IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7187160電子写真用加圧回転体およびその製造方法、定着装置
<>
  • 特許-電子写真用加圧回転体およびその製造方法、定着装置 図1
  • 特許-電子写真用加圧回転体およびその製造方法、定着装置 図2
  • 特許-電子写真用加圧回転体およびその製造方法、定着装置 図3
  • 特許-電子写真用加圧回転体およびその製造方法、定着装置 図4
  • 特許-電子写真用加圧回転体およびその製造方法、定着装置 図5
  • 特許-電子写真用加圧回転体およびその製造方法、定着装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】電子写真用加圧回転体およびその製造方法、定着装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20221205BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018060459
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2018165821
(43)【公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2017063793
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】三浦 潤
(72)【発明者】
【氏名】荒井 由高
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】浅香 明志
(72)【発明者】
【氏名】高田 成明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正明
(72)【発明者】
【氏名】今泉 陽
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/009527(WO,A1)
【文献】特開2000-356923(JP,A)
【文献】特開2016-029462(JP,A)
【文献】特開2015-055655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
該基体の上に形成された弾性層を有し、
該弾性層はシリコーンゴムと、該シリコーンゴム中に分散されている針状フィラーとを含み、かつ、複数個の空隙を有している電子写真用加圧回転体の製造方法であって、該製造方法が
液状シリコーンゴムに針状フィラーおよび含水ゲルを分散させエマルジョン状の液状組成物を得る工程と、
該基体が筒型の両端に設置された軸受けにより把持された型において、該基体の外周面と該筒型の内周面との間に形成されたキャビティに、該液状組成物を充填する工程と、
該キャビティ内の該液状組成物を流動させることなく、該液状シリコーンゴムを加熱により架橋硬化し、硬化物を得る工程と、
該硬化物から水を除去する工程と、
を有し、
該筒型が、該軸受けとの嵌め合い部分を構成するテーパー面を両端に有し
該テーパー面の各々に該軸受けが嵌合しており、
該筒型は、該テーパー面に、Oリングを、該Oリングが該テーパー面から突き出た状態で保持しており、 該軸受けは、該テーパー面との嵌め合い部分に該Oリングの該テーパー面からの突出し量に対して20%以上100%以下の深さの溝を有する、ことを特徴とする電子写真用加圧回転体の製造方法。
【請求項2】
前記液状組成物を充填する工程が、減圧状態とした前記キャビティに、該液状組成物を充填する工程を含む、請求項に記載の電子写真用加圧回転体の製造方法。
【請求項3】
前記液状組成物を充填する工程が、表層が前記筒型の内壁に密着させた状態で行われる、請求項またはに記載の電子写真用加圧回転体の製造方法。
【請求項4】
前記液状組成物中の前記含水ゲルの含有率が、20体積%以上60体積%以下である、請求項のいずれか1項に記載の電子写真用加圧回転体の製造方法。
【請求項5】
前記含水ゲルの径が、1μm以上30μm以下である、請求項のいずれか1項に記載の電子写真用加圧回転体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材を挟持搬送して加熱する定着装置に用いられる電子写真用加圧回転体およびその製造方法に関する。また、本発明は、定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置には、記録材上に形成された未定着トナー像を該記録材に定着させるための装置として、加熱部材と該加熱部材に対向して配置された電子写真用加圧回転体とを備えた熱定着装置が用いられている。熱定着装置は、加熱部材からの熱および加熱部材と電子写真用加圧回転体の圧接による圧力とによってトナーを記録材に定着させながら、加熱部材と電子写真用加圧回転体の回転により該記録材を搬送する装置である。
【0003】
電子写真用加圧回転体は、加熱部材との圧接に耐えうる剛性を付与するための基体と、ニップ部形成のために必要な弾性を付与するための弾性層とにより構成されている。また、弾性層上にはトナー離型性を付与するためのフッ素樹脂からなる表層を設ける場合がある。
【0004】
特許文献1には、ウォームアップタイムの短縮と周方向に延びるシワの発生の抑制とを高いレベルで両立し得る加圧部材の提供を目的とした発明が記載されている。ここで、ウォームアップタイムとは、定着装置において消費電力の低減を図るために、待機中は低温に維持されているニップ部の温度をトナーが定着するために必要な温度にまで昇温させるための時間をいう。
【0005】
そして、特許文献1では、かかる目的が、基体と、該基体の外側に形成された弾性層と、該弾性層上に形成されたフッ素樹脂を含む表層とを有し、該表層は、長手方向に伸長させた状態で該弾性層上に固定されており、該弾性層の空隙率が20~60体積%以下であり、該弾性層の厚み方向の弾性率をE(ND)、該弾性層の長手方向の弾性率をE(MD)としたとき、E(MD)/E(ND)が1.0より大きい加圧部材によって達成されることが記載されている。そして、このような物性が、針状フィラーが長手方向に配向されてなり、かつ、水が分散したシリコーンゴムの水分を蒸発させて形成した空隙が分散している弾性層によって得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/009527号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献1に開示された、針状フィラーを含み、かつ、水が分散したシリコーンゴムの水分を蒸発させて形成した空隙が分散している弾性層を備えた電子写真用加圧回転体について、より高いレベルでの耐久性の有無を確認した。具体的には、当該電子写真用加圧回転体を、加熱部材に対する加圧力を通常の加圧力よりも高めた状態で定着装置に装着し、この定着装置を、多数枚の電子写真画像の連続出力に供する試験(以下、「過酷耐久試験」ともいう)に供した。その結果、過酷耐久試験に供した後の電子写真用加圧回転体において、表面における硬度が、初期値に対して5%以上変化する部位が生じる場合があった。具体的には、初期の硬度に対する変化率が5%を超える部位が生じる場合があった。
【0008】
本発明の一態様は、ウォームアップタイムを短縮し得ると共に、より一層の耐久性を備えた電子写真用加圧回転体およびその製造方法の提供に向けたものである。
また、本発明の他の態様は、高品位な電子写真画像を安定して提供し得る定着装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、基体と、該基体の上に形成された弾性層を有し、該弾性層はシリコーンゴムと、該シリコーンゴム中に分散されている針状フィラーとを含み、かつ、複数個の空隙を有している電子写真用加圧回転体の製造方法であって、(i)液状シリコーンゴムに針状フィラーおよび含水ゲルを分散させエマルジョン状の液状組成物を得る工程と、(ii)基体が筒型の両端に設置された軸受けにより把持された型において、該基体の外周面と該筒型の内周面との間に形成されたキャビティに、該液状組成物を充填する工程と、(iii)該キャビティ内の該液状組成物を流動させることなく、該液状シリコーンゴムを加熱により架橋硬化し、硬化物を得る工程と、(v)該硬化物から水を除去する工程と、を有し、該筒型が、該軸受けとの嵌め合い部分を構成するテーパー面を両端に有し、該テーパー面の各々に該軸受けが嵌合しており、該筒型は、該テーパー面に、Oリングを、該Oリングが該テーパー面から突き出た状態で保持しており、該軸受けは、該テーパー面との嵌め合い部分に該Oリングの該テーパー面からの突出し量に対して20%以上100%以下の深さの溝を有する、ことを特徴とする電子写真用加圧回転体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、長期の使用によっても、硬度が初期から変化し難い電子写真用加圧回転体を得ることができる。また、本発明の他の一態様によれば、長期の使用によっても、硬度が初期から変化し難い電子写真用加圧回転体の製造方法を得ることができる。本発明のさらに他の態様によれば、高品位な電子写真画像を安定して提供し得る定着装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る定着装置を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る電子写真用加圧回転体4を示す斜視図である。
図3】針状フィラーの概略模型図である。
図4】弾性層から切り出したサンプルの拡大斜視図である。
図5】弾性層から切り出したサンプル断面の概略図である。
図6】電子写真用加圧回転体の製造に用いる型の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、特許文献1に係る加圧部材を過酷耐久試験に供した場合に、当該加圧部材に、表面における硬度が大きく変化する部位が生じる理由について検討した。その過程において、硬度が変化した部位を有する弾性層を観察した。その結果、硬度が変化した部位においては、弾性層中の空隙を支えているゴム骨格が破断しており、また、ゴム骨格の破断は、破断していない部位と比較して、ゴム骨格が細いことに起因していることが判明した。
【0013】
そこで、弾性層中にゴム骨格の細い部分と太い部分とが生じる理由を、本発明者らは以下のように考察した。特許文献1に係る加圧部材の製造方法は、弾性層の製造工程として、針状フィラーを含み、かつ、水を分散させてなる乳化状態の液状シリコーンゴム混合物を成形用型内に充填し、次いで、成形用型を密閉し、該成形用型内の該液状シリコーンゴム混合物を加熱、硬化せしめる第1の工程と、成形用型から脱型した硬化シリコーンゴムをさらに加熱して、硬化シリコーンゴム中に微細に分散している水を除去して多孔質のシリコーンゴム弾性層を形成する第2の工程と、を含んでいる。
ここで、第1の工程において、密閉された成形用型内では、液状シリコーンゴム混合物は、本来であれば、流動することはない筈であるが、実際には、成形用型から液状シリコーンゴム混合物が漏出している場合があった。そして、液状シリコーンゴム混合物の成形用型からの漏出が認められた場合に、第2の工程を経て得られた弾性層中のゴム骨格の太さのバラつきが大きかった。このことから、密閉された成形用型内で、液状シリコーンゴム混合物が流動すると、当該液状シリコーンゴム混合物の乳化状態が破壊され、液状シリコーンゴム混合物中の含水ゲル同士が凝集することにより、得られる弾性層中のゴム骨格の太さにバラつきが生じるものと考察した。
【0014】
すなわち、乳化状態にある液体は、熱力学的に不安定であり、かつ、非平衡系である。そのため、上記液状シリコーンゴム混合物の硬化時に、成形用型内で流動すると、流動によるせん断力によって、乳化状態の破壊が進行し、液状シリコーンゴム混合物に分散している含水ゲルが凝集する。含水ゲルが凝集した状態で、液状シリコーンゴム混合物を硬化した場合、電子写真用加圧回転体の弾性層には、含水ゲルが存在した位置に空隙が形成されるため、空隙が凝集した状態で形成され、弾性層内で、空隙の疎密が生じるものと考えられる。
【0015】
かかる考察に基づき、本発明者らは、上記第1の工程における成形用型内における液状シリコーンゴム混合物の硬化の際に、当該液状シリコーンゴム混合物の成形用型内における流動を、より高いレベルで低減させることを試みた。具体的には、成形用型のシール性の改善を行った。
【0016】
その結果、得られた電子写真用加圧回転体は、弾性層中の空隙が、弾性層内で極めて均一に分布しており、長期の使用によっても硬度の部分的な変化が生じ難いことを見出した。
【0017】
弾性層内において、空隙が均一に分布している場合、空隙の分布が不均一な場合と比較して、隣り合う空隙同士の距離が略均一になる。そのため、定着装置において電子写真用加圧回転体の弾性層が加圧されたときに、大きな応力の集中を生じる箇所が少なくなり、空隙を形成するゴム骨格の破断を有効に抑制されるものと考えられる。
【0018】
従来、針状フィラーを含み、かつ、水が分散したシリコーンゴムの水分を蒸発させて形成した空隙を形成した弾性層におけるゴム骨格の破断に起因する電子写真用加圧回転体の耐久性を考慮する際に、弾性層中の空隙の分布の均一性について考慮されたことはなかった。そこで、本発明者らは空隙の分布の均一性を表す指標として、電子写真用加圧回転体の弾性層を基体の中心軸を含む断面で切断したときの切断面における単位面積あたりの空隙の総面積の割合(以下、単に「面積比」ともいう)の標準偏差を用いた。そして、面積比の標準偏差が小さい程、弾性層中の空隙の分布が均一である。
【0019】
以下、本発明の一態様に係る定着装置および電子写真用加圧回転体について具体的に説明する。
(1)定着装置
図1は本発明の一実施形態に係る定着装置を示す断面図である。この定着装置は、いわゆるオンデマンド型の熱定着装置であり、加熱源としてセラミックヒータを用いたフィルム加熱方式の熱定着装置である。以下オンデマンド型の熱定着装置を例にその構成の概略を説明する。
なお本発明に係る定着装置は、この形態に限定されるものではなく、一般的に用いられる、ハロゲンヒータを熱源に用いたヒートロール型の定着装置や、コイルに通電することで部材自体を発熱させる誘導加熱(IH)方式の定着装置にも適用可能である。
【0020】
図1において、フィルムガイド部材1は横断面略半円弧状・樋型で、電子写真用加圧回転体4の長手方向に平行な方向を幅方向とする横長のフィルムガイド部材である。ヒータ2は、加熱部材であるフィルム3の加熱手段であり、フィルムガイド部材1の下面の略中央に幅方向に沿って形成した溝内に収容保持させた横長のヒータである。フィルム3は、エンドレスベルト形状を有し、ヒータ2を装着したフィルムガイド部材1にルーズに外嵌させた筒状のものである。すなわち、ヒータ2は、エンドレスベルト形状を有するフィルム3の内周面に接して配置されている。
【0021】
フィルムガイド部材1は、例えば、ポリフェニレンサルファイト(PPS)や液晶ポリマーなどの耐熱性樹脂からなる成形品である。
ヒータ2は、セラミック基板上に発熱抵抗体を設けた構成を有する。図1に示すヒータ2は、アルミナ製の横長・薄板状のヒータ基板2aと、その表面側(フィルム摺動面側)にヒータ基板2aの長手方向に沿って形成具備させた線状あるいは細帯状の、Ag/Pd製の通電発熱体(発熱抵抗体)2cと、を有する。また、ヒータ2は、通電発熱体2cを覆って保護するガラス製の薄い表面保護層2dを有する。そしてヒータ基板2aの裏面側にサーミスタ(検温素子)2bが接触している。このヒータ2は、通電発熱体2cに対する電力供給により迅速に昇温した後、検温素子2bを含む電力制御手段(不図示)によって所定の定着温度を維持するように制御できる。定着温度は定着部材表面の目標温度であり、印刷速度、紙種、定着部材構成およびトナー種によって適宜設定される。一般的な定着温度としては、150℃以上200℃以下である。
【0022】
フィルム3は、例えば、ベースフィルムの表面に表層をコーティングした複合層フィルムである。このフィルム3は、熱容量を小さくして加熱装置のクイックスタート性を向上させるために、膜厚を好ましくは、総厚500μm以下とする。
【0023】
ベースフィルムの材料としては、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、およびポリエーテルスルホン(PES)の如き樹脂や、ステンレス鋼(例えば、SUS304)、ニッケルの如き合金や金属が用いられる。
表層の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)および、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)といったフッ素樹脂材料が用いられる。
なお、ベースフィルムと表層の間に、硬化シリコーンゴムを含む弾性層、接着層を設けても良い。
【0024】
電子写真用加圧回転体4は、ヒータ2の下面に対向配置され、フィルム3を介してヒータ2に圧接されている。
電子写真用加圧回転体4は、フィルム3を介してヒータ2の表面保護層2dに所定の加圧機構(不図示)により所定の加圧力で加圧されている。その加圧力に応じて電子写真用加圧回転体4の弾性層4bが弾性変形し、電子写真用加圧回転体4の表面とフィルム3の表面との間に未定着トナー画像Tの加熱定着に必要な所定幅のニップ部Nが形成される。加圧力は、製品の対象とする紙種・サイズ・トナー種類・定着装置の構成によって適宜設定される。一般的な加圧力は、10kgfから70kgf程度に設定される。
【0025】
ニップ部Nに被加熱材としての記録材Pが導入され、記録材Pが挟持搬送されることにより、記録材Pが加熱される。
電子写真用加圧回転体4は、駆動源Mの駆動力が不図示のギア(動力伝達機構)を介して伝達されて、所定の周速度で矢印bの反時計方向に回転駆動される。
フィルム3は、画像形成実行時に電子写真用加圧回転体4が矢印bの反時計方向に回転駆動されることにより、電子写真用加圧回転体4の回転に従動して矢印aの方向に回転する。
【0026】
(2)電子写真用加圧回転体4の層構成
図2は、本発明の一実施形態に係る電子写真用加圧回転体4を示す斜視図である。電子写真用加圧回転体4は、基体4a、硬化シリコーンゴムを含む弾性層4b、およびフッ素含有樹脂チューブからなる表層4cで構成されている。
【0027】
基体4aは鉄やアルミニウム、ニッケルの如き金属、ステンレス鋼の如き合金によって形成される。定着装置に搭載される際には、弾性層4bが形成されていない基体4aの両端部の軸部がベアリングで保持された状態で、電子写真用加圧回転体4が加圧される。このため、基体4aには、加圧力に耐えられるだけの強度が必要となり、鉄やステンレス鋼が好ましく用いられる。また、表面に弾性層4bが形成される部位には、表面に接着処理が施されることが一般的である。接着処理は、ブラスト処理、F研磨などの物理的処理や、酸化処理、プライマー処理、カップリング剤処理といった化学的処理を、単独、あるいは組み合わせて施してもよい。
【0028】
(3)電子写真用加圧回転体4の弾性層4b
電子写真用加圧回転体4を構成する弾性層4bは、硬化シリコーンゴムと、硬化シリコーンゴム中に分散されている針状フィラー4b1を含む。また、弾性層4bは、複数個の空隙4b2を有する。そして、弾性層4bを、電子写真用加圧回転体4の長手方向に基体4aの中心軸を含むb断面で切断したときの切断面において、電子写真用加圧回転体4の長手方向の切断面であるb断面の単位面積における空隙4b2の各々の断面積の総和(以下、「空隙面積」ともいう。)をA、b断面の単位面積をAとしたときの面積比A/Aの標準偏差が0.08以下である。
【0029】
該標準偏差が0.08以下である場合、弾性層4b中における複数個の空隙4b2が、より均一に存在しているため、弾性層4b中のゴム骨格の太さのバラつきが抑えられ、弾性層4b中のゴム骨格の強度のバラつきが抑えられる。そのため、加圧された際にも、弾性層4bの一部に応力が集中し難く、空隙4b2を構成しているゴム骨格の部分的な破断が抑制されるものと考えられる。
該標準偏差の下限値としては、特に限定されないが、現実的には0.01以上である。該標準偏差は、後述する、針状フィラーを含み、かつ、含水ゲルを分散させてなるエマルジョン状態の液状シリコーンゴム混合物の成形用型内における硬化時の流動を高度に制御(抑制)することで、0.08以下とすることが可能である。
【0030】
弾性層4bは、単一の層からなる。弾性層4bの厚みは、所望の幅のニップ部Nを形成できる範囲であれば特に限定されないが、2mm以上5mm以下が好ましい。
【0031】
(3-1)ベースポリマー
弾性層4bのベースポリマーは、付加硬化型の液状シリコーンゴムの硬化物を含む。付加硬化型の液状シリコーンゴムは、ビニル基の如き不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン(A)と、Si-H基(ヒドロシリル基)を有するオルガノポリシロキサン(B)とを有する未架橋シリコーンゴムである。加熱により不飽和脂肪族基の不飽和結合に対して、Si-H基が付加することで架橋反応が進行する。また、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン(A)とSi-H基を有するオルガノポリシロキサン(B)の量を適宜調整することで、所望の硬度となるベースポリマーを得ることができる。
【0032】
弾性層4bの硬度は、「日本工業規格(JIS)K 6253-3:2012」に規定された「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ」に基づき測定される硬度で、20度以上80度以下であることが好ましい。
【0033】
付加硬化型の液状シリコーンゴムには架橋反応を促進する触媒として白金化合物を含有するのが一般的である。また、付加硬化型の液状シリコーンゴムは、本発明の目的を損なわない範囲で流動性を調節できる。さらに、本発明においては、発明の特徴の範囲を超えない限りは、弾性層4b中に、本発明に係る針状フィラー4b1以外のフィラーや充填材、配合剤が、公知の課題の解決手段として含まれていても構わない。
【0034】
(3-2)針状フィラー4b1
針状フィラー4b1の含有率としては、弾性層4bに対して2体積%以上15体積%以下とすることが好ましい。針状フィラー4b1の含有比率を2体積%以上とすることで、周方向シワの抑制効果を得ることができる。また、針状フィラー4b1の含有比率を15体積%以下とすることで、弾性層4bを容易に成形することができる。また、針状フィラー4b1の含有比率を15体積%以下とすることで、弾性層4bの弾性の過度の低下を避けることができ、定着装置の電子写真用加圧回転体4としてのニップ部Nの確保が容易となる。
【0035】
図3に示すように、針状フィラー4b1の直径Dに対する長さLの比が大きい、すなわちアスペクト比が高い材料を好適に使用できる。
このような針状フィラー4b1の具体例として、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、ガラスファイバー、その他無機ウィスカーが挙げられる。針状フィラー4b1としては、より具体的な形状として、図3において直径Dの平均が5μm以上11μm以下であり、かつ長さLの平均が50μm以上1000μm以下であって、アスペクト比が5以上120以下であるものが、工業的に容易に入手可能である。長さLが50μm以上であることにより、針状フィラー4b1を効果的に、電子写真用加圧回転体4の長手方向に配向させることができる。
【0036】
なお、上記の針状フィラー4b1のアスペクト比は、針状フィラー4b1の平均長さおよび平均直径から下記式を用いて求めることができる。
アスペクト比=平均長さ/平均直径
【0037】
針状フィラー4b1が炭素繊維である場合の具体的なアスペクト比の算出方法を以下に示す。まず、弾性層4bから切り出したサンプルを窒素ガス雰囲気下、700℃で1時間焼成してシリコーンゴム成分を灰化させて除去する。こうしてサンプル中の針状フィラー4b1を取り出すことができる。取り出した針状フィラー4b1の体積を求めることにより、弾性層4b中の含有率を求めることができる。また、針状フィラー4b1を100本以上無作為に選択し、それらの平均長さと平均直径を光学顕微鏡で測定して、上記式より針状フィラー4b1のアスペクト比を求めることができる。なお、実施例では、針状フィラー4b1のアスペクト比を、上記式で得られた値の小数点以下第一位を四捨五入した値で示した。
【0038】
針状フィラー4b1を含む弾性層4bを形成工程は、例えば、密閉された成形用型内で、針状フィラー4b1と含水ゲルとを含む、エマルジョン状態の液状シリコーンゴム混合物を硬化させる第1の工程と、硬化物から水を除去する第2の工程とを含む。そして、第1の工程において、該液状シリコーンゴム混合物が、密閉された成形用型内で流動すると、針状フィラー4b1が核となって、含水ゲルが凝集し易くなる。その結果、第2の工程を経て得られた弾性層4b中に存在する空隙4b2は、その分布が不均一となりやすい。すなわち、ゴム組成物中の針状フィラー4b1が多いほど、弾性層4bを基体4aの中心軸を含む断面で切断したときの切断面における空隙面積をA、単位面積をAとしたときの面積比A/Aの標準偏差が大きくなる傾向にある。
【0039】
(3-3)空隙4b2
電子写真用加圧回転体4の弾性層4bは、弾性層4bの熱伝導率を低下させるために、空隙4b2を含んでいる。すなわち、電子写真用加圧回転体4の熱伝導を抑えることによって、加熱部材からの熱が基体4aに逃げることを抑制し、加熱部材の温度上昇速度を向上させ、ウォームアップタイムを短縮することができる。本発明に係る弾性層4bの空隙4b2は、弾性層4bを基体4aの中心軸を含むb断面で切断したときの切断面における空隙面積をA、単位面積をAとしたときの面積比A/Aの標準偏差が0.08以下となるように分散されている。
【0040】
面積比A/Aの標準偏差は次のように求めることができる。まず、電子写真用加圧回転体4の弾性層4bを、図2の斜線部で示すサンプル4bsのように、電子写真用加圧回転体4の周方向および長手方向にそって3mmずつ切り出す。この際、電子写真用加圧回転体4の長手方向は、基体4aの中心軸を含む断面で剃刀を用いて切り出す。切り出したサンプルは図4のサンプル4bsのようになる。図4の取り出したサンプル4bsの電子写真用加圧回転体4の長手方向のb断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:XL30 SFEG;FEI社製)を用いて、加速電圧3kV、倍率100倍で撮影する。得られたb断面のSEM画像について、弾性層4bの外径側表面(表層4cが有る場合は、表層4cの直下面)から基体4aの方向に500μmおよび電子写真用加圧回転体4の長手方向に1200μmの範囲を画像解析ソフト(商品名:Image-Pro Plus 5.0J、Media Cybernetics社製)を用いて2値化を行う。解析域を弾性層4bの外径側表面から500μmとしたのは、本発明の発明者らが検討する中で、面積比A/Aの標準偏差の差が現われやすい領域であったためである。この領域は液状組成物流動時にかかるせん断応力が大きい領域であり、ゴム組成物を加熱する際に、乳化破壊が起きやすい。
そのため、空隙4b2の分散を面積比A/Aの標準偏差により評価する際に、差が現われやすいと考えている。2値化は大津の判別法で行う。得られた2値化画像を、53μm四方のサイズに細分化し、得られた細分化画像に対して、空隙面積Aと単位面積Aを求めて、それぞれの面積比A/Aを算出した。2値化画像を細分化する単位面積を、53μm四方とする理由は、本発明者らの検討過程において、53μm四方の単位面積に対する空隙面積の比(面積比)の標準偏差が、電子写真用加圧回転体の過酷耐久試験後の硬度変化の有無の結果とよく相関する結果となったためである。
【0041】
得られた面積比A/Aに基づいて、サンプルの標準偏差を算出する。空隙4b2の分布が不均一な場合、空隙面積が多い細分化画像と、空隙面積が少ない細分化画像が各々多いため、細分化画像を多数測定した場合の標準偏差は大きくなる。一方、空隙4b2の分布が均一な場合、空隙面積が多い細分化画像と、空隙面積が少ない細分化画像が各々少ないため、細分化画像を多数測定した場合の標準偏差は小さくなる。
【0042】
面積比A/Aの標準偏差の算出は、弾性層4bの6か所から得たサンプル4bsに対して行う。6か所のサンプル4bsを切り出す位置は、弾性層4bの軸方向の全長さをLとした時の、両端から0.1Lとなる位置および中心となる0.5L位置の3か所、およびこれらの位置に関して周方向で180°異なる位置の計6か所である。そして、本発明の電子写真用加圧回転体4は、6か所の位置から切り出したサンプル4bsから得られた面積比A/Aの標準偏差のすべてが0.08以下となる。
【0043】
電子写真用加圧回転体4の弾性層4bの6か所の位置から切り出したサンプル4bsから得られた面積比A/Aの標準偏差において、一か所でも面積比A/Aの標準偏差が0.08よりも大きい場合、弾性層4bの当該箇所の硬度変化が大きくなる。その結果、硬度が変化した電子写真用加圧回転体4を定着装置に用いる場合、通紙時に紙シワが発生しやすくなる。そのため、一か所でも面積比A/Aの標準偏差が0.08よりも大きい弾性層4bを有する電子写真用加圧回転体4は、耐久性が劣るものとなり、頻繁に部材を交換する必要がある。
【0044】
また、弾性層4bの空隙率は、20体積%以上60体積%以下であることが好ましい。空隙率が20体積%以上であると、上述のウォームアップタイムを十分に短縮する効果を得ることができる。空隙率が60体積%を超える弾性層4bを形成しようとしても、成形が困難な場合がある。弾性層4bの空隙率が高いとウォームアップタイムを短縮できるので、空隙率はより好ましくは40体積%以上60体積%以下である。
【0045】
弾性層4bの空隙率は次のようにして求めることができる。まず、剃刀を用いて、弾性層4bを任意の部分で切断し、評価サンプルを得る。得られた評価サンプルの25℃における体積を、液浸比重測定装置(SGM-6、メトラー・トレド株式会社製)により測定する(以下、この体積をVallと記す)。次に、体積測定を行った評価サンプルを熱重量測定装置(商品名:TGA851e/SDTA、メトラー・トレド株式会社製)を用いて窒素ガス雰囲気下、700℃で1時間加熱することでシリコーンゴム成分を分解・除去する。この時の重量の減少量をМpとする。弾性層4b中に針状フィラー4b1以外に無機フィラーが入っていた場合、この分解・除去後の残留物は、針状フィラー4b1と無機フィラーが混在した状態となる。
【0046】
この状態で25℃における針状フィラー4b1と無機フィラーの体積の合計を乾式自動密度計(商品名:アキュピック1330-1、株式会社島津製作所製)により測定する。体積測定を、窒素ガスの置換を行う毎に10回実施し、その算術平均をVaとした。
【0047】
これらの値を基に、以下に示す式から評価サンプルの空隙率を求めることができる。なお、シリコーンゴム成分の密度は0.97g/cmとして計算した(以下、この密度をρpと記す)。
空隙率(体積%)=[{Vall-(Мp/ρp+Va)}/Vall]×100
なお、実施例に記載の空隙率は、任意の部分を5か所切り出すことで評価サンプルとし、各評価サンプルより求めた空隙率の平均値を弾性層4bの空隙率とした。
【0048】
弾性層4b中の空隙4b2の径としては、弾性層4bをカミソリで厚み方向に切断し、その切断面に表れている空隙4b2の個数の80%以上が、5μm以上30μm以下の範囲内にある空隙4b2の径を有することが好ましい。ここで、空隙4b2の径とは、当該切断面であるb断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)(XL30 SFEG、PHLIPS社製)を用いて、加速電圧3kV、倍率100倍で観察し、画像解析ソフト(Image-Pro Plus 5.0J、Media Cybernetics社製)を用いて2値化を行い、空隙4b2の径の最大長さと最短長さの合計値の1/2の値とする。空隙4b2は30μm以下の小さな径を有するために、両面印刷の二面目を通紙する際に、加圧ローラに接触する一面目に印刷された画像に画像不良を引き起こしにくい。
【0049】
(4)表層4c
電子写真用加圧回転体4に離型性を付与するために、フッ素含有樹脂チューブからなる表層4cを弾性層4b上に設けてもよい。
表層4cを構成する材料としては、画像印刷時の記録材Pの離型性の観点からフッ素含有樹脂が用いられる。フッ素含有樹脂の具体例としては、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が挙げられる。また、上記列挙した材料を2種類以上ブレンドして使用しても良く、添加物を加えても良い。
表層4cの厚さは、電子写真用加圧回転体4に充分な離型性を付与することができる範囲であれば特に限定されないが、20μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0050】
(5)電子写真用加圧回転体4の製造方法
以下のような製造方法により、弾性層4bに針状フィラー4b1を含有し、かつ、水が分散したシリコーンゴムの水分を蒸発させて形成した空隙4b2が分散している電子写真用加圧回転体4を得ることができる。
【0051】
(i)弾性層4b形成用の液状組成物の調製工程
本発明に係る、空隙4b2を有する弾性層4bの形成方法には、含水ゲル、付加硬化型の液状シリコーンゴム、および針状フィラー4b1を含むエマルジョン状の液状組成物を使用する。
【0052】
含水ゲル、付加硬化型の液状シリコーンゴムおよび針状フィラー4b1を、遊星式の万能混合撹拌機といった公知のフィラー混合撹拌手段を用いて混合、攪拌し、付加硬化型の液状シリコーンゴムに針状フィラー4b1および含水ゲルを分散させたエマルジョン状の液状組成物を調製することができる。
【0053】
含水ゲルを含むエマルジョン状の液状組成物を用いて、水が微細に分散されてなる組成物の硬化物を形成した後、脱水することによって、図5に示すように微細な空隙4b2を有する弾性層4bを得ることができる。
【0054】
含水ゲルとしては、吸水性ポリマーおよび粘土鉱物に水を含有させて、膨潤させたものを使用することができる。エマルジョン状の液状組成物中に分散してなる含水ゲルの径は、1μm以上30μm以下程度であり、針状フィラー4b1の配向を阻害し難い。そのため、空隙率が高く、かつ、針状フィラー4b1が高度に配向した弾性層4bを形成することができる。
【0055】
一方、含水ゲルの代わりに樹脂バルーンといった中空粒子(40μm程度)を含む液状組成物を注型成形用型に注入して、弾性層を形成した場合、中空粒子のシェルが成形型のキャビティ内を流動した時に、針状フィラー4b1の配向を阻害してしまう。そのため、高い空隙率と、針状フィラー4b1の高配向とを両立した弾性層の形成は困難である。
【0056】
また、空隙の形成のための発泡剤を含む液状組成物を注型成形用型に注入して弾性層を形成しても、発泡剤の発泡時に針状フィラー4b1の配向が乱され、長手方向に針状フィラー4b1を配向させることが困難である。
【0057】
含水ゲルのうち、吸水性ポリマーとしては、アクリル酸およびメタクリル酸並びにこれらの金属塩の、重合体、共重合体または架橋体が挙げられる。中でも、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩およびその架橋体(商品名:レオジック250H、東亜合成株式会社製)を好適に用いることができ、これらは工業的に容易に入手可能である。また、増粘効果のある水により膨潤させた粘土鉱物は、エマルジョン状の弾性層4b形成用の液状組成物を調製するために好適である。このような粘土鉱物を含む増粘剤として「ベンゲルW-200U」(商品名;株式会社ホージュン製)が挙げられる。
【0058】
エマルジョン状の液状組成物には、架橋反応を促進する触媒としての白金化合物、ならびにフィラー、充填材、および配合剤が含まれていても良い。
また、必要に応じて乳化剤や粘度調整剤を添加してから混合、撹拌して液状組成物を調製してもよい。乳化用添加剤としては、ノニオン系界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル 商品名:イオネット HLB4.3、三洋化成工業(株))の界面活性剤が挙げられる。
【0059】
電子写真用加圧回転体4の弾性層4bの空隙率は、弾性層4b形成用の液状組成物中における含水ゲルの含有量を調整することで作製することができる。具体的な空隙率の調整方法を以下に示す。含水ゲルの密度および付加硬化型の液状シリコーンゴムの密度はいずれも、1.0g/cmである。また、針状フィラー4b1の密度は、後述する実施例で用いたピッチ系炭素繊維の場合、2.2g/cmである。これらの値に基づき、弾性層4bの形成に用いる液状組成物の総体積に対する含水ゲルの含有率が、20体積%以上60体積%以下となるように含水ゲルの量を調整する。脱水後の弾性層4bの空隙の体積は、液状組成物中の含水ゲルの体積とほぼ同じであることから、液状組成物の総体積に対する含水ゲルの体積を上記範囲とすることで、空隙率が20体積%以上60体積%以下の弾性層4bを作製することができる。
【0060】
(ii)液状組成物の層の形成工程
本工程を、図6を用いて具体的に説明する。図6は、電子写真用加圧回転体4の製造時の型の概略説明図である。図6において、内面が円筒形状であるフッ素含有樹脂チューブからなる表層4cが、筒型7に固定されている。なお、表層4cは、弾性層4bとの接着のため、必要であれば、液状組成物を注型する前に、内面に適宜プライマー塗布処理を行っても良い。本発明に係る電子写真用加圧回転体4の基体4aは、表面に弾性層4bが形成される部位を接着処理した後に、筒型7内に配置され、軸受け5と軸受け6によって把持されている。基体4aの外周面と表層4cの内周面との間には、キャビティ9が形成されている。この時点でキャビティ9は、連通路10および連通路11によって、外部と通じている。
【0061】
まず、成形時の形状転写性を良くするために、筒型7に2つ設けられた横穴13から減圧を行い、表層4cを筒型7の内壁に密着させた状態にする。
そして、基体4aが筒型7の両端に設置された軸受け5と軸受け6により把持された型において、基体4aの外周面と筒型7の内周面との間に形成されたキャビティ9に、上記工程(i)で調製した本発明に係る液状組成物を、連通路11から充填する。この時、連通路10の先にアスピレーター(不図示)などの減圧器を取り付け、キャビティ9内を減圧状態にすることで、液状組成物を注入する注型時の、泡噛みを低減することができる。泡噛みを低減することにより、後述する工程(iii)における液状組成物の熱膨張時の流動を低減することができるので、乳化破壊の進行を抑制し、空隙4b2の分布が均一となる。その結果、本発明に係る弾性層4bを基体4aの中心軸を含む断面で切断したときの切断面における空隙面積をA、単位面積をAとしたときの面積比A/Aの標準偏差が小さくなる。なお、キャビティ9内の減圧は、上述の表層4cと筒型7の密着のための減圧よりも低く設定し、液状組成物注入時においても、表層4cと筒型7が密着した状態を保つ必要がある。
【0062】
(iii)シリコーンゴム成分の架橋硬化工程
次いで、注型用流路として開いていた連通路10と連通路11をネジやボールバルブなどで液状組成物が流出しないように閉じることで、液状組成物で充填されたキャビティ9を密閉する。この状態で、水の沸点未満の温度、例えば、60℃以上90℃以下で、5分~120分加熱し、弾性層4bのベースポリマーであるシリコーンゴム成分を硬化させる。
【0063】
なお、電子写真用加圧回転体4の工程(iii)で用いる型の構成は、高いレベルの密閉を実現するシール構造を有する。このため、キャビティ9内の液状組成物を流動させることなく、液状シリコーンゴムを加熱により架橋硬化し、硬化物を得ることができる。キャビティ9を密閉していても、高いレベルの密閉がなされていない場合には、加熱時に液状組成物の熱膨張により型内の圧力が高まると、液状組成物が筒型7と軸受け5や軸受け6の嵌め合い箇所で型外へ漏れ、液状組成物が流動することにより、液状組成物の乳化状態の破壊が引き起こされるため、高いレベルの密閉を実現するシール構造が必要となる。
【0064】
高いレベルの密閉を行うシール構造は、具体的には図6に示すように、表層4cを筒型7と軸受け5および軸受け6でOリング8を介して挟むことで密閉を行う場合に、筒型7の溝に保持されたOリング8が、対向する軸受け5および軸受け6の部分に設けられた溝12に潰れた状態で密接する構造である。この構造により、密閉面積を広く設けることができるため、高いレベルの密閉を実現することができ、加熱時の液状組成物の流動を防ぐことができる。
【0065】
なお、Oリング8は、筒型7と軸受け5および軸受け6との嵌め合い部分の筒型7のテーパー面から外側に突き出た状態で、筒型7に保持される。溝12は、筒型7に配置されたOリング8の形に沿うように、軸受け5や軸受け6の筒型7との嵌め合い部分に円周状に溝深さ方向に曲率を持って設けている。
溝12の深さは、Oリング8の筒型7のテーパー面から出た量(突出し量)に対して、20%以上100%以下の値をとることが好ましい。溝12をこのような深さとすることによって、Oリング8と溝12が相対する箇所での接触面積が少なくなり過ぎることを防止できる。また、Oリング8と溝12との圧接がされず、高いレベルの密閉がされにくくなることを防止できる。また、溝12の曲率は、Oリング8の断面の曲率よりも小さく設定することが好ましい。溝12をこのような曲率とすることによって、筒型7と軸受け5および軸受け6とが嵌合する際のOリング8の潰れ方が、溝12に沿った形になり易い。そのため、高レベルの密閉をより確実に達成し得る。
【0066】
(iv)脱型工程
工程(iii)において液状組成物中の付加硬化型の液状シリコーンゴムを架橋硬化した後、型を適宜、水冷や空冷により冷却し、硬化物を脱型する。また、工程(v)で弾性層4bを形成した後に、電子写真用加圧回転体4を脱型してもよい。
【0067】
(v)脱水工程
基体4aに積層した液状組成物の硬化物から加熱処理により水を除去し、空隙4b2を形成する。加熱処理条件としては、温度が100℃以上250℃以下、加熱時間は1~5時間であることが望ましい。工程(v)は、工程(iv)の前後いずれで行ってもよい。
【0068】
(vi)表層4cの積層工程
上述のように、予め注型成形用型内部にフッ素含有樹脂チューブを固定配置してから液状組成物を注型する方法によって、表層4cを積層できる。また、表層4cは弾性層4bの形成後に、フッ素含有樹脂チューブを被覆し、接着剤により接着固定する方法によっても表層4cを積層できる。
【実施例
【0069】
以下の各実施例で使用した材料を示す。
(基体4a)
基体4aとして、鉄製基体(直径24.5mm、弾性層4bの形成域の長さ330mm)を使用した。
(ベースポリマー)
弾性層4bのベースポリマーとして、25℃環境、せん断速度10(1/s)において粘度が10Pa・sである、付加硬化型液状シリコーンゴムを使用した。
(含水ゲル)
含水ゲルについては、ポリアクリル酸ナトリウムを主成分として含み、かつ、スメクタイト系粘土鉱物を含む増粘剤(商品名:ベンゲルW-200U;株式会社ホージュン製)1質量部に対して、99質量部のイオン交換水を加えて十分に撹拌し、膨潤させることにより調製した含水ゲルを使用した。
【0070】
(針状フィラー4b1)
針状フィラー4b1として、下記の4種類の繊維状物質を使用した。
1.ピッチ系炭素繊維 商品名:GRANOC Milled Fiber XN-100-05M(日本グラファイトファイバー株式会社製);繊維径9μm、繊維長50μm、アスペクト比6、密度2.2g/cm、以下「100-05M」と記載。
2.ピッチ系炭素繊維 商品名:DIALEAD K223HM(三菱樹脂株式会社製);繊維径11μm、繊維長200μm、アスペクト比18、密度2.2g/cm、以下「K223HM」と記載。
3.PAN系炭素繊維 商品名:トレカ ミルドファイバー MLD-300(東レ株式会社製);繊維径7μm、繊維長130μm、アスペクト比19、密度1.8g/cm、以下「MLD-300」と記載。
4.ガラス繊維 商品名:EFH150-01(セントラルグラスファイバー株式会社製);繊維径11μm、繊維長150μm、アスペクト比14、密度2.6g/cm、以下「150-01」と記載。
【0071】
(表層4c)
表層4cとしては、厚み40μm、外径29.0mmのPFAチューブを使用した。PFAチューブは以下に示す市販品を使用した。
<商品名:テフロン(登録商標) PFA 451HP-J(三井・デュポン フロロケミカル株式会社製)、以下「451HP-J」と記載>
【0072】
≪電子写真用加圧回転体4の作製≫
[実験例A]
(実施例A-1)
ベースポリマーである未架橋の付加硬化型液状シリコーンゴムと、針状フィラー4b1である「100-05M」と、含水ゲルとを、万能混合撹拌機(商品名:T.K.ハイビスミックス2P-1、プライミクス株式会社製)を用いて撹拌羽根の回転数を80rpmとして、30分間撹拌し、エマルジョン状態の液状組成物を調製した。この際、未架橋の付加硬化型液状シリコーンゴムと針状フィラー4b1は、表1にあるとおり、針状フィラー4b1の含有率が15体積%となるように配合した。
【0073】
図6に示す構成になるように、内径が30mmのパイプ状の筒型7の内面に、表層4cとして内面にプライマー(商品名:DY39-067、東レ・ダウコーニング株式会社製)による接着処理を施したPFAチューブを筒型7に挿入し、固定した。次いで、プライマー(商品名:DY39-051、東レ・ダウコーニング株式会社製)で接着処理済みの基体4aを、図6に示すように両端部の軸受け5および軸受け6で把持した状態となるように筒型7の内部に設置した。そして、軸受け5および軸受け6を筒型7に圧接固定した。
【0074】
次に、横穴13から不図示の手段で減圧を行い、上述のPFAチューブを筒型7の内壁に密着させた。その後、先に調製した液状組成物を、連通路11を通じてキャビティ9内に注入充填し、キャビティ9内を液状組成物で満たした状態で、連通路11を不図示のネジで、連通路10を不図示のボールバルブで密閉した。
なお、Oリング8は断面の直径が3.5mmの太さのものを使用し、筒型7の溝に保持され、筒型7のテーパー面から出た状態であった。さらに、軸受け5および軸受け6に設けられた溝12の曲率は、Oリング8の形状に沿うように半径2mmの円弧を描くように丸く設定した。また、溝12の深さは、Oリング8の筒型7のテーパー面から出た量に対して、60%となるように設定した。
【0075】
次いで、液状組成物を密閉した型を、熱風オーブン内で90℃で1時間加熱し、液状組成物中のシリコーンゴムを架橋硬化させた。型を冷却した後、軸受け5および軸受け6を筒型7からはずし、筒型7内の硬化物を、熱風オーブン内で130℃で4時間、その後200℃で4時間加熱して、硬化シリコーンゴム層中の水分を蒸発させた。こうして、針状フィラー4b1を含み、かつ、空隙4b2が分散する、単一の層からなる弾性層4bを形成した。最後に余分な端部部分をカットすることで電子写真用加圧回転体No.A-01を得た。
【0076】
得られた電子写真用加圧回転体No.A-01の弾性層4bを基体4aの中心軸を含むb断面で切断したときの切断面における空隙面積をA、単位面積をAとしたときの面積比A/Aの標準偏差が0.08であった。また、電子写真用加圧回転体No.A-01の弾性層4bの空隙率は60体積%であった。
【0077】
電子写真用加圧回転体No.A-01の、面積比A/Aの標準偏差の測定において、電子写真用加圧回転体No.A-01と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて測定した。標準偏差の測定は弾性層4bの長さ330mmに対して、両端33mmと中心となる165mm位置の3か所、およびこれらの位置に関して周方向で180°異なる位置の計6か所から、弾性層4bの長軸方向に3mm周方向に3mmのサンプル4bsを切り出し、「(3-3)空隙4b2」に記載するように、b断面における、空隙面積をA、単位面積をAとしたときの面積比A/Aの標準偏差を算出した。6つのサンプル4bsの面積比A/Aの標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.A-01の標準偏差として、表1に示した。
【0078】
(実施例A-2)
実施例A-1と同じ液状組成物を、連通路11を通じてキャビティ9内に注入充填する際に、連通路10の先に減圧器(商品名:VUH07-66A、株式会社日本ピスコ製)を用いてキャビティ9を減圧状態にした後に、キャビティ9内を液状組成物で満たしたという以外は、実施例A-1と同様の条件で、電子写真用加圧回転体No.A-02を得た。
なお、空隙面積割合の標準偏差の測定においては、電子写真用加圧回転体No.A-02と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて、実施例A-1と同様に測定した。標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.A-02の標準偏差として、表1に示した。
【0079】
(比較例A-1)
軸受け5と軸受け6に溝12を設けない軸受けを使用した以外は、実施例A-1と同様の条件で、電子写真用加圧回転体No.A-03を得た。
なお、面積比A/Aの標準偏差の測定においては、電子写真用加圧回転体No.A-03と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて、実施例A-1と同様に測定した。標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.A-03の標準偏差として、表1に示した。
【0080】
(実施例B-1)
ベースポリマーである未架橋の付加硬化型液状シリコーンゴムと、針状フィラー4b1である「K223HM」と、含水ゲルを混合し、万能混合撹拌機(商品名:T.K.ハイビスミックス2P-1、プライミクス株式会社製)を用いて撹拌羽根の回転数を80rpmとして、30分間撹拌し、エマルジョン状態の液状組成物を調製した。この際、未架橋の付加硬化型液状シリコーンゴムと針状フィラー4b1は、表1にあるとおり、針状フィラー4b1の含有率が7体積%となるように配合した。
これ以外は、実施例A-1と同様の条件で、電子写真用加圧回転体No.B-01を得た。得られた、電子写真用加圧回転体No.B-01の弾性層4bの空隙率は40体積%であった。
【0081】
なお、面積比A/Aの標準偏差の測定においては、電子写真用加圧回転体No.B-01と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて、実施例A-1と同様に測定した。標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.B-01の標準偏差として、表1に示した。
【0082】
(実施例B-2)
実施例B-1と同じ液状組成物を、連通路11を通じてキャビティ9内に注入充填する際に、連通路10の先に減圧器(商品名:VUH07-66A、株式会社日本ピスコ製)を用いてキャビティ9を減圧状態にした状態でキャビティ9内を液状組成物で満たしたという以外は、実施例B-1と同様の条件で、電子写真用加圧回転体No.B-02を得た。
【0083】
なお、面積比A/Aの標準偏差の測定においては、電子写真用加圧回転体No.B-02と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて、実施例A-1と同様に測定した。標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.B-02の標準偏差として、表1に示した。
【0084】
(比較例B-1)
軸受け5と軸受け6に溝12を設けない軸受けを使用した以外は、実施例B-1と同様の条件で、電子写真用加圧回転体No.B-03を得た。
【0085】
なお、面積比A/Aの標準偏差の測定においては、電子写真用加圧回転体No.B-03と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて、実施例A-1と同様に測定した。標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.B-03の標準偏差として、表1に示した。
【0086】
(実施例C-1)
ベースポリマーである未架橋の付加硬化型液状シリコーンゴムと、針状フィラー4b1である「MLD-300」と、含水ゲルを混合し、万能混合撹拌機(商品名:T.K.ハイビスミックス2P-1、プライミクス株式会社製)を用いて撹拌羽根の回転数を80rpmとして、30分間撹拌し、エマルジョン状態の液状組成物を調製した。この際、未架橋の付加硬化型液状シリコーンゴムと針状フィラー4b1は、表1にあるとおり、針状フィラー4b1の含有率が2体積%となるように配合した。
これ以外は、実施例A-1と同様の条件で、電子写真用加圧回転体No.C-01を得た。得られた、電子写真用加圧回転体No.C-01の弾性層4bの空隙率は20体積%であった。
【0087】
なお、面積比A/Aの標準偏差の測定においては、電子写真用加圧回転体No.C-01と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて、実施例A-1と同様に測定した。標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.C-01の標準偏差として、表1に示した。
【0088】
(実施例C-2)
実施例C-1と同じ液状組成物を、連通路11を通じてキャビティ9内に注入充填する際に、連通路10の先に減圧器(商品名:VUH07-66A、株式会社日本ピスコ製)を用いてキャビティ9を減圧状態にした状態でキャビティ9内を液状組成物で満たしたという以外は、実施例C-1と同様の条件で、電子写真用加圧回転体No.C-02を得た。
【0089】
なお、面積比A/Aの標準偏差の測定においては、電子写真用加圧回転体No.C-02と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて、実施例A-1と同様に測定した。標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.C-02の標準偏差として、表1に示した。
【0090】
(比較例C-1)
軸受け5と軸受け6に溝12を設けない軸受けを使用した以外は、実施例C-1と同様の条件で、電子写真用加圧回転体No.C-03を得た。
なお、面積比A/Aの標準偏差の測定においては、電子写真用加圧回転体No.C-03と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて、実施例A-1と同様に測定した。標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.C-03の標準偏差として、表1に示した。
【0091】
(実施例D-1)
ベースポリマーである未架橋の付加硬化型液状シリコーンゴムと、針状フィラー4b1である「150-01」と、含水ゲルを混合し、万能混合撹拌機(商品名:T.K.ハイビスミックス2P-1、プライミクス株式会社製)を用いて撹拌羽根の回転数を80rpmとして、30分間撹拌し、エマルジョン状態の液状組成物を調製した。この際、未架橋の付加硬化型液状シリコーンゴムと針状フィラー4b1は、表1にあるとおり、針状フィラー4b1の含有率が4体積%となるように配合した。
【0092】
先に調製した液状組成物を、連通路11を通じてキャビティ9内に注入充填する際に、予め、連通路10の先に減圧器(商品名:VUH07-66A、株式会社日本ピスコ製)を用いてキャビティ9を減圧状態にした状態でキャビティ9内を液状組成物で満たしたという以外は、実施例A-1と同様の条件で、電子写真用加圧回転体No.D-01を得た。得られた、電子写真用加圧回転体No.D-01の弾性層4bの空隙率は30体積%であった。
【0093】
なお、面積比A/Aの標準偏差の測定においては、電子写真用加圧回転体No.D-01と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて、実施例A-1と同様に測定した。標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.D-01の標準偏差として、表1に示した。
【0094】
(比較例D-1)
軸受け5と軸受け6に溝12を設けない軸受けを使用した以外は、実施例D-1と同様の条件で、電子写真用加圧回転体No.D-02を得た。
【0095】
面積比A/Aの標準偏差の測定においては、電子写真用加圧回転体No.D-02と同じ作成方法により得た電子写真用加圧回転体を用いて、実施例A-1と同様に測定した。標準偏差のうち、最大の値を電子写真用加圧回転体No.D-02の標準偏差として、表1に示した。
【0096】
各比較例においては、加熱架橋時に液状組成物が流動し、Oリング8と筒型7またはOリング8と軸受け5もしくは6とのすき間より、微小に漏れていることが確認された。
【0097】
≪電子写真用加圧回転体の評価≫
得られた電子写真用加圧回転体の硬度を、面積比A/Aの標準偏差の測定のためのサンプルを切り出した6箇所と同じ位置で、硬度計(商品名:デュロメーター タイプE;高分子計器株式会社製、1kgf)を用いて測定した。
その後、作製した電子写真用加圧回転体を、図1で示す定着装置に、定着部材と電子写真用加圧回転体の間にかかる加圧力を70kgfに設定して、搭載した。
次いで、連続通紙による過酷耐久試験を行い、通紙枚数10万枚後に、定着装置から電子写真用加圧回転体を取り出し、過酷耐久試験前に測定した6箇所について同様に硬度測定した。各6箇所の位置の過酷耐久試験前の硬度をそれぞれ100%とした時の、過酷耐久試験後の硬度変化率のうち、最大の硬度変化率を、過酷耐久試験による硬度変化率として表1に示した。
【0098】
硬度変化率は、以下の式より算出した。
硬度変化率={(過酷耐久試験後硬度-過酷耐久試験前硬度)/過酷耐久試験前硬度}×100
【0099】
【表1】
【0100】
本発明は上記実施例に制限されるものではなく、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更および変形が可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 フィルムガイド部材
2 ヒータ
2a ヒータ基板
2b サーミスタ
2c 通電発熱体
2d 表面保護層
3 フィルム(加熱部材)
4 電子写真用加圧回転体
a フィルムの回転方向
b 電子写真用加圧回転体の回転方向
M 駆動源
N ニップ部
P 記録材
T 未定着トナー画像
4a 基体
4b 弾性層
4c 表層
D 針状フィラーの直径
L 針状フィラーの長さ
4bs サンプル
4b1 針状フィラー
4b2 空隙
5 軸受け
6 軸受け
7 筒型
8 Oリング
9 キャビティ
10 連通路
11 連通路
12 溝
13 横穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6