(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】骨又は歯の修復用セメント組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/12 20060101AFI20221202BHJP
C04B 12/02 20060101ALI20221202BHJP
C04B 28/34 20060101ALI20221202BHJP
A61K 6/864 20200101ALI20221202BHJP
【FI】
A61L27/12
C04B12/02
C04B28/34
A61K6/864
(21)【出願番号】P 2019013426
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 恭子
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-537832(JP,A)
【文献】特開2016-065011(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0314181(US,A1)
【文献】特開平05-255029(JP,A)
【文献】J Mater Sci: Mater Med,2014年,Vol.25,pp.47-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
A61K6/00-6/90
A61C13/00-13/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)ポルトランドセメント
(B)粒子径D
90が3.5μm以下であるフッ素イオン供給化合物、及び
(C)リン酸イオン供給化合物
を、Ca含有量が
40~
50質量%、Si含有量が
7~14質量%、Al含有量が
0.2~
3.0質量%、F含有量が0.1~
0.9質量%、P含有量が
1.0~
2.9質量%となる割合で混合してなる、骨又は歯の修復用セメント組成物。
【請求項2】
生体内フッ化アパタイト産生骨又は歯の修復用セメント組成物である、請求項1記載のセメント組成物。
【請求項3】
フッ化アパタイトが低結晶性である、請求項1又は2記載のセメント組成物。
【請求項4】
成分(B)がアルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類フッ化物から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
成分(C)がリン酸塩及びリン酸水素塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
成分(A)が白色ポルトランドセメントである、請求項1~5のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項7】
次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)ポルトランドセメント
(B)粒子径D
90が3.5μm以下であるフッ素イオン供給化合物、及び
(C)リン酸イオン供給化合物
を、Ca含有量が
40~
50質量%、Si含有量が
7~14質量%、Al含有量が
0.2~
3.0質量%、F含有量が0.1~
0.9質量%、P含有量が
1.0~
2.9質量%となる割合で混合する、骨又は歯の修復用セメント組成物の製造方法。
【請求項8】
次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)ポルトランドセメント
(B)粒子径D
90が3.5μm以下であるフッ素イオン供給化合物、及び
(C)リン酸イオン供給化合物
を、Ca含有量が
40~
50質量%、Si含有量が
7~14質量%、Al含有量が
0.2~
3.0質量%、F含有量が0.1~
0.9質量%、P含有量が
1.0~
2.9質量%となる割合で水存在下に混合する、フッ化アパタイトの産生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨又は歯の修復用セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化アパタイトは、ヒドロキシアパタイトのOH基がフッ素に置換された化合物である。フッ化アパタイトは、ヒドロキシアパタイトと同様に生体親和性が高く、骨欠損部や歯のエナメル質等の修復材として有用であり、また骨伝導性も高いことが知られている。
【0003】
従来、フッ化アパタイトの製造方法としては、例えば、リン酸一水素カルシウム、炭酸カルシウム及びフッ化カルシウムを所定の割合で配合し、ボールミル等で混合粉砕した後、水中で80~100℃にて反応させる方法(特許文献1)、炭酸カルシウム粉末と、リン酸水素カルシウム又はリン酸水素カルシウム二水和物の粉末を所定の割合で含むスラリーをボールミルで粉砕し、所定の温度で乾燥して粉末化し、該粉末を焼成してリン酸三カルシウム微粉末とした後、該リン酸三カルシウム微粉末とフッ化カルシウム粉末を所定の割合で混合して焼成する方法(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-256507号公報
【文献】特開平5-85709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、製造工程において高温反応や焼成を要するため、生体内でフッ化アパタイトを産生させることは不可能である。また、フッ化アパタイトは、ヒドロキシアパタイトと同様に機械的強度が低いため、繰り返し負荷がかかる人工関節や人工歯根への適用が難しい。機械的強度を高めるために、フッ化アパタイトをポルトランドセメントと混合することが考えられるが、このような材料を生体内に埋入すると、埋入箇所の周囲が異物膜と称される繊維性結合組織で覆われるため、生体親和性が低下してしまう。そのため、生体内でフッ化アパタイトの産生が可能で、かつ生体親和性に優れる組成物が求められている。
本発明の課題は、骨又は歯の修復に有用なセメント組成物及びその製造方法、並びにフッ化アパタイトの産生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポルトランドセメントと、所定の粒度を有するフッ素イオン供給化合物と、リン酸イオン供給化合物とを、Ca、Si、Al、F及びPの各含有量が所定の割合となるように混合することで、生体内でフッ化アパタイトを産生でき、かつ生体親和性に優れる、骨又は歯の修復に有用なセメント組成物が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔8〕を提供するものである。
〔1〕次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)ポルトランドセメント
(B)粒子径D90が3.5μm以下であるフッ素イオン供給化合物、及び
(C)リン酸イオン供給化合物
を、Ca含有量が37~51質量%、Si含有量が6~14質量%、Al含有量が0.1~3.2質量%、F含有量が0.1~1.4質量%、P含有量が0.9~3.0質量%となる割合で混合してなる、骨又は歯の修復用セメント組成物。
〔2〕生体内フッ化アパタイト産生骨又は歯の修復用セメント組成物である、〔1〕記載のセメント組成物。
〔3〕フッ化アパタイトが低結晶性である、〔1〕又は〔2〕記載のセメント組成物。
〔4〕成分(B)がアルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類フッ化物から選ばれる少なくとも1種である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のセメント組成物。
〔5〕成分(C)がリン酸塩及びリン酸水素塩から選ばれる少なくとも1種である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のセメント組成物。
〔6〕成分(A)が白色ポルトランドセメントである、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のセメント組成物。
〔7〕次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)ポルトランドセメント
(B)粒子径D90が3.5μm以下であるフッ素イオン供給化合物、及び
(C)リン酸イオン供給化合物
を、Ca含有量が37~51質量%、Si含有量が6~14質量%、Al含有量が0.1~3.2質量%、F含有量が0.1~1.4質量%、P含有量が0.9~3.0質量%となる割合で混合する、骨又は歯の修復用セメント組成物の製造方法。
〔8〕次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)ポルトランドセメント
(B)粒子径D90が3.5μm以下であるフッ素イオン供給化合物、及び
(C)リン酸イオン供給化合物
を、Ca含有量が37~51質量%、Si含有量が6~14質量%、Al含有量が0.1~3.2質量%、F含有量が0.1~1.4質量%、P含有量が0.9~3.0質量%となる割合で水存在下に混合する、フッ化アパタイトの産生方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、骨又は歯の修復に有用なセメント組成物を提供することができる。また、本発明のセメント組成物は、セメント硬化体の周囲にフッ化アパタイトを産生するため、線維性結合組織の発生が抑制される結果、生体結合性を高めることができる。更に、本発明のセメント組成物は、ポルトランドセメントを必須とするため、機械的強度を向上させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で得られたセメント組成物の硬化体のX線回折パターンを示す図である。
【
図2】比較例1で得られたセメント組成物の硬化体のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔セメント組成物〕
-成分(A)-
本発明のセメント組成物は、成分(A)としてポルトランドセメントを含有する。
成分(A)としてはポルトランドセメントであれば特に限定されないが、例えば、JIS R 5210に準拠したポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントが挙げられる。JIS R 5210に準拠したポルトランドセメントしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントを挙げることができる。
【0011】
中でも、成分(A)としては、本発明の効果を享受しやすい点で、白色ポルトランドセメントが好ましい。白色ポルトランドセメントの化学組成としては、CaOを60~73質量%、SiO2を18~31質量%、Al2O3を0.5~6.0質量%及びSO3を0.5~10.0質量%含有するものが好ましい。CaOの含有量は、61~72質量%が好ましく、62~71量%がより好ましく、63~71質量%が更に好ましい。SiO2の含有量は、20~31質量%が好ましく、20~28質量%が更に好ましい。Al2O3の含有量は、0.5~5.5質量%が好ましく、0.5~5.0質量%が更に好ましい。SO3の含有量は、0.5~7.5質量%が好ましく、0.5~5.0質量%が更に好ましい。
【0012】
-成分(B)-
本発明のセメント組成物は、成分(B)として粒子径D90が3.5μm以下であるフッ素イオン供給化合物を含有する。
成分(B)は、水と接触したときにフッ素イオンを生成可能な化合物であれば特に限定されないが、例えば、アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類フッ化物から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
アルカリ金属フッ化物としては、例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化フランシウムが挙げられる。
アルカリ土類フッ化物としては、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウムが挙げられる。
中でも、成分(B)としては、本発明の効果を享受しやすい点で、アルカリ土類フッ化物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、フッ化カルシウムが更に好ましい。
【0013】
成分(B)の粒子径D90は3.5μm以下であれば特に限定されないが、フッ化アパタイト産生の観点から、3μm以下が好ましく、2.5μm以下がより好ましく、2μm以下が更に好ましい。なお、成分(B)の粒子径D90の下限値は特に限定されないが、生産効率の観点から、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上が更に好ましい。ここで、本明細書において「粒子径D90」とは、粒子径の体積分布積算曲線を、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準拠して作成したときに粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の90%に達するところの粒子径を意味する。レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、例えば、マイクロトラックMT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)を使用することができる。
【0014】
成分(B)は、上記した粒子径D90を有すれば市販品等をそのまま使用しても構わないが、例えば、市販の成分(B)を粉砕し、必要によりTyler標準篩、ASTM標準篩、JIS標準篩等を用いて所望の粒子径D90となるように分級することも可能である。なお、粉砕は、ミル、ボールミル等を用いて行うことができる。
【0015】
-成分(C)-
本発明のセメント組成物は、成分(C)としてリン酸イオン供給化合物を含有する。
成分(C)は、水と接触したときにリン酸イオンを生成可能な化合物であれば特に限定されないが、例えば、リン酸塩及びリン酸水素塩から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
リン酸塩としては、例えば、リン酸アルカリ金属塩が挙げられ、具体例としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムを挙げることができる。
リン酸水素塩としては、例えば、リン酸水素アルカリ金属塩、リン酸水素アルカリ土類金属塩が挙げられ、具体例としては、例えば、リン酸水素ニナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウムを挙げることができる。
【0016】
中でも、成分(C)としては、本発明の効果を享受しやすい点で、リン酸水素塩から選ばれる少なくとも1種が好ましく、リン酸水素アルカリ金属塩及びリン酸水素アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、リン酸水素ニナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム及びリン酸二水素カルシウムから選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0017】
本発明のセメント組成物は、成分(A)、(B)及び(C)を、セメント組成物の構成元素として、Ca:37~51質量%、Si:6~14質量%、Al:0.1~3.2質量%、F:0.1~1.4質量%、P:0.9~3.0質量%となる割合で含有する。
かかる構成元素の割合は、フッ化アパタイト産生の観点から、Ca:37~50質量%、Si:7~14質量%、Al:0.2~3.0質量%、F:0.1~1.4質量%、P:0.9~3.0質量%が好ましく、Ca:39~50質量%、Si:7~14質量%、Al:0.2~3.0質量%、F:0.1~1.2質量%、P:1.0~2.9質量%がより好ましく、Ca:40~50質量%、Si:7~14質量%、Al:0.2~3.0質量%、F:0.1~0.9質量%、P:1.0~2.9質量%が更に好ましい。
【0018】
また、本発明のセメント組成物は、フッ化アパタイト産生の観点から、成分(A)100質量部に対して、成分(B)が0.4~4.6質量部であり、かつ成分(C)が5.0~15質量部であることが好ましく、成分(B)が0.4~4.0質量部であり、かつ成分(C)が5.1~15質量部であることがより好ましく、成分(B)が0.4~3.0質量部であり、かつ成分(C)が5.1~10質量部であることが更に好ましい。
【0019】
本発明のセメント組成物は、所望により、殺菌剤、抗炎症剤、造影剤等を含有することができる。これら成分の含有量は、その種類に応じて本発明の目的を損なわない範囲内で適宜設定することが可能である。
【0020】
本発明のセメント組成物は、全体が通常粉末状であり、成分(A)、(B)及び(C)が予め混合された粉末組成物の形態でもよい。また、成分(A)、(B)及び(C)を別個の包装体に収容し、用事にこれらを混合するキットの形態とすることもできる。
【0021】
〔セメント組成物の製造方法〕
本発明のセメント組成物の製造方法は、成分(A)、(B)及び(C)を、Ca含有量が37~51質量%、Si含有量が6~14質量%、Al含有量が0.1~3.2質量%、F含有量が0.1~1.4質量%、P含有量が0.9~3.0質量%となる割合で混合するものである。なお、成分成分(A)、(B)及び(C)の具体的態様、Ca、Si、Al、F及びPの好適な含有量は、上記において説明したとおりである。
【0022】
成分(A)、(B)及び(C)は、予め混合しても、用事に成分(A)、(B)及び(C)を混合してもよい。
【0023】
〔フッ化アパタイトの産生方法〕
本発明のフッ化アパタイトの産生方法は、成分(A)、(B)及び(C)を、Ca含有量が37~51質量%、Si含有量が6~14質量%、Al含有量が0.1~3.2質量%、F含有量が0.1~1.4質量%、P含有量が0.9~3.0質量%となる割合で水存在下に混合するものである。なお、成分(A)、(B)及び(C)の具体的態様、Ca、Si、Al、F及びPの好適な含有量は、上記において説明したとおりである。
【0024】
本発明のセメント組成物は、水存在下において、ポルトランドセメント等のCaを有する化合物からCaイオンが放出され、pHがアルカリとなることで、フッ化アパタイトが産生する。したがって、本発明において、フッ化アパタイトを産生させるためには、本発明のセメント組成物と水とを共存させればよい。
【0025】
水の使用量は、フッ化アパタイト産生の観点から、セメント組成物100質量部に対して、20~45質量部が好ましく、25~40質量部がより好ましく、30~40質量部が更に好ましい。
【0026】
セメント組成物と水との混合順序は特に限定されないが、成分(A)、(B)及び(C)の全てを同時に水と混合しても、順次水と混合してもよい。また、成分(C)を水に溶解し、これを成分(A)及び(B)に添加して混合してもよく、混合方法は特に限定されない。また、混合する際には、例えば、撹拌、震盪を行ってもよい。
混合温度は、低結晶性フッ化アパタイト産生の観点から、好ましくは15~40℃、より好ましくは18~35℃、更に好ましくは20~30℃である。混合時間は、好ましくは0.5~10分、より好ましくは0.5~7分、更に好ましくは1~5分である。
混合後、例えば、骨又は歯の患部に塗布又は埋入すればよい。養生は、セメント組成物の硬化に十分な時間行えばよく、特に限定されない。3時間以上で硬化し、1日経過すれば十分な強度が得られる。
【0027】
フッ化アパタイトの産生は、例えば、セメント組成物の硬化体のX線回折パターンを測定することにより確認することができる。X線回折パターンは、粉末X線回折測定法に準拠し、以下の条件にて測定することができる。なお、X線回折測定装置として、例えば、D8 ADVANCE(Bruker社製)を使用することができる。
【0028】
X線源 Cukα
測定範囲 2θ=10~65°
測定間隔 0.0234°
走査速度 10.62°/min
測定電圧 50kV
測定電流 350mA
【0029】
フッ化アパタイトには、低結晶性と、高結晶性が存在するが、生体結合性が高い点で、低結晶性が好ましい。本発明のセメント組成物は、従来に比して低い温度でフッ化カルシウムを産生できるため、生体結合性がより高い低結晶性フッ化カルシウムを産生できる点で有用である。フッ化カルシウムが低結晶性であることは、X線回折パターンから(310)面の回折である2θ=39.8°の半値幅を読み取り、その半値幅が0.2°~2.0°の範囲内であれば低結晶性と判断することができる。
【0030】
本発明のセメント組成物は、水の存在下にて低い温度でフッ化アパタイトを産生できることから、生体内でのフッ化アパタイトの産生に有用である。また、フッ化アパタイトは、本発明のセメント組成物の硬化体の周囲に産生するため、線維性結合組織の発生を抑制できることから、生体結合性に優れている。更に、本発明のセメント組成物は、ポルトランドセメントを必須とするため、機械的強度も高められている。したがって、本発明のセメント組成物は、人工関節、人工歯根といった繰り返し負荷がかかる骨や歯の修復にも有用であり、成型性を有することから複雑な形態を有する部位への適用も可能である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0032】
1.粒子径D90測定
原料として使用したフッ化カルシウムの粒度分布を、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準拠して体積基準で作成した。そして、体積分布積算曲線の90%に相当する粒子径(D90)を求めた。なお、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、マイクロトラックMT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)を使用した。
【0033】
2.X線回折(XRD)による分析
(1)X線回折パターン
X線回折測定装置として、D8 ADVANCE(Bruker社製)を用い、粉末X線回折測定法に準拠して以下の条件により測定した。
【0034】
X線源 Cukα
測定範囲 2θ=10~65°
測定間隔 0.0234°
走査速度 10.62°/min
測定電圧 50kV
測定電流 350mA
【0035】
(2)半値幅
X線回折パターンからフッ化カルシウム(FAp)の産生が確認された場合には、(310)面の回折である2θ=39.8°の半値幅を読み取った。
【0036】
実施例1
フッ化カルシウム(試薬、関東化学社製、以下、同様)をジェットミルで粉砕し、粒子径D
90を1.54μmに調整した。また、リン酸二ナトリウム(試薬、関東化学社製、以下、同様)141.96gを水1Lで定容し、リン酸二ナトリウム水溶液1mol/Lを調製した。
次いで、白色ポルトランドセメント(製品名:ホワイトセメント、太平洋セメント社製、以下、同様)10gと、粒子径D
90が1.54μmであるフッ化カルシウム0.047gとを乳鉢で混合し、それにリン酸二ナトリウム水溶液3.6gを加えて混練してスラリーを調製した。次いで、スラリーを型枠に流し込み、水温37℃のウォータバス中で24時間静置した。そして、得られた硬化体を粉砕し、XRD分析した。X線回折パターンを
図1に示す。X線回折パターンから、フッ化アパタイト(FAp)の産生が確認された。また、FApは、(310)面の回折である2θ=39.8°の半値幅が0.26°であったことから、低結晶性であることが確認された。
【0037】
実施例2
フッ化カルシウムの配合量を0.094gに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりセメント組成物を得た。得られたセメント組成物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スペクトルを測定し、X線回折パターンからフッ化アパタイト(FAp)の産生を確認した。また、FApは、(310)面の回折である2θ=39.8°の半値幅が0.29°であったことから、低結晶性であることが確認された。
【0038】
実施例3
粒子径D90が1.95μmであるフッ化カルシウムを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作によりセメント組成物を得た。得られたセメント組成物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スペクトルを測定し、X線回折パターンからフッ化アパタイト(FAp)の産生を確認した。また、FApは、(310)面の回折である2θ=39.8°の半値幅が0.28°であったことから、低結晶性であることが確認された。
【0039】
実施例4
リン酸二ナトリウム283.92gを水1Lで定容し、リン酸二ナトリウム水溶液2mol/Lを調製したことと、フッ化カルシウムの配合量を0.094gに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりセメント組成物を得た。得られたセメント組成物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スペクトルを測定し、X線回折パターンからフッ化アパタイト(FAp)の産生を確認した。また、FApは、(310)面の回折である2θ=39.8°の半値幅が0.29°であったことから、低結晶性であることが確認された。
【0040】
実施例5
リン酸二ナトリウム425.88gを水1Lで定容し、リン酸二ナトリウム水溶液3mol/Lを調製したことと、フッ化カルシウムの配合量を0.14gに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりセメント組成物を得た。得られたセメント組成物について、実施例1と同様にX線回折装置によりX線回折スペクトルを測定し、X線回折パターンからフッ化アパタイト(FAp)の産生を確認した。また、FApは、(310)面の回折である2θ=39.8°の半値幅が0.27°であったことから、低結晶性であることが確認された。
【0041】
比較例1
フッ化カルシウムを粉砕せずに、粒子径D
90が7.10μmであるフッ化カルシウムを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作によりセメント組成物を得た。得られたセメント組成物について、実施例1と同様にXRD分析した。X線回折パターンを
図2に示す。X線回折パターンから、フッ化アパタイト(FAp)の産生が確認されなかった。
【0042】
比較例2
フッ化カルシウムを粉砕せずに、粒子径D90が4.31μmであるフッ化カルシウムを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作によりセメント組成物を得た。得られたセメント組成物について、実施例1と同様にXRD分析したところ、フッ化アパタイト(FAp)の産生が確認されなかった。
【0043】
比較例3
フッ化カルシウムの配合量を0.47gに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりセメント組成物を得た。得られたセメント組成物について、実施例1と同様にXRD分析したところ、フッ化アパタイト(FAp)の産生が確認されなかった。
【0044】
【0045】
表1から、(A)ポルトランドセメント、(B)粒子径D90が3.5μm以下であるフッ素イオン供給化合物及び(C)リン酸イオン供給化合物を、Ca、Si、Al、F及びPの各含有量が所定の割合となるように混合することで、フッ化アパタイトが産生され、骨又は歯の修復に有用なセメント組成物が得られることがわかる。