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特許7186753突入電流制限用の電子デバイスおよび電子デバイスのアプリケーション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】突入電流制限用の電子デバイスおよび電子デバイスのアプリケーション
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/04 20060101AFI20221202BHJP
   H01C 1/14 20060101ALI20221202BHJP
   H02H 9/02 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
H01C7/04
H01C1/14 Z
H02H9/02 B
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020160004
(22)【出願日】2020-09-24
(62)【分割の表示】P 2018554544の分割
【原出願日】2017-04-18
(65)【公開番号】P2021010014
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】102016107931.6
(32)【優先日】2016-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】ティーディーケイ・エレクトロニクス・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】TDK ELECTRONICS AG
【住所又は居所原語表記】Rosenheimer Strasse 141e, 81671 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー,ヴィシュナート
(72)【発明者】
【氏名】ホフリヒター,アルフレッド
(72)【発明者】
【氏名】リナー,フランツ
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-070701(JP,U)
【文献】特開昭63-138705(JP,A)
【文献】特開2013-197127(JP,A)
【文献】特開2011-222737(JP,A)
【文献】特開平07-029667(JP,A)
【文献】特表2018-510507(JP,A)
【文献】米国特許第06081416(US,A)
【文献】米国特許第4447799(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/04
H01C 1/14
H02H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
突入電流制限のための電子デバイス(1)であって、
少なくとも1つのNTC素子(2)と、
少なくとも2つの導電性の接続部材(3)と、
を備え、
前記NTC素子(2)は、1つの結合材料(7)を介してそれぞれの前記接続部材(3)と電気的に導通して結合されており、
それぞれの前記接続部材(3)の熱膨張係数は、前記NTC素子(2)の熱膨張係数に合わせ込まれており、
前記NTC素子(2)は、25℃の温度で公称抵抗R25≦1Ωを備え、
前記電子デバイス(1)は、12V及び24V電源における直流電圧で1000Aまでの電流での使用に適用され得、
前記NTC素子(2)は、以下の組成
La(1-x)EA(x)Mn(1-a-b-c)Fe(a)Co(b)Ni(c)(3±δ)
を備え、
0≦x≦0.5、および0≦(a+b+c)≦0.5であり、EAはアルカリ土類元素を表し、δは、化学当量的な酸素の比率からのずれを表し、当該アルカリ土類元素(EA)は、マグネシウム、ストロンチウム、またはバリウムから選択されており、|δ|≦0.5となっており、
前記電子デバイス(1)は、1つの固定部材(10,11)を備え、
前記固定部材(10,11)は、前記接続部材間の機械的結合を生成するように構成されて配設され、
前記固定部材(10,11)は、-40℃の動作温度での前記NTC素子(2)の抵抗と同じかあるいは大きくなっている電気抵抗を有し
前記固定部材(10,11)は、前記NTC素子と前記接続部材との間の導電性の結合部が破損した場合でも、電力を制限された量で前記電子デバイスに供給することができるよう、前記NTC素子と前記接続部材との間の導電性の結合部が破損した場合にも、十分な前記接続部材間の電気的接続を提供する、ことを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の電子デバイスにおいて、
前記NTC素子(2)は、上面および下面を備え、
前記上面および前記下面は、少なくとも部分的にそれぞれの接続部材(3)によって電気的に導通して接続されている、ことを特徴とする電子デバイス。
【請求項3】
前記接続部材(3)は、1つの複合材料を備える、ことを特徴とする請求項1または2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子デバイスにおいて、
前記接続部材(3)は、銅を含み、
前記接続部材(3)は、インバールまたはコバールを含む、ことを特徴とする電子デバイス。
【請求項5】
前記接続部材(3)は、銅-インバール-銅の1つのシート構造を備え、10%≦銅≦30%,50%≦インバール/コバール≦80%,10%≦銅≦30%の厚さの比を有する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項6】
前記結合材料(7)は、焼結銀を含むこと、を特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項7】
前記NTC素子(2)は、2個,3個,またはこれ以上のセグメント(2a)を備える、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項8】
前記電子デバイス(1)の初期状態における前記NTC素子(2)の電気比抵抗は、2Ωcm以下である、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項9】
前記接続部材(3)は、厚さdを有し、0.3mm≦d≦0.8mmとなっている、ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項10】
前記NTC素子(2)は、厚さdを有し、100μm≦d≦600μmとなっている、ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の電子デバイスにおいて、
前記電子デバイス(1)は、複数のNTC素子(2)および複数の接続部材(3)を備え、
複数の前記NTC素子(2)は互いに並列に回路接続されている、ことを特徴とする電子デバイス。
【請求項12】
請求項11に記載の電子デバイスにおいて、
前記NTC素子(2)は積層体形状に上下に重なって配設されており、
隣り合った2つの前記NTC素子(2)の間には、それぞれ1つの接続部材(3)が配設されており、
複数の前記NTC素子(2)は、前記接続部材(3)を介して互いに熱的にカップリングされている、ことを特徴とする電子デバイス。
【請求項13】
前記NTC素子(2)は、7ppm/K~10ppm/Kの熱膨張係数を備える、ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の電子デバイス(1)の、自動車分野におけるスタート/ストップシステムへのアプリケーション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は突入電流制限用の電子デバイスに関する。さらに本発明は、電子デバイスのアプリケーションに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野(普通車、貨物自動車)におけるスタート/ストップシステムは、燃料節約のための大きな可能性を示し、このため殆ど全ての新しい自動車に組込まれている。このシステムでは、車載電源電圧の低下を防ぐために、スターターの突入電流が制限されなければならず、これによって具体的には安全関連のアプリケーション(ABS,ESP)が十分に電源供給される。
【0003】
燃焼エンジンのスタート過程用にはこのため1つの熱的に制御された突入電流リミッタ(ICL)を使用することができる。この燃焼エンジンをアイドリングストップの後で再スタートする際には、スターターモーターの必要電流のために、12V電源は短時間に1000Aに達する負荷がかかる。通常の12Vバッテリは、この追加出力によって大きな負荷がかかり、その電源電圧は数ボルト低下する。この低下は、車載電気システムにおける他の負荷装置の機能不全をもたらし得る。これを避けるためには、電圧低下を避けるかあるいは低減しなければならない。この電圧低下の低減のために、たとえば1つのNTC(負温度係数:Negative Temperature Coefficient)デバイスを使用することができる。
【0004】
断面が1cmより大きく、そして長さが1mmより大きい、このNTCデバイスの予想される寸法では、小さな電気抵抗を有する面状の接続部が必要である。さらにこのデバイスは動作の際に大きな温度変動に晒され、この際ICLセラミックの熱膨張係数は、良好な導電体(たとえば銅)の熱膨張係数よりも大幅に小さい。これに起因する熱機械的応力は、このデバイスの破壊をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、突入電流制限のための改善された電子デバイスならびに改善されたデバイスのアプリケーションを提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの課題は、請求項1に記載の電子デバイスおよび請求項17あるいは18に記載のアプリケーションによって解決される。
【0007】
1つの態様によれば、1つの電子デバイス(デバイスと略称)が提示される。この電子デバイスは、突入電流リミッタに使用されるように、あるいは突入電流リミッタとして動作するように構成されている。このデバイスは、少なくとも1つのNTC素子を備える。このNTC素子は、このデバイスの機能素子あるいは機能層として用いられる。このNTC素子は、1つのNTCセラミックを備える。このデバイスは、複数のNTC素子、たとえば2個、3個、5個、または10個のNTC素子を備えてよい。このNTC素子は、円盤形状または小板形状で(丸く)形成されていてよい。しかしながらこのNTC素子は、矩形または円環形状の面を備えてよい。
【0008】
このNTC素子上には、好ましくはこのNTC素子の上面または下面上に、1つのメタライジング部が配設されている。このメタライジング部は、好ましくは銀を含んでいる。この代替としてこのメタライジング部は、銅または金を含んでいてもよい。このNTC素子は、1つのモノリシックなデバイスであってよい。この場合、上記のNTCセラミックは、プレス技術で製造され、そして続いてラッピング(両面の精密研磨)によって所望の形状あるいは所望の厚さとされる(モノリシック厚膜:Dickschichtmonolith)。この代替として上記のNTC素子は、モノリシック多層膜(Vielschichtmonolith)として形成されていてもよい。この場合には、このNTC素子を準備するために、セラミックシート(複数)が上下に重なって積層され、そしてプレスされる。
【0009】
このデバイスは少なくとも2つの導電性の接続部材または電極を備える。これらの接続部材は、平坦に形成されている。これらの接続部材は、上記のNTC素子との導電性の接続および熱的結合のために形成されて配設されている。このデバイスは、複数の接続部材を備えてよく、たとえば5個,10個,または15個の接続部材を備えてよく、この際これらによって個々のNTC素子は熱的に良好にカップリングされていなければならない。
【0010】
上記のNTC素子は、1つの結合材料を介してそれぞれの接続部材と電気的に導通して結合されている。このNTC素子は、この結合材料を介してそれぞれの接続部材と熱的にも結合されている。この結合材料によって、このNTC素子とこれらの接続部材との間に安定した、高い導電性の、そして機械的に丈夫な結合が形成される。
【0011】
それぞれの接続部材の熱膨張係数は、上記のNTC素子の熱膨張係数に合わせ込まれている。好ましくはこれらのNTC素子および接続部材の熱膨張係数はほぼ等しくなっている。
【0012】
たとえば上記のNTC素子は、7ppm/K~10ppm/Kの熱膨張係数を備える。好ましくはそれぞれの接続部材は、これに相当する1つの熱膨張係数を備える。このそれぞれの接続部材の熱膨張係数は、好ましくは5ppm/K~10ppm/Kの範囲にある。
【0013】
この熱膨張係数(CTE)の合わせ込みによって、NTC素子および接続部材の材料によって決まる熱膨張の差の低減あるいは合わせ込みが達成される。以上により熱膨張に起因する応力を低減または避けることができる。こうしてとりわけ安定した、信頼性が高くそして長寿命のデバイスが提供される。
【0014】
1つの実施形態例によれば、上記のNTC素子は、上面および下面を備える。上面と下面は互いに反対側にあり、そしてそれぞれこのNTC素子の端面によって境界となっている。この上面およびこの下面は、それぞれ少なくとも部分的にそれぞれの接続部材によって電気的に導通して接続されている。製造プロセスによっては特に、この上面あるいはこの下面の僅かな縁部層あるいは僅かな縁部領域が接続されないままとなり得る。
【0015】
しかしながらこの上面およびこの下面は、それぞれ全面的にそれぞれの接続部材によって電気的に導通して接続することができる。換言すれば上記のNTC素子は、2つの接続部材の間に組込まれており、こうして上面および下面は、それぞれ部分的または完全に1つの接続部材によって覆われる。以上により上記のNTC素子のとりわけ信頼性の高い接続およびNTC素子と接続部材との間のとりわけ安定した結合を実現することができる。
【0016】
1つの実施形態例によれば、上記の接続部材は、1つの複合材料を備える。換言すれば、この接続部材は、複数の材料から成っている。それぞれの接続部材は、好ましくは銅を含む。銅は、その非常に大きな導電率ならびに非常に大きな熱伝導率を特徴としている。さらにこの接続部材は、好ましくはインバールおよび/またはコバールおよび/またはモリブデンを含んでいる。これらの材料は、その小さな熱膨張係数を特徴としている。好ましくは上記のそれぞれの接続部材は、銅-インバール-銅のシート構造を有する圧延された銅-インバール金属板を備える。それぞれの接続部材の銅およびインバール/コバールあるいはモリブデンの層の厚さの比によって、その熱膨張係数は、上記のNTC素子の熱膨張係数に合わせ込むことができる。以上により非常に安定した、長寿命のデバイスが実現される。
【0017】
1つの実施形態例によれば、上記の接続部材は、銅-インバール-銅の1つのシート構造を備え、10%≦銅≦30%,50%≦インバール/コバール/モリブデン≦80%,10%≦銅≦30%の厚さの比を有する。これはこの接続部材が、少なくとも3つのシートを備えることを意味している。第1のシートは、好ましくは銅を含む。この第1のシートは、この接続部材の総厚の1/10~3/10の厚さすなわち垂直方向の大きさを備える。第2のシートは、好ましくはコバールおよび/またはインバールおよび/またはモリブデンを含む。この第2のシートは、この接続部材の総厚の5/10~8/10の厚さを備える。この第3のシートは、この接続部材の総厚の1/10~3/10の厚さを備える。
【0018】
この接続部材のインバール/コバール/モリブデンを含むシートは、この接続部材の銅を含むシートよりも厚くなっている。以上によりこの接続部材の熱膨張係数を低減することができ、あるいは上記のNTC素子の熱膨張係数に合わせ込むことができる。
【0019】
好ましくは上記の銅-インバール-銅の厚さの比は、20%-60%-20%となっている。当然ながら所望の熱膨張係数を実現するために、他の厚さの比および他の層配列および層数、ならびにコバールまたはモリブデンの追加も可能である。
【0020】
1つの実施形態例によれば、上記の結合材料は焼結銀を含む。焼結銀は、大きな導電率および熱伝導率を備える。さらに焼結銀は400℃までの温度、たとえば300℃、ならびに速くかつ多数回の温度交代に耐えることができる。
【0021】
上記のNTC素子の動作状態すなわち高温状態においては、非常に高い温度ならびに多数回の温度交代が起こり得る。したがって上記の結合材料の熱耐性および柔軟性は特に重要である。ここでこの高温状態とは、このNTCデバイスのその初期状態よりも高い温度でのこのデバイスの状態を意味している。上記の初期状態と上記の高温状態との間の温度範囲は、たとえば-55℃~+300℃に渡るどのような温度範囲であってよく、すなわちこの範囲に渡るものであってよい。好ましくは、上記の初期状態と上記の高温状態との間の温度範囲は、-40℃~+300℃の範囲に渡っていてよい。
【0022】
好ましくは上記の結合材料は、マイクロ銀を含む。マイクロ銀は、特にその十分な孔隙率を特徴としている。
【0023】
1つの実施形態例によれば、上記のNTC素子は2個,3個,5個,10個,またはこれ以上のセグメントを備える。これらのNTC素子のセグメントは、好ましくはこのNTC素子の矩形の部分領域(複数)となっており、これらは互いに離間している。これらのセグメント間の距離は、0.05mm~0.2mmとなっており、たとえば0.1mmとなっている。換言すれば、これらの個々のセグメント間にはギャップ(膨張ギャップ)が存在している。これらの膨張ギャップによって、応力が全く形成されないか、または僅かにのみ形成される。こうしてさらなる機械的応力を避けることができ、そしてこの結果長寿命のデバイスを提供することができる。
【0024】
1つの実施形態例によれば、上記のNTC素子は、25℃(室温)で公称抵抗R25≦1Ωを備える。ここで室温とは通常は居住空間に行き渡っている温度であると理解される上述の電気抵抗は、好ましくは、25℃の環境温度での、無負荷のNTC素子の外部接続
部(複数)の間の電気抵抗を表している。
【0025】
たとえばこのNTC素子は、上述の温度で0.1Ω以下の公称抵抗R25を備え、好ましくは0.05Ωより小さい公称抵抗を備える。この結果このNTC素子は、室温あるいは25℃で極めて小さな電気抵抗を備え、そしこのため非常に大きな導電率を備える。以上によりこのNTC素子は、大きな電流負荷の突入電流リミッタにおける使用にとりわけ良好に適合するものである。
【0026】
上記の小さな電気抵抗によって、具体的には、たとえばそれぞれのアプリケーションにおいてこの電子デバイスと直列に回路接続されている電気的負荷の充分に大きな突入電流を供給することができ、ただしたとえばスイッチオン過程の際の電圧が他の重要な電子部品の電源用になお充分に高くなる程度に、この突入電流が制限されるようになっている。このデバイスを用いて、好適に、この負荷のスタート過程の際の電圧低下が、この電子デバイスの無い負荷と比較して約1V低減される。
【0027】
1つの実施形態例によれば、本発明による電子デバイスの初期状態における上記のNTC素子の電気比抵抗は、2Ωcm以下である。好ましくは、この電子デバイスの初期状態における上記のNTC素子の電気比抵抗は、0.1Ωcm~1.0Ωcm、たとえば0.3Ωcmとなっている。
【0028】
1つの実施形態例によれば、上記の接続部材は、厚さdを有する。好ましくは0.3mm≦d≦0.8mmとなっている。好ましくはそれぞれの上記の接続部材の厚さdは、0.7mmより小さく、たとえば0.6mmとなっている。
【0029】
1つの実施形態例によれば、本発明によるデバイスは、複数のNTC素子および接続部材を備える。これらの複数のNTC素子は、1つの基板から個々に分離することによって準備することができる。これらのNTC素子は互いに並列に回路接続されている。上記のデバイスの電流負荷容量および/または通電容量は、複数のNTC素子の並列回路接続によって増大することができる。好ましくはこれらのNTC素子は積層体形状に上下に重なって配設されている。2つの隣り合ったNTC素子の間には、それぞれ1つの接続部材が配設されている。これらのNTC素子は、この接続部材を介して互いに熱的に良好にカップリングされている。
【0030】
1つの実施形態例によれば、上記のNTC素子は、La(1-x)EA(x)Mn(1-a-b-c)Fe(a)Co(b)Ni(c)(3±δ)の組成を備える。ここで0≦x≦0.5、および0≦(a+b+c)≦0.5である。EAはアルカリ土類元素を表す。好ましくは、このアルカリ土類元素は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、またはバリウムから選択される。δは、化学当量的な酸素の比率からのずれ(酸素過多あるいは酸素不足)を表す。好ましくは|δ|≦0.5である。とりわけ好ましくは|δ|=0である。
【0031】
この組成により準備されるNTC素子は、特別に大きな導電率および充分なB定数(サーミスタ定数)を特徴とする。(1つの)特定の厚さおよび(1つの)特定の断面積すなわちこのNTC素子の面積によって、その抵抗はさらに変更および管理することができる。このNTC素子は厚さdを有する。好ましくは100μm≦d≦600μmとなっている。好適には、このNTC素子の厚さdは、500μmより小さくなっており、たとえば400μmとなっている。B値B25/100は、1000K~4000Kの範囲にあり、好ましくは1400K~2000Kの範囲にあり、たとえば1500Kとなっている。
【0032】
1つの実施形態例によれば、本発明によるデバイスは1つの固定部材を備える。好まし
くはこの固定部材は、バッテリ配線への電気的に導通した接続を生成するように構成されて配設されている。好ましくはこの固定部材はさらに、バッテリ配線への機械的結合を生成するように構成されて配設されている。好ましくはこの固定部材はさらに、上記の接続部材(複数)間の(間接的な)機械的結合を生成するように構成されて配設されている。
【0033】
この固定部材は、1つのねじ結合部を形成するように構成されていてよい。この固定部材は、しかしながらたとえば1つのクランプ結合部を形成するように構成されていてもよい。さらにこの固定部材は1つのシール部材を備えてよい。このシール部材は、絶縁性に形成することができ、あるいは部分的に絶縁性に形成することができる。この固定部材は、少なくとも1つのナットおよび1つのねじ、および/または少なくとも1つのクランプ部材、たとえば2つのクランプ部材を備えてよい。
【0034】
上記の固定部材は、電気抵抗を有する。この電気抵抗は、上記のNTC素子の低い動作温度での抵抗と同じかあるいはほんの僅かにのみこれより大きくなっている。具体的にはこの固定部材の電気抵抗は、上記のNTC素子の最も低い動作温度、たとえば-40℃での抵抗と同じかあるいはほんの僅かにのみこれより大きくなっている。
【0035】
上記の固定部材の抵抗は、温度に依存しない。以上により故障の場合(たとえばNTC素子と接続部材との間の導電性の結合部の破損)においてもなお(スターターシステムの構成に依存して)常にエンジンのスタートが可能である。電圧低下も同様に防止されるが、しかしながらこのスタートのために供給可能な電力は大幅に制限され、これによってスタート過程が場合により大幅に遅延される。ねじ固定部の他に1つの固定抵抗、または所定の電気抵抗を有する1つの他の導電性の部材が固定部材として用いられてもよい。
【0036】
もう1つの態様によれば、1つの電子デバイスのアプリケーションが提示される。好ましくは上述のデバイスのアプリケーションが提示される。上記のデバイスに関して記載された全ての特徴は、このアプリケーションに対しても適用されるものであり、またこの逆も成り立つものである。
【0037】
具体的には自動車分野におけるスタート/ストップシステムへの上述のデバイスのアプリケーションが提示される。上記の温度依存性の抵抗(NTC素子)によってスイッチオンの際の突入電流が制限される。スイッチオンの際には、このNTC素子は、即座にこの突入電流によって(たとえば250℃に)加熱され、これによってこのNTC抵抗は速やかに1つの非常に小さな残留抵抗(たとえば0.5mΩ)まで低下する。上記のNTC素子の特有の特性により、この動的な抵抗変化は、上記のスターターモーターに起因する電流ピークを低減し、これは同時に上記のバッテリの電圧低下を低減する。以上によりスタート/ストップシステムにおける突入電流制限のための効果的なデバイスが提供される。
【0038】
さらに上記で準備された接続部材および結合材料は、NTC素子のこの接続部材への非常に低オーミックな電気的結合が、-40℃~120℃で変動し得る環境温度、スイッチオンサイクルの繰り返し用の接続部材に対して実現される。このスイッチオンサイクルでは、温度は300℃まで上昇し得る。こうして自動車領域におけるスタート/ストップシステム用の、NTC素子と接続部材との間の機械的に耐久性があり、耐熱性でかつ極めて信頼性の高い結合部を有する、安定した、高い導電性のデバイスが提供される。
【0039】
もう1つの態様によれば、1つの電子デバイス、具体的には上述の電子デバイスの、12Vおよび24V電源における直流電圧での1000Aまでの電流へのアプリケーションが提示される。
【0040】
実施形態例とこれに付随する図を参照して、本発明を以下に詳細に説明する。
【0041】
以下に説明する図面は、寸法を正確に示すものではない。むしろより見易いように、個々の寸法は、拡大、縮小、または歪んで表示されていることがあり得る。
【0042】
互いに同じ要素、または同じ機能を担う要素は、同じ参照番号で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】1つの電子デバイスの概略断面図を示す。
図2図1に示す電子デバイスの可能な接続部の斜視図を示す。
図3】もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの斜視図を示す。
図4】もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの概略断面図を示す。
図5図4に示す電子デバイスの可能な接続部の斜視図を示す。
図6】もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの概略断面図を示す。
図7】もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの斜視図を示す。
図8】もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの概略断面図を示す。
図9図8に示す電子デバイスの1つの部分領域の上面図を示す。
図10】もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの概略断面図を示す。
図11図10に示す電子デバイスの1つの部分領域の上面図を示す。
図12】もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの概略断面図を示す。
図13図12に示す電子デバイスの1つの部分領域の上面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、1つの電子デバイス1、略してデバイス1を示す。このデバイス1は突入電流リミッタとして、または自動車分野におけるスタート/ストップシステム用の1つの突入電流リミッタにおいて使用されるように構成されている。このデバイス1は具体的には、(12Vおよび24V電源における直流電圧で)1000Aまでの電流でのアプリケーションに適している。このデバイス1は、約1kW~3kWの出力の典型的な12Vのスターターモーターにおける使用に適している。
【0045】
このデバイス1は、1つのNTC素子2あるいは1つのNTCセラミックを備える。このNTC素子2は、このデバイス1の1つの機能層あるいは1つの機能素子となっている。このNTC素子2は、負の温度係数を有する1つの高温導体デバイスである。
【0046】
このNTC素子2は、大きな導電率あるいは小さな電気比抵抗を特徴とする材料組成を備える。
【0047】
このNTC素子2は、好ましくは以下の組成を備える。
La(1-x)EA(x)Mn(1-a-b-c)Fe(a)Co(b)Ni(c)(3±δ)
上式で0≦x≦0.5、および0≦(a+b+c)≦0.5である。EAは、アルカリ土類元素、たとえばMg,Ca,Sr,またはBaを表す。δは、化学当量的な酸素の比率からのずれ(酸素過多あるいは酸素不足)を表す。好ましくは|δ|≦0.5であり、とりわけ好ましくは|δ|=0である。たとえば、上記のNTCセラミックは、La0.95Sr0.05MnOの組成を備える。
【0048】
上記のNTC素子2の電気比抵抗は、このNTC素子2の初期状態において、2Ωcm以下となっており、好ましくは1Ωcm以下となっており、たとえば0.5Ωcmとなっている。ここでこの初期状態は、このNTC素子2の温度が25℃および/または室温でのものを表している。初期状態とは、たとえばこのNTC素子2に電力が全く印加されていない、無負荷の状態であってよい。
【0049】
このNTC素子2は、上述の温度で1Ω以下の1つの電気抵抗(公称抵抗R25)を備え、好ましくは0.1Ωより小さく、たとえば0.05Ωより小さい公称抵抗を備える。この結果このNTC素子2は、室温あるいは25℃で小さな電気抵抗を備え、そしこのため大きな導電率を備える。以上によりこのNTC素子2は、突入電流リミッタにおける使用にとりわけ良好に適合するものである。
【0050】
さらにこのNTC素子2は、高いB値を備える。このB値B25/100は、1000K~4000Kの範囲にあり、好ましくは1400K~2000Kの範囲にあり、たとえば1500Kとなっている。このNTC素子2は、小さな熱膨張係数を有する。典型的にはこのNTC素子2の熱膨張係数は、7ppm/K~10ppm/Kとなっている。
【0051】
このNTC素子2は、好ましくはモノリシックなデバイスとして形成されている。たとえばこのNTC素子2は、1つのモノリシック厚膜である。この場合、このNTC素子2は、プレス技術で製造され、そして続いてラッピング(両面の精密研磨)によって所望の形状あるいは所望の厚さとされる。しかしながらこの代替としてこのNTC素子2は、モノリシック多層膜(Vielschichtmonolith)として形成されていてもよい。この場合には、このNTC素子2を準備するために、セラミックシート(複数)が上下に重なって積層され、そしてプレスされる。
【0052】
図2に示すNTC素子2は、1つの丸い形状を有している。このNTC素子2は、円盤形状または小板形状に形成されている。しかしながらこのNTC素子2には他の形状も可能であり、たとえば矩形または円環形状も可能である。このNTC素子2は、1つの基盤の形態で形成されていてよい。このNTC素子2は、25mm~500mmの面積を備え、たとえば200mmの面積を備える。このNTC素子2の直径は、たとえば14mm以下となっており、たとえば13.75mmとなっている。このNTC素子2は、100μm~600μmの厚さdを備え、たとえば400μmの厚さを備える。このNTC素子2の厚さdおよび/または断面積すなわち面積の変更によって、このNTC素子2の抵抗を変更および管理することができる。
【0053】
このNTC素子2は、1つのメタライジング部(不図示)を備える。このメタライジング部は、好ましくはこのNTC素子2の上面および下面に配設されている。好ましくはこのメタライジング部は、焼成銀を含む。
【0054】
さらにデバイス1は、2つの接続部3すなわち接続部材3(正側接続部材12b、負側接続部材12a;図3参照)を備える。これらの接続部材3は、上記のNTC素子2の電気的接続に用いられる。これらの接続部材3は、この実施形態例においては、このNTC素子2の上面および下面上に全面的に着座している。この代替として(不図示)、上面および下面の細い縁部領域は、それぞれの接続部材3から露出されたままとなっていてもよい。
【0055】
これらの接続部材3は、それぞれ上記のNTC素子2の上面および下面と電気的に導通して結合されている。好ましくはNTC素子2および接続部材3は焼結されている。
【0056】
この目的のため、デバイス1は1つの結合材料7を備える。このNTC素子2の上面と第1の接続部材3との間、ならびにこのNTC素子2の下面と第2の接続部材3との間にはそれぞれ、結合材料7からなる1つの層が形成されている。この結合材料7の層厚は、好ましくは15μm~80μmの範囲にあり、たとえば20μmとなっている。
【0057】
この結合材料7は、大きな導電率および熱伝導率を特徴としている。さらにこの結合材料7は、好ましくは大きな孔隙率を特徴としている。さらにこの結合材料7は、デバイス1の動作状態すなわち高温状態で起こり得る、400℃までの高温、たとえば300℃に耐えることができ、また多数回そして高速な温度交代に耐えることができることを特徴としている。
【0058】
ここでこの高温状態とは、このデバイス1のその初期状態よりも高い温度でのこのデバイス1の状態を意味している。上記の初期状態と上記の高温状態との間の温度範囲は、たとえば-55℃~+300℃に渡るどのような温度範囲であってよく、すなわちこの範囲に渡るものであってよい。好ましくは、上記の初期状態と上記の高温状態との間の温度範囲は、-40℃~+300℃の範囲に渡っていてよい。
【0059】
たとえば、上記の結合材料7は、焼結銀またはマイクロ銀を含む。焼結銀は、充分な孔隙率を備えるという利点を有する。この結合材料7を用いて、NTC素子2と接続部材3との間の、安定した、高い導電性ならびに機械的に耐久性のある結合が達成される。
【0060】
それぞれの接続部材3は、大きな熱伝導率および導電率を備える。さらにそれぞれの接続部材3は、NTC素子2と接続部材3との間の熱応力が低減されるように構成されている。具体的にはそれぞれの接続部材3は、材料で決まる熱膨張(CTE)の差を小さくするあるいは低減するように構成されている。
【0061】
好ましくはそれぞれの接続部材3は、1つの複合材料を備える。それぞれの接続部材は
、たとえば複合金属板として構成されてよい。この複合材料は、銅-インバール-銅(CIC)を備えてよい。材料として、インバールの代わりにコバールまたはモリブデンが用いられてもよい。インバールあるいはコバールあるいはモリブデンは、小さな熱膨張係数を有する。典型的には、これらの材料熱膨張係数は、10ppm/K以下となっており、たとえば7ppm/Kとなっている。これによってコバール/インバール/モリブデンの膨張係数はNTC素子2の膨張係数に非常に近いものとなっている。上記の複合材料の層(複数)の厚さの比を適切に選択することにより、接続部材3の膨張係数は、このNTC素子2の膨張係数に良好に合わせ込むことができる。熱応力は低減あるいは避けることができる。
【0062】
この実施形態例においては、それぞれの接続部材3は、銅-インバール-銅が20%-60%-20%である層構造を有する、1つの圧延された銅-インバール金属板となっている。しかしながら銅およびインバールまたはコバール/モリブデンの他の比率も可能である。具体的にはNTC素子2に必要な面積により、ならびに必要な熱伝導率により、他の層配列および層厚が使用されることも可能である。
【0063】
接続部材3はプライアー形状でNTC素子2を包囲している。この際それぞれの接続部材3の第1の部分領域3aは、NTC素子2の上面あるいは下面に着座しており、このNTC素子2の上面あるいは下面に対して、あるいはデバイス1の長手方向の軸Lに対して平行に延在している。このNTC素子2の長手方向あるいは水平方向の大きさは、好ましくはこの第1の部分領域3aの長さ以下すなわち水平方向の大きさ以下となっている。
【0064】
それぞれの接続部材3の第2の部分領域3bは、長手方向の軸Lと1つの角度を成している。この第2の部分領域3bは、好ましくは上記の第1の部分領域3aでのこのデバイス1の長手方向の軸Lに対して、20°以下の角度、例えば15°の角度を成している。第1の接続部材3の第2の部分領域3bと第2の接続部材の第2の部分領域3bとの間の角度は、40°以下となっており、たとえば30°となっている。それぞれの接続部材3の第3の部分領域3cは、第2の部分領域3bに繋がっており、長手方向の軸Lに対して平行に延在している。
【0065】
それぞれの部分領域3a,3b,3cは、この実施形態例においては、好ましくは同じ長さを有している。たとえばこれらの部分領域3a,3b,3cは、それぞれ10mm~15mmの長さを有している。それぞれの部分領域3a,3b,3cは、同じ厚さを有している。たとえばこれらの部分領域3a,3b,3cは、それぞれ0.8mm以下かつ0.3mm以上の厚さdを有している。この結果、それぞれの接続部材3の厚さdは、0.3mm≦d≦0.8mmとなっており、たとえばd=0.7mmとなっている。
【0066】
これらの部分領域3a,3b,3cは、一体となっている。換言すれば、これらの部分領域3a,3b,3cは、分離された部分領域あるいは部品として形成されているのではなく、むしろそれぞれの接続部材3の単なる下位区分となっている。
【0067】
それぞれの接続部材3、具体的には第3の部分領域3cは、1つの穴8を備える。このため好ましくはこの第3の部分領域3cは、第1および第2の部分領域3a,3bより大きな水平方向の大きさ、すなわちこれらより大きな面積を有する(たとえば図3参照)。この穴8は、好ましくは円形に形成されている。この穴8は、たとえば8mmの直径を有する。この穴8は、接続部材3を完全に貫通している。この穴8は、たとえば図2を参照して説明されるように、1つの固定部材を用いてデバイス1をバッテリ配線(複数)と接続するために用いられる。
【0068】
図2は、図1に示すデバイス1の、ケーブルシュー(複数)を介したバッテリ配線(複数)との1つの可能な接続を示す。
【0069】
デバイス1は、デバイス1の電気的接続を生成するため、そして特に機械的にバッテリ配線をこのデバイス1に固定するための1つの固定部材を備える。この固定部材は、以下に説明するようなねじ結合を準備するために構成されていてよい。この代替としてこの固定部材は、1つのクランプ結合を生成するように構成されて配設されていてもよい。
【0070】
第1の接続部材3と第2の接続部材3との間には1つのスペーサ9が配設されている。このスペーサ9は、この第1の接続部材すなわち上側の接続部材3の第3の部分領域3cの下面と、第2の接続部材すなわち下側の接続部材3の第3の部分領域3cの上面との間に配設されている。このスペーサ9は、円筒形状に形成されている。
【0071】
このスペーサ9は、絶縁性に形成されている。このスペーサ9は、2つの接続部材3(正側接続部材12bおよび負側接続部材12a、図3参照)の間の絶縁部として用いられる。このスペーサ9は、たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む。PTFEは、約250℃の温度まで耐えて絶縁性であるという利点を有する。好ましくはこのスペーサ9は、1つの穴を備え(不図示)、この穴はこのスペーサ9を垂直方向に完全に貫通している。この穴は、結合部材、たとえば1つのねじ棒11、たとえば1つのねじを装着するために用いられる。
【0072】
第1の接続部材3の上面あるいは第2の接続部材3の下面には、それぞれ1つのナット10が配設されている。ねじ棒11およびナット10は、接続部材3のねじ固定のため、およびデバイス1の、バッテリ配線(不図示)との電気的に導通した、機械的な結合のために用いられる。この代替として、たとえばこの接続部材3のクランプのため、および/またはデバイス1のバッテリ配線(不図示)との電気的に導通した、機械的な結合のために、クランプ部材が準備される。
【0073】
これらの図示しないバッテリ配線(複数)とこれらの接続部材3との間には、ケーブルシュー(複数)5が配設されており、これらのケーブルシューには不図示の銅ケーブルが固定されている。これらのケーブルシュー5は、上記の接続部材3と電気的に導通するように結合されている。デバイス1のこれらのケーブルシュー5との結合のために、ねじ棒11がナット10、それぞれの接続部材3の穴8、ならびにスペーサ9の穴を通って導入される。
【0074】
この際1つの軸へのねじ込みは、NTC素子2と接続部材3との間の結合へのさらなる機械的応力を防止する。このねじ込み部あるいは固定部は、NTC素子2より大きな抵抗を有しなければならず、あるいは絶縁性で形成されていなければならない(図12および13参照)。このねじ込みあるいは固定は、代替として自動車またはスターターモーターでのグラウンド接続部に直接行われてもよい。
【0075】
デバイス1の温度依存性の抵抗によってスイッチオンの際の突入電流が制限される。スイッチオンの際には、NTC素子2は、即座にこの突入電流によって(たとえば250℃に)加熱され、これによってこのNTC抵抗は速やかに1つの非常に小さな残留抵抗(たとえば0.5mΩ)まで低下する。この動的な抵抗変化は、上記のスターターモーターに起因する電流ピークを低減し、これは同時に上記のバッテリの電圧低下を低減する。以上により安定した、突入電流制限用の長寿命で効率の良いデバイスが提供される。
【0076】
さらにデバイス1は、いわゆる「フェイルセーフ」機能を有して構成することができる。このため図2に示すねじ固定部は、その電気抵抗が、最も低い動作温度、たとえば-40℃でのNTC素子2の抵抗と同じかあるいはほんの僅かにのみこれより大きくなるように形成される。このねじ固定部の抵抗は温度依存ではない。以上により故障の場合(たとえばNTC素子2と接続部材3との間の導電性の結合部の破損)においてもなお(スターターシステムの構成に依存して)常にエンジンのスタートが可能である。電圧低下も同様に防止されるが、しかしながらこのスタートのために供給可能な電力は大幅に制限され、これによってスタート過程が場合により大幅に遅延される。
【0077】
たとえば25℃でのNTC素子2の電気比抵抗は、Rspez,25=0.2Ωcmとなっている。このNTC素子2の25℃の温度での公称抵抗R25は、たとえばR25=10mΩとなっている。B値はたとえば1650Kとなっている。これにより-40℃の温度でのこのNTC素子2の電気比抵抗は、Rspez,-40=0.65Ωcmとなり、そしてこのNTC素子2の32mΩの抵抗に対して、上記のねじ固定部の電気抵抗は、好ましくは32~35mΩとなる。
【0078】
ねじ固定部の他に1つの固定抵抗、または所定の電気抵抗を有する他の1つの導電性の部材が固定部材として用いられてもよい。
【0079】
図3は、もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの斜視図を示す。図1に示すデバイス1とは対照的に、この図3に示すデバイス1は、複数のNTC素子2ならびに複数の接続部材3を備える。
【0080】
このデバイス1は、10個までのNTC素子2を備えてよい。これらのNTC素子2は、それぞれ丸く形成されており、すなわち円盤形状に形成されている(図1の実施形態参照)。これらのNTC素子2は電気的に並列に回路接続されている。
【0081】
これらのNTC素子2の間には、接続部材3が配設されている。デバイス1は、好ましくは、NTC素子2および接続部材3とが交互に配設された1つの層配列(正側接続部材12bおよび負側接続部材12a)を備える。この平坦な「積層形状」の、接続部材3/NTC素子2/接続部材3/NTC素子2、...の配列によって、個々のNTC素子2の良好な熱的結合が達成される。この良好な熱的結合は、これらのNTC素子2の均等な加熱を可能とする。
【0082】
これらのNTC素子2の直径は、図1に示すNTC素子2の直径よりも小さくてよい。すなわち複数の小さな素子が接続される。この際このNTC素子2の部品サイズと共に、応力が低減される。
【0083】
バッテリ接続端子(複数)への固定、好ましくはこれらのバッテリ接続端子とのねじ固定は、NTC素子(複数)2と接続部材(複数)3との間の接続へのさらなる機械的応力を避けるために、好ましくは共通の絶縁体(たとえば1つのスペーサ9)上で行われる。
【0084】
図3に示すデバイス1の他の全ての特徴、具体的にはNTC素子2の材料、構造、および接続部材3、ならびに結合材料7を介したこれらの結合、およびデバイス1の動作は、図1を参照して説明した特徴と同じである。
【0085】
図4は、もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの概略断面図を示す。
【0086】
以下では図1に示すデバイスに対する違いのみを説明する。具体的には図1に示すNTC素子2の実装ならびにNTC素子2と接続部材3との結合に関する特徴は、図4に示すデバイス1にも適用される。
【0087】
この実施形態例においては、接続部材(複数)3は両側で形成されている。ここでもそれぞれの接続部材3は3つの部分領域3a,3b,3cを備え、ここで第2の部分領域3bおよび第3の部分領域3cは同様に、但し第1の部分領域3aに対して対向する方向に形成されている。
【0088】
第1の部分領域3aは、NTC素子2の上面あるいは下面に着座しており、このNTC素子2の上面あるいは下面に対して、あるいは長手方向の軸Lに対して平行に延在している。このNTC素子2の長さすなわち水平方向の大きさは、第1の部分領域3aの水平方向の大きさ以下となっている。好ましくはこの第1の部分領域3aの長さは、この実施形態例においては、図1に示す実施形態例の第1の部分領域3aよりも大きくなっている。この第1の部分領域3aの長さは、たとえば18mmとなっている。このNTC素子2の直径は、たとえば14mm以下となっており、たとえば13.75mmとなっている。
【0089】
第2および第3の部分領域3b,3cはそれぞれ第1の部分領域3aの1つの側部領域すなわち縁部領域に繋がっている。換言すれば、この第1の部分領域の左側および右側には、それぞれ上記の第2の部分領域3bおよび上記の第3の部分領域が形成されている。
【0090】
第2の部分領域3bおよび第3の部分領域3cは、それぞれ長手方向の軸Lと共に1つの角度を成している。この第2および第3の部分領域3b,3cは、それぞれ長手方向の軸Lと共に90°以下の角度、たとえば60°の角度を成している。この第2の部分領域3aも、またこの第3の部分領域3cも長手方向の軸Lから離れて延在している。この第3の部分領域3cあるいはこの第2の部分領域3bの端部領域13からNTC素子2までの垂直方向の距離は、たとえば18mm以下となっており、たとえば15mmとなっている。
【0091】
デバイス1は、軸Lに対して鏡面対称に実装されている。さらにそれぞれの接続部材3は、1つの垂直方向の軸Vに対して鏡面対称に形成されている。
【0092】
上述した実施形態によって、たとえば同じ接続材料での接続部材3の電気的ならびに熱的抵抗を半分にすることができる。この実施形態のもう1つの利点は、たとえば図1に示す実施形態のような、接続部材3を介した「一面」からの熱放散による、NTC素子2における異なる温度が避けられることである。
【0093】
図4に示すデバイス1の他の全ての特徴は、図1を参照して説明した特徴と同様である。
【0094】
図5は、図4に示す電子デバイスの1つの可能な接続部の斜視図を示す。
【0095】
ここでデバイス1は、ハウジング6内に取り付けられている。このハウジング6は、フレーム形状に形成されている。このハウジング6によって、デバイス1は、絶縁された、柔軟な1つの銅ケーブル(不図示)を用いて(ねじ固定、クランプ、またはこれと類似したもので)接続される。ここでこの接続は、図2を参照して説明したように、それぞれの接続部材3の穴8に取り付けられるナット10,ねじ棒11によって行われ、またこれらの接続部材3のケーブルシューとの電気的に導通した結合が行われる。これらのケーブルシューには上記の銅ケーブルが取り付けられる。ここでこの銅ケーブルは、このハウジング6の上面および下面での穴6aを通ってこのハウジング6内に導入される。
【0096】
このハウジング6は、銅ケーブル用の機械的な張力緩和部4を備える。この張力緩和部4は、たとえばこのハウジング6の上面および下面に配設されていてよい。この銅ケーブルが機械的に引っ張られる場合に、この張力緩和部4は、デバイス1および特に結合材料7に全く力を及ぼさないかまたはほんの僅かにのみ力を及ぼすように機能する。この結果デバイス1は、この張力緩和部4によって、好適に張力無しに保持される。
【0097】
図6は、もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの概略断面図を示す。
【0098】
デバイス1は、図4のデバイス1にほぼ対応している。しかしながらこの実施形態例においては、接続部材(複数)3は、長手方向の軸Lに対して鏡面対称に配設されていない。むしろこれらの接続部材3は、互いに90°ずれている。以上により様々な組込みの場合に対処することができる。
【0099】
図6に示すデバイス1の他の全ての特徴は、図4を参照して説明した特徴と同様である。
【0100】
図7は、もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの斜視図を示す。
【0101】
デバイス1は、図6のデバイス1にほぼ対応している。しかしながら図7に示すデバイス1は、複数のNTC素子2ならびに複数の接続部材3を備える。このデバイス1は、10個までのNTC素子2を備えてよく、これらはそれぞれ丸く形成されており、すなわち円盤形状に形成されており、そして電気的に並列に回路接続されている。これらのNTC素子2の間には、接続部材3が配設されている。同様に図3を参照して既に説明したように、このデバイス1は、デバイス1は、交互に配設されたNTC素子2および接続部材3から成る1つの層配列を備える。
【0102】
図8は、もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの概略断面図を示す。さらに
図9は、図8に示す電子デバイスの1つの部分領域の上面図を示す。
【0103】
図1に示す実施形態例と異なり、ここでは1つのNTC素子2が使用されており、このNTC素子はソーイングまたは切れ込みによって、小さなNTC素子(複数)あるいはセグメント(複数)2aに分割あるいはセグメント化されている。このNTC素子2は、複数のセグメント2aを備える。
【0104】
これらのセグメント2aを形成するために、上記のNTC素子2は、図1に示すものと異なり、好ましくは1つの矩形形状を有する。たとえばこのNTC素子2は、それぞれ13mmより小さな、たとえば12.7mmの幅および高さを有する。それぞれのセグメント2aは、同様に好ましくは矩形状に形成されている。好ましくはこのそれぞれのセグメント2aは、それぞれ約2mmの長さならびに幅を有している。
【0105】
接続部材3もこの実施形態に対しては、矩形に形成されなければならない。こうして図8および9に示すそれぞれの接続部材は、3つの矩形状の部分領域3a,3b,3cから構成されている。これらの3つの部分領域は、好ましくは同じ長さ、たとえば15mmを有する。
【0106】
個々のセグメント(複数)2aの間には、間隙すなわち膨張ギャップ(複数)15が形
成されている(図9参照)。これらの膨張ギャップ15は、0.05mm~0.2mmの幅、たとえば0.1mmの幅を有する。これらの膨張ギャップ15により、所定の動作の際に上記のNTC素子2において、より小さな熱応力が生成される。
【0107】
この実施形態変形例の製造のために、セラミック多層技術が用いられ、このセラミック多層技術では、積層されたセラミックシートから成る1つのNTC基板が、メタライジングの前または後にいわゆる「ダイシング」によってセグメント化される。他の全ての特徴は、図1を参照して説明した特徴と同様である。
【0108】
図10は、もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの概略断面図を示す。図11は、図10に示す電子デバイスの1つの部分領域の上面図を示す。
【0109】
この実施形態例は、図4ならびに図8および9に示す実施形態例の特徴(複数)を組み合わせている。具体的には、接続部材(複数)3は、図4を参照して説明したように、両側で形成されている。NTC素子2は、図8および9を参照して説明したように、個々のセグメント2aに分離されている。他の全ての特徴は、図4,8,9を参照して説明した特徴と同様である。
【0110】
図12は、もう1つの実施形態例による1つの電子デバイスの概略断面図を示す。図13は、図12に示す電子デバイスの1つの部分領域の上面図を示す。
【0111】
この実施形態例においては、接続部材(複数)3は、図4を参照して説明したように、両側で形成されている。これらの接続部材3の第1の部分領域3aの間には、NTC素子2が配設されており、そして結合材料7を介してこれらの接続部材3に電気的に導通して結合され、そして熱的に結合されている。
【0112】
この実施形態例においては、ねじ固定部は、図2に示すねじ固定部とは対照的に、絶縁性に形成されている。このためこのNTC素子2は円環形状に形成されている。換言すれば、このNTC素子2は、1つの丸い、貫通した穴を備える。それぞれの接続部材3の第1の部分領域3aも、この実施形態例においては、1つの穴を備える。これらの接続部材3およびNTC素子2の穴は、これらの接続部材3の絶縁性のねじ固定を可能とするように形成されて配設されている。特にこれらの穴は、これらの接続部材3をねじ固定するためのねじ棒11を挿入するために設けられている。
【0113】
第1の部分領域3aの外側の面上には、それぞれ穴9aを備える1つのスペーサ9が配設されている(図13)。このそれぞれのスペーサは、たとえば1つのPTFEワッシャである。このそれぞれのスペーサは、たとえば15mmの直径を有する。ここで1つのスペーサ9は、第1の接続部材3あるいは第2の接続部材3の第1の部分領域3aの上面上に配設されている。もう1つのスペーサ9は、第2の接続部材3すなわち下側の接続部材3の第1の部分領域3aの下面上に配設されている。これらのスペーサ9上に、それぞれ1つのナット10が配設されている。ねじ棒11は、これらの接続部材3をねじ固定するために、これらのナット10,これらのスペーサ9の穴,NTC素子2,およびこれらの接続部材3を通って導入されている。このねじ棒11とこのNTC素子2との間には、1つの絶縁性の部材14がこのNTC素子2の穴の中に取り付けられている。この絶縁性の部材14は、たとえばAlOを含んでよい。たとえばこの絶縁性の部材14は、AlOの1つの小チューブである。以上により絶縁性に形成されたデバイス1のねじ固定部が可能となる。
【0114】
デバイス1の電気的接続は、ここでも、図2を参照して説明したように、接続部材3の電気的に導通した結合を介して、バッテリ配線(複数)を用いてケーブルシュー(複数)5を介して行われている。この際これらのケーブルシューは、接続部材3の穴8を介して、この接続部材3にねじ固定されている。
【0115】
本発明は上記の実施形態例を参照した説明によって限定されない。むしろ本発明は、特に請求項中の特徴の組み合わせそれぞれが含むいかなる新規な特徴、並びにいかなる新規な特徴の組み合わせをも、たとえその特徴またはその組み合わせがそれ自体として請求項または実施例に明示されていなくとも、含むものである。
【符号の説明】
【0116】
1 : 電子デバイス
2 : NTC素子/NTCセラミック
2a : セグメント
3 : 接続部/接続部材
3a : 第1の部分領域
3b : 第2の部分領域
3c : 第3の部分領域
4 : 張力緩和部
5 : ケーブルシュー
6 : ハウジング
6a : 穴
7 : 結合材料
8 : 穴
9 : スペーサ
9a : 穴
10 : ナット
11 : ねじ棒
12a : 負側接続部材
12b : 正側接続部材
13 : 端部領域
14 : 絶縁性の部材
15 : 膨張ギャップ

L : 長手方向の軸
V : 垂直方向の軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13