(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】酸素洗浄パイプ及び酸素洗浄装置
(51)【国際特許分類】
B22D 41/58 20060101AFI20221205BHJP
B22D 43/00 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
B22D41/58
B22D43/00 F
(21)【出願番号】P 2018111917
(22)【出願日】2018-06-12
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2017115445
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517206971
【氏名又は名称】井阪産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 瞭
(72)【発明者】
【氏名】亀沢 健之
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴光
(72)【発明者】
【氏名】田邊 右保
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-008529(JP,A)
【文献】特開平08-025025(JP,A)
【文献】実公昭51-029318(JP,Y2)
【文献】実開昭61-045425(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 33/00-47/02
F23D 14/26-14/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側が鉛直方向に延在するパイプであり、前記一端の反対側の他端から内部に酸素ガスが供給される外管と、
前記鉛直方向に延在するパイプであり前記外管の前記一端側の内部に収容される管部と、前記管部の内部に複数設けられる鉄線及び鉄板の少なくとも一方と、前記鉛直方向の下側端部に設けられ前記酸素ガスの圧力を受ける受圧部と、を有し、前記外管を通じて供給される前記酸素ガスの圧力を、前記受圧部が受けることで、前記鉛直方向の上方へと移動可能に構成される内管と、
前記内管が上方へと移動しないように、前記内管と前記外管とを接続するロック機構と、
を備え、
前記鉄線及び鉄板の少なくとも一方と前記受圧部とは溶接で接合されていて、
前記
外管へ10kg/cm
2以上の圧力で酸素ガスが供給され、
前記ロック機構は、溶鋼によって溶解する鋼製の部材であ
り、
前記内管の鉛直方向の上側端部に、着火剤を有することを特徴とする酸素洗浄パイプ。
【請求項2】
一端側が鉛直方向に延在するパイプであり、前記一端の反対側の他端から内部に酸素ガスが供給される外管と、
前記鉛直方向に延在するパイプであり前記外管の前記一端側の内部に収容される管部と、前記管部の内部に複数設けられる鉄線及び鉄板の少なくとも一方と、前記鉛直方向の下側端部に設けられ前記酸素ガスの圧力を受ける受圧部と、を有し、前記外管を通じて供給される前記酸素ガスの圧力を、前記受圧部が受けることで、前記鉛直方向の上方へと移動可能に構成される内管と、
前記内管が上方へと移動しないように、前記内管と前記外管とを接続するロック機構と、
を備え、
前記鉄線及び鉄板の少なくとも一方と前記受圧部とは溶接で接合されていて、
前記
外管へ10kg/cm
2
以上の圧力で酸素ガスが供給され、
前記ロック機構は、前記内管と前記外管との接続を解除可能な解除手段を有
し、
前記内管の鉛直方向の上側端部に、着火剤を有することを特徴とする酸素洗浄パイプ。
【請求項3】
前記内管は、前記鉛直方向の上側端部に
、鉄線を
さらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の酸素洗浄パイプ。
【請求項4】
前記内管は、前記受圧部の外周に設けられ、前記受圧部の外周面と前記外管の内周面との隙間をシールするシール部材をさらに有し、
前記受圧部は、前記管部の外径よりも大きな外径を有し、
前記外管の前記一端側の内径は、前記受圧部の外径よりも小さく、前記管部の外径よりも大きいことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の酸素洗浄パイプ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の酸素洗浄パイプと、
前記酸素洗浄パイプへ10kg/cm
2以上の圧力で酸素ガスを供給する酸素供給機構と、
を備えることを特徴とする酸素洗浄装置。
【請求項6】
前記酸素洗浄パイプを着脱可能な支持台をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の酸素洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素洗浄パイプ及び酸素洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所の製鋼工場では、精錬処理した溶鋼を鋳型に注入して凝固させることで、スラブ等の半製品や鋼塊などを鋳造する、鋳造工程が行われる。鋳造工程では、取鍋に収容された溶鋼を、タンディッシュや注入管を通じて鋳型に注入することで鋼の鋳造が行われる。この際、取鍋の底部に設けられたスライディングノズルを摺動させ、スライディングノズルの下側に設けられた下部ノズルから溶鋼を流出させる。また、溶鋼を詰まりなく取鍋から流出(自然開孔)させるため、スライディングノズルの上側に設けられた上部ノズル内には、詰め砂が詰められている。
【0003】
しかし、詰め砂を詰めていたとしても、上部ノズル内での溶鋼の凝固などによって閉塞物が生じる可能性があり、スライディングノズルを摺動させても取鍋から溶鋼が流出しない状態である不開孔が発生する場合があった。
不開孔が発生した場合の措置として、例えば、特許文献1には、外管パイプ内に上昇可能な内管パイプを装着し、外管パイプに酸素を供給することで内管パイプをノズル内に挿入させて酸素洗浄させる方法が開示されている。また、特許文献2には、このような内管パイプに酸素受圧板やパッキンを内蔵させることで、少ない酸素量でも内管パイプを上昇させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭54-41540号公報
【文献】特開平8-25025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1,2の方法では、一度の作業で閉塞物を除去することが難しく、パイプ(内管パイプ及び外管パイプ)を何度も交換する必要があった。この際、高温の取鍋の下で、作業者が交換作業を行う必要があった。また、交換する使用後のパイプは、高温のものとなるため、交換作業には危険性が伴っていた。
また、連続鋳造を行う場合、取鍋からの漏鋼防止やノズルを開孔する際のノズル等への焼付きを防止するため、溶鋼が収容される前に、取鍋内のノズルを覆うように詰め砂が投入される。しかし、この詰め砂が溶鋼によって焼結してしまうことがあり、このような場合には、溶鋼が排出されない不開孔の状態となる。このような不開孔が発生し、ノズルが開孔するまでに時間を要してしまうと、連続鋳造プロセスでは連々切れが発生する。連々切れが発生すると、新たなタンディッシュを準備する必要性があることから、生産能率が低下し、製造コストの増加を招いてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、ノズル内の閉塞物を効率よく、短い時間で、且つ安全に除去することができる、酸素洗浄パイプ及び酸素洗浄装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、一端側が鉛直方向に延在するパイプであり、上記一端の反対側の他端から内部に酸素ガスが供給される外管と、上記鉛直方向に延在するパイプであり上記外管の上記一端側の内部に収容される管部と、上記管部の内部に複数設けられる鉄線及び鉄板の少なくとも一方と、上記鉛直方向の下側端部に設けられ上記酸素ガスの圧力を受ける受圧部と、を有し、上記外管を通じて供給される上記酸素ガスの圧力を、上記受圧部が受けることで、上記鉛直方向の上方へと移動可能に構成される内管と、を備え、上記鉄線及び鉄板の少なくとも一方と上記受圧部とは溶接で接合されることを特徴とする酸素洗浄パイプが提供される。
本発明の一態様によれば、上記の酸素洗浄パイプと、前記酸素洗浄パイプへ10kg/cm2以上の圧力で酸素ガスを供給する酸素供給機構と、を備えることを特徴とする酸素洗浄装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、ノズル内の閉塞物を効率よく、短い時間で、且つ安全に除去することができる、酸素洗浄パイプ及び酸素洗浄装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る酸素洗浄装置を示す模式図である。
【
図5】受圧部が外管の一端側に配された状態を示す断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る酸素洗浄方法を示す説明図である。
【
図7】酸素洗浄パイプの変形例を示す一部断面図である。
【
図9】酸素洗浄パイプの変形例を示す一部側面図である。
【
図10】酸素洗浄パイプの変形例を示す一部側面図である。
【
図11】
図10の変形例における、解除ピンを用いた開放動作を示す説明図である。
【
図12】酸素洗浄パイプの内管の変形例を示す一部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の詳細な説明では、本発明の完全な理解を提供するように、本発明の実施形態を例示して多くの特定の細部について説明する。しかしながら、かかる特定の細部の説明がなくても1つ以上の実施態様が実施できることは明らかであろう。また、図面は、簡潔にするために、周知の構造及び装置が略図で示されている。
【0011】
<酸素洗浄装置>
本発明の一実施形態に係る酸素洗浄装置1について説明する。
図1に示すように、酸素洗浄装置1は、不開孔となった取鍋2を開孔させる装置である。取鍋2は、溶鋼3を収容する容器であり、鉄皮の内側に耐火物がライニングされる。取鍋2の底部には、溶鋼3を流出するための、上部ノズル20と、スライディングノズル21と、下部ノズル22とが設けられる。また、上部ノズル20、スライディングノズル21及び下部ノズル22を、まとめてノズル23ともいう。
【0012】
上部ノズル20は、取鍋2の底部の鉄壁及び耐火物に形成された孔に挿入された状態で固定される。スライディングノズル21は、中央に孔が設けられた多層式のプレートであり、少なくとも1枚のプレートが他のプレートに対して摺動可能に設けられる。
図1の例では、スライディングノズル21は3層式のプレートであり、積層方向の中央のプレートが他の2枚のプレートに対して、
図1の左右方向に摺動可能に構成される。また、積層方向(
図1の上下方向)の上側のプレートは上部ノズル20に固定され、下側のプレートには下部ノズル22が固定される。鋳造工程では、取鍋2に収容された溶鋼3を、ノズル23を通じて流出させ、タンディッシュや注入管へと移注することで鋳造が行われる。この際、スライディングノズル21のプレートが摺動することで、上部ノズル20と下部ノズル22との孔がスライディングノズル21を通じてつながり、この孔を通じて溶鋼3が下部ノズル22から流出することとなる。なお、このスライディングノズル21を摺動させて溶鋼3を流出させる動作を開口動作という。
【0013】
このような取鍋2では、溶鋼3や詰め砂がノズル23内で凝固した閉塞物が生じてしまうと、開口動作を行っても溶鋼3が取鍋2から排出されない不開孔の状態となる。例えば、連続鋳造機にて鋳造を行う連続鋳造法の場合、取鍋2をタンディッシュ上の所定の位置に配した後、開口動作を行うことで鋳造が行われるが、この際にノズル23内に閉塞物が在ると不開孔となる。また、注入管を通じて大型の鋳型に溶鋼を注入して鋼塊を鋳造するインゴット造塊法の場合、1つの取鍋で複数の注入管に溶鋼を注入することがある。このような場合、注入が一度行われると、次の注入が行われるまでは、ノズル23から溶鋼3が流出しないようにスライディングノズル21を摺動させてノズル23を閉じた状態にする。このため、2回目以降の注入を行う場合には、ノズル23に閉塞物が生じやすくなるため、不開孔が発生しやすくなる。
【0014】
図1に示すように、酸素洗浄装置1は、酸素洗浄パイプ4と、支持台5と、酸素供給ホース6と、酸素供給機構8とを備える。
酸素洗浄パイプ4は、
図2に示すように、外管40と、内管41とを有する。
外管40は、金属製のL字型に屈曲した円筒状のパイプであり、一端側が鉛直方向(
図1及び
図2の上下方向)に延在し、他端側が水平方向(
図1及び
図2の左右方向)に延在して設けられる。外管40の他端側は、支持台5に着脱可能に固定される。また、外管40の一端側の内径は、外管40の他の箇所の内径よりも小さいことが好ましい。
【0015】
内管41は、管部410と、6本の鉄線411と、着火剤412と、受圧部413と、シール部材414とを有する。
管部410は、鉄製の円筒状のパイプであり、鉛直方向に延在して配される。また、管部410は、外管40の一端側に挿通して設けられる。管部410の外径は、外管40の一端側の内径よりも小さい。
【0016】
6本の鉄線411は、管部410と同じ長さの鉄線であり、管部410の内側に周方向に並んで配される。また、6本の鉄線411は、管部410の内部で移動しないよう、各鉄線411と管部410の内面とが接触し、さらに隣り合う鉄線411同士が接触した状態で設けられる。このような管部410及び鉄線411からなるパイプは、酸素ランス、酸素溶断棒またはランサー棒ともいう。
【0017】
着火剤412は、外管40の外側となる、管部410の鉛直方向の上側端部に固定して設けられる。着火剤412は、閉塞したノズル23内、特に閉塞物7の近傍程度の温度で燃焼するものであればよく、例えば、酸化鉄(Fe2O3)やメタルアルミ、塩素酸カリウム等の混合物に油を含浸させたもの等をメタルメッシュ入りゴムホースに詰めたものであってもよい。また、着火剤412は、管部410の上端、あるいは管部410の上端側の外周面に固定されることで設けられる。
【0018】
受圧部413は、金属製の円筒状部材であり、管部410の下端に接続して固定される。受圧部413は、外管40へと供給される酸素ガスの圧力を受ける部材であり、外径が管部410の外径よりも大きく、内径が管部410の内径よりも小さく構成される。内管41は、受圧部413にかかる酸素ガスの圧力によって、鉛直方向上側へと移動可能に構成される。つまり、受圧部413の内径及び外径は、内管41が鉛直方向上側へ移動可能なように、内管41の重量や用いられる酸素ガスの流量または圧力に応じて決定される。なお、外管40の一端側の内径が外管40の他の箇所の内径よりも小さい場合には、受圧部413の外径が外管40の一端側の内径よりも小さくなることが好ましい。さらに、受圧部413には、外周面にシール部材414を嵌めるための凹部が形成される。
【0019】
また、受圧部413は、自身の上面と、6本の鉄線411の下端(
図2の下側の端)とが溶接によって接合される。このようにすることで、後述する酸素洗浄を行う際に、鉄線411の内管41からの飛び出しを防止することができる。鉄線411の内管41からの飛び出し防止の方法としては、内管41を加締めることで、内管41と6本の鉄線411とを固定される手段も考えられる。しかし、このようなに加締めを用いた方法では、6本の鉄線411及び受圧部413を有する、重量の大きな内管41を押し上げる程度の高い酸素圧力に耐え得ることが難しく、酸素圧力によって鉄線411が飛び出る可能性が高くなる。また、内管41の形状が変わってしまうため、本実施形態のように酸素洗浄を行う際に、外管40の中を内管41が移動するような構造においては、内管41のスムーズな移動が阻害される可能性が出てくるため好ましくない。さらに、内管41の機械的な耐久性も低下してしまう。
【0020】
シール部材414は、オーリング等のパッキンである。シール部材414は、受圧部413の外周面に形成された凹部に嵌めこまれ、受圧部413の外周面と外管40の内周面との隙間をシール(密封)する。なお、シール部材414として、オーリング等のパッキンを2つ以上設けてもよい。
【0021】
支持台5は、酸素洗浄パイプ4を保持する台であり、酸素洗浄パイプ4の外管40の他端側を着脱可能に固定する。また、支持台5は、酸素供給ホース6が接続され、内部に設けられた酸素供給経路(不図示)を介して、酸素供給ホース6から供給される酸素ガスを外管40内へと供給する。
【0022】
酸素供給ホース6は、可撓性を有するホースであり、一端側が支持台5に接続され、他端側が酸素供給装置(不図示)に接続される。酸素供給ホース6は、酸素供給機構8から供給される酸素ガスを支持台5へと供給する。
酸素供給機構8は、酸素洗浄パイプ4に、10kg/cm2以上の圧力で酸素を供給する装置や設備である。酸素洗浄パイプ4に供給する酸素圧力を10kg/cm2以上とすることが好ましい。このようにすることで、酸素洗浄に必要な押し付け圧を確実に確保することができる。供給される酸素圧力が10kg/cm2未満となる場合、必要な押し付け圧が確保できず、確実にノズル23を開孔できない可能性が生じる。押し付け圧を確保する観点からは、供給される酸素圧力は高い方が好ましい。しかしながら、酸素圧力が高すぎる場合、酸素圧力に耐えるために酸素洗浄装置1の耐久性を上げる必要があり、装置重量の増加による操作性の悪化や装置製造のコスト増加に繋がる。このため、外管40へと供給される酸素圧力は15.0kg/cm2以下とすることが好ましい。
【0023】
上記構成の酸素洗浄装置1では、酸素供給機構8から酸素ガスが供給されると、供給された酸素ガスが酸素供給ホース6及び支持台5を通じて、酸素洗浄装置1の外管40内に他端側から供給される。そして、外管40内に供給された酸素ガスは、外管40の一端側へと移動する。この際、
図4に示すように、供給される酸素ガスの圧力が内管41の受圧部413にかかることで、内管41が鉛直方向上側へと移動する。なお、外管40の一端側の内径が外管40の他の箇所の内径よりも小さい場合、
図5に示すように、受圧部413と外管40の一端とが当接するため、内管41が外管40から抜けることを防止することができる。
【0024】
<取鍋の酸素洗浄方法>
次に、酸素洗浄装置1を用いた取鍋2の酸素洗浄方法について説明する。本実施形態では、まず、
図6(A)に示すように、不開孔となった取鍋2のノズル23が内管41の鉛直方向の上方に位置するように、取鍋2及び酸素洗浄装置1の少なくとも一方の位置を調整する。
次いで、スライディングノズル21を摺動させて開口動作を行った状態で、酸素供給機構8から酸素供給ホース6へと酸素ガスを供給する。この際、酸素供給機構8から供給される酸素ガスの圧力を10kg/cm
2以上とすることが好ましい。
【0025】
この際、酸素ガスが酸素洗浄パイプ4へと供給された後、受圧部413へと酸素ガスの圧力がかかることで、
図6(B)に示すように、内管41が鉛直方向上側へと移動する。移動した内管41は、ノズル23内に挿入され、ノズル23内に形成された閉塞物7に先端の着火剤412が当接する。そして、高温の閉塞物7と接触することによって着火剤412が燃焼し、さらに供給される酸素ガスと内管41との燃焼(酸化反応)によって生じる熱により閉塞物7が溶断・除去される。なお、処理初期における閉塞物との燃焼を促進させるため、予め、別に設けたトーチやバーナ等を用いて、着火剤412を燃焼させた状態で、閉塞物7に着火剤412を接触させてもよい。この燃焼反応による閉塞物7の除去処理を、酸素洗浄処理という。酸素洗浄処理は、ノズル23内の閉塞物7が除去され、ノズル23から溶鋼3が流出するまで行われる。この際、酸素供給装置から酸素ガスが継続して供給された状態で酸素洗浄処理が行われる。なお、酸素ガスの流量を一定として酸素洗浄処理を行ってもよく、内管41の先端が閉塞物7に当接するまでは酸素ガスの流量を内管41が上側へ移動可能な程度の低い流量とし、当接した後には酸素ガスの流量を上げて酸素洗浄処理を行ってもよい。
酸素洗浄処理では、ノズル23が開孔するまでは酸素ガスが継続して供給されることにより、内管41は、先端が溶解しても酸素ガスの流量に応じた圧力で押し上げられ、先端が閉塞物7に一定の圧力で押し当てられた状態となる。このため、閉塞物7に継続して熱を与えることができる。
【0026】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0027】
例えば、上記実施形態では、受圧部413はシール部材414が設けられた円筒状の部材であるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。受圧部413は、酸素ガスによって内管41が鉛直方向上側へ移動でき、且つ管部410の内部に酸素ガスが供給されるものであれば、上記実施形態と異なる形状や構成であってもよい。例えば、受圧部413は、中央に孔が形成された円板であってもよい。また、受圧部413には、シール部材414が設けられなくてもよい。
【0028】
また、上記実施形態では、酸素洗浄パイプ4を
図2に示す構成としたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、
図7に示すように、外管40の上側の先端が、先端側ほど外径が小さくなるように、テーパー401が設けられた構成としてもよい。酸素洗浄の処理が進むと、酸素洗浄パイプ4には溶鋼が垂れてくる。このような場合に、外管40の先端に溶鋼が付着してしまうと、外管40や外管40の先端近傍の内管41が溶けてしまい、酸素洗浄を続行できなくなる。しかし、外管40の先端にテーパー401を設けることにより、垂れてきた溶鋼が、外管40に付着しづらくなり、上記のトラブルの発生を抑制することができる。さらに、
図7に示すように、受圧部413にシール部材414が2段または3段以上の複数段設けられてもよい。シール部材414を複数段とすることで、受圧部413と外管40とのシール性が向上し、鉄線411や受圧部413が設けられ、重量の大きな内管41を、高い酸素圧力でより確実に上昇させることができるようになる。
【0029】
また、上記実施形態では、インゴット造塊法における注入時の不開孔の場合に、酸素洗浄装置1を用いることとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、連続鋳造法において発生する不開孔についても酸素洗浄装置1を用いてもよい。この場合、
図1に示すように酸素洗浄装置1を据え置き型のものとしてもよいが、
図8に示すように、持ち運び可能なユニットとしてもよい。
図8に示す酸素洗浄装置1では、支持台5は設けられず、作業者が外管40の内管41が設けられた側と反対側の水平方向に延在する部分を保持し、着火剤412をノズル23に挿入することで酸素洗浄処理が行われる。なお、
図8に図示していない、酸素洗浄パイプ4の端部には、酸素供給ホース6を介して、酸素供給機構8が接続される。このような酸素洗浄をタンディッシュ上に取鍋2を配した状態で行う場合、取鍋2とタンディッシュとの隙間が狭くなるため、インゴット造塊法に用いられる酸素洗浄パイプ4に比べ、外管40の垂直方向に平行な部分の長さが短くなる。
【0030】
さらに、連続鋳造法において発生する不開孔に酸素洗浄装置1を用いる場合、
図9に示すように、酸素洗浄パイプ4にロック機構42を設けてもよい。ロック機構42は、外管40に内管41が降下して収容された状態において、内管41が上方へ移動しないように、内管41と外管40とを接続する機構である。ロック機構42は、内管41の外面に接続された環状部を有する第1固定部421と、外管40の外面に接続された環状部を有する第2固定部422と、第1固定部421の環状部と第2固定部422の環状部とを結ぶ接続部423とを有する。第1固定部421、第2固定部422及び接続部423は、溶鋼によって溶解するように、鋼製となる。接続部423は、
図10に示す例では、チェーンであるが、鋼製のワイヤー等の他のものであってもよい。連続鋳造法において発生する不開孔に酸素洗浄装置1を用いる場合、詰め砂が焼結等によって凝固した閉塞部となるため、着火剤412だけでは酸素洗浄パイプ4が着火しない可能性がある。このため、作業者が、タンディッシュ内の残鋼に着火剤412を浸して着火させた後、ノズル23に着火をさせることで、開孔の精度を向上させや開孔に係る時間を短縮させることができるようになる。しかし、このようにタンディッシュ内の残鋼に着火剤412を浸す場合、酸素洗浄パイプ4の着火剤412が設けられた先端側が、鉛直方向の下側へと向けられるため、内管41が外管40から飛び出てしまい、落下する可能性がある。しかし、ロック機構42を設けることにより、このような内管41の落下を防止することができる。また、ロック機構42は鋼製であるため、酸素洗浄処理が行われると、発生する溶鋼によって溶解し、内管41と外管40が解放され、内管41の上昇が可能となることから、必要な押し付け圧も確保することができる。さらに、ロック機構42を設けることにより、内管41が外管40から飛び出ないように固定されるため、酸素ガスを流した状態で、ノズル23への着火剤412の挿入を行うことができる。これにより、酸素洗浄処理を一人の作業者でも行うことができるようになる。なお、上記の作業者が酸素洗浄パイプ4を手持ちで酸素洗浄を行う処理については、作業可能な環境であれば、インゴット造塊法における注入時の不開孔時に適用することもできる。
【0031】
さらに、インゴット造塊法における注入時の不開孔に酸素洗浄装置1を用いる場合においても、ロック機構42を適用してもよい。この場合、
図10に示すようなロック機構42を適用することができる。
図10に示す例では、ロック機構42は、第1固定部421と、第2固定部422と、接続部423と、解除ピン424とを有する。第1固定部421、第2固定部422及び接続部423は、
図9に示すものと同じである。解除ピン424は、
図11に示すように、第1固定部421の円幹部と接続部423の上部とを接続するものである。解除ピン424は、略環状の形状を有し、一部に途切れた開放部424aを有する。このようなロック機構42では、
図11(A)、
図11(B)及び図(C)に順に示すように、解除ピン424を、開放部424aと反対側へと引き抜くことで、解除ピン424が第1固定部421及び接続部423から解放される。解除ピン424の引き抜き方法としては、解除ピン424に予めワイヤー等を接続しておき、作業者がこのワイヤーを引っ張ることで引き抜くことができる。これにより、内管41と外管40とが解放され、酸素ガスによって内管41が上昇することができるようになる。インゴット造塊法における注入時の不開孔に酸素洗浄装置1を用いる場合、初期の着火を促進するため、上述のように、トーチやバーナ等によって着火剤への着火が事前に行われる場合がある。このような場合、トーチやバーナ等の火種が、酸素洗浄装置1の近くにない場合には、着火させた後に酸素洗浄装置1を移動させる必要が生じる。この場合、着火を持続させるために酸素ガスをある程度流す必要があるが、ロック機構42がない場合には、火種による着火時や酸素洗浄装置1の移動時において、内管41が外管40から飛び出てしまう。しかしこのような場合において、ロック機構42を設けることにより、内管41が飛び出ないように固定された状態で、酸素洗浄を行う位置まで酸素洗浄装置1を移動させることができる。酸素洗浄装置1を移動させた後は、解除ピン424を引き抜くことで、上記実施形態と同様な処理を行うことができる。なお、
図10及び
図11では、解除ピン424を用いたロック機構42としたが、同様な効果が得られる、つまり内管41と外管40との接続を解除可能なようであれば他の解除手段を用いてもよい。
【0032】
さらに、上記実施形態では、内管41に6本の鉄線411を設ける構成としたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、6本の鉄線411の代わりに、
図12に示すように、3枚の板状の鋼製部材である鉄板415を設けてもよい。このような場合においても、3枚の鉄板415は、受圧部413と溶接によって接合される。また、6本に限らず鉄線411を複数とする構成、少なくとも1枚の鉄板415と少なくとも1本の鉄線411とを組み合わせて設ける構成であってもよい。なお、安定して酸素洗浄を行うためには、
図3及び
図12に示すように、管部410の軸心に直交する断面視において、管部410の中心に空洞がある状態に、鉄線411及び鉄板415を配することが好ましい。このようにすることで、内管41から酸素ガスが偏りなく噴射されるようになるため、安定して酸素洗浄処理を行うことができる。
【0033】
<実施形態の効果>
(1)本発明の一態様に係る酸素洗浄パイプ4は、外管40は、一端側が鉛直方向に延在するパイプであり、一端の反対側の他端から内部に酸素ガスが供給される外管40と、鉛直方向に延在するパイプであり外管40の一端側の内部に収容される管部410と、管部410の内部に複数設けられる鉄線411及び鉄板415の少なくとも一方と、鉛直方向の下側端部に設けられ酸素ガスの圧力を受ける受圧部413と、を有し、外管40を通じて供給される酸素ガスの圧力を、受圧部413が受けることで、鉛直方向の上方へと移動可能に構成される内管41と、を備え、複数の鉄線411及び鉄板415の少なくとも一方と受圧部413とは溶接で接合される。
【0034】
ここで、特許文献1,2のように管部410のみからなるパイプをノズル23内に挿入させて行う酸素洗浄処理では、一度の酸素洗浄処理ではノズル23を開孔させることが困難であった。このような酸素洗浄処理における失敗は、パイプを閉塞物7に押し付けた状態で酸素洗浄処理を行うために酸素ガスの流量を増大させようとすると、ノズル23や閉塞物7が酸素ガスによって冷却されるため、閉塞物7が十分に加熱されずに起こることを本発明者らは知見した。なお、酸素ガスの流量が低い場合においても、閉塞物7が十分に加熱されないため、酸素洗浄処理が失敗することとなる。このことから、本発明者らは、酸素洗浄処理における火力を上げることで、十分な酸素流量を確保しながらも、確実にノズル23を開孔できることを知見し、本発明をするにいたった。
【0035】
つまり、上記(1)の構成によれば、管部410の内部に鉄線411及び鉄板415の少なくとも一方(以下、「鉄線等」ともいう。)を設けた内管41を用いることにより、管部410及び鉄線等が燃焼するようになるため、燃焼反応により生じる熱、つまり火力を向上させることができる。さらに、火力が向上することにより、酸素ガスの流量を十分に確保できるようになるため、内管41を閉塞物7に押し付けた状態で酸素洗浄処理を行うことができ、短い時間で、確実にノズル23を開孔させることができる。つまり、上記(1)の構成によれば、酸素洗浄パイプ4を交換せずともノズル23を開孔させることができるため、ノズル23内の閉塞物7を効率よく、且つ安全に除去することができるようになる。
【0036】
また、内管41は、鉄線等を有しているため、重量が大きくなる。このため、このような内管は、ガス圧で上昇させる機構には用いられてこなかった。しかし、本発明者らは、このような重量の大きな内管41に対して、酸素ガスの圧力を高めることで、ノズル23の閉塞物への押付圧を上昇させることに注目した。そして、酸素ガスの圧力の上昇によって、鉄線等の管部410からの飛び出しを防止するため、鉄線等を受圧部413に溶接して固定することを知見した。つまり、上記(1)の構成によれば、鉄線等1を受圧部413に溶接して固定することで、10kg/cm2以上の高い酸素圧力にも対応することができる。
【0037】
(2)上記(1)の構成において、内管41は、鉛直方向の上側端部に、着火剤412及び鉄線の少なくとも一方を有する。
上記(2)の構成によれば、ノズル23に内管41を挿入した後、すぐに内管41の先端を着火することができる。このため、酸素洗浄処理をより確実に、且つ短時間に行うことができる。
【0038】
(3)上記(1)または(2)の構成において、内管41は、受圧部413の外周に設けられ、受圧部413の外周面と外管40の内周面との隙間をシールするシール部材414をさらに有し、受圧部413は、管部410の外径よりも大きな外径を有し、外管40の一端側の内径は、受圧部413の外径よりも小さく、管部410の外径よりも大きい。
上記(3)の構成によれば、酸素ガスを供給させて内管41を鉛直方向上側へと移動させる際に、内管41が外管40から抜けることを防止することができる。
【0039】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの構成において、内管41が上方へと移動しないように、内管41と外管40とを接続するロック機構42をさらに備え、ロック機構42は、溶鋼によって溶解する鋼製の部材である。
上記(4)の構成によれば、連続鋳造法において発生する不開孔に対して酸洗処理をする際に、不必要な内管41の外管40からの飛び出しを防止することができる。また、酸洗処理を作業者が行う場合に、酸素ガスを供給させた状態で酸素洗浄ランス4を取り回しできるため、作業性を向上させることができる。
【0040】
(5)上記(1)~(3)のいずれかの構成において、内管41が上方へと移動しないように、内管41と外管40とを接続するロック機構42をさらに備え、ロック機構42は、内管41と外管40との接続を解除可能な解除手段(例えば、解除ピン424)を有する。
上記(5)の構成によれば、インゴット造塊法において発生する不開孔に対して酸洗処理をする際に、不必要な内管41の外管40からの飛び出しを防止することができる。また、酸素ガスを供給させた状態で酸素洗浄ランス4を取り回しできるため、作業性を向上させることができる。
【0041】
(6)本発明の一態様に係る酸素洗浄装置1は、上記(1)~(5)のいずれかの構成の酸素洗浄パイプ4と、酸素洗浄パイプ4へ10kg/cm2以上の圧力で酸素ガスを供給する酸素供給機構8と、を備える。
上記(6)の構成によれば、鉄線等を有する内管41を、外管40から上昇させ、閉塞物を除去するために十分な押し付け圧で酸素洗浄を行うことができる。
【0042】
(7)上記(6)の構成において、酸素洗浄パイプ4が着脱可能な支持台5を備える。
上記(4)の構成によれば、酸素洗浄装置1を据え置いて用いることができるようになる。このため、内管41の管部410の長さ及び外管40の鉛直方向に平行な部位の長さを長くすることができるようになり、インゴット造塊法における注入時の不開孔に酸素洗浄装置1を用いることができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明者らが行った実施例について説明する。実施例では、上記実施形態と同様の酸素洗浄装置1を用いて、不開孔となった取鍋2に対して酸素洗浄処理を施しノズル23の開孔を行った。また、比較例として、酸素洗浄装置1の変わりに特許文献2と同様なノズル孔詰まり除去ランスを用いて、酸素洗浄処理を行った。
【0044】
表1に、実施例の結果を示す。表1において、「パイプ交換なしでの開孔成功率」は、酸素洗浄処理を複数回行ったうちの、1本の酸素洗浄パイプ4でノズル23を開孔できた酸素洗浄処理の回数の比率を示し、「開孔に要したパイプの本数」は、ノズル23が開孔するまでに要した酸素洗浄パイプ4の本数を示す。なお、実施例では10回の酸素洗浄処理、比較例では15回の酸素洗浄処理を行った。
【0045】
【0046】
表1に示すように、実施例の条件では、酸素洗浄パイプ4の交換をすることなく、一度の酸素洗浄処理で不開孔となったノズル23を開孔できることが確認できた。これに対して、比較例の条件では、パイプ交換なしでの開孔成功率は30%となり、開孔までのパイプの使用本数は2本~3本となった。つまり、比較例の条件では、一度の酸素洗浄処理ではノズル23を開孔させることが難しく、酸素洗浄パイプを交換しながら複数回の酸素洗浄処理を行わなければ開孔させることができなかった。これは、酸素洗浄パイプを閉塞物7に押し当てられる程度の、酸素ガスの流量とした場合に、火力が足りないために、開孔できないことがあることを示している。
以上のことから、上記実施形態に係る酸素洗浄装置1を用いることで、酸素洗浄パイプ4の交換をすることなく一度の酸素洗浄処理で開孔できるようになることから、ノズル内の閉塞物を効率よく、且つ安全に除去することができることが確認できた。
【符号の説明】
【0047】
1 酸素洗浄装置
2 取鍋
20 上部ノズル
21 スライディングノズル
22 下部ノズル
23 ノズル
3 溶鋼
4 酸素洗浄パイプ
40 外管
41 内管
410 管部
411 鉄線
412 着火剤
413 受圧部
414 シール部材
415 鉄板
42 ロック機構
421 第1固定部
422 第2固定部
423 接続部
424 解除ピン
424a 開放部
5 支持台
6 酸素供給ホース
7 閉塞物
8 酸素供給機構