(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】細胞解凍装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221205BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
(21)【出願番号】P 2019011489
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】511024399
【氏名又は名称】YSEC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513066111
【氏名又は名称】株式会社細胞応用技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100140394
【氏名又は名称】松浦 康次
(72)【発明者】
【氏名】山内 慶次郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小式澤 広之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 千春
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-061245(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0127901(US,A1)
【文献】特開2004-103480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
A61J
H05B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞凍結容器に貯蔵された凍結細胞を解凍する細胞解凍装置であって、
上側筐体と、下側筐体と、前記上側筐体及び前記下側筐体を開閉可能に接続するヒンジ部と、前記上側筐体及び前記下側筐体の内側に設けられかつ前記細胞凍結容器を挟持可能な一対の解凍面と、前記解凍面を加熱可能な面状ヒーターと、が設けられた解凍部と、
前記解凍部を載置可能な天板と、前記天板を揺動可能な揺動手段と、が設けられたベース部と、
を備え、かつ、
前記解凍面は、変形しながら前記細胞凍結容器を複数、包み込むことが可能であり、かつ、前記細胞凍結容器の形状又は寸法が異なる場合でも解凍可能であ
り、
前記上側筐体及び前記下側筐体には、それぞれ、前記解凍面に近い順に、熱伝導ゴム層又は蓄熱ゲル層と、前記面状ヒーターと、を少なくとも含んだ積層部材が収容され、
前記熱伝導ゴム層又は前記蓄熱ゲル層は変形性を有し、
前記面状ヒーターは、柔軟性を有したフィルム状ヒーター又は柔軟性を有したラバーヒーターであり、
前記上側筐体及び前記下側筐体には、前記積層部材を保持可能な枠体が着脱自在に取り付けられていること
を特徴とする細胞解凍装置。
【請求項2】
前記解凍面は、プラスティック製フィルムで覆われていること
を特徴とする請求項1
に記載の細胞解凍装置。
【請求項3】
前記解凍部が前記天板に着脱自在に取り付けられていること
を特徴とする請求項1
又は2に記載の細胞解凍装置。
【請求項4】
前記解凍面を分割するように複数の前記面状ヒーターが並置されていること
を特徴とする請求項1~
3のいずれか
1項に記載の細胞解凍装置。
【請求項5】
前記揺動手段は、前記天板の平面視で円を描くように該天板を揺動させること
を特徴とする請求項1~
4のいずれか
1項に記載の細胞解凍装置。
【請求項6】
前記ベース部には、種類の異なる凍結細胞に適した複数の解凍モードを予め保存したメモリと、前記解凍モードの一つを選択可能な制御手段と、をさらに備えること
を特徴とする請求項1~
5のいずれか
1項に記載の細胞解凍装置。
【請求項7】
前記凍結細胞に培養表皮細胞又は培養線維芽細胞が使用されること
を特徴とする請求項1~
6のいずれか
1項に記載の細胞解凍装置。
【請求項8】
前記細胞凍結容器が、変形性を有さない堅固な容器であること
を特徴とする請求項1~
7のいずれか
1項に記載の細胞解凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凍結容器内で凍結保存された細胞(例えば、培養表皮細胞や培養線維芽細胞)を解凍できる細胞解凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(難治性皮膚潰瘍)
難治性皮膚潰瘍とは、寝たきりの患者や末梢循環が悪くなった糖尿病や閉塞性動脈硬化症の患者等に好発する、広範囲に皮膚が欠損し時に感染している皮膚の状態の事を指す。難治性皮膚潰瘍によって下肢切断を施さねばならない患者は年間約1万人と言われ、手術を施しても5年後の生存率は約30パーセントであり、生存できたとしても高額な医療費が必要となる。
【0003】
(難治性皮膚潰瘍に対する再生医療の試み)
上述のような欠点を有する下肢切断に代えて、難治性皮膚潰瘍の患部に、培養表皮細胞を移植して自己再生を促す再生医療を施す試みもある。培養表皮細胞はクライオチューブ等の細胞凍結容器に収容され、通常、-80℃から-196℃で凍結保存される。末端の病院では、この凍結細胞を細胞凍結容器に入れて輸送・保管されるため、施術の際には、細胞凍結容器に入った凍結細胞を解凍する必要がある。
【0004】
(凍結保存された培養表皮細胞の従来の解凍技術:ウォーターバス)
この凍結表皮細胞を解凍する従来技術として、ウォーターバスを使用した方法がある。これは、バス内の水を加温して約37℃のぬるま湯にし、このぬるま湯に細胞入りチューブを温浴させ、手早く撹拌させながらチューブ内の細胞を融解させる方法である。しかしながら、ウォーターバスでの上記撹拌・解凍操作は高い熟練度が必要であるだけでなく、水がチューブ内に浸入する危険性もあった。
【0005】
(従来の凍結細胞解凍装置)
上述のウォーターバスの他に、非特許文献1に示すような凍結細胞解凍装置が既に利用可能である。解凍装置の上面には複数の有底開口穴が設けられ、これらの穴に細胞容器を載置して加温する。しかしながら、上記開口穴は所定の寸法で作られており、この寸法に適合した専用の細胞容器以外の容器には適用できない。全国には、多くの病院が存在し、これらの病院に医療機器を納入するベンダーも数多く存在する。このことも影響してか、細胞容器の形状、構造、寸法等は千差万別であるから、これら全ての細胞容器に対応可能な細胞解凍装置が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-225019号公報
【文献】特開2007-061245号公報
【文献】特開2013-252204号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】カタログNo: YS-1 凍結細胞融解装置、ビーエム機器株式会社のホームページ、[平成31年1月13日検索]、インターネット<https://www.bmbio.com/product/tabid73.html?pdid1=YS-1>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(他の分野の解凍装置)
凍結細胞以外の他分野に目を向けると、現在までに、凍結血漿バッグを解凍するための装置が提案されている(特許文献1~3参照)。
【0009】
(凍結血漿の凍結容器と凍結細胞の凍結容器との違い)
凍結血漿バッグの場合は袋状の容器に限定されるが、凍結細胞用の容器には、袋状の他、板状やチューブ状など様々な形状のものが存在し、これら全ての容器の形状に対応可能な解凍装置が望まれている。
【0010】
(凍結血漿の保管温度と凍結細胞の保管温度との違い)
また、凍結血漿は通常-20℃で保管されるが、細胞は-80℃から-196℃で保管されるため、凍結血漿の場合に比べ凍結細胞の解凍には多くの熱量が必要である。また、細胞を含むため、3分以内と短い時間で解凍を行う必要もある。
【0011】
(特許文献1の解凍装置)
上述したように、特許文献1~3はいずれも「凍結血漿」を解凍対象とするものであるが、その構成について簡単に説明しておく。特許文献1の解凍装置は、凍結血液入りの袋状容器を、一対の移動自在なヒータープレートを互いに接近するように押圧して上記凍結血液を加熱すると同時に、モーター等を含んだ駆動機構により該ヒータープレートを旋回移動させて、凍結血液内の対流を促進させるものである。
【0012】
(特許文献1の挟持体)
また、特許文献1の解凍対象は、凍結された血液等が貯蔵された袋状容器(具体的にはプラスチック製バッグ)である。つまり、解凍対象は柔軟であり、一対のヒーターで挟持した際に解凍対象自体が変形可能である。従って、ヒーター側の挟持部は単なる剛体(板状銅シート)のままでも良く、特許文献1では板状銅シートが袋状容器に接触し、これを押圧した際には、袋状容器が銅シート形状に対応して変形することになる。
【0013】
(特許文献1の装置を本発明の用途に適用しようとする場合の課題)
しかしながら、凍結細胞の場合は、細胞凍結容器の形状は多岐に亘り、例えば、チューブ状の容器の場合は容器自体が変形しないため、ヒーター側の挟持部を変形させて該容器を挟持する必要がある。従って、特許文献1の装置を単にその構成のまま凍結細胞の分野に適用したとしても、これらの細胞が貯蔵された容器(例えば、硬い円筒形の上記容器)を適切に解凍できない。
【0014】
(特許文献2の解凍装置)
特許文献2にも同様に凍結血漿入りの血液バッグを一対のヒーターで挟持・加温しながら、揺動手段で揺動させる解凍装置を開示されている。なお、特許文献2では解凍対象に直接接触するのは、流動可能な熱媒体が密閉された第1・第2熱媒体バッグである。
【0015】
(特許文献2の装置を本発明の用途に適用しようとする場合の課題)
第1・第2熱媒体バッグは、可撓性を有するものの、解凍対象(挟持対象)が変形可能な血液バッグであれば問題無いが、解凍対象が、凍結細胞を収容する硬い細胞凍結容器であったり、扁平で縁部が尖った細胞凍結容器などであったりする場合には、使用中の熱媒体バッグの破裂やバッグ中身の高温の熱媒体の飛散等の懸念が残る。
【0016】
また、特許文献2に開示の揺動機構は、挟持部の一端を上下に移動させ、つまり、挟持部の該一端と他端とをシーソーのように揺動させるものであるが、凍結血漿の解凍ならまだしも、本発明者らの経験上、ごく短い時間で高い熱量の付与が必要な凍結細胞の解凍を想定した場合、この揺動方法では不十分であり、揺動機構にも改善を加える必要がある。つまり、特許文献2の装置を単にその構成のまま、凍結細胞の解凍に適用できない。
【0017】
(特許文献3の解凍装置)
特許文献3も、変形可能な袋状容器に入った凍結血漿を解凍する装置であり、これを挟持する一対の融解プレートはアルミニウム板や銅板からなる硬い板状体であり、これらの点は特許文献1と同様である。また、揺動機構は、挟持部をシーソー状に上下に揺動させる点は特許文献2と同様である。従って、特許文献3の装置を凍結細胞の解凍に適用した場合も、特許文献1,2の欄で説明した上記課題が懸念される。
【0018】
(特許文献1~3に共通した課題)
また、特許文献1~3のどの解凍装置にも言えることであるが、凍結容器を挟持・加温する挟持部は、使用回数が増える程、汚れ等が付着して衛生的で無くなり、これ(特に接触部分)を取り換える必要があるだけでなく、挟持部内のヒーター等の点検・交換も必要となる。しかしながら、特許文献1~3の装置は、これらのメンテナンスが容易に行える構造になっているとはいえない。
【0019】
また、特許文献1~3のどの解凍装置も、凍結血漿入りの比較的大きな血液バッグを対象とするため、通常、1回の使用で1つの血液バッグの挟持・解凍を目的とする。しかしながら、本発明で対象とする凍結細胞入りの細胞凍結容器は、通常、血液バッグと比較すると格段に小さく、1回の使用で多数の細胞凍結容器を解凍できることが望まれている。この多数の容器を一度に挟持・解凍する場合には、加温条件等の熱環境を細胞凍結容器毎に個別管理できることが望ましい。これらの要望及び用途につき、更なる改善の余地がある。
【0020】
(本発明の目的)
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、専門病院ではない末端病院においても、容器内で凍結保存された細胞(より具体的には、培養表皮細胞)を誰でも簡単に解凍できる細胞解凍装置を提供することを目的とする。
【0021】
また、本発明の別の目的は、様々な形状の細胞凍結容器に対応可能で、該容器に頻繁に接触する解凍部のメンテナンスが容易な細胞解凍装置を提供することである。
【0022】
また、本発明の別の目的は、多数の細胞凍結容器を一度に挟持可能で、かつ、細胞凍結容器毎の熱環境を個別に管理可能な細胞解凍装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、鋭意検討の末、下記構造を具備した細胞解凍装置を用いれば、上記課題を見事に解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
すなわち本発明は、例えば、以下の構成・特徴を備えるものである。
(態様1)
細胞凍結容器に貯蔵された凍結細胞を解凍する細胞解凍装置であって、
上側筐体と、下側筐体と、前記上側筐体及び前記下側筐体を開閉可能に接続するヒンジ部と、前記上側筐体及び前記下側筐体の内側に設けられかつ前記細胞凍結容器を挟持可能な一対の解凍面と、前記解凍面を加熱可能な面状ヒーターと、が設けられた解凍部と、
前記解凍部を載置可能な天板と、前記天板を揺動可能な揺動手段と、が設けられたベース部と、
を備え、かつ、
前記解凍面は、変形しながら前記細胞凍結容器を複数、包み込むことが可能であり、かつ、前記細胞凍結容器の形状又は寸法が異なる場合でも解凍可能であり、
前記上側筐体及び前記下側筐体には、それぞれ、前記解凍面に近い順に、熱伝導ゴム層又は蓄熱ゲル層と、前記面状ヒーターと、を少なくとも含んだ積層部材が収容され、
前記熱伝導ゴム層又は前記蓄熱ゲル層は変形性を有し、
前記面状ヒーターは、柔軟性を有したフィルム状ヒーター又は柔軟性を有したラバーヒーターであり、
前記上側筐体及び前記下側筐体には、前記積層部材を保持可能な枠体が着脱自在に取り付けられていること
を特徴とする細胞解凍装置。
(態様2)
前記解凍面は、プラスティック製フィルムで覆われていること
を特徴とする態様1に記載の細胞解凍装置。
(態様3)
前記解凍部が前記天板に着脱自在に取り付けられていること
を特徴とする態様1又は2に記載の細胞解凍装置。
(態様4)
前記解凍面を分割するように複数の前記面状ヒーターが並置されていること
を特徴とする態様1~3のいずれか1項に記載の細胞解凍装置。
(態様5)
前記揺動手段は、前記天板の平面視で円を描くように該天板を揺動させること
を特徴とする態様1~4のいずれか1項に記載の細胞解凍装置。
(態様6)
前記ベース部には、種類の異なる凍結細胞に適した複数の解凍モードを予め保存したメモリと、前記解凍モードの一つを選択可能な制御手段と、をさらに備えること
を特徴とする態様1~5のいずれか1項に記載の細胞解凍装置。
(態様7)
前記凍結細胞に培養表皮細胞又は培養線維芽細胞が使用されること
を特徴とする態様1~6のいずれか1項に記載の細胞解凍装置。
(態様8)
前記細胞凍結容器が、変形性を有さない堅固な容器であること
を特徴とする態様1~7のいずれか1項に記載の細胞解凍装置。
【発明の効果】
【0025】
(1.形状・寸法が様々な細胞凍結容器に対応可能であること)
本発明の解凍装置によれば、従来の解凍装置とは異なり、柔らかい加熱面(及びこれに近接した変形性を有する熱伝導ゴム層や蓄熱ゲル、フィルム状ヒーターなど)を有する事で、形状・寸法が様々な細胞凍結容器を包み込むような形で加熱できる。この加熱面は、解凍部の筐体サイズや、熱伝導ゴム層及びヒーター等の種類・サイズ・積層数・組合せを変更することで、多種多様な種類の細胞凍結容器に対応可能となる。
【0026】
なお、解凍部がベース部に対して着脱可能な構成を成し、解凍部の上側筐体及び下側筐体がこれらの筐体内に積層部材を着脱自在に保持する枠体を備える構成を成すことで、解凍部のメンテナンスが容易となるばかりで無く、広狭様々な解凍面を有した異なる解凍部への交換も可能となる。
【0027】
また、加熱中に細胞凍結容器の形状・寸法に適した揺動や振動を与えることで、どんな形状の細胞凍結容器を用いても細胞(凍結状態から固液状態ひいては液体状態に進行する細胞)を均一に攪拌し、該細胞に均一に熱を伝えることができる。
【0028】
(2.多種の細胞の解凍が可能であること)
また、本発明の解凍装置は、加熱条件や揺動条件を制御する制御手段を有する為、操作者は、解凍対象に適合するように都度、解凍条件を自由に設定変更することができる。
【0029】
(3.一度に複数の解凍が可能であること)
解凍部に設けられた加熱面は、この面を含有又は近接した熱伝導ゴム層やフィルム状ヒーターの存在により、広範囲かつ柔軟な平坦面であるため、複数の細胞凍結容器を加熱面の所望の場所に配置することができる。これにより、本発明の装置は、一度に多数の凍結細胞を均一に解凍することができ、広範囲で多量の細胞を必要とする移植手術にも対応することができる。
【0030】
(4.誰でも簡単に解凍が可能であること)
本発明の解凍装置を用いた解凍方法は、ウォーターバスを用いた従来法に要求されるような熟練した操作スキルを必要としない。操作者は、単に操作パネル等を用いて解凍対象に適した解凍条件を選択或いは入力して装置を作動させればよい。
【0031】
(5.異物混入の防止)
本発明の解凍装置を用いた解凍方法は、ウォーターバス法に必須な細胞凍結容器の温浴は不要であり、異物が混入する可能性が格段に低くなる。なお、細胞凍結容器に触れる部分は全て交換式(交換可能)となっており、常に清潔な環境で細胞の解凍を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の細胞解凍装置を示した斜視図及び分解斜視図である。
【
図2】本発明の細胞解凍装置(分離状態)を示した正面図及び側面図である。
【
図3】解凍部の主要な構成部材を示した解凍部の分解斜視図である。
【
図4】一枚又は複数枚のヒーター及び断熱材層に取り付けた温度センサを示した図である。
【
図5】ベース部の装置の基本構成を示した図である。
【
図6】ベース部の主要部を示した平面図及び底面図である。
【
図8】解凍対象である細胞凍結容器及び枠体の変形例を示した図である
【
図9】解凍装置の操作パネルの解凍部の外観を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付の図面を参照しながら下記の具体的な実施形態に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施形態に何等限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
(装置の概要)
本実施例の細胞解凍装置(以下、単に「解凍装置」又は「装置」とも呼ぶ。)100は、主に、解凍部(挟持部)200と、ベース部300と、から構成される。解凍部200は、後述するように、ベース部300の上部に着脱自在に載置可能である。なお、
図1(b)は、解凍部200と、ベース部300とを分離した状態を示し、
図1(a)は、解凍部200をベース部300の上部(具体的には、後述の天板)に載置し、解凍部200の一方の解凍面250に複数の細胞凍結容器1(1A)を並べた状態を示す。
【0035】
(解凍対象)
本発明の装置100で解凍を行う対象は、凍結細胞を貯蔵し搬送又は保存するための容器1(以下、「細胞凍結容器」又は「容器」とも呼ぶ。)である。この容器1に貯蔵される凍結細胞は、本実施例では培養された線維芽細胞や表皮細胞等の皮膚細胞を想定したが、必ずしもこれらの細胞に限定されない。
【0036】
(細胞凍結容器の具体例)
なお、凍結細胞用の容器1には多種多様な形状・寸法を有するタイプが存在する。細胞凍結容器1の具体例として、例えば、
図3や
図8などに示すようなクライオチューブなどの硬い中空円筒状容器1Bや、細胞収容領域1Ac以外の縁部1Aeが扁平状を成す細胞凍結容器1Aがある。本発明の解凍装置100は、後述するように、これ一つで、多種多様な容器1の形状や容量に対応してこれを挟持・加熱することができることから、凍結線維芽細胞や凍結表皮細胞の解凍の用途に適しているといえる。また、解凍装置100は、後述するように解凍面250やその付近の積層部材が変形性を有するため、解凍対象が変形性を有さない堅固な容器1でも、これを柔軟にすっぽりと包み込むことが可能となる。
【0037】
(解凍部の概要)
解凍部200は、
図1~3に示すように、一対を成す上側筐体210と下側筐体220と、これらの筐体を開閉可能に接続するヒンジ部230と、を有する。また、解凍部200には、上側筐体210と下側筐体220とが接触して閉じた状態を保持するロック機構が設けられている。実施例では、2つの第1ロック部材241が上側筐体210の前側縁部に並置され、これらに対応して、2つの第2ロック部材242が下側筐体220の前側縁部に並置されている。第1ロック部材241には下側に延びた楔状凸部243が設けられ、第2ロック部材242には上側に向いた施錠穴244が設けられ、上側筐体210と下側筐体220とが接触する際に、楔状凸部243が施錠穴244に入ると、図示しない係合部材により楔状凸部243を係合して楔状凸部243を一時的に保持・固定する。
【0038】
(上側筐体)
上側筐体210には、ほぼ同一寸法(実施例では略A5サイズ)を有した層状部材が、積層された状態で内部に収納されている。
図3に示す例では、上側筐体210から近い順に、断熱材層211、熱伝導ゴム層212、面状ヒーター(好ましくは、図示のようなフィルム状ヒーターや図示しないラバーヒーター(例えば、シリコンラバーヒーター))213、熱伝導ゴム層214が積層され、開口部216を有した枠体215によって、これらの部材211~214が、上側筐体210の内側に一体保持されている。従って、最下層たる熱伝導ゴム層214の下面の大部分(つまり、上側の解凍面250)は、開口部216から露出し、後述の細胞凍結容器1に上側から接触・押圧する。
【0039】
なお、熱伝導ゴム層212は必須では無く、排除しても良い。つまり、上側筐体210に熱伝導ゴム層214だけを設置してもよい。なお、
図3では、説明の便宜のため、上述したロック機構やヒンジ部230を省略する。
【0040】
(下側筐体)
一方、下側筐体220にも、ほぼ同一寸法を有した層状部材が、積層された状態で内部に収納されている。本実施例では、下側筐体220から近い順に、断熱材層221、フィルム状ヒーター222、熱伝導ゴム層223、フィルム状ヒーター224、熱伝導ゴム層225が積層され、開口部227を有した枠体226によって下側筐体220の内側に一体保持されている。従って、最上層たる熱伝導ゴム層225の上面の大部分(つまり、下側の解凍面250)は、開口部227から露出し、後述の細胞凍結容器1に下側から接触・押圧する。
【0041】
なお、本実施例では、単位時間あたりに細胞凍結容器1に付与する熱量を高めるため、フィルム状ヒーター222、224の複数(2つ)を用意したが、この例に限定されず、解凍対象の細胞凍結容器1に応じて、ヒーター数を増減可能である。例えば、上側筐体210と同様に、1つのヒーター224のみの構成にしてもよい。
【0042】
(筐体に着脱自在な枠体)
枠体215及び枠体226は、例えば、ビスS(
図2(a)参照)などの公知の接続手段により、上側筐体210及び下側筐体220に着脱可能に取り付けられていることが好ましい。これにより、ヒーター213,222,224や熱伝導ゴム層212,214,223,225などの積層部材の一部又は全部を容易に取り外して、交換或いは清掃することが可能となる。
【0043】
(枠体の変形例)
なお、
図3に示す枠体215(226)の開口部216(227)は、筐体内側面積の枠体215(226)を除く大部分(つまり、解凍面250)を露出する構成であるが、これに限定されない。例えば、
図8(c)及び(d)に示すように、細胞凍結容器1Aの外形に対応した開口部216A(227A)を複数設けた枠体215A(226A)や、細胞凍結容器1Bの外形に対応した開口部216B(227B)を複数設けた枠体215B(226B)を用意・使用してもよい。
【0044】
このように、解凍対象(細胞凍結容器1)の形状・寸法に合わせた開口部216A(227A),216B(227B)などを使用することにより、細胞凍結容器1A,1Bが枠体215A(226A),215B(226B)によってより確実に適切な場所で保持されるようになり、解凍部200の開閉操作や解凍工程時に、誤って容器1A,1Bが解凍部200から落下するような不測の事態も格段に減らすことができる。また、解凍中に、容器1A(1B)同士が接触する危険も無くなる。また、解凍部200を閉鎖する際に細胞凍結容器1A(1B)が移動することも無くなるため、各容器1A(1B)とフィルム状ヒーター(例えば、上記分割ヒーターのうち各開口部216A(227A),216B(227B)の投影面積上に置かれるヒーター)との間の対応関係がより確実となるため、解凍面250におけるより適切な温度監視や加温が可能となる。
【0045】
なお、容器1の形状・寸法が新規なものであっても、変形例の枠体215A(226A),215B(226B)を3Dプリンタ等で製作することで、迅速に顧客の要求に応えることもできる。
【0046】
(熱伝導ゴム層)
上側筐体210及び下側筐体220に設けられる熱伝導ゴム層212,214,223,225は、変形性を有することを特徴とし、更に、僅かながらに形状記憶性を有することが好ましい。これにより、どんな細胞凍結容器1を載置しても、これらの層の方が容器形状に柔軟に対応して変形し、これらを包み込み、層内の温度をより安定かつ一定に保つことができるようになる。なお、熱伝導ゴム層212,214,223,225の一部又は全部を蓄熱ゲル層で代用してもよい。
【0047】
(解凍面)
細胞凍結容器1が接触する上下の解凍面250は、
図1などに示した例では、熱伝導ゴム層214,225の内側表面であるが、これらの表面をビニール製シートなどのプラスティック製フィルム251で覆い、これを解凍面250にするようにしてもよい(
図9(c)参照)。これにより、装置1を何回か使用した後に解凍面250が汚れた場合、新品に取り換えるだけで良いため、解凍面250の清掃や交換の際に掛る費用・時間を削減することが可能となる。
【0048】
(フィルム状ヒーター)
上述のフィルム状ヒーター213,222,224には、例えば、エッチングされた金属箔(例えば、ステンレス箔)を両側からポリイミド製又はポリエステル製のフィルムで挟んだものを使用可能である。フィルム状ヒーターは極薄(厚みは通常、0.1mm~0.3mm程度)であるため、近接した熱伝導ゴム層の変形に応じて変形可能である。なお、図示しないラバーヒーターで柔軟性を有したものを使用してもよい。
【0049】
(温度センサ)
このヒーター213,224の上下面には、
図4(a)に示すようにサーミスタ241(図示の例では15本)や熱電対242の温度センサが設けられる。このような温度センサ241,242は、電線を通じて、ベース部300内の制御手段320に信号を送信する。なお、より正確な温度監視のために、フィルム状ヒーター1枚につき、複数(例えば、8~20個)の温度センサで温度測定し、制御手段320にて平均温度を算出し、この平均温度をそのヒーターの代表温度として使用してもよい。
【0050】
また、温度センサ241の他に、過熱防止用の温度センサや安全装置を別途設けるようにしてもよい。例えば、
図4(a)に示すように、過熱防止用の温度センサ及び安全装置として熱電対242(図示の例では2本)及び温度ヒューズ243がヒーター213,224に設けられる。一方、
図4(b)に示すように、熱電対242が断熱材層211(221)に設けられる。
【0051】
(複数枚のヒーター貼付による解凍面の分割加熱)
また、フィルム状ヒーター213,222,224は、各解凍面250の全てを1枚のヒーターで覆うように貼付しても良いが、
図4(c)に示すように、解凍面250を幾つかの区画(ブロック)に分割するように、複数枚(図示の例では16枚)の比較的小さなヒーター(つまり、分割ヒーター)260及び温度センサ(図示の例では、各分割ヒーター260の中央に熱電対242)を並置させてもよい。分割ヒーター260の分割数を敢えて制限する必要は無いが、上述のようなA5サイズの解凍面250であれば、16分割(ヒーター数16個)程度までが現実的であろう。
【0052】
この場合も、断熱材層211(221)に過熱防止用の温度センサとして熱電対242を設けてもよい。なお、分割ヒーター260を含んだ面には塔載することが困難になった温度ヒューズ243を断熱材層211(221)上に設置してもよい。
【0053】
(分割加熱のメリット1)
このように解凍面250を分割するように貼付された複数の小さなフィルム状ヒーター(以下、「分割ヒーター」とも呼ぶ。)260及び温度センサ242を利用すれば、複数の細胞凍結容器1を細胞解凍装置100にて同時に挟持・解凍する際に、容器1毎にピンポイントで温度測定しながら熱量を付与できるため、容器1毎の温度制御が可能となる。
【0054】
(分割加熱のメリット2)
また、複数の分割ヒーター260及び温度センサ242が設置されている方が、1枚のヒーターを設置した場合より、解凍面250を全体に亘って均一に加熱することが可能となり、解凍面250の何処に解凍対象(細胞凍結容器1)を載置しても略同一の温度条件で解凍することも可能となる。
【0055】
(分割加熱のメリット3)
また、この解凍装置100で一度に解凍すべき細胞凍結容器1が少ない場合には、いずれの解凍面250においても加熱が不要な領域が生じ得る。例えば、解凍面250の左右両側が不要となり、中央領域のみ加熱が必要となり得る。この分割加熱の実施態様であれば、加熱不要な領域(例えば、左右両側の領域)に置かれた分割ヒーター260にだけ給電を抑えれば、消費電力・エネルギーの省力化にもつながる。
【0056】
(分割加熱のメリット4)
また、ヒーターを含んだ面が、
図4(c)(魚の鱗片)のように分割されることにより、その部分の柔軟性や局所的な可動性も増し、容器1の形状や寸法に適合し易くなるため、これらの容器1の包み込みが更に容易となる。
【0057】
上述した変形性を有する熱伝導ゴム層212,214,223,225及びフィルム状ヒーター213,222,224が解凍面250を含む又は解凍面250に近接して設けられているため、例えば、互いに異なる形状の複数の細胞凍結容器1を同時に挟持した場合でも、これらを隙間なく挟み込んで、加温(融解)することが可能である。
【0058】
(ベース部)
次に、ベース部300について詳しく説明する。ベース部300は、
図1などに示すように、ベース部筐体301と、ベース部筐体301を支持する脚部302と、天板340とを備える。なお、脚部302には防振パッドが設置されていることが好ましく、これにより、ベース部300で発生する振動が外部構造物(図示しない)に伝達することが抑制される。また、
図1(b)は、参考のため、ベース部300の内部構造を破線で示す。
【0059】
(ベース部の基本構成)
また、
図5は、ベース部300の基本構成を概念的に説明した図である。ベース部筐体301には、解凍部200を駆動可能な揺動手段310と、揺動動作を制御したり、温度センサから温度信号を取得・処理したり、解凍条件を設定・変更・保存するための制御手段320と、これらの手段310,320に給電可能な電源手段330と、が設けられる。
【0060】
なお、ベース部筐体301の外面上面には、
図1に示すように、主電源スイッチ350、及び操作パネル360が設けられ、ヒーターの加熱条件や揺動条件を表示・入力することができる。また、ブザー380も取り付けられており、警告音や起動音や終了音などを発することができる。
【0061】
また、図示しないが、ブザー380の機能に代えて、又はブザー380の機能とともに、制御手段320に、操作者(看護婦等の医療従事者)の携帯端末に解凍終了や異常停止に関する信号を送る機能を付加してもよい。
【0062】
(ベース部と解凍部との接続)
天板340の上面341には、
図1(b)や
図2に示すように、下側筐体220の下面220bに設けられた凸部220pを収容可能な接続孔342が設けられる。これにより、下側筐体220を含んだ解凍部200が、ベース部300の上部に位置する天板340に着脱可能となる。また、大小異なるサイズを有した解凍部(図示せず、例えばA4又はB5サイズの解凍面を有した解凍部)を用意していれば、解凍対象の容器1の寸法や数に合った適切なサイズの解凍部に適宜交換してベース部300に載置することができるようになる。なお、
図1(b)などの図面には、ベース部300の電源手段330や制御手段320から、電力や通信を要する解凍部200内の構成要素(温度センサ241,242や面状ヒーター213,224など)へ繋がる配線等の描画を省略している。
【0063】
図6及び
図7などを参照しながら、ベース部筐体301内の構造について説明する。なお、
図7は、説明の便宜のため、ベース部筐体301と天板340とを除去したうえで、ベース部300の側面を示す。
【0064】
(電源手段)
電源手段330の構成部材として電源インレット331と制御・モーター電源332とがベース部筐体301内に設けられる。制御・モーター電源332は、電源インレット331で得られたAC100Vの電圧をDC24Vの電圧に変換してモーター311に電力を供給する。
【0065】
(揺動手段の具体的な構成)
また、揺動手段310の構成部材として、モーター311、増速ギア群312、偏芯軸313、天板340等が設けられる。また、制御手段320の構成部材としてモータードライバ321の他、操作モニター基板322や制御基板323などが設けられる。操作モニター基板322及び制御基板323は、解凍温度の設定・監視・制御の役割も担う。
【0066】
なお、上述の構成部材の他、電気回路を構成するために、制御基板リレー324、ヒーター用リレー325、電力ヒューズ326なども併せて設置されている。
【0067】
(揺動手段による解凍部の揺動)
モーター311は、制御・モーター電源332により給電されて動作可能となり、モータードライバ321及び制御基板323によって回転数等の回転動作が制御される。モーター311は、ベース部筐体301の下側に設けられた増速ギア群312の歯車(312a)と噛み合っており、モーター311の動力が増速ギア群312内の歯車312a,312b,312c,312d内を順次伝達する。そして、歯車伝達の面でモーター311から最も離れた歯車312dが偏芯軸313と接続している。偏芯軸313の上部は天板340に接続されている。
【0068】
以上の構成により、モーター311が回転すると、増速ギア群312の各歯車312a~312dも回転速度を増加させながら回転する。増速ギア群312の最終の歯車312dの回転中心と、偏芯軸313とは、互いに数ミリ(1~10mm、例えば5mm)ずれているため、増速ギア群312が回転すると、偏芯軸313及び天板340が5mm偏芯しながら駆動つまり揺動する。つまり、平面視で天板340が上記偏芯によって生じた距離(ずれ)を回転半径とした円を描くように動く。また、
図6(a)に示すように、偏芯軸313が連結板343を介して天板340に接続されるようにしてもよい。
【0069】
なお、
図6及び
図7に示すように、揺動手段310に複数の偏芯軸313,314を設けるようにしてもよい。具体的には、第1偏芯軸(駆動側)313から平行に離間した第2偏芯軸(追従側)314も設けられており、第1偏芯軸313と第2偏芯軸314とは、図示しない伝達ベルトや歯車によって接続されている。このように複数の偏芯軸313,314を設けることで、解凍部200の重量が増加しても、支障なく確実に解凍部200を揺動させることができる。
【0070】
上述の揺動手段310に加えて、第2揺動手段(例えば、図示しない振動モーター)を天板340等に設置するようにしてもよい。これにより、揺動手段310による平面方向の上記回転動作(100~1,000rpmの揺動)だけでなく、第2揺動手段による鉛直方向の微振動(例えば、2,000~3,000rpm程度の振動)をも天板340及び解凍部200に付与することが可能となる。
【0071】
制御手段320は、細胞凍結容器1の形状及び数量(容量)に応じた揺動動作を実現するための最適なパラメータを設定することができる。また、制御手段320では、揺動数の他にも、加熱温度(例えば、室温~70℃)、待機温度(例えば、室温~70℃)、最低温度からの温度上昇率(例えば、0~100%)、最低温度からの温度上限(例えば、室温~70℃)、解凍時間(例えば、1~10分)などの昇温プログラムに関するパラメータ、その他の安全に関するパラメータ(例えば、過熱防止温度)を設定できる。
【0072】
また、制御手段320は、細胞凍結容器1の形状・種類に合わせて上述のパラメータを組み合わせた解凍条件を複数(例えば、3種)までメモリ327(
図5参照)に予め保存することができる。また、温度センサから逐次取得する温度情報を表示ディスプレイ366(
図9(a)参照)などの表示部に表示させたり、安全パラメータと比較させたり、メモリ327に保存させたりすることも可能である。
【0073】
(操作パネル)
図9(a)に示す操作パネル360には、モードスイッチ361、スタートスイッチ362、セットスイッチ363、エンタースイッチ364、上下スイッチ365などのスイッチ類が設けられる他、表示ディスプレイ366、モード表示灯367、運転状態表示灯368(スタンバイ表示灯、ラン表示灯、エラー表示灯など)が設けられる。
【0074】
(操作パネル上の各種スイッチ)
モードスイッチ361は、予め設定した複数の解凍条件(解凍モード)から所望のモードを選択することができる。最終決定された解凍モードは、いずれかのモード表示灯367の点灯状態で確認することができる。スタートスイッチ362は、例えば、運転の開始や停止を選択することができる。セットスイッチ363は、例えば、解凍条件を構成する種々のパラメータの設定変更を行うためにパラメータの表示・切替えが可能である。エンタースイッチ364は、例えば、上述のパラメータの設定変更の確定を行う。上下スイッチ365は、例えば、パラメータ設定値を入力・変更する。
【0075】
(操作パネルでの解凍モードの選択及び設定)
実施例の解凍装置100では、細胞凍結容器1又は細胞の種類に合わせた解凍条件を3種(3つのモード)までメモリ327に予め保存できるが、この例に限定されず、モード数は増減してもよい。操作者は、これら予め設定された複数の解凍モードから、解凍対象に適合した解凍モードを単に選択するだけでよいので、解凍対象毎の設定変更に手間が殆ど掛からないで済む。予め設定されたモードに適さない解凍対象(例えば、新種の細胞や新規形状の細胞凍結容器)を解凍する場合には、セットスイッチ363、エンタースイッチ364、上下スイッチ365などを使用して、新たな解凍モードに設定変更してもよい。
【0076】
(解凍装置の使用方法)
次に、上述した解凍装置100の使用方法の一例について、説明する。
(1)電源インレット331と電源コンセント(AC100V、図示せず)をつなぎ、主電源スイッチ350をONにする。
(2)操作パネル360上のモードスイッチ361を押下げすることで、解凍対象に応じた解凍条件を3種の解凍モードから選択する。
(3)予熱が開始され、設定温度に達すると、ブザー380と運転状態表示灯368により解凍可能状態が告知される。
(4)解凍面250をエタノール等で清掃し、解凍面250に細胞凍結容器1をセットする。
(5)解凍部200の上側筐体210を下側筐体220に近づけて解凍空間を閉鎖・施錠する。
(6)スタートスイッチ362を押下げする。
(7)解凍が完了すると、ブザー380と運転状態表示灯368により解凍完了が告知される。
(8)解凍部200の施錠を解除し、上側筐体210を持ち上げて解凍空間を静かに開放し、細胞凍結容器1を取り出す。
(9)細胞凍結容器1を取り出した後、解凍可能状態を示す運転状態表示灯368が点灯していれば、別(残り)の細胞凍結容器1に対して上記(4)~(8)の工程を繰り返す。消灯していれば、上記(3)の工程から開始する。
(10)全ての細胞凍結容器1に対して解凍作業が終了した場合、必ず主電源スイッチ350をOFFにし、電源コンセントを抜く。
【0077】
(解凍装置の使用後のメンテナンス)
解凍装置100の使用後、解凍面250が汚れていた場合、消毒用エタノール等で清掃する。もし解凍面250の汚損が激しい場合、解凍面250を構成するビニール製シート251や熱伝導ゴム層212,214,223,225や、上下の枠体215,226を新品に交換する。なお、このメンテナンスを行う際は、安全の為、必ず主電源スイッチ350をOFFにし、電源コンセントを抜いておく。
【実施例2】
【0078】
(実証試験)
本発明の解凍装置100を用いて、凍結細胞を実際に解凍し、その細胞の生存率を測定する実験(実証試験)を行った。また、比較例としてウォーターバスを用いた温浴による細胞の解凍も行い、その細胞の生存率も測定した。
【0079】
(細胞の培養及び培養時の細胞生存率の測定)
本実施例の供試細胞は以下の方法に従って培養した。すなわち、3T3-J2細胞を定法に従い80%コンフルエントになるまで培養し、この細胞を回収後、細胞保存液(10%BS、10%DMSO、80%DME培地)に懸濁し、生存率を自動蛍光細胞計数装置LUNA-FL(ロゴスバイオ社)にて計測した。
【0080】
(細胞の凍結保存)
細胞保存液に懸濁した細胞を2mlずつ、細胞凍結容器(扁平状容器)1A(ジェイ・エム・エス社製)又は細胞凍結容器(円筒状容器、クライオチューブ)1B(バイオロジックス社製#88-3202)に分注し、定法に従い液体窒素内で凍結保存した。
【0081】
(細胞の解凍及び生存細胞率の測定)
一定期間液体窒素内で保管した細胞を、ウォーターバスによる37℃の温浴(比較例)又は本発明の解凍装置100を用いて解凍し、上記自動蛍光細胞計数装置にて細胞の生存率を計測した。
【0082】
【0083】
(計測結果)
各試験条件での細胞生存率の計測結果を表1に示す。本発明の解凍装置では、解凍対象の凍結細胞に対し最適な昇温プログラムを設定できるため、細胞にとって最適な状態で解凍することができる。このため、従来の温浴法(比較例)に比べて細胞の生存率が格段に高くなる結果となった。また、細胞凍結容器として形状・寸法の異なった容器1A,1Bを使用したが、どちらの形状の容器1A,1Bを使用しても、本発明の解凍装置の方が、解凍後の細胞生存率が高く維持できることが判った。
【実施例3】
【0084】
(解凍後の細胞培養及び細胞増殖能の評価)
次に、上述のように円筒状の細胞凍結容器1Bにて凍結保存した細胞を、本発明の解凍装置100を用いて解凍し、その5分の1の量をシャーレ(10cm径)にて一週間培養し、培養終了時点での細胞の分裂回数を計測し、増殖能力を評価した。
【0085】
【0086】
(評価結果)
各試験条件での細胞の分裂回数の観察結果を表1に示す。本発明の解凍装置では、解凍対象の凍結細胞に対し最適な昇温プログラムを設定できるため、細胞にとって最適な状態で解凍することができる。このため、従来の温浴法(比較例)に比べ、解凍後の細胞を、より高い細胞増殖能を保持した状態で生存させることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明の細胞解凍装置を用いれば、専門病院ではない末端病院においても、細胞凍結容器内で凍結保存された細胞(より具体的には、培養線維芽細胞や培養表皮細胞)を誰でも簡単に解凍することができる。
【0088】
また、本発明の細胞解凍装置は、様々な形状の細胞凍結容器に対応可能で、細胞凍結容器に頻繁に接触する解凍部の構成部材(例えば、解凍面)のメンテナンスが容易である。
【0089】
また、本発明の細胞解凍装置は、多数の細胞凍結容器を一度に挟持可能で、かつ、細胞凍結容器毎に熱環境を設定管理可能な細胞解凍装置を提供することができる。
【0090】
このように、本発明は、上記再生医療分野での凍結細胞を利用した病院間連携を後押しするだけでなく、従来の下肢切断に代わる治療手法としての培養細胞移植の確立・普及に貢献することは間違いなく、産業上の利用価値は非常に高い。
【符号の説明】
【0091】
1,1A,1B 細胞凍結容器
100 細胞解凍装置
200 解凍部
210 上側筐体
211 断熱材層
212,214 熱伝導ゴム層
213 面状ヒーター(フィルム状ヒーター)
215 枠体
220 下側筐体
221 断熱材層
222,224 面状ヒーター(フィルム状ヒーター)
223,225 熱伝導ゴム層
226 枠体
230 ヒンジ部
241,242,243 温度センサ(サーミスタ,熱電対,温度ヒューズ)
250 解凍面
251 プラスティック製フィルム(ビニール製シート)
260 分割ヒーター
300 ベース部
301 ベース部筐体
302 ベース部の脚部
310 揺動手段
320 制御手段
330 電源手段
340 天板
350 主電源スイッチ
360 操作パネル