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特許7187007動物個体間の親和度を推定する方法およびシステム
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  • 特許-動物個体間の親和度を推定する方法およびシステム 図1
  • 特許-動物個体間の親和度を推定する方法およびシステム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】動物個体間の親和度を推定する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20221205BHJP
【FI】
A01K29/00 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018147252
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020018276
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】菊水 健史
(72)【発明者】
【氏名】永澤 美保
(72)【発明者】
【氏名】茂木 一孝
(72)【発明者】
【氏名】野元 謙作
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-129338(JP,A)
【文献】特開昭60-188135(JP,A)
【文献】特開2011-217928(JP,A)
【文献】特開2008-109971(JP,A)
【文献】特開2016-120271(JP,A)
【文献】特開2019-58098(JP,A)
【文献】辻 義之ら,2.相関とスペクトル解析,J. Plasma Fusion Res.,2009年,第620頁~第630頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
A01K 67/00
G06Q 50/00
A61B 5/06 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の動物個体に第一加速度センサを装着し、
第二の動物個体に第二加速度センサを装着し、
所定の同じ期間に亘って第一加速度センサおよび第二加速度センサにて第一の動物個体に関わる第一時系列データおよび第二の動物個体に関わる第二時系列データを取得し、
第一時系列データと第二時系列データとの同調の度合いを、コヒーレンス値を用いて、評価し、
該同調の度合いから第一の動物個体と第二の動物個体との親和度を推定する方法。
【請求項2】
第一の動物個体がヒトであり、第二の動物個体が愛玩動物、伴侶動物または家畜である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一の動物個体に装着可能な第一加速度センサ、
第二の動物個体に装着可能な第二加速度センサ、
所定の同じ期間に亘って第一加速度センサおよび第二加速度センサにて取得した第一の動物個体に関わる第一時系列データおよび第二の動物個体に関わる第二時系列データの同調の度合いを、コヒーレンス値を用いて、評価し、該同調の度合いから第一の動物個体と第二の動物個体との親和度を推定するための制御部、および
推定された親和度を示すための表示部
を有する動物個体間の親和度推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物個体間の親和度を推定する方法およびシステムならびに親和度を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の動物個体間における同調現象が注目されている。例えば、サーカディアン・リズム、ペースメーカー等の個体内における神経系、細胞間にみられるミクロな同期および同調現象、ホタルの集団発光、渡り鳥や移動性大型哺乳類の群れ行動などのマクロな同調現象などが知られている。また、ヒトとイヌとの共生などの研究から、動物個体間の同調行動が、社会性行動(例えば、コミュニケーション)の発達、不安やストレスの軽減、自閉症児の症状改善、トラウマ症候群の軽減、循環器系の改善、疼痛の軽減などに関わっていることが次第に明らかになってきている(非特許文献1、非特許文献2など参照)。このような動物個体間の同調行動を定量的に把握することは、ヒトまたは愛玩動物、伴侶動物または家畜の健康維持または健康増進のための手法を見出すなどのために重要である。
【0003】
ヒトやイヌなどの動物個体の活動状況や健康状態などを把握するための技術が種々提案されている。
例えば、特許文献1は、動物に固定され、当該動物の前後方向であるX方向、左右方向であるY方向、上下方向であるZ方向の加速度信号(Gx,Gy,Gz)を検出する3次元の加速度センサと、前記加速度センサからの加速度信号を蓄積する記憶部と、前記加速度信号に基づいて、Z方向に対するXY面のX軸を中心とした左右傾き角θx、および、Y軸を中心とした前後傾き角θyを算出する傾き角算出部と、前記XY面の左右傾き角θx、および、前記XY面の前後傾き角θyを、画面上に二次元グラフィックで表示する傾き角二次元表示制御部とを備えたことを特徴とする動物活動計測装置を開示している。
【0004】
特許文献2は、飼育動物の吠え声を検知するセンサと、他の飼育動物と対応付けられた他の相性判定装置と無線通信を確立し、自装置と対応付けられた飼育動物に関する情報を前記他の相性判定装置へ送信し、前記他の相性判定装置から前記他の飼育動物に関する情報を受信する第1の無線通信部と、前記第1の無線通信部により前記他の相性判定装置から受信した前記他の飼育動物に関する情報を記憶部に記憶させるとともに、前記他の飼育動物に関する情報を受信以降に前記センサが吠え声を検知した場合に、前記他の飼育動物に関する情報と対応付けて吠え声を検知した旨の情報を前記記憶部に記憶させる記憶制御部と、前記記憶部を参照し、前記他の飼育動物に関する情報と対応付けて吠え声を検知した旨の情報が記憶されている場合に、前記飼育動物と、前記他の飼育動物との相性が悪いと判定し、前記他の飼育動物に関する情報と対応付けて吠え声を検知した旨の情報が記憶されていない場合に、前記飼育動物と、前記他の飼育動物との相性が良いと判定する判定部とを備えることを特徴とする相性判定装置を開示している。
【0005】
特許文献3は、犬の基本情報を入力、またその飼い主または飼い主の家族の基本情報を入力、健康管理ソフトまたは健康管理者が最適健康生活提案メニューを送付、犬の飼い主または飼い主の家族は、実際の人と犬の生活履歴を入力、健康管理ソフトまたは健康管理者は基本情報を基に、生活履歴を分析、最適健康生活提案メニューを犬の飼い主、または飼い主の家族に送付し継続的にやりとりするシステムを開示している。
【0006】
特許文献4は、複数の人物で構成される組織の分析を行う組織行動分析装置であって、上記複数の人物それぞれに装着される端末の赤外線送受信部及び加速度センサで取得されるセンサデータ、及び、上記複数の人物それぞれの主観的評価又は客観的評価を示すデータを受信する受信部と、上記センサデータ及び上記主観的評価又は客観的評価を示すデータを解析する制御部と、上記制御部が解析を行うための解析条件と上記制御部が解析した結果とを記録する記録部と、を備え、上記制御部は、上記複数の人物ごとに、上記組織内での人物間の関係及び上記組織内での行動を示す指標を、上記解析条件に基づいて上記センサデータから算出して上記記録部に記録し、上記複数の人物ごとに、行動と思考の特性を示す指標を、上記解析条件に基づいて上記主観的評価を示すデータから算出して上記記録部に記録し、上記複数の人物それぞれの上記行動と思考の特性を示す指標と、上記組織内での人物間の関係及び上記組織内での行動を示す指標との相関をとり、上記組織における上記主観的評価又は上記客観的評価を示すデータの要因を特定する組織行動分析装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-217928号公報
【文献】特開2016-139874号公報
【文献】特開2005-276141号公報
【文献】WO 2011/055628 A
【非特許文献】
【0008】
【文献】永澤美保ら「動物の同調行動と親和性」日本動物心理学会第28回大会自由集会(ワークショップ)報告 動物心理学研究 第62巻 第1号 第130~132頁
【文献】菊水健史「オキシトシンによるヒトとイヌの関係性」The Japanese Jurnal of Animal Psychology(2017)P1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、動物個体間の親和度を推定する方法およびシステムならびに親和度を高める方法を提供することである。ここでいう親和度とは、飼い主に対する愛着行動の多少、分離時の後追い行動、再会時の喜び反応、視線を合わせる頻度などを含む個体間の親和的関係性の度合いを言う。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために検討を重ねた結果、以下の態様を包含する本発明を完成するに至った。
【0011】
〔1〕 第一の動物個体に第一センサを装着し、 第二の動物個体に第二センサを装着し、 所定の同じ期間に亘って第一センサおよび第二センサにて第一の動物個体に関わる第一時系列データおよび第二の動物個体に関わる第二時系列データを取得し、 第一時系列データと第二時系列データとの同調の度合いを評価し、 該同調の度合いから第一の動物個体と第二の動物個体との親和度を推定する方法。
【0012】
〔2〕 第一時系列データと第二時系列データとの同調の度合いの評価をコヒーレンスにて行う、請求項1に記載の方法。
〔3〕 第一の動物個体がヒトであり、第二の動物個体が愛玩動物、伴侶動物または家畜である、請求項1または2に記載の方法。
〔4〕 第一センサおよび第二センサが、加速度センサである、請求項1~3のいずれかひとつに記載の方法。
【0013】
〔5〕 第一の動物個体に装着可能な第一センサ、
第二の動物個体に装着可能な第二センサ、
所定の同じ期間に亘って第一センサおよび第二センサにて取得した第一の動物個体に関わる第一時系列データおよび第二の動物個体に関わる第二時系列データの同調の度合いを評価し、該同調の度合いから第一の動物個体と第二の動物個体との親和度を推定するための制御部、および
推定された親和度を示すための表示部
を有する動物個体間の親和度推定システム。
【0014】
〔6〕 第一の動物個体以外のモノに第一センサを装着し、 第一の動物個体に関わる第一時系列データを第一センサで取得し、 取得した第一時系列データに対して同調の度合いが高い第二時系列データを生じる動作を生成し、 第一の動物個体以外のモノにその動作を行わせることを含む、第一の動物個体と第一の動物個体以外のモノとの親和度を高める方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の動物個体間の親和度を推定する方法およびシステムは、動物個体間の同調行動をコヒーレンスなどの数値で表し可視化することができる。また、本発明の動物個体間の親和度を推定する方法およびシステムならびに親和度を高める方法は、ヒトまたは愛玩動物、伴侶動物若しくは家畜の健康維持または健康増進に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ヒトがイヌを飼い始めた時におけるイヌの加速度スペクトルの時系列データとヒトの加速度スペクトルの時系列データとこれら二つの時系列データのコヒーレンススペクトルとの一例を示す図である。
図2】飼育3か月後におけるイヌの加速度スペクトルの時系列データとヒトの加速度スペクトルの時系列データとこれら二つの時系列データのコヒーレンススペクトルとの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の親和度を推定する方法は、 第一の動物個体に第一センサを装着し、 第二の動物個体に第二センサを装着し、 所定の同じ期間に亘って第一センサおよび第二センサにて第一の動物個体に関わる第一時系列データおよび第二の動物個体に関わる第二時系列データを取得し、 第一時系列データと第二時系列データとの同調の度合いを評価し、 該同調の度合いから第一の動物個体と第二の動物個体との親和度を推定することを含む。
【0018】
動物個体としては、ヒト、愛玩動物、伴侶動物、家畜などを挙げることができる。愛玩動物または伴侶動物としては、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、トカゲ、オウム、サルなどを挙げることができる。家畜としては、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどを挙げることができる。本発明においては、第一の動物個体がヒトであり、第二の動物個体が愛玩動物、伴侶動物または家畜であることが好ましい。
【0019】
第一センサおよび第二センサは、動物個体に装着できるものであれば、特に限定されない。センサとしては、加速度センサ、心電計、脳波計などを挙げることができる。加速度センサは3軸加速度センサが好ましい。センサは、イヌなどに取り付け可能な首輪、胴輪などに内蔵させたものであってもよいし、ヒトが持ち運び可能な電子機器(スマートフォンなど)、腕時計、歩数計、ヘッドセット、ヘッドバンド、帽子、リストバンドなどに内蔵させたものであってもよい。一つの動物個体に取り付けるセンサの数は一つに限らず、複数であってもよい。センサ、通信機などを駆動させるための電源として、一次電池、二次電池、太陽電池などの電池、振動発電機、光発電機などの発電機と蓄電素子との組み合わせを用いてもよい。さらに、電池の寿命を延ばすために、動物個体が活動しているときだけ、センサや通信機などが作動するようにしてもよい。3軸加速度センサは、ノードの加速度またはノードの動きを検出できる。取得した加速度の時系列データから動物個体の動きの激しさや歩行などの行動を知ることができる。第一センサおよび第二センサによる測定は所定の同じ期間に亘って行う。例えば、ヒトがイヌを連れて散歩している期間に亘って測定を行う。取得した時系列データは、有線通信または無線通信、好ましくは無線通信にて、制御部に転送することができる。無線通信としては、Wi-Fi、Bluetooth(登録商標)、Bluetooth Low Energy(BLE)、IrDAなどを用いることができる。取得した時系列データは一時的に記録部に保存し、次いでそれを制御部に転送してもよい。記録部または制御部は、持ち運び可能な電子機器に設けてもよいし、クラウドシステムなどのように、離れた場所に設置された情報処理装置に設けてもよい。上記のセンサ以外に、測距器、GPSなどを設置して、動物個体の姿勢、位置などの時系列データを取得してもよい。
【0020】
時系列データを用いて、同調度合いの評価を行う。同調度合いの評価手法は、特に限定されない。例えば、二つの時系列データx’(t),y’(t)の同調の度合いを定量的に特徴付けるために相互相関関数を用いることができる。時系列データの平均値ux,uyを差し引いた時系列データx(t)=x’(t)-ux,y(t)=y’(t)-uyとすると、相互相関関数は、次のような式で定義される。


また、相関係数は次のような式で定義される。


なお、τは二つの時系列データにおける遅れ時間である。
【0021】
x(t),y(t)のフーリエ変換をX(ω),Y(ω)とすると、クロススペクトルは次のような式で定義される。


τ=0の場合、

が導き出される。
【0022】
クロススペクトルは一般に複素数であり、


と表すことができる。Kxyはコスペクトル、Qxyはクオドスペクトルと呼ばれる。
コヒーレンスは、二つの時系列データのフーリエ周波数成分の相関係数に相当し、次式で表わすことができる。コヒーレンスの値が大きいほど2つの時系列データの同調の度合いが高いことを表す。


また、位相の差は次式で表わすことができる。位相差の変動が低いほど2つの時系列データの同調性が大きい傾向があることを示していると考えられる。

【0023】
さらに、動物個体間の同調の度合いを評価するために用いる時系列データが3以上である場合、EOF解析を用いることができる。
【0024】
制御部で評価された同調の度合いの数値が、親和度にほぼ比例するとした場合には、スマートフォン、パーソナルコンピュータなどのディスプレイ(表示部)などにて、その数値をそのまま表示してもよいし、その数値の高さを棒グラフ、円グラフなどで表示してもよいし、その数値の範囲に応じて記号、図形、標、絵、動画などを表示してもよい。
【0025】
記録部、制御部および表示部は、1台の情報処理機器に集中させて設置してもよいし、クラウドシステム、インターネットなどを用いて複数台の情報処理機器に分散させて設置してもよい。
【0026】
一方で、時系列データを取得した期間に亘って、第一の動物個体および第二の動物個体の動作を記録することが好ましい。例えば、ヒトがイヌを連れ出し散歩しているときの動作、イヌがヒトを交互凝視しているときの動作、ヒトがイヌに話しかけているときの動作、二人のヒトが散歩、ジョギング、家事などをしているときの動作、ヒトがウマに乗っているときの動作、アタッチメント(愛着)行動時の動作などを記録し、制御部で評価された同調の度合いと各動作との相関をとる。これにより動物個体間の親和度の高まりがどのような動作をしたときに引き起こされるかを知ることができる。
【0027】
本発明の第一の動物個体と第一の動物個体以外のモノとの親和度を高める方法は、第一の動物個体以外のモノに第一センサを装着し、第一の動物個体に関わる第一時系列データを第一センサで取得し、取得した第一時系列データに対して同調の度合いが高い第二時系列データを生じる動作を生成し、第一の動物個体以外のモノにその動作を行わせることを含む。ここで、第一の動物個体以外のモノは、第二の動物個体に限られず、ロボット、バーチャルキャラクターなどであってもよい。本発明の親和度を高める方法は、動物個体間または動物個体とロボットまたはバーチャルキャラクターとの間において、上記の知見から得られた親和度が高まる動作をすることによって、低かった親和度を向上させることが期待できる。動作とコヒーレンスとの相関データは、例えば、愛玩ロボット、伴侶ロボット、介護ロボット、バーチャルキャラクターなどの動作を制御するためにも用いることができる。具体的には、ロボットやバーチャルキャラクターなどが、ヒトなどの動物個体の動き(顔の表情、まばたき、頭の向き、発声の音など)の時系列データを、3Dカメラ、光センサ、タッチセンサ、角度センサ、サウンドセンサ、距離センサ、においセンサなどのセンサ(第一センサ)で取得し、その時系列データに対して高いコヒーレンスとなるような動作(姿勢、声質、表情など)を生成し、ロボットやバーチャルキャラクターにその動作を行わせる。この動作は位相差が小さくなるように行わせることが好ましい。これによって、ヒトなどの動物個体がロボットやバーチャルキャラクターに温かみを感じたり、良い印象を持ったりするようにできる。なお、この動作生成の計算には人工知能(AI)などを使用することもできる。
【実施例
【0028】
次に、実施例を示し、本発明をより詳しく説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【0029】
震災地から譲り受けた被災犬6頭において、飼い始めから3か月にわたり、加速度センサでヒト(飼い主)とイヌ(飼い犬)とが散歩している期間に亘る動き(周波数)を加速度センサで測定した。
【0030】
被災犬を飼い始めたときにおいては、図1に示すように、ヒト(飼い主)の加速度スペクトルおよびイヌ(飼い犬)の加速度スペクトルはともに安定しておらず、どの周波数においてもコヒーレンスが低かった。
飼育3か月目においては、図2に示すように、ヒト(飼い主)の加速度スペクトルおよびイヌ(飼い犬)の加速度スペクトルが、約2Hzの周波数において高いコヒーレンス(白い帯の部分)が現れるようになった。イヌ(飼い犬)が飼い主の行動に追随しようとする傾向が見られた。
また、飼い主以外のヒト(そのイヌに低親和度のヒト)がそのイヌを連れ出し散歩したときに検出されるコヒーレンスは図1に示したものと同様にどの周波数においても低かった。
これらのことから、ヒト(飼い主)とイヌ(飼い犬)との親和度(アタッチメント)が高まると、時系列データの同調度合い(コヒーレンスの値)が大きくなると言える。
【0031】
約2Hzの周波数は徐波睡眠(ノンレム睡眠)との関連性を説かれているδ波の中心周波数である。この周波数の運動はヒトの動きやすさと関係していると思われる。例えば、ヒトの自由歩行時の歩行率は1秒間に約1.9歩であり,ヒトはほぼ2Hzのリズムで歩行しているとの知見がある。また、2Hzの小振幅他動運動を続けることによって筋緊張の低下が見られたとの知見もある(田中恩ら「自律神経機能異常(交感神経優位状態)に対する運動療法の検討」第50回日本理学療法学術大会)。イヌとの親和度向上がヒトの副交感神経活動の変化、筋緊張低下など、自律神経系に影響を与えることが示唆されるので、本願発明は、ヒトまたは愛玩動物、伴侶動物または家畜の健康維持または健康増進の一助となることが期待できる。
図1
図2