方法は、ポリイミド系高分子の原料モノマーを溶媒中において重合してポリイミド系高分子前駆体を得る重合工程、及び、減圧環境下、第三級アミンを含む溶媒中において前記ポリイミド系高分子前駆体をイミド化して、ポリイミド系高分子溶液を得るイミド化工程を含む。
【0026】
(ポリイミド系高分子の原料モノマー)
原料モノマーは、テトラカルボン酸化合物及びジアミンを含む。
【0027】
(テトラカルボン酸化合物)
テトラカルボン酸化合物の例は、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物である。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。テトラカルボン酸化合物は、テトラカルボン酸二無水物の他、テトラカルボン酸クロライド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
【0028】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、および、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDAと呼ぶことがある。)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。
また、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物及び4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル3,3’-4,4’-テトラカルボン酸二無水物及びこれらの位置異性体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、テトラカルボン酸化合物は、前記脂環式テトラカルボン酸二無水物又は非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。より好ましい具体例としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
(トリカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物)
原料モノマーは、さらに、トリカルボン酸化合物及び/又はジカルボン酸化合物を含むことができる。
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-もしくはフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0032】
ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。具体例としては、テレフタル酸;イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-もしくはフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0033】
テトラカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物、及び、ジカルボン酸化合物の合計に対する、テトラカルボン酸化合物の割合は好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上であり、より更に好ましくは90モル%以上であり、とりわけ好ましくは98モル%以上である。
【0034】
(ジアミン)
ジアミンの例は、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン又はそれらの混合物である。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環である。また「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香環やその他の置換基を含んでいてもよい。
【0035】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン及び1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
芳香族ジアミンの例は、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMBと呼ぶことがある)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンである。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
ジアミンは、フッ素系置換基を有することもできる。フッ素系置換基の例は、トリフルオロメチル基などの炭素数1~5のパーフルオロアルキル基、及び、フルオロ基である。
【0038】
上記ジアミンの中でも、高透明性及び低着色性の観点からは、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)及び4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルからなる群から選ばれる1種以上を用いることがさらに好ましい。
ジアミンは、ビフェニル構造及びフッ素系置換基を有するジアミンであることが好適で有り、その例は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)である。
【0039】
原料モノマー中のジアミンと、テトラカルボン酸化合物等のカルボン酸化合物とのモル比は、ジアミン1.00molに対して、好ましくはテトラカルボン酸0.9mol以上1.1mol以下の範囲で適宜調節できる。高い耐折性を発現するためには得られるポリイミド系高分子が高分子量であることが好ましいことから、ジアミン1.00molに対してテトラカルボン酸0.98mol以上1.02molであることがより好ましく、0.99mol%以上1.01mol%以下であることが更に好ましい。
また、得られるポリイミド系高分子フィルムの黄色度を抑制する観点から、得られる高分子末端に占めるアミノ基の割合が低いことが好ましく、ジアミン1.00molに対してテトラカルボン酸化合物等のカルボン酸化合物は1.00mol以上であることが好ましい。
【0040】
ジアミン及びカルボン酸化合物(たとえば、テトラカルボン酸化合物)の分子中のフッ素数を調整して、得られるポリイミド系高分子中のフッ素量を、ポリイミド系高分子の質量を基準として、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上とすることができる。フッ素の割合が高いほど原料費が高くなる傾向があることから、フッ素量の上限は40質量%以下であることが好ましい。フッ素系置換基は、ジアミン又はカルボン酸化合物のいずれに存在してもよく、両方に存在してもよい。フッ素系置換基を含むことにより特にYI値が低減される場合がある。
【0041】
(溶媒A)
ポリイミド系高分子の合成(原料モノマーの重合及びイミド化)に用いられる溶媒Aは、重合により生成したポリイミド系高分子前駆体及びイミド化により生成するポリイミド系高分子を溶解可能な溶媒であることが好適である。このような溶媒としてはラクトン系溶媒、アミド系溶媒、含硫黄溶媒が挙げられ、具体的にはγブチロラクトン(沸点204℃)(GBLと呼ぶことがある)、N,N-ジメチルホルムアミド(沸点153℃)、N,N-ジメチルアセトアミド(沸点165℃)(DMAcと呼ぶことがある)、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)等が例示される。溶媒は、混合物であってもよい。
【0042】
ポリイミドの合成において、後述するイミド化反応を高温で行う場合、溶媒Aは高沸点の溶媒であることが好ましい。沸点は160℃以上が好ましく、180℃以上であるとさらに好ましい。このような溶媒Aの例は、GBL,DMAc、ジメチルスルホキシドである。
【0043】
(第三級アミン)
第三級アミンは、溶媒中でポリイミド系高分子前駆体のイミド化触媒として機能し得る。
三級アミンの例としては、式(a)で表される三級アミン(以下、三級アミンAともいう)、式(b)で表される三級アミン(以下、三級アミンBともいう)、式(c)で表される三級アミン(以下、三級アミンCともいう)、式(d)で表される三級アミン(以下、三級アミンDともいう)が挙げられる。
【0044】
【化1】
式(a)において、R
1A、R
2A、R
3Aは、それぞれ異なっていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基であり、R
1A、R
2A及びR
3Aの炭素数の合計は10以上18以下である。
【0045】
三級アミンAの具体例としては、トリプロピルアミン、ジブチルプロピルアミン、エチルジブチルアミンが挙げられる。
【0046】
【化2】
式(b)において、R
1Bは、炭素数2~10の一価の炭化水素基であって、R
2Bは炭素数3~12の二価の脂肪族炭化水素基であって、R
1B及びR
2Bの炭素数の合計は9~16である。
【0047】
三級アミンBの具体例としては、N-エチルピペリジン、N-プロピルピペリジン、N-ブチルピロリジン、N-ブチルピペリジン、N-プロピルヘキサヒドロアゼピンが挙げられる。
【0048】
【化3】
式(c)において、R
1Cは炭素数7~15の三価の脂肪族炭化水素基である。
【0049】
三級アミンCの具体例としては、アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、アザビシクロ[3.2.1]オクタン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、アザビシクロ[3.2.2]ノナンが挙げられる。
【0050】
【化4】
式(d)において、R
1Dは炭素数8~15の三価の脂肪族炭化水素基である。
【0051】
三級アミンDの具体例としては、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、3,4-シクロペンテノピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン、イソキノリンが挙げられる。
【0052】
用いる三級アミンの沸点が高いと、減圧中の水分の留去に際して、系外に除かれる触媒量が抑制される傾向があるために好ましい。沸点が120℃以上の三級アミンが好ましく、沸点が140℃以上の三級アミンがより好ましく、沸点が170℃以上の三級アミンが更に好ましく、沸点が200℃以上の三級アミンがより更に好ましい。用いる三級アミンの沸点の上限は特に規定されないが、通常350℃以下である。低沸点の三級アミンを用いる場合ほど、留去分を考慮して触媒の使用量を増やす必要がある。
【0053】
前記三級アミンは、好ましくは三級アミンDであり、より好ましくは炭素数6以上13以下の三級アミンDである。更に好ましくは炭素数9以上13以下の三級アミンDであり、より更に好ましくはイソキノリン及びその水素化物である。
【0054】
(ポリイミド系高分子ワニスの製造方法)
この方法は、ポリイミド系高分子の原料モノマーを溶媒中において重合してポリイミド系高分子前駆体を得る重合工程、及び、減圧環境下、第三級アミンを含む溶媒中において前記ポリイミド系高分子前駆体をイミド化してポリイミド系高分子溶液を得るイミド化工程を含む。
【0055】
なお、本実施形態においてポリイミド系高分子ワニスとは、ポリイミド系高分子前駆体のイミド化によって得られるポリイミド系高分子溶液、および、該ポリイミド系高分子溶液に溶媒や添加剤を加えることによって得られる溶液のことである。
【0056】
(原料モノマーの重合によるポリイミド系高分子前駆体の生成)
反応容器内でポリイミド系高分子の原料モノマーを上述する溶媒A中で重合させる。原料モノマー及び溶媒Aを含む全液体に占める原料モノマーの量は、10~60質量%とすることができる。モノマーの量が多いと重合速度が上がる傾向があり、分子量を高くすることができる。また、重合時間を短縮することができ、ポリイミド系高分子の着色が抑えられる傾向にある。モノマーの量が多すぎると、重合物又は重合物を含む溶液の粘度が高くなる傾向にあるため、攪拌しにくくなったり、反応容器や攪拌翼などに重合物が付着して収率が低くなったりすることがある。
【0057】
原料モノマーの各成分、及び、溶媒Aの混合の順序は特に限定されず、全てを同時に混合しても良いし別々に混合してもよいが、ジアミンの少なくとも一部と溶媒とを混合した後にカルボン酸化合物を加えることが好ましい。ジアミン及びカルボン酸化合物は分割して加えても、化合物ごとに段階的に加えてもよい。
【0058】
反応マス中の原料モノマーをよく撹拌することで原料モノマーの重合が促進されポリイミド系高分子前駆体が形成される。必要に応じて、反応マスを40~90℃程度に加熱してもよい。原料モノマーの重合工程の進行と同時並行で、後述するイミド化工程を進行させることもできる。この場合、後述するイミド化の条件に合わせて反応マスをさらに高温に加熱してもよい。
重合の反応時間は、たとえば、24時間以下とすることができ、1時間以下であってもよいし、1~24時間とすることができる。
【0059】
反応マスはポリイミド系高分子前駆体の重合工程中に第三級アミンを含んでいてもよい。この場合、第三級アミンはジアミンと溶媒とを混合する前に加えても、混合した後に加えてもよく、ジアミンと溶媒とカルボン酸化合物とを混合した後に加えてもよい。また、用いる溶媒の一部で希釈しておいてから反応マスに加えてもよい。
【0060】
(ポリイミド系高分子前駆体のイミド化)
続いて、減圧環境下で、第三級アミンを含む反応マスを加熱することによってポリイミド系高分子前駆体のイミド化を促進し、ポリイミドを生成しつつ副生する水等を留去する。上記の重合を行った反応容器内で、溶媒A中のポリイミド系高分子前駆体をイミド化することが好適である。第三級アミンは、上述のように原料モノマーを重合してポリイミド系高分子前駆体を生成する重合工程中又は重合工程前に加えてもよいが、ポリイミド系高分子前駆体を生成する工程の後に加えてもよい。
ポリイミド系高分子前駆体の生成反応とイミド化反応とを、同時に進行させてもよい。その場合、イミド化反応で生成する水によりアミド基の結合が切断され、得られるポリイミド系高分子の分子量が低くなることがある。このようなポリイミド系高分子を含むワニスから得られるフィルムは、耐折性が低下することがある。イミド化工程の際に、減圧して反応溶液中の水を速やかに除去することで、アミド基の切断反応を抑制し、得られるポリイミド系高分子の分子量を高くすることができる。したがって、特にポリイミド系高分子前駆体の生成反応とイミド化反応とを同時に進行させる場合に、イミド化工程を減圧環境下で行うことにより、精製工程を経ずにポリイミド系高分子を含むワニスから直接フィルムを製造してもフィルムに高い耐折性を与えられる傾向がある。
【0061】
反応マスにおいて、耐折性向上の観点から、100質量部の原料モノマーに対する第三級アミンの添加量は、好ましくは0.05質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上であり、更に好ましくは0.2質量部以上である。一方、フィルムの着色を抑制する目的からは触媒の添加量は少ないことが好ましい。第三級アミンの添加量は好ましくは2質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下であり、更に好ましくは0.7質量部以下であり、より更に好ましくは0.5質量部以下、とりわけ好ましくは0.3質量部以下である。
【0062】
イミド化工程の温度は、100℃以上250℃以下とすることが好ましく、150℃以上210℃以下とすることがより好ましい。イミド化工程の圧力は、好ましくは730mmHg以下であり、より好ましくは700mmHg以下であり、更に好ましくは675mmHg以下である。
【0063】
イミド化工程の圧力は、例えば350mmHg以上とすることができ、500mmHg以上であってもよい。イミド化工程の温度における溶媒の蒸気圧によっては、反応の安定性を高めるために圧力は400mmHg以上で行うことが好ましいこともある。同じ理由で、600mmHgで行うことがより好ましいこともある。
イミド化工程の圧力をイミド化工程の溶媒の飽和蒸気圧の近くに設定するとYIが抑制されやすい傾向がある。飽和蒸気圧から50mmHg以内の圧力が好ましい。
【0064】
加熱時間は、たとえば、1~24時間とすることができる。好ましくは1~12時間であり、より好ましくは2~9時間であり、更に好ましくは2~8時間であり、より更に好ましくは2~6時間であり、とりわけ好ましくは2~5時間である。加熱中には攪拌を行うことが好適である。
反応時間が長くなると、分子量が高くなるが、樹脂の黄色味が強くなりやすい傾向がある。一方、反応時間が短いと分子量が低くなりやすく、黄色味は弱くなる傾向がある。
【0065】
イミド化工程において、反応容器内の溶媒Aを含む液相と接触する気相中の酸素濃度が低いと、ポリイミド系高分子の着色が抑制される傾向があり、これを含むワニスから得られるフィルムのYIの数値が低くなる傾向がある。製造方法において、反応容器の気相中の酸素濃度が低い状態で、減圧環境下での反応マスの加熱によるイミド化工程が行われればよく、減圧環境下での加熱より前、例えば減圧を開始する時又は原料モノマー等の投入する時から当該酸素濃度が低くてもよい。酸素濃度は、0.02%以下にすることが好ましく、0.01%以下にすることがさらに好ましい。高温に加熱したときに酸素濃度が高いと、特に着色の原因となるので、例えば、反応溶液の温度が130℃以上のときに、酸素濃度を0.02%以下にすることが好ましい。前駆体の合成及び前駆体のイミド化において、実質的に酸素は発生しないことから、例えば原料投入前に反応容器内を窒素ガスで置換するなどして気相の酸素濃度を下げることにより、イミド化工程における気相の酸素濃度を低減することができる。イミド化工程の酸素濃度は、例えば反応容器内部を減圧する際に反応容器から除去するガス中の酸素濃度の分析をすることにより把握できる。減圧中の酸素濃度の測定が困難な場合、減圧前後の気相をサンプリングして酸素濃度を測定してもよい。
【0066】
加熱後に、大気圧に戻し、冷却することにより、ポリイミド系高分子溶液が得られる。
このポリイミド系高分子溶液をそのままポリイミド系高分子ワニスとしてもよい。
【0067】
(希釈工程)
また、得られたポリイミド系高分子溶液に対し、さらに、溶媒Bを加えてポリイミド系高分子の濃度を調整してポリイミド系高分子ワニスを得ることもできる。好適なポリイミド系高分子ワニス中の固形分濃度は、10~25質量%である。
なお、ポリイミド系高分子ワニスからフィルムを作製する場合、ワニス中の固形分の全量に対して、ポリイミド系高分子を30質量%以上含むワニスを使用すれば、後述する主成分の1つがポリイミド系高分子であるポリイミド系高分子フィルムを容易に得ることができる。ポリイミド系高分子の濃度は、ワニスの全質量を基準に10質量%以上が好ましく、13質量%以上がより好ましい。
【0068】
希釈は反応容器内において行うことができ、反応容器から回収した後の溶液に対して行うこともできる。
【0069】
反応容器内において、イミド化後のポリイミド系高分子溶媒に対して溶媒Bを追加して、反応容器内におけるポリイミド系高分子の濃度を希釈させると、次の抜き出し工程で反応容器に残る高分子の量を低減できて、高分子の収率の向上が図れる。また、反応容器に残る高分子の量が減ると、この反応容器を用いた次の重合及びイミド化の繰り返し工程において、得られるポリイミド系高分子の着色(例えば黄色)が改善される。
【0070】
希釈用の溶媒Bは、上述した溶媒Aで挙げたものとすることができる。溶媒Bと溶媒Aは、同一種でも良いし、互いに異種でも良い。希釈用の溶媒Bとして、ポリイミド系樹脂に対する溶解性の高い溶媒を適切に選定することで、反応容器からのポリイミド系高分子の回収率が高くなる。このような溶媒として、N,N-ジメチルアセトアミド、シクロペンタノン(沸点131℃)等が挙げられる。
【0071】
反応容器内での希釈を、異なる種類の複数の溶媒Bを用いて複数回行うこともできる。
【0072】
(溶液の抜き出し工程)
続いて、反応容器から、ポリイミド系高分子ワニスを抜き出す。抜き出したワニスは、後述するフィルム形成工程に利用できる。
【0073】
(溶媒Cによる反応容器の洗浄)
続いて、抜き出し後の反応容器内に溶媒Cを供給して反応容器内に残存する高分子を溶媒Cに溶解させ、その後、高分子を溶解した溶媒Cを反応容器から回収し、反応容器内に残る高分子をさらに除去することができる。
【0074】
反応容器の洗浄により、反応容器に残る高分子の量を低減できて、この反応容器を用いた次の重合及びイミド化の繰り返し工程において、得られるポリイミド系高分子の着色(例えば黄色)が改善される。
【0075】
溶媒Cは、溶媒A及び溶媒Bで例示したものであることができる。溶媒Cは、溶媒Aと同一種でも良いし、溶媒Aと異種でも良い。また、溶媒Cは、溶媒Bと同一種でも良いし、溶媒Bと異種でも良い。適切な洗浄用の溶媒を採用することで、反応容器に残存する高分子の量を低減できる。このような溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド、シクロペンタノン等が挙げられる。
【0076】
反応容器に溶媒Cを供給し、その後回収した後に、溶媒Dを反応容器に供給して高分子を溶解させ、その後、溶媒Dを回収しても良い。溶媒Dによる洗浄を複数回行っても良い。溶媒Dは、溶媒Cと同種でも良く、溶媒Cと異なっていても良い。
【0077】
(繰り返し)
洗浄後、洗浄した反応容器を再び用いて、重合、イミド化、希釈、抜き出し、洗浄の各工程を繰り返すことにより、一つの反応容器を用いて効率よく、ポリイミド系高分子ワニスを製造することができる。
【0078】
(溶媒C及び溶媒Dの再利用)
上述の希釈工程に用いる溶媒Bとして、反応容器の洗浄に用いた溶媒Cを用いることが好適である。溶媒Bとして、洗浄に用いた溶媒Dを用いることもできる。希釈用の溶媒Bとして、少なくとも溶媒Cを使用することが好適である。希釈用の溶媒Bとして、高分子を含む溶媒C等を利用とすることで、高分子の収率を高くすることができる。
【0079】
ここで、収率とは、一度の重合工程での原料モノマーの仕込み量から算出されるポリイミド系高分子の理論量(重量)に対し、その後の抜出し工程で実際に得られたポリイミドワニス中の樹脂固形分の重量のことである。ポリイミドワニスが反応容器の洗浄後の溶媒Cを含む場合、ポリイミドワニス中の樹脂固形分の重量は、溶媒Cに含まれる樹脂固形分と、反応容器内で合成したポリイミドワニス中の樹脂固形分の合計量である。
【0080】
特に重量平均分子量が250,000以上の透明なポリイミド系高分子ワニスの製造においては、得られた高分子が反応容器に付着しやすく、溶液の抜き出し後に高分子が反応容器に残って収率が低下したり、反応容器に残存した高分子が次工程のポリイミドの合成において悪影響を及ぼして、得られる高分子の黄色味が高くなったり、得られる高分子に含まれる異物が増加したりする場合がある。
【0081】
このような課題は、抜き出し前の溶液の溶媒Bによる希釈、及び/又は、溶媒Cを用いた反応容器の洗浄により解決することができる。溶媒Cに加えて溶媒Dを用いた洗浄を行う、すなわち、2種類以上の溶媒で複数回の洗浄することで反応容器の洗浄がより容易になる傾向もある。
【0082】
例えば、反応容器の洗浄をしない、又は洗浄が不十分である状況で、重合を繰り返し行うと、反応容器の壁面に高分子に由来する付着物が残存し、ポリイミド系高分子のYI値が高くなることがある。そのような場合には、複数の溶媒(溶媒C及び溶媒D)で洗浄することで、より反応容器の洗浄が強化され、YI値の上昇が抑制される。
【0083】
なお、上記の「透明」とは、ワニスに含まれるポリイミド系高分子が、JIS K7105:1981に準拠して膜厚80μmの高分子フィルムを作成して測定した際の全光線透過率(Tt)が85%以上であることを意味する。この全光線透過率は、90%以上であることが好ましい。
【0084】
なお、上記重量平均分子量は、GPCで測定した標準ポリスチレン換算分子量である。
【0085】
ポリイミドの合成に用いる溶媒Aと、希釈及び洗浄に用いる溶媒B及び/又は溶媒Cとは、同じ溶媒でもよいが、互いに異なると、反応容器の洗浄度が改善して得られる高分子の透明性を改善できる。溶媒B及びCとして好適な溶媒には、上述のように、N,N-ジメチルアセトアミド、シクロペンタノンなどが挙げられる。これらの溶媒は、GBLよりも沸点が低いが、ポリイミド系高分子ワニスの粘度が低下するので、反応容器からの抜出しに有利になるので好ましい。一方、ポリイミドの合成に用いる溶媒Aは、上述のように、イミド化反応を高温で行う場合には、GBLのように高沸点の溶媒であることが好ましい。
【0086】
さらに、前記ポリイミド系高分子溶液に溶媒以外の添加剤を加えて、ポリイミド系高分子ワニスを調製することもできる。添加剤の例としては、無機粒子や紫外線吸収剤が挙げられる。
【0087】
(無機粒子)
無機粒子の具体例としては、シリカ微粒子が挙げられる。
【0088】
本発明において用いられる無機粒子の平均一次粒子径は、通常100nm以下である。
無機粒子の平均一次粒子径が100nm以下であるとフィルムの透明性が向上する傾向にある。フィルム中の無機粒子の一次粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡(TEM)による定方向径とすることができる。平均一次粒子径は、例えば、TEM観察により一次粒子径を10点測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0089】
無機粒子がシリカ微粒子である場合、シリカ微粒子は、有機溶剤等にシリカ粒子を分散させたシリカゾルであっても、気相法で製造したシリカ微粒子粉末を用いてもよいが、ハンドリングが容易であることからシリカゾルであることが好ましい。原料シリカ粒子の平均一次粒子径は、例えば、BET測定により求めることができる。
【0090】
無機粒子の添加量は、たとえば、流延成形後のフィルム中の無機粒子の濃度が0質量%以上90質量%以下となるように、ポリイミド系高分子溶液中の樹脂成分の量に合わせて設定することができる。好ましくは10質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上50質量%以下である。配合比が上記の範囲内であると、光学フィルムの透明性及び機械的強度を両立させやすい傾向がある。
【0091】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤は、樹脂材料の分野で紫外線吸収剤として通常用いられているものから、適宜選択することができる。紫外線吸収剤は、400nm以下の波長の光を吸収する化合物から、用途に応じた光吸収能の要求特性に応じて、紫外線吸収剤の種類および添加量を決めることができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、及びトリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物であることが好ましい。
【0092】
なお、本実施形態において、「系化合物」とは、当該「系化合物」が付される化合物の誘導体を指す。例えば、「ベンゾフェノン系化合物」とは、母体骨格としてのベンゾフェノンと、ベンゾフェノンに結合している置換基とを有する化合物を指す。
【0093】
(他の添加剤)
ポリイミド系高分子溶液に、透明性及び屈曲性を損なわない範囲で、更に他の添加剤を添加してもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤などの着色剤、難燃剤、滑剤、増粘剤及びレベリング剤等が挙げられる。
【0094】
無機粒子以外の添加成分の総量は、流延成形後のフィルム中の濃度が0%以上20質量%以下となるように、好ましくは0%超10質量%以下となるように、適宜設定できる。
【0095】
(重合及びイミド化により得られるポリイミド系高分子)
本実施形態において、ポリイミドとは、イミド基を含む繰返し構造単位を含有する重合体であり、ポリアミドとは、アミド基を含む繰返し構造単位を含有する重合体である。ポリイミド系高分子とは、ポリイミド;イミド基及びアミド基の両方を含む繰返し構造単位を含有する重合体;および、イミド基を含む繰り返し構造単位とアミド基を含む繰り返し構造単位との両方を含有する重合体を示す。
【0096】
重合及びイミド化により得られるポリイミド系高分子は、下記の式(10)で表される繰り返し構造単位を有する。ここで、Gは4価の有機基であり、Aは2価の有機基である。G及び/又はAが異なる、2種類以上の式(10)で表される構造を含んでいてもよい。また、本実施形態に係るポリイミド系高分子は、得られるポリイミド系高分子フィルムの各種物性を損なわない範囲で、式(11)、式(12)、及び式(13)で表される構造のいずれか1つ以上を含んでいてもよい。
【0097】
本実施形態に係るポリイミド系高分子は、後述するテトラカルボン酸化合物とジアミン化合物とを主な原料として製造することができ、式(10)で表される繰り返し構造単位が、ポリイミド系高分子の主な構造単位であると、フィルムの強度及び透明性の観点で好ましい。式(10)で表される繰り返し構造単位は、ポリイミド系高分子の全繰り返し構造単位に対し、好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上であり、殊更好ましくは90モル%以上であり、殊更さらに好ましくは98モル%以上である。式(10)で表される繰り返し構造単位は、100モル%であってもよい。
【0098】
【0099】
G及びG1は4価の有機基であり、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基であり、以下の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。式中の*は結合手を表し、Zは、単結合、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-Ar-、-SO2-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH2-Ar-、-Ar-C(CH3)2-Ar-又は-Ar-SO2-Ar-を表す。Arはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、具体例としてはフェニレン基が挙げられる。得られるフィルムの黄色度を抑制しやすいことから、式(20)~式(27)で表される基が好ましい。
【0100】
【0101】
G2は3価の有機基であり、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。G2の有機基として、上記の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基並びに3価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0102】
G3は2価の有機基であり、好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。G3の有機基として、上記の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基及び炭素数6以下の2価の鎖式炭化水素基が例示される。
【0103】
A、A1、A2及びA3はいずれも2価の有機基である。好ましくは炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基であり、以下の式(30)、式(31)、式(32)、式(33)、式(34)、式(35)、式(36)、式(37)もしくは式(38)で表される基;それらがメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;及び炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
式中の*は結合手を表し、Z1、Z2及びZ3は、それぞれ独立して、単結合、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-SO2-又は-CO-を表す。1つの例は、Z1及びZ3が-O-であり、かつ、Z2が-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-又は-SO2-である。Z1とZ2、及び、Z2とZ3は、それぞれ、各環に対してメタ位又はパラ位であることが好ましい。
【0104】
【0105】
式(10)及び式(11)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びテトラカルボン酸化合物から誘導される。式(12)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン及びトリカルボン酸化合物から誘導される。式(13)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン及びジカルボン酸化合物から誘導される。
【0106】
本実施形態に係るポリイミド系高分子は、異なる種類の複数の上記の繰り返し構造単位を含む共重合体でもよい。ポリイミド系高分子の重量平均分子量は、通常50,000~500,000である。ポリイミド系高分子の重量平均分子量は、好ましくは80,000~500,000であり、より好ましくは100,000~500,000であり、さらに好ましくは130,000~400,000である。重量平均分子量は、GPCで測定した標準ポリスチレン換算分子量である。ポリイミド系高分子の重量平均分子量が大きいと高い屈曲性を得られやすい傾向があるが、ポリイミド系高分子の重量平均分子量が大きすぎると、ワニスの粘度が高くなり、加工性が低下する傾向がある。
【0107】
ポリイミド系高分子及びポリアミドが含フッ素置換基を含むことにより、得られるフィルムの弾性率が向上するとともに、フィルムのYI値が低減される傾向がある。フィルムの弾性率が高いと、キズ及びシワ等の発生が抑制される傾向がある。フィルムの透明性の観点から、ポリイミド系高分子及びポリアミドは、含フッ素置換基を有することが好ましい。含フッ素置換基の具体例としては、フルオロ基及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
【0108】
ポリイミド系高分子におけるフッ素原子の含有量は、ポリイミド系高分子の質量を基準として、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上であることができる。上限は40質量%以下であることができる。
【0109】
(フィルム形成方法)
得られたポリイミドワニスを用いたポリイミド系高分子フィルムの製造方法の一例を説明する。基材上にポリイミド系高分子ワニスを流延して塗膜を形成し、塗膜から溶剤を除去し、乾燥した塗膜を基材から剥離する。これにより、ポリイミド系高分子フィルムが得られる。
【0110】
流延は、ロール・ツー・ロールやバッチ方式により、樹脂基材、ステンレス鋼ベルト、又はガラス基材上に行うことができる。樹脂基材の例としては、PET、PEN、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられる。樹脂基材は耐熱性に優れた樹脂が好ましい。
ポリイミド系高分子フィルムの場合、PET基材がフィルムとの密着性及びコストの観点で好ましい。
【0111】
上記の本発明の製造方法で得られるワニスは、精製工程を経ずにフィルム化しても良好な物性のフィルムが得られる。このため、ポリイミド系高分子を一旦固体として析出させその後溶剤に再溶解する精製工程を経ずにフィルム化することが好ましい。これにより、コスト面で有利なプロセスとなる。
【0112】
本発明のポリイミド系フィルムの製造方法では、加温した気体を塗膜の表面に接触させる乾燥機に塗膜を通過させるなどして、一定量の有機溶媒を揮発させ、塗膜を自己支持性フィルムとして支持体から剥離して得てもよい。実施温度は用いる基材により調節され、樹脂基材を用いる場合はそれらのガラス転移温度以下で行われるのが一般的である。通常、50℃~300℃の適切な温度に加熱すればよく、加熱温度は多段階で調節したり、温度勾配をつけたりしてもよい。適宜、不活性雰囲気あるいは減圧の条件下でおこなうことも好適である。
【0113】
また、必要に応じて、剥離されたポリイミド系高分子フィルムをさらに80~300℃で加熱してもよい。
【0114】
(ポリイミド系高分子フィルム)
このようにして得られるポリイミド系高分子フィルムは上記ポリイミド系高分子ワニス中の固形分により形成され、主成分の1つがポリイミド系高分子である。ポリイミド系高分子は、ポリイミド系高分子フィルムの全量に対して、30質量%以上であることが好ましい。ポリイミド系高分子フィルムには、前記シリカ微粒子、前記紫外線吸収剤及び/又は前記添加剤が含まれていてもよい。ポリイミド系高分子の濃度は、ポリイミド系高分子フィルムの全質量を基準に10質量%以上が好ましく、13質量%以上がより好ましい。
【0115】
ポリイミド系高分子フィルムは、第三級アミンを含む。第三級アミンの種類の好ましい例は、前記の(第三級アミン)の項に記載の通りである。得られるポリイミド系高分子フィルムの耐折性が向上する観点からは、ポリイミド系高分子フィルム中の第三級アミンの含有量は少ないことが好ましい。前記第三級アミンの含有量は好ましくは0.25質量%以下であり、より好ましくは0.20質量%以下であり、更に好ましくは0.15質量%以下である。含有量を少なくすることにより、フィルムの着色も抑制される傾向がある。
【0116】
一方、ポリイミド系フィルムの積層体を作成して各種用途に応用する際、紫外線透過を抑制できるという観点からは第三級アミンが含まれていることが好ましい。前記第三級アミンの含有量は好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.02質量%以上であり、更に好ましくは0.05質量%以上である。
【0117】
ポリイミド系高分子フィルムの厚みは、10~200μmとすることができる。
【0118】
本実施形態により得られるポリイミド系高分子フィルムは、R=1mmの耐折性試験において5000回以上の折り曲げ回数を示すことが可能である。ポリイミド系高分子ワニスの製造条件を最適化することで、6000回以上、8000回以上、10000回以上、20000回以上の折り曲げ回数を示すフィルムを得ることも可能である。R=1mmの耐折性試験とは、10mm×100mmの短冊状にカットしたフィルムの中央を、曲率半径1.0mmで、折り曲げ角度135°、荷重750g、試験速度175cpmで、裏表両方向へ交互に折り曲げた際に、破断した際の折り曲げ回数である。
【0119】
本実施形態により得られるポリイミド系高分子フィルムは、JIS K 7373:2006に準拠した黄色度YIを十分抑制することができ、黄色度YIを2.5以下、2.4以下、2.3以下、2.2以下とすることができる。フィルム化時の温度などの合成条件を最適化することで、2.1以下、2.0以下、1.9以下、1.8以下とすることができる。
【0120】
本実施形態により得られるポリイミド系高分子フィルムは透明である。具体的には、このポリイミド系高分子フィルムは、JIS K7105:1981に準拠して測定した全光線透過率(Tt)が85%以上であることができ、90%以上であることが好ましい。
より好ましくは91%以上であり、更に好ましくは92%以上である。また、ポリイミド系高分子フィルムは、JIS K 7105:1981に準拠して測定したHazeが1%以下であることができ、好ましくは0.8%以下である。より好ましくは0.5%以下であり、更に好ましくは0.3%以下である。
【0121】
本実施形態により得られるポリイミド系高分子フィルムは、含フッ素置換基を含むことにより特に着色が低減される場合がある。ポリイミド系高分子におけるフッ素原子の含有量は、ポリイミド系高分子の質量を基準として、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上であることができる。上限は40質量%以下であることができる。
【0122】
(用途)
このような光学フィルムは、高い耐折性を有する上に光学特性(黄色度、Tt、Haze)が良好であるので、フレキシブルデバイスの前面板などの光学部材として好適に使用することができる。
【0123】
フレキシブルデバイスの例としては、画像表示装置(フレキシブルディスプレイ、電子ペーパーなど)、太陽電池などが挙げられる。フレキシブルディスプレイは、たとえば、表面側から順に、前面板/偏光板保護フィルム/偏光板/偏光板保護フィルム/タッチセンサーフィルム/有機EL素子層/TFT基板という構成が挙げられ、構成の表面及び各層間に、ハードコート層、粘着層、接着層、位相差層などを含んでもよい。かかるフレキシブルディスプレイは、タブレットPC、スマートフォン、携帯ゲーム機などの画像表示部として用いることができる。
【0124】
また、この光学フィルムの表面に、紫外線吸収層、ハードコート層、粘着層、色相調整層、屈折率調整層などの種々の機能層を付加した積層体とすることもできる。
【実施例】
【0125】
(耐折性の評価)
実施例及び比較例で得られたポリイミド系高分子フィルムの耐折性は、以下の基準で評価した。フィルムを、ダンベルカッターを用いて10mm×100mmの短冊状にカットした。カットしたフィルムを東洋精機社製のMIT-DA MIT耐折疲労試験機にセットして、試験速度175cpm、折り曲げ角度135°、荷重750g、折り曲げクランプのR=1.0mmの条件で、裏表両方向への折り曲げ、破断するまでの折り曲げ回数を測定した。
【0126】
(全光線透過率Ttの測定)
実施例及び比較例で得られたポリイミド系高分子フィルムのそれぞれの全光線透過率を、JIS K7105:1981に準拠して、スガ試験機社製の全自動直読ヘーズコンピューターHGM-2DPにより測定した。
【0127】
(Hazeの測定)
実施例及び比較例で得られたポリイミド系高分子フィルムのそれぞれの全光線透過率を、JIS K7105:1981に準拠して、スガ試験機社製の全自動直読ヘーズコンピューターHGM-2DPにより測定した。
【0128】
(黄色度(YI値)の測定)
実施例及び比較例で得られたポリイミド系高分子フィルムのそれぞれの黄色度(Yellow Index:YI値)を、日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-670によって測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、ポリイミド系フィルムをサンプルホルダーにセットして、300~800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求めた。YI値を、下記の式に基づいて算出した。
YI=100×(1.2769X-1.0592Z)/Y
【0129】
(重量平均分子量の評価)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
(1)前処理方法
試料をγ-ブチロラクトン(GBL)に溶かして20%溶液とした後、DMF溶離液にて100倍に希釈し、0.45μmメンブランフィルターろ過したものを測定溶液とした。
(2)測定条件
カラム:TSKgel SuperAWM-H×2+SuperAW2500×1(6.0mm I.D.×150mm×3本)
溶離液:DMF(10mMの臭化リチウム添加)
流量:0.6mL/min.
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:20μL
分子量標準:標準ポリスチレン
【0130】
(フィルムの残存触媒の濃度の評価)
以下の条件でGC測定を行い、第三級アミンの定量を行った。
溶液調製:100mgのフィルムをスクリュー管に秤量し、5mlのDMSOを加えて溶解する。
装置:Agilent社製6890型、カラム:BPX-5(0.25mm×30m,膜厚:0.25μm)、カラム温度:50℃(5min)→20℃/min→350℃(5min)、注入口温度:280℃、流量:Heを1.0mL/分、検出器:FID、検出器温:350℃、試料注入量:1.0μL、スプリット比:50:1、シリンジ洗浄溶媒:DMSO、シリンジ洗浄溶媒:A:3回、B:3回
【0131】
(実施例1)
(ポリイミドワニスの製造)
窒素雰囲気下、溶媒トラップおよびフィルターを取り付けた真空ポンプが接続された反応容器に、1.25gのイソキノリンを投入した。次に、反応容器にγ-ブチロラクトン(GBL)375.00g、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)104.12gを投入し、撹拌して完溶させた。さらに4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)を145.88g加えた後、撹拌しつつオイルバスで昇温を開始した。加えたTFMBと6FDAとのモル比は、6FDA:TFMBが1.00:0.99であり、液中のモノマー濃度が40wt%であった。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は0.5になる。内温が80℃に到達したところで650mmHgまで減圧し、続けて内温180℃まで昇温した。180℃到達後、さらに4時間加熱撹拌を行った後に大気圧まで復圧し、155℃まで冷却しポリイミド溶液を得た。155℃にてGBLを加えてポリイミドの固形分が24wt%である均一溶液とし、その後、反応容器からポリイミドワニスを取り出した。
【0132】
(ポリイミドフィルムの製造)
得られたポリイミドワニス200.00gにGBL38.31gおよびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)11.82gを加えてさらに希釈した。それをPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルム上で流涎成形して塗膜とした後、50℃で30分、140℃で10分加熱してポリイミドフィルムを得た。PETから剥離してさらに200℃40分加熱することで、膜厚80μm、Tt92.6%、Haze 0.1%、黄色度2.2のフィルムを得た。
【0133】
(実施例2)
180℃到達後の液体の加熱撹拌時間を3時間とする以外は、実施例1と同様にし、Tt92.7%、Haze 0.1%、黄色度2.0のフィルムを得た。
【0134】
(実施例3)
イソキノリンの量を0.75gとする以外は実施例2と同様とし、Tt92.4%、Haze 0.1%、黄色度1.8のフィルムを得た。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は0.3になる。
【0135】
(比較例1)
イソキノリンの量を2.00gとし、工程中減圧を一切行わず、内温が180℃になってから5時間加熱撹拌を行った以外は実施例1と同様とし、Tt92.5%、Haze 0.1%、黄色度2.4のフィルムを得た。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は0.8になる。
【0136】
(比較例2)
イソキノリンの量を2.50gとし、γ-ブチロラクトン(GBL)の量を464.29g、TFMBの量を103.50g、6FDAの量を146.50gとして、TFMBと6FDAとのモル比を、6FDA:TFMBが1.00:0.98、液中のモノマー濃度を35wt%とし、工程中減圧を一切行わず、内温が180℃になってから5時間加熱撹拌を行った以外は実施例1と同様とし、Tt92.5%、Haze 0.1%、黄色度3.0のフィルムを得た。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は1.0になる。
【0137】
(比較例3)
イソキノリンに代えてトリエチルアミンを3.00g添加し、TFMBの量を104.73gとし、6FDAを145.27gとし、TFMBと6FDAとのモル比を1.00:1.00とし、液中のモノマー濃度は40wt%のままとし、工程中減圧を一切行わず、内温が180℃になってから5時間加熱撹拌を行った以外は実施例1と同様とし、黄色度2.1のフィルムを得た。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は1.2になる。
【0138】
条件及び結果を表1に示す。
【0139】
【0140】
第三級アミンを添加しつつ加熱中に減圧した実施例1~3では、高い耐折性を達成できた。これに対して、加熱中に減圧しなかった比較例1~3では、実施例より触媒量を高くしてもなお耐折性を高くすることができなかった。比較例における触媒量を実施例と同程度にすると、耐折性はさらに悪化することが予想される。
【0141】
(実施例A1)
(ポリイミドワニスの製造)
窒素雰囲気下、溶媒トラップおよびフィルターを取り付けた真空ポンプが接続された反応容器に、1.25gのイソキノリンを投入した。次に、反応容器にγ-ブチロラクトン(GBL)305.58g、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)104.43gを投入し、撹拌して完溶させた。さらに4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)を145.59g加えた後、撹拌しつつオイルバスで昇温を開始した。加えたTFMBと6FDAとのモル比は、6FDA:TFMBが1.00:0.995であり、モノマー濃度が45wt%であった。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は0.5になる。内温が120℃に到達したところで610mmHgまで減圧し、続けて内温200℃まで昇温した。200℃到達後、さらに5.5時間加熱撹拌を行った後に大気圧まで復圧し、170℃まで冷却しポリイミド溶液を得た。減圧前後に反応容器中の酸素濃度を確認したところ、0.2%であった。170℃にてGBL(溶媒B)を加えてポリイミドの固形分が40wt%である均一溶液とし、さらに、155℃にてN,N-ジメチルアセトアミド(溶媒B)を加えてポリイミドの固形分が20wt%である均一溶液とし、反応容器からポリイミドワニスを取り出した。
【0142】
(ポリイミドフィルムの製造)
得られたポリイミドワニス200.00gにN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)50gを加えてさらに希釈した。それをPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルム上で流涎成形して塗膜とした後、50℃で30分、140℃で10分加熱してポリイミドフィルムを得た。PETから剥離してさらに200℃40分加熱することで、膜厚80μm、Tt92.0%、Haze 0.1%、黄色度3.9のフィルムを得た。
【0143】
(実施例A2)
γ-ブチロラクトン(GBL)の量を375.03gに変更し、また内温が120℃に到達したところで610mmHgまで減圧し、続けて内温180℃まで昇温し、180℃到達後、さらに8.5時間加熱撹拌を行った以外は実施例A1と同様とし、ポリイミド溶液を得た。反応容器内の全溶液において、モノマー濃度は40wt%であった。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は0.5になる。減圧前後に反応容器中の酸素濃度を確認したところ、0.2%であった。155℃にてN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)(溶媒B)を加えてポリイミドの固形分が20wt%である均一溶液とし、反応容器からポリイミドワニスを取り出した。
得られたポリイミドワニスを用いて、実施例A1と同様にしてポリイミドフィルムを製造し、膜厚80μm、Tt92.0%、Haze 0.1%、黄色度3.9のフィルムを得た。
【0144】
(実施例A3)
イソキノリンの量を0.5gに、γ-ブチロラクトン(GBL)の量を375.03gにそれぞれ変更し、また内温が120℃に到達したところで400mmHgまで減圧し、続けて内温180℃まで昇温し、180℃到達後、さらに8.5時間加熱撹拌を行った以外は実施例A1と同様とし、ポリイミド溶液を得た。反応容器内の全溶液において、モノマー濃度は40wt%であった。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は0.2になる。減圧前後に反応容器中の酸素濃度を確認したところ、0.01%未満であった。155℃にてN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)(溶媒B)を加えてポリイミドの固形分が20wt%である均一溶液とし、反応容器からポリイミドワニスを取り出した。
得られたポリイミドワニスを用いて、実施例A1と同様にしてポリイミドフィルムを製造し、膜厚80μm、Tt92.6%、Haze 0.1%、黄色度2.0のフィルムを得た。
【0145】
(実施例A4)
イソキノリンの量を0.5gに変更し、また内温が120℃に到達したところで400mmHgまで減圧し、続けて内温180℃まで昇温し、180℃到達後、さらに5.5時間加熱撹拌を行った以外は実施例A1と同様とし、ポリイミド溶液を得た。反応容器内の全溶液において、モノマー濃度は45wt%であった。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は0.2になる。減圧前後に反応容器中の酸素濃度を確認したところ、0.01%未満であった。ポリイミド溶液に対して、実施例A1と同様にしてGBL(溶媒B)及びN,N-ジメチルアセトアミド(溶媒B)をそれぞれ加え、ポリイミドの固形分が20wt%である均一溶液とし、反応容器からポリイミドワニスを取り出した。
得られたポリイミドワニスを用いて、実施例A1と同様にしてポリイミドフィルムを製造し、膜厚80μm、Tt92.7%、Haze 0.1%、黄色度1.7のフィルムを得た。
【0146】
(実施例A5)
実施例A4と同様にして、ポリイミドワニスを製造した。フィルム製造時において、紫外線吸収剤(住友化学(株)製の商品名Sumisorb340)を添加したN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)をポリイミドワニスに添加した以外は、実施例A4と同様にしてポリイミドフィルムを製造した。得られたフィルムは、膜厚80μm、Tt92.4%、Haze 0.2%、黄色度2.3だった。なお、表2における単位phrとは、ワニスに含まれるポリイミド系高分子100質量部に対する質量部を意味する。
【0147】
(実施例A6)
イソキノリンの量を0.5gに変更し、また内温が120℃に到達したところで500mmHgまで減圧し、続けて内温180℃まで昇温し、180℃到達後、さらに5.5時間加熱撹拌を行った以外は実施例A1と同様とし、ポリイミド溶液を得た。反応容器内の全溶液において、モノマー濃度は45wt%であった。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は0.2になる。減圧前後に反応容器中の酸素濃度を確認したところ、0.01%未満であった。ポリイミド溶液に対して、実施例A1と同様にしてGBL(溶媒B)及びN,N-ジメチルアセトアミド(溶媒B)をそれぞれ加え、ポリイミドの固形分が20wt%である均一溶液とし、反応容器からポリイミドワニスを取り出した。
得られたポリイミドワニスを用いて、実施例A1と同様にしてポリイミドフィルムを製造し、膜厚80μm、Tt92.6%、Haze 0.2%、黄色度2.0のフィルムを得た。
【0148】
(実施例A7)
イソキノリンの量を0.5gに変更し、また内温が120℃に到達したところで400mmHgまで減圧し、続けて内温180℃まで昇温し、180℃到達後、さらに5.5時間加熱撹拌を行った以外は実施例A1と同様とし、ポリイミド溶液を得た。反応容器内の全溶液において、モノマー濃度は45wt%であった。原料モノマー100質量部に対する3級アミンの質量部は0.2になる。減圧前後に反応容器中の酸素濃度を確認したところ、0.01%未満であった。ポリイミド溶液に対して、170℃にてGBL(溶媒B)を加えてポリイミドの固形分が40wt%である均一溶液とし、さらに、130℃にてシクロペンタノン(溶媒B)を加えてポリイミドの固形分が20wt%である均一溶液とし、反応容器からポリイミドワニスを取り出した。
得られたポリイミドワニス200.00gに対してDMAcに代えてシクロペンタノン50gを加えてさらに希釈した以外は、実施例A1と同様にしてポリイミドフィルムを製造し、膜厚80μm、Tt92.6%、Haze 0.1%、黄色度1.9のフィルムを得た。
【0149】
(実施例A8)
実施例A7と同様にして、ポリイミドワニスを製造した。フィルム製造時において、紫外線吸収剤(住友化学(株)製の商品名Sumisorb340)を添加したシクロペンタノンをポリイミドワニスに添加した以外は、実施例A7と同様にしてポリイミドフィルムを製造した。得られたフィルムは、膜厚80μm、Tt92.5%、Haze 0.1%、黄色度2.4だった。なお、表2における単位phrとは、ワニスに含まれるポリイミド系高分子100質量部に対する質量部を意味する。
【0150】
条件及び結果を表2に示す。
【0151】
【0152】
以下の実施例において、ポリイミドの収率は、式「(洗浄後の溶媒Cに含まれる樹脂固形分+製造したポリイミドワニス中の樹脂固形分の合計量(単位:重量))/原料モノマーの仕込み量から算出されるポリイミド系高分子の理論量(単位:重量)×100」により算出した。洗浄後の溶媒Cとは、以下の例において、1回目のポリイミドワニスの製造後に行った洗浄液である。製造したポリイミドワニスとは、以下の例において、2回目のポリイミドワニスの製造で得られたポリイミドワニスである。原料モノマーの仕込み量から算出されるポリイミド系高分子の理論量とは、以下の例において、2回目のポリイミドワニスの製造における原料モノマーの仕込み量から算出されるポリイミド系高分子の理論量である。
【0153】
(実施例B1)
実施例A7と同様にしてポリイミドワニスを製造し、得られたポリイミドワニスを反応容器から抜出した後、反応容器に溶媒Cとしてシクロペンタノンを注入し、130℃に昇温して3時間加熱して洗浄した。洗浄に用いたシクロペンタノンを反応容器から抜出して回収した(洗浄後の溶媒C)。その後、反応容器に溶媒DとしてGBLを注入して200℃に昇温し、8時間加熱して洗浄した。洗浄した反応容器で実施例10に準じて再び合成し、2回目のポリイミドワニスを得た。反応容器から取り出す前に溶液に添加する希釈用の溶媒Bのシクロペンタノンとして上記洗浄後の溶媒Cを用い、ポリイミドワニスを得た。得られた2回目のポリイミドワニスに含まれるポリイミドは、ポリスチレン換算重量平均分子量が32万であり、ポリイミドの収率は97.2%であった。
次いで、この2回目のポリイミドワニスを用いて実施例A7と同様にしてポリイミドフィルムを製造し、膜厚80μm、Tt92.5%、Haze 0.1%、黄色度が2.1のフィルムを得た。
【0154】
(実施例B2)
ポリイミドワニスを反応容器から抜出した後に行う溶媒Cでのシクロペンタノンでの洗浄時間を28時間に変更して洗浄液を回収(洗浄後の溶媒C)する以外は実施例B1と同様にして2回目のポリイミドワニスを得た。得られた2回目のポリイミドワニスに含まれるポリイミドは、ポリスチレン換算重量平均分子量が34万であり、ポリイミドの収率は96.6%であった。
次いで、この2回目のポリイミドワニスを用いて実施例A7と同様にしてポリイミドフィルムを製造し、膜厚80μm、Tt92.6%、Haze 0.1%、黄色度が2.2のフィルムを得た。
【0155】
(実施例B3)
実施例A4と同様にしてポリイミドワニスを製造し、得られたポリイミドワニスを反応容器から抜出した後、反応容器に溶媒CとしてGBLを注入し、200℃に昇温して8時間加熱して洗浄した。洗浄に用いたGBLを反応容器から抜出して回収した。その後、反応容器に溶媒DとしてGBLを注入して200℃に昇温し、8時間加熱して洗浄した。洗浄した反応容器で実施例A4と同様にして2回目のポリイミドワニスを製造した。このとき、上記洗浄後の溶媒C及びDは、2回目のポリイミドワニスの製造(希釈)に加えなかった。得られた2回目のポリイミドワニスに含まれるポリイミドは、ポリスチレン換算重量平均分子量が36万であり、ポリイミドの収率は92.2%であった。
次いで、2回目のこのポリイミドワニスを用いて実施例A4と同様にしてポリイミドフィルムを製造し、膜厚80μm、Tt92.7%、Haze 0.1%、黄色度が1.7のフィルムを得た。
【0156】
(実施例B4)
実施例A7と同様にしてポリイミドワニスを製造し、得られたポリイミドワニスを反応容器から抜出した後、反応容器に溶媒CとしてGBLを注入し、200℃に昇温して8時間加熱して洗浄した。洗浄に用いたGBLを反応容器から抜出して回収した。その後、反応容器に溶媒DとしてGBLを注入して200℃に昇温し、8時間加熱して洗浄した。洗浄した反応容器で実施例A7と同様にして2回目のポリイミドワニスを製造した。このとき、上記洗浄後の溶媒C及びDは、2回目のポリイミドワニスの製造(希釈)に加えなかった。得られた2回目のポリイミドワニスに含まれるポリイミドは、ポリスチレン換算重量平均分子量が31万であり、ポリイミドの収率は91.3%であった。
次いで、この2回目のポリイミドワニスを用いて実施例A7と同様にしてポリイミドフィルムを製造し、膜厚80μm、Tt92.6%、Haze 0.1%、黄色度が1.9のフィルムを得た。
【0157】
(参考例B1)
実施例A2と同様にしてポリイミドワニスを製造し、得られたポリイミドワニスを反応容器から抜出した後、反応容器に溶媒CとしてGBLを注入し、200℃に昇温して8時間加熱して洗浄した。洗浄に用いたGBLを反応容器から抜出して回収した。その後、反応容器に溶媒DとしてGBLを注入して200℃に昇温し、8時間加熱して洗浄した。洗浄した反応容器で実施例A2と同様にして2回目のポリイミドワニスを製造した。このとき、上記洗浄後の溶媒C及びDは、2回目のポリイミドワニスの製造(希釈)に加えなかった。得られた2回目のポリイミドワニスに含まれるポリイミドは、ポリスチレン換算重量平均分子量が22万であり、ポリイミドの収率は94.5%であった。
次いで、この2回目のポリイミドワニスを用いて実施例A2と同様にしてポリイミドフィルムを製造し、膜厚80μm、Tt92.0%、Haze 0.1%、黄色度が3.9のフィルムを得た。
条件及び結果を表3に示す。
【0158】