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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】Snめっき材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/50 20060101AFI20221205BHJP
   C25D 3/30 20060101ALI20221205BHJP
   C25D 3/56 20060101ALI20221205BHJP
   C25D 5/02 20060101ALI20221205BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20221205BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20221205BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
C25D5/50
C25D3/30
C25D3/56 D
C25D5/02
C25D5/12
C25D7/00 H
H01R4/62
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018068147
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178375
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】園田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】土井 龍大
(72)【発明者】
【氏名】成枝 宏人
(72)【発明者】
【氏名】冨谷 隆夫
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011503(JP,A)
【文献】特開2015-053251(JP,A)
【文献】特開2011-012350(JP,A)
【文献】特開2009-108389(JP,A)
【文献】特開2017-059497(JP,A)
【文献】特開2008-285729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/50
C25D 3/30
C25D 3/56
C25D 5/02
C25D 5/12
C25D 7/00
H01R 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電線に接続される端子の材料として使用されるSnめっき材であって、銅または銅合金からなる基材の表面にSn含有層が形成され、このSn含有層がCu-Sn合金層とこのCu-Sn合金層の表面に形成されたSnからなるSn層とから構成され、このSn層の表面にNi含有量が5~20質量%であるNi-Znめっき層が形成され、このNi-Znめっき層が基材の一方の表面のSn含有層の表面のみに最表層として形成され、基材の他方の面のSn含有層が最表層として形成されていることを特徴とする、Snめっき材。
【請求項2】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電線に接続される端子の材料として使用されるSnめっき材であって、銅または銅合金からなる基材上に下地層が形成され、この下地層上にSn含有層が形成され、このSn含有層がCu-Sn合金層とこのCu-Sn合金層の表面に形成されたSnからなるSn層とから構成され、このSn層の表面にNi含有量が5~20質量%であるNi-Znめっき層が形成され、基材の一方の表面のSn含有層の表面のみに最表層としてNi-Znめっき層が形成され、基材の他方の面のSn含有層が最表層として形成されていることを特徴とする、Snめっき材。
【請求項3】
前記下地層がCuおよびNiの少なくとも一方を含む層であることを特徴とする、請求項2に記載のSnめっき材。
【請求項4】
前記Sn層の平均厚さが5μm以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のSnめっき材。
【請求項5】
前記Cu-Sn合金層の平均厚さが0.2~2μmであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のSnめっき材。
【請求項6】
前記Ni-Znめっき層の平均厚さが0.5~30μmであることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のSnめっき材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Snめっき材およびその製造方法に関し、特に、ワイヤーハーネスなどの電線に接続される端子などの材料として使用されるSnめっき材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のワイヤーハーネスなどの電線として銅または銅合金からなる電線が使用され、その電線に接続される端子などの材料として、銅または銅合金にSnめっきを施したSnめっき材が使用されている。
【0003】
近年、車両の軽量化による燃費効率の向上のため、車両用のワイヤーハーネスなどの電線として、銅または銅合金より比重の小さいアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電線が使用されている。
【0004】
しかし、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電線にSnめっき材からなる端子を加締めなどの圧着加工により接続すると、電位差の大きい異種金属の接触によるガルバニック腐食(卑な金属が溶解する異種金属接触腐食)が生じる可能性がある。
【0005】
そのため、接続部分に防食剤や樹脂を塗布して異種金属接触腐食を防止しているが、生産性が低下し、製造コストが高くなる。
【0006】
また、異種金属接触腐食を防止する端子として、電線の一端に露出した第一の金属(アルミニウム系材料)からなる芯線を加締め接続する芯線バレル部を有する電線接続部を備え、第一の金属よりもイオン化傾向が小さい第二の金属(銅系材料)により形成された端子であって、芯線バレル部が芯線を加締める前に、イオン化傾向が第一の金属と第二の金属の間である第三の金属(亜鉛)で電線接触部がめっき処理され、芯線バレル部における接続面のめっき層が加締め時に破壊される端子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-134891号公報(段落番号0008、0022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の端子では、電線接触部が第三の金属(亜鉛)でめっき処理され、加締め時にめっき層が破壊されるように非常に薄いめっき層を形成する必要があるので、長期間にわたって異種金属接触腐食を防止することが困難である。また、端子の材料として一般的に使用されているSnめっき材の表面に異種金属接触腐食防止層としてZnめっき層を形成しても、Znめっき層の密着性が悪く、Snめっき材を端子の材料として使用した場合に、端子形状に加工する際にZnめっき層が剥離し易くなることがわかった。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、表面に異種金属接触腐食防止層が形成されたSnめっき材をアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電線に加締めなどの圧着加工により接続する端子の材料として使用した場合に、圧着加工の際に接続部分の加工を施さなくても、耐食性が良好であり且つ表面に形成した異種金属接触腐食防止層の密着性が良好であるSnめっき材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、銅または銅合金からなる基材の表面にSn含有層が形成されたSnめっき材において、Sn含有層をCu-Sn合金層とこのCu-Sn合金層の表面に形成されたSnからなるSn層とから構成し、Sn層の表面に異種金属接触腐食防止層としてNi-Znめっき層を形成することにより、表面に異種金属接触腐食防止層が形成されたSnめっき材をアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電線に加締めなどの圧着加工により接続する端子の材料として使用した場合に、圧着加工の際に接続部分の加工を施さなくても、耐食性が良好であり且つ表面に形成した異種金属接触腐食防止層の密着性が良好であるSnめっき材を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によるSnめっき材は、銅または銅合金からなる基材の表面にSn含有層が形成されたSnめっき材において、Sn含有層がCu-Sn合金層とこのCu-Sn合金層の表面に形成されたSnからなるSn層とから構成され、Sn層の表面にNi-Znめっき層が形成されていることを特徴とする。
【0012】
このSnめっき材において、Sn層の平均厚さが5μm以下であるのが好ましく、Cu-Sn合金層の平均厚さが0.2~2μmであるのが好ましい。また、Ni-Znめっき層の平均厚さが0.5~30μmであるのが好ましく、Ni-Znめっき層中のNi含有量が5~30質量%であるのが好ましい。また、基材とSn含有層との間に下地層を形成してもよい。この場合、下地層がCuおよびNiの少なくとも一方を含む層であるのが好ましい。また、基材の一方の表面のSn含有層の表面のみに最表層としてNi-Znめっき層が形成され、基材の他方の面のSn含有層が最表層として形成されているのが好ましい。
【0013】
また、本発明によるSnめっき材の製造方法は、銅または銅合金からなる基材の表面にSnめっき層を形成した後、熱処理により、Cu-Sn合金層とこのCu-Sn合金層の表面に形成されたSnからなるSn層とから構成されたSn含有層を形成してSnめっき材を製造する方法において、Sn含有層の表面にNi-Znめっき層を形成することを特徴とする。
【0014】
このSnめっき材の製造方法において、熱処理により、Sn層の平均厚さを5μm以下にするのが好ましく、Cu-Sn合金層の平均厚さを0.2~2μmにするのが好ましい。また、Ni-Znめっき層の平均厚さが0.5~30μmであるのが好ましく、Ni-Znめっき層中のNi含有量が5~30質量%であるのが好ましい。また、Snめっき層を形成する前にCuめっき層を形成して、基材とSn含有層との間にCuを含む下地層を形成してもよい。あるいは、Snめっき層を形成する前にNiめっき層とCuめっき層をこの順で形成して、熱処理により、基材とSn含有層との間にCuおよびNiの少なくとも一方を含む下地層を形成してもよい。
【0015】
さらに、本発明による電線接続用端子は、銅または銅合金からなる基材の表面にSn含有層が形成されたSnめっき材を材料として用いた接続端子であって、Sn含有層がCu-Sn合金層とこのCu-Sn合金層の表面に形成されたSnからなるSn層とから構成され、電線との接続部以外の部分においてSn含有層の表面にNi-Znめっき層が形成されていることを特徴とする。
【0016】
この電線接続用端子において、Sn層の平均厚さが5μm以下であるのが好ましく、Cu-Sn合金層の平均厚さが0.2~2μmであるのが好ましい。また、Ni-Znめっき層の平均厚さが0.5~30μmであるのが好ましく、Ni-Znめっき層中のNi含有量が5~30質量%であるのが好ましい。また、基材とSn含有層との間に下地層を形成してもよい。この場合、下地層がCuおよびNiの少なくとも一方を含む層であるのが好ましい。また、電線は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるのが好ましく、単芯線または撚線であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面に異種金属接触腐食防止層が形成されたSnめっき材をアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電線に加締めなどの圧着加工により接続する端子の材料として使用した場合に、圧着加工の際に接続部分の加工を施さなくても、耐食性が良好であり且つ表面に形成した異種金属接触腐食防止層の密着性が良好であるSnめっき材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明によるSnめっき材の一実施の形態を概略的に示す断面図である。
図2】本発明によるSnめっき材の他の実施の形態を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、本発明によるSnめっき材の実施の形態では、銅または銅合金からなる(板材や条材などの)基材10の表面(図示した実施の形態では両面)にSn含有層12が形成されたSnめっき材において、Sn含有層12がCu-Sn合金層121とこのCu-Sn合金層の表面に形成された(好ましくは5μm以下、さらに好ましくは0~2μm、最も好ましくは0.1~1.5μmの平均厚さの)SnからなるSn層122とから構成され、Sn含有層12の表面(図示した実施の形態では一方の面)に最表層として(異種金属接触腐食防止層としての)Ni-Znめっき層14が形成されている。なお、Ni-Znめっき層14は、(好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは7~25質量%のNiを含む)Ni-Zn合金からなり、最表層として(異種金属接触腐食防止層としての)Ni-Znめっき層14を形成することにより、Snめっき材の耐食性を大幅に向上させることができるとともに、Sn含有層12と異種金属接触腐食防止層(Ni-Znめっき層14)との密着性を大幅に向上させることができる。
【0020】
このSnめっき材において、Cu-Sn合金層121の平均厚さは、0.2~2μmであるのが好ましく、0.3~1.5μmであるのがさらに好ましい。Ni-Znめっき層14の平均厚さは、0.5~30μmであるのが好ましく、1~20μmであるのがさらに好ましく、2~15μmであるのが最も好ましい。Ni-Znめっき層14が厚過ぎると、Ni-Znめっき層14を形成する際のめっき時間が長くなり過ぎて生産性が低下し、また、Snめっき材を端子などの材料として使用した場合に、端子などを作製する際の曲げ加工時にNi-Znめっき層14が剥離するおそれがある。一方、Ni-Znめっき層14が薄過ぎると、長期間にわたって異種金属接触腐食を防止することが困難になる。
【0021】
また、図2に示すように、基材10とSn含有層12との間に下地層16を形成してもよい。この場合、下地層16はCuおよびNiの少なくとも一方を含む層(Ni層とCu層の少なくとも一方の層)であるのが好ましい。下地層16の平均厚さは、1.5μm以下であるのが好ましく、1.2μm以下であるのがさらに好ましい。
【0022】
なお、Ni-Znめっき層は、Sn含有層の表面の一部のみに形成してもよい。この場合、Ni-Znめっき層が形成されていないSn含有層の表面の他の部分では、Sn含有層が最表層になり、この最表層のSn含有層のSn層の平均厚さは、5μm以下であるのが好ましく、0~2μmであるのが好ましく、0.1~1.5μmであるのが最も好ましい。また、この最表層のSn含有層のCu-Sn合金層の平均厚さは、0.2~2μmであるのが好ましく、0.3~1.5μmであるのがさらに好ましい。
【0023】
上述したSnめっき材の実施の形態は、本発明によるSnめっき材の製造方法の実施の形態により製造することができる。
【0024】
本発明によるSnめっき材の製造方法の実施の形態では、銅または銅合金からなる基材の表面に(電気めっきなどにより、好ましくは0.1~2μm、さらに好ましくは0.2~1.5μmの平均厚さの)Snめっき層を形成した後、(赤外線ヒーター、熱風循環、直火式などの熱処理装置により)熱処理(リフロー処理)により、Cu-Sn合金層とこのCu-Sn合金層の表面に形成されたSnからなるSn層とから構成されたSn含有層を形成してSnめっき材を製造する方法において、Sn層の平均厚さを好ましくは5μm以下(さらに好ましくは0~2μm、最も好ましくは0.1~1.5μm)にした後、このSn層の表面に最表層として(電気めっきなどにより)Ni-Znめっき層を形成する。
【0025】
このSnめっき材の製造方法において、熱処理により、Sn層の平均厚さを好ましくは5μm以下(さらに好ましくは0~2μm、最もに好ましくは0.1~1.5μm)にするとともに、Cu-Sn合金層の平均厚さを好ましくは0.2~2μm(さらに好ましくは0.3~1.5μm)にする。Ni-Znめっき層の平均厚さは、0.5~30μmにするのが好ましく、1~20μmであるのがさらに好ましく、2~15μmであるのが最も好ましい。また、Snめっき層を形成する前に(好ましくは平均厚さ0.1~1.5μmの)Cuめっき層を形成して、基材とSn含有層との間にCuを含む下地層を形成してもよい。あるいは、Snめっき層を形成する前に(好ましくは平均厚さ0.05~1.0μmの)Niめっき層と(好ましくは平均厚さ0.1~1.5μmの)Cuめっき層をこの順で形成して、基材とSn含有層との間にCuおよびNiを含む下地層を形成してもよい。Cu-Sn合金層とSn層とNi-Znめっき層の平均厚さは、走査イオン顕微鏡像などにより測定することができる。
【0026】
なお、Ni-Znめっき層は、(マスキングやめっき液面の高さの制御などにより)基材の一方の表面のSn含有層の表面のみ(またはSn含有層の表面の一部のみ)に形成してもよい。この場合、Ni-Znめっき層が形成されていないSn含有層の表面の他の部分では、Sn含有層が最表層になり、この最表層のSn含有層のSn層の平均厚さは、5μm以下であるのが好ましく、0~2μmであるのがさらに好ましく、0.1~1.5μmであるのが最も好ましい。
【0027】
上述したSnめっき材の実施の形態は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電線に接続される端子などの通電部材の材料として使用することができる。また、Ni-Znめっき層をSn含有層の表面の一部のみに形成する場合には、Ni-Znめっき層が形成されていないSn含有層の表面の他の部分(Sn含有層が最表層になる部分)でアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる電線に接続するのが好ましい。
【実施例
【0028】
以下、本発明によるSnめっき材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0029】
[実施例1]
まず、50mm×50mm×0.25mmの大きさのCu-Ni-Sn-P系合金からなる平板状の導体基材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuである銅合金の基材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB-109)を用意した。
【0030】
次に、前処理として、基材(被めっき材)をアルカリ電解脱脂液により10秒間電解脱脂を行った後に水洗し、その後、100g/Lの硫酸に浸漬して酸洗した後に水洗した。
【0031】
次に、60g/Lの硫酸第一錫と75g/Lの硫酸と30g/Lのクレゾールスルホン酸と1g/Lのβナフトールを含むSnめっき液中において、基材を陰極とし、Sn電極板を陽極として、電流密度5A/dm、液温25℃で20秒間電気めっきを行うことにより、基材の表面に平均厚さ1μmのSnめっき層を形成してSnめっき材を得た。
次に、得られたSnめっき材を洗浄して乾燥した後、熱処理(リフロー処理)を行った。このリフロー処理では、2つの近赤外線ヒーター(株式会社ハイベック製のHYP-8N、定格電圧100V、定格電力560W、平行照射タイプ)を25mm離間して対向するように配置し、これらの近赤外線ヒーターの中央部にSnめっき材を配置して、設定電流値を10.8Aとして、大気雰囲気においてSnめっき材を13秒間加熱してSnめっき層の表面を溶融させた直後に25℃の水槽内に浸漬して冷却した。
【0032】
このリフロー処理後のSnめっき材を集束イオンビーム(FIB)により切断して、Snめっき材の圧延方向に垂直な断面を露出させ、その断面を電界放射型オージェ電子分光分析装置(FE-AES)により分析した。その結果、Snめっき材の基材の表面にCu-Sn合金からなるCu-Sn合金層が形成され、このCu-Sn合金層の表面にSnからなるSn層が形成されていることが確認された。また、Cu-Sn合金層とSn層の平均厚さを電解式膜厚計(株式会社中央製作所製のThickness Tester TH-11)により測定したところ、Cu-Sn合金層の平均厚さは0.6μmであり、Sn層の平均厚さは0.7μmであった。
【0033】
次に、リフロー処理後のSnめっき材の一方の面の全面にテープを貼り付けてマスキングした後、そのSnめっき材を40g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して10A/dmで30秒間電解脱脂し、100g/Lの硫酸に30秒間浸漬して酸洗した後に水洗した。
【0034】
次に、73g/Lの塩化亜鉛と20g/Lの塩化ニッケルと250g/Lの塩化カリウムと27g/Lのホウ酸と40mLの結晶微細化剤(Pavco社製のNiClipse C Starter)と60mLの(めっき厚方向)均一合金維持剤(Pavco社製のNiClipse C Complexor)と0.5mLの光沢剤(Pavco社製のNiClipse C Brightner)とを含むNi-Znめっき液(塩化浴)中において、(一方の面の全面にテープを貼り付けてマスキングした)Snめっき材を陰極とし、Zn電極板を陽極として、液温25℃、電流密度4A/dmで390秒間電気めっきを行うことにより、Snめっき材の他方の面にNi-Znめっき層を形成した。このNi-Znめっき層中のNi濃度を電子線プローブ微量分析法(EPMA)を用いた半定量・定性分析により求めたところ、Ni-Znめっき層中のNi濃度は10質量%であった。
【0035】
このようにしてNi-Znめっき層を形成したSnめっき材を集束イオンビーム(FIB)加工観察装置により切断して、Snめっき材の圧延方向に垂直な断面を露出させ、その断面を電界放射型オージェ電子分光分析装置(FE-AES)により分析した。その結果、Snめっき材の基材の表面にCuSn(Cu-Sn合金)からなるCu-Sn合金層が形成され、このCu-Sn合金層の表面にSnからなるSn層が形成され、このSn層の表面にNi-Znめっき層が形成されていることが確認された。また、これらの層の平均厚さを(1万倍の)走査イオン顕微鏡像(SIM像)から測定したところ、Cu-Sn合金層の平均厚さは0.6μm、Sn層の平均厚さは0.7μm、Ni-Znめっき層の平均厚さは3μmであることが確認された。なお、これらの層の平均厚さは、SIM像上に、Snめっき材の表面に垂直な方向(深さ方向)に延びる任意の直線を5本引き、これらの5本の直線上の各々の層の厚さを測定して平均することにより求めた。
【0036】
Ni-Znめっき層を形成したSnめっき材から切り出した50mm×10mm×0.25mmの大きさの試験片のNi-Znめっき層を外側にして180°密着曲げを行って曲げ戻した後、Snめっき材を曲げた部分のZnめっき層の表面に粘着テープ(ニチバン株式会社製のセロハンテープ)を貼り付けてテープピーリングテストを行い、Ni-Znめっき層の剥離の有無を目視によって評価した。その結果、Sn層とNi-Znめっき層の間の剥離はなく、密着性が良好であった。
【0037】
また、Ni-Znめっき層を形成したSnめっき材から切り出した50mm×10mm×0.25mmの大きさの試験片のNi-Znめっき層を外側にして、このSnめっき材により直径0.8mm、長さ30mmの純アルミニウム単線(A1070)を加締めた後、5質量%のNaCl水溶液中に浸漬し、ガルバニック腐食(卑な金属が溶解する異種金属接触腐食)によるガスの発生時間によって耐食性を評価した。その結果、ガスが発生するまでの時間は192時間以上と長く、耐食性が良好であった。
【0038】
[実施例2]
Ni-Znめっき層を形成する際の電気めっき時間を3900秒間とした以外は、実施例1と同様の方法により、Ni-Znめっき層を形成したSnめっき材を作製した。なお、実施例1と同様の方法により、Ni-Znめっき層中のNi濃度を求めたところ、10質量%であった。
【0039】
このようにして作製した(Ni-Znめっき層を形成した)Snめっき材について、実施例1と同様の方法により、断面を分析し、密着性と耐食性の評価を行った。その結果、Snめっき材の基材の表面にCuSn(Cu-Sn合金)からなるCu-Sn合金層が形成され、このCu-Sn合金層の表面にSnからなるSn層が形成され、このSn層の表面にNi-Znめっき層が形成されていることが確認された。また、Cu-Sn合金層の平均厚さは0.6μm、Sn層の平均厚さは0.7μm、Ni-Znめっき層の平均厚さは30μmであることが確認された。また、Sn層とNi-Znめっき層の間に僅かな剥離があったが、密着性はほぼ良好であった。また、ガスが発生するまでの時間は192時間以上と長く、耐食性が良好であった。
【0040】
[実施例3]
Ni-Znめっき層を形成する際の電気めっき時間を130秒間とした以外は、実施例1と同様の方法により、Ni-Znめっき層を形成したSnめっき材を作製した。なお、実施例1と同様の方法により、Ni-Znめっき層中のNi濃度を求めたところ、10質量%であった。
【0041】
このようにして作製した(Ni-Znめっき層を形成した)Snめっき材について、実施例1と同様の方法により、断面を分析し、密着性と耐食性の評価を行った。その結果、Snめっき材の基材の表面にCuSn(Cu-Sn合金)からなるCu-Sn合金層が形成され、このCu-Sn合金層の表面にSnからなるSn層が形成され、このSn層の表面にNi-Znめっき層が形成されていることが確認された。また、Cu-Sn合金層の平均厚さは0.6μm、Sn層の平均厚さは0.7μm、Ni-Znめっき層の平均厚さは1μmであることが確認された。また、Sn層とNi-Znめっき層の間の剥離はなく、密着性が良好であった。また、ガスが発生するまでの時間は144時間と長く、耐食性が良好であった。
【0042】
[実施例4]
Ni-Znめっき液中の塩化亜鉛の濃度を126g/L、塩化ニッケルの濃度を42g/Lとし、液温を50℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、Ni-Znめっき層を形成したSnめっき材を作製した。なお、実施例1と同様の方法により、Ni-Znめっき層中のNi濃度を求めたところ、20質量%であった。
【0043】
このようにして作製した(Ni-Znめっき層を形成した)Snめっき材について、実施例1と同様の方法により、断面を分析し、密着性と耐食性の評価を行った。その結果、Snめっき材の基材の表面にCuSn(Cu-Sn合金)からなるCu-Sn合金層が形成され、このCu-Sn合金層の表面にSnからなるSn層が形成され、このSn層の表面にNi-Znめっき層が形成されていることが確認された。また、Cu-Sn合金層の平均厚さは0.6μm、Sn層の平均厚さは0.7μm、Ni-Znめっき層の平均厚さは3μmであることが確認された。また、Sn層とNi-Znめっき層の間の剥離はなく、密着性が良好であった。また、ガスが発生するまでの時間は192時間以上と長く、耐食性が良好であった。
【0044】
[実施例5]
50mm×50mm×0.25mmの大きさのCu-Zn合金からなる平板状の導体基材(30質量%のZnを含み、残部がCuである銅合金C2600の基材)を使用し、前処理の後、Snめっき層を形成する前に、基材上に平均厚さ1.0μmのCuめっき層を形成した以外は、実施例1と同様の方法により、Ni-Znめっき層を形成したSnめっき材を作製した。なお、上記のCuめっき層は、110g/Lの硫酸銅と100g/Lの硫酸を含むCuめっき液中において、基材を陰極とし、Cu電極板を陽極として、電流密度5A/dm、液温30℃で40秒間電気めっきを行うことにより形成した。また、実施例1と同様の方法により、Ni-Znめっき層中のNi濃度を求めたところ、10質量%であった。
【0045】
このようにして作製した(Ni-Znめっき層を形成した)Snめっき材について、実施例1と同様の方法により、断面を分析し、密着性と耐食性の評価を行った。その結果、Snめっき材の基材の表面に下地層としてCuからなるCu層が形成され、このCu層の表面にCuSn(Cu-Sn合金)からなるCu-Sn合金層が形成され、このCu-Sn合金層の表面にSnからなるSn層が形成され、このSn層の表面にNi-Znめっき層が形成されていることが確認された。また、Cu層の平均厚さは0.7μm、Cu-Sn合金層の平均厚さは0.6μm、Sn層の平均厚さは0.7μm、Ni-Znめっき層の平均厚さは3μmであることが確認された。また、Sn層とNi-Znめっき層の間の剥離はなく、密着性が良好であった。また、ガスが発生するまでの時間は192時間以上と長く、耐食性が良好であった。
【0046】
[実施例6]
前処理の後、Snめっき層を形成する前に、基材上に平均厚さ0.3μmのNiめっき層を形成し、その後、平均厚さ0.3μmのCuめっき層を形成した後、電気めっき時間を9秒間としてSnめっき層の平均厚さを0.7μmとした以外は、実施例1と同様の方法により、Ni-Znめっき層を形成したSnめっき材を作製した。なお、上記のNiめっき層は、80g/Lのスルファミン酸ニッケルと45g/Lのホウ酸を含むNiめっき液中において、前処理後の基材(被めっき材)を陰極とし、Ni電極板を陽極として、電流密度5A/dm、液温50℃で15秒間電気めっきを行うことにより形成し、Cuめっき層は、110g/Lの硫酸銅と100g/Lの硫酸を含むCuめっき液中において、Niめっき済の被めっき材を陰極とし、Cu電極板を陽極として、電流密度5A/dm、液温30℃で12秒間電気めっきを行うことにより形成した。また、実施例1と同様の方法によりNi-Znめっき層中のNi濃度を求めたところ、10質量%であった。
【0047】
このようにして作製した(Ni-Znめっき層を形成した)Snめっき材について、実施例1と同様の方法により、断面を分析し、密着性と耐食性の評価を行った。その結果、Snめっき材の基材の表面に下地層としてNiからなるNi層が形成され、このNi層の表面にCuからなるCu層が形成され、このCu層の表面にCuSn(Cu-Sn合金)からなるCu-Sn合金層が形成され、このCu-Sn合金層の表面にSnからなるSn層が形成され、このSn層の表面にNi-Znめっき層が形成されていることが確認された。また、Ni層の平均厚さは0.3μm、Cu層の平均厚さは0μm、Cu-Sn合金層の平均厚さは0.6μm、Sn層の平均厚さは0.4μm、Ni-Znめっき層の平均厚さは3μmであることが確認された。なお、Cu層の平均厚さが0μmであるのは、リフロー処理によりCuが拡散してCu-Sn合金層になってCu層が観察されなかったと考えられる。また、Sn層とNi-Znめっき層の間の剥離はなく、密着性が良好であった。また、ガスが発生するまでの時間は192時間以上と長く、耐食性が良好であった。
【0048】
[比較例1]
リフロー処理後のSnめっき材の電解脱脂と酸洗を行わず、Snめっき材の表面にNi-Znめっき層を形成しなかった以外は、実施例1と同様の方法により、Snめっき材を作製した。
【0049】
このようにして作製したSnめっき材について、実施例1と同様の方法により、断面を分析し、耐食性の評価を行った。その結果、Snめっき材の基材の表面にCuSn(Cu-Sn合金)からなるCu-Sn合金層が形成され、このCu-Sn合金層の表面にSnからなるSn層が形成されていることが確認された。また、Cu-Sn合金層の平均厚さは0.6μm、Sn層の平均厚さは0.7μmであることが確認された。また、ガスが発生するまでの時間は2時間と非常に短く、耐食性が悪かった。
【0050】
[比較例2]
Ni-Znめっきに代えてZnめっきを行った以外は、実施例1と同様の方法により、Znめっき層を形成したSnめっき材を作製した。なお、Znめっき層は、5g/Lの金属亜鉛と、200g/Lの塩化カリウムと、30g/Lのホウ酸と、30mL/Lの光沢剤(奥野製薬工業株式会社製のジンクACK-1)と、2mL/Lの光沢剤(奥野製薬工業株式会社製のジンクACK-2)とを含むZnめっき浴中において、(一方の面の全面にテープを貼り付けてマスキングした)Niめっき後のSnめっき材を陰極とし、Zn電極板を陽極として、電流密度16A/dm、液温25℃で45秒間電気めっきを行うことにより形成した。
【0051】
このようにして作製した(Znめっき層を形成した)Snめっき材について、実施例1と同様の方法により、断面を分析し、密着性の評価を行った。その結果、Snめっき材の基材の表面に下地層としてCuからなるCu層が形成され、このCu層の表面にCuSn(Cu-Sn合金)からなるCu-Sn合金層が形成され、このCu-Sn合金層の表面にSnからなるSn層が形成され、このSn層の表面にZnめっき層が形成されていることが確認された。また、Cu-Sn合金層の平均厚さは0.6μm、Sn層の平均厚さは0.7μm、Znめっき層の平均厚さは1μmであることが確認された。また、Sn層とZnめっき層の間に剥離があり、密着性が良好でなかった。
【0052】
これらの実施例および比較例のSnめっき材の製造条件および特性を表1~表2に示す。なお、表2において、密着性が良好である場合を○、僅かな剥離があるが密着性がほぼ良好である場合を△、剥離があって密着性が良好でない場合を×で示している。
【0053】
【表1】
【表2】
【符号の説明】
【0054】
10 基材
12 Sn含有層
14 Ni-Znめっき層
16 下地層
121 Cu-Sn合金層
122 Sn層
図1
図2