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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20221202BHJP
【FI】
F02D45/00 364A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021083588
(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公開番号】P2022177383
(43)【公開日】2022-12-01
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 建彦
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 裕平
(72)【発明者】
【氏名】井上 純一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 敏克
(72)【発明者】
【氏名】有田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】加古 一代
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-020215(JP,A)
【文献】特許第6029726(JP,B1)
【文献】特開平11-159389(JP,A)
【文献】特開平08-165950(JP,A)
【文献】特開平11-051816(JP,A)
【文献】特開2017-133402(JP,A)
【文献】特開2001-003793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク角センサの出力信号に基づいて、クランク角度、及びクランク軸の単位角度の周期である角周期を検出する角度情報検出部と、
前記角周期に基づいて、クランク軸に捩れ振動が発生しているか否かを判定する捩れ振動判定部と、
前記角周期に基づいてクランク角加速度を算出する角度情報算出部と、
演算対象の各クランク角度において、前記クランク角加速度に基づいて、燃焼時の気筒内のガス圧により発生する燃焼時のガス圧トルクを算出するガス圧トルク演算部と、
前記燃焼時のガス圧トルクに基づいて内燃機関の燃焼状態を推定する燃焼状態推定部と、を備え、
前記燃焼状態推定部は、捩れ振動が発生したと判定された場合は、前記燃焼状態の推定を停止する内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記捩れ振動判定部は、前記角周期に対して周波数解析又はバンドパスフィルタ処理を行って、前記角周期に含まれる捩れ振動の周波数に対応する特定周波数の成分の強度を算出し、前記特定周波数の成分の強度に基づいて、捩れ振動の発生の有無を判定する請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記捩れ振動判定部は、前記特定周波数の成分の強度が、第1閾値よりも大きい場合は、捩れ振動が発生したと判定する請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記捩れ振動判定部は、前記特定周波数の成分の強度が、前記第1閾値以下であり、且つ前記第1閾値よりも小さい値に設定された第2閾値よりも大きい場合は、許容捩れ振動が発生したと判定し、
前記角度情報算出部は、前記許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、前記角周期に対して前記特定周波数の成分を低減する特定周波数低減フィルタ処理を行い、特定周波数低減フィルタ後の前記角周期に基づいて、前記クランク角加速度を算出し、
前記燃焼状態推定部は、前記許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、前記燃焼状態の推定を実行する請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記角度情報算出部は、前記許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、前記特定周波数の成分の強度に基づいて、前記特定周波数低減フィルタ処理の特性を変化させる請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記捩れ振動判定部は、前記特定周波数の成分の強度が、前記第2閾値以下である場合は、捩れ振動が発生していないと判定し、
前記角度情報算出部は、捩れ振動が発生していないと判定された場合は、前記特定周波数低減フィルタ処理を行わず、前記角周期に基づいて前記クランク角加速度を算出する請求項4又は5に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃費性能、エミッション性能を向上させるために、内燃機関の燃焼状態を計測し、その計測結果をフィードバックさせて制御する方法が有効である。そのためには、内燃機関の燃焼状態を正確に計測することが重要である。内燃機関の燃焼状態は筒内圧を計測することにより、正確に計測できることが広く知られている。筒内圧の計測方法では筒内圧センサ信号から直接測定する方法の他に、クランク角度信号などの内燃機関における各機構の情報からガス圧トルクを推定する方法がある。
【0003】
従来の技術としては、例えば特許文献1に記載されているように、クランク角度センサの出力信号から燃焼状態を推定する燃焼状態推定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6029726号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、クランク軸には捩れ振動が生じる場合がある。捩れ振動が生じると、検出したクランク角度情報には、燃焼による情報の他に、捩れ振動による成分が重畳する。クランク軸の捩れ振動は、クランク軸回りの捩れ振動系の共振周波数の成分が大きくなる。例えば、失火後の揺り戻し時に捩れ振動が発生すると、同じ燃焼状態であるにも関わらずクランク角周期が変動し、筒内圧及び燃焼状態の推定精度が低下してしまう。しかし、特許文献1では、捩れ振動による燃焼状態の推定精度の低下が考慮されておらず、捩れ振動により推定精度が低下した燃焼状態に基づいて誤って制御が行われる問題がある。
【0006】
そこで、本願は、クランク軸に捩れ振動が発生した場合に、捩れ振動による成分が重畳した角度情報に基づいて、燃焼状態の推定が行われることを抑制する内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に係る内燃機関の制御装置は、
クランク角センサの出力信号に基づいて、クランク角度、及びクランク軸の単位角度の周期である角周期を検出する角度情報検出部と、
前記角周期に基づいて、クランク軸に捩れ振動が発生しているか否かを判定する捩れ振動判定部と、
前記角周期に基づいてクランク角加速度を算出する角度情報算出部と、
前記演算対象の各クランク角度において、前記クランク角加速度に基づいて、燃焼時の気筒内のガス圧により発生する燃焼時のガス圧トルクを算出するガス圧トルク演算部と、
前記燃焼時のガス圧トルクに基づいて内燃機関の燃焼状態を推定する燃焼状態推定部と、を備え、
前記燃焼状態推定部は、捩れ振動が発生したと判定された場合は、前記燃焼状態の推定を停止するものである。
【発明の効果】
【0008】
本願に係る内燃機関の制御装置によれば、角周期に基づいて、クランク軸に捩れ振動が発生しているか否かを判定し、捩れ振動が発生したと判定された場合は、角周期に基づいて推定される燃焼状態の推定を停止するので、捩れ振動の成分により精度が悪化する燃焼状態が推定されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る内燃機関および制御装置の概略構成図である。
図2】実施の形態1に係る内燃機関および制御装置の概略構成図である。
図3】実施の形態1に係る制御装置のブロック図である。
図4】実施の形態1に係る制御装置のハードウェア構成図である。
図5】実施の形態1に係る角度情報検出処理を説明するためのタイムチャートである。
図6】実施の形態1に係る捩れ振動の有無における角周期の挙動を説明するためのタイムチャートである。
図7】実施の形態1に係る捩れ振動の有無における角周期の周波数スペクトルを示す図である。
図8】実施の形態1に係る角度情報算出処理を説明するためのタイムチャートである。
図9】実施の形態1に係る未燃焼時データを説明する図である。
図10】実施の形態1に係る未燃焼時の筒内圧と燃焼時の筒内圧とを説明する図である。
図11】実施の形態1に係る制御装置の概略的な処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.実施の形態1
実施の形態1に係る内燃機関の制御装置50(以下、単に制御装置50と称す)について図面を参照して説明する。図1および図2は、本実施の形態に係る内燃機関1および制御装置50の概略構成図であり、図3は、本実施の形態に係る制御装置50のブロック図である。内燃機関1および制御装置50は、車両に搭載され、内燃機関1は、車両(車輪)の駆動力源となる。
【0011】
1-1.内燃機関1の構成
まず、内燃機関1の構成について説明する。図1に示すように、内燃機関1は、空気と燃料の混合気を燃焼する気筒7を備えている。内燃機関1は、気筒7に空気を供給する吸気路23と、気筒7で燃焼した排気ガスを排出する排気路17とを備えている。内燃機関1は、ガソリンエンジンとされている。内燃機関1は、吸気路23を開閉するスロットルバルブ4を備えている。スロットルバルブ4は、制御装置50により制御される電気モータにより開閉駆動される電子制御式スロットルバルブとされている。スロットルバルブ4には、スロットルバルブ4の開度に応じた電気信号を出力するスロットル開度センサ19が設けられている。
【0012】
スロットルバルブ4の上流側の吸気路23には、吸気路23に吸入される吸入空気量に応じた電気信号を出力するエアフローセンサ3が設けられている。内燃機関1は、排気ガス還流装置20を備えている。排気ガス還流装置20は、排気路17から吸気マニホールド12に排気ガスを還流するEGR流路21と、EGR流路21を開閉するEGRバルブ22と、を有している。吸気マニホールド12は、スロットルバルブ4の下流側の吸気路23の部分である。EGRバルブ22は、制御装置50により制御される電気モータにより開閉駆動される電子制御式EGRバルブとされている。排気路17には、排気路17内の排気ガスの空燃比に応じた電気信号を出力する空燃比センサ18を備えている。
【0013】
吸気マニホールド12には、吸気マニホールド12内の圧力に応じた電気信号を出力するマニホールド圧センサ8が設けられている。吸気マニホールド12の下流側の部分には、燃料を噴射するインジェクタ13が設けられている。なお、インジェクタ13は、気筒7内に直接燃料を噴射するように設けられてもよい。内燃機関1には、大気圧に応じた電気信号を出力する大気圧センサ33が設けられている。
【0014】
気筒7の頂部には、空気と燃料の混合気に点火する点火プラグと、点火プラグに点火エネルギーを供給する点火コイル16と、が設けられている。また、気筒7の頂部には、吸気路23から気筒7内に吸入される吸入空気量を調節する吸気バルブ14と、シリンダ内から排気路17に排出される排気ガス量を調節する排気バルブ15と、が設けられている。吸気バルブ14には、そのバルブ開閉タイミングを可変にする吸気可変バルブタイミング機構が設けられている。排気バルブ15には、そのバルブ開閉タイミングを可変にする排気可変バルブタイミング機構が設けられている。可変バルブタイミング機構14、15は、電動アクチュエータを有している。
【0015】
図2に示すように、内燃機関1は、複数の気筒7(本例では3つ)を備えている。各気筒7内には、ピストン5が備えられている。各気筒7のピストン5は、コンロッド9およびクランク32を介してクランク軸2に接続されている。クランク軸2は、ピストン5の往復運動によって回転駆動される。各気筒7で発生した燃焼ガス圧は、ピストン5の頂面を押圧し、コンロッド9およびクランク32を介してクランク軸2を回転駆動する。クランク軸2は、車輪に駆動力を伝達する動力伝達機構に連結されている。動力伝達機構は、変速装置、ディファレンシャルギヤ等から構成される。なお、内燃機関1を備えた車両は、動力伝達機構内にモータージェネレータを備えたハイブリッド車であってもよい。
【0016】
内燃機関1は、クランク軸2と一体回転する信号板10を備えている。信号板10は、予め定められた複数のクランク角度に複数の歯を設けている。本実施の形態では、信号板10は、10度間隔で歯が並べられている。信号板10の歯には、一部の歯が欠けた欠け歯部分が設けられている。内燃機関1は、エンジンブロック24に固定され、信号板10の歯を検出する第1クランク角センサ11を備えている。
【0017】
内燃機関1は、クランク軸2とチェーン28で連結されたカム軸29を備えている。カム軸29は、吸気バルブ14および排気バルブ15を開閉駆動する。クランク軸2が2回転する間に、カム軸29は1回転する。内燃機関1は、カム軸29と一体回転するカム用の信号板31を備えている。カム用の信号板31は、予め定められた複数のカム軸角度に複数の歯を設けている。内燃機関1は、エンジンブロック24に固定され、カム用の信号板31の歯を検出するカム角センサ30を備えている。
【0018】
制御装置50は、第1クランク角センサ11およびカム角センサ30の2種類の出力信号に基づいて、各ピストン5の上死点を基準としたクランク角度を検出すると共に、各気筒7の行程を判別する。なお、内燃機関1は、吸入行程、圧縮行程、燃焼行程、および排気行程の4行程機関とされている。
【0019】
内燃機関1は、クランク軸2と一体回転するフライホイール27を備えている。フライホイール27の外周部は、リングギア25とされており、リングギア25は、予め定められた複数のクランク角度に複数の歯を設けている。リングギア25の歯は、周方向に等角度間隔で設けられている。本例では4度間隔で、90個の歯が設けられている。リングギア25の歯には欠け歯部分は設けられていない。内燃機関1は、エンジンブロック24に固定され、リングギア25の歯を検出する第2クランク角センサ6を備えている。第2クランク角センサ6は、リングギア25の径方向外側に、リングギア25と間隔を空けて対向配置されている。フライホイール27のクランク軸2とは反対側は、動力伝達機構に連結されている。よって、内燃機関1の出力トルクは、フライホイール27の部分を通って、車輪側に伝達される。
【0020】
第1クランク角センサ11、カム角センサ30、および第2クランク角センサ6は、クランク軸2の回転による、各センサと歯の距離の変化に応じた電気信号を出力する。各角センサ11、30、6の出力信号は、センサと歯の距離が近い場合と、遠い場合とで信号がオンオフする矩形波となる。各角センサ11、30、6には、例えば、電磁ピックアップ式のセンサが用いられる。
【0021】
フライホイール27(リングギア25)は、信号板10の歯数よりも多い歯数を有しており、また、欠け歯部分もないため、高分解能の角度検出を期待できる。また、フライホイール27は、信号板10の質量よりも大きい質量を有しており、高周波振動が抑制されるため、高精度の角度検出を期待できる。
【0022】
1-2.制御装置50の構成
次に、制御装置50について説明する。
制御装置50は、内燃機関1を制御対象とする制御装置である。図3に示すように、制御装置50は、角度情報検出部51、捩れ振動判定部52、角度情報算出部53、ガス圧トルク演算部54、燃焼状態推定部55、燃焼制御部56、及び未燃焼時軸トルク学習部57等の制御部を備えている。制御装置50の各制御部51から57等は、制御装置50が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置50は、図4に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90にバス等の信号線を介して接続された記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、および演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93等を備えている。
【0023】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、および各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。
【0024】
記憶装置91として、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等の揮発性及び不揮発性の記憶装置が備えられている。入力回路92は、各種のセンサ及びスイッチが接続され、これらセンサ及びスイッチの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置90から制御信号を出力する駆動回路等を備えている。
【0025】
そして、制御装置50が備える各制御部51から57等の各機能は、演算処理装置90が、ROM、EEPROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、および出力回路93等の制御装置50の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、各制御部51から57等が用いる第1閾値、第2閾値、フィルタ係数、未燃焼時データ等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM、EEPROM等の記憶装置91に記憶されている。また、各制御部51から57等が算出したクランク角度θd、角周期ΔTd、特定周波数低減フィルタ後の角周期ΔTdf、クランク角速度ωd、クランク角加速度αd、実軸トルクTcrkd、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brn、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brn等の各演算値および各検出値のデータは、RAM等の記憶装置91に記憶される。
【0026】
本実施の形態では、入力回路92には、第1クランク角センサ11、カム角センサ30、第2クランク角センサ6、エアフローセンサ3、スロットル開度センサ19、マニホールド圧センサ8、大気圧センサ33、空燃比センサ18、およびアクセルポジションセンサ26等が接続されている。出力回路93には、スロットルバルブ4(電気モータ)、EGRバルブ22(電気モータ)、インジェクタ13、点火コイル16、吸気可変バルブタイミング機構14、及び排気可変バルブタイミング機構15等が接続されている。なお、制御装置50には、図示していない各種のセンサ、スイッチ、およびアクチュエータ等が接続されている。制御装置50は、各種センサの出力信号に基づいて、吸入空気量、吸気マニホールド内の圧力、大気圧、空燃比、およびアクセル開度等の内燃機関1の運転状態を検出する。
【0027】
制御装置50は、基本的な制御として、入力された各種センサの出力信号等に基づいて、燃料噴射量、点火時期等を算出し、インジェクタ13および点火コイル16等を駆動制御する。制御装置50は、アクセルポジションセンサ26の出力信号等に基づいて、運転者が要求している内燃機関1の出力トルクを算出し、当該要求出力トルクを実現する吸入空気量となるように、スロットルバルブ4等を制御する。具体的には、制御装置50は、目標スロットル開度を算出し、スロットル開度センサ19の出力信号に基づき検出したスロットル開度が、目標スロットル開度に近づくように、スロットルバルブ4の電気モータを駆動制御する。また、制御装置50は、入力された各種センサの出力信号等に基づいて、EGRバルブ22の目標開度を算出し、EGRバルブ22の電気モータを駆動制御する。制御装置50は、入力された各種センサの出力信号等に基づいて、吸気バルブの目標開閉タイミング及び排気バルブの目標開閉タイミングを算出し、各目標開閉タイミングに基づいて、吸気及び排気可変バルブタイミング機構14、15を駆動制御する。
【0028】
1-2-1.角度情報検出部51
角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号に基づいて、クランク角度θd、クランク軸の単位角度の周期である角周期ΔTd(本例では、時間間隔ΔTd)を検出する。
【0029】
本実施の形態では、図5に示すように、角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号に基づいてクランク角度θdを検出すると共にクランク角度θdを検出した検出時刻Tdを検出する。そして、角度情報検出部51は、検出したクランク角度θdである検出角度θdおよび検出時刻Tdに基づいて、検出角度θdの間の角度区間Sdに対応する角度間隔Δθdおよび時間間隔ΔTdを算出する。
【0030】
本実施の形態では、角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号(矩形波)の立下りエッジ(又は立上りエッジ)を検出した時のクランク角度θdを判定するように構成されている。角度情報検出部51は、基点角度(例えば、第1気筒♯1のピストン5の上死点である0度)に対応する立下りエッジである基点立下りエッジを判定し、基点立下りエッジを基点にカウントアップした立下りエッジの番号n(以下、角度識別番号nと称す)に対応するクランク角度θdを判定する。例えば、角度情報検出部51は、基点立下りエッジを検出した時に、クランク角度θdを基点角度(例えば、0度)に設定すると共に角度識別番号nを0に設定する。そして、角度情報検出部51は、立下りエッジを検出する毎に、クランク角度θdを、予め設定された角度間隔Δθd(本例では4度)ずつ増加させると共に角度識別番号nを1つずつ増加させる。或いは、角度情報検出部51は、角度識別番号nとクランク角度θdとの関係が予め設定された角度テーブルを用い、今回の角度識別番号nに対応するクランク角度θdを読み出すように構成されてもよい。角度情報検出部51は、クランク角度θd(検出角度θd)を角度識別番号nに対応付ける。角度識別番号nは、最大番号(本例では90)の後、1に戻る。角度識別番号n=1の前回の角度識別番号nは90になり、角度識別番号n=90の次回の角度識別番号nは1になる。
【0031】
本実施の形態では、角度情報検出部51は、後述する第1クランク角センサ11およびカム角センサ30に基づいて検出した参照クランク角度を参照して、第2クランク角センサ6の基点立下りエッジを判定する。例えば、角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の立下りエッジを検出した時の参照クランク角度が、基点角度に最も近い立下りエッジを、基点立下りエッジと判定する。
【0032】
また、角度情報検出部51は、第1クランク角センサ11およびカム角センサ30に基づいて判別した各気筒7の行程を参照して、クランク角度θdに対応する各気筒7の行程を判定する。
【0033】
角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号(矩形波)の立下りエッジを検出した時の検出時刻Tdを検出し、検出時刻Tdを角度識別番号nに対応付ける。具体的には、角度情報検出部51は、演算処理装置90が備えたタイマー機能を用いて、検出時刻Tdを検出する。
【0034】
角度情報検出部51は、図5に示すように、立下りエッジを検出した時に、今回の角度識別番号(n)に対応する検出角度θd(n)と、前回の角度識別番号(n-1)に対応する検出角度θd(n-1)との間の角度区間を、今回の角度識別番号(n)に対応する角度区間Sd(n)に設定する。
【0035】
また、角度情報検出部51は、式(1)に示すように、立下りエッジを検出した時に、今回の角度識別番号(n)に対応する検出角度θd(n)と、前回の角度識別番号(n-1)に対応する検出角度θd(n-1)との偏差を算出して、今回の角度識別番号(n)(今回の角度区間Sd(n))に対応する角度間隔Δθd(n)に設定する。
【数1】
【0036】
本実施の形態では、リングギア25の歯の角度間隔は、全て等しくされているので、角度情報検出部51は、全ての角度識別番号nの角度間隔Δθdを、予め設定された角度(本例では4度)に設定する。
【0037】
また、角度情報検出部51は、式(2)に示すように、立下りエッジを検出した時に、今回の角度識別番号(n)に対応する検出時刻Td(n)と、前回の角度識別番号(n-1)に対応する検出時刻Td(n-1)との偏差を算出して、今回の角度識別番号(n)(今回の角度区間Sd(n))に対応する時間間隔ΔTd(n)に設定する。時間間隔ΔTdは、単位角度(本例では、4度)の周期である角周期である。
【数2】
【0038】
角度情報検出部51は、第1クランク角センサ11およびカム角センサ30の2種類の出力信号に基づいて、第1気筒♯1のピストン5の上死点を基準とした参照クランク角度を検出すると共に、各気筒7の行程を判別する。
【0039】
<高周波低減フィルタ処理>
角度情報検出部51は、角周期ΔTd(時間間隔ΔTd)に対して、歯の製造ばらつき等により生じた高周波成分を低減する高周波低減フィルタ処理を行う。高周波低減フィルタ処理には、例えば、有限インパルス応答(FIR:Finite Impulse Response)フィルタが用いられる。
【0040】
例えば、FIRフィルタとして、式(3)に示す処理が行われる。
【数3】
ここで、ΔTdfH(n)は、高周波低減フィルタ後の角周期(時間間隔)であり、Nは、フィルタ次数であり、bjは、フィルタ係数である。
【0041】
角度情報検出部51は、未燃焼状態と燃焼状態との間で、同じフィルタ特性の高周波低減フィルタ処理を行う。本例では、未燃焼状態と燃焼状態との間で、フィルタ次数N及び各フィルタ係数が同じ値に設定されている。
【0042】
なお、角周期ΔTdに代えて、後述するクランク角速度ωd(n)に対して、高周波低減フィルタ処理が行われてもよい。或いは、角周期ΔTdに対して高周波低減フィルタ処理が行われなくてもよい。
【0043】
なお、角度情報検出部51は、高周波低減フィルタ処理に代えて、又は高周波低減フィルタ処理と共に、各角度識別番号nに対応して設定された補正係数Kc(n)により、各角度識別番号nの角周期ΔTd(n)を補正するように構成されてもよい。補正係数Kc(n)は、特許第6169214号に開示されている方法等により、角周期ΔTd(n)に基づいて学習されたり、製造時に適合により予め設定されたりする。
【0044】
角度情報検出部51は、角度識別番号n、クランク角度θd(n)、高周波低減フィルタ前後の角周期ΔTd(n)、ΔTdfH(n)等の角度情報を、少なくとも後述する解析期間以上の期間分、RAM等の記憶装置91に記憶する。以下では、高周波低減フィルタ後の角周期ΔTdfH及び高周波低減フィルタ処理が行われていない角周期ΔTdを、特に区別せず、単に角周期ΔTdと称する。
【0045】
1-2-2.捩れ振動判定部52
捩れ振動判定部52は、角周期ΔTdに基づいて、クランク軸に捩れ振動が発生しているか否かを判定する。角周期ΔTdとして、高周波数成分を低減する高周波低減フィルタ前の角周期が用いられてもよいし、高周波低減フィルタ後の角周期が用いられてもよい。角周期ΔTdの逆数に相当するクランク角速度に基づいて、クランク軸に捩れ振動が発生しているか否かが判定されてもよい。
【0046】
クランク軸の捩れ振動は、クランク軸回りの捩れ振動系の共振周波数の成分が大きくなる。そこで、捩れ振動判定部52は、角周期ΔTdに対して周波数解析を行って、角周期ΔTdに含まれる捩れ振動の周波数に対応する特定周波数fspの成分の強度Ispを算出し、特定周波数の成分の強度Ispに基づいて、捩れ振動の発生の有無を判定する。
【0047】
本実施の形態では、捩れ振動判定部52は、解析期間に検出した複数の角周期ΔTdに対して、高速フーリエ変換を行って、各周波数成分の強度を算出する。そして、捩れ振動判定部52は、算出した各周波数成分の強度から、特定周波数の成分の強度Ispを抽出し、出力する。捩れ振動の周波数は、通常、回転周波数よりも低くなるので、解析期間は、回転周期よりも長い期間に設定される。捩れ振動の周波数は、回転速度により変化するので、特定周波数fspは、回転速度に基づいて設定される。
【0048】
なお、周波数解析の代わりに、特定周波数fspを通過させるバンドパスフィルタ処理が用いられてもよい。捩れ振動判定部52は、常時、周波数解析又はバンドパスフィルタ処理を行って、捩れ振動の発生の有無を判定してもよいし、捩れ振動が発生し易い特定の運転状態(例えば、失火直後)に、周波数解析又はバンドパスフィルタ処理を行って、捩れ振動の発生の有無を判定してもよい。この場合は、特定の運転状態以外では、捩れ振動が発生していないと判定される。
【0049】
図6に、捩れ振動が発生している場合と、発生していない場合の角周期ΔTdのタイムチャートを示す。本例は、3気筒エンジンの場合の例であり、燃焼周期は、240度の周期であり、捩れ振動周期は、480度の周期である。
【0050】
図7に、図6の周波数解析結果を示す。捩れ振動が発生していない場合は、240度の燃焼周波数fbrnの成分が高くなっており、480度の捩れ振動の周波数に対応する特定周波数fspの成分の強度Ispは低くなっている。捩れ振動が発生している場合は、捩れ振動が発生していない場合よりも、480度の捩れ振動の周波数に対応する特定周波数fspの成分の強度Ispが増加している。この図から、捩れ振動の周波数に対応する特定周波数の成分の強度Ispが大きくなると、捩れ振動が発生していると判定できることがわかる。
【0051】
図7に示すように、捩れ振動判定部52は、特定周波数の成分の強度Ispが、第1閾値Th1よりも大きい場合は、捩れ振動が発生したと判定する。角周期に含まれる捩れ振動成分が大きくなっている場合は、後述するように、角周期に対して捩れ振動成分を低減する特定周波数低減フィルタ処理を行っても、燃焼時のガス圧トルクの推定精度が低下するので、後述するように、燃焼状態の推定が停止される。
【0052】
捩れ振動判定部52は、特定周波数の成分の強度Ispが、第1閾値Th1以下であり、且つ第1閾値Th1よりも小さい値に設定された第2閾値Th2よりも大きい場合は、許容捩れ振動が発生したと判定する。捩れ振動が発生しているが、角周期に含まれる捩れ振動成分が比較的に小さい場合は、後述するように、角周期に対して捩れ振動成分を低減する特定周波数低減フィルタ処理を行えば、燃焼時のガス圧トルクの推定精度を向上できるので、後述するように、燃焼状態の推定が実行される。
【0053】
捩れ振動判定部52は、特定周波数fspの成分の強度Ispが、第2閾値Th2以下である場合は、捩れ振動が発生していないと判定する。この場合は、後述するように、角周期に対して特定周波数fspの成分を低減する特定周波数低減フィルタ処理が行われず、燃焼状態の推定が実行される。
【数4】
【0054】
第1閾値Th1及び第2閾値Th2は、捩れ振動が発生していない場合の特定周波数の成分の強度Ispnrmに、それぞれ、第1係数K1及び第2係数K2が乗算されて設定される。
【数5】
【0055】
第1係数K1及び第2係数K2は、それぞれ、回転速度及び充填効率等の運転状態と各係数との関係が予め設定された係数設定マップデータを用いて設定されればよい。捩れ振動が発生していない場合の特定周波数の成分の強度Ispnrmは、特定周波数の成分の強度Ispに対してローパスフィルタ処理等の統計処理を行って算出されればよい。或いは、第1閾値Th1及び第2閾値Th2は、それぞれ、回転速度及び充填効率等の運転状態と各閾値との関係が予め設定された閾値設定マップデータを用いて設定されてもよい。閾値設定マップデータは、捩れ振動が発生し易い特定の運転状態以外において、計算された特定周波数の成分の強度Ispに基づいて更新されてもよい。
【0056】
周波数解析及び捩れ振動の有無の判定は、燃焼期間が終了した後、記憶装置91に記憶された解析期間の角周期ΔTdに基づいて実行される。
【0057】
1-2-3.角度情報算出部53
<特定周波数低減フィルタ処理>
角度情報算出部53は、角周期ΔTdに基づいてクランク角加速度αdを算出する。角度情報算出部53は、許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、角周期ΔTdに対して特定周波数fspの成分を低減する特定周波数低減フィルタ処理を行う。
【0058】
特定周波数低減フィルタ処理として、特定周波数fspの成分を減衰させ、燃焼により生じた周波数成分を通過させるハイパスフィルタ処理が用いられる。特定周波数低減フィルタ処理として、式(3)で示したFIRフィルタが用いられるとよい。フィルタ係数及びフィルタ次数は、特定周波数fspに合わせて設定される。特定周波数fspは、回転速度に応じて変化させるので、フィルタ係数及びフィルタ次数は、回転速度に基づいて設定されるとよい。
【0059】
或いは、式(3)の高周波数の成分を減衰する高周波低減フィルタ処理と、特定周波数fspの成分を減衰する特定周波数低減フィルタ処理とがまとめて行われてもよい。すなわち、高周波数の成分及び特定周波数fspの成分を減衰し、燃焼により生じた周波数成分を通過させるバンドパスフィルタ処理が行われてもよい。この場合は、捩れ振動が発生していないと判定された場合は、高周波数の成分を減衰し、燃焼により生じた周波数成分を通過させるフィルタ係数及びフィルタ次数が設定され、許容捩れ振動が発生していると判定された場合は、高周波数の成分及び特定周波数fspの成分を減衰し、燃焼により生じた周波数成分を通過させるフィルタ係数及びフィルタ次数が設定される。すなわち、捩れ振動の判定結果に基づいて、フィルタ係数及びフィルタ次数が切り換えられる。
【0060】
また、角度情報算出部53は、許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、特定周波数の成分の強度Ispに基づいて、特定周波数低減フィルタ処理の特性を変化させる。特定周波数の成分の強度Ispが大きくなるほど、特定周波数の成分の減衰率が大きくなるように、フィルタ係数及びフィルタ次数が変化されるとよい。
【0061】
一方、角度情報算出部53は、捩れ振動が発生していないと判定された場合は、角周期ΔTdに対して特定周波数fspの成分を低減する特定周波数低減フィルタ処理を行わない。
【0062】
なお、角度情報算出部53は、捩れ振動が発生していると判定された場合は、角周期ΔTdに対して特定周波数低減フィルタ処理を行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0063】
<クランク角速度及びクランク角加速度の算出>
角度情報算出部53は、角周期ΔTdに対して特定周波数低減フィルタ処理が行われている場合は、特定周波数低減フィルタ後の角周期ΔTdfに基づいて、クランク角度θdの時間変化率であるクランク角速度ωd、及びクランク角速度ωdの時間変化率であるクランク角加速度αdを算出し、特定周波数低減フィルタ処理が行われていない場合は、特定周波数低減フィルタ処理が行われていない角周期ΔTdに基づいて、クランク角速度ωd及びクランク角加速度αdを算出する。
【0064】
本実施の形態では、図8に示すように、角度情報算出部53は、処理対象とする角度区間Sd(n)に対応する角度間隔Δθd(n)及び特定周波数低減フィルタ後の角周期ΔTdf(n)(又は特定周波数低減フィルタ処理が行われていない角周期ΔTd(n))に基づいて、処理対象の角度区間Sd(n)に対応するクランク角速度ωd(n)を算出する。具体的には、角度情報算出部53は、次式に示すように、処理対象の角度区間Sd(n)に対応する補正後の角度間隔Δθdc(n)を特定周波数低減フィルタ後の角周期ΔTdf(n)(又は特定周波数低減フィルタ処理が行われていない角周期ΔTd(n))で除算して、クランク角速度ωd(n)を算出する。
【数6】
【0065】
角度情報算出部53は、次式に示すように、処理対象とする検出角度θd(n)の直前1つの角度区間Sd(n)に対応するクランク角速度ωd(n)および特定周波数低減フィルタ後の角周期ΔTdf(n)(又は角周期ΔTd(n))、並びに処理対象の検出角度θd(n)の直後1つの角度区間Sd(n+1)に対応するクランク角速度ωd(n+1)および特定周波数低減フィルタ後の角周期ΔTdf(n+1)(又は角周期ΔTd(n+1))に基づいて、処理対象の検出角度θd(n)に対応するクランク角加速度αd(n)を算出する。
【数7】
【0066】
角周期ΔTdに対する特定周波数低減フィルタ処理、クランク角速度ωd、及びクランク角加速度αdの算出は、燃焼期間が終了し、捩れ振動の有無の判定が行われた後、記憶装置91に記憶された対象期間の角周期ΔTdを用いてまとめて実行される。
【0067】
角度情報算出部53は、対応する角度識別番号n及びクランク角度θd等の角度情報と共に、特定周波数fspの成分を低減する特定周波数低減フィルタ後の角周期ΔTdf(n)、クランク角速度ωd(n)、クランク角加速度αd(n)等の角度情報を、少なくとも燃焼行程以上の期間分、RAM等の記憶装置91に記憶する。
【0068】
1-2-4.ガス圧トルク演算部54
ガス圧トルク演算部54は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、クランク角加速度αdの検出値に基づいて、気筒内のガス圧によりクランク軸にかかるガス圧トルクを算出する。本実施の形態では、ガス圧トルク演算部54は、捩れ振動が発生していないと判定された場合、及び許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、ガス圧トルクを算出し、捩れ振動が発生したと判定された場合は、ガス圧トルクを算出しない。
【0069】
本実施の形態では、ガス圧トルク演算部54は、ガス圧トルクの内、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnを算出する。以下で、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnの算出について、詳細に説明する。
【0070】
<実軸トルクTcrkdの算出>
ガス圧トルク演算部54は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、クランク角加速度の検出値αdに基づいて、クランク軸にかかる実軸トルクTcrkdを算出する。
【0071】
本実施の形態では、ガス圧トルク演算部54は、次式に示すように、各クランク角度θdにおいて、クランク角加速度αdの検出値に、クランク軸系の慣性モーメントIcrkを乗算して、実軸トルクTcrkdを算出する。
【数8】
【0072】
クランク軸系の慣性モーメントIcrkは、クランク軸2と一体回転する部材全体(例えば、クランク軸2、クランク32、及びフライホイール27等)の慣性モーメントであり、予め設定されている。
【0073】
<未燃焼時の軸トルクの算出>
ガス圧トルク演算部54は、クランク角度θdと未燃焼時の軸トルクTcrk_motとの関係が設定された未燃焼時データを参照し、演算対象の各クランク角度θdに対応する未燃焼時の軸トルクTcrk_motを算出する。
【0074】
未燃焼時データは、少なくとも燃焼行程を含むクランク角度区間の各クランク角度θdについて設定されている。未燃焼時データは、実験データに基づいて、予め設定され、ROM、EEPROM等の記憶装置91に記憶されている。本実施の形態では、未燃焼時データには、後述する未燃焼時軸トルク学習部57により未燃焼時の実軸トルクTcrkdに基づいて更新されたものが用いられる。
【0075】
未燃焼時データは、各気筒の燃焼行程に対応して設定されてもよい。例えば、未燃焼時データは、4行程間の各クランク角度θdについて設定されてもよい。
【0076】
未燃焼時データは、少なくとも気筒内のガス圧及びピストンの往復慣性トルクに影響する運転状態ごとに設定されている。ガス圧トルク演算部54は、現在の運転状態に対応する未燃焼時データを参照し、各クランク角度θdに対応する未燃焼時の軸トルクTcrk_motを算出する。
【0077】
本実施の形態では、未燃焼時データの設定に係る運転状態は、内燃機関の回転速度、気筒内の吸入気体量、温度、並びに吸気バルブ及び排気バルブの一方又は双方の開閉タイミングのいずれか1つ以上に設定されている。内燃機関の回転速度は、クランク角速度ωdに対応する。気筒内の吸入気体量として、気筒内に吸入された空気及びEGRガスの気体量、充填効率、又は吸気管内のガス圧(本例では、吸気マニホールド内の圧力)等が用いられる。温度として、気筒内に吸入されるガス温度、又は内燃機関の冷却水温又は油温等が用いられる。吸気バルブの開閉タイミングとして、吸気可変バルブタイミング機構14による吸気バルブの開閉タイミングが用いられる。排気バルブの開閉タイミングとして、排気可変バルブタイミング機構15による排気バルブの開閉タイミングが用いられる。
【0078】
例えば、未燃焼時データとして、運転状態ごとに、図9に示すような、クランク角度θdと未燃焼時の軸トルクTcrk_motとの関係が設定されたマップデータが、記憶装置91に記憶されている。マップデータの代わりに多項式、ニューラルネットワーク等の近似関数が用いられてもよい。
【0079】
<外部負荷トルクの算出>
ガス圧トルク演算部54は、上死点近傍のクランク角度θd_tdcにおいて、クランク角加速度αdの検出値に基づいて実軸トルクTcrkd_tdcを算出する。ガス圧トルク演算部54は、未燃焼時データを参照し、上死点近傍のクランク角度θd_tdcに対応する未燃焼時の軸トルクTcrk_mot_tdcを算出する。ここで、上死点近傍は、例えば、上死点前10度から上死点後10度までの角度区間内である。例えば、上死点近傍のクランク角度θd_tdcは、上死点のクランク角度に予め設定されている。
【0080】
ガス圧トルク演算部54は、上死点近傍のクランク角度θd_tdcにおける実軸トルクTcrkd_tdc及び未燃焼時の軸トルクTcrk_mot_tdcに基づいて、内燃機関の外部からクランク軸にかかるトルクである外部負荷トルクTloadを算出する。本実施の形態では、ガス圧トルク演算部54は、次式に示すように、上死点近傍の未燃焼時の軸トルクTcrk_mot_tdcから、上死点近傍の実軸トルクTcrkd_tdcを減算して、燃焼時の外部負荷トルクTloadを算出する。
【数9】
【0081】
燃焼行程の上死点近傍では燃焼気筒のガス圧トルクがほぼ0になるため、上死点近傍の未燃焼時の軸トルクTcrk_mot_tdcと、上死点近傍の燃焼時の実軸トルクTcrkd_tdcとに基づいて、少ない演算負荷で、外部負荷トルクTloadを算出することができる。
【0082】
<燃焼によるガス圧トルクの増加分の算出>
図10に示すように、燃焼時の気筒内のガス圧は、未燃焼時の気筒内のガス圧よりも、燃焼による圧力上昇分だけ上昇する。燃焼時の実軸トルクTcrkdは、この燃焼の圧力上昇による軸トルクの増加分ΔTgas_brnだけ、未燃焼時の軸トルクTcrk_motから増加する。この軸トルクの増加分ΔTgas_brnは、未燃焼時の気筒内のガス圧から燃焼時の気筒内のガス圧まで上昇したガス圧上昇により生じた、ガス圧トルクの増加分であるため、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnと称す。
【0083】
ガス圧トルク演算部54は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、実軸トルクTcrkd、未燃焼時の軸トルクTcrk_mot、及び外部負荷トルクTloadに基づいて、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnを算出する。本実施の形態では、ガス圧トルク演算部54は、次式に示すように、実軸トルクTcrkdから、未燃焼時の軸トルクTcrk_motを減算し、外部負荷トルクTloadを加算して、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnを算出する。
【数10】
【0084】
以上のように、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnの算出には、燃焼時の実軸トルクTcrkd及び未燃焼時の軸トルクTcrk_motが用いられる。よって、特許文献1の式(15)のように、クランク機構の物理モデル式が用いられていなので、モデル化誤差を低減することができる。また、特許文献1の式(15)では、高周波の誤差成分が重畳している燃焼時の実軸トルクから、高周波の誤差成分が重畳していない未燃焼仮定の発生トルクが減算されているので、算出される燃焼時の気筒内の圧力には高周波の誤差成分が重畳する。一方、上記の構成によれば、燃焼時の実軸トルクTcrkdに含まれる高周波の誤差成分と、未燃焼時の軸トルクTcrk_motに含まれる高周波の誤差成分とを、互いに打ち消し合わせることができ、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnから高周波の誤差成分を低減させることができる。従って、クランク角加速度αdの検出値に高周波の誤差成分が含まれ、クランク機構のモデル化が容易でない場合でも、燃焼状態に関連するパラメータの推定精度を向上させることができる。
【0085】
各クランク角度のガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnの算出は、燃焼期間が終了し、捩れ振動の有無の判定、クランク角加速度αdの算出が行われた後、記憶装置91に記憶された対象期間のクランク角加速度αd等を用いてまとめて実行される。
【0086】
ガス圧トルク演算部54は、対応する角度識別番号n及びクランク角度θd等の角度情報と共に、演算対象の各クランク角度θdで算出した実軸トルクTcrkd、未燃焼時の軸トルクTcrk_mot、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brn等の各演算値を、RAM等の記憶装置91に記憶する。
【0087】
1-2-5.燃焼状態推定部55
燃焼状態推定部55は、燃焼によるガス圧トルクに基づいて内燃機関の燃焼状態を推定する。本実施の形態では、燃焼状態推定部55は、捩れ振動が発生していないと判定された場合、及び許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、燃焼状態を推定し、捩れ振動が発生したと判定された場合は、燃焼状態の推定を停止する。この構成によれば、捩れ振動が発生し、角度情報に基づく燃焼状態の推定精度が低下する場合に、推定を停止し、精度が悪い燃焼状態が推定されることを防止できる。
【0088】
本実施の形態では、燃焼状態推定部55は、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnに基づいて内燃機関の燃焼状態を推定する。燃焼状態推定部55は、筒内圧演算部551、及び燃焼パラメータ演算部552を備えている。
【0089】
1-2-5-1.筒内圧演算部551
<未燃焼時の気筒内のガス圧の算出>
筒内圧演算部551は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、現在の筒内吸入気体量の状態(本例では、現在の吸気管内のガス圧Pin)に基づいて、未燃焼であると仮定した場合の未燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_motを算出する。
【0090】
本実施の形態では、筒内圧演算部551は、ポリトロープ変化を表す次式を用いて、未燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_motを算出する。
【数11】
【0091】
ここで、Nplyは、ポリトロープ指数であり、予め設定された値が用いられる。Vcyl0は、吸気弁の閉弁時の燃焼気筒のシリンダ容積であり、予め設定された値が用いられてもよいし、吸気可変バルブタイミング機構14による吸気バルブの閉弁タイミングに応じて変化されてよい。Vcly_θは、クランク角度θdにおける燃焼気筒のシリンダ容積である。Spは、ピストンの頂面の投影面積であり、rは、クランク長さであり、Lは、コンロッド長さである。なお、三角関数の演算に用いられるクランク角度θdには、燃焼気筒の圧縮行程の上死点を0度に設定した角度が用いられる。
【0092】
<燃焼時の気筒内のガス圧の算出>
そして、筒内圧演算部551は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、未燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_motと、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnとに基づいて、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnを算出する。
【0093】
本実施の形態では、筒内圧演算部551は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnに基づいて、燃焼による気筒内のガス圧の増加分ΔPcyl_brnを算出する。例えば、筒内圧演算部551は、次式を用いて、燃焼による気筒内のガス圧の増加分ΔPcyl_brnを算出する。
【数12】
【0094】
そして、筒内圧演算部551は、次式に示すように、演算対象の各クランク角度θdにおいて、未燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_motと燃焼による気筒内のガス圧の増加分ΔPcyl_brnとを加算して、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnを算出する。
【数13】
【0095】
各クランク角度θdの燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnは、燃焼期間が終了し、ガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnが算出された後、記憶装置91に記憶された対象期間のガス圧トルクの増加分ΔTgas_brn等に基づいて、まとめて演算される。
【0096】
筒内圧演算部551は、対応する角度識別番号n及びクランク角度θd等の角度情報と共に、算出した燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnを、少なくとも推定クランク角度区間θint以上の期間分、RAM等の記憶装置91に記憶する。
【0097】
1-2-5-2.燃焼パラメータ演算部552
燃焼パラメータ演算部552は、演算対象の各クランク角度θdの燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnに基づいて、燃焼状態を表す燃焼パラメータを算出する。例えば、燃焼パラメータとして、熱発生率、質量燃焼割合MFB、及び図示平均有効圧力IMEPの少なくとも1つ以上が算出される。なお、他の種類の燃焼パラメータが算出されてもよい。
【0098】
本実施の形態では、燃焼パラメータ演算部552は、次式を用い、演算対象の各クランク角度θdにおいて、単位クランク角度当たりの熱発生率dQ/dθdを算出する。
【数14】
【0099】
ここで、κは、比熱比であり、Vcly_θは、各クランク角度θdにおける燃焼気筒のシリンダ容積であり、式(11)の第2式を用いて説明したように算出される。燃焼パラメータ演算部552は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、熱発生率dQ/dθdを算出する演算処理を行う。算出された各クランク角度の熱発生率dQ/dθdは、他の演算値と同様に、RAM等の記憶装置91に記憶される。
【0100】
燃焼パラメータ演算部552は、次式を用い、熱発生率dQ/dθdを、演算対象の開始角度θ0から演算対象の各クランク角度θdまで積分した区間積分値を、推定クランク角度区間θint全体に亘って熱発生率dQ/dθdを積分した全積分値Q0で除算して、演算対象の各クランク角度θdの質量燃焼割合MFBを算出する。燃焼パラメータ演算部552は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、質量燃焼割合MFBを算出する演算処理を行う。算出された各クランク角度θdの質量燃焼割合MFBは、他の演算値と同様に、RAM等の記憶装置91に記憶される。
【数15】
【0101】
燃焼パラメータ演算部552は、各燃焼気筒について、次式を用い、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnを、燃焼気筒のシリンダ容積Vcly_θについて積分し、図示平均有効圧力IMEPを算出する。
【数16】
【0102】
ここで、Vcylallは、行程容積であり、Vcylsは、積分開始のシリンダ容積であり、Vclyeは、積分終了のシリンダ容積である。積分を行う容積区間は、少なくとも推定クランク角度区間θintに対応する容積区間に設定されてもよいし、4行程に対応する容積区間に設定されてよい。Vcly_θは、式(11)の第2式に示すように、クランク角度θdに基づいて算出される。燃焼パラメータ演算部552は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnの積分処理を行う。
【0103】
1-2-6.燃焼制御部56
燃焼制御部56は、推定された燃焼状態(本例では、燃焼パラメータ)に基づいて、少なくとも点火時期及びEGR量の一方又は双方を変化させる燃焼制御を行う。本実施の形態では、燃焼制御部56は、捩れ振動が発生していないと判定された場合、及び許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、燃焼状態に基づいて燃焼制御を行い、捩れ振動が発生したと判定された場合は、燃焼状態が推定されていないので、燃焼状態に基づく燃焼制御を停止する。
【0104】
本実施の形態では、燃焼制御部56は、質量燃焼割合MFBが0.5(50%)になるクランク角度θd(燃焼中心角度と称す)を判定し、燃焼中心角度が予め設定された目標角度に近づくように、少なくとも点火時期及びEGR量の一方又は双方を変化させる。例えば、燃焼制御部56は、燃焼中心角度が目標角度よりも遅角側である場合は、点火時期を進角側に変化させる、又はEGRバルブ22の開度を減少させてEGR量を減少させる。なお、EGR量を減少させれば、燃焼速度が急速になり、燃焼中心角度が進角側に変化する。一方、燃焼制御部56は、燃焼中心角度が目標角度よりも進角側である場合は、点火時期を遅角側に変化させる、又はEGRバルブ22の開度を増加させてEGR量を増加させる。
【0105】
或いは、燃焼制御部56は、熱発生率dQ/dθdが最大値になるクランク角度θdを判定し、当該クランク角度θdが予め設定された目標角度に近づくように、少なくとも点火時期及びEGR量の一方又は双方を変化させるように構成されてもよい。
【0106】
或いは、燃焼制御部56は、図示平均有効圧力IMEPが、運転状態毎に設定された目標値に近づくように、少なくとも点火時期及びEGR量の一方又は双方を変化させるように構成されてもよい。
【0107】
燃焼状態に関係する他の制御パラメータ(例えば、吸気バルブの開閉タイミング、排気バルブの開閉タイミング)が変化されてもよい
【0108】
1-2-7.未燃焼時軸トルク学習部57
未燃焼時軸トルク学習部57は、内燃機関の未燃焼状態において、各クランク角度θdにおいて、クランク角加速度の検出値αdに基づいて、燃焼時と同様に、実軸トルクTcrkdを算出し、算出した未燃焼時の実軸トルクTcrkdにより、未燃焼時データを更新する。本実施の形態では、未燃焼時軸トルク学習部57は、捩れ振動が発生していないと判定された場合に、未燃焼時データの更新を実行し、許容捩れ振動及び捩れ振動が発生したと判定された場合は、未燃焼時データの更新を停止する。
【0109】
例えば、未燃焼時データを更新する未燃焼状態は、燃料カットが実施されている状態、又は未燃焼状態で内燃機関の外部からの駆動力(例えば、電動機の駆動力、車輪から伝達される駆動力)によって内燃機関が駆動されている状態である。
【0110】
本実施の形態では、未燃焼時軸トルク学習部57は、記憶装置91に記憶されている未燃焼時データを参照し、更新対象のクランク角度θdに対応する未燃焼時の軸トルクTcrkを読み出し、読み出した未燃焼時の軸トルクTcrkが、更新対象のクランク角度θdで演算された未燃焼時の実軸トルクTcrkdに近づくように、記憶装置91に記憶されている未燃焼時データに設定されている更新対象のクランク角度θdの未燃焼時の軸トルクTcrkを変化させる。
【0111】
実験データに基づいて予め設定され、ROM、EEPROM等に記憶されている初期の未燃焼時データからの変化分は、変化分の未燃焼時データとしてバックアップRAM等に記憶され、更新されるとよい。そして、予め設定された初期の未燃焼時データから読み出された値と、変化分の未燃焼時データから読み出された値との合計値が、最終的な未燃焼時の軸トルクTcrkとして用いられるとよい。
【0112】
上述したように、本実施の形態では、未燃焼時データは、運転状態ごとに設定されるので、未燃焼時の実軸トルクTcrkdが演算された運転状態に対応する未燃焼時データが更新される。なお、変化分の未燃焼時データは、初期の未燃焼時データと同様に、運転状態ごとに設定される。未燃焼時データ、又は変化分の未燃焼時データに、ニューラルネットワークが用いられる場合は、未燃焼時の実軸トルクTcrkd等が教師データに設定され、バックプロパゲーション等によりニューラルネットワークが学習される。
【0113】
更新に用いられる未燃焼時の実軸トルクTcrkdには、行程周期よりも長い周期の成分を減衰させるハイパスフィルタ処理が行われてよい。このハイパスフィルタ処理により、未燃焼時の実軸トルクTcrkdに含まれる外部負荷トルクTloadを低減することができ、外部負荷トルクTloadの変動により、更新された未燃焼時データが変動することを抑制できる。
【0114】
未燃焼時軸トルク学習部57は、未燃焼状態の複数回の燃焼行程において各クランク角度θdで演算された複数回の未燃焼時の実軸トルクTcrkdに対して統計処理を行った値により、未燃焼時データに設定されている各クランク角度θdの未燃焼時の軸トルクTcrk_motを更新してもよい。統計処理値として、平均値、中央値などが用いられる。例えば、未燃焼時データに設定されている各クランク角度θdの未燃焼時の軸トルクTcrk_motが、各クランク角度θdの統計処理値に置き換えられる、又は近づけられる。
【0115】
或いは、未燃焼時軸トルク学習部57は、未燃焼状態の各クランク角度θdで演算された未燃焼時の実軸トルクTcrkdに対して、クランク角度θdごとにローパスフィルタ処理を行った値により、未燃焼時データに設定されている各クランク角度θdの未燃焼時の軸トルクTcrk_motを更新する。各クランク角度θdについて、個別に、フィルタ処理が行われ、フィルタ値が算出される。ローパスフィルタ処理には、例えば、上述した有限インパルス応答(FIR)フィルタ、一次遅れフィルタ等が用いられる。未燃焼時データに設定されている各クランク角度θdの未燃焼時の軸トルクTcrk_motが、各クランク角度θdのフィルタ値に置き換えられる、又は近づけられる。
【0116】
<処理全体の概略フローチャート>
本実施の形態に係る制御装置50の概略的な処理の手順(内燃機関の制御方法)について、図11に示すフローチャートに基づいて説明する。図11のフローチャートの処理は、演算処理装置90が記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行することにより、例えば、クランク角度θdを検出する毎、又は燃焼期間が終了する毎に繰り返し実行される。
【0117】
ステップS01で、上述したように、角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号に基づいて、クランク角度θd、クランク軸の単位角度の周期である角周期ΔTdを検出する角度情報検出処理(角度情報検出ステップ)を実行する。
【0118】
ステップS02で、制御装置50は、内燃機関の燃焼状態であるか、内燃機関の未燃焼状態であるかを判定し、燃焼状態である場合は、ステップS03に進み、未燃焼状態である場合は、ステップS08に進む。ここで、燃焼状態及び燃焼時は、制御装置50が、燃焼行程で燃料を燃焼させるように制御している状態及び時であり、未燃焼状態及び未燃焼時は、制御装置50が、燃焼行程で燃料を燃焼させないように制御している状態及び時である。
【0119】
ステップS03で、上述したように、捩れ振動判定部52は、角周期ΔTdに基づいて、クランク軸に捩れ振動が発生しているか否かを判定する捩れ振動判定処理(捩れ振動判定ステップ)を実行する。本実施の形態では、捩れ振動判定部52は、特定周波数の成分の強度Ispが、第1閾値Th1よりも大きい場合は、捩れ振動が発生したと判定する。捩れ振動判定部52は、特定周波数の成分の強度Ispが、第1閾値Th1以下であり、且つ第1閾値Th1よりも小さい値に設定された第2閾値Th2よりも大きい場合は、許容捩れ振動が発生したと判定する。捩れ振動判定部52は、特定周波数fspの成分の強度Ispが、第2閾値Th2以下である場合は、捩れ振動が発生していないと判定する。
【0120】
ステップS04で、上述したように、角度情報算出部53は、角周期ΔTdに基づいてクランク角加速度αdを算出する角度情報算出処理(角度情報算出ステップ)を実行する。角度情報算出部53は、許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、角周期ΔTdに対して特定周波数fspの成分を低減する特定周波数低減フィルタ処理を行う。
【0121】
ステップS05で、上述したように、ガス圧トルク演算部54は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、クランク角加速度αdの検出値に基づいて、気筒内のガス圧によりクランク軸にかかるガス圧トルクを算出するガス圧トルク演算処理(ガス圧トルク演算ステップ)を実行する。本実施の形態では、ガス圧トルク演算部54は、捩れ振動が発生していないと判定された場合、及び許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、ガス圧トルクを算出し、捩れ振動が発生したと判定された場合は、ガス圧トルクを算出しない。
【0122】
ステップS06で、上述したように、燃焼状態推定部55は、燃焼によるガス圧トルクに基づいて内燃機関の燃焼状態を推定する燃焼状態推定処理(燃焼状態推定ステップ)を実行する。本実施の形態では、燃焼状態推定部55は、捩れ振動が発生していないと判定された場合、及び許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、燃焼状態を推定し、捩れ振動が発生したと判定された場合は、燃焼状態の推定を停止する。
【0123】
ステップS07で、上述したように、燃焼制御部56は、推定された燃焼状態に基づいて、少なくとも点火時期及びEGR量の一方又は双方を変化させる燃焼制御処理(燃焼制御ステップ)を実行する。本実施の形態では、燃焼制御部56は、捩れ振動が発生していないと判定された場合、及び許容捩れ振動が発生したと判定された場合は、燃焼状態に基づいて燃焼制御を行い、捩れ振動が発生したと判定された場合は、燃焼状態が推定されていないので、燃焼状態に基づく燃焼制御を停止する。
【0124】
一方、内燃機関の未燃焼状態である場合は、ステップS08で、上述したように、未燃焼時軸トルク学習部57は、内燃機関の未燃焼状態において、各クランク角度θdにおいて、クランク角加速度の検出値αdに基づいて、燃焼時と同様に、実軸トルクTcrkdを算出し、算出した未燃焼時の実軸トルクTcrkdにより、未燃焼時データを更新する未燃焼時軸トルク学習処理(未燃焼時軸トルク学習ステップ)を実行する。本実施の形態では、未燃焼時軸トルク学習部57は、捩れ振動が発生していないと判定された場合に、未燃焼時データの更新を実行し、許容捩れ振動及び捩れ振動が発生したと判定された場合は、未燃焼時データの更新を停止する。
【0125】
〔その他の実施の形態〕
本願のその他の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する各実施の形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施の形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0126】
(1)上記の実施の形態1においては、第2クランク角センサ6の出力信号に基づいて、クランク角度θd、クランク角速度ωd、及びクランク角加速度αdが検出される場合を例に説明した。しかし、第1クランク角センサ11の出力信号に基づいて、クランク角度θd、クランク角速度ωd、及びクランク角加速度αdが検出されてもよい。
【0127】
(2)上記の実施の形態1においては、気筒数が3つの3気筒エンジンが用いられる場合を例に説明した。しかし、任意の気筒数(例えば、1気筒、2気筒、4気筒、6気筒)のエンジンが用いられてもよい。
【0128】
(3)上記の実施の形態1においては、内燃機関1は、ガソリンエンジンとされている場合を例として説明した。しかし、本願の実施の形態はこれに限定されない。すなわち、内燃機関1は、ディーゼルエンジン、HCCI燃焼(Homogeneous-Charge Compression Ignition Combustion)を行うエンジン等の各種の内燃機関とされてもよい。この場合は、演算対象の設定に用いられる点火時期の代わりに、着火時期の予測値が用いられるとよい。
【0129】
(4)上記の実施の形態1では、制御装置50は、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brn等に基づいて、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnを算出し、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnに基づいて、熱発生率及び質量燃焼割合MFBの一方又は双方の燃焼パラメータを算出し、内燃機関の燃焼状態を推定する場合を例に説明した。しかし、制御装置50は、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brn及び燃焼パラメータを算出することなく、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnの挙動(例えば、燃焼行程の積算値、燃焼行程のピーク値、ピーク値のクランク角度等)に基づいて、燃焼状態を推定してもよい。或いは、制御装置50は、燃焼パラメータを算出することなく、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnの挙動(例えば、燃焼行程の積算値、燃焼行程のピーク値、ピーク値のクランク角度等)に基づいて、燃焼状態を推定してもよい。
【0130】
(5)上記の実施の形態1においては、制御装置50は、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brnに基づいて、熱発生率及び質量燃焼割合を算出し、燃焼制御を行うように構成されている場合を例に説明した。しかし、制御装置50は、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brn、燃焼時の気筒内のガス圧Pcyl_brn、又は熱発生率に基づいて、燃焼気筒の失火検出等の他の制御を行うように構成されてもよい。
【0131】
(6)上記の実施の形態1においては、未燃焼時の軸トルクTcrk_motが、未燃焼時データを参照して算出される場合を例に説明した。しかし、未燃焼時データが、燃料カットの実行領域等、特定の運転状態にのみ設定されている場合は、特定の運転状態の未燃焼時データに加えて、クランク機構の物理モデル式を用いて算出した発生トルクに基づいて、未燃焼時の軸トルクTcrk_motが算出されてもよい。
【0132】
具体的には、ガス圧トルク演算部54は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、クランク角度θdと、特定の運転状態における未燃焼時の軸トルクとの関係が設定された特定未燃焼時データを参照し、演算対象の各クランク角度θdに対応する特定運転状態の未燃焼時の軸トルクを算出する。そして、ガス圧トルク演算部54は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、クランク機構の物理モデル式を用い、特定の運転状態であり、且つ、未燃焼であると仮定した場合における、気筒内のガス圧及びピストンの往復運動により生じるトルクである特定運転状態の未燃焼仮定の発生トルクを算出する。
【0133】
ガス圧トルク演算部54は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、クランク機構の物理モデル式を用い、現在の運転状態において未燃焼であると仮定した場合における、気筒内のガス圧及びピストンの往復運動により生じるトルクである現在運転状態の未燃焼仮定の発生トルクを算出する。ガス圧トルク演算部54は、演算対象の各クランク角度θdにおいて、特定運転状態の未燃焼時の軸トルク、及び特定運転状態の未燃焼仮定の発生トルクに基づいて、現在運転状態の未燃焼仮定の発生トルクを補正して、未燃焼時の軸トルクTcrk_motを算出する。クランク機構の物理モデル式には、特許文献1の式(15)の右辺の分子の第2項及び第3項と同様の式が用いられればよい。
【0134】
未燃焼時軸トルク学習部57は、内燃機関の未燃焼状態であり、特定の運転状態において、各クランク角度θdにおいて演算された未燃焼時の実軸トルクTcrkdにより、特定未燃焼時データを更新する。
【0135】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0136】
1 内燃機関、2 クランク軸、5 ピストン、6 第2クランク角センサ(クランク角センサ)、7 気筒、9 コンロッド、32 クランク、50 内燃機関の制御装置、51 角度情報検出部、52 捩れ振動判定部、53 角度情報算出部、54 ガス圧トルク演算部、55 燃焼状態推定部、56 燃焼制御部、57 未燃焼時軸トルク学習部、
Isp 特定周波数の成分の強度、fsp 特定周波数、αd クランク角加速度、θd クランク角度、ωd クランク角速度、Th1 第1閾値、Th2 第2閾値、ΔTd 角周期、ΔTdf 特定周波数低減フィルタ後の角周期
図1
図2
図3
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図5
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図11