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特許7186722耐プラズマ性を有する樹脂組成物、及び、それを用いた静電チャック装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】耐プラズマ性を有する樹脂組成物、及び、それを用いた静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20221202BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221202BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20221202BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/22
C08K7/00
C09K3/10 G
C09K3/10 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019557196
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2018043187
(87)【国際公開番号】W WO2019107271
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2017228690
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】奥村 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】津田 統
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇気
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-025140(JP,A)
【文献】特開平02-027748(JP,A)
【文献】特表2013-513697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C09J 1/00-201/10
C09K 3/00- 3/32
H01L 21/00- 21/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂からなるマトリクス樹脂と、
前記マトリクス樹脂に分散させたハイドロタルサイト群からなるイオン交換性を有する層状無機化合物のフィラーとを含み、
前記層状無機化合物の配合が、前記マトリクス樹脂の体積と前記層状無機化合物の体積の和に対して、1~90体積%である樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物が、プラズマエッチング装置に設けられる静電チャック装置に用いられる接着剤露出部の表面を覆い、前記接着剤表面をプラズマから隔離する保護材として使用されることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記層状無機化合物が、下式(1)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物。
{A1-x(OH)}(Dx/n)・mHO (1)
なお式中、Aは2価の金属イオン、Bは3価の金属イオン,Dはn価のアニオン、xは0を超え、0.4以下の範囲、また、mは0より大きい実数である。
【請求項3】
前記層状無機化合物が、下式(2)及び(3)で表される層状無機化合物であることを特徴とする、請求項2に記載の樹脂組成物。
{Mg1-xAl(OH)}(COx/2・mHO (2)
1.5<(1-x)/x<4 (3)
【請求項4】
前記層状無機化合物が、MgAl(OH)16CO・4HOで表されるハイドロタルサイトであることを特徴とする、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
シリコーン樹脂からなるマトリクス樹脂と、前記マトリクス樹脂に分散させたハイドロタルサイト群からなるイオン交換性を有する層状無機化合物のフィラーとを含み、
前記層状無機化合物の配合が、前記マトリクス樹脂の体積と前記層状無機化合物の体積の和に対して、1~90体積%である樹脂組成物を含むことを特徴とする、静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐プラズマ性を有する樹脂組成物、及び、それを用いた静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置は、高周波電源などにより、所定のガスをプラズマ化し、ラジカル、イオン、電子といった反応活性の高い反応性化学種を発生させる。プラズマ処理装置は、それら反応性化学種の物理的な衝撃力や化学的な反応性を利用し、例えば、半導体、液晶パネル、太陽電池、LED等の製造工程において、CVD(ケミカルベーパーデポジション)装置、スパッタリング装置、プラズマエッチング装置、プラズマアッシング装置等として用いられている。また、これらに限らず、表面改質、ドライクリーニングなど一般産業においても幅広い用途がある。
プラズマ処理装置は、金属や石英などを主材として構成されるが、一部に樹脂部材が用いられる。例えば、減圧プラズマにおける真空系統(ガス供給部、プラズマソース、プラズマ処理室、排気配管等)のシール材としてパッキンやO-リングが用いられている。プラズマソース部、プラズマ処理室、排気配管に使用されている前記樹脂部材は、反応性の高い反応性化学種に、直接又は間接的に曝され、分解されたり、変質することで劣化する。このため真空度の低下、パーティクルやコンタミネーションが発生し、定期的な交換が必要とされ、その際の生産停止による、高コスト化や生産性の低下を招くことが問題となっている。
特に、静電チャック装置は、プラズマ処理室内に設置され、直接反応性化学種に曝されるため、樹脂部材の劣化が顕著である。従来、静電チャック装置のチャッキング部(ウエハ設置部)は、ポリイミド樹脂で構成されていたが、前記劣化のため、セラミックスに変更されている。セラミックスが用いられた静電チャック装置(図1)は、アルミニウム部材とセラミックス部材を組み合せて用いられるが、それらの接合は接着剤を用いて行われる。例えば、エッチング装置の場合には、プロセス条件によって、ウエハを、静電チャック装置を介して加熱・冷却する。このため、前記アルミニウム部材とセラミックス部材は、それらの熱膨張係数の違いによる歪(ずれ)が生じ、破損に至るおそれがある。前記接着剤は、この前記熱膨張係数の違いによる歪を吸収するためにも用いられている。しかしながら、接着剤は前記プラズマによる劣化の問題があり、メンテンナンス頻度が多くなり、コスト上昇と生産効率の低下が問題となっている。
【0003】
耐プラズマ性を向上させた成形部材の樹脂組成物としては、特許文献1において、プラズマ耐性の高い含フッ素エラストマー組成物に、エラストマーの補強、増量、加工性の改善等の目的で種々の充填剤が使用される発明が開示されている。また、特許文献2には、フッ素ゴム組成物と、球状複合硬化メラミン樹脂粒子とを組み合せることで、耐圧縮永久歪特性や耐プラズマ性がすぐれた加硫物得られるので、半導体製造装置用シール材の加硫成形材料として有効に用いることができる発明が開示されている。
耐プラズマ性を向上させた接着剤の樹脂組成物としては、特許文献3に、アクリルゴムと熱硬化性樹脂を含む接着シートが、耐プラズマ性が高いことが開示されている。
さらに静電チャックに用いられる接着剤の劣化を防止する方法として、接着剤表面を、耐プラズマ性の高い材料で覆い、接着剤をプラズマに曝さない構造とする提案がなされている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-057057号公報
【文献】特開2014-118510号公報
【文献】特開2009-071023号公報
【文献】特開2017-041631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3に開示されている発明は、マトリクス樹脂、又は、特定のマトリクス樹脂と特定の充填剤の組み合わせが、高い耐プラズマ性を発揮することに特徴があり、その効果は、特定の樹脂、又は特定の樹脂と特定の充填剤の組み合わせに限定されるため、応用や用途が限定されるものであった。また、耐プラズマ性能も十分なものではなかった。
特許文献4に開示されている静電チャック装置の接着剤の劣化を防止するための保護材(エッジシール)は、単にエラストマーが用いられることが開示されており、耐プラズマ性の高い材質を用いたとしても、交換頻度が高くなるおそれがあり、改善の余地があった。
そこで、本発明は、マトリクス樹脂によらず、樹脂本来の持つ耐プラズマ性を著しく向上させた樹脂組成物、及び、それを用いた静電チャック装置を提供することにより、交換頻度を削減し、コスト低減と生産効率を向上させる。また、前記樹脂組成物は成形部材や接着剤とすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題について、本発明者らが鋭意検討を行っていたところ、イオン交換性を有する層状無機化合物のフィラーを樹脂に分散させたところ、高い耐プラズマ性を発揮することが可能であることを発見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、
本発明(1)は、
シリコーン樹脂からなるマトリクス樹脂と、
前記マトリクス樹脂に分散させたハイドロタルサイト群からなるイオン交換性を有する層状無機化合物のフィラーとを含み、
前記層状無機化合物の配合が、前記マトリクス樹脂の体積と前記層状無機化合物の体積の和に対して、1~90体積%である樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物が、プラズマエッチング装置に設けられる静電チャック装置に用いられる接着剤露出部の表面を覆い、前記接着剤表面をプラズマから隔離する保護材として使用されることを特徴とする、
樹脂組成物である。
本発明(2)は、
前記層状無機化合物が、下式(1)で表されることを特徴とする、前記発明(1)の樹脂組成物である。
{A 1-x (OH) }(D x/n )・mH O (1)
なお式中、Aは2価の金属イオン、Bは3価の金属イオン,Dはn価のアニオン、xは0を超え、0.4以下の範囲、また、mは0より大きい実数である。
本発明(3)は、
前記層状無機化合物が、下式(2)及び(3)で表される層状無機化合物であることを特徴とする、前記発明(2)の樹脂組成物である。
{Mg 1-x Al (OH) }(CO x/2 ・mH O (2)
1.5<(1-x)/x<4 (3)
本発明(4)は、
前記層状無機化合物が、Mg Al (OH) 16 CO ・4H Oで表されるハイドロタルサイトであることを特徴とする、前記発明(3)の樹脂組成物である
本発明(5)は、
シリコーン樹脂からなるマトリクス樹脂と、前記マトリクス樹脂に分散させたハイドロタルサイト群からなるイオン交換性を有する層状無機化合物のフィラーとを含み、
前記層状無機化合物の配合が、前記マトリクス樹脂の体積と前記層状無機化合物の体積の和に対して、1~90体積%である樹脂組成物を含むことを特徴とする、静電チャック装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マトリクス樹脂の種類によらず、耐プラズマ性を著しく向上させた樹脂組成物を提供することが可能である。得られた前記樹脂組成物は、接着剤や成形部材として幅広い用途に使用することが可能であり、プラズマ装置のメンテナンス費用や生産効率の向上に効果を発揮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】プラズマエッチング装置に含まれる静電チャック装置の上面図と断面図である。
図2】実施例1及び比較例1の樹脂組成物のプラズマ処理前後の走査型顕微鏡表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.プラズマに、直接、又は、間接的に曝露される環境下で用いられる樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、マトリクスである樹脂に、イオン交換性を有する層状無機化合物を分散させた樹脂組成物であり、プラズマに、直接、又は、間接的に曝露される環境下で用いられる。本発明による樹脂組成物は、耐プラズマ性に優れており、静電チャック装置の接着剤やプラズマ装置のシール材などの成形部材としての用途で用いることができる。前記接着剤は、液体状やペースト状の接着剤に限定されず、シート状やテープ状の接着剤としてもよい。また、接着剤のように、使用時には、液体又はペースト状で、加熱処理などにより硬化したものも含まれる。
また、成形部材の用途として、パッキンやO-リングなどのシール材、さらには耐プラズマ性の低い部材を覆うカバーとして用いることで、保護材として使用することもできる。
【0010】
ここで、「プラズマに、直接、又は、間接的に曝露される」とは、本発明による樹脂組成物が、プラズマに直接接する場合に限られず、プラズマから発生する電子、イオン、ラジカルと接触する場合も含む。例えば、減圧プラズマ処理装置においては、本発明による樹脂組成物が、プラズマ室のプラズマ発生部に用いられる場合に限定されず、プラズマソース部、プラズマ室部、排気配管などの内部や接続部に用いられる場合を含む。
【0011】
また、ここで「分散する」とは、前記無機化合物が、マトリクス樹脂中に、均一な状態で存在する場合に限られず、偏在していてもよい。例えば、使用する態様(形状や配置)に応じて、プラズマに曝される表面付近に多く偏在させることで、効率的に耐プラズマ性を向上させることができる。
【0012】
さらに、ここで「耐プラズマ性」とは、プラズマに対する耐久性であり、プラズマ曝露前後の質量変化や表面観察による変化によって評価される。プラズマ曝露前後の質量変化は、プラズマ曝露前後の質量を直示天秤などにより秤量することで測定できる。プラズマ前後の表面観察は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などによる観察により、クラック等の発生を観察することで評価することができる。
【0013】
1-1.樹脂組成物の組成
1-1-1.マトリクス樹脂
本発明による樹脂組成物に含まれる樹脂は、特に限定されず、前記層状無機化合物を分散させることが可能であればよい。例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、エチレン―酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメタクリレート樹脂、メラニン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ナイロン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、シアノアクリレート樹脂、水性高分子-イソシアネート樹脂、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、ニトロセルロース、レゾルシノール、エーテル系セルロース等が挙げられ、用途等により選択することができる。前記樹脂類は複数を混合して用いることができる。
接着剤として用いる場合や成形部材として用いる場合によって、好ましい性能を示す樹脂を選択できるが、耐プラズマ性の観点から樹脂自体の耐プラズマ性の高いシリコーン樹脂やフッ素樹脂が接着剤としても、成形部材としても好ましい。
【0014】
1-1-2.イオン交換性を有する層状無機化合物フィラー
本発明による樹脂組成物は、イオン交換性を有する層状無機化合物フィラーが分散されている。前記層状無機化合物フィラーは、特に限定されず、前記マトリクス樹脂に分散が可能であればよい。例えば、スメクタイト群であるモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト;バーミキュライト群であるdi.バーミキュライト、tri.バーミキュライト;雲母群である白雲母、パラゴナイト、イライト、フロゴパイト、黒雲母、紅雲母、レピドライト;脆雲母群であるマーガライト、クリントナイト;パイロフィライト群であるパイロフィライト、滑石;カオリナイト群であるカオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト;層状ペロブスカイト;ハイドロタルサイト群;のアニオン交換性を有するもの、及び、リン酸ジルコニウム;遷移金属酸素酸塩;アルカリケイ酸塩;のカチオン交換性を有するものが挙げられる。これら層状無機化合物フィラーは、複数を組み合せて使用してもよい。
また、これらのうち、耐プラズマ性を向上させるためには、アニオン交換性を有する層状無機化合物フィラーが好ましく、ハイドロタルサイトがより好ましい。
【0015】
前記ハイドロタルサイトは、下式(1)で表される層状無機化合物の一種である。下記式(1)で表される層状無機化合物は、ハイドロタルサイト様化合物とも称される。
{A1-x(OH)}(Dx/n・mHO) (1)
なお式中、Aは2価の金属イオン、Bは3価の金属イオン,Dはn価のアニオン、xは0を超え、0.4以下の範囲の実数、また、mは0より大きい実数で、脱水の程度により変わる実数である。
この層状無機化合物のうち、下式(2)及び(3)で表される化合物であることが、アニオン交換性が高いため、さらに好ましい。
{Mg1-xAl(OH)}CO3・mHO (2)
1.5<(1-x)/x<4 (3)
その中でも、MgAl(OH)16CO・4HOで表されるハイドロタルサイトが、様々なアニオンとイオン交換する能力を有しているので、特に好ましい。
【0016】
仮説ではあるが、以下に層状無機化合物の耐プラズマ性を向上させる作用機序について説明する。
プラズマ処理装置は原料ガスをプラズマ化する。即ち、プラズマ中には電子、ガス由来のラジカル、ガス由来のイオンが存在する。原料ガスを酸素ガスとした場合には、電子、酸素イオン、酸素ラジカルが発生する。樹脂部材の耐プラズマ性を向上させるためには、これら反応性化学種を、樹脂部材と反応させずに、死活させる必要がある。特にラジカルの場合には、ラジカル同士を反応させて死活させることが容易であり、電子やイオンに関しては反対電荷を有するイオンや物質と反応させて死活させることが容易である。
ここで、アニオン交換性を有する層状無機化合物フィラーの場合を考える。層状無機化合物フィラーは表面積が広いため、反応性化学種と接触する機会が多い。このため層状無機化合物フィラーと反応性化学種との間で反応が起こりやすい。即ち、層間に取り込まれた反応性化学種は、狭い空間で他の物質と衝突(反応)して死活する。例えば、(1)ラジカルの場合には、ラジカル同士が反応して死活する態様、(2)負の電荷をもつ電子は、正の電荷をもつ酸素イオンと反応し死活する態様、(3)負の電荷をもつ酸素イオンは、層間に存在するアニオンとイオン交換され死活する態様、などである。MgAl(OH)16CO・4HOで表されるハイドロタルサイトの場合には、層間に存在する炭酸イオンと負の電荷をもつ酸素イオンがイオン交換されると考えられる。
一方、カチオン交換性を有する層状無機化合物フィラーを用いた場合には、上述した(3)の態様に代わり、正の電荷をもつ酸素イオンが層間に存在するカチオンとイオン交換され死活する態様が挙げられる。
【0017】
一般に、プラズマによって発生する反応性化学種は、原料ガス(一種類以上のガスの種類や組み合わせ)、やプラズマ処理条件(ガス流量、プラズマ室圧力等)によって、その種類、濃度、電荷の価数、ラジカルの反応性等が変わるため、樹脂組成物に添加する層状無機化合物フィラーの種類や量を調整することができる。
【0018】
層状無機化合物フィラーの平均厚さは、本発明の効果を奏する限りにおいて限定されないが、0.005μm~0.1μmであることが好ましい。
ここで、平均厚さの値は、前記層状無機化合物フィラーを走査型電子顕微鏡によって、少なくとも100個のフィラーの厚さを観察測定し、その平均値から求めた値である。
【0019】
層状無機化合物フィラーの大きさは、特に限定されないが、例えば、平均板面径が0.008μm~1.0μmである。好ましくは0.02μm~0.8μmであり、より好ましくは0.02μm~0.7μmである。平均板面径がかかる範囲にあることで、層状無機化合物フィラーの樹脂中の分散性が十分であり、かつ、工業的に生産することが容易なものとなる。
ここで、平均板面径の値は、前記層状無機化合物フィラーを走査型電子顕微鏡によって、少なくとも100個のフィラーを観察測定し、その平均値から求めた値である。より詳細には「平均板面径」とは、走査型顕微鏡観察で撮像されたフィラーの板状表面の面積を算出し(例えば、公知ソフトにて)、当該面積と同一面積を有する円の直径を算出することにより導かれた面積径の平均値である。
【0020】
層状無機化合物フィラーのBET比表面積が5m/g~150m/gが好ましい。より好ましくは7m/g~125m/gであり、更により好ましくは8m/g~100m/gである。BET比表面積がかかる範囲にあることで、層状無機化合物フィラーが、十分なイオン交換能を得ることができ、粒子同士の凝集が起こりにくく、樹脂中への均一に分散することができる。
ここで、BET比表面積は、JIS Z8830:2013の「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に準拠して測定できる。
【0021】
層状無機化合物フィラーは、必要に応じ、粒子表面が高級脂肪酸、アニオン系界面活性剤、高級脂肪酸リン酸エステル、カップリング剤及び多価アルコールエステル類から選ばれる少なくとも一種の表面処理剤で被覆されても良い。表面被覆物で被覆することによって層状無機化合物フィラーの樹脂中への分散性が向上するほか、さらなる樹脂の高機能化、安定化が可能である。
【0022】
層状無機化合物フィラーの配合量は、マトリクス樹脂に対して、1体積%~90体積%であり、好ましくは、1体積%~50体積%であり、より好ましくは1体積%~35体積%である。前記層状無機化合物フィラーの配合量がかかる範囲にある場合には、接着剤として使用する際に十分な接着性を得ることができ、また、成形部材として使用する際には、十分な流動性が得られるため、成形性を高くすることができる。
【0023】
1-1-3.その他の添加剤
本発明による樹脂組成物は、用途に応じて、添加物をさらに添加することができる。例えば、架橋剤、硬化触媒、無機充填材(前記層状無機化合物を除く)、有機充填材、接着性付与成分、撥水剤、撥油剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、帯電防止剤、塗料定着剤、防シワ剤、酸化防止剤、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、溶剤等を挙げることができる。このうち無機充填材は成形体の熱膨張率を小さくするとともに成形体の弾性率を向上させる目的で添加するもので、破砕状、球状、亜球状、繊維状、燐ペン状、のものが使用でき、特に、表面平滑性を考慮して、平均粒径10μm以下の球状、亜球状の充填材が好ましい。また、耐クラック性の補強効果を狙って繊維状のものも使用できる。無機充填材は、樹脂組成物の樹脂分の体積に対して、前記層状無機化合物と無機充填材の合計が、1体積%~90体積%となる範囲で使用することができる。前記層状無機化合物と無機充填材の配合量係る範囲にある場合には、硬化物の熱膨張率が抑制され、耐熱衝撃性が十分となり、さらに、十分に樹脂組成物の流動的であるため、作業性が高く、ボイドの発生を抑制することができる。
前記樹脂組成物には、耐クラック性の向上や成形体の弾性率を下げる目的で熱性熱可塑性樹脂、ゴム成分、各種オリゴマーなどの有機充填材を添加しても良い。有機充填材は、樹脂組成物の樹脂分の体積に対して、前記層状無機化合物フィラーと有機充填材の合計が、1体積%~90体積%となる範囲で使用できる。
【0024】
1-1-4.基材及び剥離シート
本発明による樹脂組成物は、シート状やテープ状の薄膜状の接着剤とすることができる。その場合に、前記樹脂組成物は、基材上に積層することができ、さらに積層した樹脂組成物層の基材と反対側の表面に、剥離フィルムを設け、使用時までの前記樹脂組成物層の保護材とすることができる。また前記基材は、剥離フィルムを用いることもできる。
【0025】
前記基材は、特に限定されず、例えば、ポリプロピレンフィルム、フッ素樹脂系フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、紙が挙げられる。
【0026】
また剥離フィルムは、特に限定されず、ポリプロピレンフィルム、フッ素樹脂系フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、紙が挙げられる。剥離フィルムは、前記樹脂組成物層と接する表面に、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン樹脂で剥離性を付与したものを用いることができる。
【0027】
なお、基材及び剥離性フィルムの厚さは、1μm~200μmが好ましく、10μm~100μmがより好ましい。剥離フィルムは、接着シートに対する90゜ピール強度が0.01g/cm~10.0g/cmの範囲にあるものが好ましい。90゜ピール強度が上記の範囲内であると、保護フィルム付き接着シート加工時に剥離性フィルムが簡単に剥離せず、また貼り付け加工時に剥離性フィルムが接着剤層からきれいに剥がれ、作業性が良くなる。90゜ピール強度は、公知の方法により測定することができ、例えば、JIS Z0237:2009「粘着テープ・粘着シート試験方法」に準拠することができる。
接着シートの両面に剥離性フィルムが積層された状態の場合には、一方の面に積層した剥離性フィルムの剥離力と他方の面に積層した剥離性フィルムの剥離力とが異なることが好ましい。
【0028】
1-2.樹脂組成物の物性等
本発明による樹脂組成物の物性等は、特に限定されず、用途などによって決定することができる。
【0029】
1-2-1.接着剤として用いる場合の物性等
下記には、本樹脂組成物の好適例である、静電チャック装置に用いる接着剤として使用する例を説明する。なお、本物性等は、一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0030】
1-2-1-1.静電チャック装置用の接着剤の硬化前の粘度
本発明による樹脂組成物の硬化前の粘度は、例えば、100mPa・s~5000Pa・sとすることができ、1Pa・s~5000Pa・sがより好ましく、5Pa・s~5000Pa・sがさらに好ましい。樹脂組成物の硬化前の粘度がかかる範囲にある場合には、100mPa・sよりも低くなると、適度な流動性を有し、膜形成が容易である。高粘度側、即ち粘度の上限は、加圧又は、加熱により流動可能である範囲において特に限定されるものではない。
粘度の測定は、公知の方法で行うことができ、例えば、JIS K7117-1:1999「プラスチック-液状、乳濁状又は分散状の樹脂-ブルックフィールド形回転粘度計による見掛け粘度の測定方法」に準拠して測定することができる。
【0031】
1-2-1-2.静電チャック装置用の接着剤の硬化後の粘弾性特性等
本発明による樹脂組成物の硬化後接着剤の所定の温度における損失正接は、0.008~5とすることができ、0.03~3がより好ましい。損失正接が、かかる範囲にあることで、適度に弾性的かつ粘性的であり、静電チャック装置の被接着部品の材質の熱膨張の差による歪を吸収することができ、接着層の破損を防止することができるうえ、粘性流動による変形などを抑制することができる。粘性流動が生じると、加熱・冷却したのち、元の温度(例えば室内の温度)に戻した際に、元の層形状に戻らないおそれがあり、前記静電チャック装置が、精密な配線形成を行うエッチング装置などのステージとして使用する場合には、ステージの平行度がずれるなど、装置の配線加工精度が低下するおそれがある。
ここで、所定の温度とは、前記静電チャック装置が使用される温度であり、その用途やプロセス条件により決められる温度である。
損失正接の測定は、公知の方法で行うことができ、例えば、JIS K7244-4に準拠した方法で測定することができる。本測定によって測定された複素損失弾性率(G’’とする)と複素貯蔵弾性率(G’とする)の比率(G’’/G’)を損失正接とすることができる。
【0032】
本発明による樹脂組成物の硬化後の接着剤の30℃における貯蔵弾性率は、5×10Pa~5×10Paが好ましく、1×10Pa~1×10Paがより好ましい。
また、100℃における貯蔵弾性率が、1×10Pa~1×10Paが好ましく、5×10Pa~5×10Paがより好ましい。さらに、150℃における貯蔵弾性率が1×10Pa~1×10Paが好ましい。
【0033】
また、本発明による樹脂組成物の硬化後の接着剤の弾性率は、熱劣化試験やヒートサイクル試験における変化が小さいことが好ましい。例えば、前記静電チャック装置が、精密な配線形成を行うエッチング装置などのステージとして使用する場合には、ステージ部が使用の際、加熱冷却を繰り返すことになる。そのため、熱劣化試験やヒートサイクル試験後の弾性率の変化が大きいと、樹脂組成物の硬化後接着剤の歪量が安定せず、ステージの位置が安定せず、装置の配線加工精度が低下するおそれがある。
弾性率の測定は、公知の方法で測定でき、例えば、JIS K6254:2010「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-応力・ひずみ特性の求め方」に準拠して測定することができる。
熱劣化試験は、公知の方法で行うことができるが、例えば、JIS K6257:2010「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-熱老化特性の求め方」に準拠した方法で実施することができる。例えば、樹脂組成物の硬化後接着剤に対し、熱劣化条件を150℃×250hとして試験を実施した場合に、試験後の弾性率の変化が、30%~500%の範囲にあることが好ましい。
ヒートサイクル試験は、公知の方法で行うことができ、例えば、JIS K6270:2001「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張疲労特性の求め方-定ひずみ方法」に準拠した方法で実施することができる。例えば、樹脂組成物の硬化後接着剤に対し、ヒートサイクル条件を、-20℃~125℃、100サイクルとして試験を実施した場合に、試験後の弾性率の変化が50%~300%の範囲にあることが好ましい。
【0034】
1-2-1-3.静電チャック装置用の接着剤の硬化後の接着強度
本発明による樹脂組成物の硬化後の接着強度は、0.1N/mm~100N/mmとすることができ、0.5N/mm~80N/mmがより好ましく、1N/mm~50N/mmがさらに好ましい。また、150℃おける接着強度が、0.05N/mm~100N/mmとすることができ、0.1N/mm~50N/mmがより好ましい。
さらに、樹脂組成物の硬化後接着剤に対し、ヒートサイクル条件を、-20℃~125℃、100サイクルとして試験を実施した場合に、試験後の弾性率の変化が50%~300%の範囲にあることが好ましい。接着強度がかかる範囲にある場合には、静電チャック装置の加熱・冷却サイクルによる熱応力の繰返し印加による接着力の低下を防止することができる。
【0035】
1-2-2.樹脂成形部材として用いる場合の物性等
樹脂成形部材として用いる場合には、その成形方法や用途に応じて、自由に物性を決めることができる。
ここで、前記樹脂成形部材を成形する方法としては、特に限定されず、公知の成形方法を用いることができる。例えば、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、プレス成形などが挙げられる。用いるマトリクス樹脂の性質や前記樹脂成形部材の用途などを考慮して選ぶことができる。
また、上記の成形方法などによって母材を作製し、さらに切削加工等を追加して成形することができる。
下記にはマトリクス樹脂として、エラストマーを用いた場合とその他に分けて説明する。
【0036】
1-2-2-1.マトリクス樹脂をエラストマーとした場合
下記には、本樹脂組成物の好適例である、静電チャック装置に用いる樹脂成形部材においてマトリクス樹脂をエラストマーとした場合の例について説明する。ここで、本明細書におけるエラストマーとは、23℃においてゴム弾性を示す樹脂をいうこととする。例えば、ベルトやバンド状の樹脂成形部材として用いられる。なお、本物性等は、一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0037】
1-2-2-1-1.硬化前の粘度
本発明による樹脂組成物の硬化前の粘度は、粘度が低くなると、流動性が高すぎて、形状の制御が困難となる。特にシート状の形状等の場合に厚さの制御が困難となる。また粘度が高くなりすぎると流動性が不足し、成形が困難となる。
粘度の測定は、公知の方法で行うことができ、例えば、JIS K7117-1:1999「プラスチック-液状、乳濁状又は分散状の樹脂-ブルックフィールド形回転粘度計による見掛け粘度の測定方法」に準拠して測定することができる。
【0038】
1-2-2-1-2.硬化後の硬さ
本発明による樹脂組成物の硬化後の硬さは、特に限定されず、用途に応じて決定することができる。例えば、前記静電チャック装置の接着剤表面を保護する保護材として用いる場合には、前記硬化後のショアA硬さは、10~100であることが好ましく、20~90がより好ましい。ショアA硬さは、測定物の表面に圧子を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定し、数値化するデュロメーター(スプリング式ゴム硬度計)を用いて測定することができる。ショアAがかかる範囲にある場合には、適度な剛性を持ち、保護材として静電チャック装置の接着剤表面に対し、緩みなく(隙間なく)固定することが可能となる。また前記接着剤表面の形状を追従することが可能となり、その表面を隙間なく固定することが可能となる。前記接着剤表面は、保護材との間に隙間が存在すると、その隙間から上述した反応性化学種が侵入し、接着剤の保護が不完全となる。
【0039】
1-2-2-1-3.硬化後の伸び率
本発明による樹脂組成物の硬化後の伸び率は、特に限定されず、用途に応じて決定することができる。例えば、前記静電チャック装置の接着剤表面を保護する保護材として用いる場合には、前記硬化後の伸び率は、1%~1000%が好ましく、3%~500%がより好ましい。伸び率がかかる範囲にある場合には、柔軟な保護材となり、静電チャック装置の接着剤表面に固定する際の操作性が容易となり、取付けの作業効率を高くすることができる。また伸び率に関連するパラメータであるガラス転移温度(Tg)が十分に高くなり、加熱環境での使用にも耐えることができる。伸び率は、公知の方法で測定でき、例えば、JIS K-6251:2010「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準拠して、測定することができる。
【0040】
1-2-2-1-4.硬化後の引張強度
本発明による樹脂組成物の硬化後の引張強度は、特に限定されず、用途に応じて決定することができる。例えば、前記静電チャック装置の接着剤表面を保護する保護材として用いる場合には、前記硬化後の引張強度は0.1N/mm~100N/mmが好ましく、0.1N/mm~80N/mmがより好ましい。引張強度がかかる範囲にある場合には、十分な強度を有し、壊れにくい。引張強度の上限は特にないが、引張強度が高い場合、硬度や伸び率が高くなるため上述した問題が生じる。引張強度の測定は公知の方法で測定することができ、例えば、JIS K-6251:2010「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準拠して、測定することができる。
【0041】
1-2-2-2.マトリクス樹脂をエラストマー以外の樹脂(硬質樹脂)とした場合
下記には、本樹脂組成物の好適例である、静電チャック装置に用いる樹脂成形部材においてマトリクス樹脂をエラストマー以外(硬質樹脂と呼ぶ)とした場合の例を説明する。即ち、前記成形部材のマトリクス樹脂が、23℃においてガラス弾性を示す樹脂である場合、硬質樹脂の構造体の樹脂成形部材として用いられる。マトリクス樹脂をエラストマーとした場合には、作業が容易になるなどの優位な点が存在するが、構造体としては弱く、固定する相手方の複雑な構造に合わせることには限界がある。一方、硬質樹脂をマトリクス樹脂とした場合には、固定するためにねじ止めにするなどの工夫が必要となるが、固定する相手方の複雑な構造に合わせて加工でき、且つ、構造的に強いという利点がある。
また、本発明におけるマトリクス樹脂として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を用いることができる。従って、常温で、液体であっても、固体であってもよく、成形する際に成形方法に適した性質を示すものであればよい。例えば、金型に流して成形する方法においては、成形時の温度において、金型内で流れる流動性、即ち粘度を有すればよい。また、熱可塑性樹脂を用いて、混練機等により、マトリクス樹脂と層状無機化合物フィラーを配合する場合には、混練機で成型が可能な弾性と粘性、即ち粘弾性を有すればよい。
なお、本物性等は、一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0042】
1-2-2-2-1.熱硬化性樹脂の硬化前の粘度、又は、熱可塑性樹脂の溶融時の粘度
本発明による樹脂組成物のマトリクス樹脂を熱硬化性樹脂とした場合の硬化前の粘度、及び、マトリクス樹脂を熱可塑性樹脂とした場合の溶融時の粘度は、特に限定されない。樹脂成形部材の成形方法に適した粘度であればよい。
【0043】
1-2-2-2-2.樹脂成形部材の引張弾性率
本発明による樹脂組成物の硬化後の弾性率は、特に限定されず、用途に応じて決定することができる。例えば、前記静電チャック装置の接着剤表面を保護する保護材として用いる場合には、前記硬化後の引張弾性率は、0.2GPa~40GPaであることが好ましく、0.5GPa~30GPaがより好ましい。引張弾性率がかかる範囲にある場合には、ネジ等を用いて固定することが可能となり、硬くなり過ぎず、高い加工性を有することができる。
硬化後の引張弾性率の測定は、公知の方法で行うことができ、例えば、JIS K7161-1994「プラスチック-引張特性の試験方法」に準拠して測定することができる。
【0044】
1-2-2-2-3.樹脂成形部材の引張強度
本発明による樹脂組成物の硬化後の引張強度は、特に限定されず、用途に応じて決定することができる。例えば、前記静電チャック装置の接着剤表面を保護する保護材として用いる場合には、前記硬化後の引張強度は50kPa以上が好ましく、200kPa以上がより好ましい。引張強度がかかる範囲にある場合には、十分な強度を有し、壊れにくい。引張強度の上限は特にないが、引張強度が高い場合、硬くなりすぎて加工が困難になる。引張強度の測定は公知の方法で測定することができ、例えば、JIS K7161-1994「プラスチック-引張特性の試験方法」に準拠して測定することができる。
【0045】
1-3.本発明による樹脂組成物の製造方法
本発明の樹脂組成物の製造方法は、公知の方法で製造でき、例えば、マトリクス樹脂、層状無機化合物フィラー及びその他の成分を、所定の配合量に測り取り、ビーズミルにより混合して調製するなどが挙げられる。
また、前記樹脂組成物を、シート状の接着剤やテープ状の接着剤とする場合には、公知の方法を用いて、調製した樹脂組成物を基材上に薄膜化することができる。薄膜化する方法としては、例えば、アプリケーターを用いる方法などが挙げられる。
成形部材として加工する場合には、公知の方法で成形でき、例えば、金型に前記樹脂組成物を流入し、プレス機によって圧力をかけ成形する方法などが挙げられる。
【0046】
1-4.本発明による樹脂組成物の用途
本発明による樹脂組成物は、耐プラズマ性の高さから、直接又は間接的にプラズマに曝される環境下で使用される。使用の態様としては、特に限定されないが、接着剤及びシール材などの成形部材として使用することが好ましい。
【0047】
本発明による樹脂組成物が用いられるプラズマ装置としては、一般的な、減圧下(真空下)で用いられるプラズマに限られず、大気圧下で用いられる大気圧プラズマ(常圧プラズマ)も含む。プラズマ処理装置の例として、プラズマエッチング装置、プラズマアッシング装置、CVD装置、スパッタリング装置、蒸着装置、ドライクリーニング装置、表面改質装置などの、プラズマを利用した装置であれば、特に限定されない。
【0048】
本発明による樹脂組成物は、好適な用途として、静電チャック装置に用いることができる。例えば、(1)接着剤層として、導電部である金属基盤と、シリコンウエハ等を吸着する絶縁部材である吸着部と、を接合する態様、(2)成形部材として、前記接着剤層(本願発明によらない接着剤層も含む)の表面をプラズマから隔離する接着剤表面保護材が挙げられる。
【0049】
下記に図1を例として好適例である静電チャック装置について詳述する。図1は、プラズマ処理装置に用いられる静電チャック装置の上面図(図1a)と断面図(図1b)である。
静電チャック装置100は、絶縁部材であるセラミックス製の吸着部10、接着剤層20、絶縁層30、電気絶縁弾性層40、金属基盤50、導電部60、電極70を層状に積み重ねて構成することができる。さらに、接着剤をプラズマから隔離する接着剤表面保護材80及び90を備えることができる。静電チャック装置100に設けられた貫通孔は、ロボットハンドから静電チャック装置にシリコンウエハを受け渡す昇降ロッドのシリコンウエハ支持ピンを収納するためのものである。前記ウエハ受け渡しピンを上下動させることで、シリコンウエハを静電チャック装置から脱着することができ、ロボットハンドに受け渡すことができる。金属基盤50の内部には、ウエハ温度を調整するための熱媒が通る熱媒流路(図示略)等からなる調温手段が形成されているものが望ましい。静電チャック装置100は、電極70に電圧を印加することにより、吸着部10が帯電し、静電力によりシリコンウエハを吸着させることができる。また、前記電圧を除くことで、吸着を解除することができる。
【0050】
本発明による樹脂組成物を接着剤とすることで、接着剤層20に用いることができ、セラミックス部材とアルミニウム部材の熱膨張率の差から生じる歪を緩和することが可能となり、さらに耐プラズマ性を向上させることが可能となる。本用途で用いる場合には、シート状接着剤を用いることが、塗布作業が簡略化されるので好ましい。
本発明による樹脂組成物をシート状の接着剤として用いる場合には、シート状の接着剤の厚さは、用途に応じて設計でき、特に限定されない。例えば、5μm~500μmとすることができ、10μm~200μmがより好ましく、20μm~150μmがさらに好ましい。
【0051】
また本発明による樹脂組成物は、成形部材とすることで、接着剤表面保護材80及び90に用いることができる。接着剤表面保護材80及び90は、接着剤層20をプラズマから隔離し、接着剤層の延命することができる。
接着剤表面保護材80及び90は、例えば、エラストマーをマトリクスとすることで、バンド状にして使用することが可能となる。この場合には。エラストマーの弾性力で、静電チャック装置に取付け、固定が可能であり、交換作業が簡便になる。
また、接着剤表面保護材80及び90は、マトリクスを硬化樹脂とすることで、静電チャック装置にねじ止めなどで固定することが可能であり、その複雑な構造の静電チャック装置においても、形状に合わせて加工が可能であり、隙間なく固定でき、且つ、構造的に強くできる。
また、本発明の樹脂組成物は、上述した接着剤層20と、接着剤表面保護材80及び90のどちらか一方に用いても、効果を奏するが、両方を用いることで、さらに高い効果を奏することができる。前記接着剤表面保護材は、耐プラズマ性が高いため、交換頻度が下がることに加え、交換が容易であるため、メンテナンス時間が大幅に短縮できる。従来の接着剤のみが使用されている静電チャック装置の場合にはプラズマ処理装置から静電チャック装置を取り出し、メーカーに送付してメンテナンスを行う必要があり、一定期間生産ができない状況があったが、その必要がなくなるという効果を奏する。
【0052】
その他の成形部材としての用途は、例えば、パッキンやO-リングなどのシール材;ベルト状、シート状や立体構造を持った構造体;が挙げられる。
パッキンやO-リングは、例えば、減圧プラズマにおける真空系統(ガス供給部、プラズマソース、プラズマ処理室、排気配管等)の連結部にシール材として用いることができる。プラズマソース部、プラズマ処理室、排気配管に使用されている、耐プラズマ性の低い従来のシール材では、プラズマによる劣化で数カ月に1度の頻度で交換する必要があるが、本発明による前記シール材を用いることで、延命が可能となる。
また、立体構造を持った構造体の用途としては、半導体製造装置であるプラズマ処理装置にウエハを搬入・設置する際に、ロボットハンドからプラズマ装置にシリコンウエハを受け渡す昇降ロッドのシリコンウエハ支持ピンなどに、使用できる。
【実施例
【0053】
<樹脂組成物の作製>
(実施例1)
市販のシリコーン接着剤(信越シリコーン社製KE-1820)に対し、ハイドロタルサイト{組成式:MgAl(OH)16CO・4HO、平均板面径:249nm、BET比表面積:50m/g}を15体積%になるように配合し、ビーズミルで混合した。
(比較例1)
市販のシリコーン接着剤(信越シリコーン社製KE-1820)のみを、ビーズミルによる撹拌のみ行った。
【0054】
<耐プラズマ性評価>
(プラズマ処理1)
実施例1及び比較例1で調製した接着剤を、それぞれPET製剥離フィルム上に10cm×10cm×100μm厚の大きさになるように成膜した後、乾燥炉内において120℃で5分間加熱して乾燥させた。乾燥後、剥離フィルムを剥離し、評価用試料を得た。
作成した評価用試料をプラズマ装置内に平面になるように設置し、24時間プラズマ処理を行った。プラズマの処理条件を下記に示した。
プラズマ処理装置:Unity Me(東京エレクトロン社製)
高周波電源出力 :1000W
高周波電源周波数:13.56MHz
バイアス電源出力:なし
真空度 :133.33Pa
酸素ガス流量 :450sccm
フッ素ガス流量 :50 sccm
ステージ温度 :25℃
プラズマ処理時間:24時間
【0055】
(実施例2)
シリコーン接着剤(信越シリコーン社製KE-1820)に対し、ハイドロタルサイト{組成式:MgAl(OH)16CO・4HO、平均板面径:249nm、BET比表面積:50m/g}を1.5体積%になるように配合し、3本ロールで混合し調整した。
(実施例3)
シリコーン接着剤(信越シリコーン社製KE-1820)に対し、ハイドロタルサイト{組成式:MgAl(OH)16CO・4HO、平均板面径:249nm、BET比表面積:50m/g}を3.5体積%になるように配合し、3本ロールで混合し調整した。
(実施例4)
シリコーン接着剤(信越シリコーン社製KE-1820)に対し、ハイドロタルサイト{組成式:MgAl(OH)16CO・4HO、平均板面径:249nm、BET比表面積:50m/g}を8.0体積%になるように配合し、3本ロールで混合し調整した。
(実施例5)
シリコーン接着剤(信越シリコーン社製KE-1820)に対し、ハイドロタルサイト{組成式:MgAl(OH)16CO・4HO、平均板面径:249nm、BET比表面積:50m/g}を17.5体積%になるように配合し、3本ロールで混合し調整した。
(実施例6)
シリコーン接着剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSE3032、混合比 TSE3032(A):TSE3032(B)=100重量部:10重量部)に対し、ハイドロタルサイト{組成式:MgAl(OH)16CO・4HO、平均板面径:249nm、BET比表面積:50m/g}を8.0体積%になるように配合し、3本ロールで混合し調整した。
(実施例7)
シリコーン接着剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSE3032、混合比 TSE3032(A):TSE3032(B)=100重量部:10重量部)に対し、ハイドロタルサイト{組成式:MgAl(OH)16CO・4HO、平均板面径:249nm、BET比表面積:50m/g}を33.3体積%になるように配合し、3本ロールで混合し調整した。
(実施例8)
シリコーン接着剤((モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSE3032、混合比 TSE3032(A):TSE3032(B)=100重量部:10重量部)に対し、ハイドロタルサイト{組成式:MgAl(OH)16CO・4HO、平均板面径:249nm、BET比表面積:50m/g}を50.0体積%になるように配合し、3本ロールで混合し調整した。
(比較例2)
市販のシリコーン接着剤(信越シリコーン社製KE-1820)のみを、ビーズミルによる撹拌のみ行った。
(比較例3)
シリコーン接着剤(信越シリコーン社製KE-1820)に対し、ハイドロタルサイト{組成式:MgAl(OH)16CO・4HO、平均板面径:249nm、BET比表面積:50m/g}を0.5体積%になるように配合し、3本ロールで混合し調整した。
(比較例4)
シリコーン接着剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製TSE3032、混合比 TSE3032(A):TSE3032(B)=100重量部:10重量部)を、ミキサーにより混合し調整した。
【0056】
<耐プラズマ性評価>
(プラズマ処理2)
実施例2~8及び比較例2~4で調製した接着剤を、それぞれPET製剥離フィルム上に30mm×30mm×1mm厚の大きさになるように成膜した後、乾燥炉内において120℃で2時間間加熱して乾燥・硬化させた。硬化後、剥離フィルムを剥離し、評価用試料を得た。
作成した評価用試料をプラズマ装置内に平面になるように設置し、4時間プラズマ処理を行った。プラズマの処理条件を下記に示した。
プラズマ処理装置:RIE-10NRT(SUMCO社製)
高周波電源出力 :250W
バイアス電源出力:なし
真空度 :100Pa
酸素ガス流量 :45sccm
CF流量 :5 sccm
ステージ温度 :25℃
プラズマ処理時間:4時間
【0057】
(質量減少測定)
質量減少評価は、プラズマ処理前後の評価試料の質量を、直示天秤(メトラー社:MS104TS/00)を用いて秤量し、質量減少率を算出した。測定した結果を表1~表3に示した。測定は各評価試料を3検体ずつ処理し、その平均値を測定結果とした。
【0058】
(表面状態変化観察)
<プラズマ処理1>
表面状態観察は、走査型顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製:SE-5000)を用いて行い、実施例1及び比較例1の樹脂組成物のプラズマ処理前後の評価試料の表面状態を観察した。結果を図2に示した。
<プラズマ処理2>
デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製:VHX-6000)を用いて500倍の倍率で、実施例2~8、比較例1~3の樹脂組成物のプラズマ処理前後の評価試料の外観変化を観察した。評価基準は以下の通り。
〇:プラズマ処理前後で樹脂組成物の外観上の変化なし。
△:プラズマ処理後の樹脂組成物にわずかな筋が見られる。
×:プラズマ処理後の樹脂組成物にあきらかな筋が複数見られる。
【0059】
(評価)
実施例1の質量減少率は、0.28%であり、比較例1に比べ、1/10以下と良好な結果が得られた。また、表面観察においても、比較例1が表面にクラックが発生しているのに対し、大きな変化は見られなかった。このことから本発明の効果が理解できる。
また、実施例2~8及び比較例2~4において、別のプラズマ装置(エッチング装置)を用い、条件を変えても、各実施例の質量減少率は低く抑えることが可能であり、さらに、表面観察においても、耐プラズマ性に優れていることが明らかであり、本発明の効果が理解できる。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【符号の説明】
【0063】
100 静電チャック装置
10 吸着面
20 接着剤層
30 絶縁層
40 電気絶縁弾性層
50 金属基盤
60 導電部
70 電極
80,90 接着剤表面保護材
図1
図2