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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】吸湿材
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/28 20060101AFI20221205BHJP
   C07F 9/54 20060101ALI20221205BHJP
   C07F 9/11 20060101ALI20221205BHJP
   C09K 3/00 20060101ALN20221205BHJP
【FI】
B01D53/28
C07F9/54
C07F9/11
C09K3/00 N
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018132265
(22)【出願日】2018-07-12
(65)【公開番号】P2020006349
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】野上 敏材
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/153045(WO,A1)
【文献】特表2007-518772(JP,A)
【文献】特開2016-52614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0354924(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/26-53/28
C07F 9/11,9/54
C09K 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で示されるカチオンと、下記化学式(2)で示されるアニオンとを有するイオン液体を含む吸湿
【化1】
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、吸湿材に関する。
【背景技術】
【0002】
デシカント式の空調機においては、空気中の水蒸気を吸収する特性を持つ吸湿材(デシカント)が使用される。このような吸湿材として、従来、塩化リチウム水溶液、塩化カルシウム水溶液などが用いられてきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-180433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の吸湿材は、高い吸湿性を有しており、安定して低湿度の空気を得ることができるという利点があるが、金属に対する腐食性を有するため、熱交換器にチタンなどの耐食性の高い材料を使用する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される吸湿材は、下記一般式(1)で示されるカチオンと、下記一般式(2)で示されるアニオンとを有するイオン液体を含む。
【0006】
【化1】
(式(1)中、R、R、およびRは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、または、2個以上のアルキル基が1つまたは2つ以上のエーテル結合またはチオエーテル結合を介して結合した1価の基を示す。アルキル基は、直鎖アルキル基であっても、分枝アルキル基であっても構わない。Rは、水素原子、または炭素数1~6のアルキル基を示す。R、R、RおよびRは、同一であっても、異なっていても構わない。)
【0007】
【化2】
(式(2)中、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、または、2個以上のアルキル基が1つまたは2つ以上のエーテル結合またはチオエーテル結合を介して結合した1価の基を示す。アルキル基は、直鎖アルキル基であっても、分枝アルキル基であっても構わない。また、アルキル基は、置換基としてシリル基を有していても構わない。)
【0008】
上記のようなイオン液体は、優れた吸湿性を有するとともに、臭気および金属溶解性を有さず、デシカント式の空調機等に用いられる吸湿材として優れている。
【発明の効果】
【0009】
本明細書によって開示される吸湿材は、デシカント式の空調機等に用いられる吸湿材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】硫酸系イオン液体を用いて吸湿試験を行った場合の、試験開始からの経過時間と湿度との関係を示すグラフ
図2】リン酸系イオン液体を用いて吸湿試験を行った場合の、試験開始からの経過時間と湿度との関係を示すグラフ
図3】酢酸系イオン液体を用いて吸湿試験を行った場合の、試験開始からの経過時間と湿度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の吸湿材は、例えばデシカント式の空調機や、吸収冷凍機に用いられる、吸湿性を有するイオン液体であって、下記一般式(1)で示されるホスホニウム系のカチオンと、下記一般式(2)で示されるリン酸エステル系のアニオンとを含む。
【0012】
【化1】
【0013】
一般式(1)中、R、R、およびRは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、または、2個以上のアルキル基が1つまたは2つ以上のエーテル結合またはチオエーテル結合を介して結合した1価の基を示す。アルキル基は、直鎖アルキル基であっても、分枝アルキル基であっても構わない。Rは、水素原子、または炭素数1~6のアルキル基を示す。R、R、RおよびRは、同一であっても、異なっていても構わない。
【0014】
カチオンを上記のようなホスホニウム系カチオンとすることで、金属腐食性が少なく、臭気の少ないイオン液体を得ることができる。
【0015】
【化2】
【0016】
一般式(2)中、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、または、2個以上のアルキル基が1つまたは2つ以上のエーテル結合またはチオエーテル結合を介して結合した1価の基を示す。アルキル基は、直鎖アルキル基であっても、分枝アルキル基であっても構わない。また、アルキル基は、置換基としてシリル基を有していても構わない。なお、Rは、上記一般式(1)のRと同一であることが好ましい。
【0017】
イオン液体中には、単一のカチオンが含まれていてもよく、複数種のカチオンが含まれていても構わない。アニオンについても同様である。
【0018】
上記のイオン液体は、優れた吸湿性を有し、毒性がなく、金属腐食性(特に、空調機等の熱交換器に一般に使用される銅、ステンレス、アルミニウムなどに対して)がなく、臭気を発生しないという特長を有し、デシカント式の空調機や、吸収冷凍機に用いられる吸湿材として好適である。
【0019】
上記のようなイオン液体は、一般式(1)で示すカチオンに対応する三級ホスフィンに、一般式(2)で示すアニオンに対応するリン酸エステルを作用させてオニウム化することにより合成できる。一例として、トリブチルメチルホスホニウムジメチルホスホネート([P4441][DMPO4])合成の反応式(3)を下記に示す。
【0020】
【化3】
【0021】
この合成プロセスにおいては、三級ホスフィンとリン酸エステルとを混合するだけで容易に反応が進むため、極めて簡易にイオン液体を合成することができる。また、メタル交換反応やイオン交換樹脂を用いるアニオン交換を必要としないため、腐食の原因となるハロゲンの混入を防ぐことができる。
【0022】
<試験例>
1.材料
(1)イオン液体
イオン液体として、構造式(S1)~(S6)で示す6種の硫酸系イオン液体、構造式(P1)~(P6)で示す6種のリン酸系イオン液体、および、構造式(O1)~(O3)で示す酢酸系イオン液体を合成し、試料とした。
【0023】
【化4】
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
なお、以下の説明では、各イオン液体、および、イオン液体を構成するアニオン、カチオンを、上記の各構造式の下に示す略号で記載することがある。
【0027】
また、比較のため、イオン液体として塩化リチウムを用いた試験も行った。
【0028】
(2)金属片
金属溶解性試験に用いる金属片として、熱間圧延軟鋼板(SPHC:以下、「軟鋼板」と略記する)、ステンレス板(SUS304)、タフピッチ銅板(C1100P:以下「銅板」と略記する)、耐食アルミニウム板(A5052:以下、「アルミ板」と略記する)を用いた。
【0029】
2.吸湿試験
(1)硫酸系、リン酸系、酢酸系イオン液体を用いた試験例
イオン液体1gをシャーレに取り、湿度計(株式会社T&D製 照度・紫外線・温度・湿度データロガー TR-74Ui)と共にチャック付きポリ袋(旭化成ホームプロダクツ株式会社製 ジップロック(登録商標)、273mm×268mm)に入れ、30℃の恒温槽内に入れて静置し、湿度が平衡状態に達するまでのチャック付きポリ袋内の湿度の変化を測定した。
【0030】
試験開始時と、湿度が平衡状態に達した時とのイオン液体が入ったシャーレの質量の差より、イオン液体1molあたりの吸湿率(%/mol)を算出した。
【0031】
また、イオン液体1molあたりの吸湿率を、試験開始時から、チャック付きポリ袋内の湿度が試験開始時の湿度と平衡状態に達した時の湿度との中間値に達するまでの時間(min)で除した値を吸湿速度(%/min・mol)とした。
【0032】
(2)塩化リチウムを用いた試験例
濃度30質量%の塩化リチウム水溶液5gをシャーレに取り、上記(1)と同様に試験を行った。
【0033】
(3)[P4441][DMPO4]の80質量%水溶液を用いた吸湿試験
[P4441][DMPO4]の80質量%水溶液1.84gをシャーレに取り、上記(1)と同様に試験を行った。
【0034】
3.金属溶解性試験
(1)硫酸系、リン酸系、酢酸系イオン液体を用いた試験例
硫酸系イオン液体のうち吸湿率が最も高かった[P4441][MeSO4]と、次いで高い値を示した[EMIm][MeSO4]、および、リン酸系イオン液体のうち最も吸湿率が高かった[P4441][DMPO4]と、三番目に高い値を示した[EMIm][DMPO4]を金属溶解性試験に供した。 なお、リン酸系イオン液体のうち、吸湿率が二番目に高い値を示した[EDMIm][DMPO4]は、実験条件(60℃)で固体となったため除外した。
【0035】
上記4種の金属片(10mm×15mm×2mm)の重量をそれぞれ電子天秤で測定した。イオン液体3mlが入ったサンプル管4本のそれぞれに各金属片を入れて、60℃で48時間保持した。その後、脱イオン水で各金属片を洗浄し、減圧乾燥後に重量を測定した。
【0036】
(2)塩化リチウムを用いた試験例
濃度30質量%の塩化リチウム水溶液を用いて、上記(1)と同様に試験を行った。
【0037】
4.粘度計測
コーンプレート型粘度計(英弘精機株式会社製 DV2TCP)を用いて各イオン液体の粘度を測定した。なお、粘度は原液の状態で測定した。また、3種の酢酸系イオン液体については、60℃で試験中に変色し、不安定であったため測定を断念した。
【0038】
5.臭気判定
臭気は、人間の嗅覚を用いて調べた。
【0039】
6.結果
吸湿試験および粘度・臭気計測の結果を表1に、金属溶解性試験の結果を表2に示す
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
(1)吸湿性
図1図2および図3に示すように、いずれのイオン液体も、時間経過とともに湿度が低下し、除湿性能を有することがわかる。表1に示すように、モルあたりの吸湿率は、いずれのイオン液体も塩化リチウム(30%水溶液)を上回り、吸湿速度は4.8倍から37倍に達していた。最もモル当たりの吸湿度が大きいのは[P4444][OAc]であり、続いて[P4441][DMPO4]であった。
【0043】
カチオンが同じである場合、硫酸系よりリン酸系の吸湿率が高くなる傾向が見られた。イオン液体の親水性、 疎水性はアニオンを構成する物質に影響される。今回用いたアニオンは、硫酸エステルとリン酸エステルの酸残基であり、 硫酸エステルよりリン酸エステルは水素結合受容性が高い。したがって、リン酸エステルを用いたイオン液体の方がより多くの水分子を取り込んだのではないかと考えられる。
【0044】
[P4441][DMPO4]の80質量%水溶液を用いた吸湿試験では、チャック付きポリ袋内の湿度が平衡状態に達するのに180分程度を要したが、70時間後には湿度は24%まで低下し、[P4441][DMPO4]がデシカントとして確かに機能することがわかった。
【0045】
(2)金属溶解性
表2に示すように、塩化リチウム(30%水溶液)を用いた場合、表2に示すように、すべての金属片で明確な重量減少が認められ、特に銅板の溶解が顕著であった。
【0046】
[EMIm][MeSO4]では、軟鋼板と銅板に重量減少がみられ、[P4441][MeSO4]では銅板に重量減少が見られた。これらのイオン液体は、アニオンが硫酸由来であるため、銅板を溶解したと考えられる。 また、[EMIm][MeSO4]は、カチオンがイミダゾリウムカルベンとなり金属を配位するため、さらに溶解性が増したと考えられる。
【0047】
[EMIm][DMPO4]では、軟鋼板と銅板に重量減少がみられた。このイオン液体は、カチオンがイミダゾリウムカルベンとなり金属を配位するため、金属溶解性があったと考えられる。一方[P4441][DMPO4]では、銅板が入ったイオン液体に若干の色付きが見られたものの、いずれの金属片にも重量減少はみられず、金属溶解性は認められなかった。
【0048】
(3)臭気
表1に示すように、硫酸系イオン液体では、不快臭が感じられるものが多かった。また、酢酸系イオン液体は、保存中に徐々に不快臭が感じられるようになった。一方、リン酸系イオン液体は、無臭であった。
【0049】
(4)その他
酢酸系イオン液体は、イオン交換樹脂を用いたアニオン交換の過程を必要とし、大量合成がやや困難である。さらにカルボン酸塩は安定性に問題があることが知られており、本試験において用いた酢酸系イオン液体も、時間の経過とともに変色が見られた。 以上の問題により、酢酸系イオン液体は実用化に適していないと考えられる。
【0050】
(5)総合評価
以上より、上記試験に用いたイオン液体のうち、吸湿性、臭気、金属溶解性および実用化の観点で、ホスホニウム系のカチオンと、リン酸エステル系のアニオンとで構成されるイオン液体が優れた吸湿材であり、特に、[P4441][DMPO4]が優れていると考えられた。
図1
図2
図3