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特許7186661複層ガラス及び袋体付き複層ガラス並びに袋体付き複層ガラスの圧力調整方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】複層ガラス及び袋体付き複層ガラス並びに袋体付き複層ガラスの圧力調整方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/06 20060101AFI20221202BHJP
   E06B 3/677 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
C03C27/06 101E
E06B3/677
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019080747
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2019202928
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018097874
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(72)【発明者】
【氏名】臼井 勇一
(72)【発明者】
【氏名】原口 博光
(72)【発明者】
【氏名】八田 耕一
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-162333(JP,U)
【文献】特開2014-196222(JP,A)
【文献】国際公開第01/065047(WO,A1)
【文献】特開2018-012637(JP,A)
【文献】実開昭58-088052(JP,U)
【文献】特開2015-036354(JP,A)
【文献】特開平06-026282(JP,A)
【文献】中国実用新案第201614853(CN,U)
【文献】特開平7-042452(JP,A)
【文献】特開平3-290583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/06
E06B 3/66 - 3/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する少なくとも2枚の矩形状のガラス板が枠状のスペーサを介して隔置され、前記2枚のガラス板と対向する前記スペーサの各側面が一次シール材によって前記2枚のガラス板に接着されて前記ガラス板間に中空層が形成された複層ガラスであって、前記スペーサと前記一次シール材の外側の一部には、内壁と外壁とを有する堰部材が配置され、前記堰部材によって包囲された包囲スペースを除く前記外側が二次シール材によって封止されてなる複層ガラスを有し、
前記包囲スペースには、前記中空層と外気とを連通し、かつ気圧調整用袋体の接続管が着脱自在に接続される孔部が備えられ、前記孔部の中心から前記堰部材の前記内壁までの距離が、前記孔部の中心から前記孔部の周縁までの距離よりも長い、複層ガラス。
【請求項2】
前記スペーサは、縦スペーサ材、横スペーサ材、及び前記縦スペーサ材と前記横スペーサ材と連結するL字状の連結部材を有し、
前記孔部は、前記縦スペーサ材、前記横スペーサ材若しくは前記連結部材のうち少なくとも一つの部材に備えられている、請求項1に記載の複層ガラス。
【請求項3】
前記堰部材は、前記縦スペーサ材、前記横スペーサ材若しくは前記連結部材のうち少なくとも一つの部材に一体的に備えられる、請求項2に記載の複層ガラス。
【請求項4】
前記堰部材は、前記複層ガラスの外縁に沿って配置された框部材によって構成される、請求項1又は2に記載の複層ガラス。
【請求項5】
前記堰部材の前記外壁と前記二次シール材の各々の高さが等しい、請求項1から4のいずれか1項に記載の複層ガラス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の複層ガラスと、
接続管を有し、前記接続管を介して前記複層ガラスの孔部に着脱自在に取り付けられる気圧調整用袋体と、
を備える、袋体付き複層ガラス。
【請求項7】
前記接続管は、
主管を有し、
前記孔部に接続される側の前記主管の一方側には、前記孔部の数に応じた複数の第1枝管が接続され、
前記気圧調整用袋体に接続される側の前記主管の他方側には、前記孔部の数よりも少ない1本以上の第2枝管が接続され、
前記複数の第1枝管と前記第2枝管とが前記主管を介して連通される、
請求項6に記載の袋体付き複層ガラス。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の袋体付き複層ガラスを外気圧が高い第1標高場所から外気圧が低い第2標高場所に搬送した後、中空層の内圧と外気圧との気圧差により膨張した気圧調整用袋体を前記複層ガラスの孔部から取り外す第1工程と、
前記複層ガラスの前記孔部に栓部材を装着して前記複層ガラスの中空層を封止する第2工程と、
前記複層ガラスの堰部材によって包囲された包囲スペースに二次シール材を充填する第3工程と、
を有する、袋体付き複層ガラスの圧力調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層ガラス及び袋体付き複層ガラス並びに袋体付き複層ガラスの圧力調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱性と防音性の観点から、ガラス窓として複層ガラスが多用されている。複層ガラスは、少なくとも2枚のガラス板とスペーサとを有する。2枚のガラス板はスペーサによって隔置され、2枚のガラス板の間に中空層が形成される。スペーサは、その両側面が一次シール材によって2枚のガラス板に接着される。これによって、2枚のガラス板で挟まれる中空層が封止される。また、2枚のガラス板の間の端縁部の凹部に二次シール材が封着される。これによって複層ガラスが構成される。
【0003】
ところで、複層ガラスは、複層ガラスの製造工場と、複層ガラスの設置場所との間に標高差が生じると、製造時に中空層に封入されたガス(例えば、空気、若しくはアルゴンガス又はクリプトンガラス等の不活性ガスを言う。以下、同じ。)の圧力と設置場所の外気圧との間に気圧差が生じるため、例えば、複層ガラスの製造工場の標高よりも複層ガラスの設置場所の標高が高い場合には、中空層内のガスがガラス板を外側に押圧して中空層の体積が大きくなり(以下、この現象を「中空層の膨張」と表現する。)、2枚のガラス板が互いに離間する方向に湾曲状に撓むという現象が生じる。このような現象は、ボイルシャルルの法則により標高差が大きくなるに従い大きくなる。このため、撓んだ2枚のガラス板から、中空層を封止している一次シール材及び二次シール材に負荷がかかり、その負荷によって一次シール材及び二次シール材に過度の引き剥がし力がかかると、中空層の気密性が損なわれるという懸念がある。なお、ボイルシャルルの法則に基づけば、中空層の膨張量は無視できない大きなものである。
【0004】
上記の問題を解消するため、特許文献1の複層ガラスは、複層ガラスの少なくとも1カ所に密閉空間(中空層に相当)を連通する内外貫通孔を設け、内外貫通孔に複層ガラス(中空層)の内圧と外気圧とを常にほぼ同一にする内圧自動調整装置が取り付けられている。
【0005】
特許文献1の内圧自動調整装置は、外気導入孔を持つシリンダーと、シリンダー内部に移動可能な可動棒材とを有し、可動棒材の円周には気密リングが装着されている。また、特許文献1には、複層ガラスの4辺の周縁部のうち対向する2辺に沿ってシリンダーが配置されている例が開示されている。
【0006】
特許文献1の複層ガラスによれば、例えば、高地での使用の場合、空気の膨張をガラスが抑え込むことにより中空層の内圧は外気圧(大気圧)より高くなろうとするが、その場合には外気導入孔よりシリンダー外に空気を吐き出しつつ、内圧自動調整装置の可動棒材が外気導入孔のある方向に動き、中空層の空気をシリンダー内に取り込む。これにより、特許文献1の複層ガラスによれば、中空層の内圧が低下するので、複層ガラスの中空層の膨張を抑えることができる。
【0007】
一方、特許文献2には、圧力調整機構を備えた複層ガラスが開示されている。特許文献2の圧力調整機構は、温度変化に伴って生じる密閉空間(中空層に相当。)内の気体の体積変化を、膨張、収縮のいずれの場合にも許容して、気体の圧力を一定に保つ機能を有している。特許文献2では、圧力調整機構の一例として、気密性のある蛇腹状の袋体をサッシ枠内に設け、この袋体と密閉空間とを連通路を介して接続した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-42452号公報
【文献】特開平6-26282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
通常、複層ガラスは、設置場所に一旦設置されると、設置場所の外気圧下で長年使用されるものである。つまり、複層ガラスが設置場所に一旦設置されると、中空層の膨張現象は気温の変化によって若干発生するものの、一次シール材及び二次シール材に影響を与えるような膨張現象は殆ど発生せず、そのような膨張現象は、上述の如く、複層ガラスの製造工場と設置場所との間の標高差(以下、単に「標高差」と言う。)に起因して発生するものである。特許文献1、2の複層ガラスは、その標高差で発生した中空層の膨張を、シリンダー(特許文献1)や袋体(特許文献2)によって解消することができるが、それ以降、シリンダーや袋体は不要なものとなる。
【0010】
このように、特許文献1、2の複層ガラスでは、複層ガラスが設置場所に一旦設置された後においても不要なシリンダーや袋体が、そのまま複層ガラスに残置されるので、シリンダーや袋体を含めた構造の複層ガラスが大型化するという問題があった。また、複層ガラスをサッシに納める場合に、突出物であるシリンダーや袋体が邪魔になるので、余分なスペースをサッシ又は複層ガラス周辺に確保しなければならないという問題もあった。
【0011】
また、特許文献1の複層ガラスは、重量物であるシリンダーを複層ガラスに装着する際に、シリンダーが複層ガラスに接触すると、複層ガラスを損傷させる虞があるという問題もあった。
【0012】
また、特許文献2の複層ガラスは、袋体が経年劣化により早期に劣化する場合があり、このような場合には湿った外気が袋体から複層ガラスの中空層に浸入するため、複層ガラスの性能(例えば、結露防止機能)を早期に損失するという懸念があった。
【0013】
なお、特許文献1、2のような圧力調整機能を備えていない複層ガラスにおいて、例えば、2枚のガラス板からなる複層ガラスの場合には、標高差が千メートル以上となると破損の虞があるので使用を控えることが知られている。破損の虞が無く使用できる標高差は、複層ガラスを構成するガラス板の枚数が増えるに従って小さくなる。例えば、5枚のガラス板からなる複層ガラスの場合には、標高差が数百メートル以上となると破損の虞があるので使用を控えることが知られている。
【0014】
このように、複層ガラスの場合には、製造場所と設置場所との標高差が大きくなれば設置することが困難となる。このため従来では、特許文献1、2のような圧力調整機能を備える複層ガラスが提案されているが、特許文献1、2の複層ガラスは上記のような問題があった。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、標高差に起因する中空層の膨張を解消するとともにコンパクトで性能を担保することができる複層ガラス及び袋体付き複層ガラス並びに袋体付き複層ガラスの圧力調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の複層ガラスは、本発明の目的を達成するために、対向する少なくとも2枚の矩形状のガラス板が枠状のスペーサを介して隔置され、2枚のガラス板と対向するスペーサの各側面が一次シール材によって2枚のガラス板に接着されてガラス板間に中空層が形成された複層ガラスであって、スペーサと一次シール材の外側の一部には、内壁と外壁とを有する堰部材が配置され、堰部材によって包囲された包囲スペースを除く外側が二次シール材によって封止されてなる複層ガラスを有し、包囲スペースには、中空層と外気とを連通し、かつ気圧調整用袋体の接続管が着脱自在に接続される孔部が備えられ、孔部の中心から堰部材の内壁までの距離が、孔部の中心から孔部の周縁までの距離よりも長い。
【0017】
本発明の複層ガラスの一形態は、スペーサは、縦スペーサ材、横スペーサ材、及び縦スペーサ材と横スペーサ材と連結するL字状の連結部材を有し、孔部は、縦スペーサ材、横スペーサ材若しくは連結部材のうち少なくとも一つの部材に備えられていることが好ましい。
【0018】
本発明の複層ガラスの一形態は、堰部材は、縦スペーサ材、横スペーサ材若しくは連結部材のうち少なくとも一つの部材に一体的に備えられることが好ましい。
【0019】
本発明の複層ガラスの一形態は、堰部材は、複層ガラスの外縁に沿って配置された框部材によって構成されることが好ましい。
【0020】
本発明の複層ガラスの一形態は、堰部材の外壁と二次シール材の各々の高さが等しいことが好ましい。
【0021】
本発明の袋体付き複層ガラスは、本発明の目的を達成するために、本発明の複層ガラスと、接続管を有し、接続管を介して複層ガラスの孔部に着脱自在に取り付けられる気圧調整用袋体と、を備える。
【0022】
本発明の袋体付き複層ガラスの一形態は、接続管は、主管を有し、孔部に接続される側の主管の一方側には、孔部の数に応じた複数の第1枝管が接続され、気圧調整用袋体に接続される側の主管の他方側には、孔部の数よりも少ない1本以上の第2枝管が接続され、複数の第1枝管と第2枝管とが主管を介して連通されることが好ましい。
【0023】
本発明の袋体付き複層ガラスの圧力調整方法は、本発明の袋体付き複層ガラスを外気圧が高い第1標高場所から外気圧が低い第2標高場所に搬送した後、中空層の内圧と外気圧との気圧差により膨張した気圧調整用袋体を複層ガラスの孔部から取り外す第1工程と、複層ガラスの孔部に栓部材を装着して複層ガラスの中空層を封止する第2工程と、複層ガラスの堰部材によって包囲された包囲スペースに二次シール材を充填する第3工程と、を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、標高差に起因する中空層の膨張を解消するとともにコンパクトで性能を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態の複層ガラスの構成を示した全体斜視図
図2図1に示した複層ガラスの構成を示した要部断面図
図3】スペーサの構成を示した要部斜視図
図4】コーナーキーのZ方向に沿った断面図
図5図1に示した複層ガラスと袋体とを示した説明図
図6】堰部材に対する孔部の大きさを示した説明図
図7】第1実施形態の袋体付き複層ガラスの正面図
図8図6に示した袋体付き複層ガラスの圧力調整方法を経時的に示した説明図
図9】ジョイントノズルの変形例を示した拡大断面図
図10】第2実施形態の複層ガラスの全体斜視図
図11図10の複層ガラスに設けられた堰部材の説明図
図12】チューブの厚さを考慮した堰部材の要部断面図
図13】堰部材が横スペーサ材に一体に構成された要部断面図
図14】辺部コネクタに堰部材と孔部とが一体に構成された説明図
図15】堰部材の変形例を示した複層ガラスの要部断面図
図16】堰部材の他の変形例を示した複層ガラスの要部断面図
図17】堰部材と孔部との位置関係の上位概念を示した説明図
図18】堰部材と孔部との位置関係の別の例を示した説明図
図19】平面視楕円形の堰部材の例を示した説明図
図20】第3実施形態に係る複層ガラスの隅部を拡大して示した斜視図
図21】第4実施形態に係る複層ガラスの隅部を拡大して示した斜視図
図22】第5実施形態に係る複層ガラスの斜視図
図23図22の複層ガラスに好適な袋体を示した説明図
図24】第6実施形態に係る複層ガラスの斜視図
図25図24の複層ガラスに好適な袋体を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に従って本発明に係る複層ガラス及び袋体付き複層ガラス並びに袋体付き複層ガラスの圧力調整方法の好ましい実施形態を説明する。
【0027】
まず、実施形態の袋体付き複層ガラスを説明する前に、気圧調整用袋体(以下、「袋体」と略称する。)を除いた単体の複層ガラスの構成について説明する。
【0028】
図1は、第1実施形態に係る複層ガラス10の構成を示した全体斜視図である。図2は、図1に示した複層ガラス10の要部断面図である。なお、以下に説明するX方向とは複層ガラス10の厚さ方向を指し、Y方向とはX方向に直交する方向であって複層ガラス10の幅方向を指す。また、Z方向とはX方向及びY方向にそれぞれ直交する方向であって複層ガラス10の高さ方向を指す。
【0029】
図1及び図2に示すように、複層ガラス10は、矩形状に構成された2枚のガラス板12、12と枠状のスペーサ14とを有する。2枚のガラス板12、12はスペーサ14によってX方向に隔置され、2枚のガラス板12、12の間に中空層16が形成される。スペーサ14は、X方向においてガラス板12、12に対向する両側面14A、14Aがブチルゴム等の一次シール材18によって2枚のガラス板12、12に接着される。これによって、中空層16が封止される。また、Z方向におけるスペーサ14と一次シール材18の外側であって、2枚のガラス板12、12の間の端縁部の凹部13には、二次シール材20としてのポリサルファイド系シーリング材が充填される。これによって、複層ガラス10が構成される。なお、二次シール材20としては、上記のポリサルファイド系シーリング材に限定されるものではなく、例えば、シリコーン系シーリング材、ポリウレタン系シーリング材又はブチル系シーリング材を適用することもできる。
【0030】
複層ガラス10のガラス板12は、フロート法によって製造された所謂フロートガラスでもよく、強化ガラス(例えば、風冷強化ガラス又は化学強化ガラス)、型板ガラス、網入りガラス等の防火ガラス又は合わせガラスであってもよい。また、ガラス板12の枚数は2枚に限定されるものではなく、例えば3枚以上のガラス板を備えた複層ガラスであってもよい。
【0031】
スペーサ14は、中空のパイプ材によって構成され、スペーサ14の中空部14Bにはゼオライト等の乾燥材22が充填される。また、スペーサ14には、中空部14Bと中空層16とを連通する貫通孔14Cが備えられ、これによって、中空層16に充填されたガスが乾燥材22によって乾燥される。
【0032】
図3は、スペーサ14の構成を示した要部斜視図である。
【0033】
図3に示すように、スペーサ14は、Z方向に配置される縦スペーサ材24と、Y方向に配置される横スペーサ材26と、コーナーキー28とを有している。コーナーキー28は、本発明の構成要素である連結部材の一例であり、本体ブロック30と、本体ブロック30からZ及びY方向に延設された同形状の嵌合部32、34とを有し、全体として略L字形状に構成されている。また、嵌合部32、34には、縦スペーサ材24と横スペーサ材26の抜け防止の目的で鋸歯状の返し部が備えられている。このような嵌合部32、34を、隣接する縦スペーサ材24と横スペーサ材26の各々の中空部14Bに嵌挿することにより、隣接する縦スペーサ材24と横スペーサ材26とがコーナーキー28を介して互いに直交するZY方向に連結される。
【0034】
図4は、コーナーキー28のZ方向に沿った断面図である。
【0035】
図4に示すように、コーナーキー28の本体ブロック30には、中空層16(図2参照)と外気とを連通する孔部36が備えられている。この孔部36は、複層ガラス10の中空層16にガスを充填する際のガス注入口として利用される。また、孔部36は、図5に示す袋体38のジョイントノズル40が嵌挿される孔部としても利用される。このジョイントノズル40は、本発明の構成要素である接続管の一例である。なお、孔部36に後述するキャップ42の本体部44(図3及び図4参照)を嵌挿した場合に、本体部44が中空層16に落下しないように、孔部36の直径は、孔部36の入口から中空層16の側の出口に向かって小さくなるように形成されているが、これに限らず、孔径が入口と出口で同じ場合には、孔部36の中心から孔部36の周縁部までの距離よりも、孔部36の中心から堰部材50の内壁までの距離を大きくすることで、キャップ42の本体部44の直径を孔径よりも大きく設定することができ、本体部44が中空層16に落下しない。
【0036】
図5に示す袋体38は、複層ガラス10を低地の製造工場から高地の設置場所に搬送する際に、ジョイントノズル40を孔部36に嵌挿することにより複層ガラス10に着脱自在に装着される。また、この袋体38は、高地の設置場所に複層ガラス10を設置する際に、ジョイントノズル40と共に孔部36から取り外される。つまり、この袋体38は、複層ガラスの設置時に複層ガラスに残置される特許文献2の袋体とは異なるものである。なお、ジョイントノズル40が取り外されて露出した孔部36には、中空層16を封止するキャップ42の本体部44(図3及び図4参照)が嵌挿される。
【0037】
キャップ42については公知であるが簡単に説明すると、キャップ42は、図3の如く、略円錐形状の本体部44とツマミ部46とから構成され、作業者がツマミ部46を摘んで本体部44を孔部36に嵌挿する。この本体部44は、本発明の構成要素である栓部材の一例である。
【0038】
本体部44を孔部36に嵌挿する際、中空層16の非透湿性を高める観点から、本体部44を非透湿性である樹脂製とし、かつ本体部44の周部にブチルゴム48をあらかじめ塗布しておくことが好ましい。また、本体部44を孔部36に嵌挿した後、本体部44の基端部からツマミ部46を切断し、図4の如く、本体部44のみを孔部36に残置する。本体部44の形状は、孔部36に挿入し易いように、本体部44の先端部に向かって断面の円の直径が小さくなる円錐台形状であることが好ましい。また、本体部44の基端部の直径は、孔部36の入口の直径よりも僅かに大きいことが好ましい。これにより、孔部36の出口から本体部44が中空層16に落下することを確実に防止することができる。以上がキャップ42の例である。なお、コーナーキー28に備えられる孔部36は、スペーサ14の隅部に配置された4個のコーナーキー28の全てに備える必要はなく、少なくとも1個のコーナーキー28に備えられていればよい。
【0039】
ところで、図3の如く、孔部36を備えたコーナーキー28には、本発明の構成要素である堰部材50が本体ブロック30に一体に備えられている。なお、図3では、堰部材50が本体ブロック30に一体に備えられた例について説明するが、堰部材50は、本体ブロック30とは別体で構成されて本体ブロック30に固定されるものであってもよい。
【0040】
堰部材50は、スペーサ14と一次シール材18の外側の一部、本例では複層ガラス10の隅部に配置される(図1参照)。また、堰部材50は、図3に示すように、連続した4つの内壁52A、52B、52C、52Dと、内壁52A、52B、52C、52Dの外壁を構成する4つの外壁54A、54B、54C、54Dと、を有している。内壁52A、52Bは、X方向において互いに対向して配置される。内壁52CはZ方向に配置され、内壁52DはY方向に配置されている。このような構成のコーナーキー28を有する複層ガラス10によれば、図1に示すように、堰部材50によって包囲された略立方体形状の包囲スペース56が形成され、この包囲スペース56を除く外側が二次シール材20によって封止されている。
【0041】
なお、図3では、外壁54A~54Dの高さが内壁52A~52Dの高さと等しい堰部材50を例示しているが、外壁54A~54Dの高さが内壁52A~52Dの高さよりも高い堰部材であっても適用することができる。すなわち、外壁54A~54Dの高さは、内壁52A~52Dの高さと等しくする必要はなく、凹部13(図2参照)に対する二次シール材20の充填時において、二次シール材20が包囲スペース56(図1参照)に侵入することを阻止することが可能な高さであればよい。なお、図3において、外壁54A~54Cの高さとはZ方向の高さを指し、外壁54Dの高さとはY方向の高さを指す。
【0042】
一方、包囲スペース56の底部58には、図3に示すように、前述した孔部36が備えられている。底部58は、内壁52C、52Dの互いの基部に、内壁52C、52Dに対して略45度(内角は略135度)の角度をもって傾斜して備えられている。また、底部58は、X方向に沿って備えられており、そのX方向の中央部に孔部36が備えられている。
【0043】
図6は、堰部材50に対する孔部36の大きさを示した説明図である。
【0044】
図6に示すように、底部58は、Z方向の幅Bが孔部36の直径Dよりも大きくなるように構成されている。したがって、第1実施形態の複層ガラス10によれば、孔部36の中心36Aから堰部材50の内壁52A、52B、52C、52Dまでの距離a、b、c、dが、孔部36の中心36Aから孔部36の周縁36Bまでの距離(D/2)よりも長くなるように構成されている。
【0045】
上記のような長さ関係で孔部36と堰部材50とを構成することにより、実施形態の複層ガラス10によれば、孔部36に対するジョイントノズル40(図5参照)の着脱作業が容易になる。比較例として、孔部36の中心36Aから内壁52A、52B、52C、52Dまでの距離a、b、c、dと、孔部36の中心36Aから孔部36の周縁36Bまでの距離(D/2)と、が等しい複層ガラスの場合には、孔部36に対するジョイントノズル40の装着(嵌挿)時にジョイントノズルが内壁52A、52B、52C、52Dに干渉するため、ジョイントノズル40の装着が困難になる。これに対して、上記の実施形態では、上記の長さ関係により、ジョイントノズル40が内壁52A、52B、52C、52Dに干渉しないので、孔部36に対するジョイントノズル40の着脱作業が容易になる。
【0046】
図7は、第1実施形態の袋体付き複層ガラス100の正面図である。この袋体付き複層ガラス100は、第1実施形態の複層ガラス10の孔部36(図5参照)にジョイントノズル40が装着されて構成されたものである。この袋体38は、膨縮可能な材料で構成されており、例えば、樹脂層とガス非透過性層とを積層したガス透過防止フィルムによって構成されている。
【0047】
袋体付き複層ガラス100は、低地にて製造されて高地に搬送される。この場合、低地にて製造された袋体付き複層ガラス100の袋体38には、ガスが充填されておらず、袋体38は低地において収縮した状態(図7参照)で中空層16にジョイントノズル40を介して連通されている。ここで、低地とは外気圧が高い第1標高場所に相当し、高地とは外気圧が低い第2標高場所に相当する。
【0048】
次に、第1実施形態の袋体付き複層ガラス100を使用した圧力調整方法について説明する。
【0049】
袋体付き複層ガラス100を低地の製造工場から高地の設置場所に向けて搬送していくと、中空層16の内圧と外気圧との気圧差によって複層ガラス10の中空層16が膨張しようとするが、中空層16のガスは中空層16からジョイントノズル40を介して袋体38に流入する。これにより、第1実施形態の袋体付き複層ガラス100によれば、低地から高地に複層ガラス10を搬送させた際に生じる中空層16の膨張を防止することができる。また、搬送の道程の途中で高地から低地に一時的に下がる場合には、一旦袋体38に入ったガスが中空層16に戻ることで、中空層16の内圧を外気圧と同じに保つことができる。
【0050】
図8の8Aから8Eは、袋体付き複層ガラス100の圧力調整方法を経時的に示した説明図である。
【0051】
図8の8Aは、袋体付き複層ガラス100が低地から高地に搬送されて、中空層16の内圧と外気圧との気圧差により袋体38にガスが入り、袋体38が膨張して中空層16の内圧と外気圧が均衡した状態が示されている。この状態から図8の8Bに示すように、袋体38を複層ガラス10の孔部36からジョイントノズル40と共に取り外す(第1工程)。このとき、中空層16の内圧と外気圧とは等しいので、中空層16のガスが孔部36から外部に漏出せず、また、外気が孔部36から中空層16に侵入することもない。次に、図8の8Cに示すように、複層ガラス10の孔部36に、図3に示したキャップ42の本体部44を嵌挿して複層ガラス10の中空層16を封止する(第2工程)。次に、図8の8Dに示すように、堰部材50によって包囲された包囲スペース56に二次シール材20を充填する(第3工程)。このとき、図8の8Eに示すように、堰部材50の外壁54A~54Dと二次シール材20の各々の高さを等しくする。これにより、二次シール材20の表面から外壁54A~54Dが外方に突出しなので、複層ガラス10の例えばサッシ(不図示)への設置を安定して行うことができる。以上で、袋体付き複層ガラス100の圧力調整が終了する。
【0052】
以上説明したように、第1実施形態の複層ガラス10によれば、スペーサ14と一次シール材18の外側の一部に堰部材50を配置し、堰部材50によって包囲された包囲スペース56を除く外側を二次シール材20によって封止し、包囲スペース56に、中空層16と外気とを連通し、かつ袋体38のジョイントノズル40が着脱自在に接続される孔部36を備えたので、標高差に起因する中空層16の膨張を解消することが可能な複層ガラス10となる。また、孔部36の中心36Aから堰部材50の内壁52A、52B、52C、52Dまでの距離a、b、c、dが、孔部36の中心36Aから孔部36の周縁36Bまでの距離(D/2)よりも長くなるように構成したので、孔部36に対するジョイントノズル40の着脱作業が容易になる。更に、孔部36に対するジョイントノズル40の着脱時において、包囲スペース56には二次シール材20が充填されていなため、ジョイントノズル40の着脱作業がより一層容易になる。更にまた、ジョイントノズル40に二次シール材20が付着したり詰まったりすることもないので、ジョイントノズル40の再利用が可能となる。
【0053】
一方、図7に示した第1実施形態の袋体付き複層ガラス100によれば、第1実施形態の複層ガラス10の孔部36(図5参照)にジョイントノズル40が装着されて構成されているので、標高差に起因する中空層16の膨張を解消することができる。これにより、複層ガラス10に課されていた標高差の規制条件を解消することができるので、標高の高い高地においても複層ガラス10を問題無く設置することができる。
【0054】
また、図8に示した袋体付き複層ガラス100の圧力調整方法によれば、複層ガラス10の設置時に袋体38は複層ガラス10から取り外されているので、複層ガラス10をコンパクト化することができ、かつ複層ガラス10の性能を長期に亘って担保することができる。
【0055】
更に、図8の8Eの如く、堰部材50によって包囲された包囲スペース56には、二次シール材20が充填されているので、孔部36を封止した本体部44が孔部36から外側に抜落することを確実に防止することができる。これにより、孔部36からのガス漏れを防止することができるので、この点においても複層ガラス10の性能を長期に亘って担保することができる。
【0056】
なお、図9に示すジョイントノズル40の変形例に示すように、堰部材50を円筒状に構成して堰部材50の内壁に螺合部である雌ネジ51を備えさせ、この雌ネジ51にジョイントノズル40の雄ネジ41を螺合連結させてもよい。これにより、孔部36からのジョイントノズル40の脱落を確実に防止することができる。
【0057】
図10は、第2実施形態の複層ガラス110の全体斜視図である。図11は、複層ガラス110に設けられた堰部材112の説明図であり、図11の11Aは堰部材112のZ方向に沿った縦断面図、図11の11Bは堰部材112の平面図である。なお、複層ガラス110を説明するに際し、図1及び図2で示した複層ガラス10と同一若しくは類似の部材については同一の符号を付して説明する。
【0058】
図10の複層ガラス110と図1の複層ガラス10との相違点は、図1の複層ガラス10の堰部材50が複層ガラス10の隅部に配置されているのに対し、図10の複層ガラス110は、複層ガラス110の上縁部であって、両側の隅部を除いた所定の位置に配置されている点にある。また、図1の複層ガラス10は、堰部材50を図3のコーナーキー28に一体に設けているのに対し、図10の複層ガラス110は、個別の堰部材112を上記の所定の位置に設けた点にある。
【0059】
図11の11A及び11Bに示すように、堰部材112は、連続した4つの内壁112A、112B、112C、112Dと、内壁112A、112B、112C、112Dの外壁を構成する4つの外壁114A、114B、114C、114Dと、を有し、横スペーサ材26に固定されている。内壁112A、112Bは、X方向において互いに対向して配置される。内壁112C、112DはY方向において互いに対向して配置されている。このような構成の堰部材112を有する複層ガラス110によれば、図10に示すように、堰部材112によって包囲された立方体形状の包囲スペース116が形成され、この包囲スペース116を除く外側が二次シール材20によって封止されている。
【0060】
一方、包囲スペース116によって露出している横スペーサ材26には、孔部36が備えられている。また、図11の11Bに示すように、複層ガラス110においても、孔部36の中心36Aから堰部材112の内壁112A、112B、112C、112Dまでの距離a、b、c、dが、孔部36の中心36Aから孔部36の周縁36Bまでの距離(D/2)よりも長くなるように構成されている。
【0061】
本例では、距離a、bが等しく距離c、dが等しい寸法で構成されているが、距離a、b、c、dがそれぞれ等しい寸法で構成されていてもよい。また、本例において距離a、b、c、dは、図11の11Aに示すように、孔部36の中心36Aから内壁112A、112B、112C、112Dのそれぞれの上端位置までの最短距離を指している。また、孔部36の直径Dは、孔部36の下端位置の直径を指している。
【0062】
上記の如く構成された第2実施形態の複層ガラス110においても、第1実施形態の複層ガラス10と同様に、横スペーサ材26と一次シール材18の外側の一部に堰部材112を配置し、堰部材112によって包囲された包囲スペース116を除く外側を二次シール材20によって封止し、包囲スペース116に、中空層16と外気とを連通し、かつ袋体38のジョイントノズル40が着脱自在に接続される孔部36を備えたので、標高差に起因する中空層16の膨張を解消することが可能な複層ガラス10となる。また、孔部36の中心36Aから堰部材112の内壁112A、112B、112C、112Dまでの距離a、b、c、dが、孔部36の中心36Aから孔部36の周縁36Bまでの距離(D/2)よりも長くなるように構成したので、孔部36に対するジョイントノズル40の着脱作業が容易になる。更に、孔部36に対するジョイントノズル40の着脱時において、包囲スペース116には二次シール材20が充填されていなため、ジョイントノズル40の着脱作業がより一層容易になる。更にまた、ジョイントノズル40に二次シール材20が付着したり詰まったりすることもないので、ジョイントノズル40の再利用が可能となる。
【0063】
なお、図12の要部断面図の如く、ジョイントノズル40に接続部材の一つであるチューブ41(図8参照)を装着した場合には、チューブ41と内壁112A、112B、112C、112Dとの干渉を防止するために、図11に示した距離a、b、c、dと距離(D/2)との差は、チューブ41の直径方向の厚さt(例えば0.8mm)以上であることが好ましい。
【0064】
第2実施形態の複層ガラス110では、単体の堰部材112を横スペーサ材26に固定することにより構成されているが、これに限定されるものではない。以下、堰部材112の変形例について説明する。
【0065】
〔第1変形例〕
図13の要部断面図の如く、堰部材112は、横スペーサ材26に一体に構成してもよい。
【0066】
〔第2変形例〕
図14に示す辺部コネクタ120に堰部材112と孔部36とを一体に構成してもよい。辺部コネクタ120は、二分割された横スペーサ材26Aと横スペーサ材26BとをY方向に連結する部材であり、その中央の本体部122に堰部材112と孔部36とが一体に構成される。また、本体部122のY方向の両端部には、同形状の嵌合部124、126がY方向に延設されており、これらの嵌合部124、126には、抜け止め用の鋸歯状の返し部が備えられている。このような嵌合部124、126を、隣接する横スペーサ材26Aと横スペーサ材26Bの各々の中空部14Bに嵌挿することにより、隣接する横スペーサ材26Aと横スペーサ材26Bが辺部コネクタ120を介してY方向に連結される。
【0067】
〔第3変形例〕
図15に示す堰部材112は、内壁112c、112dをY方向に対して傾斜して形成し、不図示の内壁112a、112bをX方向に対して傾斜して形成したものである。このような変形例であっても、距離a、b、c、dが、孔部36の中心36Aから孔部36の周縁36Bまでの距離(D/2)よりも長くなるように構成することができる。なお、図15では、孔部36に本体部44が嵌挿されている状態が示されている。
【0068】
〔第4変形例〕
図16に示す堰部材112は、内壁112c、112dをY方向に対して傾斜して形成し、不図示の内壁112a、112bをX方向に対して傾斜して形成するとともに、孔部36の内周面も内壁112a~112dに連続した形状に傾斜して形成したものである。このような変形例であっても、距離a、b、c、dが、孔部36の中心36Aから孔部36の周縁36Bまでの距離(D/2)よりも長くなるように構成することができる。なお、図16においても、孔部36に本体部44が嵌挿されている状態が示されている。
【0069】
図10から図16では、堰部材112及び孔部36を横スペーサ材26に配置した例を説明したが、横スペーサ材26に限定されるものではなく、縦スペーサ材24に配置してもよい。
【0070】
また、図11の11Aに示した堰部材112と孔部36の位置関係は、距離a、bが等しく距離c、dが等しい関係であるが、このような位置関係に限定されるものではない。図17には、堰部材112と孔部36との位置関係の上位概念を示す説明図が示されている。図17によれば、距離a、b、c、dがそれぞれ異なる場合であっても、それぞれの距離a、b、c、dが距離(D/2)よりも長く設定されていればよいことが示されている。また、堰部材112と孔部36との別の位置関係を示した図18の説明図によれば、距離a、bが距離(D/2)と等しく、距離c、dが距離(D/2)よりも長く設定されていればよいことが示されている。すなわち、図18によれば、距離a、b、c、dのうち少なくとも一つの距離が距離(D/2)よりも長く設定されていればよいことが示されている。
【0071】
また、図17及び図18では、平面視の形状が四角形状で、内壁112A~112Dが4面の場合の堰部材112を例示したが、これに限らず、平面視の形状が台形、平行四辺形、円、楕円、その他直線や曲線で形成される形状でもよい。図19には、平面視の形状が楕円の堰部材115が示されており、堰部材115の内壁115Aの内側であって内壁115Aから離間した位置に孔部36が備えられている。このような形状の堰部材115であっても堰部材112と同様の効果を得ることができる。
【0072】
上記の実施形態では、2枚のガラス板12、12を備えた複層ガラス10、110を例示したが、本発明は、例えば5枚のガラス板を備えた複層ガラス(多重ガラス障子とも言う。)にも適用できる。
【0073】
多重ガラス障子は公知であるが、その概略構成について説明すると、4本のスペーサが一体化された第1の枠体を用い、5枚のガラス板を隔置して構成したものが本願出願人から提案されている(例えば、WO2016/068309号参照)。また、この多重ガラス障子は、第1の枠体を外側から支持する第2の枠体を備えている。更に、この多重ガラス障子は、第1の枠体及び第2の枠体を、それぞれ枠状に構成するためのコーナーキーを有している。
【0074】
ここで、図20は、第3実施形態に係る複層ガラス(多重ガラス障子)130の隅部を拡大して示した斜視図である。
【0075】
図20に示す複層ガラス130によれば、第2の枠体132を構成する縦框材134と横框材136とがコーナーキー138を介してZY方向に連結されている。そして、このコーナーキー138に、図3に示した堰部材50と同機能を有する堰部材140が備えられている。なお、図20では、縦框材134のX方向の両側面と、両側に配置されたガラス板142、142との間に二次シール材20が充填されており、横框材136のX方向の両側面と、ガラス板142、142との間にも二次シール材20が充填されている。
【0076】
図20の堰部材140にも孔部36が備えられており、この孔部36は、第1の枠体(不図示)のコーナーキー(不図示)に備えられた孔部(不図示)に連通されている。また、この孔部は、第1の枠体に備えられた共有空間部(不図示)を介して、4つの中空層(不図示)に連通されている。なお、共有空間部と4つの中空層に関する構成は公知(例えば、特開2015-124582号公報の図5又は7参照)なのでその説明は省略する。
【0077】
したがって、図20に示した複層ガラス130においても、図3に示した堰部材50と同機能を有する堰部材140が備えられているので、図1に示した複層ガラス10と同様に、標高差に起因する中空層の膨張を解消することが可能な複層ガラス130となる。
【0078】
また、この複層ガラス130に袋体38(図5参照)を装着して袋体付き複層ガラスを構成することにより、標高差に起因する中空層の膨張を解消することが可能となる。これにより、複層ガラス130に課されていた標高差の規制条件を解消することができるので、標高の高い高地においても複層ガラス130を問題無く設置することができる。
【0079】
更に、袋体付き複層ガラス130の圧力調整方法によれば、複層ガラス130の設置時に袋体38は複層ガラス130から取り外されているので、複層ガラス130をコンパクト化することができ、施工が容易となり、かつ複層ガラス130の性能を長期に亘って担保することができる。
【0080】
図21は、第4実施形態に係る複層ガラス(多重ガラス障子)150の隅部を拡大して示した斜視図である。
【0081】
図21に示す複層ガラス150は、縦框材134と横框材136とがコーナーキーを用いることなく、その端部において互いに突き合わされて連結されている。そして、縦框材134と横框材136の各々の端部には、矩形状の切欠部152、154が備えられており、これらの切欠部152、154によって図3に示した堰部材50と同機能を有する堰部材156が備えられている。すなわち、堰部材156は、複層ガラス150の外縁に沿って配置された縦框材134と横框材136とによって構成されている。
【0082】
堰部材156の内側には、第1の枠体(不図示)のコーナーキー158に備えられた孔部160が露出されている。この孔部160は、第1の枠体に備えられた共有空間部(不図示)を介して、4つの中空層(不図示)に連通されている。
【0083】
したがって、図21に示した複層ガラス150においても、図20に示した複層ガラス130と同様に、標高差に起因する中空層の膨張を解消することが可能な複層ガラス150となる。
【0084】
また、この複層ガラス150の孔部160に袋体38(図5参照)を装着して袋体付き複層ガラスを構成することにより、標高差に起因する中空層の膨張を解消することができる。これにより、複層ガラス150に課されていた標高差の規制条件を解消することができるので、標高の高い高地においても複層ガラス150を問題無く設置することができる。
【0085】
更に、この袋体付き複層ガラスの圧力調整方法によれば、複層ガラス150の設置時に袋体38は複層ガラス150から取り外されているので、複層ガラス150をコンパクト化することができ、施工が容易になり、かつ複層ガラス150の性能を長期に亘って担保することができる。
【0086】
図22は、第5実施形態に係る複層ガラス(多重ガラス障子)170の斜視図である。この複層ガラス170と図1に示した複層ガラス10との構成の相違点は、図1に示した複層ガラス10が2枚のガラス板12、12を隔置して配置しているのに対し、図22の複層ガラス170は3枚のガラス板12、12、12を隔置して配置している点であり、また、3枚のガラス板12、12、12間にそれぞれ堰部材50、50が配置されている点である。
【0087】
図22の複層ガラス170は、3枚のガラス板12、12、12間に2つの中空層(不図示)が備えられ、そして2つの中空層毎に堰部材50、50が配置されている。このような複層ガラス170に対し、堰部材50、50のそれぞれの孔部36、36に袋体38(図7参照)を接続した場合、1枚の複層ガラス170に対して2つの袋体38が必要となるので、袋体38を設置するスペースが大きくなってしまう。ここで、このような問題を解消する袋体180を図23に示す。
【0088】
図23に示す袋体180の接続管182は、1本の主管184を有する。また、孔部36に接続される側の主管184の一方側には、孔部36の数(2つ)に応じた2本の枝管186、186が接続されている。更に、袋体180に接続される側の主管184の他方側には、孔部36の数(2つ)よりも少ない1本の枝管188が接続されている。そして、2本の枝管186、186と枝管188とが主管184を介して連通されている。ここで、主管184、枝管186及び枝管188は、本発明の構成要素である主管、第1枝管及び第2枝管の一例である。
【0089】
図23に示した袋体180の接続管182のように、主管184の一方側に孔部36の数に応じた複数の枝管186を接続し、主管184の他方側に孔部36の数よりも少ない1本以上の枝管188を接続する構成を採用することにより、中空層16の数よりも少ない袋体180で対応することができる。これにより、袋体180の数を減じることができるので、袋体180の設置スペースを削減できる。なお、中空層16を3箇所以上備える複層ガラスの場合には、例えば2本以上の枝管188、188を主管184の他方側に接続し、枝管188、188のそれぞれに袋体180、180を接続すればよい。
【0090】
図24は、第6実施形態に係る複層ガラス(多重ガラス障子)190の斜視図である。この複層ガラス190は、先に説明した多重ガラス障子(WO2016/068309号)の構成を備えているものであり、5枚のガラス板12、12…(図24では両側に配置された2枚のガラス板12、12のみ図示)を備えることによって4つの中空層(不図示)を備えている。このような複層ガラス190では、4つの中空層に連通するように4つの孔部36、36…が堰部材50に備えられている。そこで、このような複層ガラス190に好適な袋体200を図25に示す。
【0091】
図25に示す袋体200の接続管202は、1本の主管204を有する。また、孔部36に接続される側の主管204の一方側には、孔部36の数(4つ)に応じた4本の枝管206、206…が接続されている。更に、袋体200に接続される側の主管204の他方側には、孔部の数(4つ)よりも少ない例えば2本の枝管208、208が接続されている。そして、4本の枝管206、206…と2本の枝管208、208とが主管204を介して連通されている。また、袋体200は、2つの袋体201、201を有しており、2本の枝管208、208のそれぞれに袋体201、201が接続されている。ここで、主管204、枝管206及び枝管208は、本発明の構成要素である主管、第1枝管及び第2枝管の一例である。
【0092】
図25に示した袋体200の接続管202のように、主管204の一方側に孔部36の数に応じた複数本の枝管206、206…を接続し、主管204の他方側に孔部36の数よりも少ない複数本の枝管208、208を接続する構成を備えることにより、中空層16の数よりも少ない複数の袋体201、201で対応することができる。これにより、袋体の数を減じることができるので、袋体200の設置スペースを削減できる。
【0093】
上記の例では、1枚の複層ガラスに対する袋体の接続態様について説明したが、袋体の接続態様はこれに限定されるものではない。例えば、図23に示した袋体180は2本の枝管188、188を備えているので、一つの孔部36を備えた図1の複層ガラス10であれば、2枚の複層ガラス10に一つの袋体180を接続できる。これにより、複層ガラスの枚数に対して袋体の数を減じることができるので、袋体の設置スペースを削減できる。このような袋体の接続態様は、図25に示した袋体200でも同様に実施可能である。なお、複数の複層ガラスに一つの袋体を接続する場合は、中空層に同種のガス(空気を含む)が封入された複数の複層ガラスに一つの袋体を接続することが好ましい。これにより、袋体内で異種のガスが混合されることを防止できる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0095】
10…複層ガラス、12…ガラス板、13…凹部、14…スペーサ、16…中空層、18…一次シール材、20…二次シール材、22…乾燥材、24…縦スペーサ材、26…横スペーサ材、28…コーナーキー、30…本体ブロック、32、34…嵌合部、36…孔部、38…袋体、40…ジョイントノズル、41…チューブ、42…キャップ、44…本体部、46…ツマミ部、48…ブチルゴム、50…堰部材、52A、52B、52C、52D…内壁、54A、54B、54C、54D…外壁、56…包囲スペース、58…底部、100…袋体付き複層ガラス、110…複層ガラス、112…堰部材、112A、112B、112C、112D…内壁、114A、114B、114C、114D…外壁、115…堰部材、115A…内壁、116…包囲スペース、120…辺部コネクタ、122…本体部、124、126…嵌合部、130…複層ガラス、132…第2の枠体、134…縦框材、136…横框材、138…コーナーキー、140…堰部材、142…ガラス板、150…複層ガラス、152、154…切欠部、156…堰部材、158…コーナーキー、160…孔部、170…複層ガラス、180…袋体、182…接続管、184…主管、186…枝管(第1枝管)、188…枝管(第2枝管)、190…複層ガラス、200…袋体、201…袋体、202…接続管、204…主管、206…枝管(第1枝管)、208…枝管(第2枝管)
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