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特許7186627菓子用品質保持剤および菓子の品質保持方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】菓子用品質保持剤および菓子の品質保持方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/26 20060101AFI20221202BHJP
【FI】
A21D2/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019011454
(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2020115812
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】河原田 啓希
(72)【発明者】
【氏名】森 大奬
(72)【発明者】
【氏名】古川 周平
(72)【発明者】
【氏名】乾 真也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 明日香
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-143747(JP,A)
【文献】特開2011-062086(JP,A)
【文献】特開2017-000109(JP,A)
【文献】国際公開第2005/096839(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-グルコシルトランスフェラーゼおよびグルコアミラーゼを含有する菓子用品質保持剤であって、
製菓原料のうち小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、α-グルコシルトランスフェラーゼ1~800Uおよびグルコアミラーゼ1~800Uで用いられることを特徴とする菓子用品質保持剤。
【請求項2】
α-グルコシルトランスフェラーゼとグルコアミラーゼの配合比が、1:6~3:1の範囲である請求項1に記載の菓子用品質保持剤。
【請求項3】
更にαアミラーゼおよびホスホリパーゼの少なくともいずれかを含有し、その使用量が、製菓原料のうち小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、αアミラーゼ1~400Uおよびホスホリパーゼ1~200Uである請求項1または2に記載の菓子用品質保持剤。
【請求項4】
菓子類の製造工程において、α-グルコシルトランスフェラーゼおよびグルコアミラーゼを作用させることを含み、
製菓原料のうち小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、α-グルコシルトランスフェラーゼ1~800Uおよびグルコアミラーゼ1~800Uで用いることを特徴とする菓子の品質保持方法。
【請求項5】
α-グルコシルトランスフェラーゼとグルコアミラーゼの配合比が、1:6~3:1の範囲である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
更にαアミラーゼおよびホスホリパーゼの少なくともいずれかを作用させることを含み、
製菓原料のうち小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、αアミラーゼ1~400Uおよびホスホリパーゼ1~200Uで用いる請求項4または5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子用品質保持剤および菓子の品質保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、菓子の市場では、消費者のニーズに応えるべく、しっとり感や軟らかさといった食感の良さを謳った製品が増加している。そのため、より高いレベルで消費者のニーズに応えることができる製品の提供が求められている。
【0003】
一方、食品分野においては、製品の廃棄によるロスが深刻な状況となっており、また、人手不足による製品の入れ替えに要するコストの増加も懸念されている。そのため、製品の賞味期限の延長が喫緊の課題となっている。製品の賞味期限の延長においては、延長することによって、製品がパサつくものとなってしまったり、硬くなったりしてしまうことから、これらのような老化の抑制、即ち、しっとり感やソフト性を維持することが非常に重要である。
【0004】
また、菓子の市場では、近年、冷蔵または冷凍保存を行う製品の需要が伸びていることから、常温で保存する製品だけではなく、冷蔵または冷凍保存する製品においても、保存中の品質維持が強く求められている。
【0005】
これまでに、餅類または麺類の老化を抑制する技術として、例えば、マルトトリオシル転移酵素を利用した方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【0006】
また、パン類のボリュームおよび食感を向上する品質改良剤として、6-α-グルカノトランスフェラーゼと、改質グルテンとを含有するパン類品質改良剤(例えば、特許文献2参照)、グルタミナーゼおよびエキソペプチダーゼからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質分解酵素を含有するパン類品質改良剤(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0007】
そして、ベーキング製品の体積の増加、新鮮さの改善、構造および柔らかさの改善、並びに感覚刺激の質を改善するパン改質またはドー改質組成物として、有効量の分枝酵素を含むパン改質またはドー改質組成物も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
しかしながら、近年の消費者の嗜好に応えうる食感を提供し、また、常温、冷蔵、冷凍といった様々な保存条件下においても製品の品質を保持することができ、賞味期限を従来よりも延長可能とする菓子用品質保持剤および品質保持方法は、未だ満足のいくものは提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2012/105532号
【文献】特開2017-143747号公報
【文献】特開2017-143746号公報
【文献】特表2000-513568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、製造後に数日間保存した後でも、軟らかさ、ソフトさ、しっとり感および口溶けに優れた菓子とすることができる菓子用品質保持剤および菓子の品質保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、菓子類の製造時にα-グルコシルトランスフェラーゼとグルコアミラーゼを添加・配合し、これらの酵素を作用させることにより、製造後に数日間保存した後でも、軟らかさ、ソフトさ、しっとり感および口溶けに優れた菓子とすることができることを知見した。
【0012】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> α-グルコシルトランスフェラーゼおよびグルコアミラーゼを含有することを特徴とする菓子用品質保持剤である。
<2> 製菓原料のうち小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、α-グルコシルトランスフェラーゼ1~800Uおよびグルコアミラーゼ1~800Uで用いられる前記<1>に記載の菓子用品質保持剤である。
<3> α-グルコシルトランスフェラーゼとグルコアミラーゼの配合比が、1:6~3:1の範囲である前記<1>または<2>に記載の菓子用品質保持剤である。
<4> 更にαアミラーゼおよびホスホリパーゼの少なくともいずれかを含有し、その使用量が、製菓原料のうち小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、αアミラーゼ1~400Uおよびホスホリパーゼ1~200Uである前記<1>~<3>のいずれかに記載の菓子用品質保持剤である。
<5> 菓子類の製造工程において、α-グルコシルトランスフェラーゼおよびグルコアミラーゼを作用させること特徴とする菓子の品質保持方法である。
<6> 製菓原料のうち小麦粉を主体とする穀粉原料100gに対して、α-グルコシルトランスフェラーゼ1~800Uおよびグルコアミラーゼ1~800Uで用いる前記<5>に記載の方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、製造後に数日間保存した後でも、軟らかさ、ソフトさ、しっとり感および口溶けに優れた菓子とすることができる菓子用品質保持剤および菓子の品質保持方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(菓子用品質保持剤)
本発明の菓子用品質保持剤は、α-グルコシルトランスフェラーゼと、グルコアミラーゼとを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0015】
<菓子>
本発明における菓子(「菓子類」と称することもある)としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、スポンジケーキ、ホットケーキ、どら焼き、今川焼き、マドレーヌ、フィナンシェ、マフィン、ドーナツ類、パウンドケーキ、クッキー、パンケーキ、ワッフル、カステラ、スコーンなどの製菓原料として小麦粉等の穀粉類を用いる焼き菓子(電子レンジ調理を含む)が好適に挙げられる。
【0016】
<α-グルコシルトランスフェラーゼ>
前記α-グルコシルトランスフェラーゼは、1,4-α-グルカンの一部分を、グルコースまたは1,4-α-D-グルカン等の炭化水素の別の部分に転移させる酵素である。
前記α-グルコシルトランスフェラーゼとしては、飲食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができるが、国際公開第2012/105532号に記載のα-グルコシルトランスフェラーゼ(マルトトリオシル転移酵素)が好ましい。前記α-グルコシルトランスフェラーゼは市販品を適宜使用することができる。
前記α-グルコシルトランスフェラーゼの前記菓子用品質保持剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量や活性などに応じて適宜選択することができる。
【0017】
<グルコアミラーゼ>
前記グルコアミラーゼは、正式名称がグルカン1,4-α-グルコシダーゼといい、糖鎖の非還元末端のα-1,4-結合やα-1,6-結合をエキソ型に加水分解してブドウ糖1分子を産生するアミラーゼである。
前記グルコアミラーゼとしては、飲食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、天野エンザイム株式会社のグルクザイムAF6などの市販品を適宜使用することができる。
前記グルコアミラーゼの前記菓子用品質保持剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量や活性などに応じて適宜選択することができる。
【0018】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、αアミラーゼ;ホスホリパーゼ;マルトオリゴ糖、マルトトリオース、マルトデキストリン等の食品素材などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、菓子の軟らかさ、しっとり感、口溶けの良さが向上するため、αアミラーゼおよびホスホリパーゼの少なくともいずれかを含有させることが好ましい。
前記その他の成分の前記菓子用品質保持剤における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0019】
-αアミラーゼ-
前記αアミラーゼとしては、飲食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、市販品を適宜選択することができる。
前記αアミラーゼの前記菓子用品質保持剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量や活性などに応じて適宜選択することができる。
【0020】
-ホスホリパーゼ-
前記ホスホリパーゼとしては、飲食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、市販品を適宜選択することができる。前記ホスホリパーゼは、ホスホリパーゼA、ホスホリパーゼB、ホスホリパーゼC、ホスホリパーゼDのいずれであってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
前記ホスホリパーゼの前記菓子用品質保持剤における含有量としては、特に制限はなく、その使用量や活性などに応じて適宜選択することができる。
【0021】
<態様>
前記菓子用品質保持剤は、前記α-グルコシルトランスフェラーゼと、前記グルコアミラーゼと、必要に応じて前記その他の成分とを同一の包材に含む態様であってもよいし、前記各成分を別々の包材に入れ、使用時に各成分を混合して製菓原料に添加する態様や、各成分をそれぞれ製菓原料に添加する態様であってもよい。
【0022】
<使用量>
前記菓子用品質保持剤の使用量としては、特に制限はなく、後述する各成分の使用量に応じて、適宜選択することができる。
【0023】
-α-グルコシルトランスフェラーゼ-
前記α-グルコシルトランスフェラーゼの使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、製菓原料のうち小麦粉を主体とする穀粉原料(以下、単に「穀粉原料」ということがある)100gに対して、通常1~800U(「U」は活性単位(ユニット)を表す。以下同様)であり、10~400Uであるのが好ましく、40~240Uであるのがより好ましい。前記α-グルコシルトランスフェラーゼの使用量が、1U未満であると、菓子類に適度な軟らかさや弾力感、しっとり感、口溶けの良さが十分に付与されないことがあり、800Uを超えると、過剰に軟らかさを付与し食感を著しく悪化させることがある。
【0024】
本発明において、前記α-グルコシルトランスフェラーゼの活性単位の定義は、以下の条件下、1分間に反応液2.5mL中に1μmolのグルコースを生成する酵素量を1Uとする。
-条件-
1%マルトテトラオースを含む10mmol/L MES緩衝液(pH6.5)2mLに酵素溶液0.5mLを添加して、40℃で60分間放置する。放置後、沸騰水浴中で5分間加熱した後、流水中で冷却し、生成したグルコースを定量する。
【0025】
-グルコアミラーゼ-
前記グルコアミラーゼの使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、穀粉原料100gに対して、通常1~800Uであり、10~400Uであるのが好ましく、50~250Uであるのがより好ましい。前記グルコアミラーゼの使用量が、1U未満であると、菓子類に適度な軟らかさや弾力感、しっとり感、口溶けの良さが十分に付与されないことがあり、800Uを超えると、過剰に軟らかさを付与し食感を著しく悪化させ、更に製品のしっとり感が減じることがある。
【0026】
本発明において、前記グルコアミラーゼの活性単位の定義は、デンプンを基質として、pH4.5、40℃において、30分間に10mgのグルコースを生成する酵素量を1Uとする。
【0027】
--α-グルコシルトランスフェラーゼとグルコアミラーゼの配合比--
前記α-グルコシルトランスフェラーゼとグルコアミラーゼの配合比としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、活性単位の比として、1:6~3:1の範囲とするのが好ましく、1:2~2:1とするのがより好ましい。前記配合比が好ましい範囲内であると、菓子類に適度な軟らかさと弾力感、しっとり感、口溶けの良さを付与できる点で、有利である。
【0028】
-αアミラーゼ-
前記αアミラーゼを使用する場合の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、穀粉原料100gに対して、1~400Uが好ましく、20~200Uがより好ましい。前記αアミラーゼの使用量が好ましい範囲内であると、菓子類に適度な軟らかさと弾力感、口溶けの良さを付与できる点で、有利である。
【0029】
本発明において、前記αアミラーゼの活性単位の定義は、デンプンを基質として、pH5.0、30℃において、25分間反応させた後にヨウ素で呈色させ、吸光度(620nm)における可溶性デンプンの変換率が毎時1.0gである酵素量を1Uとする。
【0030】
-ホスホリパーゼ-
前記ホスホリパーゼを使用する場合の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、穀粉原料100gに対して、1~200Uが好ましく、10~100Uがより好ましい。前記ホスホリパーゼの使用量が好ましい範囲内であると、菓子類に適度な軟らかさと弾力感、口溶けの良さを付与できる点で、有利である。
【0031】
本発明において、ホスホリパーゼの活性単位の定義は、以下のとおりである。なお、いずれにおいても、反応温度は37℃、反応pHは8.0である。
〔ホスホリパーゼA及びB〕
基質の大豆レシチンを加水分解したときに生じる遊離脂肪酸を市販の遊離脂肪酸定量試薬キット・デタミナーNEFA755(協和メデックス株式会社製)を用いて定量する。そして、1分間に1μmolの脂肪酸を遊離する酵素量を1Uとする。
〔ホスホリパーゼC〕
基質の大豆レシチンを加水分解したときに生じるホスホリルコリンに市販のアルカリフォスファターゼ(タカラバイオ株式会社製)を加え、遊離したリン酸を市販のBIOMOL GREEN(BIOMOL Research Laboratories社製)を用いて定量する。そして、1分間に1μmolのホスホリルコリンを遊離する酵素量を1Uとする。
〔ホスホリパーゼD〕
基質のホスファチジルコリンを加水分解したときに生成するコリンを、市販のコリンエステラーゼキット-NC(和光純薬工業株式会社製289-75181)を用いて定量する。ここで、生成したコリンはキット中のコリンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ等により赤色キノン色素を生成する。そして、1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量を1Uとする。
【0032】
<穀粉原料>
前記穀粉原料は、穀粉、澱粉類及びその加工澱粉をいう。前記穀粉原料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記穀粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦粉、そば粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、大豆粉、コーンフラワーなどが挙げられる。前記穀粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記澱粉類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉などが挙げられる。前記澱粉類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記加工澱粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、熱処理澱粉、α化澱粉、酸処理澱粉、架橋澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉などが挙げられる。前記加工澱粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(菓子の品質保持方法)
本発明の菓子の品質保持方法は、菓子類の製造工程において、α-グルコシルトランスフェラーゼと、グルコアミラーゼとを少なくとも作用させ、必要に応じて更にその他の成分を用いる。
【0037】
<使用量>
前記菓子の品質保持方法における前記α-グルコシルトランスフェラーゼおよび前記グルコアミラーゼの使用量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、上記した本発明の(菓子用品質保持剤)の<使用量>の項目に記載した量とすることができる。
【0038】
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、上記した本発明の(菓子用品質保持剤)の<その他の成分>の項目に記載したものなどが挙げられ、その使用量も同様とすることができる。
【0039】
前記菓子の品質保持方法では、上記した本発明の菓子用品質保持剤を好適に用いることができる。
【0040】
本発明の菓子用品質保持剤および菓子の品質保持方法によれば、加熱調理後の菓子類を、常温、冷蔵、冷凍といった様々な保存条件下において数日間保存した後でも、軟らかさ、ソフトさ、しっとり感および口溶けといった食感が良好な菓子を得ることができる。
【実施例
【0041】
以下、製造例、比較製造例および試験例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0042】
(製造例1)
α-グルコシルトランスフェラーゼ(グライコトランスフェラーゼ「アマノ」、天野エンザイム株式会社製、3000U/g)5質量%、グルコアミラーゼ(グルクザイムAF6、天野エンザイム株式会社製、1600U/g)5質量%、食品素材(マルトデキストリン)90質量%を混合して、製造例1の製剤を調製した。
この製剤を穀粉原料100gに対して1質量%使用したとき、α-グルコシルトランスフェラーゼ150U(150U/100g)、グルコアミラーゼ80U(80U/100g)となる。
【0043】
(比較製造例1)
グルコアミラーゼを用いず、食品素材の量を95質量%に変えた以外は製造例1と同様にして比較製造例1の製剤を調製した。
【0044】
(比較製造例2)
α-グルコシルトランスフェラーゼを用いず、食品素材の量を95質量%に変えた以外は製造例1と同様にして比較製造例2の製剤を調製した。
【0045】
(試験例1)
製造例1および比較製造例1~2で調製した製剤を用い、下記の配合および工程に従ってスポンジケーキを製造した。また、前記製剤の代わりに前記食品素材のみを製粉原料100gに対して0.9質量%を使用した(以下、「無添加」と称することがある。)以外は同様にしてスポンジケーキを製造した。
<配合>
・ 薄力粉 ・・・ 100質量%
・ 全卵 ・・・ 100質量%
・ 砂糖 ・・・ 100質量%
・ 乳化油脂(起泡剤) ・・・ 12質量%
・ ベーキングパウダー ・・・ 3質量%
・ 製造例1、または比較製造例1~2で調製した製剤 ・・・ 1質量%
・ 水 ・・・ 18質量%
※ 上記配合量は、ベーカーズ%で表したものである(以下同様)。
<工程(オールインミックス法)>
・ ミキシング ・・・ 低速0.5分→高速3分
・ 生地比重 ・・・ 0.5±0.01g/cm
・ 生地質量 ・・・ 300g(スポンジケーキ6号)
・ 焼成時間 ・・・ 30分
・ 焼成温度 ・・・ 180℃
【0046】
<評価>
-硬さ-
製造したスポンジケーキを室温で保存した。製造1日後(以下、「DAY1」と称することがある)または3日後(以下、「DAY3」と称することがある)のスポンジケーキの硬さを、クリープメータを用いて下記の方法により評価した。
[評価試験]
・ 測定用サンプル前処理
スポンジケーキの底部分、表面部分の色付きのある部分をトリミングした後、2cm四方の立方体を切り出した。
・ 測定条件
プランジャー : 直径3cm、平板
測定速度 : 0.5mm/sec
歪率60%時の荷重(N)を比較した。
【0047】
-食感-
また、製造した後、常温で1日または3日保存した後のスポンジケーキの食感を下記の評価基準により、評価した。なお、評価は5名で行い、表1には評価結果の平均点を示した。
[評価基準]
・ 食感1(ソフトさ)
5点 : ソフトで、適度な弾力感があり、良好。
4点 : ややソフトで、やや適度な弾力感があり、やや良好。
3点 : 標準的なソフトさである。
2点 : やや硬く、弾力感がやや過剰であるか、やや軟らか過ぎ、やや好ましくない。
1点 : 硬く、弾力感が過剰であるか、軟らか過ぎ、好ましくない。
・ 食感2(しっとり感、口溶け)
5点 : しっとりして、口溶けが良く、良好。
4点 : ややしっとりして、口溶けがやや良く、やや良好。
3点 : しっとり感にやや劣るが、標準的な口溶けである。
2点 : ややパサつきやクチャつきがあり、口溶けがやや悪く、やや好ましくない。
1点 : パサつきやクチャつきがあり、口溶けが悪く、好ましくない。
【0048】
評価結果を下記の表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示したように、製造例1の製剤を用いた菓子では、製造後数日間保存した後でも、軟らかさ、ソフトさ、及びしっとり感・口溶けが優れていることが確認された。また、物性(硬さ/軟らかさ)と官能評価の結果が相関することも確認された。
【0051】
(試験例2)
スポンジケーキの製造における各成分の使用量が、穀粉原料100gに対して、下記の表2に記載の量となるように調製した製剤を用いた以外は試験例1と同様にしてスポンジケーキを製造した。また、製剤を用いなかった以外は同様にして、対照のスポンジケーキを製造した。
なお、本試験例2では、食品素材として、マルトトリオースを使用した。
【0052】
<評価>
-食感-
製造したスポンジケーキを常温で1日または3日保存した後のスポンジケーキの食感を試験例1と同様にして、評価した。得られた結果を下記の表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示したように、α-グルコシルトランスフェラーゼの量を変えた場合でも、本発明の効果が得られることが確認された。
【0055】
(試験例3)
スポンジケーキの製造における各成分の使用量が、穀粉原料100gに対して、下記の表3に記載の量となるように調製した製剤を用いた以外は試験例1と同様にしてスポンジケーキを製造した。また、製剤を用いなかった以外は同様にして、対照のスポンジケーキを製造した。
なお、本試験例3では、食品素材として、マルトオリゴ糖を使用した。
【0056】
<評価>
-食感-
製造したスポンジケーキを常温で1日または3日保存した後のスポンジケーキの食感を試験例1と同様にして、評価した。得られた結果を下記の表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示したように、グルコアミラーゼの量を変えた場合でも、本発明の効果が得られることが確認された。
【0059】
(試験例4)
スポンジケーキの製造における各成分の使用量が、穀粉原料100gに対して、下記の表4に記載の量となるように調製した製剤を用いた以外は試験例1と同様にしてスポンジケーキを製造した。また、製剤を用いなかった以外は同様にして、対照のスポンジケーキを製造した。
なお、本試験例3では、食品素材として、マルトトリオースを使用した。
また、αアミラーゼ及びホスホリパーゼは下記のものを使用した。
・ αアミラーゼ
ビオザイムA、天野エンザイム株式会社製、7000U/g
・ ホスホリパーゼ
デナベイクRICH、ナガセケムテックス株式会社製、3000U/g
【0060】
<評価>
-食感-
製造したスポンジケーキを冷凍庫(-20℃)で1週間冷凍保存した後、常温で4時間解凍した。解凍したスポンジケーキの食感を試験例1と同様にして、評価した。得られた結果を下記の表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示したように、α-グルコシルトランスフェラーゼおよびグルコアミラーゼに加えて、更にαアミラーゼおよびホスホリパーゼの少なくともいずれかを含有させると、菓子のソフトさ・しっとり感・口溶けの良さが向上することが確認された。
【0063】
本発明の品質保持剤によれば、軟らかさ・ソフトさ・しっとり感・口溶けに優れる菓子を得ることができるので、上記実施例の項目に記載した菓子に限らず、例えば、ホットケーキ、どら焼き、今川焼き、マドレーヌ、フィナンシェ、マフィン、ドーナツ類、パウンドケーキ、クッキー、パンケーキ、ワッフル、カステラ、スコーンなどの製菓原料として小麦粉等の穀粉類を用いる焼き菓子に好適に用いることができる。