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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】レール矯正治具及びレール矯正方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 31/18 20060101AFI20221202BHJP
【FI】
E01B31/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020030534
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021134532
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 太初
(72)【発明者】
【氏名】相澤 宏行
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-17044(JP,A)
【文献】特開昭61-78513(JP,A)
【文献】特開2001-150029(JP,A)
【文献】特開昭57-169103(JP,A)
【文献】特開2004-268116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール頭部に生じた変形の矯正に用いられるレール矯正治具であって、
前記レールは前記変形の矯正時において上方に湾曲するように変形され、
前記レール矯正治具は、
前記レールの長手方向に設置され、前記レールを支持する本体部を有し、
前記本体部の上面には、前記本体部の長手方向の中央部から端部に向けて下り勾配を有する前記レールとの接触面が形成され、
前記下り勾配の勾配角度が、前記レールの湾曲量により決定されるとともに、
前記本体部の長手方向の長さが、前記レールの湾曲により前記本体部に負荷される最大荷重により決定されることを特徴とする、レール矯正治具。
【請求項2】
前記勾配角度は下記式(1)で定義され、
前記本体部の長さは下記式(2)で定義されることを特徴とする、請求項1に記載のレール矯正治具。
θ=aδ-b ・・・ (1)
L=cF-d ・・・ (2)
ここで、
θ:勾配角度
δ:レール湾曲量
L:本体部長さ
F:最大荷重
a、b、c、d:定数
【請求項3】
前記本体部は、前記接触面が前記レール頭部の下面と接触するように配置され、
前記本体部の長手方向の中央部には、前記レール頭部の下面が接触しない非接触部が形成され、
前記接触面は、前記本体部の長手方向において前記非接触部の両端部側に形成されることを特徴とする、請求項1または2に記載のレール矯正治具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のレール矯正治具を用いたレール矯正方法であって、
前記接触面が前記レールの下面と接触するように前記レール矯正治具を設置する工程と、
前記レールを上方に湾曲させる工程と、を含み、
少なくとも前記本体部に前記最大荷重が負荷される際には、前記接触面の全面が前記レールの下面と面接触することを特徴とする、レール矯正方法。
【請求項5】
請求項3に記載のレール矯正治具を用いたレール矯正方法であって、
前記レールの長手方向において前記非接触部を前記レール頭部に生じた変形部と対応させ、前記接触面が前記レール頭部の下面と接触するように前記レール矯正治具を設置する工程と、
前記レールを上方に湾曲させる工程と、を含み、
少なくとも前記本体部に前記最大荷重が負荷される際には、前記接触面の全面が前記レール頭部の下面と面接触することを特徴とする、レール矯正方法。
【請求項6】
前記レール頭部に生じた変形部をガス切断により切除する工程と、
切除箇所をテルミット溶接で補完する工程と、
テルミット溶接による余肉を熱間押し抜きせん断する工程と、を更に含むことを特徴とする、請求項4又は5に記載のレール矯正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール矯正治具及びレール矯正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道線路で使用されるレールのレール頭部に生じた損傷(例えばシェリングきず等)の補修手法として、テルミット溶接法を用いた頭部補修溶接(以下、「THR溶接法」という場合がある。)が注目されている。
【0003】
THR溶接法は、主に(a)レール頭部の損傷部位のガス切断による切除、(b)切除部分へのテルミット溶鋼の注入(テルミット反応)、(c)余肉の熱間押し抜きせん断、により行われる。このため、従来の補修手法と比較して、より簡便かつ短時間にレールの補修を行うことができる。
【0004】
しかしながら、このTHR溶接法においては、レールの補修を切除部分への溶鋼の注入により行うことから、注入された溶鋼が冷却の際に収縮することで、補修後のレールの頭頂面に変形(例えば落ち込み)が生じる場合があった。このようにレールの頭頂面に変形が生じた場合、鉄道車両が補修箇所を走行するに際して騒音や振動を発生させる原因となり、鉄道車両の円滑な走行が阻害されるおそれがある。
【0005】
そこで特許文献1には、このレールの頭頂面に落ち込みが生じることを抑制してTHR溶接法を行うレール矯正装置が開示されている。特許文献1に開示されるレール矯正装置によれば、テルミット溶接直後の熱間状態において、補修部分から所定距離だけ離間した位置のレール頭部を油圧シリンダにより押圧し、この押圧の反作用によりレールを上方に引き上げる矯正作業を行う。当該矯正作業によれば、レール頭部の補修箇所に予め逆ひずみを設けて縦矯正し、当該補修箇所への落ち込みの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-163599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるレール矯正装置によれば、油圧シリンダの押圧による押圧量(レールの変位量)を適切に制御するための油圧制御装置、及び、レールの変位量を測定するための変位センサを設ける必要がある。
【0008】
このように油圧制御装置、変位センサを新たに設ける場合、レール矯正装置の導入コストが増加する。また、一般的にレールの矯正作業は屋外の現場で行われるため、天候や人為的要因により油圧制御装置や変位センサに不具合が生じやすく、矯正作業の作業性や信頼性に課題がある。すなわち、従来のレール矯正装置には改善の余地があった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、レール矯正装置によるレール矯正作業をより簡易に行うことができ、適切にレール頭頂面の平坦性を確保できるレール矯正治具及びレール矯正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、レール頭部に生じた変形の矯正に用いられるレール矯正治具であって、前記レールは前記変形の矯正時において上方に湾曲するように変形され、前記レール矯正治具は、前記レールの長手方向に設置され、前記レールを支持する本体部を有し、前記本体部の上面には、前記本体部の長手方向の中央部から端部に向けて下り勾配を有する前記レールとの接触面が形成され、前記下り勾配の勾配角度が、前記レールの湾曲量により決定されるとともに、前記本体部の長手方向の長さが、前記レールの湾曲により前記本体部に負荷される最大荷重により決定されることを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、レール矯正治具の形状、具体的には、レールの湾曲量により決定される勾配角度、及び、本体部に負荷される最大荷重により決定される本体部の長さ、によりレールの矯正量を制御することができる。すなわち、従来のようにレールの矯正量を制御するために油圧制御装置や変位センサを設ける必要がないため、導入コストが削減されるとともに、矯正作業の作業性が向上する。
【0012】
なお、前記勾配角度を決定するための「レールの湾曲量」とは、変形の矯正時におけるレールの「最大曲げ上げ変位量」を指すものではなく、「所望のレールの矯正量を得るために必要となる湾曲量」を指すものである。
【0013】
前記勾配角度を下記式(1)で、前記本体部の長さを下記式(2)で定義してもよい。
θ=aδ-b ・・・ (1)
L=cF-d ・・・ (2)
なお、θは勾配角度、δはレール湾曲量、Lは本体部の長さ、Fは最大荷重、a、b、c、dは定数をそれぞれ表している。
【0014】
前記本体部は、前記接触面が前記レール頭部の下面と接触するように配置され、前記本体部の長手方向の中央部には、前記レール頭部の下面が接触しない非接触部が形成され、前記接触面は、前記本体部の長手方向において前記非接触部の両端部側に形成されていてもよい。
【0015】
別な観点に係る本発明は、上記いずれかのレール矯正治具を用いたレール矯正方法であって、前記接触面が前記レールの下面と接触するように前記レール矯正治具を設置する工程と、前記レールを上方に湾曲させる工程と、を含み、少なくとも前記本体部に前記最大荷重が負荷される際には、前記接触面の全面が前記レールの下面と面接触することを特徴としている。
【0016】
または、上記レール矯正治具を用いたレール矯正方法であって、前記レールの長手方向において前記非接触部を前記レール頭部に生じた変形部と対応させ、前記接触面が前記レール頭部の下面と接触するように前記レール矯正治具を設置する工程と、前記レールを上方に湾曲させる工程と、を含み、少なくとも前記本体部に前記最大荷重が負荷される際には、前記接触面の全面が前記レール頭部の下面と面接触することを特徴としている。
【0017】
本発明によれば、前記レール矯正治具の本体部をレールに設置した後、当該レールを上方に湾曲させることのみによって、レールの矯正作業における矯正量を制御することができる。具体的には、矯正に必要となるレールの湾曲量、及び、付加する最大荷重に応じて本体部の形状(勾配角度及び長さ)を決定することにより、油圧制御装置や変位センサを必要しないより簡易なレールの矯正作業を行うことができる。
【0018】
前記レール頭部に生じた変形部をガス切断により切除する工程と、切除箇所をテルミット溶接で補完する工程と、テルミット溶接による余肉を熱間押し抜きせん断する工程と、を更に含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、レール矯正装置によるレール矯正作業をより簡易に行うことができ、適切にレール頭頂面の平坦性を確保できるレール矯正治具及びレール矯正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】レール矯正装置の構成の概略を示す側面図である。
図2】レールの構造を示す説明図である。
図3】本実施形態に係る矯正治具の構成の概略を示す説明図である。
図4】レールに対する矯正治具の取り付け例を示す説明図である。
図5】レール矯正装置によるレールの矯正の様子を示す説明図である。
図6】荷重と湾曲量の関係を示すグラフである。
図7】レール矯正装置によるレールの矯正の様子を示す説明図である。
図8】レールに対する矯正治具の他の取り付け例を示す説明図である。
図9】湾曲量と勾配角度の関係を示すグラフである。
図10】最大荷重と矯正治具の長さの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
先ず、本発明の実施形態にかかるレール矯正治具を備えるレール矯正装置1の構成について説明する。図1は、レール矯正装置1の構成の概略を示す側面図である。
【0023】
レール矯正装置1では、図2に示すようにレール頭部Rhに形成されたTHR溶接法による補修部Hに落ち込みが生じないように、レールRの矯正作業を行う。具体的には、レールRの補修部Hに対して、冷却前において予め逆ひずみを設ける。なお補修部Hとは、THR溶接法において、レール頭部Rhに生じた損傷部(例えばシェリングきず等)をガス切断により切除し、当該切除部分に対して溶鋼が注入された部分のことをいう。
【0024】
図1に示すようにレール矯正装置1は、レールRの矯正時においてレールRを上方に湾曲させるように駆動する駆動機構10と、レールRの矯正時においてレールRを支持しつつ相対的に上方へ持ち上げるように作用する矯正治具20と、駆動機構10と矯正治具20とを接続する連結部材30と、を備えている。
【0025】
駆動機構10は、例えばレールRの補修部Hを頂点とするようにレールRを上方に湾曲させる。駆動機構10の構成や配置は特に限定されるものではなく、例えばレールRを上方から引き上げるようにして湾曲させてもよいし、例えば下方から押し上げるように湾曲させてもよい。また例えば、特許文献1に記載のレール矯正装置のように、レール頭部Rhの所定位置を上方から押圧することにより、押圧の反作用によりレールを湾曲させてもよい。
【0026】
また駆動機構10は、例えばシリンダ等であって機械的にレールRを湾曲させるものであってもよいし、例えばジャッキ等であって手動でレールRを湾曲させるものであってもよい。
【0027】
レール矯正治具としての矯正治具20は、図3及び図4に示すように、レールRの長手方向が長辺となる、略直方体形状(例えば、長さLmm、高さ100mm程度)に形成されている。矯正治具20は、レールRの矯正時において、当該矯正治具20の長手方向の中央部がレールRの補修部Hの下方に位置し、上面に形成された接触面21がレール頭部Rhの下面(あご下)と接触するように配置される。
【0028】
そして矯正治具20は、上述のように、駆動機構10によりレールRを湾曲させた際に、接触面21、21によってレール頭部Rhの下面を支持しつつ持ち上げるように作用する。換言すれば、矯正治具20は、駆動機構10の動作時においてレール頭部Rhを相対的に上方へ押し上げて湾曲させるように作用する。
【0029】
矯正治具20には、当該矯正治具20を厚み方向に貫通して孔部20aが形成されている。孔部20aには後述の連結部材30の連結ボルト32が挿通される。
【0030】
矯正治具20の上面には、上述のようにレールRとの接触面21が形成されている。接触面21は、図3(b)及び図4に示すように、矯正治具20のレールRへの取り付け時において、レール頭部Rhのあご下形状と一致する局面を有するように形成されている。
【0031】
また矯正治具20の上面には、当該矯正治具20の長手方向の略中央部に、レールRの矯正時においてレール頭部Rhと接触しない非接触部としての切り欠き部22が形成されている。切り欠き部22は、レールRの矯正時において、レールRの補修部Hの下方に配置される。切り欠き部22は、例えば矯正治具20の長手方向に100mm程度の長さで形成されている。そして矯正治具20は、レールRの矯正時において、補修部Hと切り欠き部22とがレールRの長手方向において一致するように配置される。なお、切り欠き部22の断面形状は、矯正時においてレール頭部Rhと接触しない形状であれば特に限定されるものではない。
【0032】
また図3に示すように、接触面21は、長手方向における当該接触面21の切り欠き部22側の端部(以下、「内側端部21a」という。)から外側端部21bに向けて、勾配角度θの下り勾配を有するように形成されている。
【0033】
そして、このように接触面21に下り勾配が形成されることにより、矯正治具20のレールRへの取り付け直後においては、図5(a)に示すように接触面21の内側端部21aのみが、レール頭部Rhの下面と点接触する。かかる状態で駆動機構10の出力、換言すれば矯正治具20に負荷される、レールRを湾曲させるように相対的に作用する荷重fを大きくしていくと、当該荷重fが所定の値に達した際にレールRのたわみ角度と接触面21の勾配角度θが一致し、図5(b)に示すように接触面21の全面がレール頭部Rhの下面と面接触する。そして、このように接触面21とレール頭部Rhの下面とが面接触することにより、矯正治具20に負荷される荷重fが接触面21で分散され、図6の区間Aに示すように荷重fに対するレールRの湾曲量δ(図5(b)参照)を略一定に抑制することができる。すなわち、矯正治具20の接触面21に下り勾配を形成することで、レールRの矯正量(湾曲量δ)が必要矯正量を超過することを抑止できる。
【0034】
ここで本発明者らは、かかる下り勾配の形成とレールRの湾曲量δの関係性から、矯正治具20の形状(勾配角度θ及び長さL)を制御することにより、レールRの矯正量をより適正に制御できることを見出した。そして本発明者らは、矯正治具20の形状(勾配角度θ及び長さL)は、レールRの所望の矯正量を得るために必要となるレールRの湾曲量δ、及び、レールRの矯正に際しての駆動機構10の最大出力、換言すればレールRの矯正に際して矯正治具20に負荷される最大荷重Fを用いて、下記式(1)及び下記式(2)により決定できることを知見した。
θ=aδ-b ・・・ (1)
L=cF-d ・・・ (2)
なお、式(1)及び式(2)のa、b、c及びdは、それぞれレールRの部材温度、及び材料特性値により定まる定数を表している。
【0035】
なお、上記式(1)及び式(2)は、有限要素法を用いた定常熱伝導-構造解析モデルにより得られたレールの湾曲量δに対する勾配角度θ、及び、最大荷重Fに対する長さLのそれぞれの推移により求められる。
【0036】
そして上記式(1)によれば、接触面21の勾配角度θを大きく形成することで、レールRの湾曲量δをより大きくできる。また上記式(2)によれば、矯正治具20の長さLを大きく形成することで、当該矯正治具20に負荷させることができる最大荷重Fを大きくできる。
【0037】
そして本実施形態に係るレール矯正装置1においては、上記(1)式及び(2)式から求められる勾配角度θ、長さLを有する矯正治具20を用いて、レールRの矯正作業を行う。より具体的には、矯正治具20に対して駆動機構10の最大荷重Fが付加された際に、少なくともレール頭部Rhの下面と接触面21の全面が面接触し、また、所望の湾曲量δを得ることができるような勾配角度θ、長さLを有する矯正治具20を用いて、レールRの矯正作業を行う。
【0038】
連結部材30は、駆動機構10と矯正治具20とを接続する。連結部材30は、図1に示すように、駆動機構10と矯正治具20とを連絡するアーム31と、矯正治具20の孔部20aに挿通される連結ボルト32と、を有している。
【0039】
本実施形態にかかるレール矯正装置1は、以上のように構成されている。
【0040】
本実施形態にかかるレール矯正装置1によれば、上記式(1)及び(2)より、レールRの矯正に用いる駆動機構10による最大荷重F、及び、必要となるレールRの湾曲量δに応じて矯正治具20の形状を算出することができる。そして、算出された形状を有する矯正治具20を用いてレールRの矯正を行うことにより、レールRが必要となる矯正量を超過して湾曲(矯正)されることが適切に抑制される。換言すれば、矯正治具20の形状のみによってレールRの矯正量を制御できるため、従来のようにレール矯正装置1に変位センサや油圧制御装置を設ける必要がなく、当該レール矯正装置1の導入コストを適切に削減できるとともに、矯正作業の作業性を適切に向上できる。
【0041】
次に、THR溶接法を適用したレールRの補修方法、及び、以上のように構成されたレール矯正装置1を用いて行われるレール矯正方法について説明する。
【0042】
先ず、レール頭部Rhに生じた損傷部位をTHR溶接法により修復を行う。THR溶接法においては、レール頭部Rhの損傷部位をガス切断により切除し、切断面をグラインダ研削した後、浸透探傷検査で残存した変形(亀裂等)がないかを確認する。
【0043】
次に、切除箇所にモールドを設置し、酸素・プロパン炎による予熱を実施した後、モールド内にテルミット溶鋼を注入し、注入された溶鋼の凝固後、余肉の押し抜きを行う。なお、レール頭部Rhにおいて、このように切除、溶鋼の注入が行われた部分が、本実施形態における補修部Hとなる。
【0044】
テルミット溶鋼の押し抜きせん断が行われると、続いて、テルミット溶鋼の注入により補修部Hが高温となっている状態で、レール矯正装置1によるレールRの矯正作業を行う。
【0045】
レールRの矯正作業においては、先ず、レールRに対して矯正治具20を設置する。矯正治具20の設置に際しては、側面視において当該矯正治具20の長手方向の中心部、すなわち切り欠き部22が補修部Hの下方に位置するように、矯正治具20をレールRのウェブ部分に沿って配置する。なおこの時、矯正治具20の接触面21は上述のように下り勾配を有しているため、図5(a)に示したようにレール頭部Rhの下面とは、接触面21の内側端部21aのみが接触する。
【0046】
矯正治具20が設置されると、次に、駆動機構10により補修部Hが頂点となる弓なり形状にレールRを湾曲させる。この時、矯正治具20は、レール頭部Rhの下面を上方に持ち上げて、補修部Hの周囲に逆ひずみを与える作用点として機能する。
【0047】
ここで、レールRの湾曲に際して駆動機構10の出力を上昇させると、矯正治具20に負荷される荷重fが所定の値に達した際にレールRのたわみ角度と接触面21の勾配角度θが一致し、図5(b)に示したようにレール頭部Rhの下面と接触面21が面接触する。レールRの矯正作業においては、予め定められた所定の湾曲量δでレールRを矯正する必要があるが、このようにレール頭部Rhの下面と接触面21を面接触させることで、図6の区間Aに示したように湾曲量σを略一定に保つことができる。すなわち、適切にレールRの湾曲量δを制御でき、より適切にレールRの矯正作業を行うことができる。
【0048】
またここで、駆動機構10の出力が更に上昇し、矯正治具20に負荷される荷重fが所定の値を超えてしまった場合、図6の区間Bに示すように、湾曲量δを略一定に維持する機能が損なわれてしまうおそれがある。これは、荷重fの増大によりレール頭部Rhの下面と接触面21との面接触が解かれ、図7に示すように、接触面21の外側端部21bのみがレール頭部Rhの下面と接触するようになることに起因すると考えられる。
【0049】
しかしながら本実施形態に係るレールRの矯正方法によれば、レールRの当該矯正に際して、矯正に必要となるレールRの湾曲量δ、及び、レールRの矯正に用いられる駆動機構10による最大荷重F、から求められる形状(勾配角度θ、長さL)を備える矯正治具20が用いられる。すなわち、駆動機構10による最大荷重Fが付加された場合において、接触面21の全面がレール頭部Rhの下面と面接触するような矯正治具20を用いて矯正作業を行っているため、図6のB区間及び図7に示したように、レールRの湾曲量δが超過することが適切に抑制される。
【0050】
そして、このように適切な湾曲量δでレールRを矯正し、これにより適切に補修部Hの周辺に逆ひずみを付与することができるため、補修後のレールRに落ち込みが生じることが適切に抑制される。
【0051】
また、本実施形態において矯正治具20は、長手方向の中心部に形成された切り欠き部22が補修部Hと対応した位置となるように、レールRに対して設置される。
【0052】
上述のように熱間押し抜きせん断を行った後の補修部Hの周辺温度は、レールRの変態点(例えば700℃程度)よりも高くなっており、これにより、補修部Hの周辺部は変形しやすい状態となっている。このため、補修部Hの周辺においてレール頭部Rhの下面と矯正治具20とが接触した場合、かかる接触部が局所的に変形し、例えば強制空冷後のレールRの頭頂面に凸部となって残存してしまうおそれがある。
【0053】
これに対して本実施形態によれば、上述のように切り欠き部22が補修部Hと対応するため、高温となった補修部Hの周辺を避けてレール頭部Rhの下面を支持することができる。これにより、レール頭部Rhと矯正治具20との接触部において局部的に変形が生じることが適切に抑制される。
【0054】
レールRの矯正作業が完了すると、次に、レールRの頭頂面の硬さを調節するための強制空冷を行う。この冷却は放冷でもよいが、レールRの頭頂面の高度を適切に増大させるためには、圧縮空気の噴射等による強制空冷であることが望ましい。そして、レールRの空冷後にグラインダによりレールRの補修形状が整えられると、THR溶接法によるレール頭部Rhの補修、及び、矯正治具20によるレールRの矯正作業が完了する。なおTHR溶接法の完了後には、例えば超音波探傷検査により補修溶接欠陥の有無を確認してもよい。
【0055】
本実施形態にかかるレール矯正方法によれば、矯正に必要となるレールRの湾曲量δ、及び、レールRの矯正に用いられる駆動機構10による最大荷重F、から求められる形状(勾配角度θ、長さL)を有する矯正治具20が用いることで、適切にレールRの矯正作業を行うことができる。具体的には、必要となる矯正量を超過してレールRが湾曲されることが抑制されるため、レールRの補修部Hに対して適切に逆ひずみを付与することができ、補修後のレールRに落ち込みが生じるのを適切に抑制できる。
【0056】
また本実施形態にかかるレール矯正方法によれば、切り欠き部22を補修部Hの下方に配置することで、矯正治具20とレール頭部Rhとの接触部において局所的な変形が生じることを適切に抑制できる。
【0057】
なお、以上の実施形態においては、レールRの矯正において矯正治具20をレールRのウェブ部に沿って配置し、これによりレール頭部Rhを下方から支持するようにしたが、矯正治具20の配置はこれに限定されるものではない。
【0058】
例えば図8に示すように、矯正治具20はレール底部Rbの下面に配置されてもよい。かかる場合、矯正治具20は、例えばレールRの設置面(例えばバラストや枕木)を掘削、除去した後、当該掘削、除去部分に矯正治具20を挿入し、例えば孔部20aを介してレールRの下部に連結ボルト32を差し渡すことにより、設置することができる。
【0059】
なお、このようにレール底部Rbの下面に矯正治具20を配置する場合、レール底部Rbは補修部Hの周辺温度の影響が小さいため、換言すれば、レール底部Rbの温度はレールRの変態点よりも低くなっているため、矯正治具20との接触点において局所変形が生じることがない。すなわちレール底部Rbの下面に矯正治具20を配置する場合、図8に示すように、当該矯正治具20の上面には切り欠き部22が形成されていなくてもよい。
【0060】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了承される。
【実施例
【0061】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
なお本実施例においては、所定の形状を備える矯正治具20をレール頭部Rhに補修部Hを有するレールRに設置し、駆動機構10として油圧シリンダを用いて所定の油圧力でレールRの矯正作業を行った後、仕上げ作業(グラインダによる仕上げ研削)を行い、シリンダ軸の変位量(mm)、仕上げ作業後のレールRの頭頂面の仕上がり形状(mm)、レールRの湾曲量δ(mm)を測定した。
【0063】
そして、得られた測定結果を用いて、レールRの湾曲量δと勾配角度θの関係式、及び、油圧シリンダの最大荷重Fと長さLの関係式を、有限要素法を用いた定常熱伝導-構造解析モデルにより求めた。
【0064】
図9及び図10に、それぞれ上記条件で得られた湾曲量δと勾配角度θの関係、及び、最大荷重Fと長さLの関係を示す。
【0065】
図9に示すように、上記解析により湾曲量δと勾配角度θは、上記(1)式で表される線形関係を有することがわかった。ここで、本実施例のようにレール頭部Rhに補修部Hを有するレールRを対象とした場合、上記式(1)に示す定数a及びbは、それぞれa=0.1242、b=0.1087と求められた。
【0066】
図10に示すように、上記解析により最大荷重Fと長さLは、上記(2)式で表される線形関係を有することがわかった。ここで、本実施例のようにレール頭部Rhに補修部Hを有するレールRを対象とした場合、上記式(2)に示す定数c及びdは、それぞれc=1.6417、d=358.49と求められた。
【0067】
以上の結果から分かるように、例えば最大荷重Fが450kNである油圧シリンダを用いて10mmの湾曲量δを得る場合には、上記(1)式及び(2)式より、θ=1.13°、L=380mmとなることがわかる。換言すれば、θ=1.13°、L=380mmの形状を有する矯正治具20を用いて、油圧シリンダの最大荷重F(450kN)でレールRの矯正作業を行うことにより、当該最大荷重Fにより必要となるレールRの湾曲量δである10mmを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、THR溶接法による補修後のレールを矯正する場合に有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 レール矯正装置
10 駆動機構
20 矯正治具
20a 孔部
21 接触面
22 切り欠き部
30 連結部材
f 荷重
F 最大荷重
H 補修部
L (矯正治具の)長さ
R レール
Rh レール頭部
Rb レール底部
δ 湾曲量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10