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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】浚渫作業船
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/88 20060101AFI20221205BHJP
   E02F 3/92 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
E02F3/88 A
E02F3/92 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021526092
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2020022680
(87)【国際公開番号】W WO2020250885
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019109829
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593031735
【氏名又は名称】株式会社小島組
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 徳明
(72)【発明者】
【氏名】前田 武俊
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-024368(JP,U)
【文献】特開2010-024655(JP,A)
【文献】特開2004-150015(JP,A)
【文献】特開2009-055661(JP,A)
【文献】特開2003-221187(JP,A)
【文献】特開2008-274569(JP,A)
【文献】米国特許第6823616(US,B1)
【文献】特開2005-036410(JP,A)
【文献】特開2002-146827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/88
E02F 3/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体(1)に傾動可能に軸支(p1)したブーム(B)の先端部(Ba)から、同船体(1)に設けたウインチ装置(M2)で巻取り・繰出し可能なワイヤ(W2)を垂下させると共に、該ワイヤ(W2)に、そのワイヤ(W2)のみで支持されるバケット装置(G,G′)を懸吊し、このバケット装置(G,G′)により水底(E)の土砂を掻き込んで掘削し且つ土砂輸送管(8)を通して水上の土砂貯溜場所(3)に圧送できるようにした浚渫作業船において、
前記ブーム(B)は、水中を上下方向に傾動可能に構成されていて、水中の該ブーム(B)の先端部(Ba)から前記ワイヤ(W2)が垂下可能であり、前記土砂輸送管(8)は前記バケット装置(G,G′)に接続されていることを特徴とする浚渫作業船。
【請求項2】
水中での前記バケット装置(G,G′)の水平方向位置を調整すべく該船体(1)を水面に沿って推進可能な船体推進装置(D)と、前記船体(1)、前記ブーム(B)及び前記バケット装置(G,G′)のうちの少なくとも1つのGPS位置情報に基づいて、該バケット装置(G,G′)が水底(E)の掘削対象区画を所定の掘削ルートに沿って移動できるよう前記船体推進装置(D)を作動制御して該船体(1)の位置を制御可能な制御装置(C)とを備えることを特徴とする、請求項1に記載の浚渫作業船。
【請求項3】
前記バケット装置(G,G′)は、該バケット装置(G,G′)内に掻き込んだ掘削土砂(4)に加圧空気及び/又は加圧水を噴射することで、該バケット装置(G,G′)から前記土砂輸送管(8)を経て前記土砂貯溜場所(3)に向かう土砂(4)の流れを助勢する土砂流助勢装置(A)を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の浚渫作業船。
【請求項4】
前記船体(1)には、前記土砂貯溜場所となる土砂貯溜槽(3)が設けられることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の浚渫作業船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫作業船、特に船体に傾動可能に軸支したブームに、同船体に設けたウインチ装置で巻取り・繰出し可能なワイヤを介してバケット装置を懸吊し、このバケット装置で水底の土砂を掻き込んで掘削し且つ土砂輸送管を通して水上の土砂貯溜場所に圧送できるようにした浚渫作業船に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した浚渫作業船は、下記特許文献1に開示されるように従来公知であり、このものでは、重いバケット装置がワイヤで懸吊されて昇降するため、バケット装置自体の自重を利用して水底土砂を効率よく掻き込み掘削できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本特開平7-26580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の浚渫作業船では、浚渫作業に当り、水中のバケット装置を懸吊するワイヤを、水上に起立するブームの先端部から水底近くのバケット装置まで下方に長く延ばす必要がある。そして、その長く延ばしたワイヤは、水上での風や波浪の影響や、水中での潮流の影響を受け易く、これがワイヤ下端のバケット装置の位置制御の精度を少なからず低下させてしまう問題がある。
【0005】
また従来の浚渫作業船では、船体をスパッド等の固定手段により水底に対し不動状態に固定して浚渫作業を行っているため、浚渫作業範囲(位置)を変更する際にその都度、固定手段を作動解除して船体を移動させ、移動後の位置を固定手段で再度水底に固定するといった作業を繰り返し行う必要があり、変更作業が面倒である。
【0006】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、ワイヤに懸吊されるバケット装置の上記利点を生かしながら、水上から水底近くまで長く垂下するワイヤの使用に伴う上記問題を解決することを第1の目的とし、さらに船体を水底に固定しなくても浚渫作業を広範囲に亘り精度よく行えるようにすることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記第1の目的を達成するために、本発明は、船体に傾動可能に軸支したブームの先端部から、同船体に設けたウインチ装置で巻取り・繰出し可能なワイヤを垂下させると共に、該ワイヤに、そのワイヤのみで支持されるバケット装置を懸吊し、このバケット装置により水底の土砂を掻き込んで掘削し且つ土砂輸送管を通して水上の土砂貯溜場所に圧送できるようにした浚渫作業船において、前記ブームは、水中を上下方向に傾動可能に構成されていて、水中の該ブームの先端部から前記ワイヤが垂下可能であり、前記土砂輸送管は前記バケット装置に接続されていることを第1の特徴とする。
【0008】
また上記第2の目的を達成するために、本発明は、第1の特徴に加えて、水中での前記バケット装置の水平方向位置を調整すべく該船体を水面に沿って推進可能な船体推進装置と、前記船体、前記ブーム及び前記バケット装置のうちの少なくとも1つのGPS位置情報に基づいて、該バケット装置が水底の掘削対象区画を所定の掘削ルートに沿って移動できるよう前記船体推進装置を作動制御して該船体の位置を制御可能な制御装置とを備えることを第2の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記バケット装置が、該バケット装置内に掻き込んだ掘削土砂に加圧空気及び/又は加圧水を噴射することで、該バケット装置から前記土砂輸送管を経て前記土砂貯溜場所に向かう土砂の流れを助勢する土砂流助勢装置を備えることを第3の特徴とする。
【0010】
更に本発明は、第1~第3の何れかの特徴に加えて、前記船体には、前記土砂貯溜場所となる土砂貯溜槽が設けられることを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の特徴によれば、船体に軸支したブームが水中を上下方向に傾動可能に構成されていて、船体上のウインチ装置から繰り出されて水中のブーム先端部から垂下するワイヤが、そのワイヤのみで支持されるバケット装置を懸吊し、そのバケット装置に土砂輸送管が接続されるので、ワイヤ懸吊によるバケット装置の本来的利点を生かしながら、ブーム先端部からバケット装置までのワイヤの垂下長さを十分に短縮可能となって、ワイヤが水面上での風や波浪の影響、及び水中での潮流の影響を排除又は受けにくくすることができる。これにより、船体位置(従ってブーム先端部の水平方向位置)に対するバケット装置の水平方向位置のずれを小さくできるため、船体(従ってブーム)の位置制御に基づいてのバケット装置の位置制御の精度向上に寄与することができる。
【0012】
第2の特徴によれば、水中でのバケット装置の水平方向位置を調整すべく船体を水面に沿って駆動可能な船体推進装置と、船体推進装置の作動を制御する制御装置とを備え、制御装置は、船体、ブーム及びバケット装置のうちの少なくとも1つのGPS位置情報に基づいて船体推進装置を作動させて船体位置を制御することにより、バケット装置が水底の掘削対象区画を所定の掘削ルートに沿って移動可能となる。これにより、船体を水底に固定することなく、上記GPS位置情報を手掛かりとして、バケット装置が水底の掘削対象区画を所定の掘削ルートに沿って移動可能となるため、水底の広範囲に亘りバケット装置による浚渫作業を満遍なく行うことができる。しかも、この浚渫作業の際のバケット装置の位置制御を、前述の如くワイヤを水中のブーム先端部より垂下させることで波浪や潮流等の影響を排除又は受けにくくした効果とも相俟って、精度よく実行することが可能となる。
【0013】
第3の特徴によれば、バケット装置内に掻き込んだ掘削土砂に加圧空気及び/又は加圧水を噴射することで、バケット装置から土砂輸送管を経て土砂貯溜場所に向かう土砂の流れを助勢する土砂流助勢装置を備えるので、バケット装置を水中に残したままでも、バケット装置内に掻き込んだ掘削土砂を拡散させて流動性を高めつつ、土砂輸送管を通して水上の土砂貯溜場所までスムーズに強制搬送することができる。
【0014】
第4の特徴によれば、浚渫作業船の船体には土砂貯溜槽が設けられるので、浚渫作業船に土運搬船を横付け待機させなくても浚渫作業船自体で浚渫土砂の貯溜が可能となり、従って、土運搬船がない場合でも浚渫作業を継続可能となり、またバケット装置等が故障して浚渫作業が中断しているときも、それまで浚渫作業船に貯溜した土砂を土運搬船に積み替えることができ、全体として作業効率アップが図られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明の第1実施形態に係る浚渫作業船を示す全体側面図である。
図2図2は上記浚渫作業船の要部平面図(図1の2-2線断面図)と、部分拡大平面図及び部分拡大斜視図である。
図3図3はグラブバケットの正面図(図1の3矢視部拡大図)である。
図4図4はグラブバケットの側面図(図3の4矢視図)である。
図5図5図3と同じ向きで見たグラブバケットの縦断面図(図4の5-5線断面図)である。
図6図6はグラブバケットの平面図(図5の6矢視図)である。
図7図7図1二点鎖線の位置にあるグラブバケットと水底との関係を示す図5対応断面図である。
図8図8はグラブバケットの閉じ過程の一例を示す工程図である。
図9図9は延長板部の変形例を示す図5対応断面図である。
図10図10は第2実施形態に係るグラブバケットの側面図(図4対応図)である。
図11図11図10の11-11線断面図(図5対応図)である。
図12図12は第2実施形態に係るグラブバケットの平面図(図6対応図)である。
【符号の説明】
【0016】
A・・・・・土砂流助勢装置
B・・・・・ブーム
Ba・・・・先端部
C・・・・・制御装置
D・・・・・船体推進装置
E・・・・・水底
G,G′・・バケット装置としてのグラブバケット
S・・・・・浚渫作業船
M2・・・・ウインチ装置としての第2ウインチ装置
W2・・・・ワイヤとしての第2ワイヤ
p1・・・・軸支
1・・・・・船体
3・・・・・土砂貯溜場所としての土砂貯溜槽
4・・・・・土砂
8・・・・・土砂輸送管
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0018】
図1図2において、浚渫作業船Sは、水面たとえば海面に浮かぶ船体1と、船体1を水面に沿って推進可能な船体推進装置Dと、船体1に上下方向に揺動(傾動)可能に軸支p1されたブームBと、ブームBの先端部Baに一端が連結された第1ワイヤW1と、船体1上に設けられて第1ワイヤW1の他端側を巻取り・繰出し可能なブーム傾動用の第1ウインチ装置M1と、ブームBの先端部Baに第2ワイヤW2のみで懸吊されるバケット装置としてのグラブバケットGと、船体1に設けられて第2ワイヤW2を巻取り・繰出し可能なバケット昇降用の第2ウインチ装置M2と、水上の土砂貯溜場所を構成すべく船体1に設置された左右一対の土砂貯溜槽3とを備える。
【0019】
第1ウインチ装置M1は、第1ワイヤW1を巻取り可能なドラムと、そのドラムを回転駆動するモータとを備える。そして、この第1ウインチ装置M1により第1ワイヤW1を巻取り又は繰出すことで、同ワイヤW1に連結したブームBを上方又は下方に傾動させることができる。
【0020】
また第2ウインチ装置M2は、第2ワイヤW2を巻取り可能なドラムと、そのドラムを回転駆動するモータとを備える。そして、この第2ウインチ装置M2により第2ワイヤW2を巻取り又は繰出すことで、同ワイヤW2に懸吊したグラブバケットGを上昇又は下降させることができる。尚、第1,第2ワイヤW1,W2は各々、左右一対ずつ設けられるが、各1本でもよいし、各3本以上であってもよい。
【0021】
グラブバケットGは、後述するように、水底Eの土砂4を掻込んで掘削できるように構成されており、そのグラブバケットG内に掻き込まれた掘削土砂は、該グラブバケットGに接続された可撓性を有する土砂輸送管8を通して水上の土砂貯溜槽3に圧送される。従って、浚渫作業に際し、グラブバケットGを一々、水上まで引き上げる必要はなく、作業効率の向上が図られる。グラブバケットGは、本発明のバケット装置の一例である。尚、グラブバケットGの具体的構造については後述する。
【0022】
ブームBは、これの基端部Bbが、船体1の前部に前後移動のみ可能に搭載された可動支持体5の台車部5bに軸支p1され、その軸支p1部回りにブームBが水上は元より、水中をも上下揺動できるようになっている。尚、台車部5bは、図2の部分拡大斜視図でも明らかなようにブームBの傾動姿勢に関係なくブームBと可動支持体5との干渉を回避するための切欠き状のブーム逃げ部5bkを有している。
【0023】
可動支持体5は、これの台車部5bと船体1との間に設けた駆動装置に連動連結されていて、船体1上をブームBの基端部Bbと共に前後駆動可能である。尚、上記駆動装置としては、例えば、図2に示すように台車部5bに軸支されて船体1に固定の案内レール9に沿って走行可能なブレーキ機構付きの駆動輪5wを不図示のモータで減速駆動する構造、或いは、図示はしないが、船体1に固定のラックに噛合し且つ台車部5bに軸支したブレーキ機構付きのピニオンをモータで減速駆動する構造等を採用可能である。
【0024】
而して、可動支持体5を最前進させた状態でブームBは、図1に示すように最も前側に張り出された状態となって、水面上に起立する上方揺動限と、水面下に没する下方揺動限との間を上下揺動可能である。尚、船体1の前端部には、ブームBが水中の下方揺動限まで揺動するのを許容するための逃げ部1aが設けられ、この逃げ部1aは、上・下及び前方に開放した切欠状に形成される。
【0025】
またブームBを水平姿勢として可動支持体5を最後退させた状態では、ブームBが図1鎖線に示すように最も後退した格納状態となる。尚、この格納状態は、浚渫作業船Sを長距離移動させる場合、グラブバケットGを点検整備する場合等に選択される。
【0026】
また船体1の前部には、可動支持体5の前後移動軌跡を跨ぐように門型に形成された支持枠6が立設される。この支持枠6の上部には、第1ウインチ装置M1から繰り出された第1ワイヤW1の中間部を案内、経由させる第1ガイドローラr1が回転自在に支持される。
【0027】
一方、第2ウインチ装置M2から繰り出された第2ワイヤW2の中間部は、可動支持体5に回転自在に支持した第2ガイドローラr2と、ブームBの先端部Baに回転自在に支持した前後一対の第3ガイドローラr3とに案内、経由されて、ブームBの先端部Baより垂下する。第2ガイドローラr2は、可動支持体5の台車部5b上に立設した支持台5aの上端部に軸支される。また前後一対の第3ガイドローラr3は、それらの間を第2ワイヤW2が通るようにする。
【0028】
次に、主として図3図8を主として参照して、グラブバケットGの構造例を説明する。グラブバケットGは、有底円筒状の主フレーム11と、上下端が開放した円筒状に形成されて、主フレーム11の外周に複数の環状シール部材18を介して上下摺動可能に嵌合される昇降体としての昇降筒12と、その昇降筒12の開放下端を開閉して水底Eの土砂4を内部に掻込めるよう昇降筒12の下端部にヒンジブラケットb2,b3を介して基部が枢支連結(軸支)p2された一対の掻込板13と、その両掻込板13を開閉駆動する開閉駆動装置としての第1油圧シリンダCy1と、昇降筒12を主フレーム11に対し昇降駆動する昇降駆動装置としての第2油圧シリンダCy2と、主フレーム11の底壁11bに一端Piを開口させ且つ土砂輸送管8の上流端に他端Poを接続させるようにして主フレーム11内に固定される排砂管Pと、排砂管Pから土砂輸送管8側へ押し出される土砂4の逆流を阻止する逆止弁15とを備える。
【0029】
尚、環状シール部材18は、主フレーム11及び昇降筒12相互の対向周面の何れか一方に設けた環状溝に嵌着されて、その対向周面の何れか他方に対し摺接する。
【0030】
主フレーム11の上端壁11aは、第2ワイヤW2の自由端即ち下端に連結支持される。そして、第2ワイヤW2は、船体1、第2ウインチ装置M2及びブームBの動きに連動して、主フレーム11(従ってグラブバケットG)を水中で水平方向及び鉛直方向に駆動することができる。
【0031】
主フレーム11の下端壁即ち底壁11bは、下方に凸曲した半球板状に形成されており、この底壁11bの中央部、即ち下方に膨出する半球面の中央頂部に、排砂管Pの、円錐台状をなす下半管部の大径下端(即ち排砂管Pの一端)Piが開口、固定される。排砂管Pの上半管部は、円筒状に形成されており、その上半管部の下端が前記下半管部の小径上端に一体に接続され、また上半管部の上端(即ち排砂管Pの他端)が土砂輸送管8の上流端にジョイントを介して接続される。
【0032】
また排砂管Pは、これの中間部が複数の支持板16を介して主フレーム11の内周壁に固定、支持され、また上部が主フレームの上端壁11aに貫通、固定される。
【0033】
逆止弁15は、土砂の下方への逆流を阻止するものであって、図示例では排砂管Pの上半管部に1個だけ設置されるが、逆止弁15の設置個数や設置部位、弁体構造は、実施形態に限定されず、適宜に設定可能である。例えば、実施形態の設置態様に加えて/又は代えて、排砂管Pの下半管部の下端Pi近傍や中間部にも逆止弁15を設置してもよい。
【0034】
また本実施形態の逆止弁15は、片開き式の単一のリーフ弁体を有する弁構造としたが、特に排砂管Pの大径部分(例えば下半管部の下端Pi近傍や中間部)に逆止弁15を設置する場合は、両開き(即ち観音開き)式の一対のリーフ弁体を有する弁構造としてもよい。尚、逆止弁15を何れに設置する場合でも、排砂管Pの内面には、逆止弁15の弁体との干渉を回避して弁体のスムーズな開閉作動を確保するための弁体逃げ部(図示せず)を凹設することが望ましい。また、排砂管Pの内周面には、逆止弁15の弁体が全閉位置から妄りに下方に開き回動しないよう該弁体と係合可能なストッパ突起(図示せず)が設けられる。
【0035】
また一対の掻込板13は、互いに対称形をなし、しかも両者が閉じた状態(図3図5参照)で主フレーム11の半球板状の底壁11b下面に近接、対面する半球板状となる形態(即ち半球板を更に二等分した形態)に形成される。そして、両掻込板13により掻き込んだ掘削土砂4は、掻込板13を閉じた状態で昇降筒12を主フレーム11に対し上昇駆動することで排砂管P内に強制的に押し込まれる。
【0036】
一対の掻込板13の相互の合わせ面となる端縁部は、両掻込板13が閉じられた時に土砂を挟み込みにくくするために横断面やや先細り状に形成される。尚、両掻込板13の上記端縁部(特に下端縁部)には、必要に応じて、水底土砂を効率よく破砕可能な複数の爪を互い違いに固設してもよい。
【0037】
昇降筒12の下端部には、昇降筒12の下端より下方に延出する短円筒状の延長板部12aの基部が連設されており、この延長板部12aの先端即ち下端は、両掻込板13が閉じられたときに両掻込板13の上端縁に当接する。これにより、昇降筒12の下端縁と、全閉状態の両掻込板13の上端縁との間の隙間を実質的にゼロ乃至僅少にできるため、前記した環状シール部材18によるシール効果とも相俟って、全閉状態の両掻込板13と主フレーム11の底壁11bとの間の空間40を略密閉状態にでき、当該隙間を通して掘削土砂や、後述する土砂流助勢装置Aによる加圧空気・加圧水が外部に漏れ出すのを効果的に抑制可能となる。
【0038】
尚、図示例では、延長板部12aの先端を全閉状態の両掻込板13の上端縁に直接当接させているが、延長板部12aの先端と全閉状態の両掻込板13の上端縁とのうちの少なくとも一方に、弾性材(例えばゴム材)よりなる不図示のシール部材を被着してもよく、この場合には、上記空間40の密閉効果を更に高めることが可能となる。尚また、図示例では、延長板部12aを昇降筒12の本体部と一体に形成したものを示したが、延長板部12aを昇降筒12の本体部と別体に形成して、後付けで昇降筒12に固定(例えば溶接)するようにしてもよい。
【0039】
また図9には、延長板部の変形例が示される。この変形例では、各掻込板13の上端部に、各掻込板13の上端より上方に延出する円弧板状の延長板部13aの基部が連設されていて、この延長板部13aの先端即ち上端を、両掻込板13が閉じられたときに昇降筒12の下端縁に当接させるようにしている。そして、この変形例の延長板部13aによれば、前記実施形態の延長板部12aと同様、昇降筒12の下端縁と、全閉状態の両掻込板13の上端縁との間の隙間を実質的にゼロ乃至僅少にできる。
【0040】
尚、延長板部13aの先端及び/又は昇降筒12の下端にシール部材を被着してもよく、この場合には、上記空間40の密閉効果を更に高めることが可能である。尚また、延長板部13aを掻込板13と別体に形成して、後付けで掻込板13に固定(例えば溶接)してもよい。
【0041】
第1油圧シリンダCy1は、個々の掻込板13毎に一対ずつ設置される。例えば、第1油圧シリンダCy1の基端は、昇降筒12の外周壁上部にヒンジブラケットb1を介して枢支連結p3され、また先端は、互いに屈折可能な一対のリンクよりなる屈折リンク機構17を介して各掻込板13の基部に枢支連結p6される。即ち、屈折リンク機構17の両端が昇降筒12及び各掻込板13に各々ヒンジブラケットb2,b3を介して枢支連結p4,p5されており、また屈折リンク機構17の中間部(即ち屈折点となる枢支連結部)に第1油圧シリンダCy1の先端が枢支連結p6される。
【0042】
また第2油圧シリンダCy2は、第1油圧シリンダCy1とは位相をずらして位置で、左右に一対ずつ設置される。例えば、第2油圧シリンダCy2の基端は、主フレーム11の外周壁上部にヒンジブラケットb4を介して枢支連結p7され、また先端は、昇降筒12の外周壁下部にヒンジブラケッb5を介して枢支連結p8される。
【0043】
第1,第2油圧シリンダCy1,Cy2へは、船体1上に設置した油圧源や制御弁を含む油圧制御回路から、水中を通る可撓性の油圧配管を経て各々の作動油圧が供給制御される。尚、上記油圧制御回路及び油圧導管は、図示を省略する。
【0044】
グラブバケットGには、排砂管P内に押し込まれた土砂4に加圧空気及び加圧水を噴射することで、排砂管P内の土砂4を拡散させ且つ排砂管Pから土砂輸送管8を経て土砂貯溜場所3に向かう土砂4の流れを助勢する土砂流助勢装置Aが設けられる。
【0045】
本実施形態の土砂流助勢装置Aは、排砂管Pの周壁に周方向及び上下方向に各々間隔をおいて内向きに配置固定された多数の空気噴射ノズルNaと、同じく排砂管Pの周壁に周方向及び上下方向に各々間隔をおいて内向きに配置固定された多数の水噴射ノズルNwと、これら空気噴射ノズルNa及び水噴射ノズルNwに加圧空気及び加圧水をそれぞれ供給する空気供給管Lai及び水供給管Lwiとを備える。
【0046】
各々の空気噴射ノズルNa及び水噴射ノズルNwは、噴口が排砂管P内で管の軸線に向かってやや下流側(図面上は上方側)に傾斜した向きに配置されており、そこから噴射された加圧空気及び加圧水の流動圧により、排砂管P内に押し込まれた掘削土砂4を効率よく拡散させ且つ下流側(即ち土砂輸送管8側)に効率よく圧送可能である。
【0047】
更に主フレーム11の半球板状の底壁11bの外周部には、周方向及び上下方向に間隔をおいて各複数の空気噴射ノズルNa′及び水噴射ノズルNw′が外向き(より具体的には排砂管Pの径方向外方に向かってやや下方に傾斜した向き)に配置固定される。これら空気噴射ノズルNa′及び水噴射ノズルNw′もまた空気供給管Lai及び水供給管Lwiにそれぞれ接続される。
【0048】
そして、空気噴射ノズルNa′及び水噴射ノズルNw′から噴射される加圧空気及び加圧水は、全閉状態の掻込板13と主フレーム11の底壁11bとの間の狭小な空間40に噴射することで、掻込板13内に掻き込まれた掘削土砂4を、排砂管P内への押込み前より掻込板13内で効率よく拡散させて流動性を高めた状態にした上で、排砂管P内に効率よく押し込み可能とする。
【0049】
而して、空気噴射ノズルNa及び水噴射ノズルNwは、土砂流助勢装置Aにおける第1の噴射手段を構成し、また空気噴射ノズルNa′及び水噴射ノズルNw′は、土砂流助勢装置Aにおける第2の噴射手段を構成する。
【0050】
尚、空気供給管Lai及び水供給管Lwiへは、船体1上に設置した加圧空気源及び空気制御弁を含む給気制御装置、並びに加圧水源及び水制御弁を含む給水制御装置から、各々可撓性を有する空気導管Lao及び水導管Lwoを経て加圧空気及び加圧水がそれぞれ供給制御される。
【0051】
尚また本実施形態では、土砂流助勢装置Aの第1の噴射手段(Na,Nb)が、排砂管P内に押し込まれた土砂4に対し加圧空気及び加圧水を両方噴射するものを示したが、土砂流助勢装置Aの第1の噴射手段(Na,Nb)は、排砂管P内に押し込まれた土砂4に対し加圧空気又は加圧水の何れか一方(例えば加圧水だけ)を噴射する構造でもよい。また土砂流助勢装置Aの第2の噴射手段(Na′,Nb′)についても、上記第1の噴射手段と同様であり、即ち、空間40に対し加圧空気又は加圧水の何れか一方(例えば加圧水だけ)を噴射する構造でもよい。
【0052】
また土砂輸送管8の下流部分は、土砂貯溜槽3の近くで船体1に設けたドラム装置20により巻取り・繰出し可能に巻き取られる。このドラム装置20は、土砂輸送管8の下流端に連通する左右一対の土砂出口管20aを有しており、土砂輸送管8を搬送されてきた土砂が、両土砂出口管20aより左右一対の土砂貯溜槽3内に投入、貯溜される。
【0053】
またドラム装置20から繰り出された土砂輸送管8の中間部は、可動支持体5の支持台5aに設けた前後方向の貫通孔部5ahを通ってブームB上部の複数の第4ガイドローラr4上を前方側に略直線状に延びる。この場合、複数の第4ガイドローラr4の配列は、ブームBの特に先端部Baでは土砂輸送管8が無理なく下側に折れ曲がるような配列とされる。
【0054】
尚、支持台5aの上記貫通孔部5ahの底面には、土砂輸送管8を無理なく案内する中高のアール面が形成される。尚また、その貫通孔部5ahの底面に、土砂輸送管8をスムーズに案内するための低摩擦係数のシート材を被着したり或いはガイドローラ(図示せず)を設けたりしてもよい。
【0055】
尚また、前述の第1,第2油圧シリンダCy1,Cy2に連なる油圧導管と、空気導管Lao及び水導管Lwoとは、それらを束にして船体1側に延ばされてもよいし、或いはそれらの少なくとも一部を単独で船体1側に延ばされてもよい。
【0056】
ところで船体1の後部には、船体1の前後方向に推進させる主推進装置21が設けられる。この主推進装置21は、例えば、主スクリュー21aと、主スクリュー21aを回転駆動するパワーユニット21uとを備える。
【0057】
また船体1の前部底面には、船体1の前部を左右方向に推進させるサイドスラスター22が設けられる。このサイドスラスター22は、例えば、船体1の前部底面の左右中央部に設けたスラスト水噴射部22aと、スラスト水噴射部22aに高圧のスラスト水を供給する高圧水供給装置22sとを備える。そして、サイドスラスター22の左右のスラスト水噴射部22aから左右何れか一方側に噴射された高圧のスラスト水の反動で船体1の前部を左右方向に推進可能である。
【0058】
尚、サイドスラスター22は、スラスト水を横向きに噴射する実施形態のような構造に限定されず、例えば、船体1前部の左右両側部に設けた左右の横向き補助スクリューで、船体1の前部を左右方向に推進させるようにしてもよい。
【0059】
更に船体1の後部には、船体1に固定の支柱枠24と、その支柱枠24に上下摺動可能に且つ起立姿勢で支持されて先細りの下端を水底Eの土砂4に打ち込み固定可能な1本の長いスパッド25と、このスパッド25を起立姿勢を保持しつつ昇降駆動可能なスパッド昇降駆動装置26と、水底Eの土砂4に打ち込み固定されたスパッド25を前後方向に押圧することでスパッド25に対し船体1を所定のストローク範囲内で精確に前後移動させるスパッド前後駆動装置27とが設けられる。
【0060】
スパッド昇降駆動装置26は、例えば支柱枠24に設置され、スパッド25を船体1に対し昇降駆動可能な従来周知の構造に構成される。その構造としては、例えばスパッド25に一端を連結したワイヤを船体1又は支柱枠24に固定のウインチ装置で吊り上げ又は吊り下げる構造を採用可能である。
【0061】
スパッド25の中間部は、船体1に設けた前後方向に長いガイド孔1gに前後摺動可能に嵌挿されており、また船体1には、スパッド25を前後方向に押圧するアクチュエータ28が設けられる。このアクチュエータ28は、スパッド25に対し前後方向に相対移動不能に係合する出力腕部28aを有しており、この出力腕部28aがスパッド25を前後方向に押圧する反動により、スパッド25に対し船体1を前後駆動可能である。そして、アクチュエータ28及びガイド孔1gは、互いに協働してスパッド前後駆動装置27を構成する。
【0062】
而して上記したスパッド25とスパッド昇降駆動装置26とスパッド前後駆動装置27とは、互いに協働して船体1を所定量ずつ精度よく前後進させるスパッド式船体推進機構SPを構成している。
【0063】
また、前記した主推進装置21と、サイドスラスター22と、スパッド式船体推進機構SPとは互いに協働して、前記した船体推進装置Dを構成するものであり、この船体推進装置Dは、水中でのグラブバケットGの水平方向位置を調整すべく船体1を水面に沿って前後左右に推進可能である。
【0064】
ところで第1ウインチ装置M1は、第1ワイヤW1を介してブームBを上下傾動させることでグラブバケットGを昇降させ、また第2ウインチ装置M2は、第2ワイヤW2を介してグラブバケットGを昇降させることができる。従って、何れのウインチ装置M1,M2とも、グラブバケットGに対する水中での昇降駆動手段として機能し得るため、これらウインチ装置M1,M2と、グラブバケットGを懸吊するブームB及び第2ワイヤW2と、上記した船体推進装置Dとが互いに協働して、グラブバケットGを水中で移動させる駆動手段Kを構成する。
【0065】
また船体1の後部寄りに設けた作業指令室30には、浚渫作業船Sの操舵を行う操舵系、並びに浚渫作業船Sの各部(例えば主推進装置21、サイドスラスター22、スパッド式船体推進機構SP、第1,第2ウインチ装置M1,M2、第1,第2油圧シリンダCy1,Cy2等)を操作するための、操舵系以外の各種操作系(図示せず)や、その各操作系に連係する、マイクロコンピュータを主要部とする制御装置Cが設けられる。
【0066】
制御装置Cは、船体1、ブームB及びグラブバケットGのうちの少なくとも1つのGPS位置情報に基づいて、グラブバケットGが水底Eの掘削対象区画を所定の掘削ルートに沿って所定の小区画(以下、単に所定区画という)ずつ移動できるよう船体推進装置Dを作動制御して船体1の位置を制御可能であり、その制御を上記操作系への操作入力に基づき実行可能とする制御プログラムが予め組み込まれている。
【0067】
例えば、ブームBの先端部BaにGPSアンテナを取付けておき、このアンテナで受信したGPS信号に基づきブームBの先端部Baの位置情報(従って先端部Ba直下のグラブバケットGの位置情報)を検出して船体推進装置Dを作動制御することで、グラブバケットGによる浚渫作業を、上記掘削対象区画を複数に分割した所定区画毎に精度よく順次実行可能となる。
【0068】
また、例えば、船体1の適所にGPSアンテナを取付けておき、このアンテナで受信したGPS信号に基づき船体1の位置情報を検出する場合には、その船体1の位置情報と、船体1のGPSアンテナ取付部位及びブーム先端部Ba相互の位置ずれ情報とからブーム先端部Baの位置(従って先端部Ba直下のグラブバケットGの位置情報)を推定し、その推定値に基づいて船体推進装置Dを作動制御することで、グラブバケットGによる浚渫作業を、上記掘削対象区画を複数に分割した所定区画ごとに精度よく順次、実行可能となる。
【0069】
この場合、上記位置ずれ情報は、ブームBの長さや傾動角(この傾動角は、角度センサで直接測定可能であり、或いは、第1ウインチ装置M1のワイヤW1巻取り量からも推定可能)も勘案することで、より精度よく推定可能である。
【0070】
また船体1には、非接触で水底Eの深度やグラブバケットGの深度を測定可能な不図示の深度センサ(例えば超音波センサ)31が設けられ、その深度センサ31の検出情報も制御装置Cに出力されてグラブバケットGの制御に用いられる。
【0071】
次に第1実施形態の作用を説明する。
【0072】
浚渫作業に際しては、先ず、浚渫作業船Sを操船して浚渫水域まで自力走行させるが、このときに、ブームBは水上の待機位置(例えば、図1のX位置又はY位置)に保持しておく。
【0073】
そして、浚渫作業船Sが浚渫水域に到着したらスパッド25を下降させて水底Eに打ち込み固定する。このとき、スパッド前後駆動装置27により、スパッド25に対し船体1が予めガイド孔1g内で所定の後退限に保持される。またサイドスラスター22のスラスト水噴射部22aから噴射される左・右各方向への水流の調整により、船体1のスパッド25回りの旋回が抑制される。
【0074】
次いで、第1ウインチ装置M1より第1ワイヤW1を繰り出させることで、ブームBを下方揺動させて水面下の傾動姿勢(例えば、図1のZ位置)におく。そして、第2ウインチ装置M2より第2ワイヤW2を繰り出させることで、水中に存するブームBの先端部Baより第2ワイヤW2を垂下させて、該第2ワイヤW2のみで懸吊・支持されたグラブバケットGを水底Eまで沈下させ、以下に説明するグラブバケットGによる水底土砂の掘削作業、即ち浚渫作業が開始される。
【0075】
先ず、グラブバケットGは、これが水底Eに達する前に、第1油圧シリンダCy1を収縮させることで一対の掻込板13を全開させると共に、第2油圧シリンダCy2を伸長させることで昇降筒12を主フレーム11に対し下降限まで下降させておく。そして、両掻込板13が図7に示すように水底Eの土砂に食い込んだら、両掻込板13を、第1油圧シリンダCy1で図8(a)~(b)に示すように閉じ方向に強制回動させることにより、水底土砂を両掻込板13内に掻き込んで掘削する。
【0076】
この浚渫作業の開始に伴い、土砂流助勢装置Aの空気噴射ノズルNa,Na′及び水噴射ノズルNw,Nw′からはそれぞれ加圧空気及び加圧水が噴射される。尚、それら加圧空気及び加圧水は、特に両掻込板13が閉じられた状態では排砂管Pから土砂輸送管8側へのみ流動し、土砂輸送管8内を上方側(即ち土砂貯溜槽3側)へ向かう掘削土砂の搬送に利用される。
【0077】
そして、両掻込板13が図8(b)に示すように全閉位置まで閉じられると、昇降筒12を、第2油圧シリンダCy2で図8(c)に示すように上昇限まで上昇させ、その上昇に伴い、両掻込板13が主フレーム11の底壁11bに接近して、両掻込板13内(即ち空間40内)の掘削土砂4を排砂管P内にそれの開口下端Piより機械的且つ強制的に押し込む。尚、両掻込板13が閉じられた状態で、両掻込板13内に掻き込まれた土砂は、特に空気噴射ノズルNa′及び水噴射ノズルNw′からの加圧空気及び加圧水の噴射圧で十分に攪拌されて流動性を増すため、昇降筒12の上昇に伴う両掻込板13の押込み作用で排砂管P内に効率よくスムーズに押し込まれる。
【0078】
また排砂管P内に押し込まれた直後の土砂は、空気噴射ノズルNa及び水噴射ノズルNwからの加圧空気及び加圧水の噴射圧に助勢されて上流側、即ち土砂輸送管8側へ逆止弁15を経てスムーズに圧送、流動される。
【0079】
このようにしてグラブバケットGによる一回の掘削サイクルが終了するので、次に、スパッド前後駆動装置27によりスパッド25を後方に押圧して船体1を所定量前進させる。そして、両掻込板13を再び全開位置まで開放揺動させた状態にしてから再度下降させて、図7に示す如く水底Eの土砂に食い込ませる。その後、両掻込板13を再び閉じ方向に揺動させて前述の掘削サイクルを実行する。この間、排砂管P内に押し込まれた掘削土砂4は、前述の加圧空気及び加圧水の噴射圧を利用して、土砂輸送管8を経て船体1の土砂貯溜槽3内に圧送、貯溜される。そして、こうした掘削サイクルを何回か繰り返すことで、水底Eの1つの所定区画に対する浚渫作業が終了する。
【0080】
次に、サイドスラスター22のスラスト水噴射部22aから噴射される左右方向の水流調整により、船体1をスパッド25回りに所定の小角度だけ旋回させてから、その旋回位置に船体1を静止させる。そして、スパッド前後駆動装置27によりスパッド25を前後方向に押圧して船体1を所定量ずつ前進又は後進させ、その間に前述と同様の掘削サイクルを繰り返すことで、先刻の所定区画に隣接する次の所定区画に対する浚渫作業が実行される。
【0081】
そして、このような浚渫作業を隣接する所定区画毎に次々と繰り返すことで、スパッド25を中心とした所望の旋回角度範囲(最大360度)に亘る扇形或いは円環状の掘削対象区画を浚渫することができる。
【0082】
このようにして1つの掘削対象区画の浚渫作業が終了すると、船体1を次の掘削対象区画に移動させる。この移動の際は、スパッド25を一旦、水底Eより引き上げ、しかる後に、主推進装置21により船体1を所定距離、前進又は後進させてから、スパッド25を再び、水底Eに打ち込み固定する。
【0083】
そして、直前の掘削対象区画に対する浚渫作業と同様の手順で、次の掘削対象区画内で所定区画ずつ浚渫作業を順次実行する。この場合、ブームBの先端部Ba(従って先端部Ba直下のグラブバケットG)の位置情報の履歴は、制御装置Cの記憶部において全て記憶されているため、その位置情報履歴から、以前の(即ち浚渫作業済みの)所定区画と重複すると推定される所定区画に対しては、浚渫作業を省略して次の所定区画に移行することが可能である。
【0084】
以上のような過程を経てグラブバケットGは、掘削対象となる水底Eを広範囲に亘り浚渫することができる。
【0085】
上記した本実施形態の浚渫作業船Sでは、船体1に軸支したブームBが水上は元より、水中をも上下方向に傾動可能に構成される。そして、船体1上の第2ウインチ装置M2から繰り出された第2ワイヤW2は、浚渫作業過程では水中にあるブームBの先端部Baから垂下して、該第2ワイヤW2のみでグラブバケットGを懸吊可能である。
【0086】
これにより、グラブバケットGは、これの大きな自重を利用して水底土砂を効率よく掘削できるといった、ワイヤ懸吊によるグラブバケットGの本来的利点を生かしながら、ブーム先端部Baからの第2ワイヤW2の垂下長さを極力短縮化することが可能となるため、第2ワイヤW2が水面上での風や波浪の影響や水中(特に水面近くの水中)での潮流の影響を排除又は受けにくくすることができる。その結果、船体1の位置(従ってブーム先端部Baの水平方向位置)に対するグラブバケットGの水平方向位置のずれを効果的に小さくすることができるため、船体1の位置制御に関連付けてグラブバケットGの位置制御の精度向上が図られる。
【0087】
また特に本実施形態の浚渫作業船Sは、水中でのグラブバケットGの水平方向位置を調整すべく船体1を水面に沿って推進可能な船体推進装置Dと、船体推進装置Dの作動を制御する制御装置Cとを備えており、制御装置Cは、船体1、ブームB及びグラブバケットGのうちの少なくとも1つのGPS位置情報に基づいて船体推進装置Dを作動させて船体1の位置を制御することにより、グラブバケットGを水底Eの掘削対象区画を所定の掘削ルートに沿って所定区画ずつ移動させることができる。
【0088】
これにより、船体1を水底Eに固定することなく、船体1の位置情報すなわち上記GPS位置情報を手掛かりとして、グラブバケットGが水底Eの掘削対象区画を所定の掘削ルートに沿って所定区画ずつ移動可能となるため、水底Eの広範囲に亘りグラブバケットGによる浚渫作業を満遍なく行うことができる。しかもこの浚渫作業の際のグラブバケットGの位置制御を、前述の如く第2ワイヤW2を特に水中のブーム先端部Baより垂下させて波浪や潮流等の影響を排除又は受けにくくした効果とも相俟って、精度よく実行することが可能となる。
【0089】
また本実施形態の浚渫作業船Sの船体1には土砂貯溜槽3が設けられるため、浚渫作業船Sに土運搬船を横付け待機させなくても浚渫作業船S自体で浚渫土砂4の貯溜が可能となる。これにより、例えば、土運搬船が待機中でない場合でも浚渫作業を継続可能となり、またグラブバケットG等が故障して浚渫作業が中断しているときも、それまでの浚渫作業で土砂貯溜槽3内に貯溜しておいた土砂を土運搬船に積み替えることができ、全体として作業効率アップが図られる。
【0090】
また本実施形態のグラブバケットGは、主フレーム11に対し昇降駆動可能な昇降筒12の下端に、一対の掻込板13が開閉揺動可能に軸支p2されており、その両掻込板13内に掻き込んだ掘削土砂4は、両掻込板13を閉じた状態で昇降筒12を主フレーム11に対し上昇駆動することにより排砂管P内に強制的に押し込まれる。これにより、水底土砂に対する掻込み(即ち掘削)機能は掻込板13が担い、また掻込土砂の排砂管P内への押込み機能は主として昇降筒12が担うこととなるため、掻込板13及び昇降筒12は、各々の機能に即して最適に設計可能となり、全体として設計自由度が高められる。また上記掻込土砂の排砂管P内への押込み量は、昇降筒12の昇降ストロークで決まるため、掻込板13を特別に大型化したり開閉方向に大ストローク化しなくても十分な押込み量を確保可能である。
【0091】
しかも主フレーム11の底壁11bは、下方に凸の半球面に形成されていて、その底壁11bの中央頂部に排砂管Pの一端Piが開口している。更に一対の掻込板13は、それらの閉じ状態で、底壁11bの半球形態に対応した半球板状に形成されていて、昇降筒12が上昇限に達した状態では両掻込板13の内面と底壁11b下面との間の空間40が十分に詰められ、即ち、両掻込板13が底壁11b下面に近接、対面している。これにより、一対の掻込板13内に掻き込んだ掘削土砂を片寄りなく排砂管P内に効率的に押し込むことができ、その押込み効率を高めることができる。
【0092】
更に本実施形態のグラブバケットGによれば、排砂管P内に押し込まれる直前及び直後の掘削土砂に対し、土砂流助勢装置Aの空気噴射ノズルNa,Na′及び水噴射ノズルNw,Nw′から加圧空気及び加圧水をそれぞれ噴射することで、その土砂を十分に拡散させて流動性を高めることができる上、排砂管Pから土砂輸送管8を経て土砂貯溜槽3に向かう土砂の流れを十分に助勢することができる。しかも、この土砂拡散(流動性向上)用の加圧空気及び加圧水の噴射圧力を、土砂輸送管8内での土砂の搬送圧として有効に活用することができる。これにより、排砂管P及び土砂輸送管8を通しての土砂圧送効率を効果的に高めることができる。
【0093】
また図10図12には、本発明の第2実施形態が示され、これは、グラブバケットの構造のみが第1実施形態と異なる。即ち、第1実施形態では、グラブバケットGの主フレーム11を円筒状とすると共にその底壁11bを半球板状とし、また昇降筒12も円筒状とし、更に一対の掻込板13,13が、閉じ状態で半球板状となる形態(即ち半球板を二等分した形態)であるのに対し、第2実施形態では、グラブバケットG′の主フレーム11′を横断面矩形(より具体的には正方形)の角筒状とすると共にその底壁11b′を半円筒状とし、また昇降筒12′も横断面矩形(より具体的には正方形)の角筒状とし、更に一対の掻込板13′,13′が、閉じ状態で半円筒状となる形態(即ち半円筒板を、母線方向の切断面で二等分した形態)とされる。
【0094】
第2実施形態のその他の構造は、第1実施形態と同様であるので、第2実施形態の各構成要素には、第1実施形態の対応する構成要素の参照符号を付すに止め、それ以上の説明は省略する。
【0095】
そして、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0096】
以上、本発明の第1,第2実施形態について説明したが、本発明は、それら実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0097】
例えば、前記実施形態では、船体推進装置Dが、主推進装置21及びサイドスラスター22に加えて、スパッド式船体推進機構SPを備えていて、スパッド式船体推進機構SPで船体1を所定量ずつ前後進させると共に、サイドスラスター22で船体1を、スパッド25を中心として所定角度ずつ旋回回動させるようにして、バケット装置Vが水底Eの扇形或いは円環状の掘削対象区画を所定区画ずつ移動、浚渫可能としたものを示した。しかし本発明では、そのようなスパッド式船体推進機構SPを使用しないで、船体1、ブームB及びグラブバケットGのうちの少なくとも1つのGPS位置情報に基づいて主推進装置21及びサイドスラスター22を作動制御して船体1を所定量ずつ前進又は後進、或いは左右何れか一方向に横移動させることで、水底Eの掘削対象区画を所定の掘削ルートに沿って所定区画ずつ移動、浚渫するようにしてもよい。尚、その場合、サイドスラスター22は、前記実施形態のように船体1底部の前部に配設するだけでなく、船体1底部の後部にも配設される。
【0098】
また前記実施形態では、船体推進装置Dが、浚渫作業に当たり、船体1、ブームB及びグラブバケットGのうちの少なくとも1つのGPS位置情報に基づいて作動制御されて船体1の位置制御を行うものを示したが、GPS位置情報に代えて、又は加えて、船体位置を検出可能な他の位置センサからの位置情報に基づいて船体推進装置Dを作動制御して、船体1の位置制御を行うようにしてもよい。
【0099】
また前記実施形態では、グラブバケットG(例えば排砂管P)に設けた土砂流助勢装置Aからの加圧空気及び加圧水の噴射圧を利用して、土砂輸送管8を経て船体1の土砂貯溜槽3内に掘削土砂を圧送するようにしたものを示したが、この土砂流助勢装置Aに加えて、例えば特開2008-115610号公報の図2に示されるようなジェットポンプ手段(JP)を土砂輸送管8の途中に介設して、土砂輸送管8内の土砂流を助勢してもよい。この場合は、土砂流助勢装置Aから排砂管P内に噴射される加圧空気及び加圧水の噴射圧に加えて、ジェットポンプ手段(JP)からの加圧空気及び加圧水の噴射圧も土砂輸送管8内での土砂搬送圧に利用されるため、船体1の土砂貯溜槽3内に掘削土砂をより効率よく圧送可能となる。
【0100】
また前記実施形態では、浚渫水域まで遠い場合に浚渫作業船Sを操船して浚渫水域まで自力走行させるようにしたものを示したが、そのような場合に浚渫作業船Sを他の船に曳航して浚渫水域まで移動させてもよい。
【0101】
また前記実施形態では、水上の土砂貯溜場所として浚渫作業船Sの船体1に設けた土砂貯溜槽3を例示したが、浚渫作業船Sとは別の船(例えば土運搬船)又は水上施設に設置した土砂貯溜槽を土砂貯溜場所としてもよい。
【0102】
また第1実施形態では、主フレーム11の底壁11bを半球板状に形成し、また第2実施形態では、主フレーム11′の底壁11b′を半球板状に形成したものが示されるが、本発明では、主フレームの底壁形状は、実施形態に限定されず、閉じ状態の一対の掻込板に形状に応じて適宜形状に形成可能であり、例えば水平な平板状であってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12