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特許7187040高ホモシステイン血症およびホモシスチン尿症の患者を処置するための、ヒト酵素介在性のホモシステイン枯渇
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】高ホモシステイン血症およびホモシスチン尿症の患者を処置するための、ヒト酵素介在性のホモシステイン枯渇
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/60 20060101AFI20221205BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 38/51 20060101ALI20221205BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20221205BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20221205BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221205BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20221205BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C12N15/60 ZNA
A61K31/7088
A61K38/51
A61K47/60
A61K47/61
A61K48/00
A61P3/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/88
C12N15/63
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2019562275
(86)(22)【出願日】2018-05-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 US2018032246
(87)【国際公開番号】W WO2018209192
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】62/505,493
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ジョージウー ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ストーン エバレット
(72)【発明者】
【氏名】ル ウェイ-チェン
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-528917(JP,A)
【文献】特表2013-518594(JP,A)
【文献】特表2016-506727(JP,A)
【文献】Yan, Wupeng et al.,Structural Snapshots of an Engineered Cystathionine-γ-lyase Reveal the Critical Role of Electrostatic Interactions in the Active Site,Biochemistry,2017年01月20日,56(6),876-885
【文献】DANG A Q and COOK D E,The transsulfuration pathway in Tetrahymena pyriformis.,Biochim Biophys Acta,1977年,496(2),264-271
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00 - 9/99
15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1および7~10のいずれか1つに記載のネイティブ霊長類シスタチオニン-γ-リアーゼ(CGL)アミノ酸配列に対する少なくとも以下の置換を含む、単離された改変霊長類CGL酵素であって、
前記改変酵素は、ホモシスチナーゼ活性とホモシステイナーゼ活性の両方を有し、前記改変酵素は、ネイティブ霊長類CGLアミノ酸配列と少なくとも95%同一である配列を含み、前記置換は、59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるアスパラギン酸、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリンを含む、
酵素。
【請求項2】
前記改変CGL酵素が改変ヒトCGL酵素であり、前記改変酵素が、配列番号1と少なくとも95%同一である配列を含み、前記改変ヒトCGL酵素が、配列番号1に記載のネイティブヒトCGLアミノ酸配列に対して、E59I、S63L、L91M、R119D、K268R、T311G、E339V、およびI353Sである置換を含む、請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
前記改変ヒトCGL酵素が、配列番号37に記載の配列を有する、請求項2に記載の酵素。
【請求項4】
野生型ヒトCGL酵素よりも大きい、ホモシステインの加水分解についてのkcat/Kを示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項5】
pH7.3および37℃において11.9s-1mM-1 、ホモシステインの加水分解についてのkcat/Kを示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項6】
pH7.3および37℃において18.8s-1mM-1 、ホモシスチンの加水分解についてのkcat/Kを示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項7】
pH7.3および37℃において11.9s-1mM-1 、ホモシステインの加水分解についてのkcat/Kを示し、かつpH7.3および37℃において18.8s-1mM-1 、ホモシスチンの加水分解についてのkcat/Kを示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項8】
異種ペプチドセグメントまたは多糖をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項9】
前記異種ペプチドセグメントが、XTENポリペプチド、IgG Fc、アルブミン、またはアルブミン結合ペプチドである、請求項8に記載の酵素。
【請求項10】
前記多糖が、ポリシアル酸ポリマーを含む、請求項8に記載の酵素。
【請求項11】
少なくとも1つのポリエチレングリコール(PEG)と結合している、請求項1~10のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項12】
1つまたは複数のリシン残基を介して、前記少なくとも1つのPEGと結合している、請求項11に記載の酵素。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか一項に記載の酵素をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸。
【請求項14】
細菌、真菌、昆虫、または哺乳動物における発現のために最適化されたコドンである、請求項13に記載の核酸。
【請求項15】
前記細菌が、大腸菌(E.coli)である、請求項14に記載の核酸。
【請求項16】
配列番号64~66のうちの1つを含む、請求項15に記載の核酸。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか一項に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項18】
請求項13~16のいずれか一項に記載の核酸を含む、宿主細胞。
【請求項19】
細菌細胞、真菌細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞である、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか一項に記載の酵素または請求項13若しくは14に記載の核酸を、医薬的に許容される担体中に含む、医薬製剤。
【請求項21】
対象におけるホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の処置または予防に使用するための、請求項20に記載の製剤を含む、組成物。
【請求項22】
前記対象が、メチオニン制限食で維持される、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が、静脈内、動脈内、腹腔内、病変内、関節内、前立腺内、胸膜内、気管内、硝子体内、筋肉内、小胞内、臍帯内、注射による、注入による、持続注入による、標的細胞の直接的な局所灌流浴による、またはカテーテルを介する投与用に製剤化されている、請求項21または22に記載の組成物。
【請求項24】
前記対象が、ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症について以前に処置されており、前記酵素の使用が、ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の再発を防ぐためである、請求項21~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
少なくとも第2のホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の治療と組み合わせて用いられることを特徴とする、請求項21~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記第2のホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の治療が、高用量ビタミンB6またはベタイン(N,N,N-トリメチルグリシン)治療である、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の処置または予防のための医薬の製造における、請求項1~12のいずれか一項に記載の酵素または請求項13若しくは14に記載の核酸の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2017年5月12日に出願された米国仮出願番号第62/505,493号の優先権の利益を請求し、その内容全体が、本明細書に参考として組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する記載
本発明は、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)による報償を受けたGrant No.R01 CA139059に基づく政府の援助によりなされた。政府は、本発明に特定の権利を有する。
【0003】
配列表の参照
本出願は、配列表を含み、配列表は、EFS-Webを介してASCIIフォーマットで提出され、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。このASCIIコピーは、2018年4月24日に作成され、名称はUTFBP1138WO_ST25.txtであり、大きさは230キロバイトである。
【0004】
1.分野
ヒトの治療に使用するのに適したホモシステイン分解活性および安定性を有する、組換え操作された霊長類酵素バリアントが開示される。ホモシステインおよびホモシスチンを分解する酵素を用いるホモシスチン尿症および高ホモシステイン血症の処置のための組成物および方法も提供される。
【背景技術】
【0005】
2.関連技術の説明
ホモシスチン尿症は、硫黄アミノ酸が関与する代謝の先天性異常から起こる、まれな疾患である。古典的ホモシスチン尿症は、最も一般的な形態であり、シスタチオニンβ-シンターゼ(CBS)酵素における欠陥によって生じる(Muddet al.、1964)が、一方、非古典的ホモシスチン尿症は、一般的に、葉酸代謝に関与する種々の酵素における欠陥を伴う(例えば、MTHFR、MTRRまたはMTR)(Kanget al.、1987)。ホモシスチン尿症の患者は、多くは、血栓塞栓症、認知障害、骨粗鬆症および水晶体脱臼を示す(Krugeret al.、2003)。患者は、高ホモシステイン血症も患っており、高ホモシステイン血症は、血清ホモシステイン(Hcy)濃度が15μMを超える状態である。古典的ホモシスチン尿症の患者および数は少ないが非古典的形態の患者は、多くは、枯渇したシスタチオニン(Cth)濃度およびシステイン(Cys)濃度を有しつつ、高濃度の血清メチオニン(Met)を示す(Krugeret al.、2003)。世界中で、344,000人に1人が影響を受けていると概算されているが、その有病率は、いくつかの国で顕著に高い。古典的ホモシスチン尿症と関連する最も一般的な医学的状態は、血栓のリスクが高いことを含む、心血管の合併症である。他の症状としては、骨格異常、目の水晶体脱臼、および発達および学習の欠陥が挙げられる。
【0006】
古典的ホモシスチン尿症の現在利用可能な処置としては、メチオニン制限食、並びに高用量のビタミンB6およびベタイン(N,N,N-トリメチルグリシン)が挙げられ、後者は、ホモシステイン濃度を下げる。これらの処置は、Hcyの蓄積を防ぐことに焦点があてられており、中程度の効能から、制限された効能を示す(Walteret al.、1998)。これらの処置は、一部の患者には効果的であろうが、この疾患を引き起こす遺伝子変異におけるバリエーションに起因して、応答が顕著に変動する。その結果、血中ホモシスチン濃度を通常範囲まで下げることによって全ての患者の必要性に対処する治療を開発する機会が存在する。したがって、これらの患者を処置するための新しい方法および組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
概要
ホモシスチン(ホモシステイン)を効率的に分解する、操作されたヒトシスタチオニン-γ-リアーゼ(CGL)酵素を利用する方法が開示され、その結果、これは、過剰な血清ホモシスチン(ホモシステイン)を分解し、かつ細胞内ホモシスチン(ホモシステイン)のための吸込系(sink)を提供することによって、ホモシスチン尿症および高ホモシステイン血症の患者を処置するための適切な治療である。この方法は、血清ホモシステイン濃度(tHcy)を25μM未満のレベルまで下げ得る。
【0008】
改変CGL酵素、遺伝子治療ベクター中で改変CGL酵素をコードする核酸、または改変CGL酵素を含む製剤を投与することを含む処置方法、特に、ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の対象を処置する方法が提供される。対象は、任意の動物であってよく、例えば、マウスであってよい。例えば、対象は、哺乳動物、げっ歯類、霊長類またはヒト患者であってもよい。この方法は、ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の患者を選択することを含んでいてもよい。対象または患者は、ここに記載する組成物で処置するのと組み合わせて、メチオニン制限食または通常食で維持されてもよい。
【0009】
本明細書では、処置方法における使用のための、ホモシスチン(ホモシステイン)に対する触媒活性を有するヒトシスタチオニン-γ-リアーゼ(hCGL)変異体が提供される。例えば、酵素バリアントは、配列番号2~6および37~39からなる群から選択されるアミノ酸配列を有していてもよい。特に、バリアントは、ヒト酵素、例えば、ヒトシスタチオニン-γ-リアーゼ(CGL)に由来していてもよい。ホモシスチン(ホモシステイン)を分解することができる改変ヒトCGLを含むポリペプチドが提供される。ポリペプチドは、生理学的条件下でホモシスチン(ホモシステイン)を分解することが可能であってもよい。例えば、ポリペプチドは、最大で100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001mM-1-1、またはこれらの中の導出可能な任意の範囲のkcat/Kで、L-ホモシスチンに対する触媒活性を示してもよい。
【0010】
これらの酵素は、ヒト酵素シスタチオニン-γ-リアーゼ(CGL)にアミノ酸置換を導入することによって操作された。アミノ酸置換を有するバリアントとしては、配列番号2、hCGL-E59N-R119L-E339V(hCGL-NLV);配列番号3、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-E339V-I353S(hCGL-8mut-1);配列番号4、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-E339V-I353S(hCGL-8mut-2);配列番号5、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-E339V-I353S(hCGL-8mut-3);配列番号6、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-E339V-I353S(hCGL-8mut-4);配列番号27、hCGL-E59N-R119L-T336D-E339V(hCGL-NLDV);配列番号28、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-T336D-E339V-I353S(hCGL-9mutD-1);配列番号29、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-T336D-E339V-I353S(hCGL-9mutD-2);配列番号30、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-T336D-E339V-I353S(hCGL-9mutD-3);配列番号31、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-T336D-E339V-I353S(hCGL-9mutD-4);配列番号32、hCGL-E59N-R119L-T336E-E339V(hCGL-NLEV);配列番号33、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-T336E-E339V-I353S(hCGL-9mutE-1);配列番号34、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-T336E-E339V-I353S(hCGL-9mutE-2);配列番号35、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-T336E-E339V-I353S(hCGL-9mutE-3);配列番号36、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-T336E-E339V-I353S(hCGL-9mutE-4);配列番号37、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119D-K268R-T311G-E339V-I353S(変異体3);配列番号38、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119H-K268R-T311G-E339V-I353S(変異体4);および配列番号39、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119G-K268R-T311G-E339V-I353S(変異体5)が挙げられる。
【0011】
本明細書に記載される改変CGL酵素は、未改変CGL酵素(例えば、ネイティブCGL酵素)と比較して、特定の同一性率を有するものとして特徴付けられてもよい。例えば、未改変CGL酵素は、ネイティブ霊長類シスタチオナーゼ(すなわち、シスタチオニン-γ-リアーゼ)であってもよい。同一性率は、改変CGL酵素の未改変部分(すなわち、配列番号1のアミノ酸59、63、91、119、268、311、336、339および/または353位および配列番号7~10におけるその同族位置の任意の置換を除く、改変CGL酵素の配列、図6を参照)と、ネイティブCGL酵素との間で、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%(またはこれらの中の導出可能な任意の範囲)であってもよい。上述の同一性率は、ある酵素の特定の改変領域に関連して、対応するネイティブ酵素の未改変領域と比較したものであってもよいことも想定される。例えば、改変CGL酵素は、改変されているか、または変異体の基質認識部位について、同じ種由来であるか、または種を越える未改変またはネイティブCGL酵素の基質認識部位に対するアミノ酸配列の同一性に基づいて特徴付けられ得る、改変されているか、または変異体の基質認識部位を含んでいてもよい。例えば、未改変ヒトCGL酵素に対して少なくとも90%の同一性を有すると特徴付けられた改変ヒトCGL酵素は、改変ヒトCGL酵素中のアミノ酸の少なくとも90%が、未改変ヒトCGL酵素中のアミノ酸と同一であることを意味している。
【0012】
未改変CGL酵素は、ネイティブCGL酵素、特に、ヒトアイソフォームまたは他の霊長類アイソフォームであってもよい。例えば、ネイティブヒトCGL酵素は、配列番号1の配列を有していてもよい。他のネイティブ霊長類CGL酵素の非限定例としては、スマトラオランウータン(Pongo abelii)CGL(Genbank ID:NP_001124635.1;配列番号7)、カニクイザル(Macaca fascicularis)CGL(Genbank ID:AAW71993.1;配列番号8)、チンパンジー(Pan troglodytes)CGL(Genbank ID:XP_513486.2;配列番号9)、およびボノボ(Pan paniscus)CGL(Genbank ID:XP_003830652.1;配列番号10)が挙げられる。例示的なネイティブCGL酵素としては、配列番号1または7~10の少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%(またはこれらの中の導出可能な任意の範囲)の同一性を有する配列が挙げられる。
【0013】
ネイティブCGLは、例えば、化学修飾、置換、挿入、欠失および/または切断などの1つまたは複数の他の改変によって改変されていてもよい。改変は、ネイティブ酵素の基質認識部位でされていてもよい。ネイティブCGLは、置換によって改変されていてもよい。例えば、置換の数は、4箇所、5箇所、6箇所、7箇所、またはそれより多くてもよい。ネイティブCGLは、基質認識部位で、または基質特異性に影響を与え得る任意の場所で改変されていてもよい。改変ポリペプチドは、配列番号1のE59、S63、L91、R119、K268、T311、T336、E339および/またはI353に対応するアミノ酸位置、または霊長類CGLの59、63、91、119、268、311、336、339および/または353のアミノ酸位置に、少なくとも1つのアミノ酸置換を有していてもよい。例えば、霊長類は、ヒト、スマトラオランウータン、カニクイザル、チンパンジー、またはボノボであってもよい。例えば、配列番号7に対しては、配列番号1のE59の等価な置換は、配列番号1のようなグルタミン酸ではなく、バリンを改変する。配列番号7における別の想定される置換は、V353の置換であり、これは、図6に示されるように、配列番号1の等価な位置ではイソロイシンである。
【0014】
改変CGL酵素中の置換は、アミノ酸59、63、91、119、268、311、339および/または353位で行われてもよく、アスパラギン酸(N)、バリン(V)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アルギニン(R)、グリシン(G)、アラニン(A)またはセリン(S)であってもよい。改変は、E/V59N、E59I、S63L、L91M、R119L、R119A、R119D、R119H、R119G、K268R、T311G、T336D、T336E、E339VおよびI/V353Sからなる群から選択される1つまたは複数の置換であってもよい。置換は、S63L、L91M、K268R、T311G、E339VおよびI/V353S置換を含んでいてもよい。置換は、E/V59NまたはE/V59Iのいずれか、R119L、R119A、R119D、R119HおよびR119Gのうちいずれか1つ、および/またはT336DまたはT336Eのいずれかの、さらなる置換を含んでいてもよい。
【0015】
置換は、ヒトCGLのE59N、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、I353SおよびE339Vの組み合わせ(例えば、配列番号3のアミノ酸配列を有する改変ポリペプチド、そのフラグメントまたはホモログ)、ヒトCGLのE59I、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、E339VおよびI353Sの組み合わせ(例えば、配列番号4のアミノ酸配列を有する改変ポリペプチド、そのフラグメントまたはホモログ)、ヒトCGLのE59N、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、E339VおよびI353Sの組み合わせ(例えば、配列番号5のアミノ酸配列を有する改変ポリペプチド、そのフラグメントまたはホモログ)、ヒトCGLのE59I、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、E339VおよびI353Sの組み合わせ(例えば、配列番号6のアミノ酸配列を有する改変ポリペプチド、そのフラグメントまたはホモログ)、E59I、S63L、L91M、R119D、K268R、T311G、E339VおよびI353Sの組み合わせ(例えば、配列番号37のアミノ酸配列を有する改変ポリペプチド、そのフラグメントまたはホモログ)、E59I、S63L、L91M、R119H、K268R、T311G、E339VおよびI353Sの組み合わせ(例えば、配列番号38のアミノ酸配列を有する改変ポリペプチド、そのフラグメントまたはホモログ)、E59I、S63L、L91M、R119G、K268R、T311G、E339VおよびI353Sの組み合わせ(例えば、配列番号39のアミノ酸配列を有する改変ポリペプチド、そのフラグメントまたはホモログ)、またはT336DまたはT336Eのいずれかと組み合わせた、配列番号2~6および37~39のこれらの改変のいずれかであってもよい。改変CGL酵素は、スマトラオランウータンCGL-NLMLRGVS変異体(配列番号11)、スマトラオランウータンCGL-ILMLRGVS変異体(配列番号12)、スマトラオランウータンCGL-NLMARGVS変異体(配列番号13)、スマトラオランウータンCGL-ILMARGVS変異体(配列番号14)、スマトラオランウータンCGL-ILMDRGVS変異体(配列番号40)、スマトラオランウータンCGL-ILMHRGVS変異体(配列番号41)、スマトラオランウータンCGL-ILMGRGVS変異体(配列番号42)、スマトラオランウータンCGL-NLMDRGVS変異体(配列番号52)、スマトラオランウータンCGL-NLMHRGVS変異体(配列番号53)、スマトラオランウータンCGL-NLMGRGVS変異体(配列番号54)、カニクイザルCGL-NLMLRGVS変異体(配列番号15)、カニクイザルCGL-ILMLRGVS変異体(配列番号16)、カニクイザルCGL-NLMARGVS変異体(配列番号17)、カニクイザルCGL-ILMARGVS変異体(配列番号18)、カニクイザルCGL-ILMDRGVS変異体(配列番号43)、カニクイザルCGL-ILMHRGVS変異体(配列番号44)、カニクイザルCGL-ILMGRGVS変異体(配列番号45)、カニクイザルCGL-NLMDRGVS変異体(配列番号55)、カニクイザルCGL-NLMHRGVS変異体(配列番号56)、カニクイザルCGL-NLMGRGVS変異体(配列番号57)、チンパンジーCGL-NLMLRGVS変異体(配列番号19)、チンパンジーCGL-ILMLRGVS変異体(配列番号20)、チンパンジーCGL-NLMARGVS変異体(配列番号21)、チンパンジーCGL-ILMARGVS変異体(配列番号22)、チンパンジーCGL-ILMDRGVS変異体(配列番号46)、チンパンジーCGL-ILMHRGVS変異体(配列番号47)、チンパンジーCGL-ILMGRGVS変異体(配列番号48)、チンパンジーCGL-NLMDRGVS変異体(配列番号58)、チンパンジーCGL-NLMHRGVS変異体(配列番号59)、チンパンジーCGL-NLMGRGVS変異体(配列番号60)、ボノボCGL-NLMLRGVS変異体(配列番号23)、ボノボCGL-ILMLRGVS変異体(配列番号24)、ボノボCGL-NLMARGVS変異体(配列番号25)、ボノボCGL-ILMARGVS変異体(配列番号26)、ボノボCGL-ILMDRGVS変異体(配列番号49)、ボノボCGL-ILMHRGVS変異体(配列番号50)、またはボノボCGL-ILMGRGVS変異体(配列番号51)、ボノボCGL-NLMDRGVS変異体(配列番号61)、ボノボCGL-NLMHRGVS変異体(配列番号62)、またはボノボCGL-NLMGRGVS変異体(配列番号63)であってもよい。
【0016】
改変CGL酵素は、異種アミノ酸配列に連結していてもよい。例えば、改変CGL酵素は、融合タンパク質として異種アミノ酸配列に連結していてもよい。改変CGL酵素は、インビボでの半減期を増加させるために、アミノ酸配列、例えば、IgG Fc、アルブミン、アルブミン結合ペプチド、時間延長ポリシアル酸(polysialic acid time extension)、またはXTENポリペプチドに連結していてもよい。
【0017】
血清安定性を増加させるために、改変CGL酵素は、1つまたは複数のポリエーテル分子に連結していてもよい。ポリエーテルは、ポリエチレングリコール(PEG)であってもよい。改変CGL酵素は、特定のアミノ酸残基、例えば、リシンまたはシステインを介してPEGに連結していてもよい。治療のための投与について、改変CGL酵素を含むこのようなポリペプチドは、医薬的に許容される担体に分散されてもよい。
【0018】
改変CGL酵素をコードする核酸が想定される。核酸は、細菌、例えば、大腸菌(E.coli)での発現に最適化されたコドンであってもよい。大腸菌において配列番号37~39で与えられる改変CGL酵素の発現に最適化されたコドンである核酸は、それぞれ、配列番号64~66で与えられる。配列番号64~66で与えられる配列は、N末端6x-ヒスチジンタグをコードする。このように、配列番号64~66によってコードされる12番目とそれ以降のアミノ酸は、それぞれ、配列番号37~39の2番目とそれ以降のアミノ酸に対応する。または、核酸は、真菌(例えば酵母)、昆虫、または哺乳動物における発現に最適化されたコドンであってもよい。さらに想定されるのは、このような核酸を含むベクター(例えば発現ベクター)である。改変CGL酵素をコードする核酸は、プロモーター(限定されないが、異種プロモーターを含む)に作動可能に連結していてもよい。改変CGL酵素は、ベクター(例えば、遺伝子治療ベクター)によって標的細胞に送達されてもよい。このようなベクターは、標的細胞内で改変CGLをコードする核酸の発現を可能にするように、組換えDNA技術によって既に改変されていてもよい。これらのベクターは、非ウイルス(例えば、プラスミド)またはウイルス(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルスまたはワクチニアウイルス)起源のベクターに由来していてもよい。非ウイルスベクターは、細胞膜を通るDNAの導入を容易にする薬剤と複合体化されていてもよい。このような非ウイルスベクター複合体の例としては、ポリカチオン性薬剤を含む製剤が挙げられ、ポリカチオン性薬剤を含む製剤は、DNAの縮合と脂質系の送達システムを容易にする。脂質系の送達システムとしては、リポソーム系の核酸送達が挙げられる。
【0019】
このようなベクターを含む宿主細胞が提供される。宿主細胞は、細菌(例えば、大腸菌)、真菌細胞(例えば、酵母)、昆虫細胞、または哺乳動物細胞であってもよい。
【0020】
改変CGL酵素を発現させるために、宿主細胞にベクターを導入してもよい。タンパク質は、任意の適切な様式で発現されてもよい。タンパク質は、タンパク質がグリコシル化されるように、宿主細胞中で発現されてもよい。または、タンパク質は、タンパク質が脱グリコシル化されるように、宿主細胞中で発現されてもよい。
【0021】
改変CGL酵素を含有する治療製剤は、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、筋肉内に、皮下に、注入によって、持続注入によって、カテーテルを介して、脂質組成物(例えば、リポソーム)で、投与されてもよい。対象は、ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症について以前に処置されていてもよい。ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の再発を処置または軽減するために酵素が投与される。本明細書に記載する化合物または組成物を投与すると、ホモシスチン尿症および高ホモシステイン血症に関連する1つまたは複数の状態および/または症状を軽減することができる。ホモシスチン尿症の既知の症状としては、目の水晶体脱臼、近視、異常な血栓、骨粗鬆症、学習障害、発達に関する問題、胸部奇形、脊柱側彎、巨赤芽球性貧血および発作が挙げられる。高ホモシステイン血症の既知の症状としては、血栓、血管内壁の損傷、認知症(例えば、アルツハイマー病)および骨折が挙げられる。
【0022】
この方法は、少なくとも第2の治療、例えば、第2のホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の治療を対象に施すことを含んでいてもよい。第2のホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の治療は、高用量ビタミンB6またはベタイン(N,N,N-トリメチルグリシン)治療であってもよい。
【0023】
対象におけるホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の処置における使用のために、改変CGL酵素または改変CGL酵素をコードする核酸を含む組成物が提供される。ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の処置のための医薬の製造における、改変CGL酵素または改変CGL酵素をコードする核酸の使用が提供される。改変CGL酵素は、本明細書で開示される任意の改変CGL酵素であってもよい。
【0024】
本明細書には、以下のものも提供される。
1. ネイティブヒトシスタチオニン-γ-リアーゼ(CGL)アミノ酸配列(配列番号1)に対する少なくとも以下の置換を含む、単離された改変霊長類CGL酵素であって、
前記改変酵素は、ホモシスチナーゼ活性とホモシステイナーゼ活性の両方を有し、前記置換は、
(a)59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるアスパラギン酸、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(b)59位におけるアスパラギン、119位におけるロイシン、336位におけるアスパラギン酸、および339位におけるバリン;
(c)59位におけるアスパラギン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるロイシン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、336位におけるアスパラギン酸、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(d)59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるロイシン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、336位におけるアスパラギン酸、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(e)59位におけるアスパラギン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるアラニン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、336位におけるアスパラギン酸、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(f)59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるアラニン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、336位におけるアスパラギン酸、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(g)59位におけるアスパラギン、119位におけるロイシン、336位におけるグルタミン酸、および339位におけるバリン;
(h)59位におけるアスパラギン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるロイシン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、336位におけるグルタミン酸、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(i)59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるロイシン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、336位におけるグルタミン酸、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(j)59位におけるアスパラギン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるロイシン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、336位におけるグルタミン酸、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(i)59位におけるアスパラギン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるアラニン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、336位におけるグルタミン酸、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(k)59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるアラニン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、336位におけるグルタミン酸、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(l)59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるヒスチジン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;並びに
(m)59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるグリシン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリン
からなる群から選択される、
酵素。
2. 前記置換が、59位におけるアスパラギン、119位におけるロイシン、336位におけるアスパラギン酸、および339位におけるバリンを含む、請求項1に記載の酵素。
3. 前記置換が、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、および353位におけるセリンをさらに含む、請求項2に記載の酵素。
4. 前記置換が、59位におけるアスパラギン、119位におけるロイシン、336位におけるグルタミン酸、および339位におけるバリンを含む、請求項1に記載の酵素。
5. 前記置換が、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、および353位におけるセリンをさらに含む、請求項4に記載の酵素。
6. 前記置換が、59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるアスパラギン酸、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリンを含む、請求項1に記載の酵素。
7. 前記置換が、59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるヒスチジン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリンを含む、請求項1に記載の酵素。
8. 前記置換が、59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるグリシン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリンを含む、請求項1に記載の酵素。
9. 前記改変CGL酵素が、改変スマトラオランウータン(Pongo abelii)CGL酵素である、請求項1に記載の酵素。
10. 前記改変スマトラオランウータンCGL酵素が、
(a)V59I、S63L、L91M、R119D、K268R、T311G、E339V、およびV353S;
(b)V59N、R119L、T336D、およびE339V;
(c)V59N、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、T336D、E339V、およびV353S;
(d)V59I、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、T336D、E339V、およびV353S;
(e)V59N、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、T336D、E339V、およびV353S;
(f)V59I、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、T336D、E339V、およびV353S;
(g)V59N、R119L、T336E、およびE339V;
(h)V59N、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、T336E、E339V、およびV353S;
(i)V59I、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、T336E、E339V、およびV353S;
(j)V59N、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、T336E、E339V、およびV353S;
(k)V59I、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、T336E、E339V、およびV353S;
(l)V59I、S63L、L91M、R119H、K268R、T311G、E339V、およびV353S;並びに
(m)V59I、S63L、L91M、R119G、K268R、T311G、E339V、およびV353S
からなる群から選択される置換を含む、請求項9に記載の酵素。
11. 前記改変CGL酵素が、改変ヒトCGL酵素、改変カニクイザル(Macaca fascicularis)CGL酵素、改変チンパンジー(Pan troglodytes)CGL酵素、または改変ボノボ(Pan paniscus)CGL酵素である、請求項1に記載の酵素。
12. 前記改変ヒトCGL酵素、前記改変カニクイザルCGL酵素、前記改変チンパンジーCGL酵素、または前記改変ボノボCGL酵素が、
(a)E59I、S63L、L91M、R119D、K268R、T311G、E339V、およびI353S;
(b)E59N、R119L、T336D、およびE339V;
(c)E59N、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、T336D、E339V、およびI353S;
(d)E59I、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、T336D、E339V、およびI353S;
(e)E59N、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、T336D、E339V、およびI353S;
(f)E59I、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、T336D、E339V、およびI353S;
(g)E59N、R119L、T336E、およびE339V;
(h)E59N、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、T336E、E339V、およびI353S;
(i)E59I、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、T336E、E339V、およびI353S;
(j)E59N、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、T336E、E339V、およびI353S;
(k)E59I、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、T336E、E339V、およびI353S;
(l)E59I、S63L、L91M、R119H、K268R、T311G、E339V、およびI353S;並びに
(m)E59I、S63L、L91M、R119G、K268R、T311G、E339V、およびI353S
からなる群から選択される置換を含む、請求項11に記載の酵素。
13. 異種ペプチドセグメントまたは多糖をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の酵素。
14. 前記異種ペプチドセグメントが、XTENポリペプチド、IgG Fc、アルブミン、またはアルブミン結合ペプチドである、請求項13に記載の酵素。
15. 前記多糖が、ポリシアル酸ポリマーを含む、請求項13に記載の酵素。
16. ポリエチレングリコール(PEG)と結合している、請求項1~15のいずれか一項に記載の酵素。
17. 1つまたは複数のリシン残基を介してPEGと結合している、請求項16に記載の酵素。
18. 請求項1~14のいずれか一項に記載の酵素をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸。
19. 細菌、真菌、昆虫、または哺乳動物における発現のために最適化されたコドンである、請求項18に記載の核酸。
20. 前記細菌が、大腸菌(E.coli)である、請求項19に記載の核酸。
21. 配列番号64~66のうちの1つを含む、請求項20に記載の核酸。
22. 請求項18または19に記載の核酸を含む、発現ベクター。
23. 請求項18または19に記載の核酸を含む、宿主細胞。
24. 細菌細胞、真菌細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞である、請求項23に記載の宿主細胞。
25. 請求項1~17のいずれか一項に記載の酵素または請求項18若しくは19に記載の核酸を、医薬的に許容される担体中に含む、治療製剤。
26. ホモシスチン尿症若しくは高ホモシステイン血症を有するか、またはその発症リスクがある対象を処置する方法であって、前記対象に、請求項25に記載の製剤の治療上有効な量を投与することを含む、方法。
27. ホモシスチン尿症若しくは高ホモシステイン血症を有するか、またはその発症リスクがある対象を処置する方法であって、前記方法が、
前記対象に、請求項25に記載の製剤の治療上有効な量、またはネイティブヒトシスタチオニン-γ-リアーゼ(CGL)アミノ酸配列(配列番号1)に対する置換を有する単離された改変霊長類CGL酵素若しくは前記改変酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む製剤の治療上有効な量を投与すること
を含み、前記置換が、
(a)59位におけるアスパラギン、119位におけるロイシン、および339位におけるバリン;
(b)59位におけるバリン、119位におけるロイシン、および339位におけるバリン;
(c)59位におけるアスパラギン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるロイシン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(d)59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるロイシン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;
(e)59位におけるアスパラギン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるアラニン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリン;並びに
(f)59位におけるイソロイシン、63位におけるロイシン、91位におけるメチオニン、119位におけるアラニン、268位におけるアルギニン、311位におけるグリシン、339位におけるバリン、および353位におけるセリン
からなる群から選択される、
方法。
28. 前記改変CGL酵素が、改変スマトラオランウータンCGL酵素である、請求項27に記載の方法。
29. 前記改変スマトラオランウータンCGL酵素が、
(a)V59N、R119L、およびE339V;
(b)R119LおよびE339V;
(c)V59N、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、E339V、およびV353S;
(d)V59I、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、E339V、およびV353S;
(e)V59N、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、E339V、およびV353S;並びに
(f)V59I、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、E339V、およびV353S
からなる群から選択される置換を含む、請求項28に記載の方法。
30. 前記改変CGL酵素が、改変ヒトCGL酵素、改変カニクイザルCGL酵素、改変チンパンジーCGL酵素、または改変ボノボCGL酵素である、請求項27に記載の方法。
31. 前記改変ヒトCGL酵素、前記改変カニクイザルCGL酵素、前記改変チンパンジーCGL酵素、または前記改変ボノボCGL酵素が、
(a)E59N、R119L、およびE339V;
(b)E59V、R119L、およびE339V;
(c)E59N、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、E339V、およびI353S;
(d)E59I、S63L、L91M、R119L、K268R、T311G、E339V、およびI353S;
(e)E59N、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、E339V、およびI353S;並びに
(f)E59I、S63L、L91M、R119A、K268R、T311G、E339V、およびI353S
からなる群から選択される置換を含む、請求項30に記載の方法。
32. 前記酵素が、異種ペプチドセグメントをさらに含む、請求項27~31のいずれか一項に記載の方法。
33. 前記異種ペプチドセグメントが、XTENポリペプチド、IgG Fc、アルブミン、アルブミン結合ペプチド、または時間延長ポリシアル酸(polysialic acid time extension)である、請求項32に記載の方法。
34. 前記酵素が、ポリエチレングリコール(PEG)と結合している、請求項27~31のいずれか一項に記載の方法。
35. 前記酵素が、1つまたは複数のリシン残基またはシステイン残基を介してPEGと結合している、請求項34に記載の方法。
36. 前記対象が、メチオニン制限食で維持される、請求項27に記載の方法。
37. 前記対象が、通常食で維持される、請求項27に記載の方法。
38. 前記対象がヒト患者である、請求項27に記載の方法。
39. 前記製剤が、静脈内に、動脈内に、腹腔内に、病変内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、硝子体内に、筋肉内に、小胞内に、臍帯内に、注射によって、注入によって、持続注入によって、標的細胞の直接的な局所灌流浴によって、またはカテーテルを介して、投与される、請求項27に記載の方法。
40. 前記対象が、ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症について以前に処置されており、前記酵素が、ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の再発を防ぐために投与される、請求項27に記載の方法。
41. 少なくとも第2のホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の治療を前記対象に施すことをさらに含む、請求項27に記載の方法。
42. 前記第2のホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の治療が、高用量ビタミンB6またはベタイン(N,N,N-トリメチルグリシン)治療である、請求項41に記載の方法。
43. ホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症を有する対象の処置における医薬としての使用のための、請求項25に記載の治療製剤。
44. 対象におけるホモシスチン尿症または高ホモシステイン血症の処置における使用のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の酵素。
【0025】
本明細書で使用される場合、核酸に言及しつつ「コードする(encode)」または「コードする(encoding)」との用語は、本発明を当業者によってたやすく理解可能なものにするために用いられるが、これらの用語は、それぞれ「含む(comprise)」または「含む(comprising)」と相互に交換可能に使用されてもよい。
【0026】
本明細書で使用される場合、特定の構成要素に関して「本質的に含まない」は、特定の構成要素が、組成物に意図的に配合されていないか、および/または混入物質として、または微量のみが存在することを意味するために本明細書で使用される。したがって、ある組成物の意図しない混入から生じる特定の構成要素の合計量は、0.05%より十分に低く、好ましくは、0.01%より低い。最も好ましいのは、特定の構成要素の量が標準的な分析方法を用いて分析不可能である組成物である。
【0027】
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1つまたは複数を意味していてもよい。特許請求の範囲で使用される場合、「~を含む」との用語と組み合わせて使用される場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」といった用語は、1つ、または1つより多くを意味していてもよい。
【0028】
特許請求の範囲における用語「または」の使用は、代替物のみ、または代替物が相互に排他的であることを指すように明白に示されていない限り、「および/または」を意味するために用いられるが、本開示は、代替物のみ、および「および/または」を指す定義を支持する。本明細書で使用される場合、「別の」は、少なくとも第2の、またはより多くを意味していてもよい。
【0029】
ここで使用される場合、「約」との用語は、当業者によって理解され、使用される内容に対して、ある程度まで変動し得る。一般的に、約は、参照される値のプラス/マイナス10%である値の範囲を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
以下の図面は、本明細書の一部を形成するものであり、記載される方法、化合物および組成物をさらに例示するために含まれる。
【0031】
図1】改変CGLのインビボでの評価。酵素を、50mg/kg(腹腔内)で1回投薬した。変異体1は、hCGL-NLV(配列番号2)に対応し、変異体2は、hCGL-8mut-4(配列番号6)に対応する。血清を、注射前と、注射後24時間毎に1週間にわたって採取した。
図2】複数回投薬の薬力学。酵素(hCGL-8mut-4;配列番号6)を、5日毎に50mg/kg(腹腔内)で投薬した。血清を、それぞれの注射前と、注射から24時間後に採取した。
図3】改変CGLのインビボでの治療効果。酵素(hCGL-8mut-4;配列番号6)を、誕生から10日後に開始し、週に2回注射した。上の線は、改変CGLを表す。下の線は、不活性な酵素を表す。
図4】変異体3のインビボでの評価。酵素(変異体3;配列番号37)を、50mg/kg(腹腔内)で1回投薬した。血清を、注射前と、注射後24時間毎に1週間にわたって採取した。上の線は、不活化酵素を表す。下の線は、変異体3(配列番号37)を表す。
図5】変異体3のインビボでの治療効果。酵素(変異体3;配列番号37)を、誕生から10日後に開始し、週に2回注射した。
図6-1】配列番号1および7~10の配列アラインメント。アスタリスクは、種々の改変CGL酵素における操作位置を示す。
図6-2】配列番号1および7~10の配列アラインメント。アスタリスクは、種々の改変CGL酵素における操作位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
ホモシスチン尿症および高ホモシステイン血症などの疾患を処置するためにホモシステインおよびホモシスチンを分解する改変された治療用酵素を用いる方法が提供される。治療用酵素には、hCGL-NLV変異体(E59N、R119L、E339V)と、該hCGL-NLV変異体と比較して改良されたホモシスチナーゼ(ホモシステイナーゼ)活性を有する、組換え操作されたヒトシスタチオニン-γ-リアーゼ(hCGL)酵素とが含まれる。より高い触媒活性を示す変異体は、患者に投薬する治療薬剤の必要な濃度がより低い。
【0033】
I.定義
本明細書で使用される場合、「酵素」および「タンパク質」および「ポリペプチド」との用語は、ペプチド結合を介して接続するアミノ酸を含む化合物を指し、相互に交換可能に用いられる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「融合タンパク質」との用語は、ネイティブとは異なる様式で作動可能に連結するタンパク質またはタンパク質フラグメントを含有するキメラタンパク質を指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「半減期」(1/2寿命)は、例えば、哺乳動物に注射した後に、インビトロで(例えば、細胞培地中で測定される場合)またはインビボで(例えば、血清中で測定される場合)、ポリペプチド濃度が半分まで低下するのに必要となる時間を指す。「半減期」を測定するための方法は、タンパク質の物理的な量が時間の関数として測定されるような、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)フォーマットで使用されるCGLまたはPEGに特異的な抗体の使用を含む。半減期を測定するのに適した他の方法としては、ホモシスチン(ホモシステイン)から、α-ケトブチレート、メタンチオールおよび/またはアンモニアなどの生成物への変換によって得られる任意の基質の生成を検出する任意のアッセイによって、時間の関数としての酵素薬物の触媒活性を決定することを含む。
【0036】
「作動可能な組み合わせで」、「作動可能な順序で」および「作動可能に連結する」との用語は、そのように記載される構成要素が、その意図した様式で機能することが可能な関係にある結合、例えば、核酸分子が所与の遺伝子の転写および/または所望のタンパク質分子の合成を指令することが可能な様式での核酸配列の結合、または融合タンパク質が生成するような様式でのアミノ酸配列の結合を指す。
【0037】
「リンカー」との用語は、2つの異なる分子を作動可能に連結するための分子架橋として作用する化合物または部分を指すことを意味しており、リンカーの一部分が、第1の分子に作動可能に連結し、リンカーの別の部分が、第2の分子に作動可能に連結する。
【0038】
「PEG化」との用語は、薬物担体として広く使用されているポリエチレングリコール(PEG)を用いたコンジュゲーションを指し、高度な生体適合性および改変の容易さを与える。PEGは、化学的方法を介してPEG鎖の末端のヒドロキシ基によって活性薬剤と結合する(例えば、共有結合する)ことができる。しかし、PEG自体は、1分子あたり最大で2個の活性薬剤に限定される。異なる手法では、PEGとアミノ酸のコポリマーが、PEGの生体適合性を保持し得るが、1分子あたり多くの接続点がある(したがって、薬物保持量が多くなる)という追加の利点を有し、種々の用途に適するように合成的に設計可能な新規な生体材料として研究されてきた。
【0039】
「遺伝子」との用語は、ポリペプチドまたはその前駆体を産生するのに必要な制御配列およびコード配列を含むDNA配列を指す。ポリペプチドは、全長コード配列によって、または所望の酵素活性が保持されるようにコード配列の任意の部分によってコードされてもよい。
【0040】
「ネイティブ」との用語は、遺伝子の、遺伝子産物の、または遺伝子もしくは遺伝子産物が天然に存在する供給源から単離された場合のその特徴の、典型的なまたは野生型の形態を指す。これとは対照的に、「改変」、「バリアント」、「突然変異タンパク質」または「変異体」との用語は、ネイティブ遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に、配列および機能特性において改変(すなわち、変更された特徴)を示す遺伝子または遺伝子産物を指し、改変遺伝子または遺伝子産物は、遺伝子操作されており、天然に存在しないか、または天然で生じない。
【0041】
「ベクター」との用語は、細胞に導入され、細胞で複製させることが可能なように内部に核酸配列を挿入可能な担体核酸分子を指すために用いられる。核酸配列は、「外因性」であってもよく、外因性とは、ベクターが導入される細胞に対して外来であること、または配列が上述の細胞中の配列に対して相同性であるが、その配列が元々見出されない宿主細胞核酸内の位置にあることを意味する。ベクターとしては、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)および人工染色体(例えば、YAC)が挙げられる。当業者は、標準的な組換え技術によって、ベクターを構築する準備が十分にできているだろう(例えば、Maniatiset al.、1988およびAusubelet al.、1994、両方とも本明細書に参考として組み込まれる)。
【0042】
「発現ベクター」との用語は、転写可能なRNAをコードする核酸を含む任意の種類の遺伝子構築物を指す。ある場合には、次いで、RNA分子を、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドへと翻訳する。他の場合には、例えば、アンチセンス分子またはリボザイムの製造において、これらの配列は翻訳されない。発現ベクターは、種々の「制御配列」を含んでいてもよく、制御配列とは、特に宿主細胞中の作動可能に連結したコード配列の転写と、可能ならば翻訳にとって必要な核酸配列を指す。転写および翻訳を管理する制御配列に加え、ベクターおよび発現ベクターは、同様に他の機能に役立つ核酸配列を含んでいてもよい。
【0043】
「治療上有効な量」との用語は、本明細書で使用される場合、治療効果を達成するために、すなわち、患者の血中ホモシスチン(ホモシステイン)を正常な参照値以下のレベルまで枯渇させるために、方法において使用される治療組成物(すなわち、改変CGL酵素またはこのような酵素をコードする核酸)の量を指す。「治療上の利益」または「治療上有効な」との用語は、本明細書全体で使用される場合、この状態の医学的処置に関し、対象の良好な状態を促進するか、または向上させる何かを指す。限定されないが、疾患の徴候または症状の頻度または重篤度、例えば、総ホモシステインの血清濃度の上昇(例えば、15μmol/Lを超える)の減少が含まれる。治療組成物を投与するための投薬量範囲は、ホモシスチン尿症の症状を減らすという所望の効果を発生させるのに十分に多い量である。例えば、治療組成物の治療上有効な量は、生理学的に忍容され得る組成物で投与される場合に、血管内(血漿)濃度が約0.001~約100単位(U)/mL、好ましくは、約0.1U超、より好ましくは1.0U超の改変CGL酵素/mLを達成するのに十分な量であってもよい。典型的な投薬量は、体重に基づいて投与されてもよく、約1~100U/キログラム(kg)/日、好ましくは約2~25U/kg/日、より好ましくは約2.0~8.0U/kg/日の範囲である。例示的な量は、5.0U/kg/日または35U/kg/週であってもよい。投薬量は、例えば、過粘度症候群、肺水腫、うっ血性心不全などの有害な副作用を引き起こすほど多くなるべきではない。一般的に、投薬量は、患者の年齢、患者の状態、患者の性別、患者の疾患の程度によって変わり、当業者が決定することができる。投薬量は、任意の合併症の事象において、個々の医師によって調節されてもよい。投薬量は、対象の血清中のtHcy含有量を、約12~24時間で少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%減少させるべきである。投薬量は、対象の血清中のtHcy含有量を、6時間で少なくとも50%~70%減少させてもよい。統計的に有意な応答を引き起こす投薬量は、対象の血清中のtHcy含有量を、Nygard et al.(1998)に開示される参照濃度の2標準偏差以内の濃度まで減少させるべきである。このように、この投薬量は、対象の血清中のtHcy含有量を、20~25μM未満の濃度まで減少させてもよい。
【0044】
「K」との用語は、本明細書で使用される場合、酵素に関するMichaelis-Menten定数を指し、所与の酵素が、酵素触媒反応において最大速度の半分を出す特定の基質濃度であると定義される。「kcat」との用語は、本明細書で使用される場合、各酵素部位が単位時間あたりに生成物へと変換する基質分子の数またはターンオーバー数を指し、このとき、酵素は、最大効率で働いている。「kcat/K」は、本明細書で使用される場合、特異性定数であり、酵素が基質を生成物へとどのように効率的に変換するかの指標である。
【0045】
「シスタチオニン-γ-リアーゼ」(CGLまたはシスタチオナーゼ)との用語は、シスタチオニンをシステインに加水分解するのを触媒する任意の酵素を指す。本明細書で使用される場合、この用語は、シスタチオニン-γ-リアーゼのヒト形態も含め、シスタチオニン-γ-リアーゼ(またはシスタチオニン-γ-リアーゼ)の霊長類形態も想定している。
【0046】
「処置」および「処置する」は、対象への治療薬剤の投与または適用、または疾患または健康に関連する状態の治療上の利益を得る目的で、対象に対する手技またはモダリティの性能を指す。例えば、処置は、治療上有効な量のホモシスチナーゼ(ホモシステイナーゼ)の投与を含んでいてもよい。
【0047】
「対象」および「患者」は、ヒトまたは非ヒトのいずれか、例えば、霊長類、哺乳動物および脊椎動物を指す。対象は、ヒトであってもよい。
【0048】
II.シスタチオニン-γ-リアーゼ
リアーゼは、種々の化学結合の破壊を触媒する酵素であり、多くは、新しい二重結合または新しい環構造を形成する。例えば、ATP→cAMP+PPiの反応を触媒する酵素は、リアーゼであろう。リアーゼは、一方向への反応のためには基質が1つだけ必要であるが、逆反応には2つの基質が必要であるという点で、他の酵素とは異なる。
【0049】
多くのピリオキサール-5’-ホスフェート(PLP)依存性酵素は、システイン、ホモシステインおよびメチオニンの代謝に関与し、これらの酵素は、進化的に関連するファミリーを形成し、Cys/Met代謝PLP依存性酵素と呼ばれる。これらの酵素は、約400アミノ酸のタンパク質であり、PLP基は、ポリペプチドの中心位置に位置するリシン残基に接続している。このファミリーのメンバーとしては、シスタチオニン-γ-リアーゼ(CGL)、シスタチオニン-γ-シンターゼ(CGS)、シスタチオニン-β-リアーゼ(CBL)、メチオニン-γ-リアーゼ(MGL)およびO-アセチルホモセリン(OAH)/O-アセチル-セリン(OAS)スルフヒドリラーゼ(OSHS)が挙げられる。これら全てに共通するのは、外部基質であるアルジミンに至るMichaelis複合体の生成である。さらなる一連の反応は、特定の酵素の基質特異性によって決定される。
【0050】
例えば、本願発明者らは、PLP依存性リアーゼファミリーメンバー(例えばヒトシスタチオニン-γ-リアーゼ)に特定の変異を導入し、その基質特異性を変えた。この様式で、本願発明者らは、hGGL-NLVよりも高い触媒活性を有し、ホモシスチン(ホモシステイン)を基質として分解するデノボ(de novo)能力を有する新規なバリアントを製造した。新規なホモシスチン(ホモシステイン)分解活性を発生させるための他のPLP依存性酵素の改変も想定されてもよい。
【0051】
CGLは、哺乳動物のトランススルフレーション経路の最後の工程を触媒するテトラマーである(Raoet al.、1990)。CGLは、L-シスタチオニンからL-システイン、α-ケトブチレートおよびアンモニアへの変換を触媒する。ピリドキサールホスフェートは、この酵素の補欠分子族である。タンパク質操作を使用し、ホモシステインおよびホモシスチンの分解に弱い活性しか有さないシスタチオナーゼを、ホモシステインおよびホモシスチンを高い速度で分解することができる酵素に変換した(米国特許第9,481,877号、その全体が本明細書に参考として組み込まれる)。
【0052】
III.ホモシスチナーゼ(ホモシステイナーゼ)操作
ヒトは、ホモシスチナーゼ(ホモシステイナーゼ)を産生しない。そのため、生理学的条件下でホモシスチン(ホモシステイン)を分解する高い活性と特異性を有し、生理学的流体(例えば、生理食塩水)中で高い安定性を有し、かつ非免疫原性(通常は免疫寛容を誘発するネイティブタンパク質であるため)でもあるように、ヒトの治療向けにホモシスチナーゼ(ホモシステイナーゼ)を操作する必要がある。
【0053】
pMGL(P.プチダ(P.putida)からのMGL)を用いた動物研究でみられる望ましくない免疫原性の影響に起因して、ヒト酵素でのホモシスチン(ホモシステイン)分解活性を操作することが望ましい。ヒトタンパク質に対する免疫寛容によって、おそらく、このような酵素は非免疫原性であるか、または最低限の免疫原性であり、そのため、十分に忍容性になるだろう。
【0054】
哺乳動物は、ホモシスチナーゼ(ホモシステイナーゼ)を有していないが、シスタチオニン-γ-リアーゼ(CGL)を有する。CGLは、哺乳動物のトランススルフレーション経路の最後の工程を触媒するテトラマーである(Raoet al.、1990)。CGLは、L-シスタチオニンからL-システイン、α-ケトブチレートおよびアンモニアへの変換を触媒する。ヒトCGL(hCGL)cDNAは、既にクローン化され、発現されているが、収率は比較的低い(約5mg/培養物1L)(Luet al.、1992;Steegbornet al.、1999)。
【0055】
このように、高い効率でホモシスチン(ホモシステイン)を加水分解するための、突然変異誘発を介して改変される霊長類(特に、ヒト)シスタチオニン-γ-リアーゼ(CGLまたはシスタチオナーゼ)に関連する方法および組成物が提供される。
【0056】
未改変CGL酵素に匹敵する少なくとも1つの機能活性を示す改変CGL酵素が記載される。改変CGL酵素は、血清安定性を増加させるために、さらに改変されてもよい。改変CGL酵素としては、例えば、未改変CGL酵素と比較して、さらなる利点(例えば、ホモシスチナーゼ(ホモシステイナーゼ)酵素活性)を有するタンパク質が挙げられる。未改変タンパク質またはポリペプチドは、ネイティブシスタチオニン-γ-リアーゼ、例えば、ヒトシスタチオニン-γ-リアーゼであってもよい。
【0057】
活性の決定は、特に、酵素の活性に関して、当業者によく知られているアッセイを用いて達成されてもよく、例えば、比較のために、改変酵素または未改変酵素のいずれかのネイティブバージョンおよび/または組換えバージョンの使用を含んでいてもよい。例えば、ホモシスチナーゼ(ホモシステイナーゼ)活性は、ホモシスチン(ホモシステイン)の変換から得られる任意の基質、例えば、α-ケトブチレート、メタンチオール、および/またはアンモニアの産生を検出するための任意のアッセイによって決定されてもよい。
【0058】
改変CGL酵素は、ホモシスチン(ホモシステイン)分解活性の増加に基づいて同定されてもよい。例えば、未改変ポリペプチドの基質認識部位が同定されてもよい。この同定は、構造分析またはホモロジー分析に基づいてもよい。このような基質認識部位を含む変異体の集団を作成してもよい。ホモシスチン(ホモシステイン)分解活性が増加した変異体を、変異体の集団から選択してもよい。所望の変異体の選択は、ホモシスチン(ホモシステイン)分解に由来する副産物または産物の検出などの方法を含んでいてもよい。
【0059】
改変CGL酵素は、アミノ酸の欠失および/または置換を含んでいてもよい。したがって、欠失を有する酵素、置換を有する酵素、および欠失と置換を有する酵素が、改変CGL酵素である。これらの改変CGL酵素は、例えば、融合タンパク質を含む、挿入または付加されたアミノ酸、またはリンカーを含むタンパク質をさらに含んでいてもよい。「改変された欠失CGL酵素」は、ネイティブ酵素の1つまたは複数の残基を欠いているが、ネイティブ酵素の特異性および/または活性を保持していてもよい。改変された欠失CGL酵素はまた、免疫原性または抗原性が低下していてもよい。改変された欠失CGL酵素の一例は、少なくとも1つの抗原性領域(すなわち、特定の生物において、例えば、改変CGL酵素が投与され得る種類の生物において、抗原性であると判定される酵素の領域)からアミノ酸残基が欠失されたものである。
【0060】
置換または置き換えバリアントは、タンパク質内の1つまたは複数の部位で1つのアミノ酸を別のアミノ酸と交換したものを含んでいてもよく、ポリペプチドの1つまたは複数の特性(特に、そのエフェクター機能および/またはバイオアベイラビリティ)を調節するように設計されてもよい。置換は、保存的(すなわち、1つのアミノ酸が、同様の形状および電荷を有するものと置き換えられる)であってもよく、または保存的でなくてもよい。保存的置換は、当該技術分野でよく知られており、例えば、以下の変更を含む。アラニンからセリンへ、アルギニンからリシンへ、アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジンへ、アスパルテートからグルタメートへ、システインからセリンへ、グルタミンからアスパラギン、グルタメートからアスパルテートへ、グリシンからプロリンへ、ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミンへ、イソロイシンからロイシンまたはバリンへ、ロイシンからバリンまたはイソロイシンへ、リシンからアルギニンへ、メチオニンからロイシンまたはイソロイシンへ、フェニルアラニンからチロシン、ロイシンまたはメチオニンへ、セリンからトレオニンへ、トレオニンからセリンへ、トリプトファンからチロシンへ、チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニンへ、バリンからイソロイシンまたはロイシンへ。
【0061】
欠失または置換に加え、改変CGL酵素は、残基の挿入を含んでいてもよく、残基の挿入は、典型的には、酵素への少なくとも1つの残基の付加を含む。ターゲティングペプチドまたはポリペプチドの挿入、または単純に1つの残基の挿入を含んでいてもよい。末端付加は、融合タンパク質と呼ばれ、以下に記載される。
【0062】
「生物学的に機能が等価な」との用語は、当該技術分野で十分に理解されており、本明細書でさらに詳細に定義される。したがって、配列番号1に対して約90%以上の配列同一性を有するか、または本明細書に開示する改変CGL酵素のアミノ酸と同一であるもしくはその保存的置換である約91%~約99%(92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%および99%を含む)のアミノ酸を含むCGL酵素の配列が含まれ、但し、酵素の生物活性は、測定可能な生物活性パラメータ(例えば、ホモシスチン(ホモシステイン)からα-ケトブチレート、メタンチオールおよびアンモニアへの変換)が、本明細書に開示する改変CGL酵素の約20%、約15%、約10%または約5%以内に維持される。改変CGL酵素は、その未改変の相当物に対して、生物学的に機能が等価であってもよい。
【0063】
アミノ酸および核酸配列は、さらなる残基、例えば、さらなるN末端アミノ酸またはC末端アミノ酸または5’配列または3’配列、配列が上述の基準(タンパク質発現に関連するタンパク質生物活性の維持を含む)を満たす限り、さらに本明細書に開示される配列の1つに本質的に示されるようなものを含んでいてもよいことも、理解されるだろう。末端配列の付加は、特に、例えば、コード領域の5’部分または3’部分のいずれかに隣接する種々の非コード配列を含んでいてもよく、または遺伝子内で生じることが知られている種々の内部配列(すなわち、イントロン)を含んでいてもよい核酸配列に、適用される。
【0064】
特に、3箇所の変異部位(すなわちE59N-R119L-E339V)に加え、5箇所のアミノ酸位置が、hCGL-NLV(配列番号2)と比較して改良された活性を与えることがわかった。これらのさらなる位置は、hCGL(配列番号1)で、残基63、91、268、311および353に位置する(図6を参照)。これらの位置の1つまたは複数をS63L、L91M、K268R、T311GおよびI353Sにする変異は、59、119および339位の残基の変異と組み合わせると、hCGL-NLVと比較して、改良された活性が得られた。特に、バリアントは、配列番号3、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-E339V-I353S(hCGL-8mut-1);配列番号4、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-E339V-I353S(hCGL-8mut-2);配列番号5、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-E339V-I353S(hCGL-8mut-3);配列番号6、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-E339V-I353S(hCGL-8mut-4);配列番号27、hCGL-E59N-R119L-T336D-E339V(hCGL-NLDV);配列番号28、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-T336D-E339V-I353S(hCGL-9mutD-1);配列番号29、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-T336D-E339V-I353S(hCGL-9mutD-2);配列番号30、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-T336D-E339V-I353S(hCGL-9mutD-3);配列番号31、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-T336D-E339V-I353S(hCGL-9mutD-4);配列番号32、hCGL-E59N-R119L-T336E-E339V(hCGL-NLEV);配列番号33、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-T336E-E339V-I353S(hCGL-9mutE-1);配列番号34、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119L-K268R-T311G-T336E-E339V-I353S(hCGL-9mutE-2);配列番号35、hCGL-E59N-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-T336E-E339V-I353S(hCGL-9mutE-3);配列番号36、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119A-K268R-T311G-T336E-E339V-I353S(hCGL-9mutE-4);配列番号37、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119D-K268R-T311G-E339V-I353S(変異体3);配列番号38、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119H-K268R-T311G-E339V-I353S(変異体4);および配列番号39、hCGL-E59I-S63L-L91M-R119G-K268R-T311G-E339V-I353S(変異体5)に対応するアミノ酸置換を含んでいた。
【0065】
IV.治療のための酵素によるホモシスチン(ホモシステイン)の枯渇
ポリペプチドは、ホモシスチンおよび/またはホモシステインを枯渇させる新規酵素を用いる、疾患、例えば、ホモシスチン尿症の処置に使用されてもよい。L-シスチン(システイン)分解活性を有する改変CGLを用いる処置方法が開示される。治療有効性を増加させるためのホモシスチン(ホモシステイン)分解活性を有する酵素が提供される。
【0066】
疾患、例えば、ホモシスチン尿症を処置するためのホモシスチン(ホモシステイン)分解活性を有する改変CGL酵素が提供される。特に、改変ポリペプチドは、ヒトポリペプチド配列を有していてもよく、したがって、ヒト患者に投与されたときに有害な免疫原性反応を防ぐことができ、繰り返しの投薬が可能になり、治療有効性を高めることができる。
【0067】
枯渇は、哺乳動物の血中でのインビボで、組織培養物または他の生物学的媒体中でのホモシスチン(ホモシステイン)の枯渇が望ましい場合にインビトロで、生物学的流体、細胞、または組織が身体の外で操作され、その後、患者である哺乳動物の身体に戻されるエクスビボ手技で行われてもよい。血中、培地、生物学的流体または細胞からのホモシスチン(ホモシステイン)の枯渇は、処置される材料に接近可能なホモシスチン(ホモシステイン)の量を減らすために行われ、したがって、接触を受ける材料中の周囲のホモシスチン(ホモシステイン)を分解するようなホモシスチン(ホモシステイン)枯渇条件で、枯渇される材料と、ホモシスチン(ホモシステイン)を枯渇させる量の操作された酵素とを接触させることを含む。
【0068】
ホモシスチン(ホモシステイン)枯渇効率は、その用途に応じて広範に変動する場合があり、典型的には、材料中に存在するホモシスチン(ホモシステイン)の量、所望の枯渇速度、ホモシスチナーゼ(ホモシステイナーゼ)に曝す材料の忍容性に依存する。材料中のホモシスチン(ホモシステイン)濃度、したがって、材料からのホモシスチン(ホモシステイン)枯渇速度は、当該技術分野でよく知られている種々の化学的方法および生化学的方法によって容易にモニタリングすることができる。例示的なホモシスチン(ホモシステイン)枯渇量は、本明細書にさらに記載され、0.001~100単位(U)の操作された酵素、好ましくは、約0.01~10U、より好ましくは、約0.1~5Uの操作された酵素/処置される材料1ミリリットル(mL)の範囲であってもよい。
【0069】
ホモシスチン(ホモシステイン)枯渇条件は、ホモシスチナーゼ(ホモシステイナーゼ)酵素の生物活性と適合するバッファーおよび温度条件であり、酵素と適合する中程度の温度、塩およびpH条件(例えば、生理学的条件)を含む。例示的な条件としては、約4~40℃、約0.05~0.2M NaClに等しいイオン強度、pH約5~9が挙げられるが、生理学的条件が含まれる。
【0070】
インビボでの接触は、治療上有効な量の改変CGL酵素を含む生理学的に忍容され得る組成物を、静脈内注射または腹腔内注射によって、患者に投与することによって達成されてもよく、それにより、患者内に存在する血中ホモシスチン(ホモシステイン)を枯渇させる。
【0071】
改変CGL酵素は、注射によって、または時間をかけて徐々に注入することによって、非経口投与されてもよい。改変CGL酵素は、静脈内、腹腔内、筋肉内に投与されてもよく、腫瘍細胞を含む組織に直接注射されてもよく、または電位バイオセンサまたはホモシスチン(ホモシステイン)を含んでいてもよいカテーテルに接続したポンプによって投与されてもよい。
【0072】
改変CGL酵素を含有する治療組成物は、例えば、単位用量の注射によって、慣例的に静脈内投与される。「単位用量」との用語は、治療組成物を参照しつつ使用される場合、対象への単位投薬量に適した物理的に別個の単位を指し、それぞれの単位は、必要な希釈剤、すなわち、担体またはビヒクルに関連して所望の治療効果を発生させるように計算された所定量の活性材料を含む。
【0073】
組成物は、投薬量の製剤と適合する様式で、治療上有効な量で投与される。投与される量は、処置される対象、対象の系が有効成分を利用する能力、および所望の治療効果の程度に依存して変わる。投与されることが必要な有効成分の正確な量は、医師の判断に基づき、それぞれの個人に特有である。しかし、全身適用のための適切な投薬量範囲は、本明細書に開示され、投与経路によって変わる。初期投与および追加注射の適切なレジメンも想定され、典型的には、初期投与の後、後続の注射または他の投与による1時間以上のインターバルでの繰り返し投薬である。例示的な複数回投与は、本明細書に記載され、改変CGL酵素の血清および組織での濃度が持続的に高く維持され、その逆に、血清および組織でのホモシスチン(ホモシステイン)が低く維持されることが特に好ましい。または、インビボ治療のために特定される範囲に血中濃度を維持するのに十分な持続静脈内注入が想定される。特に、ホモシスチン尿症および高ホモシステイン血症を処置するための改変CGL酵素の1週間の投薬量は、癌の処置に必要な1週間の投薬量の約4分の1である。米国特許第9,481,877号。
【0074】
V.コンジュゲート
提供される組成物および方法は、例えば、異種ペプチドセグメントまたはポリマー(例えばポリエチレングリコール)とのコンジュゲートを生成することによる、改良のための改変CGL酵素のさらなる改変を含む。改変CGL酵素は、酵素の流体力学的半径を大きくし、それにより血清での持続性を高めるために、PEGに連結されてもよい。開示されるポリペプチドは、任意のターゲティング剤、例えば、外部受容体または腫瘍細胞上の結合部位に特異的かつ安定に結合する能力を有するリガンドにコンジュゲートされていてもよい(米国特許出願公開第2009/0304666号)。PEGは、大きさが約3,000~20,000ダルトンであってもよく、例示的な大きさは、5,000ダルトンである。
【0075】
A.融合タンパク質
改変CGL酵素が異種ドメインに対してN末端またはC末端で連結していてもよい融合タンパク質が、提供される。例えば、融合は、異種宿主中のタンパク質の組換え発現を可能にするように、他の種由来のリーダー配列も使用してもよい。別の有用な融合は、融合タンパク質の精製を容易にするために、タンパク質アフィニティタグ(例えば、血清アルブミンアフィニティタグまたは6ヒスチジン残基、または免疫学的に活性なドメイン、例えば、抗体エピトープ、好ましくは、開裂可能なもの)の付加を含む。非限定的なアフィニティタグとしては、ポリヒスチジン、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)およびグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)が挙げられる。
【0076】
改変CGL酵素は、インビボでの半減期を増加させるペプチド、例えば、XTENポリペプチド(Schellenbergeret al.、2009)、IgG Fcドメイン、アルブミン、またはアルブミン結合ペプチドに連結していてもよい。
【0077】
融合タンパク質を生成する方法は、当業者にはよく知られている。このようなタンパク質は、例えば、完全な融合タンパク質のデノボ合成によって、または異種ドメインをコードするDNA配列の接続、その後、インタクトな融合タンパク質の発現によって生成されてもよい。
【0078】
親タンパク質の機能活性を回復する融合タンパク質の生成は、タンデムに接続するポリペプチド間でスプライシングされるペプチドリンカーをコードする架橋DNAセグメントと、遺伝子とを接続することによって容易になりうる。リンカーは、得られた融合タンパク質の適切な折りたたみを可能にするのに十分な長さを有している。
【0079】
B.リンカー
改変CGL酵素は、二官能架橋試薬を用いて化学的にコンジュゲートされてもよく、またはペプチドリンカーを用いて、タンパク質レベルで融合されてもよい。二官能架橋試薬は、アフィニティマトリックスの調製、多様な構造の改変および安定化、リガンドおよび受容体結合部位の同定および構造試験を含め、種々の目的のために広範に使用されてきた。適切なペプチドリンカーは、改変CGL酵素に連結するために使用されてもよい(例えば、Gly-Serリンカー)。
【0080】
2つの同じ官能基を有するホモ二官能試薬は、同一の高分子および異なる高分子または高分子のサブユニットの間の架橋を誘発し、ポリペプチドリガンドをその特異的な結合部位に連結してもよい。ヘテロ二官能試薬は、2つの異なる官能基を含む。2つの異なる官能基の異なる反応性を利用することによって、架橋は、選択的かつ逐次的に制御することができる。二官能架橋試薬は、その官能基の特異性(例えば、アミノに特異的な基、スルフヒドリルに特異的な基、グアニジンに特異的な基、インドールに特異的な基、カルボキシルに特異的な基)に従って分割されてもよい。これらの中で、遊離アミノ基に指向する試薬は、その商業的な入手可能性、合成の容易さ、適用可能な穏和な反応条件のため、一般に普及している。
【0081】
ある種のヘテロ二官能架橋試薬は、一級アミン反応基とチオール反応基とを含む。別の例では、ヘテロ二官能架橋試薬およびこの架橋試薬を用いる方法が記載されている(米国特許第5,889,155号、その全体が本明細書に参考として組み込まれる)。架橋試薬は、求核性ヒドラジド残基と、求電子性マレイミド残基とを合わせ、一例では、遊離チオールにアルデヒドをカップリングすることができる。架橋試薬は、種々の官能基を架橋するように改変されてもよい。
【0082】
さらに、当業者に知られている任意の他の連結/カップリング剤および/または機構、例えば、抗体-抗原相互作用、アビジンビオチン結合、アミド結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ホスホエステル結合、ホスホラミド結合、無水物結合、ジスルフィド結合、イオン性および疎水性の相互作用、二重特異性抗体および抗体フラグメント、またはこれらの組み合わせを使用し、改変CGL酵素を合わせてもよい。
【0083】
血中で妥当な安定性を有する架橋剤が使用されることが好ましい。ターゲティング剤と治療/予防剤とをコンジュゲートするために首尾良く使用可能な多くの種類のジスルフィド結合を含有するリンカーが知られている。立体的に嵩高いジスルフィド結合を含むリンカーは、インビボでより高い安定性を与えることがわかっている場合がある。したがって、これらのリンカーは、架橋剤の一群である。
【0084】
嵩高い架橋剤に加え、嵩高くないリンカーも、本発明と共に使用されてもよい。保護されたジスルフィドを含むまたは生成するとは考えられない他の有用な架橋剤としては、SATA、SPDPおよび2-イミノチオラン(WawrzynczakおよびThorpe、1987)が挙げられる。このような架橋剤の使用は、当該技術分野で十分に理解されている。可撓性のリンカーを使用してもよい。
【0085】
化学的にコンジュゲートされたら、ペプチドは、一般的に、コンジュゲートを未コンジュゲートの薬剤から、また他の汚染物質から分離するために精製される。臨床的に有用なものにするのに十分な程度の純度を有するコンジュゲートを得る際に使用するために、多数の精製技術が利用可能である。
【0086】
サイズ分離に基づく精製方法、例えば、ゲル濾過、ゲル浸透または高速液体クロマトグラフィーは、一般的に、大部分で使用されるだろう。他のクロマトグラフィー技術、例えば、Blue-Sepharose分離も使用可能である。例えば、N-ラウロイル-サルコシン(SLS)などの弱界面活性剤を用いるなど、封入体から融合タンパク質を精製する従来の方法が有用な場合もある。
【0087】
C.PEG化
改変CGL酵素のPEG化に関連する方法および組成物が開示される。例えば、改変CGL酵素は、本明細書に開示される方法に従ってPEG化されてもよい。
【0088】
PEG化は、ポリ(エチレングリコール)ポリマー鎖が別の分子、通常は薬物または治療用タンパク質に対して共有結合するプロセスである。PEG化は、通常、PEGの反応性誘導体を標的高分子と共にインキュベートすることによって達成される。薬物または治療用タンパク質に対するPEGの共有結合は、宿主の免疫系から薬剤を「マスキングする」(免疫原性および抗原性の低下)か、または薬剤の流体力学的大きさ(溶液中の大きさ)を増加させることができ、腎クリアランスを低下させることによって、その循環時間を延ばす。PEG化によって、疎水性の薬物およびタンパク質に水溶性を与えることもできる。
【0089】
PEG化の第1の工程は、一方の末端または両方の末端でのPEGポリマーの適切な官能基化である。同じ反応性部分を有する各末端で活性化されるPEGは、「ホモ二官能」として知られており、一方、存在する官能基が異なっている場合、PEG誘導体は、「ヘテロ二官能」または「ヘテロ官能」と呼ばれる。PEGポリマーの化学的に活性な誘導体または活性化された誘導体は、所望の分子にPEGを接続するために調製される。
【0090】
PEG誘導体に適した官能基の選択は、PEGに結合し得る分子上の利用可能な反応基の種類に基づく。タンパク質について、典型的な反応性アミノ酸としては、リシン、システイン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニンおよびチロシンが挙げられる。N末端アミノ基とC末端カルボン酸を使用することも可能である。
【0091】
第1世代のPEG誘導体を生成するために使用される技術は、一般的に、PEGポリマーと、ヒドロキシル基に反応性の基、典型的には、無水物、酸塩化物、クロロホルメートおよびカーボネートとを反応させることである。第2世代のPEG化化学では、さらに効率的な官能基、例えば、アルデヒド、エステル、アミドなどが、コンジュゲーションのために利用可能になっている。
【0092】
PEG化の適用が、ますます進化し、精密化するにつれて、コンジュゲーションのためのヘテロ二官能PEGの必要性が増加してきている。これらのヘテロ二官能PEGは、2つの部分を連結するのに非常に有用であり、この場合、親水性、可撓性および生体適合性のスペーサーが必要である。ヘテロ二官能PEGの好ましい末端基は、マレイミド、ビニルスルホン、ピリジルジスルフィド、アミン、カルボン酸およびNHSエステルである。
【0093】
最も一般的な修飾剤、すなわちリンカーは、メトキシPEG(mPEG)分子に由来する。その活性は、アルコール末端へのタンパク質修飾基の付加に依存する。ある場合には、ポリエチレングリコール(PEGジオール)は、前駆体分子として用いられる。ジオールは、その後、ヘテロダイマーPEG連結分子またはホモダイマーPEG連結分子を作成するために、両末端で修飾される。
【0094】
タンパク質は、一般的に、求核性部位(例えば、非プロトン化チオール(システイニル残基)またはアミノ基)でPEG化される。システイニルに特異的な修飾試薬の例としては、PEGマレイミド、PEGヨードアセテート、PEGチオールおよびPEGビニルスルホンが挙げられる。4種類全てが、穏和な条件と、中性からわずかにアルカリ性のpHで、強くシステイニル特異的であるが、それぞれ、いくつかの欠点がある。マレイミドで作られるチオエーテルは、アルカリ性条件下では、いくらか不安定な場合があり、そのため、このリンカーを用いた製剤の選択肢は、ある程度制限される場合がある。ヨードPEGで作られるカルバモチオエート結合は、より安定であるが、遊離ヨウ素は、ある種の条件下でチロシン残基を修飾する場合がある。PEGチオールは、タンパク質のチオールとジスルフィド結合を形成するが、この結合は、アルカリ性条件では不安定な場合もある。PEGビニルスルホンの反応性は、マレイミドおよびヨードPEGと比較して遅い。しかし、生成するチオエーテル結合は、きわめて安定である。この遅い反応速度から、PEG-ビニルスルホン反応をさらに容易に制御することも可能である。
【0095】
ネイティブのシステイニル残基での部位特異的なPEG化は、これらの残基が通常ジスルフィド結合の形態であるか、または生物活性で必要とされるため、ほとんど起こらない。一方、部位特異的突然変異誘発を使用し、チオールに特異的なリンカーのためのシステイニルPEG化部位を組み込むことができる。システイン変異は、PEG化試薬にアクセス可能であり、PEG化後にも依然として生物活性があるように設計されなければならない。
【0096】
アミンに特異的な修飾剤としては、PEG NHSエステル、PEGトレシレート、PEGアルデヒド、PEGイソチオシアネートおよびその他いくつかが挙げられる。全て穏和な条件下で反応し、アミノ基に非常に特異的である。PEG NHSエステルは、おそらく反応性が高い薬剤の1つであるが、その高い反応性によって、PEG化反応を大規模に制御することは困難な場合がある。PEGアルデヒドは、アミノ基と共にイミンを形成し、次いで、シアノ水素化ホウ素ナトリウムを用い、これが二級アミンへと還元される。水素化ホウ素ナトリウムとは異なり、シアノ水素化ホウ素ナトリウムは、ジスルフィド結合を還元しないだろう。しかし、この化学物質は、非常に毒性が高く、特に揮発性になる低いpHでは、注意深く取り扱わなければならない。
【0097】
大部分のタンパク質に複数のリシン残基があることに起因して、部位特異的なPEG化は、困難なものとなり得る。幸運なことに、これらの試薬は、プロトン化していないアミノ基と反応するため、より低いpHで反応を行うことによって、低pKのアミノ基をPEG化することができる。一般的に、α-アミノ基のpKは、リシン残基のε-アミノ基よりも1~2pH単位低い。pH7以下で分子をPEG化することによって、N末端に対する高い選択性を往々にして得ることができる。しかし、これは、タンパク質のN末端部分が生物活性に必要ではない場合にしか実現可能ではない。さらに、PEG化からの薬物動態に関する利益は、インビトロでの生物活性の顕著な損失を上回ることが多く、PEG化化学にも拘わらず、インビボでの生物活性がかなり大きな生成物が得られる。
【0098】
PEG化手順を開発するときに考慮するいくつかのパラメータがある。幸運なことに、通常は、存在するパラメータは、4以下または5以下である。PEG化条件を最適化するための「実験設計」手法は、非常に有用な場合がある。チオールに特異的なPEG化反応の場合、考慮するパラメータとしては、以下のものが挙げられる。タンパク質濃度、タンパク質に対するPEGの比率(モル基準で)、温度、pH、反応時間、ある場合には、酸素の除外。(酸素は、タンパク質による分子間ジスルフィド生成に関与する場合があり、PEG化生成物の収率が下がるだろう。)アミンに特異的な修飾の場合、同じ要因を考慮すべきである(酸素を除く)が、但し、pHは、N末端アミノ基を標的とするときは特に、より重要な場合がある。
【0099】
アミンおよびチオールに特異的な改変の場合は、両方とも、反応条件は、タンパク質の安定性に影響を与えることがある。これにより、温度、タンパク質濃度およびpHが制限される場合がある。これに加え、PEGリンカーの反応性は、PEG化反応を開始する前にわかっているべきである。例えば、PEG化剤が70%しか有効でない場合、使用されるPEGの量は、活性なPEG分子のみが、PEGに対するタンパク質の反応立体化学で作用するのを確実にするようにすべきである。
【0100】
VI.タンパク質およびペプチド
少なくとも1つのタンパク質またはペプチド、例えば、改変CGL酵素を含む組成物が提供される。これらのペプチドは、融合タンパク質に含まれていてもよく、または上述の試薬にコンジュゲートされていてもよい。
【0101】
本明細書で使用される場合、タンパク質またはペプチドは、一般的に、限定されないが、約200アミノ酸より大きなタンパク質から、遺伝子から翻訳される全長配列まで、約100アミノ酸より大きなポリペプチド、および/または約3~約100アミノ酸のペプチドを指す。便宜上、「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」との用語は、本明細書で相互に交換可能に用いられる。
【0102】
したがって、「タンパク質またはペプチド」との用語は、天然に存在するアミノ酸中にみられる20の共通のアミノ酸のうち少なくとも1つ、または少なくとも1つの改変アミノ酸または非天然アミノ酸を含むアミノ酸配列を包含する。
【0103】
タンパク質またはペプチドは、標準的な分子生物学的技術によるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの発現、天然供給源からのタンパク質またはペプチドの単離、またはタンパク質またはペプチドの化学合成を含め、当業者に知られている任意の技術によって製造されてもよい。既知の遺伝子のコード領域が、本明細書に開示される技術を用い、または当業者に知られている技術を用い、増幅および/または発現されてもよい。または、タンパク質、ポリペプチドおよびペプチドの種々の市販の調製物は、当業者に知られている。
【0104】
VII.核酸およびベクター
改変CGL酵素をコードする核酸配列または改変CGL酵素を含む融合タンパク質が開示される。どの発現システムが使用されるかに応じて、核酸配列は、従来の方法に基づいて選択することができる。例えば、改変CGL酵素が、ヒトシスタチオナーゼに由来し、大腸菌にはほとんど利用されない複数のコドンを含む場合、このコドンが発現を妨害する場合がある。したがって、それぞれの遺伝子またはそのバリアントは、まれなコドンを含まないコード配列を設計するために、自由に入手可能なソフトウエアを用いた大腸菌発現に最適化されたコドンであってもよい(Hoover & Lubkowski、2002)。目的のタンパク質、例えば、改変CGL酵素を発現するために、種々のベクターを使用してもよい。例示的なベクターとしては、限定されないが、プラスミドベクター、ウイルスベクター、トランスポゾンまたはリポソーム系ベクターが挙げられる。
【0105】
VIII.宿主細胞
宿主細胞は、改変CGL酵素およびそのコンジュゲートの発現および分泌を可能にするように形質転換され得る任意の宿主細胞であってもよい。宿主細胞は、細菌、哺乳動物細胞、酵母または糸状菌であってもよい。種々の細菌としては、エシェリキア(Escherichia)およびバチルス(Bacillus)が挙げられる。サッカロミセス(Saccharomyces)、クルイベロミセス(Kiuyveromyces)、ハンゼヌラ(Hansenula)、またはピキア(Pichia)属に属する酵母は、適切な宿主細胞としての使用が見出されるだろう。以下の属を含め、様々な種の糸状菌を発現宿主として使用してもよい:アスペルギルス(Aspergillus)、トリコデルマ(Trichoderma)、ニューロスポラ(Neurospora)、ペニシリウム(Penicillium)、セファロスポリウム(Cephalosporium)、アクリャ(Achlya)、ポドスポラ(Podospora)、エンドシア(Endothia)、ムコール(Mucor)、コクリオボルス(Cochliobolus)、およびピリクラリア(Pyricularia)。
【0106】
使用可能な宿主生物の例としては、細菌、例えば、大腸菌(Escherichia coli)MC1061、派生枯草菌(Bacillus subtilis)BRB1(Sibakovet al.、1984)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)SAI123(Lordanescu、1975)、またはストレプトコッカス・リビダンス(Streptococcus lividans)(Hopwoodet al.、1985);酵母、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH 22(Melloret al.、1983)またはシゾサッカロミセス・ポンベ(SchizoSaccharomyces pombe);および糸状菌、例えば、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)(Ward、1989)、またはトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)(Penttilaet al.、1987;Harkkiet al.、1989)が挙げられる。
【0107】
哺乳動物宿主細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-K1;American Type Culture Collection(ATCC)番号CCL61)、ラット下垂体細胞(GH1;ATCC番号CCL82)、HeLa S3細胞(ATCC番号CCL2.2)、ラット肝細胞癌細胞(H-4-II-E;ATCC番号CRL-1548)、SV40形質転換されたサル腎臓細胞(COS-1;ATCC番号CRL-1650)およびマウス胚性細胞(NIH-3T3;ATCC番号CRL-1658)が挙げられる。上述のものは、実例であることを意味しているが、当該技術分野で知られている多くの可能な宿主生物を限定するものではない。原則として、原核生物であるか真核生物であるかによらず、分泌が可能な全ての宿主が使用可能である。
【0108】
改変CGL酵素および/またはその融合タンパク質を発現する哺乳動物宿主細胞は、典型的には、親細胞株を培養するために使用される条件下で培養される。一般的に、細胞は、生理学的塩類および栄養素を含む標準培地(典型的には、胎児ウシ血清などの血清を5%~10%追加した、例えば、標準的なRPMI、MEM、IMEMまたはDMEM)で培養される。培養条件も標準的であり、例えば、培地は、所望の濃度のタンパク質が得られるまで、固定培地またはローラー培養物中、37℃でインキュベートされる。
【0109】
IX.タンパク質精製
タンパク質精製技術は、当業者によく知られている。これらの技術は、あるレベルで、細胞、組織または臓器の均質化、およびポリペプチド画分および非ポリペプチド画分への粗い分画を含む。目的のタンパク質またはポリペプチドは、特に明記されない限り、部分的または完全な精製(または均質化するまでの精製)を達成するために、クロマトグラフィー技術および電気泳動技術を用い、さらに精製されてもよい。純粋なペプチドの精製に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル排除クロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィー、イムノアフィニティクロマトグラフィーおよび等電点電気泳動である。ペプチドを精製する特に効率的な方法は、高速液体クロマトグラフィー(fast-performance liquid chromatography、FPLC)またはさらなる高速液体クロマトグラフィー(high-performance liquid chromatography、HPLC)である。
【0110】
精製されるタンパク質またはペプチドは、他の構成要素から単離可能な組成物を指すことを意図しており、タンパク質またはペプチドは、その天然で得ることが可能な状態に対して、任意の程度まで精製される。したがって、単離または精製されたタンパク質またはペプチドは、天然に存在し得る環境から離れたタンパク質またはペプチドとも呼ばれる。一般的に、「精製された」は、種々の他の構成要素を除去するために分画を行ったタンパク質またはペプチド組成物を指し、組成物は、その発現される生物活性を実質的に保持している。「実質的に精製された」との用語が使用される場合、この指定は、当該タンパク質またはペプチドが、組成物の主要な構成要素を形成し、例えば、当該タンパク質またはペプチドが、組成物中のタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれより多くを構成する組成物を指す。
【0111】
タンパク質精製に使用するのに適した種々の技術は、当業者によく知られている。これらの技術としては、例えば、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などを用いた沈殿、または熱変成し、その後遠心分離処理をすることによる技術;クロマトグラフィー工程、例えば、イオン交換、ゲル濾過、逆相、ヒドロキシアパタイトおよびアフィニティクロマトグラフィー;等電点電気泳動;ゲル電気泳動;およびこれらおよび他の技術の組み合わせが挙げられる。当該技術分野で一般的に知られているように、種々の精製工程を行う順序は、変えてもよく、または特定の工程を省き、依然として実質的に精製されたタンパク質またはペプチドを調製するための適切な方法としてもよいと考えられる。
【0112】
タンパク質またはペプチドの精製度を定量する種々の方法は、当業者には知られている。これらの方法としては、例えば、活性画分の比活性を決定すること、またはSDS/PAGE分析によって画分内のポリペプチドの量を評価することが挙げられる。画分の純度を評価するための好ましい方法は、画分の比活性を計算し、これを初期抽出物の比活性と比較し、これによりその純度を計算する方法であり、「~倍の精製数」によって評価される。活性の量を表すために使用される実際の単位は、もちろん、精製を行うために選択される特定のアッセイ技術と、発現されるタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を示すか否かに依存して変わる。
【0113】
タンパク質またはペプチドが、常にその最も精製された状態で提供されることは、一般的に必要とはされない。実際に、ほとんど実質的に精製されていない生成物が有用性を有する場合があることが想定される。部分的な精製は、少ない精製工程を組み合わせて用いることによって、または同じ一般的な精製スキームの異なる形態を利用することによって達成されてもよい。例えば、HPLC装置を利用して行われるカチオン交換カラムクロマトグラフィーは、一般的に、低圧クロマトグラフィーシステムを利用する同じ技術よりも大きな「~倍の」精製が得られることが理解される。相対的に低い精製度を示す方法は、タンパク質産物の全体的な回収において、または発現されるタンパク質の活性を維持することにおいて利点を有する場合がある。
【0114】
タンパク質またはペプチドは、単離または精製されてもよい。例えば、改変CGL酵素、改変CGL酵素を含む融合タンパク質、またはPEG化後の改変CGL酵素。例えば、精製を容易にするために、このような改変CGL酵素に、Hisタグまたはアフィニティエピトープが含まれていてもよい。アフィニティクロマトグラフィーは、単離される物質と、特異的に結合し得る分子との間の特異的なアフィニティに依存するクロマトグラフィー手順である。これは、受容体-リガンド型の相互作用である。カラム材料は、不溶性マトリックスに結合相手の1つを共有結合することによって合成される。次いで、カラム材料は、溶液から物質を特異的に吸着することができる。溶出は、条件を、結合が起こらない条件に変えることによって起こる(例えば、pH、イオン強度、温度などを変える)。マトリックスは、任意の顕著な程度まで分子を吸着せず、広範な化学的安定性、物理的安定性および熱的安定性を有する物質であるべきである。リガンドは、その結合特性に影響を与えないような様式で結合すべきである。リガンドは、相対的に密な結合も与えるべきである。サンプルまたはリガンドを破壊することなく物質を溶出させることが可能であるべきである。
【0115】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、溶液中の分子がその大きさに基づいて分離されるか、またはより技術的な用語では、その流体力学的体積に基づいて分離されるクロマトグラフィー方法である。通常は、大きな分子または高分子複合体、例えば、タンパク質および工業用ポリマーに適用される。典型的には、水溶液を使用して、サンプルを、カラムを通して移動させる場合、この技術は、有機溶媒を移動相として使用するときに使用されるゲル浸透クロマトグラフィーという名称と対比して、ゲル濾過クロマトグラフィーとして知られる。
【0116】
SECの基礎となる原理は、異なる大きさの粒子が、異なる速度で固定相を通って溶出される(濾過される)ことである。これにより、大きさに基づき粒子の溶液を分離する。全ての粒子が同時に入れられ、またはほぼ同時に入れられれば、同じ大きさの粒子は、一緒に流出する。それぞれのサイズ排除カラムは、分離し得る分子量の範囲を有する。排除限界は、この範囲の上端の分子量を規定し、分子が大きすぎると、固定相に捕捉されない。浸透限界は、この分離範囲の下端の分子量を規定し、十分に小さな大きさの分子は、固定相の孔に完全に浸透することができ、この分子量未満の全ての分子は、あまりに小さく、1つのバンドとして溶出する。
【0117】
高速液体クロマトグラフィー(または高圧液体クロマトグラフィー、HPLC)は、化合物を分離し、同定し、定量するために生化学および分析化学で頻繁に使用されるカラムクロマトグラフィーの一形態である。HPLCは、クロマトグラフィー充填材料(固定相)を保持するカラムと、カラムを通って移動相を移動させるポンプと、分子の保持時間を示す検出器とを利用する。保持時間は、固定相と、分析される分子と、使用される溶媒との間の相互作用に基づいて変わる。
【0118】
X.治療組成物
ヒトシスタチオニン-γ-リアーゼ遺伝子は、大腸菌ではほとんど利用されず、発現を妨害し得る複数のコドンを含む。したがって、大腸菌でのタンパク質発現を最適化するために、それぞれの遺伝子は、DNA-Worksソフトウエアを用いて設計されたコドン最適化されたオリゴヌクレオチドを用いてアセンブリングされてもよい(Hooveret al.、2002)。それぞれの構築物は、クローニングを単純化するために、N末端NcoI制限部位、フレーム内N末端HisタグおよびC末端EcoRI部位を含んでいてもよい。pET28aベクター(Novagen)へとクローニングした後、適切なシスタチオナーゼ発現ベクターを含有する大腸菌(BL21)は、シェーカーフラスコ中、50μg/mLのカナマイシンを含有するTerrific Broth(TB)培地を用いて、OD600が約0.5~0.6に達するまで、37℃、250rpmで増殖させてもよい。この時点で、培養物を25℃でのシェーカーに切り替え、0.5mM IPTGを用いて誘発させ、さらに12時間かけてタンパク質を発現させてもよい。次いで、細胞ペレットを遠心分離によって集め、IMACバッファー(10mM NaPO/10mMイミダゾール/300mM NaCl、pH8)に再懸濁させてもよい。圧力セルによって溶解した後、溶解物を20,000xg、4℃で20分間遠心分離し、得られた上清をニッケルIMACカラムに適用し、0.1% TRITON(登録商標)114を含むIMACバッファーで広範に(90~100カラム体積)洗浄し、10~20カラム体積のIMACバッファーで洗浄し、IMAC溶出バッファー(50mM NaPO/250mMイミダゾール/300mM NaCl、pH8)で溶出させた。精製されたタンパク質を、10,000 MWCO(分子量カットオフ)濾過デバイス(Amicon)を用い、pH8.3の100mM NaPOバッファーへとバッファー交換した。次いで、酵素を含有する画分を、10mMピリドキサール-5’-ホスフェート(PLP)と共に25℃で1時間インキュベートした。次いで、メトキシPEGスクシンイミジルカルボキシメチルエステル5000MW(JenKem Technology)をhCGL-8mut-1にモル比80:1で加え、一定の撹拌下、25℃で1時間反応させた。得られた混合物を、100,000 MWCO濾過デバイス(Amicon)を用いて広範にバッファー交換し(10%グリセロールを含むPBS)、0.2ミクロンシリンジフィルター(VWR)で滅菌した。次いで、酵素アリコートを液体窒素で急速凍結させ、-80℃で保存してもよい。この様式で精製されたCGLおよびCGLバリアントは、SDS-PAGEおよびクマシー染色によって評価される場合、95%より高い均一性であるべきである。収率は、最終的なバッファー濃度が6Mの塩酸グアニジニウム、20mMのリン酸バッファー、pH6.5で計算された減衰係数λ280=29,870M-1cm-1に基づいて、計算されてもよい(Gill and von Hippel、1989)。
【0119】
一例として、プールされたヒト血清中、酵素を37℃で、最終濃度10μMでインキュベートすることによって、PEG化hCGL-8mut-1の血清安定性を試験した。異なる時間点で、アリコートを抜き取り、米国特許出願公開第2011/0200576(その全体が本明細書に参考として組み込まれる)に記載されるようなDTNB(Ellman試薬;5,5-ジチオ-ビス-(2-ニトロ安息香酸))アッセイを用い、活性について試験した。PEG化hCGL-8mut-1は、半減期(T0.5)が101±4時間であると計算された。
【0120】
治療調製物の特定の性質に対する限定は意図していない。例えば、このような組成物は、生理学的に忍容され得る液体、ゲルまたは固体担体、希釈剤および賦形剤と共に製剤で提供されてもよい。これらの治療調製物は、家畜動物などの獣医学用途のために哺乳動物に投与されてもよく、他の治療薬剤と同様の様式でヒトでの臨床用途に投与されてもよい。一般的に、治療有効性のために必要な投薬量は、使用の種類および投与様式、個々の対象の特定の必要性に従って様々であろう。
【0121】
このような組成物は、典型的には、注射液として使用するために、液体溶液または懸濁物として調製される。適切な希釈剤および賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロールなど、およびこれらの組み合わせである。これに加え、所望な場合、組成物は、少量の補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、安定化剤またはpH緩衝化剤を含んでいてもよい。
【0122】
臨床用途が想定される場合、意図した用途に適した形態で、タンパク質、抗体および薬物を含む治療組成物を調製することが必要な場合がある。一般的に、治療組成物は、医薬的に許容される担体に溶解または分散される、有効量の1つまたは複数の改変CGL酵素またはさらなる薬剤を含んでいてもよい。「治療または治療的に許容される」との句は、適切な場合、動物(例えばヒト)に投与したときに、有害なアレルギー反応または他の不都合な反応を引き起こさない分子部分および組成物を指す。本明細書に開示される方法によって単離される少なくとも1つの改変CGL酵素、またはさらなる有効成分を含む治療組成物の調製は、本明細書に参考として組み込まれるRemington’s Pharmaceutical Sciences、18th Ed.、1990に例示されるように、当該技術分野で既知である。さらに、動物(例えば、ヒト)投与の場合、製剤が、FDA Office of Biological Standardsによって必要とされるような滅菌性、発熱原性、全体的な安全性および純度の基準を満たすべきであることは理解される。
【0123】
本明細書で使用される場合、「医薬的に許容される担体」は、当業者には知られているように(例えば、本明細書に参考として組み込まれるRemington’s Pharmaceutical Sciences、18th Ed.、1990を参照)、任意および全ての溶媒、分散媒体、表面活性剤、酸化防止剤、防腐剤(例えば抗菌剤、抗真菌剤)、等張化剤、吸収遅延剤、塩類、防腐剤、薬物安定化剤、ゲル、バインダー、賦形剤、このような類似の材料およびこれらの組み合わせを含む。任意の従来の担体が、有効成分と不適合である場合を除き、治療組成物における使用が想定される。
【0124】
組成物は、当業者には知られているように(例えば、本明細書に参考として組み込まれるRemington’s Pharmaceutical Sciences、18th Ed.、1990を参照)、皮下に、静脈内に、動脈内に、腹腔内に、筋肉内に、注射によって、注入によって、持続注入によって、カテーテルを介して、脂質組成物(例えばリポソーム)で、または他の方法または上述の任意の組み合わせによって、投与されてもよい。
【0125】
改変ポリペプチドは、遊離塩基、中性、または塩形態で組成物に配合されてもよい。治療的に許容される塩としては、酸付加塩、例えば、タンパク質性組成物の遊離アミノ基と形成される酸付加塩、または塩酸またはリン酸などの無機酸と形成されるか、または酢酸、シュウ酸、酒石酸またはマンデル酸などの有機酸と形成されるものが挙げられる。遊離カルボキシル基と形成される塩も、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムの水酸化物または水酸化第二鉄などの無機塩基から誘導されてもよく、またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンまたはプロカインなどの有機塩基から誘導されてもよい。製剤化したら、溶液は、投薬量の製剤と適合する様式で、治療上有効なこのような量で投与される。製剤は、種々の投薬形態で、例えば、非経口投与のために配合されるもの、例えば、注射溶液、または肺に送達するためのエアロゾル、または食事療法のために配合されるもの、例えば、薬物放出カプセルなどで投与されてもよい。
【0126】
投与に適した開示される組成物は、不活性希釈剤を含むか、または含まずに、医薬的に許容される担体で提供されてもよい。任意の従来の媒体、薬剤、希釈剤または担体が、受容者またはそれが含まれる組成物の治療有効性に有害である場合を除き、本方法を実施する際に使用するための投与可能な組成物での使用は、適切である。担体または希釈剤の例としては、脂肪、油類、水、生理食塩水溶液、脂質、リポソームなど、またはこれらの組み合わせが挙げられる。組成物は、1つまたは複数の構成要素の酸化を遅らせるために、種々の酸化防止剤も含んでいてもよい。さらに、微生物の作用の防止は、防腐剤、例えば、限定されないが、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールまたはこれらの組み合わせを含む種々の抗菌剤および抗真菌剤によってもたらされてもよい。
【0127】
開示される組成物を、任意の簡便で現実的な様式で、すなわち、溶液、懸濁物、乳化、混合、カプセル化、吸収などによって担体と合わせてもよい。
【0128】
改変CGL酵素と、1つまたは複数の脂質と、水性溶媒とを含む治療用脂質ビヒクル組成物の使用が提供される。本明細書で使用される場合、「脂質」との用語は、特徴的に水に不溶性であり、有機溶媒を用いて抽出可能な広範囲の物質のいずれかを含むと定義されるだろう。この広範囲の化合物群は、当業者によく知られており、「脂質」という用語が本明細書で使用される場合、任意の特定の構造に限定されない。例としては、長鎖脂肪族炭化水素およびその誘導体を含む化合物が挙げられる。脂質は、天然に存在していてもよく、または合成であってもよい(すなわち、人によって設計または製造される)。しかし、脂質は、通常は、生体物質である。生体脂質は、当該技術分野でよく知られており、例えば、中性脂肪、リン脂質、ホスホグリセリド、ステロイド、テルペン、リゾ脂質、スフィンゴ糖脂質、糖脂質、スルファチド、エーテル結合またはエステル結合した脂肪酸を有する脂質、重合可能な脂質、およびこれらの組み合わせが挙げられる。もちろん、当業者によって脂質として理解される、本明細書に具体的に記載されるこれらの化合物以外の化合物も、本組成物および本方法に包含される。
【0129】
当業者は、脂質ビヒクルに組成物を分散させるために使用可能な技術の範囲をよく知っているだろう。例えば、改変CGL酵素またはその融合タンパク質は、脂質を含む溶液に分散され、脂質と共に溶解され、脂質と共に乳化され、脂質と混合され、脂質と合わされ、脂質に共有結合し、脂質中に懸濁物として含まれ、ミセルまたはリポソームと共に含まれるか、または複合体化され、または当業者に知られている任意の手段によって脂質または脂質構造と他の様式で会合していてもよい。分散によって、リポソームが生成してもよく、または生成しなくてもよい。
【0130】
動物患畜に投与される組成物の実際の投薬量は、例えば、体重、状態の重篤度、処置される疾患の種類、以前行われたかまたは同時に行われる治療的介入、患畜の特発症および投与経路などの物理的要因および生理学的要因によって決定することができる。投薬量および投与経路に依存して、好ましい投薬量および/または治療上有効な量の投与回数は、対象の応答に従って変動してもよい。投与の責任を担う医師は、いずれにしても、組成物中の有効成分の濃度、個々の対象に適切な投薬量を決定する。
【0131】
治療組成物は、例えば、活性化合物を少なくとも約0.1%含んでいてもよい。活性化合物は、単位の約2重量%~約75重量%、または例えば約25%~約60%、およびこれらの中の導出可能な任意の範囲含まれていてもよい。必然的に、それぞれの治療に有用な組成物中の活性化合物の量は、任意の所与の単位用量の化合物中、適切な投薬量が得られるような様式で調製されてもよい。溶解度、バイオアベイラビリティ、生体半減期、投与経路、生成物の貯蔵寿命などの要因、および他の薬理学的考慮事項は、このような治療製剤を調製する分野の当業者によって想定され、そのように、種々の投薬量および処置レジメンが望ましい場合がある。
【0132】
用量はまた、投与あたり、約500マイクログラム/体重1kg、約1mg/体重1kg、約5mg/体重1kg、約10mg/体重1kg、約50mg/体重1kg、約100mg/体重1kg、約750mg/体重1kg、またはそれより多く、およびこれらの中の導出可能な任意の範囲を含んでいてもよい。用量が毎週投与される場合、用量は、5mg/体重1kg、または例えば、70kgの対象の場合、タンパク質350mgの量であってもよい。
【0133】
XI.キット
キット、例えば、治療用キットが提供される。例えば、キットは、本明細書に記載される1つまたは複数の治療組成物と、場合により、その使用のための指示書とを含んでいてもよい。キットは、このような組成物の投与を達成するための1つまたは複数のデバイスも含んでいてもよい。例えば、目的のキットは、治療組成物と、標的組織への組成物の直接的な静脈内注射を達成するためのカテーテルとを含んでいてもよい。キットは、場合により、治療組成物として配合されていても、または送達デバイスと共に使用するために凍結乾燥されていてもよい、改変CGL酵素をあらかじめ充填したアンプルを含んでいてもよい。
【0134】
キットは、ラベルの付いた容器を含んでいてもよい。適切な容器としては、例えば、瓶、バイアルおよび試験管が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなど、種々の材料から作られてもよい。容器は、上述のような治療用途または非治療用途に効果的な改変CGL酵素を含む組成物を保持していてもよい。容器に付いたラベルは、その組成物を特定の治療用途または非治療用途に使用することを示していてもよく、インビボまたはインビトロでの使用(例えば、上述のもの)のいずれかに向けた指示も示していてもよい。キットは、典型的には、上述の容器と、バッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジを含む商業的およびユーザの観点から望ましい材料を含む1つまたは複数の他の容器と、使用の指示を含む添付文書とを含んでいるだろう。
【実施例
【0135】
XII.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれている。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施において十分に機能するように本願発明者によって開発された技術を表し、そのため、その実施のための好ましい態様を構成すると考えることができることが、当業者によって理解されるべきである。しかし、当業者は、本開示の観点で、開示される特定の実施形態において、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、同じまたは同様の結果が依然として得られる多くの変更をなし得ることを理解するべきである。
【0136】
実施例1-ヒトシスタチオニン-γ-リアーゼバリアント酵素を用いた、高ホモシステイン血症のマウスモデルの処置
古典的ホモシスチン尿症は、シスタチオニン-β-シンターゼ遺伝子の遺伝的欠陥によって引き起こされる。この代謝経路の破壊により、高ホモシステイン血症が生じ、高ホモシステイン血症は、総ホモシステイン(tHCy)血清濃度が重篤に高い状態である。ホモシスチン尿症の特徴としては、骨格、眼、血管および神経系への問題が挙げられる。これらの症状は、血清中および細胞内でのホモシステインの蓄積の結果であると思われる。
【0137】
この研究の目的は、過剰な血清ホモシステインを分解し、細胞内ホモシステインの吸込系を提供することが可能な、新規な酵素治療を開発し、ホモシスチン尿症の新しい処置法を作り出すことである。ヒトシスタチオニン-γ-リアーゼ(CGL)酵素は、ホモシステインおよびホモシスチンを分解するように既に操作されている。無作為かつ合理的な突然変異誘発を用い、CGLバリアントのライブラリーを作成し、遺伝子選択(ホモシステインからα-ケトブチレートへの分解が、大腸菌の操作された株に対して増殖の利点を与える)によってクローンを同定した。CGLバリアントの動態を試験した。これを表1に示す。
【0138】
高メチオニン食(げっ歯類の通常食では0.6%(w/w)のメチオニンが存在するのに対して、2.5%(w/w)のメチオニン)を用い、マウスにおいて高ホモシステイン血症を誘発し、開発した酵素の有効性を評価するためのマウスモデルを作成した。高メチオニン食マウスモデルにおいて、50mg/kg(腹腔内)の改変CGLを1回分の用量投与すると、tHcyが24時間以内に380±13μMから44.7±4.8μMまで有意に減少した(図1)。なお、正常マウスのtHcy濃度は、約4±0.5μMである。5日毎に30日間、50mg/kg(腹腔内)で投薬すると、図2に示すように、tHcyが長期間にわたって減少した。さらに、長期間にわたる頻繁な投薬をしても、体重減少または毒性の任意の他の徴候は生じなかった。酵素の投与は、食事によって誘発されるマウスモデルにおいて、有害な影響を与えることなく、tHcyを首尾良く枯渇させた。高メチオニン食は、げっ歯類の通常食であるが、存在するメチオニン含有量が4倍多い。
【0139】
改変CGL(hCGL-8mut-4;変異体2;配列番号6)の治療効果を評価するために、新生仔の死亡を引き起こすcbs-/-マウス株を使用した。改変CGL酵素および不活性酵素(20mg/kg IP、週に2回)を、10日目から開始し、50日目に終了するまで注射した。処置されたマウスでは、生存率の利益が予想された。母マウスおよび仔マウスの食事には、両方とも、この疾患の生存率を高めると位置づけられている食事用添加剤であるベタインが含まれていた。図3に示されるように、改変CGL(変異体2)で処置すると、仔マウスの生存率が向上し、このことは、Hcy濃度を制御することが疾患を改善するのに重要であることを示唆している。
【0140】
実施例2-ホモシステイン/ホモシスチンを分解する、より高い特異性のバリアントの設計および動力学的特性決定
変異体2酵素(配列番号6)をコードする遺伝子を、出発点として使用し、酵素活性またはホモシステインまたはホモシスチンに対する選択性が向上したさらなるバリアントを作成した。基質結合に関与すると予想される活性部位残基を飽和突然変異誘発のために選択し、後続のライブラリーを、オーバーラップ伸長PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって作成した。最終的にアセンブリングしたPCR産物を、NcoIおよびEcoRIで消化し、T4 DNAリガーゼを用い、pET28aベクターへとライゲーションした。得られたライゲーションで大腸菌(BL21)を直接的に形質転換し、その後のスクリーニングのために、LB-カナマイシンプレートへと接種した(米国特許第9,481,877号に記載されるように、その全体が本明細書に参考として組み込まれる)。ライブラリーの理論多様性よりも2倍多いコロニーがスクリーニングされた。顕著な活性を示すクローンを単離し、改良された活性を与える変異を同定するために配列決定した。R119位に変異を含む3種類のバリアント(変異体3:R119D、配列番号37;変異体4:R119H、配列番号38;変異体5:R119G、配列番号39)が同定され、SDS-PAGEによって評価して95%超の均一性になるように精製され、メチオニン、システイン、シスチン、ホモシステインおよびホモシスチンを分解する能力について、100mM PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)バッファー中、pH7.3、37度で動力学的に特性決定した(表1)(米国特許第9,481,877号に記載されるように、その全体が本明細書に参考として組み込まれる)。
【0141】
(表1)CGL変異体の動態
ND=データなし
【0142】
実施例3-食事によって誘発された高ホモシステイン血症マウスモデルを用いた、マウスにおける変異体3のホモシステイン薬力学
高メチオニン食(実施例1に記載される通常の0.6%(w/w)に対し、2.5%(w/w))を使用し、マウスにおいて高ホモシステイン血症を誘発させた。このようなマウスに、1回の用量50mg/動物の体重1kg(腹腔内)の変異体3(配列番号37)または不活化酵素のいずれかを投与した。高メチオニン食マウスモデルにおいて、変異体3は、48時間以内にtHcyを335±37μMから最低で42±20μMまで統計的に有意に減少させた(図4)。
【0143】
実施例4-変異体3を用いた高ホモシステイン血症マウスモデルの処置
メチオニン、システインまたはシステインを分解する活性と比較して、ホモシステイン/ホモシスチンについて最も高い基質選択性を示す変異体3(R119D;配列番号37)の治療効果を評価するために、cbs-/-仔マウスを、変異体3または沸騰水浴にサンプルを10分間置くことによって熱不活化した変異体3酵素のいずれかで処置した。仔マウスに、誕生から10日後に開始し、50日目に最終処置をするまで、25mg/動物の体重1kgの用量で注射した(腹腔内、週に2回)。母マウスおよび仔マウスの食事には、両方とも、この疾患の生存率を高めると位置づけられている食事用添加剤であるベタインが含まれていた。図5からわかるように、等量の不活化した酵素を投与した動物とは対照的に、活性変異体3を用いた処置は、cbs-/-仔マウスを新生仔致死から完全に救った。
【0144】
本明細書に開示され、請求される全ての方法は、本開示の観点で過度な実験を行うことなく得られかつ実行されてもよい。本発明の組成物および方法は、好ましい実施形態の観点で記載してきたが、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく、本明細書に記載の方法、本明細書に記載の方法の工程または工程の順序に変化が加えられてもよいことは当業者には明らかであろう。より具体的には、化学的および生理学的に関連する特定の薬剤を、同じ結果または同様の結果が達成される場合は、本明細書に記載される薬剤の代わりに用いてもよいことは明らかであろう。当業者に明らかな全てのこのような同様の代替物および改変は、添付の特許請求の範囲に定義されるような本発明の精神、範囲および概念の範囲内であると考えられる。
【0145】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に示されるものに対して補助的な例示的な手順または他の詳細を与える程度に、本明細書に具体的に参考として組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
【配列表】
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