(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】コンクリート床版の補修方法
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20221202BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20221202BHJP
E01D 2/00 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D1/00 D
E01D2/00
(21)【出願番号】P 2019110194
(22)【出願日】2019-06-13
【審査請求日】2022-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【氏名又は名称】宮川 清
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】藤原 保久
(72)【発明者】
【氏名】西村 一博
(72)【発明者】
【氏名】安藤 直文
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏一朗
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076654(JP,A)
【文献】特開平07-268808(JP,A)
【文献】特公昭38-16379(JP,B1)
【文献】特開2016-194223(JP,A)
【文献】特開平10-058427(JP,A)
【文献】特開昭58-189435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 1/00
E01D 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁の上に形成されたコンクリート床版の補修方法であって、
前記橋桁の軸線方向に隣接する両側部分を残存させ、コンクリート床版の損傷が生じた部分を撤去する工程と、
コンクリート床版を撤去した部分の橋桁上に、両側の残存させる部分の少なくとも一方との間に空隙を設け、前記橋桁の軸線方向に該橋桁との相対的な変位を許容する状態で新たなコンクリート版を設置する工程と、
新たなコンクリート版に、橋桁の軸線方向に配置した緊張材の緊張力によってプレストレスを導入する工程と、
新たなコンクリート版とコンクリート床版の残存させる部分との間の空隙にコンクリート又はモルタルを充填する工程と、
前記コンクリート又はモルタルの硬化後、新たなコンクリート版にプレストレスを導入した緊張材の全部又は一部の緊張力を解放する工程と、を含むことを特徴とするコンクリート床版の補修方法。
【請求項2】
前記コンクリート床版は、コンクリートからなる複数のプレキャスト版を前記橋桁の軸線方向に配列したものであり、
前記新たなコンクリート版を設置する工程は、複数のプレキャスト版を配列し、連結するものであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床版の補修方法。
【請求項3】
前記緊張材の緊張力を解放する工程は、該緊張材を切断するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート床版の補修方法。
【請求項4】
前記緊張材の緊張又は定着は、前記新たなコンクリート版に設けられた切り欠き内で行い、
前記緊張材の切断は、該緊張材の中間部が露出するように設けられた穴内で、前記切り欠き内に充填したコンクリート又はモルタルが硬化した後に行うことを特徴とする請求項3に記載のコンクリート床版の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋桁の上に形成され、該橋桁の軸線方向にプレストレスが導入されているコンクリート床版の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼からなるプレートガーダーやトラス又はプレストレストコンクリートからなる橋桁の上に形成されたコンクリート床版であって、橋桁の軸線方向に緊張材を配置し、プレストレスを導入したものが多く採用されている。このようなコンクリート床版には、橋桁の上でコンクリートを打設して形成されるもの、橋桁の軸線方向に複数のプレキャスト版を配列し、プレストレスを導入してプレキャスト版が強固に一体となるように連結されたもの等がある。
【0003】
このように形成されたコンクリート床版は、経年劣化等によって損傷が生じることがある。損傷が生じたコンクリート床版は、補修によって機能を回復することが必要となり、損傷した部分を撤去し、新たなコンクリート版を形成して補修することが行われている。このようにコンクリート床版の一部を撤去し、残存させる部分のプレストレスを維持した状態で新たなコンクリート版を形成する方法が特許文献1に記載されている。
この方法では、補修前に配置されている緊張材に中間定着具を装着し、残存させる部分のプレストレスを維持したまま、損傷部分を撤去する。そして、撤去した後に新たなコンクリート版を形成し、新たに配置した緊張材を残存させる部分の緊張材に接続して、新たなコンクリート版にプレストレスを導入するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、次のような解決が望まれる課題がある。
両側に残存させたコンクリート床版と連続するように新たなコンクリート版を形成し、プレストレスを導入しようとすると、充分なプレストレスが導入されない場合がある。
コンクリート床版は一般に橋桁に固定されている。このため、残存させた部分に配置されている緊張材と接続した緊張材又は残存させる部分に定着された緊張材を緊張して新たなコンクリート版にプレストレスを導入しようとすると、両側にあるコンクリート床版の残存させた部分の変位が橋桁によって拘束され、新たなコンクリート版に圧縮応力度が生じ難くなる。特に橋桁の剛性が大きいときに新たに形成されたコンクリート版にはプレストレスが導入され難い。
【0006】
一方、新たに形成したコンクリート版が橋桁に拘束されない状態で、両端を新たなコンクリート版に定着する緊張材でプレストレスを導入すると、充分なプレストレスを導入することができる。しかし、新たなコンクリート版とコンクリート床版の残存させた部分との境界部にはプレストレスが導入されないことになる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンクリート床版の一部を撤去し、両側に残存させた部分と連続するように形成した新たなコンクリート版に、有効にプレストレスを導入することができるコンクリート床版の補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 橋桁の上に形成されたコンクリート床版の補修方法であって、前記橋桁の軸線方向に隣接する両側部分を残存させ、コンクリート床版の損傷が生じた部分を撤去する工程と、 コンクリート床版を撤去した部分の橋桁上に、両側の残存させる部分の少なくとも一方との間に空隙を設け、前記橋桁の軸線方向に該橋桁との相対的な変位を許容する状態で新たなコンクリート版を設置する工程と、 新たなコンクリート版に、橋桁の軸線方向に配置した緊張材の緊張力によってプレストレスを導入する工程と、 新たなコンクリート版とコンクリート床版の残存させる部分との間の空隙にコンクリート又はモルタルを充填する工程と、 前記コンクリート又はモルタルの硬化後、新たなコンクリート版にプレストレスを導入した緊張材の全部又は一部の緊張力を解放する工程と、を含むコンクリート床版の補修方法を提供する。
【0009】
新たなコンクリート版は、緊張材に緊張力を導入するときには橋桁の軸線方向への変位が許容されているのでプレストレスは有効に導入される。そして、コンクリート床版の残存させる部分と新たなコンクリート版との間をコンクリート又はモルタルで充填した後に緊張材の緊張力を解放すると、緊張力によって圧縮ひずみが生じていたコンクリート版は伸びを生じようと作用する。しかし、新たなコンクリート版の両端が残存させる部分によって伸びが拘束される。このため、緊張材の緊張力を解放してもプレストレスの一部が残留するとともに、新たに設置したコンクリート版の残存させた部分との境界部にまで圧縮力すなわちプレストレスが導入されることになる。したがって、残存させる部分から新たにコンクリート版を形成した部分にわたってプレストレスが導入された状態にコンクリート床版を補修することが可能となる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のコンクリート床版の補修方法において、 前記コンクリート床版は、コンクリートからなる複数のプレキャスト版を前記橋桁の軸線方向に配列したものであり、 前記新たなコンクリート版を設置する工程は、複数のプレキャスト版を配列し、連結するものとする。
【0011】
この補修方法では、コンクリート床版の損傷が生じた部分を撤去した後に、プレキャスト版を配列して迅速に新たなコンクリート版を形成することができる。したがって、補修の工期を短縮することができる。また、コンクリート床版の残存させる部分と補修によって形成した新たなコンクリート版とが同様の構造を有するものであり、損傷が生じる前に近い状態に補修される。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のコンクリート床版の補修方法において、 前記緊張材の緊張力を解放する工程は、該緊張材を切断するものとする。
【0013】
この補修方法では、緊張材の緊張力を簡単にかつ迅速に解放することができる。一般に緊張力の解放は定着部において行うことができるが、緊張力による負荷が作用している状態では定着具を取り外すことができない。このため、ジャッキ等を用いて緊張材を再緊張し、定着具の負荷を解消した状態で取り外すことになるが、このような作業を行うことなく、効率の良い作業が可能となる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のコンクリート床版の補修方法において、 前記緊張材の緊張又は定着は、前記新たなコンクリート版に設けられた切り欠き内で行い、 前記緊張材の切断は、該緊張材の中間部が露出するように設けられた穴内で、前記切り欠き内に充填したコンクリート又はモルタルが硬化した後に行うものとする。
【0015】
この補修方法では、緊張材の緊張又は定着を新たなコンクリート版に設けられた切り欠き部内で行うことにより、コンクリート床版の下側に突出する定着用ブロックを設けることが不要となる。そして、緊張力が導入された緊張材を切断するときには、緊張材のひずみエネルギーが一気に解放されるが、定着部がコンクリート又はモルタルで埋め込まれた状態となっていることにより、安全に確実な緊張力の解放が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明のコンクリート床版の補修方法では、一部を撤去して両側に残存させた部分と連続するように新たなコンクリート版を形成し、有効にプレストレスを導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の補修方法を適用することができるコンクリート床版の一例を示す概略斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態であるコンクリート床版の補修方法を示す概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態であるコンクリート床版の補修方法の工程を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態であるコンクリート床版の補修方法の工程を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態であるコンクリート床版の補修方法の工程を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態であるコンクリート床版の補修方法の工程を示す概略断面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態であるコンクリート床版の補修方法の工程を示す概略断面図である。
【
図8】本発明の他の実施形態であるコンクリート床版の補修方法の工程を示す概略断面図である。
【
図9】補修のために形成された新たなコンクリート版にプレストレスを導入する方法であって、本発明のコンクリート床版の補修方法と合わせて採用することができる方法を示す概略断面図である。
【
図10】本発明のコンクリート床版の補修方法で用いることができる中間定着具の一例を示す側面図及び正面図である。
【
図11】コンクリート床版の残存させる部分のプレストレスを維持する方法であって、本発明のコンクリート床版の補修方法で採用することができる方法の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の補修方法を適用することができるコンクリート床版の一例を示す概略斜視図である。
このコンクリート床版11は道路橋に用いられたものであり、複数の鋼桁4を組み合わせた橋桁1上にプレキャスト版10を配列し、これらを連結するとともに橋桁1に固定しものである。そして、それぞれのプレキャスト版10には橋桁1の軸線方向に複数のダクト12が設けられており、これらに挿通した緊張材を緊張及び定着することによってコンクリート床版11には橋桁1の軸線方向のプレストレスが導入されている。
【0019】
上記橋桁1は、複数の鋼桁4を平行に架け渡し、これらを横桁5で連結したものであり、それぞれの鋼桁4は、上フランジ6と下フランジ7とこれらを上下に連結するウェブ8とを有するものである。上フランジ6の上面にはプレキャスト版10を固定するためのずれ止め部材9が設けられている。
【0020】
プレキャスト版10は、あらかじめ工場又は製作ヤード等においてコンクリートを打設し、形成されたものであり、橋桁1の軸線方向に所定の寸法となっている。また、橋桁の軸線と直角方向には道路の幅と対応した寸法となっている。これらのプレキャスト版10には、橋桁上でコンクリート床版11とされたときに作用する輪荷重等に耐え得るように鉄筋が配置されている。また、橋桁1の軸線と直角方向にプレストレスが導入されたものであってもよく、プレストレスはプレテンション方式又はポストテンション方式のいずれによって導入されたものであってもよい。
【0021】
これらのプレキャスト版10が橋桁上で該橋桁の軸線方向に配列され、連結されるとともにずれ止め部材9で鋼桁4に固定されている。隣り合うプレキャスト版は合成樹脂系の接着剤等によって結合されるものであってもよいし、10mm~40mm程度の隙間をおいてプレキャスト版を配列し、これらの間に無収縮モルタルを充填して結合されるものであってもよい。
【0022】
図2は、本発明の一実施形態であるコンクリート床版の補修方法を示す概略図である。
この補修方法は、
図2(a)に示すように、コンクリート床版11の損傷が生じた部分Aを含むプレキャスト版10aを撤去し、
図2(b)に示すように新たなプレキャスト版20に取り替えることによって修復するものである。このコンクリート床版11は橋桁の軸線方向にプレストレスが導入されており、橋桁の軸線方向における撤去する部分の両側で隣接する部分は残存させ、残存させる部分のプレストレスは維持する。
【0023】
既存のコンクリート床版にプレストレスを導入する緊張材13は、
図2(a)に示すように複数のプレキャスト版にわたって連続するように配置されている。そして、緊張力を導入して定着具14により定着された端部Bには接続具15を介して他の緊張材13aが接続されている。他の緊張材13aは、隣接する位置に配置されたプレキャスト版10bにプレストレスを導入するものである。
本実施の形態で、損傷が生じて取り替えるプレキャスト版は緊張材13の定着された端部B及び緊張材13が他の緊張材13bと接続具15を介して接続された端部Cから離れた領域にあるものとする。
なお、取り替えるプレキャスト版10aは1つであってもよいが、本発明の補修方法は複数のプレキャスト版を取り替える補修に適用するのが望ましい。
【0024】
図2に示すコンクリート床版11の補修方法は、次のような工程で行うことができる。
図3(a)に示すように、取り替えるプレキャスト版10aが配列された領域の両端部で、残存させる部分11a,11bとの境界部におけるプレキャスト版10aの一部をはつり、緊張材13を露出させる。そして、緊張材13に中間定着具16を装着する。この中間定着具16は後述するように、緊張材13の緊張力がコンクリート床版の残存させる部分11a,11bに伝達されるように残存させる部分11a,11bとの間にモルタル17が充填されるものである。
【0025】
中間定着具16は、例えば
図10に示すものを用いることができる。
この中間定着具16は、2つの鋼ブロック31a,31bと、これらを結合する複数のボルト32と、緊張材に装着されるくさび33とを有するものである。鋼ブロック31a,31bには、それぞれ溝状の凹部が形成されており、二つの鋼ブロック31a,31bを密接し、ボルト32で結合したときに双方の凹部が貫通孔を形成するようになっている。形成された貫通孔は、一方の端部で開口に向かって径が拡大するものであり、この拡径部にくさび33を装着することができるものである。このような鋼ブロック31a,31bは、プレキャスト版10aをはつることによって、緊張力が導入されたままの状態で露出された緊張材13の両側から凹部に該緊張材が収容されるように当接して、ボルトによって結合する。そして、鋼プレート34とモルタル17によってコンクリート床版の残存させる部分11aに緊張力の伝達が可能に固着することができる。くさび33は、2つの鋼ブロック31a,31bで形成された貫通孔の拡径部で、貫通孔の内周面と緊張材13との間に押し入れることにより、緊張材13を定着することが可能な状態となる。
【0026】
中間定着具16が装着された状態で、
図3(b)に示すように取り替えるプレキャスト版10aを撤去するとともに、この部分の緊張材13を切断する。切断することによって緊張材13の緊張力は、プレキャスト版10aを撤去した領域の両側でコンクリート床版の残存させる部分11a,11bにそれぞれ定着され、コンクリート床版の残存させる部分のプレストレスは維持される。
なお、このように既設の緊張材13に中間定着具16を装着し、コンクリート床版11の残存する部分への定着、切断する作業は、鋼桁4の軸線方向に配置された全ての既設の緊張材13について行う。
【0027】
損傷が生じたプレキャスト版10aを撤去した後には、
図4に示すように新たに製作したプレキャスト版20を配置する。これらのプレキャスト版20の間にはモルタル等を充填して連続するものとし、コンクリート床版の残存させた部分11a,11bとの間には、隙間23を設けておく。また、これらのプレキャスト版20には、残存させる部分11a,11bと隣接する位置に切り欠き24を設けるとともに、新たなプレキャスト版20の全てを橋桁の軸線方向に貫通する複数のダクトを設けておき、これらのダクトが上記切り欠き24内で開口するものとする。これらのダクトに新たな緊張材22を挿通し、
図4中の矢印aで示すように緊張力を導入して両端部を切り欠き24内で新たなプレキャスト版20に定着する。このように新たな緊張材22によって
図4中の矢印bで示すように圧縮力が作用するとともに複数の新たなプレキャスト版20が連結され、新たなコンクリート版21を形成することができる。
なお、このときプレキャスト版20は橋桁1に固定せずに橋桁1の軸線方向の変位が拘束されない状態、つまり橋桁1とプレキャスト版20との相対的な変位が拘束されない状態としておく。
【0028】
新たなコンクリート版21にプレストレスが導入された後、
図5(a)に示すようにコンクリート床版の残存させた部分11a,11bと新たなコンクリート版21との境界部で、双方間の隙間23にモルタルを充填し、双方が連続するものとする。また、新たな緊張材22が定着された切り欠き24内にも、モルタル又はコンクリート26を充填し、上面を残存するコンクリート床版と連続する平坦な面に仕上げる。そして、モルタル又はコンクリートが硬化した後、コンクリート版21に配置されている新たな緊張材22の緊張力を解放する。
【0029】
緊張力の解放は、
図5(b)に示すように、新たな緊張材22の中間部分で該緊張材が露出するように設けられた穴25内で、新たな緊張材22を切断することによって行うことができる。
新たなコンクリート版21に定着された緊張材22の緊張力により、コンクリート版21には圧縮ひずみが生じており、新たな緊張材22の緊張力を解放することによって、
図5(b)中に矢印cで示すようにコンクリート床版の圧縮ひずみを解消するように挙動する。しかし、新たなコンクリート版21の両端がコンクリート床版の残存させた部分11a,11bによって拘束される。これにより、新たなコンクリート版21に導入された圧縮力の一部が残留するともに、新たなコンクリート版と残存させた部分11a,11bとの境界にプレストレスが導入される。
その後、新たなコンクリート版21は鋼桁4に取り付けたスタッドジベル等によって橋桁1に固定する。
なお、緊張力の解放は新たな緊張材22の全てについて行うものであってもよいし、新たな緊張材22の一部については緊張力を解放することなくそのまま残存させるものであってもよい。
【0030】
図6は、本発明の他の実施形態であるコンクリート床版の補修方法を示す概略断面図である。
この補修方法でも、損傷が生じたプレキャスト版10aの撤去は
図3から
図5までに示す実施の形態と同様に行うことができる。一方、この実施の形態では、
図6に示すように新たなプレキャスト版40には、配列される領域の両端部に緊張材の定着用ブロック43が設けられている。これらの定着用ブロック43はプレキャスト版の下面から下方に突き出したものであり、新たに設置されたプレキャスト版40の全てに及ぶように設けられたダクトの両端が、これらの定着用ブロック43で開口している。したがって、
図6(a)に示すように新たに設置するプレキャスト版40の全てを配列したのち、定着用ブロック43で開口したダクト内に新たな緊張材42を挿入することができる。そして、プレキャスト版の下側での作業により緊張力を導入して両端を定着用ブロック43に定着することができる。
【0031】
新たなプレキャスト版40にプレストレスを導入してこれらが一体となった新たなコンクリート版41とした後、コンクリート床版の残存させた部分11a,11bと新たなコンクリート版41との間隙にモルタル44を充填し、硬化してこれらが連続するものとした後、新たな緊張材42の緊張力を解放する。緊張力の解放は定着用ブロック43に定着された緊張材42の端部を、ジャッキ等を用いて再緊張し、定着具45の負荷を解消した状態で定着具45を取り外すことによって行うことができる。
この補修方法では、補修したコンクリート床版の上面に現れる切り欠きを低減して、補修後のコンクリート床版の仕上がりを良好なものにすることができるとともに、緊張力を解放した緊張材42を撤去することができる。
【0032】
図7は、本発明の他の実施形態であるコンクリート床版の補修方法であって、新たに形成されたコンクリート版51に配置する緊張材52を既存の緊張材13に接続して用いる例を示すものである。
この方法では、損傷が生じたプレキャスト版を撤去した後、新たなプレキャスト版50を配列し、モルタルの充填によって新たなプレキャスト版50が連続するコンクリート版51を形成する。このコンクリート版51には、新たな緊張材を定着するための定着用ブロック55が設けられている。そして、新たなプレキャスト版の全てに及ぶダクトがこの定着用ブロック55で開口している。新たな緊張材52は、
図7(a)中の矢印dで示すようにダクト内に挿入し、一端をコンクリート床版の残存させた部分11bに配置されている既存の緊張材13と接続具53を介して接続する。既存の緊張材13は、残存させた部分11bに中間定着具16を介して定着されているものである。既存の緊張材13に接続された新たな緊張材52の他端は定着用ブロック55に設けられたダクトの開口から突き出している。
【0033】
新たな緊張材52が接続された既存の緊張材13が配置されている残存部分11bと新たに形成されたコンクリート版51との間は、
図7(b)に示すようにモルタル又はコンクリート54の充填によって連続するものとする。そして、モルタル又はコンクリート54が硬化した後、定着用ブロック55から突き出している新たな緊張材52に緊張力を導入し、定着用ブロック55に定着する。このとき、新たなプレキャスト版50によって形成されたコンクリート版51は橋桁1に固定されておらず、橋桁に拘束されることなく新たな緊張材52の緊張力によって圧縮変形が生じる。
【0034】
このように新たな緊張材52に緊張力を導入することにより、新たなコンクリート版51にプレストレスが導入されるとともに、コンクリート床版の残存させた部分11bとの境界までプレストレスが導入される。
【0035】
新たな緊張材52に緊張力を導入した後、
図8(a)に示すようにコンクリート床版の残存させた部分の他方11aと新たなコンクリート版51との間にモルタル又はコンクリート56を充填する。充填したモルタル又はコンクリート56が硬化することにより、新たなコンクリート版51とコンクリート床版の残存させた部分11aとが連続するものとなり、その後に新たな緊張材52の緊張力を解放する。緊張力の解放により新たなコンクリート版51は、緊張力によって生じていた圧縮ひずみを解消しようと挙動するが、コンクリート床版の残存させた部分11a,11bに拘束され、プレストレスの一部が残留するとともに、新たな緊張材52の緊張後に連続するものとなった残存部分11aとの境界までプレストレスが導入される。その後、新たなプレキャスト版50で形成されたコンクリート版51を橋桁1に固定する。
【0036】
なお、
図7及び
図8(a)に示す実施の形態では、新たな緊張材52は新たなプレキャスト版50の一つに予め設けた定着用ブロック55に定着するものであるが、
図8(b)に示すように新たなプレキャスト版50に切り欠き57を設けておき、これらの切り欠き57内で新たな緊張材58の緊張及び定着を行うこともできる。このように緊張及び定着を行うときには、
図3aから
図5までに示す実施の形態と同様に、新たな緊張材58に緊張力を導入した後、定着部分を埋め込むようにコンクリートを充填する。そして、充填したコンクリートが硬化した後に緊張材58を、予め設けた穴59内で切断することによって緊張力を解放することができる。
【0037】
本発明の補修方法は、以上に説明した方法で新たなコンクリート版にプレストレスを導入するのに加えて、
図9に示すような方法でプレストレスを導入することができる。
この方法では、損傷した部分のプレキャスト版10aを撤去した後に配列する新たなプレキャスト版60の2ヶ所に定着用ブロック63a,63bを設けておく。そして、
図9(a)に示すように、これらの定着用ブロック63a,63bに開口するダクト内にそれぞれ新たな緊張材62a,62bを挿入し、先端を既存の緊張材13に接続具64a,64bを介して接続する。
【0038】
新たなプレキャスト版60を連結して形成されたコンクリート版61と両側で隣接する残存する部分11a,11bとの間には、
図9(b)に示すようにモルタル又はコンクリート65を充填する。そして、モルタル又はコンクリート65が硬化して連続するものとした後に、新たな緊張材62a,62bに緊張力を導入し、新たなコンクリート版61にプレストレスを導入する。
このような方法を本発明の補修方法で採用する方法と併用することによって新たなコンクリート版61に充分なプレストレスを導入することができる。
【0039】
以上に説明した実施の形態では、コンクリート床版の残存させる部分に配置されている緊張材13は、
図10に示すような中間定着具16を用いて定着するものであるが、損傷が生じて撤去する部分が、既存の緊張材13の定着及び接続がなされている位置に隣接するときには、上記中間定着具16を設けるのに代えて、既存の定着具又は接続具を利用することができる。
例えば、
図11(a)に示すようにプレキャスト版10の端部で既存の緊張材13cが定着具14によって定着され、接続具15によって他の既存の緊張材13dと接続されているときに、定着具14又は接続具15によってコンクリート床版の残存させる部分のプレストレスを維持することができる。
【0040】
図11(b)に示すように、既存の緊張材13cが定着具14によって定着されている部分11bを残存させ、これに隣接するプレキャスト版10cを撤去して取り替えるときには、定着具14及び接続具15が設けられている部分のコンクリート床版をはつり、これらを露出させる。そして、
図11(b)に示すように定着具14を維持したまま撤去する側の緊張材13dを接続具15とともに取り外す。
また、
図11(c)に示すように、接続具15で接続された緊張材13dが配置されている部分11aを残存させ、これに隣接するプレキャスト版10dを撤去するときには、接続具15に支圧板18を当接させるとともに支圧板18と残存させる部分11aのプレキャスト版との間にモルタル19又はコンクリートを充填し、緊張材の緊張力が残存させる部分11aに定着される状態とする。その後に撤去する部分に配置された緊張材13cを切断し、接続具15から取り外すことによってコンクリート床版の残存させる部分11aのプレストレスを維持することができる。
【0041】
以上に説明した実施の形態では、補修するコンクリート床版がプレキャスト版を配列して形成されたものとなっているが、これに限らず場所打ちコンクリートで形成されたコンクリート床版についても、同様に補修することができる。また、プレキャスト版を配列して形成されたコンクリート床版も、損傷が生じたプレキャスト版を撤去した後に、場所打ちコンクリートを打設して補修するものであってもよい。このときには、損傷が生じたプレキャスト版を撤去した後、新たな緊張材を挿通することができるシースを配置しておき、これを埋め込むようにコンクリートを打設する。新たな緊張材は、コンクリートの打設前又は打設後にシース内に挿入し、コンクリートが硬化した後に緊張力を導入することができる。
また、その他の事項に関しても、本発明は実施の形態として以上に説明した内容に限られるものではなく、本発明の範囲内で適宜に変更して実施することができるものである。
【符号の説明】
【0042】
1:橋桁, 4:鋼桁, 5:横桁, 6:上フランジ, 7:下フランジ, 8:ウェブ, 9:ずれ止め部材,
10:プレキャスト版, 11:コンクリート床版, 11a,11b:コンクリート床版の残存させる部分, 12:ダクト, 13:緊張材, 14:定着具, 15:接続具, 16:中間定着具, 17:モルタル, 18:支圧版, 19:モルタル,
20:新たなプレキャスト版, 21:新たに形成されるコンクリート版, 22:新たな緊張材, 23:隙間, 24:切り欠き, 25:新たなコンクリート版に設けられた穴, 26:コンクリート,
31a,31b:鋼ブロック, 32:ボルト, 33:くさび, 34:鋼プレート,
40:新たなプレキャスト版, 41:新たに形成されるコンクリート版, 42:新たな緊張材, 43:定着用ブロック, 44:モルタル, 45:定着具,
50:新たなプレキャスト版, 51:新たに形成されるコンクリート版, 52:新たな緊張材, 53:接続具, 54:コンクリート, 55:定着用ブロック, 56:コンクリート, 57:切り欠き, 58:新たな緊張材, 59:緊張材を切断するための穴,
60:新たなプレキャスト版, 61:新たに形成されるコンクリート版, 62a,62b:新たな緊張材, 63a,63b:定着用ブロック, 64a,64b:接続具, 65:コンクリート