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特許7187024標的化された細胞表面編集のための複合体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】標的化された細胞表面編集のための複合体
(51)【国際特許分類】
   A61P 35/00 20060101AFI20221205BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20221205BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20221205BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20221205BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20221205BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20221205BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20221205BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20221205BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20221205BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20221205BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20221205BHJP
【FI】
A61P35/00
A61K38/47
A61K39/395 L
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61K45/00
A61K47/62
A61K47/65
A61K47/68
A61P1/04
A61P15/00
C07K16/28
C07K19/00
C12N9/24
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/56
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018567883
(86)(22)【出願日】2017-06-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 US2017040411
(87)【国際公開番号】W WO2018006034
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】62/357,645
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100201189
【弁理士】
【氏名又は名称】安原 二良
(72)【発明者】
【氏名】ウッズ、 エリオット シー.
(72)【発明者】
【氏名】シャオ、 ハン
(72)【発明者】
【氏名】ベルトッツィ、 キャロライン アール.
(72)【発明者】
【氏名】グレイ、 メリッサ
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-531031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61P 35/00
A61K 38/47
A61K 39/395
A61K 45/00
A61K 47/62
A61K 47/65
A61K 47/68
A61P 1/04
A61P 15/00
C07K 16/28
C07K 19/00
C12N 9/24
C12N 5/10
C12N 15/13
C12N 15/56
C12N 15/62
C12N 15/63
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体と、薬学的に許容される担体とを含む、標的細胞の免疫回避の低減用の薬学的組成物であって、
前記複合体は、標的細胞の細胞表面分子に結合する抗体と、シアリダーゼとを含み、前記シアリダーゼがリンカーを介して前記抗体と複合体化され、前記シアリダーゼは前記複合体化をされて前記標的細胞の表面上のシアログリカンを切断することができ、
前記薬学的組成物は、シアリダーゼ基質を含有する第2の治療剤との併用では投与されない、
薬学的組成物。
【請求項2】
前記抗体が、IgG、一本鎖Fv(scFv)、Fab、(Fab)、または(scFv’)である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記シアリダーゼが前記抗体の重鎖と複合体化される、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記シアリダーゼが前記抗体のFc領域と複合体化される、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記シアリダーゼが前記重鎖のC末端と複合体化される、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記リンカーがペプチドである、請求項1~5のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記複合体が融合タンパク質である、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記標的細胞が癌細胞である、請求項1~のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記細胞表面分子が腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子である、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記癌細胞が、癌腫細胞、乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、および結腸癌細胞からなる群から選択される、請求項8または9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子がヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)である、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記シアリダーゼが、Salmonella typhimuriumシアリダーゼ、Vibrio choleraeシアリダーゼ、哺乳動物ノイラミニダーゼ、およびヒトノイラミニダーゼからなる群から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記シアリダーゼが、ヒトノイラミニダーゼ1、ヒトノイラミニダーゼ2、ヒトノイラミニダーゼ3、およびヒトノイラミニダーゼ4からなる群から選択されるヒトノイラミニダーゼである、請求項1~11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
癌を治療する方法における使用のための請求項1~13のいずれか一項に記載の薬学的組成物であって、前記方法は、癌を有する個体に前記組成物を投与することを含む、薬学的組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の薬学的組成物、および、必要とする個体に前記薬学的組成物を投与するための説明書を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2016年7月1日に出願された米国仮特許出願第62/357,645号の利益を主張する。
【0002】
連邦政府支援の研究に関する陳述
本発明は、国立衛生研究所により授与された契約GM059907およびCA108781下で政府支援を受けてなされたものである。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
序文
癌に対する免疫応答を強化する治療法は、難治性腫瘍との戦いにおいて革命的であることが証明されている。免疫細胞は活性化受容体および抑制性受容体からのシグナルを統合して、挑戦的な標的に対する応答を決定する。活性化シグナルはそれらの細胞に病理の存在を警告し、抑制性シグナルは健康な「自己」に対面していることを細胞に伝える。成功した腫瘍は、しばしば抑制性受容体のリガンドを過剰発現させることによって、免疫細胞認識を妨げるメカニズムを進化させる。この発見は、PD-1およびCTLA-4を標的とする臨床的に承認されたT細胞チェックポイント阻害剤において具体化されるように、抑制性免疫細胞シグナル伝達を遮断することを目的とする新たな治療戦略をもたらした。進行中の前臨床試験は、複数の免疫学的経路を標的とする治療法の組み合わせに焦点を当てている。例えば、PD-1/PD-L1に対する抗体は、他のT細胞チェックポイント抑制因子を標的とするものと組み合わせて、同系腫瘍モデルにおいて改善された抗腫瘍活性を示す。これらの介入を補完するのは、自然免疫細胞、特にナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージおよび樹状細胞を標的とする療法である。
【発明の概要】
【0004】
標的細胞の細胞表面分子に結合する標的化部分および標的細胞表面編集酵素を含む複合体が提供される。また、複合体を含む組成物およびキット、ならびに複合体を使用する方法も提供される。複合体を作製する方法もまた提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】免疫回避戦略、および本開示の一実施形態によるそのような免疫回避を低減する方法を概略的に示す。
図2】抗体-シアリダーゼ複合体の調製およびそれらの電気泳動およびESI-MS分析を示す。
図3】シアリダーゼの電気泳動分析、加水分解活性、およびフローサイトメトリー、ならびにそれら活性の画像解析を示す。
図4】異なる乳癌細胞株におけるシアリダーゼ処理した場合、またはしない場合の、細胞表面シアリル化レベルおよび種々の受容体のリガンドレベルを示す。
図5】シアリダーゼの非存在下または存在下における単離した末梢血NK細胞の細胞傷害性を示す。
図6】野生型および熱不活性化V.choleraeシアリダーゼの特徴付けに用いられる様々なアッセイを示す。
図7】Vibrio choleraeシアリダーゼ、Salmonella typhimuriumシアリダーゼ、抗Her2-IgGおよびその複合体のESI-MSスペクトルを示す。
図8】V.choleraeシアリダーゼおよび抗Her2-IgG-Siaの加水分解活性を示す。S.typhimuriumシアリダーゼおよび抗Her2-IgG-StSiaの加水分解活性もまた示される。
図9】トラスツズマブ-シアリダーゼ複合体処理した場合、またはしない場合の、種々の細胞株における細胞表面シアル酸のレベルを示す画像を示す。種々の細胞株における2つのトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体による細胞表面シアル酸の除去を比較するフローサイトメトリーデータも示されている。
図10】抗Her2-IgG-Sia複合体の非存在下または存在下における種々の細胞株上のSambucus nigraリガンドを示す画像を示す。
図11】抗Her2-IgGまたは抗Her2-IgG-Siaの存在下での単離した末梢血NK細胞の細胞傷害性を示す。
図12】HER-2発現癌細胞に対するトラスツズマブおよびトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体の活性を示す。
図13】HER2+発現癌細胞に対するシアリダーゼ、トラスツズマブおよびトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体の存在下での単離された単球集団および分化されたマクロファージのシグレック発現レベルおよび細胞傷害性を示す。
図14】HER2+発現癌細胞に対するシアリダーゼ、トラスツズマブまたはトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体の存在下での単離されたγδT細胞の細胞傷害性を示す。
図15】抗Her2-IgGまたは抗Her2-IgGおよびシアリダーゼの混合物による末梢血NK細胞の細胞傷害性を、指定した遮断抗体の非存在下または存在下で示す。
図16】白血球上のCD56およびCD3マーカーを分析するフローサイトメトリーデータを示す。
図17】シアリダーゼ処理がリツキシマブ誘導補体依存性細胞傷害性(CDC)を増強することを示すデータを示す。
図18】Ramos細胞がDaudi細胞よりも高レベルのシグレック-9リガンドを有することを示すデータを示す。
図19】シアリダーゼがリツキシマブを補体依存的に増強することを実証するデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
標的細胞の細胞表面分子に結合する標的化部分および標的細胞表面編集酵素を含む複合体(コンジュゲート)が提供される。また、複合体を含む組成物およびキット、ならびに複合体を使用する方法も提供される。複合体を作製する方法もまた提供される。
【0007】
本開示の複合体、組成物、および方法をより詳細に記載する前に、複合体、組成物、および方法は、記載される特定の実施形態に限定されず、当然のことながら変更され得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものであるにすぎず、複合体、組成物、および方法の範囲は添付の特許請求の範囲のみによって限定されるため、用語は限定的であることは意図されないこともまた理解されたい。
【0008】
値の範囲が提供される場合、文脈上明確に指示されていない限り下限の単位の10分の1まで、その範囲の上限と下限との間のそれぞれの介在値、およびその記載された範囲内のあらゆる他の記載されたまたは介在する値は、複合体、組成物、および方法内に包含されることを理解されたい。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立してより小さい範囲内に含まれてもよく、また、記載される範囲内の任意の特定の除外される限界を条件として、やはり複合体、組成物、および方法内に包含される。記載される範囲に限度の1つまたは両方が含まれている場合、その含まれる限度のいずれかまたは両方を除く範囲も、複合体、組成物、および方法に含まれる。
【0009】
特定の範囲は、数値の前に「約」という用語が付されて本明細書で提示される。本明細書に使用される「約」という用語は、それが先行する正確な数、ならびにその用語が先行する数に近いかまたはほぼ等しい数のための文言的サポートを提供する。ある数が特定の記載された数に近いか近似であるかを決定するにあたり、記載されていない近似または近い数は、それが提示されている文脈において具体的に記載された数と実質的に等価な数であり得る。
【0010】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、複合体、組成物、および方法が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または等価な任意の複合体、組成物および方法もまた、複合体、組成物および方法の実施または試験において使用することができるが、代表的な例示的複合体、組成物および方法をここに記載する。
【0011】
本明細書に引用されるすべての刊行物および特許は、それぞれ個々の刊行物または特許が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されているかのように参照により本明細書に組み込まれ、刊行物が引用される関連する方法および/または材料を開示かつ記載するために、参照により本明細書に組み込まれる。任意の刊行物の引用は、出願日前のその開示のためのものであり、提供される刊行年は、個別に確認を必要とし得る実際の刊行年とは異なる場合があるので、本複合体、組成物および方法が、その刊行物よりも先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。
【0012】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。請求項は任意の要素を排除するように作成されてもよいことにさらに留意されたい。したがって、この記述は、特許請求の要素の列挙に関連して「専ら」、「唯一の」などのような排他的な用語の使用または「否定的」限定の使用のための先行基礎としての役割を果たすことを意図している。
【0013】
明瞭さのために別々の実施形態の文脈中で記載された、複合体、組成物、および方法の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせても提供され得ることが認識される。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態の文脈で説明される、複合体、組成物、および方法の様々な特徴は、別々にまたは任意の適切なサブコンビネーションで提供されてもよい。実施形態のすべての組み合わせは、このような組み合わせが実施可能なプロセスおよび/または組成物を包含する程度にまで、本開示によって具体的に包含され、まさに各およびすべての組み合わせが個々にかつ明示的に開示されているかのように本明細書に開示される。さらに、そのような変数を記載している実施形態に列挙されているすべてのサブコンビネーションも、本発明の複合体、組成物および方法によって具体的に包含され、そのような各サブコンビネーションが個々におよび明示的に開示されているかのように、本明細書に開示される。
【0014】
本開示を読むと当業者には明らかであるように、本明細書に説明され例証された個々の実施形態のそれぞれは、本方法の範囲または趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離され得る、または組み合わせられ得る個別の要素および特徴を有する。任意の記載された方法は、列挙された事象の順序で、または論理的に可能な他の順序で実施することができる。
【0015】
複合体
上記に要約したように、本開示の態様は複合体を含む。特定の態様では、複合体は、標的細胞の細胞表面分子に結合する標的化部分、および標的細胞表面編集酵素を含む。
【0016】
標的化部分
特定の実施形態によれば、本開示の複合体は、標的化部分を含む。標的化部分は変化してもよく、例えば標的細胞上の細胞表面分子の性質に基づいて選択してもよい。使用され得る標的化部分の非限定的な例には、抗体、リガンド、アプタマー、ナノ粒子、および小分子が含まれる。
【0017】
特定の態様では、標的化部分は、細胞表面分子に特異的に結合する。本明細書中で使用される場合、「細胞表面分子に特異的に結合する」または「細胞表面分子に特異的」である標的化部分は、他の細胞表面分子よりも高い親和性でその細胞表面分子に結合する標的化部分を指す。特定の実施形態によれば、標的化部分は、約10-5M以下、約10-6M以下、または約10-7M以下、または約10-8M以下、または約10-9M、10-10M、10-11M、または10-12M以下のKdの、細胞表面分子に対する結合親和性を示す。そのような親和性は、平衡透析、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えば、BIAcore 2000機器、製造業者によって概説された一般的な手順を用いる)、ラジオイムノアッセイ、または別の方法などの従来技術を用いて容易に測定され得る。
【0018】
特定の実施形態によれば、標的化部分は抗体である。用語「抗体」および「免疫グロブリン」は、任意のアイソタイプ(例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)、IgE、IgD、IgA、IgMなど)の抗体または免疫グロブリン、完全長抗体(例えば、重鎖および軽鎖ポリペプチドの2二量体からなる四量体からなる抗体);一本鎖抗体;一本鎖Fv(scFv)、Fab、(Fab’)、(scFv’)および二重特異性抗体を含むがこれらに限定されない、標的細胞の細胞表面分子に特異的結合を保持する、抗体の断片(例えば、完全長抗体または一本鎖抗体の断片);キメラ抗体;モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体(例えば、ヒト化完全長抗体、ヒト化半抗体またはヒト化抗体フラグメント);および、抗体の抗原結合部分および非抗体タンパク質を含む融合タンパク質を含む。抗体は、例えばインビボ造影剤、放射性同位体、検出可能な生成物を生成する酵素、蛍光タンパク質などで検出可能に標識されてもよい。抗体は、特異的結合対のメンバー、例えばビオチン(ビオチン-アビジン特異的結合対のメンバー)などの他の部分とさらに複合体化することができる。
【0019】
特定の態様では、標的化部分が抗体である場合、抗体は、標的細胞表面編集酵素の非存在下でも治療抗体であってもよく、例えば、(例えば、抗体依存性細胞傷害性および/または別の機構を介して)癌、免疫関連障害、内皮細胞関連障害などの治療においてそれ自身で有効性を有する抗体であってよい。例えば、抗体は、腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子に特異的に結合する治療用抗体であってもよい。
【0020】
本開示の複合体において使用され得る腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子に特異的に結合する抗体の非限定的な例としては、アデカツムマブ(Adecatumumab)、アスクリンバクマブ(Ascrinvacumab)、シクツムマブ(Cixutumumab)、コナツムマブ(Conatumumab)、ダラツムマブ(Daratumumab)、ドロジツマブ(Drozitumab)、デュリゴツマブ(Duligotumab)、デュルバルマブ(Durvalumab)、デュシジツマブ(Dusigitumab)、エンフォルツマブ(Enfortumab)、エノチクマブ(Enoticumab)、フィギツムマブ(Figitumumab)、ガニツマブ(Ganitumab)、グレムバツムマブ(Glembatumumab)、インテツムマブ(Intetumumab)、イピリムマブ(Ipilimumab)、イラツムマブ(Iratumumab)、イクルクマブ(Icrucumab)、レキサツムマブ(Lexatumumab)、ルカツムマブ(Lucatumumab)、マパツムマブ(Mapatumumab)、ナルナツマブ(Narnatumab)、ネシツムマブ(Necitumumab)、ネスバクマブ(Nesvacumab)、オファツムマブ(Ofatumumab)、オララツマブ(Olaratumab)、パニツムマブ(Panitumumab)、パトリツマブ(Patritumab)、プリツムマブ(Pritumumab)、ラドレツマブ(Radretumab)、ラムシルマブ(Ramucirumab)、リロツムマブ(Rilotumumab)、ロバツムマブ(Robatumumab)、セリバンツマブ(Seribantumab)、タレクスツマブ(Tarextumab)、テプロツムマブ(Teprotumumab)、トベツマブ(Tovetumab)、バンチクツマブ(Vantictumab)、ベセンクマブ(Vesencumab)、ボツムマブ(Votumumab)、ザルツムマブ(Zalutumumab)、フランボツマブ(Flanvotumab)、アルツモマブ(Altumomab)、アナツモマブ(Anatumomab)、アルシツモマブ(Arcitumomab)、ベクツモマブ(Bectumomab)、ブリナツモマブ(Blinatumomab)、デツモマブ(Detumomab)、イブリツモマブ(Ibritumomab)、ミンレツモマブ(Minretumomab)、ミツモマブ(Mitumomab)、モキセツモマブ(Moxetumomab)、ナプツモマブ(Naptumomab)、ノフェツモマブ(Nofetumomab)、ペムツモマブ(Pemtumomab)、ピンツモマブ(Pintumomab)、ラコツモマブ(Racotumomab)、サツモマブ(Satumomab)、ソリトマブ(Solitomab)、タプリツモマブ(Taplitumomab)、テナツモマブ(Tenatumomab)、トシツモマブ(Tositumomab)、トレメリムマブ(Tremelimumab)、アバゴボマブ(Abagovomab)、イゴボマブ(Igovomab)、オレゴボマブ(Oregovomab)、カプロマブ(Capromab)、エドレコロマブ(Edrecolomab)、ナコロマブ(Nacolomab)、アマツキシマブ(Amatuximab)、バビツキシマブ(Bavituximab)、ブレンツキシマブ(Brentuximab)、セツキシマブ(Cetuximab)、デルロツキシマブ(Derlotuximab)、ジヌツキシマブ(Dinutuximab)、エンシツキシマブ(Ensituximab)、フツキシマブ(Futuximab)、ギレンツキシマブ(Girentuximab)、インダツキシマブ(Indatuximab)、イサツキシマブ(Isatuximab)、マージツキシマブ(Margetuximab)、リツキシマブ(Rituximab)、シルツキシマブ(Siltuximab)、ウブリツキシマブ(Ublituximab)、エクロメキシマブ(Ecromeximab)、アビツズマブ(Abituzumab)、アレムツズマブ(Alemtuzumab)、ベバシズマブ(Bevacizumab)、ビバツズマブ(Bivatuzumab)、ブロンチクツズマブ(Brontictuzumab)、カンツズマブ(Cantuzumab)、カンツズマブ(Cantuzumab)、シタツズマブ(Citatuzumab)、クリバツズマブ(Clivatuzumab)、ダセツズマブ(Dacetuzumab)、デムシズマブ(Demcizumab)、ダロツズマブ(Dalotuzumab)、デニンツズマブ(Denintuzumab)、エロツズマブ(Elotuzumab)、エマンクツズマブ(Emactuzumab)、エミベツズマブ(Emibetuzumab)、エノブリツズマブ(Enoblituzumab)、エタラシズマブ(Etaracizumab)、ファルレツズマブ(Farletuzumab)、フィクラツズマブ(Ficlatuzumab)、ゲムツズマブ(Gemtuzumab)、イムガツズマブ(Imgatuzumab)、イノツズマブ(Inotuzumab)、ラベツズマブ(Labetuzumab)、リファツズマブ(Lifastuzumab)、リンツズマブ(Lintuzumab)、ロルボツズマブ(Lorvotuzumab)、ルムレツズマブ(Lumretuzumab)、マツズマブ(Matuzumab)、ミラツズマブ(Milatuzumab)、ニモツズマブ(Nimotuzumab)、オビヌツズマブ(Obinutuzumab)、オカラツズマブ(Ocaratuzumab)、オトレルツズマブ(Otlertuzumab)、オナルツズマブ(Onartuzumab)、オポルツズマブ(Oportuzumab)、パルサツズマブ(Parsatuzumab)、ペルツズマブ(Pertuzumab)、ピナツズマブ(Pinatuzumab)、ポラツズマブ(Polatuzumab)、シブロツズマブ(Sibrotuzumab)、シムツズマブ(Simtuzumab)、タカツズマブ(Tacatuzumab)、チガツズマブ(Tigatuzumab)、トラスツズマブ(Trastuzumab)、ツコツズマブ(Tucotuzumab)、バンドルツズマブ(Vandortuzumab)、バヌシズマブ(Vanucizumab)、ベルツズマブ(Veltuzumab)、ボルセツズマブ(Vorsetuzumab)、ソフィツズマブ(Sofituzumab)、カツマキソマブ(Catumaxomab)、エルツマキソマブ(Ertumaxomab)、デパツキシズマブ(Depatuxizumab)、オンツキシズマブ(Ontuxizumab)、ブロンツベトマブ(Blontuvetmab)、タムツベトマブ(Tamtuvetmab)、またはその抗原結合性バリアントが挙げられる。本明細書で使用される場合、「バリアント」は、抗体が特定の抗原(例えば、トラスツズマブの場合のHER2)に結合するが、親抗体よりも少ないまたは多いアミノ酸を有するか、親抗体に対して1つ以上のアミノ酸置換を有するか、またはそれらの組み合わせを有する。
【0021】
特定の態様では、標的化部分は、癌を治療するために承認された以下の表1に示す治療用抗体またはその抗原結合性バリアントである。また、表1には、治療用抗体が特異的に結合する、対応する腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子、ならびに抗体が治療用に承認された癌のタイプが示されている。
【表1】
【0022】
表1の略語は、以下の通りである:ALL、急性リンパ球性白血病;AML、急性骨髄性白血病;BCR-ABL、Breakpoint cluster region-Abelsonチロシンキナーゼ;CLL、慢性リンパ球性白血病;CTLA-4、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4;CRC、結腸直腸癌;EGFR、上皮細胞増殖因子受容体;EpCAM、上皮細胞接着因子;HER2、ヒト上皮細胞増殖因子受容体2;NHL、非ホジキンリンパ腫;NSCLC、非小細胞性肺癌;PAP、前立腺酸性ホスファターゼ;PD-1、プログラム化細胞死受容体1;RCC、腎細胞癌;VEGF、血管内皮増殖因子;VEGF-R2、血管内皮増殖因子受容体2。
【0023】
いくつかの実施形態では、標的化部分は、以下の表2に示す治療用抗体またはその抗原結合性バリアントである。また、表2には、治療用抗体が特異的に結合する対応する腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子、ならびに抗体を含む複合体を用いて治療することができる癌タイプの例も示されている。
【表2】
【0024】
表2の略語は、以下の通りである:A2aR、アデノシンA2a受容体;AKAP4、Aキナーゼアンカータンパク質4;AML、急性骨髄性白血病;ALL、急性リンパ球性白血病;BAGE、B黒色腫抗原;BORIS、brother of the regulator of imprinted sites;CEA、癌胎児性抗原;CLL、慢性リンパ球性白血病;CRC、結腸直腸癌;CS1、CD2サブセット1;CTLA-4、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4;EBAG9、エストロゲン受容体結合部位関連抗原9;EGF、上皮細胞増殖因子;EGFR、上皮細胞増殖因子受容体;NSCLC、非小細胞性肺癌;GAGE、G抗原;GD2、ジシアロガングリオシドGD2;gp100、糖タンパク質100;HPV-16、ヒトパピローマウイルス16;HSP105、ヒートショックタンパク質105;IDH1、イソクエン酸脱水素酵素1型;IDO1、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ1;KIR、キラー細胞免疫グロブリン様の受容体;LAG-3、リンパ球活性化遺伝子3;LY6K、リンパ球抗原6複合体K;MAGE-A3、黒色腫抗原3;MAGE-C2、黒色腫抗原C2;MAGE-D4、黒色腫抗原D4;Melan-A/MART-1、T細胞によって認識される黒色腫抗原1;MET、Nメチル-N’-ニトロソグアニジンヒト骨肉腫形質転換遺伝子;MUC1、ムチン1;MUC4、ムチン4;MUC16、ムチン16;NHL、非ホジキンリンパ腫;NY-ESO-1、ニューヨーク食道扁平上皮癌1;PD-1、プログラム化細胞死受容体1;PD-L1、プログラム化細胞死受容体リガンド1;PRAME、黒色腫の優先発現抗原;PSA、前立腺特異的抗原;RCC、腎細胞癌;ROR1、受容体チロシンキナーゼオーファン受容体1;SCCHN、頭頸部の扁平上皮癌;SPAG-9、精子関連抗原9;SSX1、滑膜肉腫X染色体破断点1;TIM-3、T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン-3;VISTA、T細胞活性化のV-ドメイン免疫グロブリン含有サプレッサー;WT1、ウィルムス腫瘍1;XAGE-1b、X染色体抗原1b。
【0025】
いくつかの実施形態では、標的化部分は、以下の表3に示す治療用抗体またはその抗原結合性バリアントである。また、治療用抗体が特異的に結合する、対応する腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子も表3に提供される。
【表3】
【0026】
いくつかの実施形態では、本開示の複合体は、トラスツズマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、ギレンツキシマブ、パニツムマブ、オファツムマブ、リツキシマブ、およびその抗原結合性バリアントから選択される、標的化部分としての治療用抗体を含む。
【0027】
特定の態様では、本開示の複合体は、標的化部分として治療用抗体を含み、治療用抗体は、トラスツズマブまたはそのHER2結合性バリアントである。トラスツズマブの重鎖および軽鎖アミノ酸配列は公知であり、以下の表4に提供される。
【表4】
【0028】
標的化部分が抗体である場合、標的細胞表面編集酵素は、抗体の任意の適切な領域と複合体化され得る。特定の態様では、標的化部分は軽鎖ポリペプチドを有する抗体であり、標的細胞表面編集酵素は軽鎖、例えば軽鎖のC末端または内部領域と複合体化される。特定の実施形態によれば、標的化部分は、重鎖ポリペプチドを有する抗体であり、標的細胞表面編集酵素は、重鎖、例えば、重鎖のC末端または内部領域で複合体化される。重鎖を有する抗体が結晶化可能な断片(Fc)領域を含む場合、標的細胞表面編集酵素はFc領域、例えばFc領域のC末端または内部領域と複合体化されることができる。
【0029】
特定の実施形態によれば、標的化部分はリガンドである。本明細書中で使用される場合、「リガンド」は、生物学的目的を果たすために生体分子と複合物(コンプレックス)を形成する物質である。リガンドは、標的細胞の表面上の細胞表面分子と複合物を形成する循環因子、分泌因子、サイトカイン、成長因子、ホルモン、ペプチド、ポリペプチド、小分子および核酸から選択される物質であってもよい。特定の態様では、標的化部分がリガンドである場合、リガンドは、細胞表面分子との複合物形成が起こるがそのような複合物形成の正常な生物学的結果は生じないように改変される。特定の態様では、リガンドは、標的細胞上に存在する細胞表面受容体のリガンドである。目的の細胞表面受容体には、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、非受容体チロシンキナーゼ(非RTK)、増殖因子受容体などが含まれるが、これらに限定されない。本開示の複合体が標的化部分としてリガンドを含む場合、標的細胞表面編集酵素は、リガンドの任意の適切な領域、例えば、標的細胞表面分子と結合する(例えば、特異的に結合する)リガンドの能力に干渉しないまたは実質的に干渉しない、結合領域と複合体化され得る。
【0030】
特定の態様では、標的化部分はアプタマーである。「アプタマー」とは、標的細胞表面分子に対する特異的結合親和性を有する核酸(例えば、オリゴヌクレオチド)を意味する。アプタマーは、選択および合成の容易性、高い結合親和性および特異性、低い免疫原性、および汎用性のある合成アクセス可能性のような、標的細胞表面編集酵素の標的送達のためのある望ましい特性を示す。細胞表面分子に結合するアプタマーは既知であり、例えば、TTA1(細胞外マトリックスタンパク質テネイシン-Cに対する腫瘍標的化アプタマー)を含む。本開示の複合体において使用されるアプタマーとしては、Zhu et al.(2015)ChemMedChem 10(1):39-45、Sun et al.(2014)Mol.Ther.Nucleic Acids 3:e182、およびZhang et al.(2011)Curr.Med.Chem.18(27):4185-4194に記載されるものが挙げられる。
【0031】
特定の実施形態によれば、標的化部分はナノ粒子である。本明細書で使用する「ナノ粒子」は、1nm~1000nm、20nm~750nm、50nm~500nm、100nm~300nm、例えば120~200nmの範囲で、少なくとも1つの寸法を有する粒子である。ナノ粒子は、球状、回転楕円体状、棒状、円盤状、角錐状、立方体状、円筒状、ナノヘリ型、ナノスプリング状、ナノ形状、矢印涙形、テトラポッド形、プリズム形、または任意の他の適切な幾何学的または非幾何学的形状を含むことができる。特定の態様では、ナノ粒子は、その表面に、例えば、抗体、リガンド、アプタマー、小分子など、本明細書に記載される1つ以上の他の標的化部分を含む。本開示の複合体に使用されるナノ粒子としては、Wang et al.(2010)Pharmacol.Res.62(2):90-99;Rao et al.(2015)ACS Nano 9(6):5725-5740、およびByrne et al.(2008)Adv.Drug Deliv.Rev.60(15):1615-1626に記載されるものが挙げられる。
【0032】
特定の態様では、標的化部分は小分子である。「小分子」とは、1000原子質量単位(amu)以下の分子量を有する化合物を意味する。いくつかの実施形態では、小分子は750amu以下、500amu以下、400amu以下、300amu以下、または200amu以下である。特定の態様では、小分子はポリマー中に存在するような反復分子単位から作られていない。特定の態様では、標的細胞表面分子は、リガンドが小分子である受容体であり、複合体の小分子は、受容体の小分子リガンド(またはその誘導体)である。目的の標的細胞に複合体を標的化する際に使用される低分子が知られている。ほんの一例として、葉酸(FA)誘導体は、例えば多くの上皮腫瘍において過剰発現される葉酸受容体に結合することによってある種の癌細胞を効果的に標的とすることが示されている。例えば、Vergote et al.(2015)Ther.Adv.Med.Oncol.7(4):206-218を参照されたい。別の例では、小分子シグマ-2は、癌細胞の標的化において有効であることが証明されている。例えば、Hashim et al.(2014)Molecular Oncology 8(5):956-967を参照されたい。シグマ-2は、膵臓癌細胞を含む多くの増殖腫瘍細胞において過剰発現されるシグマ-2受容体の小分子リガンドである。特定の態様では、本開示の複合体は、小分子薬物複合体(SMDC)の文脈において標的細胞上の細胞表面分子と結合することによって目的の標的細胞に複合体を標的化するのに有効であることが実証された小分子を、標的化部分として含む。
【0033】
標的細胞表面編集酵素
上記に要約したように、本開示の複合体には、標的細胞表面編集酵素が含まれる。本明細書中で使用される場合、「標的細胞表面編集酵素」は、標的細胞の対応する細胞表面分子に標的化部分が結合する際に、標的細胞の表面上の1つ以上の分子の構造変化をもたらす酵素である。特定の態様では、構造変化は、標的化部分が結合する細胞表面分子に対するものである。他の態様では、構造変化は、標的化部分が結合する細胞表面分子以外の標的細胞の表面上の分子に対するものである。
【0034】
特定の態様では、標的細胞表面編集酵素は、野生型酵素(すなわち、天然に見出される酵素)である。他の態様では、酵素は野生型酵素ではない。例えば、標的細胞表面編集酵素は、野生型酵素の非天然誘導体であってもよい。このような誘導体は、対応する野生型酵素の酵素活性を少なくとも部分的に保持する。利用され得る酵素誘導体には、対応する野生型酵素より少ないアミノ酸またはより多くのアミノ酸を有するものが含まれる。あるいは、またはさらに、酵素誘導体は、対応する野生型酵素と比較して、1つ以上のアミノ酸置換またはアミノ酸修飾を含むことができる。
【0035】
分子内の標的細胞表面編集酵素によって標的細胞の表面上で行われる構造変化の例は、分子の切断である。特定の態様では、標的細胞表面編集酵素によって切断される分子はポリマーである。標的細胞表面編集酵素によって切断され得る(例えば、分解され得る)細胞表面ポリマーとしては、ポリペプチド、多糖類、糖タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、標的細胞表面編集酵素は、標的細胞の表面上のポリペプチド(または目的のそのサブグループ)を切断するプロテアーゼであってもよい。特定の態様では、標的細胞表面編集酵素によって切断されるポリマーは、多糖類(または「グリカン」)、すなわちグリコシド結合した単糖類を含む分子である。そのような実施形態では、標的細胞表面編集酵素は、例えば、グリコシド加水分解酵素(例えば、シアリダーゼ)であってもよい。
【0036】
特定の実施形態によれば、細胞表面編集酵素は、標的細胞の表面上の分子(例えば、ポリマー)の末端残基を切断する(例えば、加水分解する)。特定の態様では、末端残基は、オリゴ糖、多糖、糖タンパク質、糖脂質、およびガングリオシドから選択される分子中に存在する。いくつかの実施形態では、末端残基は末端シアル酸残基である。末端残基が末端シアル酸残基である場合、細胞表面編集酵素は、シアル酸(ノイラミン酸)のグリコシド結合を切断し、オリゴ糖、多糖、糖タンパク質、糖脂質、および他の基質から末端シアル酸残基を放出するシアリダーゼ(または上記の誘導体)が挙げられる。
【0037】
本開示の複合体において使用され得るシアリダーゼには、原核生物シアリダーゼおよび真核生物シアリダーゼが含まれるが、これらに限定されない。使用され得る原核生物シアリダーゼには、細菌シアリダーゼが含まれる。本開示の複合体に使用される細菌シアリダーゼの一例は、Salmonella typhimuriumシアリダーゼ(例えば、UniProtKB-P29768)である。本開示の複合体に使用される細菌シアリダーゼの別の例は、Vibrio choleraシアリダーゼ(例えば、UniProtKB-P0C6E9)である。使用され得る真核生物シアリダーゼには、例えば、哺乳動物シアリダーゼおよび非哺乳動物真核生物シアリダーゼが含まれる。目的の哺乳動物シアリダーゼ(または哺乳動物ノイラミニダーゼ)には、霊長類、例えばヒトまたは非ヒトノイラミニダーゼ由来のものが含まれる。特定の態様では、シアリダーゼはヒトシアリダーゼである。特定の実施形態によれば、ヒトシアリダーゼは、ヒトノイラミニダーゼ1(例えば、UniProtKB-Q99519)、ヒトノイラミニダーゼ2(例えば、UniProtKB-Q9Y3R4)、ヒトノイラミニダーゼ3(UniProtKB-Q9UQ49)およびヒトノイラミニダーゼ4(例えば、UniProtKB-Q8WWR8)から選択される。シアリダーゼは、切断された誘導体、対応する野生型シアリダーゼよりも多くのアミノ酸を含む誘導体、1つ以上のアミノ酸置換を含む誘導体(例えば、1つ以上の保存的置換、1つ以上の非保存的置換、非天然アミノ酸による天然アミノ酸の置換など)のような、上記野生型シアリダーゼのいずれかの誘導体であり得ることが理解されるであろう。誘導体は、親野生型シアリダーゼのグリコシド加水分解酵素活性の少なくとも一部を保持する。
【表5】
【0038】
特定の実施形態によれば、標的細胞表面編集酵素は、標的細胞の表面上のリガンドを編集する(例えば、すべてまたは一部を切断する)。いくつかの実施形態では、リガンドは免疫受容体のリガンドである。目的の免疫受容体リガンドとしては、抑制性免疫受容体のリガンドが挙げられるが、これに限定されるものではない。特定の態様では、標的細胞表面編集酵素は抑制性免疫受容体のリガンドを切断し、抑制性免疫受容体はナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好中球、樹状細胞、T細胞、B細胞、マスト細胞、好塩基球および好酸球から選択される細胞上に存在する。例として、標的細胞表面編集酵素によって編集される標的細胞の表面上のリガンドは、シアル酸結合Ig様レクチン(シグレック)受容体、例えばシグレック7、シグレック9、および/または同様のもののリガンドを含む。特定の実施形態によれば、このようなリガンドはシアログリカンである。
【0039】
特定の態様では、標的細胞表面編集酵素によって影響される標的細胞の表面上の分子の構造変化は、分子の酸化である。
【0040】
いくつかの実施形態では、標的細胞表面編集酵素によって影響される標的細胞の表面上の分子の構造変化は、分子の還元である。
【0041】
特定の態様では、標的細胞表面編集酵素は、部分を分子に添加することによって、標的細胞の表面上の分子の構造変化をもたらす。例えば、標的細胞表面編集酵素は、ドナー分子から分子に官能基を転移させるトランスフェラーゼであってもよい。いくつかの実施形態では、標的細胞表面編集酵素は、標的細胞の表面上の分子にリン酸基を付加するキナーゼである。
【0042】
いくつかの実施形態によれば、標的細胞表面編集酵素は、分子から部分を除去することによって、標的細胞の表面上の分子の構造変化をもたらす。例えば、標的細胞表面編集酵素は、分子からアクセプター分子に官能基を転移させるトランスフェラーゼであってもよい。いくつかの実施形態では、標的細胞表面編集酵素は、標的細胞の表面上の分子からリン酸基を除去するホスファターゼである。
【0043】
標的細胞
標的化部分および標的細胞表面編集酵素は、標的化される細胞に基づいて選択されてもよい。特定の実施形態によれば、標的細胞は、癌細胞、免疫細胞、内皮細胞、および上皮細胞から選択される。目的の標的細胞には、特定の疾患または病態に関連する細胞が含まれるが、これに限定されない。例えば、標的細胞は正常に機能する細胞(例えば、正常に機能する免疫細胞など)であってもよく、細胞表面編集酵素は、それを必要とする個体にとって治療的な態様で細胞の機能を調節し、例えば、個体の疾患を治療するのに有益な細胞の機能を高めるなどする。
【0044】
他の態様では、標的細胞は正常細胞ではない。目的とする非正常標的細胞としては、癌細胞が挙げられるが、これに限定されない。「癌細胞」とは、例えば、異常な細胞成長、異常な細胞増殖、密度依存性の増殖阻害の損失、足場非依存性の増殖能力、免疫無防備状態の非ヒト動物モデルにおける腫瘍増殖および/もしくは発達、ならびに/または細胞形質転換の任意の適切な指標を促進することができる能力のうちの1つ以上によって特徴付けることができる、新生物細胞表現型を示す細胞を意味する。本明細書において「癌細胞」は、「腫瘍細胞」、「悪性細胞」または「癌性細胞」と互換的に使用され得、固形腫瘍、半固形腫瘍、原発腫瘍、転移性腫瘍などの癌細胞を包含する。特定の態様では、癌細胞は癌腫細胞である。特定の実施形態によれば、癌細胞は、乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、結腸癌細胞、および上記表1および2に記載の癌タイプのいずれかの癌細胞から選択される。
【0045】
特定の態様では、標的細胞が癌細胞である場合、標的化部分が結合する癌細胞の表面上の分子は、腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子である。「腫瘍関連細胞表面分子」とは、正常組織の細胞上での発現が制限され悪性細胞上で発現される細胞表面分子、正常細胞に比べて悪性細胞上ではるかに高い密度で発現される細胞表面分子、または発生的に発現される細胞表面分子を意味する。
【0046】
標的細胞が癌細胞である場合、癌細胞は、標的化部分が結合する腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子を発現し得る。特定の態様において、このような細胞表面分子は、HER2、CD19、CD22、CD30、CD33、CD56、CD66/CEACAM5、CD70、CD74、CD79b、CD138、ネクチン-4、メソテリン、膜貫通型糖タンパク質NMB(GPNMB)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、SLC44A4、CA6、CA-IX、インテグリン、C-X-Cケモカイン受容体4型(CXCR4)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、ニューロピリン-1(NRP1)、マトリプターゼ、上記の表1、2および3に記載の任意の細胞表面分子、および対象の他の腫瘍関連または腫瘍特異的細胞表面分子から選択される。
【0047】
複合体を作製する方法
本開示の複合体を作製する方法もまた提供される。
【0048】
標的化部分および/または標的細胞表面編集酵素を産生することを望む場合(例えば、特定の標的化部分および/または標的細胞表面編集酵素が市販されていないため)、この方法は、標的化部分および標的細胞表面編集酵素の一方または両方を産生することを含み得る。
【0049】
所望の複合体の成分(すなわち、標的化部分または標的細胞表面編集酵素)がペプチドまたはポリペプチドである場合、組換え法を用いて成分を生成することができる。例えば、所望の複合体の成分をコードするDNAを発現ベクターに挿入することができる。成分をコードするDNAは、成分の発現を確実にする発現ベクター中の1つ以上の制御配列に作動可能に連結され得る。発現制御配列には、プロモーター(例えば、天然に関連するプロモーターまたは異種プロモーター)、シグナル配列、エンハンサー要素、および転写終結配列が含まれるが、これらに限定されない。発現制御配列は、原核または真核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトすることができるベクター中のプロモーター系であり得る。ベクターが適切な宿主に組み込まれると、宿主は、ヌクレオチド配列の高レベル発現、および成分の収集および精製に適した条件下で維持される。
【0050】
所望の複合体の成分(すなわち、標的化部分または標的細胞表面編集酵素)がペプチドまたはポリペプチドである場合、成分は、化学的ペプチド合成技術を用いて生成され得る。ポリペプチドが化学的に合成される場合、合成は、液相または固相を介して進行し得る。配列のC末端アミノ酸が不溶性支持体に結合した後、配列中の残りのアミノ酸を逐次的に付加する固相ポリペプチド合成(SPPS)は、所望の複合体の成分を化学合成するための適切な方法の例である。成分を合成するために、FmocおよびBocなどの様々な形態のSPPSが利用可能である。簡潔には、小さな不溶性の多孔質ビーズを、ペプチド鎖が構築される機能的単位で処理することができる。カップリング/脱保護のサイクルを繰り返した後、結合した固相の遊離N末端アミンを単一のN-保護アミノ酸ユニットにカップリングさせる。次いで、このユニットを脱保護して、新たなN末端アミンを露出させ、さらなるアミノ酸を結合させることができる。ペプチドは、固相に固定化されたままであり、切断される前に濾過プロセスを受ける。
【0051】
一旦合成されると(化学的または組換え的に)、硫酸アンモニウム沈殿、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)精製、ゲル電気泳動などの標準的な手順に従って成分を精製することができる。
【0052】
標的化部分および標的細胞表面編集酵素が得られたら、様々な複合体化(コンジュゲーション)方法が利用可能であり、特定の方法は、所望の複合体中の標的化部分および標的細胞表面編集酵素の性質/タイプに基づいて選択され得る(例えば、標的化部分および標的細胞表面編集酵素中の利用可能な、または提供された反応性官能基に基づいて)。本開示の複合体を生成するための標的化部分および標的細胞表面編集酵素を安定に会合させるのに使用することを見出すバイオコンジュゲーション戦略は、Hermanson,“Bioconjugate Techniques,”Academic Press,2nd edition,April 1,2008,Haugland,1995,Methods Mol.Biol.45:205-21;Brinkley,1992,Bioconjugate Chemistry 3:2などに記載されているものが挙げられる。
【0053】
特定の実施形態によれば、標的化部分および標的細胞表面編集酵素は、互いに直接複合体化されており、すなわち、複合体の成分は、リンカーを使用せずに互いと複合体化される。他の態様では、標的化部分および標的細胞表面編集酵素は、リンカーを介して互いと複合体化される。任意の適切なリンカーを使用することができる。本開示の複合体に使用されるリンカーとしては、エステルリンカー、アミドリンカー、マレイミドまたはマレイミドベースのリンカー、バリン-シトルリンリンカー、ヒドラゾンリンカー、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ブチレート(SPDB)リンカー、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)リンカー、ビニルスルホンベースのリンカー、テトラエチレングリコールなど、だがそれに限定されない、ポリエチレングリコール(PEG)を含むリンカー、プロパン酸を含むリンカー、カプロレイン酸を含むリンカー、およびその任意の組み合わせを含むリンカーが挙げられる。特定の態様では、リンカーはポリエチレングリコール(PEG)を含む。いくつかの実施形態では、リンカーはペプチドリンカーである。ペプチドリンカーは、可撓性であっても剛性であってもよい。対象となるペプチドリンカーには、Chen et al.(2013)Adv.Drug Deliv.Rev.65(10):1357-1369に記載されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。ある態様では、リンカーがペプチドリンカーである場合、複合体は融合タンパク質である。複合体が融合タンパク質である場合、本開示は、そのような融合タンパク質をコードする核酸、プロモーターに作動可能に連結されたそのような核酸を含む発現ベクター、およびこのような融合タンパク質、核酸、および/または発現ベクターを含む宿主細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞)をさらに提供する。特定の態様では、リンカーは血清安定性である。血清安定リンカーは既知であり、例えばPEG、スルホンリンカー(例えば、フェニルオキサジアゾールスルホンリンカー(Patterson et al.(2014)Bioconj.Chem.25(8):1402-7を参照のこと))などを含むリンカーが挙げられる。
【0054】
標的化部分と標的細胞表面編集酵素を、リンカーを介して連結するために多くの戦略が利用可能である。例えば、複合体の1つの成分は、リンカーをその成分に共有結合させることによって誘導体化することができ、リンカーは、その成分の「ケミカルハンドル」と反応することができる官能基を有し、リンカーは、他方の成分の「ケミカルハンドル」と反応することができる第2の官能基を有する。リンカー上の官能基は変化してもよく、所望の複合体の成分上のケミカルハンドルとの適合性に基づいて選択してもよい。複合体成分は、リンカーの官能基と反応するのに有用な官能基をすでに含んでいてもよく、またはこのような官能基は、所望の複合体の一方または両方の成分に提供されてもよい。複合体の成分をリンカーに結合させるために使用され得る官能基には、活性エステル、イソシアネート、イミドエステル、ヒドラジド、アミノ基、アルデヒド、ケトン、光反応性基、マレイミド基、アルファ-ハロ-アセチル基、エポキシド、アジリジンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。ヨードアセトアミド、マレイミド、ベンジルハライドおよびブロモメチルケトンのような試薬は、チオールのS-アルキル化によって反応して安定なチオエーテル生成物を生成する。例えば、pH6.5~7.5において、マレイミド基はスルフヒドリル基と反応して安定なチオエーテル結合を形成する。NBDハロゲン化物のようなアリール化試薬は、求核剤による芳香族ハロゲン化物の類似の置換によって、チオールまたはアミンと反応する。チオラートアニオンは中性チオールよりも良い求核剤なので、システインは、そのpK(タンパク質構造コンテキストに応じて、約8.3)より上で反応性がより高くなる。チオールはまた、イソチオシアネートおよびスクシンイミジルエステルを含む特定のアミン反応性試薬と反応する。TS-Linkシリーズの試薬は、可逆チオール修飾に利用できる。
【0055】
アミン反応性基に関しては、第一級アミンは、ポリペプチド鎖のN末端およびリシン(Lys、K)アミノ酸残基の側鎖に存在する。典型的な生物学的またはタンパク質試料中の利用可能な官能基の中で、第一級アミンは特に求核性であり、それらをいくつかの反応性基との複合体化のための容易な標的とする。例えば、NHSエステルは、カルボジイミド分子のカルボジイミド活性化によって形成される反応性基である。NHSエステル活性化架橋剤および標識化合物は、生理的条件からわずかにアルカリ性の条件まで(pH7.2~9)で第一級アミンと反応して安定なアミド結合を生じる。この反応はN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を放出する。また、一例として、イミドエステル架橋剤は、第一級アミンと反応してアミジン結合を形成する。イミドエステル架橋剤は、アルカリ性pHでアミンと迅速に反応するが、短い半減期を有する。pHがよりアルカリ性になるにつれて、半減期およびアミンとの反応性が増大する。このように、架橋は、pH8よりもpH10で行うとより効率的である。pH10未満の反応条件では副反応が起こる可能性があるが、アミジン形成はpH8~10の間で優位である。
【0056】
多数の他の合成化学基が一級アミンとの化学結合を形成し、例えばイソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、スルホニルクロライド、アルデヒド、グリオキサール、エポキシド、オキシラン、カーボネート、アリールハライド、カルボジイミド、無水物、およびフルオロフェニルエステルが挙げられるが、これらに限定されない。そのような基は、アシル化またはアルキル化のいずれかによってアミンに結合する。
【0057】
一実施形態によれば、標的化部分、標的細胞表面編集酵素、またはその両方の化学的ハンドルは、その化学的ハンドルを有する非天然アミノ酸を成分へ組み込むことによって提供される。非天然アミノ酸は、化学合成または組換えアプローチを介して、例えば、宿主細胞における翻訳中に非天然アミノ酸を組み込むために適切な直交アミノアシルtRNAシンテターゼ-tRNA対を使用して、取り込まれ得る。成分中に存在する非天然アミノ酸の官能基は、アジド、アルキン、アルケン、アミノオキシ、ヒドラジン、アルデヒド、ニトロン、ニトリルオキシド、シクロプロペン、ノルボルネン、イソシアニド、アリールハライド、ボロン酸、または他の適切な官能基であってもよく、リンカー上の官能基は、非天然アミノ酸の官能基と反応するように選択される(逆もまた同様である)。
【0058】
他の態様では、標的化部分、標的細胞表面編集酵素、またはその両方のケミカルハンドルは、非天然アミノ酸を含まないアプローチを用いて提供される。例えば、非天然アミノ酸を含まない成分は、反応性離脱基または他の求電子性基を有するリンカー構築物との置換反応における求核試薬として、例えば、成分の求核性官能基(例えば、N末端アミンまたはリジンの第一級アミン、または任意の他の求核性アミノ酸残基)を利用することによって、リンカーと複合体化されることができる。
【0059】
特定の態様では、標的細胞表面編集酵素は標的化部分に部位特異的に複合体化されるか、標的化部分は標的細胞表面編集酵素に部位特異的に複合体化されるか、またはその両方である。いくつかの実施形態では、部位特異的複合体化は、反応性官能基を有する非天然アミノ酸を標的化部分および/または標的細胞表面編集酵素の所定の位置に組み込むことによって達成される。非天然アミノ酸のタンパク質への部位特異的組み込みの詳細は、例えば、Young&Schultz(2010)J.Biol.Chem.285:11039-11044に見出すことができる。
【0060】
特定の態様では、標的化部分はC末端アルデヒドタグを有し、C末端アルデヒドをアミノオキシ-テトラエチレングリコール-アジド(アミノオキシ-TEG-N)と反応させ、続いてビシクロノニン-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(BCN-NHS)標識標的細胞表面編集酵素と反応させることによって部位特異的複合体化を達成する。この例示的な実施形態は、以下の実験セクションでより詳細に説明される。
【0061】
特定の態様では、標的化部分はC末端アルデヒドタグを有し、C末端アルデヒドをアミノオキシ-テトラエチレングリコール-アジド(アミノオキシ-TEG-N)と反応させることによって部位特異的複合体化が達成される。標的細胞表面編集酵素はアルデヒドタグ配列(SLCTPSRGS)を有し、アルデヒドタグシステインをジベンゾシクロオクチン-テトラポリエチレングリコール-マレイミド(DBCO-PEG4-マレイミド)と反応させた後、TEG-N標識された標的化部分との反応によって、部位特異的複合体化が達成される。この例示的な実施形態は、以下の実験セクションでより詳細に説明される。
【0062】
したがって、本開示の態様は、標的細胞表面上で細胞表面分子に結合する標的化部分と標的細胞表面編集酵素を複合体化することを含む方法を含む。1つ以上(例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上など)の標的細胞表面編集酵素を標的化部分と複合体化することができる。標的化部分および標的細胞表面編集酵素は、本明細書に記載の標的化部分および標的細胞表面編集酵素のいずれかであり得る。ほんの一例として、いくつかの実施形態では、標的細胞表面編集酵素はシアリダーゼ(例えば、本明細書に記載のシアリダーゼのいずれか)であり、標的化部分は抗体(例えば、本明細書に記載の抗体のいずれか、例として、抗HER2抗体(例えば、トラスツズマブ)、セツキシマブ、ダラツムマブ、ギレンツキシマブ、パニツムマブ、オファツムマブ、リツキシマブなどを含む)である。上記のように、複合体化は、標的部分、標的細胞表面編集酵素、またはその両方に関して部位特異的であり得る(例えば、所定の位置における非天然アミノ酸の官能基を介して)。
【0063】
組成物
また、本開示の複合体を含む組成物も提供される。組成物は、本明細書に記載された複合体(例えば、本明細書に記載の標的化部分および標的細胞表面編集酵素のいずれかを有する複合体)のいずれかを含み得る。特定の態様では、組成物は、液体媒体中に存在する本開示の複合体を含む。液体媒体は、水、緩衝溶液などの水性液体媒体であってもよい。1つ以上の添加剤、例えば、塩(例えば、NaCl、MgCl、KCl、MgSO)、緩衝剤(トリス緩衝液、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)(HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸ナトリウム塩(MES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)など)、溶解剤、洗浄剤(例えば、Tween-20などの非イオン性洗浄剤)、リボヌクレアーゼ阻害剤、グリセロール、キレート剤などは、このような組成物に存在してもよい。
【0064】
薬学的組成物もまた提供される。薬学的組成物は、本開示の複合体のいずれか、および薬学的に許容される担体を含む。薬学的組成物は、一般に、治療有効量の複合体を含む。「治療有効量」とは、所望の結果をもたらすのに十分な用量を意味し、例えば、対照と比較して、標的細胞またはその集団に関連する疾患または障害の症状の軽減などの有益なまたは所望の治療結果(予防的な結果を含む)をもたらすのに十分な量を意味する。有効量は1回以上の投与で投与することができる。
【0065】
本開示の複合体は、治療用投与のための種々の製剤に組み込むことができる。より具体的には、複合体は、適切な薬学的に許容される賦形剤または希釈剤との組み合わせによって、薬学的組成物に製剤化することができ、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏、溶液、注入剤、吸入剤、およびエアロゾルなどの固体、半固体、液体、またはガス状形態の製剤に製剤化することができる。
【0066】
患者への投与に適した(例えば、ヒト投与に適した)本開示の複合体の製剤は、一般的に滅菌されており、さらに、選択された投与経路に従って患者に投与することが禁じられた検出可能な発熱物質または他の汚染物質を含んでいないようにされ得る。
【0067】
薬学的剤形では、複合体をその薬学的に許容される塩の形態で投与することができ、またはそれらを単独でもしくは適切な会合で使用することができ、ならびに他の薬学的活性化合物、例えば抗癌剤(小分子抗癌剤を含むが、これに限定されない)、免疫チェックポイント阻害剤、およびそれらの任意の組み合わせと共に組み合わせて使用することができる。以下の方法および担体/賦形剤は単なる例であり、決して限定するものではない。
【0068】
経口製剤の場合、例えばラクトース、マンニトール、トウモロコシデンプンまたはジャガイモデンプンなどの従来の添加剤、結晶セルロース、セルロース誘導体、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチンなどの結合剤、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプンまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムまたはタルクなどの潤滑剤、および所望により、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤および香味剤を用いて、錠剤、散剤、顆粒またはカプセル剤を製造するために、複合体を単独でまたは適切な添加剤と組み合わせて使用することができる。
【0069】
複合体は、非経口(例えば、静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、大脳内、脳室内、髄腔内、皮下など)投与用に製剤化することができる。特定の態様では、複合体は、植物油もしくは他の類似の油、合成脂肪族グリセリド、高級脂肪酸のエステル、またはプロピレングリコール等の水性溶媒または非水性溶媒に複合体を溶解、懸濁または乳化することによって、また必要であれば、可溶化剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定剤および防腐剤等の通常の添加剤を用いて、注射用に製剤化することができる。
【0070】
複合体を含む薬学的組成物は、所望の純度を有する複合体を任意の生理学的に許容される担体、賦形剤、安定剤、界面活性剤、緩衝剤および/または等張化剤と混合することによって調製することができる。許容される担体、賦形剤および/または安定剤は、使用される投与量および濃度ではレシピエントに無毒であり、緩衝液、例えばリン酸、クエン酸塩および他の有機酸;アスコルビン酸、グルタチオン、システイン、メチオニンおよびクエン酸を含む抗酸化剤;防腐剤(例えばエタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロル-m-クレゾール、メチルまたはプロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムまたはそれらの組み合わせ);アルギニン、グリシン、オルニチン、リシン、ヒスチジン、グルタミン酸、D、イソロイシン、ロイシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、セリン、プロリン、およびそれらの組み合わせなどのアミノ酸;単糖、二糖および他の炭水化物;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えばゼラチンまたは血清アルブミン;EDTAなどのキレート剤;トレハロース、ショ糖、ラクトース、グルコース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フラクトース、ソルボース、ラフィノース、グルコサミン、N-メチルグルコサミン、ガラクトサミンおよびノイラミン酸などの糖;および/または、Tween、Brij Pluronic、トリトン-Xまたはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0071】
薬学的組成物は、液体形態、凍結乾燥形態、または凍結乾燥形態から再構成された液体形態であってもよく、凍結乾燥製剤は投与前に滅菌溶液で再構成されるべきである。凍結乾燥組成物を再構成するための標準的な手順は、一定量の純水(典型的には、凍結乾燥中に除去された容積に相当する)を加えることである。しかしながら、抗菌剤を含む溶液は、非経口投与のための薬学的組成物の製造のために使用され得る。
【0072】
複合体の水性製剤は、例えば、約4.0~約7.0、または約5.0~約6.0の範囲、またはあるいは、約5.5のpHで、pH緩衝溶液中で調製することができる。この範囲内のpHに適した緩衝液の例には、リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液および他の有機酸緩衝液が含まれる。緩衝液濃度は、例えば、緩衝液および製剤の所望の張性に応じて、約1mM~約100mM、または約5mM~約50mMであり得る。
【0073】
製剤の張度を調節するために、等張化剤を製剤に含めることができる。例示的な等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、およびアミノ酸、糖、ならびにそれらの組み合わせの群からの任意の成分が挙げられる。いくつかの実施形態では、水性製剤は等張性であるが、高張または低張溶液も適し得る。「等張性」という用語は、生理的食塩水または血清など、それが比較される何らかの他の溶液と同じ張度を有する溶液を意味する。等張化剤は、約5mM~約350mMの量で、例えば、100mM~350mMの量で使用され得る。
【0074】
凝集を減少させるために、および/または製剤中の微粒子の形成を最小限にするために、および/または吸着を低減するために、界面活性剤もまた製剤に添加されてもよい。界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij)、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル(Triton-X)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(Poloxamer、Pluronic)およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。適切なポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの例は、ポリソルベート20(Tween20(商標)で販売)およびポリソルベート80(Tween80(商標)で販売)である。適切なポリエチレン-ポリプロピレンコポリマーの例は、Pluronic(登録商標)F68またはPoloxamer188(商標)の名称で販売されているものである。適切なポリオキシエチレンアルキルエーテルの例は、Brij(商標)の商標で販売されているものである。界面活性剤の濃度の例は、約0.001%~約1%w/vの範囲であり得る。
【0075】
凍結乾燥プロセス中の不安定化条件から複合体を保護するために、凍結乾燥保護剤を添加してもよい。例えば、既知の凍結乾燥保護剤には、糖(グルコースおよびスクロースを含む)、ポリオール(マンニトール、ソルビトールおよびグリセロールを含む)、およびアミノ酸(アラニン、グリシンおよびグルタミン酸を含む)が挙げられる。凍結乾燥保護剤は、約10mM~500nMの量で含まれることができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、本開示の複合体、および上記で同定された1つ以上の薬剤(例えば、界面活性剤、緩衝剤、安定剤、等張化剤)を含み、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、メチルまたはプロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム、およびそれらの組み合わせなどの、1つ以上の防腐剤を実質的に含まない。他の実施形態では、防腐剤が製剤中に、例えば約0.001~約2%(w/v)の濃度で含まれる。
【0077】
方法
上記に要約したように、本開示の複合体を使用する方法もまた提供される。ある態様では、本開示の方法は、それを必要とする個体に、治療有効量の本開示の複合体のいずれか、または本開示の薬学的組成物のいずれかを投与することを含む。
【0078】
特定の態様では、投与は、個体における免疫経路を調節する。例えば、投与は、抑制性免疫受容体経路、補体経路、ペア型免疫グロブリン様2型受容体(PILR)経路、およびナチュラルキラーグループ2、メンバーDタンパク質(NKG2D)経路から選択される免疫経路を調節することができる。特定の態様では、標的細胞はその表面上にリガンドを含み、投与は標的細胞表面編集酵素によるリガンドの編集をもたらす。リガンドは、本明細書の他の場所に記載されている任意の方法で編集することができる。特定の実施形態によれば、リガンドの編集は、リガンドのすべてまたは一部の切断を含む。ほんの一例として、リガンドはシアログリカンであってもよく、標的細胞表面編集酵素はシアリダーゼであってもよく、編集にはシアログリカンの末端シアル酸残基の切断が含まれてもよい。複合体のシアリダーゼは、細菌シアリダーゼ、哺乳動物ノイラミニダーゼなどであってもよい。シアリダーゼが哺乳動物ノイラミニダーゼである場合、哺乳動物ノイラミニダーゼは、ヒトノイラミニダーゼ、例えばヒトノイラミニダーゼ1、ヒトノイラミニダーゼ2、ヒトノイラミニダーゼ3およびヒトノイラミニダーゼ4から選択されるヒトノイラミニダーゼであり得る。
【0079】
投与が標的細胞表面編集酵素による標的細胞上のリガンドの編集をもたらす場合、リガンドは抑制性免疫受容体のリガンドであり得る。特定の態様では、リガンドは、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好中球、樹状細胞、T細胞、B細胞、マスト細胞、好塩基球および好酸球からなる群から選択される免疫細胞上に存在する抑制性免疫受容体のリガンドである。いくつかの実施形態では、抑制性免疫受容体は、シアル酸結合Ig様レクチン(シグレック)受容体である。
【0080】
特定の態様では、本開示の方法は、例えば癌を治療するために、複合体または薬学的組成物を、癌を有する個体に投与することを含む。本開示の方法に従って治療することができる癌は、上記の表1および2に記載の癌のいずれかを含むが、これに限定されない。複合体は、個体の癌細胞の表面上の腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子に結合する標的化部分(例えば、上記の表1、2および3に記載の抗体のいずれかの治療用抗体)を含み得る。いくつかの実施形態では、癌細胞は癌腫細胞である。特定の実施形態によれば、癌細胞は、乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、結腸癌細胞、および上記表1および2に記載の癌タイプのいずれかの癌細胞から選択される。特定の態様では、細胞表面分子は、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)である。細胞表面分子がHER2である場合、標的化は、例えば、抗HER2抗体(例えば、トラスツズマブまたは別の適切な抗HER2抗体)であり得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、投与には、本開示の複合体または薬学的組成物を投与することが含まれ、複合体には、抗体である標的化部分が含まれる。特定の態様では、それを必要とする個体は癌を有し、複合体の標的化部分は表1に示される抗体であり、方法は、表1に記載の抗体に対応する、同一のまたは異なる癌のタイプを治療する(例えば、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を増強させることによって)ためのものである。
【0082】
特定の態様では、投与には、本開示の複合体または薬学的組成物を投与することが含まれ、複合体には、抗体である標的化部分が含まれる。いくつかの実施形態では、それを必要とする個体は癌を有し、複合体の標的化部分は表2に示す抗体であり、方法は、表2に記載の抗体に対応する同一または異なるタイプの癌を治療する(例えば、増強された抗体依存性細胞傷害性(ADCC)によって)ためのものである。
【0083】
いくつかの実施形態では、投与には、本開示の複合体または薬学的組成物を投与することが含まれ、複合体には、抗体である標的化部分が含まれる。特定の態様では、それを必要とする個体は癌を有し、複合体の標的化部分は表3に示される抗体であり、方法は癌を治療する(例えば、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)の増強によって)ためのものである。
【0084】
特定の態様では、投与には、本開示の複合体または薬学的組成物を投与することが含まれ、複合体は、トラスツズマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、ギレンツキシマブ、パニツムマブ、オファツムマブおよびリツキシマブから選択される抗体である標的化部分を含む。
【0085】
本開示の複合体は、インビボおよびエクスビボ方法、ならびに全身および局所投与経路を含む、薬物送達に適した任意の利用可能な方法および経路を用いて個体に投与される。従来のおよび薬学的に許容可能な投与経路としては、鼻腔内、筋肉内、気管内、皮下、皮内、局所適用、眼内、静脈内、動脈内、経鼻、経口、および他の経腸および非経口投与経路が含まれる。投与経路は、複合体および/または所望の効果に応じて、組み合わせることができ、または必要に応じて調節することができる。複合体は、単回投与または複数回投与で投与することができる。いくつかの実施形態では、複合体は経口投与される。いくつかの実施形態では、複合体は、吸入経路を介して投与される。いくつかの実施形態では、複合体は鼻腔内投与される。いくつかの実施形態では、複合体は局所的に投与される。いくつかの実施形態では、複合体は眼に投与される。いくつかの実施形態では、複合体は、頭蓋内に投与される。いくつかの実施形態では、複合体は静脈内投与される。いくつかの実施形態では、複合体は、例えば、全身送達(例えば、静脈内注入)のための注射によって、または局所部位に投与される。
【0086】
様々な個体が本方法に従って治療可能である。一般に、そのような個体は、肉食動物(例えば、イヌおよびネコ)、げっ歯類(例えば、マウス、モルモットおよびラット)、および霊長類(例えば、ヒト、チンパンジー、およびサル)を含む哺乳動物のクラス内の生物を説明するために広く使用される「哺乳動物」または「哺乳類」である。いくつかの実施形態では、個体はヒトである。
【0087】
「治療する」または「治療」とは、個体を苦しめている病理学的状態に関連する症状の少なくとも改善を意味し、改善とは、例えば、標的細胞表面の編集が有益である標的細胞またはその集団に関連する(例えば、それらによって引き起こされる)疾患または障害等、治療されている病理学的状態に関連する症状などのパラメータの規模が少なくとも減少することを意味するために広い意味で使用される。したがって、治療はまた、個体がその病理学的状態、または少なくともその病理学的状態を特徴付ける症状にそれ以上苦しむことがないように、病理学的状態または少なくともそれに関連する症状が完全に抑制された、例えば、発生するのを防止された、または停止された、例えば、中止された状況も含む。
【0088】
投薬は、治療される疾患状態の重症度および応答性に依存する。最適な投薬スケジュールは、個体の体内における複合体蓄積の測定値から計算することができる。投与する医師は、最適な投薬量、投薬方法および反復率を決定することができる。最適投与量は、複合体の相対効力に応じて変わり得、一般にインビトロおよびインビボ動物モデルなどにおいて有効であることが見出されたEC50に基づいて推定され得る。一般に、投与量は体重の0.01μg~100g/kgであり、日、週、月、または年1回以上投与することができる。治療する医師は、測定された滞留時間、および体液または組織中の薬物の濃度に基づいて、投与の繰り返し率を推定することができる。治療が成功した後、被験体に疾患状態の再発を防止するために維持療法を受けさせることが望ましい場合もあり、1日1回以上、数ヶ月に1回、6ヶ月に1回、毎年1回、または他の任意の適切な頻度の維持用量で、複合体を投与する。
【0089】
本開示の治療方法は、単一タイプの複合体を個体に投与することを含んでもよく、または2つ以上のタイプの複合体(例えば、異なる複合体のカクテル)を個体に投与することを含んでもよく、2つ以上のタイプの複合体は、同じタイプまたは異なるタイプの標的細胞の表面を編集するように設計することができる。
【0090】
特定の態様では、本開示の複合体は、併用療法の一部として第2の治療剤と組み合わせて個体に投与される。そのような投与は、複合体および第2の薬剤を同時に投与すること、または複合体および第2の薬剤を順次投与することを含み得る。いくつかの実施形態では、個体は癌を有し、第2の治療剤は抗癌剤である。目的の抗癌剤には、抗癌抗体(例えば、上記の表1、2および3に記載の抗体のいずれか)、小分子抗癌剤などが含まれるが、これらに限定されない。
【0091】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、アビラテロン(abiraterone)、ベンダムスチン(bendamustine)、ベキサロテン(bexarotene)、ボルテゾミブ(bortezomib)、クロファラビン(clofarabine)、デシタビン(decitabine)、エキセメスタン(exemestane)、テモゾロミド(temozolomide)、アファチニブ(afatinib)、アキシチニブ(axitinib)、ボスチニブ(bosutinib)、カボザンチニブ(cabozantinib)、クリゾチニブ(crizotinib)、ダブラフェニブ(dabrafenib)、ダサチニブ(dasatinib)、エルロチニブ(erlotinib)、ゲフィチニブ(gefitinib)、イブルチニブ(ibrutinib)、イマチニブ(imatinib)、ラパチニブ(lapatinib)、ニロチニブ(nilotinib)、パソパ二ブ(pazopanib)、ポナチニブ(ponatinib)、レゴラフェニブ(regorafenib、ルキソリチニブ(ruxolitinib)、ソラフェニブ(sorafenib)、スニチニブ(sunitinib)、バンデタニブ(vandetanib)、ベムラフェニブ(vemurafenib)、エンザルタミド(enzalutamide)、フルベストラント(fulvestrant)、エピルビシン(epirubicin)、イキサベピロン(ixabepilone)、ネララビン(nelarabine)、ビスモードジブ(vismodegib)、カバジタキセル(cabazitaxel)、ペメトレキセド(pemetrexed)、アザシチジン(azacitidine)、カルフィルゾミブ(carfilzomib)、エベロリムス(everolimus)、テムシロリムス(temsirolimus)、エリブリン(eribulin)、オマセタキシン(omacetaxine)、トラメチニブ(trametinib)、レナリドミド(lenalidomide)、ポマリドミド(pomalidomide)、ロミデプシン(romidepsin)、ボリノスタット(vorinostat)、ブリガチニブ(brigatinib)、リボシクリブ(ribociclib)、ミドスタウリン(midostaurin)、テロトリスタットエチル(telotristatethyl)、ニラパリブ(niraparib)、カボザンチニブ(cabozantinib)、レンバチニブ(lenvatinib)、ルカパリブ(rucaparib)、グラニセトロン(granisetron)、ドロマビノール(dronabinol)、ベネトクラク(venetoclax)、アレクチニブ(alectinib)、コビメチニブ(cobimetinib)、パノビノスタット(panobinostat)、パルボシクリブ(palbociclib)、タリモジンラヘルパレプベク(talimogenelaherparepvec)、レンバチニブ(lenvatinib)、トリフルリジンおよびチピラシル(trifluridine and tipiracil)、イキサゾミブ(ixazomib)、ソネイドギブ(sonidegib)、オシメルチニブ(osimertinib)、ロラピタント(rolapitant)、ウリジントリアセテート(uridinetriacetate)、トラベクテジン(trabectedin)、ネツピタントおよびパロノセトロン(netupitant and palonosetron)、ベリノスタット(belinostat)、イブルチニブ(ibrutinib)、オラパリブ(olaparib)、イデラリシブ(idelalisib)、およびセリチニブ(ceritinib)から選択される低分子抗癌剤である。
【0092】
特定の態様では、第2の治療剤は、免疫チェックポイント阻害剤である。目的の免疫チェックポイント阻害剤には、PD-1、PD-L1、CTLA-4、TIM3、LAG3、またはB7ファミリーのメンバーを標的とする阻害剤(例えば、抗体)が含まれるが、これらに限定されない。
【0093】
特定の実施形態によれば、複合体および第2の治療剤は、個々の使用のために認可された投薬レジメンに従って投与される。いくつかの実施形態では、第2の治療剤の投与は、複合体が第2の治療剤の投与なしで投与される場合に使用されるのと比較して、1回以上の低用量および/または低頻度の投与、および/またはサイクル数の減少を伴う投薬レジメンに従って投与されるよう、複合体を個体に投与することを可能にする。特定の態様では、複合体の投与は、第2の治療剤が複合体の投与なしで投与される場合に利用されるのと比較して、個体に投与される第2の治療剤が、1回以上のより低用量および/またはより低頻度の投与、および/またはサイクル数の減少を含む投与レジメンに従って投与されることを可能にする。
【0094】
特定の態様では、併用投与される薬剤の所望の相対的投薬レジメンは、例えばエクスビボ、インビボおよび/またはインビトロモデルを使用して、経験的に評価または決定されてもよい。いくつかの実施形態では、そのような評価または経験的決定は、インビボ、患者集団において(例えば、相関が確立されるように)、または代わりに特定の対象の個体において行われる。
【0095】
特定の態様では、複合体および第2の治療剤の1つ以上の用量は、個体に同時に投与される。そのようないくつかの実施形態では、そのような薬剤は、同じ薬学的組成物中に存在して投与され得る。しかしながら、いくつかの実施形態では、複合体および第2の治療剤は、異なる組成でおよび/または異なる時間に個体に投与される。例えば、複合体は、第2の治療剤の投与の前に(例えば、特定のサイクルで)投与されてもよい。あるいは、第2の治療剤は、複合体の投与の前に(例えば、特定のサイクルで)投与されてもよい。投与されるべき第2の薬剤は、投与されるべき第1の薬剤投与後の少なくとも1時間後、3時間後、6時間後、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後、または最長5日以上後に開始する期間に投与されてもよい。
【0096】
キット
上記に要約したように、本開示はキットを提供する。特定の実施形態によれば、キットは、本開示の複合体または組成物のいずれかを含む。キットは、例えば、本開示の方法を実施する際に、用途を見出す。例えば、本方法を実施するためのキットは、単位用量(例えば、アンプル)または複数用量形態で存在する、本開示の組成物の量を含んでもよい。したがって、特定の実施形態では、キットは、本開示の複合体を含む組成物の1つ以上の(例えば、2つ以上の)単位用量(例えば、アンプル)を含み得る。「単位用量」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒトおよび動物対象の単一の投与量として適切な物理的に別個の単位を指し、各単位は、所望の効果をもたらすのに十分な量で計算された、所定量の組成物を含有する。単位用量の量は、使用される特定の複合体、達成されるべき効果、および対象における複合体に関連する薬力学などの様々な要因に依存する。さらに他の実施形態では、キットは組成物の単一の複数投与量を含み得る。
【0097】
キットの成分は、別々の容器に存在してもよく、または複数の成分が単一の容器に存在してもよい。適切な容器は、単一チューブ(例えば、バイアル)、プレートの1つ以上のウェル(例えば、96ウェルプレート、384ウェルプレートなど)などを含む。
【0098】
特定の実施形態によれば、本開示のキットは、それを必要とする個体を治療するために組成物を使用するための説明書を含む。説明書は、適切な記録媒体に記録することができる。例えば、説明書は、紙またはプラスチックなどの基材上に印刷することができる。そのようなものとして、説明書は、添付文書としてキット内に、キットの容器またはその構成要素のラベル(すなわち、包装または副包装に関連)などに存在し得る。他の実施形態では、説明書は、ポータブルフラッシュドライブ、DVD、CD-ROM、ディスケットなどの適切なコンピュータ可読記憶媒体上に存在する、電子記憶データファイルとして存在する。さらに他の実施形態では、実際の説明書はキットには存在しないが、例えばインターネットを介してリモートソースから説明書を取得するための手段が提供される。この実施形態の一例は、説明書を閲覧することができ、かつ/または説明書をダウンロードできるウェブアドレスを含むキットである。説明書と同様に、説明書を得るための手段は、適切な基材上に記録される。
【0099】
以下の実施例は例示のために提供され、限定するものではない。
【実施例
【0100】
実験
物質および方法
PBS緩衝液、DPBS緩衝液、DMEM、RPMI-1640培地および熱不活性化ウシ胎仔血清を、Corning-Mediatechから得た。X-VIVO15無血清培地はLonzaから購入した。LB寒天、2xYTおよび抗生物質-抗真菌剤はFisher Scientificから購入し、SDS-PAGEのための4~12%Bis-TrisゲルはBio-Radから購入した。熱不活性化ヒト雄性AB血清は、Sigma-Aldrichから購入した。ヒト組換えIL-2、ヒト組換えIL-4、およびヒト組換えIL-13はBiolegendから購入した。アルデヒドタグを有するヒト化抗Her2-IgGは、Catalent Pharma Solutions(Emeryville,CA)からの寄贈品であった。吸光スペクトルは、SpectraMax i3x(Molecular Devices)を用いて測定した。Pierce大容量エンドトキシン除去スピンカラム、Pierce LAL発色性エンドトキシン定量キットおよびLDH細胞傷害性アッセイキットは、Thermo Fisher Scientificから入手した。ビシクロノニン-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(BCN-NHS)およびアミノオキシ-テトラエチレングリコール-アジド(アミノオキシ-TEG-N3)をBerry&Associates,Inc.から購入した。ジベンゾシクロオクチン-テトラポリエチレングリコール-マレイミド(DBCO-PEG4-マレイミド)をClick Chemistry Toolsから購入した。Biosynth International Inc.から2’-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(MuNeuNAc)を入手した。他の化学物質はすべてSigma-Aldrichから購入し、さらに精製することなく使用した。
【0101】
以下の抗体および組換えタンパク質を使用した:シグレック-7-Fcキメラ、シグレック-9-Fcキメラ、NKG2D-Fcキメラタンパク質、AF488標識抗シグレック-7mAb(クローン194211)および遮断性抗NKG2DmAb(クローン149810)をR&D Systemsから購入した。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識Sambucus nigra(SNA)レクチンは、EY Laboratoriesから入手した。AF647標識抗Her2mAb(クローン24D2)、AF647標識抗CD16mAb(クローン3G8)、AF647標識抗CD56mAb(クローンHCD56)、遮断性抗シグレック-7mAb(クローンS7.7)、遮断性抗シグレック-9mAb(クローンK8)はBiolegendから入手した。TRITC標識抗FcmAbはJackson Immunoresearchから購入した。FITC標識CD3mAb(クローンBW264/56)をMiltenyi Biotecから購入した。C末端アルデヒドタグを有するヒト化抗Her2-IgGは、Catalent Pharma Solutions(Emeryville,CA)からの寄贈品であった。
【0102】
細胞株および細胞培養:
乳癌細胞SKBR3、HCC-1954、MDA-MB-453、ZR-75-1、BT-20、MDA-MB-231およびMDA-MB-468は、American Type Culture Collection(ATCC)から入手した。SKBR3、HCC-1954、ZR-75-1およびMDA-MB-468を、10%熱不活性化ウシ胎児血清、0.4%抗生物質-抗真菌剤およびL-グルタミン(300mg/L)を添加したRPMI-1640培地で維持した。MDA-MB-453、BT-20、およびMDA-MB-231を、10%熱不活性化ウシ胎仔血清、0.4%抗生物質-抗真菌剤、L-グルコース(4.5g/L)、L-グルタミン(584mg/L)およびピルビン酸ナトリウム(110mg/L)で補充したDMEM培地で維持した。
【0103】
末梢血単核細胞(PBMC)を健康な血液バンクドナーから得て、Ficoll-Paque(GE Healthcare Life Sciences、GE-17-1440-02)密度勾配分離を用いて単離した。NK細胞をMACSNK細胞単離キット(Miltenyi Biotec、130-092-657)およびLSカラム(Miltenyi Biotec、130-042-401)を使用して製造業者のプロトコールに従って、ネガティブ選択によってPBMCから単離し、5%の熱不活性化ヒト雄性AB血清(Sigma-Aldrich)および100ng/mLの組換えヒトインターロイキン-2(-2)(Biolegend)を補充したX-VIVO15中で使用前に一晩培養した。NK細胞の濃縮は、95%を超えるCD56+/CD3-細胞をもたらすようにフローサイトメトリーによって確認した(図16参照)。Pan Monocyte単離キット(Miltenyi Biotec130-096-537)を用いてPBMCから単球を単離した。CD16+ Monocyte単離キット(Miltenyi Biotec130-091-765)を用いてCD16+単球をPBMCから単離した。新鮮なPBMCを単離した後、血清フリーRPMIのT75フラスコ(Fisher Scientific1368065)中で新たに単離したPBMCを37℃、5%COで2時間プレーティングした後、培地を除去し、単球を単離するためにリン酸緩衝食塩水(PBS+Ca+Mg)で細胞を3回洗浄することによって、M1およびM2分極マクロファージを獲得した。残りの単球をRPMI+20%の熱不活性化ウシ胎仔血清中で6日間、50ng/mLの組換えヒトGM-CSF(PeproTech300-03)と共にインキュベートし、続いて10%熱不活性化ウシ胎仔血清を含むRPMI中で、100ng/mLの細菌性リポポリサッカライド(Invivogen tlrl-3pelps)および20ng/mLの組換えヒトIFNγ(PeproTech300-02BC)と共に4日間インキュベートすることにより、M1分極細胞を生成した。RPMI+20%の熱不活性化ウシ胎仔血清中で単球を50ng/mLの組換えヒトM-CSF(PeproTech300-25)と共に6日間インキュベートし、続いて20ng/mLの組換えヒトIL-13(担体を含まない)(Biolegend571102)および100ng/mLの組換えヒトIL-4(担体を含まない)(Biolegend574004)と共に4日間インキュベートすることによりM2分極マクロファージを生成した。ヒトγδT細胞を、EasySep(商標)ヒトガンマ/デルタT細胞単離キット(Stemcell Tech 19255)を用いたネガティブ選択によってPBMCから単離した。
【0104】
FACS分析:
細胞を、シアリダーゼ、抗Her2-IgG、抗Her2-IgG-Sia、またはPBSコントロールと共に37℃で1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、抗体、溶液中で予め二次抗Fc抗体と複合物形成させた受容体-Fc融合タンパク質、またはFITC標識SNAレクチンから選択されたプローブを含む、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む冷PBS中に細胞を再懸濁した。細胞および抗体/融合タンパク質を暗所で30分間4℃でインキュベートした。0.5%BSAのPBSで3回洗浄した後、細胞を、0.5%BSAを含むPBSで培養し、次いでフローサイトメトリーで分析した。すべてのフローサイトメトリーデータを、FlowJo v.10.0(Tree Star)を使用して分析した。
【0105】
シアリダーゼの発現および精製:
Vibrio choleraeシアリダーゼ遺伝子を含むプラスミドpCVD364で形質転換されたEscherichia coli C600は、イリノイ大学アーバナシャンペーン校のEric R.Vimr教授から寄贈品であった。37℃で12時間、アンピシリン(100μg/mL)を添加した2xYT培地で細胞を増殖させた。インキュベートした後、4,700×gで10分間の遠心分離によって細胞を収集した。ペレットを浸透圧ショック緩衝液(20%スクロース、1mMのEDTA、30mMのTris-HCl、pH8.0)に再懸濁し、室温で10分間穏やかに振とうした。細胞を遠心分離(9,000×gで10分間)によって収集し、ペレットを氷冷した純水に再懸濁した。4℃で10分間インキュベートした後、9,000×gで10分間遠心分離して上清を得た。タンパク質を精製するために、サンプルをAmicon限外濾過装置(膜分子質量カットオフ、30,000Da)を用いてさらに濃縮し、0.02MのTris-HCl緩衝液(pH7.6)中で再構成し、HitrapQ-HP陰イオン交換体カラム(GE Healthcare Life Sciences、17-1154-01)にロードした。タンパク質を0.02MのTris-HCl緩衝液(pH7.6)中のNaClの勾配で流速5mL/分で溶出した。クーマシーブリリアントブルーで染色したSDS-PAGEにより決定した予想される分子質量を有するタンパク質画分を集めてプールした。エンドトキシンは、高容量エンドトキシン除去スピンキット(Thermo Fisher Scientific、88275)を使用して除去し、サンプルのエンドトキシン濃度をLAL発色性エンドトキシン定量キット(Thermo Fisher Scientific、88282)によって測定した。
【0106】
Salmonella typhimuriumシアリダーゼ遺伝子を、N末端ヘキサヒスチジンタグおよびC末端アルデヒドタグ(SLCTPSRGS)を有するpET151ベクターにクローニングし、BL21(DE3)コンピテントE.coli(NEB C2527H)に形質転換した。細胞を、0.6の光学密度に達するまで37℃でアンピシリン(100μg/mL)を添加した2xYT培地で増殖させ、次いで0.3mMのIPTGを添加し、細胞を37℃で16時間振とうしながら増殖させた。インキュベートした後、4,700×g、10分間の遠心分離によって細胞を収集した。ペレットを50mLの溶解緩衝液(リン酸緩衝食塩水(Fisher Scientific MT21040cv)+150mMNaCl+10mMイミダゾールに再懸濁した。プロテアーゼ阻害剤錠剤(Sigma5892970001)および1μLのヌクレアーゼ(Thermo Scientific-Pierce 88702)を加え、溶解緩衝液中で細胞を4℃で2時間振とうさせた。細胞を、ホモジナイザーを介して溶解し、250mMイミダゾール溶出を伴うニッケル-NTA樹脂(Thermo Fisher 88221)を用いて精製した。クーマシーブリリアントブルーで染色したSDS-PAGEにより測定した予想される分子質量を有するタンパク質画分を集めてプールした。エンドトキシンは、高容量エンドトキシン除去スピンキット(Thermo Fisher Scientific、88275)を使用して除去し、サンプルのエンドトキシン濃度をLAL発色性エンドトキシン定量キット(Thermo Fisher Scientific、88282)によって測定した。
【0107】
MuNeuNAcを用いるシアリダーゼの活性アッセイ:
Ca2+およびMg2+を含むDPBS緩衝液(pH7.0)中に0.1mMの2’-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(MuNeuNAc、Biosynth International Inc.)を含有する50μLの溶液に、5μLのシアリダーゼ(Ca2+およびMg2+を含むDPBS緩衝液に30~60nM、pH7.0)を添加した。37℃で10分間インキュベートした後、混合物を150μLの0.1Mグリシン-NaOH緩衝液(pH10.4)で希釈した。蛍光分光光度計(励起360nm;発光440nm)で蛍光を読み取った。活性はU/mgとして報告され、単位は、pH7のDPBS緩衝液中で1分当たり1μmolのメチルウンベリフェロンを放出するのに必要な酵素の量として定義される。
【0108】
抗Her2-IgG-Siaの調製:
精製したVibrio choleraeシアリダーゼ(Ca2+およびMg2+を含むDPBS緩衝液中の2mg/mL、pH7.0)を4℃で一晩、12当量のビシクロノニン-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(BCN-NHS)と反応させた。過剰のリンカーをPD-10脱塩カラム(GE Healthcare Life Sciences、17-0851-01)を用いて除去した。標識の程度は、ESI-MSによって決定した(図6B参照)。前述の通り、C末端アルデヒドタグを有するヒト化抗Her2-IgGを作製した。抗Her2-IgG-Siaは、まず、37℃で10日間、pH4.5の100mMの酢酸アンモニウム緩衝液において、C末端アルデヒドタグ(120μM)を有する抗Her2-IgGをアミノオキシ-テトラエチレングリコール-アジド(アミノオキシ-TEG-N)(10mM)に結合させ、続いて、PD-10脱塩カラム(GE Healthcare Life Sciences、17-0851-01)を使用して、Ca2+およびMg2+(pH7.0)を有するDPBS緩衝液へと緩衝液交換を行うことにより調製した。次いで、得られた複合体を、Ca2+およびMg2+(pH7.0)を含むDPBS緩衝液中の総タンパク質濃度120mg/mLで1:28のモル比で標識シアリダーゼに結合させた。室温で3日間インキュベートした後、抗Her2-IgG-Siaをサイズ排除クロマトグラフィーSuperdex200により精製した。精製した生成物をSDS-PAGEゲルおよびESI-MSで分析した。
【0109】
精製Salmonella typhimuriumシアリダーゼ(Ca2+およびMg2+を含むDPBS緩衝液中3mg/mL、pH7.0)を20当量のDBCO-PEG4-マレイミドと4℃で一晩反応させた。過剰のリンカーをPD-10脱塩カラム(GE Healthcare Life Sciences、17-0851-01)を用いて除去した。標識の程度はESI-MSによって決定した(図6B参照)。前述の通り、C末端アルデヒドタグを有するヒト化抗Her2-IgGを作製した。抗Her2-IgG-Siaは、まず、37℃で10日間、pH4.5の100mMの酢酸アンモニウム緩衝液において、C末端アルデヒドタグ(120μM)を有する抗Her2-IgGをアミノオキシ-テトラエチレングリコール-アジド(アミノオキシ-TEG-N)(10mM)に結合させ、続いて、PD-10脱塩カラム(GE Healthcare Life Sciences、17-0851-01)を使用して、Ca2+およびMg2+(pH7.0)を有するDPBS緩衝液へと緩衝液交換を行うことにより調製した。次いで、得られた複合体を、Ca2+およびMg2+(pH7.0)を含むDPBS緩衝液中の総タンパク質濃度25mg/mLで1:14のモル比で標識シアリダーゼに結合させた。室温で3日間インキュベートした後、抗Her2-IgG-Siaをサイズ排除クロマトグラフィーSuperdex200により精製した。精製した生成物をSDS-PAGEゲルおよびESI-MSで分析した。
【0110】
細胞傷害性アッセイ:
末梢血単核球細胞(PBMC)、NK細胞、単球、CD16+単球、M1マクロファージ、またはM2マクロファージのADCC活性の結果としての、乳癌細胞からの乳酸脱水素酵素(LDH)放出を測定することによって、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を分析した。腫瘍細胞(標的細胞)を、シアリダーゼまたはmAbの存在下または非存在下で、三重に、種々のエフェクター/標的(E/T)比でPBMC、NK細胞、単球またはマクロファージ(エフェクター細胞)と共にインキュベートした。典型的な実験では、100μLのエフェクター細胞を100μLの標的細胞を含むV底96ウェルプレートに2×10細胞/mLで添加した。4時間後、上清を回収し、細胞傷害性アッセイキット(Thermo Fisher Scientific、88954)を用いて、製造者のプロトコールに従ってLDH放出を測定した。490nmでの吸光度を、SpectraMax i3x(Molecular Devices)で測定した。特異的溶解は、100×(実験的-エフェクター細胞自然放出-標的細胞自然放出)/(標的細胞最大放出-標的細胞自然放出)として計算した。
【0111】
蛍光顕微鏡:
複合体のHER2特異的酵素活性の視覚化のために、細胞をPBS緩衝液中で種々の濃度の抗Her2-IgG-Siaと37℃で1時間インキュベートした。PBSで洗浄した後、細胞を、4%ホルムアルデヒドを用いて室温で20分間固定した。固定した細胞を0.5%BSAのPBSで3回洗浄し、続いて0.5%BSAを含むPBSで1時間ブロッキングした。0.5%BSAのPBS中で、FITC標識SNA(1:100)およびAF647標識抗Her2抗体(1:100)と共に、暗所室温で30分間、穏やかに振とうしながら細胞をインキュベートした。0.5%BSAのPBSで3回洗浄した後、DAPI(10mMストックからの1:1250希釈)をNikon A1R+共鳴走査共焦点顕微鏡で画像化する直前に加えた。
【0112】
NK腫瘍細胞シナプスの視覚化のために、腫瘍細胞をPBS緩衝液中の6nMの抗Her2-IgGまたは6nMの抗Her2-IgG-Siaと共に37℃で1時間インキュベートした。新たに単離されたNK細胞を2:1のE/T比で腫瘍細胞に添加し、37℃で15分間一緒にインキュベートした。PBSで洗浄した後、細胞を室温で20分間、PBS中の4%ホルムアルデヒドで固定した。固定した細胞を0.5%BSAのPBSで3回洗浄し、続いて0.5%BSAを含むPBSで1時間ブロッキングした。細胞を、PBS緩衝液中でAF488標識抗シグレック7(1:100)、TRITC標識抗Fc(1:400)、およびAF647標識抗CD16+(1:100)の混合物と共に30分間暗所で穏やかに振とうしながら室温でインキュベートした。0.5%BSAのPBSで3回洗浄した後、DAPI(10mMストックからの1:1250希釈)をNikon A1R+共鳴走査共焦点顕微鏡で画像化する直前に加えた。
【0113】
統計分析
統計解析はPrism6を用いて行った。データは、3回の実験の平均±SDとして示され、有意性は、別段の記載がない限り、t検定を用いて決定された。**=p<0.005、*=p<0.05、およびp値>0.05を有意とみなした。
【0114】
序文
十分に豊富である場合、シアル酸残基で終結するグリカンは、例えば補体因子Hの徴集およびその後の代替物補体カスケードの下方制御などのいくつかの経路を介して、およびほとんどのタイプの白血球で見られる免疫抑制性シアル酸結合Ig様レクチン(シグレック)を免疫学的シナプスにリクルートすることによって、免疫活性化を抑制する「健康な自己」の兆候を作り出す。シアリル化状態は、免疫学的認識を誘発または回避する細胞の能力において重要な役割を果たす。
【0115】
シアリル化されたグリカンのアップレギュレーションは、不良な予後および腫瘍の免疫原性の低下と相関している。癌細胞の過シアル酸化は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)の主要なメディエーターであるNK細胞による免疫監視の回避に寄与する可能性がある。シアル化グリカンの高密度集団は、NK細胞関連のシグレック-7および/またはシグレック-9を免疫シナプスにリクルートすることができる(図1)。PD-1と同様に、これらのシグレックは、活性化NK細胞受容体からのシグナルの抑制を媒介する、細胞質の免疫受容体チロシンベース抑制(ITIM)モチーフを有する(図1)。腫瘍標的の操作された過シアル酸化は、シグレック-7依存的に、自然免疫NK細胞殺滅およびADCCから保護的である。同様に、腫瘍細胞をシアリダーゼで処理することによるシアル酸の酵素的除去は、遮断抗体によるシグレック-7またはシグレック-9の阻害と同様に、NK細胞媒介殺傷を増強する。癌細胞グリカンのシアリル化はまた、NK活性化受容体であるナチュラルキラー群2D(NKG2D)とその同族リガンドとの相互作用を破壊し、それによって腫瘍細胞からのNK活性化シグナルを減少させる(図1)。逆に、細胞表面シアル酸の除去は、NKG2Dリガンド結合を増加させることによってNK細胞活性化を増強する。したがって、腫瘍進行の微小進化過程において、過シアル酸化は、NK活性化シグナルを減少させる一方、免疫シナプスから発するNK抑制シグナルを増強することによって選択的利点を提供する。
【0116】
シアル酸を用いたNK活性化受容体およびNK抑制性受容体を標的とする免疫回避戦略を図1に概略的に示す。シアル酸を過剰発現する癌細胞では、過シアル酸付加グリカンはNK抑制性受容体と相互作用し、NK細胞活性化の抑制をもたらす。抗体-シアリダーゼ複合体による細胞表面シアル酸の除去は、シアリル化グリカンとNK抑制性受容体との相互作用を無効にし、NK活性化受容体とそのリガンドとの結合を増加させ、それによってNK細胞媒介性ADCCに対する腫瘍細胞感受性を高める。
【0117】
腫瘍特異的脱シアリル化は、NK細胞による腫瘍細胞溶解を増強する強力な介入であり得ると結論づけられた。抗体-酵素複合体(AEC:antibody-enzyme conjugate)は、腫瘍細胞グリコカリックスを選択的に編集し、多くの抗体癌治療薬によって利用される治療的に重要な機構であるADCCによるNK細胞殺滅を増強することができることがここに報告されている。組換えシアリダーゼを、HER2標的治療用モノクローナル抗体トラスツズマブに化学的に融合させた。抗体-シアリダーゼ複合体はHER2依存的に腫瘍細胞を脱シアリル化し、抑制性シグレックのリガンドを破壊しながらNKG2D結合を増強し、トラスツズマブ単独と比較してNK細胞殺滅を増幅した(図1)。
【0118】
実施例1-コレラ菌およびネズミチフス菌シアリダーゼの適性
トラスツズマブAECのための適切なシアリダーゼを同定するために、前述の通り、酵素のパネルを発現および精製し(図3AおよびB)、この目的によく適したものとしてVibrio choleraおよびSalmonella typhimuriumシアリダーゼを同定した。V.choleraeおよびS.typhimuriumシアリダーゼは、前述の通り発現および精製された。タンパク質の純度は、SDS-PAGEゲルおよびESI-MSによって測定した(図2B、2Eおよび図3B、ならびに図7A、7F)。およそ15mgの酵素を1リットルの培養細胞から精製し、すでに報告の蛍光発生基質2’-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(MuNeuNAc)で測定した場合、V.choleraeについては10U/mg以上、およびS.typhimuriumについては114U/mg以上のインビトロ加水分解活性を有し、ここで単位は、DPBS緩衝液(pH7)中、毎分1μmolのメチルウンベリフェロンを放出するのに必要な酵素の量として定義される。V.choleraeシアリダーゼが細胞表面グリカンからシアル酸を効率的に除去できるかどうかを決定するために、細胞表面標識に対するその効果をFITC標識Sambucus nigra凝集素(SNA)で試験した。同様に、シグレック-7、シグレック-9またはNKG2Dの外部ドメインを含む受容体-Fcキメラを用いて、細胞標識に対するV.cholerae処理の効果を評価した。シアリダーゼによる種々の腫瘍細胞系の37℃で1時間の脱シアリル化は、SNAならびにシグレック-7-Fcおよびシグレック-9-Fcキメラの結合を有意に減少させた(図4)。SNA結合の減少とともに、シアリダーゼ処理後の大部分の乳癌細胞株について、NKG2D-Fcキメラの結合能の増加が観察された(図4D)。
【0119】
抗体-シアリダーゼ複合体の調製および特徴付けを図2に示す。図2Aは、抗体-vibrio choleraeシアリダーゼ複合体の調製を概略的に示す。図2Bは、クマシー染色によって視覚化された非還元条件下(レーン3、4および5)および還元条件(レーン6、7および8)におけるシアリダーゼ、トラスツズマブおよびシアリダーゼ-トラスツズマブ複合体のSDS-PAGE分析を示す。染色済みタンパク質ラダー:レーン1、2および9。図2Cは、Vibrio choleraeシアリダーゼを有する抗体シアリダーゼ複合体のESI-MSを示す。図2Dは、抗体-Salmonella typhimuriumシアリダーゼ複合体の調製を概略的に示す。図2Eは、クマシー染色によって視覚化された、非還元条件下(レーン3、4、5および6)でのシアリダーゼ、DBCO改変シアリダーゼ、トラスツズマブおよびトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体、および還元条件下(レーン7および8)でのトラスツズマブおよびトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体のSDS-PAGE分析を示す。染色済みタンパク質ラダー:レーン1、2および9。図2Fは、Salmonella typhimuriumシアリダーゼとの抗体-シアリダーゼ複合体のESI-MSを示す。
【0120】
図3は、シアリダーゼのパネルの特徴付けを示す。図3Aは、基質2’-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(MuNeuNAc)上のシアリダーゼの活性を示す。クマシー染色によって可視化した野生型ヒトノイラミニダーゼ2、ヒトノイラミニダーゼ3、V.choleraeシアリダーゼ、S.typhimuriumシアリダーゼ、C.perfringensシアリダーゼ、およびA.ureafaciensシアリダーゼのSDS-PAGE分析を図3Bに示す。図3Cは、ZR-75-1乳癌細胞からの、V.cholerae、S.typhimurium、およびヒトノイラミニダーゼ2によるシグレック9リガンド切断のフローサイトメトリーを示す。BT-20細胞上のシグレック-7リガンドは、図3Dに示すように、V.choleraeシアリダーゼによる処理後に効率的に除去される。
【0121】
シアリダーゼ処理した場合、またはしない場合の、異なる乳癌細胞株の細胞表面シアリル化レベルの分析を図4Aに示す。シアリダーゼ処理した場合、またはしない場合の、異なる乳癌細胞株におけるシグレック-7のリガンドレベルを図4Bに示す。シアリダーゼ処理した場合、またはしない場合の、異なる乳癌細胞株におけるシグレック-9のリガンドレベルを図4Cに示す。シアリダーゼ処理した場合、またはしない場合の、異なる乳癌細胞株におけるNKG2Dのリガンドレベルを図4Dに示す。
【0122】
実施例2-細胞表面シアル酸の除去は、ADCCに対する感受性を高める
細胞表面シアル酸の除去がNK細胞媒介性ADCCに対する感受性を増強できることを実証するために、SKBR3(HER2 3+)、MDA-MB-453(HER2 2+)およびBT-20(HER2 1+)細胞株を、精製されたヒト末梢血NK細胞を用いて30nMトラスツズマブの存在下で、シアリダーゼ処理ありおよびなしで処理した。種々のシアリダーゼ処理細胞株を用いたトラスツズマブ誘導性ADCCにおいて、最大細胞死滅のおよそ5%~100%の増加が観察された(図5)。増強されたADCCがシアリダーゼ酵素活性に起因することを確認するために、加水分解活性アッセイおよび熱不活性化されたV.choleraeシアリダーゼを用いるADCCアッセイも実施した。80℃で20分間加熱することによるV.choleraeシアリダーゼの不活性化は、シアル酸含有グリカンに対する加水分解活性の喪失ならびにADCCにおける増強の喪失をもたらした(図6)。シアリダーゼをトラスツズマブと複合体化することにより、細胞表面上のシアリダーゼの局所濃度の増加が近位増強活性を提供し、組織特異的にさらにその効果を増強するだけでなく、酵素活性の乱雑さを制限することが期待された。
【0123】
図5Aは、BT-20乳癌細胞単独(無処置)に対する、または抗Her2-IgG(Tras)の存在下、または抗HER2-IgGとヒトノイラミニダーゼ2(Neu2)、ヒトノイラミニダーゼ3(Neu3)、Vibrio choleraeシアリダーゼ(VCSia)、Salmonella typhimuriumシアリダーゼ(STSia)、Arthrobacter ureafaciensシアリダーゼ(AUSia)、もしくはClostridium perfringensシアリダーゼ(CPSia)との存在下での、健常ドナー由来の単離末梢血NK細胞の細胞傷害性を示す。図5Bは、シアリダーゼ(30nM)、抗Her2-IgG(30nM)、またはシアリダーゼ(30nM)と抗Her2-IgG(30nM)との混合物の非存在下または存在下で、2:1および4:1のE/T比において、異なる乳癌細胞に対する健常ドナー由来単離末梢血NK細胞の細胞傷害性を示す。*p<0.05、**p<0.005
【0124】
図6は、野生型および熱不活性化Vibrio choleraeシアリダーゼの特徴付けを示す。抗Her2-IgG(30nM)、シアリダーゼ(30nM)、抗Her2-IgG(30nM)とシアリダーゼ(30nM)との混合物、熱不活性化シアリダーゼ(HI-シアリダーゼ30nM)、または、抗Her2-IgG(30nM)と熱不活性化シアリダーゼ(30nM)との混合物の非存在下または存在下における、BT-20細胞に対する単離末梢血NK細胞の細胞傷害性を4:1のE/T比で図6Aに示す。2’-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(MuNeuNAc)を用いた野生型および熱不活性化V.choleraeシアリダーゼの加水分解活性を図6Bに示す。30nM野生型シアリダーゼまたは熱不活性化シアリダーゼ処理した場合、またはしない場合の、BT-20細胞上のSambucus nigra lectin(SNA)リガンドのレベルを図6Cに示す。30nM野生型シアリダーゼまたは熱不活性化シアリダーゼ処理した場合、またはしない場合の、BT-20細胞上のシグレック-7リガンドのレベルを図6Dに示す。30nM野生型シアリダーゼまたは熱不活性化シアリダーゼ処理した場合、またはしない場合の、BT-20細胞上のシグレック-9リガンドのレベルを図6Eに示す。30nM野生型シアリダーゼまたは熱不活性化シアリダーゼ処理した場合、またはしない場合の、BT-20細胞上のNKG2Dリガンドのレベルを図6Fに示す。**p<0.005、NS:有意ではない
【0125】
実施例3ー抗体-シアリダーゼ複合体の調製および特徴付け
シアリダーゼ-トラスツズマブAECを設計する際の重要な関心事は、ADCCを開始させる相互作用であるFcγRIII(CD16)への結合を損なわない酵素結合の部位を同定することであった。免疫エフェクター機能への干渉を避けるために付着部位が調整されている抗体-薬物複合体(ADC)の分野からインスピレーションを得た。したがって、シアリダーゼは、FcγRIIIが結合するC2ドメインから遠く離れたトラスツズマブの重鎖のC末端の近くに連結するように選択された。部位特異的複合体化のためのアルデヒドタグ法は、タンパク質-タンパク質化学的融合体および部位特異的抗体-薬物複合体のアセンブリにおけるその使用の前例に基づいて使用された。上述したように、C末端アルデヒドタグを有するトラスツズマブ(抗Her2-IgG)を得た。官能化された抗体を最初にアミノオキシ-テトラエチレングリコール-アジド(アミノオキシ-TEG-N)にカップリングさせた(図2A)。並行して、シアリダーゼを調製した。V.choleraeシアリダーゼは、ビシクロノニン-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(BCN-NHS)によってリシン残基上でランダムに官能化された。一晩反応させた後、過剰のリンカーを除去し、シアリダーゼのBCN-NHS修飾の程度をESI-MSによって測定した(図7B)。最後に、アジド官能化リンカーで装飾されたトラスツズマブを、銅フリーのクリック化学反応を介してBCN官能化V.choleraeシアリダーゼと複合化した(図2A)。所望の複合体を、サイズ排除カラムを用いて精製し、その見かけの分子量(抗Her2-IgG-Sia、約312kDa)をSDS-PAGEにより確認した(図2B)。ESI-MS分析は、シアリダーゼがトラスツズマブの重鎖に共有結合していることを確認した(図2Cおよび図7E)。最終AECのシアリダーゼ活性を、蛍光発生基質MuNeuNAcを用いて評価した。85%以上の酵素活性が、化学共役プロセス後に残った(図8)。あるいは、DBCO-PEG4-マレイミドと一晩反応させることによって、S.typhimuriumシアリダーゼをC末端アルデヒドタグ上のシステインに部位特異的に複合体化し、この過剰のリンカーを除去した後、DBCOとS.typhimuriumシアリダーゼとの複合体化がESI-MSによって完全であると判定された(図7G)。最後に、アジドリンカーを有するトラスツズマブを、銅フリーのクリックケミストリーを介してDBCO官能化S.typhimuriumシアリダーゼに結合した(図2D)。所望の複合体を、サイズ排除カラムを用いて精製し、その見かけの分子量(抗HER2-IgG-StSia、約240kDa)をSDS-PAGEにより確認した(図2E)。ESI-MS分析は、シアリダーゼがトラスツズマブの重鎖に共有結合していることを確認した(図2Fおよび図7H)。最終AECのシアリダーゼ活性を、蛍光発生基質MuNeuNAcを用いて評価した。C末端タグ上の遊離システインに対する化学的複合体化プロセスの後、遊離アルデヒドタグシアリダーゼと比較して酵素活性のわずかな増加が生じた(図8)。
【0126】
図7は、シアリダーゼ、抗Her2-IgGおよびその複合体のESI-MSスペクトルを示す。精製Vibrio choleraeシアリダーゼのESI-MSスペクトルを図7Aに示す。1:12のモル比でBCN-NHSで標識したV.choleraeシアリダーゼのESI-MSスペクトルを図7Bに示す。C末端アルデヒドタグを有する抗Her2-IgGのESI-MSスペクトルを図7Cに示す。アミノオキシ-TEG-アジドと複合体化したC末端アルデヒドタグを有する抗Her2-IgGのESI-MSスペクトルを図7Dに示す。抗Her2-IgG-SiaのESI-MSスペクトルを図7Eに示す。精製Salmonella typhimuriumシアリダーゼのESI-MSを図7Fに示す。1:20のモル比でDBCO_PEG4-マレイミドで標識したS.typhimuriumのESI-MSを図7Gに示す。抗Her2-IgG-St-SiaのESI-MSスペクトル
【0127】
図8は、基質2’-(4-メチルウンベリフェリル)-α-D-N-アセチルノイラミン酸(MuNeuNAc)に対するV.choleraeシアリダーゼおよび抗Her2-IgG-Sia、ならびにS.typhimuriumシアリダーゼおよび抗Her2-IgG-StSiaの加水分解活性を示す。
【0128】
抗Her2-IgG-SiaがHER2発現細胞上のシアル酸を特異的に除去できることをさらに実証するために、SKBR3(HER2 3+)およびMDA-MB-468(HER2 0)を6nMまたは60nMの抗Her2-IgG-Siaの非存在下または存在下でインキュベートした。図9および図10に示すように、6nMの抗Her2-IgG-Siaでの1時間の処理は、MDA-MB-468細胞の存在下でさえSKBR3細胞の選択的脱シアリル化をもたらした(図9)。しかしながら、この効果は用量依存的である。SKBR3およびMDA-MB-468細胞の表面シアル酸レベルは両方とも60nMの抗Her2-IgG-Siaで1時間の処理により減少した。様々な濃度の抗Her2-IgG-Siaで処理した細胞の混合物についてフローサイトメトリーを用いてこの効果を定量した(図9A)。しかし、レクチンドメインを欠く、より小さなシアリダーゼを有する別の複合体(抗HER2-IgG-St-Sia)では、オフターゲットHER2 0 MDA-MB-468細胞の表面シアル酸レベルは、約1μMの抗Her2-IgG-St-Sia複合体というはるかに高い濃度とするまで変わらなかった(図9B)。
【0129】
図9は、異なるHER2発現癌細胞を用いたトラスツズマブおよびトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体のインビトロでの特徴付けを示す。HER2高発現細胞株であるSKBR3上の細胞表面シアル酸は、6nMトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体を用いて選択的に除去することができる。スケールバー、25μm
【0130】
図10は、抗Her2-IgG-Sia複合体の非存在下または存在下におけるSKBR3およびMDA-MB-468細胞上のSNAリガンドを示す。抗Her2-IgG-Sia複合体の非存在下または存在下でのSKBR3およびMDA-MB-468細胞の個々の培養上のSNAリガンドを図10Aに示す。細胞を37℃で1時間、RPMI-1640培地中の6nMの抗Her2-IgG-Sia複合体またはPBSと共にインキュベートし、FITC標識SNAレクチン、AF647標識抗Her2およびDAPI核染色で染色した。抗Her2-IgG-Sia複合体の非存在下または存在下でのSKBR3およびMDA-MB-468細胞の混合物上のSNAリガンドを図10Bに示す。SKBR3およびMDA-MB-468細胞を1:1の比で混合し、一晩培養した。細胞混合物を、6nMまたは60nMの抗Her2-IgG-Sia複合体の非存在下または存在下で、37℃で1時間インキュベートした。スケールバー=25μm
【0131】
NK細胞媒介性ADCCに対する抗体-シアリダーゼ複合体の効果を評価するために、抗Her2-IgGまたは抗Her2-IgG-Siaの存在下で、4:1および8:1のエフェクター/標的(E/T比)比で、種々の乳癌細胞株(SKBR3、HER2 3+、HCC-1954、HER2 3+、MDA-MB-453、HER2 2+、ZR-75-1、HER2 1+、BT-20、HER2 1+、MDA-MB-231、HER2 1+、MDA-MB-468、HER2 0)を使用して細胞傷害性アッセイを実施した。抗Her2-IgGと比較して、抗Her2-IgG-Siaは、HER2 1+細胞株ZR-75-1、BT-20、およびMDA-MB-231で最大細胞死滅の33%~140%の増加を示した(図11)。さらに、BT-20細胞を、シアリダーゼ(30nM)、抗Her2-IgG(30nM)、または抗Her2-IgG-Sia(30nM)の非存在下または存在下で、様々なE/T比で精製ヒト末梢血NK細胞に曝露した(図12A)。BT-20細胞系のシアリダーゼ単独処理は、異なるE/T比において、ほとんどNK細胞媒介細胞傷害性を示さなかった。抗Her2-IgGと比較して、抗Her2-IgG-Siaは、様々な比率で有意に改善された細胞溶解を示した。4のE/T比で、最大の増強が認められた。抗Her2-IgGの21%±1に対して、抗Her2-IgG-Siaの46%±1細胞溶解。NK細胞を枯渇させたPBMCはほとんど細胞溶解を示さなかったので、ADCCはNK細胞によって媒介されている可能性が高いことが確認された(図12B)。
【0132】
図11は、4:1および8:1のE/T比で、抗Her2-IgG(30nM)または抗Her2-IgG-Sia(30nM)の存在下で、異なる乳癌細胞に対する健常ドナーからの単離した末梢血NK細胞の細胞傷害性データを示す。
【0133】
図12は、異なるHER2発現癌細胞に対するトラスツズマブおよびトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体のインビトロ活性を示す。NK細胞を使用して、シアリダーゼ(30nM)、抗Her2-IgG(30nM)、および抗Her2-IgG-Sia(30nM)の非存在下または存在下で、BT-20細胞を用いて行った細胞傷害性アッセイを図12Aに示す。NK細胞枯渇PBMCを使用して、シアリダーゼ(30nM)、抗Her2-IgG(30nM)、および抗Her2-IgG-Sia(30nM)の非存在下または存在下で、BT-20細胞を用いて行った細胞傷害性アッセイの結果を図12Bに示す。シグレック-7-Fc、シグレック-9-Fc、およびNKG2D-Fc結合と相関してADCCの増強において見られる傾向を図12C~12Fに示す。示された濃度のトラスツズマブおよびトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体の存在下での異なるHER2発現癌細胞に対するNK細胞の細胞傷害活性を図12G~12Jに示す。トラスツズマブまたはトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体処理によるNK細胞上のシグレック-7分布の蛍光顕微鏡分析を図12Kに示す。シグレック-7は、トラスツズマブ処理によってNKシナプスへの徴集を示した。トラスツズマブ-シアリダーゼ複合体を用いてSKBR3細胞上のシアル酸を除去した後、NK腫瘍シナプスへのシグレック-7の徴集は失われる。スケールバー、10μm、**p<0.005
【0134】
単球およびマクロファージによって媒介される細胞傷害性に対する抗体-シアリダーゼ複合体の効果を評価するために、種々のエフェクター/標的(E/T)比で、Vibrio choleraeシアリダーゼ単独(VCSia)、抗Her2-IgG(Tras)、または抗Her2-IgG-Sia(T-Sia)の存在下で、乳癌細胞株(SKBR3、HER2 3+、BT-20、HER2 1+)を用いて細胞傷害性アッセイを行った。総単球集団は腫瘍細胞の全死滅率が低かったが、シグレック3、7、および9を主に発現する単離CD16+単球は、抗Her2-IgG(Tras)用いた処理と比較して、抗Her2-IgG-Sia(T-Sia)複合体を用いた処置で約100%の増加を示した(図13)。シグレック3、6、7、および9を発現する分化M1マクロファージ、およびシグレック3、5、6、7、8、9、10、および11を発現するM2マクロファージはいずれも、トラスツズマブ単独とは対照的に、トラスツズマブ-シアリダーゼ複合体によって腫瘍細胞の細胞傷害性死滅の増加を示す(図13)。γδT細胞媒介細胞傷害性も、トラスツズマブ(Tras)またはシアリダーゼ(VCSia)単独で処理するのではなくトラスツズマブシアリダーゼ複合体(T-Sia)によって、増強することができる(図14)。
【0135】
図13Aは、フローサイトメトリーによって決定されたヒト単離単球集団のシグレック発現レベルを示す。図13Bは、V.choleraeシアリダーゼ、抗HER2-IgG(Tras)、または抗Her2-IgG-Sia(T-Sia)と24時間インキュベートした後のBT-20乳癌細胞に対する単離されたヒト単球の細胞傷害性データを1:8のE:T比で示す。図13Cは、単球集団から単離されたCD16+単球のシグレック受容体発現レベルを示す。図13Dは、V.choleraeシアリダーゼ、抗HER2-IgG(Tras)、または抗Her2-IgG-Sia(T-Sia)およびBT-20乳癌細胞と4時間インキュベートした後の健康なドナーからのCD16+単球の細胞傷害性データを示す。図13Eは、前述の通りM1マクロファージに分化した健康なドナーから単離した単球のシグレック受容体発現レベルを示す。図13Fは、V.choleraeシアリダーゼ、抗HER2-IgG(Tras)、または抗Her2-IgG-Sia(T-Sia)およびSK-BR-3乳癌細胞と24時間インキュベートした後の健康なドナーから単離された単球から分化したM1マクロファージからの細胞傷害性データを示す。図13Gは、前述の通りM2マクロファージに分化した健康なドナーから単離された単球のシグレック受容体発現レベルを示す。図13Hは、V.choleraeシアリダーゼ、抗HER2-IgG(Tras)、または抗Her2-IgG-Sia(T-Sia)およびSK-BR-3乳癌細胞と24時間インキュベートした後の健康なドナーから単離された単球から分化したM2マクロファージからの細胞傷害性データを示す。図13Iは、(13Eおよび13F)からのM2マクロファージのCD16発現レベルを示す。
【0136】
図14は、V.choleraeシアリダーゼ、抗HER2-IgG(Tras)、または抗Her2-IgG-Sia(T-Sia)およびSK-BR-3細胞の存在下で5:1のE:Tで、単離されたγδT細胞の細胞傷害性を示す。
【0137】
実施例4-抗体-シアリダーゼ複合体を用いたADCCの増強のメカニズム
以前の研究は、癌細胞の過シアル酸化が、活性化受容体NKG2Dの結合の減少、ならびに抑制性受容体のシグレック-7およびシグレック-9の結合の増強をもたらし、それによってNK媒介性細胞傷害性を減少させることを示唆している。トラスツズマブ-シアリダーゼ複合体を用いたADCC増加の機序を調べるために、ADCCの倍数増加を、種々の乳癌細胞株における受容体結合と相関させた。NK媒介性ADCCの最も高い増加を有する細胞株は、シグレック-7およびシグレック-9結合の最高レベルと相関していた(図12C~12E)。シグレック-7およびシグレック-9表面リガンドの発現が最も高いBT-20およびZR-75-1細胞を、トラスツズマブ-シアリダーゼ複合体で処理すると、トラスツズマブ単独と比較してADCCが2倍超増強された。対照的に、複合体は、シグレック-7およびシグレック-9表面リガンドの最も低い発現を有するMDA-MB-453細胞のADCCにほとんど有意な改善をもたらさなかった。抗Her2-IgG-Siaが、抑制性受容体シグレック-7およびシグレック-9の結合の減少により、活性化受容体NKG2Dとの相互作用の増強とともにADCCを増強したことをさらに実証するために、シグレック-7、シグレック-9およびNKG2Dに対する遮断抗体を使用してリガンド-受容体相互作用を特異的に遮断した。5μg/mLの抗シグレック-7および抗シグレック-9抗体は、抗Her2-IgGを伴うBT-20細胞に対して有意に増強されたNK細胞の細胞傷害性をもたらしたが、抗Her2-IgGおよびシアリダーゼの混合物を伴うBT-20細胞に対してはもたらさなかった。さらに、NKG2D受容体の遮断は、抗Her2-IgG媒介性ADCCと比較して、抗Her2-IgGとシアリダーゼの混合物処理細胞におけるADCCに対してより大きな効果を示した(図15)。
【0138】
図15は、5μg/mLの遮断性抗NKG2D(クローン149810)、抗シグレック-7(クローンS7.7)、抗シグレック-9(クローンS9)、抗シグレック-7(クローンS7.7)と抗シグレック-9(クローンS9)との混合物、または、マウスIgG1アイソタイプ抗体(クローンMOPC-21)の非存在下または存在下で、抗Her2-IgG(30nM)、または抗Her2-IgG(30nM)とシアリダーゼ(30nM)との混合物を用いた、4:1のE/T比におけるBT-20細胞に対する健常ドナーから単離された末梢血NK細胞の細胞傷害性に関する結果を示す。*p<0.05、**p<0.005、ns:有意ではない
【0139】
実施例5-抗体-シアリダーゼ複合体と抗体単独との比較
抗Her2-IgG単独に対して、抗Her2-IgG-SiaのADCC誘導能力を直接比較するために、SKBR3(HER2 3+)、ZR-75-1(HER2 1+)、BT-20(HER2 1+)、MDA-MB-468(HER2 0)の4つの異なる乳癌細胞株を用いて、細胞傷害性の用量応答を測定した。抗Her2-IgGと比較して、抗Her2-IgG-Siaは、3つのHER2発現細胞株すべてにおいて4のE/T比でより細胞傷害性である。HER2 3+細胞株については、抗Her2-IgG-Siaは、抗Her2-IgG(EC50177±54pM)よりもわずかに良好であった76±14pMのEC50でSKBR3細胞を死滅させた。HER2 1+細胞株ZR-75-1およびBT-20について、抗Her2-IgG-Siaは、抗Her2-IgGより約10倍細胞傷害性である(ZR-75-1細胞:抗Her2-IgG-Sia EC50 135±47pM、抗Her2-IgG EC50 1143±274pM、BT-20細胞:抗Her2-IgG-Sia EC50 170±34pM、抗Her2-IgG EC50 1823±850pM)(図12G~12Jおよび表6)。HER2陰性細胞株MDA-MB-468の溶解は、抗Her2-IgGまたは抗Her2-IgG-Siaのいずれについてもほとんど観察されなかった(図12J)。次に、抗Her2-IgG-Sia、および抗Her2-IgGと非複合体シアリダーゼ(抗Her2-IgG/シアリダーゼ)との混合物の違いを試験した。抗Her2-IgG-Siaは、SKBR3細胞(抗Her2-IgG-Sia EC50 76±14pM、抗Her2-IgG/シアリダーゼ EC50 136±52pM)、ZR-75-1細胞(抗Her2-IgG-Sia EC50 135±47pM;抗Her2-IgG/シアリダーゼ EC50 492±67pM)、およびBT-20細胞(抗Her2-IgG-Sia EC50 170±34pM、抗Her2-IgG/シアリダーゼ EC50 692±156pM)においてより低いEC50を示した(表6)。抗Her2-IgGと非複合体型シアリダーゼとの混合物と比べた複合体の効力の増大は、酵素活性に関する近接効果の証拠である。
【表6】
【0140】
実施例6-シアリダーゼ処理はリツキシマブ誘導性CDCを増強する
Daudi細胞株またはRamos細胞株のB細胞リンパ腫細胞をシアリダーゼまたはPBSコントロールを用いて37℃で1時間処理して細胞表面を脱シアリル化し、正常ヒト血清(1:4、補体タンパク質を含む)およびリツキシマブ(10μg/ml)を加え、混合物を37℃で2時間インキュベートした。上清を回収し、溶解した細胞からのLDH放出を測定するキットを使用して細胞死(細胞傷害性)を測定し、その後、完全に界面活性剤で溶解した細胞を「100%死滅」標準として比較した。図17について:SiAse:シアリダーゼ処理細胞、リツキシマブなし。リツキサン:PBS処理および10μg/mlのリツキシマブ。SiaAse+リツキサン:シアリダーゼ処理および10μg/mlのリツキシマブ。*p<0.05
【0141】
Daudi細胞は、リツキシマブ誘導補体依存性細胞傷害性(CDC)において約10%の増加を経験する。一方、Ramosは、脱シアリル化後にほぼ2倍のCDCを経験する。
【0142】
実施例7-Ramos細胞は、Daudi細胞よりも高レベルのシグレック-9リガンドを有する
前述の実施例のRamos細胞で見られる脱シアリル化によるCDCへのより大きな効果は、より高い初期シアリル化によって説明することができた。
【0143】
5μg/mlのSig-Fcおよび4μg/mlの抗Fc二次抗体においてシグレック-Fc融合タンパク質を予め複合物形成させ、細胞と共に4℃で30分間インキュベートした。次いで、細胞を3回洗浄し、フローサイトメトリーを行った。別に、細胞を抗Fc二次抗体(同じ4μg/ml)で処理し、次いで上記のように洗浄し、フローサイトメトリーを行った。二次抗体でのみ処理した細胞に対する、シグレック-Fc融合で処理した細胞の蛍光の増加は、結合が二次試薬ではなくシグレック-Fcタンパク質によることを示している。
【0144】
図18に示すのは、Daudi細胞株およびRamos細胞株の3回の実験的反復のシグレック-9-Fc結合の平均+/-標準偏差である。Ramos細胞は約25%高いシグレック-9結合を示し、したがって細胞表面により多くのシアル酸を発現している可能性が高い。
【0145】
実施例8-シアリダーゼは補体依存的にリツキシマブを増強する
補体タンパク質C1qは、補体依存性細胞傷害性の「古典経路」の重要な開始成分である。これは、標的細胞上の抗体に結合し、続いて、細胞死につながる補体カスケードを開始させる、C1複合物を形成するのに役立つ。図19に示すように、C1qなしでは、シアリダーゼおよび/またはリツキシマブは細胞を効率的に溶解しない。このデータは、シアリダーゼ処理が、古典経路を介してリツキシマブ誘導性CDCを増強することを示している。これらの実験は図17のように行ったが、赤色の棒グラフについては、正常ヒト血清の代わりに、C1qを枯渇させた血清を添加した。青い棒グラフは、正常ヒト血清で処理した細胞を表す。*p<0.05、**p<0.01
【0146】
免疫シナプスに対する抗体-シアリダーゼ複合体の効果
以前の研究では、シグレック-7がNK標的細胞の免疫学的シナプスに徴集され、免疫受容体のチロシンに基づく抑制モチーフ(ITIM)を介した抑制性シグナル伝達を誘導することが実証された。免疫シナプスに対する、複合体化されたシアリダーゼの効果を評価するために、免疫シナプスをADCC中に画像化した。SKBR3細胞を、抗Her2-IgGまたは抗Her2-IgG-Siaとプレインキュベートし、次いでそれらを精製ヒト末梢血NK細胞と共にインキュベートして、シナプス形成を誘導した。次いで、細胞を固定し、シグレック-7、HER2、FcγIII(CD16)について染色し、蛍光顕微鏡で画像化した。抗Her2-IgG処置では、シグレック-7は、NK細胞で形成された免疫学的シナプスにおいてFcγIII(CD16)と共局在し、NK細胞活性化の抑制受容体としての役割と一致する(図12K)。対照的に、抗Her2-IgG-Siaで処理したSKBR3細胞は、CD16の効率的な徴集にもかかわらず、シグレック-7の徴集をほとんど示さない。これらの結果は、トラスツズマブ-シアリダーゼ複合体がADCCを促進しながら免疫癌細胞シナプスを効果的にリモデリングすることを示している。
【0147】
ここでは、ADCCに対する感受性を高めるために組織特異的細胞表面グリカン編集を行うことができる複合体の新しいクラスが報告されている。複合体は、複数の免疫刺激経路を同時に標的とする単一抗体療法のための第1の手段を提供する。抗体-シアリダーゼ複合体による腫瘍細胞の処理は、Fc-FcγIII(CD16)相互作用を介してNK細胞を能動的に徴集するだけでなく、腫瘍免疫シナプスに対する抑制性シグレック受容体の徴集を効果的に遅延させ、正確なグリコカリックス編集を通じて活性化NKG2Dリガンドを暴露する。トラスツズマブ治療と比較して、新規のトラスツズマブ-シアリダーゼ複合体は、HER2発現細胞を殺滅するためにNK細胞を効率的に誘導することができ、低量の抗原を有する乳癌細胞を標的とするのにさらに効率的である。トラスツズマブは現在非常に高いHER2発現レベルを有する患者にのみ処方されているので、これはより控えめなHER2発現腫瘍を治療する能力に関して重要な意味を有する。
【0148】
特に、マクロファージおよび樹状細胞も、抑制性シグレック(各々シグレック-9およびシグレック-5)を発現する。したがって、過シアル酸化は、細胞および補体因子による自然免疫ターゲティングに対して広く保護的であり得る。
【0149】
単一の経路をそれぞれ標的とする現在の癌免疫療法とは異なり、グリコカリックス編集は、免疫系の武器の諸分野にわたる複数の経路に影響を及ぼし得る。
【0150】
添付の特許請求の範囲にかかわらず、本開示は、以下の条項によっても定義される。
【0151】
1.標的細胞の細胞表面分子に結合する標的化部分と、
標的細胞表面編集酵素と、を含む、複合体。
【0152】
2.標的化部分が、抗体、リガンド、アプタマー、ナノ粒子、および小分子からなる群から選択される、条項1に記載の複合体。
【0153】
3.標的化部分が抗体である、条項2に記載の複合体。
【0154】
4.抗体がIgG、一本鎖Fv(scFv)、Fab、(Fab)または(scFv’)である、条項3に記載の複合体。
【0155】
5.抗体がIgG1である、条項3に記載の複合体。
【0156】
6.抗体がモノクローナル抗体である、条項3~5のいずれか一項に記載の複合体。
【0157】
7.抗体がヒト化抗体またはヒト抗体である、条項3~6のいずれか一項に記載の複合体。
【0158】
8.標的細胞表面編集酵素が抗体の軽鎖と複合体化される、条項3~7のいずれか一項に記載の複合体。
【0159】
9.標的細胞表面編集酵素が抗体の重鎖と複合体化される、条項3~7のいずれか一項に記載の複合体。
【0160】
10.標的細胞表面編集酵素が、抗体のFc領域と複合体化される、条項9に記載の複合体。
【0161】
11.標的細胞表面編集酵素が重鎖のC末端と複合体化される、条項9に記載の複合体。
【0162】
12.標的細胞表面編集酵素が標的化部分と部位特異的に複合体化される、条項1~11のいずれか一項に記載の複合体。
【0163】
13.標的化部分が、標的細胞表面編集酵素が部位特異的に複合体化される非天然アミノ酸を含む、条項12に記載の複合体。
【0164】
14.標的細胞表面編集酵素が、リンカーを介して標的化部分と複合体化される、条項1~13のいずれか一項に記載の複合体。
【0165】
15.リンカーがポリエチレングリコール(PEG)を含む、条項14に記載の複合体。
【0166】
16.リンカーがペプチドである、条項14に記載の複合体。
【0167】
17.複合体が融合タンパク質である、条項16に記載の複合体。
【0168】
18.標的細胞が、癌細胞、免疫細胞、および内皮細胞からなる群から選択される、条項1~15のいずれか一項に記載の複合体。
【0169】
19.標的細胞が癌細胞である、条項18に記載の複合体。
【0170】
20.細胞表面分子が腫瘍関連細胞表面分子である、条項19に記載の複合体。
【0171】
21.細胞表面分子が腫瘍特異的細胞表面分子である、条項19に記載の複合体。
【0172】
22.癌細胞が癌腫細胞である、条項19~21のいずれか一項に記載の複合体。
【0173】
23.癌細胞が、乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、および結腸癌細胞からなる群から選択される、条項19~22のいずれか一項に記載の複合体。
【0174】
24.細胞表面分子がヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)である、条項22または条項23に記載の複合体。
【0175】
25.標的化部分がトラスツズマブである、条項24に記載の複合体。
【0176】
26.標的化部分が、セツキシマブ、ダラツムマブ、ギレンツキシマブ、パニツムマブ、オファツムマブ、およびリツキシマブからなる群から選択される、条項3~18のいずれか一項に記載の複合体。
【0177】
27.標的細胞表面編集酵素が、標的細胞の表面上の分子を切断し、標的細胞の表面上の分子を酸化し、標的細胞の表面上の分子を還元し、標的細胞の表面上の分子に部分を付加し、または標的細胞の表面上の分子から部分を除去する、条項1~26のいずれか一項に記載の複合体。
【0178】
28.標的細胞表面編集酵素が、標的細胞の表面上の分子を切断する、条項1~26のいずれか一項に記載の複合体。
【0179】
29.標的細胞の表面上の分子がリガンドである、条項28に記載の複合体。
【0180】
30.リガンドが抑制性免疫受容体のリガンドである、条項29に記載の複合体。
【0181】
31.抑制性免疫受容体が、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好中球、樹状細胞、T細胞、B細胞、マスト細胞、好塩基球、および好酸球からなる群から選択される免疫細胞上に存在する、条項30に記載の複合体。
【0182】
32.抑制性免疫受容体が、シアル酸結合Ig様レクチン(シグレック)受容体である、条項31に記載の複合体。
【0183】
33.シグレック受容体がシグレック7である、条項32に記載の複合体。
【0184】
34.シグレック受容体がシグレック9である、条項32に記載の複合体。
【0185】
35.リガンドがシアログリカンである、条項29~34のいずれか一項に記載の複合体。
【0186】
36.標的細胞表面編集酵素がシアリダーゼである、条項1~35のいずれか一項に記載の複合体。
【0187】
37.シアリダーゼがSalmonella typhimuriumシアリダーゼである、条項36に記載の複合体。
【0188】
38.シアリダーゼがVibrio choleraeシアリダーゼである、条項36に記載の複合体。
【0189】
39.シアリダーゼが哺乳動物ノイラミニダーゼである、条項36に記載の複合体。
【0190】
40.哺乳動物ノイラミニダーゼがヒトノイラミニダーゼである、条項39に記載の複合体。
【0191】
41.ヒトノイラミニダーゼが、ヒトノイラミニダーゼ1、ヒトノイラミニダーゼ2、ヒトノイラミニダーゼ3、およびヒトノイラミニダーゼ4からなる群から選択される、条項40に記載の複合体。
【0192】
42.標的化部分と複合体化される2つ以上の標的細胞表面編集酵素を含む、条項1~41のいずれか一項に記載の複合体。
【0193】
43.条項1~42のいずれか一項に記載の複合体と
薬学的に許容される担体と、を含む、組成物。
【0194】
44.組成物が非経口投与用に製剤される、条項43に記載の組成物。
【0195】
45.条項1~42のいずれか一項に記載の複合体、または条項43もしくは条項44に記載の組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む方法。
【0196】
46.癌を有する個体に、条項1~42のいずれか一項に記載の複合体、または条項43もしくは条項44に記載の組成物を投与することを含む、癌を治療する方法。
【0197】
47.ADCCを必要とする個体に、条項1~39のいずれか一項に記載の複合体、または条項40もしくは条項41に記載の組成物を投与することを含む、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を増強する方法。
【0198】
48.投与が個体における免疫経路を調節する、条項45~47のいずれか一項に記載の方法。
【0199】
49.免疫経路が、抑制性免疫受容体経路、補体経路、ペア型免疫グロブリン様2型受容体(PILR)経路、およびナチュラルキラーグループ2、メンバーDタンパク質(NKG2D)経路からなる群から選択される、条項48に記載の方法。
【0200】
50.標的細胞がその表面上にリガンドを含み、投与が標的細胞表面編集酵素によるリガンドの編集をもたらす、条項45~49のいずれか一項に記載の方法。
【0201】
51.リガンドの編集が、リガンドの全部または一部の切断を含む、条項50に記載の方法。
【0202】
52.リガンドが抑制性免疫受容体のリガンドである、条項50または条項51に記載の方法。
【0203】
53.抑制性免疫受容体が、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好中球、樹状細胞、T細胞、B細胞、マスト細胞、好塩基球、および好酸球からなる群から選択される免疫細胞上に存在する、条項52に記載の方法。
【0204】
54.抑制性免疫受容体が、シアル酸結合Ig様レクチン(シグレック)受容体である、条項53に記載の方法。
【0205】
55.シグレック受容体がシグレック7である、条項54に記載の方法。
【0206】
56.シグレック受容体がシグレック9である、条項54に記載の方法。
【0207】
57.リガンドがシアログリカンである、条項50~56のいずれか一項に記載の方法。
【0208】
58.標的細胞表面編集酵素がシアリダーゼである、条項57に記載の方法。
【0209】
59.シアリダーゼがSalmonella typhimuriumシアリダーゼである、条項58に記載の方法。
【0210】
60.シアリダーゼがVibrio choleraeシアリダーゼである、条項58に記載の方法。
【0211】
61.シアリダーゼが哺乳動物ノイラミニダーゼである、条項58に記載の方法。
【0212】
62.哺乳動物ノイラミニダーゼがヒトノイラミニダーゼである、条項61に記載の方法。
【0213】
63.ヒトノイラミニダーゼが、ヒトノイラミニダーゼ1、ヒトノイラミニダーゼ2、ヒトノイラミニダーゼ3、およびヒトノイラミニダーゼ4からなる群から選択される、条項62に記載の方法。
【0214】
64.標的細胞表面編集酵素によるリガンドの編集が、標的細胞表面上のナチュラルキラーグループ2、メンバーDタンパク質(NKG2D)リガンドに結合するNKG2Dを増加させることによりナチュラルキラー(NK)細胞活性化を増強する、条項50~63のいずれか一項に記載の方法。
【0215】
65.個体が癌を有し、複合体が、個体の癌細胞の表面上の腫瘍関連細胞表面分子または腫瘍特異的細胞表面分子に結合する標的化部分を含む、条項45~64のいずれか一項に記載の方法。
【0216】
66.癌細胞が癌腫細胞である、条項65に記載の方法。
【0217】
67.癌細胞が、乳癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、および結腸癌細胞からなる群から選択される、条項65または条項66に記載の方法。
【0218】
68.細胞表面分子がヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)である、条項66または条項67に記載の方法。
【0219】
69.標的化部分がトラスツズマブである、条項68に記載の方法。
【0220】
70.標的化部分が、セツキシマブ、ダラツムマブ、ギレンツキシマブ、パニツムマブ、オファツムマブ、およびリツキシマブからなる群から選択される、条項45~63のいずれか一項に記載の方法。
【0221】
71.条項1~42のいずれか一項に記載の複合体、または条項43もしくは条項44の組成物を含むキット。
【0222】
72.キットが1つ以上の単位用量で複合体または組成物を含む、条項71に記載のキット。
【0223】
73.キットが2つ以上の単位用量で複合体または組成物を含む、条項72に記載のキット。
【0224】
74.複合体または組成物を使用して、それを必要とする個体を治療するための説明書を含む、条項71~73のいずれか一項に記載のキット。
【0225】
75.個体が癌を有し、説明書は、個体に、癌を治療するための治療有効量の複合体または組成物を投与するためのものである、条項74に記載のキット。
【0226】
76.
標的細胞の表面上の細胞表面分子に結合する標的化部分に標的細胞表面編集酵素を複合体化することを含む、方法。
【0227】
77.複合体化は、標的細胞表面編集酵素を標的化部分と部位特異的に複合体化することを含む、条項76に記載の方法。
【0228】
78.複合体化は、標的細胞表面編集酵素を標的化部分の非天然アミノ酸と部位特異的に複合体化することを含む、条項77に記載の方法。
【0229】
79.標的細胞表面編集酵素が、リンカーを介して標的化部分と複合体化される、条項76~78のいずれか一項に記載の方法。
【0230】
80.リンカーがポリエチレングリコール(PEG)を含む、条項79に記載の方法。
【0231】
81.リンカーがペプチドである、条項79に記載の方法。
【0232】
82.複合体が融合タンパク質である、条項81に記載の方法。
【0233】
83.標的細胞表面編集酵素がシアリダーゼであり、標的化部分が抗体である、条項76~80のいずれか一項に記載の方法。
【0234】
84.抗体が抗HER2抗体である、条項83に記載の方法。
【0235】
85.抗体がトラスツザマブである、条項84に記載の方法。
【0236】
86.抗体が、セツキシマブ、ダラツムマブ、ギレンツキシマブ、パニツムマブ、オファツムマブ、およびリツキシマブからなる群から選択される、条項83に記載の方法。
【0237】
87.条項82に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【0238】
88.条項87に記載の核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現ベクター。
【0239】
89.条項87に記載の核酸または条項88に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【0240】
90.宿主細胞が、哺乳動物宿主細胞である、条項89に記載の宿主細胞。
【0241】
このように、上記は単に本開示の原理を説明しているにすぎない。当業者であれば、たとえ本明細書に明示的に記載または図示されていなくても、本発明の原理を具現化し、その精神および範囲内に含まれる種々の構成を作ることができることが理解されよう。さらに、本明細書で引用されたすべての例および条件付き言語は、主として、本発明の原理および発明者らが当該技術を促進することに寄与する概念を理解する上で読者を助けることを意図しているものであり、このような具体的に列挙された例および条件に限定されるものではないと解釈されるべきである。本発明の原理、態様、および実施形態、ならびにその特定の例を記載する本明細書におけるすべての記述は、その構造的および機能的等価物の両方を包含するように意図されている。そのような等価物は、現在既知の等価物および将来開発される等価物、すなわち、構造にかかわらず同じ機能を果たす開発された任意の要素を含むことが意図される。したがって、本発明の範囲は、本明細書に示し説明した例示的な実施形態に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明の範囲および趣旨は、添付の特許請求の範囲によって具現化される。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
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