(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-01
(45)【発行日】2022-12-09
(54)【発明の名称】ドーム状部材網の構築に使用する中空鉛直体
(51)【国際特許分類】
E04B 1/32 20060101AFI20221202BHJP
E04B 7/08 20060101ALI20221202BHJP
【FI】
E04B1/32 102H
E04B7/08
(21)【出願番号】P 2022131483
(22)【出願日】2022-08-22
【審査請求日】2022-08-26
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516047061
【氏名又は名称】犬飼 八重子
(74)【代理人】
【識別番号】715009178
【氏名又は名称】犬飼 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 晴雄
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特許第6623331(JP,B1)
【文献】特許第6063086(JP,B1)
【文献】登録実用新案第3146988(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/32,1/35
E04B 7/08
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線部材を用いて、骨組み構造のドーム状部材網を構築するための
構築方法であって、
構築するドーム状部材網の中心の高さにほぼ等しい高さの本設の中空鉛直体を、構築するドームの中心位置に設けた下部工に据え付け、該中空鉛直体の頂部に円形状の円形固定板を配置し、該円形固定板に、ドーム状部材網を構成する複数の直線部材の内側端部を固定し、該直線部材の中間部を1台又は複数台の鉛直支持台の保持材で支持し、外部に張出し非着地の複数の該直線部材の外側端部を、包囲方向には滑動が自由で、半径方向には移動できない包囲ワイヤによって係止することによって、凸状部材網が構築され、該凸状部材網を形成している該直線部材の外側端部に内向きの水平力を作用させる縮径を行い、該直線部材の外側端部をドーム状部材網の環状支承に引寄せ固定することによって、ドーム状部材網が構築され、
構築された前記ドーム状部材網の中間部の内周の幅止め鋼と、前記中空鉛直体の中間部の外周の張出し部の支持により穴あき円形状の中間フロアを構築することを特徴とするドーム状部材網の構築方法。
【請求項2】
基礎面の床フロアと、その上方の前記中間フロアとの昇降用として、前記中空鉛直体の内部又はその外周に昇降施設を設けることを特徴とする
請求項1記載のドーム状部材網の構築方法。
【請求項3】
前記中空鉛直体の断面は、円形または矩形であることを特徴とする請求項1又は2記載のドーム状部材網の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直線部材を強制変形させてドーム状部材網を構築する特許文献3及び特許文献4に関する構築方法に対して、新たな構築方法を提案し、更に構築したドーム状部材網に対して、その中間にドーム状部材網を外周とする複数の穴あき円の形状をした中間フロアを構築する方法を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
ドーム又はドーム状構造体を構築する場合、現場で仮設足場、支保工、形枠を組みコンクリートを打設して構築する方法や、工期短縮、高所作業の軽減等をはかるため、事前に工場等で製作した各種部材を建設現場に運搬し、建設現場に仮設足場、支保工を組み、クレーン等により各種部材を持上げ、それらを接続・結合して構築する方法等が実施されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
このような従来の方法は、構築するドーム形状に合わせたコンクリート打設用形枠や、組み立て部材を製造・加工することが不可欠であるが、特許文献3及び特許文献4の方法はそれらとは全く異にして、直線状部材を現場でアーチ状に強制変形させてドーム状部材網を構築することにより、仮設足場、支保工、クレーン等の重機の使用や高所作業を大幅に減少させるものであるが、ドーム状部材網の構築に関して、その構築が複雑なため建設費の上昇を招くことが危惧され、建設費の低減を図ることが必要とされている。
【0004】
ドーム状構造体では、中心部になるほど下側面と上側面の間隔、即ち上方空間が大きくなることが特徴であり、野球場等はその大きな上方空間の特徴を有効に利用している例である。反面、高い上方空間が不必要な、望ましくない場合もある。このような場合の上方空間の有効利用の方法が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-06200
【文献】特開平10-06101
【文献】特許第6063086号公報
【文献】特許第6623331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は特許文献3と特許文献4によるドーム状部材網の構築に関して、ドームの構築をより簡略化して施工性と経済性の向上を図ることと、ドーム状構造体の上方空間を有効に利用する方法を提示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ドーム状部材網の構築に際して、本願発明の本設の中空鉛直体を使用することにより、経済性と上方空間の有効利用についての課題を解決するものである。
【0008】
ドーム状部材網は、特許文献3では、最初に、基礎工1上に直線部材2を放射状に配置し、直線部材2の外側端部の相互を包囲ワイヤ4で係止して平面部材網を形成し(
図1-丸1の破線参照)、この平面部材網の中間部を下部工7に設置した仮設の鉛直支持台6で高くして凸状部材網を構築し(
図1-丸2のI点鎖線参照)、次にこの凸状部材網を縮径して、直線部材の端部を環状支承5に固定して、スパンL、ライズfのドーム状部材網を構築する(
図1-丸3の実線参照)、という過程により構築される。
【0009】
ここで、ドーム状部材網を構築するために使用される直線部材2は、構築するドーム状部材網の弧長S0の半分の長さ、S0/2である。この直線部材2の内側端部を円形固定板3に水平状に固定することで、構造上、長さS0の1本の部材と見なされる。
【0010】
使用する直線部材2は、
図2に示す高さh、横幅bで横方向の座屈を防ぐために、断面の弱軸2bを拡幅した十字断面である。使用される十字断面の強軸2aには、強度の高い鋼材が使用されるが、弱軸2bは剛性を大きくするためであり、通常、強度的には強軸2aの強度以下のものが使用される。
【0011】
本願のドーム状部材網の構築は、前記特許文献3の工程とは異なり、
図1―丸1の破線の平面部材網の形成過程を経ず、
図1-丸2の1点鎖線の凸状部材網の構築から開始される。
【0012】
ドーム状部材網の構成要素となる本設の中空鉛直体8を下部工9に据え付けることから開始される(
図3参照)。中空鉛直体8の高さは、ドーム状部材網のライズfに相当し(
図5(a)参照)、その断面は円形又は矩形(
図5(b)参照)で、その大きさは円形固定板3の直径Δ(
図4参照)に相当するものになる。
【0013】
中空鉛直体8の頂部に円形状の円形固定板3(
図4参照)を配置し、この円形固定板3に、ドーム状部材網を構成する複数の直線部材2の内側端部を固定し、その直線部材2の中間部を1台又は複数台の仮設の鉛直支持台6の保持材6eで支持し、外部に張出し非着地の複数の直線部材2の外側端部を、包囲方向には滑動が自由で、半径方向には移動できない包囲ワイヤ4によって係止する。こうして凸状部材網が構築される(
図3-丸2の1点鎖線参照)。
【0014】
仮設の鉛直支持台6は、
図7に示すように、2枚の並列板6aと下部の底板6b、上部の幅止め具6c及び並列板6の直立保持のための斜材6d、から構成されている。直線部材2は、並列板6aのU形を貫通し、保持材6eに支持され、上方への移動、即ち半径方向の移動は自由であるが、横方向への移動は拘束されるため、縮径中の直線部材2の横座屈が防止される。
【0015】
内側端部と中間部の横方向の移動が拘束されている直線部材2を縮径する。縮径は直線部材2の端部に水平力ΣHを作用させて、直線部材2の端部を環状支承5に引き寄せることで行われ(
図3-丸2の1点鎖線参照)、縮径により直線部材2は鉛直支持台6の保持材6eから離れアーチ形状になり環状支承5に固定され、複数の直線部材2によるドーム状部材網が構築される(
図3-丸3の実線参照)。
【0016】
一見、本願のドーム状部材網の構築方法は、「特許文献4」と類似しているが、大きな違いがある。それは「特許文献4」では、ドームの中心部に中央支持台を設けることを提示しているが、「特許文献4」の中央支持台は仮設である。一方、本願の中空鉛直体8は仮設ではなく、ドーム状部材網の構成体で、本設である。
【0017】
縮径の方法として、前記包囲ワイヤ4を引締める方法と、直線部材2の外側端部を環状支承5に引寄せる方法がある。
【0018】
直線部材2の非着地の端部は水平力ΣH=Hrの縮径により環状支承5に引寄せられる。Hrは直線部材2をアーチ状に変形させるための強制水平力である。縮径により、直線部材2の中間部が鉛直支持台6の保持材6eから離れ、端部が環状支承5に固定される(
図3-丸3の実線参照)。
【0019】
直線部材2の端部が環状支承5に着地すると、アーチの自重による水平力Hgが発生し、縮径力ΣHは、ΣH=Hr+Hgと急増する。急増した水平力ΣHは環状支承5により支持される。
【0020】
前記環状支承5は、ドーム状部材網による水平力ΣH=Hr+Hgだけでなく、後施工のドーム状構造体によって発生する水平力も合わせて負担できることが必要であり、主としてプレストレストコンクリート(PC)構造が採用される。
【0021】
通常、ドームは、主として、上方空間を必要とする競技場、野球場等に利用される。上方空間を必要としない場合、ライズを小さくした偏平型のドームが検討されるが、実際は、上方空間を必要としない場合のドームの利用例は極めて少ない。
【0022】
上方空間を有効に利用できれば、ドームの需要は大きくなると予測される。
本願の中間フロア11(
図6(a)参照)は上方空間の有効利用の1例であり、大きな解決策の一つである。本願の中空鉛直体8を設けることにより、中間フロア11の構築が簡単になり、広範囲でのドームの利用が進むと考えられる。
【0023】
中空鉛直体8が無い場合には、中間フロア11はドームの内径を直径とする円構造になり、中間フロア11には大きな耐力が要求される。本願では、ドームの中心に中空鉛直体8を設けるため、中間フロア11は穴あき円構造になり、中間フロア11に必要な耐力は、中空鉛直体8が無い場合に対し極めて小さくなる。このように中空鉛直体8によって、中間フロア11に必要な構造強度が小さくて済むため、中間フロア11の施工性と経済性に対して、中空鉛直体は極めて有効に作用する。
【0024】
図6(a)は、中間フロアが1層の場合を示しているが、
図6(b)のように複数層を有するドームを構築することも可能である。
【0025】
以上のように、ドーム状部材網の構築に関する施工性及び経済性の向上と、ドームの上方空間の有効利用という2つの課題が、ドームの中心位置に中空鉛直体8を設けることにより解決される。
【0026】
中間フロア11は以下のようにして構築される(
図8参照)。
前記ドーム状部材網の直線部材2の中間部は幅止め鋼21によって相互が接続、固定される。このドーム内周の幅止め鋼21と中空鉛直体8の外周の張出し部81を複数の支持梁111で連結し(
図8のA-A断面参照)、支持梁111の上に複数の扇状スラブ112を敷設結合することにより(
図8のB-B断面参照)、穴あき円形状の中間フロア11が構築される。中間フロア11の使用目的に適合した強度を有する支持梁111と扇状スラブ112が選択される。
【0027】
中間フロア11の構造は、前記のような支持梁111を使用せず、直接、扇状スラブ112によって幅止め鋼21と中空鉛直体8の張出し部81を一体化することも行われる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】従来の着地式ドーム状部材網の構築過程の説明図である。
【
図3】中空鉛直体を設けたドーム状部材網の説明図である。
【
図6】中間フロアを設けたドーム状部材網の説明図である。
【
図9】中空鉛直体を有するドーム状部材網の平面図と断面図である。
【
図10】中空鉛直体と中間フロアを有する実施例の説明図である。
【
図11】中空鉛直体と中間フロアを有する実施例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施例1)中空鉛直体8を設けたドーム状部材網の構築について、
図9と
図10を用いて説明する。構築するドーム状部材網は、中規模なドーム状部材網を想定する。
【0030】
中空鉛直体8を設けたドーム状部材網では、
図9(a)で示すように、構築に必要な16本全部の直線部材2を等間隔に配置し、凸状部材網を構成する。
図1のような従来の方法(特許文献4)では、通常、各8本の直線部材2を1次と2次の施工に分けて使用するため、平面部材網は8本の直線部材2により構成される。中空鉛直体8を設けたドーム状部材網では、直線部材2の16本の配置が一回で済むというメリットがある。
【0031】
基礎工1上に、中空鉛直体8の下部工9、鉛直支持台6の下部工7、ドーム状部材網の環状支承5のコンクリートを打設する。コンクリートの養生後、上記下部工にそれぞれ中空鉛直体8、鉛直支持台6を固定する。
中空鉛直体8は、コンクリート造もあるが、工期の短縮を図るため、所要の高さfまで、径Δの鋼管を継ぎ重ねて構築する。構築した中空鉛直体8の頂部には円板固定板3を設置する。
【0032】
図2に示す十字形断面の長さS0/2の16本の直線部材2の中間部を仮設の鉛直支持台6の二股内に通し、所定高さ位置に設けた保持材6eで支持し、鉛直支持台6から内部に張出した直線部材2の内側端部を、クレーン等で持上げ、固定板3aとボルト3b、ナット3cを用いて円形固定板3に固定する(
図4参照)。
【0033】
鉛直支持台6から外部に張出し基礎工1から浮いている直線部材2の端部を包囲ワイヤ4で連結し、凸状部材網が構築される(
図9(b)の実線参照)。
【0034】
凸状部材網の直線部材2の端部に水平力ΣHを作用させる縮径により、直線部材2は鉛直支持台6の保持材6eから離れ、アーチ状になり、直線部材2の端部を環状支承5まで縮径すると、ライズがfに達し、直線部材2の端部を環状支承5に固定することによりドーム状部材網が構築され(
図9(b)の破線参照)、構築後、仮設の鉛直支持台6は撤去される。
【0035】
構築したドーム状部材網を基本構造として利用して、各種のドームの構造体、例えば、薄層ドーム、鋼構造またはコンクリート構造等が構築される。環状支承5はドーム状部材網を利用して構築する後構造のよって発生する水平力に耐えるようにその構造が決定される。通常、PC構造又はRC構造によるコンクリート工事が選択される。
【0036】
図10は中間フロア11を設けたドーム状部材網の説明図である。
図10(a)の平面図は、1階の床フロア10と中間フロア11の複数の扇状スラブ112を示したものである。中間フロア11によってドームの総床面積が大きくなり中間フロア11の有効性が認識される。同時に、中間フロア11はドームの高さ空間の極めて有効な利用方法といえる。
【0037】
中空鉛直体8の内部又はその外周に、中間フロア11への階段や自動昇降装置等の昇降施設12が設けられる(
図10(b)参照)。
【0038】
図11は中空鉛直体8と中間フロア11を有するドーム状部材網の一例の斜視図である。中間フロア11により印象的なドーム状部材網を実現することが出来る。
【符号の説明】
【0039】
1:基礎工
2:直線部材
2a:断面の強軸
2b:断面の弱軸
21:直線部材の幅止め鋼
3:円形固定板
3a:固定板
3b:ボルト
3c:ナット
4:包囲ワイヤ
5:環状支承
6:仮設の鉛直支持台
6a:並列板
6b:底板
6c:幅止め具
6d:斜材
6e:保持材
7:鉛直支持台の下部工
8:本設の中空鉛直体
81:中空鉛直体の外周の張出し部
9:中空鉛直体の下部工
10:床フロア
11:中間フロア
111:支持梁
112:扇状スラブ
12:昇降施設
L:ドーム状部材網のスパン
S0:ドーム状部材網の弧長
f:ドーム状部材網のライズ
h:直線部材の高さ
b:直線部材の横幅
Δ:円形固定板の直径
丸1:平面部材網
丸2:凸状部材網
丸3:ドーム状部材網
【要約】
【課題】
本発明は特許文献3と特許文献4によるドーム状部材網の構築に関して、ドームの構築をより簡略化して施工性と経済性の向上を図ることと、ドームの高さ空間を有効に利用すること、を課題とする。
【解決手段】
本発明は、ドームの中心位置に中空鉛直体8を設けることにより2つの課題を解決した。1つは中空鉛直体8により、施工性と経済性に優れたドーム状部材網を構築することが可能になり、次の1つは中空鉛直体8により、中間フロア11の経済的な構築が容易になり、ドームの高さ空間を有効に利用することを可能にした。
【選択図】
図6