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特許7187068パン、パンの製造方法、およびプロテイン生地ペースト成形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】パン、パンの製造方法、およびプロテイン生地ペースト成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/26 20060101AFI20221205BHJP
   A21D 8/02 20060101ALI20221205BHJP
   A21D 6/00 20060101ALI20221205BHJP
   A21D 13/11 20170101ALI20221205BHJP
【FI】
A21D2/26
A21D8/02
A21D6/00
A21D13/11
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021149529
(22)【出願日】2021-09-14
【審査請求日】2022-06-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500042599
【氏名又は名称】有限会社パレット
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-046108(JP,A)
【文献】特開昭59-006830(JP,A)
【文献】国際公開第96/004798(WO,A1)
【文献】国際公開第03/070006(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/196440(WO,A1)
【文献】マーブル&ゼブラ柄の食パン。スライスするまでドキドキ!,2018年07月17日,pp.1-4,retrieved on 2022.08.08, retrieved from the internet,http://yuccopan.seesaa.net/article/460550355.html
【文献】マッチョうさぎの存在感がすごい 神戸屋「きんにくぱん」のパッケージが謎だと話題に,2020年04月07日,pp.1-4,retrieved on 2022.08.08, retrieved from the internet,https://news.livedoor.com/article/detail/18084650/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
A23L 33/00-33/29
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン生地と、
前記パン生地よりプロテインの含有率の高い高プロテイン生地と、
を別の生地として備え
パンの表面および内部の内の少なくとも一方に、前記高プロテイン生地の少なくとも一部を粒状物の形態で分散して備えることを特徴とするパン。
【請求項2】
請求項1に記載のパンにおいて、
パンの表面および内部の内の少なくとも一方に、前記パン生地と前記高プロテイン生地とを縞状に備えることを特徴とするパン。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパンにおいて、
100質量部のパンに対して、プロテインを10質量部以上20質量部以下含むことを特徴とするパン。
【請求項4】
パン生地と、
前記パン生地よりプロテインの含有率の高い高プロテイン生地と、
を別の生地として備えるパンを製造する方法であって、
パン生地用のパン生地ペーストを製造する工程;
小麦粉およびこんにゃく粉の内の少なくとも1つと、
プロテインと、
バターおよびマーガリンの内の少なくとも1つと、
糖類と、
水と、
を少なくとも混合して高プロテイン生地用のプロテイン生地ペーストを製造する工程;
前記パン生地ペーストを成形して第1成形物を製造する工程;
前記プロテイン生地ペースト自体または前記プロテイン生地ペーストを成形した第2成形物と、前記第1成形物と、を混合して第3成形物を製造する工程;および
前記第3成形物を焼成する工程;
を含むことを特徴とするパンの製造方法。
【請求項5】
請求項に記載のパンの製造方法であって、
前記第1成形物および前記第2成形物は、ともに、シート状の成形物であって、
前記第3成形物を製造する工程では、シート状の前記第1成形物と、シート状の前記第2成形物とを折り畳むことを特徴とするパンの製造方法。
【請求項6】
請求項に記載のパンの製造方法であって、
前記第3成形物を製造する工程では、前記第1成形物の表面または内部に、前記プロテイン生地ペーストまたは前記プロテイン生地ペーストを粒状に固形化したものを分散させることを特徴とするパンの製造方法。
【請求項7】
パン生地と、前記パン生地よりプロテインの含有率の高い高プロテイン生地とを別の生地として備えるパンを構成する高プロテイン生地に用いられる プロテイン生地ペースト成形物を製造する方法であって、
牛乳と、バターおよびマーガリンの内の少なくとも1つとを混合および加熱する第1工程;
小麦粉と、糖と、卵とを少なくとも混合および加熱する第2工程;
前記第1工程および第2工程によりそれぞれ得られるものを混合する第3工程;
前記第3工程で得られた混合物を冷却する第4工程;
前記第4工程で得られた冷却済みの混合物に、プロテインと、水と、を加えながら混合する第5工程;および
前記第5工程を経て得られたプロテイン生地ペーストを、真空パックに封入して、0℃以下の温度に保持する冷凍または冷蔵の第6工程;
を経て製造することを特徴とするプロテイン生地ペースト成形物の製造方法。
【請求項8】
パン生地と、前記パン生地よりプロテインの含有率の高い高プロテイン生地とを別の生地として備えるパンを構成する高プロテイン生地に用いられる プロテイン生地ペースト成形物を製造する方法であって、
水と、糖とを混合および加熱して糖含有溶液を製造する第7工程;
前記糖含有溶液に、バターおよびマーガリンの内の少なくとも1つを溶解および混合する第8工程;
前記第8工程後の混合物を冷却した後、こんにゃく粉を添加して混合し、ゲル化物を得る第9工程;
前記ゲル化物にプロテインを混合してプロテイン生地ペーストを得る第10工程;および
前記プロテイン生地ペーストを、真空パックに封入して、0℃以下の温度に保持する冷凍または冷蔵の第11工程;
を経て製造することを特徴とするプロテイン生地ペースト成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン、パンの製造方法、およびプロテイン生地ペースト成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物にとって、炭水化物、タンパク質、脂質は三大栄養素と称され、活動に必要なエネルギー源となり、さらには身体を構成する材料となる。また、ビタミンやミネラルも、身体の調子を整えるのに必要な栄養素である。
【0003】
炭水化物は、前記のようにエネルギー源として働き、特に脳には、炭水化物に由来するブドウ糖が不可欠である。ブドウ糖が不足すると、思考能力や集中力の低下を来すことが知られている。また、過剰に摂取した炭水化物で、エネルギーとして消費されない分は、中性脂肪として蓄積される。このような現象は、体内にエネルギーを蓄えるという重要な機能によるものである。
【0004】
その反面、炭水化物の摂取量が多過ぎると、脂肪肝に繋がり、あるいは肥満に繋がる。また、血液中の中性脂肪が多い状態が続くと、動脈硬化のリスクが高まる。また、脂質も、身体にとつて大切な栄養素である。しかし、食生活の変化により、現代人は、脂質を摂り過ぎる傾向にある。このため脂質の摂り過ぎりは生活習慣病の一因となっている。
【0005】
これに対し、タンパク質の過剰摂取が健康障障害の原因となったという研究結果の報告は少ない。身体が必要とする以上のタンパク質の分解によって生成されるアンモニアは、肝臓で尿素に変換された後、腎臓で尿として排出される。このため、タンパク質の摂り過ぎは、これらの臓器への負担を増加させる虞がある。また、タンパク質の過剰摂取は、腸内の過剰なタンパク質を栄養にして、いわゆる悪玉菌が増殖し、腸の活動に様々な悪影響を及ぼす可能があると言われている。
【0006】
しかし、現状、前記のようにタンパク質の過剰摂取による障害が顕在化していないこともあって、スポーツやボディビルディングの分野においては、トレーニングによって損傷した筋肉の修復、肥大、強化を目的に、通常の食事以外のタンパク質の摂取が推奨されている。このような状況から、タンパク質を効率よく摂取するために、英語でタンパク質を意味するプロテインと称されるサプリメントが多用されている。プロテインには、牛乳を原料とするホエイプロテインの他、大豆を原料とするソイプロテインがある。上述のサプリメントは、通常、チョコレートやグラノーラのようなそのまま食べられる形態や、水に分散させて飲用可能な粉末の形態で提供されている。
【0007】
その一方で、美容や生活習慣病の予防策の一環として、ダイエットを行う人も増加している。しかし、減食により、必要量のタンパク質を十分に摂取できない状態が続いて、運動機能の低下、毛髪の太さの減少、肌の艶や張りの衰えなどを惹き起こす可能性がある。逆に、十分な量のタンパク質の継続的な摂取により、若年層、中年層にあっては、若々しさの維持、美容の増進、運動を並行して行うことによる体力の向上が認められている。高齢層にあっても、運動機能の維持などの効果が認められている。今後、進行必至の高齢化社会に備えて、高齢者がより健康な状態で活動できるようにするには、タンパク質の十分な摂取が必要不可欠である。
【0008】
このような観点から、プロテインサプリメント以外の、通常の食品により、十分なタンパク質の摂取を可能とするために、様々な食品が開発販売されている。一例として通信販売のサイトには、プロテインを配合したケーキや、パンケーキミックスが掲載されている。しかし、これらは、スイーツに近いもので、日常的に継続して食べる必要がなく、多量に食べると、炭水化物や脂質の過剰摂取に繋がる可能性がある。このため、パンのような主食に、一定量のプロテインを添加したものが望まれる。
【0009】
ここで、問題は、パン生地に添加するプロテインの量の増加に伴い、食味や食感が低下することである。パンの食感には、パンの内部に分散している気泡の量が関っている。この気泡は、パン生地に加えられているイーストがパン生地に含まれる糖分を発酵させることにより発生するアルコールと二酸化炭素によるものである。焼成の過程で、小麦粉に含まれるグルテンは、ガスが外部に抜けるのを防止する。この結果、パン全体が膨らむ。ところが、グルテンとは異質のタンパク質であるプロテインの添加は、前記のグルテンの作用を著しく阻害する。その結果、プロテインを添加したパンは、膨らみに欠け、味や食感の低下をもたらす。
【0010】
プロテインを多量に含むパンの食味の改善方法として、特許文献1には、プロテイン素材を10~50質量%含有する原料粉100質量部に対して、酒種の風味を有する発酵風味料及び酒種の少なくとも一方を0.5~20質量部含有するパン類生地が開示されている。このような技術により、プロテイン素材を多量に含有するパン類の好ましくない臭いと雑味を抑制することが可能である。また、特許文献2には、プロテインを多く摂取できる食品およびその製造方法として、ミセラーカゼインを全固形分の45~96質量%含む押出し成形物である膨化食品とその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2020-103200号公報
【文献】特開2019-201582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来から公知の文献に開示されている技術は、味と食感を同時に解決するには、なお多くの改善の余地を残している。現在、プロテインを多量に含みながらも、味と食感に優れるパンが要望されている。
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、日常の主食として供することが可能であり、従来よりも多量のタンパク質を含有しながらも味と食感に優れたパンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、焼成前の成形物の中で、プロテインを含む生地をパン生地と分離させた環境をつくり、焼成することで、プロテインを多量に含みながらもパン生地が充分に膨化することを考えた。
【0015】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係るパンは、パン生地と、前記パン生地よりプロテインの含有率の高い高プロテイン生地と、を別の生地として備える。
【0016】
(2)別の実施形態に係るパンは、好ましくは、パンの表面および内部の内の少なくとも一方に、前記パン生地と前記高プロテイン生地とを縞状に備えることができる。
【0017】
(3)別の実施形態に係るパンは、好ましくは、パンの表面および内部の内の少なくとも一方に、前記高プロテイン生地の少なくとも一部を粒状物の形態で分散して備えることができる。
【0018】
(4)別の実施形態に係るパンは、好ましくは、100質量部のパンに対して、プロテインを10質量部以上20質量部以下含むことができる。
【0019】
(5)上記目的を達成するための一実施形態に係るパンの製造方法は、上述のいずれか1つのパンを製造する方法であって、
パン生地用のパン生地ペーストを製造する工程;
小麦粉およびこんにゃく粉の内の少なくとも1つと、
プロテインと、
バターおよびマーガリンの内の少なくとも1つと、
糖と、
水と、
を少なくとも混合して高プロテイン生地用のプロテイン生地ペーストを製造する工程;
前記パン生地ペーストを成形して第1成形物を製造する工程;
前記プロテイン生地ペースト自体または前記プロテイン生地ペーストを成形した第2成形物と、前記第1成形物と、を混合して第3成形物を製造する工程;および
前記第3成形物を焼成する工程;
を含む。
【0020】
(6)別の実施形態に係るパンの製造方法において、好ましくは、前記第1成形物および前記第2成形物は、ともに、シート状の成形物であって、前記第3成形物を製造する工程では、シート状の前記第1成形物と、シート状の前記第2成形物とを折り畳むことができる。
【0021】
(7)別の実施形態に係るパンの製造方法において、好ましくは、前記第3成形物を製造する工程では、前記第1成形物の表面または内部に、前記プロテイン生地ペーストまたは前記プロテイン生地ペーストを粒状に固形化したものを分散させることができる。
【0022】
(8)上記目的を達成するための一実施形態に係るプロテイン生地ペースト成形物は、上述のいずれか1つのパンを構成する高プロテイン生地に用いられる成形物である。
【0023】
(9)上記目的を達成するための一実施形態に係るプロテイン生地ペースト成形物の製造方法は、上述のプロテイン生地ペースト成形物を製造する方法であって、
牛乳と、バターおよびマーガリンの内の少なくとも1つとを混合および加熱する第1工程;
小麦粉と、糖と、卵とを少なくとも混合および加熱する第2工程;
前記第1工程および第2工程によりそれぞれ得られるものを混合する第3工程;
前記第3工程で得られた混合物を冷却する第4工程;
前記第4工程で得られた冷却済みの混合物に、プロテインと、水と、を加えながら混合する第5工程;および
前記第5工程を経て得られたプロテイン生地ペーストを、真空パックに封入して、0℃以下の温度に保持する冷凍または冷蔵の第6工程;
を経て製造する方法である。
【0024】
(10)上記目的を達成するための一実施形態に係るプロテイン生地ペースト成形物の製造方法は、上述のプロテイン生地ペースト成形物を製造する方法であって、
水と、糖とを混合および加熱して糖含有溶液を製造する第7工程;
前記糖含有溶液に、バターおよびマーガリンの内の少なくとも1つを溶解および混合する第8工程;
前記第8工程後の混合物を冷却した後、こんにゃく粉を添加して混合し、ゲル化物を得る第9工程;
前記ゲル化物にプロテインを混合してプロテイン生地ペーストを得る第10工程;および
前記プロテイン生地ペーストを、真空パックに封入して、0℃以下の温度に保持する冷凍または冷蔵の第11工程;
を経て製造する方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、日常の主食として供することが可能であり、従来よりも多量のタンパク質を含有しながらも味と食感に優れたパンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明に係るパンの第1実施形態の斜視図を示す。
図2図2は、図1のパンのA-A線断面図を示す。
図3図3は、図1のパンの写真を示す。
図4図4は、本発明に係るパンの第2実施形態の斜視図を示す。
図5図5は、本発明に係るパンの製造方法の実施形態の製造フローを示す。
図6図6は、小麦粉を用いたプロテイン生地ペースト成形物の製造フローを示す。
図7図7は、こんにゃく粉を用いたプロテイン生地ペースト成形物の製造フローを示す。
図8図8は、実施例および比較例の各食パンの外観写真と官能評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.パン
(第1実施形態)
まず、本発明に係るパンの第1実施形態について説明する。
【0028】
図1は、本発明に係るパンの第1実施形態の斜視図を示す。図2は、図1のパンのA-A線断面図を示す。図3は、図1のパンの写真を示す。
【0029】
この実施形態に係るパン1は、パン生地10と、高プロテイン生地20と、を別の生地として備える。高プロテイン生地20は、パン生地10よりプロテインの含有率の高い生地である。高プロテイン生地20中のプロテインの含有率は、パン生地10中のプロテインの含有率より高い。また、高プロテイン生地20中の炭水化物の含有率は、パン生地10中の炭水化物の含有率より低い。すなわち、パン1は、高プロテインで低炭水化物の領域である高プロテイン生地20と、低プロテインで高炭水化物の領域であるパン生地10とが別々の領域を占める膨化食品である。この実施形態では、プロテインとして、ホエイプロテインが用いられている。ただし、プロテインとして、ソイプロテインなどの他種プロテインを用いても良い。本願において、「パン生地」および「高プロテイン生地」は、ともに、焼成後の「パン」の一部を占める生地である。
【0030】
図1および図2に示すように、この実施形態に係るパン1は、パン1の表面および内部に、パン生地10と高プロテイン生地20とを縞状に備える。なお、パン1は、パン1の表面のみ、または内部のみに、パン生地10と高プロテイン生地20とを縞状に備えていても良い。図3に示すように、黒矢印で示すパン1の濃色の層は、高プロテイン生地20である。プロテインは、100質量部のパン1に対して、好ましくは、10質量部以上含まれており、より好ましくは10質量部以上20質量部以下含まれている。なお、高プロテイン生地20を有さない一般的なパンのプロテインは、100質量部のパンに対して、6質量部以下である。
【0031】
高プロテイン生地20は、好ましくは、100質量部のパン生地10に対して30質量部以上70質量部以下である。
【0032】
(第2実施形態)
次に、本発明に係るパンの第2実施形態について説明する。第2実施形態において、第1実施形態と共通する部分については、適宜、重複した説明を省略する。
【0033】
図4は、本発明に係るパンの第2実施形態の斜視図を示す。
【0034】
第2実施形態に係るパン1aは、ロールパンであって、パン生地10と、高プロテイン生地20と、を別の生地として備える。パン1aは、その表面および内部に、パン生地10と高プロテイン生地20とを縞状に備える。パン1aは、さらに、パン1aの表面に、高プロテイン生地の少なくとも一部を粒状物30の形態で分散して備える。粒状物30は、好ましくは、パン1a本体の縞模様を構成している高プロテイン生地20よりもプロテイン含有率の高い部分である。
【0035】
上述のように、パン1,1aは、従来よりもプロテイン高含有率のパンでありながら、膨化を十分に進行させたパンとすることができる。これは、高プロテイン生地20と、パン1,1aを構成するパン生地10とを個別に調製し、別々の領域とすることにより、パン1,1aに含まれるグルテンの機能に対するプロテインの影響を減殺することが可能だからである。このため、パン1,1aは、プロテインを加えていない一般的なパンと比較して、遜色のない食感や食味を有する。
【0036】
2.パンの製造方法
本発明に係るパンの製造方法の実施形態について説明する。
【0037】
図5は、本発明に係るパンの製造方法の実施形態の製造フローを示す。
【0038】
図5に示すフローは、パン1,1a(以後、適宜、「パン1等」という。)の製造方法の一例である。
パン1等の製造方法は、
パン生地ペーストを製造する工程(S100);
プロテイン生地ペーストを製造する工程(S110);
第1成形物を製造する工程(S120);
第3成形物を製造する工程(S130);および
第3成形物を焼成する工程(S140);
を含む。
以下、各工程について詳述する。
【0039】
(1)S100
この工程は、パン生地10用のパン生地を製造する工程である。一例を挙げると、次のとおりである。小麦粉、砂糖、マーガリン、塩、全卵、イースト菌、水など原料をすべてミキサーに投入し、オールインミックス方式で練り上げる。捏上温度25℃前後に捏ね上げ、フロアータイム(一次発酵)に約30分間とる。
【0040】
(2)S110
この工程は、小麦粉およびこんにゃく粉の内の少なくとも1つと、プロテインと、油脂と、糖と、水と、を少なくとも混合して高プロテイン生地20用のプロテイン生地ペーストを製造する工程である。こんにゃく粉を用いずに小麦粉を用いる場合には、さらに、材料に、牛乳と、卵とをさらに追加するのが好ましい。
【0041】
プロテインは、この実施形態では、粉末状のホエイプロテインである。油脂は、油脂を主成分とするものを意味し、好ましくは、バターおよびマーガリンの内の少なくとも1つを例示できる。糖は、砂糖、オリゴ糖またはその他甘味を有する糖類を含む。卵は、この実施形態では、全卵である。
【0042】
プロテイン生地ペーストは、小麦粉を用いる場合には、例えば、小麦粉と、プロテインと、油脂と、牛乳と、糖と、卵とを混合して得られた混和物を用意し、次に当該混和物を冷却し、次に冷却後の混和物にプロテインの粉末と水とを加えながら混合して得られる。プロテイン生地ペーストは、最後に、真空パックされ、0℃以下の温度で冷凍若しくは冷蔵される。
【0043】
また、プロテイン生地ペーストは、こんにゃく粉を用いる場合には、例えば、水に糖類を混合後に加熱した溶液に、油脂を入れて、溶解および混合後、得られた混合物を冷却後にこんにゃく粉を混合してゲル化物を得て、当該ゲル化物にプロテインを混合して得られる。プロテイン生地ペーストは、最後に、真空パックされ、0℃以下の温度で冷凍若しくは冷蔵される。
【0044】
小麦粉を用いたプロテイン生地ペーストの製造に要する材料の量は、一例を挙げるなら、以下のとりである。すなわち、当該材料は、4~8質量部の小麦粉と、27~31質量部のプロテイン粉末と、13~18質量部のバター若しくはマーガリンと、27~31質量部の牛乳と、9~17質量部の糖類と、3~7質量部の全卵と、2~5質量部の水と、を含む。
【0045】
こんやく粉を用いたプロテイン生地ペーストの製造に要する材料の量は、一例を挙げるなら、以下のとりである。すなわち、当該材料は、0.5~2質量部のこんにゃく粉と、49~53質量部のプロテイン粉末と、10~14質量部のバター若しくはマーガリンと、18~22質量部の水と、を含む。
【0046】
なお、プロテイン生地ペーストを得る工程で、成分として用いる小麦粉には、デンプンが含まれていて、水を加えて加熱すると糊化して、プロテインの粉末をシート状に成形する際に、結合材として機能する。また、こんにゃくの粉末も、水に溶解すると糊のような物性を呈し、結合材としての機能を利用することが可能である。
【0047】
(3)S120
この工程は、パン生地ペーストを成形して第1成形物を製造する工程である。第1成形物の形態の典型例は、シートである。シートは、公知の成形方法により製造できる。
【0048】
(4)S130
この工程は、プロテイン生地ペーストを成形した第2成形物と、前述の第1成形物と、を混合して第3成形物を製造する工程である。第2成形物の形態の典型例は、シートである。シートは、公知の成形方法により製造できる。この製法を用いると、パン1を製造することができる。
【0049】
この実施形態における好ましい製造方法としては、第1成形物および第2成形物をともにシート状の成形物とし、シート状の第1成形物と、シート状の第2成形物とを折り畳んで第3成形物を製造する方法を例示できる。
【0050】
また、この実施形態における別の好ましい製造方法としては、シートまたは非シート形状の第1成形物の表面または内部に、プロテイン生地ペーストまたはプロテイン生地ペーストを粒状に固形化したものを分散させる方法を例示できる。前述の折り畳みの手法を用いた製法と、プロテイン生地ペーストを粒状に固形化したものを分散させる製法とを用いると、パン1aを製造することができる。
【0051】
(5)S140
この工程は、第3成形物を焼成する工程である。焼成温度としては、180~230℃が好ましい。
【0052】
3.プロテイン生地ペースト成形物およびその製造方法
本発明に係るプロテイン生地ペースト成形物およびその製造方法の各実施形態について説明する。
【0053】
この実施形態に係るプロテイン生地ペースト成形物は、パン1等を構成する高プロテイン生地20に用いられるプロテイン生地ペーストを成形したものである。プロテイン生地ペースト成形物の典型的な形態は、シートである。シート状のプロテイン生地ペースト成形物は、パン生地10用のシート状の第1成形物と重ねて折り畳んで、第3成形物を製造するのに好適に利用できる。
【0054】
図6は、小麦粉を用いたプロテイン生地ペースト成形物の製造フローを示す。
【0055】
この実施形態に係るプロテイン生地ペースト成形物の製造方法は、
第1工程(S200);
第2工程(S210);
第3工程(S220);
第4工程(S230);
第5工程(S240);および
第6工程(S250);
を含む。
以下、各工程について詳述する。
【0056】
(1)S200
この工程は、牛乳と、油脂とを混合および加熱する工程である。この工程では、好ましくは、加熱は、混合した物が沸騰するまで行われる。油脂は、油脂を主成分とするものを意味し、好ましくは、バターおよびマーガリンの内の少なくとも1つを例示できる。
【0057】
(2)S210
この工程は、小麦粉と、糖と、卵とを少なくとも混合および加熱する工程である。糖は、砂糖、オリゴ糖またはその他甘味を有する糖類を含む。卵は、この実施形態では、全卵である。
【0058】
(3)S220
この工程は、第1工程(S200)および第2工程(S210)によりそれぞれ得られるものを混合する工程である。ただし、第1工程により得られた混合物に、小麦粉と、糖と、卵とを混合および加熱しても良い。この場合、上記第2工程を省略し、第3工程を行うことができる。
【0059】
(4)S230
この工程は、第3工程(S220)で得られた混合物を冷却する工程である。
【0060】
(5)S240
この工程は、第4工程(S230)で得られた冷却済みの混合物に、プロテインと、水と、を加えながら混合する工程である。
【0061】
(6)S250
この工程は、第5工程(S240)を経て得られたプロテイン生地ペーストを、真空パックに封入して、0℃以下の温度に保持する冷凍または冷蔵する工程である。
【0062】
この実施形態に係るプロテイン生地ペースト成形物(小麦粉を使用)の製造に要する材料の量は、一例を挙げるなら、以下のとりである。すなわち、当該材料は、4~8質量部の小麦粉と、27~31質量部のプロテイン粉末と、13~18質量部のバター若しくはマーガリンと、27~31質量部の牛乳と、9~17質量部の糖類と、3~7質量部の全卵と、2~5質量部の水と、を含む。水は、牛乳、全卵、またはバター若しくはマーガリンの中に含まれる水分を除く。
【0063】
図7は、こんにゃく粉を用いたプロテイン生地ペースト成形物の製造フローを示す。
【0064】
この実施形態に係るプロテイン生地ペースト成形物の製造方法は、
第7工程(S300);
第8工程(S310);
第9工程(S320);
第10工程(S330);および
第11工程(S340);
を含む。
以下、各工程について詳述する。
【0065】
(1)S300
この工程は、水と、糖とを混合および加熱して糖含有溶液を製造する工程である。糖は、砂糖、オリゴ糖またはその他甘味を有する糖類を含む。
【0066】
(2)S310
この工程は、S300(第7工程)で得られた糖含有溶液に、油脂を溶解および混合する工程である。油脂は、油脂を主成分とするものを意味し、好ましくは、バターおよびマーガリンの内の少なくとも1つを例示できる。
【0067】
(3)S320
この工程は、S310(第8工程)後の混合物を冷却した後、こんにゃく粉を添加して混合し、ゲル化物を得る工程である。
【0068】
(4)S330
この工程は、S320(第9工程)で得られたゲル化物にプロテインを混合してプロテイン生地ペーストを得る工程である。
【0069】
(5)S340
この工程は、プロテイン生地ペーストを、真空パックに封入して、0℃以下の温度に保持する冷凍または冷蔵を行う工程である。
【0070】
この実施形態に係るプロテイン生地ペースト成形物(こんにゃく粉の使用)の製造に要する材料の量は、一例を挙げるなら、以下のとりである。すなわち、当該材料は、0.5~2質量部のこんにゃく粉と、49~53質量部のプロテイン粉末と、10~14質量部のバター若しくはマーガリンと、10~18質量部の糖類と、18~22質量部の水と、を含む。水は、バターまたはマーガリンの中に含まれる水分を除く。
【0071】
4.その他の実施形態
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定ざれず種々変形して実施可能である。
【0072】
例えば、小麦粉に代えてあるいは小麦粉と共に、米粉を用いても良い。小麦粉とこんにゃく粉と米粉は、それぞれ任意の2以上を混合して用いても良い。パンの表層のみに高プロテイン生地20を備えても良い。その場合、パンは、例えば、パン生地10の外層を高プロテイン生地20にて被覆する形態を有する。また、パン1の表層のみに、パン生地10と高プロテイン生地20とを縞状に構成しても良い。その場合、パンは、例えば、パン生地10の表面を、パン生地10と高プロテイン生地20とが縞状にならぶ形態のシートにて被覆する形態を有する。
【実施例
【0073】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、以下の説明する実施例に限定されるものではない。
【0074】
(1)実施例
表1に示す材料を用いて、以下の要領でパン生地を製造した。それぞれの材料を秤量した後、全ての材料をミキサーに投入し、低速5分、中低速10分間ほどミキシングしパン生地ペーストを得た。捏上温度を25℃位になるように水の温度を調整した。一次発酵を20分から30分行って得られた生地を、厚みが20~30mmのシートに成形し、雑菌が混入しないようにビニール袋に入れ0℃以下の温度で冷蔵した。
【0075】
【表1】
【0076】
また、表2に示す材料を用いて、以下の要領で高プロテイン生地ペーストを製造した。それぞれの材料を秤量した後、牛乳、パターを容器に投入し、加熱して沸騰させ、小麦粉と、砂糖とオリゴ糖と全卵を加え、胃の調子を整えるためのシールド乳酸菌を添加し、小麦粉に含まれるデンプンが糊化するまで攪拌しながら加熱し、均一になった後冷却した。室温付近まで降温した後、プロテイン粉末と水を少しずつ加え、プロテインが塊にならないように混合して、高プロテイン生地ペーストを得た。次に、得られたペーストを、厚みが20~30mmのシートに成形し、雑菌が混入しないように真空パックに封入して、0℃以下の温度で冷蔵した。
【0077】
【表2】
【0078】
このようにして得られたパン生地ペーストのシートと、高プロテイン生地ペーストのシートとを、ともに約20mmの厚さに延伸し、ほぼ同じ大きさのシートにして、重ねて3回折りたたんで、200℃~230℃で焼成し、食パンを製造した。
【0079】
(2)比較例
表3に示す材料を用いて、以下の要領でパン生地ペーストを製造した。それぞれの材料を秤量した後、ミキサーに投入し、実施例のパン生地の製造と同様の工程にてプロテインを含むパン生地ペーストを得た。次に、得られたペーストを、厚みが10~20mmのシートに成形し、雑菌が混入しないように真空パックに封入して、0℃以下の温度で冷蔵した。
【0080】
【表3】
【0081】
このようにして得られたプロテインを含むパン生地ペーストを食パン用の容器に入れて200℃で焼成し、食パンを製造した。
【0082】
(3)実施例と比較例の評価
実施例および比較例によって得られた各食パンを、パンの製販業界以外の企業の従業員を対象に試食してもらい、官能評価を行った。評価項目は、外観、香り、食感、食味,総合評価、購買意欲であり、「良い」から「悪い」まで、5段階に等級付けを行った。
【0083】
図8は、実施例および比較例の各食パンの外観写真と官能評価の結果を示す。図8中、Aは実施例を、Bは比較例を、それぞれ示す。図8の表中の空欄は、評価した人数がゼロを意味する。また、同表中の数字は、評価した人数を意味する。
【0084】
図8の官能評価の結果から、実施例の食パンは、全ての評価項目において、「やや良い4」以上の評価をした人が多いことがわかった。これに対して、比較例の食パンは、全ての評価項目において、「普通3」以下の評価をした人が多いことがわかった。実施例の食パンは、比較例の食パンに比べて、十分に膨らんでおり、食感の良いパンであった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、パンの製造または販売の産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1,1a・・・パン、10・・・パン生地、20・・・高プロテイン生地、30・・・粒状物。

【要約】
【課題】
日常の主食として供することが可能であり、従来よりも多量のタンパク質を含有しながらも味と食感に優れたパンを提供する。
【解決手段】
パン生地10と、パン生地10よりプロテインの含有率の高い高プロテイン生地20と、を別の生地として備えるパン1、当該パンの製造方法、パン1の製造に用いるプロテイン生地ペースト成形物および当該成形物の製造方法に関する。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8