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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20221202BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20221202BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20221202BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20221202BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D6/00
B62D101:00
B62D119:00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021018816
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022121858
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜本 恭司
(72)【発明者】
【氏名】栗林 隆司
(72)【発明者】
【氏名】村重 誠悟
(72)【発明者】
【氏名】井手 博仁
(72)【発明者】
【氏名】今福 英紀
(72)【発明者】
【氏名】寺西 諒人
(72)【発明者】
【氏名】三好 竜平
(72)【発明者】
【氏名】眞野 雄貴
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-138554(JP,A)
【文献】特開2009-274475(JP,A)
【文献】特開2015-168336(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0252998(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 119/00
B60W 10/00
B60W 30/00
B60W 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータに3相の交流電力を供給する駆動装置と、
前記駆動装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置に、イグニッションスイッチを経由せず前記制御装置に電源を供給する第1電源供給路と、前記イグニッションスイッチを経由して前記制御装置に電源を供給する第2電源供給路と、が接続され、
前記制御装置は、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合に前記第2電源供給路から供給される電源によって動作し、前記モータにより電磁ブレーキを発生させる、
電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記第1電源供給路は、前記制御装置を車両のバッテリに接続する回路を有する、請求項1記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記駆動装置は、前記第1電源供給路の前記回路とともに車両のバッテリに接続され、前記モータに電力を供給し、
前記制御装置は、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合に、前記モータを短絡させることにより電磁ブレーキを発生させる、請求項2記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1電源供給路と前記第2電源供給路の供給電圧を比較し、予め設定された電圧値以上の差が生じた場合に、前記第1電源供給路の失陥を検知する、請求項1から3のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記駆動装置は、前記モータに電磁ブレーキを発生させてから所定時間が経過した場合、前記モータの電磁ブレーキを解除させる、請求項1から4のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
操向ハンドルに対する把持操作を検知する検知部を備え、
前記制御装置は、前記モータの電磁ブレーキの作動中に、前記操向ハンドルに対する把持操作が検知された場合に、前記モータの電磁ブレーキを解除させる、請求項1から5のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
操向ハンドルに対する把持操作を検知する検知部を備え、
前記制御装置は、前記操向ハンドルに対する把持操作が検知されている状態で、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合は、前記モータに電磁ブレーキを発生させない、請求項1から6のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合に、操向ハンドルに対する把持操作を行うことを通知する通知制御を行う、請求項1から7のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の電動パワーステアリング装置において、操舵補助トルクを発生中にセンサの異常等が発生した場合に、電動機の端子間を所定時間短絡させて、電動機を停止させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の電動パワーステアリング装置によれば、電動機を停止させる際に、ステアリングホイールを中立状態に戻そうとする力を抑制する、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-290762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両において電源を失陥させる異常が発生した場合、電動パワーステアリング装置を制御できず、上述のように電磁ブレーキを用いて車両の操舵を安定させることができない。例えば、車両に搭載された走行支援システムによって電動パワーステアリングが自動操舵され、運転者が操向ハンドルを把持していない、いわゆるハンズオフ時に電動パワーステアリング装置に異常が発生した場合、運転者が操向ハンドルを把持するまでの間に車両が意図せぬ方向に移動する可能性がある。このため、車両の異常発生時であっても電動パワーステアリング装置の制御装置を動作可能とする技術が望まれていた。
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、運転者が操作していないときに車両の電源が失陥した状態となっても、車両が意図しない方向へ移動することを抑制可能な電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための第1態様として、モータと、前記モータに3相の交流電力を供給する駆動装置と、前記駆動装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置に、イグニッションスイッチを経由せず前記制御装置に電源を供給する第1電源供給路と、前記イグニッションスイッチを経由して前記制御装置に電源を供給する第2電源供給路と、が接続され、前記制御装置は、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合に前記第2電源供給路から供給される電源によって動作し、前記モータにより電磁ブレーキを発生させる、電動パワーステアリング装置が挙げられる。
【0006】
上記電動パワーステアリング装置において、前記第1電源供給路は、前記制御装置を車両のバッテリに接続する回路を有する構成としてもよい。
【0007】
上記電動パワーステアリング装置において、前記駆動装置は、前記第1電源供給路の前記回路とともに車両のバッテリに接続され、前記モータに電力を供給し、前記制御装置は、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合に、前記モータを短絡させることにより電磁ブレーキを発生させる構成としてもよい。
【0008】
上記電動パワーステアリング装置において、前記制御装置は、前記第1電源供給路と前記第2電源供給路の供給電圧を比較し、予め設定された電圧値以上の差が生じた場合に、前記第1電源供給路の失陥を検知する構成としてもよい。
【0009】
上記電動パワーステアリング装置において、前記駆動装置は、前記モータに電磁ブレーキを発生させてから所定時間が経過した場合、前記モータの電磁ブレーキを解除させる構成としてもよい。
【0010】
上記電動パワーステアリング装置において、操向ハンドルに対する把持操作を検知する検知部を備え、前記制御装置は、前記モータの電磁ブレーキの作動中に、前記操向ハンドルに対する把持操作が検知された場合に、前記モータの電磁ブレーキを解除させる構成としてもよい。
【0011】
上記電動パワーステアリング装置において、操向ハンドルに対する把持操作を検知する検知部を備え、前記制御装置は、前記操向ハンドルに対する把持操作が検知されている状態で、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合は、前記モータに電磁ブレーキを発生させない構成としてもよい。
【0012】
上記電動パワーステアリング装置において、前記制御装置は、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合に、操向ハンドルに対する把持操作を行うことを通知する通知制御を行う構成としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、イグニッションスイッチを経由する電源を用いて、車両の電源が失陥した状態となっても電動パワーステアリング装置を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電動パワーステアリング装置の概略構成図。
図2】電動パワーステアリング装置の要部の回路構成を示す図。
図3】電動パワーステアリング装置の動作を示す説明図。
図4】電動パワーステアリング装置の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.電動パワーステアリング装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るパワーステアリング装置10の概略構成図である。図2は、パワーステアリング装置10の要部の回路構成を示す図である。
【0016】
パワーステアリング装置10は、車両に搭載され、車両の操舵を行う装置である。以下の説明では、パワーステアリング装置10が四輪自動車に搭載された場合を一例として説明する。パワーステアリング装置10は、車両の運転者が操作する操向ハンドル12(ステアリングホイール)を備える。パワーステアリング装置10は、操向ハンドル12が操作されることに応じて、後述するモータ22によってアシストトルクを発生させ、運転者による操舵を補助する。また、パワーステアリング装置10は、車両に搭載される走行支援システムの有する走行支援ECUからの指示に基づき自動制御される。走行支援システムの作動時には、走行支援ECUから指示された目標舵角と、舵角センサの検出値と、車速センサの検出値とに基づいて、舵角が目標舵角となるように、モータのトルクを制御する。走行支援システムは、運転者による操向ハンドル12の操作量を超える操舵、及び、操向ハンドル12の操作によらない操舵を実行することにより、運転者が操向ハンドル12から手を離す、いわゆるハンズオフの状態での走行を可能とする。
図1に示すように、パワーステアリング装置10は、操向ハンドル12と、ステアリングシャフト14と、ラック軸16と、タイロッド18と、転舵輪としての左右の前輪20とを有する。ステアリングシャフト14、ラック軸16及びタイロッド18は、マニュアル操舵系を構成する。マニュアル操舵系は、操向ハンドル12に対する運転者の操舵動作を前輪20に直接伝達する。
【0017】
マニュアル操舵系の構成を説明する。
ステアリングシャフト14は、操向ハンドル12に一体結合されたメインステアリングシャフト52と、ラック&ピニオン機構のピニオン56が設けられたピニオン軸54と、メインステアリングシャフト52及びピニオン軸54を連結するユニバーサルジョイント58とを備える。
【0018】
ピニオン軸54はその上部、中間部、下部を軸受60a、60b、60cによって支持されており、ピニオン56はピニオン軸54の下端部に設けられている。ピニオン56は、車幅方向に往復動可能なラック軸16のラック歯62に噛合する。
【0019】
運転者が操向ハンドル12を操作することによって生じた回転力、すなわち操舵トルクTrは、メインステアリングシャフト52及びユニバーサルジョイント58を介してピニオン軸54に伝達される。操舵トルクTrは、ピニオン軸54のピニオン56及びラック軸16のラック歯62により推力に変換され、この推力がラック軸16を車幅方向に変位させる。ラック軸16の変位に伴ってタイロッド18が前輪20を転舵させ、車両の向きが変化する。
【0020】
パワーステアリング装置10は、モータ22と、ウォームギア24と、ウォームホイールギア26と、トルクセンサ28と、舵角センサ32と、インバータ36と、制御装置50とを有する。インバータ36は、車両が搭載するバッテリ34に接続される。
【0021】
モータ22、ウォームギア24及びウォームホイールギア26は、アシスト駆動系を構成する。アシスト駆動系は、運転者の操舵を補助する操舵アシスト力を生成する。トルクセンサ28、舵角センサ32、インバータ36、及び制御装置50は、アシスト制御系を構成する。アシスト制御系は、アシスト駆動系を制御する。
【0022】
アシスト駆動系について説明する。
モータ22は、ウォームギア24及びウォームホイールギア26を介してラック軸16に連結されている。すなわち、モータ22の出力軸22aは、ウォームギア24に連結されている。ウォームギア24と噛合するウォームホイールギア26は、ピニオン軸54に形成され、ピニオン軸54はラック軸16に連結されている。
【0023】
本実施形態のモータ22は、3相交流ブラシレス式である。モータ22には、制御装置50に制御されるインバータ36を介して、バッテリ34から電力が供給される。モータ22は、インバータ36から供給される電力に応じた駆動力を生成する。モータ22の駆動力は、出力軸22a、ウォームギア24及びピニオン軸54を介してラック軸16に伝達される。モータ22の駆動力は操舵アシスト力として作用し、運転者の操舵を補助する。
【0024】
アシスト制御系を構成するトルクセンサ28は、ピニオン軸54の中間部の軸受60bと上部の軸受60aとの間に設けられ、磁歪に起因する磁気特性の変化に基づいて操舵トルクTrを検出し、制御装置50に出力する。
舵角センサ32は、操向ハンドル12の舵角θsを検出し、制御装置50に出力する。
【0025】
操舵トルクTrV及び舵角θsは、制御装置50においてフィードフォワード制御に用いられる。
【0026】
インバータ36は、3相フルブリッジ型の構成を有する。インバータ36は、直流/交流変換を行い、バッテリ34からの直流を3相の交流に変換してモータ22に供給する。インバータ36は、駆動装置の一例に対応する。
【0027】
図2に示すように、インバータ36は、3相の相アーム84u、84v、84wを有する。U相アーム84uは、上アーム素子86u及び下アーム素子88uにより構成される。上アーム素子86u、及び、下アーム素子88uは、それぞれMOSFET又はIGBTで構成されるスイッチング素子とダイオードを備える。
【0028】
同様に、V相アーム84vは、上アーム素子86v及び下アーム素子88vにより構成され、W相アーム84wは上アーム素子86w及び下アーム素子88wにより構成される。V相アーム84v及びW相アーム84wを構成する各アーム素子は、MOSFET又はIGBTで構成されるスイッチング素子にダイオードを組み合わせて構成される。
【0029】
上アーム素子86u、86v、86wは、制御装置50からの駆動信号UH、VH、WHにより駆動される。下アーム素子88u、88v、88wは、制御装置50からの駆動信号UL、VL、WLにより駆動される。
【0030】
U相アーム84uの中点はモータ22のU相に接続され、V相アーム84vの中点はモータ22のV相に接続され、W相アーム84wの中点はモータ22のW相に接続される。
インバータ36は、制御装置50が出力する駆動信号UH、VH、WH、UL、VL、WLに従って、各アーム素子がスイッチングを行うことによって、モータ22に3相交流電流を供給し、モータ22を回転させる。
【0031】
制御装置50は、プロセッサーと、プロセッサーが処理するデータを記憶するメモリーとを備えて構成される。具体的には、制御装置50は、マイクロコントローラ、CPU、MPU等で構成される。制御装置50は、例えば、プロセッサーによりプログラムを実行することにより各種機能を実現する。制御装置50は、制御装置50の機能がプログラムされたハードウェアで構成されてもよい。
【0032】
制御装置50は、インバータ36を制御することにより、モータ22に電磁ブレーキを発生させることができる。制御装置50は、インバータ36の上アーム素子86u、86v、86wを全てオープンにし、下アーム素子88u、88v、88wの全てをGNDに短絡させる。この状態では、モータ22は回転を停止し、さらに、出力軸22aを回転させる外力を制動する。すなわち、モータ22は、出力軸22a、ウォームギア24、及びウォームホイールギア26を介して、ピニオン56の回転を制止する。これにより、パワーステアリング装置10がロックされて、前輪20の転舵が抑制されるので、前輪20の接地面からの入力によって車両の挙動が急変することを防止あるいは抑制できる。
【0033】
[2.制御装置の電力供給]
ここで、制御装置50に電力を供給する構成を説明する。
パワーステアリング装置10には、制御装置50の電源として、車両の主電源に繋がる+B電源102およびイグニッション電源(以下、IG電源と表記する)104が接続される。
【0034】
+B電源102は、バッテリ34に不図示のヒューズを介して接続される。バッテリ34には、車両が備える発電装置等が接続される。詳細には、内燃機関で構成されるエンジンを有する車両においては、エンジンにより駆動されるジェネレータを含む回路がバッテリ34に接続される。駆動用のバッテリを搭載する車両においては、電圧変換回路を含む回路を介して、駆動用のバッテリがバッテリ34に接続される。+B電源102は、バッテリ34、及び、バッテリ34に給電する上記の回路に接続される電源である。
IG電源104は、車両のイグニッションスイッチを経由して供給される。イグニッションスイッチは、例えばイグニッションリレーを経由して、バッテリ34に接続される。
【0035】
図2に示すように、+B電源102にはチョークコイル40を介して電源ライン42が接続される。電源ライン42には、インバータ36の上アーム素子86u、86v、86wが接続される。インバータ36は、電源ライン42から供給される電力によりモータ22を駆動する。電源ライン42はキャパシタ44を介してGNDに接続される。
【0036】
電源ライン42には、逆接続防止用のFET38が設けられる。FET38は、チョークコイル40と、インバータ36が接続されるノード46との間に配置される。FET38のゲートには制御装置50が接続される。制御装置50は、FET38のオン/オフを切り替えることにより、インバータ36の動作中にインバータ36から+B電源102へ流れる電流を遮断する。
【0037】
制御装置50には、レギュレータ68を介して、第1電源供給路70、及び、第2電源供給路80が接続される。第1電源供給路70は、電源ライン42に接続されるスイッチング素子72と、スイッチング素子74と、ダイオード76とを含む。スイッチング素子74はIG電源104に接続され、IG電源104の電圧が閾値より高くなるとスイッチング素子74がオンになり、スイッチング素子72をオンに切り替える。これにより、電源ライン42から、スイッチング素子72及びダイオード76を経由して、レギュレータ68に電流が流れて、制御装置50に電力が供給される。
【0038】
第2電源供給路80は、IG電源104に接続される。第2電源供給路80は、ダイオード82を有する。つまり、IG電源104とレギュレータ68とがダイオード82を介して接続される。ダイオード82とレギュレータ68との間のノード78には第1電源供給路70が接続される。このため、+B電源102とIG電源104の電位差により、第1電源供給路70からレギュレータ68に電流が流れる間は、第2電源供給路80から制御装置50への電流が流れない。第1電源供給路70からレギュレータ68へ電流が流れず、IG電源104がオンの状態で、第2電源供給路80からレギュレータ68へ電流が流れる。このように、第2電源供給路80は、+B電源102が失陥した場合に制御装置50へ電力を供給するバイパスフィーダ回路である。
【0039】
+B電源102の失陥とは、+B電源102が完全に供給されない状態に限らず、+B電源102から制御装置50に通常の電源供給ができない状態を含む。例えば、+B電源102が遮断される場合、及び、+B電源102の電圧が所定値以下に低下する場合を含む。
【0040】
パワーステアリング装置10を搭載した車両において、バッテリ34からパワーステアリング装置10に電力を供給する電源ラインが短絡し、或いは、オープンになった場合、+B電源102が失陥する。この場合は、パワーステアリング装置10への+B電源102の供給そのものに支障が生じる。また、パワーステアリング装置10の内部において、チョークコイル40等の回路素子の接続部に剥離を生じた場合や、キャパシタ44の短絡が発生した場合等に、+B電源102の失陥を招く。これらの場合には、パワーステアリング装置10に+B電源102が供給されているが、第1電源供給路70から制御装置50への電源供給ができない状態となる。これらのいずれも、制御装置50は、+B電源102が失陥したと判定する。
【0041】
+B電源102が失陥すると、第1電源供給路70から制御装置50への電力供給が停止する。本実施形態のパワーステアリング装置10は、+B電源102が失陥した場合に、第2電源供給路80によって制御装置50に電力を供給できる。このため、制御装置50がインバータ36を制御し、モータ22に電磁ブレーキを発生させて、車両姿勢の急変を防止または抑制できる。
【0042】
+B電源102が失陥した場合はインバータ36の電源が失われるため、モータ22によりアシストトルクを発生させることができない。このような場合であっても、制御装置50によって下アーム素子88u、88v、88wを短絡させて、モータ22に電磁ブレーキを発生させることは可能である。電磁ブレーキは、路面から前輪20への入力や、操舵に対する戻り力に抵抗を与え、車両姿勢の急変を抑制する。
【0043】
また、仮に、+B電源102が失陥したときに、運転者が操向ハンドル12を把持していれば、運転者が操向ハンドル12を操作して車両を安定させることができる。一方、走行支援システムが作動しており、運転者が操向ハンドル12を把持していない、いわゆるハンズオフの状態で+B電源102が失陥すると、運転者の操作が間に合わない可能性が考えられる。詳細には、ハンズオフの状態で、電源の失陥に対処するため運転者が操向ハンドル12を把持するまでの間に、車両の走行に伴いパワーステアリング装置10の操舵状態が変化することがある。本実施形態のパワーステアリング装置10によれば、+B電源102の失陥が発生してから運転者が操向ハンドル12を把持するまでの間、電磁ブレーキを発生させることによって車両姿勢の急変を抑制できる。
【0044】
制御装置50の電源として第1電源供給路70に加えて第2電源供給路80を利用する構成は、例えば、+B電源102のバックアップ電源として新たなバッテリを車両に搭載する場合に比べ、車両の重量増や大型化を招かないという利点がある。
【0045】
[3.電源失陥の検知]
+B電源102の失陥の検知について説明する。
図2に示すように、制御装置50には、Vs_AD及びIG_ADが入力される。Vs_ADは+B電源102の電圧のアナログ値であり、例えば、FET38とキャパシタ44との間のノード48において検出される。IG_ADはIG電源104の電圧のアナログ値であり、例えばIG電源104と第2電源供給路80の間で検出される。Vs_ADは第1電源供給路70の供給電圧に相当し、IG_ADは第2電源供給路80の供給電圧に相当する。
【0046】
制御装置50は、Vs_ADとIG_ADとを比較し、Vs_ADとIG_ADの差が、予め設定された閾値より大きい場合に、+B電源102の失陥を検知する。この方法では、例えば、チョークコイル40の接合部の剥離やキャパシタ44の短絡に起因する+B電源102の失陥を確実に検知できる。
【0047】
制御装置50は、FET38のゲート-ソース間のリーク抵抗に基づき、+B電源102の失陥を検知してもよい。例えば、キャパシタ44の短絡が発生した場合、FET38がゲートオフの状態で流れるリーク電流が大きくなる。制御装置50は、リーク電流の増大を検知することにより、キャパシタ44が短絡したことを検知し、+B電源102が失陥したと判定することも可能である。
【0048】
[4.制御装置の動作]
制御装置50の動作を説明する。以下の説明では、制御装置50が+B電源102の失陥を判定する動作として、IG_ADとVs_ADを比較する方法を採用した例を示す。
【0049】
図3は、パワーステアリング装置10の動作を示す説明図である。図3には、(a)IG_AD電圧の変化、(b)Vs_ADの変化、(c)制御装置50のNG判定カウンタの値について、経時的変化を示す。また、図3には、(d)制御装置50の制御モードの変化を合わせて示す。
【0050】
NG判定カウンタは、制御装置50が、Vs_ADの低下を検知してからの時間をカウントする機能である。NG判定カウンタのカウント値は、Vs_ADの低下を検知してからの経過時間を示す。制御装置50は、NG判定カウンタのカウント値が、予め設定された閾値Thに達すると、+B電源102が失陥したと判定する。
【0051】
図3には、制御装置50の制御モードとして、パワーステアリング装置10の通常動作中に実行する通常動作モードST1、インバータ36の下アーム素子88u、88v、88wを短絡させる三相短絡制御ST2、及び、ゲートオフモードST3を示す。三相短絡制御ST2はモータ22の電磁ブレーキを作動させる制御モードである。ゲートオフモードST3は、モータ22の電磁ブレーキを解除する制御モードである。ゲートオフモードST3、制御装置50は、インバータ36の下アーム素子88u、88v、88wをオフにする。
【0052】
+B電源102及びIG電源104が正常な状態では、IG_ADとVs_ADの差は小さい。+B電源102の異常が発生すると(時刻t1)、Vs_ADが低下する。Vs_ADが低下したことにより、IG_ADとVs_ADの差が、閾値VThに達すると(時刻t2)、制御装置50はNG判定カウンタによるカウントを開始する。NG判定カウンタのカウント値が、予め設定された閾値Thに達すると(時刻t3)、制御装置50は+B電源102が失陥したと判定する。制御装置50は、制御モードを三相短絡制御ST2に切り替える。制御装置50は、三相短絡制御ST2を予め設定された設定時間T2だけ実行して、その後、時刻t3で制御モードをゲートオフモードST3に切り替える。
【0053】
このように、制御装置50はVs_ADとIG_ADの差が閾値VThに達してから時間T1が経過すると、三相短絡制御ST2を実行して電磁ブレーキを発生させる。制御装置50は、電磁ブレーキを設定時間T2だけ維持し、その後に電磁ブレーキを解除する。制御装置50がゲートオフモードST3で電磁ブレーキを解除すると、操向ハンドル12によるマニュアル操舵が可能となる。このように、制御装置50は、+B電源102の失陥が発生してから設定時間T2だけ電磁ブレーキを作動させ、その後に解除する。これにより、運転者が操向ハンドル12を操作するまでの間は車両姿勢の急変を抑制し、その後は運転者による操作を妨げないように、電磁ブレーキを解除する。
【0054】
図4は、制御装置50の動作を示すフローチャートである。
制御装置50は、パワーステアリング装置10の通常動作中に+B電源102の監視を実行し(ステップS1)、+B電源102の失陥を検知したか否かを判定する(ステップS2)。+B電源102の失陥の検知、及び判定の詳細は、上述した通りである。
【0055】
制御装置50は、+B電源102の失陥を検知していない場合(ステップS2;NO)、ステップS1に戻る。+B電源102の失陥を検知したと判定した場合(ステップS2;YES)、制御装置50は、操向ハンドル12が運転者により把持されているか否かを判定する(ステップS3)。ステップS3で、制御装置50は、例えば、トルクセンサ28から入力される操舵トルクTrに基づき、操向ハンドル12が把持されているか否かを判定してもよい。具体的には、制御装置50は、trが予め設定された閾値より大きい場合に、操向ハンドル12が把持されていると判定する。この場合、トルクセンサ28は検知部の一例に対応する。
【0056】
また、操向ハンドル12が、運転者による把持を検出するセンサを備える構成であってもよい。このセンサには、例えば、圧電センサや静電容量センサが用いられ、検知部の一例に対応する。操向ハンドル12のセンサは、検出値を制御装置50に出力する。この場合、制御装置50は、操向ハンドル12が備えるセンサの検出値に基づき、操向ハンドル12が把持されているか否かを判定できる。
【0057】
操向ハンドル12が把持されている、いわゆるハンズオンの状態である場合(ステップS3;YES)、制御装置50は、本処理を終了する。
操向ハンドル12が把持されていない場合(ステップS3;NO)、制御装置50は、三相短絡制御を開始して電磁ブレーキを発生させる(ステップS4)。さらに、制御装置50は、警報の出力を行う(ステップS5)。
【0058】
図1に示すように、制御装置50にはモニタ90が接続される。モニタ90は、車両に搭載された表示装置である。モニタ90は、ディスプレイオーディオ装置(DA)やカーナビゲーション装置等の車載装置であってもよい。また、モニタ90は、メーターパネル等の車両の表示部であってもよい。制御装置50とモニタ90は、通信ケーブルや無線通信により接続され、例えば、CAN(Controller Area Network)により接続される。
【0059】
制御装置50は、モニタ90に制御信号CSを出力して、モニタ90に文字や画像を表示させることができる。
図4のステップS5において、制御装置50は、モニタ90に制御信号CSを出力することによって、パワーステアリング装置10の主電源が失陥したことを通知する内容、及び、操向ハンドル12を握ることを促す内容を含む、通知または警告を表示させる。
【0060】
モニタ90は、制御装置50に接続され、運転者に対する情報の出力が可能な出力装置の一例として示したものである。制御装置50は、モニタ90に限らず、車両に搭載される各種の出力装置に接続可能である。制御装置50は、出力装置を動作させて、出力装置によって通知または警告を出力すればよい。例えば、制御装置50は、スピーカーによって、音声による通知または警告を出力してもよい。
【0061】
制御装置50は、操向ハンドル12の把持操作の有無を判定する(ステップS6)。操向ハンドル12を把持する操作がない場合(ステップS6;NO)、制御装置50は、三相短絡制御ST2を開始してからの経過時間が、設定時間T2に達したか否かを判定する(ステップS7)。設定時間T2に達していない場合(ステップS7;NO)、制御装置50はステップS6に戻る。
【0062】
操向ハンドル12を把持する操作があった場合(ステップS6;YES)、及び、設定時間T2に達した場合(ステップS7;YES)、制御装置50は、三相短絡制御ST2を終了して電磁ブレーキを解除し(ステップS8)、本処理を終了する。
【0063】
[5.他の実施形態]
上記実施形態は本発明を適用した一具体例を示すものであり、発明が適用される形態を限定するものではない。
【0064】
制御装置50は、図4に示した動作を行うようプログラムされたハードウェアであってもよい。或いは、制御装置50は、プログラムの機能により図4の動作を実行してもよい。この場合、制御装置50は、図4の動作を1つのプログラムにより実行してもよいし、複数のプログラムにより実行してもよい。
【0065】
[6.上記実施形態によりサポートされる構成]
上記実施形態は、以下の構成の具体例である。
【0066】
(第1項)モータと、前記モータに3相の交流電力を供給する駆動装置と、前記駆動装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置に、イグニッションスイッチを経由せず前記制御装置に電源を供給する第1電源供給路と、前記イグニッションスイッチを経由して前記制御装置に電源を供給する第2電源供給路と、が接続され、前記制御装置は、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合に前記第2電源供給路から供給される電源によって動作し、前記モータにより電磁ブレーキを発生させる、電動パワーステアリング装置。
第1項の電動パワーステアリング装置によれば、第1電源供給路を失陥させる異常が発生した場合に、イグニッションスイッチを経由して制御装置に電源を供給し、電磁ブレーキを発生させて操舵状態の変動を抑制できる。このため、例えば運転者が操作していないときに車両の電源が失陥した状態となっても、車両の意図しない方向への移動を抑制できる。
【0067】
(第2項)前記第1電源供給路は、前記制御装置を車両のバッテリに接続する回路を有する、第1項記載の電動パワーステアリング装置。
第2項の電動パワーステアリング装置によれば、車両のバッテリから制御装置に供給される電源が失陥した場合に、イグニッションスイッチを経由して制御装置に電源を供給できる。
【0068】
(第3項)前記駆動装置は、前記第1電源供給路の前記回路とともに車両のバッテリに接続され、前記モータに電力を供給し、前記制御装置は、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合に、前記モータを短絡させることにより電磁ブレーキを発生させる、第2項記載の電動パワーステアリング装置。
第3項の電動パワーステアリング装置によれば、第1電源供給路の失陥に伴って駆動装置からモータへの電力供給ができない状態であっても、モータに電磁ブレーキを発生させることができる。
【0069】
(第4項)前記制御装置は、前記第1電源供給路と前記第2電源供給路の供給電圧を比較し、予め設定された電圧値以上の差が生じた場合に、前記第1電源供給路の失陥を検知する、第1項から第3項のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
第4項の電動パワーステアリング装置によれば、供給電圧を比較することによって電源の失陥が発生したことを精度よく検知できる。
【0070】
(第5項)前記駆動装置は、前記モータに電磁ブレーキを発生させてから所定時間が経過した場合、前記モータの電磁ブレーキを解除させる、第1項から第4項のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
第5項の電動パワーステアリング装置によれば、電磁ブレーキを発生させてから所定時間が経過した後に電磁ブレーキを解除する。これにより、電源の失陥が発生した直後における車両姿勢の急変を抑制するとともに、電源の失陥に対処するために運転者が操舵を開始する場合の運転者による操舵を阻害しない。
【0071】
(第6項)操向ハンドルに対する把持操作を検知する検知部を備え、前記制御装置は、前記モータの電磁ブレーキの作動中に、前記操向ハンドルに対する把持操作が検知された場合に、前記モータの電磁ブレーキを解除させる、第1項から第5項のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
第6項の電動パワーステアリング装置によれば、操向ハンドルが把持された場合に電磁ブレーキを解除する。これにより、電源の失陥が発生した直後における車両姿勢の急変を抑制するとともに、電源の失陥に対処するために運転者が操舵を開始する場合に、運転者による操舵を阻害しない。
【0072】
(第7項)操向ハンドルに対する把持操作を検知する検知部を備え、前記制御装置は、前記操向ハンドルに対する把持操作が検知されている状態で、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合は、前記モータに電磁ブレーキを発生させない、第1項から第6項のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
第7項の電動パワーステアリング装置によれば、運転者が操向ハンドルを操作可能な状態では電磁ブレーキを発生させないため、電源の失陥に対処するために運転者が行う操舵を阻害しないという利点がある。
【0073】
(第8項)前記制御装置は、前記第1電源供給路の失陥を検知した場合に、操向ハンドルに対する把持操作を行うことを通知する通知制御を行う、第1項から第7項のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
第8項の電動パワーステアリング装置によれば、電源の失陥を検知したことを運転者等に知らせて、運転者による操舵を促すことができる。
【符号の説明】
【0074】
10…パワーステアリング装置、12…操向ハンドル、22…モータ、28…トルクセンサ(検知部)、34…バッテリ、36…インバータ(駆動装置)、38…FET、40…チョークコイル、42…電源ライン、44…キャパシタ、50…制御装置、68…レギュレータ、70…第1電源供給路、80…第2電源供給路、84u、84v、84w…アーム、86u、86v、86w…上アーム素子、88u、88v、88w…下アーム素子、90…モニタ、102…+B電源、104…IG電源。
図1
図2
図3
図4