(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】筒型リニアモータおよび円環状磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20221205BHJP
【FI】
H02K41/03 A
(21)【出願番号】P 2018079349
(22)【出願日】2018-04-17
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】袴田 眞一郎
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-347142(JP,A)
【文献】特開平09-131006(JP,A)
【文献】特開2013-210048(JP,A)
【文献】特開2016-225408(JP,A)
【文献】特開2013-251992(JP,A)
【文献】特開2002-291220(JP,A)
【文献】特開昭63-182808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のバックヨークと、
円筒状であって前記バックヨーク内に挿入されて前記バックヨークとの間に環状隙間を形成する単一のインナーチューブと、
筒状のコアと前記コアの外周に設けられたスロットに装着される巻線とを有して、前記インナーチューブの内方に挿入される電機子と、
筒状であって軸方向にN極とS極とが交互に配置されるように軸方向に並べて積層される円環状磁石を複数有して前記環状隙間内に挿入される界磁とを備え、
前記バックヨークと前記インナーチューブの一端はキャップにより閉塞されており、
前記バックヨークと前記インナーチューブの他端はヘッドキャップによって閉塞されており、
前記円環状磁石は、複数の円弧状の磁石ピースを接合して円環状とされており、
各磁石ピースは、内周と外周とで異なる磁極が現れて着磁方向が内側または外側の磁極パターンを有してパラレル配向で着磁されており、
各磁石ピース上の任意点とその磁石ピースの内外周の曲率中心とを結ぶ仮想線と、前記任意点における磁気配向方向とのなす角度を25度以下とした
ことを特徴とする筒型リニアモータ。
【請求項2】
パラレル配向で着磁される母材を円弧状に加工して磁石ピースを製造する加工ステップと、
前記加工ステップで得られた複数の磁石ピースを接合して円環状磁石を製造する接合ステップとを備え、
前記加工ステップでは、磁石ピースの任意点とその磁石ピースの内外周の曲率中心とを結ぶ仮想線と前記任意点における磁気配向方向とのなす角度を25度以下となるように磁石ピースを製造する
ことを特徴とする円環状磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型リニアモータおよび円環状磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円環状磁石には、ラジアル配向に着磁されるものがある。このような円環状磁石を製造するには、たとえば、以下の製造方法が提案されている。まず、四角柱状であって平面視で対角方向を配向方向として着磁される異方性磁石を四つ作成する。つづいて、作成された四つの異方性磁石を仮想軸の周囲に、仮想軸に向かう方向に磁気配向されたものと仮想軸から離れる方向に磁気配向されたものを交互に並べて接着して組合せ磁石体を作成する。そして、得られた組合せ磁石体を切削して、仮想軸を中心とする円環状に成形して円環状磁石を製造する(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このようにして得られた円環状磁石は、円弧状の四つの異方性磁石で構成されており、異方性磁石はパラレル配向で着磁されているものの、円環状磁石全体で見ると疑似的にラジアル配向で着磁された磁石として機能するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようにして得られた円環状磁石は、前述した通り、疑似的にラジアル配向の磁石として機能できるが、各異方性磁石の磁気配向方向は円環状磁石の中心を向いていない。
【0006】
よって、従来の円環状磁石の内周側の磁界強度は、全ての磁気配向方向が中心に向かうラジアル配向着磁された円環状磁石に比較するとどうしても小さくなるので、筒型リニアモータの界磁に従来の円環状磁石を利用する場合、推力面でロスが有る。
【0007】
そこで、本発明は、ラジアル配向着磁された円環状磁石に比較しても遜色のない磁界強度を発生可能な円環状磁石の製造方法の提供を目的とし、また、推力を向上できる筒型リニアモータの提供を他の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の筒型リニアモータは、円筒状のバックヨークと、円筒状であって前記バックヨーク内に挿入されて前記バックヨークとの間に環状隙間を形成する単一のインナーチューブと、筒状のコアと前記コアの外周に設けられたスロットに装着される巻線とを有して、前記インナーチューブの内方に挿入される電機子と、筒状であって軸方向にN極とS極とが交互に配置されるように軸方向に並べて積層される円環状磁石を複数有して前記環状隙間内に挿入される界磁とを備え、前記バックヨークと前記インナーチューブの一端はキャップにより閉塞されており、前記バックヨークと前記インナーチューブの他端はヘッドキャップによって閉塞されており、前記円環状磁石は、複数の円弧状の磁石ピースを接合して円環状とされており、各磁石ピースは、内周と外周とで異なる磁極が現れて着磁方向が内側または外側の磁極パターンを有してパラレル配向で着磁されており、各磁石ピース上の任意点とその磁石ピースの内外周の曲率中心とを結ぶ仮想線と、前記任意点における磁気配向方向とのなす角度を25度以下としている。このように構成された筒型リニアモータでは、内周側への磁気強度が確保される円環状磁石を利用しているので推力を向上できる。
【0011】
また、円環状磁石の製造方法は、パラレル配向で着磁される母材を円弧状に加工して磁石ピースを製造する加工ステップと、加工ステップで得られた複数の磁石ピースを接合して円環状磁石を製造する接合ステップとを備え、加工ステップでは、磁石ピースの任意点とその磁石ピースの内外周の曲率中心とを結ぶ仮想線と任意点における磁気配向方向とのなす角度を25度以下となるように磁石ピースを製造する。このような構成の円環状磁石の製造方法によれば、内周側への界磁強度を確保できる円環状磁石を製造できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の筒型リニアモータによれば、ラジアル配向着磁された円環状磁石に比較しても遜色のない磁界強度を発生可能な円環状磁石を利用しているので、推力を向上できる。さらに、円環状磁石の製造方法によれば、ラジアル配向着磁された円環状磁石に比較しても遜色のない磁界強度を発生可能な円環状磁石を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施の形態における円環状磁石の平面図である。
【
図2】母材から磁石ピースを得る加工ステップを説明する図である。
【
図3】一実施の形態における筒型リニアモータの縦断面図である。
【
図4】主磁極の永久磁石の軸方向長さL1で副磁極の永久磁石の軸方向長さL2を割った値と筒型リニアモータの推力との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における円環状磁石CMは、
図1に示すように、複数の円弧状の磁石ピースMPを接合して円環状に形成されている。本実施の形態では、八個の円弧状の磁石ピースMPの円環状に組み合わせて各磁石ピースMPの周方向両端同士を接着剤で接着してこれらを接合して一体化して円環状磁石CMとしている。換言すれば、円環状磁石CMは、円環を周方向に等間隔で分割した形状の磁石ピースMPで構成されている。なお、
図1中で▲印は、着磁の方向を示している。また、
図1では、着磁方向が径方向内側に向かうもののみを示しているが、着磁方向が径方向外側に向かうものとしても構わない。
【0015】
各磁石ピースMPは、
図2に示すように、パラレル配向で着磁されており、内周と外周とで異なる磁極が現れる磁極パターンであって、着磁方向が内側の着磁パターンで着磁されている。この場合、円環状磁石CMは、内周側にN極とS極の一方が現れるとともに、外周側にN極とS極の他方が現れる磁極パターンを有している。各磁石ピースMPがパラレル配向で着磁されているものの、複数の磁石ピースMPの磁気配向方向を円環状磁石CMの中心を向くように接合しているので、円環状磁石CMは、疑似的なラジアル配向の磁石として機能できる。
【0016】
そして、この磁石ピースMPを軸方向(
図1の
紙面を貫く方向)から見て、磁石ピースMPの任意点Qと磁石ピースMPの内外周に曲率中心Oとを結ぶ仮想線Xと任意点Qにおける磁気配向方向Gとでなす角度αを25度以下としている。このように、磁石ピースMPを軸方向に見ると、磁石ピースMP上のどの点を見ても仮想線Xと磁気配向方向Gとでなす角度αは必ず25度以下となるように、磁石ピースMPの内外径の曲率と周方向長さと、磁気配向方向Gが設定されている。
【0017】
なお、円環状磁石CMは、磁石ピースMPを接合して構成されているので、軸方向に見て、磁石ピースMPの内外周の曲率中心Oは、寸法誤差や加工誤差を無視すれば円環状磁石CMの中心と同じ点となる。
【0018】
ここで、発明者らは、パラレル配向の円弧状の磁石ピースMPで円環状磁石CMを構成する場合、磁石ピースMPの周方向の両端へ向かうほど磁気配向方向Gと仮想線Xとでなす角度αが大きくなり両端側の磁気強度が低くなるが、この角度を25度以下にすれば円環状磁石CMの磁気強度の低下を小さく抑えられるとの知見を得た。そして、後述する筒型リニアモータ1の界磁に利用する場合、磁石ピースMPの磁気配向方向Gと仮想線Xとでなす角度αを25度以下にした円環状磁石CMを利用しても、円環状磁石CMの内径条件の最適化により完全なラジアル配向の円環状磁石を利用した場合に比較して推力低下を5%以下に抑えられるとの知見も得られた。
【0019】
よって、本実施の形態では、前述したとおり、円環状磁石CMをパラレル配向で着磁された複数の円弧状の磁石ピースMPで構成し、軸方向から見て、各磁石ピースMP上の任意点Qとその磁石ピースMPの内外周の曲率中心Oとを結ぶ仮想線Xと、任意点Qにおける磁気配向方向Gとのなす角度αを25度以下に設定しているのである。
【0020】
このような円環状磁石CMを製造するには、まず、
図2に示すように、直方体を母材Bとして、この母材Bに短手方向を磁気配向方向としてパラレル配向に着磁する。
図2中で一点鎖線で示した矢印は、磁気配向方向を示している。母材Bは、たとえば、磁石に適する原料を焼結や鋳造によって直方体に成形して得られる。パラレル配向で着磁された母材Bは、切削等によって
図2中破線で示す磁石ピースMPとして必要な部分以外を切り取って円弧状に加工され、磁石ピースMPが作成される(加工ステップ)。
【0021】
母材Bから磁石ピースMPを作成する加工ステップにおいて、母材Bの任意の
点から磁気配向方向へ延長した線上に、得ようとする磁石ピースMPの内外周の曲率中心Oが配置されるように内周と外周を形作る切削加工を施す。このように切削加工を施すと、出来上がった磁石ピースMPの中央における磁気配向方向は円環状磁石CMの中心に向かう方向となるため、磁気強度の面で有利となる。このように、本実施の形態では、磁石ピースMPの中央と円環状磁石CMの中心に一致する磁石ピースMPの曲率中心Oとを結ぶ線(
図2中二点鎖線)と磁石ピースMPの周方向の中央の磁気配向方向とを一致させている。
【0022】
また、このように磁石ピースMPの周方向の中央と円環状磁石CMの中心とを結ぶ線と磁石ピースMPの中央の磁気配向方向とを一致させる場合、磁石ピースMPの中心角βを50度以下に設定すればよい。そうすると、磁石ピースMPの周方向の両端へ向かうほど、磁気配向方向Gと仮想線Xとでなす角度αが大きくなるが、両端においても前記角度は25度以下となる。
【0023】
磁石ピースMPをこのように作成する場合、磁石ピースMPの中心角βを50度以下に設定すればよいので、磁石ピースMPで円環状磁石CMを作成するには、360度÷50度=7.2なので、最小で八個の磁石ピースMPが必要となる。磁石ピースMPの数を増やせば増やすほど、磁石ピースMPの両端における磁気配向方向Gと仮想線Xとでなす角度αが小さくなる。この角度が小さくなればなるほど、磁石ピースMPの磁気配向方向と円環状磁石CMの中心とがずれる距離が小さくなるので、円環状磁石CMは、ラジアル配向に近づき、内周側の磁気強度を大きくできる。
【0024】
また、母材Bの中央から磁気配向方向へ延長した線上に得られる磁石ピースMPの内外周の曲率中心Oが配置されるように内周と外周を形作る切削加工を施す場合には、従来技術(特許文献1)と比較して、母材Bにおいて磁石ピースMPとならない不要な部分の体積を減らせるので加工コストおよび加工時間を低減できる。
【0025】
磁石ピースMPの周方向の中央と円環状磁石CMの中心とを結ぶ線と磁石ピースMPの中央の磁気配向方向とを一致させると磁気強度を効率よく大きくできる。つまり、各磁石ピースが各磁石ピースの周方向の中央とその磁石ピースの内外周の曲率中心Oとを結ぶ方向を磁気配向方向として着磁されている場合、磁気強度を効率よく大きくできる。磁石ピースMPの周方向の中央と円環状磁石CMの中心とを結ぶ線と磁石ピースMPの中央の磁気配向方向とを一致させると好適であるが、これに限らず磁石ピースMP上の全ての点で磁気配向方向Gと前記仮想線Xとのなす角度αが25度以下となっていればよい。
【0026】
このようにして作成された八個の磁石ピースMPは、互いに周方向端面同士を向き合わせて、端面同士を接着して円環状に接合されて円環状磁石CMが製造される(接合ステップ)。このようにして製造された円環状磁石CMは、磁石ピースMPがパラレル配向されているものの、ラジアル配向で着磁された磁石として振る舞う。また、軸方向に見て各磁石ピースMPの任意点における磁気配向方向が円環状磁石CMの直径方向となす角度αが最大でも25度以下となるので、各磁石ピースMPがパラレル配向で着磁されているものの、円環状磁石CMは、ラジアル配向に近づき、内周側の界磁強度を確保できる。よって、この円環状磁石CMによれば、完全なラジアル配向の円環状磁石に比較しても界磁強度の低下が低く留められるので、完全なラジアル配向の円環状磁石と遜色のない界磁強度を確保できる。
【0027】
なお、本実施の形態では、磁石ピースMPの形状を全て同一形状としている。このように磁石ピースMPが円弧状であっても周方向長さが不ぞろいとなると、円環状磁石CMの磁気強度が特に低い部分がランダムにできてしまう場合があるが、そのような心配がない。また、磁石ピースMPの周方向長さが不ぞろいとなるとこれらを接合する際に綺麗な円環状となる組合せができてしまうので接合加工が面倒となるが、磁石ピースMPが同一形状であると接合加工も容易となる。
【0028】
つづいて、円環状磁石CMを利用した筒型リニアモータ1について説明する。一実施の形態における筒型リニアモータ1は、
図3に示すように、筒状のコア3とコア3の外周に設けられたスロット4に装着される巻線5とを有する電機子2と、筒状であって内方に電機子2が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6とを備えて構成されている
。以下、筒型リニアモータ1の各部について詳細に説明する。電機子2は、コア3と巻線5とを備えて構成されている。コア3は、円筒状のヨーク3aと、環状であってヨーク3aの外周に軸方向に間隔を空けて設けられる複数のティース3bとを備えて構成されて可動子とされている。
【0029】
本実施の形態では、
図3に示すように、ヨーク3aの外周に10個のティース3bが、軸方向に等間隔に並べて設けられており、ティース3b,3b間に巻線5が装着される空隙でなるスロット4が形成されている。
【0030】
また、各ティース3bは、環状であって、コア3の両端に配置されたティース3bを除いて、軸方向において内周端の幅より外周端の幅が狭い等脚台形状とされており、軸方向で両側の側面が外周端に対して等角度で傾斜するテーパ面とされている。なお、発明者らの研究によって、ティース3bの断面における側面と直交面とでなす内角θが6度から12度の範囲にあると、良好な質量推力密度が得られることが分かった。ここで、質量推力密度とは、前述の構成の筒型リニアモータ1の最大推力を質量で割った数値であり、質量推力密度が良化すれば、筒型リニアモータ1の質量当たりの推力が大きくなる。よって、ティース3bの断面における側面における直交面とでなす内角θが6度から12度の範囲にある筒型リニアモータ1では、大きな質量推力密度が得られる。
なお、末端のティース3bは、
図3に示すように、末端のティース3b以外の他のティース3bをコア3の軸線に直交する面で半分に切り落とした断面形状とされている。このように、各ティース3bの断面形状は、内周端の幅より外周端の幅が狭い台形状とされている。
【0031】
また、本実施の形態では、
図3中で隣り合うティース3b,3b同士の間には、空隙でなるスロット4が合計で9個設けられている。そして、このスロット4には、巻線5が巻き回されて装着されている。巻線5は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。9個のスロット4には、
図3中左側から順に、W相とU相、U相、U相、U相とV相、V相、V相、V相とW相、W相、W相の巻線5が装着されている。
【0032】
そして、このように構成された電機子2は、出力軸である非磁性体で形成されたロッド11の外周に装着されている。具体的には、電機子2は、その
図3中で左端と右端とがロッド11に固定される環状のスライダ12,13によって保持されて、ロッド11に固定されている。
【0033】
他方、固定子Sは、本実施の形態では、円筒状の非磁性体で形成されるアウターチューブ7と、アウターチューブ7内に挿入される円筒状の軟磁性体で形成されるバックヨーク8と、バックヨーク8内に挿入されてバックヨーク8との間に環状隙間を形成する円筒状の非磁性体のインナーチューブ9と、バックヨーク8とインナーチューブ9との間の環状隙間に軸方向に交互に積層されて挿入される主磁極となる円環状磁石CMと環状の副磁極となる永久磁石10とを備えた界磁6とで構成されている。なお、
図3中で円環状磁石CMと永久磁石10に記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、前述の通り円環状磁石CMの着磁方向は内周から外周に向く方向、つまり、径方向となっており、副磁極の永久磁石10の着磁方向は軸方向となっている。円環状磁石CMと永久磁石10は、ハルバッハ配列で配置されており、界磁6の内周側では、軸方向にS極とN極が交互に現れるように配置されている。なお、円環状磁石CMの内径と永久磁石10の内径は等しく、円環状磁石CMの外径と永久磁石10の外径も等しい。
【0034】
また、円環状磁石CMの軸方向長さL1は、永久磁石10の軸方向長さL2よりも長くなっており、本実施の形態では、0.2≦L2/L1≦0.5を満たすように、円環状磁石CMの軸方向長さL1と永久磁石10の軸方向長さL2が設定されている。円環状磁石CMの軸方向長さL1を長くすればコア3との間の円環状磁石CMとの間の磁気抵抗を小さくできコア3へ作用させる磁界を大きくできるので筒型リニアモータ1の推力を向上できる。
【0035】
また、本発明の筒型リニアモータ1では、円環状磁石CMおよび永久磁石10の外周にバックヨーク8を設けている。バックヨーク8を設けない場合、副磁極の永久磁石10の軸方向長さL2が短くなると円環状磁石CMの軸方向中央部分における磁石外部の磁気抵抗が増大し、界磁磁束が小さくなるため、円環状磁石CMの軸方向長さL1を長くする際の筒型リニアモータ1の推力向上度合が小さくなる。これに対して、円環状磁石CMおよび永久磁石10の外周にバックヨーク8を設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので永久磁石10の軸方向長さL2の短縮に起因する磁気抵抗の増大が抑制される。よって、円環状磁石CMの軸方向長さL1を永久磁石10の軸方向長さL2よりも長くするとともに円環状磁石CMおよび永久磁石10の外周に筒状のバックヨーク8を設けると筒型リニアモータ1の推力を大きく向上させ得る。バックヨーク8の肉厚は、円環状磁石MCの外部磁気抵抗の増大を抑制に適する肉厚に設定されればよい。
【0036】
なお、副磁極の永久磁石10は、円環状磁石CMより高い保磁力を有する永久磁石とされている。永久磁石における残留磁束密度と保磁力は、互いに密接に関係しており、一般的に残留磁束密度を高めると保磁力は低くなり、保磁力を高めると残留磁束密度が低くなるという、互いに背反する関係にある。ハルバッハ配列では、副磁極の永久磁石10には減磁方向に大きな磁界が印加されるため、副磁極の永久磁石10の保磁力を高くして減磁を抑制し、大きな磁界をコア3に作用させ得るようにしている。対して、コア3に対して作用する磁界の強さは、円環状磁石CMの磁力線数に左右される。そのため、円環状磁石CMに高い残留磁束密度の永久磁石を使用して大きな磁界をコア3に作用させるようにしている。本実施の形態では、永久磁石10を円環状磁石CMよりも保磁力を高くするのに際して、永久磁石10の材料を円環状磁石CMの材料よりも保磁力が高い材料としている。よって、材料の選定によって、円環状磁石CMおよび永久磁石10の組合せを簡単に実現できる。なお、本実施の形態では、円環状磁石CMは、ネオジム、鉄、ボロンを主成分とする残留磁束密度が高い材料で構成され、副磁極の永久磁石10は、前記材料にジスプロシウムやテリビウム等の重希土類元素の添加量を増やした減磁しにくい磁石で構成されている。
【0037】
また、固定子Sの内周側には、コア3が挿入されており、界磁6は、コア3に磁界を作用させている。なお、界磁6は、コア3の可動範囲に対して磁界を作用させればよいので、コア3の可動範囲に応じて円環状磁石CMと永久磁石10の設置範囲を決定すればよい。したがって、アウターチューブ7とインナーチューブ9との環状隙間のうち、コア3に対向し得ない範囲には、円環状磁石CMおよび永久磁石10を設置しなくともよい。なお、バックヨーク8の長さは、円環状磁石CMおよび永久磁石10を積層した長さと等しい長さとされており、円環状磁石CMおよび永久磁石10がコア3のストローク範囲外に磁界を作用させて推力低下を招かないように配慮されている。
【0038】
また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の
図3中左端はキャップ14によって閉塞されており、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の
図3中右端は環状のヘッドキャップ15によって閉塞されている。また、インナーチューブ9の内周には、スライダ12,13が摺接しており、スライダ12,13によって電機子2はロッド11とともに界磁6に対して偏心せずに軸方向へスムーズに移動できる。インナーチューブ9は、コア3の外周と円環状磁石CMおよび永久磁石10の内周との間のギャップを形成するとともに、スライダ12,13と協働してコア3の軸方向移動を案内する役割を果たしている。なお、インナーチューブ9は、非磁性体で形成されればよいが、合成樹脂で形成されると筒型リニアモータ1の推力密度向上効果が高くなる。インナーチューブ9を非磁性体の金属で製造すると、電機子2が軸方向へ移動する際にインナーチューブ9の内部に渦電流が生じて、電機子2の移動を妨げる力が発生してしまう。これに対して、インナーチューブ9を合成樹脂とすれば渦電流が生じないので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できるとともに、筒型リニアモータ1の質量を低減できる。なお、インナーチューブ9を合成樹脂とする場合、フッ素樹脂で製造すればスライダ12,13との間の摩擦および摩耗を低減できる。また、インナーチューブ9を他の合成樹脂で形成してもよく、また、摩擦および摩耗を低減するべく他の合成樹脂で形成されたインナーチューブ9の内周をフッ素樹脂でコーティングしてもよい。
【0039】
なお、キャップ14には、巻線5に接続されるケーブルCを外部の図示しない電源に接続するコネクタ14aを備えており、外部電源から巻線5へ通電できるようになっている。また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の軸方向長さは、コア3の軸方向長さよりも長く、コア3は、界磁6内の軸方向長さの範囲で
図3中左右へストロークできる。
【0040】
そして、たとえば、巻線5の界磁6に対する電気角をセンシングし、前記電気角に基づいて通電位相切換を行うとともにPWM制御により、各巻線5の電流量を制御すれば、筒型リニアモータ1における推力と電機子2の移動方向とを制御できる。なお、前述の制御方法は、一例でありこれに限られない。このように、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子2が可動子であり、界磁6は固定子として振る舞う。また、電機子2と界磁6とを軸方向に相対変位させる外力が作用する場合、巻線5への通電、あるいは、巻線5に発生する誘導起電力によって、前記相対変位を抑制する推力を発生させて筒型リニアモータ1に前記外力による機器の振動や運動をダンピングさせ得るし、外力から電力を生むエネルギ回生も可能である。
【0041】
このように筒型リニアモータ1は、筒状のコア3とコア3の外周に設けられたスロット4に装着される巻線5とを有する電機子2と、筒状であって内方に電機子2が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置されるように軸方向に並べられる円環状磁石CMを複数有する界磁6とを備えている。このように構成された筒型リニアモータ1では、内周側の磁気強度を確保できる円環状磁石CMを利用しているので、従来の疑似的なラジアル配向の円環状磁石を利用する場合に比較して、推力を向上できる。
【0042】
さらに、円環状磁石CMの内径を50mm以上、80mm以下に設定すると、前述の構成の筒型リニアモータ1では、完全なラジアル配向の円環状磁石を利用した場合に比較しても発生推力の低下を5%以下に抑えられることが発明者らの研究によって明らかとなった。よって、内周側に電機子2が可動子として移動自在に挿入されて界磁6が固定子となる筒型リニアモータ1では、円環状磁石CMを用いる場合、内径を50mm以上、80mm以下に設定すれば完全にラジアル配向の円環状磁石を利用した場合と遜色のない推力が得られるのである。
【0043】
また、筒型リニアモータ1は、筒状のコア3とコア3の外周に設けられたスロット4に装着される巻線5とを有する電機子2と、筒状であって内方に電機子2が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6とを備え、界磁6は、ハルバッハ配列にて軸方向に交互に並べられる径方向に着磁された円環状磁石CMと軸方向に着磁された永久磁石10と、円環状磁石CMおよび永久磁石10の外周に配置される筒状のバックヨーク8とを有し、主磁極の円環状磁石CMの軸方向長さL1は副磁極の永久磁石10の軸方向長さL2よりも長い。
【0044】
このように筒型リニアモータ1が構成されると、主磁極の円環状磁石CMの軸方向長さL1を長くして、主磁極の円環状磁石CMとコア3との間の磁気抵抗を小さくできるとともに、副磁極の永久磁石10の軸方向長さL2を短くしてもバックヨーク8を設けているので磁気抵抗の増大を抑制でき、コア3へ作用させる磁界を大きくできる。
【0045】
よって、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、副磁極の永久磁石10の減磁を抑制しつつも主磁極の円環状磁石CMとコア3との間の磁気抵抗を小さくでき効果的に推力を向上できる。
【0046】
なお、副磁極の永久磁石10が主磁極の円環状磁石CMよりも高い保磁力を有していれば、大きな磁界が印加される副磁極の永久磁石10の減磁を抑制しつつも主磁極の円環状磁石CMに高い残留磁束密度の永久磁石を利用できる。
【0047】
また、主磁極の円環状磁石CMの軸方向長さL1を副磁極の永久磁石10の軸方向長さL2よりも長くすれば、界磁6はコア3に大きな磁界を作用させ得るが、主磁極の円環状磁石CMの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10の軸方向長さL2に最適な関係がある。
図4に主磁極の円環状磁石CMの軸方向長さL1で副磁極の永久磁石10の軸方向長さL2を割った値と筒型リニアモータ1の推力との関係を示す。発明者らは、鋭意研究した結果、
図4に示すように、主磁極の円環状磁石CMの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10の軸方向長さL2が0.15≦L2/L1≦0.6を満たすように設定されれば、L2/L1の値を理想的な値に設定した際の推力に対して95%以上の推力を確保できることを知見した。
【0048】
よって、筒型リニアモータ1における主磁極の円環状磁石CMの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10の軸方向長さL2を0.15≦L2/L1≦0.6を満たすように設定すれば、推力を一層向上できる。さらに、
図4から理解できるように、主磁極の円環状磁石CMの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10の軸方向長さL2が0.2≦L2/L1≦0.5を満たすように設定されれば、L2/L1の値を理想的な値に設定した際の推力に対して98%以上の推力を確保できるので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できる。
【0049】
さらに、本実施の形態の筒型リニアモータ1にあっては、ティース3bの断面形状は、内周端の幅より外周端の幅が狭い台形状とされているので、ティース3bの断面形状を矩形とする場合に比較して、内周端における磁路断面積が広くなる。よって、このように構成された筒型リニアモータ1では、大きな磁路断面積を確保しやすくなり、巻線5を通電した際の磁気飽和を抑制でき、より大きな磁場を発生できるからより大きな推力を発生できる。なお、推力の向上のためには、ティース3bの断面形状を台形とするとよいが、断面形状を矩形としてもよいし、他の形状としてもよい。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・筒型リニアモータ、2・・・電機子、3・・・コア、4・・・スロット、5・・・巻線、6・・・界磁、B・・・母材、CM・・・円環状磁石、G・・・磁気配向方向、MP・・・磁石ピース、O・・・曲率中心、Q・・・任意点、X・・・仮想線