(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】粉体膜形成方法及び粉体成膜装置
(51)【国際特許分類】
B41M 1/42 20060101AFI20221202BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20221202BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20221202BHJP
B05D 3/14 20060101ALI20221202BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221202BHJP
B41F 15/08 20060101ALI20221202BHJP
B41N 1/24 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
B41M1/42
B05D1/26 A
B05D3/00 B
B05D3/14
B05D7/24 301A
B41F15/08 309A
B41N1/24
(21)【出願番号】P 2022066365
(22)【出願日】2022-04-13
(62)【分割の表示】P 2018566157の分割
【原出願日】2018-02-05
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2017019085
(32)【優先日】2017-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017019089
(32)【優先日】2017-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017019093
(32)【優先日】2017-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】西浦 崇介
(72)【発明者】
【氏名】杉生 剛
(72)【発明者】
【氏名】福井 英之
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-207780(JP,A)
【文献】特開2010-207270(JP,A)
【文献】特開昭57-107270(JP,A)
【文献】特開2016-077982(JP,A)
【文献】特開2014-061703(JP,A)
【文献】特開2016-129954(JP,A)
【文献】特開2009-101665(JP,A)
【文献】特開平06-328873(JP,A)
【文献】特開平09-169103(JP,A)
【文献】特開2010-214296(JP,A)
【文献】米国特許第03081698(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/42
B05D 1/26
B05D 3/00
B05D 3/14
B05D 7/24
B41F 15/08
B41N 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体充填部材の基板と対向する側に形成され、形状が形成しようとする粉体膜の形状と対応し、且つ、厚みが形成しようとする前記粉体膜の厚みと対応する開口部に、前記粉体充填部材上に供給された粉体を押し込むことにより充填する充填工程と、
前記粉体充填部材と基板との間に電位差を生じさせて、前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させ、粉体膜を形成する成膜工程と、を備え、
前記粉体充填部材は、多孔体と前記多孔体の前記基板と反対側の面から前記基板側の面に向かって前記基板側の面からはみ出すように形成された被覆部とを備え、
前記被覆部には、前記開口部が形成される粉体膜形成方法。
【請求項2】
前記充填工程は、擦込体の擦り込みにより、前記粉体を充填する請求項1に記載の粉体膜形成方法。
【請求項3】
前記充填工程は、振動により、前記粉体を充填する請求項1に記載の粉体膜形成方法。
【請求項4】
前記成膜工程は、前記粉体を擦込体の擦り込みにより、前記基板に移動させる請求項1に記載の粉体膜形成方法。
【請求項5】
前記成膜工程は、前記粉体を振動により、前記基板に移動させる請求項1に記載の粉体膜形成方法。
【請求項6】
形状が形成しようとする粉体膜の形状と対応し、且つ、厚みが形成しようとする前記粉体膜の厚みと対応する開口部が基板と対向する側に形成された粉体充填部材と、
前記開口部の一端側から擦り込みにより、粉体を前記開口部に充填する擦込体と、
前記粉体充填部材と基板との間に電位差を生じさせて、前記開口部に充填された前記粉体を前記基板に移動させる電源と、を備え、
前記粉体充填部材上に供給された前記粉体を前記開口部に押し込むことにより前記開口部に前記粉体が充填され、
前記粉体充填部材は、多孔体と前記多孔体の前記基板と反対側の面から前記基板側の面に向かって前記基板側の面からはみ出すように形成された被覆部とを備え、
前記被覆部には、前記開口部が形成される粉体成膜装置。
【請求項7】
前記粉体充填部材を加振する加振部を備える請求項6に記載の粉体成膜装置。
【請求項8】
粉体充填部材の基板と対向する側に形成され、形状が形成しようとする粉体膜の形状と対応し、且つ、厚みが形成しようとする前記粉体膜の厚みと対応する開口部に、前記粉体充填部材上に供給された粉体を振動させて押し込むことにより充填する充填工程と、
前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させ、粉体膜を形成する成膜工程と、を備え、
前記粉体充填部材は、多孔体と前記多孔体の前記基板と反対側の面から前記基板側の面に向かって前記基板側の面からはみ出すように形成された被覆部とを備え、
前記被覆部には、前記開口部が形成される粉体膜形成方法。
【請求項9】
前記成膜工程は、前記粉体を擦込体の擦り込みにより、前記基板に移動させる請求項8に記載の粉体膜形成方法。
【請求項10】
前記成膜工程は、前記粉体を振動により、前記基板に移動させる請求項8に記載の粉体膜形成方法。
【請求項11】
粉体充填部材の基板と対向する側に形成され、形状が形成しようとする粉体膜の形状と対応し、且つ、厚みが形成しようとする前記粉体膜の厚みと対応する開口部に、前記粉体充填部材上に供給された粉体を、前記粉体充填部材の基板と反対側から押し込むことにより充填する充填工程と、
前記開口部に前記粉体が充填された前記粉体充填部材を前記基板に対して反転させる反転工程と、
前記反転された粉体充填部材と前記基板との間に電位差を生じさせて、前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させ、前記粉体膜を形成する成膜工程とを包含する粉体膜形成方法。
【請求項12】
粉体充填部材の基板と対向する側に形成され、形状が形成しようとする粉体膜の形状と対応し、且つ、厚みが形成しようとする前記粉体膜の厚みと対応する開口部に、前記粉体充填部材上に供給された粉体を振動させて、前記粉体充填部材の基板と反対側から押し込むことにより充填する充填工程と、
前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させ、粉体膜を形成する成膜工程と、を備え、
前記粉体充填部材は、多孔体と前記多孔体の前記基板と反対側の面から前記基板側の面に向かって前記基板側の面からはみ出すように形成された被覆部とを備え、
前記被覆部には、前記開口部が形成される粉体膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定粉体材料を用いた印刷技術により基板に粉体膜を形成する粉体膜形成方法及び粉体成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーンに粉体を擦込体で擦り込んで粉体膜を形成する静電スクリーン印刷法が従来技術として知られている(特許文献1)。この特許文献1に記載の静電成膜装置は、粉体をスクリーンに擦り込む擦込体(スクリーンブラシ)と、粉体を擦込体に供給するホッパとを備える。上記ホッパと上記擦込体とを互いに独立に動作可能とすることにより、上記静電成膜装置で成膜される粉体膜の膜厚精度の向上が図られている。
【0003】
基板に粉体膜を静電スクリーン印刷装置により形成する技術が知られている(特許文献2)。この特許文献2に記載の静電スクリーン印刷装置は多孔体のスクリーン版を備える。スクリーン版は直流電源の一端に接続される。スクリーン版上に供給された粉体が擦込体によりスクリーン版に擦り込まれる。これにより、粉体がスクリーン版に接触して帯電する。
【0004】
このようにして帯電した粉体は、直流電源の他端に接続された被印刷物に静電誘導により付着して粉体膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国公開公報「特開2012-179786号公報(2012年09月20日公開)」
【文献】日本国公開公報「特開2012-140016号公報(2012年07月26日公開)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような特許文献1の従来技術では、擦込体によりスクリーンに擦り込まれた粉体に基づいて基板に成膜された粉体膜に、スクリーンに供給された粉体の散布状態、及び、擦込体の移動の軌跡に由来して成膜ムラが生じる。このため、静電成膜装置で成膜される粉体膜の膜厚精度が不十分になるという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、良好な膜厚精度で粉体膜を成膜することができる粉体膜形成方法及び粉体成膜装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粉体膜形成方法は、粉体充填部材に形成された開口部に、粉体を充填する充填工程と、
前記粉体充填部材と基板との間に電位差を生じさせて、前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させ、粉体膜を形成する成膜工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粉体成膜装置は、粉体が充填される開口部が形成された粉体充填部材と、前記開口部の一端側から擦り込みにより、前記粉体を前記開口部に充填する擦込体と、前記粉体充填部材と基板との間に電位差を生じさせて、前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させる電源と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る他の粉体膜形成方法は、粉体充填部材に形成された開口部に粉体を振動させて充填する充填工程と、前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させ、粉体膜を形成する成膜工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、良好な膜厚精度で粉体膜を成膜することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係る粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図である。
【
図2】上記充填工程で使用されるスクリーン版の構成を示す断面図である。
【
図3】上記粉体膜形成方法の成膜工程を示す断面図である。
【
図4】(a)は実施形態2に係る粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図であり、(b)は実施形態2に係る押え板の平面図である。
【
図5】実施形態4に係る粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図である。
【
図6】上記粉体膜形成方法の成膜工程を示す断面図である。
【
図7】実施形態5に係る粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図である。
【
図8】比較例に係る粉体膜形成方法を示す断面図である。
【
図9】実施形態6に係る粉体膜形成方法の供給工程を示す断面図である。
【
図10】上記供給工程で粉体試料が散布された供給容器を示す写真である。
【
図11】上記粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図である。
【
図12】上記充填工程で使用されるスクリーン版の構成を示す断面図である。
【
図13】(a)は上記充填工程による充填後のスクリーン版を乳剤側から見た写真であり、(b)はメッシュ側から見た写真である。
【
図14】上記粉体膜形成方法の成膜工程における擦り込み直前の状態を示す断面図である。
【
図15】上記成膜工程における静電誘導による被印刷物への粉体の付着の状態を示す断面図である。
【
図16】上記成膜工程で被印刷物に成膜された粉体膜を示す写真である。
【
図17】実施形態7に係る粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図である。
【
図18】実施形態8に係る粉体膜形成方法における乳剤厚と塗着量との間の関係を示すグラフである。
【
図19】比較例に係る粉体膜形成方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0014】
静電スクリーン印刷法は、粉体を付着及び堆積させる対象物が圧迫されないため、圧迫による崩壊が懸念される食品等の対象物に広く採用されている。
【0015】
この静電スクリーン印刷法は、静電力により原料の粉体を堆積させる手法である。このため、膜厚精度を担保するために再現性良く管理することが困難な項目が、静電スクリーン印刷法には多数存在する。例えば、スクリーン版上の粉体の散布状態、及び、スクリーン版上をスクリーンブラシが走査する回数等である。従って、静電スクリーン印刷法には十分な膜厚精度が得られない場合があるという課題が存在する。
【0016】
例えば、(背景技術)の欄で上述したような特許文献1の従来技術では、擦込体によりスクリーンに擦り込まれた粉体に基づいて基板に成膜された粉体膜に、スクリーンに供給された粉体の散布状態、及び、擦込体の移動の軌跡に由来して成膜ムラが生じる。このため、静電成膜装置で成膜される粉体膜の膜厚精度が不十分になるという問題がある。
【0017】
そこで、上記課題に対して鋭意検討した結果、スクリーン版等の多孔体の開口部に粉体を充填し、この開口部に充填された粉体を、静電力と擦込体による擦込とに基づいて対象物に塗布することにより、十分な膜厚精度が得られることを本発明者らは見出した。
【0018】
本願明細書において「充填」とは、開口部の空いた所に粉体を詰めて塞ぎ、その状態を維持することを意味するものとする。従って、例えば、粉体が単に開口部を通過するような態様は、本願明細書の「充填」に該当しないものとする。
【0019】
(実施形態1)
実施形態に係る粉体膜形成方法は、粉体の成膜時に用いられる製造方法に関するものであり、より詳細には、粉体の乾式成膜方法である。当該粉体膜形成方法は、微細加工を施したスクリーン版、メタル版等の多孔体の開口部に粉体を充填する充填工程と、充填された粉体を移動させて対象物に成膜する成膜工程とを有する。これにより、多孔体の開口部に一定の厚みで充填されて多孔体に保持された粉体を基板に移動させて一定の厚みの粉体膜を成膜することができる。このため、成膜精度が良好な粉体膜を成膜することができる。
【0020】
以下、まず、実施形態に係る充填工程を説明する。
【0021】
(充填工程)
図1は実施形態1に係る粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図である。粉体成膜装置1は、スクリーン版2(粉体充填部材)を備える。
【0022】
図2は上記充填工程で使用されるスクリーン版2の構成を示す断面図である。スクリーン版2は、スクリーンメッシュ4(多孔体)とスクリーンメッシュ4の一方の面に形成されたスクリーン乳剤部5(被覆部)とを含む。開口部3は、このスクリーン乳剤部5に形成される。
【0023】
スクリーン版2は、スクリーン印刷用の一般的なステンレスメッシュを使用することができる。スクリーン版2の開口部3の形状は、例えば一辺50mmの正方形状とすることができる。但し、開口部3の形状を変更することにより、任意形状の粉体膜11を形成することができる。
【0024】
本実施形態では、メッシュ数300/inch、線径30μm(紗厚t1=60μm)、オープニング55μmのスクリーンメッシュ4を有するスクリーン版2を用いた。本実施形態で用いたスクリーン版2は、
図2に示すように、スクリーン乳剤部5が、スクリーンメッシュ4の一方の面から他方の面に向かって他方の面からはみ出すように形成されている。このように、スクリーン乳剤部5は、スクリーンメッシュ4の他方の面側から一方の面側に向かってスクリーンメッシュ4に入り込むように形成される。以降、スクリーンメッシュ4の他方の面側を乳剤側と呼び、スクリーンメッシュ4の一方の面側をメッシュ側と呼び、スクリーンメッシュ4からはみ出しているスクリーン乳剤部5の厚さt2を乳剤厚と呼ぶ。本実施形態では、この乳剤厚t2を変えることにより、スクリーン版2の開口部3に充填できる粉体9の容積を調整し、基板10に成膜する粉体膜11(
図3)の成膜量を制御している。但し、上記粉体9の容積は、スクリーンメッシュ4の紗厚t1とスクリーンメッシュ4の目開きとの少なくとも一方を変えることにより調整することもできる。
【0025】
スクリーン版2は、開口部3の軸方向(矢印Aにより示される鉛直方向)が重力の作用する方向となるように配置される。
【0026】
スクリーン版2のメッシュ側にポリウレタンスポンジからなる擦込体15が配置される。擦込体15は、ポリウレタンスポンジではなく、ゴム、スキージ、又は、刷毛等により構成しても良い。
【0027】
スクリーン版2の開口部3に粉体9を充填するときに、擦込体15がスクリーンメッシュ4上を移動し、粉体9をスクリーンメッシュ4に擦り込んで開口部3に押し込むことにより、開口部3の全体に粉体9を均一に充填することができる。
【0028】
開口部3を塞ぐ平滑な押え板6(押さえ部材)が開口部3の下側に配置される。そして、スクリーン版2のメッシュ側に粉体9が供給される。スクリーン版2のメッシュ側に供給された粉体9は、スクリーン版2のスクリーンメッシュ4上を移動する擦込体15により、スクリーンメッシュ4に擦り込まれて、平滑な押え板6が下側から押し当てられた開口部3に充填される。その後、押え板6が開口部3から除去される。
【0029】
押え板6により開口部3を塞ぐことにより、開口部3に充填された粉体9の落下を防止することができる。また、押え板6により開口部3を塞ぐことにより、開口部3に充填された粉体9の下側の面を平滑化することができ、粉体膜11をより均一に成膜することができる。
【0030】
粉体9の充填量、あるいは、粉体膜11の成膜量は、スクリーン版2の開口部3の容積、粉体9の押し込み量(粉体密度)によって制御することができる。スクリーン版2の開口部3の下側に押え板6を当てた状態で、開口部3に粉体9を充填することにより、粉体9が充填される空間の容積が一義的に定まる。このため、粉体膜11を所望の厚みで成膜することが可能となるとともに、成膜を繰り返し行っても常に一定の成膜量を保持することができる。また、充填時に擦込体15をスクリーンメッシュ4に押し当てる圧力を一定にすることにより、開口部3に充填される粉体9の密度が一定となる。このため、成膜される粉体膜11の厚みを制御することができる。
【0031】
粉体9を充填する多孔体は、スクリーン版2に限定されず、例えば、ふるい、パンチングメタル、及び、金属板に微細な孔を多数形成したメタル版を使用することができる。スクリーンメッシュ4に形成するスクリーン乳剤部5のパターン、又は、金属板に形成する孔の場所を変更することによって、粉体膜11を任意の形状に成膜することができる。多孔体を用いることにより、粉体9の成膜量、粉体膜11の形状を任意に設定することができるとともに、膜厚精度が良好な粉体膜11を成膜することができる。
【0032】
本実施形態に係る粉体膜形成方法では、まず、スクリーン版2のスクリーンメッシュ4上に粉体9が供給される。スクリーン版2は、ステンレスメッシュ、ポリエステルメッシュ、又はナイロンメッシュ等が使用可能である。本実施形態では、静電誘導による成膜を行うことにより、成膜精度のより良好な成膜が可能である。このため、静電誘導による成膜に好適なステンレスメッシュをスクリーン版2として使用することが好ましい。
【0033】
また、スクリーン版2の開口部3のパターンを変更することにより、粉体膜11を任意の形状に成膜することが可能である。スクリーン版2を用いる場合、通常のスクリーン印刷時にスキージを走査させるメッシュ側から開口部3に粉体9を充填しても良いし、乳剤側から開口部3に粉体9を充填しても良い。
【0034】
粉体膜11の成膜厚み等の成膜量は、スクリーン版2の開口部3の容積によって制御することができる。例えば、スクリーン版2を用いた際には、スクリーンメッシュ4の線径、スクリーンメッシュ4のメッシュ数、及び乳剤厚t2によって開口部3の容積を制御することができ、これによって粉体膜11の成膜量を制御することができる。スクリーン版2の開口部3に供給される粉体9の量は、開口部3の容積以上の量であればよい。また、スクリーン版2の開口部3内に均一に粉体9を充填するという観点から、粉体9は、大きな凝集粒が無い程度に解砕されていることが望ましい。
【0035】
次に、スクリーン版2のスクリーンメッシュ4上に供給された粉体9をスクリーン版2の開口部3に充填する。ここで、開口部3の下側に押え板6を押し当てることが重要である。押え板6を押し当てることにより、充填した粉体9をスクリーン版2に保持することが可能となる。
【0036】
また、成膜後の粉体膜11の表面状態は、押え板6の開口部3側の表面状態に依存する。このため、均一な粉体膜11を成膜するためには、押え板6の厚みは均一で、且つ、押え板6の開口部3側の表面の凹凸もできるだけ微小であることが望ましい。
【0037】
一方、粉体膜11に厚み分布を意図的に設けたいときには、押え板6の面方向の厚みに分布を設定することにより、成膜する粉体膜11の厚み分布を任意に変更することができる。ここで用いる押え板6としては、ステンレス等の金属、樹脂等が使用可能であるが、表面の平滑性、耐久性等を考慮すると、金属を使用することが望ましい。
【0038】
当該押え板6を開口部3に配置した状態で、スクリーンメッシュ4に供給された粉体9を擦込体15によって開口部3に充填する。擦込体15は、ポリウレタンスポンジのようなスポンジ、スキージ、ブラシ等を用いることが可能である。スクリーンメッシュ4に供給された粉体9を開口部3に押し込むように、擦込体15を開口部3上のスクリーンメッシュ4で走査させ、粉体9を開口部3に充填する。その際、開口部3の面積にもよるが、擦込体15の数回の走査により粉体9の開口部3への充填が完了する、このため、短時間で粉体9を開口部3に充填することができる。また、粉体9を開口部3に押し込む際の擦込体15の押し込み圧力及び走査回数によって粉体膜11の成膜量を制御することが可能である。
【0039】
次に、実施形態に係る成膜工程を説明する。
【0040】
(成膜工程)
図3は粉体膜形成方法の成膜工程を示す断面図である。粉体膜11を成膜する際には、スクリーン版2と基板10との間に電位差が設けられる。開口部3に充填された粉体9が、開口部3から基板10上の被印刷物16に移動することにより粉体膜11が成膜される。この際には、スクリーン版2が直流電源8の負極に接続される。そして、開口部3に充填された粉体9は負に帯電される。また、その際、基板10は直流電源8の正極に接続される。
【0041】
次に、開口部3に充填された粉体9に対し、擦込体15を用いてスクリーンメッシュ4の上面から擦ることにより、開口部3に充填された粉体9を基板10上に移動させる。この際、粉体9は、開口部3に充填されていた膜厚等の形状を維持しつつ、基板10に静電誘導され、基板10上の被印刷物16の表面に付着する。
【0042】
スクリーン版2と基板10との接続する直流電源8は、スクリーン版2を正極に接続し、基板10を負極に接続してもよい。
【0043】
スクリーン版2と基板10との間の距離及び電位差から算出される静電誘導に必要な電界強度は、使用する粉体9によって異なる。このため、電界強度を適切に設定することが、開口部3に充填された粉体9に静電誘導を生じさせるために重要である。
【0044】
(実施形態2)
充填時に開口部3を塞ぐ押え板6の面内の厚みを変更することにより、成膜する粉体膜11の厚み分布を任意に変更することができる。開口部3に充填された粉体9の押え板6A側の面は、押え板6の開口部3側の面の状態を転写した形状になる。従って、通常は、粉体膜11の厚み分布を均一にするために、開口部3に押し当てる押え板6の厚み分布は均一で、且つ、押え板6の開口部3側の表面の凹凸もできるだけ微小であることが望ましい。
【0045】
一方、粉体膜11に厚み分布を設けたいときは、開口部3に押し当てる押え板6の面内厚みに分布を持たせることにより、任意の厚み分布の表面形状を有する粉体膜11を形成することも可能となる。
【0046】
図4(a)は実施形態2に係る粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図であり、(b)は実施形態2に係る押え板6Aの平面図である。実施形態1で前述した構成要素と同一の構成要素には同一の参照符号を付している。従って、これらの構成要素の説明は繰り返さない。
【0047】
たとえば、粉体膜11の端部(周囲)だけ厚みを大きくしたい場合がある。粉体膜11の形状が仮に正方形である場合、粉体膜11の端部に対応する場所にだけ、押え板6Aに溝を設けておく。例えば、
図4(a)(b)に示すように、押え板6Aに開口部3の外縁に沿ってロの字形の溝17が形成される。そうすると、粉体充填時に、溝17に対応する箇所は粉体の充填量/膜厚が大きくなるため、形成される粉体膜11も溝17に対応する箇所の膜厚を大きくすることができる。
【0048】
溝17の形状を変化させることで、任意の膜厚分布を持った粉体膜11の形成が可能となる。なお、
図4では、溝17の深さが一定な例を示しているが、本発明はこれに限定されない。溝17の深さは、ステップ状に変化するのではなく、連続的に変化していても構わない。
【0049】
(実施形態3)
実施形態1及び2では、スクリーン版2のスクリーンメッシュ4側から開口部3に粉体9を充填し、開口部3のスクリーン乳剤部5側から粉体9を基板10に移動させて成膜する例を示した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。スクリーン版2のスクリーン乳剤部5側から開口部3に粉体9を充填し、開口部3のスクリーンメッシュ4側から粉体9を基板10に移動させて成膜してもよい。この場合、まず、スクリーン乳剤部5側から粉体9を開口部3に充填する。その後、スクリーン版2を
図2に示す状態に反転させて配置する。そして、スクリーンメッシュ4側で擦込体15を走査させて粉体9を基板10へ移動させる。この方法により粉体膜11の成膜精度が向上する場合がある。
【0050】
(実施例)
本発明の一実施例について
図1~
図3に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0051】
まず、成膜する粉体9として、粒径(D50)が4μmの略球形をした乾燥粉体を準備した。
【0052】
そして、粉体9を充填する多孔体として、実施例1~2、実施例4~6ではスクリーン印刷用のスクリーン版2を準備した。スクリーンメッシュ4にはステンレスメッシュを用い、メッシュの線径は30μm、紗厚t1は60μm、メッシュ数は300/inch、オープニングは55μm、開口部3の形状は50mm×50mmのベタパターンとした。本実施例では、開口部3の容積を変更するため、[表1]に示すように、乳剤厚を変化させた。[表1]は、実施例1~6、及び比較例1の試験条件及び評価結果を示している。
【0053】
【表1】
また、実施例5では電鋳加工にて作製したメタルマスクを準備した。開口部の形状は、スクリーン版2と同様の50mm×50mmのベタパターンとし、開口部にはメッシュ数300/inch相当の孔を形成し、メタル部の厚みは60μmとした。
【0054】
次に、スクリーン版2の開口部3の下側から押し当てる押え板6を準備した。寸法70mm×70mm、厚み300μm、平面度50μm以下のステンレス板を押え板6に用いた。特に、[表1]に示す実施例6では、寸法40mm×40mmの領域は同様の厚み300μm、平面度50μm以下とし、40mm~70mmの範囲には、内側から外側に向かって傾き6.7μm/mmの傾斜を設けた。
【0055】
その後、擦込体15として、ポリウレタンのスポンジ、ウレタンのスキージを準備した。
【0056】
そして、[表1]に記載の各試験条件に従って、粉体膜11を成膜した。成膜では、押え板6と同じものを基板10として使用した。この基板10に、開口部3に充填された粉体9を移動させて粉体膜11を形成することにより成膜を実施した。
【0057】
実施例1~4、及び6では、成膜を3回実施し、粉体膜11を3層形成した。実施例5では、成膜を5回実施し、粉体膜11を5層形成した。ここで、単層の成膜量を算出するため、成膜を実施する前の被印刷物16のステンレス板の重量と、単層の成膜を実施した後の被印刷物16のステンレス板の重量とを測定した。その後、成膜した粉体膜11の横方向から粉体膜11に光を照射し、粉体膜11の面内の厚み分布の有無を目視確認した。
【0058】
次に、成膜した粉体膜11を加圧成形した。加圧力は10ton/cm2とし、加圧時間は30秒とした。その後、加圧された粉体膜11の面内の厚みばらつきを確認するため、粉体膜11の四隅及び中央部を直径10mmのハンドパンチで打ち抜き、打ち抜いた四隅及び中央部の重量を測定した。この重量測定結果の平均値を求め、当該平均値を基準としたばらつきの範囲を%で算出した。算出したはらつきを[表1]に示す。
【0059】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様の粉体9、スクリーン版2、及び擦込体15を用いて、1,0kV/mmの電界強度で、充填工程を実施しない従来の静電成膜を行った。従来の静電成膜は、実施例1~6とは異なり、粉体膜を多層で形成する手法ではないため、単層の成膜量測定は実施しなかった。成膜後の粉体膜の加圧成形、ハンドパンチでの打ち抜き、及び重量測定は、実施例1~6と同様に実施した。
【0060】
比較例1では、成膜工程が、粉体を多孔体の開口部に充填する工程と、多孔体の開口部に充填された粉体を開口部から基板に移動させる工程とに分割されなかった。このため、基板上に成膜された粉体膜の面内厚みの精度が不十分となり、ハンドパンチでの打ち抜きによって計測したばらつきの値も30.7%と大きな値となった。
【0061】
一方、実施例1では、成膜工程が、粉体9を多孔体(スクリーン版2)の開口部3に充填する工程と、スクリーン版2の開口部3に充填された粉体9を開口部3から基板10に移動させて粉体膜11を成膜する工程とに分割された。このため、上記ばらつきの値が上記比較例1の約1/3の9.4%に低減された。
【0062】
実施例2では、スクリーン版2の開口部3に充填された粉体9を開口部3から基板10に移動させる際に、スクリーン版2と基板10との間に電界強度1kV/mmの電位差を設けた。このため、上記ばらつきの値は6.7%とより低減された。
【0063】
実施例3では、多孔体にメタルマスクを用いて粉体膜11を成膜した。メタルマスクを用いた結果、多孔体の孔の容積がスクリーン版2の開口部3の容積よりも減少したため、単層成膜量は実施例1及び2よりも減少した。しかしながら、ばらつきの値は実施例1及び2と同様に10%以下の良好な値となった。この結果、多孔体としてスクリーン版2以外のメタルマスクが使用可能であることが確認された。
【0064】
実施例4では、擦込体15としてスポンジの替わりにスキージを使用した。ばらつきの値は10%以下の良好な値となった。この結果、スポンジ以外の多種類の擦込体15が使用可能であることが確認された。
【0065】
実施例5では、スクリーン版2の乳剤厚を50μmから10μmに変更して多孔体としてのスクリーン版2の開口部3の容積を減少させた。この結果、ばらつきの値は10%以下の良好な値となった。単層成膜量は実施例4よりも減少した。この結果、スクリーン版2の開口部3の容積によって成膜量が制御可能であることが確認された。
【0066】
実施例6では、スクリーン版2の開口部3に押し当てる押え板6に厚み分布を設けた。このため、成膜された粉体膜11に面内厚み分布の発生が認められ、及び、ばらつきの値が増加した。この結果、押え板6に厚み分布を設けることにより、成膜された粉体膜11の面内厚み分布を任意に制御できることが確認された。
【0067】
なお、スクリーンメッシュ4(多孔体)とスクリーン乳剤部5(被覆部)とを有するスクリーン版2を使用する例を示したが、本発明はこれに限定されない。多孔体だけで所望の膜厚が得られるのであれば、被覆部は不要となる。たとえば、金属板に対して成膜箇所のみ微細な多孔加工を施したものを用いれば、スクリーン版の乳剤部のようなものは不要である。但し、得たい膜厚が大きい場合は、スクリーンメッシュ4(多孔体)とスクリーン乳剤部5(被覆部)とを有するスクリーン版2を使用することが好ましい。
【0068】
(背景技術)の欄で上述したような特許文献2の従来技術は、スクリーン版上に供給された粉体を擦込体によりスクリーン版に擦り込む方式であり、スクリーン版上に供給された粉体のすべてが被印刷物に成膜される訳ではない。即ち、スクリーン版上に供給された粉体のうち、被印刷物に成膜されずにスクリーン版上に残存する粉体、及び、擦込体に保持される粉体が発生する。このため、スクリーン版のメッシュ(孔)から静電誘導により被印刷物に粉体が付着して形成される粉体膜の膜厚の制御が困難であるという問題がある。
【0069】
上記問題が以下の実施形態4及び5に示すように解決される。
【0070】
(実施形態4)
(粉体成膜装置1の構成)
図5は実施形態4に係る粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図である。粉体成膜装置1は、スクリーン枠12に設けられたスクリーン版2(粉体充填部材)を備える。スクリーン版2は、スクリーンメッシュ4(多孔体)と、スクリーンメッシュ4の一方の面に形成されたスクリーン乳剤部5(被覆部)とを有する。スクリーン版2はスクリーン乳剤部5がスクリーンメッシュ4の下側になるように配置される。
【0071】
スクリーン乳剤部5には開口部3が形成される。押え板6(押え部材)が開口部3を塞ぐようにスクリーン乳剤部5の下側に配置される。粉体9がスクリーンメッシュ4の上に供給される。スクリーンメッシュ4の上に供給された粉体9の飛散を防止する飛散防止板13が粉体9及び開口部3を覆うように設けられる。
【0072】
粉体9は、例えば、JIS試験用粉体1(17種、重質炭酸カルシウム)である。但し、使用される粉体はこれに限定されるものではない。
【0073】
粉体成膜装置1には、スクリーン版2を加振するための加振部材7が設けられる。
【0074】
スクリーン版2のスクリーン乳剤部5の開口部3の形状は正方形である。但し、開口部3の形状を変更することにより、任意形状の粉体膜を形成することができる。
【0075】
スクリーンメッシュ4は、メッシュ数300/inch、線径30μm、開口寸法55μmである。スクリーンメッシュ4の材質は、通常のポリエステル、ナイロン、ステンレス、ポリエチレン等でよい。但し、メッシュ数、線径、開口寸法、材質は、使用する粉体9に応じて選定するべきである。
【0076】
スクリーン版2は、微細孔を有し、当該微細孔の内部に粉体9を保持できる多孔体であればよく、例えば、パンチングメタル、ふるい、微細加工を施した金属板等を使用することができる。
【0077】
(粉体膜形成方法)
実施形態4に係る粉体膜形成方法を、以下、流動化処理工程、粉体充填工程(充填工程)、及び、成膜工程の3工程に分けて説明する。
【0078】
(流動化処理工程)
使用する粉体9の流動性が良好でない場合には、まず、粉体9の流動性を向上させる流動化処理を行う。但し、粉体9の流動性が良好な場合は本流動化処理工程を行う必要は無い。
【0079】
粉体9の流動性を向上させる方法は、粉体9の粒子径の増大化(顆粒化、造粒)、粒子径分布の均一化、粒子の真球化、及び除電等が考えられる。本流動化処理工程の流動化処理は、これらのいずれの方法でもよく、また、これらの方法の組み合わせでも構わない。
【0080】
本実施形態では、乾式で流動化処理を行う。このため、原料圧縮、破砕、ふるいという工程をこの順番に経ることにより、粒子の造粒、粒子径分布の均一化、及び、若干の真球化を行った。
【0081】
(粉体充填工程(充填工程))
まず、スクリーン版2のスクリーンメッシュ4の上に粉体9を供給する。そして、粉体9及び開口部3を覆うように飛散防止板13をスクリーンメッシュ4の上に配置する。次に加振部材7によりスクリーン版2に振動を加える。そうすると、スクリーンメッシュ4の上に供給された粉体9が、スクリーン版2に加えられた振動により、スクリーンメッシュ4を通って開口部3に充填される。
【0082】
スクリーン版2に加えられる振動は、開口部3を覆うように押え板6をスクリーン乳剤部5の下側に設置した状態で加えられることが好ましい。
【0083】
スクリーン版2を用いる場合は、
図5に示すように、スクリーンメッシュ4がスクリーン乳剤部5の上になるように配置してスクリーン版2に振動を加えることが好ましい。これにより、開口部3に充填された粉体9の下面が押え板6により規制されて平坦となる。そして、開口部3に充填された粉体9の上面はスクリーンメッシュ4により規制されて平坦となる。従って、開口部3への粉体9の充填量を、スクリーン版2の内部の開口部3の容積によって精密に制御することができる。
【0084】
スクリーン版2に加えられる適切な振動は、粉体9によって異なるが、一般的な振動ふるい機を加振部材7として使用することができる。但し、粉体9の流動性が良好でない場合は、スクリーン版2の表面に対して垂直方向に加振する「振動ふるい」よりは、スクリーン版2の表面に沿った方向に加振する「面内ふるい」を使用する方が充填の効率がよい。また、粉体9によっては、高周波振動と低周波振動とを組み合わせて加振することが好ましい。なお、
図5に示す粉体成膜装置1を複数台重ねて、それぞれのスクリーン版2に一度に振動を加えると、1回の粉体充填工程により、粉体9が充填された複数個のスクリーン版2を同時に得ることができる。これにより、スクリーン版2の1枚当たりの充填時間を短縮することができる。
【0085】
図5に示す実施形態4では、一般的な面内ふるい機を加振部材7として使用して、スクリーン版2を水平方向に対して数度程度傾斜させた状態で面内ふるいを実施することにより、スクリーン版2の開口部3への粉体9の充填は30秒程度で完了した。粉体成膜装置1を10台重ねて一度に振動を加えると、スクリーン版2の1枚当たりの充填時間は3秒程度と考えることができる。
【0086】
粉体膜11の成膜厚み及び粉体重量は、スクリーン版2の開口部3への粉体9の充填精度によって定まる。このため、粉体9の仕様、スクリーン版2の仕様、及び振動条件等を最適化し、スクリーンメッシュ4の上に供給された粉体9のすべてが、スクリーン版2の開口部3に過不足なく充填されるようにすべきである。
【0087】
また、どうしても粉体9の一部がダマになるなどして、スクリーン版2の開口部3に充填しきれない場合は、次の成膜工程に移る前に、余剰粉体を除去しておくことが望ましい。ここで、ダマとは、粉体9がスクリーン版2上を転がることによってできた凝集塊を意味する。この凝集塊の径が、スクリーンメッシュ4の目開きよりも大きくなった場合、凝集塊はスクリーンメッシュ4を通過することができない、このため、凝集塊は余剰粉体(何度振動させても充填されない邪魔な粉体)となる。
【0088】
(成膜工程)
図6は粉体膜形成方法の成膜工程を示す断面図である。開口部3に粉体9が充填されたスクリーン版2に加振部材7により振動を加えることにより、開口部3に充填された粉体9が落下し、基板10上に粉体膜11が形成される。
【0089】
成膜工程では、スクリーン版2の開口部3に充填された粉体9が、開口部3の下側に配置された基板10に落下しやすいように、スクリーン乳剤部5がスクリーンメッシュ4の下側になるようにスクリーン版2を配置することが好ましい。
【0090】
成膜工程では、粉体充填工程で使用した押え板6は不要となるが、飛散防止板13は必要に応じて使用してもよい。但し、飛散防止板13を使用しなくてもよいように、スクリーン版2の開口部3に充填された粉体9がスクリーンメッシュ4を超えて上側に飛散しない振動条件を見出すことが好ましい。
【0091】
成膜工程でスクリーン版2に加える振動は、粉体充填工程でスクリーン版2に加える振動よりも加振力の小さな振動でよい。成膜工程で加える振動は、粉体9の仕様、スクリーン版2の仕様によって異なるが、超音波振動、低周波振動、又は、1回の衝撃振動を加えることが必要になる。
【0092】
開口部3に粉体9が充填されたスクリーン版2に加振部材7により振動を加えるだけでも、粉体9はスクリーン版2の下側に配置された基板10の上に落下し、粉体膜11を成膜することができる。但し、成膜制度を向上させるためには、スクリーン版2と基板10との間に電位差を生じさせる直流電源8を設け、スクリーン版2と基板10との間に生じた静電力によって粉体9を基板10に引き付けることが好ましい。実施形態4では、スクリーン版2と基板10との間の距離を10mm程度、電位差を8kVとしたが、本発明はこれに限定されない。粉体9の仕様、スクリーン版2の仕様によって適正な条件は変更されるからである。
【0093】
実施形態4に係る粉体9、スクリーン版2を使用した場合、スクリーン版2と基板10との間に上記電位差を生じさせた状態で、スクリーン版2に軽い衝撃振動を1回加えるだけで、基板10への粉体膜11の成膜は完了する。これにより、成膜工程もスクリーン版2の1枚当たり3秒以内に完了する。
【0094】
(実施形態5)
(粉体充填工程)
図7は実施形態5に係る粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図である。
図5で説明した構成要素と同一の構成要素には同一の参照符号を付し、これらの構成要素の詳細な説明は繰り返さない。
【0095】
図5で説明した粉体膜形成方法の充填工程との相異点は、
図5に示すスクリーン版2を上下反転させて、スクリーンメッシュ4がスクリーン乳剤部5の下側になるようにスクリーン版2を配置している点である。
【0096】
スクリーン乳剤部5の上に粉体9を供給し、スクリーン版2を加振部材7により加振すると、粉体9が振動しながら開口部3に充填される。
【0097】
押え板6をスクリーンメッシュ4の下側に設置した状態でスクリーン版2を加振することが好ましいが、スクリーンメッシュ4が粉体9を確実に保持することができる場合は、押え板6を設置しなくてもよい。振動による粉体9の飛散が甚だしい場合は、粉体9を覆うように飛散防止板13を設置することにより粉体9の飛散を抑制することができる。
【0098】
図5に示すようにスクリーンメッシュ4をスクリーン乳剤部5の上側に配置すると、粉体9がスクリーンメッシュ4を通過しなければならないため、粉体9によっては開口部3に良好に充填することができない場合がある。その場合は、
図7に示すように、スクリーン版2を反転させて粉体9を充填すれば、殆どの種類の粉体9を良好に開口部3に充填することができるようになる。但し、このスクリーン版2を反転させる場合は、粉体9を開口部3に充填した後に、開口部3に充填された粉体9のすり切り、開口部3に充填されずに残った余剰粉の除去を行い、開口部3に充填された粉体9の上面がなるべく平坦となるようにしなければならない。
【0099】
(比較例)
図8は比較例に係る粉体膜形成方法を示す断面図である。比較例に係る粉体膜形成方法は、一般的な静電スクリーン印刷方法である。まず、直流電源8の負極、又は、グランド(アース)に接続されたスクリーン22に、粉体9を刷込体21で擦り込むことにより、粉体9をスクリーン22に接触させて帯電又はアースさせる。このようにして帯電又はアースした粉体9は、直流電源8の正極と接続された基板10上の被印刷物16に静電誘導されて付着し、粉体膜11が形成される。直流電源8の正極にスクリーン22を接続し、直流電源8の正極に基板10を接続してもよい。
【0100】
上述のような比較例では、スクリーン22と接触した粉体9の粒子は耐電又はアースされ被印刷物16に強く付着する。しかしながら、スクリーン22と接触しなかった粒子、及び、スクリーン22上で会合して塊となっていた粒子群は良好に帯電又はアースされない。この帯電又はアースされない粉体9の粒子が、刷込体21やスクリーン22と摩擦されることで摩擦帯電し、粉体9の電荷が不均一となることがある。このため、上記良好に帯電しない粒子及び粒子群が、粉体膜11の成膜精度を悪くする原因となってしまうという問題がある。
【0101】
実施形態4及び5では、スクリーン版2の開口部3に充填された粉体9を基板10に振動させて移動させることにより、基板10に粉体膜を形成する。このため、粉体9の粒子は必ずしも帯電する必要が無い。また、帯電又はアースされたスクリーンメッシュ4内の粉体9の粒子は、スクリーンメッシュ4から直接、又は、帯電またはアースされた粉体9の他の粒子を介して、帯電またはアースされる。従って、上記良好に帯電しない粒子及び粒子群による粉体膜11の成膜精度の悪化が発生しない。
【0102】
また、そのように良好に帯電しない粒子及び粒子群は、静電誘導による被印刷物16への吸引力が十分に働かない。このため、スクリーン22のメッシュ(孔)が上記粒子及び粒子群により目詰まりして粉体膜11の成膜不良を引き起こす原因となるという問題もある。
【0103】
実施形態4及び5では、スクリーン版2の開口部3に充填された粉体9を基板10に振動させて移動させることにより、基板10に粉体膜を形成する。このため、粉体9の粒子は必ずしも帯電する必要が無い。従って、スクリーン22のメッシュ(孔)の上記粒子及び粒子群による目詰まりによる粉体膜11の成膜不良が生じない。
【0104】
また、上述のような比較例では、すべての粉体粒子をスクリーン22のメッシュに接触させて良好に帯電させた状態でスクリーン22の下の被印刷物16に落とすことが理想である。しかしながら、スクリーン22のメッシュ(孔)に大量の粉体粒子を一度に供給すると、すべての粉体粒子をスクリーン22のメッシュに接触させることが困難である。従って、大量の粉体粒子を一度にスクリーン22のメッシュ(孔)に供給することができない。このため、粉体膜11の成膜に要する時間が長くなってしまうという問題もある。例えば、上述のような比較例では、100×100mm、膜厚100μmの粉体膜を形成するために約10分(約600秒)の時間を要する。
【0105】
実施形態4及び5では、スクリーン版2の開口部3に充填された粉体9を基板10に振動させて移動させることにより、基板10に粉体膜を形成するので、すべての粉体粒子をスクリーンメッシュに接触させて良好に帯電させる必要がない。従って、粉体膜11の成膜時間を短縮することができる。
【0106】
上記比較例と、実施形態4とを用いて、100×100mm、膜厚100μmを狙って成膜した結果を(表2)に示す。
【0107】
【表2】
実施形態4によれば、比較例よりも、刷込体21の摩耗などによるコンタミネーションの混入の恐れが無く、成膜時間が短く、且つ、成膜厚み、粉体重量の制御が容易なために、安定した粉体膜の成膜を短時間でτ量に行うことが可能となる。
【0108】
なお、スクリーンメッシュ4(多孔体)とスクリーン乳剤部5(被覆部)とを有するスクリーン版2を使用する例を示したが、本発明はこれに限定されない。多孔体だけで所望の膜厚が得られるのであれば、被覆部は不要となる。たとえば、金属板に対して成膜箇所のみ微細な多孔加工を施したものを用いれば、スクリーン版の乳剤部のようなものは不要である。但し、得たい膜厚が大きい場合は、スクリーンメッシュ4(多孔体)とスクリーン乳剤部5(被覆部)とを有するスクリーン版2を使用することが好ましい。
【0109】
(背景技術)の欄で上述したような特許文献2の従来技術では、スクリーン版上に供給された粉体の上をスポンジ等の擦込体が移動することにより、スクリーン版のスクリーンメッシュ及び開口部を通って粉体が基板上に塗布されて粉体膜が成膜される。このため、スクリーン版上の粉体の散布状況、及び、スクリーン版上の擦込体の移動軌跡に由来する粉体膜の成膜ムラが生じてしまう。従って、成膜の均一性が求められる技術分野において十分な膜厚精度で粉体膜を成膜することができないという問題があった。
【0110】
また、上述のような特許文献2の従来技術では、すべての粉体粒子をスクリーン版のメッシュに接触させて良好に帯電させた状態でスクリーン版の下の被印刷物に落とすことが理想である。しかしながら、スクリーン版のメッシュ(孔)に大量の粉体粒子を一度に供給すると、すべての粉体粒子をスクリーン版のメッシュに接触させることが困難である。従って、大量の粉体粒子を一度にスクリーン版のメッシュ(孔)に供給することができない。このため、粉体膜の成膜に要する時間が長くなってしまうという問題もある。
【0111】
上記問題が以下の実施形態6~8に示すように解決される。
【0112】
(実施形態6)
本実施形態に係る粉体膜形成方法は、従来の静電スクリーン印刷方法を改良し、膜厚がより均一な粉体の薄膜を短時間で成膜することができるようにしたものである。
【0113】
本実施形態は、多孔体を有するスクリーン版の下側に、解砕された粉体を供給する供給工程と、上記スクリーン版の下側に供給された粉体を上記スクリーン版の開口部に静電力を用いて充填する充填工程と、上記粉体を充填したスクリーン版の開口部から静電力を用いて粉体を基板に付着させて粉体膜を成膜する成膜工程とを包含する。
【0114】
特に、充填工程でも、上記スクリーン版の開口部に粉体を充填するために、静電力の原理を用いる。
【0115】
上記多孔体は、スクリーンメッシュ、ふるい、パンチングメタル、その他金属板に微細な孔を多数形成した部材を使用することができる。これらの部材の形状、孔を形成する場所を変更することで、任意の形状の粉体膜を成膜することができる。
【0116】
以下、実施形態6に係る粉体膜形成方法を各工程ごとに説明する。
【0117】
(供給工程)
図9は実施形態6に係る粉体膜形成方法の供給工程を示す断面図である。まず、粉体9を解砕して供給容器14に散布する。粉体9は、粉体9同士が凝集しない程度に解砕されていればよい。
【0118】
例えば、
図9に示すように、供給容器14の上側に配置されたふるい17により粉体9を解砕して供給容器14に供給する方法がある。底面が金属等の導電性を有する素材で形成された供給容器14に、粉体9をふるい17からふるい落としながら散布する。
【0119】
このとき、粉体9は、供給容器14にそれほど均一に散布される必要は無い。後述する充填工程における
図11及び
図12に示されるスクリーン版2の開口部3の容積よりも多い量の粉体9が、供給容器14の底面が露出しない程度に供給容器14の底面全体に散布されればよい。
【0120】
従って、粉体9を解砕して供給容器14に供給する方法は、ふるい17に限定されず、超音波ふるいによる供給、スプレー塗装による供給、コータフィーダによる供給、あるいはそれらの組み合わせ等、一般に考えられる供給方法を用いることができる。また、気流、遠心力を用いて粉体9を解砕してもよい。なお、供給容器14は、平板により構成してもよい。
【0121】
粉体9は、粒径D50が5μmの乾燥粉体を使用することができる。但し、本実施形態に係る粉体膜形成方法に使用する粉体9はこれに限定されるものではない。
【0122】
ふるい17は、JIS Z-8801の内径φ75、目開き500μmのふるいを使用することができる。但し、ふるい17はこれに限定されるものではない。また、解砕方法も、ふるい17による方法に限定されるものではない。粉体9に応じて適正な解砕方法を選定する必要がある。
【0123】
図10は供給工程で粉体9が散布された供給容器14を示す写真である。供給容器14として、一辺70mmの正方形状のSUS(ステンレス鋼)製の平板を用いた。このSUS製の平板上にふるい17で解砕しながら粉体9を散布した。解砕された粉体9は、それほど均一に散布される必要は無い。SUS製の平板の底面が露出しない程度の量(0.50~0.55グラム(g))の粉体9を散布すればよい。
【0124】
(充填工程)
図11は粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図である。粉体成膜装置1は、粉体9が充填される開口部3が形成されたスクリーン版2(粉体充填部材)を備える。
【0125】
図12は充填工程で使用されるスクリーン版2の構成を示す断面図である。スクリーン版2は、スクリーンメッシュ4(多孔体)とスクリーンメッシュ4の一方の面に形成されたスクリーン乳剤部5(被覆部)とを含む。開口部3は、このスクリーン乳剤部5に形成される。
【0126】
スクリーン版2は、スクリーン印刷用の一般的なステンレスメッシュを使用することができる。スクリーン版2の開口部3の形状は、一辺50mmの正方形状とすることができる。但し、開口部3の形状を変更することにより、任意形状の粉体膜11を形成することができる。
【0127】
本実施形態では、メッシュ数300/inch、線径30μm(紗厚t1=60μm)、オープニング55μmのスクリーンメッシュ4を有するスクリーン版2を用いた。本実施形態で用いたスクリーン版2は、
図12に示すように、スクリーン乳剤部5が、スクリーンメッシュ4の一方の面から他方の面に向かって他方の面からはみ出すように形成されている。以降、スクリーンメッシュ4の他方の面側を乳剤側と呼び、スクリーンメッシュ4の一方の面側をメッシュ側と呼び、スクリーンメッシュ4からはみ出しているスクリーン乳剤部5の厚さt2を乳剤厚と呼ぶ。本実施形態では、この乳剤厚t2を変えることにより、スクリーン版2の開口部3に充填できる粉体9の容積を調整し、基板10に成膜する粉体膜11(
図15)の成膜量を制御している。但し、上記粉体9の容積は、スクリーンメッシュ4の紗厚t1とスクリーンメッシュ4の目開きとの少なくとも一方を変えることにより調整することもできる。
【0128】
そして、供給工程において粉体9が散布された供給容器14をスクリーン版2の下に配置する。次に、開口部3の上面側を塞ぐ押え板6(押え部材)をスクリーン版2の上に載置する。その後、スクリーン版2に負極が接続された直流電源8(電源)の正極を供給容器14に接続する。
【0129】
そうすると、供給容器14上の粉体9が直流電源8の正極により正に帯電する。そして、正に帯電した粉体9は、直流電源8の負極により負に帯電したスクリーン版2へ静電誘導により引き寄せられ、スクリーン版2の開口部3に充填される。もちろん、直流電源8の正負を反転させてスクリーン版2に直流電源8の正極を接続し供給容器14に負極を接続してもよい。
【0130】
供給容器14からスクリーン版2に静電誘導により粉体9を引き寄せるために必要な供給容器14とスクリーン版2との間の電界強度(電位差、距離)は、粉体9の種類に応じて異なる。このため、上記電界強度(電位差、距離)は、粉体9の種類ごとに適正な値を設定するべきである。
【0131】
図13(a)は上記充填工程による充填後のスクリーン版2を乳剤側から見た写真であり、(b)はメッシュ側から見た写真である。本実施形態では、
図11に示すように、SUS板製の押え板6を置いたスクリーン版2の下に、粉体9が供給されたSUS板製の供給容器14を配置した。本実施形態では、スクリーン版2はメッシュ側を下側にし、乳剤側を上側にして配置した。スクリーン版2の乳剤厚t2=50μmとした。
【0132】
そして、スクリーン版2の乳剤側に押え板6を載置した。スクリーン版2と粉体9が供給されたSUS板製の供給容器14との間の距離は7mmとした。スクリーン版2はアースに接地した。SUS板製の供給容器14には、8kVの電圧を印加した。スクリーン版2とSUS板製の供給容器14との間の電界強度は1.14kV/mmとなる。すると、
図11及び
図13に示すように、粉体9は、上記電界強度に基づく静電力により、SUS板製の供給容器14からスクリーン版2のスクリーン乳剤部5に形成された開口部3に充填された。
【0133】
なお、充填工程において、帯電させた粉体9を、後述する実施形態7に示すように静電スプレーにより、電圧を印加された開口部3に吹き付けて、粉体9を開口部3に充填してもよい。
【0134】
また、開口部3の下面側から粉体9を開口部3に充填する例を示したが、本発明はこれに限定されない。開口部3の上面側から粉体9を開口部3に充填してもよい。
【0135】
(成膜工程)
図14は粉体膜形成方法の成膜工程における擦り込み直前の状態を示す断面図である。
図15は上記成膜工程における静電誘導による被印刷物16への粉体9の付着の状態を示す断面図である。
【0136】
図14に示すように、充填工程において粉体9が開口部3に充填されたスクリーン版2を直流電源8の負極に接続する。すると、開口部3に充填された粉体9が負に接触帯電する。そして、被印刷物16が搭載された基板10を直流電源8の正極に接続する。次に、スクリーン版2の開口部3に充填された粉体9を、スクリーン版2を移動する擦込体15により、スクリーン版2の開口部3から擦り落とす。
【0137】
そうすると、
図15に示すように、粉体9は、開口部3に充填されていたときの膜厚を維持したまま、静電誘導により開口部3から被印刷物16に移動して付着し、粉体膜11が成膜される。前述した充填工程と同様に、直流電源8の正負を反転させてスクリーン版2に直流電源8の正極を接続し供給容器14に負極を接続してもよいことはもちろんである。
【0138】
被印刷物16とスクリーン版2との間の電界強度(電位差)が大きいほど、粉体9が被印刷物16に密に付着する。このため、上記電界強度を大きくするほど粉体膜11の密度を大きくすることができる。但し、前述した充填工程と同様に、スクリーン版2から被印刷物16に静電誘導により粉体9を引き寄せるために必要な被印刷物16とスクリーン版2との間の電界強度(電位差、距離)は、粉体9の帯電性等に応じて異なる。このため、上記電界強度(電位差、距離)は、粉体9の帯電性等に応じて適正な値を設定するべきである。
【0139】
充填工程における電圧印加と成膜工程における電圧印加とは、全く同じ方法で実施することができる。いずれもスクリーン版2をアース(GND(グランド))に接地又は負電圧を印加し、基板10又は供給容器14を正電圧を印加することにより実施できる。但し、印加する電圧の値、及び、スクリーン版2と基板10又は供給容器14との間の距離は、充填工程と成膜工程とで異なる。もちろん、直流電源8の正負を反転させてスクリーン版2に直流電源8の正極を接続し供給容器14に負極を接続してもよい。
【0140】
スクリーン版2に電圧を印加することにより、スクリーン版2の開口部3に充填されて開口部3に接触している粉体9が帯電する。このため、直流電源8によりスクリーン版2と基板10との間に電位差を発生させると、粉体9の帯電現象とスクリーン版2と基板10との間の静電界の発生現象とが同時に現れることになる。
【0141】
本来、静電界がスクリーン版2と基板10との間に形成されるだけで、開口部3に充填された粉体9が静電力により基板10に吸い寄せられるはずである。しかしながら、粉体9のスクリーン版2への付着力の方が、粉体9に作用する静電力よりも大きいため、静電力だけでは、開口部3に充填された粉体9が基板10に必ずしも良好に移動しないと考えられる。そこで、スクリーン版2を移動する擦込体15でスクリーン版2の開口部3から粉体9を擦り落とすことにより、又は、スクリーン版2に振動を付与することにより、粉体9を基板10に良好に移動させることができる。
【0142】
静電力を用いずに、開口部3に充填された粉体9を落下させるだけでも基板10に粉体膜11を成膜することはできる。しかしながら、静電力を用いることにより、密に形成されて頑丈な粉体膜11を成膜することができる。また、静電力を用いることにより、開口部3に充填された粉体9を落下させるときに粉体9が拡散せず基板10に向かって真っすぐに落下する。このため、膜厚の均一な粉体膜11を成膜することができる。
【0143】
図16は上記成膜工程で被印刷物16に成膜された粉体膜11を示す写真である。粉体9が開口部3に充填されたスクリーン版2の下に一辺70mmの正方形状のSUS板からなる被印刷物16を配置した。スクリーン版2は、充填工程におけるスクリーン版2を反転させて乳剤側をメッシュ側の下にして配置した。スクリーン版2と被印刷物16のSUS板との間の距離は6mmに設定した。スクリーン版2はアース(GND(グランド))に接地した。SUS板製の被印刷物16には8kVの電圧を印加した。スクリーン版2とSUS板製の被印刷物16との間の電界強度は1.33kV/mmとなる。この状態でスクリーン版2のスクリーンメッシュ4上をスポンジからなる擦込体15で数回擦り、開口部3に充填された粉体9を被印刷物16のSUS板に移動させて
図16に示すように粉体膜11を被印刷物16に成膜した。なお、擦込体15は、スポンジではなく、ゴム、スキージ、又は、刷毛等により構成しても良い。
【0144】
上記と同様の条件で8回製膜した際の粉体9の供給量と粉体膜11の成膜量との間の関係を下記(表3)に示す。
【0145】
【表3】
(効果)
以上が本実施形態における一連の工程である。本実施形態では、スクリーン版2に形成された開口部3の容積が大きいほど、開口部3への粉体9の充填量、あるいは、開口部3に充填された粉体9に基づく粉体膜11の成膜量を多くすることができる。例えば、スクリーン版2のスクリーン乳剤部5の厚さ、スクリーンメッシュ4の目開きの大きさによって上記充填量あるいは成膜量を制御することができる。
【0146】
また、本実施形態では、被印刷物16の上に成膜した粉体膜11の上にさらに重ねて粉体膜を成膜することができる。このため、任意の回数粉体膜を成膜することにより粉体膜の成膜量を制御することもできる。
【0147】
さらに、被印刷物16の上に成膜した粉体膜11の上に異なる種類の粉体膜を成膜することもできる。このため、種類の異なる粉体膜を複数積層した薄膜を形成することができる。
【0148】
(実施形態7)
図17は実施形態7に係る粉体膜形成方法の充填工程を示す断面図である。実施形態6では、粉体9が散布された供給容器14がスクリーン版2の開口部3の下側に配置され、供給容器14に散布された粉体9を、スクリーン版2と供給容器14との間に電位差を生じさせることにより帯電させ、開口部3に前記帯電させた粉体9を充填した。しかしながら本発明はこれに限定されない。
【0149】
帯電させた粉体9を、静電スプレー17により、開口部3に吹き付けて、前記帯電させた粉体9を開口部3に充填してもよい。開口部3には電圧が印加されていてもよい。
【0150】
スクリーン版2の開口部3に対向して静電スプレー17が配置される。直流電源8の正極に静電スプレー17が接続される。直流電源8の負極にスクリーン版2が接続される。静電スプレー17には、粉体9とエアとが供給される。
【0151】
静電スプレー17に供給された粉体9は、正に帯電され、負に帯電されたスクリーン版2の開口部3に向かって、静電スプレー17からエアにより噴射される。そして、開口部3に粉体9が充填される。なお、静電スプレー17を直流電源8の負極に接続し、スクリーン版2を正極に接続してもよい。
【0152】
静電スプレー17は、スクリーン版2の開口部3の下側から粉体9を充填してもよいし、開口部3の上側から粉体9を充填してもよい。
図17では、開口部3の下側から粉体9を充填している例を示している。
【0153】
図17では、スクリーン版2と静電スプレー17とが直流電源8で接続され、充填工程時にスクリーン版2と静電スプレー17との間に電位差が生じるようになっている。しかしながら、本発明はこれに限定されない。静電スプレー17を用いた充填工程では、帯電した粉体9を物理的に、開口部3に吹き付ければよく、スクリーン版2と静電スプレー17との間に電位差を生じさせる点は必ずしも必要ではない。
【0154】
(実施形態8)
図18は実施形態8に係る粉体膜形成方法における乳剤厚と塗着量との間の関係を示すグラフである。実施形態8では、実施形態6と同様の方法で、乳剤厚t2=50μmのスクリーン版2に加えて、乳剤厚t2=10μm、30μmのスクリーン版2も使用し、これら3条件で粉体膜11を成膜した際の成膜量の違いを比較した。
【0155】
横軸はスクリーン版2の乳剤厚t2を示し、縦軸は粉体膜11の成膜量(塗着量)を示す。
図18に示される黒丸は、白丸で示される各乳剤厚のときの各成膜量の平均値を示す。この結果より、スクリーン版2の乳剤厚t2(開口部3の容積)が大きくなるにつれて、粉体膜11の成膜量(塗着量)が多くなることが分かる。
【0156】
(効果)
実施形態8によれば、スクリーン版2の乳剤厚t2を調整することにより、粉体膜11の成膜量(塗着量)を制御することができる。
【0157】
(比較例)
図19は比較例に係る粉体膜形成方法を示す断面図である。比較例に係る粉体膜形成方法は、一般的な静電スクリーン印刷方法である。
【0158】
まず、直流電源8の負極に接続されたスクリーン22に、粉体9を擦込体21で擦り込むことにより、粉体9をスクリーン22に接触させて帯電させる。このようにして帯電した粉体9は、直流電源8の正極と接続された基板10上の被印刷物16に静電誘導されて付着し、粉体膜11が形成される。もちろん、直流電源8の正極にスクリーン22を接続し、直流電源8の負極に基板10を接続してもよい。
【0159】
しかしながら、スクリーン22上の粉体9の散布状況、粉体9をスクリーン22に擦り込む擦込体21のスクリーン22上における移動の仕方によっては、スクリーン22上の特定の箇所に粉体9の滞留が生じる。そして、この粉体9の滞留量が多い箇所ほど、スクリーン22の下側に落下する粉体9の量が多くなる。従って、被印刷物16に形成される粉体膜11の膜厚にムラが生じてしまうという問題がある。
【0160】
実施形態6~8では、スクリーン版2の開口部3に充填された粉体9の平滑状態が、基板10に成膜された粉体膜11に反映される。このため、粉体9の散布状況、擦込体21の動き方に影響されずに均一な薄膜を形成することができる。
【0161】
また、比較例では、スクリーン22の開口部3に一度に大量の粉体9を供給することができないため、成膜時間が長時間化するという問題がある。
【0162】
そして、この成膜時間の長時間化に伴い擦込体21が摩耗して、擦込体21の摩耗に基づくコンタミネーションが粉体膜11に混入するという問題もある。
【0163】
実施形態6~8では、擦込体15が擦り込む対象は、スクリーン版2の開口部3に充填された粉体9であるので、擦込体15で数回スクリーン版2を擦るだけで、開口部3に充填されている粉体9を基板10に落下させることができる。従って、比較例と比べて成膜時間を大幅に短縮することができるし、擦込体21の摩耗に基づくコンタミネーション量を低減することができる。
【0164】
実施形態6~8に係る充填工程では、静電力により非接触で粉体9をスクリーン版2の開口部3に引き付けて充填している。このため、擦込体21の摩耗に基づくコンタミネーションが、開口部3に充填される粉体9に混入することがない。また、静電力による粉体9の開口部3への充填に要する時間は数秒程度と短い。このため、充填工程と成膜工程とに分けたとしても成膜時間の全体が長くなることはない。
【0165】
このように、実施形態6~8は、比較例のようにスクリーン22上に散布された粉体9をスクリーン22を通して基板10上に移動させるのではなく、スクリーン版2の開口部3の一方の面側を平滑な押え板6で塞いだ状態で、静電力を用いて粉体9を他方の面側からスクリーン版2に引き付けて開口部3に充填する。そして、押え板6を開口部3から外し、開口部3に充填された粉体9を静電力と擦込体15とにより被印刷物16上に移動させることにより、膜厚の均一な粉体膜11を成膜する。特に、粉体9をスクリーン版2の開口部3に充填するために静電力を用いている。
【0166】
【表4】
比較例に係る粉体膜形成方法により成膜した粉体膜と、実施形態7に係る粉体膜形成方法により成膜した粉体膜との成膜精度を、粉体膜面内の重量ばらつきを用いて比較した。10ton/cm
2の圧力で加圧成型した粉体膜の四隅と中央との5か所を直径10mmの打ち抜きパンチで打ち抜き、打ち抜いた5か所の粉体膜の重量を測定することにより粉体膜面内の重量ばらつきを求めた。実施形態7に係る粉体膜を成膜するために使用したスクリーン版2の乳剤厚t2は10μmであった。粉体膜を加圧成型するためには粉体膜にある程度厚みが必要である。このため、実施形態7に係る粉体膜は3層積層した粉体膜を用いた。(表4)に測定結果を示す。実施形態7により、粉体膜面内の重量ばらつきが、22.15%から2,53%と大幅に改善されることが分かった。
【0167】
静電充填方式で成膜した時の各工程に要する時間を実施形態6と比較例(従来法)とについて計測した。
【0168】
各工程の計測時間には粉体9の重量の計量、及び、供給容器14の配置といった前準備に要する時間は含まれていない。供給工程ではふるい17による散布開始から散布終了までの時間を計測し、充填工程では電圧印加開始から充填終了までの時間を計測した。成膜工程では電圧印加開始から成膜終了までの時間を計測した。下記(表5)に計測結果を示す。
【0169】
【表5】
計測の結果、比較例と比べて実施形態6によれば1回あたりの成膜に要する時間を全体で95秒から21秒に74秒短くできることが確認できた。また、実施形態6及び比較例のそれぞれの方式を用いて生産ラインを構築した際のタクトタイム、すなわち、全工程の中で最も時間のかかる工程に要する時間が、実施形態6に係る静電充填法の場合は供給工程の15秒となり、比較例の場合は成膜工程の90秒となる。そのため、タクトタイムは実施形態6によれば比較例に比べて75秒短縮できた。なお、実施形態6に係る供給工程は、ふるい17による散布以外の散布方法も適用すれば、更なるタクトタイムの短縮も可能である。
【0170】
なお、スクリーンメッシュ4(多孔体)とスクリーン乳剤部5(被覆部)とを有するスクリーン版2を使用する例を示したが、本発明はこれに限定されない。多孔体だけで所望の膜厚が得られるのであれば、被覆部は不要となる。たとえば、金属板に対して成膜箇所のみ微細な多孔加工を施したものを用いれば、スクリーン版の乳剤部のようなものは不要である。但し、得たい膜厚が大きい場合は、スクリーンメッシュ4(多孔体)とスクリーン乳剤部5(被覆部)とを有するスクリーン版2を使用することが好ましい。
【0171】
(まとめ)
以上のように実施形態に係る粉体膜形成方法は、粉体充填部材(スクリーン版2)に形成された開口部3に、粉体9を充填する充填工程と、前記粉体充填部材(スクリーン版2)と基板10との間に電位差を生じさせて、前記開口部3に充填された粉体9を前記基板10に移動させ、粉体膜11を形成する成膜工程と、を備える。
【0172】
この構成によれば、粉体充填部材の開口部に擦込体により一定の厚みで充填された粉体が、粉体充填部材と基板との間の電位差基板により移動して一定の厚みの粉体膜が成膜される。このため、良好な膜厚精度で粉体膜が形成される。
【0173】
上記粉体膜形成方法では、前記充填工程は、擦込体15の擦り込みにより、前記粉体9を充填することが好ましい。
【0174】
この構成によれば、粉体を開口部に効率よく充填することができる。
【0175】
上記粉体膜形成方法では、前記充填工程は、振動により、前記粉体9を充填することが好ましい。
【0176】
この構成によれば、簡素な構成で粉体を開口部3に充填することができる。
【0177】
上記粉体膜形成方法では、前記充填工程は、帯電させた粉体9を充填することが好ましい。
【0178】
この構成によれば、粉体を開口部に確実に充填することができる。
【0179】
上記粉体膜形成方法では、前記充填工程は、静電スプレー17の吹き付けにより、前記粉体充填部材(スクリーン版2)に、前記帯電させた粉体9を充填することが好ましい。
【0180】
この構成によれば、粉体を開口部に確実に充填することができる。
【0181】
上記粉体膜形成方法では、前記成膜工程は、前記粉体9を擦込体15の擦り込みにより、前記基板10に移動させることが好ましい。
【0182】
この構成によれば、粉体を基板に効率よく移動させることができる。
【0183】
上記粉体膜形成方法では、前記成膜工程は、前記粉体9を振動により、前記基板10に移動させることが好ましい。
【0184】
この構成によれば、簡素な構成で粉体を基板に移動させることができる。
【0185】
上記粉体膜形成方法では、前記粉体充填部材(スクリーン版2)は、多孔体(スクリーンメッシュ4)と前記多孔体(スクリーンメッシュ4)の一方の面に形成された被覆部(スクリーン乳剤部5)とを備え、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)には、前記開口部3が形成され、前記成膜工程において、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)は、前記基板10側に配置されることが好ましい。
【0186】
この構成によれば、一般的なスクリーン版により粉体充填部材を構成することができる。
【0187】
以上のように実施形態に係る粉体成膜装置1は、粉体9が充填される開口部3が形成された粉体充填部材(スクリーン版2)と、前記開口部3の一端側から擦り込みにより、前記粉体9を前記開口部3に充填する擦込体15と、前記粉体充填部材(スクリーン版2)と基板10との間に電位差を生じさせて、前記開口部3に充填された粉体9を前記基板10に移動させる電源(直流電源8)と、を備える。
【0188】
上記粉体成膜装置1では、前記粉体充填部材(スクリーン版2)を加振する加振部(加振部材7)を備えることが好ましい。
【0189】
上記粉体成膜装置1では、前記開口部3に粉体9を充填する静電スプレー17を備えることが好ましい。
【0190】
以上のように実施形態に係る粉体膜形成方法は、粉体充填部材(スクリーン版2)に形成された開口部3に粉体9を振動させて充填する充填工程と、前記開口部3に充填された粉体9を前記基板10に移動させ、粉体膜11を形成する成膜工程と、を備える。
【0191】
上記粉体膜形成方法では、前記成膜工程は、前記粉体9を擦込体15の擦り込みにより、前記基板10に移動させることが好ましい。
【0192】
上記粉体膜形成方法では、前記成膜工程は、前記粉体9を振動により、前記基板10に移動させることが好ましい。
【0193】
上記粉体膜形成方法では、前記粉体充填部材(スクリーン版2)は、多孔体(スクリーンメッシュ4)と前記多孔体(スクリーンメッシュ4)の一方の面に形成された被覆部(スクリーン乳剤部5)とを備え、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)には、前記開口部3が形成され、前記成膜工程において、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)は、前記基板10側に配置されることが好ましい。
【0194】
(まとめ-1)
以上のように実施形態1に係る粉体膜形成方法は、粉体充填部材(スクリーン版2)に形成された開口部3に、擦込体15による擦り込みにより粉体9を充填する充填工程と、前記粉体充填部材(スクリーン版2)と基板10との間に電位差を生じさせて、前記開口部3に充填された粉体9を前記基板10に移動させることにより、前記基板10に粉体膜11を形成する成膜工程とを包含する。
【0195】
この構成によれば、粉体充填部材の開口部に擦込体により一定の厚みで充填された粉体が、基板に移動して一定の厚みの粉体膜が成膜される。このため、良好な膜厚精度で粉体膜が形成される。
【0196】
上記粉体膜形成方法では、前記充填工程において、前記開口部3を塞ぐ押さえ部材(押え板6)を前記開口部3の下側に配置し、前記開口部3の上側から前記粉体9を充填した後、前記押さえ部材(押え板6)を除去し、前記成膜工程において、前記開口部3の下方に前記基板10を配置し、前記開口部3に充填された粉体9を前記開口部3の下側から前記基板10に移動させることが好ましい。
【0197】
この構成によれば、開口部を塞ぐ押さえ部材が開口部の下側に配置され、開口部の上側から粉体が充填される。押え板により開口部を塞ぐことにより、開口部に充填された粉体の表面を平滑化することができる。この結果、開口部からの粉体の基板への移動により、粉体膜をより均一に成膜することができる。
【0198】
上記粉体膜形成方法では、前記粉体充填部材(スクリーン版2)が、多孔体(スクリーンメッシュ4)と前記多孔体(スクリーンメッシュ4)の一方の面側に形成された被覆部(スクリーン乳剤部5)とを含み、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)に、前記開口部3が形成されることが好ましい。
【0199】
この構成によれば、粉体充填部材に一般的なスクリーン版を使用することができる。
【0200】
上記粉体膜形成方法では、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)が前記多孔体(スクリーンメッシュ4)の上側になるように配置された前記粉体充填部材(スクリーン版2)の被覆部(スクリーン乳剤部5)側から前記粉体9を前記開口部3に充填した後、前記粉体充填部材(スクリーン版2)を反転させ、前記開口部3に充填された前記粉体9を前記被覆部(スクリーン乳剤部5)側から前記基板10に移動させることにより、前記基板10に前記粉体膜11を形成してもよい。
【0201】
この構成によれば、成膜精度がより一層向上する。
【0202】
実施形態1に係る粉体成膜装置は、粉体9が充填される開口部3が形成された粉体充填部材(スクリーン版2)と、前記開口部3の一端側から粉体9を擦り込みにより前記開口部3に充填する擦込体15と、前記開口部3の他端側を塞ぐことができるように設けられた押さえ部材(押え板6)と、前記開口部3に充填された粉体9を基板10に移動させることにより前記基板10に粉体膜11を形成するために、前記粉体充填部材(スクリーン版2)と前記基板10との間に電位差を生じさせる電源(直流電源8)とを備える。
【0203】
(まとめ-2)
以上のように実施形態4及び5に係る粉体膜形成方法によれば、粉体充填部材(スクリーン版2)に形成された開口部3に粉体9を振動させて充填する充填工程と、前記開口部3に充填された粉体9を基板10に移動させることにより、前記基板10に粉体膜11を形成する成膜工程とを包含する。
【0204】
この構成によれば、粉体充填部材(スクリーン版2)に形成された開口部3に充填された粉体9が基板10に移動することにより、前記基板10に粉体膜11が形成される。このため、開口部3に充填された粉体9の平滑な厚み状態が成膜後の粉体膜11に反映される。従って、スクリーン22の上を刷込体21が移動することによりスクリーン22の上の粉体が開口部3を通って基板10に移動する従来構成と比較して、基板10に形成される粉体膜11の膜厚を均一な状態に近づけることができる。
【0205】
上記粉体膜形成方法では、前記成膜工程において、前記開口部3に充填された粉体9を振動させて前記基板10に移動させてもよい。
【0206】
上記構成によれば、加振部材を設けることにより、粉体9を基板10に移動させることができる。
【0207】
上記粉体膜形成方法では、前記成膜工程において、前記粉体充填部材(スクリーン版2)と前記基板10との間に電圧を印加し前記粉体9を前記基板10に移動させてもよい。
【0208】
上記構成によれば、直流電源を設けることにより、粉体9を基板10に移動させることができる。
【0209】
上記粉体膜形成方法では、前記粉体充填部材(スクリーン版2)が、多孔体(スクリーンメッシュ4)と前記多孔体(スクリーンメッシュ4)の一方の面に形成された被覆部(スクリーン乳剤部5)とを含み、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)に前記開口部3が形成されてもよい。
【0210】
上記構成によれば、一般的なスクリーン版により粉体充填部材を構成することができる。
【0211】
実施形態4に係る粉体膜形成方法では、前記充填工程において、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)が鉛直方向下側になるように配置し、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)に形成された開口部3の鉛直方向下側を塞ぐ押え部材(押え板6)を配置した状態にて、前記多孔体(スクリーンメッシュ4)を通して、前記粉体9を前記開口部3に充填してもよい。
【0212】
上記構成によれば、充填された粉体9の下面は押え板6によって平坦となり、上面はスクリーンメッシュ4によって平坦となるため、粉体9の充填量を開口部3の容積によって好適に制御することができる。
【0213】
実施形態4及び5に係る粉体膜形成方法では、前記粉体9の造粒、真球化、及び粒子径分布均一化の少なくとも一つの工程が前記充填工程の前で実施されてもよい。
【0214】
上記構成によれば、スクリーン版2の開口部3に充填する粉体9の流動性を高めることができる。
【0215】
(まとめ-3)
以上のように実施形態6~8に係る粉体膜形成方法は、粉体充填部材(スクリーン版2)に形成された開口部3に、帯電させた粉体9を充填する充填工程と、前記粉体充填部材(スクリーン版2)と基板10との間に電位差を生じさせて、前記開口部3に充填された粉体9を前記基板10に移動させることにより、前記基板10に粉体膜11を形成する成膜工程とを包含する。
【0216】
この構成によれば、前記粉体充填部材(スクリーン版2)と基板10との間の電位差に基づいて、前記開口部3に充填された粉体9が前記基板10に移動することにより、前記基板10に粉体膜11が形成される。このため、開口部3に充填された粉体9の平滑な厚み状態が成膜後の粉体膜11に反映される。従って、スクリーン22の上を擦込体21が移動することによりスクリーン22の上の粉体が開口部3を通って基板10に移動する従来構成と比較して、基板10に形成される粉体膜11の膜厚を均一な状態に近づけることができる。また、上記電位差に基づいて、開口部3に充填された粉体9が一度に基板10に移動する。従って、粉体膜の成膜時間を短縮することができる。
【0217】
上記粉体膜形成方法では、前記充填工程において、前記粉体9が散布された供給容器14が前記開口部3の下側に配置され、前記供給容器14に散布された粉体9を、前記粉体充填部材(スクリーン版2)と前記供給容器14との間に電位差を生じさせることにより帯電させ、前記開口部3に前記帯電させた粉体9を充填してもよい。
【0218】
この構成によれば、開口部3の下側から簡素な構成で粉体9を開口部3に充填することができる。
【0219】
上記粉体膜形成方法では、前記充填工程において、前記帯電させた粉体9を、静電スプレー17により、電圧を印加された前記開口部3に吹き付けて、前記帯電させた粉体9を前記開口部3に充填してもよい。
【0220】
この構成によれば、静電スプレー17という簡素な構成で粉体9を開口部3に充填することができる。
【0221】
上記粉体膜形成方法では、前記充填工程において、前記開口部3の上面側を塞ぐ押え部材(押え板6)を配置し、前記開口部3の下面側から前記粉体9を充填してもよい。
【0222】
この構成によれば、押え部材(押え板6)により、開口部3に充填された粉体9の平滑状態を確保することができる。
【0223】
上記粉体膜形成方法では、前記粉体充填部材(スクリーン版2)が、多孔体(スクリーンメッシュ4)と前記多孔体(スクリーンメッシュ4)の一方の面に形成された被覆部(スクリーン乳剤部5)とを含み、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)に、前記開口部3が形成されてもよい。
【0224】
この構成によれば、スクリーン印刷用の一般的なステンレスメッシュにより粉体充填部材を構成することができる。
【0225】
上記粉体膜形成方法では、前記充填工程において、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)が鉛直方向上側になるように配置し、前記被覆部(スクリーン乳剤部5)に形成された開口部3の上面側を塞ぐ押え部材(押え板6)を配置して、前記多孔体(スクリーンメッシュ4)を通して前記開口部3の下面側から前記粉体9を充填し、前記成膜工程において、前記充填工程で粉体9が充填された多孔体(スクリーンメッシュ4)を反転させて前記基板10に前記粉体膜11を形成してもよい。
【0226】
この構成によれば、簡素な構成で、開口部3に充填された粉体9の平滑状態を押え部材(押え板6)により確保することができる。
【0227】
上記粉体膜形成方法では、前記成膜工程において、前記粉体充填部材(スクリーン版2)の前記基板10と反対側からの擦込体15による前記開口部3への擦り込み、または前記開口部3への振動付与によって、前記粉体9を前記基板10に移動させてもよい。
【0228】
この構成によれば、開口部3に充填された粉体9の平滑な厚み状態が成膜後の粉体膜11により忠実に反映される。
【0229】
実施形態6~8に係る粉体成膜装置は、帯電させた粉体9が充填される開口部3が形成された粉体充填部材(スクリーン版2)と、前記開口部3に充填された粉体9を基板10に移動させることにより前記基板10に粉体膜11を形成するために、前記粉体充填部材(スクリーン版2)と前記基板10との間に電位差を生じさせる電源(直流電源8)とを備える。
【0230】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粉体膜形成方法は、粉体充填部材に形成された開口部に、擦込体による擦り込みにより粉体を充填する充填工程と、前記粉体充填部材と基板との間に電位差を生じさせて、前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させることにより、前記基板に粉体膜を形成する成膜工程とを包含することを特徴とする。
【0231】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粉体成膜装置は、粉体が充填される開口部が形成された粉体充填部材と、前記開口部の一端側から粉体を擦り込みにより前記開口部に充填する擦込体と、前記開口部の他端側を塞ぐことができるように設けられた押さえ部材と、前記開口部に充填された粉体を基板に移動させることにより前記基板に粉体膜を形成するために、前記粉体充填部材と前記基板との間に電位差を生じさせる電源とを備えたことを特徴とする。
【0232】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粉体膜形成方法は、粉体充填部材に形成された開口部に粉体を振動させて充填する充填工程と、前記開口部に充填された粉体を基板に移動させることにより、前記基板に粉体膜を形成する成膜工程とを包含することを特徴とする。
【0233】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粉体成膜装置は、粉体が充填される開口部が形成された粉体充填部材と、前記開口部に前記粉体を充填するために前記粉体充填部材を加振する加振部材と、前記粉体充填部材と基板との間に電圧を印加して、前記粉体を前記基板に移動させる直流電源とを備えたことを特徴とする。
【0234】
上記の課題を解決するために、本発明の一様に係る粉体膜形成方法は、粉体充填部材に形成された開口部に、帯電させた粉体を充填する充填工程と、前記粉体充填部材と基板との間に電位差を生じさせて、前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させることにより、前記基板に粉体膜を形成する成膜工程とを包含することを特徴とする。
【0235】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粉体成膜装置は、帯電された粉体が充填される開口部が形成された粉体充填部材と、前記開口部に充填された粉体を基板に移動させることにより前記基板に粉体膜を形成するために、前記粉体充填部材と前記基板との間に電位差を生じさせる電源とを備えたことを特徴とする。
【0236】
本発明の態様は、被印刷物に形成される粉体膜の膜厚を均一な状態に近づけることができる粉体膜形成方法及び粉体成膜装置を実現することを目的とする。
【0237】
本発明の態様は、被印刷物に形成される粉体膜の膜厚を均一な状態に近づけることができるとともに、粉体膜の成膜時間を短縮することができる粉体膜形成方法及び粉体成膜装置を実現することを目的とする。
【0238】
本発明の態様によれば、被印刷物に形成される粉体膜の膜厚を均一な状態に近づけることができるという効果を奏する。
【0239】
本発明の態様によれば、被印刷物に形成される粉体膜の膜厚を均一な状態に近づけることができるとともに、粉体膜の成膜時間を短縮することができるという効果を奏する。
〔本発明の他の側面〕
[側面1]
粉体充填部材に形成された開口部に、粉体を充填する充填工程と、
前記粉体充填部材と基板との間に電位差を生じさせて、前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させ、粉体膜を形成する成膜工程と、を備える粉体膜形成方法。
[側面2]
前記充填工程は、擦込体の擦り込みにより、前記粉体を充填する側面1に記載の粉体膜形成方法。
[側面3]
前記充填工程は、振動により、前記粉体を充填する側面1に記載の粉体膜形成方法。
[側面4]
前記充填工程は、帯電させた粉体を充填する側面1に記載の粉体膜形成方法。
[側面5]
前記充填工程は、静電スプレーの吹き付けにより、前記粉体充填部材に、前記帯電させた粉体を充填する側面4に記載の粉体膜形成方法。
[側面6]
前記成膜工程は、前記粉体を擦込体の擦り込みにより、前記基板に移動させる側面1に記載の粉体膜形成方法。
[側面7]
前記成膜工程は、前記粉体を振動により、前記基板に移動させる側面1に記載の粉体膜形成方法。
[側面8]
前記粉体充填部材は、多孔体と前記多孔体の一方の面に形成された被覆部とを備え、
前記被覆部には、前記開口部が形成され、
前記成膜工程において、前記被覆部は、前記基板側に配置される側面1に記載の粉体膜形成方法。
[側面9]
粉体が充填される開口部が形成された粉体充填部材と、
前記開口部の一端側から擦り込みにより、前記粉体を前記開口部に充填する擦込体と、
前記粉体充填部材と基板との間に電位差を生じさせて、前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させる電源と、を備える粉体成膜装置。
[側面10]
前記粉体充填部材を加振する加振部を備える側面9に記載の粉体成膜装置。
[側面11]
前記開口部に粉体を充填する静電スプレーを備える側面9又は10に記載の粉体成膜装置。
[側面12]
粉体充填部材に形成された開口部に粉体を振動させて充填する充填工程と、
前記開口部に充填された粉体を前記基板に移動させ、粉体膜を形成する成膜工程と、を備える粉体膜形成方法。
[側面13]
前記成膜工程は、前記粉体を擦込体の擦り込みにより、前記基板に移動させる側面12に記載の粉体膜形成方法。
[側面14]
前記成膜工程は、前記粉体を振動により、前記基板に移動させる側面12に記載の粉体膜形成方法。
[側面15]
前記粉体充填部材は、多孔体と前記多孔体の一方の面に形成された被覆部とを備え、
前記被覆部には、前記開口部が形成され、
前記成膜工程において、前記被覆部は、前記基板側に配置される側面12に記載の粉体膜形成方法。
【符号の説明】
【0240】
1 粉体成膜装置
2 スクリーン版(粉体充填部材)
3 開口部
4 スクリーンメッシュ(多孔体)
5 スクリーン乳剤部(被覆部)
6 押え板(押え部材)
7 加振部材(加振部)
8 直流電源(電源)
9 粉体
10 基板
11 粉体膜
15 擦込体
16 被印刷物
17 静電スプレー