(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】二次電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20221202BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20221202BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221202BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20221202BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221202BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M10/04 Z
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020126456
(22)【出願日】2020-07-27
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 雄
(72)【発明者】
【氏名】西田 晶
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-110160(JP,A)
【文献】国際公開第2021/131918(WO,A1)
【文献】特開2017-098203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 4/02
H01M 4/13
H01M 10/04
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部および前記本体部から第1の方向に沿って突出する電極端子部を含む極板と、
前記極板に接着されたセパレータとを備え、
前記極板の前記本体部は、前記第1の方向の中央付近に位置する中央領域と、前記第1の方向において前記中央領域に対して前記電極端子部に近い側に位置する第1領域と、前記第1の方向において前記中央領域に対して前記第1領域の反対側に位置する第2領域とを含み、
前記極板は活物質合材層を含み、
前記第1領域および前記第2領域において、前記活物質合材層と前記セパレータとが接着され、
前記第1領域における
前記活物質合材層と前記セパレータとの単位面積あたりの接着強度は、前記第2領域における
前記活物質合材層と前記セパレータとの単位面積あたりの接着強度よりも高い、二次電池。
【請求項2】
前記第1領域において、前記極板と前記セパレータとは接着層により接着された、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記第1領域における前記極板と前記セパレータとの単位面積あたりの接着強度は、前記中央領域における前記極板と前記セパレータとの単位面積あたりの接着強度以上である、
請求項1または請求項2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記極板から50mm/分の速度で幅20mmの前記セパレータを剥離させたときの前記第1領域における前記極板と前記セパレータとの接着強度は4.2N/m以上である、請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記極板から前記セパレータを剥離させたときの前記第1領域における接着痕濃度は1.0×10
4ppm以上である、請求項1から
請求項4のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記第1領域において前記極板は第1の厚みを有し、前記第2領域において前記極板は第2の厚みを有し、前記第1の厚みは前記第2の厚みよりも薄い、請求項1から
請求項5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記極板が複数設けられ、複数の前記極板は正極板および負極板を含み、前記正極板と前記負極板とが前記セパレータを介して交互に積層される、請求項1から
請求項6のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記二次電池はリチウムイオン電池である、請求項1から
請求項7のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項9】
本体部および前記本体部から第1の方向に沿って突出する電極端子部を含む極板と、セパレータとを積層する工程と、
積層された前記極板と前記セパレータとを熱接着する工程とを備え、
前記極板の前記本体部は、前記第1の方向の中央付近に位置する中央領域と、前記第1の方向において前記中央領域に対して前記電極端子部に近い側に位置する第1領域と、前記第1の方向において前記中央領域に対して前記第1領域の反対側に位置する第2領域とを含み
、
前記極板は活物質合材層を含み、
前記第1領域および前記第2領域において、前記活物質合材層と前記セパレータとが接着され、
前記熱接着する工程において、前記第1領域に加えられる単位面積あたりの熱量は前記第2領域に加えられる単位面積あたりの熱量よりも大きい、二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記第1領域において、前記極板と前記セパレータとは接着層により接着された、請求項9に記載の二次電池の製造方法。
【請求項11】
前記熱接着する工程は、前記第1領域を前記第2領域よりも高い温度で加熱することを含む、
請求項9または請求項10に記載の二次電池の製造方法。
【請求項12】
前記熱接着する工程は、前記電極端子部を加熱することを含む、
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記熱接着する工程は、前記電極端子部を加熱しながらプレスすることを含む、
請求項12に記載の二次電池の製造方法。
【請求項14】
前記熱接着する工程は、前記第1領域を前記第2領域よりも長い時間にわたって加熱することを含む、
請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の二次電池の製造方法。
【請求項15】
前記二次電池はリチウムイオン電池である、
請求項9から請求項14のいずれか1項に記載の二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2018-56142号公報)に記載のとおり、リチウムイオン電池などの二次電池の電極体の構造として、極板と接着層付きセパレータとを積層し、それらを熱圧着するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
極板とセパレータとの積層体を上下から加熱プレスして熱圧着するとき、積層体の外周部においては、中央部と比較して放熱がされやすいため、中央部と比べると極板とセパレータとの接着力が低くなりやすい傾向にある。極板とセパレータとの接着力が低下すると、極板とセパレータとが意図しない状態で剥離し得る。この結果、極板間の距離が増大し、抵抗が増大するため、電池の出力性能が低下し得る。特に、電極端子の近傍は電流が集中する部分であるため、当該部分においては上記の剥離による影響が他の部分よりも大きい。
【0005】
本開示の目的は、電極端子の近傍における極板とセパレータとの接着強度を向上させた二次電池およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る二次電池は、本体部および本体部から第1の方向に沿って突出する電極端子部を含む極板と、極板に接着されたセパレータとを備え、極板の本体部は、第1の方向の中央付近に位置する中央領域と、第1の方向において中央領域に対して電極端子部に近い側に位置する第1領域と、第1の方向において中央領域に対して第1領域の反対側に位置する第2領域とを含み、第1領域における極板とセパレータとの単位面積あたりの接着強度は、第2領域における極板とセパレータとの単位面積あたりの接着強度よりも高い。
【0007】
本開示に係る二次電池の製造方法は、本体部および本体部から第1の方向に沿って突出する電極端子部を含む極板と、セパレータとを積層する工程と、積層された極板とセパレータとを熱接着する工程とを備え、極板の本体部は、第1の方向の中央付近に位置する中央領域と、第1の方向において中央領域に対して電極端子部に近い側に位置する第1領域と、第1の方向において中央領域に対して第1領域の反対側に位置する第2領域とを含み、熱接着する工程において、第1領域に加えられる単位面積あたりの熱量は第2領域に加えられる単位面積あたりの熱量よりも大きい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、二次電池の電極端子の近傍における極板とセパレータとの接着強度を向上させ、電池の出力性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の1つの実施の形態に係る二次電池の製造方法における熱接着工程を示す図である。
【
図2】
図1に示される熱接着工程により形成された接着部の分布を示す図である。
【
図4】熱接着工程における極板からの放熱について説明するための図である。
【
図5】本開示の1つの実施の形態に係る二次電池の電極体の構成要素を示す図である。
【
図6】
図5に示す構成要素を用いて形成した電極体を示す図である。
【
図7】
図6に示す電極体における正極板、負極板、およびセパレータの配置を示す図である。
【
図8】極板とセパレータとの接着強度を測定するための切り出し領域および測定領域の配置を示す図である。
【
図9】
図8に示す切り出し領域および測定領域の形状についてより詳しく説明するための図である。
【
図10】
図8に示す切り出し領域および測定領域における極板とセパレータとの接着強度を測定する工程を示す図である。
【
図11】極板にセパレータを接着した状態を示す断面図である。
【
図12】
図11に示す状態からセパレータを剥がしたときの接着痕を示す断面図である。
【
図13】
図8に示す測定領域A~Dにおける測定結果(ピール強度)を示す図である。
【
図14】
図8に示す測定領域A~Dにおける測定結果(接着痕濃度)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0011】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本開示の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本開示にとって必ずしも必須のものではない。
【0012】
本実施の形態に係る二次電池はリチウムイオン電池であるが、本開示の範囲はこれに限定されず、たとえばニッケル水素電池など他の二次電池も含み得る。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る二次電池の製造方法における熱接着工程を示す図である。本実施の形態に係る二次電池は、電極体100を含む。二次電池は、電解液とともに電極体100を収容ケース(図示せず)に収容することにより形成される。
【0014】
電極体100は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介装されるセパレータとを積層し、その積層体を加熱しながらプレスして、極板とセパレータとを熱接着することにより製作される。電極体100は、本体部110と、電極端子部120とを含む。
図1に示すように、電極体100は、熱盤200により加熱されながらプレスされる。
図1の例においては、熱盤200は略均一な温度となるように加熱されている。
【0015】
熱盤200は、本体210と、端子加熱部220とを含む。本体210は、第1部分211と第2部分212とを含み、第1部分211と第2部分212とによって電極体100の本体部110がプレスされる。端子加熱部220は、第1部分221第2部分222とを含み、第1部分221と第2部分222とによって電極体100の電極端子部120がプレスされる。
【0016】
熱盤200が電極体100をプレスするとき、熱盤200の本体210から電極体100の本体部110に向かって、矢印DR210に沿って熱が加えられる。また、熱盤200の端子加熱部220から電極体100の電極端子部120に向かって、矢印DR220に沿って熱が加えられる。
【0017】
図2は、
図1に示される熱接着工程により形成された接着部ADの分布を示す図である。
図2に示すように、極板10は、矩形状の本体部11と、本体部11から突出する電極タブ12(電極端子部)とを含む。電極タブ12は、
図2中の上側に向かって本体部11から突出するように形成されている。
【0018】
極板10とセパレータとを積層したとき、本体部11は、電極体100の本体部110を構成し、電極タブ12は、電極体100の電極端子部120を構成する。
【0019】
本体部110にはドット状の接着部ADが形成されている。接着部ADは、極板10とセパレータとの間の接着力を発揮している部分である。
図2に示すように、電極タブ12に近い側において、相対的に高い密度で接着部ADが形成されている。すなわち、電極タブ12に近い側において、相対的に高い接着強度が得られている。
【0020】
図3は、比較例に係る熱接着工程を示す図である。
図3に示す比較例においては、
図1に示す端子加熱部220が設けられていない。電極体100の本体部110には、熱盤200の本体210から矢印DR210に沿って熱が加えられ、これにより極板とセパレータとの間に接着部が形成されるが、電極端子部120は直接には加熱されない。
図3の例においても、熱盤200は略均一な温度となるように加熱されている。
【0021】
次に、
図4を用いて、熱接着工程中の電極体100からの放熱について説明する。
図4に示すように、熱接着工程においては、電極体100の本体部110の外周部から矢印H方向に熱が放出される。このように、本体部110の外周部においては、中央部と比較して放熱がされやすく、熱接着時の温度が相対的に低下するため、中央部と比べると極板とセパレータとの接着力が低くなりやすい。極板とセパレータとの接着力が低下すると、極板とセパレータとが意図しない状態で剥離する場合がある。
【0022】
極板10は、芯材上に活物質層を形成したものである。極板10の上縁端部(
図4中の上縁端部)においては、活物質層の厚みが相対的に薄くなる傾向にある。したがって、極板10を積層させた際に、下縁端部(
図4中の下縁端部)と比べて、電極タブ12近傍では極板10間の距離が大きく、熱抵抗が大きい。その結果、接着強度が十分得にくいため、上述の意図しない剥離が生じやすい傾向にある。
【0023】
以上の結果、電極体100の本体部110の外周部においては、各々の極板10間の距離が増大し、抵抗が増大し得る。このため、電池の出力性能が低下する。特に、電極端子部120の近傍は、電池の動作時に電流が集中する部分であるため、上記の剥離による影響は他の部分よりも大きい。したがって、電極端子部120の近傍において、極板10とセパレータとの接着強度を向上させ、極板10間の距離を安定させることは重要である。
【0024】
本実施の形態においては、
図1に示すように、熱盤200に端子加熱部220を設けることにより、電極体100に対し、矢印DR210方向に沿った入熱に加え、矢印DR220方向に沿った入熱を行なうことができる。これにより、電極端子部120に近い側(
図1中の右側、ならびに
図2および
図4中の上側)に位置する「第1領域」において、電極端子部120から遠い底辺側(
図1中の左側、ならびに
図2および
図4中の下側)に位置する「第2領域」よりも大きな単位面積あたりの熱量を加えた状態で、極板10とセパレータとの熱接着を行なうことができる。
【0025】
すなわち、本実施の形態において、極板10とセパレータとの熱接着工程は、電極体100の電極端子部120に近い側の「第1領域」をその反対側の「第2領域」よりも高い温度で加熱することを含む。端子加熱部220により電極端子部120が加熱されるので、電極端子部120側が相対的に高い温度で加熱される。
【0026】
これにより、追加の工程を伴なうことなく、電極端子部120の近傍に位置する本体部110を相対的に高い温度で加熱して、当該部分における極板10とセパレータとの接着強度を高めることができる。したがって、生産性を低下させることなく、電極端子部120近傍における接着強度を向上させることができる。
【0027】
本開示の範囲は上述の例に限定されない。たとえば、必ずしも本体部110の「第1領域」を「第2領域」よりも高い温度で加熱する必要はなく、たとえば、同じ温度でも「第1領域」を「第2領域」よりも相対的に長い時間加熱することにより、「第1領域」に加えられる熱量を「第2領域」に加えられる熱量よりも大きくしてもよい。
【0028】
また、必ずしも端子加熱部220により電極端子部120を加熱する必要はなく、たとえば、熱接着工程中に電極端子部120に対して熱風を浴びせることにより、電極端子部120に近い側に追加の熱量を加えてもよい。
【0029】
次に、
図5~
図7を用いて、電極体100の構造について詳細に説明する。
図5は、電極体100の構成要素を示す図であり、
図6は、
図5に示す構成要素を用いて形成した電極体100を示す図であり、
図7は、電極体100における極板およびセパレータの配置を示す図である。
【0030】
図5~
図7に示すように、電極体100は、正極板10Aおよひ負極板10Bを含む複数の極板10とセパレータ13とを積層して構成される。正極板10Aと負極板10Bとは、セパレータ13を介して交互に積層される。正極板10Aは本体部11Aと電極タブ12Aとを有し、負極板10Bは本体部11Bと電極タブ12Bとを有する。
【0031】
一例として、正極板10Aは、厚さ13μmのアルミニウム箔からなる芯材の両面に正極合材層を設けることにより形成される。正極合材層の圧縮処理後の片面厚さは62μmである。正極合材層は、LiNiCoMnO2(正極活物質)と、アセチレンブラック(導電材)と、PVDF[ポリフッ化ビニリデン樹脂](結着材)とを、質量比97:2:1の割合で含む。正極板10Aの本体部11Aの短手方向の幅は76.5mmであり、長手方向の幅は138.9mmである。電極タブ12Aの突出量は19.6mmである。
【0032】
一例として、負極板10Bは、厚さ8μmの銅箔からなる芯材の両面に負極合材層を設けることにより形成される。負極合材層の圧縮処理後の片面厚さは76μmである。負極合材層は、黒鉛(負極活物質)と、CMC[カルボキシメチルセルロース](増粘剤)と、SBR[スチレン-ブタジエン共重合体](結着材)とを、質量比98:1:1の割合で含む。負極板10Bの本体部11Bの短手方向の幅は78.2mmであり、長手方向の幅は142.8mmである。電極タブ12Bの突出量は18.2mmである。
【0033】
一例として、セパレータ13は、ポリエチレン単層基材の片面にセラミック耐熱層がコートされ、その両面にアクリル系樹脂から成る接着層がドット状に塗布された長尺状の部材である。各々のドットにおける接着剤の量は略同一である。ドットの個数密度は、セパレータの一方側面上において略一定である。セパレータ13における基材層の厚み12μmであり、耐熱層の厚みは4μmである。セパレータ13の幅は80.7mmである。
【0034】
一例としての電極体100は、上述の一例に係る正極板10A、負極板10B、およびセパレータ13を用いて作製される。正極板10Aおよび負極板10Bの電極タブ12A,12Bが互いに重ならないように配置しながら、セパレータ13を介して正極板10Aと負極板10Bとを交互に積層することにより、積層体としての電極体100が作製される。正極板10Aの積層数は35層、負極板10Bの積層数は36層である。電極体100は、設定温度115℃に加熱された熱盤200を用いて加熱プレスされる。このとき、電極体100の両側から2MPaの圧力が57秒間連続して付与される。
【0035】
次に、接着強度の測定方法と、その測定方法を用いた測定結果の一例について説明する。ここでは、上述の一例に係る電極体100を測定対象とし、「実施例」として端子加熱部220による加熱を行なう場合(
図1参照)と、「比較例」として端子加熱部220による加熱を行なわない(それ以外の条件は同一)場合(
図3参照)とについて行なった測定結果について説明する。
【0036】
図8は、接着強度を測定するための切り出し領域および測定領域の配置を示す図である。
図9は、切り出し領域20Aについてより詳しく示す図であり、
図10は、正極板10Aとセパレータ13との接着強度を測定する工程を示す図である。
【0037】
図8に示すように、切り出し領域20Aないし20Dは、測定領域AないしDを各々包含する。測定領域A,B,Dは、正極板10Aの本体部11Aの外周部に位置する。このうち、測定領域Aは、電極タブ12Aの直下に位置し、測定領域B,Dは、本体部11Aの長手方向(
図8中の左右方向)の中央部に位置する。測定領域A,Bは、本体部11Aの電極タブ12Aに近い側に位置する「第1領域」である。測定領域Dは、本体部11Aの電極タブ12Aとは反対側に位置する「第2領域」である。測定領域Cは、本体部11Aの短手方向(第1の方向:
図8中の上下方向)および長手方向(第2の方向:
図8中の左右方向)の中央付近に位置する「中央領域」である。
【0038】
まず、加熱プレス後の電極体100から、厚み方向の中央(35層中18層目)に位置する正極板10Aが取り出され、
図8,
図9に示す切り出し領域20Aないし20Dが、サンプル(20mm×70mm)として切り出される。
【0039】
次に、
図10に示すように、両面テープ30(ニチバン株式会社製のNW-20)を正極板10Aのサンプルの一方の正極合材層に張り付け、平滑なプラスチック基板に固定する。次に、基板面に対して90°の方向からセパレータ13を引っ張って、
図9中の矢印DR20方向に沿って剥離させることができるように、サンプルの長手方向におけるセパレータ13の一端部をデジタルフォースゲージ(日本電産シンポ株式会社製のFGP-5)の可動治具40に固定する。そして、サンプル(試験片)の正極合材層とセパレータとが50mm/分の速度で剥離するように可動治具40を移動させる。引っ張り方向は、常にサンプル(試験片)を固定しているプラスチック基板の基板面に対して90°の方向に維持する。
【0040】
たとえば、切り出し領域20Aの測定の場合、
図9に示す測定領域A(20mm×20mm)における剥離時に0.1mm間隔で測定したデジタルフォースゲージにかかる力の平均値が、正極合材層とセパレータとの剥離強度(ピール強度)として定義される。切り出し領域20Bないし20Dについても同様である。この剥離強度(ピール強度)が、当該部分における極板10とセパレータ13との「単位面積あたりの接着強度」に対応する。
【0041】
次に、
図11,
図12を用いて、極板10とセパレータ13との接着痕について説明する。
図11は、正極板10Aにセパレータ13を接着した状態を示す断面図であり、
図12は、
図11に示す状態からセパレータ13を剥がした状態を示す断面図である。
【0042】
図11に示すように、正極板10Aの本体部11Aは、接着剤14を介してセパレータ13と接着されている。セパレータ13は、基材13Aと耐熱層13Bとを有し、耐熱層13Bと正極板10Aの本体部11Aとが接着剤14を介して接着される。
【0043】
セパレータ13の基材13Aと耐熱層13Bとは、5~7N/m程度の比較的弱い力で接着されている。したがって、
図10に示す方法で剥離試験(ピール試験)を実施すると、接着剤14は正極板10Aおよび耐熱層13Bから剥がれず、耐熱層13Bが基材13Aから剥がれる。すなわち、セパレータ13の基材13Aと耐熱層13Bとの接着強度が弱いため、セパレータ13を剥がそうとすると、正極板10A上に、接着剤14とともに耐熱層13Bが「転写痕」として残る。その結果、正極板10Aの表面上には接着部分が白く転写される。この表面をカメラやスキャナ等で撮影した画像を2値化することで、「転写痕が占める面積の割合」としての接着痕濃度=[(白面積)/(黒面積)]を算出することができる。
【0044】
図13は、
図8に示す測定領域A~Dにおけるピール強度(剥離強度)の測定結果を示す図であり、
図14は、測定領域A~Dにおける接着痕濃度の測定結果を示す図である。
図13、
図14に示す測定結果は、
図8に示す測定領域A~Dについて、上述した具体的条件の下でピール強度(剥離強度)および接着痕濃度を測定したものである。
【0045】
図13、
図14において、「電極タブ加熱あり」(実施例)は、
図1に示すように、電極体100の本体部110および電極端子部120を加熱プレスした場合の測定結果であり、「電極タブ加熱なし」(比較例)は、
図3に示すように、電極体100の本体部110のみを加熱プレスした場合の測定結果である。
【0046】
図13に示すように、比較例に係る「電極タブ加熱なし」の場合には、正極板10Aにおける本体部11Aの外周部に位置する測定領域A,B,Dのピール強度(A:3.60、B:3.61、D:3.61[N/m])は略同じであるのに対し、本体部11Aの中央付近に位置する測定領域Cのピール強度(4.13[N/m])は、測定領域A,B,Dのピール強度よりも高い。
【0047】
実施例に係る「電極タブ加熱あり」の場合には、電極タブ12Aに近い側(
図8中の上側)に位置する測定領域A,Bのピール強度(A:4.60、B:4.54[N/m])が上昇する。測定領域C,Dのピール強度(C:4.16、D:3.60[N/m])は、「電極タブ加熱なし」の場合と略同じである。この結果、電極タブ12A側に位置する測定領域A,Bのピール強度が、測定領域C,Dのピール強度よりも高くなる。
【0048】
電極タブ12Aに近い側において安定した接着を実現する観点から、測定領域A,Bのピール強度は、測定領域Cのピール強度と同等以上、すなわち上述した測定方法により測定した場合に4.2[N/m]以上程度であることが好ましい。
【0049】
図14に示すように、比較例に係る「電極タブ加熱なし」の場合には、正極板10Aにおける本体部11Aの外周部に位置する測定領域A,B,Dの接着痕濃度(A:1.49、B:2.9、D:2.9[ppm×10
3])は略同じ、ないし測定領域Aが若干低いのに対し、本体部11Aの中央付近に位置する測定領域Cの接着痕濃度(5.7[ppm×10
3])は、測定領域A,B,Dの接着痕濃度よりも高い。
【0050】
実施例に係る「電極タブ加熱あり」の場合には、電極タブ12A側(
図8中の上側)に位置する測定領域A,Bの接着痕濃度(A:30.9、B:27.4[ppm×10
3])が大幅に増大する。測定領域C,Dの接着痕濃度(C:7.3、D:3.9[ppm×10
3])は、「電極タブ加熱なし」の場合と大差ない。この結果、電極タブ12A側に位置する測定領域A,Bの接着痕濃度が測定領域C,Dの接着痕濃度よりも高くなる。
【0051】
電極タブ12Aに近い側において安定した接着を実現する観点から、測定領域A,Bの接着痕濃度は、測定領域Cの接着痕濃度と同等以上、すなわち1.0×104[ppm]以上程度であることが好ましい。
【0052】
上述のとおり、電極体100においては、電極タブ12Aに近い側に位置する測定領域A,B(第1領域)における正極板10Aとセパレータ13との単位面積あたりの接着強度が、測定領域C(中央領域)に対して測定領域A,Bの反対側に位置する測定領域D(第2領域)における正極板10Aとセパレータ13との単位面積あたりの接着強度よりも高い。これは、極板とセパレータとの熱接着工程において、測定領域A,Bに加えられる単位面積あたりの熱量が、測定領域Dに加えられる単位面積あたりの熱量よりも大きいためであると考えられる。以上のことは、電極体100を構成する正極板10Aおよび負極板10Bの少なくとも一部、好ましくは全部において同様に実現される。
【0053】
なお、本開示の範囲は、セパレータ13の表面にドット状に接着層(接着剤14)が形成されるものに限定されず、セパレータの全面に接着層が形成される構造、セパレータ自体が接着性を有する構造、ならびに正極板および負極板の表面に接着層が形成される構造等も本開示に含まれる。すなわち、セパレータと極板との間(セパレータ自体も含む)に接着層が存在すればよい。
【0054】
また、本開示において、接着層の材質や形状は特に限定されず、公知の材料を適宜選択して使用することが可能である。接着層は、接着性を有する複数の粒子が集まったものでもよい。接着層は溶着するものでもよく、あるいは加熱により軟化し、極板ないしセパレータの表面の凹凸部に入り込むことにより極板とセパレータとを接着するようなものでもよい。
【0055】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
10 極板、10A 正極板、10B 負極板、11,11A,11B 本体部、12,12A,12B 電極タブ、13 セパレータ、13A 基材、13B 耐熱層、14 接着剤、20A~20D 切り出し領域、30 両面テープ、40 可動治具、100 電極体、110 本体部、120 電極端子部、120A 正極端子部、120B 負極端子部、200 熱盤、210 本体、211 第1部分、212 第2部分、220 端子加熱部、221 第1部分、222 第2部分、A~D 測定領域。