IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特許7186856オレフィン系樹脂、その架橋物およびそれらの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】オレフィン系樹脂、その架橋物およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 255/00 20060101AFI20221202BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
C08F255/00
C08F10/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021505016
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009626
(87)【国際公開番号】W WO2020184421
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019044850
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 誠也
(72)【発明者】
【氏名】柳本 泰
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035267(JP,A)
【文献】特開平09-169820(JP,A)
【文献】特開2017-025234(JP,A)
【文献】特開2017-025233(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0053838(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 255/00
C08F 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエン(ただし、エチレン(a)、炭素数3~20のα-オレフィン(b)、下記一般式[I]、[II]および[III]で表される環状オレフィン(c)からなる群より選ばれる少なくとも1つに由来する構成単位を含んでおり、
1)全分子鎖の両末端に対する末端ビニル化率が70%以上、
2)135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が0.01~10dl/gの範囲である両末端ビニル基含有ポリオレフィン重合体も、前記非共役ジエンであるものとする。)との共重合体を含み、
前記共重合体は、オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエン以外のコモノマーを含まない重合体である、
オレフィン系樹脂。
【化1】
(式[I]中、uは0または1、vは0または1以上の整数、wは0または1であり、R 61 ~R 78 ならびにR a1 およびR b1 は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基であり、R 75 ~R 78 は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ該単環または多環が二重結合を有していてもよく、またR 75 とR 76 とで、またはR 77 とR 78 とでアルキリデン基を形成していてもよい。)
【化2】
(式[II]中、xおよびdは0または1以上の整数、yおよびzは0、1または2であり、R 81 ~R 99 は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R 89 およびR 90 が結合している炭素原子と、R 93 が結合している炭素原子またはR 91 が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R 95 とR 92 またはR 95 とR 99 とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【化3】
(式[III]中、R 100 、R 101 は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18の整数である。)
【請求項2】
前記オレフィン系マクロモノマーと前記非共役ジエンとの共重合体において、オレフィン系マクロモノマーから導かれる構造単位の含有量が80~99.5mol%の範囲にある、請求項1に記載のオレフィン系樹脂。
【請求項3】
前記オレフィン系マクロモノマーが、以下の要件(i)~(iii)を満たす、請求項1または2に記載のオレフィン系樹脂。
(i)エチレンおよび炭素数3~12のα-オレフィンから選ばれる1種以上のオレフィンの単独重合体または共重合体である
(ii)重量平均分子量が1000~30000の範囲にある
(iii)総不飽和末端に対して50mol%以上のビニル基を有する
【請求項4】
前記要件(i)が、
エチレンと1種以上の炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体であり、エチレンから導かれる繰り返し単位の含有量が30~70mol%の範囲にある、
である、請求項3に記載のオレフィン系樹脂。
【請求項5】
前記要件(iii)が、
総不飽和末端に対して60mol%以上のビニル基を有する、
である、請求項3または4に記載のオレフィン系樹脂。
【請求項6】
下記の工程A及び工程Bを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のオレフィン系樹脂の製造方法。
工程A:オレフィン重合用触媒の存在下でオレフィンを重合して、オレフィン系マクロモノマーを製造する工程。
工程B:オレフィン重合用触媒の存在下で、工程Aで生成したオレフィン系マクロモノマーと前記非共役ジエンとを共重合して、オレフィン系樹脂を製造する工程。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のオレフィン系樹脂の、架橋物。
【請求項8】
請求項6に記載の製造方法により得られたオレフィン系樹脂を、架橋剤を用いて架橋する、架橋物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の要件を満たすオレフィン系樹脂、その架橋物およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分岐構造を持つ高分子材料は分岐度や分岐密度によってさまざまな形態を有し、特に、高密度にポリマー鎖が配列したグラフトポリマーであるいわゆるボトルブラシポリマーは、側鎖間の反発による主鎖の伸張性、柔軟性、分子間の絡み合いにくさなど直鎖ポリマーとは異なる性質を示し、本特性を利用した材料設計が注目されている。例えば、非特許文献1では、アクリル系またはシリコーン系ボトルブラシポリマーの架橋体が開示され、ソフトマテリアルとしての新たな可能性を例示されている。非特許文献2では、アクリル系ボトルブラシポリマーの架橋体で均一な細孔を持つ材料が例示されている。
【0003】
一方、ポリエチレンやポリプロピレンに代表されるオレフィン系樹脂は、軽量、高耐熱性、耐薬品性などの性質を有し、成形性、リサイクル性に優れるといった特性から、バンパーやインストルメントパネルなどの自動車部品、包装材料、スポーツ用部品、電線被覆材などとして幅広く用いられている。また、エチレン・α-オレフィン共重合体は、モノマーの組成(エチレンとα-オレフィンの組成比)によって、熱的特性、機械的特性、レオロジー特性などの諸物性が変化し、各用途の要求性能に応じたモノマー組成の設計がなされ、相溶化剤や改質剤などとして幅広く用いられている。
【0004】
オレフィン系樹脂に関して、機械物性や成形性などの性能向上を目的として、重合体に分岐鎖を導入する試みがなされている。更に特許文献1には、末端にビニル基を持つオレフィン重合体を配位重合により単独重合する例が開示されている。また、特許文献2には、エチレン・プロピレン共重合体の末端不飽和基をラジカル重合性基に変換し、ラジカル重合を行う方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、これら先行技術はボトルブラシポリマーの設計を指向したものではなく、また、実際にオレフィン系ボトルブラシポリマーの架橋体を形成する方法論は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2009/155510号
【文献】特開2004-91640号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sheiko,S.Nature 2017,549,497-501.
【文献】Rzayev,J.ASC Nano 2017,11,8207-8214.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、架橋反応可能な不飽和炭素結合を有するオレフィン系ボトルブラシポリマーを含むオレフィン系樹脂、およびその架橋物を提供すること、さらにそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、オレフィン重合用触媒の存在下で、オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとを共重合することにより、前記課題を解決し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、次の[1]~[8]に関する。
[1]オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体を含むオレフィン系樹脂。
[2]前記オレフィン系マクロモノマーと前記非共役ジエンとの共重合体において、オレフィン系マクロモノマーから導かれる構造単位の含有量が80~99.5mol%の範囲にある、前記[1]に記載のオレフィン系樹脂。
[3]前記オレフィン系マクロモノマーが、以下の要件(i)~(iii)を満たす、前記[1]または[2]に記載のオレフィン系樹脂。
(i)エチレンおよび炭素数3~12のα-オレフィンから選ばれる1種以上のオレフィンの単独重合体または共重合体である
(ii)重量平均分子量が1000~30000の範囲にある
(iii)総不飽和末端に対して50mol%以上のビニル基を有する
[4]前記要件(i)が、
エチレンと1種以上の炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体であり、エチレンから導かれる繰り返し単位の含有量が30~70mol%の範囲にある、
である、前記[3]に記載のオレフィン系樹脂。
[5]前記要件(iii)が、
総不飽和末端に対して60mol%以上のビニル基を有する、
である、前記[3]または[4]に記載のオレフィン系樹脂。
[6]下記の工程A及び工程Bを含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載のオレフィン系樹脂の製造方法。
工程A:オレフィン重合用触媒の存在下でオレフィンを重合して、オレフィン系マクロモノマーを製造する工程。
工程B:オレフィン重合用触媒の存在下で、工程Aで生成したオレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとを共重合して、オレフィン系樹脂を製造する工程。
[7]前記[1]~[5]のいずれかに記載のオレフィン系樹脂の、架橋物。
[8]前記[6]に記載の製造方法により得られたオレフィン系樹脂を、架橋剤を用いて架橋する、架橋物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオレフィン系樹脂は、架橋反応可能な不飽和炭素結合を有するオレフィン系ボトルブラシポリマーを含むため、機械特性に優れる架橋物、およびその前駆体を提供でき、さらに、オレフィン系樹脂であるため、本発明のオレフィン系樹脂及びその架橋物は、軽量性、耐薬品性、リサイクル性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「~」は、特に断りがなければ以上から以下を表す。
<オレフィン系樹脂>
本発明のオレフィン系樹脂は、オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体を含むことを特徴とする。
【0013】
以下、オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンについて順に説明する。
(1)オレフィン系マクロモノマー
オレフィン系マクロモノマーは、炭素原子及び水素原子のみから構成されるオレフィン由来の重合体であって、例えば後述の工程Bに示すオレフィン重合用触媒の存在下で重合反応性を示すビニル基を末端に有するポリマーを含む重合体である。
【0014】
このようなマクロモノマーとして、本出願人により開示されているエチレン単独重合体からなるマクロモノマー(国際公開第2015/147186号)、プロピレン単独重合体からなるマクロモノマー(国際公開第2015/147187号)、プロピレン・エチレン共重合体からなるマクロモノマー(国際公開第2017/082182号)が挙げられ、その他にプロピレン単独重合体からなるマクロモノマー(特開2009-299046)、プロピレン・エチレン共重合体からなるマクロモノマー(国際公開第2012/134719号)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
なお、オレフィン系マクロモノマーは、一種を単独で用いることもできるし、複数種を組み合わせて用いることもできる。
以下、オレフィン系マクロモノマーについて詳述する。
【0016】
(i)組成
オレフィン系マクロモノマーは、炭素原子及び水素原子のみから構成されるオレフィン由来の重合体であり、例えば炭素数2~50、好ましくは炭素数2~12のオレフィンに由来する構造単位を含む重合体である。好ましくはエチレンおよび炭素数3~12のα-オレフィンから選ばれる1種以上のオレフィンの単独重合体または共重合体である。
【0017】
炭素数2のオレフィンはエチレンであり、炭素数3~12のα-オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、メチルエチル-1-ブテン、1-オクテン、メチル-1-ペンテン、エチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ヘキセン、プロピル-1-ヘプテン、メチルエチル-1-ヘプテン、トリメチル-1-ペンテン、プロピル-1-ペンテン、ジエチル-1-ブテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等を挙げることができる。
【0018】
これらのオレフィンの中でより好ましくは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテンを挙げることができ、さらにより好ましくはエチレン、プロピレンが挙げられる。
【0019】
オレフィン系マクロモノマーは、上記オレフィンの単独重合体であってもよく、上記オレフィンから少なくとも2種以上選ばれる共重合体であってもよい。
好ましくは、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレンと前記炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体が挙げられ、その場合にエチレンから導かれる繰り返し単位の含有量が30~70mol%の範囲にあることが好ましい。共重合体の中でもエチレン・プロピレン共重合体が特に好ましい。前記エチレン・プロピレン共重合体のより好ましい態様として、エチレンから導かれる構造単位の含有量は20~80mol%が好ましく、より好ましくは30~70mol%であり、プロピレンから導かれる構造単位の含有量は80~20mol%が好ましく、より好ましくは70~30mol%である。
【0020】
前記エチレンおよびプロピレンから導かれる構造単位の含有量が上記範囲にあることにより、柔軟な重合体鎖を持つオレフィン系マクロモノマーとなり、該マクロモノマーを重合して得られるボトルブラシポリマーを含むオレフィン系樹脂は優れた柔軟性を有する。
【0021】
(ii)分子量
オレフィン系マクロモノマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められるポリスチレン換算の重量平均分子量が1000~100000の範囲であることが好ましく、より好ましくは1000~30000または2000~50000、さらに好ましくは2500~40000、特に好ましくは3000~30000の範囲である。前記範囲にあることにより、該マクロモノマーを重合して得られるボトルブラシポリマーを含むオレフィン系樹脂はボトルブラシポリマーに由来する優れた特性を発揮する。
【0022】
(iii)末端ビニル基
オレフィン系マクロモノマーは通常、後述の工程Aにおいて説明される通り、オレフィン重合用触媒の存在下でオレフィンを重合することにより得られ、通常はオレフィンモノマーへの連鎖移動やβ水素脱離、βアルキル脱離などの停止反応により、末端に炭素-炭素不飽和結合を有するポリマーを含んで成る。オレフィン系マクロモノマーは、例えば後述の工程Bに示すオレフィン重合用触媒の存在下で重合反応性を示すビニル基を末端に有するポリマーを含むことが好ましい。そのため、オレフィン系マクロモノマーは、総不飽和末端に対するビニル基の割合は、通常は50mol%以上、より好ましくは60mol%以上、さらに好ましくは70mol%以上である。
【0023】
更に、オレフィン系マクロモノマーに含まれる末端ビニル基は1000炭素原子あたりで、0.1~10.0個の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.5~8.0個、より好ましくは1.0~6.0個の範囲である。
【0024】
総不飽和末端に対するビニル基の割合、及び1000炭素原子あたり末端ビニル基の割合が上記範囲にあることにより、本発明のオレフィン系樹脂に含まれるオレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンのコモノマーとの共重合体の割合が多くなる点で好ましい。
【0025】
末端ビニル基選択率および、1000炭素原子あたりの末端ビニル基の割合は、1H-NMR測定によるポリマー構造解析により常法にて算出することが出来る。
(2)非共役ジエン
前記非共役ジエンとしては、鎖状または環状ジエンを用いることができる。これらは単独または2種以上を用いることができる。
【0026】
なかでも具体的には、1,4-ヘキサジエン、3-メチル-1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、8-メチル-4-エチリデン-1,7-ノナジエンおよび4-エチリデン-1,7-ウンデカジエン等の鎖状非共役ジエン;メチルテトラヒドロインデン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-イソブテニル-2-ノルボルネン、シクロペンタジエンおよびノルボルナジエン等の環状非共役ジエンが例示される。中でも、7-メチル-1,6-オクタジエンが好ましい。
【0027】
鎖状ジエンについて、上記したように片末端のみがビニル基である非共役ジエン(以降、片末端ビニル基非共役ジエンともいう)を用いることは、一般的な非共役ジビニル化合物(α,ω-ジエン)を非共役ジエンとして用いる場合に比べて、後述する架橋剤として硫黄化合物を用いることができるため特に好ましい。架橋剤として硫黄化合物を用いることは、過酸化物を架橋剤に用いた場合に比べて、分解による低分子量化を抑えることができる。
【0028】
また、非共役ジエンはポリマー構造を含んでもよく、例えば、国際公開第2008/026628号に記載の両末端にビニル基を有するポリオレフィン共重合体を非共役ジエンとして用いてもよい。すなわち、エチレン(a)、炭素数3~20のα-オレフィン(b)、下記一般式[I]、[II]および[III]で表される環状オレフィン(c)からなる群より選ばれる少なくとも1つに由来する構成単位を含んでおり、
1)全分子鎖の両末端に対する末端ビニル化率が70%以上、
2)135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が0.01~10dl/gの範囲である両末端ビニル基含有ポリオレフィン重合体、
を非共役ジエンとして用いることができる。このような非共役ジエンを用いることにより、後述するように、工程Bにおいて架橋物を形成しうることから好ましい。
【0029】
【化1】
(式[I]中、uは0または1、vは0または1以上の整数、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ該単環または多環が二重結合を有していてもよく、またR75とR76とで、またはR77とR78とでアルキリデン基を形成していてもよい。)
【0030】
【化2】
(式[II]中、xおよびdは0または1以上の整数、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【0031】
【化3】
(式[III]中、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18の整数である。)
(3)オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体
本発明のオレフィン系樹脂はオレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体を含んでいれば特にその含有量に制限はないが、本発明のオレフィン系樹脂全体に対する、オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体の含有量は、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。また、オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体の含有量は通常50質量%以下である。本発明のオレフィン系樹脂には、オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体のほかに、オレフィン系マクロモノマーが含まれる。当該オレフィン系マクロモノマーは、非共役ジエンとの共重合に用いられなかった残存マクロモノマーである。
【0032】
オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体の含有量は、例えば、後述の工程Bで得られる樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)のクロマトグラムと工程AのGPCクロマトグラムとを比較して、新たに生成した高分子量成分をピーク分離してその面積比から算出することができる。
【0033】
オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体の重合度は5以上であることが好ましい。より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上である。
オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体に含まれる構造単位のうち、オレフィン系マクロモノマーから導かれる構造単位の含有量は、通常80~99.5mol%であり、さらに好ましくは90~99.5mol%、さらにより好ましくは95~99mol%である。
【0034】
非共役ジエンから導かれる構造単位の含有量は、通常0.5~20mol%であり、さらに好ましくは0.5~10mol%、さらにより好ましくは1~5mol%である。
オレフィン系マクロモノマーから導かれる構造単位および非共役ジエンから導かれる構造単位が、上記範囲にあることで、本発明のオレフィン樹脂は良好な機械物性を発現する架橋物を生成することができる。
【0035】
オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のモノマー、すなわちコモノマーを含んでいてもよく、コモノマーから導かれる構造単位の含有量は、通常15mol%以下、好ましくは10mol%以下、さらにより好ましくは5mol%以下であるが、特に好ましくはオレフィン系マクロモノマーと非共役ジエン以外のコモノマーを含まない重合体である。前記コモノマーとしては前述の「(i)組成」で説明した炭素数2~12のα―オレフィンが挙げられる。
【0036】
さらに、本発明のオレフィン系樹脂はさらに以下の特徴を有していてもよい。
(I)分子量
本発明のオレフィン系樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められるポリスチレン換算の重量平均分子量は5000~1000000の範囲であることが好ましい。上記重量平均分子量は好ましくは8000~900000、より好ましくは10000~800000、さらに好ましくは10000~600000の範囲である。
【0037】
(II)極限粘度
本発明のオレフィン系樹脂の135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]は好ましくは0.1~10dl/gの範囲にあり、より好ましくは0.2~8dl/g、さらに好ましくは0.3~5dl/g、である。
【0038】
(III)組成
オレフィン系樹脂中のエチレンより導かれる繰り返し単位の含有量は10~90mol%の範囲にあることが好ましい。上記繰り返し単位の含有量は好ましくは20~80mol%、より好ましくは30~70mol%の範囲である。
【0039】
<オレフィン系樹脂の製造方法>
本発明のオレフィン系樹脂は、例えば下記の工程A及び工程Bを含む製造方法により製造することができる。
工程A:オレフィン重合用触媒の存在下でオレフィンを重合して、オレフィン系マクロモノマーを製造する工程。
工程B:オレフィン重合用触媒の存在下で、工程Aで生成したオレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとを共重合して、オレフィン系樹脂を製造する工程。
【0040】
以下、工程Aおよび工程Bについて順に説明する。なお、工程Aで使用されるオレフィン重合用触媒と、工程Bで使用されるオレフィン重合用触媒とは、同一でも異なってもよいが、通常は各工程での目的に応じて異なる触媒が使用される。
【0041】
[工程A]
工程Aは、オレフィン重合用触媒の存在下でオレフィンを重合して、前述のオレフィン系マクロモノマーを製造する工程であり、前記オレフィン重合用触媒が下記(A)および(C)の成分を含む工程であることが好ましい。
(A) 周期表第4族の遷移金属化合物
(C)(C-1)有機金属化合物、(C-2)有機アルミニウムオキシ化合物、および、(C-3)前記周期表第4族の遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物。
【0042】
このような工程として、本出願人により開示されているエチレン単独重合体からなるマクロモノマーの製造工程(国際公開第2015/147186号)、プロピレン単独重合体からなるマクロモノマーの製造工程(国際公開第2015/147187号)、プロピレン・エチレン共重合体からなるマクロモノマーの製造工程(国際公開第2017/082182号)が挙げられ、その他にプロピレン単独重合体からなるマクロモノマーの製造工程(特開2009-299046)、プロピレン・エチレン共重合体からなるマクロモノマーの製造工程(国際公開第2012/134719号)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
以下、オレフィン系マクロモノマーとして特に好ましいエチレン・プロピレン共重合体を例に、工程Aの好ましい態様について説明する。
(遷移金属化合物(A))
上記周期表第4族の遷移金属化合物(A)はジメチルシリルビスインデニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物であることが好ましい。
【0044】
ジメチルシリルビスインデニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(A)としては、Resconi, L. JACS 1992, 114, 1025-1032などで例示されている化合物が知られており、末端不飽和ポリプロピレンを製造するオレフィン重合用触媒を好適に用いることが出来る。
【0045】
そのほかに、ジメチルシリルビスインデニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(A)として、特開平6-100579、特表2001-525461、特開2005-336091、特開2009-299046、特開平11-130807、特開2008-285443等により開示されている化合物を好適に用いることができる。
【0046】
上記ジメチルシリルビスインデニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(A)としてより具体的には、架橋ビス(インデニル)ジルコノセン類又はハフノセン類からなる群から選択される化合物を好適な例として挙げることができる。より好ましくは、ジメチルシリル架橋ビス(インデニル)ジルコノセン又はハフノセンである。さらに好ましくは、ジメチルシリル架橋ビス(インデニル)ハフノセンであり、ハフノセンを選択することで、得られるエチレン・プロピレン共重合体の末端にビニル基を有する率が高くなり、工程Bにおいてマクロモノマーとして良好な反応性を示す。
【0047】
より具体的には、ジメチルシリルビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ハフニウムジクロリド又はジメチルシリルビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ハフニウムジメチルを好適な化合物として用いることができる。
【0048】
(化合物(C))
工程Aで用いられる化合物(C)は、周期表第4族の遷移金属化合物(A)と反応して、オレフィン重合用触媒として機能するものであり、具体的には、(C-1)有機金属化合物、(C-2)有機アルミニウムオキシ化合物、および(C-3)遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物からなる群より選択される。このような、(C-1)~(C-3)の化合物については、国際公開第2015/147186号に記載された化合物(C-1)~(C-3)をそのまま制限なく使用できる。後述する実施例においては、トリイソブチルアルミニウムとトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートを用いているが、化合物(C)はこれら化合物に何ら限定されるものではない。
【0049】
工程Aは、気相重合、スラリー重合、バルク重合、溶液(溶解)重合のいずれの方法においても実施可能であり、特に重合形態は限定されない。
工程Aが、溶液重合で実施される場合、重合溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などが挙げられる。具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられ、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0050】
また、工程Aの重合温度は、通常50℃~200℃、好ましくは80℃~150℃の範囲、より好ましくは、80℃~130℃の範囲であり、重合温度を適切にコントロールすることで、所望の分子量及び末端ビニル基含有量のエチレン・プロピレン共重合体を得ることが可能となる。
【0051】
工程Aの重合圧力は、通常常圧~10MPaゲージ圧、好ましくは常圧~5MPaゲージ圧の条件下であり、重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。本発明ではこのうち、モノマーを連続して反応器に供給して共重合を行う方法を採用することが好ましい。
【0052】
反応時間(共重合が連続法で実施される場合には平均滞留時間)は、触媒濃度、重合温度などの条件によっても異なるが、通常0.5分間~5時間、好ましくは5分間~3時間である。
【0053】
工程Aにおける、ポリマー濃度は、回分式の場合は重合終了時、連続式の場合は定常運転時において、5~50wt%である。
工程Aにて製造されるエチレン・プロピレン共重合体マクロモノマーのエチレンから導かれる構造単位の含有量は20~80mol%が好ましく、より好ましくは30~70mol%であり、プロピレンから導かれる構造単位の含有量は80~20mol%が好ましく、より好ましくは70~30mol%である。
【0054】
さらに、工程Aにて製造されるエチレン・プロピレン共重合体マクロモノマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められるポリスチレン換算の重量平均分子量が1000~100000の範囲であることが好ましく、より好ましくは1000~30000または2000~50000、さらに好ましくは2500~40000、特に好ましくは3000~30000の範囲である。前記範囲にあることにより、本発明のオレフィン系樹脂はボトルブラシポリマーに由来する優れた特性を発揮する。
【0055】
工程Aにて製造されエチレン・プロピレン共重合体マクロモノマーの分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1.5~5.0、典型的には1.7~4.0程度である。場合によっては、異なる分子量を有する側鎖の混合物を用いてもよい。
【0056】
工程Aにて製造されエチレン・プロピレン共重合体マクロモノマーの総不飽和末端に対するビニル基の割合は、通常は50mol%以上、より好ましくは60mol%以上、さらに好ましくは70mol%以上である。
【0057】
更に、工程Aにて製造されエチレン・プロピレン共重合体マクロモノマーに含まれる末端ビニル基は1000炭素原子あたりで、0.1~10.0個の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.5~8.0個、より好ましくは1.0~6.0個の範囲である。
【0058】
総不飽和末端に対するビニル基の割合、及び1000炭素原子あたり末端ビニル基の割合が上記範囲にあることにより、本発明のオレフィン系樹脂に含まれるオレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンのコモノマーの共重合体の割合が多くなる点で好ましい。
【0059】
末端ビニル基選択率および、1000炭素原子あたりの末端ビニル基の割合は、1H-NMR測定によるポリマー構造解析により常法にて算出することが出来る。
[工程B]
工程Bは、オレフィン重合用触媒の存在下で、工程Aで生成したオレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとを共重合して、本発明のオレフィン系樹脂を製造する工程であり、前記オレフィン重合触媒は下記(B)および(C)の成分を含むことが好ましい。
(B) 周期表第4族の遷移金属化合物
(C)(C-1)有機金属化合物、(C-2)有機アルミニウムオキシ化合物、および、(C-3)前記周期表第4族の遷移金属化合物(B)と反応してイオン対を形成する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物。
【0060】
(遷移金属化合物(B))
工程Bにおいては、オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとを共重合するため、嵩高いモノマー種の重合性能が高く、高分子量体を与える性能を持つ重合触媒を選定することが好ましく、そのような重合触媒に用いられる遷移金属化合物として、国際公開第2001/27124号、国際公開第2004/029062号に開示されている架橋メタロセン化合物、国際公開第2003/091262号に開示されている4座フェノラートエーテル化合物が挙げられ、具体的には下記一般式[I]で表される化合物(I)を含む遷移金属化合物(B)であることが好ましい。
【0061】
【化4】
Mは、元素の周期表の3~6族から選ばれる金属原子であり、
nは0~5の整数であり、nが0の場合にはXは存在せず、
Xは、独立に中性、モノアニオン性、ジアニオン性、トリアニオン性もしくはテトラアニオン性の一座配位リガンドであるか、または2つのXにより形成される、中性、モノアニオン性もしくはジアニオン性の二座配位リガンドであり、Xとnは、化合物(I)が全体で中性となるように選択され、
Zは、独立にO、S、N(C1-C40)ヒドロカルビルまたはP(C1-C40)ヒドロカルビルであり、
Lは、(C1-C40)ヒドロカルビレンまたは(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンであり、前記(C1-C40)ヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1炭素原子~18炭素原子リンカー主鎖を含む部分を有し、前記(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1原子~18原子リンカー主鎖を含む部分を有し、前記(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンの1原子~18原子リンカー主鎖における1~18原子は、それぞれ独立に炭素原子またはヘテロ原子であり、前記ヘテロ原子は、独立にO、S、S(O)、S(O)2、Si(RC)2、P(RP)またはN(RN)であり、前記RCは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記RPは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記RNは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであるか、あるいは存在せず、
3a、R4a、R3bおよびR4bは、それぞれ独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、
6c、R7cおよびR8cの少なくとも1つ、ならびに、R6d、R7dおよびR8dの少なくとも1つは、独立に(C2-C40)ヒドロカルビルまたはSi(RC)3であり、それ以外のR6c、R7c、R8c、R6d、R7dおよびR8dは、独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、
3a、R4a、R3b、R4b、R6c、R7c、R8c、R6d、R7dおよびR8dから任意に選択される2つ以上のR基が結合して1つまたは複数の環構造を形成してもよく、この環構造は、環中に水素原子を除く3~50原子を有し、
5cおよびR5fの少なくとも1つは、独立に(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、それ以外のR5cおよびR5fは、独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、
5ccおよびR5ffの少なくとも1つは、独立に(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、それ以外のR5ccおよびR5ffは、独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、((C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、
9a、R10a、R11a、R9b、R10b、R11b、R9aa、R10aa、R11aa、R9bb、R10bbおよびR11bbは、それぞれ独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、
カルバゾール基上の置換基から任意に選択される2つ以上のR基が結合して1つまたは複数の環構造を形成してもよく、この環構造は、環中に水素原子を除く3~50原子を有し、
上述のヒドロカルビル、ヘテロヒドロカルビル、ヒドロカルビレンおよびヘテロヒドロカルビレン基は、それぞれ独立に、未置換であるか、または少なくとも1つの置換基Rsで置換(Rsによる過置換まで)され、
5c+R5f+R7cの炭素原子の合計またはR5cc+R5ff+R7dの炭素原子の合計が5炭素原子を超え、
sは、独立にハロゲン原子、ポリフルオロ置換、パーフルオロ置換、未置換(C1-C18)アルキル、F3C-、FCH2O-、F2HCO-、F3CO-、R3Si-、RO-、RS-、RS(O)-、RS(O)2-、R2P-、R2N-、R2C=N-、NC-、RC(O)O-、ROC(O)-、RC(O)N(R)-またはR2NC(O)-であるか、あるいは、前記Rsの2つが結合して未置換(C1-C18)アルキレンを形成し、前記Rは独立に未置換(C1-C18)アルキルである。
【0062】
[化合物(I)]
前記化合物(I)は下記一般式[I]で表される。
【0063】
【化5】
式[I]中の記号の定義は以下のとおりである。
【0064】
Mは、元素の周期表の3~6族のいずれか1つの(例えば、4族の)金属原子であり、前記金属Mは、+2、+3、+4、+5または+6の形式的酸化状態である。
nは0~5の整数であり、nが0の場合にはXは存在しない(すなわち、(X)nが存在しない)。
【0065】
Xは、独立に中性、モノアニオン性、ジアニオン性、トリアニオン性もしくはテトラアニオン性の一座配位リガンドであるか、または2つのXにより形成される、中性、モノアニオン性もしくはジアニオン性の二座配位リガンドであり、Xとnは、化合物(I)が全体で中性となるように選択される。
【0066】
Zは、独立にO、S、N(C1-C40)ヒドロカルビルまたはP(C1-C40)ヒドロカルビルである。
Lは、(C1-C40)ヒドロカルビレンまたは(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンであり、
前記(C1-C40)ヒドロカルビレンは、前記Z(このZにLが結合される)を連結する1炭素原子~18炭素原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカーを含む部分を有し、
前記(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1原子~18原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカー鎖を含む部分を有し、
前記(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンの1原子~18原子リンカー主鎖における1~18原子は、独立に炭素原子またはヘテロ原子であり、
前記ヘテロ原子は、独立にO、S、S(O)、S(O)2、Si(RC)2、P(RP)、またはN(RN)であり、
前記RCは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであり、
前記RPは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記RNは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであるか、あるいは存在しない(例えば、N(RN)が-N=として結合される場合が挙げられる。)。
【0067】
3a、R4a、R3bおよびR4bは、それぞれ独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは上記で定義したとおりである。
【0068】
6c、R7cおよびR8cの少なくとも1つ、ならびに、R6d、R7d、およびR8dの少なくとも1つは、独立に(C2-C40)ヒドロカルビルまたはSi(RC)3であり、それ以外のR6c、R7c、R8c、R6d、R7dおよびR8dは、独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは上記で定義したとおりである。
【0069】
3a、R4a、R3b、R4b、R6c、R7c、R8c、R6d、R7dおよびR8dから任意に選択される2つ以上のR基が結合して1つまたは複数の環構造を形成してもよく、この環構造は、環中に水素原子を除く3~50原子を有する。
【0070】
5cおよびR5fの少なくとも1つは、独立に(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、それ以外のR5cおよびR5fは、独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは上記で定義したとおりである。
【0071】
5ccおよびR5ffの少なくとも1つは、独立に(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、それ以外のR5ccおよびR5ffは、独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、((C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは上記で定義したとおりである。
【0072】
9a、R10a、R11a、R9b、R10b、R11b、R9aa、R10aa、R11aa、R9bb、R10bbおよびR11bbは、それぞれ独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは上記で定義したとおりである。
【0073】
カルバゾール基上の置換基(例えば、R9a、R10a、R5a、R11a、R9b、R10b、R5f、R11b)から任意に選択される2つ以上のR基が結合して1つまたは複数の環構造を形成してもよく、この環構造は、環中に水素原子を除く3~50原子を有する。
【0074】
上述のヒドロカルビル(例えば、RC、RN、RP、(C1-C40)ヒドロカルビル)、ヘテロヒドロカルビル(例えば、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル)、ヒドロカルビレン(例えば、(C1-C40)ヒドロカルビレン)、およびヘテロヒドロカルビレン(例えば、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレン)基は、それぞれ独立に未置換であるか、または少なくとも1つの置換基Rsで置換(Rsによる過置換まで)されている。
【0075】
5c+R5f+R7cの炭素原子の合計またはR5cc+R5ff+R7dの炭素原子の合計は、5炭素原子を超える。
sは、独立にハロゲン原子、ポリフルオロ置換(少なくとも1つの置換基Rsの1つが少なくとも2つのフルオロ置換基を表し、これは、形式上、未置換の場合の前記置換基の少なくとも2つの水素原子を置換する)、パーフルオロ置換(すなわち、1つのRsが、それにより置換される未置換の場合の前記置換基の水素原子と同数のフルオロ置換基を表す)、未置換(C1-C18)アルキル、F3C-、FCH2O-、F2HCO-、F3CO-、R3Si-、RO-、RS-、RS(O)-、RS(O)2-、R2P-、R2N-、R2C=N-、NC-、RC(O)O-、ROC(O)-、RC(O)N(R)-またはR2NC(O)-であるか、あるいは、前記Rsの2つが結合して未置換(C1-C18)アルキレンを形成し、前記Rは独立に未置換(C1-C18)アルキルである。
【0076】
前記化合物(I)は、前記式[I]における各ZがOであることが好ましく、下記式[Ia]で表わされる化合物(Ia)であることがより好ましい。
【0077】
【化6】
式[Ia]中の記号の定義は以下のとおりである。
【0078】
ZはOである。
7cおよびR7dは、それぞれ独立に(C1-C40)ヒドロカルビルである。
Mは、元素の周期表の3~6族のいずれか1つの(例えば、4族の)金属原子であり、金属Mは、+2、+3、+4、+5または+6の形式的酸化状態である。
【0079】
nは0~5の整数であり、nが0の場合にはXは存在しない(すなわち、(X)nが存在しない)。
Xは、独立に中性、モノアニオン性、ジアニオン性、トリアニオン性もしくはテトラアニオン性の一座配位リガンドであるか、または2つのXにより形成される、中性、モノアニオン性、またはジアニオン性の二座配位リガンドであり、Xとnは、化合物(Ia)が全体で中性となるように選択される。
【0080】
Lは、(C1-C40)ヒドロカルビレンまたは(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンであり、前記(C1-C40)ヒドロカルビレンは、前記Z(このZにLが結合される)を連結する1炭素原子~18炭素原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカーを含む部分を有し、前記(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1原子~18原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカー鎖を含む部分を有し、前記(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンの1原子~18原子リンカー主鎖における1~18原子は、独立に炭素原子またはヘテロ原子であり、各ヘテロ原子は、独立にO、S、S(O)、S(O)2、Si(RC)2、P(RP)またはN(RN)であり、前記RCは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記RPは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記RNは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであるか、あるいは存在しない(例えば、N(RN)が-N=として結合される場合が挙げられる。)。
【0081】
3a、R4a、R3bおよびR4bは、それぞれ独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは上記で定義したとおりである。
【0082】
5cおよびR5fの少なくとも1つは、独立に(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、それ以外のR5cおよびR5fは、独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは上記で定義したとおりである。
【0083】
5ccおよびR5ffの少なくとも1つは、独立に(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、それ以外のR5ccおよびR5ffは、独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは、上記で定義したとおりである。
【0084】
上述のヒドロカルビル(例えば、RC、RN、RP、(C1-C40)ヒドロカルビル)、ヘテロヒドロカルビル(例えば、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル)、ヒドロカルビレン(例えば、(C1-C40)ヒドロカルビレン)およびヘテロヒドロカルビレン(例えば、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレン)基は、独立に未置換であるか、または少なくとも1つの置換基Rsで置換(Rsによる過置換まで)されている。
【0085】
5c+R5f+R7cの炭素原子の合計またはR5cc+R5ff+R7dの炭素原子合計は、5炭素原子を超える。
sは、独立にハロゲン原子、ポリフルオロ置換(前記少なくとも1つの置換基Rsの1つが少なくとも2つのフルオロ置換基を表し、これは、形式上、未置換の場合の前記置換基の少なくとも2つの水素原子を置換する)、パーフルオロ置換(すなわち、前記1つのRsが、それにより置換される未置換の場合の前記置換基の水素原子と同数のフルオロ置換基を表す)、未置換(C1-C18)アルキル、F3C-、FCH2O-、F2HCO-、F3CO-、R3Si-、RO-、RS-、RS(O)-、RS(O)2-、R2P-、R2N-、R2C=N-、NC-、RC(O)O-、ROC(O)-、RC(O)N(R)-またはR2NC(O)-であるか、あるいは、前記Rsの2つが結合して未置換(C1-C18)アルキレンを形成し、前記Rは独立に未置換(C1-C18)アルキルである。
【0086】
前記化合物(I)は、下記式[Ia-1]で表わされる化合物(Ia-1)であることがさらにより好ましい。
【0087】
【化7】
式[Ia-1]中の記号の定義は以下のとおりである。
【0088】
ZはOである。
7cおよびR7dは、それぞれ独立に(C4-C40)ヒドロカルビルである。
Mは、元素の周期表の3~6族のいずれか1つの(例えば、4族の)金属原子であり、金属Mは、+2、+3、+4、+5または+6の形式的酸化状態である。
【0089】
nは0~5の整数であり、nが0の場合にはXは存在しない(すなわち、(X)nが存在しない)。
Xは、独立に中性、モノアニオン性、ジアニオン性、トリアニオン性もしくはテトラアニオン性の一座配位リガンドであるか、または2つのXにより形成される、中性、モノアニオン性もしくはジアニオン性の二座配位リガンドであり、Xとnは、化合物(Ia-1)が全体で中性となるように選択される。
【0090】
Lは、(C1-C40)ヒドロカルビレンまたは(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンであり、前記(C1-C40)ヒドロカルビレンは、前記Z(このZにLが結合される)を連結する1炭素原子~18炭素原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカーを含む部分を有し、前記(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1原子~18原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカー鎖を含む部分を有し、前記(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレンの1原子~18原子リンカー主鎖における1~18原子は、それぞれ独立に炭素原子またはヘテロ原子であり、前記ヘテロ原子は、独立にO、S、S(O)、S(O)2、Si(RC)2、P(RP)またはN(RN)であり、前記RCは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記RPは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記RNは、独立に置換もしくは未置換の(C1-C18)ヒドロカルビルまたは(C1-C18)ヘテロヒドロカルビルであるか、あるいは存在しない(例えば、N(RN)が-N=として結合される場合が挙げられる。)。
【0091】
3aおよびR3bは、それぞれ独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは上記で定義したとおりである。
【0092】
5cおよびR5fの少なくとも1つは、独立に(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、それ以外のR5cおよびR5fは、独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは上記で定義したとおりである。
【0093】
5ccおよびR5ffの少なくとも1つは、独立に(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、それ以外のR5ccおよびR5ffは、独立に水素原子、(C1-C40)ヒドロカルビル、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル、Si(RC)3、O(RC)、S(RC)、N(RN)2、P(RP)2またはハロゲン原子であり、RC、RNおよびRPは上記で定義したとおりである。
【0094】
上述のヒドロカルビル(例えば、RC、RN、RP、(C1-C40)ヒドロカルビル、ヘテロヒドロカルビル(例えば、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビル)、ヒドロカルビレン(例えば、(C1-C40)ヒドロカルビレン)およびヘテロヒドロカルビレン(例えば、(C1-C40)ヘテロヒドロカルビレン)基は、独立に未置換であるか、または少なくとも1つの置換基Rsで置換(Rsによる過置換まで)されている。
【0095】
5c+R5f+R7cの炭素原子の合計またはR5cc+R5ff+R7dの炭素原子合計は、5炭素原子を超える。
前記Rsは、独立にハロゲン原子、ポリフルオロ置換(前記少なくとも1つの置換基Rsの1つが少なくとも2つのフルオロ置換基を表し、これは、形式上、未置換の場合の前記置換基の少なくとも2つの水素原子を置換する)、パーフルオロ置換(すなわち、前記1つのRsが、それにより置換される未置換の場合の前記置換基の水素原子と同数のフルオロ置換基を表す)、未置換(C1-C18)アルキル、F3C-、FCH2O-、F2HCO-、F3CO-、R3Si-、RO-、RS-、RS(O)-、RS(O)2-、R2P-、R2N-、R2C=N-、NC-、RC(O)O-、ROC(O)-、RC(O)N(R)-またはR2NC(O)-であるか、あるいは前記Rsの2つが結合して未置換(C1-C18)アルキレンを形成し、前記Rは独立に未置換(C1-C18)アルキルである。
【0096】
前記化合物(I)の特に好ましい態様は、前記式[Ia-1]において、
5c、R5f、R5ccおよびR5ffが、それぞれ独立に(C1-C40)ヒドロカルビル、好ましくは(C1-C20)ヒドロカルビル、より好ましくは(C1-C10)ヒドロカルビル、特に好ましくは(C4-C8)アルキルまたはフェニルであり、
7cおよびR7dが、それぞれ独立に(C4-C10)ヒドロカルビル、好ましくは(C4-C8)アルキルであり、
3aおよびR3bが、それぞれ独立に(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルキル-O-、((C1-C6)アルキル)2-N-、(C3-C6)シクロアルキル、フッ素原子または塩素原子、好ましくはフッ素原子または塩素原子、より好ましくはフッ素原子であり、
Lが、(C1-C20)ヒドロカルビレン、好ましくは(C1-C10)ヒドロカルビレン、より好ましくは(C1-C5)ヒドロカルビレン、さらに好ましくは-CH2CH2CH2-であり、
Mが、元素の周期表の4族の金属であり、好ましくはハフニウム、ジルコニウムまたはチタニウム、より好ましくはハフニウムであり、
nは、2または3、好ましくは2であり、
Xは、独立に(C1-C8)アルキル、(C1-C6)アルキル、(C1-C4)アルキルまたは(C1-C3)アルキル、好ましくは(C1-C4)アルキルまたは(C1-C3)アルキル、より好ましくは(C1-C3)アルキル、さらに好ましくはメチルである。
【0097】
前記化合物(I)の具体例としては、(2’,2’’-(プロパン-l,3-ジイルビス(オキシ))ビス(3-(3,6-ジ-tert-ブチル-9H-カルバゾール-9-イル)-5’-フルオロ-5-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ビフェニル-2-オール)ジメチルハフニウム、
[[2’、2’’’-[1,3-プロパンジイルビス(オキシ-kO)]ビス[3-[3,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-9H-カルバゾール-9-イル]-5’-フルオロ-5-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)[1,1’-ビフェニル]-2-オラト-kO]](2-)]-ハフニウムジメチルが挙げられる。
【0098】
前記化合物(I)は特表2015-500920号公報に記載の態様を引用することができる。
(化合物(C))
工程Bで用いられる化合物(C)は、周期表第4族の遷移金属化合物(B)と反応して、オレフィン重合用触媒として機能するものであり、具体的には、(C-1)有機金属化合物、(C-2)有機アルミニウムオキシ化合物、および(C-3)遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物からなる群より選択される。このような、(C-1)~(C-3)の化合物については、前述の工程Aで用いる化合物(C)同様の化合物が挙げられる。
【0099】
工程Bは、溶液(溶解)重合において実施可能であり、重合条件については、オレフィン系ポリマーを製造する溶液重合プロセスを用いれば、特に限定されない。
工程Bでは、工程Aにて製造されるマクロモノマーが固形物として工程Bにおける反応器装入されてもよく、また溶液状またはスラリー状にて工程Bにおける反応器に装入されてもよく、マクロモノマーの装入方法は、特段限定されるものではない。
【0100】
工程Bにおいて、オレフィン系マクロモノマーと共重合する非共役ジエンは前述の「(2)非共役ジエン」において説明した化合物を用いることが好ましい。非共役ジエンの反応器へ装入法については、公知のオレフィン樹脂の製造で用いられる方法であれば、特に限定されない。
【0101】
工程Bにおいて、本発明の効果を損なわない範囲で、コモノマーを共重合しても良く、前述の「(i)組成」で説明した炭素数2~12のオレフィンが挙げられる。前記コモノマーの反応器へ装入法については、公知のオレフィン樹脂の製造で用いられる方法であれば、特に限定されない。
【0102】
工程Bの重合溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などが挙げられる。具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられ、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。また、工程Bの重合溶媒は、工程Aの重合溶媒と同一でも異なっていてもよい。なお、これらのうち、工業的観点からはヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素が好ましく、さらにオレフィン系樹脂との分離、精製の観点から、ヘキサンが好ましい。
【0103】
また、工程Bの重合温度は、30℃以上が好ましく、30℃~150℃の範囲がより好ましく、さらにより好ましくは、40℃~100℃の範囲である。
工程Bの重合圧力は、通常常圧~10MPaゲージ圧、好ましくは常圧~5MPaゲージ圧の条件下であり、重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。さらに重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行うことも可能である。本発明ではこのうち、モノマーを連続して反応器に供給して共重合を行う方法を採用することが好ましい。
【0104】
工程Bの反応時間(共重合が連続法で実施される場合には平均滞留時間)は、触媒濃度、重合温度などの条件によっても異なるが、通常0.5分間~5時間、好ましくは5分間~3時間である。
【0105】
工程Bにおける、ポリマー濃度は、回分式の場合は重合終了時、連続式の場合は定常運転時において、5~50wt%である。
得られる共重合体の分子量は、重合系内に水素を存在させるか、または重合温度を変化させることによっても調節することができる。さらに、前述の化合物(C)の使用量により調節することもできる。具体的には、トリイソブチルアルミニウム、メチルアルミノキサン、ジエチル亜鉛等が挙げられる。水素を添加する場合、その量はオレフィン1kgあたり0.001~100NL程度が適当である。
【0106】
[工程C]
本発明のオレフィン系樹脂の製造方法は、前記工程Aおよび工程Bに加え、必要に応じて各工程の後に各工程で生成する重合体を回収する工程Cを含んでいても良い。本工程は、各重合工程において用いられる有機溶剤を分離してポリマーを取り出し製品形態に変換する工程であり、溶媒濃縮、押出脱気、析出などの既存のオレフィン系樹脂を製造する工程であれば特段制限はない。
【0107】
<架橋物>
架橋方法としては、前述の非共役ジエンに由来する不飽和結合を活用できる方法であれば特に限定はしないが、具体的には、電子線を用いた架橋、架橋剤を用いた架橋が挙げられ、特に架橋剤を用いた架橋反応が好ましく用いられる。
【0108】
〈架橋剤、架橋助剤、加硫促進剤および加硫助剤〉
架橋剤としては、例えば、ゴムを架橋する際に一般的に使用される架橋剤が挙げられ、具体的には、過酸化物、硫黄系化合物、フェノール樹脂、アミノ樹脂、キノンまたはその誘導体、アミン系化合物、アゾ系化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、ヒドロシリコーン系化合物が挙げられる。これらの中でも、低分子量化がしにくく、片末端ビニル基非共役ジエンを非共役ジエンとして用いて得た本発明のオレフィン系樹脂との反応性が優れる、硫黄系化合物が好ましい。
【0109】
過酸化物としては、例えば、有機過酸化物が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシカーボネート、パーオキシジカーボネート、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドが挙げられ、具体的には、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジアセチルパーオキサイド、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。
【0110】
架橋剤として過酸化物を用いる場合、組成物中の過酸化物の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は0.1~20質量部、好ましくは0.15~15質量部、さらに好ましくは0.15~10質量部である。過酸化物の配合量が上記範囲内であると、得られる架橋物表面へのブルームがなく、組成物が優れた架橋特性を示す。
架橋剤として過酸化物を用いる場合、架橋助剤を併用することが好ましい。
【0111】
架橋助剤としては、例えば、イオウ;p-キノンジオキシム等のキノンジオキシム系架橋助剤;エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のアクリル系架橋助剤;ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル系架橋助剤;マレイミド系架橋助剤;ジビニルベンゼン;酸化亜鉛(例えば、ZnO#1・酸化亜鉛2種、ハクスイテック(株)製)、酸化マグネシウム、亜鉛華(例えば、「META-Z102」(商品名;井上石灰工業(株)製)などの酸化亜鉛)等の金属酸化物が挙げられる。
【0112】
架橋助剤を用いる場合、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は0~15質量部、好ましくは0.1~10質量部である。
硫黄系化合物(加硫剤)としては、例えば、硫黄、塩化硫黄、二塩化硫黄、モルフォリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジチオカルバミン酸セレンが挙げられる。
【0113】
架橋剤として硫黄系化合物を用いる場合、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は0.3~10質量部、好ましくは0.5~7.0質量部、さらに好ましくは0.7~5.0質量部である。硫黄系化合物の配合量が上記範囲内であると、得られる架橋物表面へのブルームがなく、組成物が優れた架橋特性を示す。
【0114】
架橋剤として硫黄系化合物を用いる場合、加硫促進剤を併用することが好ましい。
加硫促進剤としては、例えば、チアゾール系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、アルデヒドアミン系加硫促進剤、イミダゾリン系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオ酸塩系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、ザンテート系加硫促進剤が挙げられる。
【0115】
加硫促進剤を用いる場合、組成物中の加硫促進剤の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は0.1~20質量部、好ましくは0.2~15質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部である。加硫促進剤の配合量が上記範囲内であると、得られる架橋物表面へのブルームがなく、組成物が優れた架橋特性を示す。
【0116】
架橋剤として硫黄系化合物を用いる場合、加硫助剤を併用することができる。
加硫助剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、亜鉛華が挙げられる。
加硫助剤を用いる場合、組成物中の加硫助剤の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は1~20質量部である。
【0117】
上記架橋剤を用いた架橋反応はポリマー鎖中に導入された不飽和基が反応することにより進行するが、2つのビニル基を含むジエンを用いた場合に工程Bにおける重合反応により架橋構造が形成されてもよく、例えば、非共役ジエンとして両末端ビニル基含有重合体を用いた工程Bにおいて架橋物が形成されてもよい。つまり前述したように、ポリマー構造を含む非共役ジエン、例えば、両末端にビニル基を有するポリオレフィン共重合体を非共役ジエンとして用いる場合には、工程Bにおいて架橋物が形成されてもよい。
【0118】
<その他の添加剤>
本発明のオレフィン系樹脂およびその架橋物は、以下に例示するような各種樹脂用添加剤を加えて用いることができる。
【0119】
〈軟化剤〉
軟化剤としては、例えば、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン油、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリン等の石油系軟化剤;コールタール等のコールタール系軟化剤;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤;蜜ロウ、カルナウバロウ等のロウ類;ナフテン酸、パイン油、ロジンまたはその誘導体;テルペン樹脂、石油樹脂、クマロンインデン樹脂等の合成高分子物質;ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート等のエステル系軟化剤;その他、マイクロクリスタリンワックス、液状ポリブタジエン、変性液状ポリブタジエン、炭化水素系合成潤滑油、トール油、サブ(ファクチス)が挙げられ、これらの中でも、石油系軟化剤が好ましく、プロセスオイルが特に好ましい。
【0120】
軟化剤を用いる場合には、軟化剤の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は2~100質量部、好ましくは10~100質量部である。
〈無機充填剤〉
無機充填剤としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレーが挙げられる。
【0121】
無機充填剤を用いる場合には、無機充填剤の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は2~100質量部、好ましくは5~100質量部である。無機充填剤の配合量が上記範囲内であると、混練加工性が優れており、機械特性に優れた架橋物を得ることができる。
【0122】
〈補強剤〉
補強剤としては、例えば、カーボンブラック、シランカップリング剤で表面処理したカーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、活性化炭酸カルシウム、微粉タルク、微分ケイ酸が挙げられる。
【0123】
補強剤を用いる場合には、補強剤の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は5~300質量部、好ましくは10~100質量部である。
〈老化防止剤(安定剤)〉
老化防止剤(安定剤)を配合することにより、これから形成される架橋物の寿命を長くすることができる。このような老化防止剤として、従来公知の老化防止剤、例えば、アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、イオウ系老化防止剤などがある。
【0124】
老化防止剤を用いる場合には、老化防止剤の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は0.3~10質量部、好ましくは0.5~7.0質量部である。老化防止剤の配合量が上記範囲内であると、得られる架橋物表面のブルームがなく、さらに加硫阻害の発生を抑制することができる。
【0125】
〈加工助剤〉
加工助剤としては、一般に加工助剤としてゴムに配合されるものを広く用いることができる。加工助剤としては、例えば、リシノール酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸塩、リシノール酸エステル、ステアリン酸エステル、パルチミン酸エステル、ラウリン酸エステル類等の脂肪酸エステル類、N-置換脂肪酸アミドなどの脂肪酸誘導体が挙げられる。これらの中でも、ステアリン酸が好ましい。
【0126】
加工助剤を用いる場合には、加工助剤の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は10質量部以下、好ましくは8.0質量部以下である。
〈活性剤〉
活性剤としては、例えば、ジ-n-ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モノエラノールアミン等のアミン類;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、レシチン、脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸の亜鉛化合物等の活性剤;過酸化亜鉛調整物;オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、合成ハイドロタルサイト、特殊四級アンモニウム化合物が挙げられる。
【0127】
活性剤を用いる場合には、活性剤の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は0.2~10質量部、好ましくは0.3~5質量部である。
〈吸湿剤〉
吸湿剤としては、例えば、酸化カルシウム、シリカゲル、硫酸ナトリウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、ホワイトカーボンが挙げられる。
【0128】
吸湿剤を含有する場合には、吸湿剤の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は0.5~15質量部、好ましくは1.0~12質量部である。
〈発泡剤〉
本発明の架橋物は、非発泡体であってもよいし、発泡体であってもよい。発泡体形成に際して発泡剤を使用することができ、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム等の無機系発泡剤;N,N’-ジニトロテレフタルアミド、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物;アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、アゾジアミノベンゼン、バリウムアゾジカルボキシレート等のアゾ化合物;ベンゼンスルフォニルヒドラジド、トルエンスルフォニルヒドラジド、p,p’-オキシビス(ベンゼンスルフォニルヒドラジド)ジフェニルスルフォン-3,3’-ジスルフェニルヒドラジド等のスルフォニルヒドラジド化合物;カルシウムアジド、4,4’-ジフェニルスルホニルアジド、パラトルエンスルホニルアジド等のアジド化合物が挙げられる。
【0129】
発泡剤を用いる場合には、発泡剤の配合量は、架橋発泡後の発泡体の比重が通常は0.01~0.9になるよう適宜選択される。発泡剤の配合量は、オレフィン系樹脂の合計100質量部に対して、通常は0.5~30質量部、好ましくは1~20質量部である。
【実施例
【0130】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、各物性は、以下の方法により測定あるいは評価した。
【0131】
<ポリマーの構造解析>
実施例に記載される樹脂のポリマー構造は、以下の方法により測定する。
(測定装置)
日本電子製ECX400P型核磁気共鳴装置、
測定核:1H(400MHz)
(測定条件)
測定モード:シングルパルス、パルス幅:45°(5.25μ秒)、ポイント数:32k、測定範囲:20ppm(-4~16ppm)、繰り返し時間:7.0秒、積算回数:256回、測定溶媒:オルトジクロロベンゼン-d4、試料濃度:ca.20mg/0.6mL、測定温度:120℃、ウインドウ関数:exponential(BF:0.12Hz)、ケミカルシフト基準:オルトジクロロベンゼン(7.1ppm)。
【0132】
(マクロモノマーの末端ビニル化率)
マクロモノマーのポリマー組成および末端ビニル化率については、1H-NMRスペクトルから解析可能であり、エチレン-プロピレンの組成比は常法により算出される。また、ここで末端ビニル化率は全不飽和末端中のビニル基含量(単位:mol%)であり、その割合から算出される。
【0133】
(非共役ジエンの定量)
下記実施例に記載の共重合体への非共役ジエンコモノマーの導入は1H-NMRスペクトルで観測される不飽和結合のシグナルから確認可能である。
【0134】
<GPC測定>
実施例に記載される共重合体の重量平均分子量および分子量分布は、以下の方法により測定する。
【0135】
(試料の前処理)
実施例で製造する樹脂30mgをo-ジクロロベンゼン20mlに145℃で溶解した後、その溶液を孔径が1.0μmの焼結フィルターで濾過したものを分析試料とする。
【0136】
(GPC分析)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布曲線を求める。計算はポリスチレン換算で行う。求めた重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)からMw/Mnを算出する。
【0137】
(測定装置)
ゲル浸透クロマトグラフHLC-8321 GPC/HT型
(東ソー社製)
(解析装置)
データ処理ソフトEmpower2(Waters社、登録商標)
(測定条件)
カラム:TSKgel GMH6-HTを2本、およびTSKgel GMH6-HTLを2本(いずれも直径7.5mm×長さ30cm、東ソー社)
カラム温度:140℃
移動相:o-ジクロロベンゼン(0.025%BHT含有)
検出器:示差屈折率計
流速:1mL/分
試料濃度:0.15%(w/v)
注入量:0.4mL
サンプリング時間間隔:1秒
カラム較正:単分散ポリスチレン(東ソー社)
分子量換算:PS換算/標品換算法
(マクロモノマーと7-メチル-1,6-オクタジエンとの共重合体生成の確認)
マクロモノマーと7-メチル-1,6-オクタジエンとの共重合体の生成はGPCにより得られるクロマトグラムにおいて原料のマクロモノマーよりも高分子量側にピークが見られることから確認ができ、波形解析によりピーク分離し、マクロモノマーと7-メチル-1,6-オクタジエンとの共重合体生成量を確認した。マクロモノマーと両末端ビニル基含有エチレン-プロピレン共重合体(非共役ジエン)との共重合体の場合も同様である。
【0138】
<オレフィン系樹脂の架橋性評価>
実施例および比較例における未架橋のオレフィン系樹脂を用いて、測定装置:MDR2000P(ALPHA TECHNOLOGIES 社製)により、温度160℃および時間20分の測定条件下で、キュアメーター試験を行い、S'Max-S'Minを以下のとおり測定した。
【0139】
サンプルを測定装置にセットし、一定温度および一定のせん断速度の条件下で得られるトルク変化を測定し、加硫曲線を得た。この加硫曲線からトルクの最小値S'Minおよび最大値S'Maxを求め、トルクの上昇度により架橋の進行性を確認した。
【0140】
<オレフィン系樹脂の製造>
[実施例1]
工程A:エチレン-プロピレン共重合体マクロモノマーの製造
触媒として使用したジメチルシリルビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ハフニウムジクロリドは公知の方法によって合成した。
【0141】
充分に窒素置換した内容積1.0Lのガラス製反応器に、キシレン500mlを入れたのち、95℃に保持し600rpmで重合器内部を撹拌しながら、エチレンおよびプロピレンをそれぞれ120リットル/hrおよび53リットル/hrで連続的に供給し、液相および気相を飽和させた。引き続きエチレンおよびプロピレンを連続的に供給した状態で、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(1.0mol/L)を4.0mL(4.0mmol)、ジメチルシリルビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ハフニウムジクロリドのトルエン溶液(0.005mol/L)を4.0mL(0.020mmol)、ついでトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C654とも記す)のトルエン溶液(10mmol/L)を8.0mL(0.080mmol)加え、常圧下、95℃で10分間重合を行った。重合の停止は少量のイソブタノールを添加することにより行った。得られた重合反応液を、希塩酸で洗浄し、分液して得られた有機層の溶媒を減圧留去することによりエチレン-プロピレン共重合体マクロモノマーを得た。該共重合体を130℃にて10時間減圧乾燥することにより、マクロモノマー8.2gを得た。得られた共重合体マクロモノマーはMw=11700、Mn=4070、Mw/Mn=2.87、エチレン含量=48mol%、末端ビニル化率=86.8mol%であった。
【0142】
工程B:オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合
触媒として使用した下記式で示される化合物(1)は公知の方法によって合成した。
【0143】
【化8】
窒素雰囲気下、30mLシュレンク管に前記工程Aで合成したマクロモノマー3.0gをトルエン6.0mLに溶解し、15分間窒素で脱気したのち、50℃まで昇温した。7-メチル-1,6-オクタジエンのトルエン溶液(0.6mol/L)を0.5mL(0.3mmol)、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(1.0mol/L)を4.0mL(4.0mmol)、上記化合物(1)のトルエン溶液(0.005mol/L)を4.0mL(0.020mmol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C654とも記す)のトルエン溶液(10mmol/L)を8.0mL(0.080mmol)を順に加え、常圧下、50℃で30分間重合を行った。重合の停止は少量のイソブタノールを添加することにより行った。得られた重合反応液を、大量のメタノールに析出させることにより、オレフィン系樹脂を得た。該オレフィン系樹脂を130℃にて10時間減圧乾燥することにより、オレフィン系樹脂2.8gを得た。該オレフィン系樹脂はMw=14000、Mn=5260、Mw/Mn=2.67であった。また、GPC分析のピーク分離より、オレフィン系樹脂中の、マクロモノマーと7-メチル-1,6-オクタジエンとの共重合体の割合は5.3質量%と算出された。さらに、マクロモノマーと7-メチル-1,6-オクタジエンとの共重合体における、マクロモノマーから導かれる構造単位の含有量は98.5mol%であった。
【0144】
[実施例2]
工程B:オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合
窒素雰囲気下、内容積100mLのガラス製反応器に実施例1の工程Aで合成したマクロモノマー3.0gをトルエン6.0mLに溶解し、15分間窒素で脱気したのち、50℃まで昇温した。7-メチル-1,6-オクタジエンのトルエン溶液(0.6mol/L)を0.5mL(0.3mmol)、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(1.0mol/L)を6.0mL(6.0mmol)、上記化合物(1)のトルエン溶液(0.005mol/L)を8.0mL(0.040mmol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C654とも記す)のトルエン溶液(10mmol/L)を16.0mL(0.160mmol)を順に加え、常圧下、50℃で60分間重合を行った。重合の停止は少量のイソブタノールを添加することにより行った。得られた重合反応液を、大量のメタノールに析出させることにより、オレフィン系樹脂を得た。該オレフィン系樹脂を130℃にて10時間減圧乾燥することにより、オレフィン系樹脂2.9gを得た。該オレフィン系樹脂はMw=19000、Mn=7300、Mw/Mn=2.60であった。また、GPC分析のピーク分離より、マクロモノマーと7-メチル-1,6-オクタジエンとの共重合体の割合は17.0質量%と算出された。さらに、マクロモノマーと7-メチル-1,6-オクタジエンとの共重合体における、マクロモノマーから導かれる構造単位の含有量は98.3mol%であった。
【0145】
[実施例3]
国際公開第2008/026628号に記載の実施例1と同様の方法により、両末端ビニル基含有エチレン-プロピレン共重合体を得た。すなわち、得られた両末端ビニル基含有ポリオレフィン重合体の組成は、エチレン含量は79.8mol%、プロピレン含量が16.6mol%、1,3-ブタジエン含量が3.6mol%であり、1,3-ブタジエンの内訳は、1,4付加構造が0.6mol%、1,2付加構造が0.5mol%、5員環構造が2.3mol%、3員環構造が0.2mol%であった。上記重合体の末端ビニル化率は77%であり、極限粘度[η]は0.12dl/gであった。これを非共役ジエンとして下記工程Bで用いた。
【0146】
工程B:オレフィン系マクロモノマーと非共役ジエンとの共重合
続いて、窒素雰囲気下、内容積100mLのガラス製反応器に実施例1と同様の操作で合成したマクロモノマー(Mw=12200、Mn=4070、Mw/Mn=3.00、エチレン含量=49mol%、末端ビニル化率=85.5mol%)3.0gと上記両末端ビニル基含有エチレン-プロピレン共重合体(非共役ジエン)0.2gをトルエン6.0mLに溶解し、15分間窒素で脱気したのち、50℃まで昇温した。トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(1.0mol/L)を6.0mL(6.0mmol)、上記化合物(1)のトルエン溶液(0.005mol/L)を8.0mL(0.040mmol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C654とも記す)のトルエン溶液(10mmol/L)を16.0mL(0.160mmol)を順に加え、常圧下、50℃で60分間重合を行った。重合の停止は少量のイソブタノールを添加することにより行った。得られた重合反応液を、大量のメタノールに析出させることにより、オレフィン系樹脂を得た。該オレフィン系樹脂を130℃にて10時間減圧乾燥することにより、オレフィン系樹脂3.1gを得た。該オレフィン系樹脂はMw=21000、Mn=7400、Mw/Mn=2.83であった。また、GPC分析のピーク分離より、マクロモノマーと両末端ビニル基含有エチレン-プロピレン共重合体(非共役ジエン)との共重合体の割合は15.5質量%と算出された。
【0147】
<架橋性の評価>
[実施例4]
上記実施例2で得られたオレフィン系樹脂100質量部に対して、加硫助剤として「酸化亜鉛2種」(商品名;堺化学工業株式会社製)5質量部、および、加工助剤としてステアリン酸 1質量部を混合した後、加硫促進剤として2-メルカプトベンゾチアゾール(サンセラーM:三新化学工業株式会社製)2質量部、加硫促進剤としてテトラメチルチウラムジスルフィド(サンセラーTT:三新化学工業株式会社製)4質量部、および、架橋剤として粉末イオウ 6質量部を混合した後、MDR2000Pを用いて温度160℃および時間20分反応させた。S'Max-S'Minは0.06N・mであった。
【0148】
[比較例1]
7-メチル-1,6-オクタジエンを加えない以外は実施例2と同様に実施し、オレフィン系樹脂を得た。該オレフィン系樹脂はMw=37900、Mn=8150、Mw/Mn=4.65であった。また、GPC分析のピーク分離より、マクロモノマーの重合体の割合は30.6質量%と算出された。
【0149】
得られたオレフィン系樹脂100質量部に対して、加硫助剤として「酸化亜鉛2種」(商品名;堺化学工業株式会社製)5質量部、および、加工助剤としてステアリン酸 1質量部を混合した後、加硫促進剤として2-メルカプトベンゾチアゾール(サンセラーM:三新化学工業株式会社製)2質量部、加硫促進剤としてテトラメチルチウラムジスルフィド(サンセラーTT:三新化学工業株式会社製)4質量部、および、架橋剤として粉末イオウ 6質量部を混合した後、MDR2000Pを用いて温度160℃および時間20分反応させたが、S'Max-S'Minは0.02N・mであった。
【0150】
実施例4および比較例1から、本発明のオレフィン系樹脂は架橋反応が進行したことが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明のオレフィン系樹脂は、架橋反応することにより、機械特性に優れる架橋物を提供できる。したがって、本発明のオレフィン系樹脂およびその架橋物は、電気・電子部品・輸送機械、土木・建築、建材、医療、レジャー、包装などのさまざま分野で用いられる材料、あるいは成形体や多層積層体としての応用が期待できる。