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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-02
(45)【発行日】2022-12-12
(54)【発明の名称】撮像装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/28 20210101AFI20221205BHJP
   G02B 7/34 20210101ALI20221205BHJP
   G03B 5/08 20210101ALI20221205BHJP
   G03B 13/36 20210101ALI20221205BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20221205BHJP
   H04N 5/225 20060101ALI20221205BHJP
【FI】
G02B7/28 N
G02B7/34
G03B5/08
G03B13/36
H04N5/232 120
H04N5/232 290
H04N5/225 400
H04N5/232
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018119866
(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公開番号】P2020003523
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】岸 隆史
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-141791(JP,A)
【文献】特開2016-042194(JP,A)
【文献】特開2017-173802(JP,A)
【文献】特開2013-083768(JP,A)
【文献】特開2007-173966(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0319420(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/28-7/40
G03B 5/08
G03B 13/36
H04N 5/232
H04N 5/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子が備える複数の光電変換部から、撮像光学系の互いに異なる瞳領域を通過する光束に対応する一対の像信号を取得する取得手段と、
前記取得された一対の像信号に基づいて、位相差検出のための相関演算を行う制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記相関演算に基づき焦点調節用のレンズを駆動させる測距演算が実行されるごとに、前記相関演算の信頼度に応じて、前記撮像素子を測距開始時の初期位置から光軸に垂直な平面内で回転する制御を実行する
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記相関演算の信頼度が所定値より低い場合に、前記撮像素子を回転し、前記回転された撮像素子から取得される一対の像信号に基づいて、前記相関演算を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記信頼度が所定値より高い場合の前記相関演算に基づくデフォーカス量を用いて、焦点調節用のレンズを駆動する
ことを特徴とする請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記信頼度が所定値より低い場合に、現在の信頼度が前回の信頼度より高いときは、前記撮像素子を回転する
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記撮像素子を回転する場合に、撮像領域における被写体領域の位置に応じて、前記相関演算の対象領域を変更する
ことを特徴とする請求項4に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記制御手段は、現在の前記信頼度が前回の前記信頼度より低い場合は、取得済みの信頼度のうち、最も高い信頼度に対応する前記相関演算に基づくデフォーカス量を用いて、焦点調節用のレンズを駆動する
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記制御手段は、現在の前記信頼度が前回の前記信頼度より高い場合に、前記撮像素子を第1の方向に回転し、現在の前記信頼度が前回の前記信頼度より低い場合に、前記撮像素子を前記第1の方向と逆方向の第2の方向に回転する
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記撮像素子の回転後に前記撮像素子から得られる撮像画像を補正することによって、前記撮像素子の回転前の撮像画像を復元する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記撮像素子は、1つのマイクロレンズに対して複数の光電変換部を有する画素を備える
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記1つのマイクロレンズに対する画素が有する前記複数の光電変換部は、水平方向または垂直方向に分割されている
ことを特徴とする請求項9に記載の撮像装置。
【請求項11】
撮像素子を備える撮像装置の制御方法であって、
前記撮像素子が備える複数の光電変換部から、撮像光学系の互いに異なる瞳領域を通過する光束に対応する一対の像信号を取得する取得工程と、
前記取得された一対の像信号に基づいて相関演算を行う制御工程とを有し、
前記制御工程では、前記相関演算に基づき焦点調節用のレンズを駆動させる測距演算が実行されるごとに、前記相関演算の信頼性に応じて、前記撮像素子を測距開始時の初期位置から光軸に垂直な平面内で回転する制御を実行する
ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
手振れ補正機能を有するデジタルカメラなどの撮像装置が提案されている。手振れ補正機能を有する撮像装置は、角速度検出装置によって検知した手振れ量に応じて、撮影光学系や撮像素子を移動させて、像ブレを補正する。撮像素子を移動させて像ブレを補正する方式は、撮影光学系を移動させて像ブレを補正する方式と比較して、水平・垂直方向の像ブレだけでなく、回転方向の像ブレも抑制することができる。特許文献1は、3つの駆動コイルを使うことで、回転方向の像ブレを抑制する撮像装置を開示している。
【0003】
また、撮像光学系の異なる瞳領域を通過した光を受光する複数の光電変換部を有する画素を備える撮像素子が提案されている。撮像装置は、上記の複数の光電変換部から得られる一対の像信号に基づいて、撮像と同時に位相差方式の焦点検出を行う。
【0004】
特許文献2、特許文献3は、1つの画素の中にある、1つのマイクロレンズで集光されるフォトダイオード(PD)が分割された構成を有する撮像素子を備える撮像装置を開示している。各々のPDは、撮像光学系の異なる瞳領域の光束を受光する。また、特許文献4は、PDの前面にある配線層を画素によって変更することで、撮像光学系の異なる瞳領域の光を受光するように構成された光電変換セルを有する撮像装置を開示している。特許文献2乃至3が開示する撮像装置は、撮像光学系の異なる瞳領域を通過した光束を受光した各々のPDから出力される像信号に基づいて、像ずれ量の検出すなわち位相差検出を行って、デフォーカス量を求め、焦点調節処理を行う。
【0005】
撮像素子で位相差検出を行う撮像装置の場合、像ずれ量の検出領域としては1次元(1行)ではなく2次元の領域を使うことが望ましい。1行だけの検出領域では、撮像素子の画素ピッチ分だけしか行方向に焦点検出領域がなく、検出領域が狭すぎるからである。特許文献5は、2次元のデータを用いて焦点検出処理を行う撮像装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-218256号公報
【文献】特開2001-083407号公報
【文献】特開2001-250931号公報
【文献】特開2000-156823号公報
【文献】特開2013-186203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献5が開示する撮像装置では、2つのPDから別々に読み出した信号を比較することで、位相差検出を行う。この撮像装置は、撮像光学系の射出瞳を水平または垂直の1方向に分割して、位相差検出を行うので、射出瞳の分割方向にコントラストの高い被写体がある場合には、精度良く位相差検出を行うことができる。例えば、射出瞳が水平方向に分割されている場合には、縦線のような被写体については、精度良く位相差を検出できる。しかし、射出瞳の分割方向と垂直の方向にコントラストの高い被写体がある場合、例えば、射出瞳が水平分割で被写体が横線である場合は、位相差の検出精度が落ち、精度良く焦点調節処理を行うことができない。本発明は、撮像光学系の異なる瞳領域を通過する光束に対応する一対の像信号に基づいて、精度良く位相差検出を行うことができる撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態の撮像装置は、撮像素子が備える複数の光電変換部から、撮像光学系の互いに異なる瞳領域を通過する光束に対応する一対の像信号を取得する取得手段と、前記取得された一対の像信号に基づいて、位相差検出のための相関演算を行う制御手段とを備える。前記制御手段は、前記相関演算に基づき焦点調節用のレンズを駆動させる測距演算が実行されるごとに、前記相関演算の信頼度に応じて、前記撮像素子を測距開始時の初期位置から光軸に垂直な平面内で回転する制御を実行する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の撮像装置によれば、撮像光学系の異なる瞳領域を通過する光束に対応する一対の像信号に基づいて、精度良く位相差検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】撮像装置の構成例を示す図である。
図2】撮像素子の構成例を示す図である。
図3】撮像素子の1画素の構成例を示す図である。
図4】撮像素子が備える画素部を示す図である。
図5】撮像素子での受光を説明する図である。
図6】ピント状態に応じたA像信号とB像信号を説明する図である。
図7】撮像素子の測距領域を示す図である。
図8】相関演算を説明するフローチャートである。
図9図8のS710の処理を説明する図である。
図10】撮像素子を回転する構成の一例を示す図である。
図11】測距演算を説明する図である。
図12】被写体が回転角の中心から外れている場合の処理を説明する図である。
図13】測距演算を説明する図である。
図14】測距演算を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施例1)
図1は、本実施形態の撮像装置の構成例を示す図である。
本実施形態の撮像装置は、例えば、デジタルカメラである。撮像装置は、撮像素子100、駆動ユニット900、レンズ部1401、レンズ駆動装置1402、シャッタ1403、シャッタ駆動装置1404、移動量検出部1405、撮像信号処理回路1406を備える。また、撮像装置は、タイミング発生部1407、メモリ部1408、全体制御・演算部1409、記録媒体制御I/F部1410、記録媒体1411、表示部1412、測光装置1413を備える。
【0012】
レンズ部1401は、被写体光を撮像素子100に結像させる。レンズ駆動装置1402は、レンズ部1401を制御して、ズーム制御、フォーカス制御、絞り制御などを行う。シャッタ1403は、露光量を調節する。シャッタ駆動装置1404は、シャッタ1403を制御する。撮像素子100は、被写体光を光電変換して画像信号を出力する。撮像信号処理回路1406は、撮像素子100が出力する画像信号に対して、各種の補正を行ったり、画像信号に係るデータ(画像データ)を圧縮したりする。また、撮像信号処理回路1406は、測距演算を行う位相差検出回路を含んでいる。
【0013】
駆動ユニット900は、撮像素子100を水平方向、垂直方向または回転方向に駆動する。移動量検出部1405は、撮像装置に加わる振れを検出する。移動量検出部1405は、例えば、ジャイロセンサである。タイミング発生部1407は、撮像素子100、撮像信号処理回路1406に、各種タイミング信号を出力する。
【0014】
全体制御・演算部1409は、撮像装置全体を制御する。メモリ部1408は、画像データを一時的に記憶する。記録媒体制御I/F部1410は、記録媒体1411に記録または読み出しを行うためのインタフェースである。記録媒体1411は、画像データを記録する。記録媒体1411は、例えば、着脱可能な半導体メモリである。表示部1412は、各種情報や撮影画像を表示する。測光装置1413は、被写体の明るさなどを検出する。
【0015】
撮像装置の撮影時の動作について説明する。メイン電源がオンされると、コントロール系の電源がオンし、更に、撮像信号処理回路1406などの撮像系回路の電源がオンされる。次に、不図示のレリーズボタンが押されると、撮像信号処理回路1406が有する位相差検出回路が、全体制御・演算部1409の制御にしたがって、撮像素子100から出力される像信号に基づいて、測距演算を行う。具体的には、位相差検出回路は、撮像光学系の異なる瞳領域を通過した光束に対応する一対の像信号に基づいて、位相差検出のための相関演算を行って、一対の像信号の位相差を検出し、デフォーカス量を算出する。本実施形態では、全体制御・演算部1409が、相関演算の信頼度に応じて、駆動ユニット900を制御して撮像素子100を回転させることで、より精度の高い測距演算を可能にする。
【0016】
また、全体制御・演算部1409は、移動量検出部1405から出力される振れ検出信号を元に、駆動ユニット900を制御して、撮像素子100を駆動することで、撮像画像のブレ(像ブレ)を補正する。全体制御・演算部1409は、測距演算のための撮像素子100の回転と、像ブレの補正のための撮像素子100の駆動とを同時に行うことも可能である。その後、全体制御・演算部1409が、測距演算によるデフォーカス量を用いてレンズ駆動装置1402を制御する。これにより、レンズ部1401が有する焦点調節用のレンズ(フォーカスレンズ)が駆動される。全体制御・演算部1409は、合焦か否かを判断し、合焦していない場合は、再びレンズ部1401を駆動して測距を行う。そして、合焦が確認された後に、撮影動作が開始する。撮影動作が終了すると、撮像素子100から出力された画像信号は、撮像信号処理回路1406で画像処理をされ、全体制御・演算部1409によりメモリ部1408に画像データとして書き込まれる。撮像信号処理回路1406は、画像処理として、並べ替え処理、加算処理やその選択処理を行う。メモリ部1408に蓄積されたデータは、制御回路1409の制御により、記録媒体制御I/F部1410を介して記録媒体1411に記録される。なお、図示しない外部I/F部を介して、画像データを直接コンピュータ等に入力することによって、画像データの加工が行われるようにしてもよい。
【0017】
図2は、本実施形態における撮像素子の構成例を示す図である。
撮像素子100は、画素部(画素アレイ)101と、画素部101における行を選択する垂直選択回路102、画素部101における列を選択する水平選択回路104を備える。また、撮像素子100は、画素部101中の画素のうち、垂直選択回路102によって選択される画素の信号を読み出す読み出し回路103、各回路の動作モードなどを外部装置から決定するためのシリアルインターフェイス105を備える。
【0018】
読み出し回路103は、信号を蓄積するメモリ、ゲインアンプ、AD変換器などを列毎に有する。なお、撮像素子100は、図示された構成要素以外にも、例えば、垂直選択回路102、水平選択回路104、信号読み出し部103等にタイミングを提供するタイミングジェネレータ或いは制御回路等を備える。垂直選択回路102は、画素部101の複数の行を順に選択し、読み出し回路103に読み出す。水平選択回路104は、読み出し回路103に読み出された複数の画素信号を列毎に順に選択する。
【0019】
図3は、本実施形態における撮像素子の1画素の構成例を示す図である。
撮像素子は、一つのマイクロレンズ202に対して複数の光電変換部を有する画素201を備える。図3では、画素201は、PD(フォトダイオード)203とPD204という複数のPDを有する。また、画素201は、PD203とPD204の各々の信号を読み出す転送スイッチ205、206と、PDの信号を一時的に蓄積するフローティングディフュージョン207を有する。画素201は、図示された構成要素以外にも、後述する複数の構成要素を備える。なお、この例では、画素201において、PDが水平方向に分割されているが、PDの分割方向は、垂直方向でもよい。また、PDの分割は、2分割に限定されない。
【0020】
図4は、撮像素子が備える画素部を示す図である。
画素部101には、2次元の画像を提供するために、図3を参照して説明したような画素が複数2次元アレイ状に配列されている。図4中の画素301、302、303、304は、図3中の画素201に対応する。PD301L、302L、303L、304Lは、図3のPD203に対応する。PD301R、302R、303R、304Rは、図3のPD204に対応する。
【0021】
図5は、本実施形態における撮像素子での受光を説明する図である。
図5を参照して、撮像光学系の射出瞳を通過した光束の撮像素子100への入射について説明する。断面401は、画素部の断面を示す。マイクロレンズ402は、図3のマイクロレンズ202に対応する。フィルタ403は、カラーフィルタを示す。PD404、405は、各々図3のPD203、PD204に対応する。射出瞳406は、撮像光学系の射出瞳を示す。
【0022】
図5では、マイクロレンズ402を有する画素に対して、射出瞳406から出た光束の中心を光軸409とする。射出瞳406から出た光は、光軸409を中心として撮像素子100に入射される。瞳領域407、408は、射出瞳406の異なる瞳領域を示す。瞳領域407を通過する光の最外周の光線が、光線410、411である。
【0023】
光線412、413は、瞳領域408を通過する光の最外周の光線である。図5からわかるように、射出瞳から出る光束のうち、光軸409を境にして、上側の光束はPD405に入射され、下側の光束はPD404に入射される。つまり、PD404とPD405は各々、撮影レンズの射出瞳の、異なる瞳領域の光を受光している。撮像素子は、射出瞳から出る光束の情報を別々に取得可能な、2次元に配置された画素を有していれば、説明した構成に限らない。
【0024】
撮像素子100においては、異なる瞳領域からの光を受光するA画素とB画素が2次元状に配置されている。図4を用いて説明すると、行305のうち、PD301L、302L、303L、304Lに対応する画素をA画素と定義する。PD301R、302R、303R、304Rに対応する画素をB画素と定義する。また、A画素から出力される像信号(A像信号)に係る画像をA像と定義する。B画素から出力される像信号(B像信号)に係る画像をB像と定義する。すなわち、撮像信号処理回路1406は、全体制御・演算部1409の制御により、撮像素子100が備える複数のPDから、異なる瞳領域を通過した光束に対応する一対の像信号を取得する。
【0025】
図6は、ピント状態に応じたA像信号とB像信号を説明する図である。
図6(A)は、撮像素子100の測距領域の1行に配置された画素配置を示す。測距領域は、A像信号とB像信号とに基づく相関演算の対象領域である。図6(A)は、合焦状態でのA像信号とB像信号を示す。図6(B)は、前ピン状態でのA像信号とB像信号を示す。図6(C)は、後ピン状態でのA像信号とB像信号を示す。
【0026】
図6(A)に示すAラインの画素と、Bラインの画素とは、撮像光学系の異なる瞳領域を通過する光束を受光する。Aラインの画素からA像信号が出力される。また、Bラインの画素からB像信号が出力される。
【0027】
図4の行305のうち、PD301L、302L、303L、304Lに対応する画素がAラインの画素である。PD301R、302R、303R、304Rに対応する画素がBラインの画素である。図6からわかるように、合焦状態、前ピン状態及び後ピン状態の何れであるかにより、A像信号とB像信号の間隔が異なる。
【0028】
全体制御・演算部1409は、A像信号とB像信号の間隔が合焦状態の間隔になるように、フォーカスレンズを駆動させて、ピントを合わせる。すなわち、全体制御・演算部1409は、2像のずれ量(位相差)からデフォーカス量を求め、デフォーカス量を用いて、フォーカスレンズを駆動する。
【0029】
図7は、撮像素子の測距領域を示す図である。
図7(A)に示す撮像素子100の画素部101での測距領域602は、位置601を中心にして、X方向にpからq列、Y方向にrからs行までの範囲である。シフト量は、-Imaxから+Imaxまでである。実質的な測距領域は、シフト量も含んだ測距領域603である。図7(B)は、図7(A)に示す測距領域602と異なる測距領域を用いた測距を行う例を示す。図7(B)に示す例のように、測距領域をずらすことで、画面上の任意の場所で相関演算を行うことが可能である。
【0030】
図8は、撮像素子から得られる一対の像信号のずれ量を求める相関演算を説明するフローチャートである。図8を参照して、図7に示す測距領域を対象とした相関演算を説明する。まず、S701において、全体制御・演算部1409が、最初の行Y=rを選択する。続いて、S702において、全体制御・演算部1409が、I=-Imaxにする。行Y=rが選択されているので、全体制御・演算部1409は、r行での像ずれ量を求める。
【0031】
次に、S703において、全体制御・演算部1409が、B像を水平方向にI画素シフトする。続いて、S704において、全体制御・演算部1409が、A像と、B像のI画素シフト時の相関値C(I)を求める。具体的には、全体制御・演算部1409は、以下の式(1)に基づいて、AラインとBラインの各画素での像の差の絶対値を求めることで、相関値C(I)を算出する。
【数1】
Ax、Bxは、各々、指定した行でのAライン、Bラインのx座標の出力を示す。つまり、C(I)は、BラインをI画素シフトさせたときのAラインの画素の像とBラインの画素の像の差の絶対値の総和である。
【0032】
また、相関値は、上述した式(1)を用いる方法以外に、例えば以下の式(2)によっても求めることができる。
【数2】
式(2)にしたがうと、全体制御・演算部1409は、Bラインの画素の像だけをシフトするのではなく、Aラインの画素の像も同時に逆方向にシフトして、差の絶対値の総和を求める。式(2)を用いる場合には、S703において、全体制御・演算部1409は、A像をI画素シフトし、B像を-I画素シフトする。
【0033】
また、Aラインの画素の像とBラインの画素の像の差の絶対値を求める方法以外にも、以下の式(3)にしたがって、各画素の大きい画素値を算出する方法で相関値を求めることが可能である。
【数3】
max(A、B)は、AとBの大きい方を選択することを表す。式を記載しないが、AとBの小さい方を選択する演算を実行することによっても、相関値を求めることが可能である。本発明では、S704における相関値を求める方法として、任意の方法を適用することが可能であり、相関値を求める方法は、上述した方法に限定されない。
【0034】
次に、S705において、全体制御・演算部1409が、I+1をIに代入する(1画素ずらす)。続いて、S706において、全体制御・演算部1409が、I>Imaxであるかを判断する。I>Imaxでない場合は、処理がS703に進み、S703、S704、S705の処理が繰り返される。I>Imaxである場合は、処理がS707に進む。処理がS707に進むときには、Iが-Imaxから+Imaxまでの1行分の相関値の集合である相関波形C(Iy)が求まっている。
【0035】
S707において、全体制御・演算部1409が、C(I)+C(I)をC(I)に代入する。続いて、S708において、全体制御・演算部1409が、Y+1をYに代入する。S709において、全体制御・演算部1409が、Y>sであるかを判断する。Y>sでない場合は、処理がS702に戻る。Y>sである場合は、処理がS710に進む。すなわち、全体制御・演算部1409は、各行のC(I)を加算して、C(I)を生成する処理を、rからsまでの各行分繰り返すことで、各行の相関波形C(I)から全行加算された相関波形C(I)を求める。S710において、全体制御・演算部1409が、全行の相関波形C(I)が加算された相関波形C(I)に対して、最も相関があるシフト量Iを求める。
【0036】
図9は、図8のS710の処理を説明する図である。
図9に示す相関波形C(I)は、シフト量IずらしたときのAラインとBラインの相関値を示す。相関値を算出するために、Aラインの画素の像とBラインの画素の像の差の絶対値の総和を算出する場合には、相関波形C(I)の出力が最も低い場所のIが、最も相関があるIとして求まる。
【0037】
図9(A)に示すように、合焦時には、相関波形C(I)の出力が最も低い場所のI=0である。したがって、最も相関があるシフト量IとしてI=0が求まる。また、図9(B)、図9(C)に示すように、ピントがずれているときには、シフト量Iは像ずれ量と等価であり、シフト量I=像ずれ量Iと考えられる。
【0038】
図8のS710では、全体制御・演算部1409は、最も相関があるシフト量Iを求めることで、rからs行におけるAライン、Bライン上での像ずれ量を算出する。S710の処理が完了すると、像ずれ量が求まっているので、相関演算を終了する。
【0039】
図9を参照した説明では、相関波形C(I)に対して、最も相関があるシフト量Iが像ずれ量であることを示した。その際、像ずれ量Iの箇所において、A像とB像が一致していればC(I)=0となるが、実際にはC(I)=ΔCとなる。C(I)=ΔCとなる要因は、相関演算の誤差や、撮影レンズの収差、撮像素子でのノイズなどである。特に、被写体のコントラストが低い時に、ノイズの影響が見えやすく、最も相関のあるシフト量IでもΔCが発生してしまう。A像、B像が水平方向に位相差情報をもっている場合、つまり被写体が縦線に近い場合は、水平方向のコントラストが高くなるが、横線に近い場合は、水平方向のコントラストが低くなってしまう。
【0040】
ΔCが大きいということは、A像とB像の一致度が低く、相関演算結果が信用できず、相関演算の信頼度が低いことを意味する。ΔCが小さいということは、A像とB像の一致度が高く、相関演算結果が信用でき、相関演算の信頼度が高いことを意味する。以下の説明では、相関演算の信頼度は、ΔCと逆相関の関係にある評価値として定義する。
【0041】
ΔCが大きい場合すなわち信頼度が所定値より低い場合は、相関演算結果に応じたレンズ駆動をすると、更にピントがぼけてしまうことも考えられる。したがって、全体制御・演算部1409は、ΔCが大きい場合には、撮像素子100を光軸に垂直な平面内で回転することで、例えば被写体の水平方向のコントラストを上げる。これにより、精度良く相関演算をすることができ、位相差検出の精度が向上する。
【0042】
図10は、撮像素子を回転する構成の一例を示す図である。
駆動ユニット900が、全体制御・演算部1409の制御にしたがって、撮像素子100を駆動させる。駆動ユニット900は、可動ユニット901と固定ユニット902とを有する。
【0043】
可動ユニット901には、撮像素子100と駆動部903が配置される。駆動部903は、コイルであり、通電することで磁界を発生させる。固定ユニット902には、磁石904が配置される。また、固定ユニット902には、図示しないベアリングなどの摩擦が少ない方法で可動ユニット901が配置される。磁石904と駆動部903のコイルへの通電で発生した磁界の磁力によって、吸引力や反発力を発生させることで、可動ユニット901が、光軸に垂直な平面内での水平移動、垂直移動、回転移動などを行う。
【0044】
図11は、実施例1の撮像装置による測距演算を説明するフローチャートである。
測距演算がスタートすると、S1001において、全体制御・演算部1409が、撮像素子100の初期位置の回転角をθ=0として記憶する。続いて、S1002において、全体制御・演算部1409が、θ=0の位置の撮像素子100から、A像とB像を取得する。
【0045】
次に、S1003において、全体制御・演算部1409が、S1002で取得したA像とB像に基づいて、図8を参照して説明したように、相関演算を行う。S1003での相関演算によって、ΔCの取得すなわち相関演算の信頼度の取得が行われる。nフレーム目に対応する撮像素子100の情報から取得されたΔCをΔC(n)とする。
【0046】
S1004において、全体制御・演算部1409が、ΔC(n)<閾値rであるか、すなわち相関演算の信頼度が所定値より高いかを判断する。ΔC(n)<閾値rである場合は、処理がS1007に進む。ΔC(n)<閾値rでない場合すなわち相関演算の信頼度が所定値より低い場合は、処理がS1005に進む。
【0047】
S1005において、全体制御・演算部1409が、撮像素子100の回転角θがθmaxを超えたかを判断する。θmaxは、予め設定された回転角の上限値である。θがθmaxを超えた場合は、処理がS1007に進む。θがθmaxを超えていない場合は、処理がS1006に進む。S1005の判断処理によって、撮像素子100を回転させすぎることが防止される。
【0048】
S1006において、全体制御・演算部1409が、撮像素子100を1ステップ回転させ、θ=θ+1とする。ここで、1は、ステップ単位として便宜上定義しているだけである。1ステップの回転は、必ずしも撮像素子100を1°回転させるわけではなく、例えば、2°の回転や0.5°の回転でもよい。S1006の処理の後、処理がS1002に戻る。これにより、回転後の撮像素子100から取得されたA像とB像に基づいて、相関演算が行われる。
【0049】
S1007において、全体制御・演算部1409が、撮像素子100をθ=0の位置に戻して、測距演算を終了する。これにより、相関演算の信頼度が所定値より高い場合の相関演算により得られるデフォーカス量を用いて、フォーカスレンズが駆動される。ΔC(n)が大きい場合(信頼性が低い場合)には、被写体のコントラストが低く、特に横線や水平に近い斜め線である場合が多い。本実施例によれば、これらの被写体が主被写体となった場合でも、精度良く測距演算を行うことが可能となる。
【0050】
図12は、被写体が回転角の中心から外れている場合の処理を説明する図である。
撮像装置が撮像素子100を回転させた場合、撮像領域において、被写体が撮像素子100の回転角中心に存在する場合は、被写体像が回転する。
図12(A)は、回転前の被写体1000が結像する様子を示す。図12(B)は、回転前の被写体1000と、回転後の被写体1001が結像する様子を示す。回転角中心からずれた位置に被写体がいる場合は、被写体は角度と共に、上下左右方向にもずれてしまう。したがって、この場合は、全体制御・演算部1409は、撮像領域における被写体領域の位置に基づいて、被写体領域の上下左右方向の位置のずれを算出し、算出したずれに応じて、測距領域を変更するようにしてもよい。
【0051】
全体制御・演算部1409が撮像素子100を回転させることで、撮影画像としては回転した画像が取得される。したがって、全体制御・演算部1409が、撮像素子100の回転後に撮像素子100から得られる撮像画像を、既知の画像補間処理を適用することによって補正して、回転前の撮影画像を復元するようにしてもよい。
また、全体制御・演算部1409が、測距範囲内においてY=r~sまでの測距演算を行う場合に、A像とB像の行間を間引いて相関演算を行ってもよいし、行毎にA像とB像を加算してから相関演算してもよい。これにより、相関演算の処理が軽くなり、結果演算に伴う消費電力が低減したり、より高度な演算を行ったりすることが可能となる。ただし、像信号の加算や間引きをすればするほど、横線の検知能力が落ちる。例えば、全行について相関演算を行う場合には、水平からわずかにずれた横線であれば、ある程度高い信頼度の相関演算を行えるが、像信号を加算した場合には、斜め情報が欠落してしまうため、相関演算の精度が落ちてしまう。したがって、像信号を加算する場合には、回転による検知能力を向上するため、図11のS1006で行う撮像素子100の回転の1ステップに対応する角度を大きくし、相関演算の精度を上げるようにしてもよい。また、撮像素子100を回転させるときは、信頼度が低いので、撮像素子100を回転するとともに、測距領域の行数を多くしてもよい。
【0052】
撮像装置が、図3乃至5に示すような、水平方向にPDが分割された撮像素子100を備える構成をとる場合についての説明を行ったが、本発明は、この構成に限定されない。本発明は、配線層による遮光で、撮像光学系の射出瞳を通過する光束のうちの一部を別々の画素で受光する構成をとる撮像素子にも適用可能である。また、撮像素子100において、垂直方向にPDが分割されていてもよい。さらに、撮像素子100の画素は、垂直方向と水平方向の双方の位相差を得ることができる構成をとってもよい。また、上述の撮像素子100を回転させて相関演算を繰り返す処理は、動画モードのように連続して撮像素子100を駆動する場合に実行してもよいし、静止画モード、静止画を連続的に取得する静止画連写の際にも実行してもよい。
【0053】
(実施例2)
図13は、実施例2の撮像装置による測距演算を説明するフローチャートである。
実施例2の撮像装置は、現在のフレームの相関演算の信頼度と、前回のフレームの相関演算の信頼度とを比較し、より相関演算の信頼度が高いフレームの相関演算結果を用いて、焦点調節処理を実行する。
【0054】
図13に示す各ステップのうち、図11に示すステップと同じステップ番号が付けられたステップについては、図11に示すステップにおける処理と同じ処理が実行される。
図13のS1005において、θがθmaxを超えていない場合は、処理がS1201に進む。S1201において、全体制御・演算部1409が、ΔC(n)がΔC(n-1)より大きいか、すなわち現在のフレームでの相関演算の信頼度が前回のフレームでの相関演算の信頼度より低いかを判断する。ΔC(n)がΔC(n-1)より大きくない場合、すなわち現在のフレームでの相関演算の信頼度が前回のフレームでの相関演算の信頼度より高い場合は、処理がS1006に進む。そして、S1006において、全体制御・演算部1409が、撮像素子100を回転させる。ΔC(n)がΔC(n-1)より大きい場合、すなわち現在のフレームでの相関演算の信頼度が前回のフレームでの相関演算の信頼度より低い場合は、処理がS1007に進む。つまり、全体制御・演算部1409は、撮像素子100を回転しても、相関演算の信頼度が落ちたときには、相関演算を終了し、取得済みの信頼度のうち、最も高い信頼度に対応する相関演算に基づくデフォーカス量を用いてフォーカスレンズを駆動する。これにより、θ<θmaxの範囲内で最も相関演算の信頼度が高いときの相関演算結果に基づいて焦点調節処理を行うことができる。
【0055】
(実施例3)
図14は、実施例3の撮像装置による測距演算を説明するフローチャートである。
実施例3の撮像装置は、撮像素子100の回転によって相関演算の信頼度が落ちたときに、撮像素子100を逆方向に回転させる。
図14に示す各ステップのうち、図11図13に示すステップと同じステップ番号が付けられたステップについては、図11図13に示すステップにおける処理と同じ処理が実行される。
【0056】
図14のS1005において、θがθmaxを超えていない場合は、処理がS1301に進む。S1301において、全体制御・演算部1409が、θが-θmaxより小さいかを判断する。θが-θmaxより小さい場合は、処理がS1007に進む。θが-θmax以上である場合は、処理がS1201に進む。
【0057】
S1201において、全体制御・演算部1409が、ΔC(n)がΔC(n-1)より大きいかを判断する。ΔC(n)がΔC(n-1)より大きくない場合は、処理がS1006に進む。ΔC(n)がΔC(n-1)より大きい場合、すなわち、相関演算の信頼度が前回のフレームよりも落ちた場合は、処理がS1302に進む。
【0058】
S1302において、全体制御・演算部1409が、S1006での撮像素子100の回転方向(第1の方向)とは逆方向の第2の方向に撮像素子100を回転させる。例えば、図14のS1006の処理を示すθ=θ+1が、撮像素子100を1ステップ右回転させることと定義すると、S1302の処理を示すθ=θ-1は、撮像素子100を1ステップ左回転させることを意味する。これにより、より相関演算の信頼度が高くなる方へ撮像素子100を回転させることができる。
【0059】
図14に示すローチャートでは、θがθmaxと-θmaxの範囲内にいれば、相関演算の信頼度が常に高くなるように常時撮像素子100が回転する。そこで、回転を止めるために、回転の回数制限を設けてもよい。図11図13のフローチャートについても、撮像素子100の回転の回数制限を設けてもよい。撮像素子100の回転回数が回数制限に達した場合には、信頼度の高い測距結果が得られなかったことを意味する。したがって、この場合には、レンズを∞端から至近端まで駆動させながら相関演算をやりなおしてもよい。実施例3によれば、相関演算の信頼度が常に高くなるように常時撮像素子100が回転するので、測距精度をより向上させることが可能となる。以上説明した実施例1乃至実施例3は、一例であり、本発明は、各実施例に限定されない。また、実施例2、実施例3において、図12を参照して説明した、被写体が回転角の中心から外れている場合の処理を実行するようにしてもよい。
【0060】
(その他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0061】
1409 全体制御・演算部
1406 撮像信号処理回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14