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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】減速機及び可変バルブタイミング装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/352 20060101AFI20221202BHJP
【FI】
F01L1/352
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021534887
(86)(22)【出願日】2019-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2019028661
(87)【国際公開番号】W WO2021014533
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 淳
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209794(JP,A)
【文献】特開2001-107709(JP,A)
【文献】特開2002-122010(JP,A)
【文献】特開2012-087697(JP,A)
【文献】特開2014-206047(JP,A)
【文献】特開2013-147983(JP,A)
【文献】特開2004-003419(JP,A)
【文献】特開2013-096230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34-1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸と連動して回転する駆動側回転体と、
前記内燃機関のバルブを開閉させるためのカム軸に固定される従動側回転体と、
前記駆動側回転体及び前記従動側回転体に噛み合いつつ、遊星運動を行って、前記従動側回転体の前記駆動側回転体に対する相対回転位相を変化させることにより、前記バルブの開閉タイミングを調整する遊星回転体と、
前記従動側回転体の外周面を構成し、前記従動側回転体の前記駆動側回転体に対する相対回転位相が変化するときに、前記駆動側回転体の内周面に摺動可能に支持され、外径が前記カム軸から遠ざかるのに従って徐々に大きくなるように形成される摺動面と、
前記従動側回転体に設けられると共に、前記摺動面に開口し、前記カム軸から導入された潤滑油を前記摺動面に供給する油路とを備える
ことを特徴とする減速機。
【請求項2】
内燃機関のクランク軸と連動して回転する駆動側回転体と、
前記内燃機関のバルブを開閉させるためのカム軸に固定される従動側回転体と、
前記駆動側回転体及び前記従動側回転体に噛み合いつつ、遊星運動を行って、前記従動側回転体の前記駆動側回転体に対する相対回転位相を変化させることにより、前記バルブの開閉タイミングを調整する遊星回転体と、
前記従動側回転体の外周面を構成し、前記従動側回転体の前記駆動側回転体に対する相対回転位相が変化するときに、前記駆動側回転体の内周面に摺動可能に支持される摺動面と、
前記従動側回転体の内部に設けられると共に、一端が、前記従動側回転体の底部を形成し、且つ、前記カム軸の端部に固定される固定部から、前記カム軸の内部と連通し、他端が前記摺動面に対して前記固定部の径方向内側から開口し、前記固定部から径方向に延びて前記カム軸から導入された潤滑油を前記摺動面に直接供給する油路とを備える
ことを特徴とする減速機。
【請求項3】
前記油路は、前記摺動面における軸方向中間位置よりも前記カム軸側に開口する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の減速機。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の減速機と、
前記遊星回転体を回転させる電動モータとを備え、
前記従動側回転体の前記駆動側回転体に対する相対回転位相を、前記電動モータの駆動に応じた前記遊星回転体の遊星運動によって変化させて、前記バルブの開閉タイミングを調整する
ことを特徴とする可変バルブタイミング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、減速機及びこれを備えた可変バルブタイミング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の運転状況に応じて、吸気バルブまたは排気バルブ(以下、単に、バルブと称す)の開閉タイミングを調整する可変バルブタイミング装置が提供されている。特許文献1には、例えば、電動式の可変バルブタイミング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-172442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された可変バルブタイミング装置は、減速機を有している。この減速機は、内燃機関のクランク軸と連動して回転する駆動側回転体と、カム軸と連動して回転する従動側回転体とを、電動モータの駆動によって遊星運動する遊星回転体を介して、接続させている。これにより、上記従来の可変バルブタイミング装置は、従動側回転体の駆動側回転体に対する相対回転位相を、遊星回転体の遊星運動によって変化させることにより、バルブの開閉タイミングを調整する。
【0005】
従動側回転体が駆動側回転体に対して相対回転する場合には、従動側回転体の外周面を構成する摺動面が、駆動側回転体の内周面上を摺動する。このため、駆動側回転体の内周面と、従動側回転体の摺動面との間には、潤滑が必要となる。特許文献1に開示された可変バルブタイミング装置は、潤滑油を、従動側回転体の内周側に設けられたチャンバから、当該従動側回転体の内部を通じて、摺動面に供給している。
【0006】
上記チャンバは、歯車同士の噛み合い部及び軸受と連通しているため、そのチャンバ内に溜められた潤滑油は、それらの潤滑に使用された後、摺動面に供給される。このため、摺動面に供給される潤滑油の供給量は減少し、その潤滑油内には、上記噛み合い部及び軸受で発生した摩耗粉が混入するおそれがある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、従動側回転体の摺動面に対して、摩耗粉を含まない潤滑油を、十分な供給量で供給することができる減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る減速機は、内燃機関のクランク軸と連動して回転する駆動側回転体と、内燃機関のバルブを開閉させるためのカム軸に固定される従動側回転体と、駆動側回転体及び従動側回転体に噛み合いつつ、遊星運動を行って、従動側回転体の駆動側回転体に対する相対回転位相を変化させることにより、バルブの開閉タイミングを調整する遊星回転体と、従動側回転体の外周面を構成し、従動側回転体の駆動側回転体に対する相対回転位相が変化するときに、駆動側回転体の内周面に摺動可能に支持され、外径が前記カム軸から遠ざかるのに従って徐々に大きくなるように形成される摺動面と、従動側回転体に設けられると共に、摺動面に開口し、カム軸から導入された潤滑油を摺動面に供給する油路とを備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、従動側回転体の摺動面に対して、摩耗粉を含まない潤滑油を、十分な供給量で供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る減速機を備えた可変バルブタイミング装置の縦断面図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3図1のA-A矢視断面図である。
図4】溝部を備えた場合における図2に対応した要部拡大図である。
図5】実施の形態2に係る減速機を備えた可変バルブタイミング装置の縦断面図である。
図6図5の要部拡大図である。
図7図5のB-B矢視断面である。
図8】溝部を備えた場合における図6に対応した要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明をより詳細に説明するために、この発明を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
【0012】
実施の形態1.
実施の形態1に係る減速機1について、図1から図4を用いて説明する。図1は、実施の形態1に係る減速機1を備えた可変バルブタイミング装置の縦断面図である。図2は、図1の要部拡大図である。図3は、図1のA-A矢視断面図である。図4は、溝部26を備えた場合における図2に対応した要部拡大図である。なお、図2に示した矢印は、潤滑油の流れ方向を示している。
【0013】
図1に示した可変バルブタイミング装置は、内燃機関(図示省略)の運転状況に応じて、バルブの開閉タイミングを調整するものである。この可変バルブタイミング装置は、電動式の可変バルブタイミング装置であり、減速機1及び電動モータ3等を備えている。なお、内燃機関は、例えば、車両用エンジン等である。
【0014】
減速機1は、内燃機関のクランク軸(図示省略)からカム軸40に機関トルクを伝達する伝達経路上に設けられている。この減速機1は、クランク軸とカム軸40との間の相対回転位相を変化させるものである。
【0015】
図1から図3に示すように、減速機1は、駆動側回転体10、従動側回転体20、及び、遊星回転体30を備えている。駆動側回転体10、従動側回転体20、及び、遊星回転体30は、同軸上に配置されている。
【0016】
駆動側回転体10は、全体として筒状をなしており、その径方向内側において、従動側回転体20及び遊星回転体30を収容している。この駆動側回転体10は、歯車部材11及びスプロケット部材12を有している。歯車部材11及びスプロケット部材12は、共に筒状をなしており、同軸上に配置されている。歯車部材11とスプロケット部材12とは、ボルト13によって固定されている。
【0017】
歯車部材11は、駆動側回転体10において、電動モータ3側に配置されている。この歯車部材11は、環状をなす内歯車部11aを有している。内歯車部11aは、歯車部材11の内周面に、その周方向全域に亘って設けられている。
【0018】
スプロケット部材12は、駆動側回転体10において、カム軸40側に配置されている。このスプロケット部材12は、その径方向内側において、従動側回転体20を駆動側回転体10に対して相対回転可能に支持している。また、スプロケット部材12は、複数のスプロケット歯12a及び支持面12bを有している。
【0019】
スプロケット歯12aは、スプロケット部材12の外周面からその外側に向けて突出するように設けられており、当該外周面の周方向において、等間隔で配置されている。これに対して、クランク軸の端部には、複数のスプロケット歯が設けられている。これらのスプロケット歯は、クランク軸の外周面からその外側に向けて突出するように設けられており、当該外周面の周方向において、等間隔で配置されている。そして、スプロケット部材12における複数のスプロケット歯12aと、クランク軸における複数のスプロケット歯との間には、環状をなすタイミングチェーンが巻き掛けられている。
【0020】
従って、内燃機関が運転されて、そのクランク軸が回転すると、当該クランク軸から出力された機関トルクは、タイミングチェーンを通じて、スプロケット部材12に入力される。これにより、駆動側回転体10は、クランク軸に連動して、減速機1の中心軸L周りに回転する。
【0021】
支持面12bは、スプロケット部材12の筒状内周面を構成している。この支持面12bは、減速機1の中心軸Lと平行に配置されている。また、支持面12bは、駆動側回転体10に対して相対回転する従動側回転体20の摺動面22を、摺動可能に支持する。なお、摺動面22の詳細については、後述する。
【0022】
従動側回転体20は、筒状をなしており、カム軸40と同軸上に配置されている。この従動側回転体20は、固定部21、摺動面22、油路23、及び、内歯車部24を有している。
【0023】
固定部21は、従動側回転体20の底部を形成しており、ボルト25によってカム軸40の端部に固定されている。これにより、カム軸40は、従動側回転体20に連動して、減速機1の中心軸L周りに回転する。
【0024】
摺動面22は、従動側回転体20の筒状外周面を構成している。この摺動面22は、減速機1の中心軸Lと平行に配置されている。また、摺動面22は、従動側回転体20が駆動側回転体10に対して相対回転するときに、支持面12bに摺動可能に支持される。
【0025】
なお、図3に示すように、以下の説明では、従動側回転体20が駆動側回転体10に対して進角する相対回転方向を、進角方向Xと称する。また、従動側回転体20が駆動側回転体10に対して遅角する相対回転方向を、遅角方向Yと称する。
【0026】
油路23は、カム軸40から導入された潤滑油を、摺動面22に直接供給するための通路である。この油路23は、固定部21の内部に設けられている。油路23の一端は、カム軸40の内部と連通し、油路23の他端は、摺動面22に対して、従動側回転体20の径方向内側から開口している。
【0027】
これに対して、カム軸40は、ポンプ41及び油路42を有している。ポンプ41は、潤滑油を油路42に導入するためのポンプである。油路42は、潤滑油を従動側回転体20の油路23に供給するための通路である。油路42の一端は、ポンプ41と接続され、油路42の他端は、油路23の一端と接続されている。油路23,42は、常時、直接連通している。これにより、潤滑油は、ポンプ41の駆動によって、油路42に導入された後、油路23を通じて、摺動面22に供給される。
【0028】
内歯車部24は、環状をなしている。この内歯車部24は、従動側回転体20の内周面に、その周方向全域に亘って設けられている。
【0029】
遊星回転体30は、筒状をなしており、歯車部材11の内周側と従動側回転体20の内周側とに跨って設けられている。この遊星回転体30は、遊星キャリア31、遊星歯車32、及び、遊星ベアリング33~35を有している。
【0030】
遊星キャリア31は、筒状をなしており、減速機1の中心部に配置されている。この遊星キャリア31の中心孔には、電動モータ3の出力軸3aが同軸上に嵌入されている。従って、電動モータ3が駆動して、その出力軸3aが回転すると、当該出力軸3aから出力された制御トルクは、遊星キャリア31に入力される。これにより、遊星キャリア31は、出力軸3aに連動して、減速機1の中心軸L周りに回転する。
【0031】
また、遊星キャリア31は、駆動側回転体10及び従動側回転体20に対して、相対回転可能となっている。この遊星キャリア31の外周面は、減速機1の中心軸Lに対して、偏心している。遊星歯車32は、環状をなす外歯車であって、遊星キャリア31の径方向外側に配置されている。
【0032】
遊星ベアリング33は、遊星キャリア31の外周面と、歯車部材11の内周面との間に設けられている。遊星ベアリング34は、遊星キャリア31の外周面と、遊星歯車32の内周面との間に設けられている。遊星ベアリング35は、遊星キャリア31の外周面と、従動側回転体20の内周面との間に設けられている。
【0033】
これにより、遊星キャリア31は、駆動側回転体10、従動側回転体20、及び、遊星歯車32を、中心軸Lに対して偏心させた状態で、回転可能に支持している。遊星歯車32は、駆動側回転体10の内歯車部11a、及び、従動側回転体20の内歯車部24と噛み合っている。また、遊星歯車32は、中心軸Lに対して偏心した状態で自転しながら、遊星キャリア31の回転方向へ公転する、遊星運動を行う。
【0034】
なお、内歯車部24の歯数は、内歯車部11aの歯数よりも多く設定されている。また、遊星歯車32に歯数は、内歯車部11aの歯数及び内歯車部24の歯数よりも少なく設定されている。
【0035】
従って、可変バルブタイミング装置は、電動モータ3の出力軸3aから遊星キャリア31に入力される制御トルクに応じて、駆動側回転体10と従動側回転体20との間の相対回転位相を変化させることにより、内燃機関の運転状況に応じて、バルブの開閉タイミングを調整することができる。
【0036】
具体的には、バルブの開閉タイミングを変更しない場合には、可変バルブタイミング装置は、電動モータ3を制御して、クランク軸に連動して回転する駆動側回転体10の回転速度と同じ回転速度で、遊星キャリア31を回転させる。これにより、遊星歯車32は、遊星キャリア31の回転に伴って、遊星運動を行い、その公転速度は、駆動側回転体10の回転速度と一致する。
【0037】
この結果、遊星歯車32は、内歯車部11aとの間の噛み合い位置を維持して、駆動側回転体10に対する相対回転位相を変えないまま、当該駆動側回転体10と連れ回りする。また、遊星歯車32は、内歯車部24との間の噛み合い位置を維持して、従動側回転体20に対する相対回転位相を変えないまま、当該従動側回転体20と連れ回りする。
【0038】
よって、従動側回転体20に固定されたカム軸40の相対回転位相についても、変更されることはなく、バルブの開閉タイミングは変更されない。即ち、バルブの開閉タイミングは、現状のまま、維持される。
【0039】
バルブの開閉タイミングを進角側に変化させる場合には、可変バルブタイミング装置は、電動モータ3を制御して、制御トルクの発生方向を進角方向Xとし、駆動側回転体10に対して、遊星キャリア31を進角方向Xに相対回転させる。
【0040】
これにより、遊星歯車32は、遊星キャリア31の回転に伴って、遊星運動を行い、当該遊星歯車32の公転速度と駆動側回転体10の回転速度との間に、差が生じるため、駆動側回転体10に対する相対回転位相を進角方向Xに向けて変えつつ、自転する。このとき、遊星歯車32は、従動側回転体20の内歯車部24と噛み合っているため、その従動側回転体20は、遊星歯車32の自転に伴って、駆動側回転体10に対して、進角方向Xに向けて相対回転する。
【0041】
よって、従動側回転体20に固定されたカム軸40の相対回転位相についても、進角方向Xに向けて変化するため、バルブの開閉タイミングは、進角側に変化する。
【0042】
バルブの開閉タイミングを遅角側に変化させる場合には、可変バルブタイミング装置は、電動モータ3を制御して、制御トルクの発生方向を遅角方向Yとし、駆動側回転体10に対して、遊星キャリア31を遅角方向Yに相対回転させる。
【0043】
これにより、遊星歯車32は、遊星キャリア31の回転に伴って、遊星運動を行い、当該遊星歯車32の公転速度と駆動側回転体10の回転速度との間に、差が生じるため、駆動側回転体10に対する相対回転位相を遅角方向Yに向けて変えつつ、自転する。このとき、遊星歯車32は、従動側回転体20の内歯車部24と噛み合っているため、その従動側回転体20は、遊星歯車32の自転に伴って、駆動側回転体10に対して、遅角方向Yに向けて相対回転する。
【0044】
よって、従動側回転体20に固定されたカム軸40の相対回転位相についても、遅角方向Yに向けて変化するため、バルブの開閉タイミングは、遅角側に変化する。
【0045】
ここで、従動側回転体20が駆動側回転体10に対して相対回転する場合には、従動側回転体20の摺動面22が、駆動側回転体10の支持面12bを摺動する。この場合、支持面12bと摺動面22との間が、適切に潤滑されていないと、従動側回転体20は、滑らかに回転せず、がたつき及び異音等を発生させるおそれがある。
【0046】
これに対して、実施の形態1に係る減速機1は、ポンプ41を駆動させることにより、潤滑油を、従動側回転体20の油路23を介して、支持面12bと摺動面22との間に供給する。これにより、減速機1は、それらの間の潤滑を十分に行うことができるので、従動側回転体20を滑らかに回転させて、そのがたつき及び異音の発生を防止することができる。
【0047】
このとき、油路23を通過する潤滑油には、従動側回転体20の回転に伴って、当該従動側回転体20の径方向外側に向かう遠心力が作用する。また、油路23は、固定部21の内部を、従動側回転体20の径方向に延びている。これにより、潤滑油は、油路23を遠心力によって速やかに流れて、摺動面22に到達する。
【0048】
更に、図2に示すように、潤滑油は、支持面12bと摺動面22との間を潤滑した後、スプロケット部材12の内周面と従動側回転体20の外周面との間に形成された隙間を流れて、内歯車部11aの端面と内歯車部24の端面との間に流入する。次いで、それらの端面間に流入した潤滑油は、内歯車部11aと遊星歯車32との間の噛み合い部、及び、内歯車部24と遊星歯車32との間の噛み合い部に流れ込み、それらを潤滑する。そして、噛み合い部を潤滑した潤滑油は、遊星ベアリング33~35を潤滑する。
【0049】
また、遊星ベアリング33~35潤滑した潤滑油は、例えば、駆動側回転体10、従動側回転体20、及び、遊星回転体30のうちの少なくとも1つに設けられた戻し油路(図示省略)を介して、ポンプ41に戻される。この戻し油路の途中部分には、フィルタが設けられており、戻し油路を流れる潤滑油は、そのフィルタを通過することにより、内歯車部11aと遊星歯車32との間の噛み合い部、内歯車部24と遊星歯車32との間の噛み合い部、及び、遊星ベアリング33~35で発生した摩耗粉等の異物が除去される。
【0050】
そして、異物が除去された潤滑油は、ポンプ41の駆動によって、再循環される。これにより、支持面12bと摺動面22との間には、常に、清浄な潤滑油が供給されることになる。
【0051】
なお、上記実施の形態1に係る減速機1では、従動側回転体20の摺動面22に対して、油路23を直接開口させているが、図4に示すように、その摺動面22に形成された溝部26に対して、油路23を開口させても構わない。溝部26は、減速機1の軸方向に延びるように形成されている。この溝部26は、その軸方向長さが、油路23における開口断面の軸方向長さよりも長ければ良い。これにより、減速機1は、支持面12bと摺動面22との間における軸方向全域に、潤滑油を容易に供給することができる。
【0052】
また、上記実施の形態1に係る減速機1では、1つの油路23を従動側回転体20に設けているが、複数の油路23を従動側回転体20に設けても構わない。これにより、減速機1は、支持面12bと摺動面22との間の潤滑を向上させることができる。
【0053】
以上より、実施の形態1に係る減速機1は、内燃機関のクランク軸と連動して回転する駆動側回転体10と、内燃機関のバルブを開閉させるためのカム軸40に固定される従動側回転体20と、駆動側回転体10及び従動側回転体20に噛み合いつつ、遊星運動を行って、従動側回転体20の駆動側回転体10に対する相対回転位相を変化させることにより、バルブの開閉タイミングを調整する遊星回転体30と、従動側回転体20の外周面を構成し、従動側回転体20の駆動側回転体10に対する相対回転位相が変化するときに、駆動側回転体10の内周面に摺動可能に支持される摺動面22と、従動側回転体20に設けられると共に、摺動面22に開口し、カム軸40から導入された潤滑油を摺動面22に供給する油路23とを備える。これにより、減速機1は、従動側回転体20の摺動面22に対して、摩耗粉を含まない潤滑油を、十分な供給量で供給することができる。
【0054】
油路23は、摺動面22に対して、従動側回転体20の径方向内側から開口する。これにより、減速機1は、油路23を流れる潤滑油を、従動側回転体20の遠心力を利用して、速やかに摺動面22に供給することができる。
【0055】
実施の形態1に係る可変バルブタイミング装置は、減速機1と、遊星回転体30を回転させる電動モータ3とを備え、従動側回転体20の駆動側回転体10に対する相対回転位相を、電動モータ3の駆動に応じた遊星回転体30の遊星運動によって変化させて、バルブの開閉タイミングを調整する。これにより、可変バルブタイミング装置は、従動側回転体20の摺動面22に対して、摩耗粉を含まない潤滑油を、十分な供給量で供給することができる。
【0056】
実施の形態2.
実施の形態2に係る減速機2について、図5から図8を用いて説明する。図5は、実施の形態2に係る減速機2を備えた可変バルブタイミング装置の縦断面図である。図6は、図5の要部拡大図である。図7は、図5のB-B矢視断面図である。図8は、溝部26を備えた場合における図6に対応した要部拡大図である。なお、図6に示した矢印は、潤滑油の流れ方向を示している。
【0057】
図5から図7に示すように、実施の形態2に係る減速機2は、実施の形態1に係る減速機1の支持面12b及び摺動面22に替えて、支持面12c及び摺動面22Aを備えるものである。この支持面12c及び摺動面22Aは、減速機2の中心軸Lに対して傾斜している。
【0058】
具体的には、減速機2の駆動側回転体10は、支持面12cを有している。支持面12cは、スプロケット部材12のテーパ状内周面を構成している。この支持面12cは、内径がカム軸40から遠ざかるのに従って徐々に大きくなるような、テーパ形状をなしている。
【0059】
減速機2の従動側回転体20は、摺動面22Aを有している。摺動面22Aは、従動側回転体20のテーパ状外周面を構成している。この摺動面22Aは、外径がカム軸40から遠ざかるのに従って徐々に大きくなるような、テーパ形状をなしている。また、摺動面22Aは、従動側回転体20が駆動側回転体10に対して相対回転するときに、支持面12cに摺動可能に支持される。
【0060】
このように、減速機2は、従動側回転体20に、テーパ面となる摺動面22Aを設けることにより、油路23から摺動面22Aに供給された潤滑油を、従動側回転体20の遠心力を利用して、内歯車部11a,24及び遊星歯車32側に向け容易に流すことができる。これにより、減速機2は、内歯車部11a,24及び遊星歯車32に対する潤滑を向上させることができる。
【0061】
更に、摺動面22Aを設ける場合には、油路23は、摺動面22Aにおける軸方向中間位置よりもカム軸40側に開口すると好適である。これにより、減速機2は、油路23から摺動面22Aに供給された潤滑油を、従動側回転体20の遠心力を利用して、傾斜した摺動面22A全体に行き渡らせることができる。また、油路23から摺動面22Aに供給された潤滑油は、遠心力が作用することにより、摺動面22Aをカム軸40側に向けて流下することがないため、無駄なく使用される。
【0062】
なお、実施の形態2に係る減速機2においても、従動側回転体20の摺動面22Aに対して、油路23を直接開口させているが、図8に示すように、その摺動面22Aに形成された溝部26に対して、油路23を開口させても構わない。
【0063】
以上より、実施の形態2に係る減速機2は、外径がカム軸40から遠ざかるのに従って徐々に大きくなるように形成される摺動面22Aを備える。これにより、減速機2は、内歯車部11a,24及び遊星歯車32に対する潤滑を向上させることができる。
【0064】
油路23は、摺動面22Aにおける軸方向中間位置よりもカム軸40側に開口する。これにより、減速機2は、油路23から摺動面22Aに供給された潤滑油を、従動側回転体20の遠心力を利用して、傾斜した摺動面22A全体に行き渡らせることができる。
【0065】
なお、本願発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは、各実施の形態における任意の構成要素の変形、もしくは、各実施の形態における任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
この発明に係る減速機は、カム軸から導入された潤滑油を従動側回転体の摺動面に供給する油路を設けることにより、その摺動面に対して、摩耗粉を含まない潤滑油を、十分な供給量で供給することができ、可変バルブタイミング装置の減速機等に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0067】
1,2 減速機、3 電動モータ、3a 出力軸、10 駆動側回転体、11 歯車部材、11a 内歯車部、12 スプロケット部材、12a スプロケット歯、12b,12c 支持面、13 ボルト、20 従動側回転体、21 固定部、22,22A 摺動面、23 油路、24 内歯車部、25 ボルト、26 溝部、30 遊星回転体、31 遊星キャリア、32 遊星歯車、33~35 遊星ベアリング、40 カム軸、41 ポンプ、42 油路、L 中心軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8