(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】化合物、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料、有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 209/86 20060101AFI20221205BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221205BHJP
C07D 209/88 20060101ALI20221205BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C07D209/86 CSP
H05B33/14 B
H05B33/22 D
C07D209/88
C09K11/06 690
(21)【出願番号】P 2018003750
(22)【出願日】2018-01-12
【審査請求日】2021-01-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】沼田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】高麗 敬介
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 理恵
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光則
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0043669(KR,A)
【文献】特開2012-049518(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0113319(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0228908(US,A1)
【文献】国際公開第2013/133223(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0134163(KR,A)
【文献】特表2017-529685(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0095319(KR,A)
【文献】特開2014-110354(JP,A)
【文献】特表2015-520152(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0293845(US,A1)
【文献】Mumbo, John et.al.,Enzymatic synthesis of bromo- and chlorocarbazoles and elucidation of their structures by molecular modeling,Environmental Science and Pollution Research,2013年,Vol.20(12),p.8996-9005
【文献】RN:133753-43-2,DATABASE REGISTRY [ONLINE] Retrieved from STN,1991年
【文献】RN:1200135-16-5,DATABASE REGISTRY [ONLINE] Retrieved from STN,2010年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 209/86
H01L 51/50
C07D 209/88
C09K 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式中、
E及びR
1は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、
E及びR
1のうち少なくとも一つは、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、
Gは、水素原子、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
R
2は、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、
A
1~A
4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
A
1、A
2のいずれか1つ、および/または、A
3、A
4のいずれか1つが置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、
Lは、単結合、または置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、
nは、0または1の整数であり、
nが0のとき、Eは水素原子または重水素原子であり、
前記置換された炭素数6~30の芳香族炭化水素環基の置換基は、重水素原子、置換されたもしくは非置換の炭素数1~30のアルキル基、置換されたもしくは非置換の炭素数1~30のアルコキシ基、置換されたもしくは非置換の炭素数6~30のアリールオキシ基、置換されたもしくは非置換の炭素数1~30のアミノ基、シアノ基、または置換されたもしくは非置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基である。)
で表される、化合物。
【請求項2】
Eが水素原子または重水素原子であり、
R
1が置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Gが置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
A
1、A
2のいずれか1つが置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基であり、且つ、A
3、A
4のいずれか1つが置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記一般式(1)において、Lが、単結合である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記一般式(1)において、Lが、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基である、nは、1である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
下記化合物1~154:
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
のうち、いずれか1つである、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の化合物と、溶媒とを含む、有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物。
【請求項10】
一対の電極と、
前記一対の電極間に配置される1層以上の有機層と、を備え、
前記有機層のうち少なくとも1層は、請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の化合物を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記化合物を含む有機層は、発光材料をさらに含む、請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記化合物を含む有機層は、塗布法により形成される、請求項10または11に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料、有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物、有機エレクトロルミネッセンス素子、及び化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型の発光素子である有機エレクトロルミネッセンス素子(Organic ElectroLuminescence Device)を用いた表示装置および照明機器の開発が活発に行われている。有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機電界発光素子または有機EL素子という場合がある)は、発光材料を含む有機層を有している。有機EL素子の有機層内では、電子と正孔とが再結合することにより発光材料が励起され、発光材料が基底状態に戻る際に発光が生じる。
【0003】
このような有機EL素子では、電流効率、発光寿命等の素子特性を向上させる目的で、有機層を構成するための各種材料が開発されている。例えば、特許文献1~3には、ビカルバゾール化合物(Bicarbazole)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子が開示されている。
【0004】
また、有機EL素子の製造においては、有機EL素子を構成する有機膜を、蒸着法等の乾式成膜法により成膜するのが一般的である。一方、蒸着法等の乾式成膜法による成膜は、時間とコストがかかることから、このような乾式成膜法に替えて、時間とコストを抑制できる溶液塗布法(以下、塗布法という場合がある)等の湿式成膜法を用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-135498号
【文献】特開2016-111346号
【文献】米国公開公報第2017/0092873号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、溶液塗布法等の湿式成膜法により有機EL素子の成膜を行う場合、蒸着で用いられる有機EL材料が塗布溶媒に対して溶解し難い場合が多く、また、溶解に問題が無かったとしても湿式法で作製された薄膜では蒸着法で作製された薄膜に比べて有機分子の凝集が起こり易い。複数の有機分子が凝集することで分子軌道が単分子状態よりも拡大されるなどして、単分子状態の時とは異なるHOMO、LUMO、S1、T1等のエネルギー準位を形成する可能性がある。そしてそれらはキャリアのトラップや発光励起子の失活などの悪影響をもたらす可能性が高い。そのため、塗布法により形成された有機EL素子では、十分な電流効率、発光寿命が得られていない。
【0007】
本発明の目的は、電流効率、発光寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を塗布法により作製することができる化合物とその製造方法、および3、5、9-置換型カルバゾールの合成に有用な中間体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、下記一般式(1)で表される化合物を提供する。
【0009】
【化1】
(上記一般式(1)中、E及びR
1は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
E及びR
1のうち少なくとも一つは、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
Gは、水素原子、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
R
2は、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
A
1~A
4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
A
1、A
2のいずれか1つ、および/または、A
3、A
4のいずれか1つが置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
Lは、単結合、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
nは、0または1の整数であり、
nが0のとき、Eは水素原子または重水素原子である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、電流効率、発光寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を塗布法により作製することができる化合物とその製造方法、および3、5、9-置換型カルバゾールの合成に有用な中間体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0013】
<化合物>
本実施形態に係る化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0014】
【化2】
(上記一般式(1)中、E及びR
1は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
E及びR
1のうち少なくとも一つは、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
Gは、水素原子、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
R
2は、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
A
1~A
4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
A
1、A
2のいずれか1つ、および/または、A
3、A
4のいずれか1つが置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
Lは、単結合、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、
nは、0または1の整数であり、
nが0のとき、Eは水素原子または重水素原子である。)
本実施形態に係る化合物は、上記一般式(1)で表されるように、二つのカルバゾール環(カルバゾール骨格ともという)がn個のLを介して結合されて構成されている。
【0015】
上記一般式(1)において、E及びR1は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、好ましくは置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、より好ましくは置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基である。
【0016】
本明細書及び特許請求の範囲において、「X及びYは、それぞれ独立して」とは、X及びYが同一であってもよいし、異なっていてもよいことを意味する。
【0017】
本明細書及び特許請求の範囲において、「置換されたもしくは無置換の」とは、水素原子および重水素原子を除き、他の置換基を有してもよいことを意味する。また、これらの置換基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0018】
また、本明細書及び特許請求の範囲において、「水素原子」は、「重水素原子」についての特段の併記がない場合であっても、「重水素原子」を含む概念である。なお、各基に存在する水素原子は、任意に重水素原子で置換されていてもよい。
【0019】
また、本明細書及び特許請求の範囲において、「A~B」というときは、AとBを含むAからBまでの範囲を意味する。
【0020】
Eは、一般式(1)中の二つのカルバゾール環のうち一方のカルバゾール環に結合している。
【0021】
Eを構成し得る炭素数6~30の芳香族炭化水素環基は、炭素数6~30の一つ以上の芳香族環を含む炭素環を有する炭化水素環(芳香族炭化水素環)由来の基である。また、芳香族炭化水素環基が2以上の環を含む場合、2以上の環は互いに縮合していてもよい。また、これら芳香族炭化水素環基に存在する1以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。
【0022】
芳香族炭化水素環基を構成する芳香族炭化水素環としては、特に限定されないが、具体的には、ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アントラセン、アズレン、ヘプタレン、アセナフタレン、フェナレン、フルオレン、フェナントレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、テトラフェン、ヘキサフェン、ヘキサセン、ルビセン、トリナフチレン、ヘプタフェン、ピラントレン等が挙げられる。
【0023】
Eを構成し得る環形成原子数3~30の芳香族複素環基は、1個以上のヘテロ原子(例えば、窒素原子(N)、酸素原子(O)、リン原子(P)、硫黄原子(S))を有し、残りの環原子が炭素原子(C)である1以上の芳香族環を含む環形成原子数3~30の環(芳香族複素環)由来の基である。また、芳香族複素環基が2以上の環を含む場合、2以上の環は互いに縮合していてもよい。また、これら芳香族複素環基に存在する1以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。
【0024】
ここで、環形成原子数とは、原子が環状に結合した構造(例えば単環、縮合環、環集合)を有する化合物において、環自体を構成する原子の数を表す。環を構成しない原子(例えば環を構成する原子の結合手を終端する水素原子)や、環が置換基によって置換される場合、該置換基に含まれる原子は環形成原子数には含まない。例えば、カルバゾリル基は、環形成原子数が13である。
【0025】
芳香族複素環基を構成する芳香族複素環としては、特に限定されないが、具体的には、
ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、
キノキサリン、キナゾリン、ナフチリジン、アクリジン、フェナジン、ベンゾキノリン、ベンゾイソキノリン、フェナンスリジン、フェナントロリン、ベンゾキノン、クマリン、アントラキノン、フルオレノン、フラン、チオフェン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、インダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイソチアゾール、イミダゾリノン、ベンズイミダゾリノン、イミダゾピリジン、イミダゾピリミジン、イミダゾフェナンスリジン、ベンズイミダゾフェナンスリジン、アザジベンゾフラン、アザカルバゾール、アザジベンゾチオフェン、ジアザジベンゾフラン、ジアザカルバゾール、ジアザジベンゾチオフェン
キサントン、チオキサントン等が挙げられる。
【0026】
また、Eにおける他の置換基としては、特に限定されないが、例えば、重水素原子、置換されたもしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基、置換されたもしくは無置換の炭素数1~30のアルコキシ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30のアリールオキシ基、置換されたもしくは無置換の炭素数1~30のアミノ基、シアノ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基が挙げられる。
【0027】
Eにおいて、他の置換基を構成し得る炭素数1~30のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~30の直鎖又は分岐状のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、1,3-ジメチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、1,4-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2-メチル-1-イソプロピルプロピル基、1-エチル-3-メチルブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチル-1-イソプロピルブチル基、2-メチル-1-イソプロピル基、1-tert-ブチル-2-メチルプロピル基、n-ノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、イソデシル基、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基、n-ヘンエイコシル基、n-ドコシル基、n-トリコシル基、n-テトラコシル基などが挙げられる。これらのうち、炭素数1~8の直鎖若しくは分岐状のアルキル基が好ましい。
【0028】
Eにおいて、他の置換基を構成し得る炭素数1~30のアルコキシ基としては、特に限定されないが、例えば炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルコキシ基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、3-エチルペンチルオキシ基などが挙げられる。これらのうち、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐状のアルコキシ基が好ましい。
【0029】
Eにおいて、他の置換基を構成し得る炭素数6~30のアリールオキシ基としては、特に限定されないが、例えば、ヘテロ原子を含んでよい炭素数6~30の単環または縮合多環アリールオキシ基である。具体的には、フェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基、2-アズレニルオキシ基、2-フラニルオキシ基、2-チエニルオキシ基、2-インドリルオキシ基、3-インドリルオキシ基、2-ベンゾフリルオキシ基、2-ベンゾチエニルオキシ基等が挙げられる。
【0030】
Eにおいて、他の置換基を構成し得る炭素数1~30のアミノ基としては、特に限定されないが、例えば炭素数1~30の直鎖または分岐状のアルキルアミノ基である。具体的には、N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N-プロピルアミノ基、N-イソプロピルアミノ基、N-ブチルアミノ基、N-イソブチルアミノ基、N-sec-ブチルアミノ基、N-tert-ブチルアミノ基、N-ペンチルアミノ基、N-ヘキシルアミノ基等のN-アルキルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N-メチル-N-エチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N,N-ジプロピルアミノ基、N,N-ジイソプロピルアミノ基、N,N-ジブチルアミノ基、N,N-ジイソブチルアミノ基、N,N-ジペンチルアミノ基、N,N-ジヘキシルアミノ基等のN,N-ジアルキルアミノ基が挙げられる。
【0031】
Eにおいて、他の置換基を構成し得る炭素数6~30の芳香族炭化水素環基および環形成原子数3~30の芳香族複素環基は、Eを構成し得る芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基と同様の定義であるため、説明を省略する。
【0032】
また、R1は、一方のカルバゾール環(上記一般式(1)の左側に位置するカルバゾール環)の窒素原子に結合するフェニル基において、一方のカルバゾール環に対してオルト位に結合している。なお、R1を構成し得る芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基は、上述のEを構成し得る芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基と同様の定義であるため、説明を省略する。
【0033】
Gは、水素原子、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、好ましくは置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であり、より好ましくは置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基である。
【0034】
Gは、一般式(1)中の二つのカルバゾール環のうち一方のカルバゾール環に、Eに対してオルト位に結合している。なお、Gを構成し得る置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基は、上述のEを構成し得る芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基と同様の定義であるため、説明を省略する。
【0035】
また、上記一般式(1)において、R2は、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基である。R2は、他方のカルバゾール環(上記一般式(1)の右側に位置するカルバゾール環)に結合している。なお、R2を構成し得る芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基は、上述のEを構成し得る芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基と同様の定義であるため、説明を省略する。
【0036】
また、上記一般式(1)において、A1~A4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基である。
【0037】
A1~A4のうち、A1、A2は、一方のカルバゾール環の窒素原子に結合するフェニル基に結合し、A3、A4は、他方のカルバゾール環の窒素原子に結合するフェニル基に結合している。なお、A1~A4を構成し得る水素原子、重水素原子、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基は、上述のEを構成し得る水素原子、重水素原子、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基と同様の定義であるため、説明を省略する。
【0038】
また、上記一般式(1)において、Lは、単結合、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基である。なお、Lを構成し得る芳香族炭化水素環基および芳香族複素環基は、上述のEを構成し得る芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基と同様の定義であるため、説明を省略する。
【0039】
ここで、Lが単結合である場合は、一般式(1)中の二つのカルバゾール骨格が直接結合することを示す。また、Lが上述の芳香族炭化水素環基または芳香族複素環基の場合は、一般式(1)中の二つのカルバゾール骨格が、上述の芳香族炭化水素環基または芳香族複素環基を介して結合することを示す。
【0040】
上記一般式(1)において、nは、0または1の整数である。なお、nが0の場合は、Lが単結合である(一般式(1)中の二つのカルバゾール骨格が直接結合する)ことを示す。nが1の場合は、Lが上述の芳香族炭化水素環基または芳香族複素環基であることを示す。
【0041】
また、nが0のとき、上述のEは水素原子または重水素原子である。すなわち、nが0の場合、Eは置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基ではない。
【0042】
上記一般式(1)で示される化合物では、二つのカルバゾール骨格の下記一般式(1)の点線で示す部分(以下ビカルバゾール平面という)にHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital、最高被占軌道)の大部分が分布する。その上で、上記一般式(1)で示される化合物では、ビカルバゾール平面の周囲に、E、R1、R2が配置されている。これにより、上記一般式(1)で示される化合物では、HOMOが分布するビカルバゾール平面に対して、周囲に存在する同種分子または異種分子との相互作用を抑制することができる。
【0043】
【0044】
そのため、本実施形態に係る化合物は、溶媒に対して溶解性(溶解度)が高い。また、本実施形態に係る化合物は、湿式成膜法により有機EL素子の成膜を行う場合に、有機分子の凝集による膜質の低下を抑制することができる。具体的には、複数の有機分子が凝集することで分子軌道が単分子状態よりも拡大されるなどして、単分子状態の時とは異なるHOMO、LUMO、S1、T1等のエネルギー準位を形成する可能性がある。そして、それらのエネルギー準位は、キャリアのトラップや励起子の失活などの悪影響をもたらす可能性が高い。したがって、本実施形態に係る化合物は、溶液塗布法(以下、塗布法という)により有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した場合でも、凝集を抑制し、有機エレクトロルミネッセンス素子の性能(例えば、正孔輸送性)を維持することができる。
【0045】
また、本実施形態に係る化合物は、上記一般式(1)において、A1、A2のいずれか1つ、および/または、A3、A4のいずれか1つが置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基である。すなわち、A1、A2のいずれか、または、A3、A4のいずれかから選択される一つ以上の置換基が、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基である。
【0046】
このように、A1、A2のいずれか1つ、および/または、A3、A4のいずれか1つが、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であると、化合物の励起子安定性(光化学的安定性)を高めることができ、発光寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【0047】
さらに、A1、A2のいずれか1つが、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基であり、なおかつ、A3、A4のいずれか1つが、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基であることが化合物の励起子安定性(光化学的安定性)をより高めることができる点で、好ましい。
【0048】
また、本実施形態に係る化合物は、上記一般式(1)において、n=0の場合には、Eは置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基ではない。このような態様となることで高い溶解度を維持することができる。
【0049】
なお、n=0の場合にEが置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基であると、溶解度が低下する理由は、分子内でGとR2が相互作用しているためであると考えられる。一方、n=1の場合には、溶解度の低下がみられないことから、n=0の場合に限り、溶解度の観点から、Eの選択を制限する必要があると考えられる。
【0050】
このようにR1、R2が、上述の芳香族炭化水素環基または芳香族複素環基であれば、HOMOが分布するビカルバゾール平面に対する同種分子または異種分子の相互作用をさらに抑制することができる。これにより、塗布法により作製した有機エレクトロルミネッセンス素子の性能(例えば、正孔輸送性)を向上させることができる。その結果、電流効率、発光寿命により優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【0051】
また、このようにGが上述の芳香族炭化水素環基または芳香族複素環基であれば、最低励起三重項エネルギー(T1エネルギーともいう)の低下を抑制しつつ、π共役効果によりHOMOが拡張される。そのため、上記一般式(1)で表される化合物の正孔に対する安定性を高めることができ、あるいは、光化学的安定性を高めることができ、その結果、発光効率と発光寿命により優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【0052】
また、本実施形態に係る化合物は、上記一般式(1)において、Lが、単結合であることが好ましい。すなわち、一般式(1)中の二つのカルバゾール環が直接結合する(上記一般式(1)においてnが0である)のが好ましい。この場合、本実施形態に係る化合物では、一般式(1)中の二つのカルバゾール環が3,3'-ビカルバゾール(3,3'-Bicarbazole)骨格を構成することができる。
【0053】
ビカルバゾール平面をこのような3,3'-ビカルバゾール(3,3'-Bicarbazole)骨格で構成することにより、上記一般式(1)の化合物中に安定なHOMOを構成することができる。そのため、塗布法により作製した有機エレクトロルミネッセンス素子の性能(例えば、正孔輸送性)をさらに向上させることができる。その結果、電流効率、発光寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を確実に提供することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る化合物は、上記一般式(1)において、Lが、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基であることが好ましい。この場合、本実施形態に係る化合物では、一般式(1)中の二つのカルバゾール環が、上記芳香族炭化水素環基を介してパラ位に結合している。
【0055】
本実施形態に係る化合物では、このような二つのカルバゾール環が上記芳香族炭化水素環基を介してパラ位に結合する構造にすることで、π共役長が伸び、HOMOが分布するビカルバゾール平面を広くすることができる。これにより、上記一般式(1)の化合物中のHOMO領域が広くなる。そのため、塗布法により作製した有機エレクトロルミネッセンス素子の性能(例えば、正孔輸送性)をさらに向上させることができる。その結果、電流効率、発光寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を確実に提供することができる。
【0056】
本実施形態に係る化合物としては、具体的に、以下の化合物1~154が挙げられる。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
上記一般式(1-1)~(1-136)に例示される本実施形態の化合物によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子を塗布法により作製した場合でも、正孔輸送性を高めて、電流効率および発光寿命を向上させることができる。
【0077】
<化合物の製造方法>
上記一般式(1)で表される化合物の製造方法は、特に限定されず、公知の合成方法を含む種々の製造方法を用いることができる。ただし、一般式(1)の化合物を確実に得る観点から、本実施形態に係る化合物の製造方法は、下記一般式(2)で表される化合物と、下記一般式(3)で表される化合物とを反応させることを含む。
【0078】
【化23】
(上記一般式(2)中、X
1及びX
2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子である。)
【0079】
【化24】
(上記一般式(3)中、X
3が、ハロゲン原子である。)
【0080】
上記一般式(2)において、X1及びX2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子を示すが、互いに異なるハロゲン原子であることが好ましい。X1及びX2は、それぞれ独立して、好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子から選ばれ、より好ましくは塩素原子、臭素原子から選ばれる。
【0081】
また、上記一般式(3)において、X3は、ハロゲン原子である。ここで、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子またはアスタチン原子を示す。
【0082】
上記一般式(2)で表される化合物を中間体として用いる好ましい反応形態としては、例えば、フッ素化ビフェニルを用いた芳香族求核置換反応(SNAr反応やイプソ攻撃反応(ipso attack reaction)ともいう)や、ヨウ化ビフェニルを用いたウルマン反応等を利用して、一般式(2)のカルバゾールの窒素が有する水素原子を芳香族環または芳香族複素環に置換する反応を挙げることができる。
【0083】
従来、カルバゾールの3位、5位、9位にそれぞれ異なる置換基を導入する場合には、カルバゾール環部分の構築を伴う必要があり、合成段階が4段階以上と長かった。したがって、カルバゾールの3位、5位、9位にそれぞれ異なる置換基を有する化合物を合成しようとする場合に、1番目の置換基を導入してから3番目の置換基が導入されるまでの段階数が4段階以上と長かった。これは、例えば、研究等の目的で3つの置換基をそれぞれ変化させた化合物を多種類合成しようとする場合に合成の労力の面で不利である。
【0084】
上記一般式(2)において、X1=Br、X2=Clである中間体を用いれば、カルバゾールの3位、5位、9位にそれぞれ異なる置換基を段階的に位置選択的に導入する場合に、副反応を抑制して高純度または高収率で合成することが可能であり、また、合成段階を短縮することができる。これにより3位、5位、9位にそれぞれ異なる置換基を有するカルバゾール化合物の合成容易性、高収率化、高純度化、低コスト化が可能となる。
【0085】
一般式(2)で表される化合物は、一つのカルバゾール環を有し、該カルバゾール環の3位の炭素原子にX1が結合し、同5位の炭素原子にX2が結合している。なお、上記一般式(2)において、X1及びX2が結合していないカルバゾール環の炭素原子に結合する水素原子は、他の置換基で置換されていてもよい。
【0086】
上記一般式(2)で表される化合物における他の置換基としては、特に限定されないが、例えば、重水素原子、置換されたもしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基、置換されたもしくは無置換の炭素数1~30のアルコキシ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30のアリールオキシ基、置換されたもしくは無置換の炭素数1~30のアミノ基、シアノ基、置換されたもしくは無置換の炭素数6~30の芳香族炭化水素環基、または置換されたもしくは無置換の環形成原子数3~30の芳香族複素環基が挙げられる。なお、上記一般式(2)の化合物において他の置換基を構成し得る重水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基は、R1を構成し得る重水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基と同様の定義であるため、ここでは説明を省略する。
【0087】
また、上記一般式(3)で表される化合物は、ハロゲン化ビフェニルである。一般式(3)で表される化合物のX3が結合するベンゼン環において、X3の結合位置は、特に限定されない。ただし、上記一般式(1)で表される化合物を確実に得る観点から、X3の結合位置は、X3が結合していないフェニル基に対して、メタ位またはパラ位であることが好ましい。
【0088】
なお、上記一般式(3)において、X3が結合していないハロゲン化ビフェニルの炭素原子に結合する水素原子は、他の置換基で置換されていてもよい。ここで、上記一般式(3)で表される化合物における他の置換基は、上記一般式(2)で表される化合物における他の置換基と同様の定義であるため、説明を省略する。
【0089】
本実施形態に係る化合物の製造方法は、上記一般式(2)で表される化合物と上記一般式(3)で表される化合物とを反応させることを含むことで、上記一般式(1)で表される化合物を確実に得ることができる。そのため、本実施形態に係る化合物の製造方法によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子を湿式塗布法により作製した場合でも、電流効率および発光寿命を維持または向上させることができる化合物を得ることができる。
【0090】
また、本実施形態に係る化合物の製造方法では、一般式(1)で表される化合物をより確実に得る観点から、下記一般式(2)で表される化合物は、下記一般式(2-1)または(2-2)で表される化合物であることが好ましい。
【0091】
【0092】
上記一般式(2-1)または(2-2)で表される化合物では、X1及びX2を構成するハロゲン原子が、それぞれ独立に、塩素原子または臭素原子である。具体的には、一般式(2-1)で表される化合物は、カルバゾール環の3位の炭素原子に結合するX1が臭素原子で構成され、同5位の炭素原子に結合するX2が塩素原子で構成されている。また、一般式(2-2)で表される化合物は、カルバゾール環の3位の炭素原子に結合するX1が塩素原子で構成され、同5位の炭素原子に結合するX2が臭素原子で構成されている。
【0093】
また、見方を変えると、上記一般式(2)で表される化合物は、上記一般式(1)で表される化合物を得るための中間体(または前駆体)となり得る。したがって、上記一般式(2)で表される化合物は、有機エレクトロルミネッセンス素子を湿式塗布法により作製した場合でも、電流効率および発光寿命を維持または向上させることができる化合物を確実に得ることができる観点からも、有用である。
【0094】
<有機エレクトロルミネッセンス素子用材料>
本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用材料(以下、有機EL素子用材料という)は、上記一般式(1)で表される化合物を含んでいる。上記一般式(1)で表される化合物は、上述のように溶媒への高い溶解性(溶解度)を示すとともに、分子の凝集が抑制されることで、湿式塗布法においても良質の薄膜を作製することができる。また、上記一般式(1)で表される化合物は、高い正孔輸送性を有している。したがって、上記一般式(1)で表される化合物を含む有機EL素子用材料は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層および発光層の材料として使用可能である。
【0095】
これにより、上記一般式(1)で表される化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子は、湿式塗布法により作製した場合でも、電流効率および発光寿命を向上させることができる。そのため、上記一般式(1)で表される化合物は、有機EL素子用材料として使用することができる。
【0096】
すなわち、本実施形態は、上記一般式(1)で表される化合物を含む有機EL素子用材料を提供することができる。したがって、上記一般式(1)で表される化合物を含む有機EL素子用材料によっても、電流効率、発光寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を塗布法により作製することができる。
【0097】
<有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物>
本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物(以下、有機EL素子用組成物という)は、例えば、有機EL素子の各層を溶液塗布法により形成するために用いられる。
【0098】
本実施形態に係る有機EL素子用組成物は、上記一般式(1)で表される化合物と、溶媒とを含む。このような有機EL素子用組成物は、本実施形態に係る有機EL素子用材料と溶媒とを含んで構成することができる。
【0099】
溶媒としては、特に限定されないが、上述した有機EL素子用材料を溶解可能であることが好ましい。すなわち、有機EL素子用組成物は、溶液組成物であることが好ましい。なお、本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子用組成物は、本発明に係るエレクトロルミネッセンス素子用組成物の一例である。
【0100】
有機EL素子用組成物に含まれる溶媒は、特に限定されないが、例えば、トルエン(toluene)、キシレン(xylene)、エチルベンゼン(ethylbenzene)、ジエチルベンゼン(diethylbenzene)、メチシレン(mesitylene)、プロピルベンゼン(propylbenzene)、シクロヘキシルベンゼン(cyclohexylbenzene)、ジメトキシベンゼン(dimethoxybenzene)、アニソール(anisole)、エトキシトルエン(ethoxy toluene)、フェノキシトルエン(phenoxytoluene)、イソプロピルビフェニル(isopropylbiphenyl)、ジメチルアニソール(dimethylanisole)、酢酸フェニル(phenyl acetate)、プロピオン酸フェニル(phenyl propionic acid)、安息香酸メチル(methyl benzoate)、安息香酸エチル(ethyl benzoate)等が挙げられる。
【0101】
有機EL素子用組成物中における有機EL素子用材料の濃度は、特に限定されず、用途に応じて適宜調整可能である。ただし、塗布容易性等の観点から、有機EL素子用組成物中における一般式(1)で表される化合物の濃度は、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%~5質量%である。
【0102】
<有機エレクトロルミネッセンス素子>
以下、
図1を参照して、本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子について、詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す模式図である。なお、本明細書において、「有機エレクトロルミネッセンス素子」は「有機EL素子」と省略する場合がある。
【0103】
図1に示すように、本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)100は、基板110と、基板110上に配置された第1電極120と、第1電極120上に配置された正孔注入層130と、正孔注入層130上に配置された正孔輸送層140と、正孔輸送層140上に配置された発光層150と、発光層150上に配置された電子輸送層160と、電子輸送層160上に配置された電子注入層170と、電子注入層170上に配置された第2電極180とを備える。
【0104】
ここで、本実施形態の一般式(1)で表される化合物は、例えば、第1電極120と第2電極180との間に配置されたいずれかの有機層中に含まれる。具体的には、一般式(1)で表される化合物は、正孔輸送性に優れる観点から、正孔注入材料として正孔注入層130、正孔輸送材料として正孔輸送層140、発光層材料(ホスト)として発光層150に含まれることが好ましく、より好ましくは、正孔輸送層または発光層150に含まれ、さらに好ましくは、発光層150に含まれる。
【0105】
また、本実施形態の一般式(1)で表される化合物を含む有機層は、塗布法によって形成される。具体的には、一般式(1)で表される化合物を含む有機層は、スピンコート(spin coat)法、キャスティング(casting)法、マイクログラビアコート(micro gravure coat)法、グラビアコート(gravure coat)法、バーコート(bar coat)法、ロールコート(roll coat)法、ワイアーバーコート(wire bar coat)法、ディップコート(dip coat)法、スプレーコート(spry coat)法、スクリーン(screen)印刷法、フレキソ(flexographic)印刷法、オフセット(offset)印刷法、インクジェット(ink jet)印刷法等の溶液塗布法を用いて成膜することができる。
【0106】
溶液塗布法に使用する溶媒は、一般式(1)で表される化合物を溶解することができるものであれば、どのような溶媒でも使用することができる。このような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メチシレン、プロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ジメトキシベンゼン、アニソール、エトキシトルエン、フェノキシトルエン、イソプロピルビフェニル、ジメチルアニソール、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル等が挙げられる。また、溶媒の使用量は、特に制限されないが、塗布容易性等の観点から、一般式(1)で表される化合物の濃度が、好ましくは0.1質量%~10質量%、より好ましくは0.5質量%~5質量%である。
【0107】
なお、一般式(1)で表される化合物を含む有機層以外の層の成膜方法については、特に限定されない。このような有機層以外の層は、例えば、真空蒸着法にて成膜されてもよく、溶液塗布法にて成膜されてもよい。
【0108】
基板110は、一般的な有機EL素子で使用される基板を使用することができる。例えば、基板110は、ガラス(glass)基板、シリコン(silicon)基板などの半導体基板、プラスチック(plastic)基板等であってもよい。
【0109】
基板110上には、第1電極120が形成される。第1電極120は、具体的には、陽極であり、金属、合金、または導電性化合物等のうち仕事関数(物質内にある電子を一個外へ取り出すのに必要な最小エネルギー)が大きいものによって形成される。例えば、第1電極120は、透明性および導電性に優れる酸化インジウムスズ(In2O3-SnO2:ITO)、酸化インジウム亜鉛(In2O3-ZnO)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)等によって透過型電極として形成されてもよい。また、第1電極120は、上記透明導電膜に対して、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)などを積層することによって反射型電極として形成されてもよい。
【0110】
第1電極120上には、正孔注入層130が形成される。正孔注入層130は、第1電極120からの正孔の注入を容易にする層であり、具体的には、約10nm~約1000nm、より具体的には、約10nm~約100nmの厚さで形成されてもよい。
【0111】
正孔注入層130は、公知の正孔注入材料で形成することができる。正孔注入層130を形成する公知の正孔注入材料としては、例えば、トリフェニルアミン含有ポリエーテルケトン(poly(ether ketone)-containg triphenylamine:TPAPEK)、4-イソプロピル-4'-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(4-isopropyl-4'-methyldiphenyliodonium tetrakis(pentafluorophenyl)borate:PPBI)、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス-[4-(フェニル-m-トリル-アミノ)-フェニル]-ビフェニル-4,4'-ジアミン(N,N'-diphenyl-N,N'-bis-[4-(phenyl-m-tolyl-amino)-phenyl]-biphenyl-4,4'-diamine:DNTPD)、銅フタロシアニン(copper phthalocyanine)、4,4',4"-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(4,4',4"-tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylamine:m-MTDATA)、N,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニルベンジジン(N,N'-di(1-naphthyl)-N,N'-diphenylbenzidine:NPB)、4,4',4"-トリス(ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(4,4',4"-tris(diphenylamino)triphenylamine:TDATA)、4,4',4"-トリス(N,N-2-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(4,4',4"-tris(N,N-2-naphthylphenylamino)triphenylamine:2-TNATA)、ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸(polyaniline/dodecylbenzenesulphonic acid)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホネート)(poly(3,4-ethylenedioxythiophene)/poly(4-styrenesulfonate):PEDOT/PSS)、およびポリアニリン/10-カンファースルホン酸(polyaniline/10-camphorsulfonic acid)等を挙げることができる。
【0112】
正孔注入層130上には、正孔輸送層140が形成される。正孔輸送層140は、正孔を輸送する機能を備えた層であり、例えば、約10nm~150nmの厚さで形成されてもよい。正孔輸送層140は、本実施形態の化合物を用いて溶液塗布法により成膜されることが好ましい。この方法によれば、有機EL素子100の電流効率および駆動寿命を向上させることが可能な化合物を効率的に大面積にて成膜することができる。
【0113】
ただし、有機EL素子100のいずれかの他の有機層が本実施形態の化合物を含む場合、正孔輸送層140は、公知の正孔輸送材料で形成されてもよい。公知の正孔輸送材料としては、例えば、1,1-ビス[(ジ-4-トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(1,1-bis[(di-4-tolylamino)phenyl]cyclohexane:TAPC)、N-フェニルカルバゾール(N-phenylcarbazole)およびポリビニルカルバゾール(polyvinylcarbazole)などのカルバゾール(carbazole)誘導体、N,N'-ビス(3-メチルフェニル)-N,N'-ジフェニル-[1,1-ビフェニル]-4,4'-ジアミン(N,N'-bis(3-methylphenyl)-N,N'-diphenyl-[1,1-biphenyl]-4,4'-diamine:TPD)、4,4',4"-トリス(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(4,4',4"-tris(N-carbazolyl)triphenylamine:TCTA)、ならびにN,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニルベンジジン(N,N'-di(1-naphthyl)-N,N'-diphenylbenzidine:NPB)等を挙げることができる。
【0114】
正孔輸送層140上には、発光層150が形成される。発光層150は、蛍光、りん光等によって光を発する層である。発光層150は、例えば、約10nm~約60nmの厚さで形成されてもよい。発光層150の発光材料としては、公知の発光材料を用いることができる。ただし、発光層150に含まれる発光材料は、三重項励起子からの発光(すなわち、りん光発光)が可能な発光材料であることが好ましい。このような場合、有機EL素子100の電流効率および発光寿命をさらに向上させることができる。
【0115】
また、発光層150は、本実施形態に係る有機EL素子用材料を用いて溶液塗布法によって成膜することができる。また、本実施形態では、このような溶液塗布法により、有機EL素子100の電流効率および発光寿命を向上させることが可能な一般式(1)で表される化合物を含む発光層150を効率的に大面積にて成膜することができる。
【0116】
ただし、有機EL素子100のいずれかの他の有機層が本実施形態に係る一般式(1)で表される化合物を含む場合、発光層150は、公知の材料によって構成されてもよい。
【0117】
発光層150を構成する公知の材料のうち、ホスト材料として、例えば、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(tris(8-quinolinato)aluminium:Alq3)、4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(4,4'-bis(carbazol-9-yl)biphenyl:CBP)、ポリ(n-ビニルカルバゾール)(poly(n-vinylcarbazole):PVK)、9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン(9,10-di(naphthalene)anthracene:ADN)、4,4',4"-トリス(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(4,4',4"-tris(N-carbazolyl)triphenylamine:TCTA)、1,3,5-トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン(1,3,5-tris(N-phenyl-benzimidazol-2-yl)benzene:TPBI)、3-tert-ブチル-9,10-ジ(ナフト-2-イル)アントラセン(3-tert-butyl-9,10-di(naphth-2-yl)anthracene:TBADN)、ジスチリルアリーレン(distyrylarylene:DSA)、4,4'-ビス(9-カルバゾール)-2,2'-ジメチル-ビフェニル(4,4'-bis(9-carbazole)2,2'-dimethyl-bipheny:dmCBP)などを含んでもよい。
【0118】
また、発光層150は、ドーパント材料として、例えば、ペリレン(perylene)およびその誘導体、ルブレン(rubrene)およびその誘導体、クマリン(coumarin)およびその誘導体、4-ジシアノメチレン-2-(p-ジメチルアミノスチリル)-6-メチル-4H-ピラン(4-dicyanomethylene-2-(pdimethylaminostyryl)-6-methyl-4H-pyran:DCM)およびその誘導体、ビス[2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジネート]ピコリネートイリジウム(III)(bis[2-(4,6-difluorophenyl)pyridinate]picolinate iridium(III):FIrpic)、ビス(1-フェニルイソキノリン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)(bis(1-phenylisoquinoline)(acetylacetonate)iridium(III):Ir(piq)2(acac))、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(tris(2-phenylpyridine)iridium(III):Ir(ppy)3)、トリス(2-(3-p-キシイル)フェニル)ピリジン イリジウム(III)などイリジウム(Ir)錯体、オスミウム(Os)錯体、白金錯体などを含んでもよい。
【0119】
また、発光層150は、発光材料として量子ドットなどのナノ粒子を含んでよい。量子ドットは、I-VI族系列の半導体、III-V族系列の半導体またはIV-IV族系列の半導体で構成されるナノ粒子である。上記半導体の例として、CdS、CdSe、CdTe、ZnSe、ZnS、PbS、PbSe、HgS、HgSe、HgTe、CdHgTe、CdSeXTe1-X、GaAs、InAsおよびInPなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
また、ナノ粒子の直径は、特に限定されないが、例えば、1~20nmであることができる。また、量子ドット等のナノ粒子は、単一コア構造を有していてもよいし、コアの表面上にシェルが被覆された、いわゆるコア/シェル構造を有していてもよい。
【0121】
発光層150上には、電子輸送層160が形成される。電子輸送層160は、電子を輸送する機能を備えた層である。電子輸送層160は、例えば、約15nm~約50nmの厚さで形成されてもよい。
【0122】
電子輸送層160は、公知の電子輸送材料にて形成されてもよい。公知の電子輸送材料としては、例えば、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(tris(8-quinolinato)aluminium:Alq3)、および含窒素芳香環を有する化合物等を挙げることができる。含窒素芳香環を有する化合物の具体例としては、例えば、1,3,5-トリ[(3-ピリジル)-フェン-3-イル]ベンゼン(1,3,5-tri[(3-pyridyl)-phen-3-yl]benzene)のようなピリジン(pyridine)環を含む化合物、2,4,6-トリス(3'-(ピリジン-3-イル)ビフェニル-3-イル)-1,3,5-トリアジン(2,4,6-tris(3'-(pyridin-3-yl)biphenyl-3-yl)-1,3,5-triazine)のようなトリアジン(triazine)環を含む化合物、2-(4-(N-フェニルベンゾイミダゾリル-1-イル-フェニル)-9,10-ジナフチルアントラセン(2-(4-(N-phenylbenzoimidazolyl-1-yl-phenyl)-9,10-dinaphthylanthracene)のようなイミダゾール(imidazole)環を含む化合物等を挙げることができる。
【0123】
電子輸送層160上には、電子注入層170が形成される。電子注入層170は、第2電極180からの電子の注入を容易にする機能を備えた層である。電子注入層170は、約0.3nm~約20nmの厚さで形成されてもよい。電子注入層170は、特に限定されず、電子注入層170を形成する材料として公知の材料を使用することができる。例えば、電子注入層170は、(8-キノリノラト)リチウム((8-quinolinato)lithium:Liq)およびフッ化リチウム(LiF)等のリチウム(lithium)化合物、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化セシウム(CsF)、酸化リチウム(Li2O)、または酸化バリウム(BaO)等で形成されてもよい。
【0124】
電子注入層170上には、第2電極180が形成される。第2電極180は、具体的には、陰極であり、金属、合金、または導電性化合物等のうち仕事関数が小さいものによって形成される。例えば、第2電極180は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)等の金属、またはアルミニウム-リチウム(Al-Li)、マグネシウム-インジウム(Mg-In)、マグネシウム-銀(Mg-Ag)等の合金で反射型電極として形成されてもよい。また、第2電極180は、上記金属材料の20nm以下の薄膜、酸化インジウムスズ(In2O3-SnO2)および酸化インジウム亜鉛(In2O3-ZnO)などの透明導電膜によって透過型電極として形成されてもよい。
【0125】
本実施形態に係る有機EL素子100は、一般式(1)で表される化合物を含む有機層を有することにより、電流効率、発光寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を塗布法により作製することができる。また、一般式(1)で表される化合物は、正孔輸送性に優れる観点から、発光材料を含む有機層(発光層)に用いることができる。なお、本実施形態に係る有機EL素子100は、本発明に係るエレクトロルミネッセンス素子の一例である。
【0126】
なお、本実施形態に係る有機EL素子100の積層構造は、上記の例示に限定されない。本実施形態に係る有機EL素子100は、他の公知の積層構造にて形成されてもよい。例えば、有機EL素子100は、正孔注入層130、正孔輸送層140、電子輸送層160および電子注入層170のうちの1層以上が省略されてもよく、また、追加で他の層を備えていてもよい。また、有機EL素子100の各層は、それぞれ単層で形成されてもよく、複数層で形成されてもよい。
【0127】
例えば、有機EL素子100は、励起子または正孔が電子輸送層160に拡散することを防止するために、発光層150と電子輸送層160との間に正孔阻止層をさらに備えていてもよい。なお、正孔阻止層は、例えば、オキサジアゾール(oxadiazole)誘導体、トリアゾール(triazole)誘導体、または、フェナントロリン(phenanthroline)誘導体等によって形成することができる。
【実施例】
【0128】
以下、本発明について、さらに詳細な実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これら実施例に限定されない。以下において、「%」は、特に断りのない限り、重量基準である。また、試験および評価は、下記に従った。
【0129】
<溶解度の測定>
サンプル固体試料50mgを無色透明のサンプル瓶に入れ、溶媒を500mg入れて室温にて超音波照射を5分間行い、目視にてサンプル固体の残存有無を確認した。この時点でサンプル固体の残存が無く溶解していれば溶解度は10wt%以上となる。サンプル固体の残存が有れば、少量づつ溶媒追加と超音波照射を繰り返し、完全に溶解した時点での溶媒量から溶解度を算出した。結果を表1に示す。
【0130】
<光化学的安定性の評価>
光化学的安定性(Photo Chemical Stability)は、以下の条件で評価した。
【0131】
[測定用サンプルの作成]
水分濃度1ppm以下、酸素濃度1ppm以下の窒素雰囲気グローブボックス中で、石英基板上に塗布法により、固形分比率として評価ホスト材料:緑色燐光発光材料TEG=100重量%:5重量%、固形分インク濃度4重量%の安息香酸メチル(Methyl benzoate)溶液から、膜厚50nmの薄膜層を形成し、真空度1×10-3Paにて120℃で15分間処理した。真空蒸着機に搬送し、この膜上に直径2mmの円形の、膜厚100nmのアルミニウム薄膜を、メタルマスクを用いて真空蒸着により形成した。これを乾燥剤付きのガラス製の封止管と紫外線硬化型樹脂を用いて封止して測定用サンプルとした。
【0132】
[測定系]
測定系は、主に以下の2つから構成される。
【0133】
1.フォトルミネッセンス(PL)強度測定系
2.UV照射劣化系
【0134】
1.フォトルミネッセンス(PL)強度測定系
高出力UV-Visファイバ光源ユニット(浜松ホトニクス社製 L10290)と紫外透過可視吸収フィルタ(駿河精機製、S76-U340)を用いて、波長が250nm以下の光と400nm以上の光を除去した光を励起光源として用いた。受光器は、小型ファイバ光学分光器(オーシャンフォトニクス社製、USB2000+UV-VIS)を用いた。測定時、サンプル基板は石英基板側の正面から20℃以上傾いた角度から上述のアルミニウムで被覆されたサンプル膜測定部位に正確に励起光が入射されるように設置した。励起光によってサンプル膜測定部位は、石英基板正面の半球方向に対して発光を放射し、受光器は、この発光を捕捉できる距離内で、且つ、石英基板による励起光の正反射を避ける位置に設置した。測定の都度、サンプルに照射される励起光強度を一定にするために、励起光源強度および光学系の幾何配置関係は一定に保たれるようにした。
【0135】
2.UV照射劣化系
極大発光波長365nmのUV-LED(CCS社製)を光源に用い、直径2mm、長さ75mmの合成石英製ライトパイプ(Edmund Optics社製、#65-829)を通じて照射口面内強度を均一化した光を劣化用励起光として用いた。励起光の全光束強度はデジタル電源(CCS社製、PD3-10024-8-PI)と光パワーメータ(ADCMT社製、8230E)を用いて制御した。励起光照射口とサンプル膜の石英基板側は位置合せした上で密着させた。石英基板側からサンプル膜に励起光を一定時間照射することで、サンプル膜が光学的に負荷を受けて劣化する。
【0136】
[励起光全光束強度10mWにおける光化学的劣化試験]
1段階目に上記1.のフォトルミネッセンス(PL)強度測定系を用いて、劣化前のサンプル薄膜のフォトルミネッセンス(PL)強度を測定した。2段階目に上記2.のUV照射劣化系を用いて、励起光の全光束強度を10mWにおいて、5分間の劣化用励起光照射を行い、その後に上記1.のフォトルミネッセンス(PL)強度測定系を用いて、5分間負荷を与えたサンプル薄膜のフォトルミネッセンス(PL)強度を測定した。以降、2段階目と同じ操作を繰り返すことにより、励起光負荷を与えた時間に対するサンプル薄膜のフォトルミネッセンス(PL)強度を測定した。
【0137】
[励起光全光束強度20mWにおける光化学的劣化試験]
励起光全光束強度を20mWに変更した以外は、上記励起光全光束強度10mWにおける光化学的劣化試験と同様に測定を行った。
【0138】
[励起光全光束強度50mWにおける光化学的劣化試験]
励起光全光束強度を50mWに変更した以外は、上記励起光全光束強度10mWにおける劣化試験と同様に測定を行った。
【0139】
[光化学的劣化試験の解析]
まず、上記の励起光全光束強度を各種変化させた光化学的劣化試験から得られた発光強度の減衰データをもとに、以下の対応関係を適用して、加速度係数aを調整することによって、励起光全光束強度に依存しない減衰曲線を求めた。
【0140】
縦軸:RI(t)=I(t)/I0
横軸:Xc=Ea×t
RI(t):励起光照射時間tにおける初期輝度に対するサンプル膜のフォトルミネッセンス強度比率
t:励起光照射時間
I(t):励起光照射時間tにおけるサンプル膜のフォトルミネッセンス強度
I0:励起光照射前のサンプル膜のフォトルミネッセンス強度
Xc:補正励起光積算強度
E:励起光全光束強度
a:加速度係数
【0141】
この解析によって得られた「励起光全光束強度に依存しない減衰曲線」から、RI(t)が0.9(発光強度が10%低下する)に達するのに要する補正励起光積算強度Xc90を、光化学的安定性の指標とした。なお、Xc90の数値が大きいほど、発光強度の劣化に大きなエネルギーが必要であり、劣化しにくいことを表す。表2に、Xc90の結果を相対値で示す。
【0142】
<成膜性の評価>
実施例および比較例に係る有機EL素子の成膜性を、以下の方法で評価した。酸化インジウムスズ(ITO)が膜厚150nmにて成膜されたITO付きガラス基板上に、市販TBF層を形成し、さらに得られた化合物の2質量%安息香酸メチル溶液より、膜厚が30nmになるようにスピンコート法にて塗布し、積層膜を形成した。得られた積層膜を125℃に加熱し、光学顕微鏡にて積層膜表面を観察し、膜の状態を評価した。なお、膜の状態は、以下に示す基準により評価した。
【0143】
○:均一で欠陥のない状態
△:不均一な点または領域が少数見えるが、素子を作製することが可能な状態
×:膜の連続性が確保できず、素子を作製することが不能な状態
【0144】
<有機EL素子評価方法>
[電流効率および耐久性(発光寿命)の評価]
実施例および比較例について、電流効率および耐久性(発光寿命)を以下の条件で評価した。まず、有機EL素子に印加する電圧・電流を直流定電圧電源(KEYENCE製、ソースメータ(source meter))を用いて測定し、有機EL素子の発光輝度を輝度測定装置(Topcon製、SR-3)を用いて測定した。
【0145】
有機EL素子の面積と電流値から単位面積あたりの電流値(電流密度)を計算し、輝度(cd/m2)を電流密度(A/m2)にて除算することで、電流効率(cd/A)を算出した。なお、電流効率は、電流を発光エネルギーへ変換する効率(変換効率)を示し、電流効率が高いほど有機EL素子の性能が高いことを示す。
【0146】
耐久性(発光寿命)は、各有機EL素子において初期輝度が6000cd/m2となる電流値において連続駆動し、時間経過とともに減衰する発光輝度が初期輝度の80%になるまでの時間(時間)を「LT80(h)」とした。
【0147】
<化合物の合成>
[合成例1]
下記反応スキーム(4)により、まず化合物14-1を合成した。
【0148】
【0149】
具体的には、窒素雰囲気下、5-bromo-2-nitroaniline(122g、562mmol)、H2SO4(122ml)、純水(3.1L)を混合して0℃に冷却し、NaNO2(42.7g、619mmol、1.1eq.)の水溶液(620ml)を1時間かけて滴下し、室温で3時間撹拌した。反応液を0℃に冷却し、KI(117g、705mmol、1.25eq.)水溶液(620ml)を1時間かけて滴下した後にCu powder(1.07g、16.8mmol、0.03eq.)を加えて70℃で3時間撹拌した。反応液を室温に冷却した後、CH2Cl2で抽出した。有機層を10%Na2S2O3水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した後、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:CH2Cl2=5:1)で精製し、黄色固体の化合物14-1を得た。化合物14-1の収量は116.1g、収率は63%であった。
【0150】
次いで、下記反応スキーム(5)により、化合物14-2を合成した。
【0151】
【0152】
具体的には、窒素雰囲気下、上記反応スキーム(4)で得られた化合物14-1(4-bromo-2-iodo-1-nitrobenzene)(231g、704mmol)、1,4-dioxane(2.3L)、2-chlorophenylboronic acid(132g、844mmol)、2MのK3PO4水溶液(704ml)、Pd(PPh3)4(24.4g、21.1mmol)を混合し、80℃で8時間撹拌した。反応液を室温に冷却し、H2Oを加え、酢酸エチルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した後、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:CH2Cl2=10:1)で精製し、黄色固体の化合物14-2を得た。化合物14-2の収量は210g、収率は95%であった。
【0153】
次いで、下記反応スキーム(6)により、化合物14-3を合成した。
【0154】
【0155】
具体的には、窒素雰囲気下、上記反応スキーム(5)で得られた化合物14-2(5-bromo-2'-chloro-2-nitro-1,1'-biphenyl)(225g、720mmol)、o-ジクロロベンゼン(2.3L)、PPh3(472g、1.8mol)を混合し、180℃で6時間撹拌した。室温に冷却した後、反応液を濃縮した。これをヘキサン:CH2Cl2=2:1混合溶媒に溶解させ、15cmほどの長さのシリカゲルパッドを用いて3回濾過を繰り返して原点不純物を除去し、濃縮した。これをヘキサン:CH2Cl2=2:1の混合溶媒500mlに分散させ、超音波処理を30分行った後、濾過して、化合物14-3を得た。化合物14-3の収量は67.1g、収率は33%であった。
【0156】
次いで、下記反応スキーム(7)により、化合物14-4を合成した。
【0157】
【0158】
具体的には、窒素雰囲気下、上記反応スキーム(6)で得られた化合物14-3(3-bromo-5-chloro-9H-carbazole)(28.06g、100mmol)、1,4-dioxane(100ml)、4-iodobiphenyl(30.81g、110mmol)、K3PO4(31.84g、150mmol)、CuI(0.95g、5mmol)、trans-1,2-diaminocyclohexane(1.71g、15mmol)を混合し、100℃で24時間撹拌した。反応液を室温に冷却し、トルエン300mlを加え、セライトを用いて濾過した。さらにシリカゲルパッドを用いて濾過し、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:CH2Cl2=9:1)で精製し、さらにヘキサンから再結晶を行い化合物14-4を得た。化合物14-4の収量は39.8g、収率は92%であった。
【0159】
次いで、下記反応スキーム(8)により、化合物14-5を合成した。
【0160】
【0161】
具体的には、窒素雰囲気下、カルバゾール(200.7g、1200mmol)、1,4-dibromo-2-fluorobenzene(335.2g、1320mmol)、N,N-dimethylformamide 480mlを三口フラスコに入れ混合し、アイスバスで冷却しながらNaH(パラフィン中62wt%分散)(NaH分28.8g、1200mmol)を水素ガスの発生量に注意して段階的に加え、150℃で12時間撹拌した。トルエン1Lで希釈し、少量のメタノールで失活した後にセライトを用いて濾過した。これを分液ロートを用いて純水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルパッドを用いて濾過後、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:CHCl3=8:2)で精製し、さらにヘキサンから再結晶を行い化合物14-5を得た。化合物14-5の収量は341.74g、収率は71%であった。
【0162】
次いで、下記反応スキーム(9)により、化合物14-6を合成した。
【0163】
【0164】
具体的には、窒素雰囲気下、上記反応スキーム(8)で得られた化合物14-5(9-(2,5-dibromophenyl)-9H-carbazole)(20.05g、50mmol)、フェニルボロン酸(13.41g、110mmol)、トルエン200ml、エタノール50ml、炭酸カリウムの2M水溶液(100ml)を三口フラスコに入れ混合し、Pd(PPh3)4(2.31g、2mmol)を加え、80℃で12時間撹拌した。トルエン(500ml)を加えて希釈し、室温まで冷却した後に分液ロートを用いて純水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルパッドを用いて濾過後、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:CHCl3=8:2)で精製し、さらにヘキサンから再結晶を行い化合物14-6を得た。化合物14-6の収量は12.7g、収率は64%であった。
【0165】
次いで、下記反応スキーム(10)により、化合物14-7を合成した。
【0166】
【0167】
具体的には、窒素雰囲気下、上記反応スキーム(9)で得られた化合物1-6(9-([1,1',4',1''-terphenyl]-2'-yl)-9H-carbazole)(12.6g、32mmol)、N,N-dimethylformamide160ml、CHCl3(160ml)を三口フラスコに入れて溶解させ、アイスバスで0℃に冷却しながらN,N-dimethylformamide32mlに溶解させたN-Bromosuccineimide(5.70g、32mmol)を10分かけて滴下し、その後、室温で12時間撹拌した。トルエン(500mlを加えて希釈し、分液ロートを用いて純水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルパッドを用いて濾過後、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:CHCl3=8:2)で精製し、さらにヘキサンから再結晶を行い化合物14-7を得た。化合物14-7の収量は13.4g、収率は88%であった。
【0168】
次いで、下記反応スキーム(11)により、化合物14-8を合成した。
【0169】
【0170】
具体的には、窒素雰囲気下、上記反応スキーム(10)で得られた化合物14-7(9-([1,1',4',1''-terphenyl]-2'-yl)-3-bromo-9H-carbazole)(13.3g、28mmol)、Bis(pinacolato)diboron(7.82g、30.8mmol)、酢酸カリウム(5.50g、56mmol)、N,N-dimethylformamide(140ml)、を三口フラスコに入れ混合し、Pd(dppf)Cl2(2.05g、2.8mmol)を加え、80℃で12時間撹拌した。トルエン300mlを加えて希釈して室温まで冷却した後にセライトを用い濾過し、分液ロートを用いて純水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルパッドを用いて濾過後、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:CH2Cl2=6:4)で精製し、さらにヘキサンから再結晶を行い化合物14-8を得た。化合物14-8の収量は11.5g、収率は79%であった。
【0171】
次いで、下記反応スキーム(12)により、化合物14-9を合成した。
【0172】
【0173】
具体的には、窒素雰囲気下、上記反応スキーム(11)で得られた化合物14-4(9-([1,1'-biphenyl]-4-yl)-3-bromo-5-chloro-9H-carbazole)(4.33g、10mmol)、化合物14-8(9-([1,1':4',1''-terphenyl]-2'-yl)-3-(4,4,5,5-tetramethyl-1,3,2-dioxaborolan-2-yl)-9H-carbazole(5.74g、11mmol)、トルエン100ml、エタノール20ml、炭酸カリウム2M水溶液(10ml)を三口フラスコに入れ混合し、Pd(PPh3)4(0.58g、0.5mmol)を加え、80℃で8時間撹拌した。純水100mlとメタノール200mlを加え、室温まで冷却した後に、析出固体をろ過で回収した。真空乾燥(50℃、6時間)を行った後に、トルエン(500ml)に加熱して試料を溶解させ、シリカゲルパッドを用いて濾過後、濃縮した。これをヘキサン:酢酸エチル=1:1の混合溶媒から2回再結晶して化合物14-9を得た。化合物14-9の収量は4.9g、収率は65%であった。
【0174】
次いで、下記反応スキーム(13)により、化合物14を合成した。
【0175】
【0176】
具体的には、窒素雰囲気下、上記反応スキーム(12)で得られた化合物14-9(9-([1,1'-biphenyl]-4-yl)-9'-([1,1',4',1''-terphenyl]-2'-yl)-5-chloro-9H,9'H-3,3'-bicarbazole)(4.9g、6.5mmol)、3-Biphenylboronic acid(1.54g、7.8mmol)、トルエン65ml、エタノール(13ml)、炭酸カリウムの2M水溶液(6.5ml)を三口フラスコに入れ混合し、Pd(OAc)2(73mg、0.325mmol)、S-Phos(213mg、0.52mmol)を加え、80℃で12時間撹拌した。トルエン300mlを加えて希釈し、室温まで冷却した後に分液ロートを用いて純水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルパッドを用いて濾過後、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:トルエン=7:3)で精製し、さらにヘキサン:酢酸エチル=1:1の混合溶媒から3回再結晶して化合物14を得た。化合物14の収量は3.71g、収率は66%であった。
【0177】
[合成例2]
下記反応スキーム(14)に変更し、対応する試薬を変更した以外は、合成例1と同様に、化合物15-1を得た。
【0178】
【0179】
上記反応スキーム(14)で得られた化合物14-4を用い、下記反応スキーム(15)に変更し、対応する試薬を変更した以外は、合成例1と同様に、化合物15を得た。
【0180】
【0181】
下記反応スキーム(16)により、化合物145-1を合成した。
【0182】
【化38】
具体的には、窒素雰囲気下、前述の反応スキーム(15)で得られた化合物15-5(9-([1,1'-biphenyl]-3-yl)-3-bromo-5-chloro-9H-carbazole)(9.52g、22mmol)、1,4-bis(4,4,5,5-tetramethyl-1,3,2-dioxaborolan-2-yl)benzene(3.30g、10mmol)、トルエン200ml、エタノール20ml、炭酸カリウム2M水溶液(20ml)を三口フラスコに入れ混合し、Pd(PPh
3)
4(0.58g、0.5mmol)を加え、80℃で8時間撹拌した。純水100mlとメタノール200mlを加え、室温まで冷却した後に、析出固体をろ過で回収した。真空乾燥(50℃、6時間)を行った後に、トルエン(1L)に加熱して試料を溶解させ、シリカゲルパッドを用いて濾過後、濃縮した。これを酢酸エチルで2回、分散洗浄して化合物145-1を得た。化合物145-1の収量は4.53g、収率は58%であった。
【0183】
次いで、下記反応スキーム(17)により、化合物145を合成した。
【0184】
【化39】
具体的には、窒素雰囲気下、上記反応スキーム(16)で得られた化合物145-1(1,4-bis(9-([1,1'-biphenyl]-3-yl)-5-chloro-9H-carbazol-3-yl)benzene)(4.47g、5.72mmol)、3-Biphenylboronic acid(4.53g、22.88mmol)、トルエン229ml、エタノール(29ml)、炭酸カリウムの2M水溶液(23ml)を三口フラスコに入れ混合し、Pd(OAc)
2(64mg、0.29mmol)、S-Phos(188mg、0.46mmol)を加え、80℃で12時間撹拌した。トルエン300mlを加えて希釈し、室温まで冷却した後に分液ロートを用いて純水で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、シリカゲルパッドを用いて濾過後、濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:トルエン=6:4)で精製し、さらに酢酸エチルで分散洗浄して化合物145を得た。化合物145の収量は4.25g、収率は73%であった。
【0185】
[合成例4]
化合物14-7((9-([1,1',4',1''-terphenyl]-2'-yl)-3-bromo-9H-carbazole)から化合物15-5((9-([1,1'-biphenyl]-3-yl)-3-bromo-5-chloro-9H-carbazole)に変更した以外は、化合物14-8と同様にして、比較例化合物1-1を合成した。
【0186】
【0187】
上記反応スキーム(18)で得られた比較例化合物1-1を用い、下記反応スキーム(19)に変更し、対応する試薬を変更した以外は、合成例1と同様に、比較例化合物1-2を得た。
【0188】
【0189】
上記反応スキーム(19)で得られた比較例化合物1-2を用い、下記反応スキーム(20)に変更し、対応する試薬を変更した以外は、合成例1と同様に、比較例化合物1を得た。
【0190】
【0191】
[合成例5]
下記反応スキーム(21)に変更し、対応する試薬を変更した以外は、合成例1と同様に、比較例化合物2を得た。
【0192】
【0193】
<実施例および比較例>
[実施例1]
まず、第1電極(陽極)として、ストライプ(stripe)状の酸化インジウムスズ(ITO)が膜厚150nmにて成膜されたITO付きガラス基板を用意する。このガラス基板上に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホネート)(poly(3,4-ethylene dioxythiophene)/poly(4-styrene sulfonate):PEDOT/PSS)(Sigma-Aldrich製)を、乾燥膜厚が30nmになるようにスピンコート法にて塗布し、正孔注入層を形成した。
【0194】
次に、市販のTFBをキシレン(xylene)に1質量%にて溶解し、正孔輸送層塗布液を調製した。正孔注入層上に、正孔輸送層塗布液を乾燥膜厚が30nmになるようにスピンコート法にて塗布し、230℃にて1時間加熱して、正孔輸送層を形成した。
【0195】
次いで、正孔輸送性ホスト材料として、上記合成例1で合成した化合物14と、電子輸送性ホスト材料として化合物ETH-1、発光ドーパント材料として、トリス(2-(3-p-キシイル)フェニル)ピリジン イリジウム(TEG)とを用い、安息香酸メチル溶液を調整した。これをスピンコート法で正孔輸送層上に塗布し、膜厚30nmの発光層を形成した。なお、発光層における正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料、発光ドーパント材料の質量比率は、発光層の総質量に対して、それぞれ90質量%、10質量%、5質量%とした。
【0196】
前記発光層上に11-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-12-フェニル-11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール(HB-1)を真空蒸着装置にて蒸着し、膜厚10nmの正孔阻止層を形成した。前記正孔阻止層上に(8-キノリノラト)リチウム(Liq)およびKLET-03(ケミプロ化成製)を真空蒸着装置にて共蒸着し、膜厚30nmの電子輸送層を形成した。前記電子輸送層上に、アルミニウム(Al)を真空蒸着装置にて蒸着し、膜厚100nmの陰極を形成した。この素子を、水分および酸素濃度がそれぞれ1ppm以下のグローブボックス中において乾燥剤付ガラス封止管と紫外線硬化型樹脂を用いて封止して後述する有機EL素子評価に用いた。このような方法で、有機EL素子を製造した。結果を表4に示す。なお、表4には、比較例化合物3を100としたときの各化合物の電流効率およびLT80(h)の相対値を示す。
【0197】
なお、ETH-1、TEG、HB-1、Liqの化学式を以下に示す。
【0198】
【0199】
[実施例2]
正孔輸送性ホスト材料として、化合物14に代えて、上記合成例2で合成した化合物15を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、有機EL素子を製造した。結果を表4に示す。
【0200】
[実施例3]
正孔輸送性ホスト材料として、化合物14に代えて、上記合成例3で合成した化合物145を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、有機EL素子を製造した。結果を表4に示す。
【0201】
[比較例1]
正孔輸送性ホスト材料として、化合物14に代えて、上記合成例4で合成した比較例化合物1を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、有機EL素子を製造した。結果を表4に示す。
【0202】
[比較例2]
正孔輸送性ホスト材料として、化合物14に代えて、上記合成例3で合成した比較例化合物2を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、有機EL素子を製造した。結果を表4に示す。
【0203】
[比較例3]
正孔輸送性ホスト材料として、化合物14に代えて、下記化学式で示される比較例化合物3を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、有機EL素子を製造した。結果を表4に示す。
【0204】
【0205】
[比較例4]
正孔輸送性ホスト材料として、化合物14に代えて、下記化学式で示される比較例化合物4を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、有機EL素子を製造した。結果を表4に示す。
【0206】
【0207】
【0208】
表1より、化合物14、15、145は、n=0であり、且つ、Eがフェニル基またはm-ビフェニル基である比較例化合物1、2、4に対して、有機溶媒(安息香酸メチル)に対する溶解度(質量%)が高いことがわかる。したがって、本実施形態に係る化合物は、塗布法による有機EL素子の作製に好適であることが分かる。
【0209】
【0210】
さらに、表2より、化合物14、15、145は、比較例化合物1~4に対して、Xc90が大きくなり、光化学的安定性が高いことがわかる。したがって、本実施形態に係る化合物は、有機エレクトロルミネッセンス素子(特に、発光層)に適用した場合に長寿命化が期待できる。
【0211】
【0212】
表3より、化合物14、15、145は、比較例化合物1~4に対して、125℃で加熱した後も膜が均一で欠陥のない状態であり、良好な成膜性を示すことがわかる。したがって、本実施形態に係る化合物が、塗布法のための有機EL素子用材料として有用であることが分かった。
【0213】
【0214】
表4より、化合物14、15、145を、正孔輸送性ホスト材料として用いた実施例1~3の有機EL素子は、比較例1~4の有機EL素子に対して、同等以上の電流効率を示し、かつ発光寿命が大幅に向上していることが分かった。
【0215】
また、実施例1~3で用いた化合物14、15、145は、塗布法により有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層を形成できるため、大量生産の観点から好ましい。
【0216】
以上、本発明について実施形態および実施例を挙げて説明したが、本発明は特定の実施形態、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0217】
100 有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)
110 基板
120 第1電極
130 正孔注入層
140 正孔輸送層
150 発光層
160 電子輸送層
170 電子注入層
180 第2電極