(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】電気機械式のブレーキ倍力装置、および電気機械式のブレーキ倍力装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20221202BHJP
B60T 13/575 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
B60T13/74 D
B60T13/575
(21)【出願番号】P 2020571612
(86)(22)【出願日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2019064812
(87)【国際公開番号】W WO2020011457
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】102018211549.4
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ボルヴェルク アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ナーゲル ヴィリ
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-545672(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015226508(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015217528(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置において、
ブレーキ倍力装置独自の、または外部の電気モータによって回転運動させることが可能なスピンドルナット(50)と、
前記スピンドルナット(50)に配置されたスピンドル(52)であって、該スピンドルが支持プレート(54a)により回転不能に保持され、それにより回転運動する前記スピンドルナット(50)によって前記スピンドル(52)と前記支持プレート(54a)を純粋な並進運動させることが可能になっているものと、
純粋な並進運動をする前記支持プレート(54a)によって一緒に可動であるリアクションディスク収容体(54b)とを有し、前記リアクションディスク収容体(54b)はリアクションディスク(58)が中に配置される収容開口部を有している、電気機械式のブレーキ倍力装置において、
前記支持プレート(54a)と前記リアクションディスク収容体(54b)が一体的なコンポーネント(54)として構成されて
おり、
前記支持プレート(54a)が前記リアクションディスク収容体(54b)とともに一体的なコンポーネント(54)として単一の薄板から成形される、ことを特徴とする電気機械式のブレーキ倍力装置。
【請求項2】
車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置において、
ブレーキ倍力装置独自の、または外部の電気モータによって回転運動させることが可能なスピンドルナット(50)と、
前記スピンドルナット(50)に配置されたスピンドル(52)であって、該スピンドルが支持プレート(54a)により回転不能に保持され、それにより回転運動する前記スピンドルナット(50)によって前記スピンドル(52)と前記支持プレート(54a)を純粋な並進運動させることが可能になっているものと、
純粋な並進運動をする前記支持プレート(54a)によって一緒に可動であるリアクションディスク収容体(54b)とを有し、前記リアクションディスク収容体(54b)はリアクションディスク(58)が中に配置される収容開口部を有している、電気機械式のブレーキ倍力装置において、
前記支持プレート(54a)と前記リアクションディスク収容体(54b)が一体的なコンポーネント(54)として構成されており、
前記収容開口部を取り囲んでいる前記一体的なコンポーネント(54)の縁部に、それぞれ1つの摺動ブッシュ収容開口部(60)を有する少なくとも1つの摺動ブッシュ取付区域(54c)が構成されており、それぞれ1つの引張アンカーによって案内される少なくとも1つの摺動ブッシュが前記少なくとも1つの摺動ブッシュ収容開口部(60)に挿入されている、ことを特徴とする電気機械式のブレーキ倍力装置。
【請求項3】
車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置において、
ブレーキ倍力装置独自の、または外部の電気モータによって回転運動させることが可能なスピンドルナット(50)と、
前記スピンドルナット(50)に配置されたスピンドル(52)であって、該スピンドルが支持プレート(54a)により回転不能に保持され、それにより回転運動する前記スピンドルナット(50)によって前記スピンドル(52)と前記支持プレート(54a)を純粋な並進運動させることが可能になっているものと、
純粋な並進運動をする前記支持プレート(54a)によって一緒に可動であるリアクションディスク収容体(54b)とを有し、前記リアクションディスク収容体(54b)はリアクションディスク(58)が中に配置される収容開口部を有している、電気機械式のブレーキ倍力装置において、
前記支持プレート(54a)と前記リアクションディスク収容体(54b)が一体的なコンポーネント(54)として構成されており、
プランジャ(62)が、前記プランジャ(62)に取り付けられまたは構成されたパスティル部品(64)とともに、中空スピンドルとして構成された前記スピンドル(52)の内部に少なくとも部分的に配置され、前記パスティル部品(64)が前記リアクションディスク(58)と接触しているか、または接触させることが可能になっており、前記プランジャ(62)には前記プランジャ(62)から垂直に離れるように延びる平坦なキー(70)が取り付けられているか、または構成されており、前記一体的なコンポーネント(54)に少なくとも1つの貫通する開口部が構成され、該開口部を通して前記平坦なキー(70)の部分区域がそれぞれ突出している、ことを特徴とする電気機械式のブレーキ倍力装置。
【請求項4】
少なくとも1つの貫通する前記開口部を通って突出する前記平坦なキー(70)の少なくとも1つの部分区域と接触している、または接触することが可能である、少なくとも1つの突起(72)が前記スピンドルナット(50)に構成されている、請求項3に記載の電気機械式のブレーキ倍力装置。
【請求項5】
少なくとも1つの貫通する前記開口部を通って突出する前記平坦なキー(70)の少なくとも1つの部分区域に磁石(74)が差込固定されている、請求項3または4に記載の電気機械式のブレーキ倍力装置。
【請求項6】
前記磁石(74)に隣接してストロークセンサ(78)が前記一体的なコンポーネント(54)に取り付けられている、請求項5に記載の電気機械式のブレーキ倍力装置。
【請求項7】
車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置の製造方法であって、次の各ステップを有し、
電気機械式のブレーキ倍力装置にスピンドルナット(50)が配置されて、前記電気機械式のブレーキ倍力装置の作動時に、ブレーキ倍力装置の、電気モータによって前記スピンドルナット(50)が回転するようにし(S1)、
前記スピンドルナット(50)にスピンドル(52)が配置され、支持プレート(54a)により前記スピンドル(52)が回転不能に支持されて、回転する前記スピンドルナット(50)によって前記スピンドル(52)と前記支持プレート(54a)が純粋な並進運動をするようにし(S2)、
純粋に並進運動をする前記支持プレート(54a)によって一緒に動くリアクションディスク収容体(54b)の収容開口部へリアクションディスク(58)が挿入される(S4)、製造方法において、
前記支持プレート(54a)が前記リアクションディスク収容体(54b)とともに一体的なコンポーネント(54)として製造されるステップ(S3)を有し、
前記支持プレート(54a)が前記リアクションディスク収容体(54b)とともに一体的なコンポーネント(54)として単一の薄板から成形される、ことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
前記支持プレート(54a)が前記リアクションディスク収容体(54b)とともに一体的なコンポーネント(54)として単一の薄板から打ち抜かれ、曲げられ、および/または深絞りされる、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置に関する。同様に本発明は、車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1aおよび1bは、内部的な従来技術として出願人に知られている従来のブレーキ倍力装置の模式的な全体図と部分図を示している。
【0003】
図1aおよび1bに模式的に示す従来のブレーキ倍力装置は、スピンドルナット10に連結された(図示しない)電気モータによって回転運動させることが可能な、中空スピンドル12と協同作用するスピンドルナット10を含んでいる。中空スピンドル12は支持プレート14によって回転不能に保持されており、それにより、スピンドル12と支持プレート14とを、それ自体で回転運動するスピンドルナット10によって並進運動させることが可能なようになっている。そのために、それぞれ(図示しない)引張アンカーを介して案内される2つの摺動ブッシュ16が、支持プレート14の摺動ブッシュ収容開口部にそれぞれ挿入される。リアクションディスク収容体18が、これに構成された複数のクリップ20によって支持プレート14にクランプ固定され、それにより、並進運動をする支持プレート14とともにリアクションディスク収容体18が一緒に動くようになっている。リアクションディスク収容体18は、そのクリップ20に基づき、通常はプラスチックで構成される。さらにリアクションディスク収容体18は、リアクションディスク22が中に配置される収容開口部を有している。このように、スピンドルナット10の回転運動により発動されるリアクションディスク収容体18の並進運動が、リアクションディスク22へのモータ力の伝達をもたらす。
【0004】
図1aに見られるとおり、プランジャ24がこれに取り付けられた、またはこれに構成されたパスティル26をもって、中空スピンドル12の内部容積を少なくとも部分的に通って延びている。さらに、リアクションディスク収容体18には中央の開口部が構成されていて、それにより、この中央の開口部を通って突出するパスティル26をリアクションディスク22と接触させることができるようになっている。復帰ばね30により中空スピンドル12に支持される入力ロッド28を介して、ブレーキ操作部材/ブレーキペダルに及ぼされる運転者ブレーキ力を、入力ロッド28を介してプランジャ24に伝達することができる。プランジャ24に伝達される運転者ブレーキ力を、中央の開口部を通って突出するパスティル26を介して、リアクションディスク22へと伝達可能である。
【0005】
リアクションディスク22を介して、モータ力と運転者ブレーキ力をいずれも(図示しない)マスタブレーキシリンダの後置された少なくとも1つのピストンへ伝達することができる。このようにして、マスタブレーキシリンダおよびこれに接続された少なくとも1つのホイールブレーキシリンダでの圧力生成をもたらすことができる。
【0006】
スピンドルナット10から離れるほうを向いている支持プレート14の側では、平坦なキー32がプランジャ24に取り付けられており、平坦なキー32はプランジャ24から離れるように垂直に、リアクションディスク収容体18により形成される内部容積を通って延びる。平坦なキー32は、特に、ストローク(差)センサの磁石33のための支持体としての役目を果たす。
【0007】
電気機械式のブレーキ倍力装置が操作されていない状態のとき、すなわち、モータ力と運転者ブレーキ力がゼロに等しいとき、平坦なキー32と、これに対してアライメントされて内部容積を区切るリアクションディスク収容体18の面との間にはゼロに等しくない間隔Aが存在し、平坦なキー32と支持プレート14との間にもゼロに等しくない間隔Bが存在する。ゼロに等しくない間隔Aは、パスティル26の形状によって規定される。ゼロに等しくない間隔Bは、支持プレート14に構成された開口部を通ってそれぞれ突出する4つのプラスチックピン34によって規定され、これらのプラスチックピンにより、支持プレート14に接触するスピンドルナット10で平坦なキー32が支持される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、請求項1の構成要件を有する車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置を提供し、および、請求項8の構成要件を有する車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、支持プレートとリアクションディスク収容体とが一体的なコンポーネントとして構成された、電気機械式のブレーキ倍力装置を提供する。このことは、支持プレートと、これに構成されるリアクションディスク収容体とが同じ出発材料から同じ成形プロセスによって一体的に構成されることであると理解される。このように、支持プレートとリアクションディスク収容体は互いにクリップ止めされるのではなく、互いに係止されるのではなく、互いにねじ止めされるのではなく、互いに接着されるのでもない。支持プレートとリアクションディスク収容体とが一体的なコンポーネントに「統合される」ことで、一体的なコンポーネントが比較的コンパクトになり、したがって、そのつどこれらにより構成される電気機械式のブレーキ倍力装置へ、先行技術に基づく従来の「支持プレート・単独部品」と「リアクションディスク収容体・単独部品」よりも好ましく挿入され得る。一体的なコンポーネントの利点のより詳しい説明に関しては、後述する図面の説明を参照されたい。
【0010】
電気機械式のブレーキ倍力装置の好ましい実施形態では、支持プレートはリアクションディスク収容体とともに一体的なコンポーネントとして単一の薄板から成形される。一体的なコンポーネントは、たとえば単一の薄板から打ち抜かれ、曲げられ、および/または深絞りされていてよい。このように、支持プレートをリアクションディスク収容体とともに一体的なコンポーネントとして製造するために、比較的簡易な製造プロセスを適用することができる。したがって、一体的なコンポーネントを比較的低コストに製造可能である。これに加えて、このようにして製造された一体的なコンポーネントは高いロバスト性を有し、それに伴い、これを装備した電気機械式のブレーキ倍力装置の作動中に比較的低い損傷リスクを有する。
【0011】
電気機械式のブレーキ倍力装置の別の好ましい実施形態では、収容開口部を取り囲んでいる一体的なコンポーネントの縁部に、それぞれ1つの摺動ブッシュ収容開口部を有する少なくとも1つの摺動ブッシュ取付区域が構成され、それぞれ1つの引張アンカーによって案内される少なくとも1つの摺動ブッシュが、少なくとも1つの摺動ブッシュ収容開口部に挿入される。このように、電気機械式のブレーキ倍力装置のこの実施形態では、少なくとも1つの摺動ブッシュによる、および少なくとも1つの引張アンカーによる、支持プレートの案内という利点を放棄しなくてすむ。
【0012】
電気機械式のブレーキ倍力装置ではプランジャが、これに取り付けられる、または構成されるパスティル部品をもって、中空スピンドルとして構成されるスピンドルの内部に少なくとも部分的に配置され、それにより、パスティル部品がリアクションディスクと接触しているか、または接触させることが可能になっているのが好ましく、プランジャにはこれから垂直に離れていくように延びる平坦なキーが取り付けられ、または構成され、一体的なコンポーネントには少なくとも1つの貫通する開口部が構成され、これを通して平坦なキーの部分区域がそれぞれ突出する。平坦なキーは、一体的なコンポーネントのリアクションディスク収容体の対応する接触面と接触することができる第1の接触面を可能にするだけでなく、一体的なコンポーネントの支持プレートの接触面と接触することができる第2の接触面も可能にする。このように、一体的なコンポーネントと、プランジャ、パスティル部品、および平坦なキーから形成されるコンポーネントとの間で力を伝達することができる。
【0013】
スピンドルナットに、少なくとも1つの貫通する開口部を通って突出する平坦なキーの少なくとも1つの部分区域と接触する、または接触させることが可能な、少なくとも1つの突起が構成されるのが好ましい。このようにして、従来使用されているプラスチックピンの平坦なキーへの取付けを問題なく省略することができる。このことは平坦なキーの製造を簡易化し、その際に生じる製造コストを低減する。
【0014】
少なくとも1つの貫通する開口部を通って突出する平坦なキーの少なくとも1つの部分区域に磁石が差込固定されるのが好ましい。この磁石は、磁石に隣接して一体的なコンポーネントに取り付けられるストロークセンサと相互作用することができる。このように、差ストロークを確実に決定するためのセンサ機構を容易かつ低コストに構成可能である。
【0015】
上に説明した利点は、車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置の対応する製造方法を実施するにあたっても保証される。明文をもって指摘しておくと、上に説明した電気機械式のブレーキ倍力装置の実施形態に準じて、この製造方法を発展形態とすることが可能である。
【0016】
本発明のその他の構成要件と利点については、図面を参照しながら以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1a】従来のブレーキ倍力装置の模式的な全体図である。
【
図1b】従来のブレーキ倍力装置の模式的な部分図である。
【
図2a】電気機械式のブレーキ倍力装置の実施形態の模式的な部分図である。
【
図2b】電気機械式のブレーキ倍力装置の実施形態の模式的な部分図である。
【
図2c】電気機械式のブレーキ倍力装置の実施形態の模式的な部分図である。
【
図3】車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置の製造方法の実施形態を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図2aから2cは、電気機械式のブレーキ倍力装置の実施形態の模式的な部分図を示している。
【0019】
以下に説明する電気機械式のブレーキ倍力装置は、(図示しない)電気モータのモータ力Fmotorと、(図示しない)ブレーキ操作部材/ブレーキペダルに対して及ぼされる運転者ブレーキ力Fdriverとを、マスタブレーキシリンダの少なくとも1つの位置調節可能なピストンへと伝達可能であるように、車両/自動車のブレーキシステムのマスタブレーキシリンダに前置されていてよい。明文をもって指摘しておくと、以下に説明する電気機械式のブレーキ倍力装置の適用可能性は、そのつどのブレーキシステムの特定のブレーキシステム型式には限定されず、車両/自動車の特定の車両型式/自動車型式にも限定されない。
【0020】
電気機械式のブレーキ倍力装置は、電気モータによって回転させることが可能な、回転するスピンドルナット50を含んでいる。電気モータは、選択的に、ブレーキ倍力装置独自のモータであるか、または外部のモータであってよい。スピンドルナット50にスピンドル52が配置されており、このスピンドルは支持プレート54aにより回転不能に保持されて、回転するスピンドルナット50によってスピンドル52と支持プレート54aが純粋な並進運動をすることが可能であるように/並進運動をするようになっている。このようにして、電気モータのモータ力Fmotorをスピンドル52および支持プレート54aへ伝達することができ、それにより支持プレート54aがモータ力Fmotorに応じて制動方向56へ、後置されたマスタブレーキシリンダに近づくように位置調節されるようになっている。
【0021】
支持プレート54aは一体的なコンポーネント54の一部であり、一体的なコンポーネント54の別の部分はリアクションディスク収容体54bと言い換えることが可能である。支持プレート54aはリアクションディスク収容体54bとともに一体的なコンポーネント54として構成されて、支持プレート54aとリアクションディスク収容体54bとの「分解」または「分離」が、一体的なコンポーネント54の「破断」または「切断」なしには可能でないようになっている。支持プレート54aとリアクションディスク収容体54bとを含む一体的なコンポーネント54は、「一体型・リアクションディスク収容体」または「支持・リアクションディスク収容体」とも呼ぶことができる。支持プレート54aとリアクションディスク収容体54bは、単一の薄板から、特に単一の鋼板から、一体的なコンポーネント54として成形されるのが好ましい。一体的なコンポーネント54は、たとえば単一の薄板/鋼板から打ち抜かれ、曲げられ、および/または深絞りされていてよい。
【0022】
支持プレート54aは回転防止プレート(Anti Rotation Plate,ARP)とも呼ぶことができる。支持プレート54aには「プレート」という用語が使用されてはいるが、支持プレート54aを平滑な部材として理解する必要はない。支持プレート54aは、たとえば曲げられた形状、特に直角に折り曲げられた形状を有することもできる。スピンドル52は、たとえば溶接継目57を形成したうえで、支持プレート54a/一体的なコンポーネント54と(特にレーザ溶接により)溶接されていてよい。
【0023】
リアクションディスク収容体54bとは、リアクションディスク58を収容するのに適した収容開口部を有する構成部品であると理解することができる。
図2aに示すように、リアクションディスク58はリアクションディスク収容体54bの収容開口部に配置される。リアクションディスク収容体54bは、バルブボディ(Valve Body)とも呼ぶことができる。支持プレート54aと一体的に構成されたリアクションディスク収容体54bは、当然ながら(一体的なコンポーネント54の一部として)、純粋な並進運動をする支持プレートとともに可動であり、それにより、モータ力F
motorがリアクションディスク収容体54bを介してリアクションディスク58へ伝達可能であり/伝達される。
【0024】
先行技術に基づく「支持プレート・単独部品」および「リアクションディスク収容体・単独部品」の従来式の使用に代えて一体的なコンポーネント54を使用することで、上に説明したクリップ接合を削減することができる。先行技術では通常必要であるプラスチックからのリアクションディスク収容体54bの構成に代えて、一体的なコンポーネント54には薄板/鋼板を使用することができ、このことは、あとで詳しく説明する利点をもたらす。クリップ接合の削減は、従来の単独部品と比較したとき、一体的なコンポーネント54のいっそう高いコンパクト性も保証する。特に、リアクションディスク収容体54bで発生するせん断力を、一体的なコンポーネント54の一部として構成される支持プレート54aを介して、スピンドル52で問題なく支えることができる。一体的なコンポーネント54の一部としての支持プレート54aの構成は、支持プレート54aでの曲げ応力の発生も妨げるように作用し、それに伴い、そのような種類の曲げ応力から溶接継目57を防護する。
【0025】
さらに一体的なコンポーネント54の使用は、従来の単独部品とは異なり、支持プレート54aとリアクションディスク収容体54bとの相互の「自動的な」固定をもたらす。先行技術では、「支持プレート・単独部品」にしばしば破断部が打ち抜かれて、プラスチックピンが「リアクションディスク収容体・単独部品」に取り付けられ、「支持プレート・単独部品」の破断部にプラスチックピンが挿入されることによって、それぞれの単独部品の固定が可能となる。一体的なコンポーネント54を使用すれば、このようなプラスチックピンを問題なく省略することができる。このようにして、一体的なコンポーネント54が使用されれば、従来の方式ではしばしばさらに必要である、薄板打抜きによって支持プレート・単独部品に破断部を構成するためのプロセスや、プラスチック射出成形によってリアクションディスク収容体・単独部品へのプラスチックピンの取付または構成をするためのプロセスも不要となる。先行技術では、これらのプロセスを実行するときの不正確性が単独部品相互の不正確な調節にしばしばつながるのに対して、一体的なコンポーネント54を使用すればこのような種類の問題が取り除かれる。
【0026】
図2bに示すように、リアクションディスク58を収容するための収容開口部を取り囲む一体的なコンポーネント54の縁部に、それぞれ1つの摺動ブッシュ収容開口部60を有する少なくとも1つの摺動ブッシュ取付区域54cが構成されていてよい。少なくとも1つの(図示しない)摺動ブッシュが、少なくとも1つの摺動ブッシュ収容開口部60に挿入されていてよい。少なくとも1つの摺動ブッシュは、それぞれ1つの引張アンカーによって案内されていてよい。このようにして、スピンドル52が確実に回転不能に保持され得る。一体的なコンポーネント54のリアクションディスク58は、対応する摺動ブッシュ収容開口部60に挿入された少なくとも1つの摺動ブッシュがリアクションディスク58と「同じ平面」に位置するように成形されるのが好ましい。一体的なコンポーネント54のリアクションディスク58の明瞭な折曲げは必要ない。このケースでは、せん断力による一体的なコンポーネント54の「ねじれ」の恐れがなく、また、一体的なコンポーネント54での曲げモーメントの発生の恐れもない。
【0027】
たとえば2つの摺動ブッシュ収容開口部60が、一体的なコンポーネント54の2つの摺動ブッシュ取付区域54cに構成されていてよく、それにより、スピンドル52の望ましくない回転運動を阻止するために、2つの摺動ブッシュを2つの引張アンカーによって案内することができる。このようにして、スピンドルナット50の回転運動を、一体的なコンポーネント54を伴うスピンドル52の純粋な並進運動へと問題なく変換することができる。
【0028】
図2aから2cの電気機械式のブレーキ倍力装置は、好ましい補足として、プランジャ62およびこれに取り付けられた、または構成されたパスティル部品64を有しており、プランジャ62は少なくとも部分的に、中空スピンドルとして構成されたスピンドル52の内部に配置される。一体的なコンポーネント54の一部として構成されるリアクションディスク収容体18に中央の開口部が構成されて、この中央の開口部を通って突出するパスティル部品64がリアクションディスク58と接触しているか、または接触させることが可能であるようになっているのが好ましい。任意選択として、リアクションディスク58を収容するための収容開口部に底面プレート68がさらに挿入されていてもよい。底面プレート68は貫通する中央の開口部を有することができ、この開口部を通してパスティル部品64をリアクションディスク58と接触させることが可能である。ブレーキ操作部材/ブレーキペダルに及ぼされる運転者ブレーキ力F
driverが、プランジャ62を介して、およびリアクションディスク58と接触している、または接触するパスティル部品64を介して、リアクションディスク58へと伝達される。リアクションディスク58に及ぼされるモータ力F
motorと、リアクションディスク58に伝達される運転者ブレーキ力F
driverはいずれも、制動方向56でリアクションディスク58の前に存在する出力ピストン66を介して、後置されているマスタブレーキシリンダの少なくとも1つの位置調節可能なピストンへとさらに伝えることができる。
【0029】
図2aに見られるとおり、底面プレート68の使用は先行技術に比べて、リアクションディスク58へモータ力F
motorを伝達するための直径を低減する。このように、スピンドル52と一体的なコンポーネント54との間の溶接継目57が、リアクションディスク58へのモータ力F
motorの伝達によって負荷を受けず/ほとんど受けない。
【0030】
プランジャ62には、これから垂直に離れていくように延びる、Keyと言い換えることもできる平坦なキー70も取り付けられ、または構成されるのが好ましい。プランジャ62、パスティル部品64、および平坦なキー70がたとえば互いにプレスされ、またはかしめられていてよい。さらに、一体的なコンポーネント54に少なくとも1つの貫通する開口部が構成されていてよく、この開口部を通して、平坦なキー70の部分区域がそれぞれ突出する。このケースでは、スピンドルナット50に少なくとも1つの突起72が構成され、この突起が、少なくとも1つの貫通する開口部を通って突出する平坦なキー70の少なくとも1つの部分区域と接触するか、または接触させることが可能であると好ましい。少なくとも1つの突起72は、突出する環状鍔72であるのが好ましい。スピンドルナット50に構成される少なくとも1つの突起72により、平坦なキー70をスピンドルナット50で支持するために従来使用されている、平坦なキー70のプラスチックピンを削減することができる。このようにして、平坦なキー70にプラスチックピンを構成するための射出成形プロセスが不要となる。したがって、
図2aから2cの電気機械式のブレーキ倍力装置では、比較的低コストなコンポーネントを平坦なキー70として利用することができる。平坦なキー70は、たとえば薄板/鋼板から成形されていてよい。
【0031】
このように、一体的なコンポーネント54も薄板/鋼板から成形されるのが好ましいので、平坦なキー70と一体的なコンポーネント54を同じ材料から、または(ほぼ)同じ熱膨張係数を有する材料から形成するという可能性がもたらされる。このように、平坦なキー70と一体的なコンポーネント54の熱膨張が互いに「補償される」。
【0032】
電気機械式のブレーキ倍力装置が、
図2aに掲げるように、操作されていない状態もしくは力を受けない初期状態にあるとき、すなわちモータ力F
motorと運転者ブレーキ力F
driverがゼロに等しいとき、平坦なキー70と底面プレート68との間のゼロに等しくない間隔Aが存在し、および、平坦なキー70と支持プレート54aとの間のゼロに等しくない間隔Bが存在する。電気機械式のブレーキ倍力装置が操作されていない状態のときのゼロに等しくない間隔Aは、底面プレート68の形状によって規定可能である。上ですでに説明したとおり、電気機械式のブレーキ倍力装置が操作されていない状態のときのゼロに等しくない間隔Bは、スピンドルナット50の少なくとも1つの突起72の構成によって規定可能である。
【0033】
好ましい発展例として、たとえば棒磁石74などの磁石74が、少なくとも1つの貫通する開口部を通って突出する平坦なキー70の少なくとも1つの部分区域にさらに取り付けられていてよい。
図2cの矢印76によって示されているように、磁石/棒磁石74の取付けは、平坦なキー70への磁石/棒磁石74の単なる差込固定によって行うことができる。平坦なキー70への磁石/棒磁石74のこのような種類の「事後的な」固定は、先行技術で行われているような射出成形プロセスでのプラスチックによる磁石/棒磁石74のオーバーモールドよりもはるかに低コストである。
【0034】
磁石/棒磁石74に隣接して、ストローク(差)センサ78が一体的なコンポーネント74に取り付けられていてよい。ストローク(差)センサ78と磁石/棒磁石74との協同作用により、一体的なコンポーネント54とともにスピンドル52の(モータ力Fmotorによってもたらされる)第1の位置調節ストロークと、パスティル部品64および平坦なキー70とともにプランジャ62の(運転者ブレーキ力Fdriverによってもたらされる)第2の位置調節ストロークとの間のストローク差を確実に決定することができる。平坦なキー70と一体的なコンポーネント54が同じ材料から、または熱膨張係数が(ほぼ)等しい材料から成形されていて、すなわち平坦なキー70と一体的なコンポーネント54が「相違する」熱膨張を有していなければ、-40℃から100℃の間の比較的広い温度範囲にわたってさえ、ストローク(差)センサ78によるストローク差を測定するときに、温度変動に起因する測定誤差を心配する必要がない。
【0035】
図3は、車両のブレーキシステムのための電気機械式のブレーキ倍力装置の製造方法の実施形態を説明するためのフローチャートを示している。
【0036】
以下に説明する製造方法により、たとえば上に説明した電気機械式のブレーキ倍力装置を製造することができる。ただしこの製造方法の実施可能性は、このような電気機械式のブレーキ倍力装置の製造だけに限定されるものではない。
【0037】
方法ステップS1で、後の電気機械式のブレーキ倍力装置にスピンドルナットが配置されて、電気機械式のブレーキ倍力装置の後の作動時に、ブレーキ倍力装置独自の、または外部の電気モータによってスピンドルナットが回転するようにする。
【0038】
スピンドルが方法ステップS2でスピンドルナットに配置され、支持プレートにより回転不能に支持されて、回転するスピンドルナットによってスピンドルと支持プレートが純粋な並進運動をするようにする。方法ステップS2の前に、支持プレートがリアクションディスク収容体とともに一体的なコンポーネントとして製作される方法ステップS3が実行される。たとえば、支持プレートがリアクションディスク収容体とともに一体的なコンポーネントとして単一の薄板から成形される。支持プレートがリアクションディスク収容体とともに一体的なコンポーネントとして単一の薄板から打ち抜かれ、曲げられ、および/または深絞りされるのが好ましい。
【0039】
次の方法ステップS4で、リアクションディスクがリアクションディスク収容体の収容開口部へ挿入される。リアクションディスク収容体は一体的なコンポーネントの一部なので、純粋に並進運動をする支持プレートによって一緒に動き、そのようにして、電気機械式のブレーキ倍力装置の動作のために利用される電気モータとリアクションディスクとの間の力伝達を具体化する。
【0040】
ここで説明した方法ステップS1からS4によって製造される電気機械式のブレーキ倍力装置は、上に説明した利点を充足する。方法ステップS1,S2およびS4は任意の順序で、または時間的に重なり合うように、または同時に実行することができる。さらに、ここで説明した製造方法は、上で説明した電気機械式のブレーキ倍力装置に準じて発展形にすることができる。
【符号の説明】
【0041】
50 スピンドルナット
52 スピンドル
54 一体的なコンポーネント
54a 支持プレート
54b リアクションディスク収容体
54c 摺動ブッシュ取付区域
58 リアクションディスク
60 摺動ブッシュ収容開口部
62 プランジャ
64 パスティル部品
70 キー
72 突起
74 磁石
78 ストロークセンサ