(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】外因性ミトコンドリアを細胞内に送達する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20221205BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20221205BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20221205BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20221205BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20221205BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20221205BHJP
A61K 35/13 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/12 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/28 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/34 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/407 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/33 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/30 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/35 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/32 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/15 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/17 20150101ALN20221205BHJP
A61K 35/36 20150101ALN20221205BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N5/078 ZNA
C12N5/074
C12N5/0793
C12N5/077
A61P43/00 107
A61K35/13
A61K35/12
A61K35/28
A61K35/34
A61K35/407
A61K35/33
A61K35/30
A61K35/35
A61K35/32
A61K35/15 Z
A61K35/17 Z
A61K35/36
(21)【出願番号】P 2019525885
(86)(22)【出願日】2017-11-14
(86)【国際出願番号】 KR2017012882
(87)【国際公開番号】W WO2018088874
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】10-2016-0151397
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515191497
【氏名又は名称】パイアン バイオテクノロジ- インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】チ、ヨン-ソ
(72)【発明者】
【氏名】ユン、チャン-コ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミ-ジン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ジュン・ウク
(72)【発明者】
【氏名】キム、チュン-ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】リ、ヨンジュン
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/008937(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/135723(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/065341(WO,A1)
【文献】特開平06-207942(JP,A)
【文献】特開昭59-091900(JP,A)
【文献】Transplantation Proceedings,2014年,Vol.46, No.4,p.1233-1236,doi:10.1016/j.transproceed.2013.11.133
【文献】Cell Metabolism,2016年05月10日,Vol.23,p.921-929,doi:10.1016/j.cmet.2016.04.007
【文献】Journal of Cellular and Molecular Medicine,2014年,Vol.18, No.8,p.1694-1703,doi:10.1111/jcmm.12316
【文献】Scientific Reports,2015年,Vol. 5,09073,doi:10.1038/srep09073
【文献】Turkish Journal of Biology,2016年06月21日,Vol.40,p.747-754,doi:10.2906/biy-1503-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/87
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外因性ミトコンドリアをレシピエント細胞に送達する方法であって、
a)前記レシピエント細胞を、ドナー細胞から単離したミトコンドリアと混合する工程、
b)非イオン性界面活性剤を添加する工程、
ここで、前記非イオン性界面活性剤はポロキサマーである、および
c)得られた混合物を遠心分離する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記工程a)において、前記ミトコンドリアが前記レシピエント細胞の細胞1×10
5個あたり0.005~25μgの重量で含まれるように、前記ミトコンドリアおよび前記レシピエント細胞が前記混合物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程c)において、前記遠心分離が1~2,400×gで0℃~40℃の温度で0.5~20分間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記混合物中の前記界面活性剤が1mg/ml~100mg/mlの濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記工程c)の前にインキュベーションを行う工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記インキュベーションが0℃~40℃の温度で0.1~4時間行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ドナー細胞および前記レシピエント細胞がそれぞれ、体細胞、幹細胞、がん細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択される何れか1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記体細胞が筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞、骨細胞、白血球、リンパ球、粘膜細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択される何れか1つである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ドナー細胞が前記レシピエント細胞と同種または異種である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ドナー細胞および前記レシピエント細胞が同じ対象からまたは異なった対象から得られたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ポロキサマーがPF-68である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は外因性ミトコンドリアを細胞内に送達する方法に関する。より詳細には、本発明はドナー細胞から単離したミトコンドリアをレシピエント細胞の細胞質内に効率的に送達する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、真核細胞の生存のために不可欠なオルガネラであり、エネルギー源としてのアデノシン三リン酸(ATP)の合成および調整に関与している。ミトコンドリアは、インビボにおける種々の代謝経路、たとえば細胞シグナルのプロセッシング、細胞の分化、細胞死、ならびに細胞周期および細胞の増殖の制御に関連している。
【0003】
したがって、ミトコンドリアへの損傷は種々の疾患の原因となることがあり、最もよく知られたミトコンドリアの障害は、ミトコンドリアDNAで起こる遺伝性または後天性の変異によって引き起こされる。たとえば、ミトコンドリアの機能は、ミトコンドリアの膜電位の異常による膨潤、反応性酸素種や遊離ラジカル等による酸化ストレス、エネルギー産生のためのミトコンドリアの酸化的リン酸化機能の欠陥等によって障害されることがある。
【0004】
具体的には、ミトコンドリアの機能障害は、種々の疾患、たとえば多発性硬化症、脳脊髄炎、脳神経根炎、末梢神経障害、ライ症候群、アルパー症候群、MELAS、偏頭痛、精神病、うつ病、てんかんおよび認知症、卒中発作、視神経萎縮症、視神経症、網膜色素変性症、白内障、高アルドステロン症、副甲状腺機能低下症、ミオパチー、筋萎縮症、ミオグロビン尿症、筋緊張阻害、筋肉痛、運動耐性の低下、腎細尿管症、腎不全、肝不全、肝機能障害、肝腫大、鉄赤血球貧血、好中球減少症、血小板減少症、下痢、絨毛萎縮症、多回嘔吐、嚥下障害、便秘、感音難聴、てんかん、精神発達遅滞、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびハンチントン病の直接的または間接的原因であることが知られている。
【0005】
そのようなミトコンドリア関連疾患を治療するため、ミトコンドリアを保護するかまたはミトコンドリアの機能障害を回復するために用いることができる材料、そのような材料を効率的に標的に送達することを可能にする方法等に関する研究が続けられてきた。しかし、治療範囲がかなり限定されていることや、副作用の出現等の問題があるという観点から、ミトコンドリア関連疾患の画期的な治療はまだ開発されていない。
【0006】
さらに、ミトコンドリア関連疾患を抜本的にブロックする方法として、ミトコンドリアの変異を有する卵母細胞から核遺伝物質を抽出し、正常なミトコンドリアを有する卵母細胞に核遺伝物質を移植する技術が出現している。しかし、生物学的な論争や倫理的な論争により、関連する法律の通過が妨げられてきた。
【0007】
したがって、生命倫理に抵触することなく細胞内ミトコンドリア活性を効果的に増大させる方法を発見する努力をする過程で、本発明者らは、細胞に損傷を起こさずに健常なミトコンドリアを注入することができる技術を考案し、本発明を完成させた。
【技術的課題】
【0008】
本発明の目的は、細胞から単離したミトコンドリアを特定の細胞に注入する方法を提供することである。さらに、本発明の別の目的は、改善されたミトコンドリア機能を有する細胞であって、ミトコンドリアが投与される細胞に損傷を与えることなく高い送達率で正常なミトコンドリアを細胞内に送達することによって得られる細胞を提供することである。
【課題の解決】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の一側面によれば、外因性ミトコンドリアをレシピエント細胞に送達する方法であって、a)レシピエント細胞を、ドナー細胞から単離したミトコンドリアと混合する工程、およびb)得られた混合物を遠心分離する工程を含む方法が提供される。
【0010】
さらに本方法は、工程b)の前に、界面活性剤を添加する工程またはインキュベーションを行う工程をさらに含んでいてもよい。
【0011】
本発明の別の側面によれば、上記の方法によって外因性ミトコンドリアが導入された細胞が提供され得る。
【発明の有利な効果】
【0012】
本発明の方法によって、正常細胞から単離したミトコンドリアをレシピエント細胞に効果的に注入することができる。特に、本発明の方法は、細胞に送達されるミトコンドリアの量を調整することが可能なので、細胞の損傷を起こさずに極めて高い注入収率を示すという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、細胞内ミトコンドリアをX線蛍光撮影で観察することにより得られた結果を示す。
【
図2】
図2は、単離したミトコンドリアをX線蛍光撮影で観察することにより得られた結果を示す。
【
図3】
図3は、ミトコンドリアの単離プロセスの概略図を示す。
【
図4】
図4は、ドナー細胞型によるミトコンドリア活性を比較することにより得られたグラフを示す。
【
図5】
図5は、単離したミトコンドリア中のATP含量の測定によってミトコンドリア機能を確認することにより得られたグラフを示す。
【
図6】
図6は、単離したミトコンドリアの高い純度をミトコンドリアマーカーおよび核マーカーの発現の解析によって確認することにより得られた結果を示す。
【
図7A】
図7Aは、ミトコンドリア染色パターンを用いてミトコンドリアのUC-MSCへの送達を確認することにより得られた結果を示す。
【
図7B】
図7Bは、ミトコンドリア染色パターンを用いてミトコンドリアのUC-MSCへの送達を確認することにより得られた結果を示す。
【
図7C】
図7Cは、ミトコンドリア染色パターンを用いてミトコンドリアのUC-MSCへの送達を確認することにより得られた結果を示す。
【
図7D】
図7Dは、3D Zスタックでミトコンドリアの送達を確認することにより得られた結果を示す。
【
図7E】
図7Eは、3D Zスタックでミトコンドリアの送達を確認することにより得られた結果を示す。
【
図7F】
図7Fは、3D Zスタックでミトコンドリアの送達を確認することにより得られた結果を示す。
【
図7G】
図7Gは、単離したミトコンドリアの生存率をミトコンドリア特異的MitoTrackerプローブを用いて確認することにより得られた結果を示す。
【
図7H】
図7Hは、単離したミトコンドリアの生存率をミトコンドリア特異的MitoTrackerプローブを用いて確認することにより得られた結果を示す。
【
図7I】
図7Iは、単離したミトコンドリアの生存率をミトコンドリア特異的MitoTrackerプローブを用いて確認することにより得られた結果を示す。
【
図8】
図8は、UC-MSCに送達されたミトコンドリアの送達率をFACS解析で確認することにより得られた結果を示す。
【
図9】
図9は、レシピエント細胞(L6細胞)へのUC-MSC由来のミトコンドリアの送達をqPCRを用いて確認することにより得られた結果を示す。
【
図10】
図10は、ミトコンドリアの送達が遠心分離によって効果的に行われることをリアルタイムPCRを用いて確認することにより得られた結果を示す。
【
図11】
図11は、種々の細胞へのミトコンドリアの送達をFACS解析で確認することにより得られた結果を示す。
【
図12】
図12は、ドナー細胞由来のミトコンドリアをレシピエント細胞に送達し、次いで得られたレシピエント細胞を用いるプロセスを示す。
【
図13】
図13は、その含量に応じた、混合される外因性ミトコンドリアの送達率をFACSで解析することにより得られた結果を示す。
【
図14】
図14は、その含量に応じた、混合される外因性ミトコンドリアの送達率をFACSで解析して得られたグラフを示す。
【
図15】
図15は、混合されるミトコンドリアの濃度に応じた、レシピエント細胞に送達された外因性ミトコンドリアの量を示す。
【
図16】
図16は、レシピエント細胞に送達された外因性ミトコンドリアを共焦点走査顕微鏡で撮影することにより得られた写真を示す。
【
図17】
図17は、ミトコンドリア送達の最適条件をFACS解析で確認することにより得られた結果を示す。
【
図18A】
図18Aは、ミトコンドリア送達の最適条件下でミトコンドリアを送達し、次いで送達されたミトコンドリアを共焦点顕微鏡で確認することにより得られた結果を示す。
【
図18B】
図18Bは、ミトコンドリア送達の最適条件下でミトコンドリアを送達し、次いで送達されたミトコンドリアを共焦点顕微鏡で確認することにより得られた結果を示す。
【
図19】
図19は、界面活性剤の添加後のインキュベーション時間に応じたミトコンドリア送達率をFACSで解析することにより得られた結果を示す。
【
図20】
図20は、界面活性剤の添加後のインキュベーション時間に応じたミトコンドリア送達率をFACSで解析することにより得られた結果を棒グラフとして模式的に示す。
【
図21】
図21は、界面活性剤をレシピエント細胞に添加し、遠心分離のプロセスなしにインキュベーションを行うプロセスで得られたミトコンドリア送達率を測定することにより得られた結果を示す。
【
図22】
図22は、レシピエント細胞を種々の濃度および処理時間で界面活性剤で処理し、次いで遠心分離でミトコンドリアをレシピエント細胞に送達した場合のミトコンドリア送達率を測定することにより得られた結果を示す。
【発明の詳細な説明】
【0014】
これ以降、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の一側面において、外因性ミトコンドリアをレシピエント細胞に送達する方法であって、a)レシピエント細胞を、ドナー細胞から単離したミトコンドリアと混合する工程、およびb)得られた混合物を遠心分離する工程を含む方法が提供される。
【0016】
最初に、レシピエント細胞を、ドナー細胞から単離したミトコンドリアと混合する工程が提供される。
【0017】
ここで、「ドナー細胞」は、ミトコンドリアを提供する細胞を意味する。さらに、ドナー細胞は正常なミトコンドリアを含む正常細胞であってもよい。具体的には、ドナー細胞は動物またはヒトを含む哺乳類から単離された細胞であってもよい。さらに、ドナー細胞は動物細胞であってもよく、それぞれ独立に、体細胞、幹細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択される何れか1つであってもよい。
【0018】
さらに、体細胞は筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞、骨細胞、白血球、リンパ球、粘膜細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択される何れか1つであってもよいし;筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択される何れか1つであってもよいし;あるいは筋細胞または肝細胞であってもよい。好ましくは、ドナー細胞は優れたミトコンドリア活性を有する筋細胞であってもよい。
【0019】
さらに、幹細胞は種々の型の組織細胞に分化する能力を有する未分化の細胞を意味する。幹細胞は任意の型の幹細胞、たとえば成体幹細胞、間葉系幹細胞、誘導多能性幹細胞、および組織由来幹細胞であってもよい。
【0020】
さらに、がん細胞は扁平上皮細胞癌、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺がん、腺癌、腹膜がん、結腸がん、胆管腫瘍、鼻咽頭がん、喉頭がん、気管支がん、口腔がん、骨肉腫、胆嚢がん、腎がん、白血病、膀胱がん、黒色腫、脳がん、グリオーマ、脳腫瘍、皮膚がん、膵がん、乳がん、肝がん、骨髄腫瘍、食道がん、結腸直腸がん、胃がん、子宮頸がん、前立腺がん、卵巣がん、頭頸部がん、および直腸がんからなる群から選択される何れかの細胞であってもよい。
【0021】
一方、「レシピエント細胞」はその中にミトコンドリアが導入される細胞を意味する。さらに、レシピエント細胞は正常細胞であってもよく、免疫関連細胞である白血球およびリンパ球の何れか1つであってもよい。さらに、レシピエント細胞は先天的または後天的要素による異常なミトコンドリアを含む異常な細胞であってもよい。
【0022】
さらに、ドナー細胞とレシピエント細胞は互いに同種または異種であってもよい。ドナー細胞とレシピエント細胞は同じ対象からまたは異なった対象から得られたものでもよい。
【0023】
工程a)において、ドナー細胞からミトコンドリアを単離する方法は種々の公知の方法、たとえば特定の緩衝溶液を用いてミトコンドリアを単離する方法、または電位差および磁場を用いてミトコンドリアを抽出する方法から選択することができる。
【0024】
ミトコンドリア活性を維持するために、ミトコンドリアを単離する方法の一態様として、細胞を破壊し遠心分離を行うことによってミトコンドリアを得てもよい。一態様においては、ミトコンドリアの単離は、ドナー細胞を培養し、この細胞を含む組成物の一次遠心分離を行ってペレットを作成する工程、ペレットを緩衝溶液中に再懸濁し、ホモジナイゼーションを行う工程、ホモジナイズされた溶液を二次遠心分離して上清を調製する工程、および上清を三次遠心分離してミトコンドリアを精製する工程によって行ってもよい。ここで細胞の活性を維持する観点から、二次遠心分離を行う時間は一次および三次遠心分離を行う時間より短くなるように調整することが好ましい。工程が一次遠心分離から三次遠心分離へと進行するにつれて速度を増大させることが可能である。
【0025】
具体的には、一次から三次への遠心分離は0℃~40℃の温度、好ましくは3℃~5℃の温度で行ってもよい。さらに、遠心分離は0.5分~50分、1分~20分、または2分~30分、好ましくは5分間、行ってもよい。さらに、遠心分離を行う時間は遠心分離の回数、試料の含量などによって適当に調節することができる。遠心分離は1×g~2,400×g、350×g~2,000×g、または600×g~1,600×g、好ましくは1,500×gの速度で行ってもよい。
【0026】
さらに、一次遠心分離は100~1,000×g、200~700×g、または300~450×gの速度で行ってもよい。さらに、二次遠心分離は1~2,000×g、25~1,800×g、または500~1,600×gの速度で行ってもよい。さらに、三次遠心分離は100~20,000×g、500~18,000×g、または800~15,000×gの速度で行ってもよい。
【0027】
次に、外因性ミトコンドリアをレシピエント細胞に送達する工程であって、得られた混合物を遠心分離する工程を含む工程が提供される。
【0028】
ここで、遠心分離は100×g、300×g、500×g、800×g、1,000×g、1,200×g、1,500×g、1,800×g、2,000×g、2,400×g、3,000×g、5,000×g、または10,000×gで行ってもよい。さらに、遠心分離を行う時間は0.1分~60分でもよいが、それに限定されない。具体的には、時間は1分、2分、3分、5分、10分、20分、または30分でもよい。
【0029】
遠心分離は0℃~40℃、20℃~38℃、または30℃~37℃の温度で行ってもよい。
【0030】
したがって、レシピエント細胞とドナー細胞から単離されたミトコンドリアとの両方に遠心力を印加することによって、レシピエント細胞への損傷を少なくしながら高い効率でミトコンドリアをレシピエント細胞に送達することができる。さらに、レシピエント細胞が欠陥のあるミトコンドリアを有する場合に、正常なミトコンドリアを含むドナー細胞から単離されたミトコンドリアをレシピエント細胞に注入することができ、それによりミトコンドリアの欠陥によるレシピエント細胞の機能を回復することができる。
【0031】
さらに工程b)において、混合物の遠心分離をその直径が底に向かって徐々に狭くなっている試験管内で行うことが、レシピエント細胞とミトコンドリアに印加される遠心力およびそれらの間の接触効率の観点でより効果的である。遠心分離は同じ条件下で1~3回、さらに行ってもよい。
【0032】
本発明の一態様において、1,500×gの速度で5分の遠心分離を行う場合には、ミトコンドリアが最もよくレシピエント細胞に送達されることが見出された。
【0033】
さらに工程a)において、ミトコンドリアは種々の量でレシピエント細胞と混合してもよい。具体的には、ミトコンドリアは、レシピエント細胞1×105個あたり、0.005~25μg、0.01~23μg、または0.1~20μgの量で含まれていてもよい。具体的には、ミトコンドリアは、レシピエント細胞1×105個あたり、0.1μg、1μg、3μg、5μg、10μg、15μg、または18μgの量で含まれていてもよい。ミトコンドリアがレシピエント細胞1×105個あたり0.005μgより少ない量で含まれている場合には、やや少ない送達収率が得られることがある。
【0034】
さらに本方法は工程b)を行う前に、工程a)で得られた混合物に界面活性剤を添加する工程をさらに含んでいてもよい。界面活性剤はレシピエント細胞の細胞膜透過性を増大させるために用いられる。界面活性剤を添加する時点はレシピエント細胞とミトコンドリアを混合する前、その間、その後のいずれでもよい。さらに、界面活性剤をレシピエント細胞に添加した後で、レシピエント細胞の細胞膜透過性を増大させるためにレシピエント細胞をある時間の間、インキュベートしてもよい。レシピエント細胞を放置しておく時間は0.1~60分でもよい。具体的には、その時間は1分、5分、10分、20分、または30分でもよいが、それらに限定されない。
【0035】
具体的には、界面活性剤は、好ましくは、非イオン性界面活性剤であり、ポロキサマーであってもよい。ここで、ポロキサマーは2つの親水性ポリオキシエチレン鎖に挟まれた中央の疎水性ポリオキシプロピレン鎖から構成されるトリブロックコポリマーである。さらに、混合物中の界面活性剤は1~100mg/ml、3~80mg/ml、または5~40mg/ml、好ましくは10~30mg/mlの濃度を有していてもよい。
【0036】
さらに本方法は工程b)を行う前に、工程a)で得られた混合物を所定の時間および温度条件下でインキュベートする工程をさらに含んでいてもよい。インキュベーションは0℃~40℃、20℃~38℃、または30℃~37℃の温度で行ってもよい。さらに、インキュベーションは0.1~4時間、0.5~3.8時間、または0.8~3.5時間、行ってもよい。さらに、インキュベーションは、ミトコンドリアをレシピエント細胞に送達させるように、工程b)を行った後で所定の時間、行ってもよい。さらに、インキュベーション時間は細胞型およびミトコンドリアの量に応じて適当に選択することができる。
【0037】
さらに本方法は工程b)を行う前に、工程a)で得られた混合物に界面活性剤を添加し、インキュベーションを行う工程をさらに含んでいてもよい。ここで、界面活性剤およびインキュベーションの条件は上述のものと同じである。
【0038】
本発明の別の側面においては、上述の方法によって外因性ミトコンドリアが送達された細胞が提供される。
【0039】
細胞はミトコンドリア機能障害疾患を治療するための組成物中に含まれていてもよい。具体的には、外因性ミトコンドリアが上述の方法によって送達された細胞を活性成分として含む組成物を、疾患を治療するために投与することができる。ここで、本発明の細胞を、標的の疾患に直接関連するかまたは関連しない健康状態を有する哺乳類に有効量で投与することができる。
【0040】
したがって、本発明による送達方法は、外因性ミトコンドリアが導入される細胞のミトコンドリア機能を改善することができ、本発明によって得られた細胞は、ミトコンドリア機能を改善するため、およびミトコンドリア機能障害疾患を治療または予防するために用いることができる。
【0041】
これ以降、本発明の理解を助けるために本発明の好ましい例を説明する。しかし、以下の例は本発明をより容易に理解する目的のみに提供され、本発明は以下の例に限定されない。
【0042】
調製例1.細胞の調製
ヒト脂肪細胞由来間葉系幹細胞(AD-MSC;PCS-500-011、パッセージ#7)、ヒト乳がん細胞株(MCF-7;HTB-22、パッセージ#20)、ヒト腺癌肺胞上皮細胞(A549;CCL-185、パッセージ#20)、ヒト白血病細胞株(K562;CCL-243、パッセージ#20)、ヒト肝細胞株(WRL-68;CL-48、パッセージ#9)、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF;PCS-201-012、パッセージ#9)およびヒトナチュラルキラー細胞株(NK-92;CRL-2407、パッセージ#10)はAnimal Type Culture Collection社(Manassas、VA)より購入した。ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC;MSC-001F、パッセージ#7)はSTEMCELL Technologies,Inc.(Vancouver、Canada)より購入した。細胞型による送達効率(%)を比較するため、完全に解凍するまで全ての細胞株を37℃の浴に保存した。その後、直ちに細胞株をミトコンドリア送達に用いた。
【0043】
UC-MSCは、10%のウシ胎児血清(FBS;Hyclone Laboratories Inc.)、100μg/mlのストレプトマイシンおよび100IU/mlのペニシリン(P/S;Hyclone Laboratories Inc.)、ならびに10ng/mlの塩基性線維芽細胞増殖因子(CHA Meditech Co.,Ltd.、Daejeon、Korea)を補充したα-MEM培地(Hyclone Laboratories Inc.、Logan、UT)の中で培養した。細胞のコンフルエンシーが80%~90%に達した時、パッセージ#5~#7のステージのUC-MSCを用いた。参考までに、本実験はCHA大学のInstitutional Audit Committee(Seongnam、Korea;IRB No.201412-BR-003-02)の承認の下に行った。
【0044】
ラット骨格筋由来細胞株L6(CRL-1458)はAnimal Type Culture Collection社(Manassas、VA)より購入した。細胞は10%のFBSおよび1%のP/Sを補充したDMEM培地(DMEM;Hyclone Laboratories Inc.)の中で培養し、パッセージ#6~#10のステージのL6細胞を用いた。
【0045】
調製例2.蛍光イメージ解析
以下の例では、ミトコンドリアの送達を追跡するために10×および20×の開口数を有するTCS SP5 II共焦点顕微鏡(Leica、Heidelberg、Germany)を用いた。デジタルイメージはLeica LAS AFソフトウェア(Leica Microsystems、Mannheim、Germany)の2.6バージョンを用いて確認した。
【0046】
例1
ミトコンドリアの単離
1.1.L6細胞中のミトコンドリアの単離
調製例2で培養したL6を緑色のミトコンドリア特異的マーカー(Mitotracker green)で染色した。緑色蛍光が細胞内ミトコンドリアで良好にラベルされるかを確認するために蛍光顕微鏡を用いて観察を行った。
【0047】
ミトコンドリアを抽出するため、ヘモサイトメーターを用いて細胞数を測定し、約2×107細胞/mlの量の細胞を収集した。その後、細胞株を350×gの速度で、約4℃の温度で10分、一次遠心分離に供した。ここで、得られたペレットを収集し、ディスポーザブルの1mlシリンジを用いてプロテアーゼインヒビター(Roche Diagnostics、Mannheim、Germany)を補充したSHE緩衝溶液(0.25Mのスクロース、20mMのHEPES(pH7.4)、2mMのEGTA、10mMのKCl、1.5mMのMgCl2および0.1%のBSA(脱脂肪したウシ血清アルブミン))中で再懸濁し、ホモジナイズした。ペレットを含む組成物を1,100×gの速度で、約4℃の温度で3分、二次遠心分離に供して上清を得た。次いで、上清を12,000×gの速度で、約4℃で15分、三次遠心分離に供して細胞株からミトコンドリアを単離した。
【0048】
単離したミトコンドリアを確認するため、単離を行う前に緑色蛍光でラベルした細胞内ミトコンドリアを通常の顕微鏡および蛍光顕微鏡で撮影し、その結果を
図1に示し;単離したミトコンドリアを通常の顕微鏡および蛍光顕微鏡で撮影し、その結果を
図2に示す。ミトコンドリア単離実験のフローチャートを
図3に示す。
【0049】
図1および2に示すように、単離前にL6細胞中に存在していたミトコンドリアが単離されたことが確認された。
【0050】
1.2.ヒト臍帯由来間葉系幹細胞中のミトコンドリアの単離
ヒト臍帯由来間葉系幹細胞(UC-MSC、CHA bundang medical centerより提供、IRB No.201412-BR-003-02)からミトコンドリアを単離するため、分別遠心分離を用いた。ミトコンドリアを抽出するため、ヘモサイトメーターを用いて細胞数を測定し、約2×107細胞の量の細胞を収集した。
【0051】
細胞株を350×gの速度で、約4℃の温度で10分、一次遠心分離に供した。ここで、得られたペレットを収集し、ディスポーザブルの1mlシリンジを用いてプロテアーゼインヒビター(Roche Diagnostics、Mannheim、Germany)を補充したSHE緩衝溶液(0.25Mのスクロース、20mMのHEPES(pH7.4)、2mMのEGTA、10mMのKCl、1.5mMのMgCl2および0.1%のBSA(脱脂肪したウシ血清アルブミン))中で再懸濁し、ホモジナイズした。
【0052】
ペレットを含む組成物を1,100×gの速度で、約4℃の温度で3分、二次遠心分離に供して未溶解の細胞および細胞片を除去し、上清を得た。次いで、ミトコンドリアをペレット化するため、上清を12,000×gの速度で、約4℃の温度で15分、三次遠心分離に供した。ミトコンドリアのペレットを500μlのSHE緩衝液に再懸濁し、20,000×gの速度で、約4℃で5分、遠心分離に供した。上清を除去した後、ペレットを50μlのPBSに再懸濁し、測定を行うまで氷上に保存した。全ての解析は新たに単離したミトコンドリアについて行った。
【0053】
例2
ドナー細胞から単離したミトコンドリアの活性および機能の確認
2.1.ドナー細胞から単離したミトコンドリアの活性の測定
例1の方法に従ってヒト肝細胞株、WRL-68、ヒト皮膚線維芽細胞、HDF、およびヒト臍帯由来間葉系幹細胞、UC-MSCからミトコンドリアをさらに単離した。このようにして単離したミトコンドリアの活性を測定するため、シトクロムc酸化活性アッセイキット(BioVision Inc.)を用いた。それぞれの細胞中のミトコンドリアをキットに含まれた還元型シトクロムcと反応させ、1分間隔で30分間、550nmの吸光度を測定した。経時的に測定した吸光度の変化から、還元型に対するミトコンドリアの酸化能を計算した。それぞれの細胞株から得られたミトコンドリアのシトクロムc酸化活性を測定し、
図4に示す。
【0054】
図4に示すように、単離されたミトコンドリアのATP活性能は筋細胞、肝細胞、臍帯由来幹細胞、線維芽細胞の順であると思われた。このことから、組織によって異なったミトコンドリア活性が示されていることが分かる。
【0055】
2.2.ドナー細胞から単離したミトコンドリアの機能の確認
UC-MSCから単離したミトコンドリアの機能を確認するため、単離したミトコンドリアについてビシンコニン酸(BCA)アッセイを用いてミトコンドリアタンパク質の濃度を定量し、種々の濃度(0.05μg、0.5μg、および5μg)でATPを測定した。ミトコンドリア中のATPの量は、ATPの量に比例して発光シグナルを発生するCellTiter-Gloル発光キット(Promega Corporation、Madison、WI)を用いて測定した。
【0056】
それぞれの濃度のミトコンドリアを50μlのPBSと混合し、次いで96ウェルのプレート中で調製した。キットに含まれている試験溶液50μlをこれに均等に添加し、室温で30分、反応させた。次いで、発光マイクロプレートリーダーを用いて発光シグナルを測定することによってATPの量を測定した。この結果を
図5に示す。
【0057】
図5に示すように、ATPの量はミトコンドリアの濃度により、またこれに比例して増大し、これからミトコンドリアの機能を確認することができた。
【0058】
例3
ドナー細胞から単離したミトコンドリアの純度の測定
UC-MSCから単離したミトコンドリアの純度を測定するため、ミトコンドリアの単離プロセスで得られたサイトゾル分画とミトコンドリア分画中のミトコンドリアマーカー[シトクロムCオキシダーゼ(COX IV)およびシトクロム]ならびに核マーカー[増殖細胞核抗原(PCNA)およびβ-アクチン]の発現をウェスタンブロット解析で確認した。結果を
図6に示す。
【0059】
図6に示すように、単離したミトコンドリア分画中でCOX IVとシトクロムcが発現されている一方、PCNAとβ-アクチンはそこでは発現されていないことが確認された。このことから、単離したミトコンドリアは高い純度を有することが確認された。
【0060】
例4
ドナー細胞から単離したミトコンドリアの送達の確認
4.1.WRL-68から単離したミトコンドリアの送達および活性の確認
ミトコンドリア特異的MitoTrackerプローブを用いて、WRL-68から単離したミトコンドリアの送達および送達されたミトコンドリアの活性を確認した。ミトコンドリアの生存率および呼吸能を、赤色蛍光を有するMitoTracker Red CMXRos(CMXRos)プローブがミトコンドリア膜電位(MMP)に応じて集積するという特徴によって確認した。さらに、レシピエント細胞であるUC-MSC中のミトコンドリアをMitoTracker Green(MTG)プローブで染色した。MitoTracker Red CMXRosプローブで染色したWRL-68から単離した外因性ミトコンドリアを、MitoTracker Greenプローブで染色したUC-MSCと混合した。次いで遠心分離を開始した。MitoTracker Red CMXRos(CMXRos)プローブおよびMitoTracker Green(MTG)プローブのそれぞれによる観察で得られたイメージをそれぞれ
図7Aおよび7Bに示し、2つのイメージが合体したイメージを
図7Cに示す。
【0061】
図7A~7Cに示すように、送達された外因性ミトコンドリア(赤色蛍光)は、UC-MSCに固有のミトコンドリア(緑色蛍光)と合体したイメージ(黄色蛍光)として現われた。このことから、本発明のミトコンドリア単離方法によって未変性のミトコンドリアが得られることが見出された。
【0062】
さらに、MitoTracker Red CMXRos(CMXRos)プローブで染色した外因性ミトコンドリアを有するUC-MSCの3次元z-スタックイメージを観察した。これらの結果を
図7D~7Fに示す。
図7Eを基礎として、
図7Dは2μm低い位置にある部分のイメージであり、
図7Fは2μm高い位置にある部分のイメージである。
【0063】
図7E~7Fに示すように、レシピエント細胞であるUC-MSCに送達されたミトコンドリアを、合体した場合に起こる黄色の蛍光によって確認した。このことから、ミトコンドリアは遠心分離によってレシピエント細胞に効果的に送達されることが見出された。さらに、送達されたミトコンドリアの活性が維持されていることが見出された。
【0064】
4.2.UC-MSCから単離したミトコンドリアの送達および活性の確認
ミトコンドリア特異的MitoTracker Red CMXRos(CMXRos)プローブを用いて、UC-MSCから単離したミトコンドリアの送達および送達されたミトコンドリアの活性を確認した。さらに、細胞内ミトコンドリアをMitoTracker Green(MTG)プローブで染色した。さらに、ミトコンドリアの単離の前にUC-MSCをMitoTrackerプローブで染色し、37℃で30分インキュベートした。ミトコンドリアの単離プロセスを行った後、ミトコンドリアペレットを10μlのPBSと混合し、スライドに載せ、カバースライドで覆い、蛍光顕微鏡で観察した。MitoTracker Red CMXRos(CMXRos)プローブおよびMitoTracker Green(MTG)プローブのそれぞれによる観察で得られたイメージをそれぞれ
図7Gおよび7Hに示し、2つのイメージが合体したイメージを
図7Iに示す。
【0065】
図7G~
図7Iより、本発明のミトコンドリア単離方法によって未変性のミトコンドリアが得られることが見出された。
【0066】
4.3.FACS解析を用いてミトコンドリア送達の確認
ミトコンドリア送達率を確認するため、MitoTracker Greenを用いて例5.1と同じ方法でFACSを行った。これらの結果を
図8に示す。
【0067】
図8に示すように、UC-MSCに送達されたミトコンドリアの量(0.05、0.5、および5μg)に比例して緑色蛍光中に現われる送達率は、それぞれ33.1±0.8%、77.1±1.1%、および92.7±5.9%に増大した。このことから、送達率はレシピエント細胞に送達されたミトコンドリアの量(ミトコンドリアタンパク質の濃度(μg))に比例して増大することが見出された。
【0068】
4.4.qPCR解析によるミトコンドリア送達の確認
ミトコンドリアの送達を実証するため、ミトコンドリア送達の後のドナー細胞またはレシピエント細胞を、特異的プライマーを用いる従来のPCRに供し、レシピエント細胞中におけるmtDNAの発現を実証した。
【0069】
ドナー細胞としてのヒト臍帯由来間葉系幹細胞、UC-MSCから抽出したミトコンドリアをラットL6細胞に送達し、次いで定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)アッセイを用いて、ヒトmtDNA、ラットmtDNA、およびラットGAPDHの発現を確認した。ここで、ヒトUC-MSCおよびラットL6細胞に特異的なプライマーを用いた。この結果を
図9に示す。
【0070】
図9に示すように、ラット細胞におけるヒトmtDNAの発現はL6細胞に送達されたミトコンドリアの量に応じて増大した。一方、ラットmtDNAの発現には変化がなかった。このことから、ミトコンドリアが送達されるべきレシピエント細胞に外因性ミトコンドリアが送達されたことが見出された。
【0071】
4.5.リアルタイムPCR解析によるミトコンドリア送達の確認
例4.4で確認した定性的結果とともに定量的結果を得るため、外因性ミトコンドリアが送達されたL6細胞において、送達されたミトコンドリアに特異的なヒトmtDNAコピーの数とミトコンドリア送達の前のヒトmtDNAコピーの数との比較を行った。この結果を
図10に示す。
図21において、黒色の棒(上から1番目)は、ミトコンドリアを抽出した後の送達すべきミトコンドリアの濃度に対するmtDNAのコピー数を確認することにより得られた結果を表わす。明灰色の棒(上から2番目)は、遠心分離によってレシピエント細胞にミトコンドリアを送達した後のレシピエント細胞中のmtDNAのコピー数を確認することにより得られた結果を表わす。暗灰色の棒(上から3番目)は、遠心分離でなく共インキュベーション(24時間)によるミトコンドリア送達の後のmtDNAのコピー数を確認することにより得られた結果を表わし、これは遠心分離法によって得られた送達率に対する比較の数値を示すことを意図している。
【0072】
図10に示すように、遠心分離によって得られたミトコンドリア送達率は約80%~85%であると思われた。さらに、共インキュベーションによって得られたミトコンドリア送達率は10%未満と顕著に低い数値であると思われた。このことから、遠心分離によるミトコンドリア送達法は効果的であることが見出された。
【0073】
4.6.種々の細胞へのミトコンドリア送達の確認
レシピエント細胞の性質によるミトコンドリア送達の相違を比較するため、種々の細胞へのミトコンドリアの送達率をFACS解析によって測定した。3つの細胞株(幹細胞、がん細胞、および体細胞)を選択した。細胞を付着性および浮遊性細胞型に分類し、UC-MSC由来のミトコンドリアを遠心分離によってそれぞれの細胞型に送達した。その後、FACS解析を行った。結果を
図11に示す。
【0074】
図11から、細胞による送達率の相違はあるが、ミトコンドリアは広範囲の細胞に送達できることが見出された。
【0075】
例5
レシピエント細胞へのミトコンドリアの送達
例1に従って単離した外因性ミトコンドリアをレシピエント細胞に効果的に送達するため、
図12に示した迅速かつ簡単な遠心分離法を用いた。
図12に示すように、本方法は良好なミトコンドリア活性能を有するドナー細胞からミトコンドリアを迅速に単離するプロセス(工程1)、単離したミトコンドリアをレシピエント細胞に送達するプロセス(工程2)、および得られた細胞を種々の用途(インビトロ、インビボ(臨床および前臨床))に適用するプロセス(工程3)に大別することができる。
【0076】
5.1.ミトコンドリア送達の確認(1)
例1に従ってWRL68から抽出したミトコンドリアをレシピエント細胞である1×10
5個のUC-MSCと混合することによって得られた組成物を例2の方法で処理して、0.05、0.1、0.25、0.5、1、2、5、10、および20μgのミトコンドリアがUC-MSCと混合されるようにした。ここで、FACS解析を行ってミトコンドリアの濃度による送達率を測定し、その結果を
図13および14に示す。
【0077】
図13および14から、WRL-68由来のミトコンドリアがレシピエント細胞UC-MSCに送達されたことが確認された。
【0078】
5.2.ミトコンドリア送達の確認(2)
ヒト肝細胞株、WRL-68から抽出したミトコンドリアと、ヒト臍帯由来間葉系幹細胞、UC-MSCとを例1の方法で混合し、1,500×gの速度、約4℃の温度で15分の遠心分離に供した。上清を除去し、PBSで洗浄し、約4℃の温度で5分の遠心分離に供した。洗浄は同じ条件下で2回行った。レシピエント細胞1×105個あたりミトコンドリア重量6.25、12.5、および25μgで送達されたドナー細胞のミトコンドリアを確認するため、レシピエント細胞中のDNAを抽出し、PCRで確認した。
【0079】
ドナー細胞である肝細胞、WRL-68に特異的なミトコンドリア遺伝子のプライマーセット(フォワードプライマー:配列番号1、リバースプライマー:配列番号2)を、それぞれ抽出されたDNAと混合し、所望のDNA部分を増幅した。DNA産物を確認するため、1.5%アガロースゲル上の電気泳動を行ない、次いでLoading Star(DYNEBIO INC.,Seongnam、Korea)による染色を行った。UV分光計(Chemi-Doc XRS;Bio-Rad Laboratories,Inc.,Hercules,CA,USA)を用い、増幅されたDNAバンドを
図15に示す。
【0080】
共焦点走査顕微鏡を用いてレシピエント細胞に送達されたミトコンドリアを確認するため、ドナー細胞のミトコンドリアとレシピエント細胞のミトコンドリアをそれぞれ、MitoTracker greenとMitoTracker redでラベルした。24時間後、核を青色に染色できるDAPIを含む固定液を用いて細胞をスライド上に固定し、共焦点走査顕微鏡(Zeiss LSM880 Confocal顕微鏡)を用いて細胞内ミトコンドリアを観察した。結果を
図16に示す。
【0081】
図16に示すように、ドナー細胞中のミトコンドリアがレシピエント細胞に送達されたことを目視で確認することができる。
【0082】
5.3.ミトコンドリア送達の最適条件の確認:遠心分離
種々の遠心速度(500×g、1,000×g、1,500×g、および2,000×g)および種々の遠心時間(5分、10分、および15分)によるそれぞれの濃度(0.05μg、0.5μg、および5μg)でのミトコンドリアの送達を評価した。それぞれの条件によってレシピエント細胞に送達されたミトコンドリアを、FACS解析による緑色蛍光の割合によって確認した。結果を
図17に示す。
【0083】
図17から、ミトコンドリアをレシピエント細胞に送達するための最適条件は、遠心速度1,500×g、遠心時間5分であることが見出された。
【0084】
5.4.ミトコンドリア送達のための最適条件によるミトコンドリア送達の確認
ドナー細胞、UC-MSCから単離したミトコンドリアをレシピエント細胞L6細胞と混合した。例5.3で確認したミトコンドリア送達の最適条件によって、得られた混合物を速度1,500×g、約4℃の温度で5分の遠心分離に供した。上清を除去し、PBSによる洗浄を2回行ない、約4℃の温度で5分の遠心分離を行った。レシピエント細胞1×105個あたり送達されたドナー細胞のミトコンドリアを確認するため、レシピエント細胞中のDNAを抽出し、PCRで確認した。
【0085】
NucleoSpin Tissueキット(MACHEREY-NAGEL GmbH & Co.KG、Dueren、Germany)を用いてレシピエント細胞からゲノムDNA(gDNA)を単離し、以下の条件下でPCRを行った。前変性95℃で5分、変性95℃で30秒、25周期、アニーリング58℃で30秒、伸長72℃で30秒、および最終伸長72℃で5分。DNA産物を確認するため、EtBrで染色した1.5%(w/v)アガロースゲル上の電気泳動を行ない、次いでLoading Star(DYNEBIO INC.,Seongnam、Korea)による染色を行った。UV分光計(Chemi-Doc XRS;Bio-Rad Laboratories,Inc.,Hercules,CA,USA)を用いて解析を行った。
【0086】
レシピエント細胞に送達されたミトコンドリアを共焦点走査顕微鏡で確認した。ここで、ドナー細胞のミトコンドリアとレシピエント細胞のミトコンドリアを予めMitotracker greenとMitotracker redでそれぞれ染色しておいた。次いで、ミトコンドリアにミトコンドリア送達プロセスを施し、レシピエント細胞に基づいて観察した。結果を
図18Aおよび18Bに示す。
【0087】
図18Aおよび18Bに示すように、緑色蛍光と赤色蛍光はミトコンドリアが送達されたレシピエント細胞の中で合体し、黄色のミトコンドリアパターンを生じた。このことから、ドナー細胞中のミトコンドリアがレシピエント細胞に送達されたことを目視で確認することができた。
【0088】
例6
界面活性剤処理後のミトコンドリア送達率の測定
6.1.界面活性剤処理およびインキュベーション後のWRL-68由来のミトコンドリアの送達率の測定
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を小径チューブに採取した。次いで細胞の上層に、Mitotracker greenで染色した肝細胞株WRL-68由来のミトコンドリアを少量添加した。界面活性剤(PF-68;BASF SE)を組成物中それぞれ0、10、および30mg/mlになるようにチューブに添加し、37℃の温度で0、1、2、および4時間、インキュベーションプロセスを行ない、全部で12種の実験群を構成するようにした。次いで遠心分離プロセスを行ない、例5の方法でWRL-68由来のミトコンドリアをCHO細胞に送達した。これをFACSで解析し、結果をそれぞれ
図19および20に示す。
【0089】
図19および20に示すように、インキュベーションによって外因性ミトコンドリアを導入した場合には、外因性ミトコンドリアの送達率は、インキュベーションを行わない方法(
図12の2番目のヒストグラムの9.1%、
図14の上左のヒストグラムの8.9%)と比較して99%まで改善していることが確認された。
【0090】
6.2.界面活性剤処理およびインキュベーション後のUC-MSC由来のミトコンドリアの送達率の測定
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を小径チューブに採取した。次いで細胞の上層に、Mitotracker greenで染色したドナー細胞、UC-MSCのミトコンドリアを少量添加した。界面活性剤(PF-68;BASF SE)を組成物中それぞれ0mg/ml、10mg/ml、20mg/ml、および30mg/mlになるようにチューブに添加し、37℃で0、1、および2時間、インキュベーションプロセスを行ない、全部で12種の実験群を構成するようにした。遠心分離プロセスを行っていない実験群のミトコンドリア送達率をFACS解析によって測定することにより得られた結果を
図21に示す。
【0091】
一方、UC-MSCのミトコンドリアをCHO細胞に送達するように例5の方法によって遠心分離プロセスを行った実験群のミトコンドリア送達率をFACS解析によって測定することにより得られた結果を
図22に示す。
【0092】
図21に示すように、実験群ではそれぞれの条件で10%未満のミトコンドリア送達率が示された。一方、
図22では、20mg/mlのPF-68を2時間処理する条件下で、90%までまたはそれ以上のミトコンドリア送達率が示された。このことは、遠心分離によるミトコンドリアの送達が、ミトコンドリアが細胞膜を通過することによってレシピエント細胞に送達されるようなものであり得ることを意味している。さらに、上の結果から、界面活性剤、たとえばPF-68による処理が細胞膜の透過性を調整し、それにより、外部から導入されたミトコンドリアが細胞内に入ることができる割合を増大させることが見出された。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 外因性ミトコンドリアをレシピエント細胞に送達する方法であって、
a)前記レシピエント細胞を、ドナー細胞から単離したミトコンドリアと混合する工程、および
b)得られた混合物を遠心分離する工程
を含む方法。
[2] 前記工程a)において、前記ミトコンドリアが前記レシピエント細胞の細胞1×10
5
個あたり0.005~25μgの重量で含まれるように、前記ミトコンドリアおよび前記レシピエント細胞が前記混合物中に存在する、[1]に記載の方法。
[3] 前記工程b)において、前記遠心分離が1~2,400×gで0℃~40℃の温度で0.5~20分間行われる、[1]に記載の方法。
[4] 前記工程b)の前に界面活性剤を添加する工程をさらに含む、[1]に記載の方法。
[5] 前記混合物中の前記界面活性剤が1および100mg/mlの濃度を有する、[4]に記載の方法。
[6] 前記工程b)の前にインキュベーションを行う工程をさらに含む、[1]に記載の方法。
[7] 前記インキュベーションが0℃~40℃の温度で0.1~4時間行われる、[6]に記載の方法。
[8] 前記ドナー細胞および前記レシピエント細胞がそれぞれ、体細胞、幹細胞、がん細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択される何れか1つである、[1]に記載の方法。
[9] 前記体細胞が筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞、骨細胞、白血球、リンパ球、粘膜細胞、およびそれらの組合せからなる群から選択される何れか1つである、[8]に記載の方法。
[10] 前記ドナー細胞が前記レシピエント細胞と同種または異種である、[1]に記載の方法。
[11] 前記ドナー細胞および前記レシピエント細胞が同じ対象からまたは異なった対象から得られたものである、[1]に記載の方法。
[12] [1]~[11]の何れか1つに記載の方法によって外因性ミトコンドリアが送達された細胞。
【配列表】