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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1335 20060101AFI20221202BHJP
   G02F 1/13357 20060101ALI20221202BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20221202BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
G02F1/1335
G02F1/1335 510
G02F1/13357
G02B5/00 B
G02B5/02 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021509687
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014378
(87)【国際公開番号】W WO2020196897
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/013818
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512225287
【氏名又は名称】堺ディスプレイプロダクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸生
(72)【発明者】
【氏名】前田 温子
(72)【発明者】
【氏名】池中 伸明
(72)【発明者】
【氏名】近藤 克己
(72)【発明者】
【氏名】山下 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】中川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】本保 すみれ
(72)【発明者】
【氏名】竹場 光弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 晋太郎
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/112325(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集光型のバックライトと、前記バックライトからの光が入射する第1直線偏光子および前記光が出射する第2直線偏光子を有する液晶パネルと、前記第2直線偏光子と対向する光散乱膜と、前記光散乱膜と対向する第3直線偏光子とを備え、
前記光散乱膜は、有機高分子化合物および該有機高分子化合物に含有された光散乱粒子を含む機能層を備え、
前記第3直線偏光子は、前記第2直線偏光子の偏光軸の向きと同じ向きの偏光軸を有し、
前記機能層は、該機能層に含まれる前記光散乱粒子の60容積%以上、100容積%以下が、前記液晶パネルから出た光を受け取る面に沿って拡がる粒子層を有しており、
前記粒子層は、前記機能層全体の厚さの1~80%の領域に濃縮されている、液晶表示装置。
【請求項2】
前記光散乱粒子の平均粒子サイズが1.5μm以上、6.0μm以下である、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記光散乱膜の厚さが、4μm以上、220μm以下である、請求項1または2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記光散乱粒子のうち、1.5μm以上、4.5μm以下の粒子サイズを有する画分の容積が、前記機能層に含まれる光散乱粒子全体の容積の60%以上、96%以下である、請求項3に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記光散乱粒子のうち、0.1μm以上、1.5μm未満の粒子サイズを有する画分の容積が、前記機能層に含まれる光散乱粒子全体の容積の4%以上、40%以下である、請求項4に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記光散乱膜の前記第2直線偏光子との接触面1cm2に対応する前記機能層に含まれる前記光散乱粒子の総容積が、0.5cm3以上、10.0cm3以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記光散乱粒子の屈折率と前記有機高分子化合物の屈折率との差が、0.15以上、1.0以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項8】
前記粒子層は、前記光散乱膜の光出射側の面と接触していない、請求項1~7のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項9】
前記有機高分子化合物が、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、シリコーン、ユリア、エポキシ、ポリプロピレン、酢酸セルローズおよびポリ塩化ビニリデンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記光散乱粒子が、アルミナ、メラミン樹脂および中空シリカからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~8のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項10】
前記バックライトは、前記第1直線偏光子に入射する光のうち正規化輝度0.5以上の光を入射角32°以下で入射するように構成されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項11】
前記第2直線偏光子と前記第3直線偏光子との間に、異方的に光を散乱させる構造を備えていない、請求項1~10のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項12】
前記光散乱膜は、等方的に光を散乱させる前記機能層からなる、請求項11に記載の液晶表示装置。
【請求項13】
前記第3直線偏光子は、二色性色素が配向した色素層を備えている、請求項1~11のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項14】
前記第3直線偏光子は、二色性色素が配向した色素層を備えており、
前記機能層が前記色素層に直接的に貼りつけられている、請求項12に記載の液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、普及している液晶表示装置の表示モードとして、VA(Vertical Alignment)方式およびIPS(In-Plane Switching)方式がある。VA方式の液晶表示装置は、IPS方式の液晶表示装置と比べて、液晶表示装置を正面から視た「正面視」では、正面から外れた位置から液晶表示装置を視た「斜め視」の場合と比較してコントラスト比(正面コントラスト比)が高いが、斜め視での色および輝度が正面視での色および輝度から大きく変化しており、その結果、画質が低下する。
【0003】
特許文献1には、集光した光源をバックライトとして用い、液晶パネルを透過した後の光を散乱させることによって、VA方式の液晶表示装置の視野角を広げることが開示されている。特許文献1に記載の技術では、バックライトの光を、拡がらないように集光させた後に液晶パネルに入光させる。そして、液晶パネルを透過した光は光拡散層で拡げられる。
【0004】
この光拡散層は、透光性ポリマーに散乱子が含まれる構成を有しており、入光した光が散乱子によって散乱される。光拡散層を透過する光は液晶パネルをすでに透過しているので、光拡散層では液晶パネルでの隣接する画素との混色を生じることなく斜め方向への光が生成され、その結果、広い視野角を得ることができる。
【0005】
しかし、このような光拡散層は視認者側から液晶パネルに入った外光が視認者側へ戻ってしまうので、表示画面の視認が難しくなり、明所での正面コントラスト比が低下するという問題を生じさせる。そのため、特許文献1では、このような外光の戻りを低減するために、光拡散層の中に着色剤を添加するか、透光性ポリマーに着色剤を添加した着色層を光散乱膜と共に設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5323190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術を用いれば光散乱膜での外光の戻りを少なくすることができる。しかし、着色剤を添加した光拡散層または着色層は、外光を吸収すると同時に液晶パネルの透過光も吸収するために光透過率を低下させ、その結果、正面輝度が低下するという問題を生じさせる。
【0008】
このように、正面輝度の低下を抑制しつつ光散乱膜での外光の戻りを低減させる技術として実用化されているものはない。
【0009】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、正面輝度をほとんど低下させることなく光散乱膜での外光の戻りが低減された液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一実施形態に係る液晶表示装置は、集光型のバックライトと、前記バックライトからの光が入射する第1直線偏光子および前記光が出射する第2直線偏光子を有する液晶パネルと、前記第2直線偏光子と対向する光散乱膜と、前記光散乱膜と対向する第3直線偏光子と、を備え、前記光散乱膜は、有機高分子化合物および該有機高分子化合物に含有された光散乱粒子を含む機能層を備え、前記第3直線偏光子は、前記第2直線偏光子の偏光軸の向きと同じ向きの偏光軸を有する構成を有している。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施形態に係る液晶表示装置によれば、視野角を広げながら、表示画面の正面輝度をほとんど低下させることなく外光の戻りを抑制し、これによって視認特性の優れた液晶表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本開示の一実施形態に係る液晶表示装置の構成を示す図である。
図1B図1Aの変形例を示す図である。
図2A】本開示の一実施形態における光散乱膜を示す図である。
図2B】本開示の一実施形態における光散乱膜を示す図である。
図3】本開示の一実施形態におけるバックライトの構成を示す図である。
図4A】本開示の一実施形態における角度(極角と方位角)に関する定義を示す図である。
図4B】本開示の一実施形態における角度(極角)に関する定義を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照しながら本開示の一実施形態に係る液晶表示装置が説明される。
【0014】
図1Aは、本開示の一実施形態に係る液晶表示装置の断面図である。図1Aに示されるように、本実施形態に係る液晶表示装置10は、バックライト1と、液晶パネル2と、光散乱膜3とを備え、これらの部材は、バックライト1からの光が液晶パネル2および光散乱膜3の順で透過するように配置されている。
【0015】
液晶表示装置の液晶パネルには、通常二枚の偏光板が貼り付けられており、前方の(視認者に近い)ものは表偏光板、後方の(バックライトに近い)ものは裏偏光板とも称される。本実施形態に係る液晶表示装置10において、液晶パネル2は、裏偏光板である第1偏光子21と表偏光板である第2偏光子23を有しており、液晶組成物を含む液晶層22が第1偏光子21と第2偏光子23との間に保持されている。
【0016】
液晶パネル2は、バックライトからの光を透過させるために、その背面2aがバックライト1の出光面1aと対向するように配置されている(図1A)。図1Aでは簡略化されているが、液晶パネル2は、一般的な液晶表示パネルと同様の構成を有しており、図示しない一対の透明基板で液晶層22が挟持されており、その一対の透明基板のそれぞれの外面に第1偏光子21と第2偏光子23とが設けられている。一対の透明基板には、図示しない電極が形成されており、一方の透明基板に形成されたTFTによって、液晶層22に含まれる液晶組成物のダイレクタが制御される。
【0017】
バックライト1は、白色光を第1偏光子21へ向けて出射し、第1偏光子21を透過した光は液晶層22へ入り、次いで、第2偏光子23を透過する。液晶層22では、液晶組成物のダイレクタを変化させることによってバックライト1からの白色光の透過度が制御される。
【0018】
液晶層22に含まれる液晶組成物のダイレクタは、電圧無印加時に液晶パネル2の表示面に対して、ほぼ垂直となり、電圧印加時に液晶パネル2の表示面に対して大きく傾斜するように制御される(ノーマリーブラック)。
【0019】
なお、本実施形態において、「液晶組成物のダイレクタがほぼ垂直である」との表現は、液晶組成物のダイレクタが基板に鉛直な方向に対して一定の傾斜(プレチルト角)を有する状態で配列していることを含む。液晶組成物のダイレクタは、電圧無印加時に基板に鉛直な方向との間で0.5°以上、5°以下でプレチルトした状態で配列し得る。
【0020】
バックライト1は、液晶パネル2の第1偏光子21と対向するように配置されており、第1偏光子21へ向けて白色光を出射する出射面1aを有している。バックライト1は、例えば図3に示されるように、LEDまたは冷陰極管のような発光部11と、その発光部11の光を均一化する拡散板12と、光を集光させるプリズム13とを備えている。発光部11が複数個のLEDの場合、バックライト1においてLEDが存在する部分と存在しない部分との間で輝度の差が生じ得る。このような差を無くすためにバックライト1には拡散板12が設けられている。この拡散板12から出光される光は、進路が拡げられている。拡散板の表面での極角が32°よりも大きくなるバックライトは、非集光光源である。そこで、拡散板12の表面にプリズム13を配置することによってバックライト1を集光光源にしている。すなわち、本開示に係る液晶表示装置では、集光型のバックライトが用いられている。
【0021】
バックライト1は、面状の白色光を出射する面状光源であり、光の出射方向に関する方位角φが0度または180度である出射光の輝度分布において、0.5以上の正規化輝度(最大輝度を1とする正規化された輝度)を呈する光が極角(θ)-32°~+32°の範囲内のみで検出される集光光源であることが好ましい。このように、バックライト1は、その光軸が光源の出射面の法線に近付くように白色光が集光されていることが好ましく、バックライト1から液晶パネル2に入射する光のうち正規化輝度0.5以上の光を入射角32°以下で入射するように構成されていることが好ましく、入射角12.5°以下で入射するように構成されていることがより好ましい。しかし、これに限定されない。
【0022】
上述したような0.5以上の正規化輝度を呈する光が極角(θ)-32°~+32°の範囲内でのみ検出される光源であれば、液晶組成物を斜めに横切る光が出射されることがほとんどない。このような光源を集光光源といい、0.5以上の正規化輝度を呈する光が極角-32°未満または+32°を超える角度の極角(θ)を有する光として検出される光源を非集光光源という。
【0023】
集光に用いられる部材としては、プリズムシート、導光板、マイクロレンズシート、ルーバーフィルム等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
LEDは白色LEDでもよいし、青色LEDの光を、蛍光体層を透過させて白色にしてもよいし、赤、緑、青の3原色のLEDを配置して白色を生成させてもよい。
【0025】
本明細書中において、用語「極角」は、視認者から視て液晶表示装置の前後方向(液晶パネルの左右方向(x方向)および上下方向(y方向)によって規定されるxy平面に垂直なz方向)を基準に、斜め視の状態を示すベクトルが上記xy平面へ向けて傾斜した角度θが意図される。すなわち、液晶パネルの法線方向は極角0°である。
【0026】
また、用語「方位角」は、上記ベクトルを上記xy平面上に射影した像がx軸正方向から回転した角度φが意図され、x軸正方向は方位角0°である。また、光源に関して方位角に言及される場合、液晶パネルと平行な状態で液晶表示装置に組み込まれた光源の出射面における方位が意図される。
【0027】
本明細書中で意図される極角および方位角を、図4Aおよび図4Bに示す。ここでは、極角θ=0°を基準として、φ°方向における極角を+(プラス)θで規定し、φ+180°方向における極角を-(マイナス)θと規定する。
【0028】
バックライト1からの光は、第1偏光子21によって直線偏光に変換され、液晶層22によってその直線偏光の向きが制御され、第2偏光子23によってその透過/不透過が制御される。これにより、所望の表示が実現される。液晶層22の制御方法としては、TN方式、VA方式、IPS方式などがあり、どの方式でもよいが、特にVA方式の場合に本開示の効果が大きい。
【0029】
VA方式の液晶表示装置は、コントラスト比が高く、応答が速く、画像に着色が少ないという利点があり、液晶組成物として、誘電異方性が負の値を示す液晶組成物が使用される。このような液晶組成物は、誘電異方性が負の値を示す化合物と、誘電異方性がニュートラルである化合物との混合物であってもよい。
【0030】
誘電異方性が負の値を示す化合物としては、例えば、
【化1】
のように、分子骨格の中央に、F原子のような電気陰性度の大きい原子が分子短軸方向に置換されている官能基を導入した化合物が挙げられる。
【0031】
誘電異方性がニュートラルである化合物は、粘度を下げたり低温での液晶性を高めたりするために好適に使用される。このような化合物の例としては、下記構造式が挙げられる。
【化2】
式中、R、R’は、-Cn2n+1(アルキル基)または-O-Cn2n+1(アルコキシ基)である。
【0032】
上述した化合物は、誘電異方性が負の値を示す化合物としての一例に過ぎず、本開示での液晶組成物に用いられる化合物はこれらに限定されない。
【0033】
光散乱膜3は、第2偏光子23と対向する受光面3aとその受光面3aの反対面である出光面3bとを有している。光散乱膜3は、受光面3aで受け取った光を内部で散乱光に変換し、次いで該散乱光を出光面3bから外部へ(液晶表示装置10の前方に位置する視認者へ向けて)出光する。
【0034】
光散乱膜3は、例えば図2Aおよび2Bに示されるように、光散乱粒子31と媒体としての有機高分子化合物32とを含む透光性組成物を機能層30として有している。機能層30は、液晶パネル2から出た光を受け取る受光面および内部で生成された等方性の散乱光が外部へ放出される出光面を有しており、これらはそれぞれ、基材を有していない光散乱膜3の受光面3aおよび出光面3bに該当する。
【0035】
機能層30において、等方的に光を散乱させる限り、光散乱粒子31は、有機高分子化合物32に均一に分散されていても、特定の位置に濃縮されていてもよいが、外光の戻り(戻り光)を回避するには、機能層30は、受光面に沿って拡がる粒子層を備えていることが好ましく、粒子層は機能層30全体の厚さの1~80%、好ましくは10~80%、より好ましくは30~80%、さらに好ましくは50~80%の領域内に濃縮している。
【0036】
光散乱膜3は、機能層30を保持する透光性のポリマーフィルム33を基材として有していてもよい(図2Aおよび図2B)。ポリエチレンテレフタレート(PET)のように複屈折性を有する樹脂を基材として用いたフィルムを液晶パネルよりも視認者側に配置すると、複屈折に起因して虹状のムラ(干渉色)が発生して表示品位を低下させることが知られている。ポリマーフィルム33は、複屈折性が高いと斜め方向において干渉色が生じる可能性があるため、複屈折性が低いことが好ましい。また、ポリマーフィルム33は、x軸方向とy軸方向との間で位相差が生じないゼロ位相差フィルムであることが好ましい。このようなポリマーフィルム33としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)系樹脂からなるフィルムが挙げられるが、これに限定されない。図1Aに示されるように、この機能層30のみが光散乱膜3として、液晶パネル2の第2偏光子23に直接貼り付けられてもよい。また、図1Bに示されるように、機能層30およびポリマーフィルム33が貼り合わされてなる光散乱膜3が、第2偏光子23に貼り付けられてもよく、この場合、ポリマーフィルム33または機能層30のいずれが第2偏光子23に貼り付けられてもよい。
【0037】
このように、上述したゼロ位相差フィルムは、光散乱機能を有するフィルムを液晶パネルよりも視認者側に配置する場合の基材に好適に用いられる。しかし、このようなフィルムは、大型化した際のハンドリングが困難でありかつ高価である。
【0038】
本開示において、上述した構成の機能層を有している光散乱膜を用いれば、PET等を基材に用いた場合であっても、複屈折に起因する虹状のムラの発生を抑制することができる。具体的には、図1および図2Aのように、複屈折性が高いフィルム(例えばPET基材)よりも視認者側に、本開示における機能層を配置すれば、複屈折に起因する虹状のムラを回避することができる。
【0039】
このように、光散乱膜3は、入光を内部で散乱させ、内部で生じた等方性の散乱光を外部へ出光する機能を有しており、その機能を担う機能層30を備えている。機能層30は、有機高分子化合物32および該有機高分子化合物32に含有された光散乱粒子31を含む透光性組成物である。なお、機能層30は等方的に光を散乱させる層であり、光散乱膜3は異方的に光を散乱させる層(異方性の光散乱層)を備えていない。
【0040】
光散乱粒子31の材料としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)、中空シリカ、アルミニウム、硫酸バリウム、酸化ケイ素、酸化チタン、鉛白(塩基性炭酸鉛)、酸化亜鉛、亜鉛、メラミン樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
有機高分子化合物32の材料としては、その屈折率が光散乱粒子31のものと異なる材料が用いられ、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、シリコーン(SI)、ユリア(UF)、エポキシ(EP)、ポリプロピレン(PP)、酢酸セルローズ(CA)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)などの有機高分子化合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0042】
本開示の光散乱膜3において、有機高分子化合物32の屈折率と光散乱粒子31の屈折率との差が0.15以上、1.0以下であることが好ましく、0.15以上、0.30以下であることがより好ましく、0.20以上、0.30以下であることがさらに好ましい。なお、有機高分子化合物32の屈折率は光散乱粒子31の屈折率よりも大きくても小さくてもよく、屈折率差の絶対値が上記範囲を満たしていればよい。屈折率差の絶対値が小さすぎると広い視野角を得ることが困難になり、屈折率差の絶対値が大きすぎると粒子濃度を下げたり、光散乱膜3を薄くしたりすることが必要になる。
【0043】
例えば、光散乱粒子31としてアルミナが用いられる場合、有機高分子化合物32は、PMMA、PVA、PVC、PC、PB、PP、CAであることが好ましく、PMMA、PVA、PVC、PB、PP、CAであることがより好ましい。光散乱粒子31として中空シリカが用いられる場合、有機高分子化合物32は、PMMA、PVA、PVC、PC、PB、PP、CAであることが好ましく、PVA、PVC、PC、PBであることがより好ましい。光散乱粒子31としてメラミン樹脂が用いられる場合、有機高分子化合物32は、PMMA、PVA、PP、CAであることが好ましく、CAであることがより好ましい。
【0044】
光散乱粒子31の平均粒子サイズは1.5μm以上、6.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以上、4.5μm以下であることがより好ましく、1.5μm以上、3.5μm以下であることがさらに好ましく、2.0μm以上、3.0μm以下であることがさらにより好ましい。そして、光散乱粒子31の粒子サイズの最頻値は、1.75μm以上、3.5μm以下であることが好ましく、1.75μm以上、3.0μm以下であることがより好ましく、2.0μm以上、3.0μm以下であることがさらに好ましく、2.25μm以上、2.75μm以下であることがさらにより好ましい。また、粒子層の厚さは、光散乱粒子の上述した平均粒子サイズの1.0~5.0倍であることが好ましく、1.0~4.0倍であることがより好ましく、1.0~3.0倍であることがさらに好ましい。
【0045】
例えば、光散乱膜に含まれる光散乱粒子の平均粒子サイズが約2.0μmの場合、光散乱膜に形成される粒子層の厚さは約2.0~10.0μmであることが好ましく、約2.0~8.0μmであることがより好ましく、約2.0~6.0μmであることがさらに好ましい。
【0046】
粒子層は、光散乱膜3の受光面3aの近位に形成されていても(図1A)、出光面3bの近位に形成されていても(図2B)、受光面3aおよび出光面3bのどちらからも離れた位置に形成されていてもよいが、戻り光を低減するには出光面3bに接していないことが好ましい。
【0047】
このような粒子層に含まれる光散乱粒子のうち、上述した平均粒子サイズを有する画分は、その容積が、光散乱膜3に含まれる光散乱粒子全体の容積の60%以上、96%以下であることが好ましく、より好ましくは65%以上、96%以下であり、さらに好ましくは75%以上、96%以下であり、80%以上、92%以下であってもよい。
【0048】
また、このような粒子層に含まれる光散乱粒子のうち、平均粒子サイズが0.1μm以上、1.5μm以下である画分は、その容積が、機能層30に含まれる光散乱粒子31全体の容積の4%以上、40%以下であることが好ましく、より好ましくは4%以上、35%以下であり、さらに好ましくは4%以上、25%以下であり、8%以上、20%以下であってもよい。
【0049】
一実施形態において、光散乱粒子の粒子サイズの最頻値は、1.75μm以上、2.5μm以下であり、そのうち、1.5μm以上、3.5μm以下の粒子サイズを有する画分が75容積%以上であり、0.1μm以上、1.5μm未満の粒子サイズを有する画分が25%以下である。
【0050】
本実施形態に係る液晶表示装置10において、光散乱膜3は、正面輝度をほとんど低下させないことが好ましい。また、光散乱膜3は、視認者側からの外光のうち視認者側へ戻る光(戻り光)を低減させることが好ましい。特に、外光の反射光だけでなく、光散乱膜3に含まれる光散乱粒子31に起因する外光の散乱光が視認者側へ戻ることが抑制されていることが好ましい。なお、用語「正面輝度」は、液晶表示装置に対して極角0°から視た場合の輝度をいう。
【0051】
正面輝度の低下を回避するには、光散乱膜での前方散乱を多くして後方散乱を少なくすることが好ましく、光の波長(400nm~800nm)と同程度以上のサイズを有する光散乱粒子を用いれば、前方散乱を多くして後方散乱を少なくすることができることが知られている。このことは、前方散乱を行う粒子を用いた特許文献1の実施例において、平均粒径が1μm程度である微粒子が用いられていることからも容易に理解し得る。しかし、このような知見からでは本開示の構成に容易に想到することができない。
【0052】
光散乱膜は、光散乱粒子を含んだ液状の有機高分子化合物を基材の主面上に塗布し、その後に乾燥させることによって形成される。本開示における光散乱膜の作製に好ましい基材としては、TAC、PET、COP等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0053】
基材上への塗布方法としては、所望の厚みで精度良く成膜することが可能な方法であれば特に限定されず、例えば、グラビアコート法、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法、E型塗布方法などが挙げられる。
【0054】
光散乱粒子の塗布量は、基材1cm2あたり0.01~2.0mgであることが好ましく、0.015~1.75mgであることがより好ましく、0.03~1.0mgであることがさらに好ましい。また、光散乱膜の平均膜厚は、4~220μmであることが好ましく、4~50μmであることがより好ましく、4~15μmであることがさらに好ましい。薄すぎると十分な硬度が得られず、厚すぎると加工が困難になる。
【0055】
このような塗布量に基づけば、乾燥後の光散乱膜3に対する光散乱粒子31の割合は、10~50容積%であることが好ましく、10~30容積%であることがより好ましい。乾燥後の光散乱膜3に含まれる光散乱粒子31が少なすぎると、光散乱膜3での散乱が少なくなり、広い視野角を得ることができない。また、乾燥後の光散乱膜3に含まれる光散乱粒子31が多すぎると、必要以上に散乱度が上がり、その結果、正面輝度が下がるとともに戻り光が増える。
【0056】
なお、乾燥した光散乱膜3に対する光散乱粒子31の割合や、光散乱膜3の平均膜厚が上述した範囲である場合、乾燥した光散乱膜3の第2偏光子23との接触面1m2に対応する粒子層に含まれる光散乱粒子31の総容積は、4.5×10-73~3.6×10-63が好ましく、6.0×10-73~2.3×10-63がより好ましく、7.5×10-73~1.5×10-63がさらに好ましい。
【0057】
本明細書中で使用される場合、用語「粒子」は0.1μm以上、20μm以下の粒子サイズ(粒子の寸法ともいう。)を有するものが意図される。粒子の形状は球形であっても非球形であってもよい。本明細書中において、「球形」は、粒子の三次元空間における最長寸法と最短寸法との比が1.2未満である形状が意図され、「非球形」は、粒子の三次元空間における最長寸法と最短寸法との比が1.2を超える形状が意図される。なお、本明細書中において用語「粒径」は「粒子サイズ」と等価に用いられ、球形の粒子では粒子径が意図され、非球形の粒子では粒子の三次元空間における最長寸法または最短寸法が意図される。
【0058】
また、「粒子サイズ」は、以下の方法により測定される。まず、顕微鏡を用いて、暗視野において散乱膜の表面(受光面または出光面)の法線方向から散乱膜(の内部)を撮像した後、撮像画像をパーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)に格納する。この際、撮像画像中には、実際のスケールも併せて保存される。次に、PCにインストールされたソフトウェア(マイクロソフト社のPOWERPOINT(登録商標)など)を用いて、撮像画像における粒子の外縁をトレースする。トレースした粒子領域が重なっている場合は、各粒子領域の位置をずらすことによって、重なりが解消されたオブジェクトを得る。次に、画像解析ソフトウェア(米国国立衛生研究所により公開されたImageJなど)に上記したオブジェクトを含む電子ファイルを読み込むことによって、オブジェクトの最大寸法および最小寸法などが出力される。
【0059】
また、本開示において、光散乱粒子は、透光性であることが好ましいが、光散乱膜を透過する光の偏光面をほとんど変化させない限り、そのサイズは均一または不均一であり得、その形状は、例えば、球形、楕円球形、平板形、多角形立方体などであり得るが、球形であることが最も好ましい。
【0060】
なお、光散乱粒子の形状および平均粒子サイズは、光散乱粒子、有機高分子化合物および溶剤を含む混合物の撹拌速度および時間を制御することによって適宜変更し得る。例えば、球形の粒子を得るには、凝集した粒子が破砕されることなく個々の粒子を首尾よく分離させることが必要である。そのためには、ビーズミルを用いた分散において、ビーズの運動エネルギーを抑制した穏やかな分散を実現してやればよい。この穏やかな分散には、例えば、混合物に投入するビーズとして微小なビーズを用いたり、混合物(ビーズを含む。)を低周速で撹拌したりすればよく、微小なビーズを投入した混合物を低周速で撹拌することがより好ましく、固体粒子をバインダー溶液に均一に分散させるために分散剤を適宜添加することがより好ましい。
【0061】
一実施形態において、光散乱膜は以下の工程(i)~(iv)が行われることによって生成される:
(i)光散乱粒子および有機高分子化合物を溶剤に添加する;
(ii)得られた混合物を撹拌して穏やかな分散を実行して、均一な分散液を調製する;
(iii)得られた分散液を基材に塗布して面全体に拡げる;
(iv)塗布後の基材を恒温槽に配置する(例えば60℃で20分間)。
【0062】
このような手順によって、球形の光拡散粒子による粒子層を含む光散乱膜を、基材上に乾燥された状態で得ることができる。なお、分散を実行する際に、分散液に少量の分散剤が加えられてもよい。
【0063】
上述した粒子層(沈殿層)を首尾よく形成させるには、乾燥が完了するまでに光散乱粒子を沈殿させることが必要である。そのために、沈殿を速やかに完了させることが可能な粒子および溶剤がこれらの比重(密度)に基づいて適宜選択される。なお、沈殿を抑制する無機フィラー(例えばシリカ)を分散液中に含有させないことが好ましい。
【0064】
乾燥は室温で行われればよいが、室温よりも高い環境下で乾燥が行われる場合、基材(例えばポリマーフィルム)の変形を避けるために乾燥温度を基材材料の融点よりも低く設定することが好ましい。
【0065】
また、このような温度範囲で乾燥を行うために、基材材料の融点よりも低い沸点を有する溶剤が本開示において好適に用いられる。基材としてPMMAが用いられる場合、PMMAの融点よりも低い沸点を有する溶剤は当該分野で公知である。例えば、基材および溶剤としてそれぞれPMMAおよび水系溶剤が用いられる場合、乾燥温度は100℃よりも低いことが好ましく、室温~80℃であることがより好ましく、室温~60℃であることがさらに好ましい。
【0066】
本開示では、このような粒子層を有した光散乱膜を用いることによって、正面輝度の低下が抑制されているだけでなく、戻り光が低減されている。このような効果は、前方散乱および後方散乱の観点のみから導き出せることではない。
【0067】
上述したように、粒子層は、光散乱膜3の受光面3aの近位に形成されていても、出光面3bの近位に形成されていても、受光面3aおよび出光面3bのどちらからも離れた位置に形成されていてもよい。粒子層を光散乱膜の所望の位置に形成させるには、濃縮された粒子層を含む光散乱膜を基材上に可能な限り薄く作製した後に基材から取り外し、別途作製したポリマー層(例えば、光散乱膜を構成する有機高分子化合物からなる層)に積層すればよい。また、基材から取り外された光散乱膜は、別の部材(例えば液晶パネルに貼り付けられた偏光フィルム)に取り付けられてもよい。あるいは、光散乱膜は、偏光フィルム上に直接的に作製されてもよい。
【0068】
光散乱膜を生成する際に用いられる基材は、光散乱膜の一部として液晶表示装置で用いられる場合、透光性のポリマーフィルムが基材として用いられればよく、基材から取り外された光散乱膜が液晶表示装置で用いられる場合、ガラス基板、金属板等が基材として採用されてもよい。
【0069】
基材としてポリマーフィルムが用いられた場合は、光散乱膜を基材から取り外すために、光散乱膜と基材との間に剥離層が設けられてもよいが、基材からの光散乱膜の分離手法はこれに限定されない。基材としてガラス基板が用いられた場合は、基材からの光散乱膜の剥離のために、レーザリフトオフ法を用いることが好ましいがこれに限定されない。特に、光散乱膜が基材上に形成された後すぐに(他の工程を経ることなく)剥離されてもよい場合は、光散乱膜と基材との密着力は強くなくてもよい。光散乱膜と基材との密着力が強くない場合には、ナイフエッジなどを用いて機械的に剥離することもできる。このような機械的な剥離手順は、基材がガラスであっても金属であってもポリマーフィルムであっても適用可能である。光散乱膜と基材との密着力は、光散乱膜の形成条件を調整したり、基材に表面処理(撥水処理等)を行ったりすることによって調整することができる。
【0070】
本開示に係る液晶表示装置は、上述した構成を有していることにより、視野角(色視野角および輝度視野角)が広い。なお、本明細書中において、色視野角および輝度視野角は、いずれも以下のとおり定義付けられる。
【0071】
色視野角は、表示装置に対して極角0°から視た場合(正面視)の色と表示装置に対して傾いた方向(極角θ≠0°)から視た場合(斜め視)の色との差異(色変化量)を色差Δu‘v’で評価したものである。具体的には、色視野角は、二次元フーリエ変換式光学ゴニオメーター(ELDIM(株)製、品番:Ezcontrast)を用いて、測定部分以外からの光が入射しないという条件下での測定値から算出された色差Δu‘v’で評価することができる。本開示における色視野角は、文献(S. Ochi, et al., "Development of Wide Viewing VA-LCD System by Utilizing Microstructure Film" IDW16, 472-475 (2016))を参考にした値(Δu‘v’=0.020)を満たすことが好ましく、その角度は極角が±32.5°である。また色差Δu‘v’は以下の式で規定される。
【0072】
【数1】
【0073】
輝度視野角は、表示装置に対して極角0°から視た場合(正面視)の輝度と表示装置に対して傾いた方向(極角θ≠0°)から視た場合(斜め視)の輝度との差異を評価したものである。具体的には、輝度視野角は、二次元フーリエ変換式光学ゴニオメーター(ELDIM(株)製、品番:Ezcontrast)を用いて、測定部分以外からの光が入射しないという条件下で、正面(0°)にて測定される輝度の1/3の輝度となる斜め視の角度(極角)を測定することによって評価し得る。本開示における輝度視野角は、上記文献を参考にした値(1/3の輝度を呈する上記角度が±42.5°以上)であることが好ましい。
【0074】
集光光源がバックライト1として用いられる場合、バックライト1から出射される光のうちで、液晶パネル2に含まれる液晶組成物を斜めに横切るものがほとんどない。よって、液晶組成物はいずれも光を透過させず、その結果、正面視で完全な黒を表示する。
なお、集光型のバックライトを用いると視野角が狭くなるが、本開示に係る液晶表示装置は光散乱膜3を備えているので、集光型のバックライトを用いているにもかかわらず広い視野角を得ることができる。
【0075】
光散乱膜3は、図1Aに示されるように、その背面(受光面)3aが液晶パネルと対向するように配置されている。光散乱膜3の受光面3aと平行な平面1m2当たりの粒子層30中に9.0×10-73の容積のアルミナ粒子を光散乱粒子31として分散させている。このような光散乱膜3を設けたVA方式の液晶表示装置を製造し、正面に位置する視認者からみて液晶パネルの右方向を基準とした方位角が0°または45°のときに極角を-90°から90°まで変化させながら黒輝度を測定した。方位角が0°であっても45°であっても黒輝度は一定であった。
【0076】
一方、光散乱膜3を設けない液晶表示装置において、同様に黒輝度を測定した。方位角が45°の場合の黒輝度の変化が著しかった。
【0077】
また、カラー表示の場合であっても、液晶パネル2に含まれる液晶組成物を斜めに横切る光がほとんど存在しないので、色変化が抑制される。
【0078】
このように、集光型のバックライト1と光散乱膜3とを組み合わせて用いることによって、黒輝度および色の変化を低減させることができる。すなわち、採用されるべきバックライトは、液晶パネル2に含まれる液晶組成物を透過する光が黒輝度および色の変化を生じさせない程度に集光されていればよく、本発明者らは、極角が-32°~+32°の範囲内であれば、液晶パネル2に含まれる液晶組成物を斜めに横切る光の影響が排除されることを確認している。
【0079】
本実施形態に係る液晶表示装置10には、第2偏光子23よりも前方(視認者側)にさらなる偏光板(第3偏光子4)が備えられており、光散乱膜3は、第2偏光子23と第3偏光子4との間に設けられている。すなわち、本実施形態に係る液晶表示装置10は、第3偏光子4をさらに備えており、バックライト1からの光が、液晶パネル2および光散乱膜3を透過した後に第3偏光子4を透過するように構成されている。なお、本開示において、第1偏光子~第3偏光子はいずれも直線偏光子である。また、光散乱膜3は等方的に光を散乱させる層であり、第2偏光子23と第3偏光子4との間には異方的に光を散乱させる層が備えられていない。
【0080】
第3偏光子4は、光散乱膜3の出光面3bから出光した光を受け取り、液晶表示装置10の前方に位置する視認者へ向けて出光する。
【0081】
本発明者らは独自の観点に基づく検討を重ね、バックライト1からの光が光散乱膜3を透過する際に光の偏光特性(偏光軸の向き)がほとんど変化しないこと、すなわち、光散乱膜を透過する前の直線偏光の特性が光散乱膜を透過した後も概ね維持されることが実現することを見出した。すなわち、本開示の液晶表示装置10において、液晶パネル2を透過した後の直線偏光は光散乱膜3を透過した後もその振動方向を維持する。これにより、第2偏光子23の透過軸の向きとほぼ一致した透過軸を有する偏光板を光散乱膜3の正面側に配置したとしても、液晶パネル2を透過した光をほとんど減衰させることなく上記第3偏光子から出光することができる。
【0082】
媒質中で配向させた際にある方向からの色と垂直方向からの色とが異なる、という性質を有する色素(二色性色素)を配向させた偏光フィルムが知られている(例えば、特開2011-43685号参照)。二色性色素には、有機系色素および非有機系色素(いわゆるヨウ素系色素)がある。
【0083】
二色性色素は、それ自身又は集合体で一定方向に配列することにより偏光性を示す化合物であり、このような二色性色素として、例えば、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素、アントラキノン系色素等の色素系化合物等が挙げられる。第3偏光子には、二色性色素が、一種類が単独で使用されてもよく、二種類以上が併用されてもよい。
【0084】
一実施形態において、第3偏光子は、基材としての樹脂シートとその表面上に形成された二色性色素の色素層を備えている。本実施形態において、第3偏光子は、二色性色素を含有する色素組成物を樹脂シートに吸着配向させることによって作製される。例えば、樹脂シートに対して、延伸および色素組成物の染色が行われる。延伸は、色素組成物への浸漬処理の前に行ってもよく、浸漬処理しながら行ってもよく、また浸漬処理後に行ってもよく、これらを組み合わせて行ってもよい。延伸は通常、一軸延伸によって行われ、その方法は特に限定されず、湿式延伸または乾式延伸であり得る。色素が吸着配向された樹脂シートをホウ酸処理、水洗、乾燥することによって所望の第3偏光子(偏光フィルム)が得られる。
【0085】
一実施形態において、第3偏光子は、二色性色素を含む樹脂シートである。この場合、二色性色素を含む樹脂シートが色素層である。本実施形態において、第3偏光子は、膨潤させた樹脂シートに色素組成物を含侵させた後に延伸することによって作製される。
【0086】
膨潤工程では、10~50℃の水に浸漬して樹脂シートを膨潤させる。水の温度は、20℃以上であることが好ましく、40℃以下であることが好ましい。このような温度範囲内の溶液に浸漬することで、樹脂シートを効率良く均一に膨潤させることができる。膨潤工程の後に供される染色工程では、例えば、二色性色素を含む10~50℃の溶液に浸漬して二色性色素を樹脂シートに含浸させるとともに、総延伸倍率が2~3倍になるように一軸延伸する。これにより、樹脂シートに二色性色素を含ませるとともに、シート中の二色性色素の分子鎖が配向される。色素が配向された樹脂シートを、水洗、乾燥することによって所望の偏光フィルムが得られる。
【0087】
二色性色素が用いられた第3偏光子4は、その色素層が光散乱膜3の出光面3bに貼り合わせられる。このとき、光散乱膜3が機能層30からなる構成を有していることが好ましい(図1A)。すなわち、機能層からなる光散乱膜が第3直線偏光子の色素層に直接的に貼りつけられていることが好ましい。このような構成では、第2偏光子23と第3偏光子4の色素層との間にPET等の基材が存在しないので、光散乱膜3と第3偏光子4とを貼り合わせた多層膜に生じ得る反りの可能性が大きく低減されている。このような反り低減効果は、上述した文献に記載も示唆もされていない。
【0088】
また、光散乱膜3が基材33を備えている場合であっても(例えば、図1B)、二色性色素が用いられた第3偏光子4と組み合わせられれば、第2偏光子23と第3偏光子4との間に存在する基材の量を低減することができるので、基材の吸湿性に起因して発生し得る多層膜の反りを低減することができる。そのため、樹脂シートに用いられる樹脂は特に限定されず、例えば、TACであってもPETであってもよい。
【0089】
偏光特性に優れた偏光子を得るために、上述した色素層の厚さは、例えば、0.001~10μmであることが好ましく、0.05~2μmであることがより好ましい。また、このような色素層を得るために、上述した色素組成物による塗布膜の厚さは、例えば、2~10μmであることが好ましく、3~5μmであることがより好ましい。なお、塗布には、光散乱膜の塗布と同様の手順を用いられればよい。
【0090】
色素組成物を構成する溶媒は、二色性色素を溶解し得るものであれば特に限定されず、例えば、水および種々の有機溶剤(例えば、アルコール類、エーテル類、ピリジン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N-メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルイミダゾリン(DMI)等)が挙げられる。色素組成物には、これらの溶媒の1種のみが含まれていても複数種が含まれていてもよい。特に、水溶性の二色性色素が用いられる場合、水または水と上記有機溶剤との混合溶媒が好ましい。
【0091】
一実施形態において、樹脂シートを構成する有機高分子化合物は、光散乱膜(機能層)に含まれる有機高分子化合物と異なる。
【0092】
第3偏光子は、基材と色素層からなる積層体であっても、色素層の表面にさらに保護フィルム等が積層された積層体であってもよい。保護フィルムとしては、例えば、ポリエステル系フィルム、セルロースアセテート系フィルム、アクリル系フィルム、ノルボルネン構造を有する環状ポリオレフィンのフィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリアリレート系フィルム、ポリエーテルサルフォン系フィルムなどが挙げられる。
【0093】
上述したような偏光子を用いることによって、戻り光に起因する表示品位の低下を効率よく防止することができる。
【0094】
本実施形態に係る液晶表示装置10では、その透過軸が第2偏光子23の透過軸とほぼ同じ向きになる第3偏光子4が光散乱膜3の受光面3aを覆うように構成されている。なお、液晶表示装置10は、第2偏光子23と第3偏光子4との間に、異方的に光を散乱させる構造(例えばプリズム)を備えていない。
【0095】
このような構成を有することにより、本実施形態に係る液晶表示装置10では、前方からの外光が半減されており、その結果、戻り光も半減される。また、このような構成は、液晶表示装置10に対して極角0°から視た場合の輝度(以下、正面輝度ともいう。)を低下させない。
【0096】
視認者側からの外光の反射に起因する視認性の低下を抑制する技術として、表偏光板よりもさらに前方にさらなる偏光板を設けて、これら2枚の偏光板の間に2枚の1/4波長板を配置して円偏光板を形成する構成が知られている(例えば、特開平5-281538号公報)。
【0097】
これに対して、本実施形態に係る液晶表示装置10では、円偏光子を用いることなく戻り光(外光の反射光を含む)の低減を実現している。円偏光を生成させることなく直線偏光の特性を維持したまま光散乱膜での戻り光を低減させる構成は当該分野において一切知られていない。
【0098】
カラーフィルタでの外光反射の低減やコントラスト比の向上を目的として、カラーフィルタと表偏光板との間に拡散層を設ける構成も知られている(例えば、特開2006-208647号公報)。この文献は、パネルの視認側に偏光板を1枚使用する構成を開示するに過ぎない。また、この文献に記載された技術では、設けられた拡散層を通ることによって透過光の偏光面が変化することを利用している。
【0099】
これに対して、本実施形態に係る液晶表示装置10では、液晶パネル2の視認側に偏光板を2枚使用しており、透過光の偏光面を変化させない光散乱膜を採用している。光散乱膜での戻り光の低減を目的としてこのような構成を採用することは当該分野において一切知られていない。
【0100】
液晶パネルよりも視認者側に配置された光拡散素子に起因する表示のぼやけを低減させることを目的として、このような光拡散素子として、プリズムのように異方的に光を散乱させる構造が設けられたものを採用することも知られている(例えば、特開2007-71916号公報)。この文献に開示される技術には、光拡散特性に三次元的な異方性を有する光拡散素子が不可欠である。
【0101】
これに対して、液晶表示装置10は、異方的に光を散乱させる構造を液晶パネルよりも視認者側に備えていない。もちろん、本実施形態における光散乱膜3は、異方性の光散乱層を備えていない。このような構成は、上述した文献に記載も示唆もされていない。
【0102】
第3偏光子4の透過軸の方向が、第2偏光子23の透過軸の方向とほぼ一致しているので、検出される光量は、第3偏光子4の有無にかかわらずほとんど変化しない。このことは、液晶表示装置10の視認側に光量検出カメラを配置し、液晶パネル2および光散乱膜3(ならびに第3偏光子4)を透過した光の光量(輝度)を光量検出カメラで検出することによって確認することができる。
【0103】
第3偏光子4は、第2偏光子23に応じて適宜選択されればよい。仮に、第2偏光子23の透過軸が不明であったとしても、第3偏光子4の代わりに配置した直線偏光子を必要に応じて回転させ、光量検出カメラで検出される光量が最大になる位置に基づいて、用いられるべき第3偏光子4を決定することができる。
【0104】
本実施形態に係る液晶表示装置10において、光散乱膜3は、液晶パネル2と第3偏光子4との間に配置されており、光を散乱させる光散乱粒子31と光散乱粒子31を内包するための有機高分子化合物32とを備えている。光源1から出射された光は、液晶パネル2を透過した後に、受光面3aから光散乱膜3の内部へインプットされ、液晶パネル2を透過した際の角度分布よりも拡げられて出光面3bから光散乱膜3の外部へアウトプットされる。
【0105】
第3偏光子4は、光散乱膜3の出光面3bと対向するように配置されている。第3偏光子4は第2偏光子23を透過した光と同じ偏光軸を有する光を透過させる。換言すると、第2偏光子23と第3偏光子4は同じ方向の透過軸を有している。第2偏光子23を透過した光は光散乱膜3を透過した後にその強度をほとんど低下させることなく第3偏光子4を透過する。
【0106】
一方、外光が第3偏光子4に入光する場合は第3偏光子4によってその透過軸を通る直線偏光に変換され、入光される外光の1/2が第3偏光子4によって吸収される。そのため、視認者側からの外光は、その半分が第3偏光子4を透過し、その戻り光が視認者側へ向かう。
【0107】
例えば、アルミナ粉末を含む液状の有機高分子化合物(アクリル樹脂の前駆体)32を30μmの厚さで塗布および乾燥させることによって、乾燥後の膜厚が6μmで粒子濃度が15~18容積%である機能層30が形成される。一実施形態に係る液晶表示装置10では、このような機能層30が液晶パネル2の第2偏光子23に直接的に貼り付けられており、さらに光散乱膜3の出光面3bに第3偏光子4が設けられている。このような液晶表示装置10では、戻り光が著しく抑制されており、その結果、明所での正面コントラスト比は非常に良好であった。また、この液晶表示装置は広い視野角を有していた。
【0108】
本開示では、このような粒子層を有した光散乱膜を用いることによって、正面輝度の低下が抑制されているだけでなく、戻り光が低減されている。しかも、このような構成を有する光散乱膜が用いられていることによって、その透過軸が第2偏光子23の透過軸とほぼ同じ向きになる第3偏光子4を光散乱膜3の出光面3bの前方に配置することを可能にし、正面輝度をほとんど低下させることなく戻り光の抑制を実現している。このような効果は、前方散乱および後方散乱の観点のみから導き出せることではない。
【0109】
(まとめ)
(1)本開示の一実施形態に係る液晶表示装置は、集光型のバックライトと、前記バックライトからの光が入射する第1直線偏光子および前記光が出射する第2直線偏光子を有する液晶パネルと、前記第2直線偏光子と対向する光散乱膜と、前記光散乱膜と対向する第3直線偏光子と、を備え、前記光散乱膜は、有機高分子化合物および該有機高分子化合物に含有された光散乱粒子を含む機能層を備え、前記第3直線偏光子は、前記第2直線偏光子の偏光軸の向きと同じ向きの偏光軸を有する構成になっている。
【0110】
本開示の一実施形態によると、液晶パネルの第2直線偏光子と対向させて光散乱膜が設けられているので、広い視野角を得ることができる。しかも、集光型のバックライトを用いているので、液晶パネルに含まれている液晶組成物を斜めに横切る光はほとんど存在せず、その結果、正面視と斜め視との間で黒輝度および色がほとんど変化しない。さらに、光散乱膜を透過した光を透過させる第3直線偏光子として第2直線偏光子の偏光軸の向きと同じ向きの偏光軸を有する偏光子が設けられているので、液晶パネルからの光を第3直線偏光子で減衰させることなく前方へ向けて出光することができる。しかも、前方からの外光が第3直線偏光子を介して液晶パネルへ向けて入光したとしても、この外光は第3直線偏光子によって半分に減衰されているので、戻り光に起因する明所での正面コントラスト比の低下を抑制することができる。
【0111】
(2)上記液晶表示装置において、前記光散乱粒子の平均粒子サイズが1.5μm以上、6.0μm以下であることが好ましい。
【0112】
(3)上記液晶表示装置において、前記光散乱膜の厚さが、4μm以上、220μm以下であることが好ましい。薄すぎると光の拡散が不十分であり、厚すぎると、透過光を減衰させる可能性があるからである。
【0113】
(4)上記液晶表示装置において、前記光散乱粒子のうち、1.5μm以上、4.5μm以下の粒子サイズを有する画分の容積が、前記機能層に含まれる光散乱粒子全体の容積の60%以上、96%以下であることが好ましい。
【0114】
(5)上記液晶表示装置において、前記光散乱粒子のうち、0.1μm以上、1.5μm未満の粒子サイズを有する画分の容積が、前記機能層に含まれる光散乱粒子全体の容積の4%以上、40%以下であることが好ましい。
【0115】
(6)上記液晶表示装置において、前記光散乱膜の前記第2直線偏光子との接触面1cm2に対応する前記機能層に含まれる前記光散乱粒子の総容積が、0.5cm3以上、10.0cm3以下であることが好ましい。
(7)上記液晶表示装置において、前記光散乱粒子の屈折率と前記有機高分子化合物の屈折率との差が、0.15以上、1.0以下であることが好ましい。
【0116】
(8)上記液晶表示装置において、前記機能層は、該機能層に含まれる前記光散乱粒子の60容積%以上、100容積%以下が、液晶パネルから出た光を受け取る面に沿って拡がる粒子層を有しており、前記粒子層は、前記接触面と垂直な向きで前記機能層全体の厚さの1~80%の領域に濃縮されていることが好ましい。
【0117】
(9)上記液晶表示装置において、前記有機高分子化合物は、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、シリコーン、ユリア、エポキシ、ポリプロピレン、酢酸セルローズおよびポリ塩化ビニリデンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、前記光散乱粒子は、アルミナ、メラミン樹脂および中空シリカからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0118】
(10)上記液晶表示装置において、前記バックライトは、前記第1直線偏光子に入射する光のうち正規化輝度0.5以上の光が入射角32°以下で入射するように構成されていることが好ましい。このようなバックライトから出射される光は、液晶組成物を斜めに横切ることがほとんどないので、黒輝度および色の変化をもたらすことがない。
【符号の説明】
【0119】
1 バックライト
2 液晶パネル
21 第1偏光子
22 液晶層
21a 液晶組成物
23 第2偏光子
3 光散乱膜
30 機能層
31 光散乱粒子
32 有機高分子化合物
4 第3偏光子
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B