IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鹿島建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-鋼管矢板基礎の構築方法 図1
  • 特許-鋼管矢板基礎の構築方法 図2
  • 特許-鋼管矢板基礎の構築方法 図3
  • 特許-鋼管矢板基礎の構築方法 図4
  • 特許-鋼管矢板基礎の構築方法 図5
  • 特許-鋼管矢板基礎の構築方法 図6
  • 特許-鋼管矢板基礎の構築方法 図7
  • 特許-鋼管矢板基礎の構築方法 図8
  • 特許-鋼管矢板基礎の構築方法 図9
  • 特許-鋼管矢板基礎の構築方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】鋼管矢板基礎の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/28 20060101AFI20221202BHJP
   E02D 27/30 20060101ALI20221202BHJP
   E02D 27/32 20060101ALI20221202BHJP
   E02D 5/08 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
E02D27/28
E02D27/30
E02D27/32 Z
E02D5/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019070695
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020169467
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】安永 正道
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-057252(JP,A)
【文献】特開平09-296443(JP,A)
【文献】特許第2518596(JP,B2)
【文献】特開平07-042169(JP,A)
【文献】特開平10-121463(JP,A)
【文献】実開昭63-116541(JP,U)
【文献】特開2006-322229(JP,A)
【文献】特開昭58-199925(JP,A)
【文献】特開平02-161005(JP,A)
【文献】特公昭45-25148(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/28
E02D 27/30
E02D 27/32
E02D 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管矢板と、前記鋼管矢板を少なくとも一部に含む仕切で仕切られた内部空間に打設されるコンクリートと、前記コンクリートに埋設される鉄筋籠と、前記鋼管矢板と前記コンクリートとの間でせん断力を伝達するせん断力伝達金具と、を有する鋼管矢板基礎の構築方法であって、
前記せん断力伝達金具と前記鉄筋籠とは、平面視で互いに重ならない位置に設置され、
前記鋼管矢板の前記内部空間側の側面に設けられた鋼管矢板側継手部に嵌合する金具側継手部と、前記金具側継手部から前記内部空間側に突出され前記コンクリートに埋設されるせん断力伝達部と、を有する前記せん断力伝達金具を、前記鋼管矢板側継手部を介して前記鋼管矢板の側面に取付けるせん断力伝達金具設置工程と、
前記内部空間に前記鉄筋籠を設置する鉄筋籠設置工程と、
前記せん断力伝達部と前記鉄筋籠とを埋設するように前記内部空間に前記コンクリートを打設するコンクリート打設工程と、を備え、
前記せん断力伝達金具設置工程では、前記金具側継手部が、前記鋼管矢板側継手部に対して端部から挿入され前記鋼管矢板の管軸方向にスライド可能な継手構造で接続される、
鋼管矢板基礎の構築方法。
【請求項2】
前記せん断力伝達金具設置工程は前記鉄筋籠設置工程の後に行なわれ、
前記せん断力伝達金具設置工程では、前記金具側継手部が前記鋼管矢板側継手部の上端部から挿入され、前記せん断力伝達金具が鉛直下方にスライド移動されて設置される、請求項1に記載の鋼管矢板基礎の構築方法。
【請求項3】
前記鉄筋籠設置工程は前記せん断力伝達金具設置工程の後に行なわれ、
前記鉄筋籠設置工程では、前記鉄筋籠が前記内部空間に吊り降ろされて設置される、請求項1に記載の鋼管矢板基礎の構築方法。
【請求項4】
前記金具側継手部が挿入された状態の前記鋼管矢板側継手部に硬化性材料を充填する工程を更に備える、請求項1~3の何れか1項に記載の鋼管矢板基礎の構築方法。
【請求項5】
前記鋼管矢板側継手部と前記金具側継手部との継手構造は、PT継手構造又はLT継手構造をなす、請求項1~4の何れか1項に記載の鋼管矢板基礎の構築方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断力伝達機構及び鋼管矢板基礎の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この分野の技術として、下記特許文献1に記載の鋼管矢板井筒工法が知られている。この工法では、鋼管矢板井筒内にコンクリートが打設され基礎版が形成される。このとき、鉄筋が突設された鋼板が鋼管矢板井筒の内壁に溶接され、当該鉄筋が径方向内側に向けて突出した状態とされる。そして、上記鉄筋の先端側が基礎版のコンクリートに埋設されることで、鋼管矢板井筒と基礎版との間でのせん断力伝達を図るせん断力伝達部位として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許2518596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記工法においては、上記鋼板を鋼管矢板井筒に対して水中で溶接する必要がある。このような水中溶接作業は、潜水士を必要とし危険性が高い困難な作業である。また、水中溶接作業は、時間が掛かり、溶接の欠陥が発生しないように十分な管理や検査も必要になる。この種の鋼管矢板とコンクリートとのせん断力伝達部位を形成する場合には、水中に限られず気中の作業であっても、作業の簡易化が望まれる。
【0005】
本発明は、鋼管矢板とコンクリートとのせん断力伝達部位の形成作業が簡易化される鋼管矢板基礎の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のせん断力伝達機構は、鋼管矢板と、鋼管矢板を少なくとも一部に含む仕切で仕切られた内部空間に打設されるコンクリートと、の間でせん断力を伝達するせん断力伝達機構であって、鋼管矢板の内部空間側の側面に設けられた鋼管矢板側継手部と、鋼管矢板側継手部に嵌合する金具側継手部と、金具側継手部から内部空間側に突出されコンクリートに埋設されるせん断力伝達部と、を有し、鋼管矢板側継手部を介して鋼管矢板の側面に取付けられるせん断力伝達金具と、を備え、金具側継手部が、鋼管矢板側継手部に対して鋼管矢板の管軸方向にスライド可能な継手構造で接続されている。
【0007】
また、鋼管矢板側継手部と金具側継手部との継手構造は、PT継手構造又はLT継手構造をなすこととしてもよい。
【0008】
本発明の鋼管矢板基礎の構築方法は、鋼管矢板と、鋼管矢板を少なくとも一部に含む仕切で仕切られた内部空間に打設されるコンクリートの構築方法であって、鋼管矢板の内部空間側の側面に鋼管矢板側継手部が設けられており、鋼管矢板側継手部に嵌合する金具側継手部と、金具側継手部から内部空間側に突出されコンクリートに埋設されるせん断力伝達部と、を有するせん断力伝達金具を、鋼管矢板側継手部を介して鋼管矢板の側面に取付けるせん断力伝達金具設置工程と、せん断力伝達部を埋設するように内部空間にコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、を備え、せん断力伝達金具設置工程では、金具側継手部が、鋼管矢板側継手部に対して端部から挿入され鋼管矢板の管軸方向にスライド可能な継手構造で接続される。
【0009】
本発明の鋼管矢板基礎の構築方法は、金具側継手部が挿入された状態の鋼管矢板側継手部に硬化性材料を充填する工程を更に備えることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鋼管矢板とコンクリートとのせん断力伝達部位の形成作業が簡易化される鋼管矢板基礎の構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】橋梁基礎を示す断面図である。
図2】橋梁基礎の構築方法の一部を示す図であり、(a)は、施工中の橋梁基礎を示す平面図であり、(b)はその断面図である。
図3図2に続いて橋梁基礎の構築方法の一部を示す図であり、(a)は、施工中の橋梁基礎を示す平面図であり、(b)はその断面図である。
図4】鋼管矢板側継手と金具側継手との継手構造を示す斜視図である。
図5図3に続いて橋梁基礎の構築方法の一部を示す図であり、(a)は、施工中の橋梁基礎を示す平面図であり、(b)はその断面図である。
図6】(a),(b)は、図5に続いてそれぞれ橋梁基礎の構築方法の一部を示す断面図である。
図7図6に続いて橋梁基礎の構築方法の一部を示す断面図である。
図8】(a),(b)は、それぞれ継手構造の変形例を示す断面図である。
図9】(a)はせん断力伝達金具の変形例を示す側面図であり(b)はその断面図である。(c)はせん断力伝達金具の他の変形例を示す側面図であり(d)はその断面図である。
図10】せん断力伝達金具が適用される他の構造物の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明に係るせん断力伝達機構及び鋼管矢板基礎の構築方法の実施形態について詳細に説明する。本実施形態では、鋼管矢板井筒工法によって河川内に橋梁基礎101を構築する構築方法を一例として説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の構築方法を用いて構築される橋梁基礎101(鋼管矢板基礎)の断面図である。橋梁基礎101は、複数の鋼管矢板3が平面視環状に連結されてなる鋼管矢板井筒5(仕切)と、当該鋼管矢板井筒5の内部空間に打設される鉄筋コンクリート基礎版7と、を備える。鋼管矢板井筒5の直径は例えば約10mである。鉄筋コンクリート基礎版7(以下、単に「基礎版7」と言う)は、鋼管矢板井筒5に囲まれて仕切られた内部空間にコンクリートが打設されて形成される。このような橋梁基礎101においては、基礎版7と鋼管矢板井筒5とが一体となって、橋脚10に作用する水平力及び鉛直力に抵抗する。橋梁基礎101は、鋼管矢板井筒5と基礎版7との間でせん断力を伝達するために、後述するせん断力伝達機構30を備えている。以下では、この橋梁基礎101を構築する構築方法について説明する。
【0014】
図2(a)は、施工中の橋梁基礎101を示す平面図であり、図2(b)はその断面図である。図2に示されるように、まず、河川の底面に複数(図の例の場合は16本)の鋼管矢板3が鉛直に打設され平面視円環状に配列される。打設された鋼管矢板3は、河川の水面上に例えば約2mの高さで突出する。隣接する鋼管矢板3同士は、各鋼管矢板3の外周面に予め設けられたPT継手、LT継手、又はPP継手といったような公知の継手構造によって接続される。これにより、平面視円環状の鋼管矢板井筒5が河川に形成される。なお、図面においては、隣接する鋼管矢板3同士の継手部の図示を省略する。
【0015】
各鋼管矢板3の外周面には、隣接する鋼管矢板3同士を接続する上記の継手の他に、「鋼管矢板側継手部9」と呼ぶ他の継手部が予め溶接され設けられている。鋼管矢板3の鋼管矢板側継手部9は、鋼管矢板井筒5の内壁面に配置される。鋼管矢板側継手部9の詳細については後述する。
【0016】
その後、鋼管矢板井筒5の内部空間に河川の水が存在する状態で、当該内部空間が水中掘削される。この水中掘削では、基礎版7が設置される予定の位置(以下「基礎版予定位置8」と呼ぶ)よりもやや深い位置(例えば約40cm下方)まで掘削され、例えば鋼管矢板3の上端から約7~8m下方まで掘削される。なお、他の手法として、各鋼管矢板3の下端を不透水層に到達させて鋼管矢板井筒5の内部空間を排水しながら気中で掘削する場合もあるが、ここでは、当該河川の下に適切な不透水層が存在しないものとする。従って、これ以降の作業も、鋼管矢板井筒5の内部空間に河川の水が存在している状態で進行する。上記水中掘削の後、基礎版7が構築される範囲(図中に二点鎖線で示す。以下、「基礎版構築範囲6」と呼ぶ)において鋼管矢板井筒5のどべら落としが行われる。その後、鋼管矢板井筒5の床付け面が整形され、更に砕石が敷き均されて、所定の層厚(例えば約30cm)の砕石層11が形成される。また、砕石層11の上面には均しコンクリート(例えば厚さ約10cm)が施される。
【0017】
(せん断力伝達金具設置工程)
続いて、図3に示されるように、各鋼管矢板3の鋼管矢板側継手部9に対してせん断力伝達金具13が取付けられ、せん断力伝達金具13は鋼管矢板井筒5の内壁面から内周側に突出する。ここで、図4を参照しながら、鋼管矢板側継手部9及びせん断力伝達金具13の構成について説明する。
【0018】
図4に示されるように、各鋼管矢板3に設けられた鋼管矢板側継手部9は、断面の一部を切欠いてC字形断面とした丸鋼管からなる。このような丸鋼管が、鋼管矢板3の管軸Aと平行な姿勢で当該鋼管矢板3の外周面に溶接されて、鋼管矢板側継手部9が設けられている。鋼管矢板側継手部9は、当該鋼管矢板側継手部9の長手方向全長に亘って延びるスリット9aを有している。スリット9aは、鋼管矢板井筒5の内周側に向けて開口している。このような鋼管矢板側継手部9が設けられた鋼管矢板3は、予め工場等で製作され施工現場に搬入される。
【0019】
一方、せん断力伝達金具13は、T字形断面で鉛直方向に延びる金具側継手部17と、金具側継手部17に固定された複数の棒状のせん断力伝達部19と、を有している。金具側継手部17は、例えばCT形鋼で構成される。せん断力伝達部19は、例えば鉄筋で構成される。せん断力伝達部19の先端には、コンクリートに対する付着を図るために、例えば円板状の定着部が形成されてもよい。せん断力伝達部19は、金具側継手部17から鋼管矢板井筒5の内周側に向けて水平方向に突出している。各せん断力伝達部19は、金具側継手部17のウェブ17aの表裏面に千鳥状に配置されており、各せん断力伝達部19の基端側が上記ウェブ17aに溶接されている。図の例では1つのせん断力伝達金具13が5本のせん断力伝達部19を有しているが、せん断力伝達部19の本数は適宜変更してもよい。せん断力伝達金具13は、予め工場等で製作され施工現場に搬入される。
【0020】
金具側継手部17の一端のフランジ17bが、鋼管矢板側継手部9の上端部から当該鋼管矢板側継手部9の内部に鉛直方向に挿入されると、スリット9aから金具側継手部17のウェブ17aの一部及びせん断力伝達部19が内周側に突出した状態で、金具側継手部17と鋼管矢板側継手部9とが嵌合する。金具側継手部17のフランジ17bはスリット9aよりも幅広であるので、金具側継手部17は鋼管矢板側継手部9から鋼管矢板井筒5の内周側に向けて脱離することはない。この状態において、せん断力伝達金具13は、鋼管矢板側継手部9に沿って鉛直方向(管軸A方向)にスライド可能であるが、鋼管矢板井筒5の径方向及び周方向への移動は規制される。このような鋼管矢板側継手部9と金具側継手部17との継手構造は、PT継手構造と呼ばれる。
【0021】
図3に示されるように、鋼管矢板側継手部9は、河川の水面Sよりも上方の位置から基礎版予定位置8に亘って鉛直に延在している。上記のような継手構造に基づいて、図3に示されるように、せん断力伝達金具13は、水上から吊下ろされて鋼管矢板側継手部9の上端から挿入され、水没しながら下方にスライド移動されて基礎版予定位置8に設置される。このとき、鋼管矢板側継手部9の上端は水面Sから上方に露出しているので、鋼管矢板側継手部9の位置を視認しながらせん断力伝達金具13を挿入することができる。このようにして、各鋼管矢板3に対してそれぞれせん断力伝達金具13が取付けられる。取付けられたせん断力伝達金具13のせん断力伝達部19は、基礎版構築範囲6の上下幅全体に亘って配置される。なお、図面では1つの鋼管矢板3に対して1つずつのせん断力伝達金具13が取付けられる状態を模式的に図示しているが、実際には、1つの鋼管矢板3に対して、複数本(例えば2本,3本)の鋼管矢板側継手部9が設けられて、複数本ずつのせん断力伝達金具13が取付けられてもよい。
【0022】
(鉄筋設置工程)
その後、基礎版構築範囲6に基礎版7の鉄筋が設置される。具体的には、図5に示されるように鉄筋籠21が準備され、図6(a)に示されるように、鋼管矢板井筒5の内部に吊下ろされて基礎版予定位置8に設置される。鉄筋籠21は、平面視円形に形成された上側鉄筋22及び下側鉄筋23と、上側鉄筋22と下側鉄筋23とを上下に接続するせん断補強鉄筋24と、を有している。鉄筋籠21の下面には、砕石層11上面の均しコンクリート上面との必要な隙間に応じて適宜スペーサ(図示せず)が取付けられる。
【0023】
上側鉄筋22及び下側鉄筋23には、それぞれ、鋼管矢板井筒5の径方向に延びる半径方向鉄筋26と周方向に延びる円周方向鉄筋27とが含まれている。下側鉄筋23に含まれる各半径方向鉄筋26は、吊下ろしの際にせん断力伝達金具13に干渉しないように、平面視でせん断力伝達金具13に重ならない位置に配置されている。また、下側鉄筋23に含まれる最外周の円周方向鉄筋27は、吊下ろしの際にせん断力伝達金具13に干渉しないような位置に仮設置しておき、吊下ろし完了後に本来の位置に移動させ本設置してもよい。あるいは、せん断力伝達金具13に干渉する最外周の円周方向鉄筋27は省略されてもよい。
【0024】
(コンクリート打設工程)
その後、図6(b)に示されるように、鋼管矢板井筒5の内部空間において、基礎版予定位置8上に水中コンクリートCが打設される。また、各鋼管矢板側継手部9の内部には、金具側継手部17が挿入された状態でモルタル(硬化性材料)が充填される。このモルタルによって、せん断力伝達金具13が鋼管矢板側継手部9に対して強固に固定される。そして、上記の水中コンクリートとモルタルとが硬化することで、基礎版7が完成する。なお、基礎版予定位置8上への水中コンクリート打設と、各鋼管矢板側継手部9の内部へのモルタル充填と、の作業順の先後は入れ替えてもよい。
【0025】
鋼管矢板井筒5から内部空間側に突出したせん断力伝達部19が基礎版7に埋設されるので、鋼管矢板井筒5と基礎版7とが強固に連結される。そして、鋼管矢板井筒5と基礎版7との間のせん断力は、鋼管矢板側継手部9、金具側継手部17及びせん断力伝達部19を介して伝達されることになる。すなわち、鋼管矢板側継手部9、金具側継手部17及びせん断力伝達部19によって、鋼管矢板井筒5と基礎版7との間でせん断力を伝達するせん断力伝達機構30(図5(b)参照)が構成される。
【0026】
その後、図7に示されるように、鋼管矢板井筒5の内部空間が排水され、気中で基礎版7上に橋脚10が立設される。なお、橋脚10の鉄筋は、基礎版7の鉄筋籠21に組み込まれた突出鉄筋と重ね継手によって接続されるか、または基礎版7に埋込まれたカップラー(機械継手)を介して基礎版7と接続される。その後、図1に示されるように、鋼管矢板井筒5のうち基礎版7よりも上方の部分が切断除去され、基礎版7と橋脚10の下部が水没した状態で橋梁基礎101が完成する。なお、鋼管矢板井筒5の上部を切断除去することは必須ではなく、そのまま残存されてもよい。
【0027】
続いて、本実施形態のせん断力伝達機構30及びこれを用いる橋梁基礎101の構築方法による作用効果について説明する。本実施形態によれば、鋼管矢板井筒5の内周面に鋼管矢板側継手部9が予め設けられている。そして、せん断力伝達金具13を鋼管矢板側継手部9に対して上端から挿入し、下方にスライドさせて基礎版予定位置8まで移動させる。このような比較的簡易な作業によって、鋼管矢板井筒5と基礎版7との間のせん断力伝達部位を形成することができる。すなわち、鋼管矢板井筒5の内壁面にスタッドジベル等を溶接するといった作業等に比較して、せん断力伝達部位の形成作業が簡易化される。
【0028】
本実施形態においては、基礎版構築範囲6が水中にあるため、仮にスタッドジベル等の溶接を行うとすれば水中溶接等を実行せざるを得ず、作業の負担が特に大きい。これに対し、本実施形態によれば、水中溶接作業も不要でせん断力伝達部位の形成作業が簡易化されるので、水中作業に起因する大きな作業負担を軽減することができる。例えば、潜水士は施工品質の確認や検査の作業を中心として行うことになり、潜水士を必要とする作業の負担が軽減される。
【0029】
また、本実施形態のように河川の下方に適切な不透水層が存在しない場合において、仮に、気中でせん断力伝達部位を形成するためには、例えば次のような作業が必要である。すなわち、基礎版予定位置8よりも更に下にある程度の深さ(例えば3~5m)で余堀をし、当該余堀部に水中コンクリートを打設して、当該水中コンクリートの重量によって揚圧力に抵抗するようにし、鋼管矢板井筒5の内部空間を排水する必要がある。
【0030】
しかしながら本実施形態によれば、上記のとおり、水中作業に起因する大きな作業負担を軽減することができるので、河川の下方に適切な不透水層が存在しない場合にも、水中作業を行う方式を比較的採用し易い。そして、水中作業を行う方式を採用することで、上記の余堀が省略されて必要な掘削深度が浅くなり、また、余堀部の水中コンクリート打設が省略されるので、コストダウンを図ることができる。
【0031】
以上の観点から、本実施形態のせん断力伝達機構30及び橋梁基礎101の構築方法は、河川の下方に適切な不透水層が存在しない状況において、鋼管矢板3と基礎版7とのせん断力伝達部位の形成作業を水中で実行する場合に、特に好適に適用される。
【0032】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、下記の変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0033】
例えば、実施形態では鋼管矢板側継手部9と金具側継手部17との継手構造が、PT継手構造であったが、これに代えて、図8(a)に示されるようなLT継手構造が採用されてもよい。このLT継手構造では、鋼管矢板側継手部9に代えて鋼管矢板側継手部12が各鋼管矢板3の外周面に設けられる。鋼管矢板側継手部12は、断面L字形をなす対面する2つの部材を含み、当該部材同士の間にT字形の金具側継手部17が挿入され保持される。
【0034】
また、鋼管矢板側継手部9は、P継手又はL継手には限定されない。すなわち、鋼管矢板側継手部9は、中空部を囲む壁面の断面の一部を切欠いてスリット9aが形成され、当該スリット9aからせん断力伝達金具13のウェブ17aを露出させる構成であれば、他の形状であってもよい。このような形状の継手は、開放溝型継手などと呼ばれる場合もあり、この開放溝型継手を用いる例として、前述のPT継手構造やLT継手構造が挙げられる。
【0035】
上記のような開放溝型継手によれば、鋼管矢板側継手部9の内側に金具側継手部17が挿入された状態でモルタル等の硬化性材料を充填することができ、せん断力伝達金具13を鋼管矢板側継手部9に強固に固定することができる。また、上記した各例の鋼管矢板側継手部9の形状と金具側継手部17の形状とを逆にしてもよい。例えば、鋼管矢板側継手部9がT継手で金具側継手部17がP継手又はL継手といった構造であってもよい。
【0036】
また、図8(b)に示されるように、鋼管矢板側継手部9の外側面には、スリット9aを間に挟む位置にそれぞれゴム板33が予め取付けられてもよい。スリット9aから突出した金具側継手部17のウェブ17aは、ゴム板33の弾性によって当該ゴム板33同士の間に挟み込まれる。これにより、鋼管矢板側継手部9の内部へのモルタル充填の際には、モルタル18の漏出を低減することができる。なお、ゴム板33は、鋼管矢板側継手部9ではなく金具側継手部17のウェブ17aに予め取付けられてもよい。
【0037】
また、実施形態では、せん断力伝達金具13のせん断力伝達部19は棒状であったが、これに代えて、図9(a),(b)に示されるせん断力伝達部35、又は図9(c),(d)に示されるせん断力伝達部37が採用されてもよい。図9(a),(b)の構造では、せん断力伝達金具13はH鋼で構成され、金具側継手部17が当該H鋼の一方のフランジ17bを含む部位で構成される。また、せん断力伝達部35は、板厚方向に複数の貫通穴35aが形成されたH鋼のウェブ17aで構成される。上記貫通穴35aにコンクリートが入り込むことで、せん断力伝達部35がコンクリートに対して強固に付着する。また、上記H鋼の他方のフランジ36も、せん断力伝達部35とコンクリートとの強固な付着に寄与する。図9(c),(d)の構造では、せん断力伝達部37は、複数の水平板部37aが表裏面に設けられたウェブ17aで構成されている。上記水平板部37aの存在により、せん断力伝達部37がコンクリートに対して強固に付着する。
【0038】
また、実施形態の鉄筋設置工程では、一体の鉄筋籠21を基礎版予定位置8に吊下ろすが、この形態には限定されず、下側鉄筋23、上側鉄筋22及びせん断補強鉄筋24をそれぞれ順々に設置してもよい。例えば、砕石層11上にスペーサを介して下側鉄筋23を設置した後、上側鉄筋22とせん断補強鉄筋24とが一体化された鉄筋群を降下させるようにしてもよい。この場合、せん断補強鉄筋24の上端は、例えばフック状の継手で上側鉄筋22と予め接続されている。せん断補強鉄筋24の下端は、例えば、せん断補強鉄筋24の下端に取付けられた定着プレート等を含む継手で下側鉄筋23と接続される。なおこの場合、せん断補強鉄筋24の下端の継手の位置を、潜水士が微調整してもよい。
【0039】
また、鉄筋籠21を基礎版予定位置8に設置した後に、せん断力伝達金具13を鋼管矢板側継手部9に設置する(せん断力伝達金具設置工程)ようにしてもよい。このとき、上側鉄筋22のうち、吊下されるせん断力伝達金具13に干渉する円周方向鉄筋27については、干渉しない位置に予め仮設置され、後に本来の位置に本設置されるようにすればよい。
【0040】
また、せん断力伝達金具13が鉄筋籠21に組み込まれ、せん断力伝達金具13と鉄筋籠21とが一体として吊下ろされてもよい。この場合、せん断力伝達金具13が鋼管矢板側継手部9に挿入され下方にスライド移動されると同時に、鉄筋籠21が基礎版予定位置8に向けて下降する。そしてこの場合には、せん断力伝達金具13と鉄筋籠21との間にガタを有する構成(せん断力伝達金具13が鉄筋籠21に対してある程度変位可能である構成)とすることで、せん断力伝達金具13が鋼管矢板側継手部9に対して円滑に挿入され、円滑にスライド移動する。なお、この手法は、特に、基礎版7が例えば直径10m以下の円形(または、10mx10m以下の矩形)といったように比較的小さい場合に採用するようにしてもよい。
【0041】
また、実施形態では、鋼管矢板井筒5が円形である場合を例として説明したが、鋼管矢板井筒5は楕円形や矩形であってもよい。また、鋼管矢板井筒5のような全周を鋼管矢板3で囲まれた内部空間に限られず、鋼管矢板3を一部に含む仕切で仕切られた内部空間にコンクリートが打設される場合においても、せん断力伝達機構30が適用可能である。例えば図10に示されるように、複数連結された鋼管矢板3で山留壁の一部が形成され、当該山留壁の内部空間に基礎版7が打設される構造物においても、せん断力伝達機構30が適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
3…鋼管矢板、5…鋼管矢板井筒(仕切)、7…鉄筋コンクリート基礎版、9,12…鋼管矢板側継手部、13…せん断力伝達金具、17…金具側継手部、18…モルタル(硬化性材料)、19,35,37…せん断力伝達部、30…せん断力伝達機構、101…橋梁基礎(鋼管矢板基礎)、A…管軸、C…水中コンクリート。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10