(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】レジスト剥離方法、レジスト剥離装置、及び、前処理方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/42 20060101AFI20221202BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20221202BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
G03F7/42
H01L21/30 572B
H01L21/304 647Z
H01L21/304 645B
(21)【出願番号】P 2020144073
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000245531
【氏名又は名称】野村マイクロ・サイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】230100022
【氏名又は名称】山田 勝重
(74)【代理人】
【識別番号】100084319
【氏名又は名称】山田 智重
(74)【代理人】
【識別番号】100120204
【氏名又は名称】平山 巌
(72)【発明者】
【氏名】自在丸 隆行
(72)【発明者】
【氏名】船越 考雄
(72)【発明者】
【氏名】白井 泰雪
(72)【発明者】
【氏名】藤本 久
(72)【発明者】
【氏名】酒井 健
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-088065(JP,A)
【文献】特開2002-134401(JP,A)
【文献】特開2010-118681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/00 - 7/42
H01L 21/027
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に成膜されたレジストを剥離するレジスト剥離方法であって、
前記レジストを、所定温度範囲の加熱
水蒸気に所定時間暴露させ
、前記レジストにクラックを生じさせる前処理工程と、
前記前処理工程において前記
クラックが生じた前記レジストを、
所定範囲のpHに調整したオゾン水を用いて剥離処理する剥離処理工程と、を備え、
前記所定時間は
前記レジストに基づいて設定され、
前記レジストはイオン注入処理されたレジストであり、
前記所定温度範囲は200°C以上300°C以下であることを特徴とするレジスト剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境負荷の少ないレジスト剥離液を用いるレジスト剥離方法、レジスト剥離装置、及び、前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の製造工程においては、レジストを用いて精細なパターンが形成される。レジストは、例えば、ノボラック樹脂等の有機物が使用される。近年では、電子材料の微細化、高機能化等が進むにつれて、レジストへのイオン注入を始めとして製造工程が複雑になり、イオン注入されて硬度が高まったレジストの剥離除去には、より多くの時間やコストが費やされるようになりつつある。
【0003】
レジストの剥離除去においては、例えば、硫酸と過酸化水素水水溶液やアミン系レジスト剥離剤を用いて剥離除去を行ない、その後アンモニア・過酸化水素水溶液による洗浄を行う。このような工程では、薬液が多量に使用され、廃液を処理するために多大なコストや時間を必要とし、環境への負荷という面においても好ましくない
【0004】
これに対して、比較的環境への負荷の小さなオゾン水を用いた剥離が提案されている。オゾン水を用いた剥離は、レジストの除去速度が遅いため、加熱オゾン水を用いることが検討されているが、温度上昇にともなってオゾン水中のオゾン濃度が低下してしまうため、高濃度の加熱オゾン水を得ることが難しい。この問題を解決するために、特許文献1に記載の加熱オゾン水の製造方法においては、酸を添加してpHを3以下に調整した純水にオゾンガスを溶解させ、60°C以上に加熱することとしている。
【0005】
また、水蒸気によるレジストの物性変化、例えば、軟化、膨張、水和、膨潤、凝固などを利用してレジスト膜を剥離することも提案されている。特許文献2に記載のレジスト膜除去装置においては、飽和水蒸気又は加熱水蒸気をレジスト膜に噴射させ、水蒸気の作用によってレジスト膜を剥離することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2019/212046号公報
【文献】特開2001-250773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体製造等における、レジスト剥離工程においては、一般的に硫酸と過酸化水素水水溶液やアミン系等の剥離液を多量に使用するため環境負荷やコストが問題となっている。そのため、これら既存の薬品を使用しない方法が試みられている。しかし、上述のオゾン水や水蒸気を用いた剥離では十分に剥離できないケースも見られるまた、オゾンガスと水蒸気との混合ガス(湿潤オゾン)での処理ではレジスト剥離できない例もあった。
【0008】
また、近年、特に半導体製造の微細化がさらに進むにつれて、レジストへのイオン注入量がますます増加する傾向にあり、イオン注入量が1014~1016個/cm2に至る場合もある。このような多量のイオンが注入されたレジストは、イオン注入量の増加に伴ってレジスト表面が急激に硬くなっているため、レジスト剥離はますます困難となってきている。
【0009】
このような状況に鑑み、本願発明者らは、上述のように多量にイオン注入されたレジストの剥離において、クエン酸を用いてpH調整した高濃度オゾン水を用いることが有効であることを見出した。しかし、その後の研究にて、このレジスト剥離においては、レジストの塗布幅によって剥離性が異なり、特に幅の広い塗布幅の場合には、レジストが除去しにくくなる場合があることを知見した。そこで、さらなる鋭意研究により、オゾン水による処理の前処理として、所定の条件下で加熱水蒸気処理を行うことにより、塗布幅によらずに一定の剥離性を確保することができるレジスト剥離方法を見出し本発明の完成に至った。
【0010】
そこで本発明は、環境への負荷に十分に配慮しながら、剥離に要する処理の時間やコストを抑えつつ、レジストを剥離することができる剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のレジスト剥離方法は、基板上に成膜され、レジストを剥離するレジスト剥離方法であって、レジストを、所定温度範囲の加熱蒸気に所定時間暴露させる前処理工程と、前処理工程において加熱蒸気に暴露されたレジストを、レジスト剥離液を用いて剥離処理する剥離処理工程と、を備え、所定温度範囲及び所定時間は、レジストに基づいて設定されることを特徴としている。
【0012】
本発明のレジスト剥離方法において、レジストはイオン注入処理されたレジストであることが好ましい。
【0013】
本発明のレジスト剥離方法において、レジスト剥離液は、所定範囲のpHに調整したオゾン水であることが好ましい。
【0014】
本発明のレジスト剥離装置は、基板上に成膜されたレジストを剥離するレジスト剥離装置であって、加熱蒸気を生成する加熱蒸気生成部と、レジストに加熱蒸気を所定時間暴露させる蒸気供給部と、レジストを暴露させる加熱蒸気を所定温度範囲とする温度制御部と、所定時間を制御する時間制御部と、蒸気供給機によって加熱蒸気が暴露されたレジストを、レジスト剥離液を用いて剥離処理するオゾン水処理装置と、を備え、所定温度範囲及び所定時間は、レジストに基づいて設定されることを特徴としている。
【0015】
本発明の前処理方法は、基板上に成膜されたレジストを、所定濃度範囲のオゾン水を用いて基板から剥離処理する直前の前処理方法であって、加熱蒸気を生成する加熱蒸気生成工程と、レジストに加熱蒸気を所定時間暴露させる加熱蒸気供給工程と、を備え、レジストを暴露させる加熱蒸気は、温度制御部によって所定温度範囲に制御され、所定温度範囲及び所定時間は、レジストに基づいて設定されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、環境への負荷に十分に配慮しながら、剥離に要する処理の時間やコストを抑えつつ、幅の広狭や成膜場所によらずに、レジストを剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態におけるレジスト剥離装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るレジスト剥離方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】実施例における、加熱蒸気生成器及び蒸気供給部の概略構成を示す図である。
【
図4】(a)は実施例2において対象物としてのチップに前処理を行う前の状態を示す写真、(b)は(a)の状態のチップに前処理を行った後の状態を示す写真である。
【
図5】(a)は
図4(b)の状態のチップに対してレジスト剥離処理を開始し、5分経過した状態を示す写真、(b)は(a)の状態からレジスト剥離処理をさらに継続し、レジスト剥離処理開始から10分以上経過した状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るレジスト剥離方法、レジスト剥離装置、及び、前処理方法について図面を参照しつつ詳しく説明する。本実施形態のレジスト剥離方法は、
図1に例示するレジスト剥離装置10を用いて実施される。
【0019】
図1に示すレジスト剥離装置10は、加熱蒸気生成器20(加熱蒸気生成部)と、蒸気供給部30(蒸気供給機)と、制御部40と、オゾン水処理装置50とを備える。これらのうち、加熱蒸気生成器20、蒸気供給部30、及び、制御部40は、オゾン水を用いてレジストから剥離処理する直前の前処理に用いる前処理装置を構成する。
【0020】
加熱蒸気生成器20は、ボイラー21において高温・高圧の蒸気を発生させ、この蒸気を加熱器22でさらに飽和温度以上の所定温度範囲まで加熱して加熱蒸気とする。上記所定温度範囲は、基板上に成膜されるレジストの物性、膜厚その他の成膜条件、及び、このレジストに対して注入されたイオンの種類、量その他の注入条件に基づいて設定される。加熱器22で生成された加熱蒸気は蒸気供給部30によって基板上の所定範囲へ供給される。ここで、レジストに対するイオン注入処理で注入されるイオン量は、例えば1014個/cm2以上である。
【0021】
ボイラー21としては、ヒーター、焜炉、既存のボイラーなどを用いることができ、加熱器22としては、金属製の管路中を流れる蒸気をバーナーやアルコールランプで加熱する構成のほか、リボンヒーター、2重管式熱交換器、プレート式熱交換器等の各種の加熱器を用いることができる。
【0022】
蒸気供給部30は、基板に対する加熱蒸気の暴露条件、例えば、吐出(暴露)の範囲、吐出速度(圧力)、吐出時間を調整可能な構成を備える。蒸気供給部30は加熱器22からの加熱蒸気の吐出口として構成してもよい。この場合、管路の内径サイズ、管路出口の形状、管路出口に設けた弁の構成などによって、基板への吐出条件を設定することもできる。蒸気供給部30からの加熱蒸気の供給形態は特に限定しないが、ノズル形状として蒸気を吹き付ける形態とすると、吹きつけの範囲や速度を制御しやすくなる。
【0023】
ボイラー21における加熱、及び、加熱器22における加熱は、制御部40の温度制御部41によって制御され、この制御によって、所定温度範囲の加熱蒸気が生成される。
【0024】
蒸気供給部30からの加熱蒸気の供給時間は、制御部40の時間制御部42によって制御される。また、基板に対する加熱蒸気の吐出範囲、吐出速度(圧力)は、制御部40が、加熱器22及び蒸気供給部30のうちの少なくとも蒸気供給部30を制御することによって所定の範囲に設定される。蒸気供給部30から基板へ加熱蒸気が供給される時間(所定時間)は、加熱蒸気の温度、基板上に成膜されるレジストの物性、膜厚その他の成膜条件、及び、このレジストに対して注入されたイオンの種類、量その他の注入条件に基づいて設定される。
【0025】
ここで、加熱蒸気生成器20で加熱状態とする気体は水蒸気であることが好ましい。水蒸気は、他の気体と比較して著しく効果が大きいからである。水蒸気は、一般的な気体、例えば窒素、に比べて比熱が高いため、基板上のレジストを急速に加熱することができ、これによりレジストにクラックを発生させやすいと考えられるが、単にそれだけではなく、水蒸気のレジストへの浸透や水蒸気による触媒作用等によるクラック発生の促進効果が起きるためと考えられる。
【0026】
制御部40は、加熱蒸気の生成・供給のほかに、オゾン水処理装置50の動作を制御する。オゾン水処理装置50は、所定範囲のpH(水素イオン指数)と所定範囲の濃度とを有するオゾン水を生成するオゾン水生成部51と、オゾン水生成部51で生成されたオゾン水を、加熱蒸気に暴露した後の基板に対して供給するためのオゾン水供給部52とを備える。
【0027】
オゾン水生成部51では、既存の手順によって所定範囲の濃度のオゾン水が生成されるとともに、オゾン水のpHを調整するための添加剤、例えば炭酸、クエン酸、酢酸、塩酸、硫酸等、を加えることによって所定範囲のpHを有するオゾン水を生成する。pHとしては、炭酸を用いる場合、4~5が好ましい。クエン酸、酢酸、塩酸、硫酸等を用いる場合には、1.5~5が好ましく、2~3がより好ましい。オゾン水の濃度としては、例えば、炭酸の場合、常温においては100~250ppmである。クエン酸、酢酸、塩酸、硫酸等の場合、常温においては200~600ppm、80°Cにおいては100~250ppmである。
【0028】
ここで、前処理を行った後のレジスト剥離に用いる、レジスト剥離液としては、オゾン水のほか、水系又は非水系のレジスト剥離液を用いることができ、例えば、既存のアミン系レジスト剥離液、炭酸アルキレン系レジスト剥離液が挙げられるが、レジストの剥離性や、環境への負荷の軽減の観点からオゾン水を用いることが好ましい。
【0029】
レジスト剥離装置10を用いたレジスト剥離方法は、
図2に例示する手順によって実行される。
加熱蒸気供給の初期設定として、制御部40は、加熱蒸気生成器20で生成する加熱蒸気の温度範囲と、蒸気供給部30から供給する加熱蒸気による基板の暴露時間を設定する(ステップS1)。
【0030】
制御部40は、上記ステップS1で設定した温度範囲となるように温度制御部41を制御し、この制御に従って温度制御部41は、ボイラー21及び加熱器22をそれぞれ動作させ、加熱蒸気を生成させる(ステップS2、加熱蒸気生成工程)。
【0031】
生成された加熱蒸気は、時間制御部42から指示された所定時間だけ基板を暴露させるように蒸気供給部30から供給される(ステップS3、前処理工程、加熱蒸気供給工程)。このときの、時間以外の供給条件は、制御部40によって制御される。
【0032】
一方、オゾン水処理の初期設定として、制御部40は、オゾン水処理装置50で生成するオゾン水の濃度及びpHを設定する(ステップS4)。制御部40は、上記ステップS4で設定した濃度及びpHとなるオゾン水を生成するようにオゾン水生成部51を制御する(ステップS5)。
【0033】
上記ステップS3で加熱蒸気に暴露された基板は、上記ステップS5で生成されたオゾン水を用いて、成膜されているレジストの剥離処理が施される(ステップS6、剥離処理工程)。
【0034】
加熱蒸気を暴露させて行う前処理としては、最適条件がある。例えば、一定の時間(所定時間)よりも長い時間に渡って前処理を行うと、レジストが変質するため、その後の剥離処理工程において剥離しにくくなる。加熱蒸気の温度についても、一定の範囲(所定温度範囲)よりも高くなると、その後の剥離において、レジストの幅によっては剥離が難しくなる場合がある。
【0035】
前処理の最適条件は、レジストの種類(物性)・膜厚や、レジストへ注入したイオンの量・種類などによって変化するが、例えば以下の実施例では、200°Cから350°C、1秒から60秒未満、好ましくは3秒から30秒未満、さらに好ましくは、5から30秒未満であった。好ましい前処理を行った場合には、レジストにクラックが入るため、この後行う、オゾン水を用いた剥離処理の際に、クラックからレジスト剥離液(例えばオゾン水)がレジスト内部、又は、レジストと基板との間に侵入しやすくなる。これにより、レジストが基板から剥離されやすくなり、剥離処理が速やかに行えるようになる。なお、レジスト剥離剤としてオゾン水を用いた場合に最も著しく剥離性が向上したことから、オゾン水が最もクラックから侵入しやすいと推測している。
【0036】
上記最適条件で前処理を行った場合、幅の広狭に関わらずにレジストを剥離することができる。従来の剥離方法では、基板の隅部などに配置される幅の広いレジストを完全に剥離することが困難な場合があり、このような場合に、酸素プラズマなどの反応性ガスのプラズマを発生させ、レジストを二酸化炭素や水に分解して除去するアッシングという手法が取られることがあった。
【0037】
しかし、アッシングでは、(1)プラズマを発生させることで基板に化学的又は物理的な変化を生じさせてしまう、(2)分解した結果物が基板に残存してしまう、(3)プラズマを発生させる装置は高価である、(4)プラズマ発生装置を並設することで、ほかの装置のサイズや配置に制約が生じてしまう、と言った問題を有していた。これに対して、本実施形態のレジスト剥離装置10では、このような問題を生じさせることなく、各種の幅のレジストを確実に剥離することができる。すなわち、本発明を用いると、アッシング自体を行なわない、もしくは、アッシング条件を大幅に緩和することができるので、アッシング時の基板への悪影響を最小限にとどめることが可能である。
【0038】
一方、前処理を上記最適条件以外の条件で行った結果、レジストにおいてクラックの発生に至らず、レジストにしわが入った程度の状況となる場合がある。このような場合では、レジスト剥離液がレジストの内部や、レジストと基板との間に侵入しないため、例えばレジスト表面からレジスト剥離液が浸透した範囲では剥離が見られるものの、レジストが完全に剥離されるには相当な時間を要する。
【0039】
また、前処理の時間が長すぎる場合など、上記最適条件以外の条件で行った結果、レジストにクラックは入るものの、そのまま硬化してしまうケースがあり、このようなケースではその後の剥離処理でレジストの除去が難しくなる。
【0040】
以下、上記実施形態の実施例について説明する。実施例においては、上記レジスト剥離装置10の加熱蒸気生成器20及び蒸気供給部30として
図4に示す装置を用いた。
図4に示す装置においては、上記レジスト剥離装置10における、ボイラー21及び加熱器22として、電熱式のヒーター121、及び、2台のアルコールランプ122が設けられている。
【0041】
ヒーター121で発生した水蒸気は、内径3mmの銅管123内を移動して、前処理の対象物としてのチップS近傍の出口に設けたノズル出口130から、チップSへ噴射される。銅管123は、2台のアルコールランプ122のそれぞれの上方位置において、直径30mmのコイル上に3回巻き回され、それぞれの位置で、対応するアルコールランプ122に接近するように配置されている。このような配置により、銅管123内を流れる水蒸気は加熱状態となる。
【0042】
上記レジスト剥離装置10の蒸気供給部30に対応する、上記ノズル出口130の近傍には、噴射された加熱蒸気の温度を測定可能とした熱電対161が配置され、この熱電対161による検知結果に基づいて演算部160において温度が算出される。
【0043】
実施例又は比較例における実験条件は次の通りである。
チップS(対象物):レジスト(TDUR-P3116EM(東京応化工業株式会社製、商品名、KrFエキシマレーザ用ポジ型フォトレジスト)を塗布したウェーハ(基板)に、AsH3ガスを用いて、ヒ素(As)を2×1015個/cm2イオン注入した。チップの平面サイズは2cm×2cmである。
【0044】
加熱蒸気処理は、加熱蒸気出口流量:10~20L/min(200°C~400°C、1気圧)で行った。気体流量は、ヒーター121で加熱されるビーカー内の水の減少量によって算出した。
【0045】
比較例2における窒素処理については、ヒーター121に代えて、銅管123に対して、減圧弁を介して窒素ボンベを接続し、さらに銅管123に流量計を接続して流量を計測しながら窒素を供給した。
【0046】
オゾン水処理:野村マイクロ・サイエンス株式会社製 オゾン水製造装置 ノムレクソンNOM-5-150を用いて、レジスト剥離処理のためのオゾン水を製造した。このオゾン水は、クエン酸の添加によりpHを2.5とし、温度80°C、濃度200ppm、流量1L/minで供給した。
【0047】
加熱気体による前処理の条件は、以下の表1に示す通りである。表1における温度は、チップSに対して噴射して暴露させた気体の温度を、熱電対161を用いて測定し、時間は、噴射開始から終了までの時間である。
【0048】
チップSには、
図4(a)に示すように、一定の幅、又は、配線の配線との間隔を有する、線状のレジストが形成されている。具体的には、幅20μmのレジストR20、幅50μmのレジストR50、及び、幅400μmのレジストR400が形成されている。
【0049】
表1における記号A~Dはそれぞれ、以下のような、レジストの剥離除去についての評価結果を示している。
A:幅20μm、50μm、400μmのレジストのいずれも除去できた。
B:幅20μm、50μmのレジストは除去できた。幅400μmのレジストでは、一部残るが、実用上問題ない程度に、ほとんど除去できた。
C:幅20μm、50μmのレジストは除去できたが、幅400μmのレジストは除去できなかった。
D:幅20μmのレジストは除去できたが、幅50μm、400μmのレジストは除去できなかった。
E:幅20μm、50μm、400μmのレジストのいずれも除去できない。
【0050】
ここで、前処理におけるレジストでのクラックの発生、及び、オゾン水処理におけるレジストの剥離除去の実例について、下記実施例2に対応する、
図4と
図5を参照して説明する。なお、
図4と
図5は、顕微鏡写真であって、各図に示す目盛りはmm単位の数値を示している。
【0051】
図4(b)は、
図4(a)のようにレジストが形成されたチップに対して、300°Cの加熱水蒸気を10秒間噴射・暴露させた後の状態を示している。
図4(b)に示すように、黒いレジストの一部に白いクラックCLが生じていることが分かる。
【0052】
図5(a)は、
図4(b)のチップに対して、pH2.5、温度80°C、濃度200ppmのオゾン水を流量1L/minで供給している途中の状態(5分経過後の状態)を示している。
図5(a)に示すように、幅20μmのレジストR20と、幅50μmのレジストR50は除去されている一方、幅400μmのレジストR400の一部に黒い筋状のレジストRLが残存していることが分かる。この状態は、上記評価A~EのうちのBに相当する。
【0053】
図5(b)は、
図5(a)の状態から、さらにオゾン水を供給し、供給開始から10分以上経過した状態を示している。
図5(b)に示すように、幅20μm、50μm、幅400μmのいずれのレジストも完全に剥離除去されている。この状態は、上記評価A~EのうちのAに相当する。
【0054】
次に表1に基づいて実施例と比較例について説明する。
表1に示すように、実施例1~3においては、オゾン水処理時間60分までに評価Aを得ており、幅20、50、400μmのレジストを剥離除去できていることが分かる。
【0055】
これに対して、比較例1~6においては、実用的な時間範囲である60分までの時間内で評価Aに至っておらず、レジストを剥離除去できていないことが分かる。
【0056】
実施例1~3と比較例1~6を比較すると、前処理で用いる気体としては水蒸気が好ましく、加熱温度200又は300°C、かつ、時間10秒又は20秒で前処理を行うことにより、その後のオゾン水処理で実用的な時間内に、幅の広狭に関わらずにレジストを確実に剥離除去することができることが分かる。さらに比較すると、水蒸気の加熱温度範囲200°C以上350°C以下で5秒以上30秒未満の時間範囲では、比較例1~6では得られなかった、レジスト剥離除去の高い効果を得られるものと考えられる。本願の方法を用いると、高度にイオン注入されたレジストでも好適に剥離可能であることが明らかとなった。
【0057】
【表1】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 レジスト剥離装置
20 加熱蒸気生成器
21 ボイラー
22 加熱器
30 蒸気供給部
40 制御部
41 温度制御部
42 時間制御部
50 オゾン水処理装置
51 オゾン水生成部
52 オゾン水供給部
121 ヒーター
122 アルコールランプ
123 銅管
130 ノズル出口
160 演算部
161 熱電対
S チップ(対象物)